(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】樹脂チューブの端部形成方法および形成工具
(51)【国際特許分類】
B29C 57/04 20060101AFI20231219BHJP
B01D 15/22 20060101ALI20231219BHJP
G01N 30/60 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B29C57/04
B01D15/22
G01N30/60 P
(21)【出願番号】P 2019210691
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム「リン酸化生体分子群のためのバイオイナート分離システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】柳林 潤
(72)【発明者】
【氏名】保永 研壱
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸治
(72)【発明者】
【氏名】今村 信也
(72)【発明者】
【氏名】細野 凌
(72)【発明者】
【氏名】山崎 寛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晃士
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-083820(JP,A)
【文献】特開2012-101359(JP,A)
【文献】特開平07-042883(JP,A)
【文献】特開平04-089231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
B01D 15/22
G01N 30/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂チューブ
が突出した状態で挿入された金属チューブからなる液体クロマトグラフ用の配管を準備するステップと、
押圧面と前記押圧面から突出しかつ前記樹脂チューブ内に挿入可能な
金属針または金属ワイヤである突出部とを有する形成工具を準備するステップと、
前記形成工具の前記突出部を前記樹脂チューブの端部から前記樹脂チューブ内に挿入するステップと、
前記形成工具の前記押圧面を前記樹脂チューブの端面に対して押圧するステップと、
前記樹脂チューブの端部に熱エネルギーを与えることにより、前記形成工具の前記押圧面の形状を前記樹脂チューブの端面に転写し
、前記樹脂チューブを前記金属チューブと前記押圧面で挟むことにより、前記樹脂チューブの端部をフランジ形状に成形するステップとを含
む、樹脂チューブの端部形成方法。
【請求項2】
前記樹脂チューブは0.3mm以下の内径を有する、請求項1記載の樹脂チューブの端部形成方法。
【請求項3】
前記形成工具の前記突出部は0.3mm以下の外径を有する、請求項2記載の樹脂チューブの端部形成方法。
【請求項4】
前記樹脂チューブは0.1mm以下の内径を有する、請求項1記載の樹脂チューブの端部形成方法。
【請求項5】
前記形成工具の前記突出部は0.1mm以下の外径を有する、請求項4記載の樹脂チューブの端部形成方法。
【請求項6】
前記樹脂チューブの端部に熱エネルギーを与えることは、前記形成工具を超音波により振動させることを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂チューブの端部形成方法。
【請求項7】
前記樹脂チューブの端部に熱エネルギーを与えることは、ヒータにより前記樹脂チューブの端部を加熱することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂チューブの端部形成方法。
【請求項8】
液体クロマトグラフ用の樹脂チューブ
が突出した状態で挿入された金属チューブからなる液体クロマトグラフ用の配管の端部を
フランジ形状に形成するための形成工具であって、
前記
配管の端面を押圧するための押圧面
を有し、前記配管に用いる前記金属チューブとは別の第2の金属チューブと
、
金属針または金属ワイヤからなる金属部材とを備え、
前記金属部材の先端は、前記
第2の金属チューブの押圧面から突出することにより、前記樹脂チューブ内に挿入可能な突出部が形成された、形成工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂チューブの端部形成方法および形成工具に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる物質を異なる成分ごとに分離する分析装置として液体クロマトグラフが知られている。ここで、試料にタンパク質、ペプチドまたは農薬等の化合物が含まれている場合、これらの化合物は金属と相互作用して錯体を形成する。そのため、液体クロマトグラフにおける配管等の試料と接触する部分が金属により形成されていると、金属と試料とが相互作用することにより接触部分に試料の吸着が発生し、正常な分析が妨げられる。そこで、配管のうち試料と接触する部分が樹脂により形成されることがある。また、配管と、当該配管の連結先とのシール性を向上させるために、配管の端部にフランジが形成されることがある。
【0003】
特許文献1には、このような配管の製造方法が記載されている。具体的には、溶融シリカ製のキャピラリの周りにステンレス製の管状金属スリーブが配置されたシーリング流体部品が準備される。キャピラリの内面には流路が形成され、キャピラリの外面にはPAEK(ポリアリールエーテルケトン)材料が塗布されている。シーリング流体部品の端部が、セラミック製の形成工具の凹部に挿入される。ここで、形成工具の凹部の底面とシーリング流体部品の端面とは、密着せずに離間する。また、シーリング流体部品の端部から流路内にプレースホルダが取り付けられる。
【0004】
この状態で、誘導コイルから管状金属スリーブに渦電流が誘導されることにより、管状金属スリーブが誘導加熱される。熱伝導によりPAEK材料の温度が融点を超えると、PAEK材料が融解する。この場合、PAEK材料の一部が形成工具の凹部の底面とシーリング流体部品の端面との間の空間に移動し、フランジ型を構成する。PAEK材料が固化した後、プレースホルダおよび形成工具が取り外されることにより、端部にフランジが形成されたシーリング流体部品が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液体クロマトグラフの分離性能を向上するため、配管の内径は小さくなる傾向にある。しかしながら、内径が小さくなるほど、流路を閉塞させずに樹脂チューブの端部にフランジを形成することは困難になる。また、樹脂の種類によっては、ガラス転移温度が高いため、樹脂チューブの端部にフランジを形成することは困難なことがある。
【0007】
本発明の目的は、樹脂チューブの端部にフランジを容易に形成可能な樹脂チューブの端部形成方法および形成工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、樹脂チューブが突出した状態で挿入された金属チューブからなる液体クロマトグラフ用の配管を準備するステップと、押圧面と前記押圧面から突出しかつ前記樹脂チューブ内に挿入可能な金属針または金属ワイヤである突出部とを有する形成工具を準備するステップと、前記形成工具の前記突出部を前記樹脂チューブの端部から前記樹脂チューブ内に挿入するステップと、前記形成工具の前記押圧面を前記樹脂チューブの端面に対して押圧するステップと、前記樹脂チューブの端部に熱エネルギーを与えることにより、前記形成工具の前記押圧面の形状を前記樹脂チューブの端面に転写し、前記樹脂チューブを前記金属チューブと前記押圧面で挟むことにより、前記樹脂チューブの端部をフランジ形状に成形するステップとを含む、樹脂チューブの端部形成方法に関する。
【0009】
本発明の他の態様は、液体クロマトグラフ用の樹脂チューブが突出した状態で挿入された金属チューブからなる液体クロマトグラフ用の配管の端部をフランジ形状に形成するための形成工具であって、前記配管の端面を押圧するための押圧面を有し、前記配管に用いる前記金属チューブとは別の第2の金属チューブと、金属針または金属ワイヤからなる金属部材とを備え、前記金属部材の先端は、前記第2の金属チューブの押圧面から突出することにより、前記樹脂チューブ内に挿入可能な突出部が形成された、形成工具に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂チューブの端部にフランジを容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】樹脂チューブを含むクロマトグラフの構成を示す図である。
【
図2】
図1のクロマトグラフに設けられるフィッティングの構成の一例を示す断面図である。
【
図4】樹脂チューブの端部形成方法を説明するための工程断面図である。
【
図5】樹脂チューブの端部形成方法を説明するための工程断面図である。
【
図6】樹脂チューブの端部形成方法を説明するための工程断面図である。
【
図7】樹脂チューブの端部形成方法を説明するための工程断面図である。
【
図8】樹脂チューブの端部形成方法を説明するための工程断面図である。
【
図9】樹脂チューブの端部形成方法を説明するための工程断面図である。
【
図10】参考例におけるフィッティングの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)クロマトグラフの構成
以下、本発明の実施の形態に係る樹脂チューブの端部形成方法および形成工具について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、樹脂チューブを含むクロマトグラフの構成を示す図である。なお、本実施の形態におけるクロマトグラフ200は液体クロマトグラフであるが、超臨界流体クロマトグラフであってもよい。
【0013】
図1に示すように、クロマトグラフ200は、流路110、移動相容器120、ポンプ130、試料供給部140、分離カラム150、検出器160、廃液容器170および処理装置180を備える。流路110は、継ぎ合わされた複数の配管により構成され、各配管は樹脂チューブを含む。配管の詳細については後述する。移動相容器120は、水溶液または有機溶媒を移動相として貯留する。
【0014】
ポンプ130は、移動相容器120に貯留された移動相を流路110を通して圧送する。試料供給部140は、例えばサンプルインジェクタであり、ポンプ130により圧送される移動相に分析対象の試料を供給する。試料供給部140により供給された試料は、移動相に混合され、分離カラム150に導入される。分離カラム150は、試料の各成分と分離カラム150および移動相との親和性に依存して異なる時間だけ試料の成分を保持する。なお、分離カラム150は、図示しないカラム恒温槽の内部に収容され、所定の一定温度に調整される。
【0015】
検出器160は、分離カラム150による保持時間の経過後、分離カラム150から溶出される試料の成分を順次検出する。廃液容器170は、検出器160を通過した移動相および試料を廃液として貯留する。処理装置180は、検出器160による検出結果を処理することにより、各成分の保持時間と検出強度との関係を示す液体クロマトグラムを生成する。
【0016】
(2)フィッティングの構成
図2は、
図1のクロマトグラフ200に設けられるフィッティングの構成の一例を示す断面図である。フィッティングは、配管と、当該配管の連結先とを流体が通過可能に連結するシステムである。
図2に示すように、フィッティング100は、一方向(以下、軸方向と呼ぶ。)に延び、配管10、ブッシング20およびメイルナット30を備える。軸方向におけるフィッティング100の一端を先端と呼び、軸方向におけるフィッティング100の他端を後端と呼ぶ。
【0017】
配管10は、樹脂チューブ11、金属チューブ12およびスリーブ13を含む。樹脂チューブ11は、例えばフッ素樹脂またはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)により形成され、軸方向に貫通する空洞部11aを有する。また、樹脂チューブ11は、先端面から周方向に広がるフランジ11bを有し、フランジ11bを除いて金属チューブ12に挿入される。
【0018】
金属チューブ12は、例えばステンレスにより形成される。樹脂チューブ11は、金属チューブ12に挿入されることにより、機械的に補強される。また、樹脂チューブ11の耐圧性が向上する。スリーブ13は、筒状を有する金属等により形成され、金属チューブ12の先端部を取り囲むように設けられる。スリーブ13は、溶接または接着等により金属チューブ12に接合されてもよいし、金属チューブ12と一体的に構成されてもよい。
【0019】
ブッシング20には、開口部21および貫通孔22が形成される。開口部21は、大径部21a、テーパ部21bおよび小径部21cを含む。大径部21aは、ブッシング20の後端面から先端に向かって延び、比較的大径を有する。大径部21aが形成されたブッシング20の部分の内周面には、ねじ部(雌ねじ部)が形成される。テーパ部21bは、大径部21aから先端に向かって延びる。テーパ部21bの径は、後端から先端に向かって漸次減少する。小径部21cは、テーパ部21bから先端に向かって延び、比較的小径を有する。貫通孔22は、小径部21cの底面から先端に向かってブッシング20を貫通する。
【0020】
メイルナット30は、頭部31および軸部32を含む。頭部31は、メイルナット30の締め付けの際に力を加えられる部位であり、スパナ等の締め付け工具に対応する外形(例えば多角形)を有する。軸部32は、頭部31から先端に突出するように設けられる。軸部32の外周面には、ブッシング20のねじ部に対応するねじ部(雄ねじ部)が形成される。また、メイルナット30には、開口部33および貫通孔34が形成される。開口部33は、メイルナット30の先端面から後端に向かって延びる。貫通孔34は、開口部33の底面から後端に向かってメイルナット30を貫通する。
【0021】
配管10は、樹脂チューブ11および金属チューブ12が貫通孔34に挿通されかつスリーブ13の後端部が開口部33に収容されるようにメイルナット30に取り付けられる。配管10の先端部は、メイルナット30から先端に突出する。この状態で、メイルナット30の軸部32がブッシング20の開口部21に嵌め込まれ、メイルナット30が回転するように頭部31が締め付け工具により締め付けられる。これにより、メイルナット30のねじ部とブッシング20のねじ部とが螺合し、フィッティング100が完成する。
【0022】
フィッティング100においては、配管10の空洞部11aとブッシング20の貫通孔22とが連通することにより流路110Aが構成される。ここで、メイルナット30の開口部33の底面が配管10のスリーブ13の後端面を押圧することにより、スリーブ13の先端面がフランジ11bをブッシング20の開口部21の小径部21cの底面に押圧する。これにより、貫通孔22と開口部21との間がシールされる。その結果、貫通孔22から流入した流体が開口部21内に漏れることが防止される。
【0023】
上記のフィッティング100の流路110Aは、
図1のクロマトグラフ200の全体の流路110として設けられてもよいし、流路110の一部として設けられてもよい。例えば、流路110Aは、高圧で試料を供給する試料供給部140の内部の流路110として設けられてもよいし、試料供給部140と分離カラム150との間の部分の流路110として設けられてもよい。
【0024】
(3)形成工具
フランジ11bは、所定の形成工具を用いて円筒形状の樹脂チューブを加工することにより形成される。
図3は、形成工具の一例を示す斜視図である。
図3に示すように、形成工具50は、金属チューブ51および突出部52を含む。金属チューブ51は、一方向に延びる円筒形状を有する。突出部52は、金属チューブ51の先端面の中央部から一方向に突出する。
【0025】
形成工具50は、金属チューブ51の内径に対応する外形を有する金属部材52aが金属チューブ51内に挿入されることにより形成されてもよい。金属部材52aは、金属針または金属ワイヤであってもよい。この場合、金属チューブ51の端面から突出する金属部材52aの部分が突出部52となる。金属部材52aは、金属チューブ51の外周面がかしめられることにより金属チューブ51に固定されてもよい。あるいは、金属部材52aは、金属チューブ51に半田付けまたはロウ付けされることにより金属チューブ51に固定されてもよい。
【0026】
具体的には、外径0.1mmを有する金属部材52aが内径0.1mmおよび外径1.6mmを有する金属チューブ51の内部に挿入および固定されることにより形成工具50が形成されてもよい。あるいは、外径0.3mmを有する金属部材52aが内径0.3mmおよび外径1.6mmを有する金属チューブ51の内部に挿入および固定されることにより形成工具50が形成されてもよい。
【0027】
突出部52を取り囲む金属チューブ51の端面が、樹脂チューブの端面にフランジ11bの形状を転写するための押圧面51aとなる。また、本実施の形態においては、形成工具50は、超音波が印加されることにより、一方向に高速で振動するように構成される。形成工具50の用途については後述する。
【0028】
(4)樹脂チューブの端部形成方法
図4~
図9は、樹脂チューブの端部形成方法を説明するための工程断面図である。なお、
図4~
図9の例では、
図2のスリーブ13は金属チューブ12と一体的に形成されているので、スリーブ13の図示を省略する。
【0029】
図4に示すように、まず、金属チューブ12に挿入された円筒形状の樹脂チューブ11Aを準備する。樹脂チューブ11Aの内径は、例えば0.3mm以下であり、0.1mm以下であってもよい。樹脂チューブ11Aの外径は、例えば0.36mmであってもよく、0.8mmであってもよく、これらの間の値であってもよい。樹脂チューブ11Aの先端面は、金属チューブ12の先端面よりも突出する。樹脂チューブ11Aの突出長さは、例えば5mm以下であり、1mm以下であってもよいが、樹脂チューブ11Aの厚み以上であることが望ましい。
【0030】
金属チューブ12の内径は、樹脂チューブ11Aの外径と対応する。樹脂チューブ11Aの外周面と金属チューブ12の内周面との径方向の隙間は、例えば10μm以上20μm以下であってもよいし、10μm未満であってもよい。金属チューブ12の外径は、例えば1.6mmであってもよく、0.8mmであってもよく、これらの間の値でもよく、0.8mm未満であってもよい。本例では、金属チューブ12の内径は0.4mmであり、金属チューブ12の外径は0.7mmである。金属チューブ12の厚みは、0.1mm以上であることが望ましい。
【0031】
次に、
図5に示すように、形成工具50を準備する。形成工具50の突出部52の外径は、樹脂チューブ11Aの内径に対応し、例えば0.3mm以下であり、0.1mm以下であってもよい。金属チューブ51に対する突出部52の突出量は、金属チューブ12に対する樹脂チューブ11Aの突出量よりも大きいことが望ましい。次に、
図6に示すように、形成工具50の突出部52の先端部の少なくとも一部が、樹脂チューブ11Aの空洞部に挿入される。
【0032】
その後、
図7に示すように、形成工具50の押圧面51aが樹脂チューブ11Aの端部に押圧される。また、
図8に示すように、樹脂チューブ11Aの端部に熱エネルギーが与えられる。
図8における熱エネルギーを与える工程は、
図7における押圧面51aを樹脂チューブ11Aの端部に押圧する工程の後に実行されてもよいし、
図7における工程と部分的に並行して実行されてもよい。
【0033】
図8における熱エネルギーを与える工程において、形成工具50に超音波が印加されることにより形成工具50が樹脂チューブ11Aの軸方向に振動されてもよい。また、超音波の周波数は例えば数十kHzであり、形成工具50の振動の振幅は例えば数μm以上数十μm以下であってもよい。この場合、形成工具50の押圧面51aが樹脂チューブ11Aと接触することにより発生する摩擦熱が熱エネルギーとして樹脂チューブ11Aの端部に与えられる。そのため、ヒータを用いることなく樹脂チューブ11Aの端部に容易に熱エネルギーを与えることができる。
【0034】
樹脂チューブ11Aの端部に熱エネルギーを与える方法は、上記の例に限定されない。ヒータ60により樹脂チューブ11Aの端部に熱エネルギーが与えられてもよい。例えば、伝熱部材、ヒートガンまたはカートリッジヒータを用いて樹脂チューブ11Aを加熱することにより樹脂チューブ11Aの端部に熱エネルギーが与えられてもよい。あるいは、ホットプレートまたは炉に樹脂チューブ11Aを載置することにより樹脂チューブ11Aの端部に熱エネルギーが与えられてもよい。これらの場合、樹脂チューブ11Aの端部に効率的に熱エネルギーを与えることができる。また、形成工具50に超音波が印加されつつ、ヒータ60により樹脂チューブ11Aの端部に熱エネルギーが与えられてもよい。
【0035】
樹脂チューブ11Aの端部に熱エネルギーが与えられることにより、樹脂チューブ11Aの端部の温度が上昇する。樹脂チューブ11Aの端部の温度がガラス転移点を超えると、樹脂の流動性が高まる。そのため、形成工具50の押圧面51aと金属チューブ12の先端面との間に樹脂の成分が流動するとともに、形成工具50の押圧面51aの形状が樹脂チューブ11Aの端部に転写される。これにより、
図9に示すように、空洞部11aが閉塞されることなく端部に均一な厚みを有するフランジ11bが形成された樹脂チューブ11が完成する。
【0036】
(5)参考例
参考例におけるフィッティングについて、
図2のフィッティング100と異なる点を説明する。
図10は、参考例におけるフィッティングの構成を示す断面図である。
図10に示すように、参考例におけるフィッティング100Aは、フェルール40をさらに備える。また、フィッティング100Aは、配管10の代わりにチューブ10Aを備え、メイルナット30の代わりにメイルナット30Aを備える。
【0037】
チューブ10Aは、金属または樹脂により形成され、軸方向に貫通する空洞部10aを有する。チューブ10Aの先端部には、フランジは形成されない。メイルナット30Aは、開口部33および貫通孔34の代わりに軸方向に延びる貫通孔33Aを有する点を除いて、
図2のメイルナット30と同様の構成を有する。フェルール40の先端部は、ブッシング20の開口部21のテーパ部21bに対応する円錐台形状に形成される。また、フェルール40には、軸方向に延びる貫通孔41が形成される。
【0038】
チューブ10Aの後端部は、フェルール40の貫通孔41およびメイルナット30Aの貫通孔33Aにこの順で挿通される。チューブ10Aの先端部は、フェルール40から先端に突出する。この状態で、メイルナット30Aの軸部32がブッシング20の開口部21に嵌め込まれ、メイルナット30Aが回転するように頭部31が締め付け工具により締め付けられる。これにより、メイルナット30Aのねじ部とブッシング20のねじ部とが螺合し、フィッティング100Aが完成する。
【0039】
フィッティング100Aにおいては、チューブ10Aの空洞部10aとブッシング20の貫通孔22とが連通することにより流路110Bが構成される。ここで、メイルナット30Aの先端面がフェルール40の後端面を押圧することにより、フェルール40の先端部がブッシング20のテーパ部21bに押圧される。この場合、フェルール40の先端部とブッシング20のテーパ部21bとが密着する。また、フェルール40が変形することにより、フェルール40の内周面とチューブ10Aの外周面とが密着する。これにより、開口部21のテーパ部21bと大径部21aとの間がシールされる。
【0040】
しかしながら、フィッティング100Aにおいては、貫通孔22から流入した流体がブッシング20の開口部21の小径部21cを回り込んでテーパ部21bまで浸入する。このような開口部21における流体が浸入可能な領域の体積は、非掃引体積(unswept volume)と呼ばれる。フィッティング100Aの非掃引体積が大きい場合、試料が流路110Bを通過すると、試料がチューブ10Aの外周面に付着して残存しやすくなる。この場合、試料に含まれる成分の分離度が低下したり、今回の分析で用いられた試料が次回の分析でも検出されたりする等の望ましくない現象が発生する可能性がある。
【0041】
(6)効果
本実施の形態に係る樹脂チューブ11Aの端部形成方法によれば、樹脂チューブ11Aが準備される。また、押圧面51aと、押圧面51aから突出しかつ樹脂チューブ11A内に挿入可能な突出部52とを有する形成工具50が準備される。形成工具50の突出部52が樹脂チューブ11Aの端部から樹脂チューブ11A内に挿入される。形成工具50の押圧面51aが樹脂チューブ11Aの端面に対して押圧される。樹脂チューブ11Aの端部に熱エネルギーが与えられることにより、形成工具50の押圧面51aの形状が樹脂チューブ11Aの端面に転写されて樹脂チューブ11Aの端部がフランジ形状に成形される。
【0042】
この方法によれば、樹脂チューブ11Aの内径が小さい場合、具体的には、0.3mm以下または0.1mm以下である場合でも、樹脂チューブ11Aの成形の過程で内径が閉塞することが防止される。また、樹脂チューブ11AがPEEK等のガラス転移温度が比較的高い樹脂により形成されている場合でも、樹脂チューブ11Aの端部を容易に成形することができる。これにより、樹脂チューブ11Aの端部にフランジ11bを容易に形成することができる。
【0043】
特に、PEEKにより形成された樹脂チューブ11Aを用いることにより、樹脂チューブ11の耐溶媒性を向上させるとともに、吸着性を低減させつつ、機械的な強度を向上させることができる。そのため、PEEKにより形成された樹脂チューブ11を高圧で送液を行うクロマトグラフ200に好適に使用することができる。
【0044】
また、樹脂チューブ11Aは、金属チューブ12に挿入され、形成工具50の押圧面51aと金属チューブ12の端面とで樹脂チューブ11Aの端部が挟まれることにより樹脂チューブ11Aの端部がフランジ形状に成形される。そのため、形成工具50と金属チューブ12とを用いて樹脂チューブ11Aの端部にフランジをより容易に成形することができる。また、金属チューブ12により樹脂チューブ11Aを機械的に補強することができる。
【0045】
一方で、配管10においては、樹脂チューブ11が試料と接触し、金属チューブ12は試料とは接触しない。したがって、試料がタンパク質、ペプチド、核酸または特定の種類の農薬等の化合物を含む場合でも、これらの化合物が樹脂チューブ11に吸着することがほとんどない。また、フィッティング100においては、非掃引体積が低減されているので、試料が配管10に吸着することが抑制される。これにより、試料の分析の精度が低下することを防止することができる。
【0046】
(7)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、形成工具50の押圧面51aは平坦な形状を有するが、実施の形態はこれに限定されない。押圧面51aは、任意の形状を有してもよい。例えば、押圧面51aは、突出部52を取り囲むように形成された環状の溝部を有してもよい。この場合、当該溝部に対応する突出部を有するフランジ11bが樹脂チューブ11に形成されることとなる。
【0047】
このような突出部は、樹脂チューブ11の空洞部11aを取り囲みかつフランジ11bの先端面から先端に突出する。そのため、フランジ11bの突出部は、フィッティング100において、ブッシング20の開口部21の小径部21cの底面に強固に押圧される。これにより、貫通孔22と開口部21との間のシール性をより向上させることができる。
【0048】
(b)上記実施の形態において、樹脂チューブ11が金属チューブ12に挿入されるが、実施の形態はこれに限定されない。樹脂チューブ11が金属チューブ12に挿入されていない状態でも、上記の方法により樹脂チューブ11の端部にフランジ11bを形成することは可能である。そのため、樹脂チューブ11が機械的に十分に高い強度を有する場合には、樹脂チューブ11は金属チューブ12に挿入されなくてもよい。
【0049】
(8)態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0050】
(第1項)一態様に係る樹脂チューブの端部形成方法は、
樹脂チューブを準備するステップと、
押圧面と前記押圧面から突出しかつ前記樹脂チューブ内に挿入可能な突出部とを有する形成工具を準備するステップと、
前記形成工具の前記突出部を前記樹脂チューブの端部から前記樹脂チューブ内に挿入するステップと、
前記形成工具の前記押圧面を前記樹脂チューブの端面に対して押圧するステップと、
前記樹脂チューブの端部に熱エネルギーを与えることにより、前記形成工具の前記押圧面の形状を前記樹脂チューブの端面に転写して前記樹脂チューブの端部をフランジ形状に成形するステップとを含んでもよい。
【0051】
この樹脂チューブの端部形成方法によれば、樹脂チューブが準備される。また、押圧面と、押圧面から突出しかつ樹脂チューブ内に挿入可能な突出部とを有する形成工具が準備される。形成工具の突出部が樹脂チューブの端部から樹脂チューブ内に挿入される。形成工具の押圧面が樹脂チューブの端面に対して押圧される。樹脂チューブの端部に熱エネルギーが与えられることにより、形成工具の押圧面の形状が樹脂チューブの端面に転写されて樹脂チューブの端部がフランジ形状に成形される。
【0052】
この方法によれば、樹脂チューブの内径が小さい場合であっても、樹脂チューブの成形の過程で内径が閉塞することが防止される。また、樹脂チューブを形成する樹脂のガラス転移温度が高い場合であっても、樹脂チューブの端部を容易に成形することができる。これにより、樹脂チューブの端部にフランジを容易に成形することができる。
【0053】
(第2項)第1項に記載の樹脂チューブの端部形成方法において、
前記樹脂チューブは0.3mm以下の内径を有してもよい。
【0054】
この構成によれば、樹脂チューブの内径が0.3mm以下である場合でも、内径が閉塞することなく樹脂チューブの端部にフランジを容易に成形することができる。
【0055】
(第3項)第2項に記載の樹脂チューブの端部形成方法において、
前記形成工具の前記突出部は0.3mm以下の外径を有してもよい。
【0056】
この構成によれば、樹脂チューブの内径が0.3mm以下である場合でも、内径が閉塞することなく樹脂チューブの端部にフランジをより容易に成形することができる。
【0057】
(第4項)第1項に記載の樹脂チューブの端部形成方法において、
前記樹脂チューブは0.1mm以下の内径を有してもよい。
【0058】
この構成によれば、樹脂チューブの内径が0.1mm以下である場合でも、内径が閉塞することなく樹脂チューブの端部にフランジを容易に成形することができる。
【0059】
(第5項)第4項に記載の樹脂チューブの端部形成方法において、
前記形成工具の前記突出部は0.1mm以下の外径を有してもよい。
【0060】
この構成によれば、樹脂チューブの内径が0.1mm以下である場合でも、内径が閉塞することなく樹脂チューブの端部にフランジをより容易に成形することができる。
【0061】
(第6項)第1項~第5項のいずれか一項に記載の樹脂チューブの端部形成方法において、
前記形成工具を準備するステップは、
前記押圧面としての端面を有する第1の金属チューブを準備することと、
金属針または金属ワイヤを金属部材として準備することと、
前記第1の金属チューブから前記金属部材が前記突出部として突出するように前記第1の金属チューブ内に前記金属部材を挿入および固定することとを含んでもよい。
【0062】
この場合、樹脂チューブの端部にフランジを成形するための形成工具を容易に準備することができる。
【0063】
(第7項)第1項~第6項のいずれか一項に記載の樹脂チューブの端部形成方法において、
前記樹脂チューブの端部に熱エネルギーを与えることは、前記形成工具を超音波により振動させることを含んでもよい。
【0064】
この場合、ヒータを用いることなく樹脂チューブの端部に容易に熱エネルギーを与えることができる。
【0065】
(第8項)第1項~第7項のいずれか一項に記載の樹脂チューブの端部形成方法において、
前記樹脂チューブの端部に熱エネルギーを与えることは、ヒータにより前記樹脂チューブの端部を加熱することを含んでもよい。
【0066】
この場合、ヒータにより樹脂チューブの端部に効率的に熱エネルギーを与えることができる。
【0067】
(第9項)第1項~第8項のいずれか一項に記載の樹脂チューブの端部形成方法において、
前記樹脂チューブを準備するステップは、第2の金属チューブに挿入された前記樹脂チューブを準備することを含み、
前記樹脂チューブの端部をフランジ形状に成形するステップは、前記形成工具の前記押圧面と前記第2の金属チューブの端面とで前記樹脂チューブの端部を挟むことにより前記樹脂チューブの端部をフランジ形状に成形することを含んでもよい。
【0068】
この場合、形成工具と第2の金属チューブとを用いて樹脂チューブの端部にフランジをより容易に成形することができる。また、第2の金属チューブにより樹脂チューブを機械的に補強することができる。
【0069】
(第10項)他の態様に係る形成工具は、
樹脂チューブの端部を形成するための形成工具であって、
前記樹脂チューブの端面を押圧するための押圧面としての端面を有する金属チューブと、
前記金属チューブ内に挿入された金属針または金属ワイヤからなる金属部材とを備え、
前記金属部材の先端は、前記金属チューブの押圧面から突出することにより、前記樹脂チューブ内に挿入可能な突出部が形成されてもよい。
【0070】
この形成工具においては、樹脂チューブの端面を押圧するための押圧面としての端面を有する金属チューブの内部に金属針または金属ワイヤからなる金属部材が挿入される。金属部材の先端は、金属チューブの押圧面から突出する。突出部が樹脂チューブ内に挿入されるとともに、押圧面が樹脂チューブの端面を押圧することにより、樹脂チューブの端部にフランジを容易に成形することができる。
【符号の説明】
【0071】
10…配管,10A…チューブ,10a,11a…空洞部,11,11A…樹脂チューブ,11b…フランジ,12…金属チューブ,13…スリーブ,20…ブッシング,21,33…開口部,21a…大径部,21b…テーパ部,21c…小径部,22,33A,34,41…貫通孔,30,30A…メイルナット,31…頭部,32…軸部,40…フェルール,50…形成工具,51…金属チューブ,51a…押圧面,52…突出部,52a…金属部材,60…ヒータ,100,100A…フィッティング,110,110A,110B…流路,120…移動相容器,130…ポンプ,140…試料供給部,150…分離カラム,160…検出器,170…廃液容器,180…処理装置,200…クロマトグラフ