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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】品質予測システム
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/85 20210101AFI20231219BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20231219BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20231219BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20231219BHJP
   B22F 10/40 20210101ALI20231219BHJP
   B22F 12/90 20210101ALI20231219BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20231219BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20231219BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20231219BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231219BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20231219BHJP
【FI】
B22F10/85
B22F3/105
B22F3/16
B22F10/28
B22F10/40
B22F12/90
B29C64/153
B29C64/386
B29C64/40
B33Y30/00
B33Y50/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019218783
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2021088736
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久原 淳司
(72)【発明者】
【氏名】三井 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅俊
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03495904(EP,A1)
【文献】特開2019-171772(JP,A)
【文献】特開2020-015944(JP,A)
【文献】特開2021-037716(JP,A)
【文献】特開2012-096427(JP,A)
【文献】特表2016-533571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
B22F 3/105
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料粉末に光ビームを照射し、前記材料粉末を溶融固化することによって、造形物を製造する付加製造装置に適用され、
前記造形物を製造した際ベースに対する造形姿勢を表す造形姿勢データを含む造形時データと製造された前記造形物の品質を表す造形品質データとを訓練データセットとする機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、
前記学習済みモデルと新たに前記造形物を製造する際に用いる前記造形時データとを用いて、前記造形姿勢データをパラメータとして変化させた場合における各々の前記造形物の前記品質を予測する品質予測部と、をえ、
前記造形姿勢データは、前記造形物における基準軸線回りの第一角度、前記基準軸線に直交する第一軸線回りの第二角度、及び、前記基準軸線及び前記第一軸線に直交する第二軸線回りの第三角度の何れかを用いて表される、
品質予測システム。
【請求項2】
予測された各々の前記造形物の前記品質について、予め設定された基準品質を満たす前記品質に対応する前記造形姿勢を評価する評価部を備えた、請求項1に記載の品質予測システム。
【請求項3】
前記造形時データは、前記造形物の製造時に前記ベース上にて前記造形物を支持する複数種類のサポート部材を識別するサポート種類データを含んでおり、
前記品質予測部は、前記造形時データに含まれる前記造形姿勢データ及び前記サポート種類データをパラメータとして変化させた場合における各々の前記造形物の前記品質を予測する、請求項1又は2に記載の品質予測システム。
【請求項4】
予測された各々の前記造形物の前記品質について、予め設定された基準品質を満たす前記品質に対応する前記造形姿勢及び前記サポート部材を評価する評価部を備えた、請求項3に記載の品質予測システム。
【請求項5】
前記評価部による評価結果に対応する前記造形時データを出力する出力部を備え、
前記付加製造装置は、前記出力部から出力された前記造形時データを用いることにより、新たに前記造形物を製造する、請求項2又は4に記載の品質予測システム。
【請求項6】
前記出力部は、前記造形物の形状及び前記造形物の製造時に前記ベース上にて前記造形物を支持するサポート部材の形状を表す3Dモデルデータを生成する3D造形モデル生成装置に前記評価結果に対応する前記造形時データを出力する、請求項5に記載の品質予測システム。
【請求項7】
前記出力部は、前記3D造形モデル生成装置に前記品質予測部による予測結果に対応する前記造形時データを出力する、請求項6に記載の品質予測システム。
【請求項8】
前記造形時データは、前記造形物を製造する際の造形条件データを含み、
前記造形条件データは、レーザ出力、走査速度、走査ピッチ、照射スポット径、積層厚み、前記材料粉末の種類の少なくとも一つを含む、請求項1-7のうちの何れか一項に記載の品質予測システム。
【請求項9】
前記品質は、前記造形物の製造後形状と基準形状との形状誤差を用いて表される形状精度、及び、前記造形物における割れの有無の何れかを含む、請求項1-8のうちの何れか一項に記載の品質予測システム。
【請求項10】
前記品質予測システムは、
前記造形姿勢データを含む前記造形時データと前記造形品質データとを訓練データセットとする機械学習を行うことにより前記学習済みモデルを生成し、生成した前記学習済みモデルを前記学習済みモデル記憶部に記憶する学習済みモデル生成部を備える、請求項1-9のうちの何れか一項に記載の品質予測システム。
【請求項11】
前記学習済みモデル生成部は、
前記付加製造装置によって新たに製造された前記造形物についての前記造形時データ及び前記造形品質データを前記訓練データセットとする機械学習を行うことにより、前記学習済みモデルを更新する、請求項10に記載の品質予測システム。
【請求項12】
材料粉末に光ビームを照射し、前記材料粉末を溶融固化することによって、造形物を製造する付加製造装置に適用され、
前記造形物を製造した際のベースに対する造形姿勢を表す造形姿勢データを含む造形時データと製造された前記造形物の品質を表す造形品質データとを訓練データセットとする機械学習を行うことにより学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部と、
前記学習済みモデルと新たに前記造形物を製造する際に用いる前記造形時データとを用いて、前記造形時データに含まれる前記造形姿勢データをパラメータとして変化させた場合における各々の前記造形物の前記品質を予測する品質予測部と、
予測された各々の前記造形物の前記品質について、予め設定された基準品質を満たす前記品質に対応する前記造形姿勢を評価する評価部と、をえ、
前記造形姿勢データは、前記造形物における基準軸線回りの第一角度、前記基準軸線に直交する第一軸線回りの第二角度、及び、前記基準軸線及び前記第一軸線に直交する第二軸線回りの第三角度の何れかを用いて表される、
品質予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ加工条件データを学習する機械学習装置を備えたレーザ加工システムが開示されている。機械学習装置は、レーザ加工システムの状態量と加工結果に関連付けてレーザ加工条件データを学習する。そして、機械学習装置は、学習したレーザ加工条件データを参照することにより、最適な加工結果が得られるレーザ加工条件データを出力するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-164801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、材料粉末に対して、光ビーム(レーザビーム及び電子ビーム等)を照射することにより造形物を製造する付加製造が行われている。付加製造には、例えば、粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion)方式、指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition)方式等があることが知られている。粉末床溶融結合方式は、平らに敷き詰められた粉末に対して、光ビームを照射することで付加製造を行う。粉末床溶融結合方式には、SLM(Selective Laser Melting)、EBM(Electron Beam Melting)等が含まれる。指向性エネルギー堆積方式は、光ビームの照射と材料粉末の吐出を行うヘッドの位置を制御することで付加製造を行う。指向性エネルギー堆積方式には、LMD(Laser Metal Deposition)、DMP(Direct Metal Printing)等が含まれる。そして、このような付加製造においても、上記従来のレーザ加工システムのように、粉末に光ビームを照射する際の条件を設定することは、造形物の品質を維持する上で肝要である。
【0005】
ところで、上記の付加製造のうち、特に、粉末床溶融結合方式においては、光ビームが、材料粉末に対して水平方向に走査されることにより、材料粉末を溶融固化させて造形物を造形(製造)する。この場合、材料粉末が溶融固化する際に生じる収縮は、造形物の品質、即ち、形状精度や割れの有無に影響する。ここで、材料粉末が溶融固化する際に生じる収縮の大きさは、例えば、溶融固化する材料粉末の体積に依存し、体積が大きい程収縮が大きくなる傾向を有する。特に、材料粉末が一定の層厚で層状に敷き詰められた場合には、溶融固化する体積は光ビームを水平方向に走査する面積により決定される。
【0006】
このため、溶融固化する体積を小さく、換言すれば、光ビームを走査する面積を小さくすることにより造形物の品質を満たすことができるものの、造形時(製造時)のベースに対する造形物の傾きを表す造形姿勢を適切に設定する必要がある。しかしながら、この造形姿勢の設定には、粉末の種類や造形物の形状に応じて設定する必要があり、設定に際して作業者の経験や時間を要すると共に極めて煩雑である。
【0007】
本発明は、付加製造に適用されて造形物の品質を確保するための造形姿勢を容易に設定できる品質予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
品質予測システムは、材料粉末に光ビームを照射し、材料粉末を溶融固化することによって、造形物を製造する付加製造装置に適用され、造形物を製造した際のベースに対する造形姿勢を表す造形姿勢データを含む造形時データと製造された造形物の品質を表す造形品質データとを訓練データセットとする機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、学習済みモデルと新たに造形物を製造する際に用いる造形時データとを用いて、造形姿勢データをパラメータとして変化させた場合における各々の造形物の品質を予測する品質予測部と、を備え、造形姿勢データは、造形物における基準軸線回りの第一角度、基準軸線に直交する第一軸線回りの第二角度、及び、基準軸線及び第一軸線に直交する第二軸線回りの第三角度の何れかを用いて表される
【0009】
これによれば、造形姿勢データを含む造形時データ及び造形品質データを訓練データセットとする機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルと、新たに造形物を製造する際の造形時データとに基づいて造形物の品質を予測することができる。この場合、造形時データに含まれる造形姿勢データをパラメータとして変化させることにより、造形姿勢に応じた造形物の複数の品質を予測することができる。ここで、生成された学習モデルは、少なくとも、付加製造中における造形姿勢と造形物の品質との関係を定義するモデルとなる。
【0010】
これにより、基準品質を満たす造形物を製造する際の造形姿勢を短時間により且つ極めて容易に設定することができる。又、学習済みモデルを用いて造形姿勢を設定することにより、例えば、作業者の経験等に基づくことなく客観的に造形姿勢を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】品質予測システムの構成を示す図である。
図2】付加製造装置を示す図である。
図3】ベース、造形物及びサポート部材を示し、造形姿勢を説明するための拡大正面図である。
図4】ベース、造形物及びサポート部材を示し、造形姿勢を説明するための拡大正面図である。
図5】サポート部材の例を示す図である。
図6】サポート部材の例を示す図である。
図7】機械学習部の構成を示すブロック図である。
図8】造形姿勢データを説明するための図である。
図9A】第一例の学習フェーズを説明するための図である。
図9B】第一例の推論フェーズを説明するための図である。
図10A】第二例の学習フェーズを説明するための図である。
図10B】第二例の推論フェーズを説明するための図である。
図11A】第三例に係り、第一段階の学習フェーズを説明するための図である。
図11B】第三例に係り、第一段階の推論フェーズを説明するための図である。
図11C】第三例に係り、第二段階の学習フェーズを説明するための図である。
図11D】第三例に係り、第二段階の推論フェーズを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.品質予測システムの適用対象)
品質予測システムは、粉末床溶融結合方式又は指向性エネルギー堆積方式を採用することにより、3Dの造形物を付加製造する付加製造方法に適用される。本例では、粉末床溶融結合方式のうちのSLMを用いた付加製造装置の場合を例に挙げて説明するが、付加製造装置が粉末床溶融結合方式のうちのEMBを用いても良い。尚、材料粉末については、本例では、金属粉末を例示するが、樹脂粉末であっても良い。
【0013】
(2.品質予測システム100の構成)
品質予測システム100は、後に詳述する1又は複数の付加製造装置1と、3D造形モデル生成装置2と、検査装置3と、機械学習装置110とを備えて構成される。
【0014】
3D造形モデル生成装置2は、要求仕様に基づいて、付加製造装置1により造形物の製造が可能となるように、3D造形モデルを生成する。3D造形モデル生成装置2は、例えば、CAE(Computer Aided Engineering)を適用して、最適な3D造形モデルを生成する。本例において、3D造形モデルに含まれる情報は、3D設計形状(3Dモデルデータ)及び3D設計形状における造形姿勢(造形姿勢データ)等が含まれる。
【0015】
検査装置3は、付加製造装置1により製造された造形物の造形品質(品質)を評価するための装置である。検査装置3は、付加製造装置1により製造された造形物の基準形状に対する製造後形状の形状誤差(即ち、形状精度)、及び、造形物の割れの有無等を検査する。検査装置3は、形状誤差及び造形品質を表す造形品質データを出力する。
【0016】
機械学習装置110は、少なくとも付加製造装置1が造形物を造形(製造)する際の造形時データと、造形(製造)された造形物の造形品質データを訓練データセットとして機械学習を行う。ここで、造形時データは、造形する造形物の立体形状を表すと共に造形姿勢データを含む3Dモデルデータ及び造形時における造形条件を表す造形条件データを含む。又、造形条件データは、レーザ出力、走査速度、走査ピッチ、照射スポット径、積層厚み、金属粉末の種類の少なくとも一つを含む。
【0017】
これにより、機械学習装置110は、製造時における造形物の造形姿勢と製造された造形物の造形品質(造形物の形状精度と造形物の割れの有無等)とに関する学習済みモデルを生成する。そして、機械学習装置110は、学習済みモデルと、新たに造形物を製造する際の造形時データとに基づいて、新たに付加製造された造形物の造形品質(形状精度及び造形の割れの有無等)を予測する。ここで、機械学習装置110は、造形時データに含まれる造形姿勢データをパラメータとして変化させ、変化したパラメータ即ち複数の造形姿勢の各々に対応する造形物の造形品質を予測する。
【0018】
そして、機械学習装置110は、予測した複数の造形品質について、予め設定された基準品質を満たす造形品質に対応する造形姿勢を評価する。これにより、付加製造装置1は、評価された造形姿勢によって造形物を造形(製造)することにより、基準品質を満たす造形物を製造する。
【0019】
機械学習装置110は、第一サーバ111と、第二サーバ112とを備える。但し、第一サーバ111と第二サーバ112とは、別装置として説明するが、同一装置によって構成することも可能である。又、第一サーバ111及び第二サーバ112については、少なくとも第一サーバ111をクラウド上に設けることも可能である。
【0020】
第一サーバ111は、機械学習における学習フェーズとして機能する。第一サーバ111は、取得した訓練データセットを用いて機械学習により学習済みモデルを生成する。第一サーバ111は、複数の付加製造装置1と通信可能に設けられ、複数の付加製造装置1の各々が造形物を造形した際に用いた造形時データを、訓練データセットの一部として取得する。造形時データには、例えば、3Dモデルデータ、造形条件データ(光ビームの出力、走査速度、照射スポット径、積層厚、サポート種類、材料粉末の種類の少なくとも1つ)、造形物における基準軸線方向、例えば、水平方向に対する傾きを表す造形姿勢データ等が含まれる。
【0021】
第一サーバ111は、更に、複数の付加製造装置1の各々が造形した造形物の形状誤差(基準形状の3Dモデルデータに対する製造後形状の誤差)、及び、造形物の割れの有無を表す造形品質データを、訓練データセットにおける教師データとして取得する。そして、第一サーバ111は、教師あり学習を行うことにより、造形物の造形状態(具体的には造形姿勢)と造形物の造形品質とに関する学習済みモデルを生成する。尚、第一サーバ111における機械学習は、教師あり学習の場合を例に挙げて説明するが、他の機械学習アルゴリズムを適用することも可能である。
【0022】
第一サーバ111は、検査装置3により計測された造形品質データを作業者が入力することによって取得するようにしても良い。又、第一サーバ111は、検査装置3によって計測された造形品質データを、検査装置3から直接取得するようにしても良い。尚、造形品質データは、対応する造形物に紐付けされたデータである。
【0023】
このように、品質予測システム100において、第一サーバ111は、複数の付加製造装置1の各々が造形物を造形した際の造形時データ及び造形品質データを取得する。これにより、第一サーバ111は、多量の造形時データ及び造形品質データを訓練データセットとする機械学習により、学習済みモデルを生成する。従って、第一サーバ111は、学習済みモデルの学習精度を向上させることができ、学習済みモデルの高精度化を図ることができる。
【0024】
第二サーバ112は、機械学習における推論フェーズとして機能する。第二サーバ112は、第一サーバ111により生成された学習済みモデルを取得する。更に、第二サーバ112は、複数の付加製造装置1の各々に通信可能に設けられる。そして、第二サーバ112は、第一サーバ111により生成された学習済みモデルを用い、且つ、複数の付加製造装置1の各々が新たに造形物を造形する際の造形時データを入力データとし、新たに造形する造形物の造形品質を予測する。更に、第二サーバ112は、造形時データに含まれる造形姿勢データをパラメータとして変化させて複数の造形姿勢の各々に対応する造形品質を予測し、基準品質を満たす造形品質に対応する造形姿勢(造形姿勢データ)を出力データとして出力する。
【0025】
第二サーバ112によって予測された造形物の造形品質及び評価された造形姿勢(造形姿勢データ)は、付加製造装置1に送信し、付加製造装置1の造形条件を調整することに用いることができる。又、第二サーバ112によって予測された造形物の造形品質及び評価された造形姿勢(造形姿勢データ)は、3D造形モデル生成装置2に送信することもできる。これにより、予測された造形物の造形品質が不良であると判断された場合には、予測された造形品質に応じて、3D造形モデル生成装置2が造形物の形状の変更、即ち、3Dモデルデータ及び造形姿勢データの修正や、付加製造時に造形物を支持するサポート部材の種類変更等の処理を行うことができる。
【0026】
ここで、図示を省略するが、複数の付加製造装置1の各々に対して、第二サーバ112と同様の処理を行う品質予測装置を配置することもできる。即ち、品質予測装置は、第二サーバ112と同様に、機械学習における推論フェーズを実行する。そして、品質予測装置は、対応する付加製造装置1における造形時データと、第一サーバ111により生成された学習済みモデルとに基づいて、対応する付加製造装置1により造形された造形物の造形品質等を予測する。
【0027】
又、品質予測システム100は、単体の付加製造装置1と、機械学習装置とにより構成されるようにしても良い。機械学習装置は、第一サーバ111に相当する機械学習の学習フェーズを実行可能であると共に、第二サーバ112又は品質予測装置に相当する機械学習の推論フェーズを実行可能である。
【0028】
(3.付加製造装置1の構成)
付加製造装置1の構成について図面を参照しながら説明する。付加製造装置1は、SLM方式を採用し、層状に配置された材料粉末としての金属粉末Pに光ビームを照射することを繰り返すことによって造形物Wを造形する(製造する)装置である。
【0029】
ここで、光ビームは、金属粉末Pを溶融することができる種々のビームを含み、例えば、レーザビームを例示することができる。レーザビームには、近赤外波長のレーザ、COレーザ(遠赤外レーザ)、半導体レーザ等、種々のレーザを適用でき、対象の金属粉末Pに応じて適宜決定される。又、金属粉末Pは、アルミニウム、銅、マルエージング鋼やインコネル等の鋼材、ステンレス、合金工具鋼等、種々の金属材料を適用できる。
【0030】
付加製造装置1は、図2に示すように、チャンバ10、造形物支持装置20、粉末供給装置30、光ビーム照射装置40を備える。チャンバ10は、内部の空気を、例えば、He(ヘリウム)や、N(窒素)、Ar(アルゴン)等の不活性ガスに置換可能となるように構成されている。尚、チャンバ10は、内部を不活性ガスに置換するのではなく、減圧可能な構成としても良い。
【0031】
造形物支持装置20は、チャンバ10の内部に設けられ、造形物Wを造形するための部位である。造形物支持装置20は、造形用容器21、昇降テーブル22、ベース23を備える。造形用容器21は、上側に開口部を有し、上下方向の軸線に平行な内壁面を有する。昇降テーブル22は、造形用容器21の内部にて内壁面に沿うように上下方向に移動可能に設けられる。ベース23は、昇降テーブル22の上面に着脱可能に取り付けられ、ベース23の上面が造形物Wを造形するための部位となる。
【0032】
粉末供給装置30は、チャンバ10の内部であって、造形物支持装置20に隣接して設けられる。粉末供給装置30は、粉末収納容器31、供給テーブル32、リコータ33を備える。粉末収納容器31は、上側に開口部を有しており、粉末収納容器31の開口部の高さは、造形用容器21の開口部の高さと同一に設けられている。粉末収納容器31は、上下方向の軸線に平行な内壁面を有する。供給テーブル32は、粉末収納容器31の内部にて内壁面に沿うように上下方向に移動可能に設けられる。そして、粉末収納容器31内において、供給テーブル32の上側領域に、金属粉末Pが収納されている。
【0033】
リコータ33は、造形用容器21の開口部及び粉末収納容器31の開口部の全領域に亘って、両開口部の上面に沿って往復移動可能に設けられている。リコータ33は、図2の右から左に移動するときに、粉末収納容器31の開口部から盛り出ている金属粉末Pを、造形用容器21側に運搬する。更に、リコータ33は、運搬した金属粉末Pをベース23の上面にて層状に且つ水平に配置する。
【0034】
光ビーム照射装置40は、ベース23の上面に層状に且つ水平に配置された金属粉末Pの表面にて、光ビームを水平方向(基準方向)に走査させて光ビームを照射する。光ビーム照射装置40は、予め設定されたプログラムを実行することにより、造形物Wの形状を表す3Dモデルデータに基づいて照射位置及び照射強度を変更する。照射位置を変化させることにより、3Dモデルデータに基づいた所望の層状の造形物Wを造形することができる。又、照射強度を変化させることにより、金属粉末P同士の接合強度を変化させることができる。
【0035】
(4.付加製造装置1による造形物Wの造形方法)
付加製造装置1による造形物Wの製造方法について、図2を参照して説明する。粉末供給装置30における供給テーブル32を下方に位置決めした状態で、粉末収納容器31内で金属粉末Pを収納させる。供給テーブル32を上昇させて、所望量の金属粉末Pが粉末収納容器31の開口部から盛り出た状態とする。同時に、造形物支持装置20において、ベース23が昇降テーブル22の上面に取り付けられ、ベース23の上面が、造形用容器21の開口部より僅かに下方に位置するように、昇降テーブル22を位置決めする。
【0036】
続いて、リコータ33を粉末供給装置30側から造形物支持装置20側に向かって移動させる。これにより、粉末供給装置30内の金属粉末Pが、ベース23の上面に移動し、ベース23の上面において同一厚みの層状に配置される。
【0037】
続いて、光ビーム照射装置40が、ベース23の上面において層状に配置された金属粉末Pに対して、水平方向にて光ビームを走査して光ビームを照射する。照射された位置の金属粉末Pが溶融固化することにより一体化される。そして、上記動作を繰り返すことにより、ベース23の上面にサポート部材Sが形成される。
【0038】
続いて、上記と同様の動作により、サポート部材Sの上面において層状に配置された金属粉末Pに光ビームを照射する。この動作を繰り返すことにより、サポート部材Sの上面に、造形物Wが造形(製造)される。
【0039】
造形物Wは、サポート部材Sの上面に接合しており、サポート部材Sは、ベース23の上面に接合している。そこで、造形物Wが造形された後には、造形物W及びサポート部材Sが接合した状態のベース23を昇降テーブル22から取り外す。そして、造形物W及びサポート部材Sをベース23から切り離し、次に造形物Wからサポート部材Sを分離除去する。このようにして、造形物Wが完成する。
【0040】
(5.付加製造による造形物Wについて)
上述したように、付加製造による造形物Wは、光ビームが照射されることにより金属粉末Pが溶融し、その後に溶融した金属粉末Pが固化することで形成される。ところで、金属粉末Pが溶融した後に固化する際、即ち、放熱する際には、造形物Wは僅かながら収縮する。このため、造形物Wには、収縮に伴う変形力が発生する。そして、このような変形力が大きくなると、歪が大きくなって造形物Wの形状精度が悪化したり、割れが発生したりする。ここで、造形物Wの収縮即ち変形力は、金属粉末Pが溶融固化する体積に応じて変化し、溶融固化する体積が大きい程、収縮(変形力)が大きくなる。
【0041】
そこで、溶融固化する体積を小さく、換言すれば、光ビームを走査する面積を小さくするために、付加製造においては、図2及び図3に示すように、造形時(製造時)のベース23に対する造形物Wの傾きを表す造形姿勢が設定される。この造形姿勢の設定に際しては、例えば、造形物Wの形状に応じて変化する溶融固化する体積、即ち、光ビームを走査する面積を勘案して設定する必要がある。
【0042】
造形姿勢が適切に設定されると、図3に示すように、造形物Wの収縮が抑制されるため、発生する変形力が小さく、その結果、歪を小さくすることができて、造形物Wの形状精度を良好にすると共に割れの発生が防止される。一方、造形姿勢が不適切に設定されると、図4に示すように、造形姿勢を設けているにも拘らず発生する変形力大きくなり、例えば、サポート部材Sと造形物Wとが分離する程度まで変形して形状精度が悪化する。このため、造形物Wに割れが発生する虞があり、造形姿勢は造形物Wごとに適切に設定される必要がある。
【0043】
(6.サポート部材Sについて)
サポート部材Sは、ベース23上において、造形物Wの形状精度の確保及び割れの発生を防止して造形物Wを支持するために用いられる。サポート部材Sは、複数のバリエーション(種類)を有する。サポート部材Sは、例えば、図3及び図4に示すように、柱状に設けることができる。又、サポート部材Sは、図5に例を示すように、メッシュ状に設けることができる。更には、サポート部材Sは、図6に示すように、太さを異ならせて設けることができる。尚、サポート部材Sの他の形状について、例えば、特開2019-81923号公報に詳細に開示された形状を採用することができる。
【0044】
(7.機械学習装置110の構成)
次に、図7を参照しながら、機械学習装置110(図1を参照)の構成を説明する。図7に示すように、機械学習装置110は、学習フェーズを実行可能な学習処理装置210と、推論フェーズを実行可能な品質予測装置220と、データベース230とを備える。ここで、学習処理装置210は、上述した品質予測システム100における第一サーバ111に相当する。又、品質予測装置220は、上述した品質予測システム100における第二サーバ112に相当する。又、データベース230は、付加製造装置1が造形物Wを造形(製造)するごとに得られる造形時データ及び造形品質データを更新可能に記憶して蓄積する。
【0045】
学習処理装置210は、学習用データ入力部211と、訓練データセット取得部212と、訓練データセット記憶部213と、学習済みモデル生成部214とを備える。学習用データ入力部211は、対応する造形物Wに紐付けられた造形時データを入力する。造形時データは、例えば、3Dモデルデータ、造形条件データ(光ビームの出力、走査速度、照射スポット径、積層厚、サポート種類、金属粉末Pの種類の少なくとも1つ)、後述する造形姿勢データ及びサポート種類データを挙げることができる。
【0046】
訓練データセット取得部212は、学習用データ入力部211により取得された造形時データを説明変数とし、検査装置3から入力された造形品質データを目的変数とする訓練データセットを取得する。尚、検査装置3から入力される造形品質データは、造形物Wの形状精度及び造形物Wにおける割れの有無が含まれる。取得された訓練データセットは、訓練データセット記憶部213に記憶される。又、訓練データセット取得部212は、データベース230に蓄積された造形時データ及び造形品質データを訓練データセットとして取得することもできる。
【0047】
学習済みモデル生成部214は、訓練データセット記憶部213に記憶された造形時データ及び造形品質データに基づき、紐付けされた造形時データと造形品質データとを訓練データセットとする機械学習を行う。これにより、学習済みモデル生成部214は、少なくとも付加製造する際の造形物Wの造形姿勢(又は/及びサポート部材S)と造形品質(形状精度及び割れの有無)とに関する学習済みモデルを生成する。
【0048】
品質予測装置220は、学習済みモデル記憶部221と、造形時データ取得部222と、品質予測部223と、評価部224と、出力部225とを主に備える。学習済みモデル記憶部221は、学習済みモデル生成部214が生成した学習済みモデルを記憶する。造形時データ取得部222は、付加製造装置1が新たに造形物Wを造形(製造)する際に用いる造形時データを取得する。
【0049】
品質予測部223は、造形時データ取得部222が取得した造形時データと、学習済みモデル記憶部221に記憶された学習済みモデルとに基づいて、新たに造形する造形物Wの形状精度や割れの有無等の造形品質を予測する。品質予測部223は、造形時データに含まれる造形姿勢データ(又は/及びサポート種類データ)をパラメータとして変化させ、変化させた造形姿勢データ即ち造形姿勢(又は/及びサポート種類データ即ちサポート部材S)の各々に応じた造形物Wの造形品質を予測する。
【0050】
ここで、造形姿勢データは、造形物Wを製造する際における基準軸線回りの第一角度、基準軸線に直交する第一軸線回りの第二角度、及び、基準軸線及び第一軸線に直交する第二軸線回りの第三角度の何れかを用いて表されるパラメータ(変数)である。尚、本例においては、図8に示すように、造形物Wを製造する際における基準軸線を例えばX軸線とすると共に第一角度をX軸線回りのX軸回転角とする。又、第一軸線をX軸線に直交するY軸線とすると共に第二角度をY軸線回りのY軸回転角とする。更に、第に軸線をX軸線及びY軸線に直交するZ軸線とすると共に第三角度をZ軸回りのZ軸回転角とする。
【0051】
評価部224は、品質予測部223によって予測された各々の造形物Wの造形品質について、予め設定された基準品質を満たす造形品質に対応する造形姿勢を評価する。そして、評価部224は、評価した造形姿勢即ち造形姿勢データを出力部225に出力する。
【0052】
出力部225は、品質予測部223による予測結果、又は/及び、評価部224による評価結果を付加製造装置1や3D造形モデル生成装置2に出力する。出力部225は、例えば、評価部224による評価結果に対応して、造形時データ(造形姿勢データを含む)を付加製造装置1に出力する。これにより、付加製造装置1は、基準品質を満たす造形物Wを造形(製造)することができる。
【0053】
又、出力部225は、品質予測部223の予測結果を出力することにより、例えば、表示装置(図示省略)への表示による案内や、音声による案内、表示灯による案内等を行う。この場合、出力部225は、品質予測装置220に設けられた表示装置等に案内を行うようにしても良いし、複数の付加製造装置1の各々に設けられた表示装置等に案内を行うようにしても良い。
【0054】
又、出力部225は、3D造形モデル生成装置2に予測結果や評価結果を出力することもできる。これにより、3D造形モデル生成装置2においては、予測結果に基づいて、例えば、形状精度の向上や、割れを生じさせないように3Dモデルデータを修正することができる。
【0055】
更に、出力部225は、品質予測部223が良否判定を行う場合には、品質予測部223から取得した良否判定予測結果を付加製造装置1に出力して、付加製造装置1に対して良否判定予測結果に応じた処理を実行させることも可能である。例えば、造形物Wの造形品質に含まれる形状精度の良否判定予測結果において不良であると判定された(予測された)場合には、出力部225は、付加製造装置1に対して、不良であると判定された造形物Wの廃棄処理又は選別処理を実行させることが可能である。
【0056】
このように、学習処理装置210において、学習済みモデル生成部214は、造形時データと造形品質データとを訓練データセットとする機械学習により、少なくとも造形時の造形物Wの造形姿勢と造形品質(形状精度及び割れの有無)とに関する学習済みモデルを生成する。又、品質予測装置220において、学習済みモデル記憶部221は、学習済みモデル生成部214が生成した学習済みモデルを記憶する。
【0057】
そして、品質予測装置220において、品質予測部223は、新たな造形物Wを造形(製造)した際に得られる造形時データのうち少なくとも3Dモデルデータ及び姿勢データ(又は/及びサポート種類データ)と、学習済みモデル記憶部221に記憶された学習済みモデルとに基づき、新たに造形(製造)する(予定の)造形物Wの造形品質を予測する。従って、機械学習装置110は、造形物Wの造形品質、即ち、形状精度及び割れの有無を高精度に予測することができる。以下、に、機械学習装置110を用いた造形品質の予測方法について、具体例を挙げながら説明する。
【0058】
(8.機械学習装置110の作動)
(8-1.第一例)
機械学習装置110の第一例について、図9A及び図9Bを用いて説明する。第一例の機械学習装置110は、学習済みモデルを用いて予測される造形物Wの造形品質即ち形状精度及び割れの有無に基づいて、造形物Wを造形(製造)する際の造形姿勢を決定する。
【0059】
このため、第一例においては、学習処理装置210の学習済みモデル生成部214は、図9Aに示すように、説明変数としての3Dモデルデータ、造形条件データ及び造形姿勢データを含む造形時データと、目的変数としての造形品質データと、を用いた機械学習を行い、学習済みモデルを生成する。
【0060】
続いて、品質予測装置220においては、造形時データ取得部222が、図9Bに示すように、入力データとして、新たに造形(製造)する造形物Wに関する造形時データである3Dモデルデータ及び造形条件データを取得すると共に、造形姿勢データをパラメータとして取得する。そして、品質予測部223は、3Dモデルデータ、造形条件データ及び造形姿勢データと、学習済みモデル記憶部221に記憶された学習済みモデルと、を用い、出力データとして、新たに造形(製造)する造形物Wの造形品質を予測する。
【0061】
ここで、造形物Wの造形品質としては、造形物Wの形状精度、より具体的には、形状誤差及び造形物Wにおける割れの有無が含まれる。尚、造形物Wにおける形状誤差としては、予め定められた計測位置における誤差とすることができる。
【0062】
品質予測部223は、パラメータである造形姿勢データを構成するX軸回転角、Y軸回転角及びZ軸回転角のうちの少なくとも一つを変化させ、各々の場合について造形物Wの造形品質を予測する。そして、品質予測部223は、造形姿勢データと紐付けされた予測結果を評価部224に出力する。
【0063】
評価部224は、品質予測部223から出力される複数の予測結果と予め設定された造形品質に関する基準である基準品質とを比較することにより、各々の予測結果について基準を満たしているか否かを評価する。評価部224は、評価を行った予測結果のうち、新たに造形(製造)する造形物Wの形状誤差が小さく且つ割れを生じないことが予測される予測結果のときの造形姿勢データ、即ち、X軸回転角、Y軸回転角及びZ軸回転角を決定する。そして、評価部224は、決定した造形姿勢データを出力部225に出力する。
【0064】
尚、評価部224が造形姿勢データを決定する場合、予測された造形品質が基準品質を満たすことに加えて、例えば、基準品質を満たしつつ造形物Wを製造する際のサイクルタイムが短くなる場合の造形姿勢データを決定することができる。即ち、評価部224は、造形品質以外の評価要素に基づいて、造形姿勢データを決定することができる。
【0065】
出力部225は、評価部224によって決定された造形姿勢データを3D造形モデル生成装置2に出力する。3D造形モデル生成装置2は、出力部225から出力された造形姿勢データを取得すると、取得した造形姿勢データを反映することにより、新たに造形(製造)する造形物Wの3Dモデルデータを生成する。即ち、3D造形モデル生成装置2は、取得した造形姿勢データに従って3DモデルをX軸回り、Y軸回り及びZ軸回りの何れかの軸回りに回転させる。これにより、3D造形モデル生成装置2は、付加製造装置1によって新たに造形(製造)するための造形物Wの3Dモデルデータを生成する。尚、3D造形モデル生成装置2によって新たに生成された3Dモデルデータには、造形物Wの形状に加え、適宜選択されたサポート部材Sが加えられている。
【0066】
3D造形モデル生成装置2によって最終的な3Dモデルデータが生成されると、例えば、出力部225を介して3Dモデルデータが出力される。そして、上述したように、付加製造装置1は出力された3Dモデルデータを含む造形時データに従って新たな造形物Wを造形(製造)する。そして、造形(製造)された造形物Wは、検査装置3によって検査される。
【0067】
ここで、図7に示すように、付加製造装置1が新たな造形物Wを造形(製造)したときの造形時データ及び検査装置3による検査結果即ち造形品質データは、互いに紐付けされて、データベース230に更新可能に記憶されて蓄積される。これにより、例えば、訓練データセット取得部212が学習用データ入力部211を介してデータベース230から造形時データ及び造形品質データを取得し、学習済みモデル生成部214がこれらのデータを訓練データセットとして機械学習を行うことができる。従って、学習済みモデル生成部214は、精度の高い学習済みモデルを生成することができる。
【0068】
尚、品質予測部223による品質予測において、造形姿勢データを変更することによって形状誤差が大きい、又は、割れが生じてしまう場合、出力部225は、造形物Wにおける形状誤差が大きい部位や割れが発生する部位を、例えば、3D造形モデル生成装置2に出力することができる(図7の破線を参照)。
【0069】
これにより、3D造形モデル生成装置2は、例えば、形状誤差が小さく且つ割れの発生しない形状となるように、3Dモデルの形状を修正した新たな3Dモデルデータを生成する。そして、3D造形モデル生成装置2は、生成した3Dモデルデータ即ち新たな造形物Wを造形(製造)するための3Dモデルデータを造形時データ取得部222に出力することにより、品質予測部223は、新たに造形(製造)する造形物Wについて、上述したように造形品質を予測する。
【0070】
(8-2.第二例)
上述した第一例においては、評価部224が造形物Wの造形品質が基準品質を満たすと予測される場合の造形姿勢データを決定するようにした。ところで、付加製造においては、造形中において造形物Wを支持するサポート部材Sを複数種類のうちから適切に選択して設定することにより、造形物Wの造形品質をより確実に維持することができる。そこで、第二例においては、第一例と同様に学習済みモデルを用いて予測される造形物Wの造形品質が基準品質を満たす場合に、評価部224が造形姿勢データを決定し且つサポート部材Sを決定する。
【0071】
第二例においては、学習用データ入力部211は、図10Aに示すように、説明変数ととして、3Dモデルデータ、造形条件データ及び造形姿勢データに加えて、サポート種類データを取得する。サポート種類データは、上述したような複数種類のサポート部材Sの各々を識別するためのデータである。そして、学習済みモデル生成部214は、サポート種類データを含む訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより、学習済みモデルを生成する。
【0072】
続いて、品質予測装置220においては、造形時データ取得部222が図10Bに示すように、入力データとして、新たに造形(製造)する造形物Wに関する造形時データとして3Dモデルデータ及び造形条件データを取得すると共に、造形姿勢データ及びサポート種類データをパラメータとして取得する。ここで、サポート種類データは、複数種類のサポート部材Sの各々を識別するパラメータ(変数)となる。尚、造形姿勢データは、上述した第一例と同様である。そして、品質予測部223は、3Dモデルデータ、造形条件データ、造形姿勢データ及びサポート種類データと、学習済みモデル記憶部221に記憶された学習済みモデルと、を用い、出力データとして新たに造形(製造)する造形物Wの造形品質を予測する。
【0073】
このとき、品質予測部223は、パラメータである造形姿勢データを上述の第一例と同様に変化させると共に、サポート種類データを順次変化させ、各々の場合について造形物Wの造形品質を予測する。そして、品質予測部223は、造形姿勢データ及びサポート種類データと紐付けされた予測結果を評価部224に出力する。
【0074】
評価部224は、品質予測部223から出力される複数の予測結果と基準品質とを比較することにより、各々の予測結果について基準を満たしているか否かを評価する。評価部224は、評価を行った予測結果のうち、新たに造形(製造)する造形物Wの形状誤差が小さく且つ割れを生じないことが予測される予測結果の時の造形姿勢データと、サポート種類データ、即ち、複数種類のサポート部材Sのうちの何れかと、を決定する。そして、評価部224は、決定した造形姿勢データ及びサポート種類データを出力部225に出力する。
【0075】
出力部225は、評価部224によって決定された造形姿勢データ及びサポート種類データを3D造形モデル生成装置2に出力する。3D造形モデル生成装置2は、取得した造形姿勢データ及びサポート種類データを反映することにより、新たに造形(製造)する造形物Wの3Dモデルデータを生成する。即ち、3D造形モデル生成装置2は、取得した造形姿勢データに従って3DモデルをX軸回り、Y軸回り及びZ軸回りの何れかの軸回りに回転させる。そして、3D造形モデル生成装置2は、回転させた3Dモデルを最適に支持するサポート部材S、即ち、評価部224によって決定されたサポート部材Sを含んでおり、付加製造装置1によって新たに造形(製造)するための造形物Wの3Dモデルデータを生成する。
【0076】
3D造形モデル生成装置2によって最終的な3Dモデルデータが生成されると、上述したように、付加製造装置1は生成された3Dモデルデータを含む造形時データに従って新たな造形物Wを造形(製造)する。このとき、付加製造装置1は、造形物Wと共に決定されたサポート部材Sを造形(製造)する。そして、造形(製造)された造形物Wは、検査装置3によって検査される。
【0077】
ここで、この第二例においては、図7に示すように、付加製造装置1が新たな造形物Wを造形(製造)したときの造形時データ、即ち、造形姿勢データ及びサポート種類データを含む造形時データ及び造形品質データは、互いに紐付けされてデータベース230に更新可能に記憶されて蓄積される。これにより、例えば、訓練データセット取得部212が学習用データ入力部211を介してデータベース230から造形時データ(造形姿勢データ及びサポート種類データ)と造形品質データとを取得し、学習済みモデル生成部214がこれらのデータを訓練データセットとして機械学習を行うことができる。従って、第二例においては、学習済みモデル生成部214は、特にサポート部材Sを用いた場合の精度の高い学習済みモデルを生成することができる。
【0078】
(8-3.第三例)
上述した第一例においては造形物W(3Dモデル)の造形姿勢を決定し、上述した第二例において造形物W(3Dモデル)の造形姿勢を決定すると共にサポート部材Sを決定するようにした。第三例においては、図11A及び図11Bに示すように第一段階として造形物Wの造形姿勢を決定し、その後、図11C及び図11Dに示すように第二段階として造形姿勢に応じたサポート部材Sを決定する。
【0079】
即ち、第三例の学習済みモデル生成部214は、上記第一例と同様に、第一段階として、図11Aに示すように、説明変数としての3Dモデルデータ、造形条件データ及び造形姿勢データを含む造形時データと、目的変数としての造形品質データと、を用いた機械学習を行い、学習済みモデルを生成する。そして、第三例の品質予測部223は、上記第一例と同様に、第一段階として、図11Bに示すように、入力データである3Dモデルデータ、造形条件データ及び造形姿勢データ(パラメータ)と、学習済みモデル記憶部221に記憶された学習済みモデルと、を用い、出力データとして、新たに造形(製造)する造形物Wの造形品質を予測する。これにより、評価部224は、基準品質を満たす造形姿勢に対応する造形姿勢データを決定する。尚、以下において、評価部224が決定した造形姿勢データを「決定済み造形姿勢データ」と称呼する。
【0080】
続いて、第三例の学習済みモデル生成部214は、上記第二例と同様に、第二段階として、図11Cに示すように、説明変数としての3Dモデルデータ、造形条件データ、決定済み造形姿勢データ及びサポート種類データを含む造形時データと、目的変数としての造形品質データと、を用いた機械学習を行い、学習済みモデルを生成する。そして、第三例の品質予測部223は、上記第二例と同様に、第二段階として、図11Dに示すように、入力データである3Dモデルデータ、造形条件データ、決定済み造形姿勢データ及びサポート種類データ(パラメータ)と、学習済みモデル記憶部221に記憶された学習済みモデルと、を用い、出力データとして、新たに造形(製造)する造形物Wの造形品質を予測する。これにより、評価部224は、最終的に、造形姿勢及びサポート部材Sを決定する。
【0081】
(9.効果)
品質予測システム100によれば、機械学習装置110が造形姿勢データ(又は/及びサポート種類データ)を含む造形時データ及び造形品質データを訓練データセットとする機械学習を行うことにより学習済みモデルを生成することができる。ここで、生成された学習モデルは、付加製造中における造形物Wの造形姿勢(又は/及びサポート部材S)と造形物Wの造形品質との関係を定義するモデルとなる。そして、品質予測システム100は、生成された学習済みモデルと、新たに造形物Wを製造する際の造形時データとに基づいて造形物Wの造形品質を予測することができる。この場合、品質予測システム100は、造形時データに含まれる造形姿勢データ(又は/及びサポート種類データ)をパラメータとして変化させることにより、造形姿勢(又は/及びサポート部材S)に応じた造形物Wの複数の造形品質を予測することができる。
【0082】
これにより、基準品質を満たす造形物Wを製造する際の造形姿勢を短時間により且つ極めて容易に設定することができる。又、学習済みモデルを用いて造形姿勢を設定することにより、例えば、作業者の経験等に基づくことなく客観的に造形姿勢を設定することができる。更に、基準品質を満たす造形物Wを製造する際に必要なサポート部材Sを短時間により且つ極めて容易に設定することができる。
【0083】
(10.その他)
上記説明においては、材料粉末を金属粉末Pとした。しかし、材料粉末としては、例えば、樹脂材料を用いても良い。樹脂材料を用いる場合、付加製造として、上記説明のような粉末床溶融結合方式の付加製造装置を用いて造形物を製造することに代えて、例えば、溶剤に溶解した樹脂材料を噴出させて造形物を造形(製造)するインクジェット方式を用いることもできる。
【符号の説明】
【0084】
1…付加製造装置、2…3D造形モデル生成装置、3…検査装置、10…チャンバ、20…造形物支持装置、21…造形用容器、22…昇降テーブル、23…ベース、30…粉末供給装置、31…粉末収納容器、32…供給テーブル、33…リコータ、40…光ビーム照射装置、100…品質予測システム、110…機械学習装置、111…第一サーバ、112…第二サーバ、210…学習処理装置、211…学習用データ入力部、212…訓練データセット取得部、213…訓練データセット記憶部、214…学習済みモデル生成部、220…品質予測装置、221…学習済みモデル記憶部、222…造形時データ取得部、223…品質予測部、224…評価部、225…出力部、230…データベース、P…金属粉末、S…サポート部材、W…造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D