(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20231219BHJP
H01G 9/055 20060101ALI20231219BHJP
H01G 9/008 20060101ALI20231219BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20231219BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20231219BHJP
H01G 11/32 20130101ALI20231219BHJP
H01G 9/042 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01G9/00 290D
H01G9/055 103
H01G9/008 303
H01G13/00 307A
H01G9/048 G
H01G11/32
H01G9/042 500
(21)【出願番号】P 2019228345
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】福島 航太
(72)【発明者】
【氏名】田邉 圭祐
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-223197(JP,A)
【文献】特開2003-096599(JP,A)
【文献】特開2006-228514(JP,A)
【文献】特開平04-061109(JP,A)
【文献】永田伊佐也,電解液陰極アルミニウム電解コンデンサ,第2版第1刷,日本,日本蓄電器工業株式会社,1997年09月24日,p.169-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/055
H01G 9/008
H01G 13/00
H01G 9/048
H01G 11/32
H01G 9/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引出端子、当該引出端子が接続された電極体、及び当該電極体の間に介在する電解質を備える電解コンデンサの製造方法であって、
炭素材が含有するカーボン層をアルミニウム箔上に形成してプレスする積層工程と、
前記アルミニウム箔及び前記カーボン層により成り、前記積層工程を経た前記電極体を焼き鈍しする焼鈍工程と、
加圧工程を含み、前記焼鈍工程を経た前記電極体と前記引出端子を接続する接続工程と、
を有すること、
を特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記積層工程では、加工硬化してある前記アルミニウム箔に前記カーボン層を形成すること、
を特徴とする請求項1記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記焼鈍工程では、前記アルミニウム箔を貫通割れが生じるまで押圧したとき、前記アルミニウム箔に貫通割れが生じたときの窪みの深さに対する押圧力の比が6.5以上15N/mm以下となるまで、前記電極体を焼き鈍しすること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記焼鈍工程では、前記電極体を250℃以上で熱処理すること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム箔は拡面領域を有し、
前記積層工程では、前記プレスにより前記拡面領域に前記カーボン層に含有された炭素材を入り込ませること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記積層工程では、前記加圧工程により前記引出端子と前記電極体の少なくとも一部を金属結合させること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記電極体は、前記アルミニウム箔の表面に酸化皮膜を有し、当該酸化皮膜が未形成の金属素地を残し、
前記積層工程では、前記カーボン層を前記酸化皮膜上に形成し、
前記接続工程では、前記加圧工程により前記酸化皮膜に割れ目を形成し、当該割れ目を通じて前記引出端子と前記金属素地とを接触させること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記接続工程では、前記加圧工程により、前記引出端子と接触する前記酸化皮膜を押し潰すこと、
を特徴とする請求項7記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記電極体は、前記アルミニウム箔の表面に拡面層を形成し、前記拡面層の表層に前記酸化皮膜を形成し、
前記接続工程では、前記加圧工程により、前記割れ目を通じて、前記拡面層のうちの前記酸化皮膜が未形成の領域と前記引出端子とを接触させること、
を特徴とする7又は8記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記接続工程では、前記加圧工程により、前記カーボン層を前記割れ目に押し込み、前記割れ目内の前記カーボン層を介して、前記引出端子と前記金属素地とを接触させること、
を特徴とする7乃至9の何れかに記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記接続工程では、前記電極体と前記引出端子とをステッチ接続すること、
を特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
前記接続工程では、前記電極体と前記引出端子とを冷間圧接すること、
を特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ及び電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、陽極及び陰極となる一対の電極体間に電解質を介在させて構成される。この電解コンデンサは、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う。電解質は、電解液であり、固体電解質であり、ゲル電解質であり、又は固体電解質若しくはゲル電解質と電解液が用いられる。
【0003】
電解コンデンサは陽極側と陰極側に容量が発現する直列コンデンサと見做すことができる。従って、陽極側容量を効率良く活用するには陰極側容量も非常に重要である。陰極箔もエッチング処理により表面積を増大させているが、陰極箔の厚みの観点から陰極箔の拡面化にも限界がある。
【0004】
そこで、窒化チタン等の金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサが提案されている(特許文献1参照)。窒素ガス環境下で、イオンプレーティング法の一種である真空アーク蒸着法によってチタンを蒸発させ、陰極箔の表面に窒化チタンを堆積させる。金属窒化物は不活性であり、自然酸化皮膜が形成され難い。また蒸着皮膜は微細な凹凸が形成されて陰極の表面積が拡大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属窒化物の蒸着プロセスは複雑であり、電解コンデンサのコスト高を招く。そこで、発明者等は、陰極側のアルミニウム箔上にカーボン層を形成することを考えた。この電解コンデンサの陰極側容量は、分極性電極と電解質との境界面に形成される電気二重層の蓄電作用により発現する。電解質のカチオンがカーボン層との界面に整列し、カーボン層内の電子と極めて短い距離を隔てて対を成し、陰極に電位障壁が形成される。
【0007】
発明者らは、カーボン層とアルミニウム箔の定着性及び密着性のために、アルミニウム箔とカーボン層により成る電極体をプレスする必要があると考えた。ここで、電極体には、引出端子が電気的及び機械的に接続される。電解コンデンサは、引出端子を介して電気回路又は電子回路へ実装される。電極体と引出端子の接続方法としては例えばステッチ接続及び冷間圧接が知られている。ステッチ接続及び冷間圧接は、接続の際に加圧を伴う。即ち、電極体は、電解コンデンサの製造工程中、カーボン層とアルミニウム箔のプレス加工、及び電極体と引出端子の接続を含み、少なくとも2つの加圧工程を経ることになる。
【0008】
カーボン層とアルミニウム箔とをプレスする際、アルミニウム箔が柔らかいと、アルミニウム箔にシワが生じる虞がある。巻回型の電解コンデンサの場合、アルミニウム箔にシワが生じると、電極体を精度良く巻回し難くなる。そうすると、電解コンデンサの体積当たりに占めるアルミニウム箔の面積が減少し、電解コンデンサの容量が低下する。
【0009】
一方、電極体と引出端子とを接続する際、アルミニウム箔が硬いと、電極体や引出端子の部材間にクラックが生じる虞がある。ステッチ接続の場合、電極体にクラックが生じる虞がある。クラックが引出端子と電極体との接続箇所に及ぶと、電極体と引出端子の接続強度が低下する。冷間圧接の場合、押圧部材の投影領域とその周囲領域と周縁に沿ってクラックが生じる虞がある。引出端子と電極体とを引き剥がす力が加わった場合、クラックを基点に電極体と引出端子とが離れてしまい、接触抵抗が高くなってしまう。
【0010】
そこで、カーボン層とアルミニウム箔とのプレス加工の観点では、アルミニウム箔はHの調質記号で表される硬質材が好ましい。しかし、硬質なアルミニウム箔は、電極体と引出端子との接続に不具合を招来させ易くなる。一方、電極体と引出端子との接続の観点では、例えばOの調質記号で表される柔らかいアルミニウム箔が好ましい。しかし、柔らかいアルミニウム箔は、シワが生じ易く、電解コンデンサの容量を低下させてしまう。
【0011】
このように、一方の加圧工程で好適な硬さのアルミニウム箔は、他方の加圧工程では好適とはいえない。本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、アルミニウム箔にシワが生じ難く、且つ電極体と引出端子とが割れにくい電解コンデンサの製造方法及び電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明の電解コンデンサの製造方法は、引出端子、当該引出端子が接続された電極体、及び当該電極体の間に介在する電解質を備える電解コンデンサの製造方法であって、炭素材が含有するカーボン層をアルミニウム箔上に形成してプレスする積層工程と、前記アルミニウム箔及び前記カーボン層により成り、前記積層工程を経た前記電極体を焼き鈍しする焼鈍工程と、加圧工程を含み、前記焼鈍工程を経た前記電極体と前記引出端子を接続する接続工程と、を有すること、を特徴とする。
【0013】
前記積層工程では、加工硬化してある前記アルミニウム箔に前記カーボン層を形成するようにしてもよい。
【0014】
前記焼鈍工程では、前記アルミニウム箔を貫通割れが生じるまで押圧したとき、前記アルミニウム箔に貫通割れが生じたときの窪みの深さに対する押圧力の比が6.5以上15N/mm以下となるまで、前記電極体を焼き鈍しするようにしてもよい。
【0015】
前記焼鈍工程では、前記電極体を250℃以上で熱処理するようにしてもよい。
【0016】
前記アルミニウム箔は拡面領域を有し、前記積層工程では、前記プレスにより前記拡面領域に前記カーボン層に含有された炭素材を入り込ませるようにしてもよい。
【0017】
前記積層工程では、前記加圧工程により前記引出端子と前記電極体の少なくとも一部を金属結合させるようにしてもよい。
【0018】
前記電極体は、前記アルミニウム箔の表面に酸化皮膜を有し、当該酸化皮膜が未形成の金属素地を残し、前記積層工程では、前記カーボン層を前記酸化皮膜上に形成し、前記接続工程では、前記加圧工程により前記酸化皮膜に割れ目を形成し、当該割れ目を通じて前記引出端子と前記金属素地とを接触させるようにしてもよい。
【0019】
前記接続工程では、前記加圧工程により、前記引出端子と接触する前記酸化皮膜を押し潰すようにしてもよい。
【0020】
前記電極体は、前記アルミニウム箔の表面に拡面層を形成し、前記拡面層の表層に前記酸化皮膜を形成し、前記接続工程では、前記加圧工程により、前記割れ目を通じて、前記拡面層のうちの前記酸化皮膜が未形成の領域と前記引出端子とを接触させるようにしてもよい。
【0021】
前記接続工程では、前記加圧工程により、前記カーボン層を前記割れ目に押し込み、前記割れ目内の前記カーボン層を介して、前記引出端子と前記金属素地とを接触させるようにしてもよい。
【0022】
前記接続工程では、前記電極体と前記引出端子とをステッチ接続するようにしてもよい。
【0023】
前記接続工程では、前記電極体と前記引出端子とを冷間圧接するようにしてもよい。
【0024】
また、上記課題を解決すべく、本発明の電解コンデンサは、引出端子、当該引出端子が接続された電極体、及び当該電極体の間に介在する電解質を備える電解コンデンサであって、前記電極体は、拡面領域を有するアルミニウム箔と、炭素材を含み、プレス加工により前記拡面領域に当該炭素材が入り込むと共に、前記アルミニウム箔と圧接されたカーボン層と、を有し、前記プレス加工の後に焼鈍され、焼鈍後に前記引出端子と加圧接続されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、カーボン層とアルミニウム箔とをプレスする際にシワが発生せず、電極体と引出端子とを接続する際に割れが発生し難い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】電解コンデンサの電極体と引出端子の断面図である。
【
図2】電解コンデンサの電極体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】ステッチ接続を用いた接続工程を示す模式図であり、(a)は貫通孔の形成を示し、(b)はステッチ針の突き刺しを示し、(c)はプレスを示す。
【
図5】貫通孔の寸法とバリの穴内寸法の関係を示し、(a)は裏側面図、(b)はAA断面図、(c)はBB断面図である。
【
図6】冷間圧接を用いた接続工程を示す模式図である。
【
図7】ステッチ接続による電極体のクラックを示す模式図である。
【
図8】冷間圧接による電極体のクラックを示す模式図である。
【
図9】電極体と引出端子のステッチ接続構造の例を示す模式図である。
【
図10】電極体と引出端子の冷間圧接構造の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に係る電解コンデンサ及び製造方法について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0028】
(製造方法概略)
電解コンデンサは陽極側及び陰極側に電極体を有し、またこれら電極体の間には電解質が介在している。電解質は、電解液、導電性ポリマーなどの固体電解質層、ゲル電解質、又は固体電解質層とゲル電解質に対して電解液を併用したものが用いられている。この電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜層が形成された電極を陽極側に備え、電気二重層容量を有する分極性電極を陰極側に備える。
図1に示すように、分極性電極となる陰極側の電極体1は、アルミニウム箔2にカーボン層3が積層されて成る。
【0029】
この電極体1には引出端子4が接続されている。電解コンデンサは、引出端子4を介して外部の電子回路又は電気回路に実装される。引出端子4は、アルミニウム線4aと金属線4bとから構成されており、アルミニウム線4aと金属線4bとはアーク溶接等で接続されている。アルミニウム線4aは、略円柱形状の丸棒部43と、この丸棒部43がプレス加工等されて形成された平板部41とを備えており、丸棒部43の平板部41側には、平板部41の厚みまで直線的に厚みが減少する傾斜部44が形成されている。電極体1には、平板部41を介して接続され、金属線4bが電解コンデンサの外部へ引き出されている。これに限らず、引出端子4は、平板部41を備えていればよく、全体がタブ形状であってもよい。
【0030】
即ち、この電解コンデンサの製造方法は、電極体1を作製する工程と、電極体1と引出端子4とを接続する工程とを含んでいる。
図2に示すように、電極体1は、アルミニウム箔2の一面又は両面にカーボン層3を積層する積層工程を経て作製される(ステップS01)。また、電極体1は、引出端子4が接続される接続工程を経る(ステップS03)。積層工程及び接続工程の両方にプレス工程が含まれる。そして、この製造方法では、アルミニウム箔2とカーボン層3との積層工程(ステップS01)と電極体1と引出端子4との接続工程(ステップS03)との間に、電極体1を焼き鈍しする焼鈍工程を追加している(ステップS02)。
【0031】
(積層工程)
カーボン層3は、加工硬化したアルミニウム箔2に積層される。例えば、このアルミニウム箔2は、JIS規格H0001で規定される調質記号の基本記号がHである硬質材が用いられる。Hで始まる調質記号で表されるアルミニウム箔2は、ステップS01の積層工程中のプレスによっても、シワが生じない。
【0032】
このアルミニウム箔2は、表面が拡面化されていることが望ましい。拡面化は、電解エッチング、ケミカルエッチング若しくはサンドブラスト等を用いた処理であり、又はアルミニウム箔2に対する金属粒子等の蒸着若しくは焼結の処理である。電解エッチングとしては交流エッチングが挙げられる。交流エッチング処理では、例えば塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液に陰極箔を漬けて、交流電流を流す。また、ケミカルエッチングでは、金属箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させる。即ち、アルミニウム箔2の拡面領域は、海綿状のエッチングピットを有し、又は密集した粉体間の空隙により成る多孔質構造を有する。尚、エッチングピットは、直流エッチングにより形成されるトンネル状のピットであっても、トンネル状のピットが陰極箔を貫通するように形成されていてもよい。
【0033】
拡面領域には、酸化皮膜が意図的又は自然に形成されていてもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成され、化成皮膜は、アジピン酸やホウ酸等の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理によって意図的に形成される酸化皮膜である。この手法による酸化皮膜は、アルミニウム箔2の拡面領域が酸化して成る酸化アルミニウムである。
【0034】
電極体1が備えるカーボン層3は炭素材を主材として含有する。炭素材としては、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック(以下、KB)、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素などを挙げることができる。また、炭素材としては、カーボンナノチューブ(以下、CNT)、カーボンナノファイバ(以下、CNF)などの繊維状炭素を挙げることができる。
【0035】
カーボン層3に含有する炭素材は、球状炭素であるカーボンブラックが好ましい。アルミニウム箔2の表面に形成した拡面領域がエッチングピットを有する場合、エッチングピットの開口径よりも小さな粒子径のカーボンブラックを用いることにより、エッチングピットのより深部に入り込みやすく、カーボン層3はアルミニウム箔2と密着する。
【0036】
また、カーボン層3に含有する炭素材は、鱗片状又は鱗状の黒鉛と球状炭素であるカーボンブラックの混合であってもよい。鱗片状又は鱗状の黒鉛は、短径と長径とのアスペクト比が1:5~1:100の範囲であることが好ましい。球状炭素であるカーボンブラックは、好ましくは一次粒子径が平均100nm以下である。この組み合わせの炭素材を含有するカーボン層3をアルミニウム箔2に積層した場合、カーボンブラックは、黒鉛によって拡面層の細孔に擦り込まれ易い。黒鉛は、拡面領域の凹凸面に沿って変形し易く、凹凸面上に積み重なり易い。そして、黒鉛は、押圧蓋になって細孔に擦り込まれた球状炭素を押し留める。そのため、カーボン層3とアルミニウム箔2との密着性及び定着性がより高まる。
【0037】
カーボン層3は、スラリー状にしてアルミニウム箔2に塗工し、乾燥することで、アルミニウム箔2上に積層される。スラリーを乾燥させた後、カーボン層3とアルミニウム箔2をプレス加工にて圧接する。または、これらカーボン層3は、シート状に成型してアルミニウム箔2に載置することで、アルミニウム箔2上に積層される。シートを載置した後、シート状のカーボン層3とアルミニウム箔2をプレス加工にて圧接する。
【0038】
スラリーは、カーボン層3に含有させる炭素材を分散溶媒中に分散させ、必要に応じてバインダーを加えて作製する。作製されたスラリーは、スラリーキャスト法、ドクターブレード法又はスプレー噴霧法等によってアルミニウム箔2に塗布される。アルミニウム箔2にスラリーを塗布した後は、乾燥により溶媒を揮発させる。抄紙成型シートは、カーボン層3に含有させる炭素材を分散溶媒中で分散させ、必要に応じてバインダーを加えた後、減圧濾過及び乾燥の後、堆積物を濾紙から剥離して作製される。作製された抄紙成型シートは、プレス圧力で圧延した後にアルミニウム箔2に圧着させる。
【0039】
スラリー及び抄紙成型シートの作製において、分散溶液は、メタノール、エタノールや2-プロパノールなどのアルコール、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)やN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド系溶媒、水及びこれらの混合物などである。分散方法としては、ミキサー、ジェットミキシング(噴流衝合)、または、超遠心処理、その他超音波処理などを使用する。バインダーとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素系、ポリイミド系及びポリビニルアルコール等が挙げられる。抄紙成型シートの濾紙は、ガラス繊維の不織布、有機系不織布(ポリテトラフルオロエチレンやポリエチレンなど)、または、金属製繊維の不織布などを使用する。
【0040】
図3に示すように、カーボン層3とアルミニウム箔2は、カーボン層3が積層された後、プレス加工される。例えばプレス加工では、カーボン層3とアルミニウム箔2とにより成る電極体1をプレスローラ100で挟んで、プレス線圧を加える。プレス圧力は0.01~100t/cm
2程度が望ましい。プレス加工によりカーボン層3とアルミニウム箔2との密着性が向上し、カーボン層3の定着性、及びカーボン層3とアルミニウム箔2との界面抵抗が低下する。
【0041】
アルミニウム箔2は、調質記号の基本記号がHの硬質材であるので、このプレス線圧によってもシワが生じにくい。そのため、高いプレス線圧によってカーボン層3とアルミニウム箔2との密着性をより確実にすることができる。特に、拡面化領域が形成されている場合、拡面領域にカーボン層3を押し込むことができる。従って、拡面領域がアルミニウム箔2の深部域に達し、また拡面領域が複雑化していても、アルミニウム箔2とカーボン層3とを隙間無く密着させることができる。
【0042】
尚、カーボン層3にバインダーが添加されている場合、バインダーの軟化温度以上の熱を加えたプレスローラ100を用いてもよい。このようにすることで、カーボン層3の流動性が高まり、炭素材が拡面領域に更に入り込みやすくなる。但し、バインダーが添加量の10wt%以上減少すると、炭素材の密着性が低下する。そのため、バインダーがスチレンブタジエンゴム又はフッ素系である場合、加熱温度は350℃以下とすることが好ましく、バインダーの減少量は10wt%以下に収まる。また、バインダーがポリイミド系である場合、加熱温度は500℃以下とすることが好ましく、バインダーの減少量は10wt%以下に収まる。
【0043】
(焼鈍工程)
加工硬化したアルミニウム箔2にカーボン層3を形成してプレスした後、加圧を伴う接続工程のために、まずは電極体1を焼鈍工程に移す。この焼鈍工程は、加工硬化したアルミニウム箔2を軟化させる。この焼鈍工程では、250℃以上500℃以下の温度環境下に電極体1を晒す。好ましくは、焼鈍工程では、250℃以上350℃以下の温度環境下に電極体1を晒す。
【0044】
加熱温度が250℃以上であると、加工硬化したアルミニウム箔2は、JIS規格H0001で規定される調質記号がOのアルミニウム箔2と同等以上に軟化する。250℃未満では、接続工程でステッチ接続を選択したとき、引出端子4とアルミニウム箔2の芯部とを面接触させる大きな押圧力を与え難い。加熱温度の最高温度が350℃を超えると、水素のブリスタが発生することによりアルミニウム箔の延伸性が著しく低下する可能性が高くなる。但し、加熱雰囲気下を露点温度が5℃以下の低湿度環境とすることで、加熱温度が350℃以上においても、アルミニウム箔2の脆弱性を抑制できる。
【0045】
加熱時間に特に限定はない。例えば加熱時間が30分以上であれば、Oの調質記号で表されるアルミニウム箔2と同等以上に軟化させることができる。加熱雰囲気に特に限定はなく、大気雰囲気又は不活性雰囲気とすることができる。好ましくは、不活性雰囲気下で電極体1を加熱する。不活性雰囲気下であれば、アルミニウム箔2とカーボン層3の酸化を制御する必要がない。不活性雰囲気は、反応性ガスが低量であり、不活性ガス又は中性ガスで満たされた雰囲気である。反応性ガスは、酸素、水蒸気又は炭素ガス等である。不活性ガスは、アルゴンやヘリウム等である。中性ガスは、窒素やアンモニア等である。
【0046】
焼鈍工程では、電極体1が有するアルミニウム箔2の硬さの値を6.5以上15N/mm以下に軟化させることが好ましい。アルミニウム箔2の硬さの値は、アルミニウム箔2を貫通割れが生じるまで押圧したとき、アルミニウム箔2に貫通割れが生じたときの窪みの深さに対する押圧力の比である。6.5N/mm未満の場合、軟化し過ぎることによって、製造工程において電極体1が延伸したり、しわが生じるおそれがある。一方、15N/mmを超えると、硬いことによって引出端子4と電極体1との接続強度が低下する。
【0047】
この硬さの値は、JIS規格Z2247又はISO20482:2003で規定される測定方法に準拠して求める。即ち、10以上35℃以下の試験温度で、直径27mmの孔が形成されたしわ押さえと直径33mmの孔が形成されたダイスとを孔が重なるように載置し、この間にアルミニウム箔2を10kNの締め付け荷重で締め付け、このアルミニウム箔2に対して球状のパンチを押し込む。た球状のパンチは直径20mmの球面を有する。パンチの押し込み速度は、5以上10mm/min以下とする。アルミニウム箔2に貫通割れが生じるまで窪みを形成する。そして、窪みの深さと、貫通割れが生じたときの押圧力を取得し、硬さの値を求める。
【0048】
(接続工程)
図4及び
図5に示すように、焼鈍工程でアルミニウム箔2を軟化させた後、引出端子4と電極体1との接続工程に移る。引出端子4と電極体1との接続工程では、ステッチ接続又は冷間圧接といった加圧を伴う接続方法が用いられる。両接続方法は、共に、平板部41を電極体1に重ねて加圧することにより、電極体1と接続される。
【0049】
図4の(a)に示すように、ステッチ接続では、まず、電極体1に貫通孔11を予め貫設する。例えば、抜き穴を有するダイスに電極体1を載置し、穴あけ部材を貫通させる。貫通孔11は例えば角孔である。貫通孔11を貫設した後に、引出端子4の平板部41で貫通孔11を覆うように、平板部41を電極体1に重ねる。
【0050】
図4の(b)に示すように、先端に向かって四角錐形状を有するステッチ針200を貫通孔11と同軸配置し、引出端子4の平板部41の真上から軸に沿って降下させ、引出端子4の平板部41を突き破る。平板部41のうち、貫通孔11を覆っていた領域は、ステッチ針200によって貫通孔11へ押し込まれて引き伸ばされつつ、破断点を迎えて突き破られる。そのため、引出端子4の平板部41には、ステッチ針200の抜け側にバリ42が生じる。このバリ42は、貫通孔11を通って電極体1の裏側面へ突き出る。
【0051】
ここで、
図5に示すように、予め形成される貫通孔11の寸法をHとし、貫通孔11の幅に対して直交する方向から見た引出端子4のバリ42の孔内寸法をXとする。孔内寸法Xは、貫通孔11内の位置を計測したバリ42が及ぶ範囲である。バリ42が及ぶ範囲は、貫通孔11の中心を挟んでバリ42の一方の端から他方の端までの長さである。このとき、貫通孔11とバリ42との関係がH>Xとなるように、バリ42を形成する。この手法を、予め貫通孔11を形成する点も含め「穴あけ(貫通孔>バリ)ステッチ接続」と呼ぶ。「穴あけ(貫通孔>バリ)ステッチ接続」は、引出端子4の平板部41の厚みと延伸性も考慮して、貫通孔11よりも細いステッチ針200を用いる。
【0052】
「穴あけ(貫通孔>バリ)ステッチ接続」では、予め形成される貫通孔11の内周面と引出端子4のバリ42の外周面とが全周囲に亘って非接触となる。そうすると、電極体1の貫通孔11の周囲領域は、ステッチ針200によってステッチ針200の抜け側に表出しない。従って、電極体1は切り起こされず、電極体1の貫通孔11の周囲領域は平坦さを保ち、電極体1の裏面側には引出端子4のバリ42のみが立つ。
【0053】
図4に戻り、
図4の(c)に示すように、電極体1の裏側から金型を押し当ててプレスする。典型的には、プレス加工では、プレス上型を引出端子4の平板部41に当接させる。そして、プレス下型を電極体1の裏側に接近させる。このとき、「穴あけ(貫通孔>バリ)ステッチ接続」では、電極体1の裏面側に表出した引出端子4のバリ42がプレス加工により折り返され、電極体1の裏面に引出端子4のバリ42が押し付けられる。そして、引出端子4の平板部41とバリ42で一重の電極体1を挟持する。
【0054】
また、ステッチ接続では、貫通孔11よりも太いステッチ針200を用いるようにしてもよい。貫通孔11よりも太いステッチ針200を用いる手法を「穴あけ(貫通孔<バリ)ステッチ接続」と呼ぶ。このステッチ接続では、予め形成される貫通孔11とバリ42との関係がH<Xとなる。従って、電極体1の貫通孔11の周囲領域が、ステッチ針200によって電極体1の裏側に表出し、電極体1は貫通孔11を中心に切り起こされる。そうすると、電極体1の裏面側に、引出端子4のバリ42と電極体1の切り起こし部(不図示)が立つ。
【0055】
更に、電極体1に貫通孔11を形成することなく、ステッチ針200で電極体1と引出端子4の平板部41とをまとめて突き破るようにしてもよい。貫通孔11を予め形成しないステッチ接続を「穴なしステッチ接続」と呼ぶ。貫通孔11が未形成の状態で平板部41と電極体1とを重ね合わせてステッチ針200で突き破る。そうすると、引出端子4の平板部41から生じたバリ42と電極体1の切り起こし部とが電極体1の裏面側に立つ。
【0056】
「穴あけ(貫通孔<バリ)ステッチ接続」及び「穴なしステッチ接続」では、電極体1の裏側に表出した引出端子4のバリ42と電極体1の切り起こし部がプレス加工により折り返される。このプレス加工では、二重になった電極体1にバリ42が押し付けられ、引出端子4の平板部41とバリ42とで二重になった電極体1を挟持する。
【0057】
アルミニウム箔2は焼鈍工程により軟化している。そのため、何れのステッチ接続方法であっても、アルミニウム箔2は、プレスによって適度に延伸して引出端子4のバリ42と密着し、接続強度が向上する。
【0058】
次に、
図6に示すように、冷間圧接は、非加熱状態で電極体1と引出端子4の平板部41とを押圧体300で積層方向に加圧する。これにより、冷間圧接は、電極体1と引出端子4の平板部41を圧接する。
【0059】
冷間圧接では、引出端子4の平板部41を一平坦面及び両側面から拘束することで、一平坦面及び両側面を変形不能及び位置不動にする。そして、平板部41に電極体1を重ね合わせる。電極体1側から押圧部材300を降下させて、押圧部材300で電極体1と平板部41の積層体を押圧する。押圧部材300は、台形状の先端を有することが好ましく、押圧部材周囲に対するせん断応力を低減し、またアルミニウム箔2を流動変形させ易くなる。
【0060】
焼鈍工程を経たアルミニウム箔2は延伸性に富む。そのため、押圧部材300により引出端子4に凹部が形成される過程で、押圧部材300と引出端子4との間の電極体1は、引出端子4の凹部に追従してアルミニウム箔2が容易に流動変形する。そして、電極体1が引出端子4の凹部に沿って変形し、電極体1と引出端子4とが隙間なく密着する。
【0061】
(作用効果)
ここで、
図7に示すように、ステッチ接続においては、バリ42を中心として放射状に拡がる圧延力によって、アルミニウム箔2の縁は帯長手方向に流動変形する。そのため、アルミニウム箔2が焼鈍工程を経ていないと、乏しい延伸性により、アルミニウム箔2には、耳割れ状のクラック5が生じる。即ち、アルミニウム箔2の外縁から箔中央に向けて延びるクラック5が発生する。このクラック5がステッチ接続の箇所まで延びると、電極体1と引出端子4との十分な接続状態を確保できず、接続強度が低下する。
【0062】
また、
図8に示すように、冷間圧接において、焼鈍工程を経ていない場合、電極体1には、アルミニウム箔2の延伸性の乏しさにより、電極体1における押圧部材300の投影領域1aとその周囲領域1bとの境に、大きなせん断応力が生じる。押圧部材300の投影領域1aだけが引出端子4の平板部41の凹部に沈み込み、投影領域1aと周囲領域1bとの間にクラック5が生じる。従って、焼鈍工程を経ていない場合、電極体1は、引出端子4に形成された凹部の底面のみで密着し、しかも周囲にはクラック5が生じ、接触抵抗は増大し、接続強度は低下する。
【0063】
しかしながら、この電解コンデンサの製造方法では、アルミニウム箔2にカーボン層3を形成してプレスする積層工程と、電極体1と引出端子4を加圧により接続する接続工程との間で、電極体1を焼き鈍しする焼鈍工程を経るようにした。即ち、カーボン層3とアルミニウム箔2とをプレスする際は、加工硬化した硬質のアルミニウム箔2を用い、電極体1と引出端子4とを接続するための加圧の際は、焼鈍工程を経て柔らかくなったアルミニウム箔2を用いるようにした。
【0064】
これにより、積層工程ではアルミニウム箔2にシワが生じず、接続工程では電極体1や引出端子4といった接続部材間にクラック5が生じない。従って、積層工程で接続強度低下及び接触抵抗の増大を招来させることはなく、また接続工程で接続強度低下及び接触抵抗の増大を招来させることはない。
【0065】
焼鈍工程では、電極体1を250℃以上で熱処理するようにした。これにより、調質記号がOで示されるアルミニウム箔2と同等まで当該アルミニウム箔2を軟化させることができ、接続工程で電極体1と引出端子4とを良好に接続することができる。
【0066】
また、アルミニウム箔2は、拡面領域を有し、カーボン層3は炭素材が含有するカーボン層であり、積層工程内のプレスでは、アルミニウム箔2にシワを生じさせずに加圧力を上げ、拡面領域に炭素材を入り込ませるようにした。これにより、アルミニウム箔2とカーボン層3とが隙間無く密着し、アルミニウム箔2とカーボン層3の接続強度が更に向上し、接触抵抗が更に低下する。
【0067】
(実施形態の変形例)
この電解コンデンサでは、接続工程においてアルミニウム箔2にクラック5を生じさせ難い。従って、ステッチ接続又は冷間圧接を含む接続工程中の加圧力を調整し、
図9及び
図10に示すような電極体1と引出端子4との接続構造を作出してもよい。
【0068】
即ち、酸化皮膜で形成される酸化皮膜層23が追従できない程度に、アルミニウム箔2の金属素地24を延伸させる。金属素地24は、アルミニウム箔2のうち、酸化皮膜層23を除く領域、即ち未酸化により導電性を有し、また酸化皮膜23と比べて延伸性に富む領域をいう。酸化皮膜層23は、延伸性の低さ及び脆弱性により金属素地24の延伸に追従できず、引出端子4と電極体1との接触領域にシワ状に割れを生じさせる。酸化皮膜層23の割れ目からは金属素地24が露出する。電極体1に押し付けられた引出端子4は、酸化皮膜層23の割れ目を通じて、アルミニウム箔2の金属素地24と接触する。従って、電極体1と引出端子5との接触抵抗が低下する。
【0069】
拡面領域により形成されて拡面層25がアルミニウム箔2に形成されている場合、一部の割れ目からは、拡面層25のうちの酸化皮膜層23が未形成の領域が露出する。引出端子4は、この割れ目を通じて、拡面層25のうちの酸化皮膜層23が未形成の領域に接触する。また、アルミニウム箔2に拡面層25が形成されている場合であっても、一部の割れ目は、酸化皮膜層23が未形成の拡面層25をも割き、割れ目からは芯部22が露出する。芯部22は、アルミニウム箔2のうち、拡面層25を除いた残部である。引出端子4は、この割れ目を通じて、芯部22に接触する。
【0070】
また、電極体1と引出端子4とを押し付け合うことで、脆くなっている酸化皮膜層23を押し潰し、引出端子4と金属素地24とを近づけ、また割れ目を大きく開くこともできる。これにより、引出端子4と金属素地24との接触面積を大きくすることもできる。カーボン層3に含有する黒鉛が鱗片状又は薄片状であると、酸化皮膜層23を押し潰し易くなり、引出端子4と金属素地24との距離を更に近づけ、また割れ目が更に大きく開くことができる。
【0071】
更に、加圧力を上げ、引出端子4と金属素地24とが接触している箇所の少なくとも一部を金属結合させることもできる。金属結合によって、引出端子4と電極体1との接続強度を更に高めることができ、また引出端子4と電極体1の界面抵抗が下がり、接触抵抗が良好になる。
【0072】
また、接続工程時の加圧によって、酸化皮膜層23に形成された割れ目にカーボン層3を押し込み、割れ目内のカーボン層3を通じて引出端子4と金属素地24とを電気的に接続することもできる。この場合、カーボン層3には、球状炭素であるカーボンブラックを混合させておくことが好ましい。球状炭素であるカーボンブラックは、好ましくは一次粒子径が平均100nm以下である。カーボンブラックは、黒鉛によって酸化皮膜層23の割れ目に擦り込まれ易い。黒鉛は、拡面層25の凹凸面に沿って変形し易く、凹凸面上に積み重なり易い。そして、黒鉛は、押圧蓋になって割れ目に擦り込まれた球状炭素を押し留める。そのため、引出端子4と金属素地24との電気的接続をより確実なものとする。
【0073】
尚、
図9に示すように、ステッチ接続においては、プレス加工によって、バリ42が電極体1を平板部41に向けて押圧し、電極体1は引出端子4の平板部41と圧接する。平板部41と圧接して行き場を失った電極体1はバリ42とも圧接する。従って、引出端子4は、平板部41が割れ目を通じて金属素地24と接触し、またはこれに加えてバリ42が割れ目を通じて金属素地24と接触することで、電極体1と電気的に接続される。
【0074】
また、
図10に示すように、冷間圧接において、電極体1は、引出端子4の凹部の底面及び側面から圧迫され、引出端子4の底面に面する箇所、及び引出端子4の側面に面する箇所に割れ目が発生する。平板部41が、これら割れ目を通じて金属素地24と接触することで、電極体1と電気的に接続される。
【0075】
(実施例)
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
次の通り、実施例1の試料を作製した。試料は、ステッチ接続された引出端子4及び電極体1であり、カーボン層3を備える電極体1を陰極側に備える電解コンデンサを想定している。
【0077】
実施例1の試料では、加工硬化されて調質記号の基本記号がHで示されるアルミニウム箔2が用いられた。このアルミニウム箔2は、30μmの箔厚を有し、エッチング処理が施されて表面積が22倍に拡面された。その結果、このアルミニウム箔2は、拡面領域の深さは片面につき5.5μmで、両面合計11μmとなり、芯部が19μmの厚さとなった。拡面領域の深さは、アルミニウム箔2の表面からエッチングピット最深部までの深さの平均である。芯部の厚みは、エッチングピットが届いていない層の厚みの平均である。更に、このアルミニウム箔2は、化成処理が施され、拡面領域に酸化皮膜が形成された。化成処理では、リン酸二水素アンモニウムの水溶液内で電圧を印加した。その結果、酸化皮膜の公称化成電圧は1.2Vfsであった。
【0078】
実施例1では、黒鉛とカーボンブラックを含有するカーボン層3が積層された。黒鉛とカーボンブラックとの比率は75:25とした。具体的には、黒鉛とカーボンブラックとを質量比で75:25の割合で、アンモニアにてpH8に調整された75ミリリットルの純水に加え、攪拌機により分散させた。炭素材を添加する際には、バインダーとしてスチレンブタジエンゴムも同時に加えた。この結果得られるスラリーをアルミニウム箔2に塗布し、100℃で乾燥させた。
【0079】
積層工程でのプレス加工のおいては、カーボン層3が塗布されたアルミニウム箔2に対してプレス線圧を加えた。プレス線圧は5.38kNcm-1であった。プレス線圧は、有限会社タクミ技研製のプレス機を用いて加えられた。プレスローラーの径は直径180mmであり、プレス処理幅は130mmであり、アルミニウム箔2を3m/minで1回搬送した。
【0080】
積層工程のプレス加工が終了した後、実施例1の電極体1の焼鈍工程に移った。実施例1に対する焼鈍工程では、電極体1を300℃及び大気雰囲気中に2時間晒した。この焼鈍工程を経てからJIS規格Z2247で規定される測定方法を用い、実施例1の電極体1の硬さを測定したところ、実施例1の電極体1の硬さは、6.8N/mmであった。尚、調質記号の基本記号Hのアルミニウム箔及び調質記号Oのアルミニウム箔の硬さについても測定したところ、それぞれ12N/mm及び18N/mmであった。
【0081】
焼鈍工程を終えた後、実施例1の電極体1と引出端子4との接続工程に移った。引出端子4は、アルミニウム線4aと金属線4bとから構成されており、アルミニウム線4aの丸棒部43がプレス加工等されて平板部41が形成されている。
【0082】
実施例1の接続工程では、「穴なしステッチ接続」を行った。即ち、貫通孔11を貫設せずに、電極体1と引出端子4の平板部41を貫くようにステッチ針200を刺し通した。そして、垂直プレスをかけることで、二重になった電極体1に引出端子4のバリ42を押し付け、二重になった電極体1が引出端子4の平板部41とバリ42とで挟持された。垂直プレスの圧力は、120Nであった。
【0083】
この実施例1の試料に対応させて、焼鈍工程の有無のみが異なる比較例1の試料を作製した。比較例1では、加工硬化されて調質記号の基本記号がHで示されるアルミニウム箔2が用いられた。この比較例1では、同じ条件で拡面領域及び酸化皮膜が形成され、同じ条件でプレスを含む積層工程と「穴なしステッチ接続」の接続工程が実行された。但し、比較例1では、積層工程と接続工程の間の焼鈍工程が省かれた。従って、接続工程時、比較例1のアルミニウム箔2は、加工硬化した調質記号の基本記号がHで表される硬質材のままであった。
【0084】
積層工程時のアルミニウム箔2は加工硬質された硬質材であるので、実施例1と比較例1の試料が備えるアルミニウム箔2にシワが生じることはなかった。次に実施例1と比較例1の試料を目視観察し、電極体1の割れ状態を調べた。実施例1及び比較例1の試料を各々10個用意し、クラック5の無い試料の数、クラック5は発生しているが、ステッチ接続の箇所に達してはいない試料の数、及びクラック5がステッチ接続の箇所まで達している試料の数をカウントした。
【0085】
カウント結果を下表1に示す。下表1において項目Aは、クラック5の無い試料の数であり、項目Bは、クラック5は発生しているが、ステッチ接続の箇所に達してはいない試料の数であり、項目Cは、クラック5がステッチ接続の箇所まで達している試料の数である。
(表1)
【0086】
表1に示すように、クラック5がステッチ接続の箇所まで達している実施例1の試料は一つもなかった。一方、比較例1においては、10個中9個の試料に、ステッチ接続の箇所まで達するクラック5が生じていた。このように、加工硬化したアルミニウム箔2を用い、接続工程の前に焼鈍工程を追加すると、積層工程のプレスでアルミニウム箔2にシワが生じず、且つ接続工程のプレスで電極体1に深刻なクラック5が生じないことが確認された。
【0087】
(実施例2及び3)
実施例2の試料を作製した。実施例2の試料は、加工硬化されたアルミニウム箔2を用いて積層工程を行い、焼鈍工程を経て接続工程に進む点、積層工程及び接続工程にプレス加工が含まれる点において、実施例1と共通する。実施例2の試料は、実施例1と比べてステッチ接続の種類のみが異なっている。実施例2の試料は、「穴あけ(貫通孔>バリ)ステッチ接続」により接続工程が実行された。
【0088】
実施例2では、電極体1に貫通孔11を予め貫設しておき、引出端子4の平板部41を貫いて貫通孔11を通るようにステッチ針200を刺し通した。引出端子4のバリ42のみが電極体1の裏面側に立ち上がった。垂直プレスをかけ、引出端子4のバリ42を折り返した。これにより、引出端子4のバリ42が一重のままの電極体1に押し付けられた。
【0089】
この実施例2の試料に対応させて、実施例2とは焼鈍工程が省かれた点のみが異なる比較例2の試料も作製した。
【0090】
また、実施例3の試料を作製した。実施例3の試料は、加工硬化されたアルミニウム箔2を用いて積層工程を行い、焼鈍工程を経て接続工程に進む点、積層工程及び接続工程にプレス加工が含まれる点、及びステッチ接続の種類において、実施例1と共通する。実施例3の試料は、アルミニウム箔2に積層されるカーボン層3が実施例1と異なる。
【0091】
実施例3の試料では、炭素材としてカーボンブラックのみを含有するカーボン層がアルミニウム箔2に積層された。具体的には、アンモニアにてpH8に調整された75ミリリットルの純水にカーボンブラックを加え、攪拌機により分散させた。炭素材を添加する際には、バインダーとしてスチレンブタジエンゴムも同時に加えた。この結果得られるスラリーをアルミニウム箔2に塗布し、100℃で乾燥させた。その後のプレス加工の条件は実施例1と同じである。
【0092】
この実施例3の試料に対応させて、実施例3とは焼鈍工程が省かれた点のみが異なる比較例3の試料も作製した。
【0093】
積層工程時のアルミニウム箔2は加工硬質された硬質材であるので、実施例2及び3並びに比較例2及び3の試料が備えるアルミニウム箔2にシワが生じることはなかった。次に実施例2及び3並びに比較例2及び3の試料を目視観察し、電極体の割れ状態を調べた。各試料を10個ずつ用意し、クラック5の無い試料の数、クラック5は発生しているが、ステッチ接続の箇所に達してはいない試料の数、及びクラック5がステッチ接続の箇所まで達している試料の数をカウントした。
【0094】
カウント結果を下表2に示す。下表1において項目Aは、クラック5の無い試料の数であり、項目Bは、クラック5は発生しているが、ステッチ接続の箇所に達してはいない試料の数であり、項目Cは、クラック5がステッチ接続の箇所まで達している試料の数である。
(表2)
【0095】
表2に示すように、クラック5がステッチ接続の箇所まで達している実施例2の試料は一つもなかった。一方、比較例2においては、10個中7個の試料に、ステッチ接続の箇所まで達するクラック5が生じていた。これにより、ステッチ接続の種類に依らず、加工硬化したアルミニウム箔2を用い、接続工程の前に焼鈍工程を追加すると、積層工程のプレスでアルミニウム箔2にシワが生じず、且つ接続工程のプレスで電極体1に深刻なクラック5が生じないことが確認された。
【0096】
また、実施例3においては、10個中2個の試料に、ステッチ接続の箇所まで達するクラック5が生じていた。一方、比較例3においては、10個中4個の試料に、ステッチ接続の箇所まで達するクラック5が生じていた。実施例3においては、10個中7個の試料にクラック5が見られなかった。一方、比較例3においては、10個中6個の試料にクラック5が見られなかった。実施例1と比較例1、及び実施例2と比較例2のように、歴然とした違いではないが、実施例3が優位であることは確認された。これにより、カーボン層3の種類に依らず、加工硬化したアルミニウム箔2を用い、接続工程の前に焼鈍工程を追加すると、積層工程のプレスでアルミニウム箔2にシワが生じず、且つ接続工程のプレスで電極体1に深刻なクラック5が生じないことが確認された。
【0097】
(実施例4及び5)
実施例4の試料を作製した。実施例4の試料は、加工硬化されたアルミニウム箔2を用いて積層工程を行い、焼鈍工程を経て接続工程に進む点、積層工程及び接続工程にプレス加工が含まれる点において、実施例1と共通する。実施例4の試料は、実施例1と比べて冷間圧接の手法を用いて接続工程が実行されている点が異なっている。即ち、実施例4では、電極体1と引出端子4の平板部41とを押圧体で積層方向に加圧し、電極体1と引出端子4を密着させた。尚、タブ形状を有し、全体がアルミニウム製の平板部41により成る引出端子4を電極体1に接続した。
【0098】
この実施例4の試料に対応させて、実施例4とは焼鈍工程が省かれた点のみが異なる比較例4の試料も作製した。
【0099】
また、実施例5の試料を作製した。実施例5の試料は、冷間圧接を用いた点に加えて、アルミニウム箔2に積層されるカーボン層3が実施例1と異なる。実施例5の試料では、炭素材としてカーボンブラックのみを含有するカーボン層がアルミニウム箔2に積層された。カーボン層の積層方法は、実施例3と同じである。
【0100】
この実施例5の試料に対応させて、実施例5とは焼鈍工程が省かれた点のみが異なる比較例5の試料も作製した。
【0101】
これら実施例4及び5並びに比較例4及び5の試料に対して、電極体1と引出端子4との接触抵抗を測定した。まず、引出端子4の平板部41と電極体1に抵抗計の各極端子を接続した。そして、電極体1の位置を維持したまま、引出端子4を0.8mm持ち上げて、接触抵抗を測定した。抵抗計として、日置電機株式会社製の型番RM3545を用いた。測定結果は、電極体1の抵抗値と引出端子4の抵抗値と接続抵抗の合計値を示す。電極体1の抵抗値と引出端子4の抵抗値は、実施例4、5、比較例4及び5において同じ値である。
【0102】
この接触抵抗試験の結果を下表3に示す。尚、抵抗値は、試験を3回行い、3回の平均値とした。
(表3)
【0103】
電極体1の抵抗値と引出端子4の抵抗値は、実施例4及び5並びに比較例4及び5において同じ値であるから、表3に示す測定結果の差は、接触抵抗の差である。表3に示すように、実施例4と実施例5は同等の接触抵抗の値が得られ、その接触抵抗の値は比較例4及び5と比べて遙かに低かった。これにより、カーボン層3の種類に依らず、また接合手法の違いに依らず、加工硬化したアルミニウム箔2を用い、接続工程の前に焼鈍工程を追加すると、積層工程のプレスでアルミニウム箔2にシワが生じず、且つ接続工程のプレスで電極体1に深刻なクラック5が生じないことが確認された。
【符号の説明】
【0104】
1 電極体
1a 投影領域
1b 周囲領域
11 貫通孔
2 アルミニウム箔
22 芯部
23 酸化皮膜層
24 金属素地
25 拡面層
3 カーボン層
4 引出端子
4a アルミニウム線
4b 金属線
41 平板部
42 バリ
43 丸棒部
44 傾斜部
5 クラック
100 プレスローラ
200 ステッチ針
300 押圧部材