(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】硫黄系活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/60 20060101AFI20231219BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/60
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2019229492
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019068452
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 達也
(72)【発明者】
【氏名】中条 文哉
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-179179(JP,A)
【文献】特開2017-050152(JP,A)
【文献】特開2013-191327(JP,A)
【文献】国際公開第2010/044437(WO,A1)
【文献】特開2001-047762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体と硫黄とを含む原料を焼成してなる硫黄系活物質。
【請求項2】
前記重合体が、メタクリロニトリルを含む2種以上のモノマー成分を含む共重合体である、請求項1記載の硫黄系活物質。
【請求項3】
前記重合体が、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、およびその他の(メタ)アクリルモノマーをモノマー成分として含む共重合体である、請求項1または2記載の硫黄系活物質。
【請求項4】
その他の(メタ)アクリルモノマーが、(メタ)アクリル酸エステルである、請求項3記載の硫黄系活物質。
【請求項5】
ラマンスペクトルにおいて、1530cm
-1付近、1320cm
-1付近、940cm
-1付近、470cm
-1付近、370cm
-1付近、および310cm
-1付近にピークが存在することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の硫黄系活物質。
【請求項6】
原料がさらに導電助剤を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の硫黄系活物質。
【請求項7】
前記導電助剤が導電性炭素材料である、請求項
6記載の硫黄系活物質。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の硫黄系活物質を含んでなる非水電解質二次電池用電極。
【請求項9】
請求項
8に記載の電極を具備した非水電解質二次電池。
【請求項10】
硫黄系活物質の製造方法であって、
メタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体と硫黄とを含む原料を焼成する工程を含む製造方法。
【請求項11】
原料を焼成する温度が250~550℃である、請求項10記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用電極に使用する硫黄系活物質および該電極を具備した非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリアクリロニトリルと硫黄との混合原料を熱処理して得られる硫黄系活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、ジエン系ゴムと硫黄との混合原料を熱処理して得られる硫黄系活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2010/044437号
【文献】特許第6132102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の方法は、ポリアクリロニトリル原料粉末の品質(特に粒径)によって充放電容量、サイクル特性等の電池性能が大きく左右され、原料粉末の品質が一定なポリアクリロニトリルは非常に高価であるという課題がある。一方、特許文献2記載の方法は安価なジエン系ゴムを原料としているが、サイクル特性の観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、安価な高分子材料を原料として用い製造した硫黄系活物質および該硫黄系活物質を製造する方法を提供することを目的とする。該硫黄系活物質を含む電極を具備した
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、製造が簡便で、充放電容量が大きくかつ優れたサイクル特性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、メタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体と硫黄とが複合した新規な活物質を用いて、安価に充放電容量が大きくかつサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕メタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体と硫黄とを含む原料を焼成してなる硫黄系活物質、
〔2〕前記重合体が、メタクリロニトリルを含む2種以上のモノマー成分を含む共重合体である、〔1〕記載の硫黄系活物質、
〔3〕前記重合体が、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、およびその他の(メタ)アクリルモノマーをモノマー成分として含む共重合体である、〔1〕または〔2〕記載の硫黄系活物質、
〔4〕その他の(メタ)アクリルモノマーが、(メタ)アクリル酸エステルである、〔3〕記載の硫黄系活物質、
〔5〕ラマンスペクトルにおいて、1530cm-1付近、1320cm-1付近、940cm-1付近、470cm-1付近、370cm-1付近、および310cm-1付近にピークが存在することを特徴とする、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の硫黄系活物質、
〔6〕原料を焼成する温度が250~550℃である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の硫黄系活物質、
〔7〕原料がさらに導電助剤を含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の硫黄系活物質。
〔8〕前記導電助剤が導電性炭素材料である、〔7〕記載の硫黄系活物質、
〔9〕〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の硫黄系活物質を含んでなる非水電解質二次電池用電極、
〔10〕〔9〕に記載の電極を具備した非水電解質二次電池、
〔11〕硫黄系活物質の製造方法であって、メタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体と硫黄とを含む原料を焼成する工程を含む製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安価に充放電容量が大きくかつサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】硫黄系活物質の製造に使用する反応装置を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施例1で得られた硫黄系活物質をラマンスペクトル分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態である硫黄系活物質の製造を含む非水電解質二次電池の作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0011】
<硫黄系活物質の製造>
本実施形態に係る硫黄系活物質は、メタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体と硫黄とを含む原料を焼成して得ることができる。また、焼成工程において、前記の原料に加硫促進剤および/または導電助剤をさらに配合してもよい。
【0012】
メタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体は、メタクリロニトリルの単独重合体(ポリメタクリロニトリル)であってもよいし、メタクリロニトリルとメタクリロニトリル以外の1種以上のモノマー成分との共重合体であってもよい。
【0013】
メタクリロニトリル以外のモノマー成分としては、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド等の公知の(メタ)アクリルモノマーを好適に使用可能である。なかでも、アクリロニトリルおよび(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる1以上が好ましく、アクリロニトリルおよびメタクリル酸メチルからなる群から選ばれる1以上がより好ましく、アクリロニトリルおよびメタクリル酸メチルがさらに好ましい。なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0014】
また、メタクリロニトリル以外のモノマー成分として、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物も使用可能である。
【0015】
共重合体において、メタクリロニトリルの共重合比は、通常1~99%、好ましくは10~95%、より好ましくは20~90%、さらに好ましくは30~80%である。
【0016】
かかる共重合は、共重合させる順序において特に限定はなく、例えば、すべてのモノマーを一度にランダム共重合させてもよいし、あるいは、あらかじめ特定のモノマーを共重合させた後に、残りのモノマーを加えて共重合させたり、特定のモノマー毎に予め共重合させたものをブロック共重合させてもよい。
【0017】
重合は、例えば、アニオン重合反応、配位重合反応等の常法により実施することができる。重合方法については特に制限はなく、溶液重合法、乳化重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれをも用いることができる。また、重合形式は、バッチ式および連続式のいずれであってもよい。
【0018】
重合体の重量平均分子量(Mw)は、1,000~1,000,000が好ましく、10,000~300,000よりが好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0019】
硫黄としては粉末硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄等を使用できるが、微粒子であることからコロイド硫黄が好ましい。硫黄の配合量は、充放電容量およびサイクル特性の観点から、前記重合体100質量部に対して、250質量部以上が好ましく、300質量部以上がより好ましい。一方、硫黄の配合量の上限は特に制限されないが、充放電容量が飽和しコスト的にも不利となることから、2000質量部以下が好ましく、1500質量部以下がより好ましい。
【0020】
加硫促進剤を配合する場合の前記重合体100質量部に対する使用量は、充放電容量およびサイクル特性の観点から、3質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、一方、配合量の上限は特に制限されないが、充放電容量が飽和しコスト的にも不利となることから、250質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
【0021】
導電助剤は、特に制限されないが、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、炭素粉末、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛等の導電性炭素材料を好適に使用することができる。容量密度、入出力特性、および導電性の観点からは、アセチレンブラック(AB)またはケッチェンブラック(KB)が好ましい。これらの導電助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
導電助剤を配合する場合の前記重合体100質量部に対する使用量は、充放電容量およびサイクル特性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。一方、該配合量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。50質量部超では、硫黄含有化合物における硫黄を含む構造の割合が相対的に低下するため、充放電容量やサイクル特性を一層向上させるという目的を達成しがたい傾向がある。
【0023】
前記の成分を配合した原料の焼成は、非酸化性雰囲気下で原料を加熱することにより実施される。非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含まない雰囲気をいい、構成成分の酸化劣化や過剰な熱分解を抑制するために採用されるものである。具体的には、窒素やアルゴン等の不活性ガスを充填した、不活性ガス雰囲気下の石英管中で、加熱処理する。焼成の温度は、250℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。250℃未満であると、硫化反応が不十分で、目的物の充放電容量が低くなる傾向がある。一方、焼成の温度は、550℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましく、450℃以下がさらに好ましい。550℃を超えると、原料化合物の分解が多くなり、収率が低下したり、充放電容量が低下したりする傾向がある。
【0024】
焼成後に得られる硫化物中には、焼成時に昇華した硫黄が冷えて析出したもの等、いわゆる未反応硫黄が残留している。硫黄は絶縁体であるため、電極内部において電気抵抗として働き、電池性能の低下を引き起こす可能性がある。未反応硫黄はサイクル特性を低下させる要因となるため、未反応硫黄を除去する必要がある。未反応硫黄の除去方法は減圧加熱乾燥、温風乾燥、溶媒洗浄等の方法で行うことができる。
【0025】
得られた硫黄系活物質は、所定の粒度となるように粉砕し、分級して、電極の製造に適したサイズの粒子とすることができる。粒子の好ましい粒度分布としては、メジアン径で5~25μm程度である。なお、二軸押出機を用いた焼成方法では、混練時のせん断によって、硫黄系活物質の製造と同時に、製造した硫黄系活物質の粉砕も行うことができる。
【0026】
硫黄系活物質における硫黄の総含有量が多いほど、非水電解質二次電池のサイクル特性が向上する傾向にあるため、硫黄系活物質における元素分析による硫黄の総含有量は35質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、硫黄系活物質における元素分析による酸素の総含有量は3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましい。
【0027】
本実施形態に係る硫黄系活物質は、ラマンスペクトルにおいて、200cm-1~1800cm-1の範囲で1530cm-1付近、1320cm-1付近、940cm-1付近、470cm-1付近、370cm-1付近、および310cm-1付近にピークが存在することを特徴とする。これらのラマンシフトのピークについては、前記重合体に対する硫黄原子の比率を変更した場合にも同様のピーク位置に観測されるものであり、本実施形態に係る硫黄系活物質を特徴づけるものである。上記した各ピークは、上記したピーク位置を中心として、ほぼ±8cm-1の範囲内に存在することができる。なお、前記のラマンシフトは、ナノフォトン(株)製のRAMANtouch(励起波長λ=532nm、グレーチング:1200gr/mm、分解能:1.2cm-1)で測定したものである。
【0028】
メタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体と硫黄とを混合して前記所定の温度で加熱すると、閉環反応が起こり、前記重合体に硫黄が取り込まれて三次元的に架橋した構造が形成される。このようにして得られた、本実施形態に係る硫黄系活物質は、充放電サイクルにおいて電解液への溶出が抑制される。このことから、該硫黄系活物質を電極に使用した非水電解質二次電池は、サイクル特性が向上する。
【0029】
<電極の構成>
本実施形態に係る非水電解質二次電池用電極(正極および負極)は、一般的な非水電解質蓄電デバイスと同様の構造とすることができる。例えば、本実施形態に係る非水電解質二次電池用電極は、前記の硫黄系活物質、バインダ、導電助剤、および溶媒を混合した電極スラリーを集電体に塗布することにより作製することができる。また、その他の方法として、硫黄系活物質、導電助剤およびバインダの混合物を、乳鉢やプレス機等で混練しかつフィルム状にし、フィルム状の混合物をプレス機等で集電体に圧着することにより作製することもできる。
【0030】
(集電体)
集電体としては、リチウムイオン二次電池用の電極として一般に用いられるものを使用することができる。集電体の具体例としては、例えば、アルミ箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート等のアルミニウム系集電体;ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート等のステンレス系集電体;発泡ニッケル、ニッケル不織布等のニッケル系集電体;銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート等の銅系集電体;チタン箔、チタンメッシュ等のチタン系集電体;カーボン不織布、カーボン織布等の炭素系集電体が挙げられる。なかでも、機械的強度、導電性、質量密度、コスト等の観点から、アルミニウム系集電体が好ましい。
【0031】
集電体の形状には特に制約はないが、例えば、箔状基材、三次元基材等を用いることができる。三次元基材(発泡メタル、メッシュ、織布、不織布、エキスパンド等)を用いると、集電体との密着性に欠けるようなバインダであっても高い容量密度の電極が得られるとともに、高率充放電特性も良好になる傾向がある。
【0032】
(バインダ)
バインダとしては、電極に用いられる公知のバインダが使用可能であるが、水との親和性および環境負荷低減の観点から、水性バインダが好適に用いられる。水性バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水溶性ポリイミド(PI)、水溶性ポリアミドイミド(PAI)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ウレタン等が挙げられる。これらのバインダは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(導電助剤)
導電助剤としては、前記の硫黄系活物質の製造において使用可能な導電助剤を同様に使用できる。
【0034】
(溶媒)
電極スラリーの作製において、硫黄系活物質、バインダ、導電助剤等の固形成分を分散させるために使用される溶媒としては、水を含む溶媒(水系溶媒)好ましく、水が好ましい。水以外の有機溶媒を使用すると、硫黄系活物質から充放電反応に寄与する硫黄成分が溶出し、電池の充放電容量が低下する傾向がある。また、環境負荷低減の観点からも、水系溶媒が好ましい。なお、本発明の効果を損なわない範囲(例えば、水以外の有機溶媒が20質量%未満)であれば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、低級アルコール等の水と混和する溶媒を混合してもよい。
【0035】
電極スラリー中の固形成分(特に、硫黄系活物質、バインダ、および導電助剤。以下同じ。)100質量%に対する硫黄系活物質の含有量は、85質量%以上が好ましく、87質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、硫黄系活物質の含有量の上限は特に制限されないが、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
【0036】
電極スラリー中の固形成分100質量%に対するバインダの含有量は、0.1~10.0質量%が好ましく、0.5~8.0質量%がより好ましく、1.0~6.0質量%がさらに好ましく、2.0~5.0質量%が特に好ましい。
【0037】
電極スラリー中に導電助剤を配合する場合の固形成分100質量%に対する含有量は、0.1~10.0質量%が好ましく、0.5~8.0質量%がより好ましく、1.0~6.0質量%がさらに好ましく、2.0~5.0質量%が特に好ましい。
【0038】
(電極材料)
本実施形態に係る硫黄系活物質を正極に用いる場合、負極材料としては、例えば、金属リチウム、黒鉛等の炭素系材料;シリコン薄膜、SiO等のシリコン系材料;銅-スズやコバルト-スズ等のスズ合金系材料等の公知の負極材料が挙げられる。負極材料としてリチウムを含まない材料、例えば、炭素系材料、シリコン系材料、スズ合金系材料等を用いた場合には、デンドライトの発生による正負極間の短絡を生じにくくでき、非水電解質二次電池の長寿命化を図ることができる。なかでも、高容量の負極材料であるシリコン系材料が好ましく、電極厚さを小さくでき、体積当りの容量の点で有利となる薄膜シリコンがより好ましい。
【0039】
ただし、リチウムを含まない負極材料を、本実施形態に係る正極と組み合わせて用いる場合には、正極および負極がいずれもリチウムを含まないことになるため、いずれか一方、または両方に、あらかじめリチウムを挿入するプリドープの処理が必要となる。
【0040】
プリドープの方法としては、公知の方法を利用することができる。例えば、負極にリチウムをドープする場合は、対極として金属リチウムを用いて半電池を組んで電気化学的にリチウムをドープする電解ドープ法や、金属リチウム箔を電極に貼り付けた状態で電解液中に放置して電極へのリチウムの拡散によってドープする貼り付けプリドープ法等が挙げられる。なお、正極にリチウムをプリドープする場合にも、上述した電解ドープ法を採用することができる。
【0041】
本実施形態に係る硫黄系活物質を負極に用いる場合、正極材料としては、例えば、リチウムと遷移金属の複合酸化物(特に、コバルト系複合酸化物、ニッケル系複合酸化物、マンガン系複合酸化物、コバルト・ニッケル・マンガンの3元素から成る三元系複合酸化物)が挙げられる。また、オリビン型の結晶構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩(特にリン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム)等も使用可能である。なお、リチウムを含有する遷移金属リチウム複合酸化物系の化合物を活物質に用いて作製される電極を正極とし、本実施形態に係る電極スラリーを使用した電極を負極として組み合せる場合は、正極にリチウムが含まれるため、リチウムプリドープ処理は必ずしも必要ではない。
【0042】
<電解質>
非水電解質二次電池を構成する電解質としては、イオン伝導性を有する液体または固体であればよく、公知の非水電解質二次電池に用いられる電解質と同様のものが使用できるが、電池の出力特性が高いという観点から、有機溶媒に支持電解質であるアルカリ金属塩を溶解させたものを使用することが好ましい。
【0043】
有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル等の非水性溶媒から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0044】
支持電解質としては、例えばLiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiI、LiClO4等が挙げられ、LiPF6が好ましい。
【0045】
支持電解質の濃度は0.5mol/L~1.7mol/L程度であればよい。なお電解質は液状には限定されない。例えば非水電解質二次電池がリチウムポリマー二次電池である場合、電解質は固体状(例えば、高分子ゲル状)、あるいはイオン性液体や溶融塩等であってもよい。
【0046】
非水電解質二次電池は、上述した正極、負極、電解質以外にも、セパレータ等の部材を備えても良い。セパレータは、正極と負極との間に介在して両極間のイオンの移動を許容するとともに、当該正極と負極との内部短絡を防止するために機能する。非水電解質二次電池が密閉型であれば、セパレータには電解液を保持する機能も求められる。
【0047】
セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリイミド、セルロース、ガラス等を材料とする薄肉かつ微多孔性または不織布状の膜を用いるのが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る非水電解質二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、積層型、コイン型、ボタン型等の種々の形状にすることができる。
【0049】
本実施形態に係る電極を具備した非水電解質二次電池は、高容量かつサイクル特性に優れるため、スマートフォン、パワーツール、自動車、UPS等の電源として使用可能な電気機器に利用することができる。
【実施例】
【0050】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0051】
実施例および比較例で使用した各種薬品について説明する。
重合体1:メタクリロニトリル-アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体
重合体2:アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体
重合体3:アクリロニトリル-ブタジエン共重合体
硫黄:鶴見化学工業(株)製の沈降硫黄
導電助剤:アセチレンブラック(デンカ(株)製のデンカブラック)
【0052】
[実施例1]
(原料の調製)
表1の実施例1に記載の配合に従い、重合体1および硫黄をカッターミルで細かく砕き、焼成工程に供した。
【0053】
(反応装置)
原料化合物の焼成には、
図1に示す反応装置1を用いた。反応装置1は、原料化合物2を収容して焼成するための、有底筒状をなす石英ガラス製の、外径60mm、内径50mm、高さ300mmの反応容器3、当該反応容器3の上部開口を閉じるシリコーン製の蓋4、当該蓋4を貫通する1本のアルミナ保護管5((株)ニッカトー製の「アルミナSSA-S」、外径4mm、内径2mm、長さ250mm)と、2本のガス導入管6とガス排出管7(いずれも、(株)ニッカトー製の「アルミナSSA-S」、外径6mm、内径4mm、長さ150mm)、および反応容器3を底部側から加熱する電気炉8(ルツボ炉、開口幅φ80mm、加熱高さ100mm)を備えている。
【0054】
アルミナ保護管5は、蓋4から下方が、反応容器3の底に収容した原料化合物2に達する長さに形成され、内部に熱電対9が挿通されている。アルミナ保護管5は、熱電対9の保護管として用いられる。熱電対9の先端は、アルミナ保護管5の閉じられた先端で保護された状態で、原料化合物2に挿入されて、当該原料化合物2の温度を測定するために機能する。熱電対9の出力は、図中に実線の矢印で示すように、電気炉8の温度コントローラ10に入力され、温度コントローラ10は、この熱電対9からの入力に基づいて、電気炉8の加熱温度をコントロールするために機能する。
【0055】
ガス導入管6とガス排出管7は、その下端が、蓋4から下方へ3mm突出するように形成されている。
【0056】
ガス導入管6には、図示しないガスの供給系から、Arガスが継続的に供給される。またガス排出管7は、水酸化ナトリウム水溶液11を収容したトラップ槽12に接続されている。反応容器3からガス排出管7を通って外部へ出ようとする排気は、一旦、トラップ槽12内の水酸化ナトリウム水溶液11を通ったのちに外部へ放出される。そのため排気中に、加硫反応によって発生する硫化水素ガスが含まれていても、水酸化ナトリウム水溶液と中和されて排気からは除去される。
【0057】
(焼成工程)
焼成工程は、まず原料化合物2を反応容器3の底に収容した状態で、ガスの供給系から、80mL/分の流量でAr(アルゴン)ガスを継続的に供給しながら、供給開始30分後に、電気炉8による加熱を開始した。昇温速度は150℃/時で実施した。そして原料化合物の温度が450℃に達した時点で、450℃を維持しながら2時間焼成をした。次いでArガスの流量を調整しながら、Arガス雰囲気下、反応生成物の温度を25℃まで自然冷却させたのち、該反応生成物を反応容器3から取り出した。
【0058】
(未反応硫黄の除去)
焼成工程後の生成物に残存する未反応硫黄(遊離した状態の単体硫黄)を除去するために、以下の工程を行なった。すなわち、該生成物を乳鉢で粉砕し、粉砕物2gをガラスチューブオーブンに収容して、真空吸引しながら250℃で3時間加熱して、未反応硫黄が除去された(または、微量の未反応硫黄しか含まない)硫黄系活物質を得た。昇温速度は10℃/分とした。
【0059】
(ラマンスペクトル分析)
得られた硫黄系活物質について、ナノフォトン(株)製のRAMANtouchを用いて励起波長λ=532nm、グレーチング:1200gr/mm、分解能:1.2cm
-1の条件でラマンスペクトル分析をした(
図2)。なお、
図2において縦軸は相対強度、横軸はラマンシフト(cm
-1)を示す。得られた硫黄系活物質は、200cm
-1~1800cm
-1の範囲で1530cm
-1付近、1320cm
-1付近、940cm
-1付近、470cm
-1付近、370cm
-1付近、および310cm
-1付近にピークが観測された。
【0060】
(元素分析)
炭素、水素、および窒素については、Elementar社製の全自動元素分析装置vario MICRO cubeを用いて測定した質量から、硫黄系活物質の総量中に占める質量比(%)を算出した。また硫黄は、Dionex社製のイオンクロマトグラフ装置DX-320に、同社製のカラム(IonPac AS12A)を用いて測定した質量から、硫黄系活物質の総量中に占める質量比(%)を算出した。また酸素は、堀場製作所(株)製のEMGA-920を用い、不活性ガス中インパルス加熱・融解-NDIR法により定量した。
【0061】
<リチウムイオン二次電池の作製>
〔1〕正極
上記の硫黄系活物質、導電助剤、および水性アクリル樹脂を90:5:5(質量比)の割合で秤量し、容器に入れ、分散剤にmilliQ水を使用して自転公転ミキサー((株)シンキー製のARE-250)を用いて攪拌、混合を行い、均一なスラリーを作製した。作製したスラリーを厚さ20μmのアルミ箔上に、スリット幅60μmのアプリケーターを使用して塗工し、ロールプレスを用いて圧縮した正極を120℃で3時間、乾燥機で加熱し、乾燥後、φ11に打ち抜くことでリチウムイオン二次電池用の正極を得た。その後正極の重量を測定し、上述の比率から電極中の活物質量を算出した。
【0062】
〔2〕負極
負極としては、金属リチウム箔(直径14mm、厚さ500μmの円盤状、本城金属(株)製)を用いた。
【0063】
〔3〕電解液
電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に、LiPF6を溶解した非水電解質を用いた。エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとは体積比1:1で混合した。電解液中のLiPF6の濃度は、1.0mol/Lであった。
【0064】
〔4〕電池
〔1〕、〔2〕で得られた正極および負極を用いて、コイン電池を製作した。詳しくは、ドライルーム内で、セパレータ(Celgard社製Celgard2400、厚さ25μmのポリプロピレン微孔質膜)と、ガラス不織布フィルタ(厚さ440μm、ADVANTEC社製、GA100)とを正極と負極との間に挟装して、電極体電池とした。この電極体電池を、ステンレス容器からなる電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉(株)製)に収容した。電池ケースには〔3〕で得られた電解液を注入した。電池ケースをカシメ機で密閉して、実施例1のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0065】
[実施例2]
原料にさらに導電助剤を配合した以外は、実施例1と同様に電池作製を行った。
【0066】
[比較例1,2]
重合体1に代えて重合体2または重合体3を使用した以外は、実施例1と同様に電池作製を行った。
【0067】
[試験方法]
<充放電容量測定試験>
各実施例および比較例で作製したコイン型リチウムイオン二次電池について、試験温度30℃の条件下で、硫黄系活物質1gあたり50mAに相当する電流値の充放電をさせた。放電終止電圧は1.0V、充電終止電圧は3.0Vとした。また充放電は30回繰り返し、各回の放電容量(mAh/g)を測定するとともに、2回目の放電容量(mAh/g)を初期容量とした。結果を表1に示す。なお、初期容量が大きいほど、リチウムイオン二次電池は充放電容量が大きく好ましいと評価できる。
【0068】
また、10回目の放電容量DC10(mAh/g)と30回目の放電容量DC30(mAh/g)から、下記式により容量維持率(%)を求めた。結果を表1に示す。なお、容量維持率が大きいほど、リチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れているといえる。
(容量維持率(%))=(DC30(mAh/g))/(DC10(mAh/g))×100
【0069】
【0070】
表1の結果より、本発明のメタクリロニトリルをモノマー成分として含む重合体と硫黄とが複合した活物質を電極材料として使用したリチウムイオン二次電池は、優れた充放電容量およびサイクル特性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の硫黄系活物質を電極材料として使用することにより、安価で充放電容量が大きくかつサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を製造することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 反応装置
2 原料化合物
3 反応容器
4 シリコーン製の蓋
5 アルミナ保護管
6 ガス導入管
7 ガス排出管
8 電気炉
9 熱電対
10 温度コントローラ
11 水酸化ナトリウム水溶液
12 トラップ槽