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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20231219BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20231219BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20231219BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231219BHJP
   B60W 10/184 20120101ALI20231219BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231219BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20231219BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
B60T8/1755 C
B60T8/17 C
B60L7/24 D
B60L15/20 S
B60W10/184
B60W10/08
B60W10/00 150
B60L9/18 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020009596
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021115926
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇作
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-217677(JP,A)
【文献】特開2011-093435(JP,A)
【文献】特開2016-028913(JP,A)
【文献】特開2005-028934(JP,A)
【文献】特開2016-107766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置と、前記車輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦制動装置と、を有する車両に適用される制動制御装置であって、
前記車両に付与する制動力の目標値である目標車両制動力を導出する制御量導出部と、
前記目標車両制動力に基づいて前記回生制動装置および前記摩擦制動装置を制御する制動制御部と、を備え、
前記制動制御部は、前記目標車両制動力が増大する場合、
前記車輪に付与する摩擦制動力が当該車輪に付与する回生制動力よりも大きくなるように前記車輪に付与する摩擦制動力を増大させる制動力付与処理と、
前記制動力付与処理の実行後において、前記車輪に付与する摩擦制動力の少なくとも一部を回生制動力にすり替えることによって当該車輪に付与する回生制動力を増大させるすり替え処理と、を実行する
制動制御装置。
【請求項2】
前記目標車両制動力の増大の開始前における前記車両の姿勢を基準とした当該車両の姿勢の変化量を姿勢変化量として、前記車両のピッチング運動に関する指標に基づいて前記姿勢変化量が判定値以上になるか否かを判定する車両運動判定部を備え、
前記制動制御部は、前記車両運動判定部により前記姿勢変化量が前記判定値以上になると判定されたときには前記制動力付与処理を実行し、前記制動力付与処理の実行中に前記車両運動判定部により前記姿勢変化量が前記判定値未満になると判定されると、前記制動力付与処理を終了して前記すり替え処理を実行する
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記車両運動判定部は、前記車両の前後加速度の予測値、または、前記車両のピッチ角速度の予測値を前記車両の運動を表す指標とする
請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記車両に付与できる回生制動力の上限を上限回生制動力として、
前記制動制御部は、前記すり替え処理の実行後に実施する処理として、前記目標車両制動力のうち前記車輪に付与する摩擦制動力の割合、および、前記目標車両制動力のうち当該車輪に付与する回生制動力の割合を保持させる保持処理を実行するようになっており、
前記制動制御部は、前記車両に付与する回生制動力が前記上限回生制動力に到達するまで、前記すり替え処理の実行によって前記車輪に付与する摩擦制動力の減少と当該車輪に付与する回生制動力の増加とを行い、前記車両に付与する回生制動力が前記上限回生制動力に到達すると、前記すり替え処理を終了して前記保持処理を実行する
請求項1~3のいずれか一項に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記車両は、前輪に制動力が付与されるときには車両前部を上方に変位させる力であるアンチダイブ力が発生し、後輪に制動力が付与されるときには車両後部を下方に変位させる力であるアンチリフト力が発生するものであり、前記前輪に付与される制動力と前記後輪に付与される制動力とが互いに同じ大きさであるときには、前記アンチダイブ力および前記アンチリフト力のうちの一方の力である第1力が他方の力である第2力よりも大きくなるように構成されたものであり、
前記前輪および前記後輪のうち、制動力の付与によって前記第1力を前記車両に発生させる車輪を第1車輪とし、制動力の付与によって前記第2力を前記車両に発生させる車輪を第2車輪として、
前記制動制御部は、前記制動力付与処理において、前記第1車輪に付与する摩擦制動力の増大速度を前記第2車輪に付与する摩擦制動力の増大速度よりも高くする
請求項1~4のいずれか一項に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前輪に摩擦制動力および回生制動力のうち少なくとも一方を付与すると、車両のピッチング運動を抑制する力としてアンチダイブ力が車両に発生する。車両の後輪に摩擦制動力および回生制動力のうち少なくとも一方を付与すると、車両のピッチング運動を抑制する力としてアンチリフト力が車両に発生する。アンチダイブ力またはアンチリフト力等のように車輪への制動力の付与によって車両のピッチング運動を抑制する力を、ピッチング抑制力という。こうしたピッチング抑制力に関しては、特許文献1にも記載されているように、摩擦制動力を車輪に付与する場合に車両に発生するピッチング抑制力が、回生制動力を車輪に付与する場合に車両に発生するピッチング抑制力よりも大きくなることが知られている。
【0003】
特許文献1に開示されている制動制御装置は、運転者による制動操作量や操舵量などの運転操作情報に基づいて、車両に付与する制動力に対する回生制動力の比率である回生配分比率を決定し、決定した回生配分比率にしたがって回生制動力と摩擦制動力との調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-180670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような制動制御装置では、運転操作情報に基づいて決定された回生配分比率が小さいときには、車輪に付与される摩擦制動力が大きくなる。この結果、車両に発生するピッチング抑制力が大きくなる分、車両のピッチング運動を抑制できる。しかし、この場合には車輪に付与される回生制動力が小さくなるため、車両制動時における回生を用いたエネルギの回収効率が低くなる。一方で、運転操作情報に基づいて決定された回生配分比率が大きいときには、車輪に付与される回生制動力が大きくなるため、車両制動時における回生を用いたエネルギの回収効率を高くできるものの、車輪に付与される摩擦制動力が小さくなるため車両に発生するピッチング抑制力が小さくなる。このため、車両のピッチング運動を十分に抑制できないことがある。
【0006】
そこで、摩擦制動力と回生制動力との協調制御を行うことのできる車両にあっては、車両制動時における車両のピッチング運動の抑制と、回生を用いたエネルギの回収効率の向上との両立が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車両の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置と、前記車輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦制動装置と、を有する車両に適用される制動制御装置であって、前記車両に付与する制動力の目標値である目標車両制動力を導出する制御量導出部と、前記目標車両制動力に基づいて前記回生制動装置および前記摩擦制動装置を制御する制動制御部と、を備え、前記制動制御部は、前記目標車両制動力が増大する場合、前記車輪に付与する摩擦制動力が当該車輪に付与する回生制動力よりも大きくなるように前記車輪に付与する摩擦制動力を増大させる制動力付与処理と、前記制動力付与処理の実行後において、前記車輪に付与する摩擦制動力の少なくとも一部を回生制動力にすり替えることによって当該車輪に付与する回生制動力を増大させるすり替え処理と、を実行することをその要旨とする。
【0008】
車輪に回生制動力を付与する場合よりも当該車輪に摩擦制動力を付与する場合のほうが、車両のピッチング運動を抑制する力であるピッチング抑制力を大きくできる。そこで、上記構成によれば、目標車両制動力が増大される場合、制動力付与処理の実行によって、車輪に付与する摩擦制動力が当該車輪に付与する回生制動力よりも大きくされる。これによって、車輪に付与する回生制動力が当該車輪に付与する摩擦制動力よりも大きくされる場合と比較して、車両のピッチング運動が抑制される。そして、制動力付与処理の実行によって車両のピッチング運動が抑制された後では、すり替え処理の実行によって、車輪に付与する摩擦制動力の少なくとも一部を回生制動力にすり替えることによって当該車輪に付与する回生制動力が増大される。これによって、すり替え処理が実行されない場合と比較して、車両制動時における回生を用いたエネルギの回収効率を高くできる。
【0009】
すなわち、上記構成によれば、車両制動時における車両のピッチング運動の抑制と、回生を用いたエネルギの回収効率の向上との両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の制動制御装置と、同制動制御装置が適用される車両と、を示す模式図。
図2】車両制動時において車両に作用する力を説明する模式図。
図3】実施形態の制動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
図4】比較例の制動制御装置によって車両に付与される制動力の推移を示すタイミングチャート。
図5】実施形態の制動制御装置によって車両に付与される制動力の推移を示すタイミングチャート。
図6】比較例の制動制御装置によって車両に付与される制動力の推移を示すタイミングチャート。
図7】実施形態の制動制御装置によって車両に付与される制動力の推移を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、制動制御装置の一実施形態について、図1図7を参照して説明する。
図1は、本実施形態の制動制御装置10と、制動制御装置10を搭載する車両90と、を示す。
【0012】
車両90は、前輪81用の摩擦制動機構73Fと、後輪82用の摩擦制動機構73Rとを備えている。摩擦制動機構73Fでは、ホイールシリンダ74内の液圧が高いほど、摩擦制動機構73Fに対応する前輪81と一体回転する回転体75に対して摩擦材76が強く押し付けられる。摩擦材76を回転体75に押し付けることによって、前輪81に制動力が付与される。後輪82用の摩擦制動機構73Rは、前輪81用の摩擦制動機構73Fと同様に構成されている。このため、後輪82用の摩擦制動機構73Rによって、後輪82に制動力が付与される。
【0013】
以下では、摩擦制動機構73Fの作動によって前輪81に付与する制動力を「前輪摩擦制動力BFPf」といい、摩擦制動機構73Rの作動によって後輪82に付与する制動力を「後輪摩擦制動力BFPr」という。
【0014】
車両90は、ホイールシリンダ74内の液圧を制御することによって前輪摩擦制動力BFPfおよび後輪摩擦制動力BFPrを調整する摩擦制動装置70を備えている。摩擦制動装置70は、液圧発生装置71と、制動アクチュエータ72とを有している。液圧発生装置71は、ブレーキペダルなどの制動操作部材92が運転者によって操作されているときに、その操作量に応じた液圧を発生させる。運転者によって制動操作部材92の操作が行われている場合、液圧発生装置71で発生した液圧に応じた量のブレーキ液が制動アクチュエータ72を介してホイールシリンダ74内に供給される。
【0015】
制動アクチュエータ72は、各ホイールシリンダ74内の液圧を個別に制御することによって、前輪摩擦制動力BFPfおよび後輪摩擦制動力BFPrを個別に調整できる。また、制動アクチュエータ72は、制動制御装置10によって制御されることで、制動操作部材92の操作量にかかわらず、前輪摩擦制動力BFPfおよび後輪摩擦制動力BFPrを個別に調整することもできる。
【0016】
車両90は、前輪81用のモータジェネレータ61Fと、後輪82用のモータジェネレータ61Rとを備えている。車両90は、インバータおよびコンバータを有するパワーコントロールユニットと、パワーコントロールユニットを介して各モータジェネレータ61F,61Rと電力の授受を行うバッテリと、を備えている。モータジェネレータ61Fを電動機として機能させることによって、モータジェネレータ61Fから前輪81に駆動力が伝達される。一方、モータジェネレータ61Fを発電機として機能させることによって、モータジェネレータ61Fの時間当たりの発電量に応じた制動力が前輪81に付与され、発電された電気がバッテリに蓄電される。同様に、モータジェネレータ61Rを電動機として機能させることによって、モータジェネレータ61Rから後輪82に駆動力が伝達される。一方、モータジェネレータ61Rを発電機として機能させることによって、モータジェネレータ61Rの時間当たりの発電量に応じた制動力が後輪82に付与され、発電された電気がバッテリに蓄電される。モータジェネレータ61Fおよびモータジェネレータ61Rの発電量は回生を用いて回収されたエネルギの量にあたる。すなわち、回生制動力を強くするほど、あるいは回生制動の時間を長くするほど、モータジェネレータ61Fおよびモータジェネレータ61Rの発電量が増加してより多くのエネルギを回収することができる。
【0017】
以下では、前輪81用のモータジェネレータ61Fの発電によって前輪81に付与する制動力を「前輪回生制動力BFRf」といい、後輪82用のモータジェネレータ61Rの発電によって後輪82に付与する制動力を「後輪回生制動力BFRr」という。車両90では、各モータジェネレータ61F,61Rによって、車輪81,82に付与する回生制動力を調整する回生制動装置60が構成されている。
【0018】
車両90は、車両90の状態を検出するための各種センサを備えている。車両90は、各種センサの一例として、車両90の各車輪における車輪速度を検出する車輪速センサ96を備えている。車輪速センサ96は、各車輪にそれぞれ設けられている。車両90は、制動操作部材92の操作量を検出するストロークセンサ97を備えている。車両90は、車両90のピッチレートを検出するピッチレートセンサ98を備えている。
【0019】
また、車両90は、車両90の周囲の情報を取得するための周辺監視装置99を備えている。周辺監視装置99は、たとえば、撮影装置を有している。周辺監視装置99の一例は、レーダーまたはレーザー光を用いた検出装置を有していてもよい。
【0020】
図1に示すように、各種センサからの検出信号は、制動制御装置10に入力される。また、周辺監視装置99が取得した情報も制動制御装置10に入力される。
なお、制動制御装置10は、以下(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備える。専用のハードウェア回路は、たとえば、特定用途向け集積回路すなわちASIC(Application Specific Integrated Circuit)、または、FPGA(Field Programmable Gate Array)等である。(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路と、を備える。
【0021】
制動制御装置10は、機能部として、車両運動判定部11と、配分比率導出部12と、制動制御部13と、制御量導出部14とを備えている。
制御量導出部14は、回生制動装置60および摩擦制動装置70の制御に関する検出値および目標値等を導出する。たとえば、制御量導出部14は、車輪速センサ96からの検出信号に基づいて、車両90の各車輪における車輪速度を導出する。制御量導出部14は、各車輪速度に基づいて、車両90の車速VSを導出する。制御量導出部14は、車速VSに基づいて、車両90の前後加速度Gxを導出する。制御量導出部14は、ストロークセンサ97からの検出信号に基づいて、制動操作部材92の操作量を導出する。制御量導出部14は、ピッチレートセンサ98からの検出信号に基づいて、車両90のピッチレートPrを導出する。制御量導出部14は、制動操作部材92の操作量に基づいて、車両90に付与する制動力の目標値として、目標車両制動力BFTを導出する。
【0022】
制動制御部13は、目標車両制動力BFTおよび後述する回生比率αと回生前輪比率βと摩擦前輪比率γとに基づいて、回生制動装置60および摩擦制動装置70を制御することによって、各車輪に付与する制動力を調整する。
【0023】
配分比率導出部12は、制動制御部13による回生制動装置60および摩擦制動装置70の制御によって各車輪に付与される制動力を調整するための配分比率を導出する。配分比率は、回生比率αと回生前輪比率βと摩擦前輪比率γとを含む。
【0024】
回生比率αは、目標車両制動力BFTのうち車両90に付与する回生制動力BFRの割合を示す。回生制動力BFRは、各車輪に付与する回生制動力の合計である。各車輪に付与する摩擦制動力の合計のことを、摩擦制動力BFPともいう。回生比率αは、「0」~「1」の値である。回生比率αが「0」のとき、摩擦制動力BFPのみによって目標車両制動力BFTが満たされるように、制動制御部13によって摩擦制動装置70が制御されることになる。回生比率αが「1」のとき、回生制動力BFRのみによって目標車両制動力BFTが満たされるように、制動制御部13によって回生制動装置60が制御されることになる。回生比率αが、「0」よりも大きく「1」よりも小さいとき、摩擦制動力BFPと回生制動力BFRとの合計が目標車両制動力BFTとなるように、制動制御部13によって摩擦制動装置70および回生制動装置60が制御されることになる。
【0025】
回生前輪比率βは、回生制動力BFRを前輪回生制動力BFRfと後輪回生制動力BFRrとに配分したときの前輪回生制動力BFRfの割合を示す。回生前輪比率βは、「0」~「1」の値である。回生前輪比率βが「0」のとき、後輪回生制動力BFRrの大きさが回生制動力BFRの大きさと等しくなるように、制動制御部13によって回生制動装置60が制御されることになる。回生前輪比率βが「1」のとき、前輪回生制動力BFRfの大きさが回生制動力BFRの大きさと等しくなるように、制動制御部13によって回生制動装置60が制御されることになる。回生前輪比率βが、「0」よりも大きく「1」よりも小さいとき、前輪回生制動力BFRfと後輪回生制動力BFRrとの合計が回生制動力BFRとなるように、制動制御部13によって回生制動装置60が制御されることになる。
【0026】
摩擦前輪比率γは、摩擦制動力BFPを前輪摩擦制動力BFPfと後輪摩擦制動力BFPrとに配分したときの前輪摩擦制動力BFPfの割合を示す。摩擦前輪比率γは、「0」~「1」の値である。摩擦前輪比率γが「0」のとき、後輪摩擦制動力BFPrの大きさが摩擦制動力BFPの大きさと等しくなるように、摩擦制動装置70が制御されることになる。摩擦前輪比率γが「1」のとき、前輪摩擦制動力BFPfの大きさが摩擦制動力BFPの大きさと等しくなるように、摩擦制動装置70が制御されることになる。摩擦前輪比率γが、「0」よりも大きく「1」よりも小さいとき、前輪摩擦制動力BFPfと後輪摩擦制動力BFPrとの合計が摩擦制動力BFPとなるように、摩擦制動装置70が制御されることになる。
【0027】
配分比率導出部12は、車両90のピッチング運動を抑制するように、車両制動時に車両90の状態に応じて配分比率を変動させる。配分比率導出部12による配分比率の導出態様の詳細は後述する。
【0028】
車両運動判定部11は、目標車両制動力BFTの増大の開始前における車両90の姿勢を基準とした車両90の姿勢の変化量を姿勢変化量として、車両90のピッチング運動に関する指標に基づいて姿勢変化量が規定の判定値以上になるか否かを判定する。車両運動判定部11は、姿勢変化量が判定値以上になると判定すると、姿勢制御優先判定を出力する。車両運動判定部11は、姿勢変化量が判定値よりも小さくなると判定すると、姿勢制御優先判定の出力を停止する。姿勢制御優先判定は、配分比率導出部12による配分比率の導出態様を変更させる際に用いられる。
【0029】
車両90の姿勢としては、たとえば、車両90のピッチ角、ピッチングレートを用いて表すことができる。車両90の姿勢をピッチ角とした場合、姿勢変化量は、目標車両制動力BFTの増大の開始前におけるピッチ角を基準としたピッチ角の変化量のことになる。また、車両90の姿勢をピッチングレートとした場合、姿勢変化量は、目標車両制動力BFTの増大の開始前におけるピッチングレートを基準としたピッチングレートの変化量のことになる。
【0030】
車両90のピッチング運動に関する指標とは、車両制動時の車両90の状態を予測した値である。たとえば、車両90の前後加速度の予測値、車両90のジャークの予測値、車両90のピッチ角速度の予測値、および車両90のピッチ角加速度の予測値等が車両90のピッチング運動に関する指標である。車両運動判定部11は、たとえば、制動操作部材92の操作量に基づいて各予測値を導出する。車両運動判定部11は、周辺監視装置99によって取得した情報に基づいて各予測値を導出することもできる。車両運動判定部11には、各予測値に対応した閾値が記憶されている。各閾値は、実験等によって予め導出された値である。車両運動判定部11は、各予測値のうち一つでも閾値を超えたとき、姿勢変化量が判定値以上になると判定して、姿勢制御優先判定を出力する。すなわち、車両運動判定部11は、車両制動時に車両90の姿勢が大きく変化することが予測されるとき、姿勢制御優先判定を出力する。たとえば、車両制動が開始されたときに姿勢制御優先判定が出力されうる。
【0031】
ここで、ピッチング運動に関する指標として、車両90の前後加速度の予測値を取得する場合を考える。前後加速度の予測値は、制動操作部材92の操作量、および、操作量の増大速度などを基に導出できる。制動時にあっては、前後加速度の絶対値が大きいほど、車両90の姿勢が大きく変化しやすい。このため、前後加速度の予測値の絶対値が大きいほど、姿勢変化量が大きくなると推測できる。このように車両運動判定部11では、前後加速度の予測値の絶対値が閾値を超えるときには、姿勢変化量が判定値以上になると判定され、姿勢制御優先判定が出力される。
【0032】
配分比率導出部12による配分比率の導出態様について説明する。まず、図2を用いて、車両90の制動時に車両90に作用する力について説明する。
図2には、制動時に車両90に作用する慣性力Fiと、前輪81に作用するすべての制動力である前輪制動力F1と、後輪82に作用するすべての制動力である後輪制動力F2とを示している。前輪制動力F1は、前輪摩擦制動力BFPfと前輪回生制動力BFRfとの合計である。後輪制動力F2は、後輪摩擦制動力BFPrと後輪回生制動力BFRrとの合計である。前輪摩擦制動力BFPf、前輪回生制動力BFRf、後輪摩擦制動力BFPrおよび後輪回生制動力BFRrは、前輪制動力F1と後輪制動力F2との合計を車両制動力Fとして、回生比率αと回生前輪比率βと摩擦前輪比率γとを用いて、下記(式1)~(式4)のように表すことができる。
【0033】
【数1】
車両制動時には、車両90の車体91における前輪81側が沈み込むことを抑制する力が前輪81用のサスペンションによって車体91に作用する。当該力のことを、アンチダイブ力FADという。アンチダイブ力FADは、車体91の前輪81側、すなわち車両90の前部を路面から離れる側に変位させる方向に作用する力である。図2には、アンチダイブ力FADを上向きの白抜き矢印で表示している。
【0034】
また、車両制動時には、車両90の車体91における後輪82側が浮き上がることを抑制する力が後輪82用のサスペンションによって車体91に作用する。当該力のことを、アンチリフト力FALという。アンチリフト力FALは、車体91の後輪82側、すなわち車両90の後部を路面側に変位させる方向に作用する力である。図2には、アンチリフト力FALを下向きの白抜き矢印で表示している。
【0035】
アンチダイブ力FADおよびアンチリフト力FALは、ピッチングモーメントMを抑制するピッチング抑制力である。
車両90が備える前輪81用のサスペンションおよび後輪82用のサスペンションでは、前輪制動力F1と後輪制動力F2とが互いに同じ大きさであるときに、アンチダイブ力FADよりもアンチリフト力FALが大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている。すなわち、本実施形態では、アンチリフト力FALが「第1力」に対応し、アンチダイブ力FADが「第2力」に対応する。また、後輪82が「制動力の付与によって前記第1力を前記車両に発生させる車輪」である「第1車輪」に対応する。前輪81が「制動力の付与によって前記第2力を前記車両に発生させる車輪」である「第2車輪」に対応する。
【0036】
ここで、摩擦制動力は車輪81,82と路面との接地点に作用する一方で、回生制動力は車輪81,82のホイール中心に作用する。図2には、前輪回生制動力BFRfが作用する第1作用点PA1、前輪摩擦制動力BFPfが作用する第2作用点PA2、後輪回生制動力BFRrが作用する第3作用点PA3および後輪摩擦制動力BFPrが作用する第4作用点PA4を示している。
【0037】
前輪81の瞬間回転中心を前輪回転中心Cfとすると、第1作用点PA1と前輪回転中心Cfとを繋ぐ直線と路面とのなす角度である第1角度θfrは、第2作用点PA2と前輪回転中心Cfとを繋ぐ直線と路面とのなす角度である第2角度θfpよりも小さい。同様に、後輪82の瞬間回転中心を後輪回転中心Crとすると、第3作用点PA3と後輪回転中心Crとを繋ぐ直線と路面とのなす角度である第3角度θrrは、第4作用点PA4と後輪回転中心Crとを繋ぐ直線と路面とのなす角度である第4角度θrpよりも小さい。
【0038】
アンチダイブ力FADおよびアンチリフト力FALは、上記(式1)~(式4)、第1角度θfr、第2角度θfp、第3角度θrrおよび第4角度θrpを用いて、下記(式5)および(式6)として表すことができる。
【0039】
【数2】
図2に示すように第2角度θfpが第1角度θfrよりも大きいため、前輪摩擦制動力BFPfの方が前輪回生制動力BFRfよりもアンチダイブ力FADに対する寄与が大きい。同様に、第4角度θrpが第3角度θrrよりも大きいため、後輪摩擦制動力BFPrの方が後輪回生制動力BFRrよりもアンチリフト力FALに対する寄与が大きい。
【0040】
図2には、車両90の車両重心GCを示している。図2には、車両制動時に車体91に発生するピッチングモーメントMを示している。ピッチングモーメントMは、車体91を前傾させる力である。ピッチングモーメントMは、慣性力Fiと、車両重心GCから路面までの距離である重心高さHと、前輪81のホイール中心と後輪82のホイール中心との間の距離であるホイールベースLと、に基づいて演算することができる。
【0041】
ピッチング運動を抑制するためのアンチダイブ力FADおよびアンチリフト力FALは、上記(式5)および(式6)に示したように、回生比率α、回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γによって変化する値である。回生比率α、回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを調整することによって、車両90に発生するアンチダイブ力FADおよびアンチリフト力FALを調整できるため、ピッチングモーメントMに応じて回生比率α、回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを設定することによって、車両90のピッチング運動を抑制できる。
【0042】
配分比率導出部12は、制動中には、車両90のピッチング運動を抑制するようにピッチングモーメントMに応じて回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを調整する。
なお、アンチリフト力FALは、制動力の大きさに対する感度がアンチダイブ力FADよりも高い。よって、アンチリフト力FALを効率的に発生させるためには、後輪制動力F2が大きくなるように回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを小さくすることが好ましい。ただし、前輪制動力F1に対して後輪制動力F2を過剰に大きくすると、前輪81では所定の減速スリップが発生していないにもかかわらず後輪82では所定の減速スリップが発生する事象、すなわち後輪先行ロックが発生する可能性がある。このため、制動時における車両90の挙動の安定性を確保するためには、こうした事象が発生しないように回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを調整するとよい。
【0043】
続いて、図3を用いて、回生比率αを調整するための処理について説明する。図3は、制動制御装置10が実行する処理の流れを示す。制動制御装置10は、車両90の制動中において車両90が停止するまでの間、本処理ルーチンを繰り返し実行する。
【0044】
制動制御装置10は、本処理ルーチンを開始すると、まず、ステップS101において、車速VSが車速判定値VSth以下であるか否かを判定する。車速判定値VSthは、車両90が停止する直前であるかを判定するための閾値である。車速VSが車速判定値VSth以下である場合、モータジェネレータ61Fおよびモータジェネレータ61Rの回転速度が低くなり、回生制動力の制御性が著しく低下する可能性がある。よって、車速判定値VSthは、いわゆる低速すり替え制御の開始タイミングを決めるための閾値ともいえる。車速VSが車速判定値VSth以下である場合(S101:YES)、制動制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0045】
ステップS102では、制動制御装置10は、配分比率導出部12に配分比率を導出させる。ここでは、制動制御装置10は、回生比率αを「0」に向けて徐々に減少させるように配分比率導出部12に配分比率の導出態様を変更させる。そして、制動制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0046】
なお、ステップS102の処理で回生比率αが減少されると、制動制御部13による回生制動装置60および摩擦制動装置70の制御によって、車両90に付与されている制動力について回生制動力から摩擦制動力へのすり替えが行われる。これによって、摩擦制動力が増大される。
【0047】
一方、ステップS101の処理において、車速VSが車速判定値VSthよりも大きい場合(S101:NO)、制動制御装置10は、処理をステップS103に移行する。
ステップS103では、制動制御装置10は、車両運動判定部11によって姿勢制御優先判定が出力されているか否かを判定する。姿勢制御優先判定がある場合(S103:YES)、制動制御装置10は、処理をステップS104に移行する。
【0048】
ステップS104では、制動制御装置10は、配分設定用減速度DVAを導出する。制動制御装置10は、制動操作部材92の操作量から導出できる車両90の目標前後加速度GxTを用いて、目標前後加速度GxTから記憶加速度Gxbを減算した値を配分設定用減速度DVAとして導出する。たとえば、目標前後加速度GxTは、制動操作部材92の操作量が多いほど目標前後加速度GxTの絶対値が大きくなるように導出される。記憶加速度Gxbは、後述するステップS109の処理によって記憶される値である。記憶加速度Gxbが記憶されていない場合には、目標前後加速度GxTの値が配分設定用減速度DVAとなる。もちろん、上記の様に配分設定用減速度DVAとして導出する際には、制動制御装置10による演算処理に応じて、目標前後加速度GxTから記憶加速度Gxbを減算した値および目標前後加速度GxTと、配分設定用減速度DVAとの間の正負の整合も適宜処理される。その後、制動制御装置10は、処理をステップS105に移行する。
【0049】
ステップS105では、制動制御装置10は、配分設定用減速度DVAに基づいて配分比率導出部12に配分比率を導出させる。ここでは、制動制御装置10は、回生比率αを小さく保持するように配分比率導出部12に配分比率の導出態様を変更させる。たとえば、配分比率導出部12は、回生比率αを「0」に保持する。そして、制動制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0050】
なお、ステップS105の処理で回生比率αが設定されると、回生比率αに基づいて、制動制御部13によって回生制動装置60および摩擦制動装置70が制御される。回生比率αが「0」である場合、制動制御部13によって、回生制動力が車両90に付与されず摩擦制動力のみが車両90に付与されるようになる。
【0051】
一方、ステップS103の処理において、姿勢制御優先判定がない場合(S103:NO)、制動制御装置10は、処理をステップS106に移行する。ステップS106では、制動制御装置10は、回生制動力BFRが上限回生制動力BFRTよりも小さいか否かを判定する。上限回生制動力BFRTは、目標車両制動力BFTおよび限界回生値BFRLのうち小さい方の値が設定される。限界回生値BFRLとは、モータジェネレータ61F,61Rによって発電された電力が充電されるバッテリの空き容量が十分に確保されているときに二つのモータジェネレータ61F,61Rによって車両90に付与することが可能な回生制動力の最大値である。なお、限界回生値BFRLは、バッテリの温度などによって増減することがある。
【0052】
ステップS106の処理において、回生制動力BFRが上限回生制動力BFRT以上である場合(S106:NO)、制動制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。この場合には、ステップS106の処理が行われた時点で導出されている回生比率αが保持されることになる。
【0053】
一方、ステップS106の処理において、回生制動力BFRが上限回生制動力BFRTよりも小さい場合(S106:YES)、制動制御装置10は、処理をステップS107に移行する。ステップS107では、制動制御装置10は、ステップS104の処理と同様に配分設定用減速度DVAを導出する。その後、制動制御装置10は、処理をステップS108に移行する。
【0054】
ステップS108では、制動制御装置10は、配分設定用減速度DVAに基づいて配分比率導出部12に配分比率を導出させる。ここでは、制動制御装置10は、回生比率αを増大させるように配分比率導出部12に配分比率の導出態様を変更させる。そして、制動制御装置10は、配分比率導出部12に配分比率の導出態様を変更させると、処理をステップS109に移行する。
【0055】
なお、ステップS108の処理で回生比率αが増大されると、制動制御部13による回生制動装置60および摩擦制動装置70の制御によって、車両90に付与されている制動力について摩擦制動力から回生制動力へのすり替えが行われる。
【0056】
ステップS109では、制動制御装置10は、ステップS108の処理後における前後加速度Gxを取得して、記憶加速度Gxbとして記憶する。その後、制動制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。なお、制動制御装置10は、車両90への制動力の付与が解消されると、メモリから記憶加速度Gxbを消去する。
【0057】
図3に示す処理ルーチンにおけるステップS105の処理のように回生比率αが小さく保持される場合、目標車両制動力BFTが増大しているとしても回生制動力BFRが大きくなりにくく摩擦制動力BFPが大きくなりやすい。すなわち、ステップS105の処理によって導出された配分比率にしたがって制動制御部13が回生制動装置60および摩擦制動装置70を制御する処理が、「前記車輪に付与する摩擦制動力が当該車輪に付与する回生制動力よりも大きくなるように前記車輪に付与する摩擦制動力を増大させる制動力付与処理」に対応する。
【0058】
ステップS108の処理のように回生比率αが徐々に増大される場合、摩擦制動力BFPが減少される一方で回生制動力BFRが増大される。すなわち、ステップS108の処理によって導出された配分比率にしたがって制動制御部13が回生制動装置60および摩擦制動装置70を制御する処理が、「前記制動力付与処理の実行後において、前記車輪に付与する摩擦制動力の少なくとも一部を回生制動力にすり替えて当該車輪に付与する回生制動力を増大させるすり替え処理」に対応する。
【0059】
ステップS106の処理において回生制動力BFRが上限回生制動力BFRT以上である場合に、保持されている回生比率αにしたがって制動制御部13が回生制動装置60および摩擦制動装置70を制御する処理は、「前記すり替え処理の実行後に実施する処理として、前記目標車両制動力のうち前記車輪に付与する摩擦制動力の割合、および、前記目標車両制動力のうち当該車輪に付与する回生制動力の割合を保持させる保持処理」に対応する。
【0060】
また、ステップS102の処理のように回生比率αが「0」に向けて徐々に減少される場合、回生制動力BFRが減少される一方で摩擦制動力BFPが増大される。すなわち、ステップS102の処理によって導出された配分比率にしたがって制動制御部13が回生制動装置60および摩擦制動装置70を制御する処理は、車輪に付与する回生制動力を摩擦制動力にすり替えて当該車輪に付与する摩擦制動力を増大させる低速すり替え処理と云える。
【0061】
本実施形態の作用および効果について説明する。
まず、目標車両制動力BFTが限界回生値BFRL以下である場合の例について図4および図5を用いて説明する。
【0062】
図4は、比較例の制動制御装置が適用される車両に付与される制動力の推移を示す。図4に示す比較例の制動制御装置では、車両制動の開始から上記低速すり替え制御が開始されるまで回生比率αが「1」である。図4に示す例では、図4の(a)に示すようにタイミングt11からタイミングt12まで目標車両制動力BFTが増加している。そして、タイミングt12以降では、目標車両制動力BFTが保持される。タイミングt11以降では車両が減速するため、図4の(b)に示すように、前後加速度Gxが負の値となっている。タイミングt15よりも後では、車両が停止するため、前後加速度Gxが「0」になっている。図4の(c)に示すように、ピッチレートPrは、制動が開始されたタイミングt11からタイミングt12までの間において正の値となっている。タイミングt15以降では、車両の停止に伴って揺り戻しが発生している。
【0063】
比較例の制動制御装置では、図4の(d)に示すように、制動が開始されるタイミングt11において回生比率αが「1」である。このため、図4の(f)に示すように回生制動力BFRが増加する一方で、図4の(h)に示すように摩擦制動力BFPが付与されない。その結果、この場合では、前輪回生制動力BFRf由来のアンチダイブ力FAD、および、後輪回生制動力BFRr由来のアンチリフト力FALを車両に発生させることはできる。しかし、前輪摩擦制動力BFPf由来のアンチダイブ力FAD、および、後輪摩擦制動力BFPr由来のアンチリフト力FALを車両に発生させることはできない。
【0064】
タイミングt14からタイミングt15の期間では、図4の(f)および(h)に示すように、低速すり替え処理によって回生制動力BFRが摩擦制動力BFPにすり替えられている。
【0065】
なお、図4の(e)および(g)に示すように、回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γは、前輪側の制動力が大きくなるように設定されている。このため、図4の(f)に示すように、一点鎖線で示す前輪回生制動力BFRfが二点鎖線で示す後輪回生制動力BFRrよりも大きい。また、図4の(h)に示すように、一点鎖線で示す前輪摩擦制動力BFPfが二点鎖線で示す後輪摩擦制動力BFPrよりも大きい。
【0066】
図5は、本実施形態の制動制御装置10が適用される車両90に付与される制動力の推移を示す。なお、図5の(c)~(h)には、図4の(c)~(h)に示した比較例の場合の推移を破線で示している。
【0067】
図5の(a)に示すように、タイミングt21から目標車両制動力BFTが増加している。タイミングt22以降では、目標車両制動力BFTが保持されている。
制動制御装置10では、タイミングt21において、車両制動が開始されたときに姿勢変化量が判定値以上になると判定され、姿勢制御優先判定が出力される。そして、姿勢制御優先判定があることによって(S103:YES)、回生比率αが小さく保持される(S105)。このとき、図5に示す例では、図5の(d)に実線で示すように回生比率αとして「0」が設定される。このようにステップS105の処理で回生比率αが設定されるようになると、制動力付与処理が実行される。
【0068】
この結果、図5の(f)に実線で示すように、制動が開始されるタイミングt21からタイミングt22までの期間では、回生制動力BFRが車両に付与されない。一方で、図5の(h)に実線で示すように、当該期間では、摩擦制動力BFPが車両に付与される。すなわち、制動制御装置10によれば、図4に示した比較例のように制動開始時に付与される回生制動力BFRに替えて摩擦制動力BFPが車両90に付与される。図5に示す例では、図5の(g)に示すように摩擦前輪比率γとして「0」よりも大きく「1」未満の値が設定されている。そのため、前輪81および後輪82の両方に摩擦制動力が付与される。一方、回生比率αが「0」であるため、前輪81および後輪82のいずれにも回生制動力が付与されない。したがって、前輪回生制動力BFRf由来のアンチダイブ力FAD、および、後輪回生制動力BFRr由来のアンチリフト力FALを車両に発生させることはできないものの、前輪摩擦制動力BFPf由来のアンチダイブ力FAD、および、後輪摩擦制動力BFPr由来のアンチリフト力FALを車両に発生させることはできる。
【0069】
後輪摩擦制動力BFPr由来のアンチリフト力FALは、後輪回生制動力BFRr由来のアンチリフト力FALよりも大きい。前輪摩擦制動力BFPf由来のアンチダイブ力FADは、前輪回生制動力BFRf由来のアンチダイブ力FADよりも大きい。すなわち、摩擦制動力BFPが車両90に付与されることによって、車両90に発生させるピッチング抑制力を大きくすることができる。姿勢制御優先判定がある場合、すなわち、車両90の姿勢の変化量が大きいと予測される場合に、比較例の場合に比してピッチング抑制力を大きくできるため、図5の(c)に実線で示すように、破線で示す比較例の場合よりもピッチレートPrの変動を小さく抑えることができる。これによって、車両の姿勢の急激な変化を抑制できる。
【0070】
さらに、図5の(e)および(g)に示すように、回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γは、後輪側の制動力が大きくなるように設定されている。このため、図5の(f)に示すように、二点鎖線で示す後輪回生制動力BFRrが一点鎖線で示す前輪回生制動力BFRfよりも大きい。さらに、タイミングt21からタイミングt22までの期間では、後輪回生制動力BFRrの増大速度が前輪回生制動力BFRfの増大速度よりも高い。また、図5の(h)に示すように、二点鎖線で示す後輪摩擦制動力BFPrが一点鎖線で示す前輪摩擦制動力BFPfよりも大きい。さらに、タイミングt21からタイミングt22までの期間、および、タイミングt24からタイミングt25までの期間では、後輪摩擦制動力BFPrの増大速度が前輪摩擦制動力BFPfの増大速度よりも高い。これによって、車両90に発生させるアンチリフト力FALを大きくしやすく、車両90に効率的にピッチング抑制力を付与することができる。すなわち、車両90の姿勢変動を抑制しやすい。
【0071】
また、図5に示す例では、タイミングt22において姿勢制御優先判定の出力が停止されている。すなわち、姿勢変化量が判定値未満であると判定されるようになる。このため、タイミングt22以降では、姿勢制御優先判定がなく(S103:NO)、回生制動力BFRが上限回生制動力BFRTよりも小さいことによって(S106:YES)、図5の(d)に実線で示すように、タイミングt22から回生比率αの増大が開始される(S108)。すなわち、摩擦制動力BFPから回生制動力BFRへのすり替え処理が実行される。
【0072】
この結果、図5の(h)に実線で示すように、タイミングt22以降では摩擦制動力BFPが徐々に減少される。一方で、図5の(f)に実線で示すように、タイミングt22以降で回生制動力BFRが徐々に増大される。なお、図5に示す例では、タイミングt23において摩擦制動力BFPが「0」まで減少している。
【0073】
タイミングt23において回生制動力BFRが上限回生制動力BFRTに到達すると(S106:NO)、摩擦制動力BFPから回生制動力BFRへのすり替え処理が終了されて、保持処理が実行される。このため、図5の(d)に実線で示すように、タイミングt23以降では、回生比率αが保持される。
【0074】
摩擦制動力BFPから回生制動力BFRへのすり替え処理、および、保持処理が実行される結果、回生制動力BFRの車両への付与によって回生を用いてエネルギを回収することができる。姿勢制御優先判定がない場合、すなわち、車両90の姿勢の変化量が小さいと予測される場合には、各モータジェネレータ61F,61Rの発電量を多くできるため、車両制動時における回生を用いたエネルギの回収効率を高くすることができる。
【0075】
また、タイミングt24からタイミングt25の期間では、図5の(f)および(h)に示すように、低速すり替え処理によって回生制動力BFRが摩擦制動力BFPにすり替えられる。これにより前輪摩擦制動力BFPf由来のアンチダイブ力FAD、および、後輪摩擦制動力BFPr由来のアンチリフト力FALを車両に発生させて車両のピッチ角を適切に抑制できるため、車両の停止によってピッチ角が停止時の角度に戻ることによる揺り返しが小さくなる。
【0076】
さらに、配分比率導出部12では、車両のピッチング運動を抑制するように回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γが調整される。摩擦制動力BFPから回生制動力BFRへのすり替え処理の実行時では、前輪摩擦制動力BFPfおよび後輪摩擦制動力BFPrが減少され、且つ、前輪回生制動力BFRfおよび後輪回生制動力BFRrが増大される。その結果、すり替え処理の開始前と、すり替え処理の終了後とにおいて、アンチダイブ力FADとアンチリフト力FALとの合計であるピッチング抑制力が変わるおそれがある。そこで、たとえば、すり替え処理の開始前とすり替え処理の終了後とでピッチング抑制力の変化量が許容範囲に収まるように、回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを調整するとよい。より具体的には、たとえば、すり替え処理の開始前に対し、制動力に対するピッチング抑制力の発生量の大きい後輪82の制動力が大きくなる方向に回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを調整するとよい。これによって、すり替え処理の実行に伴う車両の姿勢変化を抑制できる。
【0077】
同様に、回生制動力BFRから摩擦制動力BFPへのすり替えである低速すり替え処理であっても、低速すり替え処理の開始前と低速すり替え処理の終了後とでピッチング抑制力の変化量が許容範囲に収まるように、回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを調整するとよい。より具体的には、たとえば、すり替え処理の開始前に対し、制動力に対するピッチング抑制力の発生量の大きい後輪82の制動力が小さくなる方向に回生前輪比率βおよび摩擦前輪比率γを調整するとよい。これによって、低速すり替え処理の実行に伴う車両の姿勢変化を抑制できる。
【0078】
また、制動制御装置10では、配分比率が導出される際に目標前後加速度GxTから記憶加速度Gxbを減算した値である配分設定用減速度DVAが用いられる(S105およびS108)。このため、たとえば、タイミングt22以降のように目標車両制動力BFTが保持されている期間に、制動操作部材92の操作量が増大されるなどして目標車両制動力BFTが増大された場合には、目標車両制動力BFTの増大分を考慮して配分比率が導出される。これによって、車両制動中に目標車両制動力BFTが更に増大された場合でも、車両90のピッチング運動を抑制することができる。
【0079】
続いて、目標車両制動力BFTが限界回生値BFRLよりも大きい場合の例について図6および図7を用いて説明する。
図6は、比較例の制動制御装置が適用される車両に付与される制動力の推移を示す。図6に示す比較例の制動制御装置では、車両制動の開始から上記低速すり替え制御が開始されるまで、回生比率αは、「0」よりも大きく且つ「1」よりも小さい所定値で保持される。
【0080】
図6に示す例では、図6の(a)に示すように、タイミングt31からタイミングt32まで、目標車両制動力BFTが増加している。タイミングt32以降では、目標車両制動力BFTが保持されている。図6の(f)および(h)に示すように、回生制動力BFRだけでは目標車両制動力BFTに満たないため、回生制動力BFRに加えて摩擦制動力BFPが付与される。タイミングt34からタイミングt35の期間では、低速すり替え処理によって回生制動力BFRが摩擦制動力BFPにすり替えられ、摩擦制動力BFPがさらに増大される。
【0081】
図7は、本実施形態の制動制御装置10が適用される車両90に付与される制動力の推移を示す。なお、図7の(c)~(h)には、図6の(c)~(h)に示した比較例の場合の推移を破線で示している。
【0082】
制動が開始されるタイミングt41から制動力付与処理が実行される。制動力付与処理が実行される場合、図7に示す例では、図7の(d)に実線で示すように回生比率αが「0」である。この結果、図7の(f)に実線で示すように、タイミングt41から、すり替え処理が開始されるタイミングt42までの期間では、回生制動力BFRが車両に付与されない。一方で、図7の(h)に実線で示すように、当該期間では、摩擦制動力BFPが車両に付与される。
【0083】
図6に示した比較例では、前輪81および後輪82の各々には、回生制動力および摩擦制動力が付与される。これに対して、図7に示す例では、回生比率αが「0」であるため、前輪81および後輪82の各々には、回生制動力および摩擦制動力のうち摩擦制動力のみが付与される。このため、アンチダイブ力FADとアンチリフト力FALとの合計であるピッチング抑制力を、図6に示した比較例の場合よりも大きくできる。
【0084】
なお、図7に示す例では、目標車両制動力BFTが限界回生値BFRLよりも大きいため、図5に示す例と比較して目標車両制動力BFTが大きい。このため、図7に示す例における制動力付与処理では、図5に示す例よりも摩擦制動力BFPが大きく増大される。
【0085】
図7に示す例では、タイミングt42において姿勢制御優先判定の出力が停止される。このため、タイミングt42以降では、姿勢制御優先判定がなく(S103:NO)、回生制動力BFRが上限回生制動力BFRTよりも小さいことによって(S106:YES)、図7の(d)に実線で示すように、タイミングt42から回生比率αが増大される(S108)。このため、摩擦制動力BFPから回生制動力BFRへのすり替え処理が実行される。
【0086】
この結果、図7の(h)に実線で示すように、タイミングt42以降では摩擦制動力BFPが徐々に減少される。一方で、図7の(f)に実線で示すように、タイミングt42以降で回生制動力BFRが徐々に増大される。
【0087】
図7に示す例では、目標車両制動力BFTが限界回生値BFRLよりも大きいため、上限回生制動力BFRTとして、限界回生値BFRLが設定されている。図7に示す例におけるすり替え処理では、目標車両制動力BFTと上限回生制動力BFRTとの差分を摩擦制動力BFPによって補うように、配分比率導出部12によって配分比率が導出される。この結果、図7の(h)に一点鎖線で示すように、タイミングt43において前輪摩擦制動力BFPfが「0」まで減少されるが、二点鎖線で示すように、タイミングt43以降においても後輪摩擦制動力BFPrの付与が継続される。また、図7の(f)に示すように、回生制動力としては後輪回生制動力BFRrが付与されずに一点鎖線で示す前輪回生制動力BFRfのみが付与されている。
【0088】
タイミングt44からタイミングt45の期間では、停止時すり替え処理によって回生制動力BFRが摩擦制動力BFPにすり替えられている。本実施形態では、図7のようにタイミングt44から前輪回生制動力BFRfが「0」まで低下し、代わって、タイミングt44から前輪摩擦制動力BFPfが増加している。一方、後輪回生制動力BFRrはタイミングt44で既に「0」であるため、後輪摩擦制動力BFPrはタイミングt44以降もタイミングt44での制動力が維持されている。
【0089】
制動制御装置10によれば、タイミングt41からタイミングt42までの期間では、車両90の姿勢の変化量が大きいと予測されるため、回生制動力BFRよりも摩擦制動力BFPが増大するように車両90に制動力が付与される。これによってピッチング抑制力を大きくできる分、図7の(c)に実線で示すように、破線で示す図6の比較例の場合と比較して、ピッチレートPrを小さく抑えることができる。すなわち、車両の姿勢の急激な変化を抑制できる。
【0090】
さらに、後輪摩擦制動力BFPrおよび後輪回生制動力BFRrが大きくなるように配分比率が導出されることによって、図6に示す例と比較してアンチリフト力FALを大きく発生させることができる。これによってもピッチレートPrを小さく抑えることができる。
【0091】
このように、制動制御装置10によれば、目標車両制動力BFTが大きい場合でも、車両制動時における車両90のピッチング運動の抑制と、回生を用いたエネルギの回収効率の向上との両立が可能である。
【0092】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・制動制御装置10が搭載される車両として、アンチリフト力FALよりもアンチダイブ力FADが大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されていることがある。この場合、アンチダイブ力FADが「第1力」に対応し、アンチリフト力FALが「第2力」に対応する。前輪81が「第1車輪」に対応し、後輪82が「第2車輪」に対応する。このような車両にあっては、前輪制動力を後輪制動力よりも大きく付与するようにすることで、上記実施形態と同様に、車両制動時における車両のピッチング運動を抑制することができる。より詳しくは、制動力付与処理では、前輪回生制動力BFRfを後輪回生制動力BFRrよりも大きくすることによって、ピッチング抑制力を大きくすることができ、ひいては車両制動時における車両のピッチング運動を抑制することができる。
【0093】
・上記実施形態では、制動力付与処理において導出する回生比率αを「0」にする例を示した。車両90のピッチング運動を抑制することができるのであれば、制動力付与処理の実行中において車両90に付与する摩擦制動力BFPの一部を回生制動力BFRとして車両90に付与してもよい。すなわち、制動力付与処理における回生比率αは、「0」であることに限らない。たとえば、図4の比較例におけるタイミングt11からタイミングt12までの期間における回生比率よりも小さい範囲に回生比率αを設定したり、図6の比較例におけるタイミングt31からタイミングt32までの期間における回生比率よりも小さい範囲に回生比率αを設定したりすることができる。制動力付与処理の実行中においても回生制動力BFRを付与することができれば、回生を用いたエネルギの回収効率をさらに向上させることができる。
【0094】
・摩擦制動力BFPから回生制動力BFRへのすり替え処理においては、当該すり替え処理中における摩擦制動力BFPの減少速度を変更してもよい。たとえば、制動力付与処理によって摩擦制動力BFPを増大させるのに要する時間よりも、すり替え処理によって摩擦制動力BFPを減少させるのに要する時間が長くなるように、摩擦制動力BFPの減少速度を変更することができる。この場合、すり替え処理の開始時におけるピッチング抑制力と、すり替え処理の終了後におけるピッチング抑制力との間に乖離があったとしても、すり替え処理の実行に伴う車両の姿勢の変化を抑制しやすくなる。
【0095】
・上記実施形態では、車両90のピッチング運動に関する指標に基づいて姿勢変化量が判定値以上になるか否かを判定して、姿勢変化量が判定値以上になると判定されたときには、制動力付与処理が実行される。また、姿勢変化量が判定値以上になると判定された状態から、姿勢変化量が判定値よりも小さいと判定される状態に移行すると、すり替え処理が実行されるようになっている。しかし、すり替え処理を開始するタイミングは、これに限らない。たとえば、制動力付与処理の実行中において、姿勢変化量が判定値よりも小さいと判定される状態になった場合、当該状態の継続時間が所定時間に達したことを契機に、すり替え処理を開始するようにしてもよい。
【0096】
また、たとえば、目標車両制動力BFTが増大していると判定されたときには、制動力付与処理を実行して、目標車両制動力BFTが増大していると判定された状態から目標車両制動力BFTが増大していないと判定される状態に移行すると、すり替え処理を実行するようにしてもよい。
【0097】
また、たとえば、目標車両制動力BFTの増大が開始された場合、増大の開始時点から所定時間が経過するまでは制動力付与処理を実行して、所定時間の経過後からは、すり替え処理を実行するようにしてもよい。
【0098】
・制動制御装置10は、制動操作部材92の操作量にかかわらず目標車両制動力BFTを設定して車両90に制動力を付与する制動支援制御を実行する機能を備えていてもよい。制動支援制御による車両制動時においても、図3に示した処理ルーチンの実行を通じて上記実施形態と同様に配分比率の調整を行うことによって、車両制動時における車両90のピッチング運動の抑制と、回生を用いたエネルギの回収効率の向上との両立が可能である。
【0099】
また、車両によっては、一つの操作部材の操作によって、車両の加減速度を調整できる機能を有するものがある。このような車両にも制動制御装置10を適用することができる。この場合、当該操作部材の操作によって車両に対して減速が要求された場合、減速度の要求値に応じた目標車両制動力BFTが導出され、この目標車両制動力BFTに基づいて回生制動装置60および摩擦制動装置70が制御される。このような際でも図3に示した処理ルーチンを実行することによって、上記実施形態と同様に配分比率の調整を行うことができる。その結果、車両制動時における車両のピッチング運動の抑制と、回生を用いたエネルギの回収効率の向上との両立が可能である。
【0100】
・上記実施形態における車両90は、前輪81用のモータジェネレータ61Fと後輪82用のモータジェネレータ61Rとを備えており前輪81および後輪82に回生制動力を付与できる。制動制御装置10を適用する車両は、前輪81および後輪82のうち少なくとも一方の車輪に回生制動力を付与する回生制動装置を備えていればよい。
【符号の説明】
【0101】
10…制動制御装置
11…車両運動判定部
12…配分比率導出部
13…制動制御部
14…制御量導出部
60…回生制動装置
61F,61R…モータジェネレータ
70…摩擦制動装置
71…液圧発生装置
72…制動アクチュエータ
73F,73R…摩擦制動機構
81…前輪
82…後輪
90…車両
91…車体
92…制動操作部材
96…車輪速センサ
97…ストロークセンサ
98…ピッチレートセンサ
99…周辺監視装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7