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特許7404904転がり軸受の製造方法、並びに機械及び車両の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】転がり軸受の製造方法、並びに機械及び車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 43/08 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
F16C43/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020016544
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021124141
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】春日 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】山上 博
(72)【発明者】
【氏名】荒木 博司
(72)【発明者】
【氏名】松橋 秋生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】一ノ宮 和慶
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許発明第00393053(FR,A)
【文献】特開2018-146115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 43/00-43/08
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
B23P 19/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪とを互いに偏心させて配置して、前記内輪と前記外輪との間に環状空間を形成する内外輪配置工程と、
前記環状空間に複数の転動体を装填する一次玉入れ工程と、
前記環状空間に沿う断面円弧状のスペーサを、前記内輪と前記外輪の軸方向から前記環状空間に挿入して、前記転動体を前記スペーサの挿入位置から周方向にずらすスペーサ挿入工程と、
前記環状空間における前記スペーサの挿入位置の径方向反対側に、前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面に当接させる当接面を有する拡張治具を挿入し、前記拡張治具の前記当接面によって少なくとも前記内輪と前記外輪の一方を径方向に押圧して、前記拡張治具による加圧力の作用線上に前記転動体を配置させずに前記環状空間を押し拡げる拡張工程と、
前記拡張治具によって押し拡げた前記環状空間に、前記拡張治具の周方向両脇から前記転動体を装填する二次玉入れ工程と、
を含む転がり軸受の製造方法。
【請求項2】
前記拡張工程において、前記内輪と前記外輪の少なくとも一方の前記拡張治具との当接箇所を弾性変形させる請求項1に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項3】
前記スペーサ挿入工程では、前記環状空間に装填した前記転動体を前記スペーサの前記円弧の両脇に振り分けながら前記スペーサを前記環状空間に挿入して、前記拡張工程で前記内輪と前記外輪を押し拡げる箇所の径方向反対側の対応位置から前記転動体を除去する請求項1又は2に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項4】
前記スペーサは、前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面の少なくとも一方に隙間を有して配置される請求項3に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項5】
前記スペーサ挿入工程で、前記一次玉入れ工程により前記環状空間に装填された前記転動体を前記スペーサの両脇に振り分ける数を、
前記環状空間に装填する前記転動体の規定数が偶数である場合には、前記両脇の一方と他方とで同数に設定し、
前記環状空間に装填する前記転動体の規定数が奇数である場合には、前記両脇の一方よりも他方を一つ多く設定する請求項1~4のいずれか1項に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項6】
前記拡張治具は、前記内輪及び前記外輪へ向かって互いに反対方向へ移動自在に支持された複数の拡張部材を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項7】
前記拡張治具は、前記環状空間の周方向に沿って配列される3つの前記拡張部材を有し、周方向両端に配置される一対の拡張部材と、周方向中央の拡張部材とを、互いに径方向に沿って反対側へ移動させて前記内輪と前記外輪とを押し拡げる請求項6に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項8】
前記拡張部材は、前記内輪の外周面に沿った形状の当接面、及び前記外輪の内周面に沿った形状の当接面の少なくとも一方を有する請求項6又は7に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項9】
前記拡張部材は、その長手方向に直交する断面視で、前記内輪の外周面へ向かって突出する円弧状の当接面と、前記外輪の内周面へ向かって突出する円弧状の当接面との少なくとも一方を有する請求項6~8のいずれか1項に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項10】
前記拡張治具は、径方向に一対の拡張部材が設けられ、
前記一対の拡張部材同士の対向面は、それぞれ径方向から傾斜した互いに平行な面である請求項6に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項11】
前記拡張治具は、長手方向に直交する断面が楕円形状の拡張部材を有し、
前記拡張部材を、前記楕円形状の長軸と短軸の交点の軸を中心に回転させることにより、前記長軸の両端部分の外周面で前記内輪及び前記外輪を押圧する請求項1~5のいずれか1項に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項12】
内輪と外輪とを互いに偏心させて配置して、前記内輪と前記外輪との間に環状空間を形成する内外輪配置工程と、
前記環状空間に複数の転動体を装填する一次玉入れ工程と、
前記環状空間に沿う断面円弧状のスペーサを、前記内輪と前記外輪の軸方向から前記環状空間に挿入するスペーサ挿入工程と、
前記環状空間における前記スペーサの挿入位置の径方向反対側に、前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面に当接させる当接面を有する拡張治具を挿入し、前記拡張治具の前記当接面によって少なくとも前記内輪と前記外輪の一方を押圧して前記環状空間を押し拡げる拡張工程と、
前記拡張治具によって押し拡げた前記環状空間に、前記拡張治具の周方向両脇から前記転動体を装填する二次玉入れ工程と、
を含み、
前記拡張治具は、前記内輪及び前記外輪へ向かって互いに反対方向へ移動自在に支持された複数の拡張部材を有し、
前記拡張治具は、前記環状空間の周方向に沿って配列される3つの前記拡張部材を有し、周方向両端に配置される一対の拡張部材と、周方向中央の拡張部材とを、互いに径方向に沿って反対側へ移動させて前記内輪と前記外輪とを押し拡げる、
軸受の製造方法。
【請求項13】
内輪と外輪とを互いに偏心させて配置して、前記内輪と前記外輪との間に環状空間を形成する内外輪配置工程と、
前記環状空間に複数の転動体を装填する一次玉入れ工程と、
前記環状空間に沿う断面円弧状のスペーサを、前記内輪と前記外輪の軸方向から前記環状空間に挿入するスペーサ挿入工程と、
前記環状空間における前記スペーサの挿入位置の径方向反対側に、前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面に当接させる当接面を有する拡張治具を挿入し、前記拡張治具の前記当接面によって少なくとも前記内輪と前記外輪の一方を押圧して前記環状空間を押し拡げる拡張工程と、
前記拡張治具によって押し拡げた前記環状空間に、前記拡張治具の周方向両脇から前記転動体を装填する二次玉入れ工程と、
を含み、
前記拡張治具は、前記内輪及び前記外輪へ向かって互いに反対方向へ移動自在に支持された複数の拡張部材を有し、
前記拡張治具は、径方向に一対の拡張部材が設けられ、
前記一対の拡張部材同士の対向面は、それぞれ径方向から傾斜した互いに平行な面である、
転がり軸受の製造方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の転がり軸受の製造方法を用いて機械を製造する機械の製造方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載の転がり軸受の製造方法を用いて車両を製造する車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の製造方法、並びに機械及び車両の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
玉軸受の内外輪間に複数の玉を装填する技術が知られている。例えば、予め外輪と内輪とを相対的に偏心させて配置し、外輪と内輪との間に形成された略三角形状の隙間に玉を順次挿入する。そして、最後の玉を挿入する際、又は最後の玉を挿入した後、外輪と内輪との偏心方向に沿って外輪が弾性変形するように、外輪の径方向両側から一対の加圧部材を外輪の外周面に接触させて加圧する方法がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
また、外輪及び内輪に切欠きを形成し、これらの切欠きの位置を合わせることによって形成される転動体挿入孔から転動体を挿入して、内外輪の間に装填する技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
また、内輪を外輪に対して傾け、この状態で内輪を外輪に向けて相対的に移動させて内輪の肩を外輪の軌道みぞに挿入し、次いで、挿入位置の径方向反対側で内輪と外輪との間に形成された玉径より大きい開口部から外輪の軌道みぞに沿って順次玉を挿入する装填方法もある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-68985号公報
【文献】特開2006-177507号公報
【文献】特開2008-240831号公報
【文献】特開平10-213147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、転がり軸受の生産効率を向上させるには、内輪と外輪との間の環状空間へ転動体を短時間に挿入することが重要である。しかし、上記特許文献1~4の技術では、一度に多くの転動体を環状空間へ挿入するには、軸受の種類によっては手間がかかる場合もあり、そのため、より高効率に転動体を装填することが可能な転がり軸受の製造方法が望まれていた。
【0007】
そこで本発明は、内輪と外輪との間の環状空間へ転動体を高効率で装填できる転がり軸受の製造方法、並びに機械及び車両の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) 内輪と外輪とを互いに偏心させて配置して、前記内輪と前記外輪との間に環状空間を形成する内外輪配置工程と、
前記環状空間に複数の転動体を装填する一次玉入れ工程と、
前記環状空間に沿う断面円弧状のスペーサを、前記内輪と前記外輪の軸方向から前記環状空間に挿入するスペーサ挿入工程と、
前記環状空間における前記スペーサの挿入位置の径方向反対側に、前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面に当接させる当接面を有する拡張治具を挿入し、前記拡張治具の前記当接面によって少なくとも前記内輪と前記外輪の一方を押圧して前記環状空間を押し拡げる拡張工程と、
前記拡張治具によって押し拡げた前記環状空間に、前記拡張治具の周方向両脇から前記転動体を装填する二次玉入れ工程と、
を含む転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、一次玉入れ工程で環状空間に複数の転動体を装填した後に、環状空間にスペーサを挿入して転動体をスペーサの両脇に振り分ける。そして、スペーサの挿入位置の径方向反対側で環状空間を拡張治具で押し拡げ、拡張治具の周方向両脇から残りの転動体をそれぞれ装填する。したがって、環状空間へ規定数の転動体を迅速に高効率で装填でき、サイクルタイムを短縮でき、転がり軸受の生産効率を向上させることができる。また、環状空間へ転動体を挿入する工程が自動化しやすくなる。
【0009】
(2) 前記拡張工程において、前記内輪と前記外輪の少なくとも一方の前記拡張治具との当接箇所を弾性変形させる(1)に記載の転がり軸受の製造方法。
【0010】
(3) 前記スペーサ挿入工程では、前記環状空間に装填した前記転動体を前記スペーサの前記円弧の両脇に振り分けながら前記スペーサを前記環状空間に挿入して、前記拡張工程で前記内輪と前記外輪を押し拡げる箇所の径方向反対側の対応位置から前記転動体を除去する(1)又は(2)に記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、環状空間におけるスペーサの配置領域では、スペーサによって転動体が周方向に押し出されて存在しない。そのため、拡張工程で内輪と外輪とを押し拡げる際の押圧力は、スペーサの配置領域の両脇に配置された複数の転動体に分散され、一箇所に応力集中することが抑制される。これにより、拡張工程において、拡張箇所の径方向反対側で内輪と外輪との間に転動体が挟まれることによる圧痕の発生を抑制できる。
【0011】
(4) 前記スペーサは、前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面の少なくとも一方に隙間を有して配置される(3)に記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、拡張治具による内輪と外輪との拡張時に、スペーサに加圧力が付与されることがなく、スペーサの損傷を防止できる。
【0012】
(5) 前記スペーサ挿入工程で、前記一次玉入れ工程により前記環状空間に装填された前記転動体を前記スペーサの両脇に振り分ける数を、
前記環状空間に装填する前記転動体の規定数が偶数である場合には、前記両脇の一方と他方とで同数に設定し、
前記環状空間に装填する前記転動体の規定数が奇数である場合には、前記両脇の一方よりも他方を一つ多く設定する(1)~(4)のいずれか1つに記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、環状空間に装填する転動体の規定数が偶数か奇数かに応じて、スペーサの両脇における転動体の振り分け数を変更する。これにより、二次玉入れ工程の玉入れを、拡張治具の両脇から装填する転動体の数をそれぞれ同数にもできる。そのため、玉入れ工程がスペーサの両脇で同時に完了し、タクトアップ(サイクルタイムの短縮)が図れる。
【0013】
(6) 前記拡張治具は、前記内輪及び前記外輪へ向かって互いに反対方向へ移動自在に支持された複数の拡張部材を有する(1)~(5)のいずれか1つに記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、複数の拡張部材によって内輪及び外輪を円滑に押し拡げて環状空間を押し拡げることができる。
【0014】
(7) 前記拡張治具は、前記環状空間の周方向に沿って配列される3つの前記拡張部材を有し、周方向両端に配置される一対の拡張部材と、周方向中央の拡張部材とを、互いに径方向に沿って反対側へ移動させて前記内輪と前記外輪とを押し拡げる(6)に記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、周方向両端の一対の拡張部材で内輪又は外輪の一方を押圧し、周方向中央の拡張部材で内輪又は外輪に他方を押圧することができ、これにより、内輪及び外輪の姿勢を崩すことなく、バランスよく互いに反対側へ押圧して、環状空間を拡げることができる。
【0015】
(8) 前記拡張部材は、前記内輪の外周面に沿った形状の当接面、及び前記外輪の内周面に沿った形状の当接面の少なくとも一方を有する(6)又は(7)に記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、拡張部材によって環状空間を拡張させる際に、拡張部材の当接面が内輪の外周面と内輪の外周面との少なくとも一方に面接触する。これにより、拡張部材によって内輪と外輪を安定して押し拡げて環状空間を拡げることができる。
【0016】
(9) 前記拡張部材は、その長手方向に直交する断面視で、前記内輪の外周面へ向かって突出する円弧状の当接面と、前記外輪の内周面へ向かって突出する円弧状の当接面との少なくとも一方を有する(6)~(8)のいずれか1つに記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、拡張部材によって環状空間を拡げる際に、拡張部材の当接面が内輪の外周面及び外輪の内周面の少なくとも一方に線接触する。これにより、拡張工程において、内輪と外輪の姿勢を安定に保持しつつ、環状空間を拡げることができる。
【0017】
(10) 前記拡張治具は、径方向に一対の拡張部材が設けられ、
前記一対の拡張部材同士の対向面は、それぞれ径方向から傾斜した互いに平行な面である(6)に記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、拡張部材同士の対向面が、互いに傾斜しているため、一対の拡張部材同士を接近させて配置できる。そのため、環状空間の径方向幅が狭い場合でも、拡張部材を環状空間に挿入可能となり、拡張治具を、軸受サイズによらず適用自由度の高い構成にできる。
【0018】
(11) 前記拡張治具は、長手方向に直交する断面が楕円形状の拡張部材を有し、
前記拡張部材を、前記楕円形状の長軸と短軸の交点の軸を中心に回転させることにより、前記長軸の両端部分の外周面で前記内輪及び前記外輪を押圧する(1)~(5)のいずれか1つに記載の転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、拡張部材を、軸を中心に回転させることにより環状空間を簡単に拡げることができる。
【0019】
(12) (1)~(11)のいずれか1つに記載の転がり軸受の製造方法を用いる機械の製造方法。
(13) (1)~(11)のいずれか1つに記載の転がり軸受の製造方法を用いる車両の製造方法。
これらの機械、車両の製造方法によれば、内輪と外輪との間の環状空間に転動体が装填された転がり軸受を用いた機械、車両を高効率で製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、内輪と外輪との間の環状空間へ転動体を高効率で装填できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受の製造方法によって製造する転がり軸受の斜視図である。
図2】転がり軸受の製造方法における各工程を説明するフローチャートである。
図3】内外輪配置工程及び一次玉入れ工程を説明する斜視図である。
図4】一次玉入れ工程を説明する斜視図である。
図5】スペーサ挿入工程を説明する斜視図である。
図6】拡張工程及び二次玉入れ工程を説明する模式図である。
図7】拡張工程を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図8】奇数個の玉を装填する場合の拡張工程及び二次玉入れ工程を説明する模式図である。
図9】変形例1を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図10】変形例2を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図11】変形例3を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図12】変形例4を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図13】変形例5を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る製造方法が適用される転がり軸受の一例を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る転がり軸受の製造方法によって製造する転がり軸受の斜視図である。
【0023】
図1に示すように、転がり軸受10は、内輪1と、外輪3と、内輪1の円周溝1aと外輪3の円周溝3aとの間で転動する複数の玉(転動体)7とを有する。転がり軸受10は、内輪1と外輪3との間の環状空間5に複数の玉7が周方向に等間隔に配置され、保持器(図示略)によって玉7が保持される玉軸受である。
【0024】
本実施形態に係る製造方法は、この転がり軸受10の内輪1と外輪3との間の環状空間5に複数の玉7を入れて、玉7を周方向に沿って配置させる。
【0025】
次に、内輪1と外輪3との間に玉7を入れて転がり軸受10を製造する場合について、図2に示すフローチャートに沿って工程毎に説明する。ここでは、偶数個の玉7を有する転がり軸受10を製造する場合を例示する。
図3図7は、転がり軸受の製造方法における各工程を説明する図である。
【0026】
(内外輪配置工程)
図3に示すように、外輪3の内側に内輪1を配置させ、この内輪1と外輪3を平坦な作業面21に載置させる(ステップS1)。このとき、外輪3中心に対して内輪1中心を偏心させる。すると、内輪1と外輪3との間の環状空間5は、偏心方向の一方が拡がり、他方が狭まった状態となる。このとき、作業面21に設けられた樹脂製の台座23が、作業面21上における環状空間5の偏心方向の一方で拡がった側に配置されるように、外輪3及び内輪1を配置させる。台座23は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)等から成形され、内輪1、外輪3及び玉7への傷付きを防止している。この台座23は、平面視において、環状空間5の平面形状に相似した三日月形状に形成されている。台座23は、均等な厚さであってもよく、三日月形状の中央から両端へ向かって次第に高さが低くされていてもよい。また、作業面21は、環状空間5の偏心方向の一方側を上側にして、水平面から傾斜させてもよい。台座23の高さを変化させたり、作業面21を傾斜させたりすることで、以下に説明する玉7の挿入時に、玉7が自重によって環状空間5内を転がり移動するようになる。
【0027】
(一次玉入れ工程)
内輪1の円周溝1aと外輪3の円周溝3aとの間の環状空間5に玉7を入れる(ステップS2)。このとき、玉7を台座23の上に供給することで、玉7を環状空間5へ円滑に装填できる。また、台座23上の玉7は、手動により台座23の周方向中央部から両脇に向かって振り分けてもよく、上記した台座23の高さの変化や、作業面21の傾斜によって、玉7を自重によって転がり移動させてもよい。これにより、既に装填された玉7が邪魔にならずに、順次、玉7を環状空間5に連続して装填できる。そして、図4に示すように、環状空間5に装填された玉7は、環状空間5の一方で拡がった領域に収容される。
【0028】
(スペーサ挿入工程)
図5に示すように、内輪1と外輪3との間にスペーサ31を挿入する(ステップS3)。スペーサ31は、環状空間5に沿う断面円弧状に形成され、内輪1と外輪3の軸方向に沿って環状空間5に挿入される。具体的には、内輪1と外輪3との間の環状空間5が最も狭い位置にスペーサ31を押し込んで、内輪1と外輪3との偏心を徐々に小さくしながら、環状空間5に装填した玉7を左右に均等に振り分けた状態を維持しつつ、周方向の一方と他方とに振り分けた複数の玉7の列同士の間にスペーサ31を挿入する。本構成の場合、装填する玉7の総数は偶数であるので、左右均等に同数を振り分ける。このように、スペーサ31を環状空間5に挿入することで、玉7が、環状空間5内の玉7が周方向に移動して、内輪1と外輪3との間の少なくとも一方に隙間を有してスペーサ31が配置されるようになる。このとき、環状空間5のスペーサ31が配置される領域からは、玉7が除去される。
【0029】
スペーサ31は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)等の樹脂製であることで、内輪1、外輪3及び玉7の接触による傷付きを防止している。また、スペーサ31の挿入方向先端部は、挿入しやすいようにテーパ形状を有する先細り状に形成することが好ましい。
【0030】
ここで、スペーサ31を環状空間5に挿入する際、内輪1と外輪3を鉛直方向に起立させて(軸方向を水平方向にする)、環状空間5の最下位置にスペーサ31を挿入することが好ましい。その場合、一次玉入れ工程で環状空間5に装填された玉7が、最下位置に配置された
スペーサ31の周方向両脇に同数ずつ整列された状態になる。なお、内輪1と外輪3は、鉛直面に配置する以外にも、傾斜面上に配置してもよく、水平面上に配置してもよい。
【0031】
(拡張工程)
図6に示すように、環状空間5におけるスペーサ31の挿入位置の径方向反対側に、拡張治具33を挿し込み、この拡張治具33によって、環状空間5におけるスペーサ13の挿入位置の径方向反対側を、径方向に押し拡げる(ステップS4)。つまり、内輪1の円周溝1a及び外輪3の円周溝3aに当接させる当接面を有する拡張治具33を環状空間5に挿入し、拡張治具33の当接面によって少なくとも内輪1と外輪の3一方を押圧して環状空間5を押し拡げる。ここで示す拡張治具33は、互いに反対方向に移動自在に支持された一対の拡張部材35,37を有する。図7に示すように、拡張部材35,37は、内輪1及び外輪3に対して互いに径方向に沿って反対側へスライドされる。具体的には、拡張治具33は、一方の拡張部材35が径方向内方(図7中矢印A方向)へ移動して、内輪1の円周溝1aに当接して内輪1を径方向内方へ押圧する。また、他方の拡張部材37が径方向外方(図7中矢印B方向)へ移動して、外輪3の円周溝3aに当接して外輪3を径方向外方へ押圧する。これにより、内輪1及び外輪3と拡張部材37との当接箇所が弾性変形して、拡張治具33が挿し込まれた側の環状空間5の径方向寸法が拡張される。なお、内輪1を径方向内方へ押圧する拡張部材35は、内輪1の円周溝1aに沿った形状の当接面35aを有しており、外輪3を径方向外方へ押圧する拡張部材37は、外輪3の円周溝3aに沿った形状の当接面37aを有している。なお、拡張治具33の構成は上記例に限らない。
【0032】
一次玉入れ工程で環状空間5に既に装填された玉7は、スペーサ31によって周方向に振り分けられ、拡張治具33による拡張箇所の径方向反対側の対応位置(環状空間5の最下位置)から周方向に離隔されている。拡張治具33の拡張動作による内輪1及び外輪3に作用する力は、拡張箇所の径方向反対側にも及ぶ。しかし、径方向反対側にはスペーサ31が挿入され、玉7が環状空間5の最下位置から周方向にずらして配置される。そのため、玉7が内輪1と外輪3との間で、拡張動作による加圧力の作用線上(環状空間5の最下位置における鉛直線上)に玉7が配置されることはない。よって、最大の加圧力が発生する環状空間5の最下位置で、内輪1の円周溝1a及び外輪3の円周溝3aに玉7との接触による圧痕を生じさせることを回避できる。スペーサ31が環状空間5の周方向に沿って配置される領域の円周角θは、環状空間5の拡張治具33側で玉7の挿入のための空間を確保できる範囲で、極力大きな角度とするのが望ましい。スペーサ31の円周角θを大きくするほど、拡張治具33による加圧力を分散でき、内輪1や外輪3に圧痕が発生することを抑制できる。
【0033】
スペーサ31は、その径方向の幅寸法を、同心状態での内輪1の外周面1bと外輪3の内周面3bとの半径隙間よりも小さくして、内輪1の外周面1b及び外輪3の内周面3bの少なくとも一方に対して隙間を設けることが好ましい。これによれば、拡張治具33による内輪1と外輪3との拡張時に、スペーサ31に加圧力が付与されることがなく、スペーサ31の損傷を防止できる。また、スペーサを、内輪との間、及び外輪との間の双方に隙間を設けて配置することで、スペーサの損傷をより確実に防止できる。さらに、スペーサ31を、加圧力に対するクッション性を有する材質や構造にしてもよい。その場合、拡張治具33による拡張時に、スペーサ31により加圧力を吸収させ、内輪1、外輪3、玉7の傷付きを防止できる。
【0034】
(二次玉入れ工程)
拡張治具33の拡張部材35,37によって押し拡げられた内輪1と外輪3との間の環状空間5に、拡張治具33の周方向両脇から玉7を入れる(ステップS5)。このとき、環状空間5は拡張治具33によって径方向に拡げられているので、環状空間5に玉7を円滑に装填できる。この環状空間5に装填した玉7は、その自重によって、下側に向けて転がって移動し、玉7を連続して装填可能となる。また、拡張治具33の両脇から一対の玉7を環状空間5へ同時に入れることで、タクトタイムの短縮が図れる。そして、装填する玉7の数を、拡張治具33の両脇の双方で同一にすることで、玉入れを同時に完了させることができる。
【0035】
(軸受取り出し工程)
上記のようにして、規定の偶数個の玉7の装填を完了したら、拡張治具33による拡張動作を終了させ、環状空間5から拡張治具33及びスペーサ31を抜き取る。そして、内輪1と外輪3との間に規定数の玉7が装填された転がり軸受を取り出す(ステップS6)。なお、複数の玉7を保持する保持器を備える転がり軸受の場合には、玉7の装填後に保持器を取り付ける。
【0036】
本実施形態に係る転がり軸受の製造方法では、一次玉入れ工程で複数の玉7を環状空間5に挿入可能な数だけ挿入し、その後、環状空間5の一部にスペーサ31を挿入するとともに、スペーサ31の挿入位置の径方向反対側を拡張治具33で径方向に押し拡げる。この拡張された環状空間5に、拡張治具33の両脇から残りの玉7を挿入する。このように、一次玉入れ工程だけでは環状空間5へ装填しきれない玉7を、二次玉入れ工程によって迅速に、且つ高効率で装填できる。よって、転がり軸受の製造のサイクルタイムを短縮させ、生産効率を向上できる。また、環状空間5への玉7の挿入工程が自動化しやすくなる。本転がり軸受の製造方法は、薄肉形軸受で転動体の数が標準の数よりも多い転がり軸受に対して、特に好適に採用できる。
【0037】
スペーサ31が環状空間5に挿入されることで、環状空間5におけるスペーサ31の配置領域では、玉7が周方向に押し出されて存在しない。そのため、拡張工程で拡張治具33が内輪1と外輪3とを押し拡げる際の押圧力は、スペーサ31の配置領域の両脇に配置された複数の玉7に分散され、一箇所に応力集中することが抑制される。これにより、拡張工程において、拡張箇所の径方向反対側で内輪1と外輪3との間に玉7が挟まれることによる圧痕の発生を抑制できる。
【0038】
また、環状空間5に挿入されるスペーサ31が内輪1の外周面1b及び外輪3の内周面3bの少なくとも一方との間に隙間を有するので、拡張工程で環状空間5を押し拡げる際に、外輪3に対して内輪1を径方向外方へ変位させることができる。これにより、拡張治具33による拡張作業を円滑に行える。
【0039】
(他の実施形態例)
次に、奇数個の玉7を有する転がり軸受10を製造する場合について説明する。
図8は、奇数個の玉を装填する場合の拡張工程及び二次玉入れ工程を説明する模式図である。
【0040】
奇数個の玉7を有する転がり軸受10を製造する場合、内輪1と外輪3とを偏心させることで、一方側が拡がった環状空間5に奇数個の玉7を装填可能な数だけ入れる(一次玉入れ工程)。次に、前述したように、環状空間5の最下位置にスペーサ31を挿入して、環状空間5に装填されている玉7を周方向に振り分ける(スペーサ挿入工程)。このとき、図8に示すように、スペーサ31の周方向両脇において、一方側を他方側よりも玉7の数を1つだけ多く振り分ける。スペーサ31は、玉7の数を少なくした他方側に向けて周方向にずらして配置される。このように、円周角θで示されるスペーサ31の配置領域を、玉7の数を少なくした他方側に偏らせる。
【0041】
その後、環状空間5におけるスペーサ31の挿入位置の径方向反対側に拡張治具33を挿入して、拡張部材35,37を内輪1及び外輪3に対して互いに径方向反対側へスライドさせ、環状空間5を径方向に押し拡げる(拡張工程)。そして、拡張部材35,37によって拡げた内輪1と外輪3との間の環状空間5に、拡張治具33の周方向両脇から玉7を入れる(二次玉入れ工程)。このとき、拡張治具33の両脇から一対の玉7を環状空間5へ同時に入れることで、タクトタイムの短縮が図れる。
【0042】
また、玉7が奇数個の場合でも、二次玉入れ工程では、拡張治具33の両脇から一度に合計2個の玉7を同時に装填する作業となり、工程の自動化がしやすくなる。さらに、拡張治具33の両脇の環状空間5に、拡張治具33を中心として玉7を対称的に装填するようになり、環状空間5への装填可能な玉7の最大数を増加させることができる。
【0043】
規定の奇数個の玉7の装填を全て完了したら、拡張治具33による拡張動作を終了させ、環状空間5から拡張治具33及びスペーサ31を抜き取る。そして、内輪1と外輪3との間に既定数の玉7が装填された転がり軸受を取り出す(軸受取り出し工程)。なお、保持器を備える転がり軸受の場合は、玉7の装填後に保持器を取り付ける。
【0044】
上記したように、環状空間5に装填する玉7の数が奇数の場合であっても、偶数の場合であっても、スペーサ31の配置範囲を調整し、一次玉入れ工程で装填する玉7の個数の設定を変更することで、環状空間5に玉7を円滑かつ迅速に装填でき、転がり軸受の生産性を向上できる。また、二次玉入れ工程において拡張治具の両脇から装填する転動体の数をそれぞれ同数にしなくてもよい。例えば、図6において、環状空間に装填する転動体の規定数が奇数の場合、両脇から装填する転動体の数を一方より他方を一つ多く設定する事でも対応可能である。また、図6図8に示す例では、外輪3の円周溝3aと内輪1の円周溝1aとの間に拡張治具33を挿入し、環状空間5を押し拡げたが、傷やコンタミの点からも外輪3の内周面3bと内輪1の外周面1bとの間に拡張治具33を挿入し、径方向に押し拡げてもよい。
【0045】
次に、拡張治具33の各種の変形例について説明する。
(変形例1)
図9は、変形例1を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
【0046】
図9に示すように、変形例1に係る拡張治具33Aは、一対の拡張部材41,43を有する。これらの拡張部材41,43は、内輪1と外輪3の径方向に沿って、互いに反対に向けて移動される。一方の拡張部材41は、その長手方向の直交断面視で、内輪1へ向かって突出する円弧状の当接面41aを有する。他方の拡張部材43は、その長手方向の直交断面視で、外輪3へ向かって突出する円弧状の当接面43aを有する。
【0047】
この変形例1においても、拡張工程で、環状空間5におけるスペーサ31の挿入位置の径方向反対側に拡張治具33Aを挿入して、拡張部材41,43を内輪1及び外輪3に対して互いに径方向反対側へ移動させる。すると、一方の拡張部材41の当接面41aの凸面が内輪1の円周溝1aに線接触して、内輪1を径方向内方へ押圧する。他方の拡張部材43の当接面43aの凸面が外輪3の円周溝3aに線接触して、外輪3を径方向外方へ押圧する。これにより、スペーサ31の挿入位置の径方向反対側において、環状空間5が径方向に拡張して、環状空間5への玉7の装填を円滑に行えるようになる。また、拡張部材41,43が凸面の当接面41a,43aを有するので、拡張工程において、内輪1の円周溝1a及び外輪3の円周溝3aに凸面が線接触するため、内輪1と外輪3の姿勢を安定させたまま環状空間5を押し拡げられる。
【0048】
(変形例2)
図10は、変形例2を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図10に示すように、変形例2に係る拡張治具33Bは、一対の拡張部材43,45を有し、変形例1の拡張部材41の代わりに拡張部材45を備えたこと以外は、変形例1の構成と同様である。
【0049】
これらの拡張部材43,45は、互いに径方向の反対向きに移動される。一方の拡張部材45は、内輪1の円周溝1aに沿う凹面あるいは平面の当接面45aを有する。他方の拡張部材43は、前述したように断面視で円弧状の凸面の当接面43aを有する。
【0050】
この変形例2では、拡張工程において、環状空間5におけるスペーサ31の挿入位置の径方向反対側に拡張治具33Bを挿入して、拡張部材43,45を内輪1及び外輪3に対して互いに径方向に沿って反対側へ移動させる。すると、一方の拡張部材45の当接面45aが、内輪1の円周溝1aに面接触あるいは線接触して内輪1を径方向内方へ押圧する。他方の拡張部材43の凸面の当接面43aが、外輪3の円周溝3aに線接触して外輪3を径方向外方へ押圧する。これにより、スペーサ31の挿入位置の径方向反対側において、環状空間5を拡張して、環状空間5への玉7の装填を円滑に行うことができる。
【0051】
この場合には、拡張部材45の当接面45aが内輪1と面接触あるいは線接触するので、内輪1の姿勢を安定に維持できる。また、当接面45aにおける接触面圧は、拡張部材43の当接面43aよりも小さいため、内輪1との当接面における塑性変形が抑制される。
【0052】
(変形例3)
図11は、変形例3を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図11に示すように、変形例3に係る拡張治具33Cは、一対の拡張部材51,53を有する。拡張部材51,53は、互いに径方向の反対向きに移動される。一方の拡張部材51は、内輪1の円周溝1aに沿った凹面あるいは平面の当接面51aを有する。他方の拡張部材53は、その長手方向の直交断面視で、外輪3へ向かって突出する円弧状の当接面53aを有する。この変形例3に係る拡張治具33Cでは、一対の拡張部材51,53同士の対向面51b,53bが、それぞれ内輪1及び外輪3の径方向から傾斜して互いに平行面となっている。
【0053】
この変形例3では、拡張工程において、環状空間5におけるスペーサ31の挿入位置の反対側に拡張治具33Cを挿入し、拡張部材51,53を内輪1及び外輪3に対して互いに径方向に沿って反対側へ移動させる。すると、一方の拡張部材51の当接面51aが、内輪1の円周溝1aに面接触あるいは線接触して内輪1を径方向内方へ押圧する。他方の拡張部材53の凸面の当接面53aが、外輪3の円周溝3aに線接触して外輪3を径方向外方へ押圧する。これにより、スペーサ31の挿入位置の反対側において、環状空間5を径方向に拡張させることができ、環状空間5への玉7の装填を円滑に行える。
【0054】
そして、拡張部材51,55同士の対向面51b,53bが、径方向から傾斜した平行面であるため、拡張部材51と拡張部材55とを互いに接近させて配置できる。そのため、環状空間5の径方向幅が狭い場合でも、拡張部材51,55を環状空間5に挿入可能となり、拡張治具33Cを、軸受サイズによらず適用自由度の高い構成にできる。
【0055】
(変形例4)
図12は、変形例4を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図12に示すように、変形例4に係る拡張治具33Dは、一対の拡張部材55A,55Bと、拡張部材57を有する。拡張部材55Aと拡張部材55Bは、拡張部材57を挟んで周方向に沿って配列されている。周方向両端の一対の拡張部材55A,55Bと、周方向中央の拡張部材57とは、互いに径方向の反対向きに移動される。一対の拡張部材55A,55Bは、内輪1の円周溝1aに沿った形状の凹面あるいは平面の当接面55aを有する。拡張部材57は、その長手方向の直交断面視で、外輪3へ向かって突出する円弧状の当接面57aを有する。
【0056】
この変形例4では、拡張工程において、環状空間5におけるスペーサ31の挿入位置の径方向反対側に拡張治具33Dを挿入して、拡張部材55A,55Bと拡張部材57とを内輪1及び外輪3の径方向に沿って互いに反対側へ移動させる。すると、一対の拡張部材55A,55Bの当接面55aが、内輪1の円周溝1aに面接触あるいは線接触して内輪1を径方向内方へ押圧し、他方の拡張部材57の当接面57aが、外輪3の円周溝3aに線接触して外輪3を径方向外方へ押圧する。これにより、スペーサ31の挿入位置の径方向反対側において、環状空間5を拡げることができ、環状空間5への玉7の装填を円滑に行える。
【0057】
この変形例4によれば、内輪1を一対の拡張部材55A,55Bで押圧し、これらの拡張部材55の間の拡張部材57で外輪3を押圧するので、内輪1及び外輪3の姿勢を崩すことなく、バランスよく互いに反対側へ押し拡げることができる。
【0058】
(変形例5)
図13は、変形例5を説明する環状空間における拡張箇所の概略平面図である。
図13に示すように、変形例5に係る拡張治具33Eは、内輪1、外輪3の軸方向に延びる軸方向断面形状が楕円形状にされた拡張部材61を有する。拡張部材61は、断面楕円形状の長軸の両端における外周面が、径方向外側へ突出する凸面の当接面61a,61bに形成されている。この拡張部材61は、断面楕円形状の長軸と短軸の交点を含む軸Oを中心に回転される。
【0059】
この変形例5では、拡張工程において、環状空間5におけるスペーサ31の挿入位置の径方向反対側に拡張治具33Eの拡張部材61を挿入する。このとき、拡張部材61の断面楕円形状の長軸が環状空間5の周方向に沿うように配置させる。そして、拡張部材61を、軸Oを中心に90度回転させると、長軸の両端部分の一方の当接面61aが、内輪1の円周溝1aに線接触して内輪1を径方向内方へ押圧し、他方の当接面61bも同様に、外輪3の円周溝3aに線接触して外輪3を径方向外方へ押圧する。これにより、スペーサ31の挿入位置の径方向反対側の環状空間5を押し広げることができ、環状空間5への玉7の装填を円滑に行える。
【0060】
このように、変形例5では、拡張部材61を回転させる動作によって、環状空間5を簡単に拡げることができる。また、変形例1~5に示す例では、外輪3の円周溝3aと内輪1の円周溝1aの間に拡張治具33A~33Eを挿入し、環状空間5を径方向に押し広げたが、傷やコンタミの点からも外輪3の内周面3bと内輪1の外周面1bとの間に拡張治具33A~33Eを挿入し、径方向に押し広げても良い。
【0061】
以上の実施形態及び各変形例で説明した転がり軸受の製造方法に適用可能な軸受としては、玉軸受に限らず、ころ軸受であってもよい。また、転がり軸受10を構成する内輪1及び外輪3は、内径に対する外径の比が標準より小さい薄肉形軸受や極薄肉形軸受であってもよい。
【0062】
また、上記した実施形態及び各変形例では、内輪1、外輪3の周方向1箇所を径方向に押し広げて玉7の装填箇所としていたが、複数箇所を押し広げてもよい。また、玉7の装填箇所から周方向に90°位相が異なる位置で、内輪1、外輪3の少なくとも一方を径方向外側に拡げることにより、上記した玉7の装填箇所をポアソン比に応じて径方向に拡げてもよい。
【0063】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0064】
上記した転がり軸受の製造方法は、転がり軸受を備える各種の機械(器械等の動力が手動のものも含む)の製造にも適用可能である。例えば、レール、スライダー等の直動案内装置、ねじ軸、ナット等のボールねじ装置やねじ装置、直動案内軸受とボールねじとを組み合わせた装置やXYテーブル等のアクチュエータ、等の直動装置への適用が可能である。
また、ステアリングコラム、自在継手、中間ギア、ラックアンドピニオン、電動パワーステアリング装置、ウォーム減速機、トルクセンサ等の操舵装置への適用が可能である。
そして、上記機械、操舵装置等を含む車両、工作機械、住宅機器等、広く適用できる。
これにより得られた機械、車両等によれば、従来よりも低コストで、且つ、高品質な構成にできる。
【符号の説明】
【0065】
1 内輪
1a 円周溝
1b 外周面
3 外輪
3a 円周溝
3b 内周面
5 環状空間
7 玉(転動体)
10 転がり軸受
31 スペーサ
33,33A~E 拡張治具
35,37,41,43,45,51,53,55A,55B,57,61 拡張部材
35a,37a,41a,43a,45a,51a,53a,55a,57a,61a 当接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13