IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-移動体の制御装置 図1
  • 特許-移動体の制御装置 図2
  • 特許-移動体の制御装置 図3
  • 特許-移動体の制御装置 図4
  • 特許-移動体の制御装置 図5
  • 特許-移動体の制御装置 図6
  • 特許-移動体の制御装置 図7
  • 特許-移動体の制御装置 図8
  • 特許-移動体の制御装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】移動体の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20231219BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231219BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231219BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20231219BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231219BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20231219BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20231219BHJP
   B60K 6/26 20071001ALI20231219BHJP
   B60W 20/19 20160101ALI20231219BHJP
   H02P 6/28 20160101ALI20231219BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231219BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231219BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W20/10
B60W20/00 900
B60K6/26
B60W20/19
H02P6/28
B60L15/20 J
B60L15/20 K
B60L50/16
B60W10/00 102
B60W10/08
B60W10/02
B60W10/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020023256
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127014
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】胡本 博史
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-170842(JP,A)
【文献】特開2012-096659(JP,A)
【文献】特開2012-076510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/48
B60K 6/547
B60W 10/02
B60W 10/06
B60W 20/10
B60W 20/00
B60K 6/26
B60W 20/19
H02P 6/28
B60L 15/20
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータを備え、該駆動モータにより生成されるモータトルクを利用して移動可能な移動体の制御装置であって、
前記駆動モータは、
回転動力を出力しかつ磁力可変マグネットが設置されたロータと、
前記ロータとギャップを隔てて対向しかつ複数のコイルが設置されたステータと、
を有し、
前記駆動モータとは別に、前記移動体の駆動輪に伝達される移動力を調整可能な駆動手段と、
前記コイルに流れる磁化電流を制御して、前記磁力可変マグネットの磁力を変更する磁化制御部を有する制御部と、を更に備え、
前記駆動手段は、前記移動体の変速機と前記駆動モータとの間に設けられかつ前記モータトルクの伝達を接続/遮断するクラッチであり、
前記制御部は、前記磁化制御部により前記磁力可変マグネットの磁力を減少させる減磁制御を実行するときには、前記モータトルクの変化が前記駆動輪に伝達されるのを抑制するように、前記クラッチの締結力を前記減磁制御の非実行時と比較して小さくすることを特徴とする移動体の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体の制御装置において、
前記制御部は、前記減磁制御の実行時において、前記クラッチの締結力を小さくした後、前記磁化制御部により前記磁力可変マグネットの磁力を減少させるように前記コイルに磁化電流を流させることを特徴とする移動体の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の移動体の制御装置において、
前記制御部は、前記減磁制御の実行時において、前記クラッチの締結力を小さくした後、前記モータトルクが増加するように前記コイルにトルク電流を流し、その後、前記磁化制御部により前記磁力可変マグネットの磁力を減少させるように前記コイルに磁化電流を流させることを特徴とする移動体の制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の移動体の制御装置において、
前記制御部は、前記磁力可変マグネットの磁力を減少させた後、前記クラッチよりも前記駆動モータ側の回転速度と該クラッチよりも前記変速機側の回転速度との差であるクラッチ差回転が所定量未満になるように前記コイルにトルク電流を流して、その後、前記クラッチの締結力を前記減磁制御の実行直前の締結力に戻すことを特徴とする移動体の制御装置。
【請求項5】
駆動モータを備え、該駆動モータにより生成されるモータトルクを利用して移動可能な移動体の制御装置であって、
前記駆動モータは、
回転動力を出力しかつ磁力可変マグネットが設置されたロータと、
前記ロータとギャップを隔てて対向しかつ複数のコイルが設置されたステータと、
を有し、
前記駆動モータとは別に、前記移動体の駆動輪に伝達される移動力を調整可能な駆動手段と、
前記コイルに流れる磁化電流を制御して、前記磁力可変マグネットの磁力を変更する磁化制御部を有する制御部と、を更に備え、
前記駆動手段は、前記移動体に付与される前記モータトルクとは別の動力を調整可能な動力調整手段であり、
前記制御部は、
前記磁化制御部により前記磁力可変マグネットの磁力を減少させる減磁制御を実行するときには、前記減磁制御の非実行時と比較して前記別の動力を増加させるように前記動力調整手段を作動させ、
前記減磁制御において、前記磁力可変マグネットの磁力を減少させるように前記コイルに磁化電流を流させた後、前記モータトルクが所望の値になるように前記コイルに流すトルク電流を増加させるとともに、前記磁力可変マグネットの磁力の減少による前記モータトルクの減少に応じて前記駆動手段による前記別の動力を増加させ、その後、前記トルク電流の増加による前記モータトルクの増加に応じて前記別の動力を減少させることを特徴とする移動体の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の移動体の制御装置において、
前記動力調整手段はエンジンと連結されたオルタネータを含み、
前記制御部は、前記減磁制御時には、前記オルタネータの発電負荷を低下させることで前記別の動力を増加させることを特徴とする移動体の制御装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の移動体の制御装置において、
前記動力調整手段はエンジンを含み、
前記制御部は、前記減磁制御時には、前記エンジンにおける燃料噴射量を増加させることで前記別の動力を増加させることを特徴とする移動体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、移動体の制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド車などの、モータにより生成されるモータトルクを利用して移動する移動体の普及が進んでいる。例えば、特許文献1には、モータ(発電機としても利用される)とエンジンとを搭載したハイブリッド車が開示されている。特許文献1のハイブリッド車では、モータの電源として、充電スタンドや家庭用電源に接続して充電できる、定格電圧が数百Vの強電バッテリが備えられている。
【0003】
また、特許文献2には、洗濯機用ではあるが、磁力を増磁及び減磁できるマグネットを有するモータが開示されている。特許文献2に開示されたモータは、ロータのマグネットの磁力を要求負荷が大きいほど大きくするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-231290号公報
【文献】特開2011-200545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、移動体に利用されるモータには、負荷方向及び回転方向の両方において、広い範囲で高頻度な出力が要求される。モータにおいて広範囲の出力特性を実現するには、一般には、特許文献1に記載のハイブリッド車のように高電圧のバッテリを用いたり、モータ自体を大型化したりすることが考えられる。しかしながら、いずれの場合も、装備の大型化、高重量化を招くため、移動体にとっては不利になる。
【0006】
そこで、特許文献2に記載のモータのように、磁力を変更可能なマグネットをロータに用いて、モータ負荷に応じてマグネットの磁力を変更することが考えられる。これにより、モータの力率を出来る限り高くして、モータの出力を高めることが期待できる。
【0007】
しなしながら、マグネットの磁力を小さくしたときには、一時的にモータトルクが減少する。このモータトルクの減少が移動体の乗員に違和感を与えるおそれがある。
【0008】
ここに開示された技術は、モータにより生成されるモータトルクを利用して移動する移動体において、モータのマグネットの磁力を小さくする際に、移動体の乗員に与えられる違和感を出来る限り抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
駆動モータを備え、該駆動モータにより生成されるモータトルクを利用して移動可能な移動体の制御装置を対象として、前記駆動モータは、回転動力を出力しかつ磁力可変マグネットが設置されたロータと、前記ロータとギャップを隔てて対向しかつ複数のコイルが設置されたステータと、を有し、前記駆動モータとは別に、前記移動体の駆動輪に伝達される移動力を調整可能な駆動手段と、前記コイルに流れる磁化電流を制御して、前記磁力可変マグネットの磁力を変更する磁化制御部を有する制御部と、を更に備え、前記駆動手段は、前記移動体の変速機と前記駆動モータとの間に設けられかつ前記モータトルクの伝達を接続/遮断するクラッチであり、前記制御部は、前記磁化制御部により前記磁力可変マグネットの磁力を減少させる減磁制御を実行するときには、前記モータトルクの変化が前記駆動輪に伝達されるのを抑制するように、前記クラッチの締結力を前記減磁制御の非実行時と比較して小さくする、という構成にした。
【0010】
この構成によると、減磁制御により磁力可変マグネットの磁力が減少するときには、モータトルクが減少する。このとき、駆動手段により移動体の移動力の低下が抑制されるため、移動体の乗員に違和感を与えにくい。したがって、モータの磁力可変マグネットの磁力を小さくする際に、移動体の乗員に与えられる違和感を出来る限り抑制することができる。
【0011】
また、この構成によると、クラッチの締結力が小さくなるため、減磁制御の実行時にモータトルクが減少したとしても、該モータトルクの減少が車輪に伝わりにくくなる。これにより、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感をより効果的に抑制することができる。
【0012】
前記一実施形態において、前記制御部は、前記減磁制御の実行時において、前記クラッチの締結力を小さくした後、前記磁化制御部により前記磁力可変マグネットの磁力を減少させるように前記コイルに磁化電流を流させる、という構成でもよい。
【0013】
この構成によると、クラッチの締結力を小さくした後に、磁力可変マグネットの磁力が減少されるため、モータトルクの減少が車輪に伝わるのを効果的に抑制することができる。よって、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感を一層効果的に抑制することができる。
【0014】
前記一実施形態において、前記制御部は、前記減磁制御の実行時において、前記クラッチの締結力を小さくした後、前記モータトルクが増加するように前記コイルにトルク電流を流し、その後、前記磁化制御部により前記磁力可変マグネットの磁力を減少させるように前記コイルに磁化電流を流させる、という構成でもよい。
【0015】
この構成によると、予めモータトルクを増加させておくことにより、磁力可変マグネットの磁力を減少させたときのモータトルクを、磁力可変マグネットの磁力を減少させる前のモータトルクに近づけることができる。また、予めクラッチの締結力を小さくしているため、モータトルクの一時的な増加があったとしても、移動体の乗員に違和感を与えにくい。したがって、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感をより一層効果的に抑制することができる。
【0016】
前記一実施形態において、前記制御部は、前記磁力可変マグネットの磁力を減少させた後、前記クラッチよりも前記駆動モータ側の回転速度と該クラッチよりも前記変速機側の回転速度との差であるクラッチ差回転が所定量未満になるように前記コイルにトルク電流を流して、その後、前記クラッチの締結力を前記減磁制御の実行直前の締結力に戻す、という構成でもよい。
【0017】
すなわち、クラッチ差回転が大きいと、クラッチの締結力を戻したときに、移動体の乗員に違和感を与えるおそれがある。そこで、クラッチ差回転が所定量未満のときにクラッチの締結力を戻すようにすれば、移動体の乗員に与えられる違和感を更に効果的に抑制することができる。
【0018】
前記移動体の制御装置の他の態様では、駆動モータを備え、該駆動モータにより生成されるモータトルクを利用して移動可能な移動体の制御装置を対象として、前記駆動モータは、回転動力を出力しかつ磁力可変マグネットが設置されたロータと、前記ロータとギャップを隔てて対向しかつ複数のコイルが設置されたステータと、を有し、前記駆動モータとは別に、前記移動体の駆動輪に伝達される移動力を調整可能な駆動手段と、前記コイルに流れる磁化電流を制御して、前記磁力可変マグネットの磁力を変更する磁化制御部を有する制御部と、を更に備え、前記駆動手段は、前記移動体に付与される前記モータトルクとは別の動力を調整可能な動力調整手段であり、前記制御部は、前記減磁制御を実行するときには、前記減磁制御の非実行時と比較して前記別の動力を増加させるように前記動力調整手段を作動させ、前記減磁制御において、前記磁力可変マグネットの磁力を減少させるように前記コイルに磁化電流を流させた後、前記モータトルクが所望の値になるように前記コイルに流すトルク電流を増加させるとともに、前記磁力可変マグネットの磁力の減少による前記モータトルクの減少に応じて前記駆動手段による前記別の動力を増加させ、その後、前記トルク電流の増加による前記モータトルクの増加に応じて前記別の動力を減少させる
【0019】
この構成によると、別の動力を移動体に付与することで、減磁制御の実行時にモータトルクが減少しとしても、該モータトルクの減少を補うことができる。特に、モータトルクの減少量に応じて、別の動力の大きさを調整すれば、移動体の移動力を適切に維持することができる。これにより、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感を効果的に抑制することができる。
【0020】
また、乗員に違和感を与えないように移動体の移動力を維持するためには、モータトルクが増加するときには、別の動力は減少させる必要がある。したがって、モータトルクの増減に応じて、動力調整手段により別の動力を調整すれば、移動体の移動力をより適切に維持することができる。よって、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感をより一層効果的に抑制することができる。
【0021】
前記他の態様において、前記動力調整手段はエンジンと連結されたオルタネータを含み、前記制御部は、前記減磁制御時には、前記オルタネータの発電負荷を低下させることで前記別の動力を増加させる、という構成でもよい。
【0022】
この構成によると、オルタネータの発電負荷を低下させることで、別の動力を移動体の移動力として消費させることができる。オルタネータは比較的応答性の高いため、減磁制御時のモータトルクの減少を応答性良く補うことができる。これにより、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感をより効果的に抑制することができる。
【0023】
前記他の態様において、前記動力調整手段はエンジンを含み、前記制御部は、前記減磁制御時には、前記エンジンにおける燃料噴射量を増加させることで前記別の動力を増加させる、という構成でもよい。
【0024】
この構成によると、エンジンの燃料噴射量を調整することで、エンジントルクを適切に調整することができる。これにより、減磁制御時のモータトルクの減少を適切に補うことができる。この結果、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感を一層効果的に抑制することができる
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、モータのマグネットの磁力を小さくする制御を行う時に、移動体の乗員に与えられる違和感を出来る限り抑制する
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】例示的な実施形態1に係る制御装置により制御される自動車の主な構成を示す概略図である。
図2】駆動モータの構成を示す概略断面図である。
図3】自動車の演算装置及びこれに関連する主な入出力装置を示すブロック図である。
図4】駆動モータの制御システムを簡略化して示すシステム図である。
図5】駆動モータの作動制御における演算装置の処理動作を示すフローチャートである。
図6】減磁制御時の演算装置の処理動作を示すフローチャートであって、減磁制御を行うときのフローチャートを示す。
図7】各物理量の変化を時系列で示すタイムチャートである。
図8】実施形態2に係る演算装置の減磁制御時におけるフローチャートである。
図9】実施形態2において、各物理量の変化を時系列で示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明では、自動車1についての前、後、左、右、上及び下を、それぞれ単に前、後、左、右、上及び下という。
【0028】
(実施形態1)
〈移動体〉
図1は、実施形態1に係る制御装置により制御される四輪の自動車1(移動体の一例)を示す。自動車1は、駆動源として、エンジン2及び駆動モータ3を備えている。自動車1は、これらの駆動源が協働して、4つの車輪4F,4Rのうち、左右対称状に位置する2輪(ここでは後輪4R)を駆動する。これにより、自動車1は移動(走行)する。
【0029】
この自動車1の場合、エンジン2は車体の前側に配置されており、駆動輪は車体の後側の後輪4Rである。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。更にこの自動車1の場合、駆動源としては、モータ3よりもエンジン2が主体となっており、モータ3は、エンジン2の駆動をアシストする形で利用される(いわゆるマイルドハイブリット)。モータ3はまた、駆動源としてだけでなく、回生時には発電機としても利用される。尚、後述する第1クラッチ5を非締結状態にして、後述する第2クラッチ7を締結状態にすれば、駆動モータ3の出力のみで自動車1を走行させることも可能である。エンジン2は、駆動モータ3に関連付けて配置された駆動手段(特に動力調整手段)の一例である。
【0030】
自動車1には、エンジン2、駆動モータ3の他に、駆動系の装置として、第1クラッチ5、インバータ6、第2クラッチ7、変速機8、デファレンシャルギヤ9、バッテリ10、オルタネータ15等が備えられている。これら装置の複合体(駆動システム)の作用により、自動車1は走行する。
【0031】
自動車1にはまた、制御系の装置として、演算装置100が設けられている。演算装置100は、エンジンコントロールユニット(ECU)20、モータコントロールユニット(MCU)21、変速機コントロールユニット(TCU)22、ブレーキコントロールユニット(BCU)23、総合コントロールユニット(GCU)24等を含む。尚、演算装置100は制御部に相当する。
【0032】
自動車1には、エンジン回転センサ50、モータ回転センサ51、電流センサ52、磁力センサ53、アクセル開度センサ54等も、制御系の装置に付随して設置されている。
【0033】
エンジン2は、例えばガソリンを燃料にして燃焼を行う内燃機関である。エンジン2はまた、吸気、圧縮、膨張、排気の各サイクルを繰り返すことで回転動力を発生させる、いわゆる4サイクルエンジンである。エンジン2としては、ディーゼルエンジン等、様々な種類や形態があるが、ここで開示する技術では、特にエンジン2の種類や形態は限定され
ない。
【0034】
エンジン2は、エンジンルームに縦置きされている。つまり、エンジン2は、回転動力を出力する出力軸を、車体の前後方向に向けた状態で、エンジンルームの車幅方向の中央部に配置されている。自動車1には、吸気システム、排気システム、燃料供給システム等、エンジン2に付随した様々な装置や機構が設置されているが、これらの図示及び説明は省略する。
【0035】
駆動モータ3は、第1クラッチ5を介してエンジン2の後側に直列に配置されている。駆動モータ3は、三相の交流によって駆動する永久磁石型の同期モータである。図2に示すように、駆動モータ3は、大略、モータケース31、シャフト32、ロータ33、ステータ34等で構成されている。
【0036】
モータケース31は、その内部に、前側端面及び後側端面が封止された円筒状のスペースを有する容器からなり、自動車1の車体に固定されている。ロータ33及びステータ34は、モータケース31内に収容されている。シャフト32は、その前側端部及び後側端部の各々をモータケース31から突出させた状態で、モータケース31に回転自在に軸支されている。
【0037】
第1クラッチ5は、シャフト32の前側端部と、エンジン2の出力軸との間に介在するように設置されている。第1クラッチ5は、出力軸とシャフト32とが連結された状態(第1クラッチ5が連結された状態、締結状態)と、出力軸とシャフト32とが分離した状態(第1クラッチ5が切り離された状態、非締結状態)とに切り換え可能に構成されている。また、第1クラッチ5は、締結状態よりも僅かに締結力が小さい状態(締結要素同士が滑り合うような状態)である部分締結状態をとることもできるように構成されている。
【0038】
第2クラッチ7は、シャフト32の後側端部と、変速機8の入力軸との間に介在するように設置されている。第2クラッチ7は、シャフト32と変速機8の入力軸とが締結された状態(締結状態)と、シャフト32と変速機8の入力軸とが分離した状態(非締結状態)とに切り換え可能に構成されている。また、第2クラッチ7は、締結状態よりも僅かに締結力が小さい状態(締結要素同士が滑り合うような状態)である部分締結状態をとることもできるように構成されている。第2クラッチ7は、駆動モータ3と関連付けて配置された駆動手段の一例である。
【0039】
ロータ33は、駆動モータ3の回転動力を出力する部分である。ロータ33は、中心に軸孔を有する複数の金属板を積層して構成された円柱状の部材からなる。ロータ33の軸孔にシャフト32の中間部分を固定することで、ロータ33はシャフト32と一体化されている。これにより、シャフト32はロータ33と一体回転する。
【0040】
ロータ33の外周部分には、全周にわたってマグネット(磁石)35が設置されている。マグネット35は、S極とN極とからなる複数(この図例では8個)の磁極35aが周方向に等間隔で交互に並ぶように構成されている。マグネット35は、複数の磁極35aを有する1つの円筒状の磁石で構成してもよいし、各磁極35aを構成する複数の弧状の磁石で構成してもよい(図例では、複数の弧状の磁石で構成されている)。
【0041】
本実施形態1の駆動モータ3では、マグネット35は、磁力の大きさを大小に可変可能なマグネットで構成されている。通常、この種の駆動モータ3には、保磁力(抗磁力)が大きく、磁力が長期に亘って保持できる磁石(永久磁石)が使用される。本実施形態1の駆動モータ3では、磁力を比較的容易に変更できるように、保磁力が比較的小さい永久磁石がマグネット35として用いられている。
【0042】
永久磁石には、例えば、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石などの様々な種類があり、保磁力も様々である。マグネット35の種類や素材は、特に限定されず、仕様に応じて(特に使用する磁力の範囲に応じて)選択可能である。
【0043】
ステータ34は、ロータ33の周囲において、該ロータ33と僅かな隙間(ギャップ)を隔てて円筒状に設置されている(インナーロータ型)。ステータ34は、複数の金属板を積層して構成されたステータコア34aと、該ステータコア34aに電線を巻回して構成された複数のコイル36とを有している。
【0044】
ステータコア34aには、内側に放射状に張り出す複数のティース34bが設けられていて、これらティース34bの間に形成されている空間(スロット)に電線を所定の順序で巻き掛けることで複数(この図例では12個)のコイル36が形成されている(いわゆる集中巻き)。これらコイル36は、流れる電流の位相が異なるU相、V相、およびW相からなる三相のコイル群を構成している。各相のコイルは、周方向に順番に配置されている。
【0045】
なお、本実施形態では、8極12スロットのモータ3を例示したが、モータ3の構成は、これに限るものでない。モータ3は、より多くの極数およびスロット数で構成してもよい。例えば、2のN倍の磁極35aと、3のN倍のスロット(Nは整数)とで、モータ3を構成することができる。
【0046】
コイル36に通電するため、モータケース31の外側に、これらコイル36から3本の接続ケーブル36a,36a,36aが導出されている。これら接続ケーブル36a,36a,36aは、インバータ6を介して、車載されているバッテリ10と接続されている。この自動車1の場合、バッテリ10は、定格電圧が50V以下、具体的には48Vの直流バッテリ(低電圧バッテリ)10が用いられている。
【0047】
バッテリ10の定格電圧が比較的低いため、バッテリ自体を軽量かつコンパクトにすることができる。また、高度な感電対策が不要なため、絶縁部材等も簡素化でき、より軽量かつコンパクトな構成にすることができる。さらに、自動車1の重量を抑制することができるため、燃費や電費を抑制することができる。
【0048】
バッテリ10は、インバータ6に直流電力を供給する。インバータ6は、その直流電力を三相の交流に変換して駆動モータ3に通電する。それにより、各コイル36に電磁力が発生する。この電磁力と、マグネット35の磁力との間に作用する吸引力及び反発力により、ロータ33が回転駆動され、シャフト32及び第2クラッチ7を通じて変速機8に回転動力が出力される。
【0049】
変速機8は、多段式自動変速機(いわゆるAT)である。変速機8は、一側の端部に入力軸を有し、他側の端部に出力軸を有している。これら入力軸と出力軸との間に、複数の遊星歯車機構、クラッチ、ブレーキ等の変速機構が組み込まれている。
【0050】
変速機8の変速機構を切り替えることにより、自動車1の前進又は後退の切り替えや、入力と出力との間の回転数の変更を行うことができる。変速機8の出力軸は、車体の前後方向に延びて、出力軸と同軸に配置されているプロペラシャフト11を介してデファレンシャルギヤ9に連結されている。
【0051】
デファレンシャルギヤ9には、車幅方向に延びて、左右の後輪4Rに連結された一対の
駆動シャフト13が連結されている。プロペラシャフト11を介して出力されたモータトルクは、デファレンシャルギヤ9により振り分けられた後、一対の駆動シャフト13を介して駆動輪(後輪4R)に伝達される。
【0052】
各車輪4F,4Rには、それぞれブレーキ14が設けられている。ブレーキ14の種類は特に限定されず、ディスクブレーキやドラムブレーキ等を採用することができる。
【0053】
オルタネータ15は、エンジン2により回転駆動されて発電する発電機である。オルタネータ15は、図示は省略するがベルト及びプーリを介して、エンジン2のクランクシャフトと連結されている。オルタネータ15で発電された電力はバッテリ10に蓄積される。
【0054】
オルタネータ15は、発電負荷を変更することで、自動車1の走行に利用されるエンジントルクを変更できるようになっている。具体的には、オルタネータ15の発電負荷を増加させると、自動車1の走行に利用されるエンジントルクが低下する一方で、オルタネータ15の発電負荷を低下させると、自動車1の走行に利用されるエンジントルクが増加する。オルタネータ15は、駆動モータ3と関連付けて配置された駆動手段(特に、動力調整手段)の一例である。
【0055】
〈制御系の装置〉
自動車1には、運転者の操作に応じて、その走行をコントロールするために、前述した、ECU20、MCU21、TCU22、BCU23、及びGCU24の各ユニットを含む演算装置100が設置されている。これらのユニットの各々は、CPUやメモリ、インターフェース等のハードウェアと、データベースや制御プログラム等のソフトウェアとで構成されている。
【0056】
ECU20は、エンジン2の作動を主に制御するユニットである。MCU21は、駆動モータ3の作動を主に制御するユニットである。TCU22は、変速機8の作動を主に制御するユニットである。BCU23は、ブレーキ14の作動を主に制御するユニットである。GCU24は、ECU20、MCU21、TCU22、及びBCU23と電気的に接続されていて、これらを総合的に制御する上位ユニットである。
【0057】
エンジン回転センサ50は、エンジン2に取り付けられており、エンジン2の回転数を検出して演算装置100に出力する。モータ回転センサ51は、駆動モータ3に取り付けられており、駆動モータ3の回転数やロータ33の回転位置を検出して演算装置100に出力する。電流センサ52は、接続ケーブル36aに取り付けられており、各コイル36に通電される電流値を検出して演算装置100に出力する。
【0058】
磁力センサ53は、駆動モータ3に取り付けられており、磁力可変マグネット35の磁力を検出して演算装置100に出力する。アクセル開度センサ54は、運転者が自動車1を駆動する際に踏み込むアクセルペダル15に取り付けられており、自動車1の駆動に要求される出力に相当するアクセル開度を検出して演算装置100に出力する。
【0059】
演算装置100は、これらセンサから入力される検出値の信号に基づいて、各コントロールユニットが協働して駆動系の各装置を制御することで、自動車1を走行させる。
【0060】
図3に示すように、ECU20は、エンジン2の出力を調整するためのエンジン出力制御部20aを有する。自動車1がエンジン2により生成されるエンジントルクを利用して走行するときには、アクセル開度センサ54及びエンジン回転センサ50の検出値に基づいて、エンジン出力制御部20aがエンジン2の運転を制御する。具体的には、エンジン
出力制御部20aは、エンジン出力が、アクセル開度センサ54及びエンジン回転センサ50の検出値に基づいて算出される目標のエンジン出力となるように、エンジン2の燃料噴射量を調整する。
【0061】
ECU20はまた、オルタネータ15の発電負荷を調整するための発電制御部20bを有する。発電制御部20bは、例えば、バッテリ10の残量が低くなっているときには、発電負荷を増加させて、バッテリ10への充電を促す。また、自動車1の走行に利用するエンジントルクを増加させたいときには、オルタネータ15の発電負荷を低下させて、エンジントルクをできる限り自動車1の走行に利用できるようにする。
【0062】
MCU21は、駆動モータ3の出力を調整するためのモータ出力制御部21aを有する。モータ出力制御部21aは、コイルに流れるトルク電流(いわゆるq軸電流)を制御することにより、駆動モータ3に、所望のモータ出力を出力させる。
【0063】
また、MCU21は、マグネット35の磁力を調整するための磁化制御部21bを有する。磁化制御部21bは、コイル36に流れる磁化電流(いわゆるd軸電流)を制御することにより、マグネット35の磁力を変更する。詳しくは後述するが、磁化制御部21bは、マグネット35の磁力を調整することより、駆動モータ3の力率を高くして、駆動モータ3の作動効率を向上させるようにしている。
【0064】
TCU22は、第1クラッチ5及び第2クラッチ7の締結状態及び非締結状態を制御する。自動車1の制動時には、BCU23が各ブレーキ14を制御する。回生による制動時には、TCU22は、第1クラッチ5は非締結状態となるように制御し、第2クラッチ7は締結状態となるように制御する。こうして、MCU21は、駆動モータ3で発電し、その電力がバッテリ10に回収されるように制御する。
【0065】
〈モータ制御〉
MCU21は、駆動モータ3が単独で出力する状態で、あるいは、エンジン2の出力をアシストする状態で、駆動モータ3のモータトルクによって自動車1が走行するように、駆動モータ3を制御する。
【0066】
具体的には、アクセル開度センサ54及びエンジン回転センサ50等の検出値に基づいて、ECU20がエンジン2のエンジントルクを設定する。それに伴って、予め設定されたエンジン2と駆動モータ3との間での出力の分配比率に従って、GCU24が、所定の出力範囲で駆動モータ3のモータトルクの要求量を設定する。MCU21(特にモータ出力制御部21a)は、該要求量が出力されるように駆動モータ3を制御する。
【0067】
ここで、MCU21の磁化制御部21bは、マグネット35の磁力を調整することより、駆動モータ3の力率を高くして、駆動モータ3の作動効率を向上させるようにしている。具体的には、磁化制御部21bは、マグネット35の磁力が、トルク電流によってコイル36に発生する電磁力と略一致するように、マグネット35の磁力を変更する。
【0068】
力率とは、皮相電力(駆動モータ3に供給される電力)に対する有効電力(実際に消費される電力)の割合である。つまり、力率が低いということは、同じ出力を得るためにより大きな電流をコイル36に流す必要があるということである。このため、力率を高くすれば、コイル36に流す電流が小さくても良いため、駆動モータ3の軽量化及びコンパクト化の観点から有利になる。また、回生時における駆動モータ3による発電の効率を高くすることもできる。
【0069】
駆動モータ3の力率を高めるには、コイル36で発生する電磁力と、永久磁石の磁力と
を略一致させる必要がある(電磁力と磁力とが略一致すれば、力率は略1となる)。それに対し、通常の永久磁石型モータの場合、永久磁石の磁力が不変であるため、モータが出力する最も使用頻度の高い領域で、力率が略1となる磁力の永久磁石が用いられている。
【0070】
家電等の用途では、モータの出力が要求される範囲は比較的限られているので、このようなモータ特性であっても、それほど大きな問題にはならない。ところが、自動車1等の移動体の場合は、非常に広い範囲で高頻度な出力が要求される、そのため、このようなモータ特性では、力率が高い領域を広くするために、バッテリの高電圧化やモータの大型化が必要になってしまう。
【0071】
これに対し、本実施形態1では、マグネット35として、磁力を変更することができる磁力可変マグネットが採用されており、磁化制御部21bによりマグネット35の磁化を適宜変更できるようになっている。これにより、コイル36で発生する電磁力に応じて磁化を変更することで、力率を向上させることができる。
【0072】
具体的には、例えば、低負荷では、その負荷に応じて電磁力は比較的小さくなる。このときには、磁化制御部21bは、マグネット35の磁力を減少させるように、コイル36に磁化電流を流す(以下、減磁制御という)。これにより、低負荷の領域において力率を向上させることができる。
【0073】
一方で、高負荷では、その負荷に応じて電磁力は比較的大きくなる。このときには、磁化制御部21bは、マグネット35の磁力を増加させるように、コイル36に磁化電流を流す(以下、増磁制御という)。これにより、高負荷の領域においても力率を向上させることができる。
【0074】
図4には、駆動モータ3の制御システムを簡略化して示す。また、図5には、駆動モータ3を作動制御する際のフローチャートを示す。この図4図5を参照しながら、駆動モータ3の具体的な制御の流れについて説明する。尚、駆動モータ3は、トルク電流指令Iq*と磁化電流指令Id*とを用いたベクトル制御によって制御されている。
【0075】
演算装置100の各コントロールユニット20~24は、自動車1が走行可能な状態になると、まず、ステップS1において、エンジン回転センサ50、モータ回転センサ51、電流センサ52、磁力センサ53、及びアクセル開度センサ54やから、常時、検出値が入力される。
【0076】
次にステップS2において、GCU24は、ECU20からアクセル開度センサ54の検出値を取得し、予め設定されているエンジン2と駆動モータ3との間での出力の分配比率に従って、駆動モータ3のモータトルクの要求量を設定する。また、GCU24は、MCU21にその要求量に相当するモータトルクを出力するコマンド(トルク指令値T*)を出力する。
【0077】
次のステップS3では、MCU21(モータ出力制御部21a)は、トルク指令値T*が入力されると、そのトルクを発生させるトルク電流の変化量を出力するコマンド(トルク電流指令値Iq*)の演算処理を実行する。
【0078】
また、ステップS4において、MCU21(磁化制御部21b)は、駆動モータ3の目標出力に応じた磁力最適値を出力するコマンド(磁化状態指令Φ*)の演算処理を実行する。
【0079】
次のステップS5において、磁化制御部21bは、磁化状態指令値Φ*に基づいて、マ
グネット35の磁力の変化量に相当する磁化電流を出力するコマンド(磁化電流指令値Id*)の演算処理を実行する。
【0080】
続くステップS6では、MCU21は、演算したトルク電流指令値Iq*と磁化電流指令値Id*とに基づいて、マグネット35の磁力の変更が必要か否かを判定する。この判定は、例えば、目標のモータトルクを出力すると、コイル36による電磁力とマグネット35の磁力との間に所定量以上の差が生じるか否かに基づいて判定される。
【0081】
前記ステップS6において、磁力の変更が必要無いと判定されるYESのときには、ステップS7に進んで、磁力の変更を行わずに演算したトルク電流指令値Iq*に従って、トルク電流を供給する。トルク電流の供給は、モータ出力制御部21aが、PWM制御を行うためのコマンドを演算して、該コマンドに基づいてインバータ6を作動制御することで実行される。
【0082】
一方で、前記ステップS6において、磁力の変更が必要であると判定されたNOのときには、磁力変更制御が実行される。このときは、まず、ステップS8において、MCU21は、現在の磁力が目標の磁力に対して大きいか否かについて判定する。現在の磁力が目標の磁力に対して大きいYESのときには、ステップS9において前記減磁制御を実行する一方で、現在の磁力が目標の磁力に対して小さいNOのときには、ステップS10においてマグネット35の磁力を増加させる増磁制御を実行する。尚、減磁制御の内容については後述する。
【0083】
前記減磁制御又は前記増磁制御により磁力が変更された後は、ステップS11において、MCU21は、変更後の磁力が適正値であるか否か、すなわち、磁化指令値Φ*に応じた磁力になっているか否かを判定する。マグネット35の磁力が適正値であるYESのときにはステップS12に進む。一方で、マグネット35の磁力が適正値でないNOのときには、前記ステップS8に戻る。
【0084】
前記ステップS12では、演算したトルク電流指令値Iq*に従って、トルク電流を供給する。このステップS12でも、トルク電流の供給は、モータ出力制御部21aが、PWM制御を行うためのコマンドを演算して、該コマンドに基づいてインバータ6を作動制御することで実行される。
【0085】
〈減磁制御時の第2クラッチの制御〉
ここで、磁化制御部21bにより各マグネット35の磁力を減少させる減磁制御を実行すると、モータトルクが一時的に減少する。モータトルクが減少すると、自動車1の移動力が減少するため、自動車1の乗員に違和感を与えるおそれがある。
【0086】
そこで、本実施形態1では、第2クラッチ7の締結状態を適切に制御することで、前記減磁制御を実行する際に自動車1の乗員に与える違和感を抑制するようにした。以下、この制御について、図6に示すフローチャートを参照しながら詳細に説明する。
【0087】
まず、ステップS101において、MCU21は、磁化電流の通電時間tdを演算する。通電時間は、現在のモータ回転数からステータ34のティース34bの1つ分だけロータ33が回転する時間に相当する。MCU21は、次の式に基づいて通電時間を算出する。次式で、Pnはマグネット35の極対数であり、Nは1秒間当たりのロータ33の回転数である。
【0088】
(通電時間)=1/(Pn×3×N)
次に、ステップS102において、MCU21は、モータ回転センサ51の検出結果に
基づいて、ロータ33の位置が適正位置であるか否かを判定する。適正位置とは、ステータ34のいずれかのコイル36の軸線(巻回軸)といずれかのマグネット35の軸線(磁軸)とが一致するような位置をいう。ロータ33が適正位置にあるYESのときには、ステップS103に進む。一方で、ロータ33が適正位置からずれているNOのときには、ロータ33の位置が適正位置になるまで、ステップS102の判定を繰り返す。
【0089】
前記ステップS103では、TCU22が、第2クラッチ7の締結力を小さくする。TCU22は、第2クラッチ7が部分締結状態になる程度にまで第2クラッチ7の締結力を小さくする。尚、第2クラッチ7が非締結状態になる程度にまで第2クラッチ7の締結力を小さくしてもよい。
【0090】
次のステップS104において、MCU21は、トルク電流のオフセット値を演算する。このオフセット値は、マグネット35の磁力が低下した後(磁力最適値Φになった後)であっても、モータトルクが減磁制御の実行直前のモータトルクよりも大きくなるような大きさである。
【0091】
次のステップS105では、MCU21は、トルク電流指令値Iq*に応じたトルク電流に、前記ステップS104で演算したオフセット値を加えたトルク電流を供給する。
【0092】
続くステップS106において、MCU21は、磁化電流指令値Id*に応じた磁化電流を供給する。これにより、マグネット35の磁力が減少する。
【0093】
次のステップS107では、MCU21は、目標のモータトルク、すなわち、トルク指令値T*に応じたモータトルクが出力されるように、トルク電流の大きさを調整する。
【0094】
次のステップS108では、MCU21は、第2クラッチ7の上流側の回転速度と第2クラッチ7の下流側の回転速度との差であるクラッチ差回転が所定値以上であるか否かを判定する。差回転が所定値以上であるYESのときにはステップS108に進む。一方で、差回転が所定値未満であるNOのときにはステップS109に進む。尚、第2クラッチ7の上流側の回転速度はモータ回転センサ51により検出される。第2クラッチ7の下流側の回転速度は、前記ステップS103において第2クラッチ7の締結力を小さくした時点での第2クラッチ7の回転数が採用される。
【0095】
前記ステップS109では、MCU21は、第2クラッチ7の前後の差回転が所定値未満になるようにトルク電流を供給する。前記ステップS105においてオフセット値を加えたトルク電流を供給したため、基本的には、第2クラッチ7における駆動モータ3側の部分の方が、第2クラッチ7における変速機8側の部分よりも回転数が大きい。そこで、MCU21は、ロータ33のブレーキになるような電流をコイル36に供給して、第2クラッチ7の前後の差回転を小さくする。ステップS108の後は、前記ステップS107に戻り、再び判定を受ける。
【0096】
一方で、前記ステップS110では、TCU22は、第2クラッチ7の締結力を、減磁制御の実行前の状態、すなわち、締結状態に戻す。ステップS109の後はリターンする。
【0097】
このように、マグネット35の磁力を減少させる前に、第2クラッチ7の締結力を小さくすることで、モータトルクの変化が駆動輪(ここでは後輪4R)に伝達されにくい。このため、マグネット35の磁力を変更する際に自動車1の乗員に与えられる違和感を抑制することができる。
【0098】
図7は、MCU21(磁化制御部21b)により前記減磁制御を実行する際の各物理量の変化を時系列で示す。図7において最終トルクは、駆動輪(ここでは後輪4R)に供給されるトルクのことを示す。この最終トルクを示すグラフにおいて、実線は本実施形態1に係る演算装置100(制御部)を用いて、第2クラッチ7の作動制御を行った場合の最終トルクの変化であり、破線は第2クラッチ7の作動制御をしなかった場合の最終トルクの変化である。
【0099】
まず、時間t11において減磁要求フラグがオンになったとする。このとき、TCU22が第2クラッチ7の締結力を低下させる。MCU21は、この間にトルク電流のオフセット値を演算する。
【0100】
第2クラッチ7の締結力が低下したら(時間t12)、MCU21は、オフセット値を含めたトルク電流をコイル36に供給する。これにより、モータトルクも上昇する。このとき、第2クラッチ7が滑って若しくは空転して、クラッチ差回転が大きくなる。ここでは、第2クラッチ7の上流側の回転速度が、第2クラッチ7の下流側の回転速度よりも大きくなる。
【0101】
モータトルクが上昇した後、時間t13において、MCU21は、マグネット35の磁力を減少させるように磁化電流をコイル36に供給する。これにより、マグネット35の磁力が低下する。これに伴い、モータトルクも減少する。尚、磁化電流を流した瞬間には、リアクタンストルクが生じてモータトルクが僅かに上昇するが、最終トルクにはほとんど影響しない程度であるため、図7では図示を省略している。
【0102】
次に、MCU21は、目標のモータトルクになるようにトルク電流を漸減させる。時間t14において、目標のモートルクに近づいた後は、時間t15まで一定のトルク電流を供給する。この間も第2クラッチ7は締結力が小さいままであるため、クラッチ差回転は大きくなる。
【0103】
そして、時間t15において、MCU21は、クラッチ差回転が所定値以下となるように、具体的には略ゼロとなるように、トルク電流をコイル36に供給する。このときには、ロータ33の回転速度が低くなるようなトルク電流を供給する。これにより、一瞬モータトルクが減少して、第2クラッチ7の上流側の回転速度が低下する。この結果、クラッチ差回転が減少する。
【0104】
クラッチ差回転が低下した後、MCU21は、目標のモータトルクになるようにトルク電流を戻す(時間t16)。これにより、モータトルクも戻る。クラッチ差回転が略ゼロになった後(時間t17)には、TCU22は、第2クラッチ7の締結力を、前記減磁制御を実行する直前の締結力に戻す。その後、時間t18において、減磁要求フラグがオフになって、前記減磁制御が終了する。
【0105】
図7に破線で示すように、仮に第2クラッチ7を締結したままにすると、モータトルクの変化がそのまま駆動輪に伝達されるようになり、該モータトルクの変化が加速度の変化として自動車1の乗員に伝達されてしまう。一方で、本実施形態1のように、第2クラッチ7の締結力を予め小さくしておくことにより、モータトルクの変化が駆動輪に伝達されにくくなる。これにより、最終トルクはほとんど変化することなく、一定の状態に維持される。よって、前記減磁制御の実行時に自動車1の乗員に与えられる違和感が抑制される。
【0106】
したがって、本実施形態1では、演算装置100は、マグネット35の磁力を減少させる減磁制御を実行するときには、第2クラッチ7の締結力を該減磁制御の非実行時と比較
して小さくする。これにより、第2クラッチ7の締結力が小さくなるため、前記減磁制御の実行時にモータトルクが減少したとしても、該モータトルクの減少が駆動輪に伝わりにくくなる。これにより、減磁制御時に自動車1の乗員に与えられる違和感を抑制することができる。
【0107】
特に、本実施形態1において、演算装置100は、前記減磁制御の実行時において、第2クラッチ7の締結力を小さくした後、磁化制御部21bによりマグネット35の磁力を減少させるようにコイル36に磁化電流を流させる。これにより、モータトルクの減少が駆動輪に伝わるのを効果的に抑制することができる。よって、前記減磁制御時に自動車1の乗員に与えられる違和感をより効果的に抑制することができる。
【0108】
また、本実施形態1において、演算装置100は、前記減磁制御の実行時において、第2クラッチ7の締結力を小さくした後、モータトルクが増加するようにコイル36にトルク電流を流し、その後、磁化制御部21bによりマグネット35の磁力を減少させるようにコイル36に磁化電流を流させる。すなわち、予めモータトルクを増加させておくことにより、マグネット35の磁力を減少させたときのモータトルクを、マグネット35の磁力を減少させる前のモータトルクに近づけることができる。また、予め第2クラッチ7の締結力を小さくしているため、モータトルクの一時的な増加があったとしても、自動車1の乗員に違和感を与えにくい。したがって、前記減磁制御時に自動車1の乗員に与えられる違和感を一層効果的に抑制することができる。
【0109】
さらに、本実施形態1において、演算装置100は、マグネット35の磁力を減少させた後、第2クラッチ7よりも駆動モータ3側の回転速度と該第2クラッチ7よりも変速機8側の回転速度との差であるクラッチ差回転が所定量未満になるようにコイル36にトルク電流を流して、その後、第2クラッチ7の締結力を前記減磁制御の実行直前の締結力に戻す。すなわち、クラッチ差回転が大きいと、第2クラッチ7の締結力を戻したときに、自動車1の乗員に違和感を与えるおそれがある。そこで、クラッチ差回転が所定量未満のときに第2クラッチ7の締結力を戻すようにすれば、自動車1の乗員に与えられる違和感を更に効果的に抑制することができる。
【0110】
(実施形態2)
以下、実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0111】
本実施形態2では、磁化制御部21bによりマグネット35の磁力を減少させる減磁制御の実行時において、モータトルクの変化を、第2クラッチ7の制御ではなく、エンジントルクの制御により吸収する点で前記実施形態1とは異なる。具体的には、前記減磁制御の実行時に、ECU20が、モータトルクの減少に応じて、エンジントルクが増加するようにエンジン2及びオルタネータ15の少なくとも一方を制御する。
【0112】
図8は、本実施形態2において、減磁制御時の演算装置100の処理動作を示すフローチャートである。以下、図8を参照しながら、演算装置100が実行する制御について説明する。尚、ここでいうエンジントルクは、自動車1の移動に用いられるエンジントルクの量を示している。
【0113】
まず、ステップS201において、MCU21は、磁化電流の通電時間tdを演算する。通電時間は、現在のモータ回転数からステータ34のティース34bの1つ分だけロータ33が回転する時間に相当する。
【0114】
次に、ステップS202において、MCU21は、モータ回転センサ51の検出結果に基づいて、ロータ33の位置が適正位置であるか否かを判定する。ロータ33が適正位置にあるYESのときには、次のステップに進む。一方で、ロータ33が適正位置からずれているNOのときには、ロータ33の位置が適正位置になるまで、ステップS202の判定を繰り返す。
【0115】
前記ステップS202の判定がYESであるときには、MCU21がステップS203及びステップS204の処理を実行し、これと並行して、ECU20がステップS205~ステップS207の処理を実行する。
【0116】
前記ステップS203では、MCU21は、磁化電流指令値Id*に応じた磁化電流を供給する。これにより、マグネット35の磁力が減少する。
【0117】
前記ステップS204では、MCU21は、目標のモータトルク、すなわち、トルク指令値T*に応じたモータトルクが出力されるように、トルク電流を増加させる。
【0118】
一方、前記ステップS205では、ECU20は、マグネット35の磁力が減少することにより減少するモータトルクを推定する。このとき、ECU20は、例えば、MCU21から目標の磁力に関する情報を取得するともに、電流センサ52から入力される現在コイルに通電されている電流の電流値から減少するモータトルクを推定する。
【0119】
前記ステップS206では、ECU20は、エンジントルクを増加させる。このとき、ECU20は、例えば、発電制御部20bによりオルタネータ15の発電負荷を低下させることで、駆動輪に供給されるエンジントルクを増加させる。又は、エンジン出力制御部20aにより、エンジン2における燃料噴射量を増加させることでエンジントルクを増加させるようにしてもよい。さらには、オルタネータ15の発電負荷の調整とエンジン2の燃料噴射量の調整との両方を行うようにしてもよい。
【0120】
前記ステップS207では、ECU20は、前記ステップS204におけるモータトルクの増加に応じて、エンジントルクを減少させる。
【0121】
前記ステップS204及び前記ステップS207の終了後にはリターンする。
【0122】
このように、モータトルクの減少に合わせてエンジントルクを増加させることで、モータトルクの変化がエンジントルクにより相殺されて、モータトルクの変化が駆動輪(ここでは後輪4R)に伝達されにくくなる。このため、マグネット35の磁力を変更する際に自動車1の乗員に与えられる違和感を抑制することができる。
【0123】
図9は、本実施形態2において、MCU21により前記減磁制御を実行する際の各物理量の変化を時系列で示す。図9において最終トルクは、駆動輪(ここでは後輪4R)に供給されるトルクのことを示す。この最終トルクを示すグラフにおいて、実線は本実施形態2に係る演算装置100(制御部)を用いて、エンジントルクの調整を行った場合の最終トルクの変化であり、破線はエンジントルクの調整をしなかった場合の最終トルクの変化である。
【0124】
まず、時間t21において減磁要求フラグがオンになったとする。減磁要求フラグがオンになった後、時間t22において、MCU21は、マグネット35の磁力を減少させるように磁化電流をコイル36に供給する。これにより、マグネット35の磁力が低下する。これに伴い、モータトルクも減少する。このモータトルクの減少に応じて、ECU20は、時間t22においてエンジントルクを上昇させるように、エンジン2及びオルタネー
タ15の少なくとも一方を制御する。尚、磁化電流を流した瞬間には、リアクタンストルクが生じてモータトルクが僅かに上昇するが、最終トルクにはほとんど影響しない程度であるため、図9では図示を省略している。
【0125】
モータトルクが減少した時間t23において、MCU21は、目標のモータトルクになるようにトルク電流を漸増させる。これによりモータトルクが漸増する。このモータトルクの漸増に応じて、ECU20は、エンジントルクが漸減するように、エンジン2及びオルタネータ15の少なくとも一方を制御する。
【0126】
そして、モータトルクが目標のモータトルクなったとき(時間t24)には、時間t25において、減磁要求フラグがオフになって、前記減磁制御が終了する。
【0127】
図9に破線で示すように、仮にエンジントルクを調整しなかった場合、モータトルクの変化がそのまま駆動輪に伝達されるようになり、該モータトルクの変化が加速度の変化として自動車1の乗員に伝達される。一方で、本実施形態2のように、モータトルクの変化を相殺するようにエンジントルクを調整すれば、モータトルクの変化が駆動輪に伝達されにくくなる。これにより、最終トルクはほとんど変化することなく、一定の状態に維持される。よって、前記減磁制御の実行時に自動車1の乗員に与えられる違和感が抑制される。
【0128】
尚、目標のモータトルクが出力されるようにトルク電流を増加させるときに、トルク電流がオーバーシュートして、目標のモータトルクよりも大きなモータトルクが発生することがある。このときには、例えば、ブレーキ14を作動させて、モータトルクのオーバーシュート分をブレーキ14の制動力で補うようにすればよい。また、ブレーキ14を作動させる代わりにオルタネータ15の発電負荷を増加させて、自動車1の移動力に使われるエンジントルクを低下させるようにしてもよい。
【0129】
したがって、本実施形態2では、演算装置100は、マグネット35の磁力を減少させる減磁制御を実行するときには、エンジントルクを増加させるように前記動力調整手段(例えばエンジン2、オルタネータ15)を作動させる。これにより、減磁制御の実行時にモータトルクが減少しとしても、エンジントルクで該モータトルクの減少を補って、モータトルクの減少を相殺することができる。これにより、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感を効果的に抑制することができる。
【0130】
特に、本実施形態2では、モータトルクの変化に応じてエンジントルクを調整するため、自動車1の駆動輪に供給されるトルクを適切に維持することができる。これにより、減磁制御時に移動体の乗員に与えられる違和感をより一層効果的に抑制することができる。
【0131】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0132】
例えば、前述の実施形態1では、移動体の具体例としてハイブリッド車を例示したが、例えば、駆動モータのみで走行する電気自動車でもよい。また、実施形態2は、エンジン2のように駆動モータに加えて他の駆動源を有する移動体であれば、バイクなどの2輪車にも採用することができる。
【0133】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0134】
ここに開示された技術は、モータを備え、該モータにより生成されるモータトルクを利用して移動可能な移動体の制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0135】
1 自動車(移動体)
2 エンジン(駆動手段、動力調整手段)
3 駆動モータ
4R 後輪(駆動輪)
7 第2クラッチ(駆動手段)
15 オルタネータ(駆動手段、動力調整手段)
33 ロータ
34 ステータ
35 磁力可変マグネット
36 コイル
100 演算装置(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9