(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】バドミントンラケット
(51)【国際特許分類】
A63B 49/00 20150101AFI20231219BHJP
A63B 102/04 20150101ALN20231219BHJP
【FI】
A63B49/00
A63B102:04
(21)【出願番号】P 2020025154
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】君塚 渉
【審査官】相川 俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-045947(JP,A)
【文献】特開平10-179811(JP,A)
【文献】中国実用新案第208465113(CN,U)
【文献】特開2000-093559(JP,A)
【文献】特開平11-262545(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108310736(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/00 - 51/16
A63B 55/00 - 60/64
A63B 102/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリップ、
そのバッドエンドの近傍が上記グリップに挿入されたシャフト、
及び
上記シャフトのチップエンドの近傍に取り付けられたフレーム
を備えており、
上記グリップからの距離が95mmである第二測定点における上記シャフトの曲げ剛性値EI(2)が、上記グリップからの距離が35mmである第一測定点における上記シャフトの曲げ剛性値EI(1)よりも小さく、
上記グリップからの距離が155mmである第三測定点における上記シャフトの曲げ剛性値EI(3)が、上記曲げ剛性値EI(2)よりも小さく、
上記曲げ剛性値EI(2)と上記曲げ剛性値EI(1)との比(EI(2)/EI(1))が、0.72以下であり、
上記曲げ剛性値EI(3)と上記曲げ剛性値EI(2)との比(EI(3)/EI(2))が、0.58以下である、バドミントンラケット。
【請求項2】
上記曲げ剛性値EI(2)と上記曲げ剛性値EI(1)との差(EI(2)-EI(1))が、-0.30Nm
2以下である、
請求項1に記載のラケット。
【請求項3】
上記曲げ剛性値EI(3)と上記曲げ剛性値EI(2)との差(EI(3)-EI(2))が、-0.5Nm
2以下である、
請求項1又は2に記載のラケット。
【請求項4】
上記シャフトが中空構造を有しており、
上記第一測定点から上記第三測定点までの上記シャフトの内径が実質的に均一である、
請求項1から3のいずれかに記載のラケット。
【請求項5】
上記第一測定点から上記第三測定点までの上記シャフトの外径が、実質的に均一である、
請求項1から4のいずれかに記載のラケット。
【請求項6】
上記第一測定点から上記第二測定点までの上記シャフトの質量W1と、上記第二測定点から上記第三測定点までの上記シャフトの質量W2との比(W1/W2)が、0.95以上1.05以下である、
請求項1から5のいずれかに記載のラケット。
【請求項7】
上記シャフトが、
軸方向において上記第一測定点を含みかつ上記第二測定点及び上記第三測定点を含まないゾーンに配置されており、かつ
実質的に軸方向に配向する複数の強化繊維を含む
繊維強化層を有する、
請求項1から6のいずれかに記載のラケット。
【請求項8】
上記シャフトが、
軸方向において上記第一測定点及び上記第二測定点を含みかつ上記第三測定点を含まないゾーンに配置されており、かつ
実質的に軸方向に配向する複数の強化繊維を含む
繊維強化層を有する、
請求項1から7のいずれかに記載のラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バドミントンラケットに関する。詳細には、本発明は、このラケットのシャフトの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
バドミントンのラケットは、フレーム、ストリング及びシャフトを有している。プレーヤーは、ラケットでシャトルをショットする。ショット時には、シャフトが変形する。
【0003】
シャフトの変形挙動を適正にする試みが、種々なされている。中国特許公開第108853971号公報には、内径が段階的に変化するシャフトを有するラケットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バドミントンのゲームでは、プレーヤーは、様々な種類のショットを行う。ロビング、スマッシュ、カット、クリア等のショットを、プレーヤーは行う。
【0006】
ロビングは、プレーヤーのコート内の、ネットの近くから、打たれることが多い。ロビングは、相手プレーヤーのコートの奥にシャトルを運ぶことが意図されるショットである。ロビングでのシャトルの弾道は、高い。意図した高さでシャトルを飛行させる技量が、プレーヤーには必要である。ロビングを多用するプレーヤーは、シャトルの弾道の安定を望んでいる。
【0007】
ロビングでは、シャフトは、主として面外方向に撓む。シャフトが面外方向に撓む、ロビング以外のショットでも、プレーヤーは、シャトルの弾道の安定を望んでいる。
【0008】
本発明の目的は、シャフトが主として面外方向に撓むショットに適したバドミントンラケットの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るバドミントンラケットは、
グリップ、
そのバッドエンドの近傍がグリップに挿入されたシャフト、
及び
シャフトのチップエンドの近傍に取り付けられたフレーム
を備える。グリップからの距離が95mmである第二測定点におけるシャフトの曲げ剛性値EI(2)は、グリップからの距離が35mmである第一測定点におけるシャフトの曲げ剛性値EI(1)よりも、小さい。グリップからの距離が155mmである第三測定点におけるシャフトの曲げ剛性値EI(3)は、曲げ剛性値EI(2)よりも小さい。
【0010】
好ましくは、曲げ剛性値EI(2)と曲げ剛性値EI(1)との比(EI(2)/EI(1))は、0.95以下である。
【0011】
好ましくは、曲げ剛性値EI(3)と曲げ剛性値EI(2)との比(EI(3)/EI(2))は、0.90以下である。
【0012】
好ましくは、曲げ剛性値EI(2)と曲げ剛性値EI(1)との差(EI(2)-EI(1))は、-0.30Nm2以下である。
【0013】
好ましくは、曲げ剛性値EI(3)と曲げ剛性値EI(2)との差(EI(3)-EI(2))は、-0.5Nm2以下である。
【0014】
シャフトが中空構造を有してもよい。好ましくは、第一測定点から第三測定点までのシャフトの内径は、実質的に均一である。
【0015】
好ましくは、第一測定点から第三測定点までのシャフトの外径は、実質的に均一である。
【0016】
好ましくは、第一測定点から第二測定点までのシャフトの質量W1と、第二測定点から第三測定点までのシャフトの質量W2との比(W1/W2)は、0.95以上1.05以下である。
【0017】
好ましくは、シャフトは、繊維強化層を有する。この繊維強化層は、軸方向において、第一測定点を含みかつ第二測定点及び第三測定点を含まないゾーンに配置される。この繊維強化層は、実質的に軸方向に配向する複数の強化繊維を含む。
【0018】
好ましくは、シャフトは、他の繊維強化層を有する。この繊維強化層は、軸方向において、第一測定点及び第二測定点を含みかつ第三測定点を含まないゾーンに配置される。この繊維強化層は、実質的に軸方向に配向する複数の強化繊維を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るバドミントンラケットを使用するプレーヤーは、シャフトが主として面外方向に撓むショットを行いやすい。このラケットは、ゲームの勝利に寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るバドミントンラケットが示された正面図である。
【
図3】
図3は、
図1のラケットのシャフトの一部が示された拡大断面図である。
【
図4】
図4は、
図3のIV-IV線に沿った拡大断面図である。
【
図5】
図5は、
図1のラケットのシャフトのためのプリプレグが示された展開図である。
【
図6】
図6は、
図1のラケットのシャフトの曲げ剛性値EIの測定方法が示された模式図である。
【
図7】
図7は、
図1のラケットのシャフトの曲げ剛性分布が示されたグラフである。
【
図8】
図8は、比較例に係るラケットのシャフトの曲げ剛性分布が示されたグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の実施例2に係るラケットのシャフトの曲げ剛性分布が示されたグラフである。
【
図10】
図10は、本発明の実施例3に係るラケットのシャフトの曲げ剛性分布が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0022】
図1及び2に、バドミントンラケット2が示されている。このラケット2は、シャフト4、フレーム6、グリップ8及びストリング10を有している。
図1及び2において、矢印Xは幅方向を表し、矢印Yは軸方向を表し、矢印Zは厚み方向を表す。
【0023】
シャフト4は、バッド部12、ミドル部14及びチップ部16を有している。シャフト4はさらに、バッドエンド18及びチップエンド20を有している。シャフト4は、中空である。シャフト4は、繊維強化樹脂から形成されている。この繊維強化樹脂は、樹脂マトリックスと、多数の強化繊維とを有している。シャフト4は、複数の繊維強化層(後に詳説)を含んでいる。
【0024】
シャフト4の基材樹脂として、エポキシ樹脂、ピスマレイミド樹脂、ポリイミド及びフェノール樹脂のような熱硬化性樹脂;並びにポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド及びポリプロピレンのような熱可塑性樹脂が例示される。シャフト4に特に適した樹脂は、エポキシ樹脂である。
【0025】
シャフト4の強化繊維として、カーボン繊維、金属繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維が例示される。シャフト4に特に適した繊維は、カーボン繊維である。複数種の繊維が併用されてもよい。
【0026】
フレーム6は環状であり、中空である。フレーム6は、繊維強化樹脂から形成されている。この繊維強化樹脂の基材樹脂として、シャフト4の基材樹脂と同様の樹脂が用いられ得る。この繊維強化樹脂の強化繊維として、シャフト4の強化繊維と同様の繊維が用いられ得る。フレーム6は、シャフト4のチップエンド20に、堅固に結合されている。
【0027】
グリップ8は、軸方向(Y方向)に延びる穴21を有している。この穴21に、シャフト4のバッドエンド18の近傍が挿入されている。穴21の内周面とシャフト4の外周面とは、接着剤で接合されている。
【0028】
ストリング10は、フレーム6に張られている。ストリング10は、幅方向X及び軸方向Yに沿って張られる。ストリング10のうち幅方向Xに沿って延在する部分は、横スレッド22と称される。ストリング10のうち軸方向Yに沿って延在する部分は、縦スレッド24と称される。複数の横スレッド22及び複数の縦スレッド24により、フェース26が形成されている。フェース26は、概してX-Y平面に沿っている。
【0029】
図1において符号Lは、シャフト4の露出部分の長さである。長さLは、通常は、150mm以上210mm以下である。
【0030】
図3は、
図1のラケット2のシャフト4の一部が示された拡大断面図である。
図4は、
図3のIV-IV線に沿った拡大断面図である。前述の通り、このシャフト4は中空である。
図4に示されるように、このシャフト4の断面形状は、円である。換言すれば、このシャフト4は、円筒状である。
【0031】
図3及び4において矢印Diは、シャフト4の内径を表す。典型的な内径Diは、3mm以上10mm以下である。
図3及び4において矢印Doは、シャフト4の外径を表す。典型的な外径Doは、5mm以上15mm以下である。
【0032】
前述の通りシャフト4は、繊維強化樹脂から形成されている。このシャフト4は、シートワインディング法によって製造されうる。このシートワインディング法では、複数のプリプレグが、マンドレルに巻かれる。それぞれのプリプレグは、複数の繊維とマトリックス樹脂とを有する。このマトリックス樹脂は、硬化していない。
【0033】
図5は、
図1のラケット2のシャフト4のためのプリプレグ構成が示された展開図である。このプリプレグ構成は、8のプリプレグ(シート)を有する。具体的には、このプリプレグ構成は、第一シートS1、第二シートS2、第三シートS3、第四シートS4、第五シートS5、第六シートS6、第七シートS7及び第八シートS8を有する。これらのプリプレグから、後述される方法にて、複数の繊維強化層が形成される。具体的には、第一シートS1から第一繊維強化層が形成され、第二シートS2から第二繊維強化層が形成され、第三シートS3から第三繊維強化層が形成され、第四シートS4から第四繊維強化層が形成され、第五シートS5から第五繊維強化層が形成され、第六シートS6から第六繊維強化層が形成され、第七シートS7から第七繊維強化層が形成され、第八シートS8から第八繊維強化層が形成される。
【0034】
図5における左右方向は、シャフト4の軸方向である。
図5には、バッドエンド18及びチップエンド20の位置が、矢印で示されている。
図5にはさらに、後述される3つの測定点P1、P2及びP3の位置が、矢印で示されている。
図5において、左右方向(軸方向)の縮尺は、上下方向の縮尺と一致していない。
【0035】
第一シートS1は、シャフト4の全体に渡って存在している。第一シートS1の形状は、概ね矩形である。この第一シートS1は、並列された複数のカーボン繊維を含んでいる。それぞれのカーボン繊維の延在方向は、軸方向に対して傾いている。このカーボン繊維の延在方向の、軸方向に対する角度は、30°以上60°以下である。本実施形態では、この角度は45°である。この第一シートS1では、幅は100mmであり、長さは340mmである。
【0036】
第二シートS2は、シャフト4の全体に渡って存在している。第二シートS2の形状は、概ね矩形である。この第二シートS2は、並列された複数のカーボン繊維を含んでいる。それぞれのカーボン繊維の延在方向は、軸方向に対して傾いている。このカーボン繊維の延在方向の、軸方向に対する角度は、-60°以上-30°以下である。本実施形態では、この角度は-45°である。この第二シートS2では、幅は100mmであり、長さは340mmである。
【0037】
第二シートS2におけるカーボン繊維の傾斜方向は、第一シートS1におけるカーボン繊維の傾斜方向とは逆である。従って、第二繊維強化層におけるカーボン繊維の傾斜方向は、第一繊維強化層におけるカーボン繊維の傾斜方向とは逆である。このシャフト4では、第一繊維強化層及び第二繊維強化層により、バイアス構造が達成されている。第一繊維強化層及び第二繊維強化層は、シャフト4の曲げ剛性及びねじり剛性に寄与する。第一繊維強化層及び第二繊維強化層は、特に、シャフト4のねじり剛性に寄与する。
【0038】
第三シートS3は、シャフト4のチップエンド20側に偏って存在している。第三シートS3の形状は、概ね台形である。この第三シートS3は、並列された複数のカーボン繊維を含んでいる。それぞれのカーボン繊維の延在方向は、軸方向に対して傾いている。このカーボン繊維の延在方向の、軸方向に対する角度は、30°以上60°以下である。本実施形態では、この角度は45°である。この第三シートS3では、幅は40mmであり、上底の長さは185mmであり、下底の長さは195mmである。
【0039】
第四シートS4は、シャフト4のチップエンド20側に偏って存在している。軸方向において、第四シートS4の位置は、第三シートS3の位置と一致している。第四シートS4の形状は、概ね台形である。この第四シートS4は、並列された複数のカーボン繊維を含んでいる。それぞれのカーボン繊維の延在方向は、軸方向に対して傾いている。このカーボン繊維の延在方向の、軸方向に対する角度は、-60°以上-30°以下である。本実施形態では、この角度は-45°である。この第四シートS4では、幅は40mmであり、上底の長さは185mmであり、下底の長さは195mmである。
【0040】
第四シートS4におけるカーボン繊維の傾斜方向は、第三シートS3におけるカーボン繊維の傾斜方向とは逆である。従って、第四繊維強化層におけるカーボン繊維の傾斜方向は、第三繊維強化層におけるカーボン繊維の傾斜方向とは逆である。このシャフト4では、第三繊維強化層及び第四繊維強化層により、バイアス構造が達成されている。第三繊維強化層及び第四繊維強化層は、ミドル部14及びチップ部16の曲げ剛性及びねじり剛性に寄与する。第三繊維強化層及び第四繊維強化層は、特に、ミドル部14及びチップ部16のねじり剛性に寄与する。
【0041】
第五シートS5は、シャフト4のバッドエンド18側に偏って存在している。第五シートS5の形状は、概ね台形である。この第五シートS5は、並列された複数のカーボン繊維を含んでいる。それぞれのカーボン繊維の延在方向は、軸方向に一致している。換言すれば、このカーボン繊維の延在方向の、軸方向に対する角度は、実質的に0°である。この第五シートS5では、幅は80mmであり、上底の長さは145mmであり、下底の長さは155mmである。
【0042】
前述の通り、第五シートS5に含まれるカーボン繊維は、実質的に軸方向に配向している。従って、第五繊維強化層でも、カーボン繊維は実質的に軸方向に配向している。本明細書では、カーボン繊維が実質的に軸方向に配向する構造は、「ストレート構造」と称される。第五繊維強化層は、ストレート構造を有する。シャフト4が撓んだとき、これらのカーボン繊維に大きな張力がかかる。この張力は、シャフト4のさらなる撓みを抑制する。換言すれば、これらのカーボン繊維は、シャフト4の曲げ剛性に寄与する。
図5に示されるように、第五シートS5は、軸方向において第一測定点P1を含みかつ第二測定点P2及び第三測定点P3を含まないゾーンに、配置されている。従って、第五繊維強化層も、軸方向において第一測定点P1を含みかつ第二測定点P2及び第三測定点P3を含まないゾーンに位置する。第五繊維強化層は、特に、バッド部12の曲げ剛性に寄与する。
【0043】
第六シートS6は、シャフト4のチップエンド20側に偏って存在している。第六シートS6の形状は、概ね台形である。この第六シートS6は、並列された複数のカーボン繊維を含んでいる。それぞれのカーボン繊維の延在方向は、軸方向に対して傾いている。このカーボン繊維の延在方向の、軸方向に対する角度は、30°以上60°以下である。本実施形態では、この角度は45°である。この第六シートS6では、幅は20mmであり、上底の長さは95mmであり、下底の長さは105mmである。
【0044】
第七シートS7は、シャフト4のチップエンド20側に偏って存在している。軸方向において、第7シートの位置は、第六シートS6の位置と一致している。第七シートS7の形状は、概ね台形である。この第七シートS7は、並列された複数のカーボン繊維を含んでいる。それぞれのカーボン繊維の延在方向は、軸方向に対して傾いている。このカーボン繊維の延在方向の、軸方向に対する角度は、-60°以上-30°以下である。本実施形態では、この角度は-45°である。この第七シートS7では、幅は20mmであり、上底の長さは95mmであり、下底の長さは105mmである。
【0045】
第七シートS7におけるカーボン繊維の傾斜方向は、第六シートS6におけるカーボン繊維の傾斜方向とは逆である。従って、第七繊維強化層におけるカーボン繊維の傾斜方向は、第六繊維強化層におけるカーボン繊維の傾斜方向とは逆である。このシャフト4では、第六繊維強化層及び第七繊維強化層により、バイアス構造が達成されている。第六繊維強化層及び第七繊維強化層は、バッド部12の曲げ剛性及びねじり剛性に寄与する。第六繊維強化層及び第七繊維強化層は、特に、バッド部12のねじり剛性に寄与する。
【0046】
第八シートS8は、シャフト4のバッドエンド18側に偏って存在している。第八シートS8の形状は、概ね台形である。この第八シートS8は、並列された複数のカーボン繊維を含んでいる。それぞれのカーボン繊維の延在方向は、軸方向に一致している。換言すれば、このカーボン繊維の延在方向の、軸方向に対する角度は、実質的に0°である。この第八シートS8では、幅は40mmであり、上底の長さは235mmであり、下底の長さは245mmである。
【0047】
前述の通り、第八シートS8に含まれるカーボン繊維は、実質的に軸方向に配向している。従って、第八繊維強化層でも、カーボン繊維は実質的に軸方向に配向している。第八繊維強化層は、ストレート構造を有する。シャフト4が撓んだとき、これらのカーボン繊維に大きな張力がかかる。この張力は、シャフト4のさらなる撓みを抑制する。換言すれば、これらのカーボン繊維は、シャフト4の曲げ剛性に寄与する。
図5に示されるように、第八シートS8は、軸方向において第一測定点P1及び第二測定点P2を含みかつ第三測定点P3を含まないゾーンに、配置されている。従って、第八繊維強化層も、軸方向において第一測定点P1及び第二測定点P2を含みかつ第三測定点P3を含まないゾーンに位置する。第八繊維強化層は、特に、バッド部12及びミドル部14の曲げ剛性に寄与する。
【0048】
このシャフト4では、第一繊維強化層及び第二繊維強化層は、バッドエンド18からチップエンド20に渡って存在している。これらの繊維強化層は、シャフト4の耐久性に寄与しうる。
【0049】
このシャフト4の製造では、
図5に示されたシートが、順次、マンドレルに巻かれる。第一シートS1と第二シートS2とが重ねられて、マンドレルに巻かれてもよい。第三シートS3と第四シートS4とが重ねられて、マンドレルに巻かれてもよい。第六シートS6と第七シートS7とが重ねられて、マンドレルに巻かれてもよい。これらのシートと共に、他のシートがマンドレルに巻かれてもよい。他のシートとして、ガラス繊維を含むものが例示される。
【0050】
これらのシートに、さらにラッピングテープが巻かれる。これらのマンドレル、プリプレグ(シートS1-S8)及びラッピングテープは、オーブン等で加熱される。加熱により、マトリックスの樹脂が流動する。さらなる加熱によりこの樹脂が硬化反応を起こし、成形体が得られる。この成形体に、端面の加工、研磨、塗装等の処理が施され、シャフト4が完成する。
【0051】
図6は、
図1のラケット2のシャフト4の曲げ剛性値EIの測定方法が示された模式図である。
図6には、グリップ8からの距離がL1である測定点Pでの測定が示されている。この測定では、第一支持点28及び第二支持点30により、シャフト4が下方から支持される。第一支持点28までの、測定点Pからの距離は、30mmである。第二支持点30までの、測定点Pからの距離は、30mmである。測定は、万能材料試験機(インテスコ社の商品名「2020」)によってなされる。この試験機は、圧子32を有している。この圧子32の形状は、半球である。この半球の曲率半径は、20mmである。この圧子32が2mm/minの速度で徐々に下降する。この圧子32は測定点Pに当接し、さらにシャフト4を押す。この押しにより、シャフト4が徐々に撓む。この圧子32によるシャフト4への荷重が100Nとなった時点での、シャフト4の撓み量B(m)が、測定される。この撓み量Bが下記の数式に代入されて、曲げ剛性値EI(Nm
2)が算出される。
EI = F ・ L2
3/ (48 ・ B)
この数式において、Fは荷重(N)であり、L2は2つの支持点の間の距離(m)であり、Bは撓み量(m)である。本実施形態では、荷重Fは100Nであり、距離L2は0.06mである。グリップ8及びフレーム6が取り付けられていない状態で、シャフト4の曲げ剛性値EIが測定されてもよい。
【0052】
本実施形態では、第一測定点P1、第二測定点P2及び第三測定点P3において、曲げ剛性値EIが測定される。各測定点までのグリップ8からの距離L1は、下記の通りである。
第一測定点P1:35mm
第二測定点P2:95mm
第三測定点P3:155mm
【0053】
図5に示されたプリプレグ構成を有するシャフト4では、第一測定点P1における曲げ剛性値EI(1)は4.97Nm
2であり、第二測定点P2における曲げ剛性値EI(2)は3.56Nm
2であり、第三測定点P3における曲げ剛性値EI(3)は2.06Nm
2である。このシャフト4の曲げ剛性分布が、
図7のグラフに示されている。
【0054】
このシャフト4では、第二測定点P2での曲げ剛性値EI(2)は、第一測定点P1での曲げ剛性値EI(1)よりも小さい。さらにこのシャフト4では、第三測定点P3での曲げ剛性値EI(3)は、第二測定点P2での曲げ剛性値EI(2)よりも小さい。
図7に示されるように、このシャフト4は、前下がりの曲げ剛性分布を有する。
【0055】
前述の通り、第五繊維強化層は、軸方向において第一測定点P1を含みかつ第二測定点P2及び第三測定点P3を含まないゾーンに位置している。第八繊維強化層は、軸方向において第一測定点P1及び第二測定点P2を含みかつ第三測定点P3を含まないゾーンに位置している。第一測定点P1を含まずかつ第二測定点P2及び第三測定点P3を含むゾーンに位置し、しかもストレート構造を有する繊維強化層は、存在しない。第一測定点P1及び第二測定点P2を含まずかつ第三測定点P3を含むゾーンに位置し、しかもストレート構造を有する繊維強化層は、存在しない。この層構造により、前下がりの曲げ剛性分布が達成されうる。
【0056】
他の層構造によっても、前上がりの曲げ剛性分布が達成されうる。ストレート構造を有する繊維強化層がバッド部12に偏在することで、前上がりの曲げ剛性分布が達成されうる。
【0057】
本発明者の得た知見によれば、前下がりの曲げ剛性分布を有するシャフト4は、ロビングに適している。このラケット2を用いてロビングを行うプレーヤーは、シャトルの意図した弾道を得やすい。このラケット2では、ロビングにおけるシャトルの弾道の高さのばらつきが小さい。
【0058】
本発明に係るラケット2がロビングに適する理由は、ロビングにおけるシャフト4の変形挙動に、
図7に示された曲げ剛性分布がマッチするからである。ロビングでは、シャフト4は主として、面外方向(Z方向)に撓む。シャフト4が主として面外方向に撓む、ロビング以外のショットにも、本発明に係るラケット2は適する。
【0059】
プリプレグの位置、プリプレグの数、プリプレグの幅、プリプレグの長さ、繊維の角度、繊維の目付量、繊維の弾性率等の変更により、曲げ剛性分布が調整されうる。
【0060】
弾道の安定性の観点から、曲げ剛性値EI(2)と曲げ剛性値EI(1)との比(EI(2)/EI(1))は0.95以下が好ましく、0.87以下がより好ましく、0.82以下が特に好ましい。シャフト4の製造容易の観点から、この比は0.30以上が好ましい。
【0061】
弾道の安定性の観点から、曲げ剛性値EI(3)と曲げ剛性値EI(2)との比(EI(3)/EI(2))は0.90以下が好ましく、0.77以下がより好ましく、0.70以下が特に好ましい。シャフト4の製造容易の観点から、この比は0.25以上が好ましい。
【0062】
弾道の安定性の観点から、曲げ剛性値EI(3)と曲げ剛性値EI(1)との比(EI(3)/EI(1))は0.80以下が好ましく、0.60以下がより好ましく、0.50以下が特に好ましい。シャフト4の製造容易の観点から、この比は0.20以上が好ましい。
【0063】
弾道の安定性の観点から、曲げ剛性値EI(2)と曲げ剛性値EI(1)との差(EI(2)-EI(1))は-0.30Nm2以下が好ましく、-0.62Nm2以下がより好ましく、-0.80Nm2以下が特に好ましい。シャフト4の製造容易の観点から、この差は-3.00Nm2以上が好ましい。
【0064】
弾道の安定性の観点から、曲げ剛性値EI(3)と曲げ剛性値EI(2)との差(EI(3)-EI(2))は-0.50Nm2以下が好ましく、-0.93Nm2以下がより好ましく、-1.10Nm2以下が特に好ましい。シャフト4の製造容易の観点から、この差は-3.00Nm2以上が好ましい。
【0065】
弾道の安定性の観点から、曲げ剛性値EI(3)と曲げ剛性値EI(1)との差(EI(3)-EI(1))は-0.80Nm2以下が好ましく、-1.50Nm2以下がより好ましく、-1.80Nm2以下が特に好ましい。シャフト4の製造容易の観点から、この差は-6.00Nm2以上が好ましい。
【0066】
曲げ剛性値EIの好ましい範囲は、以下の通りである。
EI(1):3Nm2以上7Nm2以下
EI(2):2Nm2以上6Nm2以下
EI(3):1Nm2以上5Nm2以下
【0067】
図3には、第一測定点P1、第二測定点P2及び第三測定点P3が示されている。
図3から明らかな通り、このシャフト4の内径Diは、第一測定点P1から第三測定点P3までにおいて、実質的に均一である。このシャフト4は、シンプルな形状のマンドレルにて、製造されうる。このシャフト4の製造では、プリプレグの巻きが容易である。シャフト4が、製造上の誤差等に起因する、内径Diの多少のばらつきを有してもよい。第一測定点P1から第三測定点P3までにおける、最大内径Di1と最小内径Di2との比(Di1/Di2)は、1.10以下が好ましく、1.05以下がより好ましく、1.03以下が特に好ましい。理想的な比(Di1/Di2)は、1.00である。
【0068】
図3から明らかな通り、このシャフト4の外径Doは、第一測定点P1から第三測定点P3までにおいて、実質的に均一である。このシャフト4は、シンプルな形状のマンドレルにて、製造されうる。このシャフト4の製造では、プリプレグの巻きが容易である。シャフト4が、製造上の誤差等に起因する、外径Doの多少のばらつきを有してもよい。第一測定点P1から第三測定点P3までにおける、最大外径Do1と最小外径Do2との比(Do1/Do2)は、1.10以下が好ましく、1.05以下がより好ましく、1.03以下が特に好ましい。理想的な比(Do1/Do2)は、1.00である。
【0069】
第一測定点P1から第二測定点P2までのシャフト4の質量W1と、第二測定点P2から第三測定点P3までのシャフト4の質量W2との比(W1/W2)は、0.95以上1.05以下が好ましい。この比が0.95以上1.05以下であるシャフト4では、質量の偏りがない。このシャフト4を有するラケット2を、プレーヤーは、違和感なくスイングできる。この観点から、比(W1/W2)は0.97以上1.03以下がより好ましく、0.98以上1.02以下が特に好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0071】
[実施例1]
図1-6に示されたバドミントンラケットを製作した。このラケットの曲げ剛性値EIが、下記の表1及び
図7に示されている。
【0072】
[実施例2及び3並びに比較例]
プリプレグ構成を変更した他は実施例1と同様にして、実施例2及び3並びに比較例のバドミントンラケットを得た。これらのラケットの曲げ剛性値EIが、下記の表1及び
図8-10に示されている。
【0073】
[実用テスト]
発射マシンにて、シャトルを発射した。このシャトルに対してプレーヤーにロビングを行わさせ、シャトルの弾道を撮影した。画像を解析し、ネットの上を通過するシャトルの高さを測定した。6回の測定を行い、平均高さHav、最大高さHmax及び最小高さHminを求めた。この結果が、下記の表1に示されている。
【0074】
【0075】
表1から明らかな通り、各実施例のバドミントンラケットでは、ロビングにおけるシャトルの弾道が安定している。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係るバドミントンラケットは、ロビングを多用するスタイルのプレーヤーに適している。このラケットは、他のスタイルのプレーヤーにも適している。
【符号の説明】
【0077】
2・・・バドミントンラケット
4・・・シャフト
6・・・フレーム
8・・・グリップ
10・・・ストリング
12・・・バッド部
14・・・ミドル部
16・・・チップ部
18・・・バッドエンド
20・・・チップエンド
26・・・フェース
S1・・・第一シート
S2・・・第二シート
S3・・・第三シート
S4・・・第四シート
S5・・・第五シート
S6・・・第六シート
S7・・・第七シート
S8・・・第八シート