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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01M7/02 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020042820
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021143941
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】恵木 守
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 巧
(72)【発明者】
【氏名】海田 僧太
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩行
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/196003(WO,A1)
【文献】特開2006-195543(JP,A)
【文献】米国特許第6198246(US,B1)
【文献】特開2005-214711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
H02P 5/00
H02P 29/00
G05B 11/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボ系の周波数応答を測定する測定装置であって、
加振時間と励起周波数が関連付けられている所定振動を前記サーボ系に対して加える加振実行部と、
前記加振実行部による加振の結果から、サーボ系の共振周波数を含み且つ該サーボ系の反共振周波数を含まない周波数範囲である第1範囲に対応する第1加振信号と該第1加振信号に時間的に対応する第1応答信号のペアを特定し、更に、該第1範囲より低い周波数範囲であり且つ該反共振周波数を含む第2範囲に対応する第2加振信号と該第2加振信号に時間的に対応する第2応答信号のペアを特定する特定部と、
前記第1加振信号と前記第1応答信号とに基づいて、前記第1範囲に対応する周波数応答である第1周波数応答を算出し、前記第2加振信号と前記第2応答信号とに基づいて、前記第2範囲に対応する周波数応答である第2周波数応答を算出する算出部と、
前記第1周波数応答と前記第2周波数応答に基づいて、前記第1範囲及び前記第2範囲に対応する周波数範囲での周波数応答を合成する合成部と、
を備える、測定装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記加振実行部による加振の結果から、更に、前記所定振動のうち前記第1範囲及び前記第2範囲を除く残りの周波数範囲である第3範囲に対応する第3加振信号と該第3加振信号に時間的に対応する第3応答信号のペアを特定し、
前記算出部は、更に、前記第3加振信号と前記第3応答信号とに基づいて、前記第3範囲に対応する周波数応答である第3周波数応答を算出し、
前記合成部は、前記第1周波数応答と前記第2周波数応答と前記第3周波数応答とに基づいて、前記所定振動に含まれる全周波数範囲での周波数応答を合成する、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記加振実行部は、前記第1範囲及び前記第2範囲を含む周波数範囲の振動を1つの前記所定振動として前記サーボ系に対して加え、
前記特定部は、前記所定振動のうち前記第1範囲に対応する振動信号を前記第1加振信号と特定するとともに、前記サーボ系の応答信号のうち該第1加振信号の加振時間に対応する応答信号を前記第1応答信号と特定し、
更に、前記特定部は、前記所定振動のうち前記第2範囲に対応する振動信号を前記第2加振信号と特定するとともに、前記サーボ系の応答信号のうち該第2加振信号の加振時間に対応する応答信号を前記第2応答信号と特定する、
請求項1又は請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記加振実行部は、前記第1範囲の振動を前記所定振動の1つである第1振動として前記サーボ系に対して加え、且つ、前記第2範囲の振動を該所定振動の別の第2振動として前記サーボ系に対して加え、
前記特定部は、前記第1振動の振動信号を前記第1加振信号と特定するとともに、該第1振動が加振された際の前記サーボ系の応答信号を前記第1応答信号と特定し、
更に、前記特定部は、前記第2振動の振動信号を前記第2加振信号と特定するとともに、該第2振動が加振された際の前記サーボ系の応答信号を前記第2応答信号と特定する、
請求項1又は請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記サーボ系は、所定負荷に接続されたモータをサーボ制御するように構成され、
前記第1範囲と前記第2範囲は、前記モータの慣性モーメントに対する前記所定負荷の慣性モーメントの比率に基づいて設定される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記サーボ系によるサーボ制御において、前記共振周波数の近傍にノッチフィルタによるフィルタ処理が行われる場合、前記第1範囲と前記第2範囲は、該ノッチフィルタの中心周波数及びQ値に基づいて設定される、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記サーボ系によるサーボ制御において、前記共振周波数の近傍にノッチフィルタによるフィルタ処理が行われる場合、前記第1範囲と前記第2範囲は、該ノッチフィルタの中心周波数、及び周波数応答でのゲインに基づいて設定される、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項8】
前記サーボ系によるサーボ制御において、前記共振周波数の近傍にノッチフィルタによるフィルタ処理が行われる場合、前記第1範囲と前記第2範囲は、該ノッチフィルタの中心周波数に基づいて設定され、且つ、前記第1範囲と前記第2範囲のそれぞれの幅は、所定の上限幅より狭くなるように設定される、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項9】
前記第1範囲と前記第2範囲の幅は、同じ幅になるように設定される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項10】
前記第2範囲の幅は、前記第1範囲の幅より広く設定される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項11】
前記合成部は、前記合成された周波数応答に対して、所定の平均化処理を行う、
請求項1から請求項10の何れか1項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷をサーボ制御するサーボ系の周波数応答を測定する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷をサーボ制御するサーボ系を構築するために、そのサーボ系の周波数応答を測定することが行われる場合がある。一般には、測定された周波数応答を考慮して、サーボ系の速度ループおよび位置ループといった制御ループのゲイン調整が行われる。例えば、特許文献1に示す技術では、複数の異なる疑似ランダム信号の基準周期を加振周期とする加振信号をサーボ系に加えて得られる応答信号を利用して、加振周期毎に周波数応答を算出し、それらを合成することで最終的なサーボ系の周波数応答が得られる。この結果、摩擦などの外乱の影響を抑えた周波数応答の取得が可能とされる。
【0003】
また、周波数応答を精度よく同定するために周波数帯域を分割し、分割した帯域ごとに応答特性を同定する方法が知られている。例えば、偏分反復法において、分割した周波数帯域の各帯域内に含まれるモードの数を限定し、各帯域内の伝達関数を同定する方法が知られており、モード円適合法においては、モードが帯域内に1つだけ存在するように周波数帯域を分割し、分割した帯域ごとに2次伝達関数を同定する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-10287号公報
【文献】特開2006-195543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
負荷に接続されたサーボ系の周波数応答を測定する場合、一般には当該サーボ系に対して、測定したいと考える範囲の周波数成分を含む振動を加え、そのときのサーボ系の応答信号と加振信号に基づいて周波数応答が測定される。ここで、サーボ系に対して共振周波数の振動が加えられるとその応答信号にピークが現れるが、共振周波数以外の周波数の振動が加えられた場合でもその応答信号において共振周波数が励起される場合がある。この結果、当該サーボ系の周波数応答において共振周波数のゲインが本来あるべき値よりも大きく見えてしまい、周波数応答の好適な利用を妨げるおそれがある。
【0006】
このようなサーボ系の加振時の、不要な共振周波数の励起が生じる要因は様々考えられるが、その中でも負荷に接続されたサーボ系での反共振周波数の影響が大きいと考えられる。すなわち、サーボ系に対して共振周波数を含む加振信号を加えたときに、周波数応答の算出において、実際は反共振周波数の入力に対する応答が、共振周波数の入力に対する応答として測定されてしまう場合があり、その結果、正確な周波数応答の測定が困難となる。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、負荷に接続されたサーボ系の周波数応答を正確に測定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するために、サーボ系の周波数応答を測定するに際して、測定する周波数範囲を、サーボ系の共振周波数を含む範囲と、反共振周波数を含む範囲とに分割した上で、それぞれの周波数応答を算出しその算出結果を合成することで、
サーボ系の周波数応答とする構成を採用した。これにより反共振周波数での加振による、不要な共振周波数の励起の影響を排除することが可能となる。
【0009】
具体的に、本発明は、サーボ系の周波数応答を測定する測定装置であって、加振時間と励起周波数が関連付けられている所定振動を前記サーボ系に対して加える加振実行部と、前記加振実行部による加振の結果から、サーボ系の共振周波数を含み且つ該サーボ系の反共振周波数を含まない周波数範囲である第1範囲に対応する第1加振信号と該第1加振信号に時間的に対応する第1応答信号のペアを特定し、更に、該第1範囲より低い周波数範囲であり且つ該反共振周波数を含む第2範囲に対応する第2加振信号と該第2加振信号に時間的に対応する第2応答信号のペアを特定する特定部と、前記第1加振信号と前記第1応答信号とに基づいて、前記第1範囲に対応する周波数応答である第1周波数応答を算出し、前記第2加振信号と前記第2応答信号とに基づいて、前記第2範囲に対応する周波数応答である第2周波数応答を算出する算出部と、前記第1周波数応答と前記第2周波数応答に基づいて、前記第1範囲及び前記第2範囲に対応する周波数範囲での周波数応答を合成する合成部と、を備える。
【0010】
上記の測定装置の加振実行部により加えられる所定振動は、加振時間と励起周波数が関連付けられている。このことは、加振実行部による加振は、ある励起周波数の振動が加えられる加振時間を特定することが可能な形態で行われることを意味する。所定振動の一例として、いわゆるSweptsine信号が挙げられる。
【0011】
そして、加振実行部がサーボ系に対して行った加振により得られる結果から、特定部が第1範囲に対応する加振・応答信号のペアと第2範囲に対応する加振・応答信号のペアとを特定する。加振信号は、サーボ系に加えられた振動に関する信号であり、応答信号は、その加振によりサーボ系から出力される信号である。ここで、第1範囲は、サーボ系の共振周波数を含むがその反共振周波数は含まない周波数範囲であり、第2範囲は、その反共振周波数を含む周波数範囲である。すなわち、共振周波数と反共振周波数とがともに含まれないように第1範囲と第2範囲の周波数範囲がそれぞれ設定される。上記の通り、所定信号では加振時間と励起周波数が関連付けられているため、特定部による加振・応答信号のペアの特定が可能とされる。
【0012】
そして、特定部により第1範囲に対応する加振・応答信号のペアと第2範囲に対応する加振・応答信号のペアとが特定されると、算出部が、それぞれのペアを利用して第1範囲に対応する周波数応答と第2範囲に対応する周波数応答を算出する。ここで、反共振周波数と共振周波数が異なる範囲に属しており、且つ各加振・応答信号は時間的に対応している。したがって、仮に実際のサーボ系において反共振周波数の振動により共振周波数が励起されていたとしても、その励起の影響を排除して、第1範囲と第2範囲それぞれに対応する周波数範囲での周波数応答が算出される。その上で、合成部が、算出部が算出した各周波数範囲に対応する周波数応答を合成して、両周波数範囲に対応する周波数応答を生成する。
【0013】
このように本願開示の測定装置では、サーボ系の加振時の、反共振周波数での加振に起因する不要な共振周波数の励起の影響を排除でき、負荷に接続されたサーボ系の周波数応答を正確に測定することが可能となる。
【0014】
ここで、上記の測定装置において、前記特定部は、前記加振実行部による加振の結果から、更に、前記所定振動のうち前記第1範囲及び前記第2範囲を除く残りの周波数範囲である第3範囲に対応する第3加振信号と該第3加振信号に時間的に対応する第3応答信号のペアを特定してもよい。そして、前記算出部は、更に、前記第3加振信号と前記第3応答信号とに基づいて、前記第3範囲に対応する周波数応答である第3周波数応答を算出し
、前記合成部は、前記第1周波数応答と前記第2周波数応答と前記第3周波数応答とに基づいて、前記所定振動に含まれる全周波数範囲での周波数応答を合成してもよい。この構成によれば、第3範囲を含む所定振動に含まれる全周波数範囲での、サーボ系の周波数応答を正確に測定することができる。
【0015】
ここで、上記の加振実行部による所定振動の加振に関する2つの形態を例示する。第1の形態では、前記加振実行部は、前記第1範囲及び前記第2範囲を含む周波数範囲の振動を1つの前記所定振動として前記サーボ系に対して加えてもよい。この場合、前記特定部は、前記所定振動のうち前記第1範囲に対応する振動信号を前記第1加振信号と特定するとともに、前記サーボ系の応答信号のうち該第1加振信号の加振時間に対応する応答信号を前記第1応答信号と特定し、更に、前記特定部は、前記所定振動のうち前記第2範囲に対応する振動信号を前記第2加振信号と特定するとともに、前記サーボ系の応答信号のうち該第2加振信号の加振時間に対応する応答信号を前記第2応答信号と特定してもよい。
【0016】
すなわち、第1の形態では、加振実行部は、所定振動を1つの振動としてまとめてサーボ系に対して加える。そのため、所定振動の加振の直接の結果であるサーボ系の応答信号には、反共振周波数の加振に起因する共振周波数の励起(上記の不要な共振周波数の励起)が含まれている。しかし、特定部が上記のように周波数範囲と加振信号と応答信号の時間的対応とを考慮して、第1加振信号と第1応答信号とのペア、及び第2加振信号と第2応答信号とのペアを特定することで、算出部による周波数応答の算出に際して、反共振周波数での加振に起因する不要な共振周波数の励起の影響を排除できる。
【0017】
次に、第2の形態では、前記加振実行部は、前記第1範囲の振動を前記所定振動の1つである第1振動として前記サーボ系に対して加え、且つ、前記第2範囲の振動を該所定振動の別の第2振動として前記サーボ系に対して加えてもよい。この場合、前記特定部は、前記第1振動の振動信号を前記第1加振信号と特定するとともに、該第1振動が加振された際の前記サーボ系の応答信号を前記第1応答信号と特定し、更に、前記特定部は、前記第2振動の振動信号を前記第2加振信号と特定するとともに、該第2振動が加振された際の前記サーボ系の応答信号を前記第2応答信号と特定してもよい。
【0018】
すなわち、第2の形態では、加振実行部は、所定振動を第1振動と第2振動とに分けてサーボ系に対して加える。そのため、第1振動に関連する加振・応答信号のペアと、第2振動に関連する加振・応答信号のペアとは、時間的に分断されている。したがって、特定部が上記のように第1加振信号と第1応答信号とのペア、及び第2加振信号と第2応答信号とのペアを特定することで、その後の算出部により第1範囲及び第2範囲のそれぞれに対応する周波数応答が算出される過程で、反共振周波数での加振に起因する不要な共振周波数の励起の影響を排除できる。
【0019】
また、上述までの測定装置において、前記サーボ系は、所定負荷に接続されたモータをサーボ制御するように構成されてもよい。その場合、一例として、前記第1範囲と前記第2範囲は、前記モータの慣性モーメントに対する前記所定負荷の慣性モーメントの比率に基づいて設定されてもよい。すなわち、反共振周波数は、物理的に、モータの慣性モーメントに対する所定負荷の慣性モーメントの比率に基づいて推定できることから、その推定結果を踏まえて、第1範囲と第2範囲を設定することができる。
【0020】
ここで、上述までの測定装置において、サーボ系の共振周波数が分かっている場合、サーボ系の高ゲイン化による発振抑制のため等にノッチフィルタによるフィルタ処理が行われる場合がある。当該ノッチフィルタは、そのフィルタ処理の中心となる中心周波数(すなわち、共振周波数近傍の周波数)と、フィルタ処理の効果が及ぼされる周波数範囲の広がりを表すQ値で定義することができる。そのような場合において、第1範囲と第2範囲
の設定について、以下の形態を例示できる。先ず、前記第1範囲と前記第2範囲は、該ノッチフィルタの中心周波数及びQ値に基づいて設定されてもよい。別法として、前記第1範囲と前記第2範囲は、該ノッチフィルタの中心周波数、及び周波数応答でのゲインに基づいて設定されてもよい。更に別法として、前記第1範囲と前記第2範囲は、該ノッチフィルタの中心周波数に基づいて設定され、且つ、前記第1範囲と前記第2範囲のそれぞれの幅は、所定の上限幅より狭くなるように設定されてもよい。サーボ系の機械的特性、制御的特性を考慮して、これらの形態を適宜選択してもよく、また、これら以外の形態に従って第1範囲と第2範囲を設定してもよい。
【0021】
また、第1範囲と第2範囲の設定に関し、ノッチフィルタの利用の有無にかかわらず、前記第1範囲と前記第2範囲の幅は、同じ幅になるように設定されてもよく、別法として、前記第2範囲の幅は、前記第1範囲の幅より広く設定されてもよい。
【0022】
また、上述までの測定装置において、前記合成部は、前記合成された周波数応答に対して、所定の平均化処理を行ってもよい。すなわち、合成部は、合成後の後処理として所定の平均化処理を行う。上述までのように、周波数範囲を第1範囲と第2範囲とに区切った上で第1周波数応答及び第2周波数応答を算出するため、合成した際に範囲の境界において周波数応答の不連続性が生じる場合がある。そこで、所定の平均化処理を行い、そのような不連続性を解消することができる。所定の平均化処理としては、移動平均処理が例示できる。
【発明の効果】
【0023】
負荷に接続されたサーボ系の周波数応答を正確に測定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】測定装置により周波数応答が測定されるサーボ系を含むシステムの概略構成を示す図である。
図2】サーボ系を説明するための図である。
図3】周波数応答を測定する際に生じる、反共振周波数での加振に起因した共振周波数の励起を示す第1の図である。
図4】周波数応答を測定する際に生じる、反共振周波数での加振に起因した共振周波数の励起を示す第2の図である。
図5】測定装置に関する機能部を示す図である。
図6】周波数応答の測定処理における周波数範囲の設定を説明するための図である。
図7】周波数応答の測定処理における周波数応答の算出及びその合成を説明するための図である。
図8】測定装置による周波数応答の測定処理の流れを示す第1のフローチャートである。
図9】測定装置に周波数応答の測定結果を示す図である。
図10】測定装置による周波数応答の測定処理の流れを示す第2のフローチャートである。
図11】周波数応答の測定処理における周波数範囲の設定を説明するための図である。
図12】周波数応答の測定処理における平均化処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<適用例>
本願の測定装置の適用例について、以下に図面に基づいて説明する。図1は、測定装置
10により周波数応答が測定されるサーボ系を含む制御システムの概略構成を示す図である。制御システムは、ネットワーク1と、モータ2と、負荷装置3と、サーボドライバ4と、PLC(Programmable Logic Controller)5とを備える。当該制御システムは、モー
タ2とともに負荷装置3を駆動制御するためのシステムである。そして、モータ2及び負荷装置3が、当該制御システムによって制御される制御対象6とされる。ここで、負荷装置3としては、各種の機械装置(例えば、産業用ロボットのアームや搬送装置)が例示でき、モータ2はその負荷装置3を駆動するアクチュエータとして負荷装置3内に組み込まれている。例えば、モータ2は、ACサーボモータである。なお、モータ2には図示しないエンコーダが取り付けられており、当該エンコーダによりモータ2の動作に関するパラメータ信号がサーボドライバ4にフィードバック送信されている。このフィードバック送信されるパラメータ信号(以下、フィードバック信号という)は、たとえばモータ2の回転軸の回転位置(角度)についての位置情報、その回転軸の回転速度の情報等を含む。
【0026】
サーボドライバ4は、ネットワーク1を介してPLC5からモータ2の動作(モーション)に関する動作指令信号を受けるとともに、モータ2に接続されているエンコーダから出力されたフィードバック信号を受ける。サーボドライバ4は、PLC5からの動作指令信号およびエンコーダからのフィードバック信号に基づいて、モータ2の駆動に関するサーボ制御、すなわち、モータ2の動作に関する指令値を算出するとともに、モータ2の動作がその指令値に追従するように、モータ2に駆動電流を供給する。なお、この供給電流は、交流電源7からサーボドライバ4に対して送られる交流電力が利用される。本実施例では、サーボドライバ4は三相交流を受けるタイプのものであるが、単相交流を受けるタイプのものでもよい。なお、サーボドライバ4において、サーボドライバ4が有する位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43(図2を参照)を利用したフィードバック制御を行うサーボ系が形成される。
【0027】
ここで、図2に示すように、サーボドライバ4は、位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を備える。そこで、図2に基づいて、サーボドライバ4におけるサーボ系について説明する。位置制御器41は、例えば、比例制御(P制御)を行う。具体的には、PLC5から通知された位置指令と検出位置との偏差である位置偏差に、位置比例ゲインKppを乗ずることにより速度指令を算出する。なお、位置制御器41は、予め制御パラメータとして、位置比例ゲインKppを有している。
【0028】
次に、速度制御器42は、例えば、比例積分制御(PI制御)を行う。具体的には、位置制御器41に算出された速度指令と検出速度との偏差である速度偏差の積分量に速度積分ゲインKviを乗じ、その算出結果と当該速度偏差の和に速度比例ゲインKvpを乗ずることにより、トルク指令を算出する。なお、速度制御器42は、予め制御パラメータとして、速度積分ゲインKviと速度比例ゲインKvpを有している。また、速度制御器42はPI制御に代えてP制御を行ってもよい。この場合には、速度制御器42は、予め制御パラメータとして、速度比例ゲインKvpを有することになる。次に、電流制御器43は、速度制御器42により算出されたトルク指令に基づいて電流指令を出力し、それによりモータ2が駆動制御される。電流制御器43は、トルク指令に関するフィルタ(1次のローパスフィルタ)や一又は複数のノッチフィルタを含み、制御パラメータとして、これらのフィルタの性能に関するカットオフ周波数や中心周波数等を有している。
【0029】
そして、サーボドライバ4の制御構造は、速度制御器42、電流制御器43、制御対象6を前向き要素とする速度フィードバック系を含み、更に、当該速度フィードバック系と位置制御器41を前向き要素とする位置フィードバック系を含んでいる。このように構成される制御構造によって、サーボドライバ4はPLC5から供給される位置指令に追従するようにモータ2をサーボ制御することが可能となる。
【0030】
ここで、図1に戻ると、サーボドライバ4には測定装置10が電気的に接続されている。当該電気的接続は有線接続でもよく、無線接続でもよい。測定装置10は、サーボドライバ4の上記制御パラメータを設定及び調整するために、サーボ系の周波数応答を測定するためのソフトウェア(プログラム)が搭載されている。具体的には、測定装置10は、演算装置やメモリ等を有するコンピュータであり、そこで実行可能な測定用ソフトウェアがインストールされている。そして、測定装置10はこの測定用ソフトウェアを用いて、サーボ系の周波数応答を測定する。
【0031】
ここで、サーボ系の周波数応答を測定する際の課題について、図3及び図4に基づいて説明する。図3は、サーボ系に対して速度振動を加振した場合の検出速度の推移を示している。図3中のS1が速度振動を表し、S2が検出速度を表している。速度振動は、いわゆるSweptsineの振動信号となっており、加振時間と励起周波数が関連付けられている。
なお、サーボ系の共振周波数は617Hzであり、その加振時間は0.39sとなっている。更に、当該サーボ系の反共振周波数は200Hzであり、その加振時間は0.31sとなっている。また、このサーボ系に対しては、電流制御器43にノッチフィルタが設けられ、その中心周波数は共振周波数に設定されている。
【0032】
図3を見て分かるように反共振周波数の振動が加振されたタイミングで、検出速度に共振周波数の振動が励起されている。一方で、共振周波数の振動が加振されたタイミングでは、ノッチフィルタの効果により検出速度に大きな振動は見出せない。そして、S1を加振信号としS2を応答信号としてFFT(高速フーリエ変換)処理により算出された周波数応答が図4にボード線図として示されている。図4の上段がゲイン線図を表し、下段が位相線図を表している。ゲイン線図を見て分かるように、共振周波数の近傍(破線で囲まれた領域)にゲインの大きなピークが見出せる。これは、共振周波数での加振に対応する共振ではなく、反共振周波数での加振に起因して生じた共振周波数の励起が反映されたものであるが、図4のボード線図だけを見ると単に共振が生じているように錯覚させ、設定されているノッチフィルタの効果に疑念を抱かせることになる。
【0033】
このように従来のFFT処理により周波数応答を算出してしまうと、サーボ系への反共振周波数の加振に起因する不要な共振周波数の励起の影響を受けて、当該サーボ系の周波数応答を正確に測定することが困難となる。そのため、サーボ系に対して適切な制御パラメータを設定することが阻害され得る。
【0034】
そこで、上記課題を考慮して、本願開示の測定装置10は、図5に示すように構成される。図5は、測定装置10において実行されるソフトウェアによって実行される各種の機能をイメージ化して表した機能ブロック図である。測定装置10は、加振実行部11、特定部12、算出部13、合成部14を有している。各機能部の動きについて、図6及び図7に基づいて説明する。図6は、測定が必要な全周波数範囲にわたるSweptsineの加振信
号S1をサーボ系に加振したときの、該サーボ系の時間応答信号S2を表している。また、図7は、算出部13及び合成部14の動きを説明するための図である。
【0035】
加振実行部11は、加振時間と励起周波数が関連付けられている所定振動をサーボ系に対して加えるように構成されている。図6に示す例では、加振実行部11は、全周波数範囲にわたるSweptsineである加振信号S1をサーボ系に対して加えている。そして、加振
実行部11が加振を行うことでサーボ系の時間応答信号S2がその結果として得られるが、特定部12は、当該結果から複数の周波数範囲に対応する加振信号とその応答信号のペアを特定するように構成されている。ここで、複数の周波数範囲の設定について、図6に基づいて説明する。先ず、サーボ系の共振周波数(617Hz)を含む周波数範囲(本願の第1
範囲に相当する)を区間2とする。この区間2の下限の境界値ω1は435Hzであり、上限
の境界値ω2は876Hzであり、区間2にはサーボ系の反共振周波数(200Hz)は含まれない。
そして、区間2より低周波数となる周波数範囲(本願の第2範囲に相当する)を区間1とする。この区間1には、サーボ系の反共振周波数(200Hz)が含まれることになる。更に、
区間2より高周波数となる周波数範囲(本願の第3範囲に相当する)を区間3とする。この区間3には、サーボ系の反共振周波数(200Hz)や共振周波数(617Hz)は含まれないことになる。なお、各周波数範囲の設定の詳細については、後述する。
【0036】
そして、特定部12は、各区間に対応して加振信号とそれに時間的に対応する応答信号とのペアを特定する。例えば、区間1については、その周波数範囲は435Hz未満であるた
め、加振スタートからSweptsineの振動において加振周波数が435Hzに上がるタイミングまでの加振信号と、当該加振スタートから当該タイミングまでの時間応答信号とのペアが、区間1に対応する加振・応答信号のペア(本願の第2加振信号と第2応答信号のペアに相当)として特定される。同じように、区間2については、Sweptsineの振動において加振
周波数が435Hzから876Hzに上がるまでの加振信号と、当該加振信号に時間的に対応する時間応答信号とのペアが、区間2に対応する加振・応答信号のペア(本願の第1加振信号と第1応答信号のペアに相当)として特定される。更に、区間3については、Sweptsineの
振動において加振周波数が876Hzから加振終了までの加振信号と、当該加振信号に時間的
に対応する時間応答信号とのペアが、区間3に対応する加振・応答信号のペア(本願の第3加振信号と第3応答信号のペアに相当)として特定される。
【0037】
次に、算出部13について説明する。算出部13は、各区間に対応するペアにおける加振信号と応答信号とに基づいて、FFT処理を用いて各区間に対応する周波数応答を算出するように構成される。ここでFFT処理に際しては、算出の対象である区間以外の区間の応答信号のデータを「0」に上書きした上で、加振信号S1を入力とし上書きされた応答信号を出力としてFFT処理が行われる。その上で、FFT処理結果から、算出の対象である区間の周波数範囲に対応するデータを抽出し、それを算出の対象である区間の周波数応答として算出する。例えば、区間1に対応する周波数応答を算出する場合は、応答信号S2の区間2及び区間3に対応するデータを「0」に上書きし、加振信号S1を入力とし上書きされた応答信号S2を出力としてFFT処理を行う。更に、そのFFT処理結果から、区間1の周波数範囲である435Hz未満の周波数範囲に対応する周波数応答を区間1
に対応する周波数応答として算出する。区間2及び区間3に対応する周波数応答の算出についても同様である。
【0038】
次に、合成部14について説明する。合成部14は、算出部13が算出した各区間に対応する周波数応答を合成して纏めることで、サーボ系の周波数応答を生成するように構成される。具体的な周波数応答の合成形態について、図7に基づいて説明する。図7の(a)には、区間1に対応する加振信号及び応答信号(上段)と、それより算出された区間1に対応する周波数応答が示されている。そして、図7の(b)には、区間2に対応する加振信号及び応答信号(上段)と、それより算出された区間2に対応する周波数応答が、図7(a)の下段に示された区間1に対応する周波数応答に合成された状態が示されている。算出部13による算出処理において、上述のように各区間に対応する周波数応答が算出されていることから、合成部14は、周波数範囲が連続していくように各区間に対応する周波数応答を繋げていく。更に、図7の(c)には、区間3に対応する加振信号及び応答信号(上段)と、それより算出された区間3に対応する周波数応答が、図7(b)の下段に示された区間1及び区間2に対応する周波数応答に合成された状態が示されている。なお、合成部14は、算出部13により各区間に対応する周波数応答を算出の度に合成してもよく、全ての区間に対応する周波数応答を算出した後に纏めて合成しても構わない。
【0039】
このように構成される測定装置10によるサーボ系の周波数応答の測定処理の流れについて、図8に基づいて説明する。先ず、S101では、加振実行部11によりサーボ系に対して所定振動の加振が行われ、この結果サーボ系の応答信号を取得する。次いで、S1
02では、周波数範囲の設定が行われる。周波数範囲の設定については、上記の通り、少なくとも、サーボ系の共振周波数を含み且つその反共振周波数を含まない周波数範囲(図6に示す区間2の周波数範囲)と、サーボ系の反共振周波数を含む周波数範囲(図6に示す区間1の周波数範囲)の2つの周波数範囲が設定される。更に、図6に示す区間3の周波数範囲のように他の周波数範囲が設定されてもよい。
【0040】
次にS103では、特定部12により、S101で得られたサーボ系の加振結果から、S102で設定された周波数範囲の各区間に対応する加振信号と応答信号が特定される。その後、S104で、算出部13により各周波数範囲の区間に対応する周波数応答が算出され、S105で、それらの合成処理が行われる(上記の図7を参照)。
【0041】
図8に示す測定処理による測定結果(ゲイン線図)を、従来技術による測定結果(ゲイン線図)と比較して図9に示す。従来技術による測定結果(左図)は、図4に示すゲイン線図と同じである。両結果において、サーボ系の共振周波数の近傍が破線で囲まれて表示されている。図9に示すように、本願実施例の測定結果では、共振周波数の近傍でのゲインのピークが抑制されていることが分かる。このことは、反共振周波数での振動に起因する、不要な共振周波数の励起の影響を排除してサーボ系の周波数応答を正確に測定できていることを意味する。この測定結果に従えば、ユーザはサーボ系に設定しているノッチフィルタの効果を的確に判断でき、妥当なパラメータ調整を実現することができる。
【0042】
<測定処理の変形例>
変形例に係る測定処理の流れについて、図10に基づいて説明する。本変形例では、加振実行部11による所定振動の加振を周波数範囲ごとに分けて実行するため、S201で、先に周波数範囲の設定が行われる。なお、周波数範囲は、図6に示す形態と同様とする。そして、S202では、設定された周波数範囲の区間に応じた加振が、加振実行部11によって行われる。具体的には、区間1に対応する加振(振動周波数を435Hzまで変化さ
せる加振であり、本願の第2振動に相当する振動の加振)と、区間2に対応する加振(振動周波数を435Hzから876Hzまで変化させる加振であり、本願の第1振動に相当する振動の加振)と、区間3に対応する加振(振動周波数を876Hzから上限周波数まで変化させる加
振)とを個別に実行する。そして、これらの加振の結果、各区間に対応したサーボ系の応答信号が取得される(S203の処理)。
【0043】
そして、S203の処理が終了すると、S103では、特定部12により各区間に対応する加振信号と応答信号のペアが特定される。本変形例の場合、S202で各区間に対応して行った加振の加振信号と、その結果としてS203で得られた各区間に対応した応答信号が、特定部12によりペアリングされる。その後、S104では、算出部13により各周波数範囲の区間に対応する周波数応答が算出される。当該算出では、対象となる区間の周波数範囲に限った周波数応答が算出される。したがって、例えば、図6に示す区間1に対応する周波数応答を算出する場合、0~435Hzに限った範囲での周波数応答が算出されることになるため、区間1に対応する応答信号に、反共振周波数での加振に起因する共振周波数の励起が含まれていたとしても、その励起の影響が排除された応答周波数が算出されることになる。そしてS105で、S104で算出された各周波数範囲の区間に対応する周波数応答の合成処理が行われる。
【0044】
このような変形例に係る測定処理によっても、反共振周波数での振動に起因する、不要な共振周波数の励起の影響を排除してサーボ系の周波数応答を正確に測定でき、以て、ユーザはサーボ系に設定しているノッチフィルタの効果を的確に判断でき、妥当なパラメータ調整を実現することができる。
【0045】
<周波数範囲(区間)の設定>
ここで、本願開示の測定処理に関し、反共振周波数での振動に起因する、不要な共振周波数の励起の影響を排除するためには、周波数範囲の設定において、サーボ系の共振周波数を含む周波数範囲(本願の第1範囲に相当)と、サーボ系の反共振周波数を含む周波数範囲(本願の第2範囲に相当)とを区別して、測定処理のための周波数範囲(区間)を設定する必要がある。そこで、以下に、測定処理のための周波数範囲の設定の態様を例示する。
【0046】
(1)第1の形態
サーボ系の共振周波数ωrが既知である場合には、モータ2の慣性モーメントに対する負荷装置3の慣性モーメントの比率(以下、単に「慣性比」という)に基づいて、下記式1に従ってサーボ系の反共振周波数ωaを推定することができる。
【数1】

・・・(式1)
但し、JLは負荷装置3の慣性モーメントであり、JMはモータ2の慣性モーメントであり、Rは慣性比である。
このように推定された反共振周波数ωaと共振周波数ωrとを踏まえて、反共振周波数ωaを含む周波数範囲と、共振周波数ωrを含む周波数範囲を設定することができる。
【0047】
(2)第2の形態
サーボ系において、上記のように電流制御器43にノッチフィルタが設定されている場合、当該ノッチフィルタの効果を適切に判断するためには、周波数応答を正確に測定することが望まれる。そこで、この観点から、ノッチフィルタの機能を形成するためのパラメータである中心周波数とQ値に基づいて、測定処理のための周波数範囲の設定を行ってもよい。一般に、ノッチフィルタの中心周波数は、サーボ系の共振周波数となるように設定され、Q値は以下の式2で表される。
【数2】

・・・(式2)
但し、ωHは振動エネルギーが共振ピークの高域側で半値となる周波数であり、ωLは振動エネルギーが共振ピークの低域側で半値となる周波数である。
そして、共振周波数と反共振周波数とがそれぞれ含まれる周波数範囲の境界となる周波数(境界周波数)fLは、以下の式3で表すことができる。
【数3】

・・・(式3)
Q値としての一例として、Q=5を採用することができるが、それ以外の数値を採用しても構わない。
このように算出された境界周波数fLを踏まえて、反共振周波数ωaを含む周波数範囲と、共振周波数ωrを含む周波数範囲を設定することができる。
【0048】
(3)第3の形態
第3の形態では、サーボ系にノッチフィルタが設定されている場合、ノッチフィルタの中心周波数と、周波数応答でのゲインに基づいて、隣接する周波数範囲の境界となる境界周波数が設定される。当該設定の態様について、図11に基づいて説明する。図11に示すゲイン線図は、図4に示すゲイン線図と同じである。このゲイン線図において、ノッチフィルタの中心周波数(すなわち、サーボ系の共振周波数ωr)を中心として、ゲインが所定のゲイン閾値(例えば、-10dB)を下回る低域側の周波数を、低域側の境界周波数ω3とする。その上で、高域側の境界周波数ω4は、下記の式4に従って算出することができる。
【数4】

・・・(式4)
このように算出された境界周波数ω3、ω4を踏まえて、測定処理のための周波数範囲を設定することができる。具体的には、低域側の境界周波数ω3に基づいて、反共振周波数ωaを含む低域側周波数範囲と、共振周波数ωrを含む周波数範囲とを区切ることができる。更に、高域側の境界周波数ω4に基づいて、共振周波数ωrを含む周波数範囲に高域側で隣接する高域側周波数範囲を設定することができる。この高域側周波数には、反共振周波数ωaと共振周波数ωrは含まれない。
【0049】
(4)第4の形態
第4の形態では、サーボ系にノッチフィルタが設定されている場合、ノッチフィルタの中心周波数と、予め設定された周波数領域の幅の上限値(例えば、512Hz)とに基づいて
、隣接する周波数範囲の境界となる境界周波数が設定される。この上限値は、周波数領域の幅が大きくなると、周波数応答におけるノイズレベルが大きくなることを考慮したものである。例えば、中心周波数が617Hzの場合、下記のケース1よりもケース2に示す境界
周波数に基づいて周波数領域を設定した方が、周波数応答でのノイズレベルを抑制できる。
(ケース1)
境界周波数:435Hz, 876Hz
(ケース2)
境界周波数:435Hz, 876Hz, 1388Hz, 1900Hz, 2412Hz, 2924Hz, 3436Hz
【0050】
(5)第5の形態
サーボ系の共振周波数ωrが既知でない場合には、各周波数範囲の幅を全て同じに設定してもよい。この場合、サーボ系においてモータ2に接続される負荷装置3の機械構成等を踏まえて、サーボ系の共振周波数と反共振周波数が異なる周波数範囲に含まれるように各周波数範囲の幅を適宜設定するのが好ましい。
【0051】
(6)第6の形態
サーボ系の共振周波数ωrが既知でない場合には、算出部13による周波数応答の算出
に関し、低域側の周波数範囲のデータ数が高域側の周波数範囲のデータ数より多くなるように、低域側の周波数範囲の幅を高域側の周波数範囲の幅より広く設定される。このような周波数範囲の設定を行うことで、低域側の周波数範囲に対応する周波数応答におけるノイズレベルを低く抑制することができる。
【0052】
<平均化処理>
本願開示の測定処理では、算出部13が、全周波数範囲のうち一部の周波数範囲に対応した周波数応答を算出しているため、当該一部の周波数範囲の境界値に起因して、算出された一部の周波数範囲に対応する周波数応答と、それに隣接する他の周波数範囲に対応する周波数応答とが不連続となり、サーボ系の周波数応答の正確な測定が阻害されるおそれがある。そこで、このような周波数応答での不連続性を解消するために、合成部14は、各周波数範囲に対応する周波数応答の合成を行った後に、その合成結果に対して移動平均処理を実行するように構成される。
【0053】
ここで、移動平均処理における移動平均点数は、高域側に進むにつれて多くなるように設定してもよい。高域側ではノイズレベルが低域側と比べると高いため、このような移動平均処理を行うことで、高域側での周波数応答の連続性を保つことができる。ここで、図12に、上記移動平均化処理を施していない場合の周波数応答(本願開示の測定処理により測定された結果)と、本願開示の測定処理により測定された結果に対して更に上記移動平均化処理を施した場合の周波数応答とを並べて示している。この場合、高域側の移動平均点数は、低域側の移動平均点数の約3倍となっている。図12を見ると、移動平均処理を施すことで、測定されたサーボ系の周波数応答の連続性が良好であることが分かる。
【0054】
<付記1>
サーボ系の周波数応答を測定する測定装置(10)であって、
加振時間と励起周波数が関連付けられている所定振動を前記サーボ系に対して加える加振実行部(11)と、
前記加振実行部(11)による加振の結果から、サーボ系の共振周波数を含み且つ該サーボ系の反共振周波数を含まない周波数範囲である第1範囲に対応する第1加振信号と該第1加振信号に時間的に対応する第1応答信号のペアを特定し、更に、該第1範囲より低い周波数範囲であり且つ該反共振周波数を含む第2範囲に対応する第2加振信号と該第2加振信号に時間的に対応する第2応答信号のペアを特定する特定部(12)と、
前記第1加振信号と前記第1応答信号とに基づいて、前記第1範囲に対応する周波数応答である第1周波数応答を算出し、前記第2加振信号と前記第2応答信号とに基づいて、前記第2範囲に対応する周波数応答である第2周波数応答を算出する算出部(13)と、
前記第1周波数応答と前記第2周波数応答に基づいて、前記第1範囲及び前記第2範囲に対応する周波数範囲での周波数応答を合成する合成部(14)と、
を備える、測定装置(10)。
【符号の説明】
【0055】
1: ネットワーク
2: モータ
3: 負荷装置
4: サーボドライバ
5: PLC
11: 加振実行部
12: 特定部
13: 算出部
14: 合成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12