(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】近接空調ユニットの駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
B60H 1/32 20060101AFI20231219BHJP
B60H 1/03 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B60H1/32 626G
B60H1/03 C
(21)【出願番号】P 2020049972
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】大沢 政明
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-129515(JP,U)
【文献】実開昭58-021349(JP,U)
【文献】韓国登録特許第10-1645600(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0037350(KR,A)
【文献】特開2019-209764(JP,A)
【文献】特開平04-225753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
B60H 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度調整器およびブロワを有する温度調整要素を具備し車両室内において座席の側方または前方に配置され前記座席に向けて空調空気を吹き出すための近接空調ユニットを駆動制御する方法であって、
前記近接空調ユニットのオン/オフスイッチがオンされると、
前記温度調整器を起動し、
前記温度調整器の起動後
所定の待機期間が経過する前に前記温度調整器付近の
温度の計測を開始し、前記温度が正常範囲内にあること
を実際に確認
できた後、前記所定の待機期間が経過した後に、前記ブロワを起動する、近接空調ユニットの駆動制御方法。
【請求項2】
前記温度調整器の起動後、前記待機期間よりも長い所定の運転期間が経過した後、および/または、
前記温度調整器の近傍の温度が所定値を上回ったときに、前記温度調整器を停止する、請求項1に記載の近接空調ユニットの駆動制御方法。
【請求項3】
前記温度調整器の停止後、所定の冷却期間が経過した後に、前記ブロワを停止する、請求項1または請求項2に記載の近接空調ユニットの駆動制御方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の近接空調ユニットの駆動制御方法に用いる制御装置であって、
前記オン/オフスイッチ、前記温度調整器および前記ブロワに接続され、タイマを有するECUと、
前記ECUに接続されかつ前記温度調整器の近傍に配置された温度検知器と、を具備し、
前記ECUは、前記近接空調ユニットの前記オン/オフスイッチがオンされると、
前記温度調整器を起動するとともに前記タイマのカウントダウンを開始し、
前記温度調整器の起動後所定の待機期間が経過する前に前記温度調整器付近の
温度の計測を開始し、前記温度が正常範囲内にあること
を実際に確認
できた後、前記所定の待機期間が経過した後に、前記ブロワを起動する、近接空調ユニットの駆動制御装置。
【請求項5】
前記ECUに接続されかつ前記温度調整器の近傍に配置されたサーミスタを有し、
前記ECUは、
前記温度調整器を起動するとともに前記タイマのカウントダウンを開始し、前記待機期間よりも長い所定の運転期間が経過した後、および/または、
前記サーミスタにより検知した温度が所定値を上回ったときに、前記温度調整器を停止する、請求項4に記載の近接空調ユニットの駆動制御装置。
【請求項6】
前記ECUは、
前記温度調整器の停止後、所定の冷却期間が経過した後に、前記ブロワを停止する、請求項4または請求項5に記載の近接空調ユニットの駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両室内において座席を暖める近接空調ユニットを駆動制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両には、車両室内全体を暖房や冷房するための空調装置が搭載されている。この種の空調装置は、暖房のための温熱や冷房のための冷熱を生じるための温度調整要素を有する。例えば、ガソリン等の石油燃料を動力源としエンジンを原動機とするエンジン車においては、温度調整要素における暖房用の熱源として、石油燃料の燃焼時の排熱を利用するのが一般的である。
【0003】
近年台頭がめざましい電気自動車は、リチウムイオン二次電池等の自動車用電池を動力源として電動モータを駆動するものである。電気自動車では石油燃料の燃焼時の排熱を利用できないため、電気自動車用の温度調整要素は、暖房用の熱源として電熱ヒータを備えるのが一般的である。当該電熱ヒータは、電動モータの動力源である自動車用電池を動力源とする。
エンジンと電気モータとを併用したハイブリッド車については、温度調整要素の暖房時の熱源はその走行モードに応じて決定され得る。当該熱源としては、エンジン車と同様に排熱が用いられるか、または、電気自動車と同様に自動車用電池を動力源とする電熱ヒータが用いられる。
【0004】
これらの温度調整要素は、車両室内全体を空調する都合上、大型となる傾向がある。このような温度調整要素は、一般には、車両における前側かつ車両室外、例えばインストルメントパネルの裏側等に配置されている(例えば、特許文献1参照)。一般的な空調装置においては、温度調整要素を経た空調空気は、導入口を通じてダクトに流入し、車両室内を向く吹出口を経て、車両室内に供給される。
【0005】
ところで、寒冷時において、車両の起動開始直後に空調装置の暖房運転を開始すると、温度調整要素の熱源であるエンジンや電熱ヒータが冷たいことにより、これらを経た空調空気は、求められる温度を大きく下回る。また、当該温度調整要素は車両の前端部に配置され、当該温度調整要素から、車両室内の座席に着座する乗員までの距離は遠い。したがって、温度調整要素を経た空調空気の温度は乗員に到達する迄にさらに低下する。したがって、車両の起動開始直後に暖房運転を開始すると、空調装置は冷たい空調空気を吹き出すだけであり、このことが乗員に与える不快感は非常に大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、冷たい空調空気が供給されることにより乗員に与える不快感を軽減し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の近接空調ユニットの駆動制御方法は、
温度調整器およびブロワを有する温度調整要素を具備し車両室内において座席の側方または前方に配置され前記座席に向けて空調空気を吹き出すための近接空調ユニットを駆動制御する方法であって、
前記近接空調ユニットのオン/オフスイッチがオンされると、
前記温度調整器を起動し、
前記温度調整器の起動後、所定の待機期間が経過した後に、前記ブロワを起動する、近接空調ユニットの駆動制御方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の近接空調ユニットの駆動制御方法によると、冷たい空調空気が供給されることにより乗員に与える不快感を軽減し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】車両室内における実施例1の近接空調ユニットを模式的に表す説明図である。
【
図2】実施例1の近接空調ユニットを側面視した様子を模式的に表す説明図である。
【
図3】実施例1の近接空調ユニットにおける近接吹出口、近接温度調整器および近接ブロワの位置関係を模式的に表す説明図である。
【
図4】実施例1の近接空調ユニット、近接空調ユニットの駆動制御方法および近接空調ユニットの制御装置を模式的に説明するブロック図である。
【
図5】実施例1の近接空調ユニットの駆動制御方法を模式的に説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の近接空調ユニットの駆動制御方法は、
温度調整器およびブロワを有する温度調整要素を具備し車両室内において座席の側方または前方に配置され当該座席に向けて空調空気を吹き出すための近接空調ユニットを駆動制御する方法である。
当該近接空調ユニットは、座席の側方または前方に配置され当該座席に向けて空調空気を吹き出す点において、既述したような、車両室内全体を空調するための従来の空調装置とは大きく異なる。近接空調ユニットは、座席に向けて空調空気を吹き出すことで、車両室内において当該座席に着座した乗員に近接した部分だけに空調を行うことができる。
【0012】
本明細書においては、このように「車両室内において乗員に近接した部分だけに空調を行う」技術を近接空調と称し、近接空調を行うための機構を近接空調ユニットと称する。近接空調を行うための温度調整器を近接温度調整器と称する。さらに、近接空調を行うためのブロワを近接ブロワと称する。
また、必要に応じて、当該近接空調ユニットを駆動制御する方法を、本発明の制御方法と称し、当該近接空調ユニットを、本発明の近接空調ユニットと称する。
また、従来どおりに車両室内の広範囲にわたって空調を行う技術を一般空調と称することで、上記の近接空調と区別する。また、当該一般空調を行うための機構を一般空調ユニットと称する。一般空調を行うための温度調整器を一般温度調整器と称する。さらに、一般空調を行うためのブロワを一般ブロワと称する。
【0013】
ところで、一般空調ユニットが車両室内全体を空調する都合上、一般空調ユニットの一般温度調整器は大型となる傾向がある。エンジン車においてはエンジン自体が一般温度調整器となり、EV車においては大型の電熱ヒータ等が一般温度調整器となる。このような大型の一般温度調整器を暖機するには比較的長い時間を要する。
【0014】
一方、近接空調ユニットは乗員に近接した部分だけに空調を行う都合上、近接空調ユニットの近接温度調整器は一般温度調整器に比べると小型であり比較的短時間で暖機され得る。
また、近接温度調整器は、車両室内において近接空調の対象となる座席や、近接空調ユニットの吹出口の近くに配置される。このため、近接温度調整器を経た空調空気は、座席に着座した乗員に迅速に供給される。つまり、近接空調による空調空気は、大きく温度低下することなく乗員に到達する。
【0015】
さらに、一般的な一般空調ユニットの吹出口(必要に応じて一般吹出口と称する)が車両室内を向き、当該一般吹出口から吹き出した空調空気が車両室内に供給されるのに対し、近接空調ユニットの吹出口(必要に応じて近接吹出口と称する)はその対象となる座席を向き、当該近接吹出口から吹き出した空調空気は座席および当該座席に着座した乗員に直接吹きつけられる。このため、一般空調ユニットによると車両室内全体を温めることにより乗員を間接的に温めるのに対し、近接空調ユニットによると乗員を直接的に温め得る。これにより、近接空調ユニットによると、座席に着座した各乗員を迅速にかつ効率良く温め得る。
【0016】
ここで、本発明の近接空調ユニットの駆動制御方法によると、
近接空調ユニットのオン/オフスイッチがオンされると、
近接温度調整器を起動し、
当該近接温度調整器の起動後、所定の待機期間が経過した後に、近接ブロワを起動する。
つまり、本発明の制御方法においては、暖機の十分でない近接温度調整器の起動直後には近接ブロワを停止したままにして、冷たい空調空気が乗員に吹き付ける不具合を抑制する。そして、所定の待機期間が経過して近接温度調整器の暖機がなされると近接ブロワを起動することで、近接温度調整器によって十分に温められた空調空気で乗員を温める。これにより、本発明の制御方法によると、冷たい空調空気が供給されることにより乗員に与える不快感を軽減し得る。
【0017】
以下、本発明の近接空調ユニットの駆動制御方法を構成要素毎に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施形態中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0018】
本発明の制御方法においては、近接空調ユニットの温度調整器、すなわち近接温度調整器を起動するためには、車両が起動し、かつ、近接空調ユニットのオン/オフスイッチがオンされることが必須となる。ここでいう車両の起動とは、車両のアクセサリスイッチまたはイグニッションスイッチがオンされることを意味する。また、近接空調ユニットのオン/オフスイッチとは、近接温度調整器や近接ブロワを起動するためのオン/オフスイッチを意味し、近接空調ユニットの電源と同期しても良いし、当該電源と同期しなくても良い。
【0019】
なお、近接空調ユニットの電源およびオン/オフスイッチは、車両の起動および停止に連動して自動的にオン/オフしても良いし、ユーザーの操作によりオン/オフしても良い。近接空調ユニットのオン/オフスイッチは、例えば車両室内やリモートコントローラ等に設けることができ、近接空調のオン操作ボタンやオフ操作ボタンを有し得る。当該ボタンは、機械式のボタンやタッチセンサ式のボタン等、専用のものであっても良いし、タッチパネル等に設けられた兼用のボタンであっても良い。さらには、赤外線センサ等を用いた非接触型のボタンであっても良い。
【0020】
また、本発明の制御方法においては、近接温度調整器を起動し、当該近接温度調整器の起動後、所定の待機期間が経過した後に、近接ブロワを起動する。ここでいう所定の待機期間とは、近接温度調整器の暖機がある程度進行し、近接空調用の空調空気を近接温度調整器によって冷たくない程度に暖め得るのに必要な期間であれば良い。当該所定の待機期間の好ましい範囲として、近接温度調整器の起動後の経過時間が15秒以上、30秒以上、1分以上、2分以上の各範囲を例示することができる。
【0021】
本発明の制御方法は、近接空調ユニットから冷たい空調空気が供給されることを抑制するための駆動制御方法である。したがって、本発明の制御方法は車両の起動後、近接空調ユニットのオン/オフスイッチがオンされるまでの時間が短い場合に、より顕著な効果を発揮する。車両の起動後、近接空調ユニットのオン/オフスイッチがオンされるまでの時間の好ましい範囲として、15分以内、10分以内、5分以内、1分以内、30秒以内の各範囲が挙げられる。
なお、例えば、車両の起動後に所定の暖機期間が経過するまでの間だけ本発明の制御方法を行い、当該暖機期間の経過後に近接空調のオン/オフスイッチがオンされた場合には、近接ブロワを近接温度調整器と同時に起動しても良い。この場合の暖機期間としては、上記と同様の15分以内、10分以内、5分以内、1分以内、30秒以内の各範囲を例示できる。
【0022】
ところで、本発明の近接空調ユニットを、「乗員が一般空調ユニットによる空調を不快と感じなくなるまでの一時的な暖房装置」と捉えると、本発明の近接空調ユニットは所定期間の後に停止するのが好ましい。本発明の制御方法においては、以下の(1)および/または(2)の場合に、近接空調ユニットの温度調整器を停止するのが好ましい。
(1)近接温度調整器の起動後、待機期間よりも長い所定の運転期間が経過した後、
(2)近接温度調整器の近傍の温度が所定値を上回ったとき。
【0023】
本発明の制御方法では、近接温度調整器の起動後に待機期間が経過すると、先ず近接ブロワを起動する。(1)における運転期間は、待機期間と同様に近接温度調整器の起動後からカウントされ、かつ、待機期間よりも長い期間である。つまり、運転期間は、待機期間を含む期間ということができ、当該運転期間が「近接空調ユニットが乗員を十分に温める」のに十分な期間であれば、近接空調ユニットの停止後にも乗員が一般空調ユニットによる空調を不快と感じなくなると考えられる。
【0024】
また(2)の場合、すなわち、近接温度調整器の近傍の温度が所定値を上回った場合にも、座席に着座した乗員が十分に温められたとみなし得る。
よって、本発明の制御方法では、上記の(1)および/または(2)の場合を、近接空調ユニットの温度調整器を停止するのに好適なタイミングとする。
【0025】
ここで、上記(1)における運転期間は、待機期間よりも長いことを必要な条件とし、当該運転期間の好ましい範囲として5分以上30分以内、7分以上25分以内、10分以上20分以内の各範囲を例示できる。
【0026】
また、上記(2)における所定値は、乗員が快適と感じる温度の上限であるのが好ましく、当該所定値の好ましい範囲として、30℃以上50℃以下、35℃以上48℃以下、35℃以上45℃以下の各範囲を例示できる。
ここでいう「近傍」とは、近接温度調整器からの距離が近いことを意味し、近接温度調整器から2cm~10cmの位置で測定した温度を、近接温度調整器の近傍の温度とみなし得る。
【0027】
なお、本発明の近接空調ユニットの駆動制御方法は、近接空調ユニットと一般空調ユニットとを併用した空調装置に用いることもできる。
この場合にも、近接空調によって乗員を直接的に温めることで、たとえ一般空調から冷たい空調空気が吹き出したとしても、乗員が知覚する冷たさが軽減され、乗員に与える不快感が軽減される。
【0028】
さらに、近接空調ユニットと一般空調ユニットとを併用する場合には、一般温度調整器の起動後、所定の第2の待機期間が経過した後に、一般空調ユニットの一般ブロワを起動しても良い。
【0029】
ところで、エンジン車におけるエンジンの暖機は、車両を起動すると開始する。この場合において一般空調用の一般温度調整器はエンジンであるために、車両の起動後にエンジンすなわち一般温度調整器の暖機が進行する。一般温度調整器の暖機がある程度進行すると、当該一般温度調整器により空調空気をある程度温めることができ、一般空調ユニットから冷たい空調空気が吹き出す不具合を軽減できる。
したがって、この場合における「一般温度調整器の起動後」は「車両の起動後」と読み替えることができ、上記した第2の待機期間は、冷たい空調空気が吹き出さない程度にエンジンの暖機が進行するのに十分な期間であれば良い。当該第2の待機期間の好ましい範囲としては、車両の起動後30秒以上、1分以上、3分以上、5分以上の各範囲を例示することが可能である。
【0030】
また、近接空調ユニットを例えばEV車に搭載する場合には、一般温度調整器が起動した後の経過時間を基に第2の待機期間を設定すれば良い。この場合の一般温度調整器は、エンジンではなく車載用の電熱ヒータ等であるが、一般温度調整器を予め起動しておき、その後に一般ブロワを起動することで、ある程度の暖機がなされた一般温度調整器により一般空調を行うことができる。よって、この場合にも、一般空調ユニットから冷たい空調空気が吹き出す不具合を軽減できる。
【0031】
このように、近接空調ユニットと一般空調ユニットとを併用する場合にも、冷たい空調空気が供給されることにより乗員に与える不快感を軽減し得る。
【0032】
本発明の制御方法においては、近接温度調整器の停止と同時に近接ブロワを停止しても良いが、近接温度調整器の停止後、所定の冷却期間の経過後に近接ブロワを停止するのが好ましい。近接温度調整器の停止直後には、近接温度調整器がまだ熱いために、そのままの状態で放置すると当該近接温度調整器の熱により近接空調ユニット自体が過剰に熱せられる可能性があるためである。冷却期間の好ましい範囲として、近接温度調整器の停止後5秒以上5分以下、10秒以上2分以下、15秒以上1分以下の各範囲が例示される。
【0033】
なお、近接温度調整器の停止後、近接温度調整器の近傍の温度が所定の範囲内となった場合に近接ブロワを停止しても良い。当該温度の好ましい範囲として、45℃以下、40℃以下、38℃以下の各範囲が例示される。
【0034】
本発明の制御方法で駆動制御する本発明の近接空調ユニットについて以下に説明する。
【0035】
本発明の近接空調ユニットは、前部座席を近接空調するものであっても良いし、後部座席を近接空調するものであっても良い。本明細書では、必要に応じて、前部座席用の近接空調ユニットをフロント近接空調ユニットと称し、後部座席用の近接空調ユニットをリヤ近接空調ユニットと称して、両者を区別する。また、前部座席用の近接空調をフロント近接空調と称し、後部座席用の近接空調をリヤ近接空調と称する場合がある。さらに、フロント近接空調ユニットにおける各構成要素のはじめに「フロント」を付し、リヤ近接空調ユニットにおける各構成要素のはじめに「リヤ」を付す場合がある。さらに、必要に応じて、空調空気の流路上流側を単に上流側と称し、空調空気の流路下流側を単に下流側と称する場合がある。
【0036】
フロント近接空調ユニットとしては、車両室内において前部座席の側方に配置されているものが例示される。当該フロント近接空調ユニットとしては、フロント筐体と、フロント近接温度調整器とフロント近接ブロワとを具備しフロント筐体の内部に配置されているフロント近接温度調整要素と、フロント近接温度調整要素を経た空調空気が導入されるフロント近接導入口と、フロント筐体の表面に露出し前部座席を向くフロント近接吹出口と、フロント近接導入口とフロント近接吹出口とを連絡するフロント近接ダクトと、を具備するものが例示される。
【0037】
このうちフロント筐体は、二つの前部座席、例えば運転席と助手席との間に配置されても良いし、何れか一つの前部座席のみの側方、例えば前部座席とドアとの間に配置されても良い。
フロント筐体としては内部空間を有するものが用いられる。フロント筐体の内部空間には、フロント近接温度調整要素が配置される。前部座席を向くフロント近接吹出口は、フロント筐体の表面に露出するように、フロント筐体に一体化される。また、フロント近接温度調整要素を経た空調空気が導入されるフロント近接導入口、および、フロント近接導入口とフロント近接吹出口とを連絡するフロント近接ダクトもまた、フロント筐体の内部に配置される。
【0038】
フロント筐体の内部空間には、上記したフロント近接空調ユニットの各構成要素のみを配置しても良いし、当該フロント近接空調ユニットの構成要素に加えて、後述するリヤ近接空調ユニットの各構成要素を配置しても良い。さらに、これらに加えて、それ以外の車両搭載機器を配置しても良い。当該車両搭載機器としては、例えば、ドリンクホルダ、テーブル、オーディオ機器、カーナビゲーションシステムまたはそのモニタ、各種の機器を操作するためのタッチパネル等が例示される。
【0039】
フロント近接温度調整器は、加熱のみを行うものであっても良いし、加熱と冷却との両方を行うものであっても良い。例えば、フロント近接温度調整器としては、PTCヒータ等の電熱ヒータを好ましく用い得る。場合によっては、熱電変換素子、吸着式や吸収式のヒートポンプ等をフロント近接温度調整器として用いても良い。
【0040】
フロント近接ブロワとしては、シロッコファンやプロペラファン等の一般的なものを用い得る。なお、フロント近接ブロワの大きさや出力は、フロント近接温度調整器の大きさに応じて適宜設定すれば良いが、既述したように、フロント近接温度調整器としては一般空調用の一般温度調整器よりも小さなものを使用することができる。また、フロント近接空調ユニットは座席に着座した乗員の近くに配置される。このため、フロント近接ブロワとしては、一般空調用の一般ブロワよりも小さくかつ低出力のものを好適に使用できる。
【0041】
フロント筐体の表面に露出するフロント近接吹出口の形状は特に限定しないが、前部座席に着座した乗員の近傍を近接空調することを考慮すると、前部座席に着座した乗員に沿って延びるスリット状であることが好ましい。
具体的には、当該フロント近接吹出口は、前部座席の前後方向に沿って延びるのが好ましい。換言すると、フロント近接吹出口における長手方向の一端部は、前部座席の前後方向において、長手方向の他端部よりも前側に位置するのが好ましい。この場合には、フロント近接吹出口から吹き出す空調空気を乗員の脚部に吹きつけ得る。
【0042】
または、当該フロント近接吹出口は、前部座席の上下方向に沿って延びても良い。換言すると、フロント近接吹出口における長手方向の一端部は、前部座席の上下方向において、長手方向の他端部よりも上側に位置するのが好ましい。この場合には、フロント近接吹出口から吹き出す空調空気を乗員の胴体に吹きつけ得る。
【0043】
ここで、例えば、「フロント近接吹出口における長手方向の一端部が前部座席の前後方向において他端部よりも前側に位置する」とは、「フロント近接吹出口の長手方向を前部座席の前後方向と概略同じ方向に向ける」ことを意味する。フロント近接吹出口の長手方向は前部座席の前後方向と一致しなくて良いが、両者のなす角は90°以下であるのが好ましく、45°以下であるのがより好ましく、30°以下であるのがさらに好ましく、15°以下であるのが特に好ましい。
【0044】
また、「座席の前後方向」は、「座席の向き」と捉えることもでき、座席に着座し乗員の臀部と膝とをむすぶ方向と一致する。当該乗員の膝側が座席の前側であり、臀部側が座席の後側である。
【0045】
フロント近接吹出口の長手方向を前部座席の前後方向と概略同じ方向に向けることで、フロント近接吹出口から流出した空調空気を、乗員の臀部と膝との間にある大腿部の全体にわたって吹きつけることができ、乗員の大腿部を効率良く暖めまたは冷やすことができる。
【0046】
ここで、寒冷下においては人体の背中や大腿部を暖めるのが良いとされているため、より小さい熱量によって乗員に暖かさを知覚させるためには、乗員の背中や大腿部を集中的に暖めるのが合理的である。
背中に関しては、座席の背もたれに覆われ、場合によってはシートヒータで暖められる。このため乗員は、背中よりも大腿部において、より寒さや暖かさを知覚し易いと考えられる。
【0047】
本発明の車両用空調装置において、フロント近接吹出口の形状を前部座席の前後方向に沿って延びるスリット状とする場合には、フロント近接空調の空調空気を乗員の大腿部に集中して、かつ、当該大腿部の全体にわたって吹きつけることができる。このことにより、乗員が快適な温度であると知覚するように、効率の良い空調を行うことが可能である。
【0048】
前部座席に着座した乗員の大腿部を充分な範囲で温めるまたは冷やすためには、フロント近接吹出口の長手方向の長さをある程度長くするのが好ましい。具体的には、当該フロント近接吹出口の長手方向の長さは、前部座席における座面の前後方向の長さの50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。
フロント近接吹出口の長手方向の実際の長さは、150mm以上であるのが好ましく、170mm以上であるのがより好ましく、200mm以上であるのが特に好ましい。
【0049】
なお、フロント近接吹出口は、長手方向を有する都合上、短手方向も有する。フロント近接吹出口の長手方向の長さと短手方向の長さとの比率は特に問わないが、省エネルギの観点からは、フロント近接吹出口の流路断面積は過大でないのが好ましい。したがって、フロント近接吹出口における短手方向の長さは短い方が好ましい。具体的には、フロント近接吹出口の長手方向の長さは短手方向の長さの2倍以上であるのが好ましく、3倍以上であるのがより好ましく、5倍以上であるのがさらに好ましく、10倍以上であるのが特に好ましい。長手方向と短手方向とは直交する方向であるのが好ましいが、両者は直角以外の角度で交差しても構わない。この場合の両者の交差角(劣角)は、45°以上であるのが好ましく、60°以上であるのがより好ましく、75°以上であるのがさらに好ましい。
【0050】
さらに、フロント近接空調により乗員の大腿部をより効率的に暖めるまたは冷やすためには、空調空気が乗員の大腿部の上を流通するのが良い。このため、フロント近接吹出口は前部座席の座面よりもさらに上側に位置するのが好ましい。好ましくは、フロント近接吹出口の上端は、前部座席の座面よりも上側にあり、かつ、フロント近接吹出口の上端と座面との上下方向の距離は50mm以上であるのが好ましい。また、この場合、フロント近接吹出口の下端もまた座面よりも上側にあり、かつフロント近接吹出口の下端と座面との上下方向の距離は10mm以上であるのがより好ましい。
上記したフロント近接吹出口の上端と座面との上下方向の距離のより好ましい範囲として、70mm以上、100mm以上、150mm以上の各範囲を挙げることができる。当該フロント近接吹出口の上端と座面との上下方向の距離に特に上限はないが、好ましい範囲として、250mm以下、230mm以下、200mm以下の各範囲を挙げることができる。
【0051】
また、上記したフロント近接吹出口の下端と座面との上下方向の距離のより好ましい範囲として、20mm以上、40mm以上、80mm以上の各範囲を挙げることができる。当該フロント近接吹出口の下端と座面との上下方向の距離に特に上限はないが、好ましい範囲として、170mm以下、150mm以下、140mm以下の各範囲を挙げることができる。
【0052】
さらに、フロント近接空調において、空調空気は、乗員の身体のなるべく大きな範囲に吹きつけるのが好ましい。例えば、フロント近接吹出口によって乗員の大腿部を温めまたは冷やす場合には、空調空気は、乗員の一対の大腿部のうち吹出口に近い側の大腿部から遠い側の大腿部に向けて、流通するのが良い。乗員の二つの大腿部の上に空調空気を流通させるためには、前部座席に対してフロント筐体とは逆側の側方に、空調空気を吸入する吸入ダクトを設ければ良い。こうすることで、乗員の大腿部の上方で空調空気の乱流が生じたり、滞留したりすることが抑制され、乗員の大腿部に適度に温度調整された空調空気が連続的に供給される。したがって、この場合には、乗員の大腿部を効率的に暖め得る。このような吸入ダクトは、例えば、前部座席を挟んでフロント筐体と逆側に位置するサイドドアに設けることができる。
【0053】
前部座席に着座した乗員の大腿部をフロント近接空調によって効率的に暖めるためには、空調空気は、スリット状をなすフロント近接吹出口の長手方向の全体にわたって、均一に吹き出すのが好ましい。
当該フロント近接吹出口の長手方向の全体にわたって空調空気を均一に吹き出すためには、フロント近接ダクトのうちフロント近接吹出口の上流側に位置する部分に、空調空気を整流するための整流機構を設けるのが有効である。
【0054】
上記した整流機構の具体的な構造は実施例の欄に例示するが、フロント近接ダクトに当該整流機構を設ける目的は、フロント近接吹出口の上流側において、フロント近接ダクトにおける空調空気の流通方向を変えることで、当該空調空気をフロント近接吹出口の長手方向の全体にわたって略均等に分配することにある。フロント近接ダクトにおける空調空気の流通方向を変えることで、フロント近接ダクトを流通する空調空気がフロント近接吹出口の一部から直接吹き出すことが抑制されれば、当該空調空気をフロント近接吹出口の長手方向に均等に分配し易くなる。
【0055】
車両には、前部座席以外にも後部座席が配置される場合が多い。当該後部座席については、前部座席のフロント近接空調と同様に、リヤ近接空調を行うことができる。
【0056】
リヤ近接空調には、車両室内において後部座席の前方に配置されているリヤ筐体と、リヤ近接温度調整器とリヤ近接ブロワとを具備し前記リヤ筐体の内部に配置されているリヤ近接温度調整要素と、前記リヤ近接温度調整要素を経た空気が導入されるリヤ近接導入口と、前記リヤ筐体の表面に露出し前記後部座席を向くリヤ近接吹出口と、前記リヤ近接導入口と前記リヤ近接吹出口とを連絡するリヤ近接ダクトと、を具備するリヤ近接空調ユニットを使用し得る。なお、リヤ近接ダクト、リヤ近接導入口およびリヤ近接吹出口は、リヤ近接温度調整要素とともに、リヤ筐体の内部に配置すれば良い。
【0057】
リヤ近接空調ユニットの各構成要素は、前部座席用のフロント近接空調ユニットにおける各構成要素と別個に設けても良いし、一部併用しても良い。具体的には、リヤ近接吹出口については、後部座席を向く都合上、フロント近接空調ユニットにおけるフロント近接吹出口とは別個に設ける必要がある。しかしそれ以外の構成要素は、フロント近接空調ユニットにおける各構成要素と併用することが可能である。例えば、リヤ筐体、リヤ近接温度調整要素、および、リヤ近接導入口は、フロント筐体、フロント近接温度調整要素、および、フロント近接導入口と併用することが可能である。リヤ近接ダクトについては、フロント近接空調ユニットにおけるフロント近接ダクトと一体化しても良い。
【0058】
なお、リヤ近接空調ユニットの各構成要素とフロント近接空調ユニットにおける各構成要素とを一部併用する場合には、当該リヤ近接空調ユニットおよびフロント近接空調ユニットを有する車両用空調装置全体を、小型化できる利点がある。一方、リヤ近接空調ユニットの各構成要素と、フロント近接空調ユニットにおける各構成要素と、を別個に設ける場合には、フロント近接空調とリヤ近接空調とを別々に行うことができ、各座席に着座した乗員に個別にきめ細かく対応し得る利点がある。
【0059】
リヤ筐体、リヤ近接温度調整要素、リヤ近接ダクト、および、リヤ近接導入口については、既述したフロント近接空調ユニットにおけるフロント筐体、フロント近接温度調整要素、フロント近接ダクト、および、フロント近接導入口と同様のものを使用し得る。
【0060】
リヤ筐体の表面に露出するリヤ近接吹出口の位置や形状は特に限定しないが、後部座席に着座した乗員の大腿部近傍を近接空調することを考慮すると、後部座席に着座した乗員の身幅方向、すなわち後部座席の幅方向或いは車幅方向に沿って延びるスリット状であることが好ましい。例えば、リヤ筐体が二つの前部座席の間に配置されるコンソールボックスであれば、リヤ近接吹出口は、当該コンソールボックスの後壁に露出し後側に向けて開口すればよい。
この場合、リヤ近接吹出口はコンソールボックスの後壁に取付けられる。車両の上下方向におけるリヤ近接吹出口の位置は特に問わないが、空調空気を後部座席に着座した乗員の大腿部付近に吹き出し得る位置とするのが好ましい。
【0061】
ところで、コンソールボックスの意匠性向上の観点から、空調装置の吹出口をコンソールボックスにおける下部に配置することが要求されている。本発明の発明者らは、特許第6540317号において、内装品における下部に空調装置の吹出口を配置し、当該吹出口から後方かつ上方に向けて空調空気を吹き出す技術を開示している。当該特許第6540317号には、内装品がコンソールボックスの後壁とする実施例が開示されている。
本発明の車両用空調装置において、コンソールボックスの後壁および当該後壁に配置されるリヤ近接吹出口は、特許第6540317号におけるコンソールボックスの後壁および吹出口と同様の配置や形状にするのが好ましい。こうすることで、リヤ近接吹出口から吹き出す空調空気を、後部座席に着座する乗員の大腿部に、効率良く届け得る。
【0062】
具体的には、コンソールボックスすなわちリヤ筐体の後壁は、リヤ近接吹出口の上側に傾斜面を有するのが好ましい。当該傾斜面は、その上下方向の高さが前側から後側に向けて高くなるように傾斜し、その下端はリヤ近接吹出口の上端に繋がるのが良い。このような傾斜面は、コアンダ効果により、リヤ近接吹出口から吹き出した空調空気を傾斜面の延びる方向、すなわち、上方かつ後方に導くことが可能である。
【0063】
当該傾斜面は、平面であっても良いし屈曲面または湾曲面であっても良い。さらに、当該傾斜面は上下方向に二つの領域を有しても良い。当該二つの領域の一方であり下側すなわちリヤ近接吹出口側に位置する領域を下領域と称し、当該二つの領域の他方であり下領域の上側に位置する領域を上領域と称する。傾斜面が上領域と下領域とを有する場合、上領域の傾斜角度は下領域の傾斜角度よりも大きい方が好ましい。このような上領域および下領域を有する傾斜面によると、空調空気を上方に向けて段階的に導くことができ、空調空気を乗員の大腿部に向けて効率良く供給し得る。
【0064】
傾斜面は、上領域および下領域以外の領域を有しても良い。例えば、上領域と下領域との間に、湾曲面状の領域が介在しても良い。この場合、上領域と下領域とが滑らかに連続し、空調空気の乱流が生じ難くなる利点がある。
【0065】
なお、上領域および下領域は、平面であっても良いし湾曲面であっても良い。上領域および下領域が湾曲面である場合、上領域の接線の傾斜角度および下領域の接線の傾斜角度を、各々、上領域の傾斜角度および下領域の傾斜角度とみなし得る。
より具体的には、前後方向および上下方向に延びる平面で傾斜面を切断した断面において、上領域を示す曲線における上下方向の中心点を接点として接線をとり、これを上領域の接線とすればよい。同じ断面において、下領域を示す曲線における上下方向の中心点を接点として接線をとり、これを下領域の接線とすればよい。そして、水平方向に延びる直線とこれら接線との交差角度を、これら接線の傾斜角度とすればよい。
【0066】
下領域の傾斜角度と上領域の傾斜角度との差の好ましい範囲として、5°以上45°以下、10°以上30°以下、15°以上25°以下の各範囲を例示できる。
【0067】
リヤ近接ダクトには、リヤ近接吹出口の近傍に、風向調整フィンを設けるのが好ましい。当該風向調整フィンは、上方に向けて揺動することで、リヤ近接吹出口から吹き出す空調空気を上方に案内できるものであるのがよい。このような風向調整フィンにより、リヤ近接吹出口から吹き出す空調空気をより効率良く上方に導き得る。
【0068】
本発明の近接空調ユニットの駆動制御方法は、上記したフロント近接空調ユニットとリヤ近接空調ユニットとの何れかを駆動制御するだけでも良いし、フロント近接空調ユニットとリヤ近接空調ユニットとの両方を駆動制御しても良い。フロント近接空調ユニットとリヤ近接空調ユニットとの両方を駆動制御する場合、フロント近接空調ユニットとリヤ近接空調ユニットとの駆動制御を別々に行っても良いし、同期して行っても良い。
【0069】
例えば、座席に設けられた荷重センサ等の情報を基に、座席に乗員が着座しているか否かを判断し、乗員が着座している座席にのみ近接空調を行っても良い。または、全ての座席に近接空調を行っても良い。さらには、乗員が選択した座席にのみ近接空調を行っても良い。
【0070】
本発明の制御方法による近接空調ユニットの駆動制御は、専用の制御装置により行っても良いし、他の車両構成要素や車両搭載機器の制御も行う兼用の制御装置により行っても良い。車両に要するコストを低減するためには、兼用の制御装置を用いるのが好ましく、例えば、車両に搭載されるECU(エンジンコントロールユニットまたはエレクトロニックコントロールユニット)を用いるのが好適である。
【0071】
制御装置は、近接空調のオン/オフスイッチがオン操作されたことを受けて、近接空調ユニットにおける近接温度調整器および近接ブロワを駆動制御し、このうち近接ブロワを起動するタイミングを、近接温度調整器の起動後に待機期間が経過した後とする。このような制御装置としては、近接空調ユニットのオン/オフスイッチ、近接温度調整器および近接ブロワに接続され、かつ、近接温度調整器の起動後に既述した待機期間が経過したことを検知するためのタイマを有するものが使用される。タイマとしては、近接温度調整器を起動する際にカウントダウンを開始し、待機期間の終了にあわせてタイマのカウントダウンを終了するものが好適である。
【0072】
本発明の近接空調ユニットは、さらに、制御装置に直接的または間接的に接続されかつ近接温度調整器の近傍に配置された温度検知器を有するのが好ましい。当該温度検知器により、近接温度調整器近傍の温度を検知することで、近接温度調整器に異常が発生したこと等を検知でき、適宜適切なタイミングで近接温度調整器を停止することが可能である。
【0073】
なお、温度検知器によって、近接温度調整器の温度が適温になったことを検知することも可能である。この場合、温度検知器で検知した温度を基に、適宜適切なタイミングで近接ブロワを起動して近接空調を開始することが可能である。つまり、近接空調ユニットの駆動制御方法において、近接温度調整器が起動した後、待機期間が経過したタイミングで近接ブロワを起動する代わりに、近接温度調整器が起動した後、温度検知器で検知された温度が所定の温度に達したタイミングで近接ブロワを起動しても良い。この場合に用いる温度検知器としては、サーミスタが好適である。
【0074】
温度検知器は、近接温度調整器の下流側に配置するのが好ましく、上記した近接温度調整器の近傍、すなわち、近接温度調整器から2cm~10cmの位置に配置されるのが好ましい。なお、上記位置に温度検知器を配置することが困難である場合、温度検知器で測定した値を基に、既述した近接温度調整器の近傍における温度を算出しても良い。
また、制御装置は、温度検知器で検知した温度が30℃以上、35℃以上、40℃以上または45℃以上になった場合に近接温度調整器を停止するのが好ましい。近接温度調整器の近傍の温度がこれらを上回ると、近接空調の空調空気が過度に温められ、乗員が不快に感じたり、近接空調ユニットの故障を招いたりする虞があるが、温度検知器により近接温度調整器近傍の過度な温度上昇を検知し、近接温度調整器を停止することで、当該不具合を抑制または回避できる。
【0075】
以下、具体例を挙げて本発明の近接空調ユニットの駆動制御方法、近接空調ユニットおよび近接空調ユニットの制御装置を説明する。
【0076】
(実施例1)
車両室内における実施例1の近接空調ユニットを模式的に表す説明図を
図1に示す。実施例1の近接空調ユニットを側面視した様子を模式的に表す説明図を
図2に示す。実施例1の近接空調ユニットにおける近接吹出口、近接温度調整器および近接ブロワの位置関係を模式的に表す説明図を
図3に示す。実施例1の近接空調ユニット、近接空調ユニットの駆動制御方法および近接空調ユニットの制御装置を模式的に説明するブロック図を
図4に示す。実施例1の近接空調ユニットの駆動制御方法を模式的に説明するフローチャートを
図5に示す。評価試験1の結果を表すグラフを
図6に示す。比較試験1の結果を表すグラフを
図7に示す。
以下、上、下とは鉛直方向における上、下を指し、前、後、左、右とは車両進行方向における前、後、左、右を意味するものとする。左右方向は車幅方向であり、前後方向は車両進行方向である。
【0077】
実施例1の近接空調ユニット10は、
図1に示すように、車両室内95に配置され、フロント近接吹出口20を有するフロント近接空調ユニット2、リヤ近接吹出口40を有するリヤ近接空調ユニット4を具備する。また、実施例1の近接空調ユニット10は、足元用フロント吹出口30fおよびリヤ一般吹出口30rを有する一般空調ユニット3とともに、実施例1の車両用空調装置1を構成する。
【0078】
図1に示すように、筐体5は車両のセンターコンソールボックスであり、フロント近接吹出口20およびリヤ近接吹出口40は同じ筐体5に配置される。車両室内95には二つの前部座席90(
図2参照)が設けられている。筐体5は、二つの前部座席90の一方である運転席と他方である助手席との間に配置され、かつ、後部座席91(
図2参照)の前方に配置されている。
【0079】
フロント近接空調ユニット2は、筐体5に加えて、フロント近接温度調整要素21、フロント近接導入口22、フロント近接吹出口20およびフロント近接ダクト23を有する。
図2に示すように、フロント近接温度調整要素21は、筐体5の内部に配置されている。フロント近接温度調整要素21は、フロント近接ブロワ21bと、当該フロント近接ブロワ21bの下流側に位置するフロント近接温度調整器21hと、フロント近接ブロワ21bおよびフロント近接温度調整器21hに接続された駆動制御装置7(
図4参照)と、を有する。フロント近接温度調整器21hは電源回路81(
図4参照)を介して12V電源76(
図4参照)に接続されたPTCヒータ73(
図4参照)である。実施例1の近接空調ユニット10の駆動制御装置7は、自動車のECU80、および、フロント近接温度調整器21hの近傍に配置された温度検知器74、75(
図4参照)を有する。具体的には、当該温度検知器74、75は、各々、サーミスタ75およびサーモスタット74(
図4参照)である。
【0080】
図1に示すように、二つのフロント近接吹出口20は、筐体5の左壁および右壁に各々設けられ、筐体5の表面に露出する。筐体5の右壁に設けられたフロント近接吹出口20は二つの前部座席90のうち、筐体5の右側にある運転席を向く。筐体5の左壁に設けられたフロント近接吹出口20は、二つの前部座席90のうち、筐体5の左側にある助手席を向く。
【0081】
また、
図3に示すように、フロント近接温度調整器21hはフロント近接ブロワ21bの下流側に配置され、フロント近接吹出口20はそのさらに下流側に配置される。
【0082】
図2に示すように、リヤ近接空調ユニット4は、上記した筐体5をフロント近接空調ユニット2と共有し、さらに、リヤ近接温度調整要素41、リヤ近接導入口42、リヤ近接吹出口40、およびリヤ近接ダクト43を具備する。
【0083】
リヤ近接温度調整要素41は、筐体5の内部においてフロント近接温度調整要素21よりも後側かつ下側に配置されている。リヤ近接温度調整要素41は、リヤ近接ブロワ41bと、当該リヤ近接ブロワ41bの下流側に位置するリヤ近接温度調整器41hとを有する。リヤ近接温度調整器41hは、フロント近接温度調整器21hとは別のPTCヒータである。
【0084】
図1に示すように、二つのリヤ近接吹出口40は、筐体5の後壁における下側部分の左右に各々設けられ、筐体5の表面に露出する。各リヤ近接吹出口40は後部座席91(
図2参照)を向く。
【0085】
図2に示すように、リヤ近接導入口42は、リヤ近接温度調整要素41におけるリヤ近接温度調整器41h側の部分に一体化されている。リヤ近接導入口42と上記した2つのリヤ近接吹出口40とは、リヤ近接ダクト43により連絡されている。リヤ近接導入口42には、後述するようにリヤ近接空調ユニット4の暖房運転時に、リヤ近接温度調整要素41を経た空調空気が導入される。そして、当該空調空気はリヤ近接ダクト43を通じて二つのリヤ近接吹出口40に供給され、当該リヤ近接吹出口40を経て後部座席91に向けて吹き出す。
【0086】
図2に示すように、一般空調ユニット3は、一般温度調整要素31、二つの一般導入口32、二つの足元用フロント吹出口30f、二つのリヤ一般吹出口30r、および二つの一般ダクト33を具備する。
【0087】
図1に示すように、二つの足元用フロント吹出口30fは、インストルメントパネル92の下方に設けられている。当該足元用フロント吹出口30fは、前部座席90すなわち運転席および助手席の足元かつ前方に配置されている。
図1および
図2に示すように、二つのリヤ一般吹出口30rは、筐体5の後壁において、リヤ近接吹出口40の上側に配置され、車両室内95の後部を向いている。二つの足元用フロント吹出口30fおよび二つのリヤ一般吹出口30rは、車両室内95を向く一般空調ユニット3の一般吹出口である。
【0088】
図2に示すように、足元用フロント吹出口30fおよびリヤ一般吹出口30rは、各々、一般ダクト33を介して、インストルメントパネル92の裏側(すなわち
図1におけるインストルメントパネル92の前側)に配置されているHVACシステムに接続されている。当該HVACシステムには図略の一般ブロワが一体化されている。当該HVACシステムは、実施例1の車両用空調装置1における一般温度調整要素31に相当する。当該一般温度調整要素31には、二つの一般導入口32が一体化されている。二つの一般導入口32には、後述する一般空調ユニット3の暖房x運転時において、一般温度調整要素31を経た空調空気が導入される。
一方の一般導入口32fは、分岐形状をなす二つの一般ダクト33の一方(33f)によって、二つの足元用フロント吹出口30fに連絡される。また、他方の一般導入口32rは、分岐形状をなす二つの一般ダクト33の他方(33r)によって、二つのリヤ一般吹出口30rに連絡される。
【0089】
以下、実施例1の近接空調ユニット駆動制御方法における駆動制御装置7について説明する。なお、この項ではフロント近接空調の駆動制御装置7を説明するが、リヤ近接空調についても同様の駆動制御装置により近接空調の駆動制御を行う。
【0090】
図4に示すように、駆動制御装置7に含まれるECU80は、電源回路81、ヒータ駆動回路82、ブロワ駆動回路83、スイッチ駆動回路84a、LED駆動回路84b、タイマ回路85、ヒータ制御回路86a、ブロワ制御回路86b、サーミスタ温度計測回路88およびサーミスタ異常検知回路87を有する。
【0091】
電源回路81はヒータ駆動回路82に接続され、当該ヒータ駆動回路82を経て近接温度調整器であるPTCヒータ73に接続されている。ブロワ駆動回路83はフロント近接ブロワ21b用の電動モータ72に接続されている。スイッチ駆動回路84aおよびLED駆動回路84bはオン/オフスイッチ71に接続されている。
【0092】
オン/オフスイッチ71は、プッシュボタンスイッチ71aとLED71bとで構成され、このうちプッシュボタンスイッチ71aはスイッチ駆動回路84aに接続され、LED71bはLED駆動回路84bに接続されている。
オン/オフスイッチ71は車両の電源スイッチ70(イグニッションスイッチまたはパワースイッチ)に接続されている。PTCヒータ73にはサーモスタット74が接続されている。サーモスタット74は、12V電源76とPTCヒータ73との間の電気的接続を物理的にオン/オフ切り替えする。サーミスタ温度計測回路88にはサーミスタ75が接続され、当該サーミスタ75はPTCヒータ73よりも空調空気の流路下流側に配置される。
サーミスタ温度計測回路88にはサーミスタ異常検知回路87が接続され、サーミスタ異常検知回路87はスイッチ駆動回路84a、LED駆動回路84b、ヒータ制御回路86aおよびブロワ制御回路86bに接続される。
【0093】
さらに、タイマ回路85は図略の3種のタイマ回路(第1タイマ~第3タイマ)で構成され、当該タイマ回路85は、スイッチ駆動回路84a、LED駆動回路84b、ヒータ制御回路86aおよびブロワ制御回路86bに接続される。
さらに、タイマ回路85は電源回路81に接続され、スイッチ駆動回路84aおよびLED駆動回路84bもまた電源回路81に接続される。ヒータ制御回路86aはヒータ駆動回路82に接続され、ブロワ制御回路86bはブロワ駆動回路83に接続される。
【0094】
なお、このうちヒータ制御回路86aおよびヒータ駆動回路82はPTCヒータ73の駆動制御に関与し、ブロワ制御回路86bおよびブロワ駆動回路83はフロント近接ブロワ21b用の電動モータ72の駆動制御に関与する。
【0095】
タイマ回路85は、後述するように、PTCヒータ73が起動されるとカウントダウンを開始し、PTCヒータ73の停止制御、電動モータ72の起動制御および電動モータ72の停止制御を行うためのトリガーとなる。
【0096】
サーミスタ75はPTCヒータ73近傍の温度を計測し、当該PTCヒータ73の停止制御を行うためのトリガーとなる。また、以降のフローチャートでは特に説明しないが、サーモスタット74は、PTCヒータ73近傍の温度が所定の範囲を外れると、12V電源76とPTCヒータ73との電気的接続を物理的に切断することで、PTCヒータ73への給電を停止する。このときの温度範囲は、サーミスタ75により検知する温度範囲よりも高い温度であり、サーモスタット74は、サーミスタ75によるPTCヒータ73の停止制御が不良である場合に備えた、二段階目の安全装置として機能する。
【0097】
以下、
図5に示すフローチャートを基に、駆動制御装置7による実施例1の近接空調ユニットの駆動制御方法について説明する。
【0098】
先ず、ユーザーが電源スイッチ70をオン操作することにより、車両の電源がオンされ(S1)、車両が起動する。当該ステップを実施例1の近接空調ユニットの駆動制御方法におけるステップ1と称し、以下、S1と表記する。なお、以降のステップ2以降についても同様に、S2、S3・・・等と表記する。
【0099】
車両の電源がオンされると、駆動制御装置7の初期診断がスタートし(S2)、当該初期診断の結果に問題ないか否かが判断される(S3)。初期診断の結果に問題がある場合、すなわち、S3がNO(N)である場合には、駆動制御装置7の異常と判断され、近接空調ユニット10の駆動制御が終了し(S4)、かつ、車両室内95に配置された図略の表示器にエラーメッセージが表示される(S5)。
【0100】
一方、S3でYES(Y)である場合には、ユーザーが近接空調ユニット10のオン/オフスイッチ71を操作するまで、待機状態となる(S6)。
【0101】
待機状態において、駆動制御装置7は、近接空調ユニット10のオン/オフスイッチ71が操作された否かを判断し(S7)、オン/オフスイッチ71がオンになるまで、つまり、近接空調が起動するまで、待機状態もしくは当該S7を繰り返す。オン/オフスイッチ71がオンされた場合には、駆動制御装置7はPTCヒータ73をオンし、かつ、上記した図略の第1タイマ~第3タイマのカウントダウンを開始する(S8)。
【0102】
なお、上記の第1タイマは待機期間の経過を検知するためのタイマであり、当該第1タイマによる計測時間は30秒である。第2タイマは運転期間の経過を検知するためのタイマであり、当該第2タイマによる計測時間は15分である。第3タイマは冷却期間の経過を検知するためのタイマであり、当該第3タイマによる計測時間は15分30秒である。
また、オン/オフスイッチ71がオンされる際には、同時に、LED71bがオンされて、オン/オフスイッチ71がオンされたことを乗員に告知する。
【0103】
PTCヒータ73をオンした後、サーミスタ75によってPTCヒータ73付近の温度を検知する。実施例1の近接空調ユニットの駆動制御方法においては、サーミスタ75で検知した温度が60℃以下である場合に温度が正常範囲内であると判断し(S9のY)、当該範囲を外れると(S9のN)、後述するS14に進んでPTCヒータ73をオフする。
【0104】
S9で温度が正常範囲内である場合には、PTCヒータ73をオンするのと同時にカウントダウンを開始したタイマのうちの一つである第1タイマにより、PTCヒータ73をオンした後に30秒が経過したか否かを判断する(S10)。PTCヒータ73をオンした後に30秒が経過するまで、S9~S10を繰り返す。
【0105】
PTCヒータ73をオンした後に30秒が経過すると、電動モータ72を起動することでフロント近接ブロワ21bをオンする(S11)。これにより、PTCヒータ73を経た空調空気が乗員に吹き付けられ、フロント近接空調が行われる。
【0106】
フロント近接ブロワ21bのオン後、サーミスタ75で検知した温度が正常範囲にあるか否かを判断する(S12)。S12では、S9と同様に、サーミスタ75で検知した温度が60℃以下である場合に温度が正常範囲内であると判断し(S12のY)、当該範囲を外れると(S12のN)、後述するS14に進んでPTCヒータ73をオフする。
【0107】
S12で温度が正常範囲内である場合には、PTCヒータ73をオンするのと同時にカウントダウンを開始したタイマのうちの他の一つである第2タイマにより、PTCヒータ73をオンした後に15分が経過したか否かを判断する(S13)。PTCヒータ73をオンした後に15分が経過するまで、S12~S13を繰り返す。
【0108】
PTCヒータ73をオンした後に15分が経過すると、フロント近接空調により乗員が十分に温められたと判断し、PTCヒータ73をオフする(S14)。PTCヒータ73のオフ後、PTCヒータ73をオンするのと同時にカウントダウンを開始したタイマのうちの他の一つである第3タイマにより、PTCヒータ73をオンした後に15分30秒が経過したか否か、すなわち、PTCヒータ73をオフした後に30秒が経過したか否かを判断する(S15)。PTCヒータ73をオフした後に30秒が経過するまで、すなわち、PTCヒータ73をオンした後に15分30秒が経過するまで、S15を繰り返す。
【0109】
PTCヒータ73をオフした後に30秒が経過すると(S15のY)、PTCヒータ73が十分に冷却されたとみなし、フロント近接ブロワ21bをオフし(S16)、S6の待機状態に戻る。このとき、スイッチ駆動回路84aおよびLED駆動回路84bにより、近接空調のオン/オフスイッチ71およびLED71bがオフされる。
【0110】
なお、当該待機状態(S6)において、駆動制御装置7は、車両の電源がオフされたか否かの判断も行う(S17)。車両の電源がオフされると(S17のY)、近接空調ユニット10の駆動制御を終了する。車両の電源がオフされなければ(S17のN)S6に戻る。
なお、当該待機状態(S6)においては、既述したように、近接空調のオン/オフスイッチ71がオンされたか否かも判断される(S7)。このため、車両の電源がオフされず(S17のN)、オン/オフスイッチ71がオンされると(S7のY)、S8以降に進み、駆動制御装置7は再度近接空調を開始する。
【0111】
また、
図5には特に図示しないが、オン/オフスイッチ71がオフされたり、12V電源76からオン/オフスイッチ71に至る回路の断線等が生じたことによりオン/オフスイッチ71の異常が検知された場合や、ブロワに流れる電流値に異常が発生することによりブロワの異常が検知された場合にも同様に、S6に戻り、待機状態となる。
【0112】
さらに、
図5には特に図示しないが、車両の電源がオンである間、ECU80はPTCヒータ73を制御するためのプログラムおよびブロワを制御するためのプログラムにつき、システムエラーのチェックを行う。当該システムエラーが検知された場合、初期診断時の異常が検出された場合(S3のN)と同様に、近接空調ユニット10の駆動制御が終了し(S4)、かつ、車両室内95に配置された図略の表示器にエラーが表示される(S5)。
【0113】
実施例1の近接空調ユニットの駆動制御方法によると、近接空調のオン/オフスイッチ71がオンされると、先ずフロント近接温度調整器21hであるPTCヒータ73を起動し(S7)、その30秒後、すなわち、所定の待機期間の経過後に、フロント近接ブロワ21b用の電動モータ72を起動する(S11)。これにより、実施例1の近接空調ユニットの駆動制御方法によると、冷たい空調空気が供給されることにより乗員に与える不快感を軽減し得る。
【0114】
〔評価試験1〕
車両の起動開始直後、前部座席90に乗員96が着座した状態で、フロント近接ブロワ21bを停止したままフロント近接温度調整器21hを起動し、待機期間である30秒の経過後にフロント近接ブロワ21bを起動した。このときのフロント近接吹出口20付近の温度変化を
図6に示す。
図6に示すように、フロント近接温度調整器21hの起動直後にはフロント近接吹出口20の温度は低いものの、待機期間の経過後にフロント近接ブロワ21bを起動すると、当該フロント近接ブロワ21bの起動直後であるにも拘わらず、35℃程度の温かい空調空気がフロント近接吹出口20から吹き出した。
この結果から、近接空調ユニットの暖房運転を開始する際に、先ず、近接ブロワを停止したままで近接温度調整器を起動し、次いで、所定の待機期間の経過後に近接ブロワを起動することで、近接吹出口から冷たい空調空気が吹き出すことを抑制し得ることがわかる。
【0115】
〔比較試験1〕
比較試験として、上記評価試験1と同じフロント近接空調ユニット2を用い、フロント近接温度調整器21hの起動時に、同時に、フロント近接ブロワ21bを起動した。このときのフロント近接吹出口20付近の温度変化を
図7に示す。
図7に示すように、フロント近接温度調整器21hの起動後30秒が経過するまでは、フロント近接吹出口20から冷たい空調空気が吹き出した。つまり、フロント近接温度調整器21hの暖機がなされていないときにフロント近接ブロワ21bを起動すると、充分に温められていない空調空気がフロント近接吹出口20に供給され、当該空調空気により乗員が冷たさを知覚する虞がある。
以上の評価試験1および比較試験1の結果から、本発明の制御方法は、近接温度調整器の起動後、所定の待機期間が経過した後に近接ブロワを起動することで、車両の起動開始直後に暖房運転を開始した場合にも乗員に暖かい空調空気を供給することができ、乗員に与える不快感を軽減し得る、ということが裏付けられる。
【0116】
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。また、実施形態を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施できる。
【符号の説明】
【0117】
1:車両用空調装置
2:フロント近接空調ユニット(近接空調ユニット)
21b:フロント近接ブロワ(ブロワ、近接ブロワ)
21h:フロント近接温度調整器(温度調整器、近接温度調整器)
4:リヤ近接空調ユニット(近接空調ユニット)
41b:リヤ近接ブロワ(ブロワ、近接ブロワ)
41h:リヤ近接温度調整器(温度調整器、近接温度調整器)
7:近接空調ユニットの駆動制御装置
74:サーモスタット(温度検知器)
75:サーミスタ(温度検知器)
80:ECU
85:タイマ回路(タイマ)
90:前部座席(座席)
91:後部座席(座席)
95:車両室内