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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20231219BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20231219BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20231219BHJP
【FI】
G01R33/09
H01L29/82 Z
H10N50/10 Z
H10N50/10 U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020053103
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152479
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】原谷 進
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-294506(JP,A)
【文献】特開2002-232039(JP,A)
【文献】特開2005-209301(JP,A)
【文献】特開2019-148475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/09
H01L 29/82
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に延在し、前記第1の方向と交差する第2の方向を固定磁化方向とする磁気抵抗効果素子と、
前記磁気抵抗効果素子に積層され、前記磁気抵抗効果素子に前記第1の方向の磁気バイアスを与える磁化方向制御層と、
前記磁気抵抗効果素子と前記磁化方向制御層の間に設けられた非磁性のバイアス調整層と、を備え、
前記バイアス調整層は前記磁気抵抗効果素子を不完全に覆っており、これにより前記磁化方向制御層は、前記バイアス調整層を介して前記磁気抵抗効果素子を覆う第1の領域と、前記バイアス調整層を介することなく前記磁気抵抗効果素子を覆う第2の領域を含み、前記第1の領域と前記第2の領域の面積比によって磁気バイアスが調整されることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記磁気抵抗効果素子は、反強磁性層と、前記反強磁性層に積層された磁化固定層と、非磁性層を介して前記磁化固定層に積層された感磁層とを含み、
前記磁化方向制御層は、前記バイアス調整層を介して前記感磁層に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記磁化方向制御層は、前記反強磁性層と同じ磁気材料からなり、且つ、前記反強磁性層とは厚みが異なることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記磁化方向制御層は、前記反強磁性層よりも薄いことを特徴とする請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記磁気抵抗効果素子及び前記磁化方向制御層を覆う絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられ、前記磁気抵抗効果素子と重なる磁気ギャップを介して、前記第2の方向に配列された第1及び第2の強磁性層と、をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記第1及び第2の強磁性層の少なくとも一方は、前記絶縁層を介して前記磁気抵抗効果素子と重なりを有していることを特徴とする請求項に記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記磁気抵抗効果素子は、第1及び第2の磁気抵抗効果素子を含み、
前記磁化方向制御層は、それぞれ前記第1及び第2の磁気抵抗効果素子に積層された第1及び第2の磁化方向制御層を含み、
前記第1の磁気抵抗効果素子と前記第2の磁気抵抗効果素子はブリッジ接続されており、
前記第1及び第2の磁気抵抗効果素子に印加される磁気バイアスの方向は互いに同じであり、
前記第1及び第2の磁気抵抗効果素子に流れる電流の方向は互いに同じであることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気センサ及びその製造方法に関し、特に、極めて微弱な磁界を検出するための磁気センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサとしては、特許文献1に記載されているように、磁気抵抗効果素子の抵抗値の変化に基づいて磁界の向き及び強さを検出するタイプの磁気センサが知られている。特許文献1に記載された磁気センサは、磁気抵抗効果素子をミアンダ状に折り曲げることによって十分な抵抗値を確保するとともに、磁気抵抗効果素子を分断する複数の硬磁性体(磁石)を配置することによって、磁気抵抗効果素子に磁気バイアスを印加している。磁気抵抗効果素子に磁気バイアスを印加すれば、理想的には磁気抵抗効果素子が単磁区化されるため、検出信号に重畳する不規則ノイズを低減することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5066579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された磁気センサにおいては、複数の硬磁性体によって磁気抵抗効果素子が長手方向に分断されていることから、その分、磁気抵抗効果素子の長さが短くなる。磁気抵抗効果素子の長さが短くなると、磁気抵抗効果素子の面積の平方根に比例する雑音密度が増加するという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、磁気抵抗効果素子を分断することなく、磁気抵抗効果素子に磁気バイアスを印加可能な磁気センサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による磁気センサは、第1の方向に延在し、第1の方向と交差する第2の方向を固定磁化方向とする磁気抵抗効果素子と、磁気抵抗効果素子に積層され、磁気抵抗効果素子に第1の方向の磁気バイアスを与える磁化方向制御層とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、磁気抵抗効果素子に磁気バイアスを与える磁化方向制御層が磁気抵抗効果素子に積層されていることから、複数の硬磁性体によって磁気抵抗効果素子を分断する必要がない。これにより、雑音密度の増加を抑えつつ、検出信号に重畳する不規則ノイズを低減することが可能となる。
【0008】
本発明において、磁気抵抗効果素子は、反強磁性層と、反強磁性層に積層された磁化固定層と、非磁性層を介して磁化固定層に積層された感磁層とを含み、磁化方向制御層は、感磁層に積層されていても構わない。これによれば、感磁層に十分な磁気バイアスを与えることが可能となる。この場合、磁化方向制御層は、反強磁性層と同じ磁気材料からなり、且つ、反強磁性層とは厚みが異なるものであっても構わない。これによれば、製造コストを削減しつつ、反強磁性層と磁化方向制御層の固定磁化方向を互いに異なる方向に着磁することが可能となる。さらにこの場合、磁化方向制御層は、反強磁性層よりも薄くても構わない。これによれば、反強磁性層を磁化方向制御層よりも強く着磁することが可能となる。
【0009】
本発明による磁気センサは、磁気抵抗効果素子と磁化方向制御層の間に設けられた非磁性のバイアス調整層をさらに備えていても構わない。これによれば、バイアス調整層の膜厚によって磁気バイアスを調整することが可能となる。この場合、バイアス調整層は磁気抵抗効果素子を不完全に覆っており、これにより磁化方向制御層は、バイアス調整層を介して磁気抵抗効果素子を覆う第1の領域と、バイアス調整層を介することなく磁気抵抗効果素子を覆う第2の領域を含んでいても構わない。これによれば、第1の領域と第2の領域の面積比によって磁気バイアスを微調整することが可能となる。
【0010】
本発明による磁気センサは、磁気抵抗効果素子及び磁化方向制御層を覆う絶縁層と、絶縁層上に設けられ、磁気抵抗効果素子と重なる磁気ギャップを介して、第2の方向に配列された第1及び第2の強磁性層とをさらに備えていても構わない。これによれば、磁気抵抗効果素子に対して検出磁界を第2の方向に効果的に印加することが可能となる。この場合、第1及び第2の強磁性層の少なくとも一方は、絶縁層を介して磁気抵抗効果素子と重なりを有していても構わない。これによれば、磁気抵抗効果素子に対して検出磁界をより効果的に印加することが可能となる。
【0011】
本発明において、磁気抵抗効果素子は第1及び第2の磁気抵抗効果素子を含み、磁化方向制御層は、それぞれ第1及び第2の磁気抵抗効果素子に積層された第1及び第2の磁化方向制御層を含み、第1の磁気抵抗効果素子と第2の磁気抵抗効果素子はブリッジ接続されており、第1及び第2の磁気抵抗効果素子に印加される磁気バイアスの方向は互いに同じであり、第1及び第2の磁気抵抗効果素子に流れる電流の方向は互いに同じであっても構わない。これによれば、磁気バイアスの方向と電流の流れる方向の関係が一定となる。これにより、不規則ノイズが大幅に低減されることから、極めて微弱な磁界を検出することが可能となる。
【0012】
本発明による磁気センサの製造方法は、磁気抵抗効果素子と反強磁性材料からなる磁化方向制御膜を積層する成膜工程と、第2の方向に磁界を印加しながら第1の温度でアニールすることにより、磁気抵抗効果素子の固定磁化方向を第2の方向に配向させる第1のアニール工程と、第2の方向と交差する第1の方向に磁界を印加しながら第1の温度とは異なる第2の温度でアニールすることにより、磁化方向制御膜を第1の方向に着磁する第2のアニール工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、磁気抵抗効果素子と磁化方向制御膜を互いに異なる方向に着磁することが可能となる。
【0014】
成膜工程においては、反強磁性層、磁化固定層、非磁性膜及び磁化固定層をこの順に成膜することによって磁気抵抗効果素子を形成した後、反強磁性層と同じ磁気材料からなり、且つ、反強磁性層よりも厚みの薄い磁化方向制御膜を成膜し、第2のアニール温度は、第1のアニール温度よりも低くても構わない。これによれば、反強磁性層を磁化方向制御膜よりも強く着磁することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、磁気抵抗効果素子を分断することなく、磁気抵抗効果素子に磁気バイアスを印加することが可能となる。これにより、雑音密度の増加を抑えつつ、検出信号に重畳する不規則ノイズを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の好ましい実施形態による磁気センサ10の外観を示す模式的な斜視図である。
図2図2は、センサチップ20の素子形成面21上の構造を説明するための模式的な平面図である。
図3図3は、図2に示すA-A線に沿った略断面図である。
図4図4は、磁気抵抗効果素子R1~R4の接続関係を説明するための回路図である。
図5図5は、磁気抵抗効果素子R1~R4の層構造の第1の例を説明するための模式的な断面図である。
図6図6は、磁気抵抗効果素子R1~R4の層構造の第2の例を説明するための模式的な断面図である。
図7図7は、バイアス調整膜57の膜厚と感磁層54の異方性磁界(Hk)の関係を示すグラフである。
図8図8は、バイアス調整膜57が不完全な膜である状態を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の好ましい実施形態による磁気センサ10の外観を示す模式的な斜視図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態による磁気センサ10は、表面がxz面を構成する基板2と、基板2の表面上に載置されたセンサチップ20及び集磁体30~32を備えている。センサチップ20は、xy面を構成する素子形成面21を有しており、集磁体30のz方向における一端と素子形成面21が向かい合っている。集磁体31,32は、センサチップ20の裏面側に設けられている。集磁体30~32は、フェライトなど透磁率の高い軟磁性材料からなるブロックである。
【0020】
図1に示すように、本実施形態においては、センサチップ20の素子形成面21が基板2の表面に対して垂直となるよう、センサチップ20が搭載されている。つまり、基板2に対して90°寝かせた状態でセンサチップ20が搭載されている。このため、集磁体30のz方向における長さが長い場合であっても、集磁体30を基板2に安定して固定することが可能である。
【0021】
図2は、センサチップ20の素子形成面21上の構造を説明するための模式的な平面図である。また、図3は、図2に示すA-A線に沿った略断面図である。
【0022】
図2及び図3に示すように、センサチップ20の素子形成面21上には、y方向に延在する4つの磁気抵抗効果素子R1~R4と、3つの強磁性膜M1~M3が設けられている。磁気抵抗効果素子R1~R4の固定磁化方向は、いずれもx方向(+x方向又は-x方向)に揃えられている。また、後述するように、磁気抵抗効果素子R1~R4に対しては、いずれもy方向(+y方向又は-y方向)の磁気バイアスが印加されている。
【0023】
磁気抵抗効果素子R1~R4は、素子形成面21を構成するセンサ基板22の表面上に形成されている。センサ基板22の材料としては、シリコンやアルミナチタンカーバイド(ALTIC)を用いることができる。磁気抵抗効果素子R1~R4は、Alなどからなる絶縁膜23で覆われ、強磁性膜M1~M3は絶縁膜23上に形成される。強磁性膜M1~M3はパーマロイなどの透磁率の高い軟磁性膜からなる。強磁性膜M1~M3は、複数の膜が積層されてなる強磁性層であっても構わない。強磁性膜M1~M3は、Alなどからなる絶縁膜24で覆われ、絶縁膜24上に集磁体30が配置される。絶縁膜24は、複数の膜が積層されてなる絶縁層であっても構わない。図2には、素子形成面21上における集磁体30の平面位置も示されている。
【0024】
強磁性膜M1~M3はy方向に延在する磁気ギャップG1~G4を形成しており、z方向から見た平面視で、磁気抵抗効果素子R1~R4はそれぞれ磁気ギャップG1~G4と重なるように配置される。特に限定されるものではないが、本実施形態においては磁気抵抗効果素子R1~R4のx方向における幅Rxよりも磁気ギャップG1~G4のx方向における幅Gxの方が狭く、このため、z方向から見て、強磁性膜M1は磁気抵抗効果素子R1~R4と重なりを有し、強磁性膜M2は磁気抵抗効果素子R1,R3と重なりを有し、強磁性膜M3は磁気抵抗効果素子R2,R4と重なりを有している。これにより、強磁性膜M1から強磁性膜M2,M3に向かう検出磁界、或いは、強磁性膜M2,M3から強磁性膜M1に向かう検出磁界は、磁気抵抗効果素子R1~R4に対してx方向に印加される。
【0025】
図4は、磁気抵抗効果素子R1~R4の接続関係を説明するための回路図である。
【0026】
図4に示すように、磁気抵抗効果素子R1は端子電極41,42間に接続され、磁気抵抗効果素子R2は端子電極41,43間に接続され、磁気抵抗効果素子R3は端子電極43,44間に接続され、磁気抵抗効果素子R4は端子電極42,44間に接続される。端子電極41には電源電位Vccが与えられ、端子電極44には接地電位GNDが与えられる。したがって、磁気抵抗効果素子R1~R4にはそれぞれ矢印I11~I14で示す方向に電流が流れる。つまり、磁気抵抗効果素子R1~R4には、互いに同じ方向に電流が流れる。
【0027】
上述の通り、磁気抵抗効果素子R1~R4は全て同一の磁化固定方向を有している。このため、集磁体30によって集磁された磁束が磁気抵抗効果素子R1~R4に印加されると、集磁体30からみて一方側(-x方向側)に位置する磁気抵抗効果素子R1,R3の抵抗変化量と、集磁体30からみて他方側(+x方向側)に位置する磁気抵抗効果素子R2,R4の抵抗変化量との間には差が生じる。そして、磁気抵抗効果素子R1~R4は差動ブリッジ回路を構成していることから、磁束密度に応じた磁気抵抗効果素子R1~R4の電気抵抗の変化が端子電極42,44に現れることになる。
【0028】
端子電極42,43から出力される差動信号は、基板2又はその外部に設けられた差動アンプ47に入力される。差動アンプ47の出力信号は、端子電極45にフィードバックされる。図4に示すように、端子電極45と端子電極46との間には補償コイルCが接続されており、これにより、補償コイルCは差動アンプ47の出力信号に応じたキャンセル磁界を発生させる。補償コイルCは、センサチップ20に集積することが可能である。
【0029】
補償コイルCは、磁気抵抗効果素子R1に沿ってy方向に延在する区間C1と、磁気抵抗効果素子R2に沿ってy方向に延在する区間C2と、磁気抵抗効果素子R3に沿ってy方向に延在する区間C3と、磁気抵抗効果素子R4に沿ってy方向に延在する区間C4を含んでいる。そして、端子電極45から端子電極46に向かって電流を流すと、区間C1~C4にはそれぞれ矢印I21~I24で示す方向に電流が流れる。つまり、区間C1,C3と区間C2,C4には、互いに逆方向に電流が流れる。これにより、磁気抵抗効果素子R1,R3と磁気抵抗効果素子R2,R4に互いに逆方向に印加される検出磁界を補償コイルCによってキャンセルすることが可能となる。そして、差動アンプ47から出力される電流を検出回路48によって電流電圧変換すれば、外部磁束の強さを検出することが可能となる。
【0030】
図5は、磁気抵抗効果素子R1~R4の層構造を説明するための模式的な断面図である。
【0031】
図5に示す第1の例では、素子形成面21を構成するセンサ基板22の表面上に、バッファ層50、反強磁性層51、磁化固定層52、非磁性層53、感磁層54、磁化方向制御膜55及び保護層56がこの順に積層されている。このうち、反強磁性層51、磁化固定層52、非磁性層53及び感磁層54は、磁気抵抗効果素子R1~R4を構成する。
【0032】
バッファ層50は、例えば厚さ50オングストローム程度のNiCr膜からなる。反強磁性層51は、例えば厚さ70オングストローム程度のIrMn膜からなる。磁化固定層52は、例えば厚さ15オングストローム程度のCoFe膜52A,52Cを厚さ8オングストローム程度のRu膜52Bで挟み込んだ構成を有している。非磁性層53は、例えば20オングストローム程度のCu膜からなる。感磁層54は、例えば10オングストローム程度のCoFe膜54Aと70オングストローム程度のNiFe膜54Bの積層膜からなる。磁化方向制御膜55は、例えば厚さ50オングストローム程度のIrMn膜からなる。保護層56は、例えばRu、Ta又はこれらの積層膜からなる。
【0033】
本明細書において「層」とは単一の材料からなる膜、或いは、互いに異なる材料からなる複数の膜の積層体であって、一体として1つの機能を実現する膜の積層体を意味する。したがって、磁化方向制御膜55は、複数の膜が積層されてなる磁化方向制御層であっても構わない。
【0034】
ここで、反強磁性層51はx方向に着磁されており、これにより磁化固定層52の固定磁化方向はx方向となる。これに対し、磁化方向制御膜55はy方向に着磁されており、これにより感磁層54にはy方向の磁気バイアスが印加される。ここで、反強磁性層51と磁化方向制御膜55を互いに異なる方向に着磁する方法としては、スパッタリング法などを用いてバッファ層50から保護層56までを成膜した後、反強磁性層51をx方向に着磁するアニール工程と、磁化方向制御膜55をy方向に着磁するアニール工程を別個に行う方法が挙げられる。ここで、反強磁性層51と磁化方向制御膜55が互いに同じ反強磁性材料からなる場合であっても、両者の膜厚が互いに異なる場合、これらに隣接する軟磁性体膜の配向が崩れる温度(ブロッキング温度:T)は互いに異なるため、2回のアニール工程によって反強磁性層51と磁化方向制御膜55を互いに異なる方向に着磁することができる。
【0035】
一例として、上述の通り、反強磁性層51が厚さ70オングストローム程度のIrMn膜からなり、磁化方向制御膜55が厚さ50オングストローム程度のIrMn膜からなる場合、x方向に磁界を印加しながら約280℃でアニールすることにより、反強磁性層51及び磁化方向制御膜55をx方向に着磁した後、y方向に磁界を印加しながら約240℃でアニールすることにより、磁化方向制御膜55の磁化方向をy方向に変化させる。2回目のアニール工程においては、厚さの大きい反強磁性層51の磁化方向は変化せず、x方向に保たれる。このように、反強磁性層51と磁化方向制御膜55を互いに同じ反強磁性材料によって構成すれば、製造コストを削減することが可能となる。また、磁化方向制御膜55の膜厚を反強磁性層51の膜厚よりも薄くすることにより、感磁層54に印加されるx方向の固定磁化成分よりもy方向の磁気バイアスが弱くなることから、過度の磁気バイアスによる検出感度の低下を防止することが可能となる。
【0036】
或いは、反強磁性層51と磁化方向制御膜55を互いに異なる方向反強磁性材料によって構成しても構わない。これによれば、両者の膜厚が同じであっても、ブロッキング温度の違いによって互いに異なる方向に着磁することができる。反強磁性層51及び磁化方向制御膜55に用いることが可能な反強磁性材料としては、IrMn(T=280℃)、NiMn(T=375℃)、PtMn(T=340℃)、α-Fe(T=320℃)、PtPdMn(T=300℃)、CrMnPt(T=280℃)、RuRhMn(T=225℃)、NiO(T=210℃)、FeMn(T=180℃)などが挙げられる。上記のブロッキング温度Tは膜厚によって変化する。
【0037】
磁化方向制御膜55によって感磁層54に印加される磁気バイアスの強さは、磁化方向制御膜55を構成する反強磁性材料の種類や膜厚によって調整することができる。また、図6に示すように、感磁層54と磁化方向制御膜55の間に非磁性のバイアス調整膜57を設けることによって、感磁層54に印加される磁気バイアスを調整しても構わない。バイアス調整膜57の材料としては、例えばRuを用いることができる。バイアス調整膜57は、複数の膜が積層されてなるバイアス調整層であっても構わない。
【0038】
図7は、バイアス調整膜57の膜厚と感磁層54の異方性磁界(Hk)の関係を示すグラフである。異方性磁界は、磁化方向をある方向にそろえようとする時に必要な磁場の強さである。従って、異方性磁界が大きいほど、磁化方向制御膜55による磁気バイアスは強く、感磁層54の磁場感度は低下する。
【0039】
図7に示すように、磁化方向制御膜55が存在しない場合における感磁層54の異方性磁界は、約4Oeである。これに対し、厚さ50オングストロームのIrMnからなる磁化方向制御膜55を設けることにより、感磁層54の異方性磁界は約67Oeに増加する。そして、感磁層54と磁化方向制御膜55の間にバイアス調整膜57を設けると、バイアス調整膜57の膜厚が大きくなるほど感磁層54の異方性磁界が低下し、その膜厚が5オングストロームであると感磁層54の異方性磁界は約7Oeまで低下する。このように、感磁層54の磁場感度は、バイアス調整膜57の膜厚によって調整することが可能である。
【0040】
バイアス調整膜57は、感磁層54の全面を覆う完全な膜である必要はなく、模式的な平面図である図8に示すように、感磁層54を不完全に覆う部分的な膜であっても構わない。バイアス調整膜57が不完全な膜である場合、磁化方向制御膜55には、バイアス調整膜57を介して感磁層54を覆う領域と、バイアス調整膜57を介することなく感磁層54を覆う領域が生じる。このため、これら領域の比によって感磁層54に印加される磁気バイアスを調整することが可能となる。不完全なバイアス調整膜57は、スパッタリング条件など成膜条件の調整によって形成することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態による磁気センサ10は、x方向を磁化固定方向とする磁気抵抗効果素子R1~R4にy方向の磁気バイアスを与える磁化方向制御膜55を備えていることから、検出信号に重畳する不規則ノイズを低減することが可能となる。しかも、磁化方向制御膜55は、磁気抵抗効果素子R1~R4を分断することなく、その両面に形成されていることから、磁気抵抗効果素子R1~R4の面積の平方根に比例する雑音密度の増加を防止することも可能となる。さらに、本実施形態による磁気センサ10においては、電流の方向と磁気バイアスの方向の関係が全ての磁気抵抗効果素子R1~R4において一定であることから、不規則ノイズの低減効果が非常に大きく、これにより極めて微弱な磁界を検出することが可能となる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
2 基板
10 磁気センサ
20 センサチップ
21 素子形成面
22 センサ基板
23,24 絶縁膜
30~32 集磁体
31,32 集磁体
41~63 端子電極
47 差動アンプ
48 検出回路
50 バッファ層
51 反強磁性層
52 磁化固定層
52A,52C CoFe膜
52B Ru膜
53 非磁性層
54 感磁層
54A CoFe膜
54B NiFe膜
55 磁化方向制御膜
56 保護層
57 バイアス調整膜
C 補償コイル
C1~C4 区間
G1~G4 磁気ギャップ
I11~I14,I21~I24 電流方向
M1~M3 強磁性膜
R1~R4 磁気抵抗効果素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8