IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オムロンヘルスケア株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-喘鳴検出装置 図1
  • 特許-喘鳴検出装置 図2
  • 特許-喘鳴検出装置 図3
  • 特許-喘鳴検出装置 図4
  • 特許-喘鳴検出装置 図5
  • 特許-喘鳴検出装置 図6
  • 特許-喘鳴検出装置 図7
  • 特許-喘鳴検出装置 図8
  • 特許-喘鳴検出装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】喘鳴検出装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 7/04 20060101AFI20231219BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
A61B7/04 J
A61B5/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020057186
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021153854
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】福塚 正幸
(72)【発明者】
【氏名】森田 勝美
(72)【発明者】
【氏名】小川 博
(72)【発明者】
【氏名】福永 誠治
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-39706(JP,A)
【文献】実開昭48-84485(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/04
A61B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の体表面に接触した状態で前記生体から測定した音に基づいて喘鳴を検出する喘鳴検出装置であって、
音測定素子と、
前記音測定素子を収容する収容空間を形成する空間形成部材と、
前記収容空間を閉じて前記体表面からの圧力を受ける受圧部を形成するカバー部材と、を備え、
前記空間形成部材には、大気に繋がる孔部が設けられ、
前記収容空間は、前記孔部を介して大気に繋がっており、
前記孔部は、前記収容空間側の入り口と大気側の出口との間に分岐部を有し、前記入り口側から前記分岐部にて分岐された2つの分岐孔部のうちの一方が前記出口に繋がっており、前記2つの分岐孔部のうちの他方が閉鎖されている喘鳴検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の喘鳴検出装置であって、
前記孔部は、前記2つの分岐孔部のうちの前記一方に更に分岐部を少なくとも1つ有する喘鳴検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の喘鳴検出装置であって、
前記空間形成部材は、軸方向の一方の端面が前記カバー部材によって覆われる筒状部材と、前記筒状部材の軸方向の他方の端面に、前記筒状部材の内周部を閉じる形で固定された、前記音測定素子を載置するための載置用部材と、を備え、
前記孔部は、前記載置用部材に形成された溝によって構成されている喘鳴検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、喘鳴検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、音検出器を収容する空間の内圧を高めて測定感度を向上することができると共に、内圧の高い状態を長期にわたって維持できる小型の生体音測定装置が開示されている。この生体音測定装置は、音検出器によって検出された生体音の情報を処理することで、喘鳴の有無の判定を行い、その判定結果を音又は表示等によって使用者に報知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-102849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体音を解析して喘鳴の有無を判定する際のその判定精度を向上させるためには、音検出器を収容する空間の密閉性を高めて生体音の測定感度を向上させることも重要である。一方で、喘鳴と誤検出されるようなノイズが検出音に重畳するのを防ぐことも重要になる。
【0005】
生体音を測定するための音測定素子として、半導体素子の振動状態に応じて測定出力が変化する方式の素子(例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型マイクロフォン)が知られている。このような素子は、これが配置される空間の密閉度が高いと、その空間の急激な内圧変動によって、半導体素子が振動することでノイズを発生させることがある。つまり、音測定素子自体がノイズ源となって、喘鳴の検出精度に影響を与える可能性がある。
【0006】
本発明は、ノイズを抑制して喘鳴の検出精度を向上させることのできる喘鳴検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の喘鳴検出装置について以下に記載する。なお、以下の括弧内には、後述の実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0008】
(1)
生体の体表面に接触した状態で上記生体から測定した音に基づいて喘鳴を検出する喘鳴検出装置(喘鳴検出装置1)であって、
音測定素子(第一マイクM1)と、
上記音測定素子を収容する収容空間(収容空間SP1)を形成する空間形成部材(第一ハウジング30、Oリング34、フレキシブル回路基板35、第二ハウジング33)と、
上記収容空間を閉じて上記体表面からの圧力を受ける受圧部(受圧部3a)を形成するカバー部材(ハウジングカバー36)と、を備え、
上記音測定素子は、半導体素子の振動状態に応じて測定出力が変化する方式の素子(MEMS型マイクロフォン)であり、
上記空間形成部材には、大気に繋がる孔部(孔部40)が設けられ、
上記収容空間は、上記孔部を介して大気に繋がっており、
上記孔部は、上記収容空間側の入り口(溝41)と大気側の出口(終端49)との間に分岐部(分岐部BR1~BR3)を有し、上記入り口側から上記分岐部にて分岐された2つの分岐孔部のうちの一方が上記出口に繋がっており、上記2つの分岐孔部のうちの他方が閉鎖されている喘鳴検出装置。
【0009】
(1)によれば、孔部が存在することによって、収容空間が完全な密閉状態となるのを防ぐことができる。このため、例えば、受圧部の体表面に対する押し当て位置を変更した場合等に生じ得る収容空間の急激な内圧変動を抑制することができる。したがって、この内圧変動によるノイズが音測定素子によって測定されるのを防ぐことができ、喘鳴の検出精度を高めることができる。また、孔部が分岐部を含むため、収容空間の密閉性を適度に高めることが可能となる。また、大気側からの音の遮音効果を高めることができる。このため、喘鳴の検出精度を向上させることができる。
【0010】
(2)
(1)記載の喘鳴検出装置であって、
上記孔部は、上記2つの分岐孔部のうちの上記一方に更に分岐部を少なくとも1つ有する喘鳴検出装置。
【0011】
(2)によれば、孔部が複数の分岐部を含むため、収容空間の密閉性と大気側からの音の遮音効果を更に高めることができる。このため、喘鳴の検出精度を更に向上させることができる。
【0012】
(3)
(1)又は(2)記載の喘鳴検出装置であって、
上記空間形成部材は、軸方向の一方の端面が上記カバー部材によって覆われる筒状部材(第一ハウジング30)と、上記筒状部材の軸方向の他方の端面に、上記筒状部材の内周部を閉じる形で固定された、上記音測定素子を載置するための載置用部材(第二ハウジング33)と、を備え、
上記孔部は、上記載置用部材に形成された溝(溝41~溝48)によって構成されている喘鳴検出装置。
【0013】
(3)によれば、孔部を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、喘鳴の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態である喘鳴検出装置1の概略構成例を示す側面図である。
図2図1に示す喘鳴検出装置1の測定ユニット3の断面模式図である。
図3図1に示す喘鳴検出装置1の測定ユニット3を方向A1側から斜めに見た分解模式図である。
図4図1に示す喘鳴検出装置1の測定ユニット3を方向A2側から斜めに見た分解模式図である。
図5図2から図4に示す測定ユニット3における第二ハウジング33を方向A2に見た平面模式図である。
図6図2から図4に示す測定ユニット3における第二ハウジング33及びフレキシブル回路基板35を方向A2に見た平面模式図である。
図7】第二ハウジング33に形成された孔部の第一変形例を説明するための平面模式図である。
図8】第二ハウジング33に形成された孔部の第二変形例を説明するための平面模式図である。
図9】第二ハウジング33に形成された孔部の第三変形例を説明するための平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態の喘鳴検出装置の概要)
まず、本発明の喘鳴検出装置の一実施形態の概要について説明する。実施形態の喘鳴検出装置は、人の生体から音(肺音)を測定し、測定音に喘鳴が含まれると判定した場合に、その旨を報知する。このようにすることで、被測定者への投薬の要否の判断、又は被測定者を病院に連れて行くかどうかの判断等を支援するものである。
【0017】
肺音とは、肺及び胸郭内で呼吸運動とともに発生し、正常、異常とは関係なく、心血管系を音源とする音を除く全ての音である。肺音は、呼吸により気道内に生じた空気の流れを音源とする生理的な音である呼吸音と、喘鳴又は胸膜摩擦音等の病的状態で発生する異常な音である副雑音とに分類される。
【0018】
実施形態の喘鳴検出装置は、音測定素子を収容する収容空間を有する測定ユニットを備え、この収容空間を体表面によって略密閉し、この状態におけるこの収容空間の内圧変動を音測定素子により検出することで、生体の肺音の測定を行う。音測定素子は、半導体素子の振動状態に応じて測定出力が変化する方式の素子である。
【0019】
実施形態の喘鳴検出装置は、例えば、測定ユニットの体表面に対する接触位置が変更された場合等において、収容空間の内圧に急激な変動が生じるのを抑制するために、収容空間を大気に繋げる構成としている。この構成により、収容空間の急激な内圧変動が抑制されるため、音測定素子がノイズ発生源となるのを防ぐことができる。
【0020】
音測定素子がノイズを発すると、このノイズが喘鳴として誤認識されてしまう可能性がある。このようなノイズは、音測定素子の収容空間の密閉度が高く且つ音測定素子の測定感度が高い場合に顕著に生じることが分かっている。音測定素子の測定感度を高めることは、肺音を高精度に測定する上で重要である。そして、音測定素子の測定感度を高めるためには、微小な半導体素子の振動状態に応じて測定出力が変化する方式の素子(例えばMEMS型マイクロフォン)を用いるのがよい。
【0021】
実施形態の喘鳴検出装置では、測定感度の高い音測定素子を用いて肺音の測定精度を高めると共に、この音測定素子の収容空間の密閉状態を完全な密閉ではなくなるよう、収容空間を大気に繋げている。この結果、収容空間の内圧が急激に上昇し得る状況(例えば、測定ユニットを体表面に接触させて測定を開始した後に、測定ユニットを体表面から僅かに離して位置を移動させて、再び体表面に接触させて測定を継続するような状況)が発生した場合でも、収容空間内部の圧力を大気に逃がすことができる。したがって、音測定素子がノイズを発生するのを抑制することができ、喘鳴の検出精度を高めることができる。以下、実施形態の詳細について説明する。
【0022】
(実施形態)
図1は、本発明の喘鳴検出装置の一実施形態である喘鳴検出装置1の概略構成例を示す側面図である。図1に示すように、喘鳴検出装置1は、樹脂又は金属等の筐体で構成された棒状の把持部1bを有し、この把持部1bの一端側にはヘッド部1aが設けられている。
【0023】
把持部1bの内部には、喘鳴検出装置1の全体を統括制御する統括制御部4と、動作に必要な電圧を供給する電池5と、液晶表示パネル又は有機EL(Electro Luminescence)表示パネル等によって画像を表示する表示部6と、が設けられている。
【0024】
統括制御部4は、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)等を含み、プログラムにしたがって喘鳴検出装置1の各ハードウェアの制御等を行う。
【0025】
ヘッド部1aには、把持部1bの長手方向と略直交する方向の一方側(図1において下方側)へ突出する測定ユニット3が設けられている。測定ユニット3の先端には、被測定者である生体の体表面Sに接触されて体表面Sからの圧力を受ける受圧部3aが設けられている。
【0026】
喘鳴検出装置1は、使用者の手Haの例えば人差し指がヘッド部1aにおける測定ユニット3の背面に置かれた状態で、測定ユニット3の受圧部3aがこの人差し指によって体表面Sに押圧されて使用される。以下では、受圧部3aの体表面Sへの押圧方向(図1の下方向)を方向A1と記載し、方向A1の反対方向を方向A2と記載し、方向A1と方向A2を合わせて方向Aと記載する。
【0027】
図2は、図1に示す喘鳴検出装置1の測定ユニット3の断面模式図である。図3は、図1に示す喘鳴検出装置1の測定ユニット3を方向A1側から斜めに見た分解模式図である。図4は、図1に示す喘鳴検出装置1の測定ユニット3を方向A2側から斜めに見た分解模式図である。図5は、図2から図4に示す測定ユニット3における第二ハウジング33を方向A2に見た平面模式図である。図6は、図2から図4に示す測定ユニット3における第二ハウジング33及びフレキシブル回路基板35を方向A2に見た平面模式図である。
【0028】
測定ユニット3は、ハウジングカバー36と、第一ハウジング30と、Oリング34と、第二ハウジング33と、第一マイクM1及び第二マイクM2が実装されたフレキシブル回路基板35と、第一ハウジング30、Oリング34、第二ハウジング33、及びフレキシブル回路基板35を支持するケース37と、を備える。
【0029】
図2に示すように、測定ユニット3は、ハウジングカバー36の一部が露出された状態にて、ヘッド部1aを構成する筐体2に形成された開口部に嵌合される。測定ユニット3のケース37はこの筐体2によって支持されている。ハウジングカバー36の筐体2からの露出部分の先端部は平面又は曲面となっており、この平面又は曲面が受圧部3aを構成している。
【0030】
第一ハウジング30は、筒状部材によって構成されている。第一ハウジング30は、樹脂又は金属等の空気より音響インピーダンスが高くかつ剛性の高い材料によって構成されている。第一ハウジング30は、受圧部3aが体表面Sに接触された状態において、後述の収容空間SP1に外部から音が伝わりにくくなるように、第一マイクM1の測定周波数帯の音を反射する材料にて構成されていることが好ましい。
【0031】
図2から図4の例では、第一ハウジング30は、小径部31と、小径部31よりも外径の大きい大径部32と、を備えた、方向A1に向かって凸状の略円筒状の部材となっている。第一ハウジング30の内部には、図2及び図4に示すように、大径部32の方向A2側の端面32bに形成された、略円柱状の空間を形成する第一凹部32aと、第一凹部32aの底面中央に形成された第一凹部32aよりも径の小さい開口31aとにより構成された中空部が形成されている。また、第一ハウジング30の端面32bの一部には、第一凹部32aから大径部32の側面にまで達する第二凹部32cが形成されている。
【0032】
ハウジングカバー36は、有底筒状の部材であり、その中空部の形状は、第一ハウジング30の外周面(端面32bを除く)の形状とほぼ一致している。ハウジングカバー36の中空部には、第一ハウジング30が挿嵌されており、第一ハウジング30の外周面(特に方向A1側の端面)とハウジングカバー36は密着している。このように、第一ハウジング30は、その軸方向の一方の端面(方向A1側の端面)がハウジングカバー36によって覆われる構成である。ハウジングカバー36は、音響インピーダンスが人体、空気、又は、水に近い素材でかつ生体適合性の良い可撓性を有する材料によって構成される。ハウジングカバー36の材料としては、例えばシリコーン又はエラストマ等が用いられる。
【0033】
図3から図5に示すように、第二ハウジング33は、円板の一部を切り欠いた形状となっており、方向A1側の面330に、略円柱状の凸部331が形成されている。凸部331の径は、第一ハウジング30の第一凹部32aの径よりも僅かに小さくなっている。第二ハウジング33は、凸部331を除く部分に形成された3つのネジ穴の各々を通るネジB1~B3によって、第一ハウジング30の第一凹部32aを閉じる形で、第一ハウジング30に固着されている。より詳細には、第二ハウジング33の面330と、第一ハウジング30の端面32bとが突き合わせられて、第一ハウジング30の第一凹部32aが第二ハウジング33によって塞がれている。
【0034】
Oリング34は、第一ハウジング30の第一凹部32aの径よりも外径が小さくなっており、第一ハウジング30の第一凹部32aに収容されている。Oリング34の外径は、第二ハウジング33の凸部331の外径とほぼ同じとなっている。
【0035】
フレキシブル回路基板35は、可撓性を有する回路基板であり、第一マイクM1が実装された略円板状の平板部350と、第二マイクM2が実装された略円板状の平板部351と、平板部350と平板部351を連結する連結部352と、平板部351の連結部352側とは反対側から延びた長尺部353と、を備える。長尺部353は、図1に示した統括制御部4等が実装される基板に接続される。第一マイクM1と第二マイクM2の各々によって測定された音の情報は、フレキシブル回路基板35を介して統括制御部4に伝達される。
【0036】
第一マイクM1は、肺音を測定するための音測定素子であり、例えば、肺音の周波数域(一般的には10Hz以上1.5kHz以下)よりも広い帯域(例えば1Hz以上10kHz以下の周波数域)の音を検出するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型マイクロフォン又は静電容量型マイクロフォン等で構成されている。
【0037】
第一マイクM1が実装された平板部350は、図6に示すように、方向Aに見たときのサイズが第二ハウジング33の凸部331と略同じになっている。平板部350は、図2に示すように、Oリング34と第二ハウジング33の凸部331との間に配置されている。平板部350には貫通孔350aが形成されている。平板部350に実装された第一マイクM1と平板部350の貫通孔350aは、Oリング34の内側に配置されている。
【0038】
Oリング34の方向Aの厚みは、図2に示す組み立て状態における平板部350と第一ハウジング30の第一凹部32aの底面との間の距離よりも大きくなっている。したがって、第一ハウジング30と第二ハウジング33がネジB1~B3によって固着された図2の組み立て状態においては、平板部350が凸部331の表面に密着した状態となる。
【0039】
第二マイクM2は、測定ユニット3の周囲の音(人の声等の環境音、或いは、喘鳴検出装置1と生体又は衣服との間の擦れ音等)を測定するための(第一マイクM1とは)別の音測定素子であり、例えば、肺音の周波数域よりも広い帯域(例えば10Hz以上10kHz以下の周波数域)の音を測定するMEMS型マイクロフォン又は静電容量型マイクロフォン等で構成されている。
【0040】
図2に示すように、第二マイクM2が実装された平板部351は、接着材等によって第二ハウジング33の凸部331側と反対側の面(方向A2側の面)に固着されている。フレキシブル回路基板35の連結部352は、第一ハウジング30の第二凹部32cを通ってケース37の内部に到達している。
【0041】
ケース37は、中空部37aを有する筒状となっている。このケース37の内周部に、第一ハウジング30と第二ハウジング33がネジB1~B3によって固定されている。図2に示すように、フレキシブル回路基板35の平板部351に実装された第二マイクM2は、ケース37の中空部37aに露出している。この中空部37aは大気開放されている。
【0042】
図5及び図6に示すように、第二ハウジング33の凸部331の表面には、略渦巻き状(又は略同心円状)の溝によって形成された孔部40が設けられている。孔部40は、溝41~48によって構成されている。
【0043】
溝41は、フレキシブル回路基板35の貫通孔350aに対向する位置に形成された、貫通孔350aよりも大きなサイズの略円状の溝である。溝42は、溝41から反時計回りに延びた略円弧状の溝である。
【0044】
溝43は、溝42の終端部から溝41に向かって反時計回りに延びた略円弧状の溝である。溝43の終端は、他の溝に合流することなく、閉鎖されている。溝44は、溝42の終端部から、溝43の外側(凸部331の径方向外側)を溝43に沿って反時計回りに延びた略円弧状の溝である。
【0045】
溝45は、溝44の終端部から、溝42の外側を溝42に沿って反時計回りに延びた略円弧状の溝である。溝45の終端は、他の溝に合流することなく、閉鎖されている。溝46は、溝44の終端部から、溝45の外側を溝45に沿って反時計回りに延びた略円弧状の溝である。
【0046】
溝47は、溝46の終端部から、溝44の外側を溝44に沿って反時計回りに延びた略円弧状の溝である。溝47の終端は、他の溝に合流することなく、閉鎖されている。溝48は、溝46の終端部から、第二ハウジング33の面330側(径方向外側)に延びた直線状の溝である。溝48の終端は、図2に示す組み立て状態において、第一ハウジング30の第二凹部32cに露出している。
【0047】
このように、第二ハウジング33の凸部331の表面に形成された孔部40は、溝41から溝48の終端49との間に、溝を2つに分岐する分岐部を3つ(溝42の終端に形成された分岐部BR1、溝44の終端に形成された分岐部BR2、及び溝46の終端に形成された分岐部BR3)有している。
【0048】
図2に示す組み立て状態においては、図6に示すように、フレキシブル回路基板35の貫通孔350aと溝41が重なっている。また、孔部40は、フレキシブル回路基板35の平板部350によって覆われており、溝48の終端と溝41の一部を除いては、平板部350によって密閉されている。
【0049】
図2に示すように、第一マイクM1は、Oリング34、平板部350、第一ハウジング30の内周面、及びハウジングカバー36によって囲まれる収容空間SP1に収容されている。Oリング34、平板部350、第一ハウジング30、第二ハウジング33、及びハウジングカバー36は、収容空間SP1を形成する空間形成部材を構成している。
【0050】
収容空間SP1は、平板部350において貫通孔350aが存在しない場合には、高い気密性を持って密閉された空間(例えば大気圧よりも高い圧力の空間)とすることができる。本実施形態では、収容空間SP1を、貫通孔350aとこれに繋がる孔部40を介して、大気に繋げていることを特徴としている。孔部40のうち、溝41は、収容空間SP1側の入り口を構成し、溝48の終端49は、大気側の出口を構成している。
【0051】
以上のように構成された喘鳴検出装置1の使用時においては、ハウジングカバー36の受圧部3aが体表面Sに接触し、生体から体表面Sに伝わる肺音によって受圧部3aが振動すると、この振動によって収容空間SP1の内圧が変動し、この内圧変動によって、肺音に応じた電気信号が第一マイクM1によって検出されることになる。また、喘鳴検出装置1を使用しているときの周囲の音が第二マイクM2によって測定される。
【0052】
統括制御部4は、第一マイクM1により測定された音と、第二マイクM2により測定された音に基づいて、喘鳴の有無を判定する処理を行う。例えば、統括制御部4は、第一マイクM1により測定された第一の音に混入する肺音以外の周囲音ノイズを、第二マイクM2により測定された第二の音に基づいて除去する。そして、統括制御部4は、周囲音ノイズ除去後の第一の音に基づいて喘鳴の有無を判定する。なお、第二マイクM2は必須ではなく、第一マイクM1により測定された音に基づいて喘鳴の有無を判定してもよい。喘鳴の有無の判定方法は様々な方法を採用可能である。
【0053】
(喘鳴検出装置の効果)
第一マイクM1による肺音の測定中において、例えば、受圧部3aの体表面への押し当て方が変更されたり、受圧部3aの押し当て位置が変更されたりした場合には、収容空間SP1の密閉度が高すぎると、収容空間SP1の内圧が大きく変動する可能性がある。喘鳴検出装置1によれば、収容空間SP1の内圧が例えば増加の方向に変化したとしても、収容空間SP1の空気が貫通孔350a及び孔部40を経由して大気に放出されることで、収容空間SP1の内圧の大きな変動を抑制することができる。この結果、第一マイクM1としてMEMS型マイクを用いた場合における第一マイクM1自身を要因としたノイズの発生を抑制でき(以下、ノイズ抑制効果と記載する)、喘鳴の検出精度を高めることができる。
【0054】
また、図5に示した構成の孔部40は、収容空間SP1側の入り口(溝41)と大気側の出口(終端49)との間に、終端が閉鎖された溝と、終端49に繋がる溝と、の2つに溝を分岐させる分岐部(分岐部BR1~BR3)を有する構成である。
【0055】
この構成によれば、大気に繋がっている終端49から周囲音が侵入した場合に、この周囲音のエネルギーを、各分岐部にて分岐された閉鎖されている溝にて減衰させることができる。この結果、収容空間SP1に到達する周囲音の音圧を十分に下げることができる。つまり、大気側からの音の遮音効果を高めることができる。このように遮音効果が高まることで、喘鳴の検出精度を向上させることができる。このことは、逆に考えると、収容空間SP1の圧力が過度に大気に逃げない構造であると言える。つまり、喘鳴検出装置1では、収容空間SP1の密閉状態が過度に低くなるのを防ぐことができる。この結果、肺音を高感度にて測定可能となり(以下、測定精度向上効果と記載する)、喘鳴検出精度を高めることができる。
【0056】
なお、孔部40は、分岐部を少なくとも1つ有する構成であれば、遮音効果と測定精度向上効果を得ることが可能である。ただし、分岐部を複数、好ましくは図5のように3つ設けることで、これらの効果をより強く得ることができる。
【0057】
検証の結果、図5に示す孔部40の構成では、フレキシブル回路基板35の貫通孔350aの断面積を0.1964mmとし且つ各溝42~溝48の断面積を0.045mm以下とした場合に、溝42、溝44、溝46、及び溝48の長さの合計を20mm以上、好ましくは30mm以上とすることで、ノイズ抑制効果と遮音効果と測定精度向上効果のバランスを最適なものとして、喘鳴検出精度を高めることができる。
【0058】
(孔部の変形例)
上記実施形態では、孔部40を略渦巻き状(略同心円状)としているが、以下で説明する第一変形例と第二変形例では、孔部40を直線状としている点が上記実施形態とは異なる。
【0059】
図7は、第二ハウジング33に形成された孔部の第一変形例を説明するための平面模式図である。図7には、第二ハウジング33とこれに重なるフレキシブル回路基板35及びOリング34が示されている。第一変形例では、フレキシブル回路基板35の平板部350における第一マイクM1と貫通孔350aの位置関係が上記実施形態とは逆になっている。
【0060】
図7に示す第一変形例では、第二ハウジング33の凸部331の表面に孔部40Aが形成されている。孔部40Aは、貫通孔350aと重なり且つ貫通孔350aよりも径の大きい略円状の溝41Aと、溝41Aから凸部331の径方向外側に直線状に延びる矩形の溝48Aと、を備える。溝48Aの終端は、孔部40の終端49と同様に、第一ハウジング30の第二凹部32cに露出している。
【0061】
図8は、第二ハウジング33に形成された孔部の第二変形例を説明するための平面模式図である。図8には、第二ハウジング33とこれに重なるフレキシブル回路基板35及びOリング34が示されている。
【0062】
図8に示す第二変形例では、第二ハウジング33の凸部331の表面に孔部40Bが形成されている。孔部40Bは、貫通孔350aと重なり且つ貫通孔350aよりも径の大きい略円状の溝41Bと、溝41Bから連結部352側に直線状に延びる矩形の溝48Bと、を備える。溝48Bの終端は、孔部40の終端49と同様に、第一ハウジング30の第二凹部32cに露出している。
【0063】
第一変形例と第二変形例では、収容空間SP1が、貫通孔350aとこれに繋がる直線状の孔部40A,40Bによって大気に繋げられている。この構成によれば、収容空間SP1の内圧が例えば増加の方向に変化したとしても、収容空間SP1の空気が貫通孔350a及び孔部40A,40Bを経由して大気に放出されることで、収容空間SP1の内圧の大きな変動を抑制することができる。この結果、第一マイクM1としてMEMS型マイクロフォンを用いた場合における第一マイクM1自身を要因としたノイズの発生を抑制でき、喘鳴の検出精度を高めることができる。
【0064】
また、孔部40A,40Bが直線状となっていることで、分岐部を含む孔部40と比較すると、収容空間SP1から大気への空気の流れを円滑化することができる。換言すると、孔部40の流体抵抗を下げることができる。すなわち、第一変形例と第二変形例によれば、収容空間SP1の密閉度を上記実施形態の構成よりも下げることができる。したがって、上記実施形態よりも、第一マイクM1自身が発生させるノイズを強く抑制でき、喘鳴検出精度をより高めることができる。
【0065】
図8の孔部40Bは、図7の孔部40Aよりも長い構成となっている。このため、図8に示す構成によれば、図7に示す構成と比較すると、収容空間SP1の密閉度が下がり過ぎるのを防ぐことができる。逆に考えると、図8に示す構成によれば、図7に示す構成と比較すると、収容空間SP1への大気からの遮音効果を高めることができる。
【0066】
一方、孔部40Aは、孔部40Bよりも短い構成である。このため、図7に示す構成によれば、図8に示す構成と比較すると、収容空間SP1の密閉度を下げることができる。
【0067】
このように、孔部40を直線状にする場合には、その長さを調整することで、ノイズ抑制効果、遮音効果、測定精度向上効果のバランスを調整できる。なお、孔部40A,40Bの長さは、入り口の溝41A,41Bを除く部分の長さのことを言う。
【0068】
例えば、孔部40Aの長さL1(溝48Aの長さ)は、収容空間SP1の方向Aに垂直な方向の幅R(Oリング34の内径に相当)の半分未満となっている。長さL1を幅Rの半分未満とすることで、収容空間SP1の密閉性を十分に下げることができ、第一マイクM1のノイズ抑制効果を高めることができる。
【0069】
また、孔部40Bの長さL2(溝48Bの長さ)は、収容空間SP1の幅Rの半分以上となっている。長さL2を幅Rの半分以上とすることで、ノイズ抑制効果は僅かに低下するものの、ノイズ抑制効果、遮音効果、測定精度向上効果のバランスをほぼ同等にすることができ、喘鳴検出精度を高めることができる。
【0070】
より詳細な検証の結果、孔部40A(又は孔部40B)の構成では、フレキシブル回路基板35の貫通孔350aの断面積を0.1964mmとし且つ溝48A(又は溝48B)の断面積(溝の延びる方向に垂直な断面の面積)を0.045mm(溝の幅=0.5mm且つ深さ0.09mm)以下とした場合に、溝48A(又は溝48B)の長さを3mm以上7mm未満とすることで、喘鳴検出精度を高めることができる。具体的には、この長さを3mm以上7mm未満にすると、長さが7mm以上の構成と比べて肺音の測定精度と遮音性能は多少低下するものの、第一マイクM1のノイズ抑制効果を高めることができる。このため、肺音の測定精度及び遮音性能とノイズ抑制性能のバランスによって、喘鳴検出精度を高めることが可能となる。
【0071】
また、この長さを7mm以上15mm未満とすることで、喘鳴検出精度を更に高めることができる。具体的には、この長さを7mm以上15mm未満にすると、長さが7mm未満の構成と比べて第一マイクM1のノイズ抑制効果が若干弱まるものの、肺音の測定精度の向上と遮音性能の向上が図られる。このため、肺音の測定精度及び遮音性能とノイズ抑制性能のバランスによって、喘鳴検出精度をより高めることが可能となる。
なお、溝48A(又は溝48B)の断面積の上限値を0.045mmとしているのは、断面積がこの値を超えると、溝48A(又は溝48B)の長さによらず、収容空間SP1の密閉性が低下しすぎてしまい、遮音性能及び肺音の測定精度の低下による喘鳴検出精度の低下度合が、ノイズ抑制効果の向上による喘鳴検出精度の増加度合よりも大きくなりすぎてしまうためである。
【0072】
図9は、第二ハウジング33に形成された孔部の第三変形例を説明するための平面模式図である。図9には、第二ハウジング33とこれに重なるフレキシブル回路基板35及びOリング34が示されている。
【0073】
図9に示す第三変形例では、第二ハウジング33の凸部331の表面に孔部40Cが形成されている。孔部40Cは、貫通孔350aと重なり且つ貫通孔350aよりも径の大きい略円状の溝41Cと、溝41Cから連結部352側に延びる蛇行した曲線状の溝48Cと、を備える。溝48Cの終端は、孔部40の終端49と同様に、第一ハウジング30の第二凹部32cに露出している。
【0074】
このように、孔部40Cは、曲線を含む形状となっていることで、孔部40A,40Bと比較すると、収容空間SP1から大気への空気の流れを妨げる効果を得ることができる。換言すると孔部40Cにおける流体抵抗を下げることができる。すなわち、第三変形例によれば、溝48Cの長さが溝48Aや溝48Bと同じであったとしても、収容空間SP1の密閉度を第一変形例と第二変形例よりも下げることが可能となる。したがって、第一マイクM1自身のノイズを強く抑制でき、喘鳴検出精度をより高めることができる。また、遮音性能も高めることができ、肺音の測定精度を向上させることができる。
【0075】
ここまでの説明では、孔部40,40A,40B,40Cをそれぞれ溝とした。しかし、孔部40,40A,40B,40Cは、それぞれ、例えば、凸部331の内部に形成された穴であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 喘鳴検出装置
1b 把持部
1a ヘッド部
2 筐体
3 測定ユニット
3a 受圧部
4 統括制御部
5 電池
6 表示部
S 体表面
Ha 手
30 第一ハウジング
33 第二ハウジング
34 Oリング
35 フレキシブル回路基板
350a 貫通孔
36 ハウジングカバー
37 ケース
40 孔部
SP1 収容空間
M1 第一マイク
M2 第二マイク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9