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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/48 20060101AFI20231219BHJP
   B62D 37/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B60R19/48 Q
B62D37/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020066356
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021160652
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】溝兼 通矢
(72)【発明者】
【氏名】伊川 雄希
(72)【発明者】
【氏名】榎本 正芳
(72)【発明者】
【氏名】久我 秀功
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-071588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/48
B62D 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に設けられたエンジンルームの上方を覆う外装部材と、当該外装部材の前端部よりも車両上下方向下側に配置されたフロントグリルとを備えた車両の前部車体構造であって、
上記外装部材の前端部の下側に当該外装部材の車幅方向の略全幅にわたって延びる整流部材を設け、
該整流部材は、上記外装部材から上記フロントグリルの上端部に向かって車両上下方向下側に延びる前片部と、該前片部の上端から車両後方に延びる下片部が形成され
上記外装部材の前端部には、車両後方に向かって延びる上記外装部材の下面部を備え、上記整流部材は、上記下面部を車両上下方向に挟持して取付け可能な挟持部を備えた
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記整流部材の下端位置は、上記外装部材上面の前端位置から所定距離だけ車両下方に位置しており、上記所定距離は15mm以上、30mm以下の範囲に設定された
請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記整流部材の前端は、上記外装部材の前端よりも車両前方に位置する
請求項1または2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
車両前部に設けられたエンジンルームの上方を覆う外装部材と、当該外装部材の前端部よりも車両上下方向下側に配置されたフロントグリルとを備えた車両の前部車体構造であって、
上記外装部材の前端部の下側に当該外装部材の車幅方向の略全幅にわたって延びる整流部材を設け、
該整流部材は、上記外装部材から上記フロントグリルの上端部に向かって車両上下方向下側に延びる前片部と、該前片部の上端から車両後方に延びる下片部が形成され
上記前片部は、上記外装部材の下端よりも下方に位置する上記下片部から垂下して形成された
車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンルームの上方を覆う外装部材と、車両前部において当該外装部材の前部下側に配置されたフロントグリルとを備えた車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両前部に当たる空気(走行風)を、バンパフェースに沿って流れるようにするために、当該バンパフェースの断面形状を工夫するものが知られている(特許文献1参照)。
例えば、特許文献1に開示された従来構造においては、バンパフェースの車幅方向中央にフロントアンダグリルを設け、該フロントアンダグリル上部には車両前方へ突出する突出部を備えている。該突出部には後上に傾斜する第1傾斜面と、後下に傾斜する第2傾斜面とを設け、第1傾斜面の前後長さを第2傾斜面の前後長さに対して長く設している。これにより、車両走行時に車両前部が下方に押付けられやすくなり、走行安定性の向上を図ったものである。
【0003】
一方で、車両前方から流れてくる走行風をバンパフェースに当てた後、ボンネットやバンパフェースアッパ等の外装部材よりも下方において車両下側から車両上側に向けて流し、外装部材前端下部で剥離させた空気をボンネット上面に沿って流すことが好ましいが、車両のデザイン性を重視すると、外装部材前端下部で剥離した空気が、当該外装部材前端の上方へ過度に剥離し、剥離後の走行風をボンネット上面に沿って流すことが不可となり、空気抵抗が悪化する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6313240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、バンパフェースに当たった後に、車両下側から車両上側に向けて流れる走行風を車両前端で剥離し、剥離後の走行風を外装部材の上面に回り込ませ、当該走行風を外装部材上面に沿わせて、空力性能を確保することができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による車両の前部車体構造は、車両前部に設けられたエンジンルームの上方を覆う外装部材と、当該外装部材の前端部よりも車両上下方向下側に配置されたフロントグリルとを備えた車両の前部車体構造であって、上記外装部材の前端部の下側に当該外装部材の車幅方向の略全幅にわたって延びる整流部材を設け、該整流部材は、上記外装部材から上記フロントグリルの上端部に向かって車両上下方向下側に延びる前片部と、該前片部の上端から車両後方に延びる下片部が形成され、上記外装部材の前端部には、車両後方に向かって延びる上記外装部材の下面部を備え、上記整流部材は、上記下面部を車両上下方向に挟持して取付け可能な挟持部を備えたものである。
【0007】
上述の外装部材は、バンパフェースアッパ、ボンネットに設定することができる。
上記構成によれば、車両前方から流れる走行風をバンパフェースに当てた後、外装部材の下端よりも下方において、車両下側から車両上側に向かう走行風の流れを、上記整流部材の前片部下端に当てて剥離し、外装部材の上面に回り込ませ、走行風を外装部材の上面に沿わせることができる。これにより、空力性能を確保することができる。
【0008】
また上述したように、上記外装部材の前端部には、車両後方に向かって延びる上記外装部材の下面部を備え、上記整流部材は、上記下面部を車両上下方向に挟持して取付け可能な挟持部を備えたため、次のような効果がある。
すなわち、上記整流部材の前部に走行風が当たった際、当該整流部材には上記外装部材の下面部を下方に下げる方向の力が作用するので、車両走行時において、外装部材が外れるのを防止することができる。
【0009】
この発明の一実施態様においては、上記整流部材の下端位置は、上記外装部材上面の前端位置から所定距離だけ車両下方に位置しており、上記所定距離は15mm以上、30mm以下の範囲に設定されたものである。
【0010】
上記構成によれば、上述の所定距離を15~30mmの範囲内としたので、整流部材下端の剥離部に当たって剥離する走行風の流れを、外装部材の上面に確実に回り込ませ、走行風を確実に外装部材の上面に沿わせることができる。
【0011】
因に、上記所定距離が15mm未満の場合には、走行風が外装部材前端の上方へ過度に剥離し、当該走行風が外装部材の上面に沿わなくなるので、好ましくない。
逆に、上記所定距離が30mmを超過する場合には、剥離部で剥離した走行風が外装部材の前端側の面に当たり、当該走行風が外装部材の上面に沿わなくなるので、好ましくない。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記整流部材の前端は、上記外装部材の前端よりも車両前方に位置するものである。
上記構成によれば、走行風を外装部材の前端よりも前側で剥離させることで、剥離後の走行風を外装部材上面の傾斜に沿って流しやすくなる。
【0013】
この発明による車両の前部車体構造は、車両前部に設けられたエンジンルームの上方を覆う外装部材と、当該外装部材の前端部よりも車両上下方向下側に配置されたフロントグリルとを備えた車両の前部車体構造であって、上記外装部材の前端部の下側に当該外装部材の車幅方向の略全幅にわたって延びる整流部材を設け、該整流部材は、上記外装部材から上記フロントグリルの上端部に向かって車両上下方向下側に延びる前片部と、該前片部の上端から車両後方に延びる下片部が形成され、上記前片部は、上記外装部材の下端よりも下方に位置する上記下片部から垂下して形成されたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、バンパフェースに当たった後に、車両下側から車両上側に向けて流れる走行風を車両前端で剥離し、剥離後の走行風を外装部材の上面に回り込ませ、当該走行風を外装部材上面に沿わせて、空力性能を確保することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の車両の前部車体構造を示す斜視図
図2図1の車両左側の側面図
図3図1のA-A線矢視断面図
図4】(a)は整流部材の拡大断面図、(b)は整流部材の斜視図
図5】(a)は実施例1の剥離後の走行風の流れを示す説明図、(b)は実施例2の剥離後の走行風の流れを示す説明図
図6】(a)は比較例の剥離後の走行風の流れを示す説明図、(b)は従来例の剥離後の走行風の流れを示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
バンパフェースに当たった後に、車両下側から車両上側に向けて流れる走行風を車両前端で剥離し、剥離後の走行風を外装部材の上面に回り込ませ、当該走行風を外装部材上面に沿わせて、空力性能を確保するという目的を、車両前部に設けられたエンジンルームの上方を覆う外装部材と、当該外装部材の前端部よりも車両上下方向下側に配置されたフロントグリルとを備えた車両の前部車体構造であって、上記外装部材の前端部の下側に当該外装部材の車幅方向の略全幅にわたって延びる整流部材を設け、該整流部材は、上記外装部材から上記フロントグリルの上端部に向かって車両上下方向下側に延びる前片部と、該前片部の上端から車両後方に延びる下片部が形成され、上記外装部材の前端部には、車両後方に向かって延びる上記外装部材の下面部を備え、上記整流部材は、上記下面部を車両上下方向に挟持して取付け可能な挟持部を備えるという構成にて実現した。
【実施例
【0017】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の前部車体構造を示し、図1は当該車両の前部車体構造を示す斜視図、図2図1の車両左側の側面図、図3図1のA-A線矢視断面図、図4(a)は整流部材の拡大断面図、図4(b)は整流部材の斜視図である。また、図5(a)は実施例1の剥離後の走行風の流れを示す説明図である。
なお、図中、矢印(F)は車両前方を示し、矢印(R)は車両後方を示し、矢印(UP)は車両上方を示す。
【0018】
図1図3に示すように、エンジンルームERの上方を覆う外装部材としてのボンネット10(後部外装部材)およびバンパフェースアッパ20(前部外装部材)を設けている。
また、上述のエンジンルームERの前方は、車両前面を構成するバンパフェース30と格子構造のフロントグリル40とで覆われている。上述のフロントグリル40は、車両前部において上記バンパフェースアッパ20の前部下側に配置されている。
【0019】
詳しくは、上記フロントグリル40は、バンパフェース30とバンパフェースアッパ20との間に配置されたものである。
さらに、上述のフロントグリル40の下側から当該フロントグリル40の左右両側部における上下方向中間部にわたって設けられた加飾部材としてのシグネチャウイング(signature wing)50を備えている。
【0020】
また、上述のフロントグリル40の前端よりも車両後方で、かつ、フロントグリル40の車幅方向外側にはヘッドランプユニット60を設けている。
さらに、上述のエンジンルームERの左右の両側方は、フロントフェンダパネル70で覆われている。但し、図面では図示の便宜上、車両左側のフロントフェンダパネル70のみを示している。
【0021】
図3に示すように、上述のボンネット10は、車両上側に位置するボンネットアウタ11と、当該ボンネットアウタ11の下側に位置するボンネットインナ12とを、ヘミング加工により一体化したものである。
【0022】
同図に示すように、ボンネットアウタ11の下面には、接着剤13を用いてボンネットレインフォースメント14が接着固定されており、このボンネットレインフォースメント14によりボンネットアウタ11の張り剛性を確保している。
【0023】
また、ボンネットインナ12の前部内面にはストライカブラケット15を固定しており、このストライカブラケット15には、ボンネットインナ12の開口部16から下方へ突出するようにストライカ17が設けられている。
【0024】
ここで、上述のストライカ17は、車体側のラッチ装置にて係合されるものである。また、上述のボンネット10は当該ボンネット10の後端側がボンネットヒンジにより車体側に取付けられており、ボンネット10の前端側が開閉するように構成されている。
【0025】
図1図3に示すように、上述のバンパフェースアッパ20は、左右一対のヘッドランプユニット60における上面の長手方向中間部まで車幅方向に延びるものである。
図3に示すように、このバンパフェースアッパ20は、前低後高状に傾斜した上面部20aと、この上面部20aの前端位置20fから下方に延びる湾曲形状の前面部20bと、この前面部20bの下端から車両後方に延びる下面部20cと、を備えている。また、図3に示すように、上述のバンパフェースアッパ20における上面部20aの後端位置20dには、下方に段下げ形成された段下げ部20eが一体形成されている。
【0026】
図3に示すように、バンパフェースアッパ20の上面部20aと、ボンネット10のボンネットアウタ11上面とは、車両前方が低く、車両後方が高くなる傾斜状に車両前後方向に滑らかに連続している。
図1に示すように、上述のバンパフェース30は、車両前面を構成する主面部31と、この主面部31の車幅方向側部において、フロントフェンダパネル70の前端まで回り込んだラウンド部32と、を備えている。
【0027】
また、同図に示すように、バンパフェース30の下部には、外気導入口33を形成する下部グリル34が形成されている。この下部グリル34は、上下方向に延びる複数の縦棧35と、ライセンスプレート取付け部36と、を備えている。
【0028】
図1図3に示すように、上述のバンパフェース30は、上記主面部31の上端からフロントグリル40と対応する部分は、当該フロントグリル40の車両後方に位置するように後退部37が一体形成されている。
そして、図3に示すように、上述の後退部37の上片部37aの後端37bには、取付け部材38を用いて、センタブラケット39が取付けられている。
【0029】
図1図2に示すように、上述のフロントグリル40は、上下に隣接して車幅方向に延びる一対の横棧41,41を、車両上下方向に間隔を隔てて複数組設け、一対の横棧41,41の上側の組と下側の組との間に外気導入口42を形成したものである。
【0030】
図2に示すように、上述のフロントグリル40は、上下の横棧41を上下方向に連結する縦棧43を有すると共に、当該フロントグリル40の車幅方向中央上部には、エンブレム44が設けられている。
図3に示すように、上述のフロントグリル40の上端と、バンパフェースアッパ20における上面部20aの下面との間には、ラバーシール45が介設されている。
【0031】
図1に示すように、上述のシグネチャウイング50は、バンパフェース30の主面部31と、フロントグリル40下部との間に位置して車幅方向に延びる前面部51と、この前面部51の車幅方向端部からフロントグリル40側部の上下方向中間まで上方に延びる側面部52と、を備えている。
この側面部52は車両下側の車幅方向の寸法が相対的に小さく、車両上側の車幅方向の寸法が相対的に大きくなるテーパ形状に形成されている。
また、図1に示すように、上述のシグネチャウイング50は、上記側面部52の上端からヘッドランプユニット60の車幅方向内側前面に向けて、車両後方へ略水平に延びる上面部53を備えている。
【0032】
ところで、図1に示すように、バンパフェース30のラウンド部32と、フロントフェンダパネル70と、の前輪71と対向する端部には、これらの各部材に連続するようにオーバフェンダ72が設けられている。
また、図1に示すように、前輪71と対向すべく当該前輪71の前方部におけるバンパフェース30の下部には、空力性能の向上を図るためにデフレクタ(deflector、いわゆる、そらせ板)73が設けられている。
【0033】
さらに、図1図2図3に示すように、外装部材としてのバンパフェースアッパ20の下部には、当該バンパフェースアッパ20の車幅方向の略全幅にわたって延びる整流部材80(いわゆる、ノーズブレード)が設けられている。
【0034】
図3図4の(a),(b)に示すように、上述の整流部材80は、車幅方向に延びる上片部81と、この上片部81の下方において車幅方向に延びる下片部82と、これら上片部81、下片部82の後端部相互を上下方向に連結して車幅方向に延びる後片部83と、を合成樹脂により一体形成したものである。
【0035】
また、図3図4に示すように、上述の整流部材80における下片部82の前端には、当該前端から下方に延びる前片部84が、車幅方向に延びて一体形成されており、この前片部84の下端には、走行風を剥離する剥離部85が形成されている。
【0036】
すなわち、図3に示すように、上述の整流部材80はその前端が外装部材であるバンパフェースアッパ20(特に、その前端位置20f参照)から下方に延びており、当該整流部材80の下端に走行風を剥離する剥離部85が形成されたものである。
【0037】
これにより、図5(a)に示すように、車両前方から流れてくる走行風をバンパフェース30に当てた後、バンパフェースアッパ20の下端よりも下方において、車両下側から車両上側に向かう走行風の流れe1を、上記剥離部85に当てて剥離する。剥離部85で剥離した風e2を、バンパフェースアッパ20の上面部20aに回り込ませ、バンパフェースアッパ20の上面部20aに再付着した後の風e3を、当該上面部20aおよびボンネット10のボンネットアウタ11上面に沿わせて車両後方に流す。以て、空力性能を確保するように構成したものである。
【0038】
図4の(a),(b)に示すように、上述の整流部材80における上片部81の前端面から下面にかけて補強用のリブ86が一体形成されている。
同図に示すように、上記リブ86は上片部81の車幅方向に所定間隔を隔てて複数設けられている。
【0039】
図3図4に示すように、上述の整流部材80は、外装部材としてのバンパフェースアッパ20の下面部20cを車両上下方向に挟持して取付けられている。この実施例では、バンパフェースアッパ20の下面部20cを、整流部材80の複数のリブ86の下面と、下片部82の上面との間で、車両上下方向から挟持して取付けている。すなわち、バンパフェースアッパ20の前端部には、車両後方に向かって延びる下面部20c(図5参照)を備え、上記整流部材80は、該下面部20cを車両上下方向に挟持して取付け可能な挟持部87(図4参照)を備えたものである。
【0040】
これにより、整流部材80の前片部84に走行風が当たった際、前片部84を下方に押し下げる方向の力が作用することで、当該整流部材80にはバンパフェースアッパ20の下面部20cを下方に下げる方向の力が作用し、車両走行時において、バンパフェースアッパ20が外れるのを防止すべく構成している。
【0041】
図5の(a)は実施例1の剥離後の走行風の流れを示す説明図、図5の(b)は実施例2の剥離後の走行風の流れを示す説明図である。また、図6の(a)は比較例の剥離後の走行風の流れを示す説明図、図6の(b)は従来例の剥離後の走行風の流れを示す説明図である。
なお、図5の(a),(b)、図6の(a),(b)においては説明の便宜上、図1図4で示した実施例と同一箇所に同一符号を付している。
【0042】
図5の(a)に示す実施例1では、整流部材80の下端位置、すなわち、剥離部85の位置が、バンパフェースアッパ20上面の前端位置20fから所定距離WL1だけ車両下方に位置しており、この所定距離WL1が15mm以上、30mm以下の範囲に設定されている。
【0043】
上述の所定距離WL1を15~30mmの範囲内とすることで、既述したように、整流部材80下端の剥離部85に当たって剥離する走行風の流れe2を、バンパフェースアッパ20の上面部20aに確実に回り込ませ、再付着後の走行風e3を確実に、バンパフェースアッパ20およびボンネットアウタ11の上面に沿わせることができるものである。
【0044】
図5の(b)に示す実施例2では、上記所定距離WL1を15~30mmの範囲内に設定すると共に、上述の整流部材80の前端を、バンパフェースアッパ20の前端位置20fよりも所定量ΔLだけ車両前方に位置させたものである。
【0045】
この実施例2では、図5の(b)に示すように、車両下側から車両上側に向かう走行風の流れe1を、バンパフェースアッパ20の前端位置20fよりも車両前側で剥離させることができ、これにより、剥離後の走行風e2を、図5の(a)で示した実施例1の再付着点よりも車両前側において再付着させることができる。この結果、再付着後の走行風e3をバンパフェースアッパ20およびボンネットアウタ11の上面の傾斜に沿って車両後方へ流しやすくなる。
【0046】
図6の(a)に示す比較例では、整流部材80の下端位置、すなわち、剥離部85の位置が、バンパフェースアッパ20上面の前端位置20fから所定距離WL2(但し、WL2>WL1)だけ車両下方に位置しており、この所定距離WL2が30mmを超過するように設定されている。
【0047】
この場合、図6の(a)に示すように、剥離部85で剥離した走行風e2がバンパフェースアッパ20の前面部20bに当たり、当該走行風e2がバンパフェースアッパ20の上面部20aに沿わなくなるので、好ましくない。
【0048】
一方、図6の(b)に示す従来例では、整流部材80が存在しないものである。すなわち、上記所定距離WL1,WL2をゼロに設定したものである。
この場合、図6の(b)に示すように、走行風e2がバンパフェースアッパ20前端の上方へ過度に大きく剥離されて、良好な再付着が得られないので、その後の走行風e3がバンパフェースアッパ20およびボンネットアウタ11の上面に沿わなくなり、好ましくない。
【0049】
つまり、上記所定距離WL2が30mmを超過する場合には、図6の(a)の比較例と同等となり、上記所定距離WL1が15mm未満の場合には、図6の(b)の従来例と同等となって、何れも、好ましくないので、上記所定距離WL1は15~30mmの範囲内に設定したものである。
【0050】
このように、上記実施例の車両の前部車体構造は、車両前部に設けられたエンジンルームERの上方を覆う外装部材(ボンネット10、バンパフェースアッパ20)と、当該外装部材の前端部よりも車両上下方向下側に配置されたフロントグリル40とを備えた車両の前部車体構造であって、上記外装部材(バンパフェースアッパ20)の前端部の下側に当該外装部材の車幅方向の略全幅にわたって延びる整流部材80を設け、該整流部材80は、上記外装部材から上記フロントグリル40の上端部に向かって車両上下方向下側に延びる前片部84と、該前片部84の上端から車両後方に延びる下片部82が形成されたものである(図3参照)。
【0051】
この構成によれば、車両前方から流れる走行風をバンパフェース30に当てた後、外装部材(バンパフェースアッパ20)の下端よりも下方において、車両下側から車両上側に向かう走行風の流れe1を、上記整流部材の前片部84下端に当てて剥離し、外装部材(バンパフェースアッパ20)の上面に回り込ませ、走行風e3を外装部材(バンパフェースアッパ20、ボンネットアウタ11)の上面に沿わせることができる。これにより、空力性能を確保することができる(図5の(a)参照)。
【0052】
また、この発明の一実施形態においては、上記整流部材80の下端位置は、上記外装部材(バンパフェースアッパ20)上面の前端位置20fから所定距離WL1だけ車両下方に位置しており、上記所定距離WL1は15mm以上、30mm以下の範囲に設定されたものである(図5の(a)参照)。
【0053】
この構成によれば、上述の所定距離WL1を15~30mmの範囲内としたので、整流部材80下端の剥離部85に当たって剥離する走行風の流れe2を、外装部材(バンパフェースアッパ20)の上面に確実に回り込ませ、走行風e3を確実に外装部材(バンパフェースアッパ20、ボンネットアウタ11)の上面に沿わせることができる。
【0054】
因に、上記所定距離が15mm未満の場合には、走行風e2が外装部材前端の上方へ過度に剥離し、その後の走行風e3が外装部材の上面に沿わなくなるので、好ましくない(図6の(b)参照)。
逆に、上記所定距離WL2が30mmを超過する場合には、剥離部85で剥離した走行風e2が外装部材の前端側の面に当たり、当該走行風が外装部材の上面に沿わなくなるので、好ましくない(図6の(a)参照)。
【0055】
さらに、この発明の一実施形態においては、上記整流部材80の前端は、上記外装部材(バンパフェースアッパ20)の前端(前端位置20f参照)よりも車両前方に位置するものである(図5の(b)参照)。
【0056】
この構成によれば、走行風e1を外装部材(バンパフェースアッパ20)の前端よりも前側で剥離させることで、剥離後の走行風e3を外装部材(バンパフェースアッパ20、ボンネットアウタ11)上面の傾斜に沿って流しやすくなる。
【0057】
加えて、この発明の一実施形態においては、上記外装部材(バンパフェースアッパ20)の前端部には、車両後方に向かって延びる上記外装部材の下面部20cを備え、上記整流部材80は、上記下面部20cを車両上下方向に挟持して取付け可能な挟持部87を備えたものである。(図3参照)。
この構成によれば、次のような効果がある。
すなわち、上記整流部材80の前部に走行風が当たった際、当該整流部材80には上記外装部材(バンパフェースアッパ20)の下面部20cを下方に下げる方向の力が作用するので、車両走行時において、外装部材(バンパフェースアッパ20)が外れるのを防止することができる。
【0058】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の外装部材は、実施例のボンネット10およびバンパフェースアッパ20に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明は、エンジンルームの上方を覆う外装部材と、車両前部において当該外装部材の前部下側に配置されたフロントグリルとを備えた車両の前部車体構造について有用である。
【符号の説明】
【0060】
ER…エンジンルーム
10…ボンネット(外装部材)
20…バンパフェースアッパ(外装部材)
20c…下面部
20f…前端位置
40…フロントグリル
80…整流部材
82…下片部
84…前片部
87…挟持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6