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特許7404984インクジェット記録装置及びノズル面の異常検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及びノズル面の異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20231219BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B41J2/165 301
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/165 203
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020071218
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167085
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 創
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-187792(JP,A)
【文献】特開2008-012880(JP,A)
【文献】特開2004-066810(JP,A)
【文献】特開2012-236300(JP,A)
【文献】特開2009-220059(JP,A)
【文献】特開2007-098650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有するインク吐出部と、
前記ノズルの開口が位置するノズル面上のインクを検知する検知部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記インク吐出部により前記ノズルからインクを加圧排出させた後に、前記ノズル面上の残存インクの液滴状態に係る前記検知部による検知結果に基づいて前記ノズル面の異常を検出する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記検知部は、前記ノズル面を撮像する撮像部を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記検知部は、前記ノズル面のインクを検出するレーザー検知部を有することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記検知部は、前記ノズル面に平行な方向から前記残存インクを検知することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記検知部は、前記ノズル面に対向する位置から前記残存インクを検知することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記残存インクの前記ノズル面からの高さに基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記ノズル面の所定の範囲における前記残存インクの塊の数に基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記残存インクの平面視形状に基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする請求項1、2、6又は7記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記残存インクの塊の平面視面積に基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする請求項1、2、6~8のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記残存インクの側面視形状に基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする請求項1、2、6~9のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記側面視形状を前記残存インクの前記ノズル面に接する幅と前記ノズル面からの高さとの比に基づいて判断することを特徴とする請求項10記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記加圧排出の動作後、前記ノズル内を負圧に維持した状態で前記検知部による検知を行わせることを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記ノズル面の前記残存インクを除去するクリーニング動作を行うクリーニング部を備え、
前記制御部は、前記異常の検出結果に基づいて、前記クリーニング部による前記クリーニング動作を調整する
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記異常の検出の度合に応じて前記クリーニング部によるクリーニング動作の強度を変化させることを特徴とする請求項13記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記インク吐出部のうち、前記異常が検出された一部に対して前記クリーニング動作の強度を変化させることを特徴とする請求項14記載のインクジェット記録装置。
【請求項16】
操作受付部を備え、
前記制御部は、前記異常の度合に応じた前記クリーニング動作に係る前記調整の内容を前記操作受付部の受け付けた操作内容に基づいて選択して実行可能である
ことを特徴とする請求項14又は15記載のインクジェット記録装置。
【請求項17】
前記制御部は、所定の基準以上の前記異常が検出された場合に、当該検出に係る情報を出力することを特徴とする請求項1~16のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項18】
前記インク吐出部は、複数の記録ヘッドを有し、
前記制御部は、前記所定の基準以上の異常が検出された記録ヘッドを特定し、前記出力に当該記録ヘッドの特定情報を含める
ことを特徴とする請求項17記載のインクジェット記録装置。
【請求項19】
前記所定の基準は、前記記録ヘッドの交換要否に係る基準であることを特徴とする請求項18記載のインクジェット記録装置。
【請求項20】
前記異常は、前記ノズル面を被覆する撥液膜の劣化であることを特徴とする請求項1~19のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項21】
インクを吐出するノズルを有するインク吐出部と、前記ノズルの開口が位置するノズル面上のインクを検知する検知部と、を備えるインクジェット記録装置のノズル面の異常を検出するノズル面の異常検出方法であって
前記インク吐出部の前記ノズルからインクを加圧排出させた後に、前記ノズル面上の残存インクの液滴状態に係る前記検知部による検知結果に基づいて前記ノズル面の異常を検出する検出ステップ
を含むことを特徴とするノズル面の異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェット記録装置及びノズル面の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインクを吐出して画像、被膜や構造などを形成記録するインクジェット記録装置において、ノズルからのインクの吐出不良は記録対象の質の低下につながる。従来、所定のテスト画像などを記録させたりクリーニング動作を行ったりすることで、吐出状態の異常を検出したり異常を解消したりする技術がある。
【0003】
吐出不良が発生する原因の一つとして、ノズル開口が並ぶノズル面を被覆する撥液膜の劣化がある。撥液膜が劣化、剥離すると、インクがノズル開口付近に付着、残留し、インク吐出方向に影響を与えるといった悪影響を与える。特許文献1では、クリーニングに伴うワイピング後のノズル面を撮影して、ノズル開口の周りに残っているインクの表面積に基づいて撥液膜の劣化の度合を判断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-69378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ワイピング動作には、インク吐出動作などと比較して時間を要する。したがって、ワイピング動作後にノズル面の異常の検出動作及び処理を行ってその後必要に応じて更に対応を行うと、時間を要するので、あまり効率がよくないという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より効率的にノズル面の異常の進行を検出可能なインクジェット記録装置及びノズル面の異常検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
インクを吐出するノズルを有するインク吐出部と、
前記ノズルの開口が位置するノズル面上のインクを検知する検知部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記インク吐出部により前記ノズルからインクを加圧排出させた後に、前記ノズル面上の残存インクの液滴状態に係る前記検知部による検知結果に基づいて前記ノズル面の異常を検出する
ことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録装置において、
前記検知部は、前記ノズル面を撮像する撮像部を有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェット記録装置において、
前記検知部は、前記ノズル面のインクを検出するレーザー検知部を有することを特徴とする。
【0010】
また、請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記検知部は、前記ノズル面に平行な方向から前記残存インクを検知することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記検知部は、前記ノズル面に対向する位置から前記残存インクを検知することを特徴とする。
【0012】
また、請求項6記載の発明は、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記残存インクの前記ノズル面からの高さに基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする。
【0013】
また、請求項7記載の発明は、請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記ノズル面の所定の範囲における前記残存インクの塊の数に基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする。
【0014】
また、請求項8記載の発明は、請求項1、2、6又は7記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記残存インクの平面視形状に基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする。
【0015】
また、請求項9記載の発明は、請求項1、2、6~8のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記残存インクの塊の平面視面積に基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする。
【0016】
また、請求項10記載の発明は、請求項1、2、6~9のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記残存インクの側面視形状に基づいて前記ノズル面の異常を検出することを特徴とする。
【0017】
また、請求項11記載の発明は、請求項10記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記側面視形状を前記残存インクの前記ノズル面に接する幅と前記ノズル面からの高さとの比に基づいて判断することを特徴とする。
【0018】
また、請求項12記載の発明は、請求項1~11のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記加圧排出の動作後、前記ノズル内を負圧に維持した状態で前記検知部による検知を行わせることを特徴とする。
【0019】
また、請求項13記載の発明は、請求項1~12のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記ノズル面の前記残存インクを除去するクリーニング動作を行うクリーニング部を備え、
前記制御部は、前記異常の検出結果に基づいて、前記クリーニング部による前記クリーニング動作を調整する
ことを特徴とする。
【0020】
また、請求項14記載の発明は、請求項13記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記異常の検出の度合に応じて前記クリーニング部によるクリーニング動作の強度を変化させることを特徴とする。
【0021】
また、請求項15記載の発明は、請求項14記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記インク吐出部のうち、前記異常が検出された一部に対して前記クリーニング動作の強度を変化させることを特徴とする。
【0022】
また、請求項16記載の発明は、請求項14又は15記載のインクジェット記録装置において、
操作受付部を備え、
前記制御部は、前記異常の度合に応じた前記クリーニング動作に係る前記調整の内容を前記操作受付部の受け付けた操作内容に基づいて選択して実行可能である
ことを特徴とする。
【0023】
また、請求項17記載の発明は、請求項1~16のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、所定の基準以上の前記異常が検出された場合に、当該検出に係る情報を出力することを特徴とする。
【0024】
また、請求項18記載の発明は、請求項17記載のインクジェット記録装置において、
前記インク吐出部は、複数の記録ヘッドを有し、
前記制御部は、前記所定の基準以上の異常が検出された記録ヘッドを特定し、前記出力に当該記録ヘッドの特定情報を含める
ことを特徴とする。
【0025】
また、請求項19記載の発明は、請求項18記載のインクジェット記録装置において、
前記所定の基準は、前記記録ヘッドの交換要否に係る基準であることを特徴とする。
【0026】
また、請求項20記載の発明は、請求項1~19のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記異常は、前記ノズル面を被覆する撥液膜の劣化であることを特徴とする。
【0027】
また、請求項21記載の発明は、
インクを吐出するノズルを有するインク吐出部と、前記ノズルの開口が位置するノズル面上のインクを検知する検知部と、を備えるインクジェット記録装置のノズル面の異常を検出するノズル面の異常検出方法であって
前記インク吐出部の前記ノズルからインクを加圧排出させた後に、前記ノズル面上の残存インクの液滴状態に係る前記検知部による検知結果に基づいて前記ノズル面の異常を検出する検出ステップ
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明に従うと、より効率的にノズル面の異常の進行を検出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態のインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】ヘッドユニットの記録媒体と対向する底面について説明する図である。
図3】インクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
図4】ノズル面の検知結果の例を示す図である。
図5】具体的な定量評価値の設定例を示す図である。
図6】加圧排出制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
図7】クリーニング条件の設定について説明する図表である。
図8】変形例1の加圧排出制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
図9】変形例2の加圧排出制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
図10】クリーニング条件の設定の他の例について説明する図表である。
図11】第2実施形態のインクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
図12】第1レーザー検知部によるインク検知及び第2レーザー検知部によるインク検知を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
まず、第1実施形態のインクジェット記録装置1について説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置1の概略構成を示す斜視図である。
【0031】
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、記録動作部20(インク吐出部)と、クリーニング部30と、制御部40と、ノズル面検知部61(検知部)などを備える。
【0032】
搬送部10は、画像を記録する対象の媒体(記録媒体M)を移動させ、画像記録位置を経由して排出させる。搬送部10は、駆動ローラー11と、搬送ベルト12と、従動ローラー13と、搬送モーター14と、押さえローラー15などを備える。
【0033】
搬送ベルト12は、ここでは、無端状であり、駆動ローラー11と従動ローラー13との間にかけ渡されて、駆動ローラー11の回転に応じて移動する。駆動ローラー11は、搬送モーター14の回転動作に応じた速度で回転動作する。従動ローラー13は、搬送ベルト12の移動に応じた速度で回転する。搬送ベルト12の外周面上に所定位置で記録媒体Mが載置されて移動しながら画像が記録され、画像記録後に所定位置で排出される。押さえローラー15は、搬送ベルト12に載置された記録媒体Mを搬送ベルト12に押し付けることでしわなどによる記録媒体Mの浮き上がりを除去する。押さえローラー15は、自重で記録媒体Mを搬送ベルト12に押さえ付け、記録媒体M及び搬送ベルト12の移動に応じて回転するものであってよい。
【0034】
記録動作部20は、搬送ベルト12上の記録媒体Mに対してノズルからインクを吐出して画像を記録する。特には限られないが、ここでは、記録動作部20は、シアン色のインクを吐出するヘッドユニット21C、マゼンタ色のインクを吐出するヘッドユニット21M、イエローのインクを吐出するヘッドユニット21Y、及び黒色のインクを吐出するヘッドユニット21Kを有し、すなわち4色のインクを吐出動作可能である。以降では、これらの一部又は全部をヘッドユニット21とも記す。
【0035】
クリーニング部30は、ヘッドユニット21のインクが吐出されるノズルの開口27a(図2参照)が位置するノズル面上の付着物や残存インクなどを除去するクリーニング動作を行う。クリーニング部30は、ここでは、幅方向に移動可能であり、当該移動に伴ってノズル面を順にクリーニングする。なお、このときヘッドユニット21は、必要に応じて搬送面から上方へ所定距離移動されてよい。クリーニング部30は、搬送方向についても移動可能であってよく、この場合には、ヘッドユニット21C、21M、21Y、21
Kのいずれもクリーニングが可能とされる。あるいは、搬送方向には移動されずに各色について一括でクリーニング可能な搬送方向についての長さを有するか、又はヘッドユニット21についてそれぞれクリーニング部30が設けられているかであってもよい。
【0036】
ノズル面検知部61は、ノズル面上に残存するインクを検知する。ノズル面検知部61は、例えば、撮像装置であってよく、クリーニング部30の支持台上に位置している。
【0037】
図2は、ヘッドユニット21の記録媒体M(搬送ベルト12の外側面)と対向する底面について説明する図である。
【0038】
図2(a)の底面図に示すように、ヘッドユニット21は、キャリッジ210と、複数の記録ヘッド211とを有する。記録ヘッド211は、2つずつでモジュールとなって、記録媒体Mの搬送方向に垂直な幅方向について画像を記録可能な全幅にわたって配置されてキャリッジ210に固定され、ラインヘッドをなしている。各記録ヘッド211の底面には、ノズル27(図3参照)の開口27aが(ノズル開口)並んでおり、すなわち、この底面がノズル面である。これにより、記録媒体Mから所定の間隔(搬送方向及び幅方向に垂直な高さ方向についての距離)となる位置で各々インクが吐出される。ここでは説明のため開口27aが明示されているが、実際には開口27aのサイズ及び間隔は、これよりも非常に小さくてよい。
【0039】
図2(b)、(c)に示すように、クリーニング部30は、ノズル面に沿って移動可能である。クリーニング部30は、支持台30aに加えて、クリーニング部材31と、貯液部32と、ローラー33などを有する。
【0040】
貯液部32は、支持台30a内の凹部にクリーニング液を貯留する。クリーニング部材31は、ここでは、円柱状(ローラー状)のスポンジ部材であり、下部が貯液部32内に位置し、上端が所定の圧力でノズル面に接する状態で回転可能となっている。クリーニング部材31は、回転動作に伴ってクリーニング液に浸漬された部分がノズル面へ送り出されてノズル面を払拭する払拭部材である。ローラー33は、クリーニング部材31が回転に伴ってクリーニング液内から出てきた付近に位置し、クリーニング部材31の表面に所定の圧力で接触することで、クリーニング部材31に余剰に含まれるクリーニング液を絞り出して貯液部32へ戻す。
【0041】
上述のように、支持台30aには、ノズル面検知部61も固定されている。ノズル面検知部61は、光学撮像を行う第1撮像部611と、第2撮像部612を有する。第1撮像部611は、支持台30aの上面から上向きに撮像範囲を有し、すなわち、ノズル面に対向する位置から当該ノズル面の撮像を行う。第2撮像部612は、支持台30aからヘッドユニット21に接触しない位置で上方に突出して横向きの撮像範囲を有し、すなわち、ノズル面に平行に搬送方向に沿って撮像を行う。第1撮像部611及び第2撮像部612は、CCDセンサーやCMOSセンサーが配列されたラインセンサーであってもよいし、対向する所定範囲の二次元撮像が一度に可能なものであってもよい。また、後述のように、第1撮像部611及び第2撮像部612は、それぞれインクとその他の識別が可能であればよいので、カラー撮像を行う必要はなく、また、可視光に限られなくてもよい。また、CMYK各色のインクに応じてそれぞれ異なる好適な波長で撮像が行われてもよい。ここでは、第1撮像部611及び第2撮像部612は、待機位置から支持台30aの移動方向についてクリーニング部材31よりも下流側に位置する。
【0042】
支持台30aを幅方向に移動させながら、第1撮像部611及び第2撮像部612を連続的に動作させることで、ノズル面の二次元画像が得られる。なお、第2撮像部612による撮像では、千鳥格子状に並ぶ記録ヘッド211の組の重複部分では、同時に撮像を行
えないので、撮像動作を2回に分けて行ってもよい。あるいは、ヘッドユニット21の搬送方向について両側から同時に撮像動作が可能であってもよい。
【0043】
図3は、インクジェット記録装置1の機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、上述の搬送部10、記録動作部20、クリーニング部30、制御部40及びノズル面検知部61に加えて、駆動波形信号生成部29と、記憶部50と、計測部60と、通信部70と、操作受付部81と、表示部82と、電力供給部90などを備える。ノズル面検知部61は、計測部60に含まれる。
【0044】
搬送部10は、上述のように搬送モーター14を備え、当該搬送モーター14に適切な駆動信号を出力することで搬送モーター14を回転動作させる。
【0045】
記録動作部20は、ヘッド駆動部25を備える。ヘッド駆動部25は、選択された圧電素子26に駆動信号を出力して圧電素子26を変形動作させて、ノズル27内のインクに圧力変動を付与して吐出させ、画像を記録する。圧電素子26とノズル27が本実施形態の記録素子を構成する。
【0046】
駆動波形信号生成部29は、ヘッド駆動部25が出力する駆動波形信号を生成する。駆動波形信号は、特には限られないが、駆動波形を示すデジタル信号データをアナログ変換し、電圧及び電流を増幅した駆動波形信号をヘッド駆動部25に出力する。
【0047】
クリーニング部30は、ローラー駆動部34と、支持台駆動部35を有する。ローラー駆動部34は、クリーニング部材31を設定された速さで回転動作させる。ローラー駆動部34は、例えば、回転モーターであり、回転の速さは可変であってよい。支持台駆動部35は、支持台30aを幅方向(及び搬送方向)に移動させる。支持台駆動部35は、例えば、無端状ベルトが架け渡されたローラー及びその駆動部であってもよいし、1本又は複数本のレールなどを有していてもよい。
【0048】
制御部40は、CPU41(Central Processing Unit)と、RAM42(Random Access Memory)を備え、インクジェット記録装置1の各種動作を統括制御するプロセッサーである。CPU41は、各種演算処理を行って制御動作を実行する。RAM42は、CPU41に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。
【0049】
記憶部50は、記録対象の画像データを記憶し、また、ノズル面の異常の判定データ51及びクリーニング設定52を記憶する。画像データは、RAMなどの揮発性メモリーに記憶されてもよく、判定データ51及びクリーニング設定52などは、不揮発性メモリーに記憶されてもよい。不揮発性メモリーは、例えば、フラッシュメモリーなどであり、これに加えて又は代えてHDD(Hard Disk Drive)などを有していてもよい。
【0050】
計測部60は、上述のノズル面検知部61を備える。ノズル面検知部61は、上記のように、ノズル面に残存するインクを検知する第1撮像部611及び第2撮像部612を含む。
【0051】
通信部70は、外部機器との間での通信を実行制御する。通信部70は、例えば、TCP/IPなどの通信規格に基づいて外部のコンピューターと接続されて、記録対象の画像データを含むジョブデータを取得し、また、ジョブデータに基づく画像記録動作のステータスを出力する。また、通信部70は、USB(Universal Serial Bus)などにより周辺機器と直接接続されてデータの送受信がなされてもよい。
【0052】
操作受付部81は、ユーザーなどによる入力操作を受け付けて、受け付けた内容を入力
信号として制御部40に出力する。操作受付部81は、例えば、タッチパネルや押しボタンスイッチなどを備える。タッチパネルは、表示部82の表示画面と重なって位置し、表示画面への表示内容と同期して操作内容が特定されてもよい。
【0053】
表示部82は、ユーザーなどに対してステータスや選択メニューなどを示す表示を行う。表示部82は、例えば、表示画面とインディケーター(ランプ)などを有する。表示画面は、例えば、液晶ディスプレイなどであって、各種文字や図形をドットマトリクス表示することができる。インディケーターは、例えば、電力供給の有無や動作異常の有無などを示す場合に利用されてもよい。
【0054】
電力供給部90は、インクジェット記録装置1の各部に応じた電圧の電力を供給する。記録動作部20の駆動基板212には、各駆動波形のピーク電圧に応じた電圧が出力される。あるいは、最大ピーク電圧のみが出力されて、駆動基板212で複数の電圧信号が生成されてもよい。
【0055】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1におけるノズル面の異常検出動作について説明する。
本実施形態のインクジェット記録装置1では、メンテナンス動作としてインクを加圧しながらノズル27からインクの固体成分、異物や気泡などとともに排出させてノズル27の詰まりなどを除去、抑制する加圧パージ(加圧排出)の動作後に(クリーニング部30により除去されるまで)ノズル面に残るインク(残存インク)の液滴状態を検知する。メンテナンス動作自体は、画像記録動作の合間などに随時行われるので、検知のために別途行われる必要はない。残存インクの検知は、上述のように、ここでは例えば、第1撮像部611及び第2撮像部612による対向位置から及び側面方向からの撮像により行われる。なお、多くの残存インクがノズル面に付着したままであると、そのまま重力で下に落ちたり流れたりしやすいので、ノズル27内を若干負圧に維持することで、ノズル内外のインクが加圧パージ後の状態から変化するのをしばらく抑制する。負圧は、記録ヘッド211と供給インクの貯留部との位置関係で維持されている場合もあるし、吸引ポンプなどを用いてインク貯留部の圧力を低下させるなどしてもよい。
【0056】
図4は、ノズル面の検知結果の例を示す図である。図4(a)は、正常な場合の底面撮像例、図4(b)は、正常な場合の側面撮像例、図4(c)は、異常な場合の底面撮像例、図4(d)は、異常な場合の側面撮像例である。
【0057】
排出されたインクの一部は、ノズル面上に残留し、ノズル面を被覆する撥液膜に弾かれて複数のノズル27の開口27aから流出したインクがまとまった液滴となるので、視認しやすい。このインクは、撥液膜が十分に残っている場合には、小さな残留液滴Iに分かれやすく、撥液膜が劣化、剥離して撥液性が低下するにつれてより大きな残留液滴Iにまとまりやすくなる。特にノズル列が1、2列程度の一次元配列又はこれに準ずる記録ヘッドでは、撥液性が低下すると、ノズル27(開口27a)の配列方向に沿って長い残留液滴Iが生じやすくなる。なお、本図で一部の残留液滴Iにのみ符号を付しているが、各記録ヘッド211の同一位置に位置する者はいずれも残留液滴Iを示している。ただし、記録ヘッド211間での撥液膜の劣化のむらなどに応じて残留液滴Iの形状、サイズ及び位置は各々異なって表れてもよい。
【0058】
また、正常な撥液膜が存在している場合には、ノズル面に接触する面積に比して残存インクが長く伸びた状態で残るのに対し、撥液性が低下(撥液膜が劣化)すると、ノズル面に広がって下方へ長く伸びなくなる。すなわち、検知結果からこれらの値を定量評価することで、撥液膜の劣化度合、特に、異常の検出が定量的に評価可能となる。
【0059】
図5は、具体的な定量評価値の設定例を示す図である。
図5(a)に示す第1撮像部611による底面の撮像では、液滴の縦幅及び横幅から得られるサイズ、及び/又は横幅b1、b2の撥液性に応じた値となる。また、縦幅a1、a2と、横幅b1、b2との各アスペクト比などの平面視形状も利用可能である。あるいは、長さの代わりに残留液滴Iの存する画素数に基づいて平面視面積が得られてもよい。また、独立した残留液滴I(塊)の数を計数してもよい。なお、ノズル面の全体で計数せずに、各記録ヘッド211の所定範囲(所定面積)内の数を各々計数してもよい。
【0060】
図5(b)に示す第2撮像部612による側面撮像では、液滴の側面視形状、特に、ノズル面からの高さh1、h2、ノズル面に接する幅b1、b2と上記高さh1、h2との比、あるいは、この日に基づいて得られる接触角p1、p2などが用いられてもよい。また、幅方向についての高さの変化に基づいて、残留液滴Iの数を計数してもよい。
【0061】
撥液膜の劣化状況を判定するための基準は、予め判定データ51として記憶される。この判定データ51は、同一機種の各製品に対して共通であってもよく、この場合には、予め試験された値などが各製品の記憶部50に格納されて出荷されればよい。また、基準値は、画質や生産速度などに基づいて複数段階定められて、ユーザー所望の段階の基準が選択されて、利用されてもよい。
【0062】
ノズル面の状態の劣化、ここでは特に、撥液膜の剥離や摩耗は、経時的に徐々に進行する。上述のように、ノズル面の残存インクがインク吐出方向や吐出量に悪影響を与えるので、ノズル面の異常の進行の度合によってクリーニングの強度を変化させる調整を行うことで、ノズル面に不要なインクを残しにくくしてインクの吐出への悪影響を抑制することができる。なお、クリーニング動作は、加圧パージの後以外でも行われる場合があり、この場合には、直近の加圧パージに伴う検知結果に基づくクリーニング強度に調整されればよい。クリーニング強度を定めるパラメーターとしては、払拭位置の移動速度(ワイプ速度)、クリーニング部材31の回転速度、クリーニング部材31のノズル面への押し込み量(具体的には、例えば、支持台30aとノズル面との距離)などが挙げられる。ワイプ速度を低下させる設定、回転速度を上昇させる設定、及び押し込み量を若干増加させる設定のうち一部又は全部が定められ得る。条件の変更量は、劣化の度合に応じて複数段階に変更可能であってもよい。
【0063】
なお、クリーニングの強度の増加には限界があり、必要以上の押し込みなどでノズル面をむしろ傷つける場合もある。したがって、異常の度合が所定の基準以上となった場合には、クリーニングでは対応困難であるとして、記録ヘッド211(モジュール単位でもよい)の交換の要求(交換要否)を示す所定の情報を出力する。ここでは、情報の出力は、所定の報知動作により行われる。報知動作としては、例えば、表示部82への表示、警告用(異常報知用)LEDランプの点灯又は点滅、所定の警告用ビープ音の発生などが挙げられる。あるいは、管理者の端末に警告情報(記録ヘッド211(モジュール)の交換要求)を含むテキストデータの出力が行われてもよい。異常の発生場所は、ノズル面検知部61による撮影位置により特定されるので、当該発生場所に応じた記録ヘッド211も特定される。所定の情報には、記録ヘッド211の特定情報も含まれていてよい。
【0064】
図6は、本実施形態のインクジェット記録装置1で実行される加圧排出制御処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。本実施形態の異常検出方法を含むこの加圧排出制御処理は、加圧パージの処理が行われるごとに毎回起動される。
【0065】
加圧排出制御処理が開始されると、制御部40(CPU41)は、加圧パージを実行する(ステップS101)。制御部40は、記録ヘッド211のインク流路内を負圧に保つ(ステップS102)。
【0066】
制御部40は、支持台30aを移動させながら第1撮像部611及び/又は第2撮像部612により撮像を行わせ、ノズル面の残存インクの検知を行う(ステップS103)。制御部40は、撮像データから残存インクの範囲を特定し、各範囲の評価計測値を算出する(ステップS104)。
【0067】
制御部40は、判定データ51を参照して、基準値と、評価計測値とを比較する(ステップS105)。制御部40は、基準を超えた異常がある部分を特定する。制御部40は、基準以上の異常が検出されたか否かを判別する(ステップS106)。異常がないと判別された場合には(ステップS106で“NO”)、制御部40は、通常のクリーニング動作の設定を行う(ステップS111)。それから、制御部40の処理は、ステップS109へ移行する。
【0068】
基準以上のクリーニングがあると判別された場合には(ステップS106で“YES”)、制御部40は、クリーニングの条件変更で対応が可能であるか否かを判別する(ステップS107)。可能であると判別された場合には(ステップS107で“YES”)、制御部40は、クリーニング条件を変更設定する(ステップS108)。それから、制御部40の処理は、ステップS109へ移行する。
【0069】
ステップS109の処理へ移行すると、制御部40は、設定されたクリーニング条件でノズル面のクリーニング動作を行う(ステップS109)。そして、制御部40は、加圧排出制御処理を終了する。
【0070】
ステップS107の判別処理で、クリーニング条件の変更では対応、すなわち、ノズル面の残存インクを十分に除去(払拭)することが不可能であると判別された場合には(ステップS107で“NO”)、制御部40は、動作を停止させ、記録ヘッド211に異常がある旨を巣雌上記のような所定の報知動作を各部に行わせる(ステップS115)。そして、制御部40は、加圧排出制御処理を終了する。
上記各処理のうち、少なくともステップS101後に実行されるステップS103~S105の各処理が本実施形態の検出ステップを構成する。
【0071】
[変形例1]
上記実施の形態では、撥液膜の劣化の度合に応じて一律にクリーニング条件を変更設定するものとして説明したが、クリーニング条件の変更には、他の要素、例えば、記録ヘッド211の耐久性や生産性を低下させるものが含まれる。
【0072】
図7は、クリーニング条件の設定について説明する図表である。
上述の各条件のうち、ワイプ速度の低下は、クリーニング時間の増加に伴う生産性の低下につながる。一方で、回転速度の上昇や、押し込み量の増加は、記録ヘッド211の耐久性を更に低下させる。本変形例1では、異常が特定された一部の記録ヘッド211でのみ上記クリーニング条件の変更(強度の上昇)を行い、その他の記録ヘッド211では、通常のクリーニング条件でクリーニングを行わせることで、条件変更に伴う影響を最小限に抑える。
【0073】
図8は、変形例1の加圧排出制御処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。この変形例1の加圧排出制御処理では、上記実施形態の加圧排出制御処理のうちステップS108の処理がステップS108aの処理に置き換えられ、また、ステップS109aの処理が追加されている。その他の処理は同一であり、同一の処理内容には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0074】
ステップS107の判別処理で、対応可能と判別された場合には(ステップS107で“YES”)、制御部40は、特定された異常箇所に基づいて、クリーニング条件を変更設定する範囲(記録ヘッド211)を定め、各々のクリーニング条件の設定を行う(ステップS108a)。制御部40は、記録ヘッド211ごとに条件を設定しながらクリーニングを行う(ステップS109a)。
【0075】
なお、上述のように、記録ヘッド211の組には幅方向について重複部分があるので、重複部分については、例えば、少なくともいずれかに異常がある場合には異常がある場合の条件に合わせてクリーニングが実行されてよい。また、ワイプ速度(支持台30aの移動速度)やクリーニング部材31の回転速度などは、不連続に変更される必要はなく、異常部分で条件が維持される範囲で連続的に変化させながらクリーニングが実行されてよい。そして、制御部40は、加圧排出制御処理を終了する。
【0076】
[変形例2]
図7に示したように、ワイプ速度の低下は生産性の低下につながるが、一方で、記録ヘッド211の耐久性の維持にもつながる。したがって、ユーザーの希望によっては、異常検出箇所を含まない記録ヘッド211のワイピングの際にもワイプ速度を低下させたままである方がよい場合もある。変形例2の加圧排出制御処理では、異常箇所が検出、特定された場合には、入力された操作内容に応じていずれを優先させた処理条件(対応処理)でクリーニング動作を行うかを調整することができる。
【0077】
図9は、変形例2の加圧排出制御処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。この変形例2の加圧排出制御処理では、上記実施形態の加圧排出制御処理のうちステップS108がステップS108bに置き換えられ、また、ステップS121、S122の処理が追加されている。その他の処理は同一であり、同一の処理内容には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0078】
ステップS107の判別処理で、クリーニングによる対応が可能であると判別された場合には(ステップS107で“YES”)、制御部40は、表示部82に制御信号を出力して、モード選択受付表示を行わせる(ステップS121)。モードとは、上述のように、生産性を優先するモードと耐久性を優先するモードである。あるいは、いずれも選択せずに、上記実施形態と同様に異常に応じて回転速度や押し込み量なども全て異常に対応させた一定の条件で動作させる通常モードが含まれてもよい。
【0079】
制御部40は、選択操作を待ち受けて、選択操作が受け付けられたか否かを判別する(ステップS122)。受け付けられていないと判別された場合には(ステップS122で“NO”)、制御部40は、ステップS122の処理を繰り返す。なお、所定のタイムアウト時間以内に入力がない場合には、いずれかのモード、例えば、通常モードを選択したものとして“YES”に分岐してもよい。選択操作が受け付けられたと判別された場合には(ステップS122で“YES”)、制御部40は、選択されたモードに応じたクリーニング条件の設定を行う(ステップS108b)。それから、制御部40の処理は、ステップS109へ移行する。
【0080】
なお、上記実施の形態では、払拭部材を回転動作させてクリーニングを実行することとしたが、他の方式、例えば、板状(ブレード形状)のゴムなどによるブレード部材又は織布(ウェブ)材(不織布を含む)をノズル面に対して摺動させるクリーニング方式であってもよい。これらの場合には、クリーニング条件の変更パラメーターが上記実施形態とは異なる。
【0081】
図10は、クリーニング条件の設定の他の例について説明する図表である。
図10(a)に示すように、ブレード部材を利用する場合には、パラメーターは、例えば、ワイプ速度に加えて当該ブレード部材の当接荷重と当接角度である。ここでいう当接角度は、ブレード部材のノズル面に対する角度であり、ブレード部材とノズル面が平行な場合には、ブレード部材の先端が支持台30aの進行方向上流側(進行方向と反対側)にあると0度(0度~90度がトレイル方向)、ブレード部材の先端が支持台30aの進行方向下流側(進行方向の側)にあると180度(90度~180度がカウンター方向)である。これらを大きくすることでクリーニング強度を向上させることができるが、同時に耐久性が低下しやすい。したがって、上記変形例1、2において、異常箇所が特定されていない記録ヘッド211のクリーニングの間には、これらをもとの当接荷重及び当接角度に戻してもよい。
【0082】
図10(b)に示すように、ウェブ材をノズル面に摺動させる場合には、パラメーターは、例えば、ワイプ速度に加えて当接荷重である。当接荷重を大きくすることで、クリーニング強度を向上させることができるが、やはり同時に耐久性が低下しやすい。なお、ウェブ材の形状などによっては、当接荷重の変化に応じて当接面の長さ(ニップ幅)や面積も変化し得る。これらもクリーニング強度及び耐久性に影響し得る。したがって、上記変形例1、2において、異常箇所が特定されていない記録ヘッド211のクリーニングの間には、もとの当接荷重に戻してもよい。
【0083】
[第2実施形態]
図11は、第2実施形態のインクジェット記録装置1aの機能構成を示すブロック図である。
このインクジェット記録装置1aでは、計測部60は、ノズル面検知部61aが光学撮像を行う第1撮像部611及び第2撮像部612の代わりに又は加えて、第1レーザー検知部611a及び第2レーザー検知部612aを有している。第1レーザー検知部611aは、ノズル面に対向する所定位置からノズル面に垂直にレーザー光を照射して、その反射光を検出する。第2レーザー検知部612aは、ノズル面から所定の距離離隔した面に沿ってレーザー光を出射し、当該面上における残存インクの有無を検出する。第2レーザー検知部612aは、レーザー光の出射部と並んで反射光を検出する入射部が位置していてもよいし(反射型)、ノズル27からのインク吐出方向を挟んで出射部と反対側へ透過したレーザー光を検出する入射部を有していてもよい(透過型)。
【0084】
図12は、第1レーザー検知部611aによるインク検知及び第2レーザー検知部612aによるインク検知を説明する図である。
図12(a)に示すように、第1レーザー検知部611aによる出射レーザー光を走査線L1に沿って図に垂直方向、すなわちノズル面に走査しながら照射すると、当該走査線L1上の各位置における反射波の受光までの時間に応じて残留液滴Iの高さが得られる。上記実施形態の第2撮像部612による撮像結果と同様に、高さを定量的に評価に用いてもよいし、高さの凹凸の数や幅などが評価に用いられてもよい。
【0085】
また、図12(b)に示すように、第2レーザー検知部612aによる出射レーザー光をノズル面から高さh0の位置の走査線L2に沿って図に垂直な方向、すなわち、ノズル面に平行な面に照射すると、当該走査線L2上の各位置におけるレーザー光の光量の増減により、高さh0の位置における残留液滴Iの有無が得られる。反射型の場合には、高さh0に残留液滴Iがある場合に反射光が増大し、透過型の場合には、高さh0に残存インクIがある場合に透過光が減少する。この場合には、高さh0が基準以上の残留液滴Iの塊の数が特定される。
【0086】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、インクを吐出するノズル27を有する記録動作部20と、ノズル27の開口27aが位置するノズル面上のインクを
検知するノズル面検知部61と、制御部40と、を備える。制御部40は、記録動作部20によりノズル27からインクを加圧パージさせた後に、ノズル面上の残存インクの液滴状態に係るノズル面検知部61による検知結果に基づいてノズル面の異常を検出する。
このように、適宜な頻度で行われる加圧パージ後には多くのインクがノズル面に残存するので、複数のノズル27から排出されたインクが大きな塊となり、視認しやすい。この塊がノズル面の異常、特に撥液膜の撥液性能の低下に応じて分かれにくくなってくるので、ノズル面におけるインクの液滴状態を取得することで、ノズル面の異常の検出を行いやすい。また、別途インクをノズル面に付与するような動作を行わなくても効率よく適切にノズル面の撥液膜劣化などの異常を検出することができる。また、加圧パージ後にはもともとクリーニングが行われるので、もともと必要な時間以外の処理時間の増加を抑制することができる。さらに、テスト画像を記録して判断する必要もないので、記録媒体Mを節約することができる。また、実際に画像に影響が出る前の段階、特に直前で劣化の度合を判断することができるので、記録媒体Mを無駄にせず、記録ヘッド211を早く交換し過ぎることもない。また、記録ヘッド211(ヘッドユニット21)を取り外して検査する必要もないので、容易であり、特に、検査後に再調整などが必要ないので、調整を行うことのできる技術者がいなくても、速やかに画像記録動作に復帰することができる。
【0087】
また、ノズル面検知部61は、ノズル面を撮像する第1撮像部611及び第2撮像部612を有する。光学的に2次元撮像を行うことで、短い時間の撮像動作で効率よくノズル面における必要な範囲の残存インクの液滴状態を検知することができ、ノズル面の状態を把握することができる。
【0088】
あるいは、ノズル面検知部61は、ノズル面のインクを検出する第1レーザー検知部611a及び第2レーザー検知部612aを有する。このようにレーザー光を用いることでも非接触でノズル面の残存インクを検知することができる。
【0089】
また、ノズル面検知部61は、ノズル面に平行な方向から残存インクを検知する。ノズル面の側面からの撮像やレーザー検知などにより、残存インクの液滴のノズル面からの高さ、すなわち、撥液膜で弾かれることによるインクの盛り上がり具合(弾かれ具合)が容易に取得される。これによりインクジェット記録装置1では、容易にノズル面の異常の進行度合を定量的に評価することができる。また、ノズル面検知部61を残存インクで汚す可能性も低く、ノズル面検知部61のメンテナンスが容易である。
【0090】
また、ノズル面検知部61は、ノズル面に対向する位置から残存インクを検知する。これにより、インクジェット記録装置1では、複数の記録ヘッド211を組み合わせたモジュールや、その千鳥格子状配列による重複部分を容易に切り分けて残存インクの液滴形状を検出することができる。
【0091】
また、制御部40は、残存インクのノズル面からの高さに基づいてノズル面の異常を検出する。この場合、液滴の高さの最大値が取得されればよいので、処理が容易である。
【0092】
また、制御部40は、ノズル面の所定の範囲における残存インクの塊の数に基づいてノズル面の異常を検出する。残存インクのインク塊は、数を計数すればよいので、座標の正確な読取りなどが不要であり、インクジェット記録装置1では、容易に効率よくノズル面の異常の進行が評価される。
【0093】
また、制御部40は、残存インクの平面視形状に基づいてノズル面の異常を検出する。ノズル27の開口27aは幅方向に多数が配置されるので、液滴形状は撥液性能が低下するにしたがって幅方向に長い形状に変化する傾向がある。したがって、インクジェット記録装置1では、このノズル27の開口27aの配置の特性に応じた形状の変化を考慮して
、適切にノズル面の異常の評価を行うことができる。
【0094】
また、制御部40は、残存インクの塊の平面視面積に基づいてノズル面の異常を検出する。上述のように、撥液性能が低下するほど残存インクがひとつながりになりやすいので、平面視面積も増大する。したがって、画素数などに基づいて各液塊の面積を特定することで、容易にノズル面の異常の進行状態を判断することができる。
【0095】
また、制御部40は、残存インクの側面視形状に基づいてノズル面の異常を検出する。
側面視についても上述のノズル面からのノズル面に接する幅と高さとの比の変化に応じて形状が変化するので、当該形状に応じてノズル面の異常を検出してもよい。
【0096】
また、制御部40は、側面視形状を残存インクのノズル面に接する幅とノズル面からの高さとの比、すなわち液塊の接触角に基づいて判断する。接触角は撥液膜の撥液の度合の指標であるので、基本に従って定量的な判断を適正に行うことができる。
【0097】
また、制御部40は、加圧パージの動作後、ノズル27内を負圧に維持した状態でノズル面検知部61による検知を行わせる。ノズル面の残存インクは重力で流れたり垂れたりしやすいので、ノズル27内を負圧にして流下を抑制することで、ノズル面検知部61の間の残存インクをより適切な状態で検知、判定することができる。
【0098】
また、インクジェット記録装置1は、ノズル面の残存インクを除去するクリーニング動作を行うクリーニング部30を備える。制御部40は、異常の検出結果に基づいて、クリーニング部30によるクリーニング動作を調整する。
上記のように、ノズル面の撥液膜の劣化の進行度合が先に分かるので、その後に行われるクリーニング動作の調整を行うことで、劣化が進んでいる場合でも二度手間とならずにより確実にインクを払拭可能とすることができる。
【0099】
また、制御部40は、異常の検出の度合に応じてクリーニング部によるクリーニング動作の強度を変化させる。特に、撥液膜の劣化が進んだ場合にクリーニング強度を上昇させることで、ノズル面に広がって除去されずらくなった残存インクをより確実に払拭可能に変更し、その後のインク吐出に対する残存インクの悪影響を低減させることができる。
【0100】
また、制御部40は、記録動作部20のノズル面うち、異常が検出された一部に対してクリーニング動作の強度を変化させる。必要以上の強度でのクリーニング動作は、むしろ撥液膜を傷つけて耐久性を低下させやすい。したがって、インクジェット記録装置1では、異常が検出された一部の範囲以外では通常のクリーニング動作を維持するようにクリーニング強度を途中で変更しながら行うことができる。これにより、必要以上にインクジェット記録装置1の耐久性を低下させない。また、クリーニング強度の上昇がクリーニング時間の延長も伴う場合には、必要以上にクリーニング時間を延長しないことで、作業効率の低下を低減することができる。
【0101】
また、インクジェット記録装置1は、操作受付部81を備える。制御部40は、ノズル面の異常の度合に応じたクリーニング動作に係る強度の変化の内容を操作受付部81の受け付けた操作内容に基づいて選択して実行可能である。強度変化は、上述のように、耐久性の低下や生産性の低下につながる場合がある。したがって、ユーザーの希望に応じてこれらの低下を最低限とするか否かを定めることができる。特に、耐久性の低下と生産性の低下がトレードオフになる場合が多いので、いずれを優先しながらクリーニング動作の強度を上昇させるかをユーザー操作に基づいて設定可能とされてよい。
【0102】
また、制御部40は、所定の基準以上の異常が検出された場合に、検出に係る情報を出
力する。通常のクリーニング動作の強度変更程度であれば、自動的にインクジェット記録装置1に対応させればよいが、異常の進行度合が大きくなると、記録ヘッド211の交換なども必要になってくるので、その要求や予告などに係る情報を出力させることで、ユーザーが画質への影響を別途注視したり、記録ヘッド211の交換の準備などを前もって行ったりすることができる。
【0103】
また、記録動作部20(ヘッドユニット21)は、複数の記録ヘッド211を有し、制御部40は、所定の基準以上の異常が検出された記録ヘッド211を特定し、出力に記録ヘッド211の特定情報を含める。記録ヘッド211単位又はモジュール単位で交換が可能な場合には、どの記録ヘッド211に異常が生じているかを出力情報に含めることで、交換が容易になる。また、ユーザーが交換の前に現在の記録状態を確認するなどについても、予め位置が特定されることで、確認が容易になる。
【0104】
また、所定の基準は、記録ヘッド211の交換要否に係る基準である。すなわち、インクジェット記録装置1は、記録ヘッド211の交換が必要になった場合にユーザーに情報出力を行うことで、ユーザーに対して必要なタイミングで必要な情報を効率よく提供することができる。
【0105】
また、ノズル面の異常とは、ノズル面を被覆する撥液膜の劣化である。撥液膜の劣化は、経時的に進むので、このように通常行われる加圧パージに対応付けて随時行われることで検査時間を節約しつつ、効率よく状況を取得することができる。また、撥液膜の劣化の状況に応じて略リアルタイムでクリーニング動作の強度も調整してクリーニングを行うことができるので、柔軟にインクを適正に吐出可能とすることができる。
【0106】
また、本実施形態のノズル面の異常検出方法は、記録動作部20のノズル27からインクを加圧パージさせた後に、ノズル面上の残存インクの液滴状態に係るノズル面検知部61による検知結果に基づいてノズル面の異常を検出する検出ステップを含む。
このように、残存インクの液滴状態が見やすい加圧パージ後であって、その後いずれにせよノズル面のクリーニングが行われるようなタイミングでノズル面の異常の検出を行うことで、効率よく容易かつ適切にノズル面の異常の進行を判断することができる。
【0107】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、加圧パージ後に走査しながら撮像又はレーザー検知を行い、そのまま直後のクリーニング動作に反映させてもよいし、一度ノズル面全体を走査して検知を行ってクリーニング条件を設定してから、再度走査させてクリーニング動作を実行させてもよい。
【0108】
また、上記実施の形態では、ノズル面検知部61、61aがノズル面に対向する位置から及びノズル面を横から撮像、検知するものとして説明したが、いずれか一方のみであってもよい。また、正確に対向位置や横からの撮像を行うものではなく、斜め方向からの撮像を行っても、同様の結果を得ることができる。
【0109】
また、上記実施の形態では、横からの撮像、検知は、幅方向に走査させながら搬送方向に撮影方向やレーザー光の出力方向を定めたが、記録ヘッド211又はモジュールごとに幅方向に延びる同列内のノズル27のインク吐出タイミングを異ならせることで、幅方向に撮影方向やレーザー光の出力方向を定めても、残存インクの液面高さの最大値などを特定することが可能である。
【0110】
また、ノズル面検知部61、61aは、撮像部とレーザー検知部とを併用してノズル面の異常を検知してもよい。また、残存インクの塊の広がり具合に係る上記パラメーターが適切に算出可能なものであれば、他の方法であってもよい。
【0111】
また、上記実施の形態では、ノズル面の劣化として撥液膜の劣化について説明したが、異物が固着した場合などについても残存インクが引き寄せられるなどで広がる場合があり、同様に検出され得る。
【0112】
また、上記実施の形態では、クリーニングで対応できない場合に記録ヘッド211(モジュール)の交換要求に係る報知動作を行うものとして説明したが、もう少し早い段階で間もなく記録ヘッド211(モジュール)の交換が必要になる旨予告を行う報知動作を行ってもよい。
【0113】
また、上記実施の形態では、ラインヘッドを有し、シングルパス方式で記録動作を行うインクジェット記録装置1を例に挙げて説明したが、これらに限られるものではない。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0114】
1、1a インクジェット記録装置
10 搬送部
11 駆動ローラー
12 搬送ベルト
13 従動ローラー
14 搬送モーター
15 ローラー
20 記録動作部
21、21C,21M、21Y ヘッドユニット
210 キャリッジ
211 記録ヘッド
212 駆動基板
25 ヘッド駆動部
26 圧電素子
27 ノズル
27a 開口
29 駆動波形信号生成部
30 クリーニング部
30a 支持台
31 クリーニング部材
32 貯液部
33 ローラー
34 ローラー駆動部
35 支持台駆動部
40 制御部
41 CPU
42 RAM
50 記憶部
51 判定データ
52 クリーニング設定
60 計測部
61、61a ノズル面検知部
70 通信部
81 操作受付部
82 表示部
90 電力供給部
L1、L2 走査線
M 記録媒体
図1
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