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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/183 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
B62D1/183
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020072891
(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2021169257
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】岡 邦洋
(72)【発明者】
【氏名】野沢 康行
(72)【発明者】
【氏名】北原 圭
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/193956(WO,A1)
【文献】特開2006-347243(JP,A)
【文献】特表2019-529252(JP,A)
【文献】特開2020-034044(JP,A)
【文献】特開2018-057065(JP,A)
【文献】特開2003-137112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/183
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵を行うための操作部材を操作領域と格納領域との間で移動させるステアリング装置であって、
後端部に前記操作部材が接続された軸部材とともに前記軸部材の軸方向に移動し、かつ、前記軸部材を回転可能に支持する第一移動部と、
前記第一移動部を前記軸方向に移動可能に保持する第二移動部と、
前記第二移動部を前記軸方向に移動可能に保持する保持部と、
前記第一移動部及び前記第二移動部の間に配置されて、前記第一移動部を前記軸方向に移動させる第一ネジ機構部と、
前記第二移動部及び前記保持部の間に配置されて、前記第二移動部を前記軸方向に移動させる第二ネジ機構部と、
前記第一ネジ機構部及び前記第二ネジ機構部を駆動するための駆動力を出力する駆動部と、
前記第一ネジ機構部、前記第二ネジ機構部及び前記駆動部に連結されて、前記駆動部の駆動力を前記第一ネジ機構部及び前記第二ネジ機構部に伝達する伝達機構部と、を備え、
前記第一ネジ機構部は、前記操作部材が前記格納領域と前記操作領域との間を移動する場合に正作動するように設けられており、かつ、前記操作部材が前記格納領域に向かう外力を受けた場合に、当該外力により逆作動しない逆効率に設定されており、
前記第二ネジ機構部は、前記第一ネジ機構部よりも高い逆効率であり、かつ、前記外力により逆作動しうる逆効率に設定されている、
ステアリング装置。
【請求項2】
前記第一ネジ機構部は、前記第一移動部に固定された第一ナットと、前記軸方向に延設された状態で前記第一ナットに螺合し、前記伝達機構部を介して前記駆動部によって回転される滑りネジとを有し、
前記第二ネジ機構部は、前記伝達機構部を介して前記駆動部によって回転される第二ナットと、前記第二ナットに螺合し、前記保持部に対し前記軸方向に延設するように、前記保持部に固定されたボールネジとを有する、
請求項に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記第二ネジ機構部は、前記第二ナットに対する前記ボールネジの軸心位置を調整するための調心機構部とを備える、
請求項に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記第一ネジ機構部は、前記滑りネジに対する前記第一ナットのガタツキを抑制する抑制機構部とを備える、
請求項またはに記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記駆動部を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記第一ネジ機構部または前記第二ネジ機構部に対する過大な逆入力を検出した場合には、前記駆動部を制御して、前記逆作動を規制する、
請求項1~のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記第一移動部に接続された衝撃吸収部材であって、前記軸部材および前記第一移動部の少なくとも一方の前端部が、前記軸方向かつ前方に移動することで衝撃を吸収する衝撃吸収部材を備える、
請求項1~のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記第二ネジ機構部の移動量及び正効率のそれぞれが前記第一ネジ機構部の移動量及び正効率よりも大きい、
請求項1~のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記第二移動部に対する前記第一移動部の移動をガイドするガイド機構部を有する、
請求項1~のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記保持部は、車体に固定される第一固定部及び第二固定部を有し、
前記第二固定部は、前記第一固定部よりも車両の前方に配置され、前記第一固定部よりも衝撃吸収性が大きい、
請求項1~のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイール等の操作部材を移動させることで運転者の前方空間を広げることのできるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転においてシステムが全責任をもつ自動運転レベル3以上の状態では、運転者は、車両の操作に責任を持つ必要がないため、ステアリングホイール等の操作部材を持つ必要がなくなる。例えば、特許文献1では、自動運転時に運転者の快適性を高めるために、操作部材が移動し運転者の前方の空間を広く確保する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-206153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したような操作部材を格納できるステアリング装置においては、操作部材の移動をロックするためのロック機構が必要である。しかしながら、専用のロック機構を設けた場合、それだけ装置の複雑化を招いてしまう。
【0005】
本発明は、装置の複雑化を抑制しつつ、操作部材の移動をロック可能なステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るステアリング装置は、車両の操舵を行うための操作部材を操作領域と格納領域との間で移動させるステアリング装置であって、後端部に操作部材が接続された軸部材とともに軸部材の軸方向に移動し、かつ、軸部材を回転可能に支持する第一移動部と、第一移動部を軸方向に移動可能に保持する第二移動部と、第二移動部を軸方向に移動可能に保持する保持部と、第一移動部及び第二移動部の間に配置されて、第一移動部を軸方向に移動させる第一ネジ機構部と、第二移動部及び保持部の間に配置されて、第二移動部を軸方向に移動させる第二ネジ機構部と、第一ネジ機構部及び第二ネジ機構部を駆動するための駆動力を出力する駆動部と、第一ネジ機構部、第二ネジ機構部及び駆動部に連結されて、駆動部の駆動力を第一ネジ機構部及び第二ネジ機構部に伝達する伝達機構部と、を備えている。第一ネジ機構部及び第二ネジ機構部の一方は、操作部材が格納領域と操作領域との間を移動する場合に正作動するように設けられており、かつ、操作部材が格納領域に向かう外力を受けた場合に、当該外力により逆作動しない逆効率に設定されている。
【0007】
また、本発明の他の態様に係るステアリング装置は、車両の操舵を行うための操作部材を操作領域と格納領域との間で移動させるステアリング装置であって、後端部に操作部材が接続された軸部材とともに軸部材の軸方向に移動し、かつ、軸部材を回転可能に支持する第一移動部と、第一移動部を軸方向に移動可能に保持する第二移動部と、第二移動部を軸方向に移動可能に保持する保持部と、第一移動部及び第二移動部の間に配置されて、第一移動部を軸方向に移動させる第一ネジ機構部と、第二移動部及び保持部の間に配置されて、第二移動部を軸方向に移動させる第二ネジ機構部と、第一ネジ機構部を駆動するための駆動力を出力する第一駆動部と、第二ネジ機構部を駆動するための駆動力を出力する第二駆動部と、を備えている。第一ネジ機構部及び第二ネジ機構部のそれぞれは、操作部材が格納領域と操作領域との間を移動する場合に正作動するように設けられており、かつ、操作部材が格納領域に向かう外力を受けた場合に、当該外力により逆作動しない逆効率に設定されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、装置の複雑化を抑制しつつ、操作部材の移動をロック可能なステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るステアリング装置の外観を示す斜視図である。
図2】実施の形態に係るステアリング装置の構造を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係るケース体に対する第一ナットの支持構造を示す斜視図である。
図4】実施の形態に係る抑制機構部の概略構成を示す模式図である。
図5】比較例に係る第一ナットと係合部との接合構造を示す模式図である。
図6】実施の形態に係る調心機構部の各部を分解して示す分解斜視図である。
図7】実施の形態に係る調心機構部の各部を分解して示す分解斜視図である。
図8】実施の形態に係るステアリング装置の構造を模式的に示す図である。
図9】実施の形態に係るステアリング装置の機能構成を示すブロック図である。
図10】変形例に係るステアリング装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るステアリング装置の実施の形態及びその変形例について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態及び変形例は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態及び変形例で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ及びステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態及び変形例における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、及び比率とは異なる場合がある。さらに、以下の実施の形態において、平行及び直交などの、相対的な方向または姿勢を示す表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密には、その方向または姿勢ではない場合も含む。例えば、2つの方向が平行である、とは、当該2つの方向が完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行であること、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。
【0012】
(実施の形態)
まず、実施の形態に係るステアリング装置100の構成及び動作の概要について説明する。図1は、実施の形態に係るステアリング装置100の外観を示す斜視図である。図2は、実施の形態に係るステアリング装置100の構造を模式的に示す図である。なお、図2では、ステアリング装置100の各部をわかりやすくするために模式的に図示しており、その位置関係が図1とは異なっていたり、図示が省略された部材もある。
【0013】
本実施の形態に係るステアリング装置100は、例えば手動運転と自動運転とを切り替えることができる自動車、バス、トラック、建機、または農機などの車両に搭載される装置である。また、ステアリング装置100は、車両の操舵を行うための操作部材101を操作領域と格納領域との間で移動させる機能も有している。
【0014】
具体的には、ステアリング装置100は、図1及び図2に示すように、操作部材101と、第一移動部110と、第二移動部120と、保持部130と、第一ネジ機構部140と、第二ネジ機構部150と、駆動部160と、伝達機構部170とを備えている。
【0015】
操作部材101は、例えばステアリングホイールと呼ばれる環状の部材であり、軸部材118の後端部に接続されている。具体的には、操作部材101は、支持部材102を介して操作支持部103に接続されている。操作支持部103は、運転者の操作による操作部材101の回転に伴って回転する部材であり、操作部材101と軸部材118との間に介在する部材である。つまり、軸部材118は、操作支持部103を介して操作部材101と接続されており、操作部材101のステアリング軸Aa周りの回転は、操作支持部103を介して軸部材118に伝達される。なお、操作部材101は、直接的に軸部材118に固定されていてもよい。
【0016】
なお、図1において、軸部材118の軸方向(ステアリング軸Aaに平行な方向)はX軸方向と一致し、ステアリング装置100における前方は、ステアリング装置100が搭載された車両における前方でありX軸マイナス方向である。ステアリング装置100における後方は前方とは反対側の方向でありX軸プラス方向である。また、図1において、軸部材118の回転軸であるステアリング軸Aaは一点鎖線で表されている。また、以下で、単に「軸方向」という場合、軸部材118の軸方向(つまり、ステアリング軸Aaに平行な方向)を意味する。さらに、本実施の形態では、軸方向と前後方向とは一致する。
【0017】
操作部材101は、運転者の操作によりステアリング軸Aaを中心に回転し、その回転量等に基づいて、車両の1以上のタイヤが転舵される。具体的には、ステアリング装置100は、いわゆるステアバイワイヤと言われるシステムに組み込まれる装置であり、操作部材101とタイヤとは機械的には接続されていない。ステアリング装置100から出力される、操作部材101の操舵角等を示す情報に基づいて、転舵用モータが1以上のタイヤを駆動する。なお、ステアリング装置100は、運転者の力に反するトルクを操作部材101に付与する反力装置も備えているが、その図示及び説明は省略する。
【0018】
また、本実施の形態では、操作支持部103の運転者側(X軸プラス側)にエアバッグ収容部104が固定されており、操作部材101を運転者側から見た場合、操作部材101の中央部分にエアバッグ収容部104が位置する。エアバッグ収容部104にはエアバッグ(図9参照)が展開可能に収容されており、エアバッグ200は、例えば車両の衝突時にエアバッグ収容部104を押し破って展開する。
【0019】
第一移動部110は、軸部材118とともに軸方向に移動し、かつ、軸部材118を回転可能に支持する部位である。具体的には、第一移動部110は、軸部材118を回転可能に支持する箱体111を有する。箱体111には例えば、ウインカーを差動させるスイッチ等が収容されている。
【0020】
第二移動部120は、第一移動部110の箱体111をスライドさせるガイド機構部121を有している。ガイド機構部121は、一対のレール部122と、各レール部122によって軸方向のスライド移動が案内される一対の可動部123とを備えている。
【0021】
各レール部122は、軸方向に長尺なレール体であり、可動部123を軸方向にスライド自在に保持している。各レール部122は、左右方向(Y軸方向)に所定の間隔をあけて対向するように配置されている。各可動部123は、箱体111の左右の外側面に固定されている。これにより、箱体111及び各可動部123が各レール部122により案内されることで、軸方向に往復スライドできるようになっている。つまり、第一移動部110は、第二移動部120によって軸方向に移動可能に保持されている。
【0022】
また、一対のレール部122は、連結部材124によって連結されている。具体的には、連結部材124は、左右方向に長尺な金属製の板体であり、その両端部が各レール部122の上端部に固定されている。これにより、連結部材124が各レール部122間に架け渡された状態で、各レール部122を支持している。このように、各レール部122が連結部材124を介して一体化されているので、各レール部122及び連結部材124の全体としての剛性が高められる。これにより、第一移動部110が第二移動部120に対してスライドする時や第二移動部120が保持部130に対してスライドする時のガタツキを抑制することができる。
【0023】
一対のレール部122のうち、一方のレール部122(本実施の形態ではY軸マイナス方向のレール部122)には、駆動部160及び伝達機構部170を保持するフレーム部125が設けられている。このフレーム部125は、当該レール部122に対して一体化されており、当該レール部122とともに移動する。
【0024】
保持部130は、第二移動部120を軸方向にスライドさせるガイド機構部131と、ガイド機構部131を支持するベース部材134とを有している。
【0025】
ガイド機構部131は、一対のレール部132と、各レール部132によって軸方向のスライド移動が案内される一対の可動部133とを備えている。各レール部132は、軸方向に長尺なレール体であり、可動部133を軸方向にスライド自在に保持している。各レール部132は、左右方向に所定の間隔をあけて対向するように配置されている。各可動部133は、各レール部122の左右の外側面に固定されている。これにより、各レール部122及び各可動部133が各レール部132により案内されることで、軸方向に往復スライドできるようになっている。つまり、第二移動部120は、保持部130によって軸方向に移動可能に保持されている。
【0026】
また、ベース部材134は、一対のレール部132を連結している。具体的には、ベース部材134は、下方が開放された略箱形状の金属製の部材である。ベース部材134の左右方向の両端部には、各レール部132の上端部が固定されている。これにより、ベース部材134が各レール部132間に架け渡された状態で、各レール部132を支持している。このように、各レール部132がベース部材134を介して一体化されているので、各レール部132及びベース部材134の全体としての剛性が高められる。これにより、第一移動部110が第二移動部120に対してスライドする時や第二移動部120が保持部130に対してスライドする時のガタツキを抑制することができる。
【0027】
また、ベース部材134には、車体50に固定される第一固定部135及び第二固定部136が設けられている。第一固定部135は、第二固定部136よりも後方に配置されており、ベース部材134と車体50とを連結することで、ベース部材134を車体50に固定している。第二固定部136は、第一固定部135よりも前方に配置されており、ベース部材134と車体50とを連結することで、ベース部材134を車体50に固定している。
【0028】
第二固定部136は、第一固定部135よりも剛性の低い構造を有している。具体的には、第一固定部135は、単にボルトなどの締結具であるのに対して、第二固定部136は、折り曲げられた板金及びボルトである。ベース部材134及び車体50は、第二固定部136を介して固定されている。つまり、板金における折り曲げられた部位が第一固定部135よりも脆弱であるために、車両前方が衝突したとしても、その脆弱な部位が変形することにより衝撃を吸収することが可能である。つまり、第二固定部136は、第一固定部135よりも衝撃吸収性が大きいと言える。なお、第二固定部136は、第一固定部135よりも衝撃吸収性が大きいのであれば、その構造は如何様でもよい。具体的には、前述したように形状的に脆弱な部位を形成してもよいし、例えばゴムなどの弾性材料を第二固定部の一部に組み込むことで、脆弱な部位を形成してもよい。
【0029】
第一ネジ機構部140は、第一移動部110及び第二移動部120の間に配置されて、第一移動部110を軸方向に移動させる。具体的には、第一ネジ機構部140は、ケース体141と、第一ナット142と、滑りネジ143と、抑制機構部144とを有している。
【0030】
図3は、実施の形態に係るケース体141に対する第一ナット142の支持構造を示す斜視図である。図3においては、ケース体141の外形を破線で示している。
【0031】
図3に示すように、ケース体141は、滑りネジ143を収容した状態で当該滑りネジ143を回転自在に保持するケースである。ケース体141は、軸方向に沿って延設されており、その内部に滑りネジ143が軸方向に沿うように配置されている。また、ケース体141には、第一ナット142も収容されており、この第一ナット142に対して、滑りネジ143が螺合している。
【0032】
第一ナット142は、後述する衝撃吸収部材180を介して、第一移動部110の箱体111に固定されている。また、第一ナット142は、一対のブッシュ175により軸方向の移動をガイドされている。具体的には、一対のブッシュ175は、樹脂製であり、X軸方向に長尺な部材である。一対のブッシュ175は、Y軸方向で対向するように、ケース体141の上縁に対して保持されている。第一ナット142は、一対のブッシュ175の間に介在している。第一ナット142は、各ブッシュ175の内側面に当接している。これにより、第一ナット142の姿勢が安定化される。また、各ブッシュ175の内側面はガイド面となって第一ナット142の軸方向の移動をガイドする。
【0033】
第一ナット142の下面には、プランジャ176が設けられている。プランジャ176は、Z軸方向に延設されており、その下端面からボール177が出没自在に突出している。ボール177は、プランジャ176に内蔵されたバネによって突出する方向に付勢されている。ボール177は、ケース体141の内底面に当接している。これにより、第一ナット142の傾きをボール177で吸収することができ、第一ナット142の姿勢を安定化することができる。また、ボール177は、第一ナット142が軸方向に移動する際に、ケース体141の内底面上を転がりながら、第一ナット142の移動を案内する。
【0034】
滑りネジ143は、ケース体141内において軸方向に沿って配置されている。滑りネジ143の前端部は、伝達機構部170に接続されており、他端部はケース体141によって回転自在に軸支されている。
【0035】
抑制機構部144は、滑りネジ143に対する第一ナット142のガタツキを抑制する部位である。図4は、実施の形態に係る抑制機構部144の概略構成を示す模式図である。図4に示すように、抑制機構部144は、弾性体145と、締結部146と、座金147とを有している。弾性体145は、衝撃吸収部材180の一部である係合部181と、第一ナット142との間に配置され、係合部181及び第一ナット142に挟持されたゴム部材である。係合部181及び弾性体145は、滑りネジ143に対して干渉しておらず、滑りネジ143に対する第一ナット142の移動を阻害していない。係合部181及び弾性体145は、例えば、滑りネジ143が挿通される孔を有している。
【0036】
締結部146は、係合部181と第一ナット142とを締結するネジ体である。締結部146は、第一ナット142及び弾性体145を貫通した状態で、係合部181に形成された雌ねじに螺合している。座金147は、締結部146のネジ頭と第一ナット142との間に介在するバネワッシャである。
【0037】
図5は、比較例に係る第一ナット142と係合部181との接合構造を示す模式図である。図5に示すように、比較例においては、弾性体145及び座金147が設けられていない点で、本実施の形態と異なる。弾性体145及び座金147が設けられていないと、滑りネジ143と第一ナット142とにガタツキがあるので、締結部146で第一ナット142と係合部181とを締結したとしても第一ナット142と係合部181とが滑りネジ143に対して傾いた状態で固定されてしまうおそれがある。具体的には、係合部181が取り付けられる第一移動部110のガタツキと、滑りネジ143が取り付けられる第二移動部120のガタツキとによって、係合部181と滑りネジ143が傾いている場合がある。この場合において、係合部181と第一ナット142とを固定すると、第一ナット142が滑りネジ143に対して傾きを持つ状態となる(図5参照)。これにより、第一ナット142と滑りネジ143とが相対移動する際のトルクが増加してしまう。
【0038】
ここで、本実施の形態では、第一ナット142が一対のブッシュ175及びプランジャ176により第一ナット142の姿勢が安定化されているので、第一ナット142のガタツキが抑制されている。
【0039】
さらに、本実施の形態では、図4に示すように弾性体145と座金147とが前述の傾きを吸収するので、ガタツキの発生やトルクの増加を抑制することが可能である。特に、本実施の形態では、座金147が設けられているために、弾性体145に永久ひずみが生じた際の締結部146の緩みを抑制することもできる。なお、本実施の形態では、弾性体145及び座金147を備えた抑制機構部144を例示した。しかしながら、抑制機構部は、滑りネジ143に対する第一ナット142のガタツキを抑制できるのであれば、その構造は如何様でもよい。例えば、弾性体及び座金の一方を備えた抑制機構部であってもよい。
【0040】
第二ネジ機構部150は、第二移動部120及び保持部130の間に配置されて、第二移動部120を軸方向に移動させる。具体的には、第二ネジ機構部150は、第二ナット152と、ボールネジ153と、調心機構部154とを備えている。
【0041】
第二ナット152は、駆動部160によって回転される部材であり、伝達機構部170に連結されている。この第二ナット152に対してボールネジ153が螺合している。ボールネジ153における前端部は、保持部130の1つのレール部132(本実施の形態では、Y軸マイナス方向のレール部132)に対して軸支され固定されている。つまり、ボールネジ153は保持部130に対して回転しないように固定されている。具体的には、当該レール部132の前端部には、下方に向けて突出した軸支部138が設けられている。この軸支部138に対して、ボールネジ153の前端部が調心機構部154を介して連結されている。
【0042】
ここで、調心機構部154について説明する。調心機構部154は、第二ナット152に対するボールネジ153の軸心位置を調整するための機構である。図6及び図7は、実施の形態に係る調心機構部154の各部を分解して示す分解斜視図である。具体的には、図6は、調心機構部154の各部を後方から見た斜視図であり、図7は、調心機構部154の各部を前方から見た斜視図である。
【0043】
まず、軸支部138について説明する。軸支部138には、ボールネジ153の前端部が貫通する貫通孔381が形成されている。図7に示すように、軸支部138の前面は、YZ平面に平行な平面となっている。一方、図6に示すように、軸支部138の後面には、貫通孔381を上下方向で挟む一対の凹部382、383が形成されている。凹部382は、貫通孔381の上方に配置されており、Y軸方向に長尺な矩形状で窪んでいる。凹部383は、貫通孔381の下方に配置されており、Y軸方向に長尺な切り欠きである。この一対の凹部382、383の間の部分を基部384と称す。基部384は、Y軸方向に長尺に形成されており、その上面384a及び下面384bがそれぞれXY平面に平行な平面となっている。この上面384a及び下面384bは、ボールネジ153の軸心位置の調整に寄与する。つまり、軸支部138は、調心機構部154の一部である。
【0044】
次に、調心機構部154の詳細について説明する。図6及び図7に示すように、調心機構部154は、上述した軸支部138に加えて、第一調心部材51と、第二調心部材52と、第一座金53と、第二座金54と、ナット55とを備えている。
【0045】
第一調心部材51は、略円環状の部材である。第一調心部材51の前面には、Z軸方向に長尺な凸部511が形成されている。凸部511の一対の外側面は、それぞれXZ平面に平行な平面である。凸部511は、第一調心部材51の中央部を通過するように延設されている。また、第一調心部材51の中央部には、ボールネジ153の前端部が貫通する貫通孔512が形成されている。貫通孔512は、凸部511内に収められている。第一調心部材51は、貫通孔512を貫通したボールネジ153に対して、ボールネジ153の前端部における所定位置での軸方向の移動が規制されている。
【0046】
第二調心部材52は、略円環状の部材である。第二調心部材52の後面には、Z軸方向に長尺な第一凹部521が形成されている。第一凹部521は、第二調心部材52の中央部を通過するように延設されている。また、第二調心部材52の中央部には、ボールネジ153の前端部が貫通する貫通孔525が形成されている。貫通孔525は、第一凹部521内に収められている。第一凹部521の一対の内側面は、それぞれXZ平面に平行な平面である。第一凹部521内には、第一調心部材51の凸部511が嵌合する。第一凹部521の一対の内側面に対して、凸部511の一対の外側面が摺動可能であるため、第一調心部材51と第二調心部材52とが相互にZ軸方向に移動自在であるとともに、相互の回転が規制されている。つまり、第一調心部材51と第二調心部材52とを貫通したボールネジ153が、Z軸方向に移動または傾いた場合の位置ズレを第一調心部材51と第二調心部材52との相互の移動で許容している。
【0047】
一方、第二調心部材52の前面には、Y軸方向に長尺な第二凹部522が形成されている。第二凹部522内には貫通孔525が収められている。第二凹部522は、第二調心部材52の中央部を通過するように延設されている。第二凹部522の一対の内側面は、それぞれXY平面に平行な平面である。第二凹部522内には、軸支部138の基部384が嵌合する。第二凹部522の一対の内側面に対して、基部384の一対の外側面が摺動可能であるため、第二調心部材52と軸支部138とが相互にY軸方向に移動自在であるとともに、相互の回転が規制されている。つまり、第二調心部材52と軸支部138を貫通したボールネジ153がY軸方向に移動または傾いた場合の位置ズレを、第二調心部材52と軸支部138との相互の移動で許容している。
【0048】
第一座金53には、軸支部138の直前方に配置された状態でボールネジ153の前端部が貫通している。第一座金53は、前面が前方に向かって凸となる球面となっている。第二座金54は、第一座金53の直前方に配置されている。第二座金54は、後面が前方に向かって凹となる球面となっている。第一座金の前面と第二座金54の後面とが摺動することで、第一調心部材51と第二調心部材52と軸支部138とで許容した位置ズレを吸収することができる。これにより、組立時において、第二ナット152に対するボールネジ153の軸心位置を調整することができる。
【0049】
ナット55は、ボールネジ153の前端部に形成された雄ネジに対して締結される。具体的には、ナット55は、雄ネジに締結されて、第一調心部材51とともに他の部材(第二調心部材52、軸支部138、第一座金53及び第二座金54)を挟持することで、軸心位置が調整されたボールネジ153を軸支部138に固定する。このため、組み立て後においては、ボールネジ153の位置及び姿勢が固定される。
【0050】
図1及び図2に示すように、衝撃吸収部材180は、第一移動部110と第一ネジ機構部140との間に介在し配置されており、これにより、車両と他の物体との衝突によって生じる運転者の操作部材101への衝突(二次衝突)の衝撃を吸収することができる。
【0051】
衝撃吸収部材180は、金属製の部材であり、係合部181と、取付部182と、変形部183とを有している。具体的には、係合部181は、衝撃吸収部材180の下端部であり、滑りネジ143が貫通された状態で第一ナット142に固定されている。取付部182は、衝撃吸収部材180の上端部であり、第一移動部110の箱体111に対して取り付けられ、固定されている。変形部183は、係合部181と取付部182との間に設けられた、U字状に折り曲げ形成された部位であり、二次衝突時に変形して衝撃エネルギーを吸収する部位である。変形部183は、例えば、折り曲げられた部分(U字状の底部分)が前方を向くように設けられている。
【0052】
また、図2に示すように、第一移動部110の箱体111の内方には、軸部材118の前方への移動を許容する、移動用空間の一例であるEA(Energy Absorption)用空間166が形成されている。二次衝突時には、衝撃吸収部材180が、第一移動部110からの押圧力を受けて変形しながら、軸部材118が、EA用空間166内を前方に移動する。これにより、二次衝突時の衝撃エネルギーが吸収され、運転者の安全確保が図られる。EA用空間166の軸方向の長さは、例えば、ステアリング装置100に要求される衝撃吸収能力、及び、衝撃吸収部材180の特性等によって決定される。
【0053】
また、衝撃吸収部材180による衝撃吸収の手法に特に限定はない。衝撃吸収部材180は、単一の部材の変形ではなく、互いに当接する2つの部材のずれ(摩擦力)を利用して衝撃を吸収してもよい。また、樹脂部材と衝撃吸収部材180とを併用することで、樹脂部材の破断と、金属製の衝撃吸収部材180の変形等とにより、衝撃エネルギーの吸収が2段階で行われてもよい。例えば、U字状の衝撃吸収部材180(図1参照)に、上下方向で貫通する樹脂ピンを配置した場合を想定する。この場合、二次衝突時において、樹脂ピンが破断することで衝撃エネルギーの一部が吸収され、引き続き衝撃吸収部材180が変形することで衝撃エネルギーが更に吸収される。
【0054】
図1及び図2に示すように、駆動部160は、第一ネジ機構部140及び第二ネジ機構部150を同期駆動させる駆動源である。駆動部160は、フレーム部125によって保持されている。駆動部160は、特に限定されるものではないが本実施の形態の場合は、電動モータが用いられている。
【0055】
伝達機構部170は、第一ネジ機構部140、第二ネジ機構部150及び駆動部160に連結されて、駆動部160の駆動力を第一ネジ機構部140及び第二ネジ機構部150に伝達する。具体的には、伝達機構部170は、フレーム部125によって保持されている。伝達機構部170は、特に限定されるものではなく、駆動部160の駆動力を、第一ネジ機構部140の滑りネジ143及び第二ネジ機構部150の第二ナット152に伝達できる機構であればよいが、ベルトドライブ、歯車の組み合わせなど任意に採用することができる。本実施の形態の場合は、歯車の組み合わせが採用されている。
【0056】
次に、操作部材101を操作領域と格納領域とで移動させる際の各部の動作について説明する。図8は、実施の形態に係るステアリング装置100の構造を模式的に示す図である。具体的には、図8図2に対応する図である。図2では、操作部材101が操作領域に配置された状態を示し、図8では操作部材101が格納領域に配置された状態を示している。ここで、操作領域とは、ユーザが操作部材101を操作して車両を運転できる領域であり、第一移動部110、第二移動部120及び保持部130が伸張した際の操作部材101の位置である。また、格納領域とは、自動運転時に操作部材101が格納されて、ユーザによる操作を受け付けない領域であり、第一移動部110、第二移動部120及び保持部130が収縮した際の操作部材101の位置である。なお、操作領域及び格納領域のそれぞれは、軸方向におけて一定の許容範囲が設けられている。
【0057】
また、本実施の形態では、操作部材101が操作領域から格納領域まで移動する際の、電動モータである駆動部160の回転方向、滑りネジ143の回転方向、第二ナット152の回転方向を正回転とする。一方、操作部材101が格納領域から操作領域まで移動する際の駆動部160の回転方向、滑りネジ143の回転方向、第二ナット152の回転方向を逆回転とする。
【0058】
なお、ここでは、各部の回転方向を「正回転」、「逆回転」と表現しているが、例えば「正回転」であっても各部の回転方向が同一ではない場合もありうる。つまり、駆動部160と、滑りネジ143及び第二ナット152とは、伝達機構部170を介して連結されているので、伝達機構部170の構成によっては、滑りネジ143及び第二ナット152の少なくとも一方が駆動部160の回転方向とは逆向きに回転する場合も想定される。この場合においても、各部の回転方向を「正回転」と称す。「逆回転」においても同様である。
【0059】
図2に示すように、操作領域に操作部材101が配置された状態において、電動モータである駆動部160が正回転すると、伝達機構部170を介して第一ネジ機構部140の滑りネジ143が正回転するとともに、第二ネジ機構部150の第二ナット152も正回転する。
【0060】
これにより、第一ネジ機構部140では、滑りネジ143の回転運動が第一ナット142の直進運動に変換されて正作動する。第一ナット142は滑りネジ143に沿ってX軸マイナス方向に移動するので、第一移動部110もX軸マイナス方向に移動して第二移動部120に接近する。
【0061】
一方、第二ネジ機構部150では、第二ナット152の回転運動がボールネジ153の直進運動に変換されて正作動する。ボールネジ153は第二ナット152に対してX軸プラス方向に移動するので、第二移動部120が保持部130に対して接近する。
【0062】
これらのことにより、第一移動部110、第二移動部120及び保持部130が収縮し、図8に示すように、操作部材101が格納領域に配置される。操作部材101が格納領域に配置されていると、運転者の前方の空間が広げられ、例えば運転者の快適性が向上する。
【0063】
次に、格納領域に操作部材101が配置された状態において、電動モータである駆動部160が逆回転すると、伝達機構部170を介して第一ネジ機構部140の滑りネジ143が逆回転するとともに、第二ネジ機構部150の第二ナット152も逆回転する。
【0064】
これにより、第一ネジ機構部140では、滑りネジ143の回転運動が第一ナット142の直進運動に変換されて正作動する。第一ナット142は滑りネジ143に沿ってX軸プラス方向に移動するので、第一移動部110もX軸プラス方向に移動して第二移動部120から離間する。
【0065】
一方、第二ネジ機構部150では、第二ナット152の回転運動がボールネジ153の直進運動に変換されて正作動する。ボールネジ153は第二ナット152に対してX軸マイナス方向に移動するので、第二移動部120が保持部130に対して離間する。
【0066】
これらのことにより、第一移動部110、第二移動部120及び保持部130が伸長し、図2に示すように、操作部材101が操作領域に配置される。また、操作領域においては、駆動部160の正回転及び逆回転を制御することで、操作部材101の位置を調整することも可能である。つまり、運転者は、自身の意図により、操作部材101の前後方向の位置を変更することができる。これにより、運転者は、操作部材101の位置を、自身の体形または好み等に応じた位置に調整することができる。
【0067】
このように、第一ネジ機構部140及び第二ネジ機構部150のそれぞれは、操作部材101が格納領域と操作領域との間で移動する場合に正作動するように設けられている。
【0068】
図8では、第一ネジ機構部140と第二ネジ機構部150とのそれぞれの移動量L1、L2を示している。第一ネジ機構部140の移動量L1は、滑りネジ143に対する第一ナット142の相対的な移動可能範囲のことである。また、第二ネジ機構部150の移動量L2は、第二ナット152に対するボールネジ153の相対的な移動可能範囲のことである。操作部材110を操作領域から格納領域へ移動(格納動作)または格納領域から操作領域へと移動(展開動作)するように、駆動部160で第一ネジ機構部140および第二ネジ機構部150を同期駆動するとき、第二ネジ機構部150の移動量L2は、第一ネジ機構部140の移動量L1よりも大きくされている。
【0069】
具体的に例えば、第二ネジ機構部150の正効率を第一ネジ機構部140の正効率よりも大きく設定することにより、移動量L2が移動量L1よりも大きくなるようにしている。ここで、正効率とは、回転運動を直進運動に変換するときの入力に対する出力の比である。具体的には、第一ネジ機構部140の正効率は、滑りネジ143を回転させて第一ナット142を直進運動させる際の、入力に対する出力の比である。第二ネジ機構部150の正効率は、第二ナット152を回転させてボールネジ153を直進運動させる際の、入力に対する出力の比である。正効率の調整は、第一ネジ機構部140及び第一ネジ機構部140のそれぞれのリード、リード角、正摩擦角、静摩擦係数などを調整することで行うことができる。
【0070】
このように、第二ネジ機構部150の移動量L1及び正効率のそれぞれは、第一ネジ機構部140の移動量L2及び正効率よりも大きい。このため、移動量L1<移動量L2である第一ネジ機構部140と第二ネジ機構部150とが駆動部160により同期駆動されたとしても、第一ナット142とボールネジ153とを同じタイミングで移動させるとともに、同じタイミングで移動を完了させることができる。
【0071】
なお、「正効率が大きい」とは、「減速比が小さい」、または「リードが大きい」とも言いかえることも可能である。つまり、第一ネジ機構部140と第二ネジ機構部150の効率(減速比/リード)を異ならせてあるため、それらを同期駆動する場合に、移動量の異なる第一ネジ機構部140と第二ネジ機構部150の移動を同じタイミングで完了させることができる。
【0072】
また、第一ネジ機構部140は、操作部材101が格納領域に向かう外力F1を受けた場合に、当該外力F1により逆作動しない逆効率に設定されている。具体的に例えば、外力F1は、人間が操作部材110を押し引きすることにより操作部材110に加わる力と設定できる。外力F1は、二次衝突時に操作部材110に加わる力と設定することもできる。ここで、逆効率とは、直進運動を回転運動に変換するときの入力に対する出力の比である。具体的には、第一ネジ機構部140の逆効率は、第一ナット142を直進させて、滑りネジ143を回転運動させる際の、入力に対する出力の比である。逆効率の調整は、第一ネジ機構部140のリード、リード角、逆摩擦角、逆摩擦係数などを調整することで行うことができる。
【0073】
図2に示すように、操作部材101に対して格納領域に向かう外力F1が付与されたとする。第一ネジ機構部140では、外力F1を受けたときに逆作動しない逆効率に設定されているので、第一ナット142の滑りネジ143に対する直進移動が規制される。つまり、第一移動部110の第二移動部120に対する軸方向の移動も規制されている。
【0074】
一方、この外力F1は、第一移動部110を介して第二移動部120にも作用する。ここで、第二ネジ機構部150では、ボールネジ153が採用されていることで逆効率が高くなっている。このため、外力F1により第二ナット152を介してボールネジ153が直進移動するおそれがある。ところで、第二ナット152は、伝達機構部170を介して第一ネジ機構部140の滑りネジ143に連結されている。前述したように、第一ネジ機構部140では逆作動しない逆効率に設定されているために、外力F1を受けたとしても滑りネジ143の回転が規制された状態である。つまり、回転が規制された滑りネジ143に連結された伝達機構部170の動作も規制されることになり、当該伝達機構部170に連結された第二ナット152の回転も規制された状態となる。このため、第二ネジ機構部150においても、ボールネジ153の第二ナット152に対する直進移動が規制された状態となる。
【0075】
この規制は、第一ナット142と滑りネジ143との間の摩擦力の影響を受ける。この摩擦力は、外力F1を起因として逆入力F2が第一ナット142に作用した際に、第一ナット142の歯面が滑りネジ143の歯面に押し付けられることで発生する。仮に、この摩擦力よりも、第二ナット152が回転しようとする力F3が大きくなると、第二ナット152の規制が解除されてしまい、第二ネジ機構部150が逆作動してしまう。過大なF3が発生しうる二次衝突時においても、第二ネジ機構部150が逆作動しないように、第一ネジ機構部140の歯諸元が設定されていることが望ましい。
【0076】
また、ステアリング装置100はさらに、操作部材101の上下方向の傾きを変化させるチルト機構部を備えてもよい。チルト機構部は、例えば、第一移動部110を左右方向(図1におけるY軸方向)に平行な軸周りに回動させることで、操作部材101の上下方向の傾きを変化させる。これにより、例えば、操作部材101の上下方向の位置を、運転者の意図に応じて調整することができる。チルト機構部は、第二移動部120を左右方向(図1におけるY軸方向)に平行な軸周りに回動させることで、操作部材101の上下方向の傾きを変化させる構成であってもよい。
【0077】
以上説明した、駆動部160の動作は、ステアリング装置100が備える制御部190(図9参照)によって制御される。図9は、実施の形態に係るステアリング装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0078】
制御部190は、各種の情報を取得し、取得した情報に基づいて駆動部160等を制御する。例えば、制御部190は、運転者の所定の操作による所定の指示、または、各種センサによる検出結果を取得する。制御部190は、取得した所定の指示または検出結果に基づき、駆動部160を制御することで、操作部材101を軸方向に移動させる。このとき、制御部190は、駆動部160から第一移動部110及び第二移動部120の位置を示す情報を随時取得する。これにより、制御部190は、第一移動部110に間接的に支持された操作部材101の、所定の基準に対する相対的な位置を随時認識することができる。
【0079】
なお、上記の制御を行う制御部190は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等の記憶装置、および情報の入出力のためのインタフェース等を備えたコンピュータによって実現される。制御部190は、例えば、記憶装置に格納された所定のプログラムをCPUが実行することで、上位制御部300等から送信される制御信号、及び、センサの検出結果等に応じたステアリング装置100の動作制御を行うことができる。
【0080】
ステアリング装置100が備えるエアバッグ収容部104に収容されたエアバッグ200は、車両に搭載されたエアバッグ制御部210の指示に応じて動作する。エアバッグ制御部210は、例えば、加速度センサ250から受け取った加速度情報に基づき、エアバッグ200を展開させるか否かを判断する。例えば、車両が何等かの物体に衝突した場合など、加速度に閾値以上の急速な変化があった場合、エアバッグ制御部210は、エアバッグ200に展開の指示を行い、エアバッグ200は、インフレータを作動させることで展開する。つまり、エアバッグ200は瞬時に膨らむ。
【0081】
上記のように、車両と他の物体との衝突が生じた場合、原則、エアバッグ200は膨らむ。しかし、操作部材101とともにエアバッグ収容部104が運転者から遠い位置まで退避した場合、エアバッグ200と運転者との距離が長いこと、または、エアバッグ200の近傍にダッシュボードが位置することなどに起因して、エアバッグ200による十分な衝撃吸収機能が期待できない状態となる。簡単にいうと、エアバッグ200が所期の機能を発揮しない状態となる。そのため、上位制御部300は、ステアリング装置100から取得する操作部材101またはエアバッグ収容部104等の位置に応じて、例えば、エアバッグ制御部210にエアバッグ200の展開を禁止する制御を行う。この場合、例えば、運転席の前方以外の位置(例えば天井)に配置された他のエアバッグ等(図示せず)により、運転者の安全確保が図られる。
【0082】
ここで、衝突時においては過大なF3が発生しうる。前述したように、第一ネジ機構部140の逆効率が、衝突時においても第二ネジ機構部150が逆作動しないように設定されていたとしても全てのシチュエーションに対応できない可能性もある。このため、制御部190は、第一ネジ機構部140または第二ネジ機構部150に対する過大な逆入力を検出した場合には、駆動部160を制御して、逆作動を規制する。具体的には、制御部190は、逆作動時における回転方向とは逆方向に駆動部160を回転させたり、駆動部160自体の回転を停止したりする。これにより、逆作動が確実に規制される。
【0083】
ここで、過大な逆入力を検出するには、当該逆入力を直接的に検出するセンサを設けてもよい。また、制御部190が加速度センサ250から受け取った加速度情報に基づいて衝突を推測し、過大な逆入力を検出してもよい。また、制御部190は、駆動部160に対する負荷が急峻に増加したことに基づいて過大な逆入力を検出してもよい。つまり、第一ネジ機構部140または第二ネジ機構部150に対する過大な逆入力を検出できるのであれば、その構成は如何様でもよい。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態によれば、第一ネジ機構部140は、操作部材101が格納領域と操作領域との間で移動する場合に正作動するように設けられており、かつ、操作部材101が格納領域に向かう外力F1を受けた場合に、当該外力F1により逆作動しない逆効率に設定されている。これにより、操作部材101が外力F1を受けたとしても、第一ネジ機構部140は外力F1を起因とした直進運動を回転運動に変換しない。これにより、第一移動部110の移動が規制される。
【0085】
また、第二ネジ機構部150は、伝達機構部170を介して第一ネジ機構部140に連結されている。第一ネジ機構部140では逆作動しない逆効率に設定されているために、外力F1を受けたとしても第一ネジ機構部140の回転が規制された状態である。つまり、回転が規制された第一ネジ機構部140に連結された伝達機構部170の動作も規制されることになり、当該伝達機構部170に連結された第二ネジ機構部150の回転も規制された状態である。このため、第二ネジ機構部150においても直進移動が規制された状態、つまり第二移動部120の移動が規制される。このように、単に第一ネジ機構部140の逆効率を設定するだけで、外力F1を起因とした第一移動部110及び第二移動部120の移動を規制することができる。つまり、第一ネジ機構部140をロック機構として機能させることができる。このため、専用のロック機構を設けなくとも、外力F1を起因とした第一移動部110及び第二移動部120の移動を規制できる。したがって、専用のロック機構を設ける場合と比べても、部品点数の削減、大型化の抑制、車両等生成の向上が図られる。
【0086】
ここで、第二ネジ機構部150をロック機構として機能させることも可能である。この場合、第二ネジ機構部150は、操作部材101が外力F1を受けた場合に、当該外力F1により逆作動しない逆効率に設定される。しかしながら、第二ネジ機構部150は、第一ネジ機構部140よりも車両の前方に配置されており、外力F1の入力側から遠い位置に配置されている。これにより、第一ネジ機構部140の動作を確実に規制するために、伝達機構部170の構造が複雑化(歯車が増加)するおそれがある。この複雑化により、ガタツキの発生、剛性の低下、ロック機能の低下などが想定される。一方、上述したように第一ネジ機構部140をロック機構として機能させるのであれば、伝達機構部170の構造の複雑化が抑制されるので、好適である。
【0087】
また、第二ネジ機構部150の移動量L2が第一ネジ機構部140の移動量L1よりも大きいので、第二ネジ機構部150のみの移動量L2を大きくすることで、操作部材101の移動量を拡大することができる。
【0088】
ここで、第一ネジ機構部140の移動量L1が大きくなると、伸長時(操作部材101が操作領域に配置された場合)において、第一移動部110と保持部130との距離が大きくなるため、ステアリング装置100全体の剛性が低下することになる。さらに、第一移動部110に加わるモーメントが増加するため、ステアリング装置100全体の剛性の低下の影響も大きくなる。しかしながら、本実施の形態では、第一ネジ機構部140の移動量L1は、第二ネジ機構部150の移動量L2よりも小さいために、ステアリング装置100の全体の剛性低下を抑制することが可能である。
【0089】
そして、第二ネジ機構部150の正効率が、第一ネジ機構部140の正効率よりも大きいために、移動量L1<移動量L2となる第一ネジ機構部140と第二ネジ機構部150とが駆動部160により同期駆動されたとしても、第一ナット142とボールネジ153とを同じタイミングで移動させるとともに、同じタイミングで移動を完了させることができる。
【0090】
これらのことにより、操作部材101の移動量を拡大しつつも、装置自体の剛性低下を抑制することができる。
【0091】
また、移動量の大きい第二ネジ機構150のボールネジ153が、車体50に支持された保持部130に固定されているので、ステアリング装置100としての剛性をより高めることが可能である。
【0092】
また、調心機構部154によって、第二ナット152に対するボールネジ153の軸心位置を調整できるので、組立時においてボールネジ153の軸心位置を調整することができる。これにより、ボールネジ153に対する第二ナット152の回転運動をスムーズにすることができる。
【0093】
また、抑制機構部144が、滑りネジ143に対する第一ナット142のガタツキを抑制するので、滑りネジ143と第一ナット142との間でのガタツキの発生やトルクの増加を抑制することができる。これにより、第一ナット142に対する滑りネジ143の回転運動をスムーズにすることができる。
【0094】
また、第二固定部136が第一固定部135よりも前方に配置され、かつ第一固定部135よりも衝撃吸収性が大きいので、車両前方が衝突したとしても、その衝撃を第一固定部135で吸収することができる。その脆弱な部位が変形することにより衝撃を吸収することが可能である。
【0095】
また、第一移動部110に接続された衝撃吸収部材180は、軸部材118および第一移動部110の少なくとも一方の前端部が、軸方向かつ前方に移動することで衝撃を吸収する。ここで、保持部130は、第二移動部120だけでなく、当該第二移動部120を介して第一移動部110も保持しているので、一定の剛性が求められる。本実施の形態では、衝撃吸収部材180が第一移動部110に接続されているので、衝撃吸収部材180が保持部130に接続されている場合と比較しても、保持部130の剛性低下を抑制することができる。
【0096】
また、第一ネジ機構部140または第二ネジ機構部150に対する過大な逆入力を検出した場合には、制御部190が駆動部160を制御して、逆作動を規制する。これにより、機械的な制限だけでは逆作動が発生しうるシチュエーションが生じたとしても、制御部190の制御により駆動部160が動作することで逆作動を確実に規制することができる。
【0097】
また、ガイド機構部121が第二移動部120に対する第一移動部110の移動をガイドするので、第一移動部110の移動をスムーズに行うことが可能である。
【0098】
(他の実施の形態)
以上、本発明に係るステアリング装置について、実施の形態に基づいて説明した。しかしながら、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を上記実施の形態に施したものも、あるいは、上記説明された複数の構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0099】
例えば、図1に示すステアリング装置100の外観及び構成は一例であり、各構成要素のそれぞれの形状、サイズ及び位置は、図1に示される形状、サイズ及び位置には限定されない。また、各構成要素それぞれの構成も、図1等に示される構成である必要はない。
【0100】
また、上記実施の形態では、駆動部160が1つの電動モータであり、この電動モータが伝達機構部170を介して第一ネジ機構部140及び第二ネジ機構部150に連結されている場合を例示した。しかしながら、第一ネジ機構部140と第二ネジ機構部150とを同期駆動できるのであれば、駆動部は2つの電動モータを有していてもよい。つまり、一方の電動モータは第一ネジ機構部140の滑りネジ143に連結され、他方の電動モータは第二ネジ機構部150の第二ナット152に連結されることとなる。この場合には、伝達機構部170を省略することも可能である。
【0101】
伝達機構部170を省略する場合においては、第一ネジ機構部140及び第二ネジ機構部150のそれぞれの逆効率を、外力F1により逆作動しないように設定してもよい。つまり、この態様においては、ステアリング装置100は、後端部に操作部材101が接続された軸部材118とともに軸部材118の軸方向に移動し、かつ、軸部材118を回転可能に支持する第一移動部110と、第一移動部110を軸方向に移動可能に保持する第二移動部120と、第二移動部120を軸方向に移動可能に保持する保持部130と、第一移動部110及び第二移動部120の間に配置されて、第一移動部110を軸方向に移動させる第一ネジ機構部140と、第二移動部120及び保持部130の間に配置されて、第二移動部120を軸方向に移動させる第二ネジ機構部150と、第一ネジ機構部140を駆動するための駆動力を出力する第一駆動部160a(図10参照)と、第二ネジ機構部150を駆動するための駆動力を出力する第二駆動部160b(図10参照)と、を備える。
【0102】
図10は、変形例に係るステアリング装置100の機能構成を示すブロック図である。図10に示すように、制御部190には、第一駆動部160aと第二駆動部160bとが電気的に接続されている。第一駆動部160aは、第一ネジ機構部140のみに対して駆動力を出力できるように連結されている。第二駆動部160aは、第二ネジ機構部150のみに対して駆動力を出力できるように連結されている。制御部190は、各種の情報を取得し、取得した情報に基づいて第一駆動部160a及び第二駆動部160bを制御する。
【0103】
第一ネジ機構部140及び第二ネジ機構部150のそれぞれは、操作部材101が格納領域と操作領域との間を移動する場合に正作動するように設けられており、かつ、操作部材101が格納領域に向かう外力F1を受けた場合に、当該外力F1により逆作動しない逆効率に設定されている。これにより、伝達機構部が省略されたステアリング装置100であっても、一定のロック機能を発揮することが可能である。
【0104】
また、上記実施の形態では、一対のブッシュ175及びプランジャ176により第一ナット142の姿勢が安定化されている場合を例示した。しかしながら、ステアリング装置には一対のブッシュ175及びプランジャ176の一方のみが設けられていてもよい。この場合においても、第一ナット142の姿勢をある程度安定化することができ、第一ナット142に対して一定のガタツキ抑制効果を発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、衝突安全性を向上させることができるステアリング装置として有用である。従って、手動運転が可能であり、かつ自動運転が可能な自動車、バス、トラック、農機、建機など、車輪または無限軌道などを備えた車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0106】
50…車体、51…第一調心部材、52…第二調心部材、53…第一座金、54…第二座金、55…ナット、100…ステアリング装置、101…操作部材、102…支持部材、103…操作支持部、104…エアバッグ収容部、110…第一移動部、111…箱体、118…軸部材、120…第二移動部、121…ガイド機構部、122…レール部、123…可動部、124…連結部材、125…フレーム部、130…保持部、131…ガイド機構部、132…レール部、133…可動部、134…ベース部材、135…第一固定部、136…第二固定部、138…軸支部、140…第一ネジ機構部、141…ケース体、142…第一ナット、143…滑りネジ、144…抑制機構部、145…弾性体、146…締結部、147…座金、150…第二ネジ機構部、152…第二ナット、153…ボールネジ、154…調心機構部、160…駆動部、166…EA用空間、170…伝達機構部、175…ブッシュ、176…プランジャ、177…ボール、180…衝撃吸収部材、181…係合部、182…取付部、183…変形部、190…制御部、200…エアバッグ、210…エアバッグ制御部、250…加速度センサ、300…上位制御部、381、512、525…貫通孔、382、383…凹部、384…基部、384a…上面、384b…下面、511…凸部、521…第一凹部、522…第二凹部、Aa…ステアリング軸、F1…外力、F2…逆入力、F3…力、L1、L2…移動量
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10