(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】蓄熱体およびその連結体、ならびに蓄熱体の施工構造
(51)【国際特許分類】
F28D 20/02 20060101AFI20231219BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20231219BHJP
E04B 1/80 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F28D20/02 D
E04B1/76 500F
E04B1/76 500Z
E04B1/80 100B
(21)【出願番号】P 2020098435
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉村 保人
(72)【発明者】
【氏名】梅野 徹也
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-160396(JP,A)
【文献】特開2003-218580(JP,A)
【文献】特開2011-254734(JP,A)
【文献】特開2012-167453(JP,A)
【文献】特開2002-333248(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235448(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/02
E04B 1/76
E04B 1/80
F24D 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面視矩形状をなす袋状容器の封入部内に潜熱蓄熱材が充填され、前記封入部の四周が耳部によって封着されてなるパック状の蓄熱体において、
相対する二辺の耳部に、当該耳部の幅を拡縮させる凹凸縁が形成され、
二つの蓄熱体を隣接させたときに、互いの耳部に形成された前記凹凸縁同士が同一面内で相補的に並設される
ことを特徴とする蓄熱体。
【請求項2】
請求項1に記載された蓄熱体において、
前記凹凸縁は一様のピッチおよび一様の拡縮幅で反復的に連続する形状をなしている
ことを特徴とする蓄熱体。
【請求項3】
請求項1または2に記載された蓄熱体が、前記凹凸縁を有する辺部の延長方向に複数体、連設されて、その連設箇所に破断線が加工されている
ことを特徴とする蓄熱体の連結体。
【請求項4】
請求項1もしくは2に記載された蓄熱体または請求項3に記載された蓄熱体の連結体が、床、壁または天井を構成する下地材によって囲まれた中空部内に設置される蓄熱体の施工構造であって、
前記下地材を挟んで互いに隣接する蓄熱体の耳部同士が、前記凹凸縁を同一面内で相補的に並設させて下地材の見付面に止め付けられた
ことを特徴とする蓄熱体の施工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、袋状容器に潜熱蓄熱材が封入された蓄熱体およびその連結体と、その蓄熱体を建物の壁、床、天井等に設置する施工構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の省エネルギー性能を向上させる目的で、床や壁に潜熱蓄熱材(PCM)を利用した蓄熱建材を施工する技術が公知である。潜熱蓄熱材は、ゲル状にしたものを適宜形状の容器に充填したり、マイクロカプセル化した粒状体を石こうボードに練り込んだり、柔軟なシート材に混合したり、などの様々な形態で施工される。
【0003】
特許文献1には、表面材と裏面材とが枠材を介してパネル状に結合され、表面材と裏面材との間の中空部内に蓄熱体が組み込まれた蓄熱構造体が開示されている。蓄熱体は、電熱性を有する袋状の可撓性容器(パック)にゲル状の潜熱蓄熱材を充填するなどして形成されている。袋状容器は、合成樹脂製のフィルムにアルミニウム薄膜を積層一体化したものやアルミニウム蒸着したもの等によって形成されている。蓄熱体には、潜熱蓄熱材が充填される封入部と、封入部の四周を封着(溶着)する耳部と、が設けられており、耳部は封入部の片側の表面と略同一面をなすように、封入部の外側に略等幅で張り出している。そして、この蓄熱体の封入部が枠材に囲まれた中空部内に収められ、耳部が枠材と表面材との間に挟み込まれる。このようにして構成される蓄熱構造体は、表面材と裏面材と枠材と蓄熱体とがしっかりと一体化され、蓄熱体の封入部と耳部とが均熱部材となって、表面側の均熱性を高めるものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
床、壁、天井等に潜熱蓄熱材を施工するに際しては、あらかじめ格子状に組み上げられているそれらの下地材(床根太、間柱、胴縁、天井野縁等)の間にパックされた蓄熱体を収めて、その耳部を下地材の見付面に止め付ける、という施工形態が想定される。フィルム包装された繊維系断熱材(グラスウールやロックウール等)を、床下地の根太の間や壁下地の間柱の間に施工するのと同様の施工形態である。
【0006】
ただし、潜熱蓄熱材は繊維系断熱材に比べるとはるかに重いため、それを包装するフィルムも強度が必要で、その分、フィルムを溶着した耳部の厚さも大きくなる。したがって、
図8に示すように、下地材5を挟んで隣り合った蓄熱体1の耳部4同士を下地材5の見付面上で重ね合わせると、その上に張設される仕上材6の表面に、耳部4の重なり厚さによる不陸が生じるおそれがある。蓄熱体1が縦横に4つ「田」の字状に重なり合う箇所では、耳部4の重なり厚さは4枚分にもなってしまう。かかる問題は、前記特許文献1に開示された蓄熱構造体の、枠材に重なる表面材の表面においても同様に生じ得る。
【0007】
本願が開示する発明は前述のような事情に着目してなされたものであり、下地材を挟んで隣り合った蓄熱体の耳部同士が下地材の見付面上で重なり合うことによる不陸を回避し得る形状を備えた蓄熱体およびその連結体と、その蓄熱体を建物の壁、床、天井等の下地材に止め付ける施工構造と、を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために本願が開示する発明が採用した蓄熱体の構成は、正面視矩形状をなす袋状容器の封入部内に潜熱蓄熱材が充填され、前記封入部の四周が耳部によって封着されてなるパック状の蓄熱体において、相対する二辺の耳部に、当該耳部の幅を拡縮させる凹凸縁が形成され、二つの蓄熱体を隣接させたときに、互いの耳部に形成された前記凹凸縁同士が同一面内で相補的に並設される、ものとして特徴づけられる。
【0009】
さらに、前記蓄熱体において、前記凹凸縁が一様のピッチおよび一様の拡縮幅で反復的に連続する形状をなしている、ものとして特徴づけられる。
【0010】
また、本願が開示する発明に係る蓄熱体の連結体は、前記蓄熱体が、前記凹凸縁を有する辺部の延長方向に複数体、連設されて、その連設箇所に破断線が加工されている、ものとして特徴づけられる。
【0011】
また、本願が開示する発明に係る蓄熱体の施工構造は、前記蓄熱体または蓄熱体の連結体が、床、壁または天井を構成する下地材によって囲まれた中空部内に設置される蓄熱体の施工構造であって、前記下地材を挟んで互いに隣接する蓄熱体の耳部同士が、前記凹凸縁を同一面内で相補的に並設させて下地材の見付面に止め付けられた、ものとして特徴づけられる。
【発明の効果】
【0012】
本願が開示する発明に係る蓄熱体は、二つの蓄熱体を隣接させて互いの耳部を下地材の見付面上に重ねると、互いの耳部に形成された凹凸縁同士が相補的に並設されるように構成されているので、その上に仕上材を張設したときに、耳部同士の重なり合いに起因する仕上材の不陸を回避することができる。
【0013】
また、かかる蓄熱体を使用した施工構造によれば、重量のある蓄熱体の耳部同士を重ね合わせて下地材に止め付ける作業が不要になるので、現場での施工性が向上するとともに、耳部同士の重なり合いによる仕上材の不陸も生じなくなって、仕上がりの美観が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願が開示する発明の第1実施形態に係る蓄熱体の正面形状と、その蓄熱体を左右に隣接させて壁の下地材に止め付けた状態を示す説明図である。
【
図2】本願が開示する発明の第2実施形態に係る蓄熱体の正面形状と、その蓄熱体を左右に隣接させて壁の下地材に止め付けた状態を示す説明図である。
【
図3】本願が開示する発明の第3実施形態に係る蓄熱体の正面形状と、その蓄熱体を左右に隣接させて壁の下地材に止め付けた状態を示す説明図である。
【
図4】本願が開示する発明の第4実施形態に係る蓄熱体の正面形状と、その蓄熱体を左右に隣接させて壁の下地材に止め付けた状態を示す説明図である。
【
図5】本願が開示する発明の第5実施形態に係る蓄熱体の、耳部の詳細な形状と、その耳部を左右に隣接させて壁の下地材に止め付けた横断面状態を拡大して示す説明図である。
【
図6】本願が開示する発明に係る蓄熱体の連結体の正面形状を示す説明図であって、(a)は三連タイプ、(b)は四連タイプを示す。
【
図7】前記蓄熱体およびその連結体を組み合わせて壁面に施工した状態を示す説明図である。
【
図8】従来の蓄熱体の耳部同士を下地材の見付面上で重ね合わせたときの問題点を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、
図8に示した従来一般の蓄熱体の施工構造と実質的に共通する構成要素には同一の符号を付す。また、複数の実施形態に関する説明においても、基本的な機能または作用が共通する構成要素には同一の数字符号を付して、後述の実施形態における重複説明を簡略化する。
【0016】
<蓄熱体>
図1は、本願が開示する発明の第1実施形態に係る蓄熱体10の正面形状と、その蓄熱体10を左右に隣接させて壁の下地材5に止め付けた状態を示している。
【0017】
蓄熱体10は、可撓性を有する正面視略矩形状の袋状容器2に潜熱蓄熱材3を充填して形成されている。袋状容器2は、例えばポリエチレン系樹脂やポリオレフィン系樹脂等からなるフィルムに、均熱機能(伝熱機能)に優れたアルミニウム薄膜を積層一体化したものや、アルミニウム蒸着したもの等を、表裏重ね合わせて形成される。また、潜熱蓄熱材3には、室内の暖房温度で固相から液相に相変化する塩化カルシウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、パラフィン、ポリエチレングリコール等が用いられる。ただし、本願が開示する発明は袋状容器2および潜熱蓄熱材3の材質を限定するものではないので、それらについては従来公知のものや、それらに類するものを適宜利用することができる。
【0018】
袋状容器2の中央部には潜熱蓄熱材3が充填される封入部20が設けられ、その四周が表裏封着(溶着)されて耳部40が形成されている。耳部40は、封入部20のオモテ面と略同一面をなすようにして、封入部20の外側に張り出している。
【0019】
本願が開示する発明の要部は、かかる蓄熱体10の相対する二辺の耳部40に、当該耳部40の幅を拡縮させる凹凸縁41が形成されている点にある。例示形態では、左右の縦辺において、その辺長の略半分が幅の広い拡幅部42、残余の半分が幅の狭い縮幅部43となされ、それらが左右の縦辺で互いに反対の位置になるように形成されている。
【0020】
この蓄熱体10が、壁の下地材(間柱あるいはスタッド等)5を挟んで互いに隣接するように配置され、二つの蓄熱体10の耳部40同士が下地材5の見付面に重ねられる。すると、それぞれの耳部40に形成された拡幅部42と縮幅部43とが相補的に並設されるので、その拡幅部42を下地材5に対してビス等で止め付ければ、両側の蓄熱体10の耳部40同士が重なり合わないかたちで蓄熱体10を壁内に施工することができる。
【0021】
図2は、本願が開示する発明の第2実施形態に係る蓄熱体10の正面形状と、その蓄熱体10を左右に隣接させて壁の下地材5に止め付けた状態を示している。この形態では、左右の縦辺の耳部40に、その辺長の略1/6ずつの長さで交互に連続する拡幅部42と縮幅部43とからなる凹凸縁41が形成されている。この凹凸縁41も、左右の縦辺の間で互いに相補的な位置関係になっている。このように、一辺の耳部40に拡幅部42と縮幅部43とを複数箇所ずつ設けると、耳部40の上下を下地材5に対してバランス良く止め付けることができる。
【0022】
図3は、本願が開示する発明の第3実施形態に係る蓄熱体10の正面形状と、その蓄熱体10を左右に隣接させて壁の下地材5に止め付けた状態を示している。この形態では、左右の縦辺の耳部40に、一様のピッチおよび一様の拡縮幅でジグザグ状に連続する凹凸縁41が形成されている。この凹凸縁41も、左右の縦辺の間で互いに相補的な位置関係になっている。このように、凹凸縁41の凹凸ピッチを小さくすると、左右に隣接する蓄熱体10同士の高さを少しずつ変えて下地材5に止め付けるのが容易になる。
【0023】
図4は、本願が開示する発明の第4実施形態に係る蓄熱体10の正面形状と、その蓄熱体10を左右に隣接させて壁の下地材5に止め付けた状態を示している。この形態では、左右の縦辺の耳部40に、一様のピッチおよび一様の拡縮幅で波形に連続する凹凸縁41が形成されている。この凹凸縁41も、左右の縦辺の間で互いに相補的な位置関係になっている。凹凸縁41のエッジを丸めると、手指に優しくなって作業時の安全性が向上する。
【0024】
図5は、本願が開示する発明の第5実施形態に係る蓄熱体10の、耳部40の詳細な形状と、その耳部40を左右に隣接させて壁の下地材5に止め付けた横断面状態を拡大して示している。この形態では、左右の縦辺の耳部40に、台形山谷状に連続する凹凸縁41が形成されている。例示形態の耳部40は、横幅(フランジ幅)s=40mmの軽量鉄骨スタッドからなる下地材5に止め付けることを想定したものであり、各部の具体的な設計寸法は以下の通りである。
【0025】
縮幅部43の横幅a=12.5mm
拡幅部42の横幅b=34.0mm
耳部40同士の並設間隔c=1.5mm
耳部40同士を並設させたときの実質的な有効幅d=a+c+b=48.0mm
封入部20と下地材5とのクリアランスe=(d-s)/2=4.0mm
辺長方向の山谷ピッチp=31.0mm
また、この形態では、耳部40を間柱の見付面に当てがう際の重なり幅を適正に確保できるように、上下両辺の耳部40に、下地材5の横幅に合致させるための目印44が付けられている。
【0026】
<蓄熱体の連結体>
図6は、本願が開示する発明に係る蓄熱体の連結体100の正面形状を示す説明図である。これらの連結体100は、前述の蓄熱体10が、凹凸縁41を有する辺部の延長方向に沿って複数体、連設されたものである。(a)は三連タイプ、(b)は四連タイプを示している。連設箇所は袋状容器2の表裏両面が帯状に封着されて、分割を容易にするミシン目状の破断線45が加工されている。
【0027】
潜熱蓄熱材3が充填された蓄熱体10の封入部20は、施工現場で所望の寸法に切断できないため、パックされた製品の縦横寸法によって施工性が左右される。そこで、異なる寸法の蓄熱体10が分割可能に連設された連結体100を用意し、それらを施工現場で適宜、分割しながら組み合わせることができるようにする。例示した三連タイプと四連タイプの連結体100は、全体寸法が横幅w=353mm、高さh=1,100mmで揃えられており、それぞれが高さ方向に三等分または四等分されている。
【0028】
図7は、かかる連結体100を用いた施工例を示す。天井高さCH=2,500mmで、間柱が333.3mm間隔で建て込まれているメーターモジュールの屋内壁面において、建具開口部71、コンセントボックス72、スイッチパネル73等、蓄熱体10を配置できない部分を避けながら施工した配置例である。「1/3」~「3/3」、「1/4」~「4/4」は、それぞれ三連タイプまたは四連タイプの連結体100の部分または全体を表している。このように、全体の寸法が共通する連結体100の連設数(分割数)を複数通り設定すれば、それらの分割体を適宜組み合わせることで、様々な大きさの施工面に効率よく蓄熱体10を配置することが可能になる。
【0029】
このように、相対する二辺の耳部40に凹凸縁41が形成された蓄熱体10、またはその連結体100を、壁、床、天井等の施工面を構成する下地材5に囲まれた中空部内に設置し、下地材5を挟んで互いに隣接する蓄熱体10の耳部40の凹凸縁41同士を相補的に並設させて下地材5の見付面に止め付けることにより、蓄熱体10の耳部40が下地材5の見付面上で重なり合うことに起因する仕上材の不陸を回避することができる。
【0030】
また、かかる蓄熱体10の施工構造によれば、重量のある蓄熱体10の耳部40同士を重ね合わせて下地材5に止め付ける作業が不要になるので、現場での施工性が向上するとともに、耳部40同士の重なり合いによる仕上材の不陸が生じなくなって仕上がりの美観が向上する。
【0031】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施の形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の形状、材質、寸法、数量、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に同程度の作用効果が得られる範囲内で適宜、改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本願が開示する発明は、建物の省エネルギー性能を効率よく向上させるための施工技術として、空間を区画する壁、床、天井その他の構造体に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 蓄熱体
100 蓄熱体の連結体
2 袋状容器
20 封入部
3 潜熱蓄熱材
40 耳部
41 凹凸縁
42 拡幅部
43 縮幅部
44 目印
45 破断線
5 下地材
6 仕上材