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特許7405015ワックス熱応答性向上剤およびこれを含有するワックス組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ワックス熱応答性向上剤およびこれを含有するワックス組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20231219BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 5/353 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G03G9/097 365
C08L91/06
C08K5/353
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020107343
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022001929
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】荻 宏行
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
(72)【発明者】
【氏名】土井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】森重 貴裕
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-062374(JP,A)
【文献】特公昭47-004443(JP,B1)
【文献】特開平06-067457(JP,A)
【文献】特開平09-301826(JP,A)
【文献】特開2015-045840(JP,A)
【文献】特開2009-122194(JP,A)
【文献】特開平01-160973(JP,A)
【文献】特表平04-504853(JP,A)
【文献】特開昭60-199883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
C08L 91/06
C08K 5/353
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるオキサゾリン化合物からなるワックス熱応答性向上剤およびワックスを含有し、前記ワックス熱応答性向上剤の含有量が、前記ワックス100質量部に対し、0.01~1.0質量部であることを特徴とする、ワックス組成物。
【化1】
(式中、Rは炭素数11~21のアルキル基を示す。)
【請求項2】
ワックス100質量部に対し、式(I)で表されるオキサゾリン化合物0.01~1.0質量部を添加することを含む、ワックスの熱応答性向上方法。
【化2】
(式中、Rは炭素数11~21のアルキル基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス熱応答性向上剤およびこれを含有するワックス組成物、さらにはそれらの製造方法に関する。詳細には、ワックスに少量の添加で、熱を加えた際の固体から液体への相転移における熱応答性を向上することができるワックス熱応答性向上剤およびこれを含有するワックス組成物、さらにはそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワックスは通常、ろう状の固形エステルや、パラフィンワックスなどが挙げられ、前者は動植物油脂、高級脂肪酸、高級脂肪酸と高級アルコールからなる合成エステルワックスなどであり、後者は石油から精製して得られる。ワックスは滑性、耐水性、可塑性、光沢性などを示すことから、各種素材の機能性を向上させる目的で添加剤として様々な用途において使用されている。特に、樹脂に添加して樹脂の硬さや、滑り性、撥水性などを制御したり、温度変化による融解粘度の挙動を利用して、感温性の機能を付与したりする用途に好適に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、トナー樹脂に対して、炭化水素ワックスや、天然のカルナバワックスなどに、ステアリルアルコール脂肪酸エステルやステアロミドエチルステアレートなどのアミドエステルを併用することで、印刷工程でのトナーの加熱ローラによる定着において、離型剤であるワックスを染み出させ、離型性を向上させることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、ホットメルト型固体インクに対して、エステルワックスや、アミドワックスなどを併用することで、顔料の分散効果や、固体インクを加熱によって液状化した際の溶融粘度を制御することで、紙に対する染み込みを最適化でき、画質を向上させることが提案されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、サーモバルブにパラフィンワックスを流体として使用することが提案されている。また、固体から液体への相転移および各相における熱膨張・収縮に伴う体積変化を利用して、ピストンロッドの弁体と合わせることにより、流体の流量を調整する感熱弁として機能することが開示されている。
【0006】
加えて、特許文献4には、潜放熱材としてパラフィンワックスや、脂肪酸エステルワックスを蓄放熱性物質として使用することが提案されている。また、固体と液体との間の相転移における熱の吸収、放出を利用した床暖房構造体や、ヒートシンク、ICチップに用いられることが開示されている。
【0007】
このように、ワックスは温度変化に伴う流動性変化を利用して機能を発揮しており、従来は特定物性のワックスを使用したり、種々のワックスを併用したりすることにより、機能の向上が図られてきた。
【0008】
しかし、いずれの場合においても、樹脂の物性や材質の変化に応じて、最適な特性を有するワックスを見出すには困難が伴う。また、種々のワックスを併用する場合、染み出し性をコントロールすることができるものの、ワックスの配合部数を多くする必要があるため、ワックス単体が有している物性に影響を与え、最適なワックス特性を得ることは困難な場合があった。そのため、ワックスに少量の添加で、流動性を高め、温度変化に伴う染み出し性などをコントロールすることができる添加剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-168505号公報
【文献】特願平9-94509号公報
【文献】特開2018-25269号公報
【文献】特開2019-116542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ワックスに少量(例えば、ワックス100質量部に対し、0.01~1.0質量部)の添加で、熱を加えた際の固体から液体への相転移における熱応答性を向上することができるワックス熱応答性向上剤およびこれを含有するワックス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ワックスに対して下記の式(I)で表されるオキサゾリン化合物を少量添加することにより、ワックスの熱応答性を向上させること、例えば、融解時の流動性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0012】
[1]式(I)で表されるオキサゾリン化合物からなる、ワックス熱応答性向上剤。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Rは炭素数11~21のアルキル基を示す。)
[2]前記[1]に記載のワックス熱応答性向上剤およびワックスを含有し、前記ワックス熱応答性向上剤の含有量が、前記ワックス100質量部に対し、0.01~1.0質量部であることを特徴とする、ワックス組成物。
[3]ワックス100質量部に対し、式(I)で表されるオキサゾリン化合物0.01~1.0質量部を添加することを含む、ワックスの熱応答性向上方法。
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、Rは炭素数11~21のアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明のワックス熱応答性向上剤によれば、ワックス100質量部に対し、上記の式(I)で表されるオキサゾリン化合物を、例えば0.01~1.0質量部添加することで、熱を加えた際のワックスの熱応答性を向上させることができる。これにより、ワックス融解時の粘度変化に伴う応答性や染み出し性などをコントロールすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。
なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は2以上かつ5以下を表す。また、本明細書において記号「E」は、10のべき乗を表し、例えば「3.0E+5」は、「300000」(=3.0×10)を表す。
【0019】
〔ワックス熱応答性向上剤〕
本発明のワックス熱応答性向上剤は、式(I)で表されるオキサゾリン化合物、すなわち、側鎖にアルキル基を有するオキサゾリン化合物からなる。
【0020】
【化3】
【0021】
(式中、Rは炭素数11~21のアルキル基を示す。)
【0022】
式(I)で表されるオキサゾリン化合物は、側鎖にRで示される炭素数11~21のアルキル基を有する。炭素数11~21のアルキル基としては、例えば、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基などが挙げられ、Rで示される炭素数11~21のアルキル基は直鎖状であること、すなわち直鎖アルキル基であることが好ましく、また、当該アルキル基の炭素数は、好ましくは13~21であり、より好ましくは13~17である。アルキル基の炭素数が11を下回ると、ワックスとの相溶性が低下し、熱応答性を向上させる効果が得られ難くなることがある。またアルキル基の炭素数が21を上回ると、工業的な供給安定性に問題が生じることがある。
【0023】
式(I)で表されるオキサゾリン化合物の合成方法は特に制限されず、自体公知の方法またはそれに準ずる方法で行い得るが、例えば、エタノールアミンと、式(I)のRで示される炭素数11~21のアルキル基に対応する飽和炭素鎖を有する一価の飽和脂肪酸とをアミド化反応させることによって、脂肪酸モノエタノールアミドを得、これに塩化チオニルを加え、精製することによって得ることができる。当該アミド化反応に用いられる一価の飽和脂肪酸は、一価の直鎖飽和脂肪酸が好ましい。
【0024】
上記のアミド化反応に用いられる一価の飽和脂肪酸としては、炭素数12~22の一価の直鎖飽和脂肪酸が好適に用いられる。一価の直鎖飽和脂肪酸の炭素数が12を下回ると、ワックスとの相溶性が低下し、熱応答性を向上させる効果が得られ難くなることがある。また、一価の直鎖飽和脂肪酸の炭素数が22を上回ると、工業的な供給安定性に問題が生じることがある。一価の直鎖飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは14~22であり、より好ましくは14~18である。
かかる一価の直鎖飽和脂肪酸の具体例としては、ベヘニン酸(炭素数22)、ステアリン酸(炭素数18)、ミリスチン酸(炭素数14)、ラウリン酸(炭素数12)等が挙げられる。
【0025】
エタノールアミンと一価の飽和脂肪酸とのアミド化反応は様々な条件で行い得るが、例えば、無触媒にて、または塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酸性イオン交換樹脂のようなプロトン酸触媒やルイス酸触媒を用いて、一般的なアミド化反応の手順に従って行なうことができる。さらに、適宜アルカリ性水溶液による脱酸工程や、吸着処理などの精製処理が行われてもよい。
【0026】
式(I)で表されるオキサゾリン化合物は、酸価が3.0mgKOH/g以下、水酸基価が10.0mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、酸価が1.0mgKOH/g以下、水酸基価が5.0mgKOH/g以下である。式(I)で表されるオキサゾリン化合物は、酸価が3.0mgKOH/g以下、水酸基価が10.0mgKOH/g以下である場合、ワックスの物性値を大きく変化させることなく、本発明の効果が得られやすいことから好ましい。また、式(I)で表されるオキサゾリン化合物の酸価の下限値は、通常0.01mgKOH/gであり、水酸基価の下限値は、通常0.1mgKOH/gである。
なお、酸価はJOCS(日本油化学会)2.3.1-96に準拠して、水酸基価はJOCS(日本油化学会)2.3.6.2-96に準拠して、それぞれ測定することができる。
【0027】
式(I)で表されるオキサゾリン化合物は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。また、アミド化反応に用いられる一価の飽和脂肪酸として、牛脂、ヤシ油、ヒマシ油、パーム油などから得られる混合脂肪酸を用いて製造される、式(I)のRで示されるアルキル基の炭素数が異なる二種以上のオキサゾリン化合物の混合物を用いることもできる。
【0028】
本発明のワックス熱応答性向上剤は、ワックスに添加して用いられる。例えば、本発明のワックス熱応答性向上剤を、ワックスに添加し、加熱融解して均一に混合することなどによって、ワックス組成物を製造できる。
【0029】
〔ワックス〕
本発明のワックス熱応答性向上剤が用いられるワックスに特に制限はないが、ワックス熱応答性向上剤の透明融点以上であり、且つ、固体から液体への相転移における熱応答性の観点から、好ましくは透明融点50~150℃(より好ましくは60~100℃、より好ましくは80~100℃)で融解するろう状の化合物であり、例えば、パラフィンワックス、エステルワックス、アミドワックス、アミドエステルワックス等が挙げられる。本発明のワックス熱応答性向上剤が用いられるワックスは、好ましくはアミドエステルワックスである。
なお、透明融点はJOCS(日本油化学会)2.2.4.1またはJIS K-0064(日本工業規格)(光透過量の測定による融点測定方法)に準拠して測定することができる。
【0030】
本発明のワックス熱応答性向上剤は、好ましくは、パラフィンワックス、エステルワックス、アミドワックスおよびアミドエステルワックスからなる群より選択される少なくとも一種のワックス用のワックス熱応答性向上剤であり、より好ましくは、エステルワックスおよびアミドエステルワックスからなる群より選択される少なくとも一種のワックス用のワックス熱応答性向上剤であり、特に好ましくは、アミドエステルワックス用のワックス熱応答性向上剤である。
【0031】
本発明のワックス熱応答性向上剤が好適に用いられ得るワックスの一種として、エステルワックスについて説明する。エステルワックスとしては、脂肪酸とアルコールとの脂肪酸エステルワックスであれば特に制限はないが、当該脂肪酸として一価の直鎖飽和脂肪酸を用いたものが好ましい。エステルワックスの構成脂肪酸は、炭素数16~22のものが好ましく、炭素数18~22のものがより好ましい。これらの中でも、ステアリン酸(炭素数18)、ベヘニン酸(炭素数22)が特に好ましく、ステアリン酸がさらに好ましい。当該脂肪酸とエステル結合するアルコールとしては、1~6価の飽和脂肪族アルコールが好ましく、4~6価の炭素数5~10のものがより好ましい。それらの中でも、ペンタエリスリトール(4価の炭素数5のアルコール)、ジペンタエリスリトール(6価の炭素数10のアルコール)が特に好ましく、ジペンタエリスリトールがさらに好ましい。
【0032】
脂肪酸エステルワックスの製造方法としては、例えば、上記一価の直鎖飽和脂肪酸と、上記のアルコールとからの脱水縮合反応を利用する方法が挙げられる。反応を効率よく進めるために、触媒を利用してもよい。反応温度は180~250℃が好ましく、減圧下で反応を行なってもよい。また、反応の後、脱酸や水洗などにより精製してもよい。脂肪酸エステルワックスは市販品を用いてもよい。
【0033】
エステルワックスは一種を単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。また、一価の直鎖飽和脂肪酸として、牛脂、ヤシ油、ヒマシ油、パーム油などから得られる混合脂肪酸を用いて合成される脂肪酸エステルワックスを用いることもできる。
【0034】
本発明のワックス熱応答性向上剤が好適に用いられ得るワックスの一種として、アミドエステルワックスについて説明する。アミドエステルワックスとしては、脂肪酸とモノエタノールアミンとのアミドエステルであれば特に制限はないが、当該脂肪酸として一価の直鎖飽和脂肪酸を用いたものが好ましい。アミドエステルワックスの構成脂肪酸は、炭素数16~22のものが好ましく、炭素数18~22のものがより好ましい。これらの中でも、ステアリン酸(炭素数18)、ベヘニン酸(炭素数22)が特に好ましく、ステアリン酸がさらに好ましい。
【0035】
アミドエステルワックスの製造方法としては、例えば、上記一価の直鎖飽和脂肪酸と、上記のモノエタノールアミンとからの脱水縮合反応を利用する方法が挙げられる。反応を効率よく進めるために、触媒を利用してもよい。反応温度は180~250℃が好ましく、減圧下で反応を行なってもよい。また、反応の後、脱酸や水洗などにより精製してもよい。アミドエステルワックスは市販品を用いてもよい。
【0036】
アミドエステルワックスは一種を単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。また、一価の直鎖飽和脂肪酸として、牛脂、ヤシ油、ヒマシ油、パーム油などの混合脂肪酸を用いて得られるアミドエステルワックスの混合物を用いることもできる。
【0037】
本発明のワックス熱応答性向上剤のワックスへの添加量は、式(I)で表されるオキサゾリン化合物として、ワックス100質量部に対し、0.01~1.0質量部であり、好ましくは0.01~0.5質量部である。当該添加量が、ワックス100質量部に対して1.0質量部を超過すると、例えば、本発明のワックス熱応答性向上剤およびワックスから得られたワックス組成物を、トナー用ワックスとして利用する場合、印刷工程でのトナーの加熱ロールによる定着において、ワックス組成物の樹脂に対する相溶性が高くなり過ぎて、トナー内部から表面に染み出しにくくなり、離型性に悪影響を及ぼすことがある。また、当該添加量が、ワックス100質量部に対して0.01質量部より少ないと、ワックスの熱応答性が十分に向上しないことがある。したがって、本発明のワックス熱応答性向上剤は、ワックス100質量部に対し、0.01~1.0質量部、好ましくは0.01~0.5質量部となるよう添加されるためのものである。
【0038】
本発明において、ワックス熱応答性向上剤のワックスへの添加効果(すなわち、ワックスに熱を加えた際の固体から液体への相転移における熱応答性を向上させる効果)の評価は、例えば、ワックス熱応答性向上剤およびワックスを含有するワックス組成物の粘度変化率(R)を、測定、算出することなどによって行い得る。
具体的には、ワックス組成物の粘度変化率(R)は、ワックス組成物が融解を開始する「透明融点の粘度」(Pa・s)を「x」とし、ワックス組成物が融解中である「透明融点+2℃の粘度」(Pa・s)を「y」としたとき、以下の計算式(1)で求めることができる。
粘度変化率(R)(%)=(x-y)/x×100 ・・・(1)
ここで、ワックス組成物が融解を開始する「透明融点の粘度」(Pa・s)およびワックス組成物が融解中である「透明融点+2℃の粘度」(Pa・s)は、それぞれフローテスター((株)島津製作所「CFT-500EX」)を用いて、以下の方法で測定される。
[ワックス組成物の溶解粘度係数(計算式(1)のx、y)の測定方法]
試料(ワックス組成物)1gを錠剤成型機でペレット化させ、昇温法により測定する。
(フローテスター条件)
・昇温条件:40℃から速度2℃/minで昇温。
・シリンダ圧力:1.961E+6 Pa
・ダイ穴径:1.0mm
【0039】
本発明のワックス熱応答性向上剤は、ワックスに添加した際、得られるワックス組成物の粘度変化率(R)を、添加前のワックスと比べて、20%以上上昇させ得るものが好ましく、30%以上上昇させ得るものがより好ましい。
【0040】
本発明のワックス熱応答性向上剤は、ワックスに添加した際、得られるワックス組成物の透明融点を、添加前のワックスと比べて、4℃以上低下させないものが好ましい。ワックス組成物の透明融点が4℃以上低下すると、ワックスの物性面に悪影響を与え、本発明のワックス熱応答性向上剤の添加効果(熱応答性向上効果)が得られない場合がある。
【0041】
本発明において、粘度変化率(R)が50%以上であるワックス組成物は、熱を加えた際の固体から液体への相転移における熱応答性に優れるものと評価できる。
【0042】
〔ワックス組成物〕
本発明のワックス組成物は、上記の式(I)で表されるオキサゾリン化合物からなるワックス熱応答性向上剤およびワックスを含有する。本発明のワックス組成物は、換言すると、上記の式(I)で表されるオキサゾリン化合物およびワックスを含有するワックス組成物とも言い得る。
【0043】
本発明のワックス組成物が含有するワックスは、上記の本発明のワックス熱応答性向上剤が用いられ得るワックスと同様であり、好適な態様も同様である。
【0044】
本発明のワックス組成物における、本発明のワックス熱応答性向上剤(すなわち、式(I)で表されるオキサゾリン化合物からなるワックス熱応答性向上剤)の含有量は、式(I)で表されるオキサゾリン化合物として、ワックス100質量部に対し、0.01~1.0質量部であり、好ましくは0.01~0.5質量部である。本発明のワックス熱応答性向上剤の含有量が、ワックス組成物中のワックス100質量部に対して1.0質量部を超過すると、例えば、本発明のワックス組成物をトナー用ワックスとして利用する場合、印刷工程でのトナーの加熱ロールによる定着において、ワックス組成物の樹脂に対する相溶性が高くなり過ぎて、トナー内部から表面に染み出しにくくなり、離型性に悪影響を及ぼすことがある。また、当該含有量が、ワックス組成物中のワックス100質量部に対して0.01質量部より少ないと、ワックス組成物が十分な熱応答性を有しないことがある。
【0045】
本発明のワックス組成物は、式(I)で表されるオキサゾリン化合物からなるワックス熱応答性向上剤およびワックスのみからなるものであってよいが、これらに加えて、その他の成分をさらに含有してもよい。当該成分(その他の成分)は、ワックス組成物の用途等に応じて適宜選択でき、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、例えば、潜熱蓄熱材用途の場合、無機水和塩(例、酢酸ナトリウム三水和塩、塩化カルシウム六水和塩等)、脂肪酸類(例、パルミチン酸、ミリスチン酸等)、芳香族炭化水素化合物(例、ベンゼン、p-キシレン等)などが挙げられる。
【0046】
本発明のワックス組成物における、式(I)で表されるオキサゾリン化合物からなるワックス熱応答性向上剤およびワックスの含有量の合計は特に制限されないが、本発明のワックス組成物に対して、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは99質量%以上である。また、本発明のワックス組成物における、式(I)で表されるオキサゾリン化合物からなるワックス熱応答性向上剤およびワックスの含有量の合計の上限は、本発明のワックス組成物に対して100質量%である。
【0047】
本発明のワックス組成物は公知の方法により製造することができる。例えば、ワックス熱応答性向上剤およびワックスを加熱融解して均一に混合することにより製造することができる。ワックス熱応答性向上剤およびワックスを加熱融解する場合の加熱温度は、通常80~150℃である。
【0048】
本発明のワックス組成物の利用態様は特に制限されないが、例えば、本発明のワックス組成物はトナー中に配合することができる。本発明のワックス組成物をトナーに配合する場合、一般には、バインダー樹脂、着色剤、外添剤、帯電制御剤などとともに配合され、当該トナーは通常の製法によって製造され得る。トナー中における本発明のワックス組成物の配合量は、トナーに配合されるバインダー樹脂100質量部に対して、通常0.1~5.0質量部である。
【0049】
本発明は、上記の式(I)で表されるオキサゾリン化合物をワックスに添加することを含む、ワックスの熱応答性向上方法(具体的には、ワックスに熱を加えた際の固体から液体への相転移における熱応答性の向上方法)も提供する。当該方法において用いられ得るワックスは、上記の本発明のワックス熱応答性向上剤が用いられ得るワックスと同様であり、好適な態様も同様である。また、当該方法において、式(I)で表されるオキサゾリン化合物のワックスへの添加量は、上記の本発明のワックス熱応答性向上剤のワックスへの添加量と同様に設定し得、好ましい範囲も同様である。
【実施例
【0050】
以下に本発明のワックス熱応答性向上剤などの製造例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において「%」は質量基準を意味する。
【0051】
<合成例1:ワックス熱応答性向上剤の合成>
式(I)で表されるオキサゾリン化合物からなるワックス熱応答性向上剤の合成は、以下のように実施した。
[ワックス熱応答性向上剤(A1)の合成]
温度計、窒素導入管、攪拌機および冷却管油水分離管を取り付けた1Lの4つ口フラスコを用いて、3.28gのベヘニン酸モノエタノールアミドを20mlの塩化チオニル中に0℃で窒素ガス雰囲気下で懸濁した。得られた混合物を0℃で30分間攪拌し、次いで常温で15時間攪拌した。このようにして得られた溶液を、低圧で乾式蒸発した。残渣を酢酸エチル15mlからの結晶化により精製し、単離し、真空下で乾燥させた。結晶化した生成物を20mlの無水トルエンに懸濁し、1.3gのカリウムtert-ブトキシドを加えた。得られた混合物を40℃で2時間加熱した後、4℃に冷却した。冷却後の溶液を6mlの水を使用して3回抽出し、抽出物を廃棄した。有機相を低圧で乾式蒸発させることにより、3.0gのオキサゾリン化合物(以下において「ワックス熱応答性向上剤(A1)」と称する)を得た。得られたワックス熱応答性向上剤(A1)の酸価、水酸基価および透明融点を下表1に示す。
なお、ワックス熱応答性向上剤(A1)の酸価、水酸基価および透明融点は、下記の〔測定方法〕に記載の方法にて測定した。
【0052】
[ワックス熱応答性向上剤(A2)~(A5)の合成]
原料としてベヘニン酸モノエタノールアミドに代えて、下表1に示す原料脂肪酸モノエタノールアミドを用いたこと以外は、ワックス熱応答性向上剤(A1)の合成法に準じてワックス熱応答性向上剤(A2)~(A5)の合成を行った。得られたワックス熱応答性向上剤(A2)~(A5)の酸価、水酸基価および透明融点を下表1に示す。
なお、ワックス熱応答性向上剤(A2)~(A5)の酸価、水酸基価、透明融点は、ワックス熱応答性向上剤(A1)と同様に、下記の〔測定方法〕に記載の方法にて測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
<合成例2:ワックスの合成>
[ワックス(B1)の合成]
温度計、窒素導入管、攪拌羽および冷却管を取り付けた2Lの4つ口フラスコに、モノエタノールアミンを250g、ベヘニン酸を2421g加え、窒素気流下、220℃で反応させた。得られたアミドエステル粗生成物は2492gであり、酸価が10.2mgKOH/gであった。本アミドエステル粗生成物にトルエン740gおよびプロパノール300gを加えた後、アミドエステル粗生成物の残存酸価の2.0倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。その後、30分間静置して水層部(下層)を分離・除去した。排水のpHが中性になるまで水洗を4回繰り返した。残ったアミドエステル層の溶剤を180℃、1kPaの減圧条件下で留去し、濾過を行い、アミドエステルワックス(以下において「ワックス(B1)」と称する)を2395g得た。ワックス(B1)の、脱酸に供したアミドエステル粗生成物に対する収率は90%であった。得られたワックス(B1)の酸価、水酸基価および透明融点を下表2に示す。
なお、ワックス(B1)の酸価、水酸基価および透明融点は、下記の〔測定方法〕に記載の方法にて測定した。
【0055】
[ワックス(B2)の合成]
ベヘニン酸に代えて、下表2に示す原料脂肪酸(ステアリン酸)を用いたこと以外は、ワックス(B1)の合成法に準じてワックス(B2)の合成を行った。ワックス(B2)の酸価、水酸基価、透明融点を下表2に示す。
なお、ワックス(B2)の酸価、水酸基価、透明融点は、ワックス(B1)と同様に、下記の〔測定方法〕に記載の方法にて測定した。
【0056】
[ワックス(B3)の合成]
温度計、窒素導入管、攪拌羽および冷却管を取り付けた2Lの4つ口フラスコに、ペンタエリスリトールを260g、ベヘニン酸を2732g加え、窒素気流下、220℃で反応させた。得られたエステル粗生成物は2759gであり、酸価が9.4mgKOH/gであった。本エステル粗生成物にトルエン570gおよび2-プロパノール89gを加えた後、エステル粗生成物の残存酸価の2.0倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。その後、30分間静置して水層部(下層)を分離・除去した。排水のpHが中性になるまで水洗を4回繰り返した。残ったエステル層の溶剤を180℃、1kPaの減圧条件下で留去し、濾過を行い、エステルワックス(以下において「ワックス(B3)」と称する)を2580g得た。ワックス(B3)の、脱酸に供したエステル粗生成物に対する収率は90%であった。得られたワックス(B3)の酸価、水酸基価および透明融点を下表2に示す。
なお、ワックス(B3)の酸価、水酸基価および透明融点は、下記の〔測定方法〕に記載の方法にて測定した。
【0057】
[ワックス(B4)の合成]
ペンタエリスリトールおよびベヘニン酸に代えて、下表2に示す原料アルコールおよび原料脂肪酸(ジペンタエリスリトールおよびステアリン酸)を用いたこと以外は、ワックス(B3)の合成法に準じてワックス(B4)の合成を行った。ワックス(B4)の酸価、水酸基価、透明融点を下表2に示す。
なお、ワックス(B4)の酸価、水酸基価、透明融点は、ワックス(B1)と同様に、下記の〔測定方法〕に記載の方法にて測定した。
【0058】
【表2】
【0059】
〔測定方法〕
本発明において、ワックス熱応答性向上剤、ワックス、ワックス組成物などの酸価、水酸基価、透明融点は、それぞれ以下の方法で測定した。
(1)酸価:JOCS(日本油化学会)2.3.1-96に準拠した。
(2)水酸基価:JOCS(日本油化学会)2.3.6.2-96に準拠した。
(3)透明融点:JOCS(日本油化学会)2.2.4.1またはJIS K-0064(日本工業規格)に準拠した。
また、本発明において、ワックス組成物の溶解粘度係数(具体的には、透明融点の粘度(Pa・s)、透明融点+2℃の粘度(Pa・s))は、以下の方法で測定した。
(4)ワックス組成物の溶解粘度係数:試料(ワックス組成物)1gを錠剤成型機でペレット化させ、フローテスター((株)島津製作所「CFT-500EX」)により昇温法による測定を行った。
(フローテスター条件)
・昇温条件:40℃から速度2℃/minで昇温。
・シリンダ圧力:1.961E+6 Pa
・ダイ穴径:1.0mm
また、本発明において、ワックス組成物の粘度変化率(R)(%)は、ワックス組成物が融解を開始する「透明融点の粘度」(Pa・s)を「x」とし、ワックス組成物が融解中である「透明融点+2℃の粘度」(Pa・s)を「y」としたとき、以下の計算式(1)で求めることができる。
粘度変化率(R)(%)=(x-y)/x×100 ・・・(1)
【0060】
<ワックス組成物の調製および評価>
(実施例1)
攪拌羽、窒素導入管を取り付けた0.3L容器のセパラブルフラスコに、ワックス熱応答性向上剤(A1)を0.01g、ワックス(B1)を99.99g加え、窒素気流下、150℃で1時間攪拌した。その後、冷却、固化、粉砕を経て、ワックス組成物を得た(以下において「実施例1のワックス組成物」と称する)。
得られた実施例1のワックス組成物の粘度変化率(R)を、フローテスター分析装置((株)島津製作所:CFT-500EX)を用いて、上記の〔測定方法〕に記載の方法により評価した。なお、ワックス組成物におけるワックス熱応答性向上剤の含有量は、ガスクロマトグラフで定量することができる。また、実施例1のワックス組成物の透明融点を、上記の〔測定方法〕に記載の方法にて測定した。
【0061】
(実施例2~6、比較例1~6)
表1に示すワックス熱応答性向上剤および表2に示すワックスを下表3に示す組み合わせで用いて、実施例1と同様にしてワックス組成物をそれぞれ得た(以下において、それぞれ「実施例2のワックス組成物」などと称する)。得られた実施例2~6、比較例1~6の各ワックス組成物の粘度変化率を、フローテスター分析装置((株)島津製作所:CFT-500EX)を用いて、上記の〔測定方法〕に記載の方法により評価した。なお、ワックス熱応答性向上剤の含有量は、ガスクロマトグラフで定量することができる。また、実施例2~6、比較例1~6の各ワックス組成物の透明融点を、上記の〔測定方法〕に記載の方法にて測定した。
【0062】
結果を下表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3の結果より、実施例1~6のワックス組成物は、ワックス熱応答性向上剤(A1)~(A4)を所定量含有することによって、粘度変化率が少なくとも50%以上に向上したことが確認された。これにより、ワックス組成物の融解時の流動性を高めることで、例えば、ワックス組成物をトナー用ワックスとして用いる場合、トナーからの染み出し性を向上させることができ、離型性などの機能を高める効果が得られる。
比較例1~4のワックス組成物は、いずれもワックス熱応答性向上剤(A)を含有せず、実施例1~6のワックス組成物に比べ、粘度変化率が低かった。
比較例5のワックス組成物は、ワックス(B2)100質量部に対するワックス熱応答性向上剤(A2)の添加量が3.09質量部であり、融点を低下させワックスの物性面に悪影響を与えるため、添加効果(熱応答性向上効果)を得られない。
比較例6のワックス組成物は、添加されたワックス熱応答性向上剤(A5)の式(I)におけるRの炭素数が9であり、粘度変化率が十分に向上しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のワックス熱応答性向上剤によれば、ワックス100質量部に対し、式(I)で表されるオキサゾリン化合物を、例えば0.01~1.0質量部添加することで、熱を加えた際のワックスの熱応答性を向上させることができる。これにより、ワックス融解時の粘度変化に伴う応答性や染み出し性などをコントロールすることができる。