(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】遮音装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20231219BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20231219BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20231219BHJP
H10N 30/80 20230101ALI20231219BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20231219BHJP
G10K 11/162 20060101ALN20231219BHJP
H10N 30/853 20230101ALN20231219BHJP
H10N 30/857 20230101ALN20231219BHJP
【FI】
G10K11/178 150
H04R17/00
H10N30/30
H10N30/80
H10N30/87
G10K11/162
H10N30/853
H10N30/857
(21)【出願番号】P 2020107569
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 雅裕
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008663(JP,A)
【文献】実開昭55-093112(JP,U)
【文献】特開2007-298999(JP,A)
【文献】国際公開第2014/174730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
H04R 17/00
H10N 30/30
H10N 30/80
H10N 30/87
G10K 11/162
H10N 30/853
H10N 30/857
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性を有し、遮音対象である音を受ける第1圧電フィルムと、
圧電性を有し、前記第1圧電フィルムに対して対向配置される第2圧電フィルムと、
前記第1圧電フィルムおよび前記第2圧電フィルムに電気的に接続された制御回路と、
車室を構成するパネル部材における車室内側の面に設置され、前記第1圧電フィルム及び前記第2圧電フィルムを互いに距離を空けて対向配置した状態で支持するフレームと、
を備え、
前記制御回路は、
前記第1圧電フィルムに電気的に接続され、前記音によって生じる前記第1圧電フィルムの歪みとは逆位相の歪みを前記第1圧電フィルムに生じさせる負性容量回路と、
前記負性容量回路と前記第2圧電フィルムとに電気的に接続され、前記負性容量回路から前記第1圧電フィルムに出力される第1信号を増幅した第2信号を前記第2圧電フィルムに出力する増幅回路と、
を備え、
前記増幅回路は、昇圧トランス回路によって構成されて
おり、
前記第2圧電フィルムに対して前記パネル部材に近い側に配される前記第1圧電フィルムは、圧電効果および逆圧電効果を示す圧電性材料によって構成された第1層と、前記第1層に対して前記第1層の両面の各々を覆うようにそれぞれ取り付けられる一対の第1電極と、を備え、
前記第2圧電フィルムは、圧電効果および逆圧電効果を示す圧電性材料によって構成された第2層と、前記第2層に対して前記第2層の両面の各々を覆うようにそれぞれ取り付けられる一対の第2電極と、を備え、
前記第1圧電フィルムにおける前記第2圧電フィルムと反対側の面は、前記パネル部材における車室内側の面との間に距離を空けて対向配置されている、遮音装置。
【請求項2】
前記第1圧電フィルムと前記第2圧電フィルムの間には、第1軟質材が介在されており、
前記第1圧電フィルムと前記パネル部材の間には、第2軟質材が介在されている、請求項1に記載の遮音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される技術は、遮音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外部の騒音を遮音する遮音材として、圧電体を利用した遮音装置が知られている。例えば特許文献1には、2枚の圧電フィルムと、アナログの制御回路とを備える遮音装置が開示されている。特許文献1の制御回路は、負性容量回路とオペアンプによる増幅回路とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の遮音装置を車両等のフロア等に設置すると、第2信号が多量のノイズを含んだ状態で第2圧電フィルムに出力されてしまい、第2圧電フィルムを遮音材として用いることが困難となるのが実情である。特許文献1に開示された制御回路には、コンデンサによるノイズ対策が施されているものの、制御回路内に紛れ込んだ微弱なノイズが負性容量回路と増幅回路とで増幅されて、第2圧電フィルムに出力されていると考えられる。このノイズを除去するには、制御回路にさらにフィルター回路を設けることが考えられるが、この場合、第2信号の位相がズレやすくなったり、回路が大型化して部品点数とコストの増大を招くために望ましくない。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、圧電フィルムを遮音材として用いる遮音装置において、負性容量回路と増幅回路とによって増幅される信号のノイズを簡単な構成によって低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、ここに開示される技術は、圧電性を有し、遮音対象である音を受ける第1圧電フィルムと、圧電性を有し、前記第1圧電フィルムに対して対向配置される第2圧電フィルムと、前記第1圧電フィルムおよび前記第2圧電フィルムに電気的に接続された制御回路と、を備えている。そして制御回路は、前記第1圧電フィルムに電気的に接続され、前記音によって生じる前記第1圧電フィルムの歪みとは逆位相の歪みを前記第1圧電フィルムに生じさせる負性容量回路と、前記負性容量回路と前記第2圧電フィルムとに電気的に接続され、前記負性容量回路から前記第1圧電フィルムに出力される第1信号を増幅した第2信号を前記第2圧電フィルムに出力する増幅回路と、を備えており、前記増幅回路は、昇圧トランス回路によって構成されていることを特徴としている。
【0007】
上記構成によると、昇圧トランス回路の一次側コイルと二次側コイルとによって、第1圧電フィルムおよび負性容量回路と、第2圧電フィルムと、が分離されて絶縁される。このことにより、第1圧電フィルムおよび負性容量回路に侵入したノイズが昇圧トランス回路で増幅されたり、第2圧電フィルムから第1圧電フィルムおよび負性容量回路の側にノイズが侵入したりすることが防止される。その結果、第1信号をノイズの少ない状態で増幅して第2圧電フィルムに出力することができる。延いては、この遮音装置を様々なノイズが生じ得る環境に設置した場合でも、遮音性能を好適に発揮させることができる。
【0008】
上記遮音装置の好適な一態様において、前記負性容量回路は、前記第1信号の電圧値を変更可能な電圧変更部と、前記第1圧電フィルムおよび前記第2圧電フィルムによる遮音効果が最も高くなる音の周波数を設定可能な周波数設定部と、を備えており、前記増幅回路は、前記第1信号に対する前記第2信号の増幅率を変更可能な構成を備えている。このように周波数設定部を備えることで、設定した周波数の音についてより確実に遮音することができる。ここで、第1信号の電圧値を大きくすると、第1圧電フィルムには、設定した周波数の音に対して特に遮音効果が高い特性(ピーキーな周波数特性)を持たせることができ、この第1信号を増幅した第2信号が入力される第2圧電フィルムについても同じ傾向の周波数特性を持たせつつ、第1圧電フィルムよりも高い遮音効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧電フィルムを遮音材として用いる遮音装置において、負性容量回路と増幅回路とによって増幅される信号のノイズを簡単な構成によって低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る遮音装置が取り付けられた車両を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、
図1から
図3を参照しつつ、車両1に搭載された遮音装置10を例にして説明する。なお、各図に示した符号F,Rr,U,D,IN,OUTはそれぞれ、車両進行方向の前方,後方、鉛直方向(上下方向)の上方,下方,室内側,室外側を示す。ただし、上記方向は便宜的に定めたものに過ぎず、限定的に解釈すべきものではない。
【0012】
図1に示されるように、車両1は、回転駆動されることで当該車両1を走行させるホイール2,2と、車両1の骨格の一部をなすとともに車室の床面を構成するフロアパネル3と、フロアパネル3に支持されるとともに乗員が着座可能なシート4,4と、を備えている。この車両1においては、運転や走行に伴って、ホイール2,2に装着されたタイヤが路面と接触することにより発生する接触音(ロードノイズ)やエンジン音等がノイズとしてフロアパネル3を伝わり、車室内空間に伝播する。そのため、車両1は、このようなノイズを低減するための遮音装置10を備えている。
【0013】
なお、ここに開示される技術において、「遮音」とは、音(音波)の透過を抑制し、透過損失を向上させる作用を意味する。つまり、「遮音」とは、音(音波)の透過を完全に遮断することのみを意味する用語ではない。
【0014】
遮音装置10は、例えば
図1に示すように、車両前方のシート4の下方において、フロアパネル3の床面(室内側の面)に設置されている。遮音装置10は、フロアパネル3に取り付けられる遮音部20と、遮音部20の駆動を制御する制御回路30と、を備えている。したがって本実施形態においては、遮音装置10に対して上方が室内側、遮音装置10に対して下方が室外側に相当する。
【0015】
遮音部20は、第1圧電フィルム21と、第2圧電フィルム22と、第1圧電フィルム21および第2圧電フィルム22を張設状態で支持する筒状のフレーム23と、を備えている。第1圧電フィルム21は、相対的に室外側に配され、第2圧電フィルム22は、相対的に車室内側に配されている。車両1の走行時に発生する騒音は主に車両1の足元側から発生することから、この遮音部20において、遮音対象であるノイズは、主としてフロアパネル3の側、つまり第1圧電フィルム21の側から入射することとなる。ここで、第1圧電フィルム21はフロアパネル3に接触しないようにフロアパネル3からやや離間した配置でフレーム23に固定されており、フロアパネル3を透過してきたノイズによる振動をフロアパネル3によって阻害されることなく受信(センシング)できるようになっている。また、第1圧電フィルム21と第2圧電フィルム22とは互いに接触せずに離間するようにフレーム23に固定されている。そして、第1圧電フィルム21および第2圧電フィルム22は、互いに対向配置されつつ、近接する形で配されている。これら第1圧電フィルム21および第2圧電フィルム22については、両圧電フィルムによる音の位相差をより小さくするために、互いに可能な限り接近して配することが好ましい。
【0016】
第1圧電フィルム21と第2圧電フィルム22とは、圧電効果および逆圧電効果を示す圧電性材料21A,22Aを主体として構成されている。すなわち、この圧電性材料21A,22Aは、フィルム状をなし、その厚み方向(フロアパネル3の板厚方向)について振動した際に、面方向に沿って応力および歪み(弾性歪み)が発生することで、厚み方向に分極が生じて電圧を発生する性質を有している。換言すれば、圧電性材料21A,22Aは、音(音波)を受けて厚み方向に振動することで、厚み方向に電圧を生じるものとなっている。また、圧電性材料21A,22Aは、厚み方向に電圧が加えられることで、面方向に沿って電圧の極性に応じた弾性領域での伸縮歪みが誘発される性質を有している。
【0017】
このような圧電性材料21A,22Aとしては、高分子系圧電材料(例えば、ポリフッ化ビリニデン(PVdF)等)や、圧電セラミック(チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等)を例示することができる。なお、圧電性材料21A,22Aは、上述したものに限定されず適宜変更可能である。また、圧電性材料21A,22Aはそれぞれ、電圧を印加したり取り出したりするために、その両面にそれぞれ、一対の電極21E,21Eおよび電極22E,22Eを備えている。このような電極21E,21E,22E,22Eは、例えば圧電性材料21A,22Aに金属を蒸着したり、金属板を貼り合わせることで構成することができるが、これに限定されない。本実施形態において、第1圧電フィルム21および第2圧電フィルム22は、寸法や材質などの構成が同じであって、機械的性質及び電気的性質ならびに圧電特性が同一となるようにされている。
【0018】
制御回路30は、負性容量回路40と、増幅回路60と、を備えている。負性容量回路40は、制御回路30において負の容量を持つコンデンサと同様の動作をするように構成されている。例えば
図3に示すように、本実施形態の負性容量回路40は、オペアンプ41と、可変抵抗42と、コンデンサ43と、半固定抵抗44と、を備えている。オペアンプ41の非反転入力端子には、第1圧電フィルム21が接続されており、また、コンデンサ43および半固定抵抗44が正帰還ループを構成するように接続されている。換言すると、第1圧電フィルム21はオペアンプ41の非反転入力端子とアースに並列接続されており、制御回路30において第1圧電フィルム21は負性容量と並列接続されたことと等価になっている。また、オペアンプ41の反転入力端子には、可変抵抗42(抵抗42Bの部分)を介して負帰還が掛けられている。このような負性容量回路40は、例えば正の電圧が印加されると正の電荷を放出するものとして構成されている。
【0019】
負性容量回路40は、第1圧電フィルム21に負性容量回路40を結合した状態においては、第1圧電フィルム21に音波が入射されることにより生じた正または負の電圧が負性容量回路40に入力されると、負性容量回路40から第1圧電フィルム21に向けて正または負の電荷がそれぞれ放出される。これにより第1圧電フィルム21内の分極が減少し、第1圧電フィルム21の歪みが減少する。つまり、負性容量回路40が放出した電荷によって弾性歪みとは逆位相の歪みが生じ、見かけの歪みは減少する。そのため、第1圧電フィルム21については、外力と見かけの歪みの比として定義される見かけの弾性率が増加したと言うことができ、第1圧電フィルム21はあたかも硬くなったかのようにふるまうこととなる。このことにより、音波の進行方向に生じる第1圧電フィルム21の変位(振動)も減少され、音波の透過が抑制されるとともに、第1圧電フィルム21を遮音材として機能させることができる。
【0020】
ここで、負性容量回路40においては、可変抵抗42における抵抗42Aと抵抗42Bのインピーダンスや、コンデンサ43の容量、半固定抵抗44の抵抗値等を調節することによって、負性容量回路40の複素容量の実数部および虚数部を変化させられることが知られている。また、半固定抵抗44を調節することによって、負性容量回路40の損失係数(複素容量の虚数部と実数部の比)の周波数特性を変えられることが知られている。つまり、可変抵抗42、コンデンサ43、および半固定抵抗44の構成を適切に設定することで、例えば、任意の周波数帯域で負性容量回路40の損失係数を第1圧電フィルム21の誘電的な損失係数とほぼ一致させることができる。その結果、第1圧電フィルム21(ひいては第2圧電フィルム)による遮音効果が最も高くなる音の周波数(ピーク周波数)を、遮音対象とする騒音の周波数域に設定することができる。具体的には、負性容量回路40における半固定抵抗44の抵抗値を大きくすると、遮音効果が最も高くなる音の周波数を低くすることができ、半固定抵抗44の抵抗値を小さくすると、遮音効果が最も高くなる音の周波数を高くすることができる。なお、好適例として、コンデンサ43を第1圧電フィルム21における圧電性材料21Aと同一の物質で構成すれば、温度や周波数によらず、容易に損失係数を第1圧電フィルム21(より詳細には、圧電性材料21A)の損失係数と一致させることができる。
【0021】
オペアンプ41の出力端子からは、信号V1(第1信号)が出力されることとなる。負性容量回路40においては、可変抵抗42(電圧変更部)を構成する抵抗42Aと抵抗42Bとの比を変えることで、信号V1の電圧値を変更することができる。具体的には、抵抗42Aの抵抗値をRA、抵抗42Bの抵抗値をRB、オペアンプ41の非反転入力端子に入力される信号V0の電圧値をVA、信号V1の電圧値をVBとした場合において、VB=VA*(1+RB/RA)の関係が得られる。ここで、抵抗42Aと抵抗42Bとは、回路が発振して第1圧電フィルム21自体からの音の放射が始まることのない範囲で最大の電圧が出力されるように設定するとよい。
【0022】
なお、負性容量回路40において、オペアンプ41には、演算回路を駆動するための直流電源31,32が接続されている。また、負性容量回路40は、ノイズを低減するための複数のコンデンサ33を備える。なお、可変抵抗42および半固定抵抗44の代わりに、二つの抵抗を用いてもよい。
【0023】
増幅回路60は、
図3に示すように、1次側コイル61と、2次側コイル62と、半固定抵抗63と、を備えて構成されている。1次側コイル61および2次側コイル62の二つのコイルは、磁気的に結合されることで昇圧トランス回路60Aを構成している。昇圧トランス回路60Aにおいて、1次側コイル61と2次側コイル62とでは、1次側コイル61の巻き数Npよりも、2次側コイル62の巻き数Nsの方が多くなるように構成されており、1次側コイル61の電圧Vpよりも2次側コイル62の電圧Vsの方が高くなる(昇圧される)ようになっている。負性容量回路40の出力端子は、半固定抵抗63を介して昇圧トランス回路60Aに接続され、1次側コイル61には、オペアンプ41の出力電圧が印加される。このことにより、2次側コイル62の側において、負性容量回路40からの出力電圧を増幅することができる。増幅回路60においては、1次側コイル61および2次側コイル62の巻数比を変えることで、信号V1に対する信号V2の変圧比を変えることができる。具体的には、一般に、1次側コイル61と2次側コイル62とにおける巻数比と変圧比は等しく、Vp/Vs=Np/Nsの関係がみられる。なお、この増幅回路60において、1次側コイル61と2次側コイル62とで電力は大きくならないが、電圧を増幅している点において広義の増幅回路と呼んでいる。
【0024】
なお、半固定抵抗63は分圧抵抗として機能し、昇圧トランス回路60Aの前に付加的に介在させることができる。増幅回路60において、半固定抵抗63の抵抗を増減させることで、増幅回路60の入力電圧に対する昇圧トランス回路60Aの入力電圧の割合を減増させることができる。したがって、増幅回路60において、半固定抵抗63を介在させたうえで昇圧トランス回路60Aの増幅率を大きく設定しておくことで、半固定抵抗63の調整によって、昇圧トランス回路60A(延いては増幅回路60)からの出力電圧を任意の大きさに調整することができる。また、昇圧トランス回路60Aの入力電圧は増幅回路60において調整するため、例えば、容量回路40から第1圧電フィルム21への出力に対して影響を与えることがない点において好適である。
【0025】
増幅回路60の出力端子には、第2圧電フィルム22が接続されている。具体的には、第2圧電フィルム22の両面の電極22E,22Eには、2次側コイル62の両端子が接続されており、負電位側の電極22Eは接地されている。ここで、昇圧トランス回路60Aにおいては、1次側コイル61側に入力された負性容量回路40のオペアンプ41からの信号V1が、上述の通り、1次側コイル61および2次側コイル62の巻数比に基づいて電圧が増幅され、同位相の信号V2(第2信号)として第2圧電フィルム22に出力される。このため、第2圧電フィルム22に対しては、第1圧電フィルム21に生じさせたのと同位相の歪みを生じさせることができ、第2圧電フィルム22に音が伝播することによって生じる歪みを、第2圧電フィルム22に印加された電圧によって生じる圧電性に起因する歪みによって打ち消すことができる。これは、第2圧電フィルム22の見かけの弾性率を増加させることとなり、音を遮音するのに有効となり得る。加えて、第2圧電フィルム22については、印加される電圧が増幅されていることから、第1圧電フィルム21よりも大きい力で駆動させることができる。これにより、第2圧電フィルム22を、第1圧電フィルム21よりも遮音効果(透過損失)の高い遮音材として機能させることができる。
【0026】
ここで、制御回路30においては、第2圧電フィルム22と負性容量回路40との間に、増幅回路60が介在されている。増幅回路60においては、昇圧トランス回路60Aによって1次側コイル61と2次側コイル62とが電気的に絶縁されていることから、第2圧電フィルム22による負性容量回路40の電気的特性への影響を抑制することができるとともに、第1圧電フィルム21および負性容量回路40に侵入したノイズが増幅回路60で増幅されることを防止することができる。また、昇圧トランス回路60Aによると、1次側コイル61と2次側コイル62との間には、位相のズレが生じない。このような構成によって、フロアパネル3のような制御回路30にノイズの混入しやすい環境に遮音装置10が設置された場合であっても、ノイズの影響を抑制して、第2圧電フィルム22の機能をより確実に発揮させることができる。また、ノイズを抑制しつつも、制御回路30によって第1圧電フィルム21と第2圧電フィルム22とに印加される信号の位相にズレが発生することを抑制することができる。
【0027】
次に本実施形態の効果について説明する。本実施形態によれば、第1圧電フィルム21に負性容量回路40を接続することで、第1圧電フィルム21に入射する音によって生じる第1圧電フィルム21の振動を低減させることができ、第1圧電フィルム21を遮音材として用いることができる。また、負性容量回路40から第1圧電フィルム21に出力される信号V1を増幅して第2圧電フィルム22に出力するに際しては、昇圧トランス回路60Aによって、制御回路30を1次側コイル61と2次側コイル62との間で電気的に絶縁している。このことにより、第1圧電フィルム21および負性容量回路40に侵入したノイズがオペアンプ41や増幅回路60で増幅されたり、第2圧電フィルム22から第1圧電フィルム21および負性容量回路40の側にノイズが侵入したりすることが防止される。その結果、ノイズが混入しやすい環境に遮音装置10を設置した場合でも、ノイズの増幅と位相のズレを抑制しながら、負性容量回路40から第1圧電フィルム21に出力される信号V1を増幅して第2圧電フィルム22に適切に出力することができる。延いては、第2圧電フィルム22を第1圧電フィルム21よりも大きい力で適切に駆動させつつ、第1圧電フィルム21と同じ位相で歪ませることができ、第2圧電フィルム22を第1圧電フィルム21よりも高い遮音効果を有する遮音材として用いることができる。つまり、第1圧電フィルム21で遮音しきれなかった騒音を、第2圧電フィルム22によって効果的に遮音することができる。
【0028】
なお、第1圧電フィルム21の振動特性や負性容量回路40の発信を抑制するとの観点から、信号V1の電圧値および負性容量回路40の増幅率は比較的小さい範囲に限定され、第1圧電フィルム21による遮音効果を顕著に大きくすることは困難である。しかしながら、ここに開示される技術によると、信号V1の電圧値や負性容量回路40の増幅率が小さい場合であっても、昇圧トランス回路60Aによってノイズの増幅を抑えて信号V2の出力を大きく高めることができる。このことにより、主に第2圧電フィルム22によって、効果的な遮音を実現することができる。
【0029】
また、本実施形態では、周波数設定部である半固定抵抗44を備えることで、遮音対象とする騒音の周波数と近接する周波数の音についてより確実に遮音することができる。そして、第2圧電フィルム22は、信号V2(第1圧電フィルム21を制御するための信号V1を増幅した信号)によって制御されることから、第1圧電フィルム21の周波数特性と同じ傾向の周波数特性を持ちつつ、第1圧電フィルム21よりも高い遮音効果を発揮することになる。つまり、狙った周波数の騒音をより効果的に遮音することができる。このことによっても、遮音対象とする騒音とは周波数帯域の異なるノイズの増幅を抑えて、信号V2の出力を大きく高めることができる。
【0030】
<他の実施形態>
本発明は上記記述および図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、遮音部20がフロアパネル3に取り付けられる構成を限定したが、これに限定されない。例えば、遮音部20は、車両1のドアトリムやダッシュパネル等に設けてもよい。
(2)上記実施形態では、第1圧電フィルム21、第2圧電フィルム22、およびフロアパネル3は互いに離間されていた。しかしながら、第1圧電フィルム21、第2圧電フィルム22、およびフロアパネル3の間には、第1圧電フィルム21および第2圧電フィルム22の振動を阻害したり、互いの振動を伝播し合ったりしない程度に柔らかい材料を介在させてもよい。これにより、第1圧電フィルム21および第2圧電フィルム22が自重によって微小に撓むことを抑制することができ、ノイズによる振動をより精確に受信(センシング)できるとともに、フィルム全体が一様に振動することが可能となって遮音精度の向上を図ることができる。なお、このような材料としては、超軟質のポリウレタンフォームが好適例として挙げられる。
(3)また、制御回路30には、ここに開示される技術の本質を損ねない範囲において、他の素子を接続してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…車両、3…フロアパネル、10…遮音装置、21…第1圧電フィルム、22…第2圧電フィルム、40…負性容量回路、60…増幅回路、60A…昇圧トランス回路、V1…信号(第1信号)、V2…信号(第2信号)