(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20231219BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B62D25/04
B62D25/06 A
(21)【出願番号】P 2020113839
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 常規
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-008587(JP,A)
【文献】特開2015-063208(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0152043(US,A1)
【文献】特開平11-028995(JP,A)
【文献】特開平10-095364(JP,A)
【文献】特開平09-099856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体構造であって、
第1材料からなり閉断面を有する第1フレームと、
第2材料からなり閉断面を有する第2フレームとを備え、
前記第1フレームおよび前記第2フレームは、互いに並んで車両前後方向に延び、
前記第2フレームは、前記第1フレームよりも引張強度が高く、かつ軽量であり、
前記車両の正面断面視において、前記第2フレームの図心は、車両中心に対して前記第1フレームの図心よりも車幅方向外側に位置
しており、
前記第1フレームは、前記車両の正面断面視で複数の辺を有する多角形形状を有し、
前記複数の辺は、前記第1フレームの外周面を構成する面が前記車幅方向外側を向く少なくとも2つの外側辺を有し、
前記第2フレームは、少なくとも2つの前記外側辺に固定可能な固定面を備える、
車体構造。
【請求項2】
少なくとも2つの前記固定面が少なくとも2つの前記外側辺に接着されている、
請求項
1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記第1フレームは、前記車両の正面断面視で2つの前記外側辺を含む4つの辺を有するひし形形状を有し、
前記第2フレームは、前記第1フレームの2つの前記外側辺と固定可能な2つの前記固定面を備える、
請求項
1または
2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記第1フレームは、前記多角形形状の断面における複数の対角線のうち、最も長い対角線が車両上下方向を向くように配置されている、
請求項
1~
3のいずれか1項に記載の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車体の耐久性向上および軽量化の実現のために、アルミ押出材のピラーフレームを採用するとともに、当該ピラーフレームが複数の閉断面を有する車体構造が知られている。
【0003】
具体的には、特許文献1記載のピラー構造では、アルミニウム材料を押出成形されたピラーフレームによりフロントピラー部と屋根の側縁部とが形成されている。ピラーフレームは、車体内側に位置する2つの閉断面として大筒状部と外側に臨む小筒状部とが連設し一体化した断面形状を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の車体構造では、アルミニウム材料によって形成された複数の閉断面を有するピラーフレームを車体に用いているが、アルミニウム材料の特性として、スチールなどの材料と比較して引張やねじりなどに対する引張強度が弱くなるので、車両の操縦安定性を十分に満足できない懸念がある。
【0006】
そこで、車体の引張強度を向上するために、アルミニウム材料の量を増やしたり、ピラーフレームの断面形状を大きくすることが考えられるが、これらの場合、車体の軽量化を阻害したり、ピラーフレームの外形寸法が大きくなって車体のデザイン自由度の向上が困難になる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車体の軽量化と操縦安定性の向上とともに車体のデザイン自由度の向上が可能な車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車体構造は、車両の車体構造であって、第1材料からなり閉断面を有する第1フレームと、第2材料からなり閉断面を有する第2フレームとを備え、前記第1フレームおよび前記第2フレームは、互いに並んで車両前後方向に延び、前記第2フレームは、前記第1フレームよりも引張強度が高く、かつ軽量であり、前記車両の正面断面視において、前記第2フレームの図心は、車両中心に対して前記第1フレームの図心よりも車幅方向外側に位置しており、前記第1フレームは、前記車両の正面断面視で複数の辺を有する多角形形状を有し、前記複数の辺は、前記第1フレームの外周面を構成する面が前記車幅方向外側を向く少なくとも2つの外側辺を有し、前記第2フレームは、少なくとも2つの前記外側辺に固定可能な2つの固定面を備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、それぞれ閉断面を有する第1フレームおよび第2フレームを備えた車体構造において、第2フレームは第1フレームよりも引張強度が高くて軽量であり、車両の正面断面視において、第2フレームの図心が車両中心に対して第1フレームの図心よりも車幅方向外側に位置する。これにより、車両走行時において車両中心CLに対する慣性モーメントを小さくしながら、車体変形を抑えることが可能になり、車体の軽量化と車両の操縦安定性の向上との両立が可能になる。また、第1フレームと当該第1フレームよりも軽量かつ高い引張強度の第2フレームとで構成された複合フレームを採用することにより、第1フレームを構成する第1材料のみで複数の閉断面を有するフレームを構成するよりも引張強度を確保しながら外形寸法の増大を抑えることが可能になり、車体のデザイン自由度の向上も可能になる。
また、上記の構成によれば、車両走行時に第1フレームに入力されるねじれ荷重または曲げ荷重を、第1フレームの外周面を構成する面が第1フレームにおける車幅方向外側を向く少なくとも2つの外側辺から当該外側辺のそれぞれに固定可能な第2フレームの少なくとも2つの固定面を介して、すなわち複数の伝達経路によって、引張強度が高い第2フレームに効率的に伝達することが可能である。その結果、車両の操縦安定性をさらに向上することが可能になる。
【0012】
上記の車体構造において、少なくとも2つの前記固定面が少なくとも2つの前記外側辺に接着されているのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、第2フレームの少なくとも2つの固定面が第1フレームの少なくとも2つの外側辺に接着されることにより異なる2つの接着面が形成されている。そのため、第1フレームにねじれ荷重または曲げ荷重が入力された場合には、2つの接着面のうちの少なくとも1つがせん断荷重を受けながら第1フレームから第2フレームへ確実に荷重伝達することが可能になる。その結果、車両の操縦安定性のより一層の向上が可能になる。
【0014】
上記の車体構造において、前記第1フレームは、前記車両の正面断面視で2つの前記外側辺を含む4つの辺を有するひし形形状を有し、前記第2フレームは、前記第1フレームの2つの前記外側辺と固定可能な2つの前記固定面を備えるのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、第1フレームは、4つの辺を有するひし形の断面形状を有しているので、2つの外側辺を有していながら小さい断面寸法であるので、車体のデザイン自由度がさらに向上する。また、車両走行時に第1フレームに入力されるねじれ荷重または曲げ荷重を、第1フレームの2つの外側辺から第2フレームの2つの固定面を介して、2つの伝達経路によって、引張強度が高い第2フレームに効率的に伝達することが可能である。その結果、車体のデザイン自由度のさらなる向上と車両の操縦安定性のさらなる向上とを両方達成することが可能になる。
【0016】
上記の車体構造において、前記第1フレームは、前記多角形形状の断面における複数の対角線のうち、最も長い対角線が車両上下方向を向くように配置されているのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、第1フレームの上下方向における断面二次モーメントが最大になるので、上下方向の曲げ荷重に対する第1フレームを曲げ強度を最大にすることが可能になる。したがって、第1フレームの外形寸法を大きくすることなく上下方向の曲げ強度を向上させることが可能であり、車体のデザイン自由度がさらに向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車体構造によれば、車体の軽量化と操縦安定性の向上とともに車体のデザイン自由度の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る車体構造を有する車両の全体構成を示す側面図である。
【
図8】
図6の第1フレームがひし形断面の場合を模式的に示す断面説明図である。
【
図9】
図7のひし形断面の第1フレームに対して反時計回り方向のねじり荷重が付与された場合の当該第1フレームの各辺に作用する荷重を模式的に示す断面説明図である。
【
図10】
図7のひし形断面の第1フレームに対して車両における車幅方向内側へ向かう方向の曲げ荷重が付与された場合の当該第1フレームの各辺に作用する荷重を模式的に示す断面説明図である。
【
図11】本発明の車体構造の他の変形例に係る
図3の第2フレームの閉断面部を車幅方向内側へ延ばした構造を示す断面説明図である。
【
図12】本発明の車体構造の他の変形例に係る3つの外側辺を有する六角形断面の第1フレームと、当該3つの外側辺にそれぞれ接着された3つの固定面を有する第2フレームとを備えた構造に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0021】
図1~2に示される車体構造は、自動車などの車両1の車体構造であり、車体2の上部を構成する一対のルーフレール3と、フロントウインド4と、ルーフパネル5と、車体2の車幅方向Yの両側に取り付けられた一対のドア6とを備える。
【0022】
一対のルーフレール3は、それぞれ、車両前後方向Xに延びるルーフレール本体部3bと、ルーフレール本体部3bの前端から車両1の下方かつ車両前方X1に延びるピラー部3aとを有する。
【0023】
フロントウインド4は、一対のルーフレール3におけるピラー部3aの間を覆うように設けられている。フロントウインド4の両側端は、ピラー部3aに沿うように上方かつ車両後方X2に延びている。
【0024】
ルーフパネル5は、一対のルーフレール3におけるルーフレール本体部3bの間を覆い、車体2の天井部を構成している。ルーフパネル5の両側端は、ルーフレール本体部3bに沿うように車両後方X2に延びている。
【0025】
一対のルーフレール3のそれぞれは、異種材料で構成された複合フレームで構成され、具体的には、
図3~7に示されるように、第1フレーム11および第2フレーム12によって構成されている。第1フレーム11および第2フレーム12は、車幅方向Yかつ上下方向Zに互いに並び、かつ、車両前後方向Xに延びている。
【0026】
第1フレーム11は、第1材料からなり閉断面11aを有し、車両1の前後方向Xに延びる長尺の筒状体である。
【0027】
第1フレーム11は、第1材料として例えばアルミニウムやスチールなどの剛性があってかつ安価に製造可能な金属材料などで製造される。
【0028】
図3~6に示される第1フレーム11は、車両1の正面断面視で複数の辺11b、11c、11d、11eを有する多角形形状、本実施形態ではひし形形状を有する。言い換えれば、これら複数の辺11b、11c、11d、11eによって、ひし形形状(多角形形状)の閉断面11aが構成される。
【0029】
複数の辺11b、11c、11d、11eは、第1フレーム11の外周面を構成する面が車幅方向外側Y1を向く少なくとも2つの外側辺として、第1外側辺11bおよび第2外側辺11cを有する。第1外側辺11bは、第1フレーム11の車幅方向外側Y1であって斜め上方を向いている。第2外側辺11cは、第1フレーム11の車幅方向外側Y1であって斜め下方を向いている。
【0030】
これに対して、第2フレーム12は、上記の少なくとも2つの外側辺11b、11cに固定可能な面として、後述の少なくとも2つの固定面12b1、12b2を備える。
【0031】
したがって、第1フレーム11は、車幅方向Yにおいて外側を向く少なくとも2つの外側辺11b、11cを有することにより、1つの外側辺しか無い場合(例えば、矩形断面の第1フレーム11が外側辺11bのみが車幅方向外側Y1を向いている場合)と比較して、第2フレーム12を接着などで固定するための面積を広く確保することが可能である。
【0032】
第2フレーム12は、
図3~5および
図7に示されるように、第2材料からなり閉断面12aを有し、車両1の前後方向Xに延びる長尺の筒状体である。
【0033】
第2フレーム12は、第2材料として、例えば炭素繊維などで強化されたCFRPなどの強化繊維樹脂で製造されている。CFRPなどの強化繊維樹脂は、上記の第1材料に採用されるアルミニウムやスチールなどの金属材料と比較して軽量(すなわち、単位重量当たりの重量(または比重)が軽い)でかつ引張強度が高い(さらに具体的に言えば、ねじり剛性や曲げ剛性などの剛性が高い)性質を有する。
【0034】
第2フレーム12は、車両1の車幅方向Yで切断した場合に閉断面12aを有する筒状の形状を有する。閉断面12aは、第1フレーム固定部12bと、外面構成部12cと、ウェザーストリップ取付部12dとによって形成されている。これら第1フレーム固定部12bと、外面構成部12cと、ウェザーストリップ取付部12dは、それぞれCFRPなどからなる薄板の繊維強化樹脂材料で製造される。薄板の繊維強化樹脂材料は、それぞれ炭素繊維などの強化繊維が第2フレーム12の長手方向(主に車両前後方向X)に延びるように配向されている。カーボンファイバーの焼結時にこれら第1フレーム固定部12bと、外面構成部12cと、ウェザーストリップ取付部12dが結合されることにより、閉断面12aを有する第2フレーム12が製造される。このような繊維強化樹脂材料で形成された閉断面12aを有する構造により、第2フレーム12は、第1フレーム11よりも引張強度が高く、かつ軽量(すなわち、単位重量当たりの重量(または比重)が軽い)になっている。
【0035】
第1フレーム固定部12bは、第1フレーム11の2つの外側辺11b、11cとそれぞれに固定可能な2つの固定面として、第1固定面12b1と、第2固定面12b2とを備える。すなわち、固定面12b1は外側辺11bに固定可能であり、固定面12b2は外側辺11cに固定可能である。
【0036】
第1固定面12b1および第2固定面12b2は、異なる方向を向いており、
図3~5に示される本実施形態では互いに直交している。
【0037】
本実施形態では、
図3~5に示されるように、第2フレーム12の少なくとも2つの固定面12b1、12b2が第1フレーム11の少なくとも2つの外側辺11b、11cにそれぞれに接着されている。
【0038】
具体的には、第1固定面12b1は、第1フレーム11の車幅方向外側Y1であって斜め上方を向く第1外側辺11bに対向し、接着材13によって第1外側辺11bに接着されている。
【0039】
第2固定面12b2は、第1フレーム11の車幅方向外側Y1であって斜め下方を向く第2外側辺11cに対向し、接着材14によって第2外側辺11cに接着されている。
【0040】
なお、本実施形態では、接着材13、14は、分離しているが、つながっていてもよい。
【0041】
外面構成部12cは、車両1の外側から見える部分であり、車両1の意匠面の一部を構成する。
【0042】
ウェザーストリップ取付部12dは、車両1の車幅方向外側Y1を向いて開口する嵌合凹部12d1(
図7参照)を有する。嵌合凹部12d1は、車両前後方向Xに延びる溝であり、長尺の樹脂材料のウェザーストリップを取付けることが可能である。
【0043】
本実施形態では、第2フレーム12はウェザーストリップ取付部12dを一体形成によって含んでいるので、別部材を取り付けた場合の出っ張りや継ぎ目などが無くなり、その結果、車両1のデザイン性が向上する。
【0044】
なお、接着以外の方法で固定、例えばリベット接合などを用いてもよいし、または接着およびリベット接合を併用してもよい。
【0045】
図3~5に示されるように、第2フレーム12は、さらに、閉断面12aを構成する第1フレーム固定部12bおよび外面構成部12cが車幅方向Yにおける内側Y2に突出することによって形成されたフランジ部12eを有する。フランジ部12eは、第2フレーム12の車両前方側X1の部分において第2フレーム12の長手方向(主に車両前後方向X)に延びている。このフランジ部12eには、フロントウインド4の両側端部が接着などによって固定される。
【0046】
また、
図5に示されるように、第2フレーム12におけるルーフパネル5と平行になるように延びている部分では、第2フレーム12の閉断面12aを構成する第1フレーム固定部12bおよび外面構成部12cが第1フレーム11の上方の第1外側辺11bよりも車幅方向Yにおける内側Y2に突出することにより、閉断面12aの内側延設部12a1が形成されている。一方、ルーフパネル5の車幅方向Yにおける両側には、車幅方向Yの外側Y1に突出するフランジ部5bが形成されている。フランジ部5bが閉断面12aの内側延設部12a1の下面に接着されることにより、ルーフパネル5の両側端部を一対のルーフレール3にそれぞれ固定することが可能である。
【0047】
なお、
図5に示されるように、フロントウインド4の上端部は、第2フレーム12のフランジ部12eの上面に接着されるとともにルーフパネル5の本体部5aの前方に突出するフランジ部5cに接着される。また、ルーフパネル5のフランジ部5bの前端部は、第2フレーム12のフランジ部12eの下面に接着されている。
【0048】
以上のように構成された第2フレーム12の配置を見た場合、
図3に示されるように、車両1の正面断面視において、第2フレーム12の図心C2は、車両中心CL(すなわち、
図2に示される車幅方向Yにおける車両1の中心線)に対して第1フレーム11の図心C1よりも車幅方向外側Y1に位置する。
【0049】
なお、「正面断面視」とは、第1フレーム11および第2フレーム12の延伸方向に対する断面を車両前方から見た断面視を意味する。また、図心C1とは、第1フレーム11の車幅方向断面の中心(重心)を意味する。図心C2とは、第2フレーム12の車幅方向断面の中心(重心)を意味する。
【0050】
また、
図2に示されるように、車両中心CLについての車幅方向Yの位置は、車両正面視で車両1の中心に位置しており、車両1の重心Gと同じである。
【0051】
また、本実施形態の第2フレーム12の図心C2は、第1フレーム11の図心C1よりも上下方向Zにおいて上側に位置しているが、第1フレーム11の図心C1と同じ高さまたはそれ以下の位置でもよい。
【0052】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車体構造は、
図3~5に示されるように、車両1の車体構造であって、アルミニウムやスチールなどの第1材料からなり閉断面11aを有する第1フレーム11と、 第1材料と異なるCFRPなどの第2材料からなり閉断面12aを有する第2フレーム12とを備える。第1フレーム11および第2フレーム12は、車幅方向Yかつ上下方向Zに互いに並び、かつ、車両前後方向Xに延びている。第2フレーム12は、第1フレーム11よりも引張強度が高く、かつ軽量である。
図3に示されるように、車両1の正面断面視において、第2フレーム12の図心C2は、車両中心CLに対して第1フレーム11の図心C1よりも車幅方向外側Y1に位置する。
【0053】
かかる構成によれば、異種の材料からなりそれぞれ閉断面11aを有する第1フレーム11および第2フレーム12を備えた車体構造において、第2フレーム12は第1フレーム11よりも引張強度が高くて軽量であり、車両の正面断面視において、第2フレーム12の図心C2が車両中心CL(
図2における車幅方向Yにおける車両1の中心線)に対して第1フレーム11の図心C1よりも車幅方向外側Y1に位置する。これにより、車両1の走行時において車両中心CLに対する慣性モーメントを小さくしながら、車体変形を抑えることが可能になり、車体の軽量化と車両1の操縦安定性の向上との両立が可能になる。また、第1フレーム11と当該第1フレーム11よりも軽量かつ高い引張強度の第2フレーム12とで構成された複合フレームを採用することにより、第1フレーム11を構成する第1材料のみで複数の閉断面を有するフレームを構成するよりも引張強度を確保しながら外形寸法の増大を抑えることが可能になり、車体のデザイン自由度の向上も可能になる。
【0054】
言い換えれば、本実施形態の車体構造では、車両中心CLから遠方に軽量な部材である第2フレーム12を配置することにより、車両中心CLに対する車体の慣性モーメントを小さくすることが可能である。また、第2フレーム12は車両中心CLから遠方にあるため、車両中心CLに対する第2フレーム12の断面2次モーメントが大きくなり、さらに、第2フレーム12の引張強度が高いことにより、車体のねじれ変形を抑制でき、操縦安定性を向上することが可能である。
【0055】
(2)
本実施形態の車体構造では、
図3~5に示されるように、第1フレーム11は、車両1の正面断面視で複数の辺11b、11c、11d、11eを有する多角形形状(本実施形態ではひし形形状)を有する。複数の辺11b、11c、11d、11eは、第1フレーム11の外周面を構成する面が車幅方向外側Y1を向く少なくとも2つの外側辺11b、11cを有する。第2フレーム12は、少なくとも2つの外側辺11b、11cに固定可能な少なくとも2つの固定面12b1、12b2を備える。すなわち、固定面12b1は外側辺11bに固定可能であり、固定面12b2は外側辺11cに固定可能である。
【0056】
かかる構成によれば、車両1の走行時に第1フレーム11に入力されるねじれ荷重または曲げ荷重を、第1フレーム11の外周面を構成する面が第1フレーム11における車幅方向Y外側を向く少なくとも2つの外側辺11b、11cから当該外側辺11b、11cのそれぞれに固定可能な第2フレーム12の少なくとも2つの固定面12b1、12b2を介して、すなわち複数の伝達経路によって、引張強度が高い第2フレーム12に効率的に伝達することが可能である。その結果、車両1の操縦安定性をさらに向上することが可能になる。
【0057】
(3)
本実施形態の車体構造では、
図3~5に示されるように、少なくとも2つの固定面12b1、12b2が少なくとも2つの外側辺11b、11cに接着されている。
【0058】
かかる構成によれば、第2フレーム12の少なくとも2つの固定面12b1、12b2が第1フレーム11の少なくとも2つの外側辺11b、11cに個別に接着されることにより異なる2つの接着面が形成されている。そのため、第1フレーム11にねじれ荷重または曲げ荷重が入力された場合には、2つの接着面のうちの少なくとも1つがせん断荷重を受けながら第1フレーム11から第2フレーム12へ確実に荷重伝達することが可能になる。その結果、車両1の操縦安定性のより一層の向上が可能になる。
【0059】
(4)
本実施形態の車体構造では、
図3~5に示されるように、第1フレーム11は、車両1の正面断面視で2つの外側辺11b、11cを含む4つの辺11b、11c、11d、11eを有するひし形形状を有する。
【0060】
第2フレーム12は、第1フレーム11の2つの外側辺11b、11cと個別に固定可能な2つの固定面12b1、12b2を備える。
【0061】
かかる構成によれば、第1フレーム11は、4つの辺11b、11c、11d、11eを有するひし形の断面形状を有しているので、2つの外側辺11b、11cを有していながら小さい断面寸法であるので、車体のデザイン自由度がさらに向上する。また、車両1の走行時に第1フレーム11に入力されるねじれ荷重または曲げ荷重を、第1フレーム11の2つの外側辺11b、11cから第2フレーム12の2つの固定面12b1、12b2を介して、2つの伝達経路によって、引張強度が高い第2フレーム12に効率的に伝達することが可能である。その結果、車体のデザイン自由度のさらなる向上と車両1の操縦安定性のさらなる向上とを両方達成することが可能になる。
【0062】
(5)
本実施形態の車体構造では、第1フレーム11は、
図8に示されるように、多角形形状の断面(すなわち閉断面11a)における複数の対角線のうち、最も長い対角線Lが車両上下方向Zを向くように配置されているのが好ましい。
【0063】
かかる構成によれば、第1フレーム11の上下方向Zにおける断面二次モーメントが最大になるので、上下方向Zの曲げ荷重に対する第1フレーム11を曲げ強度を最大にすることが可能になる。したがって、第1フレーム11の外形寸法を大きくすることなく上下方向Zの曲げ強度を向上させることが可能であり、車体のデザイン自由度がさらに向上する。
【0064】
(6)
ここで、本実施形態の第1フレーム11にねじり荷重および曲げ荷重が作用したときの第1フレーム11の閉断面11aを構成する4つの辺11b、11c、11d、11eに作用する応力の大きさについて考察する。
【0065】
例えば、車両走行時に旋回したときにおける第1フレーム11に作用するねじり荷重を想定して、
図9に示されるようにひし形の閉断面11aを有する第1フレーム11に対して車幅方向Yの外側Y1において下方へ向かう方向、すなわち反時計回りの方向にねじり荷重が作用した場合には、上方の外側辺11bに最も大きい引張応力が作用し、下方の外側辺11cにはやや大きい圧縮応力が作用し、上方の内側辺11dには小さい引張応力が作用し、下方の内側辺11eには最も小さい圧縮応力が作用する。
【0066】
つぎに、
図10に示されるように第1フレーム11に対して車幅方向Yの内側Y2に向かう方向に曲げ荷重が作用した場合には、上方の外側辺11bに最も大きい引張応力が作用し、下方の外側辺11cにはやや大きい引っ張り応力が作用し、上方の内側辺11dには小さい圧縮応力が作用し、下方の内側辺11eには最も小さい圧縮応力が作用する。
【0067】
上記の
図9~10に示されるようにねじり荷重および曲げ荷重が第1フレーム11に作用した場合は、いずれも外側辺11b、11cに大きな引張応力または圧縮応力が作用し、とくに上側の第1外側辺11bに最も大きな引張応力が作用することが分かる。
【0068】
この実験結果を考慮した場合、第1フレーム11の2つの外側辺11b、11cに第2フレーム12の第1固定面12b1、第2固定面12b2をそれぞれ接着して第1フレーム11を第2フレーム12によって補強することにより、ねじり荷重および曲げ荷重に対して高い剛性を発揮することが可能である。
【0069】
(変形例)
(A)
図3に示される第2フレーム12の第1固定面12b1の先端部は、第1フレーム11の上方の第1外側辺11bの左側(車幅方向Yの外側Y1)の領域に位置しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
本発明の変形例として、
図11に示されるように、第1固定面12b1の先端部を第1外側辺11bの右側(車幅方向Yの内側Y2)の端部まで延長し、第2フレーム12の閉断面12aを第1外側辺11bの領域全体まで拡張してもよい。
【0071】
この
図11の第2フレーム12の形態では、閉断面12aが第1外側辺11bの領域全体まで拡張しているので、閉断面12aがフランジ部12eを補強する効果が増大する。その結果、フロントウインド4の支持剛性を担保しながらフランジ部12eの幅を狭くすることが可能である。これにより、フロントウインド4の車幅方向Yの両側におけるルーフレール3による視覚的な妨害(具体的には、妨害角)を小さくすることが可能になる。
【0072】
(B)
本発明では、第1フレームの閉断面の断面形状は、多角形状であれば、例えば
図12に示されるように六角形断面形状であってもよい。すなわち、
図12に示される変形例の車体構造は、第1フレーム21および第2フレーム22を備えている。
【0073】
第1フレーム21は、アルミニウムやスチール等の金属材料などの第1材料からなり、六角形の閉断面21aを有する形状である。閉断面21aは、車幅方向Yの外側Y1を向く3つの外側辺21b、21c、21dを有する。
【0074】
一方、第2フレーム22は、第1材料と異なるCFRPなどの第2材料からなり、閉断面22aを有する部材である。第2フレーム22は、第1フレーム21よりも引張強度が高く軽量である。第2フレーム22は、第1フレーム21に固定される第1フレーム固定部22bを有する。第1フレーム固定部22bは、閉断面22aの一部を構成する。第1フレーム固定部22bは、第1フレーム21の3つの外側辺21b、21c、21dにそれぞれ対向する固定面22b1、22b2、22b3を有する。これら3つの固定面22b1、22b2、22b3は、3つの外側辺21b、21c、21dにそれぞれ接着材23、24、25によって接着されている。なお、これら接着材23、24、15はつながっていてもよい。
【0075】
図12に示される変形例の構成によれば、車両1の走行時に第1フレーム21に入力されるねじれ荷重または曲げ荷重を、第1フレーム21における車幅方向Yにおける外側Y1を向く3つの外側辺21b、21c、21dから当該外側辺21b、21c、21dのそれぞれに固定可能な第2フレーム22の3つの固定面22b1、22b2、22b3を介して、すなわち3つの伝達経路によって、引張強度が高い第2フレーム22に効率的に伝達することが可能である。その結果、車両1の操縦安定性をさらに向上することが可能になる。
【0076】
しかも、第2フレーム22の3つの固定面22b1、22b2、22b3が第1フレーム21の3つの外側辺21b、21c、21dに個別に接着されることにより異なる3つの接着面が形成されている。そのため、第1フレーム21にねじれ荷重または曲げ荷重が入力された場合には、3つの接着面のうちの少なくとも1つがせん断荷重を受けながら第1フレーム21から第2フレーム22へ確実に荷重伝達することが可能になる。その結果、車両1の操縦安定性のより一層の向上が可能になる。
【0077】
(C)
なお、第1フレームの閉断面の形状は、異なる方向を向く少なくとも2つ以上の外側辺を有していればよく、多角形形状以外にも円形の閉断面の形状であってもよい。ただし、円形の閉断面の形状の場合には、第1フレームと第2フレームとの接合面が円弧面になって円弧面の端部の向きが接合方向と直交するため、接着材の膜厚の制御が難しくなる。そのため、上記実施形態のように、第1フレームの閉断面の形状は、多角形形状であれば円形形状と比較して接着材の膜厚の制御が容易であるので好ましい。
【0078】
(D)
本発明では、第1フレームよりも引張強度が高くて軽量な第2フレームは、車両の重心に対して第1フレームよりも遠い側に配置されていればよく、上記実施形態のように
図2~5の車幅方向Yの断面で見た場合における重心Gに対してだけでなく、他の方向の断面で見た場合において第2フレームが重心に対して第1フレームよりも遠い側に配置されていればよい。
【0079】
(E)
なお、上記実施形態では、第1フレームおよび第2フレームを備えたルーフレールを例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車体構成する部材であれば他の部材にも本発明を適用することが可能である。したがって、ピラーだけでなくサイドシルにも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 車両
2 車体
3 ルーフレール
4 フロントウインド
5 ルーフパネル
6 ドア
11、21 第1フレーム
11a、21a 閉断面
11b 第1外側辺
11c 第2外側辺
21b、21c、21d 外側辺
12、22 第2フレーム
12a、22a 閉断面
12b1 第1固定面
12b2 第2固定面
22b1、22b2、22b3 固定面
13、14、23、24、25 接着材