(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20231219BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2020117189
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】須田 好紀
(72)【発明者】
【氏名】新里 剛
(72)【発明者】
【氏名】三浦 友博
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 久賀
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051550(WO,A1)
【文献】特開2019-193473(JP,A)
【文献】特開2013-141863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数系統の巻線組を有し、操舵を補助するアシストトルクを発生するモータと、
複数の前記巻線組のそれぞれへの通電を制御する複数のインバータと、
操舵トルクに関する物理量に応じた信号を出力する複数のトルクセンサと、
前記モータの回転角に関する物理量に応じた信号を出力する複数の回転角センサと、
前記巻線組の各相の相電流に関する物理量に応じた信号を出力する複数の電流センサと、
前記トルクセンサの出力信号に基づき、前記操舵トルクに対応するアシストトルクを前記モータに発生させるための電流指令値を演算し、演算した前記電流指令値を各系統に分配した個別電流指令値、前記回転角センサの出力信号及び前記電流センサの出力信号に基づき、前記インバータを介して前記モータを制御するモータ制御部と、
前記トルクセンサ、前記回転角センサ及び前記電流センサの出力信号に基づき、前記トルクセンサ、前記回転角センサ及び前記電流センサの故障判定を行う故障判定部とを備え、
前記モータ制御部は、
複数の前記トルクセンサ、複数の前記回転角センサ及び複数の前記電流センサの全センサのうちの1つだけが故障していると判定された場合には、前記電流指令値の上限値を制限し、2つ以上が故障していると判定された場合には、前記モータの駆動を停止し、
更に、前記電流センサのうちの1つだけが故障していると判定された場合には、正常であると判定された前記電流センサに対応する系統にのみ前記電流指令値を分配する
電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記故障判定部は、前記トルクセンサ毎に、前記トルクセンサの出力信号に基づき、前記トルクセンサの出力信号の異常判定を行うとともに、前記トルクセンサの出力信号が異常であると判定される状態が予め定められた所定時間継続した場合に、前記トルクセンサが故障していると判定する
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記故障判定部は、前記トルクセンサ毎に、前記トルクセンサの出力信号の波形が予め定められた基準を満たすかを判定し、満たさないと判定した場合に、前記トルクセンサの出力信号が異常であると判定する
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記トルクセンサのそれぞれは、ステアリング軸の一部を構成するトーションバーの捩れの大きさに関する物理量に応じた信号を出力する複数の素子、及び前記素子の出力信号を含む信号を出力する出力部を有し、
前記出力部は、前記素子毎に、前記素子が故障しているかを判定して、判定結果を示す異常判定情報及び前記素子の出力信号を含む信号を出力し、
前記故障判定部は、前記トルクセンサ毎に、前記トルクセンサの出力信号が含む前記異常判定情報に基づき、前記トルクセンサの出力信号が異常であるかを判定する
請求項2又は3に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記トルクセンサのそれぞれは、ステアリング軸の一部を構成するトーションバーの捩れの大きさに関する物理量に応じた信号を出力する複数の素子、及び前記素子の出力信号を含む信号を出力する出力部を有し、
前記故障判定部は、前記トルクセンサ毎に、前記素子の出力信号に基づいて前記素子毎の前記操舵トルクを演算し、演算した前記操舵トルク間の差に基づき、前記トルクセンサの出力信号が異常であるかを判定する
請求項2から4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記故障判定部は、前記回転角センサの出力信号に基づいて前記回転角センサ毎の前記モータの回転角を演算し、演算した前記モータの回転角間の差に基づいて、前記回転角センサの故障判定を行う
請求項1から5の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記故障判定部は、前記電流センサ毎に、前記電流センサの出力信号に基づいて前記巻線組の各相の相電流を演算し、演算した相電流の合計値の絶対値に基づいて、前記電流センサの故障判定を行う
請求項1から6の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記故障判定部は、更に、前記インバータの故障判定を行い、
前記モータ制御部は、更に、前記インバータのうちの1つだけが故障していると判定された場合には、正常であると判定された前記インバータに対応する系統にのみ前記電流指令値を分配する
請求項1から7の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記故障判定部は、前記インバータ毎に、前記モータの各巻線組の各相の指令信号に基づく各相の電流の演算値と、前記電流センサの出力信号に基づく各巻線組の各相の電流値とを比較して、前記インバータの故障判定を行う
請求項8に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクセンサの出力信号に基づいて電流指令値を演算し、演算した電流指令値に基づいてモータを制御して、操舵トルクを補助するアシストトルクを発生する電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置では、トルクセンサが故障した場合には、電流指令値の上限値を制限することで、運転者が意図しないアシストトルクの発生を抑制可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置では、モータの制御には、電流指令値の他にも回転角センサや電流センサの検出値も用いるようになっている。それゆえ、例えば、回転角センサや電流センサが故障した場合、故障したセンサの出力信号を基にモータの制御が行われ、運転者が意図しないアシストトルクが発生する可能性がある。
本発明は、上記のような点に着目し、操舵トルクセンサが故障した場合に加え、回転角センサや電流センサが故障した場合にも、モータによる運転者が意図しないアシストトルクの発生を防止可能な電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電動パワーステアリング装置は、(a)複数系統の巻線組を有し、操舵を補助するアシストトルクを発生するモータと、(b)複数の巻線組のそれぞれへの通電を制御する複数のインバータと、(c)操舵トルクに関する物理量に応じた信号を出力する複数のトルクセンサと、(d)モータの回転角に関する物理量に応じた信号を出力する複数の回転角センサと、(e)巻線組の各相の相電流に関する物理量に応じた信号を出力する複数の電流センサと、(f)トルクセンサの出力信号に基づき、操舵トルクに対応するアシストトルクをモータに発生させるための電流指令値を演算し、演算した電流指令値を各系統に分配した個別電流指令値、回転角センサの出力信号及び電流センサの出力信号に基づき、インバータを介してモータを制御するモータ制御部と、(g)トルクセンサ、回転角センサ及び電流センサの出力信号に基づき、トルクセンサ、回転角センサ及び電流センサの故障判定を行う故障判定部とを備え、(h)モータ制御部は、複数のトルクセンサ、複数の回転角センサ及び複数の電流センサの全センサのうちの1つだけが故障していると判定された場合には、電流指令値の上限値を制限し、2つ以上が故障していると判定された場合には、モータの駆動を停止し、更に、電流センサのうちの1つだけが故障していると判定された場合には、正常であると判定された電流センサに対応する系統にのみ電流指令値を分配する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、例えば、操舵トルクセンサ、回転角センサ及び電流センサの全センサのうちの1つが故障した場合に、電流指令値の上限値が制限される。また、例えば、全センサのうちの2つ以上が故障した場合には、モータの制御が停止される。それゆえ、操舵トルクセンサが故障した場合に加え、回転角センサや電流センサが故障した場合にも、モータによる運転者が意図しないアシストトルクのの発生を防止可能な電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の全体構成を示す図である。
【
図2】第1及び第2のトルクセンサの各素子の出力信号を示す図である。
【
図3】コントロールユニットの構成を示す図である。
【
図4A】コンピュータで実行する選択処理のフローチャートの前半を示す図である。
【
図4B】コンピュータで実行する選択処理のフローチャートの後半を示す図である。
【
図5】第1及び第2のトルクセンサが正常であると判定されているときに、第1のトルクセンサの出力信号に短期間の異常を生じた場合の、電動パワーステアリング装置の動作を示す図である。
【
図6】第1及び第2のトルクセンサが正常であると判定されているときに、第2のトルクセンサの出力信号に長期間の異常を生じた場合の、電動パワーステアリング装置の動作を示す図である。
【
図7】第1及び第2のトルクセンサが正常であると判定されているときに、第1のトルクセンサの出力信号に長期間の異常を生じた場合の、電動パワーステアリング装置の動作を示す図である。
【
図9】電流指令値演算部で用いられるアシストマップを示す図である。
【
図10】回転角センサの故障判定に用いられるテーブルを示す図である。
【
図11】第1,第2及び第3の回転角センサが正常であると判定されているときに、第1の回転角センサの出力信号に長期間の異常を生じた場合の、電動パワーステアリング装置の動作を示す図である。
【
図12】電流指令値制限部で制限されたアシストマップを示す図である。
【
図13】第1,第2及び第3の回転角センサが正常であると判定されているときに、第2の回転角センサの出力信号に長期間の異常を生じた場合の、電動パワーステアリング装置の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態に係るセンサ装置及び電動パワーステアリング装置の一例を、
図1~
図13を参照しながら説明する。本発明の実施形態は、以下の順序で説明する。なお、本発明は、以下の例に限定されるものではない。また、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
【0009】
(電動パワーステアリング装置の全体構成)
図1は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の全体構成を示す図である。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1は、モータ11を制御して、ステアリング軸3にトルクを加えるEPS(Electric Power Steering)である。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1では、
図1に示すように、ステアリングホイール2のステアリング軸3は、減速ギア4、ユニバーサルジョイント5a及び5b、ラック・ピニオン機構6、タイロッド7a,7bを経て、更にハブユニット8a,8bを介して操向車輪9L,9Rに連結されている。また、ステアリング軸3のステアリングホイール2側には、ステアリングホイール2の操舵トルクTdを検出するためのセンサユニット10が取り付けられており、ステアリング軸3のラック・ピニオン機構6側には、操舵を補助するアシストトルクを発生するモータ11が減速ギア4を介して連結されている。また、モータ11には、モータ11の回転角θmを検出するためのセンサユニット12が取り付けられている。センサユニット10,12の出力信号は、電動パワーステアリング装置1を制御するためのコントロールユニット13(ECU:Electronic Control Unit)に出力される。コントロールユニット13にはバッテリ14から電力が供給される。
【0010】
センサユニット10は、第1のトルクセンサ15(広義には「第1のセンサ」)と、第2のトルクセンサ16(広義には「第2のセンサ」)とを備えている。第1のトルクセンサ15は、第1の素子17と、第2の素子18と、第1の出力部19と、第2の出力部20とを備えている。同様に、第2のトルクセンサ16は、第3の素子21と、第4の素子22と、第3の出力部23と、第4の出力部24とを備えている。なお、以下の記載では、「第1のトルクセンサ15」及び「第2のトルクセンサ16」をまとめて「トルクセンサ15,16」とも呼ぶ。同様に、「第1の素子17」、「第2の素子18」、「第3の素子21」、「第4の素子22」をまとめて「素子17,18,21,22」とも呼ぶ。また、「第1の出力部19」、「第2の出力部20」、「第3の出力部23」、「第4の出力部24」をまとめて「出力部19,20,23,24」とも呼ぶ。トルクセンサ15,16としては、例えば、個別のセンサIC(Integrated Circuit)を採用することができる。
【0011】
ここで、ステアリング軸3は、ステアリングホイール2側の第1の部材3aと、ラック・ピニオン機構6側の第2の部材3bとをトーションバー3cを介して連結した構造からなる。第1の部材3aの下端側の外周面には、N極及びS極が周方向に交互に配置された多極磁石25が取り付けられている。そして、素子17,18,21,22のそれぞれは、第1の部材3aに操舵トルクTd(広義には「第1の物理量」)が入力されてトーションバー3cに捻れが生じた場合に、多極磁石25によって素子17,18,21,22に付与される磁界の強さが変化するように、多極磁石25の周囲に配置されている。また、素子17,18,21,22のそれぞれは、付与される磁界の強さに応じた信号を出力する。即ち、素子17,18,21,22のそれぞれは、操舵トルクTdに応じて変化する磁束密度(広義には「第1の物理量に関する第2の物理量」又は「トーションバー3cの捩れの大きさに関する物理量」)に応じた信号を出力する。第i(i=1,2,3,4)の素子17,18,21,22の出力信号は、第iの出力部19,20,23,24に出力される。
【0012】
第1の出力部19は、第1の素子17が故障しているかを判定して、
図2に示すように、判定結果を示す異常判定信号ビット(広義には「異常判定情報」)、第1の素子17の出力信号(
図2では、「トルク検出信号ビット」)、同期ビット及びCRC(Cyclic Redundancy Check)ビットを含む信号をコントロールユニット13に出力する。CRCビットとしては、例えば、巡回冗長検査で使用される出力信号のチェックサムを採用できる。同様に、第j(j=2,3,4)の出力部20,23,24は、素子18,21,22毎に、素子18,21,22が故障しているかを判定して、判定結果を示す異常判定信号ビット、第jの素子18,21,22の出力信号(トルク検出信号ビット)、同期ビット及びCRCビットを含む信号をコントロールユニット13に出力する。
図2では、各出力部19,20,23,24の出力信号において、同期ビット、異常判定信号ビット、トルク検出信号ビット及びCRCビットがこの順に並んだ場合を例示している。第i(i=1,2,3,4)の素子17,18,21,22の故障判定方法としては、例えば、所定の強度パターンで変化する磁気を第iの素子17,18,21,22に付与し、第iの素子17,18,21,22の出力信号が所定の強度パターンを表しているかを判定し、所定の強度パターンを表していない場合に、第iの素子17,18,21,22が故障していると判定する方法を採用できる。
【0013】
センサユニット12は、第1の回転角センサ26と、第2の回転角センサ27と、第3の回転角センサ28とを備えている。なお、以下の記載では、「第1の回転角センサ26」、「第2の回転角センサ27」及び「第3の回転角センサ28」をまとめて「回転角センサ26,27,28」とも呼ぶ。ここで、モータ11のシャフトの先端部には、多極磁石29が取り付けられている。そして、回転角センサ26,27,28のそれぞれは、モータ11が駆動されてシャフトが回転された場合に、多極磁石29によって回転角センサ26,27,28に付与される磁界の強さが変化するように、多極磁石29の周囲に配置されている。また、回転角センサ26,27,28のそれぞれは、付与される磁界の強さに応じたsin信号及びcos信号を出力する。即ち、回転角センサ26,27,28のそれぞれは、回転角θmに応じて変化する磁束密度(θmに関する物理量)に応じた信号を出力する。回転角センサ26,27,28の出力信号は、コントロールユニット13に出力される。
【0014】
モータ11は、ステータ、ロータ及びシャフトを有する三相ブラシレスモータである。ロータは、ステータ内部に収容され、シャフトによって回転可能に支持されている。また、ロータは、その表面に永久磁石が貼り付けられ、磁極を有している。また、ステータは、所定角度毎に径内方向へ突出する突出部を有し、この突出部に、U相コイル30、V相コイル31、W相コイル32、U相コイル33、V相コイル34及びW相コイル35が巻回されている。U相コイル30、V相コイル31及びW相コイル32は、スター結線されて第1の巻線組36を構成している。また、U相コイル33、V相コイル34及びW相コイル35は、スター結線されて第2の巻線組37を構成している。第1の巻線組36への通電は、
図3に示した第1のインバータ38によって制御される。また、第2の巻線組37への通電は、
図3に示した第2のインバータ39によって制御される。換言すると、モータ11は2系統で駆動される、と言える。以下の説明では、
図3に示すように第1の巻線組36と第1のインバータ38との組み合わせを「第1の系統100」とも呼び、第2の巻線組37と第2のインバータ39との組み合わせを「第2の系統200」とも呼ぶ。
なお、本実施形態では、モータ11として、2系統の巻線組36,37を有する三相ブラシレスモータを用いる例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、3系統以上の複数系統の巻線組を有する三相ブラシレスモータを用いる構成としてもよい。
【0015】
コントロールユニット13は、トルクセンサ15,16の出力信号、及び回転角センサ26,27,28の出力信号に基づき、操舵を補助するアシストトルクに対応する電流指令値を演算し、演算した電流指令値に基づき、モータ11に供給する電流を制御する。また、コントロールユニット13は、センサが故障しているかを判定し、故障していると判定した場合に、電動パワーステアリング装置1に不具合があることを報知部59に報知させる。報知部59としては、例えばダッシュボードに設けられた警告ランプを採用できる。
【0016】
コントロールユニット13は、第1のインバータ38と、第2のインバータ39と、第1の電流センサ40と、第2の電流センサ41と、コンピュータ42とを備えている。コンピュータ42は、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを有している。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPUを採用できる。また、記憶装置としては、半導体記憶装置、磁気記憶装置、光学記憶装置を採用できる。以下に説明するコントロールユニット13の機能は、例えば、コンピュータ42のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0017】
第1のインバータ38及び第2のインバータ39のそれぞれは、スイッチング素子としてのFET(Field-Effect Transistor)がブリッジ接続されてなるPWMインバータである。第1のインバータ38は、コントロールユニット13が出力するPWM信号(後述する指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1)に基づき、指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1に応じた電流を第1の巻線組36の各相(U相コイル30、V相コイル31、W相コイル32)に供給し、指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1に応じたアシストトルクをモータ11に発生させる。同様に、第2のインバータ39は、コントロールユニット13が出力するPWM信号(後述する指令信号Srefu2,Srefv2,Srefw2)に基づき、指令信号Srefu2,Srefv2,Srefw2に応じた電流を第2の巻線組37の各相(U相コイル33、V相コイル34、W相コイル35)に供給し、指令信号Srefu2,Srefv2,Srefw2に応じたアシストトルクをモータ11に発生させる。これにより、第1のインバータ38及び第2のインバータ39は、指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1に応じたアシストトルクと、指令信号Srefu2,Srefv2,Srefw2に応じたアシストトルクとの合計値をモータ11に発生させる。
【0018】
第1の電流センサ40は、第1のインバータ38の各相の下流側それぞれに配置されたシャント抵抗による下降電圧Vu1,Vv1,Vw1に応じた信号を出力する。同様に第2の電流センサ41は、第2のインバータ39の各相の下流側それぞれに配置されたシャント抵抗による下降電圧Vu2,Vv2,Vw2に応じた信号を出力する。即ち、第n(n=1,2)の電流センサ40,41は、第nの巻線組36,37の各相の相電流Iun,Ivn,Iwnに応じて変化する下降電圧Vun,Vvn,Vwn(Iun,Ivn,Iwnに関する物理量)に応じた信号を出力する。電流センサ40,41の出力信号はコントロールユニット13に出力される。
【0019】
コンピュータ42は、トルクセンサ信号処理部43と、アシスト制御部44と、アシスト発生部45とを実現している。トルクセンサ信号処理部43は、異常判定部46及び判定実行部47を含む故障判定部48と、電力供給部49と、演算部50とを有している。
異常判定部46は、トルクセンサ15,16毎に、トルクセンサ15,16の出力信号に基づき、トルクセンサ15,16の出力信号の異常判定を行う。具体的には、出力信号の波形に基づく異常判定(以下、「第1の異常判定」とも呼ぶ)、異常判定信号ビットに基づく異常判定(以下、「第2の異常判定」とも呼ぶ)、及びトルク値に基づく異常判定(以下、「第3の異常判定」とも呼ぶ)を実行する。なお、本実施形態では、第1~第3の異常判定の3つを行う例を示したが、これらのうちの1つ又は2つを行う構成としてもよい。
【0020】
第1の異常判定では、第1のトルクセンサ15の出力信号の波形が予め定められた基準を満たすかを判定し、満たさないと判定した場合に、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であると判定する。同様に、第2のトルクセンサ16の出力信号の波形が予め定められた基準を満たすかを判定し、満たさないと判定した場合に、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であると判定する。即ち、トルクセンサ15,16毎に、トルクセンサ15,16の出力信号の波形が予め定められた基準を満たすかを判定し、満たさないと判定した場合に、トルクセンサ15,16の出力信号が異常であると判定する。出力信号の波形が基準を満たすかを判定する方法としては、例えば、出力信号のチェックサムを演算し、演算結果と出力信号のCRCビットとを比較して、巡回冗長検査を行う方法を採用できる。他にも、例えば、出力信号の立ち下がり間の幅や立ち下がりの数、同期ビットの異常有無に基づくことで、出力信号の波形が基準を満たすかを判定する方法を採用できる。これにより、トルクセンサ15,16の出力信号の異常を容易に判定することができる。
【0021】
第2の異常判定では、第1のトルクセンサ15の出力信号が含む異常判定信号ビットに基づき、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常を表す信号を含むかを判定する。同様に、第2のトルクセンサ16の出力信号が含む異常判定信号ビットに基づき、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常を表す信号を含むかを判定する。即ち、トルクセンサ15,16毎に、トルクセンサ15,16の出力信号が含む異常判定信号ビット(異常判定情報)に基づき、トルクセンサ15,16の出力信号が異常を表す信号を含むかを判定する。これにより、トルクセンサ15,16の出力信号の異常を容易に判定することができる。
【0022】
第3の異常判定では、第1の素子17の出力信号に基づいて操舵トルクTd(以下、「換算トルク値Td1」とも呼ぶ)を演算し、第2の素子18の出力信号に基づいて操舵トルクTd(以下、「換算トルク値Td2」とも呼ぶ)を演算する。そして、演算した2つの換算トルク値Td1,Td2間の差|Td1-Td2|が所定値以上であるかを判定し、所定値以上であると判定した場合に、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であると判定する。同様に、第3の素子21の出力信号に基づいて操舵トルクTd(以下、「換算トルク値Td3」とも呼ぶ)を演算し、第4の素子22の出力信号に基づいて操舵トルクTd(以下、「換算トルク値Td4」とも呼ぶ)を演算する。そして、演算した2つの換算トルク値Td3,Td4間の差|Td3-Td4|が所定値以上であるかを判定し、所定値以上であると判定した場合に、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であると判定する。即ち、トルクセンサ15,16毎に、素子17,18,21,22の出力信号に基づいて、素子17,18,21,22毎の操舵トルクTd(Td1,Td2,Td3,Td4)を演算し、演算した操舵トルクTd(Td1,Td2,Td3,Td4)間の差に基づき、トルクセンサ15,16の出力信号が異常であるかを判定する。これにより、トルクセンサ15,16の出力信号の異常をより適切に判定できる。
【0023】
そして、異常判定部46は、第1~第3の異常判定の何れかで異常であると判定された出力信号について、「異常」であると判定して判定結果を演算部50に出力する。一方、第1~第3の異常判定の何れにおいても「異常」であると判定されなかった出力信号については、「正常」であると判定する。また、異常判定部46は、トルクセンサ15,16の出力信号の判定結果と一緒に、後述する換算トルク値Td1,Td2,Td3,Td4も出力する。
電力供給部49は、第1の電源IC51を介して第1のトルクセンサ15に電力を供給する。同様に、第2の電源IC52を介して第2のトルクセンサ16に電力を供給する。
【0024】
また、判定実行部47、電力供給部49及び演算部50は、異常判定部46で演算した換算トルク値Td1,Td2,Td3,Td4に基づき操舵トルクTdを再度演算し、演算値を選択操舵トルクTsとしてアシスト制御部44に出力する選択処理を繰り返し実行する。
選択処理が実行されると、
図4A及び
図4Bに示すように、まず、そのステップS101で、判定実行部47は、異常判定部46から換算トルク値Td1,Td2,Td3,Td4及び判定結果を取得する。
続いてステップS102に移行して、判定実行部47は、この選択処理による過去の判定結果に基づき、第1のトルクセンサ15が故障しているか正常であるかを判定する。なお、「選択処理による過去の選択結果」の初期値としては、第1のトルクセンサ15が正常である、という判定結果を設定しておく。そして、判定実行部47は、第1のトルクセンサ15が故障していると判定した場合には(
図4AのステップS102の「故障」)、ステップS107に移行する。一方、第1のトルクセンサ15が正常であると判定した場合には(
図4AのステップS102の「正常」)、ステップS103に移行する。
【0025】
ステップS103では、判定実行部47は、ステップS101で取得した判定結果に基づき、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であるか正常であるかを判定する。そして、出力信号が異常であると判定した場合には(
図4AのステップS103の「異常」)、ステップS105に移行する。一方、出力信号が正常であると判定した場合には(
図4AのステップS103の「正常」)、ステップS104に移行する。
ステップS104では、演算部50は、ステップS101で取得した換算トルク値Td1,Td2に基づき操舵トルクTdとして(Td1+Td2)/2を演算し、演算値(Td1+Td2)/2を選択操舵トルクTsとしてアシスト制御部44に出力した後、ステップS113に移行する。即ち、正常であると判定された第1のトルクセンサ15の出力信号に基づく操舵トルクTdの演算値((Td1+Td2)/2)を出力する。
【0026】
これらステップS102~S104のフローにより、
図5の時刻t0~t1に示すように、第1のトルクセンサ15が正常であり、且つ第1のトルクセンサ15の出力信号が正常であると判定された場合に、第1のトルクセンサ15の出力信号のみに基づく操舵トルクTdの演算値((Td1+Td2)/2)が出力される。また、
図5の時刻t1~t2に示すように、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常となった後、
図5の時刻t2以降に示すように、出力信号が正常に戻った場合にも、第1のトルクセンサ15の出力信号のみに基づく操舵トルクTd((Td1+Td2)/2)が出力される。さらに、
図6の時刻t1以降に示すように、第1のトルクセンサ15が正常であり、且つ第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であると判定された場合にも、(Td1+Td2)/2が出力される。
【0027】
一方、ステップS105では、判定実行部47は、ステップS101で取得した判定結果に基づき、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であると判定されてからの経過時間が第2の所定時間(例えば、10msec.)未満であるかを判定する。そして、第2の所定時間未満であると判定した場合には(Yes)、ステップS106に移行する。一方、第2の所定時間以上であると判定した場合には(No)、ステップS107に移行する。
【0028】
ステップS106では、演算部50は、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であると判定される直前(1回前)の選択処理で取得した換算トルク値Td1,Td2(以下「直前トルク値Td1old,Td2old」とも呼ぶ)に基づき操舵トルクTdとして(Td1old+Td2old)/2を演算し、演算値(Td1old+Td2old)/2を選択操舵トルクTsとしてアシスト制御部44に出力した後、ステップS113に移行する。これにより、
図7の時刻t1~t3に示すように、第1のトルクセンサ15が正常であると判定されていたときに、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であると判定された場合には、異常であると判定される前に第1のトルクセンサ15が出力していた出力信号に基づく操舵トルクTdの演算値((Td1old+Td2old)/2)を出力する。それゆえ、静電気等によるノイズに起因して、第1のトルクセンサ15の出力信号に短期間(例えば、2msec.)の異常を生じた場合にも、選択操舵トルクTsの出力を継続することができる。
【0029】
一方、ステップS107では、判定実行部47は、この選択処理による過去の判定結果に基づき、第2のトルクセンサ16が故障しているか正常であるかを判定する。なお、「選択処理による過去の選択結果」の初期値としては、第2のトルクセンサ16が正常である、という判定結果を設定しておく。そして、判定実行部47は、第2のトルクセンサ16が故障していると判定した場合には(
図4AのステップS107の「故障」)、ステップS112に移行する。一方、第2のトルクセンサ16が正常であると判定した場合には(
図4AのステップS107の「正常」)、ステップS108に移行する。
ステップS108では、判定実行部47は、ステップS101で取得した判定結果に基づき、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であるか正常であるかを判定する。そして、出力信号が異常であると判定した場合には(
図4AのステップS108の「異常」)、ステップS110に移行する。一方、出力信号が正常であると判定した場合には(
図4AのステップS108の「正常」)、ステップS109に移行する。
【0030】
ステップS109では、演算部50は、ステップS101で取得した換算トルク値Td3,Td4に基づき操舵トルクTdとして(Td3+Td4)/2を演算し、演算値(Td3+Td4)/2を選択操舵トルクTsとしてアシスト制御部44に出力した後、ステップS113に移行する。即ち、正常であると判定された第2のトルクセンサ16の出力信号に基づく操舵トルクTdの演算値((Td3+Td4)/2)を出力する。
これらステップS102「正常」,S103「Yes」,S105「No」,S107「正常」,S108「No」及びS109のフローにより、
図7の時刻t3~t4に示すように、第1のトルクセンサ15及び第2のトルクセンサ16が正常であると判定されていたときに、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であると判定される異常状態が、第2の所定時間(10msec.)継続した場合には、第2のトルクセンサ16の出力信号のみに基づく操舵トルクTdの演算値((Td3+Td4)/2)が出力される。これにより、最新の演算値を出力することができ、選択操舵トルクTsの精度を向上することができる。
【0031】
一方、ステップS110では、判定実行部47は、ステップS101で取得した判定結果に基づき、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であると判定されてからの経過時間が第2の所定時間(10msec.)未満であるかを判定する。そして、第2の所定時間未満であると判定した場合には(Yes)、ステップS111に移行する。一方、第2の所定時間以上であると判定した場合には(No)、ステップS112に移行する。
【0032】
ステップS111では、演算部50は、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であると判定される直前(1回前)の選択処理で取得した換算トルク値Td3,Td4(以下「直前トルク値Td3old,Td4old」とも呼ぶ)に基づき操舵トルクTdとして(Td3old+Td4old)/2を演算し、演算値(Td3old+Td4old)/2を選択操舵トルクTsとして出力した後、ステップS113に移行する。これにより、第2のトルクセンサ16が正常であると判定されていたときに、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であると判定された場合には、異常であると判定される前に第2のトルクセンサ16が出力していた出力信号に基づく操舵トルクTdの演算値((Td3old+Td4old)/2)を出力する。それゆえ、静電気等によるノイズに起因して、第2のトルクセンサ16の出力信号に短期間(例えば、2msec.)の異常を生じた場合にも、選択操舵トルクTsの出力を継続できる。
【0033】
一方、ステップS112では、演算部50は、選択操舵トルクTsとして「0」Nmをアシスト制御部44に出力した後、ステップS113に移行する。
これらステップS102,S107及びS112のフローにより、トルクセンサ15,16の両方が故障していると判定された場合には、操舵トルクTdの演算値として「0」Nmが出力される。これにより、故障したトルクセンサ15,16の出力信号が用いられずに済み、モータ11による運転者が意図しないアシストトルクの発生等を防止できる。
【0034】
ステップS113では、判定実行部47は、この選択処理による過去の判定結果に基づき、第1のトルクセンサ15が故障しているかを判定する。そして、第1のトルクセンサ15が故障していると判定した場合には(Yes)、ステップS117に移行する。一方、第1のトルクセンサ15が正常であると判定した場合には(No)、ステップS114に移行する。
ステップS114では、判定実行部47は、ステップS101で取得した判定結果に基づき、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であるかを判定する。そして、出力信号が異常であると判定した場合には(Yes)、ステップS115に移行する。一方、出力信号が正常であると判定した場合には(No)、ステップS117に移行する。
【0035】
ステップS115では、判定実行部47は、ステップS101で取得した判定結果に基づき、第1のトルクセンサ15の出力信号が異常であると判定されてからの経過時間が第1の所定時間(広義には「予め定められた所定時間」)以上であるかを判定する。第1の所定時間としては、例えば、第2の所定時間(10msec.)よりも長い時間(例えば、50msec.)を採用できる。そして、判定実行部47は、第1の所定時間以上であると判定した場合には(Yes)、ステップS116に移行する。一方、第1の所定時間未満であると判定した場合には(No)、ステップS117に移行する。
【0036】
ステップS116では、判定実行部47は、第1のトルクセンサ15が故障していると判定する。続いて、電力供給部49は、第1の電源IC51を介した第1のトルクセンサ15への電力供給を停止した後、ステップS117に移行する。即ち、電力供給部49は、故障していると判定された第1のトルクセンサ15への電力供給を停止し、正常であると判定された第2のトルクセンサ16への電力供給を継続する。これにより、例えば、第1のトルクセンサ15で短絡故障が発生した場合に、第1のトルクセンサ15への電力供給を停止でき、第1のトルクセンサ15が発熱することを防止することができる。
【0037】
ステップS117では、判定実行部47は、この選択処理による過去の判定結果に基づき、第2のトルクセンサ16が故障しているかを判定する。そして、第2のトルクセンサ16が故障していると判定した場合には(Yes)、この選択処理を終了する。一方、第2のトルクセンサ16が正常であると判定した場合には(No)、ステップS118に移行する。
【0038】
ステップS118では、判定実行部47は、ステップS101で取得した判定結果に基づき、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であるかを判定する。そして、出力信号が異常であると判定した場合には(Yes)、ステップS119に移行する。一方、出力信号が正常であると判定した場合には(No)、この選択処理を終了する。
ステップS119では、判定実行部47は、ステップS101で取得した判定結果に基づき、第2のトルクセンサ16の出力信号が異常であり、異常であると判定されてからの経過時間が第2の所定時間(10msec.)以上であるかを判定する。そして、第2の所定時間以上であると判定した場合には(Yes)、ステップS120に移行する。一方、第2の所定時間未満であると判定した場合には(No)、この選択処理を終了する。
【0039】
ステップS120では、判定実行部47は、第2のトルクセンサ16が故障していると判定する。続いて、電力供給部49は、第2の電源IC52を介した第2のトルクセンサ16への電力供給を停止した後、この選択処理を終了する。即ち、電力供給部49は、故障していると判定された第2のトルクセンサ16への電力供給を停止し、正常であると判定された第1のトルクセンサ15への電力供給を継続する。これにより、例えば、第2のトルクセンサ16で短絡故障が発生した場合に、第2のトルクセンサ16への電力供給を停止でき、第2のトルクセンサ16が発熱することを防止することができる。
【0040】
アシスト制御部44は、
図8に示すように、電流指令値演算部53と、電流指令値補償部54とを有している。
電流指令値演算部53は、トルクセンサ信号処理部43が出力する選択操舵トルクTsに基づき、操舵トルクTdに対応するアシストトルクをモータ11に発生させるための電流指令値Iref1を演算する。即ち、電流指令値演算部53では、トルクセンサ15,16の出力信号に基づき電流指令値Iref1を演算している、と言える。電流指令値Iref1の演算方法としては、例えば、
図9に示すように、操舵トルクTdと、操舵トルクTdに対応するアシストトルクをモータ11に発生させる電流指令値Iref1との関係を表すアシストマップを用いる方法を採用できる。
図9では、車速毎のアシストマップを例示している。
電流指令値補償部54は、電流指令値演算部53で演算された電流指令値Iref1に補償信号を加算して電流指令値Iref2を演算する。補償信号としては、例えば、ハンドル戻し制御トルク、ブレーキシビー補償トルク、収れん制御トルク等のための信号を採用できる。
【0041】
アシスト発生部45は、故障判定部55と、モータ制御部56とを有している。
故障判定部55は、回転角センサ26,27,28の故障判定及び電流センサ40,41の故障判定を実行し、これらの故障判定の判定結果をモータ制御部56に出力する。
回転角センサ26,27,28の故障判定では、回転角センサ26,27,28の出力信号に基づき、出力信号の波形に基づく異常判定、及び回転角に基づく異常判定を実行する。
出力信号の波形に基づく異常判定では、第1の回転角センサ26の出力信号を構成するsin信号の振幅及びcos信号の振幅の少なくとも一方が所定範囲外であるかを判定し、所定範囲外であると判定された場合に、第1の回転角センサ26の出力信号が異常であると判定する。同様に、第m(m=2,3)の回転角センサ27,28の出力信号を構成するsin信号の振幅及びcos信号の振幅の少なくとも一方が所定範囲外であるかを判定し、所定範囲外であると判定された場合に、第mの回転角センサ27,28の出力信号が異常であると判定する。これにより、回転角センサ26,27,28の出力信号の異常を容易に判定できる。
【0042】
回転角に基づく異常判定では、第1の回転角センサ26の出力信号に基づいてモータ11の回転角θm1を演算し、第2の回転角センサ27の出力信号に基づいてモータ11の回転角θm2を演算し、第3の回転角センサ28の出力信号に基づいてモータ11の回転角θm3を演算し、演算した回転角θm1,θm2,θm3間の差に基づいて、回転角センサ26,27,28の故障判定を行う。即ち、回転角センサ26,27,28の出力信号に基づいて、回転角センサ26,27,28毎のモータ11の回転角θm1,θm2,θm3を演算し、演算した回転角θm1,θm2,θm3間の差に基づいて、回転角センサ26,27,28の故障判定を行う。回転角θm1,θm2,θm3間の差に基づいて回転角センサ26,27,28の故障判定を行う方法としては、例えば、回転角θm1,θm2間の差が所定値以上であるか、回転角θm2,θm3間の差が所定値以上であるか、回転角θm1,θm3間の差が所定値以上であるかを判定し、これらの判定結果と回転角センサ26,27,28の故障との対応関係を示す
図10のテーブルを参照して、回転角センサ26,27,28の故障を判定する方法を採用できる。これにより、回転角センサ26,27,28の出力信号の異常を容易に判定できる。
【0043】
なお、
図10のテーブルを参照して回転角センサ26,27,28の故障を判定する方法では、回転角θm1,θm2間の差、回転角θm2,θm3間の差、回転角θm1,θm3間の差の全てが所定値以上である場合には、どの回転角センサ26,27,28が故障しているか判別することができないが、この場合は、後述するように、電流指令値分配部58によって、モータ11の駆動が停止され、モータ11によるアシストトルクの発生が停止される。これにより、運転者が意図しないアシストトルクが発生することを防止することができる。
なお、出力信号の波形に基づく異常判定、及び回転角に基づく異常判定の何れにおいても「異常」であると判定されなかった出力信号については、「正常」であると判定する。
【0044】
そして、回転角センサ26,27,28の故障判定では、第1の回転角センサ26の出力信号が正常であると判定されている場合には、
図11の時刻t0~t1に示すように、第1の回転角センサ26が正常であると判定する。一方、第1の回転角センサ26の出力信号が異常であると判定された場合には、第1の回転角センサ26が異常であると判定されてからの経過時間が第1の所定時間(例えば、50msec.)以上であるかを判定し、第1の所定時間以上であると判定した場合には、
図11の時刻t4以降に示すように、第1の回転角センサ26が故障していると判定する。同様に、第m(m=2,3)の回転角センサ27,28の出力信号が正常であると判定されている場合に、第mの回転角センサ27,28が正常であると判定する。一方、第mの回転角センサ27,28の出力信号が異常であると判定された場合には、第mの回転角センサ27,28が異常であると判定されてからの経過時間が第1の所定時間(50msec.)以上であるかを判定し、第1の所定時間以上であると判定した場合に、第mの回転角センサ27,28が故障していると判定する。
【0045】
電流センサ40,41の故障判定では、第1の電流センサ40の出力信号に基づいて第1の巻線組36の各相の相電流Iu1,Iv1,Iw1を演算し、演算した相電流Iu1,Iv1,Iw1の合計値の絶対値に基づいて、第1の電流センサ40の故障判定を行う。同様に、第2の電流センサ41の出力信号に基づいて第2の巻線組37の各相の相電流Iu2,Iv2,Iw2を演算し、演算した相電流Iu2,Iv2,Iw2の合計値の絶対値に基づいて、第2の電流センサ41の故障判定を行う。即ち、電流センサ40,41毎に、電流センサ40,41の出力信号に基づいて巻線組36、37の各相の相電流Iu1,Iv1,Iw1又はIu2,Iv2,Iw2を演算し、演算した相電流Iuk,Ivk,Iwk(k=1,2)の合計値の絶対値に基づいて、電流センサ40,41の故障判定を行う。相電流Iuk,Ivk,Iwkの合計値の絶対値に基づいて電流センサ40,41の故障判定を行う方法としては、例えば、合計値の絶対値が予め定めた閾値より大きい場合に、電流センサ40,41が故障していると判定し、閾値以下である場合に、電流センサ40,41が正常であると判定する方法を採用できる。これにより、電流センサ40,41が故障しているかを容易に判定することができる。
【0046】
モータ制御部56は、電流指令値制限部57と、電流指令値分配部58とを有している。
電流指令値制限部57は、故障判定部48による判定結果、及び故障判定部55による判定結果に基づき、複数のトルクセンサ15,16、複数の回転角センサ26,27,28及び複数の電流センサ40,41の全センサのうちの1つだけが故障しているかを判定する。そして、1つだけが故障していると判定された場合には、電流指令値補償部54で演算された電流指令値Iref2の上限値を制限する。電流指令値Iref2の上限値を制限する方法としては、例えば電流指令値Iref2が予め定めた制限値Ithより大きいかを判定し、制限値Ith以下であると判定した場合には、電流指令値Iref2を電流指令値Iref3として出力し、制限値Ithより大きいと判定した場合には、制限値Ithを電流指令値Iref3として出力する方法を採用できる。なお、制限値Ithは、30Nm~40Nmの値とすることができる。これにより、電流指令値補償部54で加算される補償信号の影響を無視して考えると(加算値「0」)、全センサが正常であると判定された場合には、
図9に示したアシストマップによる電流指令値Iref1が電流指令値Iref3として出力され、全センサのうちの1つだけが故障していると判定された場合には、
図12に示したアシストマップによる電流指令値Iref1が電流指令値Iref3として出力される。なお、
図9に示すアシストマップと
図12に示すアシストマップの横軸および縦軸の尺度は同一である。
【0047】
なお、制限値Ith及び
図9に示したアシストマップは、例えば、市街地走行時(例えば、時速30km/hで、且つ操舵トルクTdが比較的小さい走行時)に、センサ15,16,26,27,28,40,41の何れかが故障しても、モータ11によるアシストトルクが変化しない大きさに設定する。これにより、例えば、市街地走行時に、センサ15,16,26,27,28,40,41の何れかが故障し、報知部59によって電動パワーステアリング装置1に不具合があることが報知された場合にも、全てのセンサ15,16,26,27,28,40,41が正常である場合と同じアシストトルクを発生できるので、車両を退避場所まで安全に移動できる。また、例えば、報知部59による報知に気づずに、市街地走行を終えた後、駐車スペースへの駐車時(例えば、時速10km/hで、且つ操舵トルクTdが大きい走行時)には、電流指令値Iref2の上限値の制限によってアシストトルクが低減されるため、電動パワーステアリング装置1に不具合があることをより確実に報知できる。
【0048】
電流指令値分配部58は、電流指令値制限部57が出力する電流指令値Iref3を各系統100,200に分配して、第1の系統100に対応する個別電流指令値Iref4と、第2の系統200に対応する個別電流指令値Ire5とを演算する。個別電流指令値Iref4、Ire5を演算する方法としては、例えば、異常判定部46による判定結果に基づき、電流センサ40,41の両方が正常であると判定された場合に、電流指令値Iref3の50%を個別電流指令値Iref4に分配し、残り50%を個別電流指令値Iref5に分配する方法を採用できる。この方法を採用する場合、電流センサ40,41のうちの1つだけが故障していると判定した場合には、故障していると判定された電流センサ40,41に対応する系統100,200の個別電流指令値Iref4,Iref5への電流指令値Iref3の分配を0%とし、正常であると判定された電流センサ40,41に対応する系統100,200の個別電流指令値Iref4,Iref5への電流指令値Iref3の分配を100%とする。即ち正常であると判定された電流センサ40,41に対応する系統100,200にのみ電流指令値Iref3を分配する。これにより、一方の電流センサ40,41が故障した場合に、他方の電流センサ40,41を通じて、電流指令値Iref3に応じたアシストトルクをモータ11に発生させることができる。
【0049】
また、電流指令値分配部58は、分配した個別電流指令値Iref4、回転角センサ26,27,28の出力信号、及び電流センサ40,41の出力信号に基づき、第1の巻線組36の各相の指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1を演算し、演算した指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1を第1のインバータ38に出力する。指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1としては、例えば、第1のインバータ38の各スイッチング素子(FET)のデューティ比を規定するPWM(Pulse Width Modulation)信号を採用できる。同様に、電流指令値分配部58は、個別電流指令値Iref5、回転角センサ26,27,28の出力信号、及び電流センサ41の出力信号に基づき、第2の巻線組37の各相の指令信号Srefu2,Srefv2,Srefw2を演算し、演算した指令信号Srefu2,Srefv2,Srefw2を第2のインバータ39に出力する。即ち、分配した個別電流指令値Iref4,Iref5、回転角センサ26,27,28の出力信号、及び電流センサ40,41の出力信号に基づき、インバータ38,39を介してモータ11を制御する。これにより、第1のインバータ38を通じて指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1に応じた電流が第1の巻線組36の各相に供給され、個別電流指令値Iref4に応じたアシストトルクがモータ11で発生される。同様に、第2のインバータ39を通じてSrefu2,Srefv2,Srefw2に応じた電流が第2の巻線組37の各相に供給され、個別電流指令値Iref5に応じたアシストトルクがモータ11で発生される。それゆえ、モータ11では個別電流指令値Iref4,Iref5の合計値に応じたアシストトルクが発生される。
【0050】
ここで、各相の指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1,Srefu2,Srefv2,Srefw2の演算には、回転角センサ26,27,28の全てが正常であると判定された場合(例えば、
図11の時刻t0~t1)、第2の回転角センサ27のみが故障していると判定された場合(例えば、
図13の時刻t4以降)、又は第3の回転角センサ28のみが故障していると判定された場合には、回転角センサ26,27,28の出力信号のうちの、第1の回転角センサ26の出力信号のみが用いられる。即ち、
図10に示すように、指令信号Srefu1等の演算には、第1の回転角センサ26の出力信号に基づく回転角θm1が用いられる。なお、
図11の時刻t1~t4に示すように、第1の回転角センサ26の出力信号が異常であると判定されてから第1の所定時間(50msec.)が経過するまでは、回転角θm1の推定値が用いられる。回転角θm1の推定方法としては、例えば、第2の回転角センサ27の出力信号や、第3の回転角センサ28の出力信号、異常であると判定される直前の回転角θm1等を基に演算する方法を採用できる。また、第1の回転角センサ26のみが故障していると判定された場合には(例えば、
図11の時刻t4以降)、回転角センサ26,27,28の出力信号のうちの、第2の回転角センサ27の出力信号のみが用いられる。即ち、
図10に示すように第2の回転角センサ27の出力信号に基づく回転角θm2が用いられる。
【0051】
同様に、電流センサ40,41の全てが正常であると判定された場合、又は第2の電流センサ41のみが異常であると判定された場合には、回転角センサ26,27,28の出力信号のうちの、電流センサ40,41の出力信号のうちの、第1の電流センサ40の出力信号のみが用いられる。また、第1の電流センサ40のみが故障していると判定された場合には、電流センサ40,41の出力信号のうちの、第2の電流センサ41の出力信号のみが用いられる。これにより、回転角センサ26,27,28及び電流センサ40,41のうちの1つが故障した場合にも、指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1,Srefu2,Srefv2,Srefwの演算を継続でき、モータ11によるアシストトルクの発生を継続できる。
【0052】
また、電流指令値分配部58は、故障判定部48による判定結果、及び故障判定部55による判定結果に基づき、複数のトルクセンサ15,16、複数の回転角センサ26,27,28及び複数の電流センサ40,41の全センサの何れかが故障しているかを判定する。そして、全センサのうちの1つ以上が故障していると判定した場合、電動パワーステアリング装置1の故障の報知を行わせる報知信号を報知部59に出力する。これにより、少なくとも1つのセンサの故障時に、車両の退避場所への移動を運転者に促すことができる。
【0053】
また、全センサのうちの2つ以上が故障していると判定された場合には、報知信号の報知部59への出力とともに、モータ11の駆動を停止させる信号を第1のインバータ38及び第2のインバータ39に出力する。モータ11の駆動を停止する方法としては、例えば、第1のインバータ38による第1の巻線組36への電流の供給を禁止させるとともに、第2のインバータ39による第2の巻線組37への電流の供給を禁止させる方法を採用できる。これにより、モータ11の駆動が停止され、モータ11によるアシストトルクの発生が停止される。それゆえ、故障したセンサの出力信号がモータ11の制御に用いられずに済み、モータ11による運転者が意図しないアシストトルクの発生等を防止できる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係るセンサ装置は、演算部50が、正常であると判定されたトルクセンサ15,16の出力信号に基づく操舵トルクTdの演算値(換算トルク値Td1,Td2,Td3,Td4)を出力する。また、電力供給部49が、故障していると判定されたトルクセンサ15,16への電力供給を停止し、正常であると判定されたトルクセンサ15,16への電力供給を継続する。さらに、故障判定部48が、故障していると判定されたトルクセンサ15,16の故障判定を停止し、正常であると判定されたトルクセンサ15,16の故障判定を継続する。それゆえ、例えば、トルクセンサ15,16が1つ故障しても、正常なトルクセンサ15,16の出力信号に基づく操舵トルクTdの演算値(換算トルク値Td1,Td2,Td3,Td4)を出力できる。また、例えば、トルクセンサ15,16で短絡故障が発生した場合に、短絡故障が発生したトルクセンサ15,16への電力供給を停止でき、トルクセンサ15,16が発熱することを防止でき、発熱によって他の電子部品に悪影響を与えることを防止でき、他の故障の発生を防止できる。それゆえ、トルクセンサ15,16の何れかが故障した場合にも、検出対象となる物理量の出力を継続可能で、且つ他の電子部品の故障を抑制可能なセンサ装置を提供することができる。
また、例えば、異常であると判定されたトルクセンサ15,16への電力供給を継続するセンサ装置に比べ、無駄な電力消費を抑制でき、また無駄な演算処理を停止できる。
【0055】
また、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1は、モータ制御部56が、複数のトルクセンサ15,16、複数の回転角センサ26,27,28及び複数の電流センサ40,41の全センサのうちの1つだけが故障していると判定された場合には、電流指令値Iref2の上限値を制限し、2つ以上が故障していると判定された場合には、モータ11の駆動を停止する。また、モータ制御部56が、電流センサ40,41のうちの1つだけが故障していると判定された場合には、正常であると判定された電流センサ40,41に対応する系統100,200にのみ電流指令値Iref3を分配する。それゆえ、例えば、トルクセンサ15,16、回転角センサ26,27,28及び電流センサ40,41の全センサのうちの1つが故障した場合に、電流指令値Iref2の上限値が制限される。また、例えば、全センサのうちの2つ以上が故障した場合には、モータ11の駆動が停止される。それゆえ、トルクセンサ15,16が故障した場合に加え、回転角センサ26,27,28や電流センサ40,41が故障した場合にも、モータ11による運転者が意図しないアシストトルクの発生を防止可能な電動パワーステアリング装置1を提供することができる。
【0056】
このように、全センサのうちの1つが故障した場合に、電流指令値Iref2の上限値を制限するため、例えば、電流指令値Iref1演算用のアシストマップを切り替える方法と異なり、操舵トルクTdが小さく、電流指令値Iref2が上限値に到達しない領域では、モータ11のトルクが制限されず、全センサが正常である場合と同じアシストトルクが発生される。それゆえ、センサ故障時に車両を退避場所まで安全に移動させることができる。
また、2つ以上のセンサが故障した場合にモータ11の駆動が停止されるため、モータ11によるトルクの発生が停止され、アシストトルクの発生が停止される。それゆえ、モータ11の動作継続に伴う連鎖的なセンサの故障等の不具合拡大を防止できる。また、連鎖的なセンサの故障が生じた場合にも、モータ11による運転者が意図しないアシストトルクの発生を防止できる。
【0057】
(変形例)
(1)なお、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1では、故障判定部48が、トルクセンサ15,16の故障判定を行い、故障判定部55が、回転角センサ26,27,28及び電流センサ40,41の故障判定を行う例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、故障判定部55が、回転角センサ26,27,28及び電流センサ40,41の故障判定に加え、インバータ38,39の故障判定を行う構成としてもよい。
【0058】
第1のインバータ38の故障判定を行う方法としては、例えば、指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1に基づき、モータ11の第1の巻線組36のU相コイル30の指令信号Srefu1に基づくU相コイル30の電流の演算値Irefu1、 V相コイル31の指令信号Srefv1に基づくV相コイル31の電流の演算値Irefv1、及びW相コイル32の指令信号Srefw1に基づくW相コイル32の電流の演算値Irefw1を演算し、演算値Irefu1と電流値Iu1との差が所定値以上であるか、演算値Irefv1と電流値Iv1との差が所定値以上であるか、演算値Irefw1と電流値Iw1との差が所定値以上であるかを判定し、何れかが所定値以上である場合に、第1のインバータ38が故障していると判定する方法を採用できる。
【0059】
同様に、第2のインバータ39の故障判定を行う方法としては、例えば、指令信号Srefu2,Srefv2,Srefw2に基づき、モータ11の第2の巻線組37のU相コイル33の指令信号Srefu2に基づくU相コイル33の電流の演算値Irefu2、V相コイル34の指令信号Srefv2に基づくV相コイル34の電流の演算値Irefv2、及びW相コイル35の指令信号Srefw2に基づくW相コイル35の電流の演算値Irefw2を演算し、演算値Irefu2と電流値Iu2との差が所定値以上であるか、演算値Irefv2と電流値Iv2との差が所定値以上であるか、演算値Irefw2と電流値Iw2との差が所定値以上であるかを判定し、何れかが所定値以上である場合に、第2のインバータ39が故障していると判定する方法を採用できる。即ち、インバータ38,39毎に、モータ11の各巻線組36,37の各相の指令信号Srefu1,Srefv1,Srefw1,Srefu2,Srefv2,Srefw2に基づく各相の電流の演算値Irefu1,Irefv1,Irefw1,Irefu2,Irefv2,Irefw2と、電流センサ40,41の出力信号に基づく各巻線組36,37の各相の電流値Iu1,Iv1,Iw1,Iu2,Iv2,Iw2とを比較して、インバータ38,39の故障判定を行う。これによりインバータ38,39の故障を容易に判定できる。
【0060】
インバータ38,39の故障判定を行う場合、電流指令値分配部58は、インバータ38,39のうちの1つだけが故障していると判定された場合にも、故障していると判定されたインバータ38,39に対応する系統100,200の個別電流指令値Iref4,Iref5への電流指令値Iref3の分配を0%とし、正常であると判定された電流センサ40,41に対応する系統100,200の個別電流指令値Iref4,Iref5への電流指令値Iref3の分配を100%とする構成としてもよい。即ち、正常であると判定されたインバータ38,39に対応する系統100,200にのみ電流指令値Iref3を分配する構成としてもよい。これにより、一方のインバータ38,39が故障した場合に、他方のインバータ38,39を通じて、電流指令値Iref3に応じたアシストトルクをモータ11に発生させることができる。
【0061】
(2)また、本実施形態では、トルクセンサ15,16が故障しているかを判定し、故障していると判定されたトルクセンサ15,16への電力供給及び故障判定を停止する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、回転角センサ26,27,28や電流センサ40,41が故障しているかを判定し、故障していると判定された回転角センサ26,27,28や電流センサ40,41への電力供給及び故障判定を停止する構成としてもよい。また、適用対象のセンサは、電動パワーステアリング装置1に搭載されているセンサに限定されるものではなく、他の装置に搭載されているセンサであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…電動パワーステアリング装置,2…ステアリングホイール,3…ステアリング軸,3a…第1の部材,3b…第2の部材,3c…トーションバー,4…減速ギア,5a…ユニバーサルジョイント,5b…ユニバーサルジョイント,6…ラック・ピニオン機構,7a…タイロッド,7b…タイロッド,8a…ハブユニット,8b…ハブユニット,9L…操向車輪,9R…操向車輪,10…センサユニット,11…モータ,12…センサユニット,13…コントロールユニット,14…バッテリ,15…第1のトルクセンサ,16…第2のトルクセンサ,17…第1の素子,18…第2の素子,19…第1の出力部,20…第2の出力部,21…第3の素子,22…第4の素子,23…第3の出力部,24…第4の出力部,25…多極磁石,26…第1の回転角センサ,27…第2の回転角センサ,28…第3の回転角センサ,29…多極磁石,30…U相コイル,31…V相コイル,32…W相コイル,33…U相コイル,34…V相コイル,35…W相コイル,36…第1の巻線組,37…第2の巻線組,38…第1のインバータ,39…第2のインバータ,40…第1の電流センサ,41…第2の電流センサ,42…コンピュータ,43…トルクセンサ信号処理部,44…アシスト制御部,45…アシスト発生部, 46…異常判定部,47…判定実行部,48…故障判定部,49…電力供給部,50…演算部,51…第1の電源IC,52…第2の電源IC,53…電流指令値演算部,54…電流指令値補償部,55…故障判定部,56…モータ制御部,57…電流指令値制限部,58…電流指令値分配部,59…報知部,100…第1の系統,200…第2の系統