(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】半導体装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20231219BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20231219BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L29/78 617U
H01L21/318 B
H01L21/318 C
H01L21/316 X
H01L21/316 Y
(21)【出願番号】P 2020117418
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】泉 貴富
(72)【発明者】
【氏名】西井 潤弥
【審査官】鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-066641(JP,A)
【文献】特開2006-351626(JP,A)
【文献】特開2007-173796(JP,A)
【文献】特開2017-211656(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111096(WO,A1)
【文献】特開2009-049388(JP,A)
【文献】特開2007-294928(JP,A)
【文献】米国特許第06649538(US,B1)
【文献】特開平04-144278(JP,A)
【文献】特開2007-214503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312-21/32
H01L 21/336
H01L 21/47-21/475
H01L 29/76
H01L 29/772
H01L 29/78-29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体層の上に第1絶縁性酸化膜を成膜する工程と、
前記III族窒化物半導体層および前記第1絶縁性酸化膜に前記第1絶縁性酸化膜の側から窒素プラズマを照射する工程と、
前記第1絶縁性酸化膜を熱処理する第1熱処理工程と、
前記第1絶縁性酸化膜の上に第2絶縁性酸化膜を成膜する工程と、
前記第2絶縁性酸化膜を熱処理する第2熱処理工程と、
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1絶縁性酸化膜を成膜する工程では、
前記第1絶縁性酸化膜の膜厚を2nm以上9nm以下とすること
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1熱処理工程の熱処理温度は、
前記第2熱処理工程の熱処理温度よりも高いこと
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1熱処理工程の熱処理温度は、
800℃以上1000℃以下であること
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
前記窒素プラズマを照射する工程では、
前記III族窒化物半導体層の少なくとも表面に窒素ラジカルを供給すること
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
前記窒素プラズマを照射する工程では、
前記第1絶縁性酸化膜の表面を窒化すること
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項7】
GaN層と、
前記
GaN層の上のゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の上のゲート電極と、
を有し、
前記ゲート絶縁膜は、
前記
GaN層の上のSiON膜と、
前記SiON膜の上のSiN膜と、
前記SiN膜の上のSiO
2膜と、
を有し、
前記SiON膜は、
前記
GaN層に接触しており、
前記SiN膜は、
前記SiON膜に接触しており、
前記SiO
2膜は、
前記SiN膜に接触しており、
前記SiON膜の膜厚は、
1nm以上4nm以下であ
り、
前記SiON膜の窒素濃度は、前記GaN層から前記SiN膜に向かうにつれて連続的に増加していて、
前記SiON膜の酸素濃度は、前記GaN層から前記SiN膜に向かうにつれて連続的に減少している、
ことを含む半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、半導体装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNに代表されるIII 族窒化物半導体は、高い絶縁破壊電界を備えている。そのため、III 族窒化物半導体は、GaAs系半導体に代わる、高出力、高周波、高温用の半導体デバイスの材料として期待されている。そのため、III 族窒化物半導体を用いるHEMT素子などが研究開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電界効果トランジスタにおいて、ゲート絶縁膜にSiN膜およびSiO
2 膜を用いる技術が開示されている。III 族窒化物半導体の上にSiN膜を形成し、SiN膜の上にSiO
2 膜を形成する(特許文献1の段落[0036]-[0038]および
図2D)。これにより、ソース-ドレイン間における窒素空格子点密度が低減される旨が開示されている(特許文献1の段落[0041])。また、ソース-ドレイン間における表面電荷の発生が抑制され、表面リーク電流が抑制される旨が開示されている(特許文献1の段落[0041])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、III 族窒化物半導体の表面にSiN膜が接触している。SiN膜は絶縁性窒化膜である。絶縁性窒化膜の絶縁破壊強度は絶縁性酸化膜(SiO2 等)の絶縁破壊強度に比べて低い傾向にある。また、絶縁性窒化膜では膜中に電子が注入されやすい。絶縁性窒化膜中に電子が注入されると、半導体装置の動作が不安定となる。
【0006】
とはいえ、III 族窒化物半導体の上にSiO2 膜を直接接触させると、SiO2 膜の酸素がIII 族窒化物半導体の表面を酸化する。III 族窒化物半導体の表面はゲート近傍に相当するため、このIII 族窒化物半導体の表面が酸化されると半導体装置の動作は不安定となる。
【0007】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、III 族窒化物半導体から絶縁膜への電子の注入を抑制するとともに絶縁膜に起因するIII 族窒化物半導体の表面の酸化を抑制する半導体装置とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様における半導体装置の製造方法は、III 族窒化物半導体層の上に第1絶縁性酸化膜を成膜する工程と、III 族窒化物半導体層および第1絶縁性酸化膜に第1絶縁性酸化膜の側から窒素プラズマを照射する工程と、第1絶縁性酸化膜を熱処理する第1熱処理工程と、第1絶縁性酸化膜の上に第2絶縁性酸化膜を成膜する工程と、第2絶縁性酸化膜を熱処理する第2熱処理工程と、を有する。
【0009】
この半導体装置の製造方法は、III 族窒化物半導体層の上に第1絶縁性酸化膜を形成し、第1絶縁性酸化膜より上層に第1絶縁性窒化膜を形成し、第1絶縁性窒化膜の上に第2絶縁性酸化膜を形成することができる。III 族窒化物半導体層は第1絶縁性酸化膜と接触しているため、III 族窒化物半導体から絶縁膜への電子の注入が抑制されている。III 族窒化物半導体層には窒素が注入されているため、絶縁膜に起因するIII 族窒化物半導体の表面の酸化が抑制されている。
【発明の効果】
【0010】
本明細書では、III 族窒化物半導体から絶縁膜への電子の注入を抑制するとともに絶縁膜に起因するIII 族窒化物半導体の表面の酸化を抑制する半導体装置とその製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の半導体装置100の概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態の半導体装置100のゲート絶縁膜F10の積層構造を示す図である。
【
図3】第1の実施形態の半導体装置100の絶縁膜の成膜方法を示すフローチャートである。
【
図4】第1の実施形態の半導体装置100の絶縁膜の成膜方法を示す図である。
【
図5】第2の実施形態の半導体装置200の概略構成図である。
【
図6】第3の実施形態の半導体装置300の概略構成図である。
【
図7】MISキャパシタのSIMS分析の結果を示すグラフである。
【
図8】窒素プラズマを照射した構造体(サンプル)の酸素原子の1sスペクトルを示すグラフである。
【
図9】窒素プラズマを照射しなかった構造体(サンプル)の酸素原子の1sスペクトルを示すグラフである。
【
図10】第1熱処理工程の温度が900℃である場合の構造体(サンプル)のCV特性を示すグラフである。
【
図11】第1熱処理工程の温度が700℃である場合の構造体(サンプル)のCV特性を示すグラフである。
【
図12】第1熱処理工程の温度が500℃である場合の構造体(サンプル)のCV特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的な実施形態について、半導体装置とその製造方法を例に挙げて説明する。しかし、本明細書の技術はこれらの実施形態に限定されるものではない。本明細書において、第1導電型はn型を表し、第2導電型はp型を表す。ただし、第1導電型はp型を表し、第2導電型はn型を表してもよい場合がある。
【0013】
(第1の実施形態)
1.半導体装置
図1は、第1の実施形態の半導体装置100の概略構成図である。半導体装置100は、MISFETである。半導体装置100はトレンチを有さない。半導体装置100は、GaN基板110と、第1半導体層120と、第2半導体層130と、半導体領域140と、ゲート絶縁膜F10と、ゲート電極G1と、ボディ電極B1と、ソース電極S1と、ドレイン電極D1と、を有する。
【0014】
第1半導体層120と、第2半導体層130と、半導体領域140とは、III 族窒化物半導体層である。第1半導体層120は、例えば、GaN層である。第2半導体層130は、例えば、p型GaN層である。半導体領域140は、例えば、n+ GaNである。半導体領域140は半導体の一部にイオン注入された領域である。
【0015】
ゲート絶縁膜F10は、第2半導体層130および半導体領域140の上に形成されている。ゲート電極G1は、ゲート絶縁膜F10の上に形成されている。ゲート電極G1は、ゲート絶縁膜F10を間に挟んだ状態で、第2半導体層130と半導体領域140の一部と対向している。ソース電極S1およびドレイン電極D1は、半導体領域140の上に形成されている。
【0016】
2.ゲート絶縁膜
2-1.積層構造
図2は、第1の実施形態の半導体装置100のゲート絶縁膜F10の積層構造を示す図である。ゲート絶縁膜F10は、III 族窒化物半導体層の表面の一部を覆うゲート絶縁膜である。ゲート絶縁膜F10は、III 族窒化物半導体層の表面を保護する。ゲート絶縁膜F10は、第2半導体層130および半導体領域140と、ゲート電極G1と、の間の位置に配置されている。ゲート絶縁膜F10は、絶縁性酸窒化膜と絶縁性窒化膜と絶縁性酸化膜とを有する。ゲート絶縁膜F10は、SiON膜F11と、SiN膜F13と、SiO
2 膜F14と、を有する。
【0017】
SiON膜F11は、第2半導体層130および半導体領域140の表面の少なくとも一部を覆っている。SiON膜F11は、第2半導体層130および半導体領域140の上に形成されている。SiON膜F11は、第2半導体層130および半導体領域140に接触している。SiON膜F11の膜厚は、例えば、1nm以上6nm以下である。好ましくは、1nm以上4nm以下である。
【0018】
SiN膜F13は、SiON膜F11より上層の位置に形成されている。SiN膜F13は、SiON膜F11の上に形成されている。SiN膜F13は、SiON膜F11に接触している。SiN膜F13の膜厚は、例えば、1nm以上3nm以下である。好ましくは、1nm以上2nm以下である。
【0019】
SiO2 膜F14は、SiN膜F13の上に形成されている。SiO2 膜F14は、SiN膜F13に接触している。SiO2 膜F14の膜厚は、例えば、40nm以上100nm以下である。
【0020】
2-2.窒素濃度
ゲート絶縁膜F10においては、窒素濃度が半導体側からゲート電極G1に向かうにつれて増加し、飽和した後に減少する。SiON膜F11は、窒素原子を含有する。SiON膜F11における窒素原子含有量は、例えば、1×1021atm/cm3 以上1×1022atm/cm3 未満である。SiON膜F11における窒素原子含有量は、SiO2 膜F14における窒素原子含有量よりも多い。後述するように、SiON膜F11には窒素プラズマが照射されているためである。
【0021】
3.ゲート絶縁膜の各層の役割
SiON膜F11は、酸素原子がIII 族窒化物半導体に拡散することを防止する拡散防止層である。SiON膜F11は十分に薄く、高い温度で熱処理されている。このため、酸素原子が移動しにくい。また、SiON膜F11は、III 族窒化物半導体から絶縁膜への電子の注入を抑制するための層である。そして、SiON膜F11は、後述する絶縁膜の成膜方法においてIII 族窒化物半導体を保護する。このため、III 族窒化物半導体は、後述する窒素プラズマの照射によりダメージをほとんど受けない。
【0022】
SiN膜F13は、III 族窒化物半導体を湿気から保護するための膜である。なお、SiON膜F11がSiN膜F13への電子の注入を抑制する。
【0023】
SiO2 膜F14は、高い電気絶縁性によりIII 族窒化物半導体を保護するための膜である。このため、SiO2 膜F14は、ゲートリーク電流を抑制することができる。
【0024】
このようにゲート絶縁膜F10は、III 族窒化物半導体が酸化することを防止し、III 族窒化物半導体から絶縁膜への電子の注入を抑制する。このため、ゲート絶縁膜F10を有する半導体装置100は、良好なCV特性(容量電圧特性)を備えている。
【0025】
4.絶縁膜の成膜方法
図3は、第1の実施形態の半導体装置100の絶縁膜の成膜方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、この成膜方法は、III 族窒化物半導体層の上に第1絶縁性酸化膜を成膜する工程と、III 族窒化物半導体層および第1絶縁性酸化膜に第1絶縁性酸化膜の側から窒素プラズマを照射する工程と、第1絶縁性酸化膜を熱処理する第1熱処理工程と、第1絶縁性酸化膜の上に第2絶縁性酸化膜を成膜する工程と、第2絶縁性酸化膜を熱処理する第2熱処理工程と、を有する。ここでは、ゲート絶縁膜F10を成膜する場合について説明する。
【0026】
4-1.第1絶縁膜成膜工程
図4に示すように、第2半導体層130および半導体領域140の上に第1絶縁性酸化膜I1を成膜する(S101)。成膜方法は、例えば、反応性スパッタリング、CVD法、ALD法である。反応性スパッタリングの場合には、メタルモードを用いる。CVD法の場合には、熱CVDを用いる。ALD法の場合には、H
2 OまたはO
3 を酸化法に用いる。第1絶縁性酸化膜I1の膜厚は、例えば、2nm以上9nm以下である。好ましくは、3nm以上6nm以下である。
図4に示すように、第1絶縁性酸化膜I1は、窒化されてSiON膜F11となる部分と、窒化されてSiN膜F13となる部分と、を有する。
【0027】
4-2.窒素プラズマ処理工程
第2半導体層130および半導体領域140および第1絶縁性酸化膜I1に第1絶縁性酸化膜I1の側から窒素プラズマを照射する(S102)。例えば、ECRプラズマ、ICP、表面波プラズマ、を用いることができる。プラズマガスは、N2 ガスである。窒素ガス(N2 )の流量は、例えば、20sccm以上100sccm以下である。
【0028】
基板温度は、例えば、0℃以上300℃以下である。基板側のバイアスの電力は、例えば、0W以上20W以下である。絶縁膜および第2半導体層130および半導体領域140にダメージを与えないために、バイアスの電力は弱いほうがよい。処理時間は、例えば、10分以上150分以下である。これらの数値範囲は例示であり、上記以外の数値であってもよい。
【0029】
この際に、窒素プラズマから電子、陽イオン等の荷電粒子を除去することが好ましい。例えば、窒素プラズマの移動経路に金属製の網を配置する。これにより、窒素ラジカルが第1絶縁性酸化膜I1に照射される。または、窒素プラズマの移動経路に磁界を加えることにより、荷電粒子を除去してもよい。または、窒素プラズマのプラズマ生成領域と基板との距離を離し、基板側のバイアスの電力を弱めてもよい。
【0030】
第1絶縁性酸化膜I1は十分に薄いので、窒素ラジカルは第1絶縁性酸化膜I1および第2半導体層130および半導体領域140の表面側に供給される。これにより、第1絶縁性酸化膜I1の主に表面側が窒化されるとともに第2半導体層130および半導体領域140の表面側に窒素が注入される。これにより、第2半導体層130および半導体領域140の窒素空孔密度は減少する。
図4に示すように、第1絶縁性酸化膜I1の表面側は十分に窒化されてSiN膜F13となり、第1絶縁性酸化膜I1における第2半導体層130および半導体領域140の側は、ある程度窒化されてSiON膜F11となる。
【0031】
このように、窒素プラズマ処理工程では、III 族窒化物半導体層の少なくとも表面に窒素ラジカルを供給してIII 族窒化物半導体層の窒素空格子点密度を減少させ、第1絶縁性酸化膜I1の表面を窒化する。
【0032】
なお、第1絶縁性酸化膜I1が存在するため、窒素ラジカルは第2半導体層130および半導体領域140にダメージをほとんど与えない。
【0033】
4-3.第1熱処理工程
次に、窒素プラズマを照射した半導体および絶縁膜に第1熱処理工程を実施する(S103)。第1熱処理工程の熱処理温度は、例えば、800℃以上1000℃以下である。好ましくは、900℃以上である。熱処理時間は、例えば、10分以上60分以下である。好ましくは、30分以上である。これらの数値範囲は例示であり、上記以外の数値であってもよい。
【0034】
4-4.第2絶縁膜成膜工程
次に、第1絶縁性酸化膜I1の上に第2絶縁性酸化膜(SiO2 膜F14)を成膜する(S104)。成膜方法は、例えば、反応性スパッタリング、CVD法、ALD法である。反応性スパッタリングの場合には、オキサイドモードを用いる。CVD法の場合には、プラズマを用いてもよい。ALD法の場合には、酸化のためにプラズマを用いてもよい。SiO2 膜F14の膜厚は、例えば、40nm以上100nm以下である。
【0035】
4-5.第2熱処理工程
次に、半導体および絶縁膜に第2熱処理工程を実施する(S105)。これにより、第2半導体層130および半導体領域140から順に、SiON膜F11、SiN膜F13、SiO2 膜F14が形成される。第2熱処理工程の熱処理温度は、例えば、400℃以上600℃以下である。第2熱処理工程の熱処理温度は、第1熱処理工程の熱処理温度よりも低い。熱処理時間は、例えば、10分以上30分以下である。これらの数値範囲は例示であり、上記以外の数値であってもよい。
【0036】
4-6.その他の工程
また、その他の工程を実施してもよい。例えば、第1絶縁性酸化膜成膜工程および第2絶縁性酸化膜成膜工程の前に、III 族窒化物半導体および絶縁膜を有機洗浄する有機洗浄工程を実施してもよい。
【0037】
5.半導体装置の製造方法
5-1.半導体層形成工程
GaN基板110の上に第1半導体層120、第2半導体層130、半導体領域140をこの順序で成長させる。そのために、例えば、MOCVD法を用いればよい。または、その他の気相成長法を用いてもよい。または、液相成長法を用いてもよい。また、イオン注入により半導体領域140を形成する。
【0038】
5-2.絶縁膜成膜工程
第2半導体層130および半導体領域140の上にゲート絶縁膜F10を形成する。前述の絶縁膜の成膜方法を用いればよい。また、ソース電極S1およびドレイン電極D1を形成する領域にはゲート絶縁膜F10を形成しない。そのため、例えば、第2半導体層130および半導体領域140の表面に一様な絶縁膜を形成した後に、ソース電極S1およびドレイン電極D1を形成する領域の絶縁膜を除去してもよい。そのために例えば、CF4 、C4 F6 等のフッ素系ガスを用いたエッチングを実施してもよい。
【0039】
5-3.ゲート電極形成工程
ゲート絶縁膜F10の上にゲート電極G1を形成する。そのためには、ALD法、スパッタリング等の成膜技術を用いればよい。
【0040】
5-4.ソース電極形成工程
第2半導体層130および半導体領域140の上にボディ電極B1およびソース電極S1を形成する。そのために、スパッタリング、EB蒸着法または抵抗加熱蒸着法を用いればよい。
【0041】
5-5.ドレイン電極形成工程
半導体領域140の上にドレイン電極D1を形成する。そのために、スパッタリング、EB蒸着法または抵抗加熱蒸着法を用いればよい。
【0042】
5-6.素子分離工程
そして、ウエハから半導体装置100を切り出し、各々の独立した半導体装置100を製造する。
【0043】
5-7.その他の工程
保護膜形成工程、熱処理工程等、その他の工程を適宜実施してもよい。以上により、半導体装置100が得られる。また、ソース電極S1およびドレイン電極D1の積層構造が同じ場合には、ソース電極S1およびドレイン電極D1を同時に形成してもよい。
【0044】
6.第1の実施形態の効果
第1の実施形態の半導体装置100は、ゲート絶縁膜F10を有する。ゲート絶縁膜F10のSiON膜F11は、第2半導体層130および半導体領域140からゲート絶縁膜F10への電子の注入を抑制する。第2半導体層130および半導体領域140には窒素ラジカルが供給されているため、第2半導体層130および半導体領域140における窒素空格子点密度は十分に低い。第2半導体層130および半導体領域140はゲート絶縁膜F10から半導体領域140の酸化を抑制されている。
【0045】
III 族窒化物半導体に対して表面酸化層はドナーとして振る舞う。半導体装置100では半導体の酸化が抑制されているため、ゲート絶縁膜F10を有する半導体装置100は、良好なCV特性を備えている。そして、半導体装置100は、ドレイン電流が良好に立ち上がる。
【0046】
ゲート絶縁膜F10のSiN膜F13は、III 族窒化物半導体を湿気から保護する。
【0047】
また、SiO2 膜F14は十分な厚みを有するため、半導体装置100のゲート絶縁膜は高い絶縁破壊強度を有する。このため、ゲートリーク電流が抑制されている。
【0048】
7.変形例
7-1.保護膜
第1の実施形態の技術をゲート絶縁膜以外の保護膜に適用することができる。この場合であっても、この保護膜は高い絶縁性を備えるとともにIII 族窒化物半導体の酸化を抑制することができる。また、III 族窒化物半導体を湿気から保護することができる。
【0049】
7-2.基板
GaN基板110の代わりにその他の基板を用いてもよい。例えば、サファイア基板、Si基板が挙げられる。もちろん、それ以外の基板を用いてもよい。
【0050】
7-3.絶縁性酸化膜
SiO2 膜の代わりにその他の絶縁性酸化膜を用いてもよい。例えば、Al2 O3 が挙げられる。
【0051】
7-4.絶縁性窒化膜
SiN膜の代わりにその他の絶縁性窒化膜を用いてもよい。例えば、AlNが挙げられる。
【0052】
7-5.トレンチ
半導体装置100は、トレンチを有さない。第1の実施形態の技術は、トレンチを有するHEMTにも適用可能である。
【0053】
7-6.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてよい。
【0054】
(第2の実施形態)
1.半導体装置
図5は、第2の実施形態の半導体装置200の概略構成図である。半導体装置200は、縦型MISFETである。
図5に示すように、半導体装置200は、GaN基板210と、第1半導体層220と、第2半導体層230と、第3半導体層240と、ゲート絶縁膜F30と、ゲート電極G2と、ソース電極S2と、ドレイン電極D2と、ボディ電極B2と、を有する。
【0055】
第1半導体層220は、GaN基板210の上に形成されている。第1半導体層220は第1導電型のIII 族窒化物半導体層である。第1半導体層220は、例えば、n- GaNである。
【0056】
第2半導体層230は、第1半導体層220の上に形成されている。第2半導体層230は第2導電型のIII 族窒化物半導体層である。第2半導体層230は、例えば、pGaNである。
【0057】
第3半導体層240は、第2半導体層230の上に形成されている。第3半導体層240は、第1導電型のIII 族窒化物半導体層である。第3半導体層240は、例えば、n+ GaNである。
【0058】
ボディ電極B2は、第2半導体層230から正孔を引き抜くための電極である。ボディ電極B2は、リセスR2に形成されている。リセスR2は、第3半導体層240を貫通し、第2半導体層230の途中まで達する凹部である。ボディ電極B2は、第2半導体層230と、第3半導体層240と、ソース電極S2と、に接触している。
【0059】
ゲート絶縁膜F30は、トレンチT2を覆っている。ゲート絶縁膜F30は、ゲート電極G2と半導体層とを絶縁している。ゲート絶縁膜F30は、第1半導体層220の底面および側面と、第2半導体層230の側面と、第3半導体層240の側面および表面の一部と、を覆っている。
【0060】
ゲート絶縁膜F30の積層構造は、第1の実施形態のゲート絶縁膜F10と同じである。
【0061】
2.第2の実施形態の効果
第2の実施形態の半導体装置200は、ゲート絶縁膜F30を有する。ゲート絶縁膜F30は、第1の実施形態のゲート絶縁膜F10と同様の効果を奏する。
【0062】
3.変形例
3-1.保護膜
半導体装置200は、保護膜を有していてもよい。その保護膜にゲート絶縁膜F30の積層構造を採用してもよい。
【0063】
(第3の実施形態)
図6は、第3の実施形態の半導体装置300の概略構成図である。半導体装置300は、MISキャパシタである。半導体装置300は、n型半導体310と、ゲート絶縁膜F40と、ゲート電極G3と、を有する。n型半導体310はn型のIII 族窒化物半導体である。ゲート絶縁膜F40は、ゲート絶縁膜F10と同様の積層構造である。
【0064】
2.第3の実施形態の効果
第3の実施形態の半導体装置300は、ゲート絶縁膜F40を有する。ゲート絶縁膜F40は、第1の実施形態のゲート絶縁膜F10と同様の効果を奏する。
【0065】
3.変形例
3-1.保護膜
半導体装置300は、保護膜を有していてもよい。その保護膜にゲート絶縁膜F40の積層構造を採用してもよい。
【0066】
(実験)
1.二次イオン質量分析法(SIMS)
1-1.サンプルの作製
n型GaNにゲート絶縁膜を形成して構造体を製作した。その際に、n型GaNにSiO
2 膜を形成した。そして、窒素プラズマの照射の有無により、SIMSおよびXPSを比較した。窒素プラズマを照射した構造体は、
図3のS101からS103までを実施したものに相当する。
【0067】
窒素プラズマを発生させるためにECRプラズマを用いた。マイクロ波の出力は500Wであった。基板側のバイアスの電力は0Wであった。基板温度は室温であった。処理時間は60分であった。なお、SiO2 膜の熱処理温度は、熱処理温度を変更した場合を除き900℃であった。また、n型GaNにゲート絶縁膜とゲート電極とを形成し、MISキャパシタを製作した。
【0068】
1-2.測定結果
図7は、SIMS分析の結果を示すグラフである。
図7の横軸はゲート絶縁膜の表面からの距離(深さ)である。
図7の縦軸は、窒素原子の濃度(atms/cm
3 )または酸素原子の検出強度である。
【0069】
図7に示すように、窒素プラズマ処理により、SiO
2 膜が表面から窒化されていることが分かる。そして、窒素プラズマを照射した側から順に、SiN、SiON、SiO
2 が存在する。深さが6nm以下の領域では、窒素プラズマの照射により窒素濃度が上昇し、酸素濃度が減少している。つまり、この条件において、窒素ラジカルまたは窒素イオンが6nm程度まで到達していると考えられる。また、深さが2nm未満の領域ではSiNが形成され、深さが2nm以上の領域ではSiONが形成されている。電気的な安定性の観点から、GaNの上に形成される絶縁膜はSiNよりもSiONのほうが好ましい。なお、深さが7nm以上の領域では、窒素プラズマの効果とn型GaNからの窒素の拡散の効果とが重なっており、必ずしも明確には判別できない。
【0070】
窒素濃度が絶縁膜側からn型GaNに向かうにつれて減少し、その後ふたたび増加する。SiO2 膜における窒素原子含有量は、例えば、1×1019atm/cm3 以上1×1021atm/cm3 未満である。SiON膜における窒素原子含有量は、例えば、1×1021atm/cm3 以上1×1022atm/cm3 未満である。SiN膜における窒素原子含有量は、例えば、1×1022atm/cm3 以上である。
【0071】
2.X線光電子分光法
2-1.サンプルの作製
n型GaNに厚さ3nmのSiO2 を成膜した構造体を作製した。その後、窒素プラズマの照射の有無により酸素原子との結合状態を調べた。
【0072】
2-2.測定結果
Ga単体、Ga-O結合、Ga-N結合のケミカルシフト量は1eV程度である。このため、Gaの3d準位から発せられる光を分光しても、ピークを分離することが困難である。このため、酸素原子(O)の1s準位から発せられる光を分光した。
【0073】
図8は、窒素プラズマを照射したGaNとSiO
2 との界面近傍の酸素原子の1sスペクトルを示すグラフである。
図8の横軸は結合エネルギーである。
図8の縦軸は1秒当たりのカウント数である。
【0074】
図8では、O-Ga結合の割合は3%程度であった。つまり、Gaはほとんど酸化されていない。
【0075】
図9は、窒素プラズマを照射しなかったGaNとSiO
2 との界面近傍の酸素原子の1sスペクトルを示すグラフである。
図9の横軸は結合エネルギーである。
図9の縦軸は1秒当たりのカウント数である。
【0076】
図9では、O-Ga結合の割合は16%程度であった。
【0077】
窒素プラズマを照射することにより、O-Ga結合が十分に減少している。つまり、
図8に示すように、GaNとSiO
2 との界面近傍においてGaの酸化が抑制されていることがわかる。n型GaNにおける窒素空孔密度が低くなっていると考えられる。
【0078】
3.CV特性
3-1.サンプルの作製
n型GaNに厚さ3nmの第1SiO2 膜を成膜したものに窒素プラズマを照射し、その後、さらに第2SiO2 膜を成膜した。このように製造された構造体についてCV特性を調べた。
【0079】
3-2.測定結果
図10は、第1熱処理工程の温度が900℃である場合の構造体のCV特性を示すグラフである。
図10の横軸はゲート電圧である。
図10の縦軸は静電容量である。静電容量は、ゲート絶縁膜の静電容量の値により規格化されている。
図10に示すように、この場合にはゲート電圧の増加に対して静電容量は段差無くなだらかに変化している。
【0080】
図11は、第1熱処理工程の温度が700℃である場合の構造体のCV特性を示すグラフである。
図11の横軸はゲート電圧である。
図11の縦軸は静電容量である。静電容量は、ゲート絶縁膜の静電容量の値により規格化されている。
図11に示すように、ゲート電圧が-2V程度の箇所に段差HP1がある。段差HP1が存在すると、閾値電圧が安定せず、半導体装置の動作が不安定となる。
【0081】
図12は、第1熱処理工程の温度が500℃である場合の構造体のCV特性を示すグラフである。
図12の横軸はゲート電圧である。
図12の縦軸は静電容量である。静電容量は、ゲート絶縁膜の静電容量の値により規格化されている。
図12に示すように、ゲート電圧が-2V程度の箇所に段差HP2がある。段差HP2が存在すると、閾値電圧が安定せず、半導体装置の動作が不安定となる。
【0082】
このように、第1熱処理工程の熱処理温度を800℃以上とすることにより、ゲート電圧の閾値電圧が安定する。
【0083】
(付記)
第1の態様における半導体装置の製造方法は、III 族窒化物半導体層の上に第1絶縁性酸化膜を成膜する工程と、III 族窒化物半導体層および第1絶縁性酸化膜に第1絶縁性酸化膜の側から窒素プラズマを照射する工程と、第1絶縁性酸化膜を熱処理する第1熱処理工程と、第1絶縁性酸化膜の上に第2絶縁性酸化膜を成膜する工程と、第2絶縁性酸化膜を熱処理する第2熱処理工程と、を有する。
【0084】
第2の態様における半導体装置の製造方法においては、第1絶縁性酸化膜を成膜する工程では、第1絶縁性酸化膜の膜厚を2nm以上9nm以下とする。
【0085】
第3の態様における半導体装置の製造方法においては、第1熱処理工程の熱処理温度は、第2熱処理工程の熱処理温度よりも高い。
【0086】
第4の態様における半導体装置の製造方法においては、第1熱処理工程の熱処理温度は、800℃以上1000℃以下である。
【0087】
第5の態様における半導体装置の製造方法においては、窒素プラズマを照射する工程では、III 族窒化物半導体層の少なくとも表面に窒素ラジカルを供給する。
【0088】
第6の態様における半導体装置の製造方法においては、窒素プラズマを照射する工程では、第1絶縁性酸化膜の表面を窒化する。
【0089】
第7の態様における半導体装置は、III 族窒化物半導体層と、III 族窒化物半導体層の上のゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜の上のゲート電極と、を有する。ゲート絶縁膜は、III 族窒化物半導体層の上のSiON膜と、SiON膜の上のSiN膜と、SiN膜の上のSiO2 膜と、を有する。SiON膜は、III 族窒化物半導体層に接触している。SiN膜は、SiON膜に接触している。SiO2 膜は、SiN膜に接触している。SiON膜の膜厚は、1nm以上4nm以下である。
【符号の説明】
【0090】
100…半導体装置
110…GaN基板
120…第1半導体層
130…第2半導体層
140…半導体領域
D1…ドレイン電極
S1…ソース電極
G1…ゲート電極
F10…ゲート絶縁膜
F11…SiON膜
F13…SiN膜
F14…SiO2 膜