(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/40 20060101AFI20231219BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20231219BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20231219BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F02D41/40
F02D13/02 J
F02D41/06
F02D43/00 301G
F02D43/00 301J
F02D43/00 301Z
(21)【出願番号】P 2020134714
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和洋
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-229419(JP,A)
【文献】特開2012-026340(JP,A)
【文献】特開2006-183537(JP,A)
【文献】特開2006-250120(JP,A)
【文献】特開2009-019538(JP,A)
【文献】特開2017-172565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/40
F02D 13/02
F02D 41/06
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの冷却水の温度
及び当該エンジンに取り込まれた吸気の温度を取得する取得部と、
前記エンジンの始動後の燃料噴射量の積算量を特定する特定部と、
インジェクタから前記エンジンの筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させる条件となる前記燃料噴射量の積算量を示す基準積算量を設定する基準設定部であって、前記エンジンの冷却水の温度が低いほど前記基準積算量を高い値とし、かつ、前記吸気の温度が低いほど前記基準積算量を高い値とする基準設定部と、
前記基準設定部が設定した前記基準積算量よりも前記エンジンの始動後の燃料噴射量の積算量が大きいか否かを判定する判定部と、
前記基準設定部が設定した前記基準積算量よりも前記エンジンの始動後の燃料噴射量の積算量が大きいと前記判定部が判定した場合に、前記インジェクタから前記エンジンの筒内への前記1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させ
、前記エンジンの始動後の燃料噴射量の積算量が前記基準設定部により設定された前記基準積算量以下であると前記判定部が判定した場合に、前記インジェクタから前記エンジンの筒内への前記1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させない分割噴射部と、
前記基準設定部が設定した前記基準積算量よりも前記エンジンの始動後の燃料噴射量の積算量が大きいと前記判定部が判定した場合に、排気バルブを開くタイミングを進角させ、前記エンジンの始動後の燃料噴射量の積算量が前記基準設定部により設定された前記基準積算量以下であると前記判定部が判定した場合に、前記排気バルブを開くタイミングを進角させないタイミング制御部と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
前記基準設定部は、エンジンの冷却水の温度と、基準積算量候補とを関連付けたテーブルを参照して、前記取得部が取得した前記冷却水の温度に前記テーブルにおいて関連付けられた前記基準積算量候補を前記基準積算量として設定する、
請求項
1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記基準設定部は、エンジンの冷却水の温度と、前記吸気の温度と、基準積算量候補とを関連付けたテーブルを参照して、前記取得部が取得した前記冷却水の温度と、取得した前記吸気の温度とに前記テーブルにおいて関連付けられた前記基準積算量候補を前記基準積算量として設定する、
請求項
1又は2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジェクタからエンジン筒内へ燃料を噴射させる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンを有する車両の排気通路に設けられたDPF(Diesel Particulate Filter)等の排気ガス浄化装置の触媒の活性を向上させることを目的として、排気温度を上昇させる方法が提案されている。例えば、特許文献1には、燃料噴射を2回以上に分割して排気温度を上昇させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料噴射を2回以上に分割する場合、1回当りの燃料噴射量は少なくなる。エンジン始動直後には、エンジン筒内の温度が比較的低いため、燃料噴射を2回以上に分割するとエンジンの燃焼不良が生じやすいという問題があった。
【0005】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、DPF等の触媒の活性を向上させつつ、エンジンの燃料不良を抑制することができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の制御装置は、エンジンの冷却水の温度を取得する取得部と、前記エンジンの始動後の燃料噴射量の積算量を特定する特定部と、前記冷却水の温度及び前記積算量に基づいて、インジェクタから前記エンジンの筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件を前記エンジンが満たしているか否かを判定する判定部と、前記インジェクタから前記エンジンの筒内への前記1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件を前記エンジンが満たしていると前記判定部が判定した場合に、前記インジェクタから前記エンジンの筒内への前記1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させる分割噴射部と、を備える。
【0007】
前記制御装置は、前記インジェクタから前記エンジンの筒内への前記1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件を前記エンジンが満たしていると前記判定部が判定した場合に、排気バルブを開くタイミングを進角させるタイミング制御部をさらに備えてもよい。
【0008】
前記制御装置は、前記インジェクタから前記エンジンの筒内への前記1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるために要する前記燃料噴射量の積算量を示す基準積算量を設定し、当該基準積算量の設定において前記取得部が取得したエンジンの冷却水の温度が低いほど当該基準積算量を高い値とする基準設定部を備え、前記判定部は、前記基準設定部が設定した前記基準積算量よりも前記エンジンの始動後の燃料噴射量の積算量が大きい場合に、前記インジェクタから前記エンジンの筒内への前記1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件を前記エンジンが満たしていると判定してもよい。
【0009】
前記基準設定部は、エンジンの冷却水の温度と、基準積算量候補とを関連付けたテーブルを参照して、前記取得部が取得した前記冷却水の温度に前記テーブルにおいて関連付けられた前記基準積算量候補を前記基準積算量として設定してもよい。前記取得部は、車両の吸気温度を取得し、前記基準設定部は、エンジンの冷却水の温度と、吸気温度と、基準積算量候補とを関連付けたテーブルを参照して、前記取得部が取得した前記冷却水の温度と、取得した前記吸気温度とに前記テーブルにおいて関連付けられた前記基準積算量候補を前記基準積算量として設定してもよい。
【0010】
前記取得部は、車両の排気温度を取得し、前記分割噴射部は、前記取得部が取得した前記排気温度が目標値を超える場合に、前記インジェクタから前記エンジンの筒内への前記1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させなくてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、DPF等の触媒の活性を向上させつつ、エンジンの燃料不良を抑制するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】タイミング制御部による排気バルブを開くタイミングの進角の様子を示す図である。
【
図4】制御装置による後処理装置及び尿素SCRの早期昇温の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[制御装置の概要]
図1は、本実施形態の車両100の概要を示す図である。車両100は、エンジン1及び制御装置2を備える。エンジン1は、例えば、ディーゼルエンジンである。エンジン1内では、インジェクタ11は、燃料を気筒内へ噴射する。インジェクタ11は、1サイクル当たり所定の燃料噴射数で燃料を気筒内へ噴射する。燃料噴射数は、例えば、燃料の燃焼効率が最大になるように定められる。1サイクルは、気筒内に空気が取り込まれてから気筒内に空気が再度取り込まれるまでの期間である。ピストン12は、クランクシャフト13の取付位置(
図1中のP)に取り付けられている。
【0014】
気筒内において発火により膨張した燃料は、ピストン12を押し下げることにより、クランクシャフト13を回転させる。その後、排気バルブ14が開くと、クランクシャフト13の回転により、
図1中の太い矢印で示すようにピストン12が押し上げられ、
図1中の細い矢印で示すように、燃焼ガスが気筒外に押し出される。
【0015】
制御装置2は、例えば、コンピュータにより車両100の各部を電子的に制御するECU(Electronic Control Unit)により実現される。制御装置2は、エンジン1の始動直後等においてエンジン1の後段の後処理装置(Diesel Particulate Filter、DPF)や尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)の触媒の温度が低いときに、エンジン1のインジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させることにより、気筒外に排出される燃焼ガスの温度を高くする。このようにして、制御装置2は、エンジン1の後段の後処理装置や尿素SCRの触媒を早期に昇温させ、これらの触媒の温度が低いことに起因して排ガスの浄化能力が低下することを抑制することができる。
【0016】
エンジン1の始動直後には、エンジン1の筒内の温度が低いことがある。制御装置2は、エンジン1の筒内の温度が上昇する前に1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させると、エンジン1の筒内の燃料不良を生じさせやすい。そこで、制御装置2は、エンジン1の冷却水の温度と、エンジン1の始動後の燃料噴射量の積算値とに基づいて、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件をエンジン1が満たしているか否かを判定する。
【0017】
制御装置2は、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件をエンジン1が満たしていると判定した場合に、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させる。このようにして、制御装置2は、後処理装置や尿素SCRの触媒を早期に昇温させることができる。制御装置2は、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させる要件をエンジン1が満たしていないと判定した場合には、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させないので、エンジン1の燃料不良が生じることを抑制することができる。
【0018】
[車両の構成]
図2は、車両100の構成を示す図である。車両100は、水温センサ31、吸気温センサ32、排気温センサ33、インジェクタ11、可変バルブ機構34及び制御装置2を備える。制御装置2は、記憶部21及び制御部22を備える。制御部22は、取得部221、特定部222、基準設定部223、判定部224、分割噴射部225及びタイミング制御部226を備える。
【0019】
水温センサ31は、エンジン1の冷却水の温度を測定する。水温センサ31は、エンジン1の冷却水の温度の測定結果を取得部221に入力する。吸気温センサ32は、例えば、エンジン1のインテークに取り込まれた吸気温度を測定する。吸気温センサ32は、吸気温度の測定結果を取得部221に入力する。排気温センサ33は、例えば、エンジン1の後段の後処理装置付近の排気温度を測定する。排気温センサ33は、排気温度の測定結果を取得部221に入力する。
【0020】
インジェクタ11は、エンジン1の気筒内へ燃料を噴射する。インジェクタ11は、1サイクル当たり所定の燃料噴射数で燃料を気筒内へ噴射する。可変バルブ機構(Variable Valve Timing、VVT)34は、油圧等を利用してクランクシャフトに対してカムシャフトをわずかに回転させることにより、排気バルブ14を開くタイミングを早めたり遅らせたりする。
【0021】
記憶部21は、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体を有する。記憶部21は、制御部22を機能させるための各種プログラムや各種データを記憶する。制御部22は、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより、取得部221、特定部222、基準設定部223、判定部224、分割噴射部225、タイミング制御部226として機能する。
【0022】
取得部221は、エンジン1の冷却水の温度を取得する。例えば、取得部221は、エンジン1の冷却水の温度を水温センサ31から取得する。取得部221は、車両100の吸気温度を取得する。取得部221は、車両100の排気温度を取得する。例えば、取得部221は、車両100の吸気温度及び排気温度をそれぞれ吸気温センサ32及び排気温センサ33から取得する。取得部221は、取得した冷却水の温度、吸気温度及び排気温度を基準設定部223へ出力する。
【0023】
特定部222は、エンジン1の始動後の燃料噴射量の積算量を特定する。記憶部21には、燃料噴射量と噴射時刻とを関連付けた履歴情報や、エンジン1の始動時刻が記憶されている。特定部222は、燃料噴射量の履歴情報及びエンジン1の始動時刻を記憶部21から読み出し、エンジン1の始動時刻以降の燃料噴射量の積算量を特定する。特定部222は、特定した燃料噴射量の積算量を判定部224へ出力する。
【0024】
[基準積算量の設定]
基準設定部223は、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための燃料噴射量の積算量の要件を示す基準積算量を設定する。基準設定部223は、基準積算量の設定において取得部221が取得したエンジン1の冷却水の温度が低いほど基準積算量を高い値とする。基準設定部223は、基準積算量の設定において取得部221が取得したエンジン1の冷却水の温度が高いほど基準積算量を低い値とする。
【0025】
また、基準設定部223は、基準積算量の設定において取得部221が取得した吸気温度が低いほど基準積算量を高い値とする。一方、基準設定部223は、基準積算量の設定において取得部221が取得し吸気温度が高いほど基準積算量を低い値とする。
【0026】
より詳しくは、記憶部21には、エンジンの冷却水の温度と、吸気温度と、基準積算量候補とを関連付けたテーブルが記憶されている。基準設定部223は、このテーブルを記憶部21から読み出す。基準設定部223は、読み出したテーブルを参照して、取得部221が取得した冷却水の温度と、取得した吸気温度とにテーブルにおいて関連付けられた基準積算量候補を基準積算量として設定する。基準設定部223は、設定した基準積算量を判定部224へ出力する。
【0027】
[燃料噴射数を増加させる要件を満たすかの判定]
エンジン1の筒内の温度が低い状態では、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させた際にエンジン1の燃料不良が生じるリスクがある。そこで、判定部224は、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させる前に、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件をエンジン1が満たしているか否かを判定する。
【0028】
例えば、判定部224は、冷却水の温度及び燃料噴射量の積算量に基づいて、エンジン1がこの要件を満たしているか否かを判定する。判定部224は、基準設定部223が設定した基準積算量よりもエンジン1の始動後の燃料噴射量の積算量が大きい場合に、この要件をエンジン1が満たしていると判定する。一方、判定部224は、基準設定部223が設定した基準積算量よりもエンジン1の始動後の燃料噴射量の積算量以下である場合に、この要件をエンジン1が満たしていないと判定する。
【0029】
判定部224は、エンジン1の筒内の温度を取得することができれば、エンジン1が要件を満たしているか否かを判定することが可能である。しかしながら、判定部224は、エンジン1の筒内の温度を直接計測することはできない。このため、判定部224は、エンジン1の筒内の温度の代わりに、エンジン1の冷却水の温度を参照することが考えられる。
【0030】
ただし、エンジン1の始動直後と、エンジン1の始動から十分に時間が経った後とでは、冷却水の温度が同じであってもエンジン1の筒内の温度は異なる。このため、判定部224は、冷却水の温度だけを参照した場合には、筒内の温度を参照した場合と同じ判定結果を出力することができないことがある。そこで、判定部224は、冷却水の温度に加えて、燃料噴射量の積算量を参照して、エンジン1が要件を満たすか否かを判定する。このようにして、判定部224は、判定の精度を向上させることができる。
【0031】
吸気温度が低い状態では、エンジン1の筒内において燃料が着火しにくくなるため、吸気温度が高い状態に比べて、エンジン1の筒内がより高い温度である必要がある。判定部224は、吸気温度が低いほど基準積算量が高い値となるように基準積算量が設定された場合には、この基準積算量よりもエンジン1の始動後の燃料噴射量の積算量が大きければ、エンジン1が要件を満たすと判定する。このようにして、判定部224は、1サイクル当たりの燃料噴射量を増加させるための要件をエンジン1が満たすか否かの判定に吸気温度の影響を反映させるので、判定の精度を向上させることができる。
【0032】
[燃料噴射数の増加]
分割噴射部225は、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を制御する。分割噴射部225は、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件をエンジン1が満たしていると判定部224が判定した場合に、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させる。一方、分割噴射部225は、この要件をエンジン1が満たしていないと判定部224が判定した場合に、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させない。
【0033】
分割噴射部225は、取得部221が取得した排気温度が目標値を超える場合には、排気温度をさらに上昇させる必要がないことから、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させない。目標値は、例えば、エンジン1の後段の後処理装置や尿素SCRにおいて法規等により定めれた排ガス浄化能力が発揮される値である。
【0034】
[排気バルブを開くタイミングの進角]
タイミング制御部226は、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件をエンジン1が満たしていると判定部224が判定した場合に、排気バルブ14を開くタイミングを進角させる。タイミング制御部226は、この要件をエンジン1が満たしていないと判定部224が判定した場合に、排気バルブ14を開くタイミングを進角させない。
図3(a)及び
図3(b)は、クランクシャフト13において排気バルブ14が開いてから閉じるまでの期間にピストン12の取付位置(
図1中のP)が回転する様子を示す図である。
【0035】
図3(a)は、タイミング制御部226が排気バルブ14を開くタイミングを可変バルブ機構34により進角していない場合に、クランクシャフト13において排気バルブ14が開いてから閉じるまでの期間に対応するピストン12の取付位置の変化を示す。
図3(a)の例では、排気バルブ14は、ピストン12の取付位置が下死点に達したときに開き、上死点を超えてから閉じる。下死点は、
図1のピストン12がクランクシャフト13の回転軸に最も近くなる取付位置であり、上死点は、ピストン12がクランクシャフト13の回転軸から最も遠くなる取付位置である。
【0036】
図3(b)は、タイミング制御部226が排気バルブ14を開くタイミングを可変バルブ機構34により進角した場合に、クランクシャフト13において排気バルブ14が開いてから閉じるまでの期間に対応するピストン12の取付位置の変化を示す。タイミング制御部226が排気バルブ14を開くタイミングを可変バルブ機構34により進角させた場合、排気バルブ14は、ピストン12の取付位置が下死点に到達する前に開く。タイミング制御部226は、ピストン12の取付位置が下死点に到達する前に排気バルブ14を開くことにより、下死点に到達したときに排気バルブ14を開く場合と比較して、高温の排ガスを後処理装置及び尿素SCRへ送ることができる。このため、タイミング制御部226は、後処理装置及び尿素SCRの早期昇温効果を向上させることができる。
【0037】
タイミング制御部226が排気バルブ14を開くタイミングを可変バルブ機構34により進角した場合に、エンジン1の燃料不良が生じやすくなることはほとんどない。このため、タイミング制御部226は、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件をエンジン1が満たしていないと判定部224が判定した場合にも、排気バルブ14を開くタイミングを進角させてもよい。
【0038】
[早期昇温の処理手順]
図4は、制御装置2による後処理装置及び尿素SCRの早期昇温の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順は、車両100のエンジン1を始動させる運転者の操作を操作受付部(不図示)が受け付けたときに開始する。まず、特定部222は、エンジン1の始動後の燃料噴射量の積算量を特定する(S101)。取得部221は、エンジン1の冷却水の温度を水温センサ31から取得する(S102)。取得部221は、車両100の吸気温度を吸気温センサ32から取得する(S103)。
【0039】
基準設定部223は、取得部221が取得したエンジン1の冷却水の温度及び吸気温度に基づいて、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるために要する燃料噴射量の積算量を示す基準積算量を設定する(S104)。判定部224は、特定部222が特定した燃料噴射量の積算量が基準積算量よりも大きいか否かを判定する(S105)。
【0040】
分割噴射部225は、特定部222が特定した燃料噴射量の積算量が基準積算量よりも大きいと判定部224が判定した場合に(S105のYES)、インジェクタ11からエンジン1の筒内への1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させる(S106)。タイミング制御部226は、排気バルブ14を開くタイミングを進角させる(S107)。操作受付部は、エンジン1を停止させる運転者の操作を受け付けた否かを判定する(S108)。操作受付部は、エンジン1を停止させる運転者の操作を受け付けた場合に(S108のYES)、処理を終了する。
【0041】
判定部224は、S105の判定において特定部222が特定した燃料噴射量の積算量が基準積算量以下であると判定部224が判定した場合に(S105のNO)、S108の処理に進む。操作受付部は、S108の判定においてエンジン1を停止させる運転者の操作を受け付けていない場合に(S108のNO)、S101の処理に戻る。
【0042】
[本実施形態の制御装置による効果]
本実施形態によれば、分割噴射部225は、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させることにより、エンジン1の後段の後処理装置や尿素SCRの触媒の活性を向上させることができる。判定部224及び分割噴射部225は、エンジン1が1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させるための要件を満たしていないと判定部224が判定した場合に、1サイクル当たりの燃料噴射数を増加させないので、エンジン1の燃料不良が生じることを抑制することができる。
【0043】
本実施形態では、基準設定部223は、エンジンの冷却水の温度と、吸気温度と、基準積算量候補とを関連付けたテーブルを参照して、基準積算量を設定する場合の例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、基準設定部223は、エンジンの冷却水の温度と、基準積算量候補とを関連付けたテーブルを参照して、基準積算量を設定してもよい。記憶部21には、エンジンの冷却水の温度と、基準積算量候補とを関連付けたテーブルが記憶されている。基準設定部223は、このテーブルを記憶部21から読み出す。基準設定部223は、読み出したテーブルを参照して、取得部221が取得した冷却水の温度にテーブルにおいて関連付けられた基準積算量候補を基準積算量として設定する。
【0044】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0045】
1 エンジン
2 制御装置
11 インジェクタ
12 ピストン
13 クランクシャフト
14 排気バルブ
21 記憶部
22 制御部
31 水温センサ
32 吸気温センサ
33 排気温センサ
34 可変バルブ機構
100 車両
221 取得部
222 特定部
223 基準設定部
224 判定部
225 分割噴射部
226 タイミング制御部