(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
(21)【出願番号】P 2020150332
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2022-12-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003834
【氏名又は名称】弁理士法人新大阪国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【氏名又は名称】松田 正道
(74)【代理人】
【氏名又は名称】特許業務法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楫野 豊
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099041(JP,A)
【文献】特開2017-127290(JP,A)
【文献】特開2020-099269(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154715(WO,A1)
【文献】特開2018-073050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0216003(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00 - 69/08
G05D 1/00 - 1/12
B62D 6/00 - 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の内側に設定された、往復走行を繰り返す往復走行経路と、前記往復走行経路の外周形状に沿って走行する枕地走行経路を走行する走行車体を備えた作業車両であって、
前記枕地走行経路は1周を1工程として、複数工程設定され、
自動作業走行の開始指示を受信すると、前記枕地走行経路のうち最外周の工程を除く工程に沿って、前記往復走行経路における作業開始点まで、前記走行車体を自動で移動させる制御部を
備え、
前記最外周の工程を除く前記枕地走行経路に対する前記走行車体の位置の距離が所定の
範囲にある場合に限り、前記制御部は前記走行車体を前記往復走行経路の前記作業開始点
まで自動で移動させる作業車両。
【請求項4】
前記作業車両の位置を測位する測位装置を備え、
前記制御部は、圃場の領域の情報および前記作業車両の作業幅の情報を有し、前記作業車両が現在の位置から所定距離前進すると仮定した場合、前記測位装置が測位した前記作業車両の位置を利用して、前記作業車両の一部が前記圃場の領域から逸脱するかどうか判断し、逸脱しない場合に限り、前記往復走行経路における前記作業開始点まで、前記走行車体を自動で移動させる、請求項1乃至
3のいずれかに記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耕運機などの作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
走行領域を設定し、走行領域における車両の走行経路を生成する経路生成部を備え、生成した経路に沿って自律走行する作業車両であって、走行領域には作業機により作業が行われる作業経路を含む第1の領域と、第1の領域の周囲に設定される第2の領域を含み、第2の領域において作業の開始が指示された場合、車体の向いている方位角と現在位置から作業開始点に対する方位角との角度差が所定の範囲内であれば、現在位置から作業経路の開始位置まで走行させた後、作業を開始させる作業車両が公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では作業の開始位置に移動する際に最外周の枕地を走行してしまうことがあり、畔などを障害物と誤検知して、車両が停止してしまうことがあった。
【0005】
本発明では円滑に自動運転走行経路の作業開始点まで確実に移動できる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明は、
圃場の内側に設定された、往復走行を繰り返す往復走行経路と、前記往復走行経路の外
周形状に沿って走行する枕地走行経路を走行する走行車体を備えた作業車両であって、
前記枕地走行経路は1周を1工程として、複数工程設定され、
自動作業走行の開始指示を受信すると、前記枕地走行経路のうち最外周の工程を除く工
程に沿って、前記往復走行経路における作業開始点まで、前記走行車体を自動で移動させ
る制御部を備え、
前記最外周の工程を除く前記枕地走行経路に対する前記走行車体の位置の距離が所定の
範囲にある場合に限り、前記制御部は前記走行車体を前記往復走行経路の前記作業開始点
まで自動で移動させる作業車両である。
第2の本発明は、
前記最外周の工程を除く前記枕地走行経路の工程が複数工程存在する場合は、その内の
少なくとも一つの工程に対する前記走行車体の位置の距離が所定の範囲にあれば、前記制
御部は前記走行車体を、前記所定の範囲にある工程に沿って、前記作業開始点まで自動で
移動させる、第1の本発明の作業車両である。
第3の本発明は、
前記最外周の工程を除く前記枕地走行経路の工程が複数工程存在する場合は、前記制御
部は前記走行車体を、自己位置に最も近い工程に沿って、前記作業開始点まで自動で移動
させる、第1の本発明の作業車両である。
第4の本発明は、
前記作業車両の位置を測位する測位装置を備え、
前記制御部は、圃場の領域の情報および前記作業車両の作業幅の情報を有し、前記作業
車両が現在の位置から所定距離前進すると仮定した場合、前記測位装置が測位した前記作
業車両の位置を利用して、前記作業車両の一部が前記圃場の領域から逸脱するかどうか判
断し、逸脱しない場合に限り、前記往復走行経路における前記作業開始点まで、前記走行
車体を自動で移動させる、第1乃至3のいずれかの本発明の作業車両である。
本発明に関連する第1の発明は、
圃場の内側に設定された、往復走行を繰り返す往復走行経路R1aと、前記往復走行経路の外周形状に沿って走行する枕地走行経路R1b、R2a、R2bを走行する走行車体を備えた作業車両であって、
前記枕地走行経路は1周を1工程として、複数工程設定され、
自動作業走行の開始指示を受信すると、前記枕地走行経路のうち最外周の工程を除く工程に沿って、前記往復走行経路における作業開始点まで、前記走行車体を自動で移動させる制御部を備えたことを特徴とする作業車両である。
本発明に関連する第2の発明は、
前記最外周の工程を除く前記枕地走行経路に対する前記走行車体の位置の距離が所定の範囲にある場合に限り、前記制御部は前記走行車体を前記往復走行経路の前記作業開始点まで自動で移動させる、本発明に関連する第1の発明の作業車両である。
【0007】
本発明に関連する第3の発明は、
前記最外周の工程を除く前記枕地走行経路の工程が複数工程存在する場合は、その内の少なくとも一つの工程に対する前記走行車体の位置の距離が所定の範囲にあれば、前記制御部は前記走行車体を、前記所定の範囲にある工程に沿って、前記作業開始点まで自動で移動させる、本発明に関連する第2の発明の作業車両である。
【0008】
本発明に関連する第4の発明は、
前記最外周の工程を除く前記枕地走行経路の工程が複数工程存在する場合は、前記制御部は前記走行車体を、自己位置に最も近い工程に沿って、前記作業開始点まで自動で移動させる、本発明に関連する第2の発明の作業車両である。
【0009】
本発明に関連する第5の発明は、
前記作業車両の位置を測位する測位装置を備え、
前記制御部は、圃場の領域の情報および前記作業車両の作業幅の情報を有し、前記作業車両が現在の位置から所定距離前進すると仮定した場合、前記測位装置が測位した前記作業車両の位置を利用して、前記作業車両の一部が前記圃場の領域から逸脱するかどうか判断し、逸脱しない場合に限り、前記往復走行経路における前記作業開始点まで、前記走行車体を自動で移動させる、本発明に関連する第1乃至4のいずれかの発明の作業車両である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、畔などを障害物と誤検知して車両が停止するのを防止し、円滑に作業
走行経路の作業開始点まで移動できる。さらに、沿うべき枕地走行経路が遠すぎると意図
しない動きにより圃場を荒らしてしまう恐れがあり、これを防止できる。沿うべき枕地走
行経路が近くにあることを自動運転開始の条件とすることで円滑に移動を開始できる。
本発明に関連する第1の発明によれば、畔などを障害物と誤検知して車両が停止するのを防止し、円滑に作業走行経路の作業開始点まで移動できる。
【0011】
本発明に関連する第2の発明によれば、沿うべき枕地走行経路が遠すぎると意図しない動きにより圃場を荒らしてしまう恐れがあり、これを防止できる。沿うべき枕地走行経路が近くにあることを自動運転開始の条件とすることで円滑に移動を開始できる。
【0012】
本発明に関連する第3の発明によれば、複数の走行経路がある場合、いずれかが所定の範囲にあれば、自動運転開始ができるので、便利である。
【0013】
本発明に関連する第4の発明によれば、自己位置に最も近い工程に沿って移動することで、より円滑に移動を開始できる。その自動運転開始前の有人運転による移動を容易に行うことができる。
【0014】
本発明に関連する第5の発明によれば、移動を開始しても圃場領域から逸脱してしまい動けない状況に陥ることを回避できるため、円滑に移動を開始できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明における実施の形態にかかる作業車両の側面図
【
図3】同作業車両の圃場走行の走行経路を示す略示平面図
【
図4】同作業車両の走行経路を説明するための略示平面図(ケースその1)
【
図5】同作業車両の走行経路を説明するための略示平面図(ケースその2)
【
図6】同作業車両の走行経路を説明するための略示平面図(ケースその3)
【
図7】同作業車両の走行経路を説明するための略示平面図(ケースその4)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明における実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態にかかる作業車両の一例としてのトラクタの側面図である。
【0017】
まず、
図1を参照してトラクタ1の全体構成について説明する。
【0018】
作業車両であるトラクタ1は、自走しながら圃場などで作業を行う農業用トラクタである。また、トラクタ1は、操縦者(作業者ともいう)が搭乗して圃場内を走行しながら所定の作業を実行する他、後述する制御部40(
図2参照)を中心とする制御系による各部の制御により、圃場内を自動走行しながら所定の作業を実行する。
【0019】
また、以下において、前後方向とは、トラクタ1の直進時における進行方向であり、進行方向の前方側を「前」、後方側を「後」と規定する。トラクタ1の進行方向とは、直進時において、後述する操縦席8からステアリングホイール9に向かう方向である(
図1参照)。
【0020】
左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。以下では、「前」側へ向けて左右を規定する。すなわち、トラクタ1の操縦者(「作業者」ともいう)が操縦席8に着席して前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。
【0021】
上下方向とは、鉛直方向である。前後方向、左右方向および上下方向は互いに直交する。なお、各方向は説明の便宜上定義したものであり、これらの方向によって本発明が限定されるものではない。また、以下では、トラクタ1を指して「機体」という場合がある。
【0022】
図1に示すように、トラクタ1は、走行車体2と、作業機Wとを備える。走行車体2は、車体フレーム3と、前輪4と、後輪5と、ボンネット6と、エンジンEと、操縦部7と、ミッションケース10とを備える。車体フレーム3は、走行車体2のメインフレームである。
【0023】
前輪4は、左右一対であり、主に操舵用の車輪(操舵輪)となる。後輪5は、左右一対であり、主に駆動用の車輪(駆動輪)となる。トラクタ1は、後輪5が駆動する二輪駆動(2WD)と、前輪4および後輪5が共に駆動する四輪駆動(4WD)とを切り替え可能に構成されてもよい。この場合、駆動輪は、前輪4および後輪5の両方である。なお、走行車体2は、車輪(前輪4および後輪5)に代えてクローラ装置を備えてもよい。この場合、走行クローラが駆動輪である。
【0024】
ボンネット6は、走行車体2の前部において開閉自在に設けられる。ボンネット6は、後部を回動中心として上下方向に回動(開閉)可能である。ボンネット6は、閉じた状態で、車体フレーム3上に搭載されたエンジンEを覆う。エンジンEは、トラクタ1の駆動源であり、ディーゼル機関やガソリン機関などの熱機関である。
【0025】
操縦部7は、走行車体2の上部に設けられ、操縦席8やステアリングホイール9などを備える。操縦部7は、走行車体2の上部に設けられたキャビン7aに覆われることで形成されてもよい。操縦席8は、操縦者の座席である。ステアリングホイール9は、前輪4を操舵する場合に操縦者により操作される。なお、操縦部7は、ステアリングホイール9の前方に、各種情報を表示する表示部(メータパネル)を備える。
【0026】
また、操縦部7は、前後進レバー、アクセルレバー、主変速レバー、副変速レバーなどの各種操作レバーや、アクセルペダル、ブレーキペダル、クラッチペダルなどの各種操作ペダルを備える。
【0027】
ミッションケース10は、トランスミッション(変速機構)を収容している。トランスミッション10は、エンジンEから伝達される動力(回転動力)を適宜減速して、駆動輪である後輪5や、PTO(Power Take-off)軸へ伝達する。
【0028】
走行車体2の後部には、圃場内で作業を行う作業機Wが連結され、作業機Wを駆動する動力を伝達するPTO軸がミッションケース10から後方へ突出している。PTO軸は、トランスミッションによって適宜減速された回転動力を、走行車体2の少なくとも後部に装着された作業機Wへ伝達する。
【0029】
また、走行車体2の後部には、作業機Wを昇降させる昇降装置12が設けられる。昇降装置12は、作業機Wを上昇させることで、作業機Wを非作業位置に移動させる。また、昇降装置12は、作業機Wを下降させることで、作業機Wを対地作業位置に移動させる。
【0030】
作業機Wは、圃場内で作業を行う機械である。
図1に示す例では、作業機Wは、圃場において耕耘作業を行うロータリ耕耘機W1である。ロータリ耕耘機W1は、PTO軸から伝達された動力によって耕耘爪が回転することで、圃場面(土壌)を耕耘する。
【0031】
また、トラクタ1は、
図2に示すような制御部40を備える。制御部40は、エンジンEを制御するとともに(40aはエンジンECU)、走行車体2の走行速度を制御する(40bは走行系ECU)。また、制御部40は、作業機Wを制御する。40cは種々のデータを記録する記録部である。
【0032】
また、トラクタ1は、測位装置30を備える。測位装置30は、走行車体2の上部に設けられ、走行車体2の位置を測定する。測位装置30は、たとえば、GNSS(Global Navigation Satellite System)であり、上空を周回している航法衛星Saからの電波を受信して測位および計時を行うことができる。
【0033】
また、トラクタ1は、障害物センサ20を備える。障害物センサ20は、前方センサ21と、後方センサ22とを備える。前方センサ21は、たとえば、ボンネット6の前方に設けられたセンサ取付ステー13に取り付けられるなど、走行車体2の前部に配置され、走行車体2の前方に存在する物体(障害物)を検知する。後方センサ22は、たとえば、キャビン7aの上部に取り付けられるなど、走行車体2の後部上側に配置され、走行車体2の後方に存在する物体(障害物)を検知する。
【0034】
また、前方センサ21および後方センサ22は共に、中距離センサであり、好ましくは赤外線センサである。赤外線センサは、赤外線ビームを放射し、障害物からの反射光を検知する。
【0035】
前方センサ21および後方センサ22は、たとえば、赤外線ビームを放射した後、障害物からの反射光を検知するまでの時間を測定することで、障害物までの距離を検知することができる。赤外線センサである前方センサ21および後方センサ22は、障害物を2次元的に検知し、たとえば、数メートルから数10メートル程度の検知範囲である。なお、障害物センサ20として、赤外線センサ以外の他の中距離センサを用いることも可能である。例えば超音波センサなどである。100は遠隔操作装置(リモコン)であって、トラクタ1は、作業者による遠隔操作装置100の操作によって、遠隔操作が可能である。
【0036】
次に、圃場を上記トラクタ1で耕耘する仕方の概要を説明する。
【0037】
図3は、トラクタ1の一般的な走行経路などを示す図である。ここに、50は圃場、50aは圃場50のほぼ中央の往復走行を行う主要範囲領域、50bは、主要範囲領域50aの外側の枕地領域を示す。51は畔であり、52は出入り口である。枕地領域50bにおける枕地走行経路は1周を1工程として、複数工程(3本)設定されている。
【0038】
トラクタ1は、一点鎖線に示すように、その主要範囲領域50aを往復自動作業走行した後、その外周形状の直ぐ周りの枕地領域50bを1周だけ自動作業走行して、一時停止位置50cで停止する。R1aはその往復走行経路、R1a-1は、その往復走行における1本目の走行ラインを示す。また、R1bはその枕地領域50bの中の最も内側の1周の走行経路であって、上記のように自動作業走行経路である。
【0039】
そのような経路は制御部40の記録部40cに予め記録されており、測位装置30で受信する衛星信号とその予め記録された経路データとを照合しながら、走行系ECU40bが操舵装置9や変速装置10を操作して、トラクタ1を自律作業走行させていく。
【0040】
そして、枕地領域50bの残る領域については、実線で示すように、その一時停止位置50cにおいて作業者53がトラクタ1に乗り込み、手動で作業走行を行う。なお、その乗り込み位置は一時停止位置50c以外も可能である。
【0041】
ここに、R2aは枕地領域50bの中の最も外側の1周の走行経路、つまり、畔51に隣接する走行経路である。またR2bは枕地領域50bの真ん中の1周の走行経路である。つまり、
図3においては、枕地領域50bの走行経路は、3本(R1b、R2a、R2b)の周走行経路が設定されている。なお、枕地領域50bの外側2本の走行経路R2a、R2bは手動による作業走行であっても、予めそれらの走行経路R2a、R2bのデータは、制御部40の記録部40cに記憶されている。例えば、作業者53の手動運転において、それらの走行経路R2a、R2bから大きく反れた場合に警告するなどに用いられる。
【0042】
このようなトラクタ1の走行において、Sは上記主要範囲領域50aにおける、つまり、往復走行経路R1aにおける自動作業走行の作業開始点である。
【0043】
今、自動作業走行の開始指示を受信した場合、畔51における出入り口52に位置しているトラクタ1を、往復走行する主要範囲領域50aにおいて自動作業走行をさせるために、制御部40が、その作業開始点Sまでトラクタ1を自動で移動させる方法をいくつかのケースに分けて説明する。
【0044】
なお、この移動は、作業しない状態での自動走行である。また、圃場50の形状は、
図4乃至
図7に示すように、ほぼ矩形の場合を例にとり、位置を示す「上下、左右」はそれらの図面上の定義である。
【0045】
(1)
図4に示すように、作業開始点Sが、出入り口52の対角側の場合、制御部40によって以下のようにトラクタ1は非作業の自動走行を行う。
【0046】
すなわち、出入り口52に位置するトラクタ1は、枕地領域50bにおける3つの走行経路R1b、R2a、R2bの内、最外周経路R2a以外の最も内側の経路R1bあるいは真ん中のR2bを経路として選び自動走行していく。最外周経路R2aを走行させると、圃場領域逸脱起こりがちとなり、頻繁に停止してしまう傾向があるからである。以下の各ケースでも同様の理由で、最外周経路R2aは使用しない。
【0047】
例えば、最内周の経路R1bを走行する場合は、右辺の経路R1b-1を走行し、さらに旋回RD1して上辺R1b-2へ移り、さらに旋回RDS1して、往復走行経路R1aの1本目の走行ラインR1a-1に移る。その旋回RD1は、ほぼ直角に旋回するのでその旋回径は比較的大きく、緩やかな制御でよい。いわゆる方ブレーキを使うことはしない。
【0048】
あるいは、真ん中の経路R2bを経路とした場合は、右辺の経路R2b-1を走行し、さらに旋回RD2して上辺R2b-2へ移り、さらに旋回RDS2して、往復走行経路R1aの1本目の走行ラインR1a-1に移る。その旋回RD2も、ほぼ直角に旋回するのでその旋回径は比較的大きく、緩やかな制御でよい。いわゆる方ブレーキを使うことはしない。
【0049】
このような旋回RD1、RD2においては、通常の作業を行う枕地でのロボット走行(旋回方法)とは違い、前後進動作を行わない。これによって、枕地の表面を荒らさずにすみ、また余分な動作が入らないので、作業開始点Sまで迅速に移動できる。もちろん、制御ソフトの共通化を図るため、あえて後進動作を行うことにしてもよい。なお、作業開始点Sに侵入した後の後進動作は可能とする。
【0050】
(2)
図5に示すように、作業開始点Sが、出入り口52と同じ側の上方に位置する場合には、制御部40によって以下のようにトラクタ1は非作業の自動走行を行う。
【0051】
すなわち、出入り口52に位置するトラクタ1は、枕地領域50bにおける3つの走行経路R1b、R2a、R2bの内、最外周経路のR2a以外の最も内側の経路R1bあるいは真ん中のR2bを経路として選び自動走行していく。
【0052】
例えば、最内周の経路R1bを走行する場合は、右辺の経路R1b-1を走行していく。さらに旋回RDS3して、往復走行経路R1aの1本目の走行ラインR1a-1に移る。その旋回RDS3は、上述した直角旋回ではなく、ほぼ平行なラインに乗せるため、例えば一点旋回を行うなど、上述した直角旋回よりも急旋回させる必要がある。すなわち、左右それぞれの後輪5.5に片方ずつ制動する片ブレーキが可能な制動装置を備え、片ブレーキを利用して一点旋回を行う。
【0053】
あるいは、真ん中の経路R2bを経路とした場合は、右辺の経路R2b-1を走行し、さらに旋回RDS4して、往復走行経路R1aの1本目の走行ラインR1a-1に移る。その旋回RDS4は、上述した直角旋回ではなく、ほぼ平行なラインに乗せるため、例えば一点旋回(ブレーキを利用するなど)を行うなど、直角旋回よりも急旋回させる必要がある。
【0054】
さらに、同じ一点旋回とはいっても、真ん中の経路R2bの場合の旋回RDS4と、上述した最内周の経路R1bの場合旋回RDS3とを比較すると、走行ラインR1a-1までの距離が異なるため、最内周の経路R1bの場合の旋回RDS3の方がより急な旋回が必要となる。
【0055】
すなわち、往復走行経路の作業開始点Sが存在する経路部分に対して平行な角度に設定されている、枕地走行経路の経路部分のうち、最内周の枕地走行経路R1bの部分以外の経路R2bから、作業開始点Sに旋回移動する場合は、最内周の枕地走行経路R1bの部分から作業開始点Sに旋回移動する場合に比べて、片ブレーキ制動力を弱くする。
【0056】
(3)
図6に示すように、作業開始点Sが、出入り口52の左側下方に位置し、トラクタ1が作業開始点S側へ向いていない場合には、制御部40によって以下のようにトラクタ1は非作業の自動走行を行う。
【0057】
すなわち、出入り口52に位置するトラクタ1は、枕地領域50bにおける3つの走行経路R1b、R2a、R2bの内、最外周経路のR2a以外の最も内側の経路R1bあるいは真ん中のR2bを経路として選び自動走行していく。
【0058】
例えば、最内周の経路R1bを走行する場合は、右辺の経路R1b-1を走行し、さらに旋回RD1して上辺R1b-2へ移り、さらに旋回RD3して、左辺の経路R1b-3に移る。さらに、旋回RDS5して、往復走行経路R1aの1本目の走行ラインR1a-1に移る。
【0059】
その旋回RDS5は直角旋回ではなく、ほぼ平行なラインに乗せるため、例えば一点旋回(ブレーキを利用するなど)を行うなど、直角旋回よりも急旋回させる必要がある。
【0060】
あるいは、真ん中の経路R2bを経路とした場合は、右辺の経路R2b-1を走行し、さらに旋回RD2して上辺R2b-2へ移り、さらに旋回RD4して、左辺の経路R1b-3に移る。この経路は、上述した最内周の経路R1bを走行する場合と同じである。さらに、旋回RDS5して、往復走行経路R1aの1本目の走行ラインR1a-1に移る。なお、旋回RD4した後、左辺の真ん中の経路R2b-3を利用してもかまわない。
【0061】
これら旋回RD3と、旋回RD4はほぼ直角に旋回するので比較的穏やかに旋回させればよい。いわゆる方ブレーキを使うことはしない。
【0062】
また、このような旋回RD3、RD4においては、通常の作業を行う枕地でのロボット走行(旋回方法)とは違い、前後進動作を行わない。これによって、枕地の表面を荒らさずにすみ、また余分な動作が入らないので、開始点Sまで迅速に移動できる。もちろん、制御ソフトの共通化を図るため、あえて後進動作を行うことにしてもよい。なお、作業開始点Sに侵入した後の後進動作は可能とする。
【0063】
(4)
図7に示すように、作業開始点Sが、出入り口52の左側下方に位置する場合であって、トラクタ1の向きが
図6とは異なり、作業開始点S側へ向いていた場合、制御部40によって以下のようにトラクタ1は非作業の自動走行を行う。
【0064】
すなわち、トラクタ1の走行は原則としては反時計回りであるが、時計回りをした場合、作業開始点Sが最も近い位置にある場合であって、トラクタ1が作業開始点Sの方に向いている場合である。
【0065】
その際も、出入り口52に位置するトラクタ1は、枕地領域50bにおける3つの走行経路R1b、R2a、R2bの内、最外周経路のR2a以外の最も内側の経路R1bあるいは真ん中のR2bを経路として選び、左側へ自動走行していく。
【0066】
例えば、最内周の経路R1bを走行する場合は、下辺の経路R1b-4を走行し、旋回RDS6して、往復走行経路R1aの1本目の走行ラインR1a-1に移る。その旋回RDS6は、ほぼ直角に旋回するのでその旋回径は比較的大きく、緩やかな制御でよい。
【0067】
あるいは、真ん中の経路R2bを経路とした場合は、下辺の経路R2b-4を走行し、旋回RDS7して、往復走行経路R1aの1本目の走行ラインR1a-1に移る。その旋回RDS7も、ほぼ直角に旋回するのでその旋回径は比較的大きく、緩やかな制御でよい。
【0068】
次に、以上の4つのケースのいずれの場合も、作業開始点Sへ侵入した後は、所定距離前進した後、逆に作業開始点Sまで自動操舵しながら後進して一時停止する。その際ブザーを鳴らすことも可能である。これによって残耕なく作業が可能となる。一時停止したトラクタ1に対しては遠隔操作装置100で往復走行経路R1aにおける作業走行を開始させる。
【0069】
さらに変形例として、作業開始点Sまで後進した後さらに圃場50の畔51の手前1mまで後進し、そこで逆に前進してラインに合わせて作業開始点Sで一時停止する。これによって、前進しながら作業開始点Sへ入るので侵入角度が安定し、作業開始の際の直進性が高まる。
【0070】
さらには、上述のようにして作業開始点Sへ到達した後、一時停止することなく、そのまま本来の作業走行を開始することも望ましい。一時停止する場合は、さらにリモコン操作などして開始させなくてはならない手間が掛ってしまい、効率が悪いからである。
【0071】
次に、上述した作業開始点Sまでの枕地自動走行を開始する際の条件について説明する。
【0072】
1.上記枕地領域50bにおける3つの走行経路R1b、R2a、R2bの内、最外周経路のR2a以外の最も内側の経路R1bを選ぶ場合はその経路R1bから1m以内にトラクタ1が位置している場合のみ、自動走行を許可する。
【0073】
距離が遠い場合は想定外の事故が起こる可能性があり、また経路に乗せる制御仕様も簡単になるからである。1mは設計事項であり設定変更が可能である。
【0074】
また、真ん中のR2bを経路として選ぶ場合も、トラクタ1が経路R2bから1m以内に位置していることが必要ある。
【0075】
2.最も内側の経路R1bと真ん中の経路R2bが経路として適切な場合、現在のトラクタ1の位置(自己位置)から近い経路が自動で選択される。例えばそれら2本の経路がどちらも1m以内にある場合はより近いほうの経路が自動選択されて、経路に乗せられる。あるいは、別のやりかたとしては最も内側の経路R1bを常に選択することも可能である。
【0076】
3.作業開始点Sまでの自動走行を開始する際のトラクタ1の方位状態は、その近くの畔51の線に対して平行もしくは所定角度以内であることも条件である。安全性の確保のためである。
【0077】
4.作業開始点Sまでの自動走行を開始する際のトラクタ1の位置が圃場50を領域逸脱していないことは勿論、その位置から3m前進した場合に圃場逸脱しないことが条件である。すなわち、作業車両の位置を測位する測位装置30を利用して、制御部40は、圃場の領域の情報および作業車両の作業幅の情報を有しており、作業車両が現在の位置から所定距離前進すると仮定した場合、測位装置30が測位した作業車両の位置を利用して、作業車両の一部が圃場の領域から逸脱するかどうか判断し、逸脱しない場合に限り、往復走行経路における作業開始点Sまで、走行車体を自動で移動させる。
【0078】
5.作業開始点Sが現在のトラクタ1の位置に近い場合、例えば出入り口52に近いところに作業開始点Sがある場合は、自動走行は禁止する。手動で移動する方が無駄がないので、自動走行は禁止する。
【0079】
トラクタ1の車速については、制御部40は、作業開始点Sまでの枕地領域での車速と、作業時での車速は、走行負荷が異なるので、別々に設定可能である。枕地領域での車速の方を早くすることで時間短縮が図られる。
【0080】
作業時において、往復走行経路と、枕地領域走行の車速は別々に設定可能とする。そのようにすることで、往復走行経路から枕地領域走行にトラクタ1が入ったときにタブレットで変速操作をする必要がなくなる。
【0081】
また、作業時において、往復走行経路と、枕地領域走行における、旋回時の前輪駆動設定と、オートブレーキ設定を、別々に設定可能とする。そのようにすることで、枕地領域走行にトラクタ1が入ったときにタブレットで一々変更操作をする必要がなくなる。また、変更をし忘れた結果、整地性が悪くなり、あるいは領域逸脱などの危険も回避できる。
【0082】
また往復走行経路において、一本飛ばしで作業する場合、隣接耕の切り返し工程と、その他の工程とで前輪駆動設定と、ブレーキ設定を別々に行う。切り返し工程は、ブレーキ強、フルターン入りとし、その他の工程はブレーキ無し、オート4WDをデフォルトとする。これによって、一々タブレットで変更する必要がなくなる。また、領域逸脱の危険性も回避できる。
【0083】
上記作業開始点Sまで枕地自動走行をさせる際のそのスタート位置まで、出入り口52からトラクタ1を手動で移動させる場合、最も内側の経路R1bまたは真ん中の経路R2bの経路の1m以内に移動させるだけでよい。すなわち、それら経路上に手動でトラクタ1を厳密に乗せる必要はない。
【0084】
なお、その際、その1mの範囲をディスプレイに表示し、実際に手動でその範囲内にトラクタ1を移動したとき、それを示すランプを緑色に点灯するなどすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、円滑に自動運転走行経路の作業開始点まで確実に移動できる作業車両を提供できるため、トラクタに有用である。
【符号の説明】
【0086】
1 トラクタ
2 走行車体
3 車体フレーム
4、5 車輪
7 操縦部
8 操縦席
30 測位装置
40 制御部
40c 記録部
50 圃場
50a 主要範囲領域(往復走行領域)
50b 枕地領域
50c 一時停止位置
51 畔
52 出入口
53 作業者
100 遠隔操作装置
R1a 往復走行経路
R1b、R2a、R2b 枕地走行経路