(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】エンジン装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/04 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
F02D41/04
(21)【出願番号】P 2020151095
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 洋充
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正朝
(72)【発明者】
【氏名】井戸側 正直
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】城戸 栄一郎
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-094878(JP,A)
【文献】特開2010-242689(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098661(WO,A1)
【文献】特開2010-196659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁とを有するエンジンと、
前記エンジンを制御する制御装置と、
を備える車載用のエンジン装置であって、
前記制御装置は、
燃料カットからの復帰時には、燃料カット中にクランクシャフトが所定回転角回転する毎にカウントアップするクランク回転カウンタと冷却水温度とエンジン負荷とに基づいて直噴継続回数を設定し、前記直噴継続回数に亘って継続して筒内噴射が行なわれるように前記エンジンを制御する
復帰時制御を実行し、
前記復帰時制御の実行中に再度の燃料カットが実行されたときには、前記再度の燃料カットからの復帰時には、前回の燃料カットの復帰時に設定された前記直噴継続回数から前記復帰時制御中に筒内噴射が行なわれた回数を減じた残余回数と前記再度の燃料カット中にカウントアップする前記クランク回転カウンタと冷却水温度とエンジン負荷とに基づいて設定される直噴継続回数とのうち大きい方を新たな直噴継続回数として用いて前記復帰時制御を実行する、
ことを特徴とするエンジン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン装置に関し、詳しくは、ポート噴射弁と筒内噴射弁とを有する車載用のエンジン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエンジン装置としては、燃料カット復帰時のトルク段差を低減することのできるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、燃料カット中に行なわれるEGRバルブの強制開閉によるEGRシステムの故障診断を行なう。そして、故障診断から燃料カット復帰までの経過期間が短いときには、経過期間が長いときに比して、燃料カット復帰時の点火時期の遅角制御の開始時点の点火時期を進角側として、遅角制御の開始直前の点火時期に対する遅角制御の開始時点の点火時期の遅角量を小さくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的にエンジン装置では、燃料カットの継続時間が長くなると、筒内に流れる空気によって吸気バルブや筒内が冷却されると共に吸気バルブや筒内の壁面に付着している燃料も乾燥する。このため、燃料カットからの復帰後の爆発燃焼が不安定になりやすく、場合によってはエンストが生じてしまう。
【0005】
本発明のエンジン装置は、燃料カットからの復帰後の燃焼をより安定なものとすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジン装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のエンジン装置は、
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁とを有するエンジンと、
前記エンジンを制御する制御装置と、
を備える車載用のエンジン装置であって、
前記制御装置は、燃料カットからの復帰時には、燃料カット中にクランクシャフトが所定回転角回転する毎にカウントアップするクランク回転カウンタと冷却水温度とエンジン負荷とに基づいて直噴継続回数を設定し、前記直噴継続回数に亘って継続して筒内噴射が行なわれるように前記エンジンを制御する、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明のエンジン装置では、燃料カットからの復帰時には、燃料カット中にクランクシャフトが所定回転角回転する毎にカウントアップするクランク回転カウンタと冷却水温度とエンジン負荷とに基づいて直噴継続回数を設定する。そして、設定した直噴継続回数に亘って継続して筒内噴射が行なわれるようにエンジンを制御する。長時間の燃料カットからの復帰において、筒内噴射を選択することは、ポート噴射に比べて以下の点で有利であるため、これを選択している。第1に、筒内の温度は、燃料カット中も気筒周囲を流れる冷却水から熱を受けるため、吸気バルブに比べ温度が高い。よってポート噴射に比べ、少ない燃料量で燃焼が可能となる。第2に、筒内噴射は、ポート噴射に比して、高燃圧により燃料噴射するため燃料をより微粒化できる。微粒化により揮発性が上がるため、ポート噴射に比べ、少ない燃料で燃焼が可能である。設定された直噴継続回数分の燃焼により、吸気バルブの温度が上がれば、その後は意図的に直噴のみを選択する利点が無くなるため、他の効率的な噴射形態が採れるモードに移行する。これらの結果、燃料カットからの復帰後のエンジンの燃焼をより安定なものとすることができる。
【0009】
所定回転角は、基本的には何度でもよいが、燃焼毎の角度や燃焼の整数倍の角度、あるいはサイクル毎の角度が好ましい。例えば、4サイクル4気筒エンジンの場合には180度や360度、720度などが好適であり、4サイクル6気筒エンジンの場合には120度や240度、360度、720度などが好適であり、4サイクル8気筒エンジンの場合には90度や180度、360度、720度などが好適である。これは、バルブや筒内から奪われる熱量が、燃料カット中に経験した空気の通過回数に比例するためである。ある気筒における燃料カット中の吸気の回数は、クランク角積算値と完全に比例しているため、燃料カット時間ではなく、燃料カット中の所定回転角(積算)を用いる。直噴継続回数は、燃料カットによって冷却された吸気バルブの温度が筒内噴射による爆発燃焼を重ねることにより熱授受の平衡状態に至るまでに必要と考えられる筒内噴射の回数を想定している。燃料カット中に筒内に流される空気量が多いほど吸気バルブが冷却されるため、直噴継続回数が大きくなる。燃料カット中に筒内に流される空気量は燃料カット中にクランクシャフトが所定回転角回転する毎にカウントアップするクランク回転カウンタの値として反映することができるから、直噴継続回数はクランク回転カウンタの積算値が大きいほど大きくなるように設定することができる。エンジンの冷却水温度が低い時は、エンジン始動に近くまだエンジンが温まっていないため、吸気バルブの温度はより低くなっている。燃料カット期間の冷却に加えて、この温まっていない分、吸気バルブの温度が低く、熱授受の平衡状態に至るまでに燃焼回数を要するから、直噴継続回数は冷却水温度が低いほど大きくなるように設定することができる。また、燃料カットからの復帰時のエンジン負荷が大きいほど燃焼エネルギが大きく、吸気バルブ温度は上がりやすい。したがって、直噴継続回数はエンジン負荷が大きいほど小さくなるように設定することができる。したがって、直噴継続回数は、クランク回転カウンタの積算値が大きいほど大きくなるように、冷却水温度が低いほど大きくなるように、エンジン負荷が大きいほど小さくなるように設定するのが好ましい。
【0010】
こうした本発明のエンジン装置において、前記制御装置は、第1の燃料カットからの復帰時に前記直噴継続回数として設定された第1継続回数に亘る筒内噴射が行なわれている最中に第2の燃料カットを実施した際の前記第2の燃料カットからの復帰時には、前記第1継続回数から前記第1の燃料カットの復帰から前記第2の燃料カットの開始までの筒内噴射の実行回数を減じた残余回数と前記第2の燃料カットからの復帰時に前記直噴継続回数として設定される第2継続回数とのうち大きい方を前記直噴継続回数として設定するものとしてもよい。こうすれば、第2の燃料カットからの復帰時の直噴継続回数をより適正に設定することができ、第2の燃料カットからの復帰後の燃焼をより安定なものとすることができる。
【0011】
本発明のエンジン装置において、前記制御装置は、燃料カットからの復帰時に前記直噴継続回数に基づく筒内噴射を完了する前に前記エンジンの間欠停止を行なったときには、前記エンジンの間欠停止からの復帰時に、前記直噴継続回数から燃料カット復帰後から前記エンジンの間欠停止までに実行した筒内噴射の回数を減じた残余回数に補正係数を乗じて得られる補正回数に亘って継続して筒内噴射が行なわれるように前記エンジンを制御するものとしてもよい。燃料カット復帰後からエンジンの間欠停止までに実行した筒内噴射の回数を乗算で目減りさせる演算を行なってもよい。間欠停止後の始動では、直噴の継続回数が通常の燃料カット復帰に比べて多い回数とすればよい。このため、補正係数は、値1より若干大きい値を用いることができる。このようにエンジンの間欠停止からの復帰時に、補正係数を用いて得られる補正回数に亘って継続して筒内噴射が行なわれるようにエンジンを制御することにより、エンジンの間欠停止からの復帰後におけるエンジンの燃焼をより安定なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例としてのエンジン装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】エンジン22や燃料供給装置60の構成の概略を示す構成図である。
【
図3】エンジンECU24により実行される燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御の一例を示すフローチャートである。
【
図4】燃料カットからの復帰後の燃料噴射を実行している最中に再度の燃料カットもエンジン22も間欠停止も行なわれないときの燃料カット、FC経過クランクカウンタCfc等の状態の一例を示すタイミングチャートである。
【
図5】燃料カットからの復帰後の燃料噴射を実行している最中に再度の燃料カットが実行され、再度の燃料カットから復帰したときの燃料カット、FC経過クランクカウンタCfc等の状態の一例を示すタイミングチャートである。
【
図6】変形例の燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御の一例を示すフローチャートである。
【
図7】燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中にアクセルペダル83の踏み込み量が変化することによって体積効率KLが大きく変化したときの燃料カット、FC経過クランクカウンタCfc等の状態の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例としてのエンジン装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、
図2は、エンジン22や燃料供給装置60の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、
図1に示すように、エンジン22と、燃料供給装置60と、プラネタリギヤ30と、モータMG1,MG2と、インバータ41,42と、バッテリ50と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを備える。エンジン装置としては、エンジン22とエンジンECU24と燃料供給装置60とが含まれる。
【0015】
エンジン22は、ガソリンや軽油などの燃料を用いて動力を出力する内燃機関として構成されている。
図2に示すように、エンジン22は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁125と、筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁126とを有する。エンジン22は、ポート噴射弁125と筒内噴射弁126とを有することにより、ポート噴射モードと筒内噴射モードのいずれかで運転が可能となっている。ポート噴射モードでは、エアクリーナ122によって清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入すると共にポート噴射弁125から燃料を噴射して空気と燃料とを混合する。そして、この混合気を吸気バルブ128を介して燃焼室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギによって押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。筒内噴射モードでは、ポート噴射モードと同様に空気を燃焼室に吸入し、吸気行程の途中あるいは圧縮行程に至ってから筒内噴射弁126から燃料を噴射し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させてクランクシャフト26の回転運動を得る。これらの噴射モードは、エンジン22の運転状態に基づいて切り替えられる。燃焼室からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化触媒(三元触媒)を有する浄化装置134を介して外気に排出される。
【0016】
図2に示すように、燃料供給装置60は、エンジン22のポート噴射弁125および筒内噴射弁126に燃料を供給する装置として構成されている。燃料供給装置60は、燃料タンク61と、燃料タンク61の燃料をポート噴射弁125が接続された低圧側流路(第1流路)63に供給するフィードポンプ(第1ポンプ)62と、低圧側流路63に設けられた逆止弁64と、低圧側流路63における逆止弁64よりもポート噴射弁125側の燃料を加圧して筒内噴射弁126が接続された高圧側流路(第2流路)66に供給する高圧燃料ポンプ(第2ポンプ)65とを備える。
【0017】
フィードポンプ62および逆止弁64は、燃料タンク61内に配置されている。フィードポンプ62は、バッテリ50からの電力の供給を受けて作動する電動ポンプとして構成されている。逆止弁64は、低圧側流路63におけるフィードポンプ62側の燃圧(燃料の圧力)がポート噴射弁125側の燃圧よりも高いときには開弁し、フィードポンプ62側の圧力がポート噴射弁125側の燃圧以下のときには閉弁する。
【0018】
高圧燃料ポンプ65は、エンジン22からの動力(カムシャフトの回転)によって駆動されて低圧側流路63内の燃料を加圧するポンプである。高圧燃料ポンプ65は、その吸入口に接続されて燃料を加圧する際に開閉する電磁バルブ65aと、その吐出口に接続されて燃料の逆流を防止すると共に高圧側流路66内の燃圧を保持するチェックバルブ65bとを有する。この高圧燃料ポンプ65は、エンジン22の運転中に電磁バルブ65aが開弁されると、フィードポンプ62からの燃料を吸入し、電磁バルブ65aが閉弁されたときに、エンジン22からの動力によって作動する図示しないプランジャによって圧縮した燃料をチェックバルブ65bを介して高圧側流路66に断続的に送り込むことにより、高圧側流路66に供給する燃料を加圧する。なお、高圧燃料ポンプ65の駆動時には、低圧側流路63内の燃圧や高圧側流路66内の燃圧がエンジン22の回転(カムシャフトの回転)に応じて脈動する。
【0019】
エンジン22および燃料供給装置60は、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24によって運転制御されている。エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。
【0020】
エンジンECU24には、エンジン22を運転制御したり燃料供給装置60を制御したりするのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24に入力される信号としては、例えば、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションθcrや、エンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温Twを挙げることができる。また、吸気バルブ128を開閉するインテークカムシャフトや排気バルブを開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジションθcaも挙げることができる。さらに、スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットル開度THや、吸気管に取り付けられたエアフローメータ148からの吸入空気量Qa、吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温Taも挙げることができる。加えて、排気管に取り付けられた空燃比センサ135aからの空燃比AFや、排気管に取り付けられた酸素センサ135bからの酸素信号O2も挙げることができる。また、燃料供給装置60のフィードポンプ62に取り付けられた回転数センサ62aからのフィードポンプ62の回転数Nfpや、低圧側流路63におけるポート噴射弁125付近に取り付けられた燃圧センサ68からのポート噴射弁125に供給する燃料の燃圧Pfp、高圧側流路66における筒内噴射弁126付近に取り付けられた燃圧センサ69からの筒内噴射弁126に供給する燃料の燃圧Pfdも挙げることができる。
【0021】
エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御したり燃料供給装置60を制御したりするための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。エンジンECU24から出力される信号としては、例えば、ポート噴射弁125への駆動信号や筒内噴射弁126への駆動信号、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号を挙げることができる。また、フィードポンプ62への駆動制御信号、高圧燃料ポンプ65の電磁バルブ65aへの駆動制御信号も挙げることができる。
【0022】
エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのクランク角θcrに基づいてエンジン22の回転数Neを演算している。また、エンジンECU24は、エアフローメータ148からの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいて体積効率(エンジン22の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の比)KLを演算している。
【0023】
図1に示すように、プラネタリギヤ30は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されている。プラネタリギヤ30のサンギヤには、モータMG1の回転子が接続されている。プラネタリギヤ30のリングギヤには、駆動輪39a,39bにデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動軸36が接続されている。プラネタリギヤ30のキャリヤには、ダンパ28を介してエンジン22のクランクシャフト26が接続されている。
【0024】
モータMG1は、例えば同期発電電動機として構成されており、上述したように、回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されている。モータMG2は、例えば同期発電電動機として構成されており、回転子が駆動軸36に接続されている。インバータ41,42は、モータMG1,MG2と接続されると共に電力ライン54を介してバッテリ50と接続されている。モータMG1,MG2は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40によって、インバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0025】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号、例えば、モータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2、モータMG2の温度を検出する温度センサからのモータMG2の温度tm2などが入力ポートを介して入力されている。モータECU40からは、インバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。モータECU40は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を演算している。
【0026】
バッテリ50は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、電力ライン54を介してインバータ41,42と接続されている。このバッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52によって管理されている。
【0027】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。バッテリECU52に入力される信号としては、例えば、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの電池電圧Vbやバッテリ50の出力端子に取り付けられた電流センサ51bからの電池電流Ib、バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tbを挙げることができる。バッテリECU52は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。バッテリECU52は、電流センサ51bからの電池電流Ibの積算値に基づいて蓄電割合SOCを演算している。蓄電割合SOCは、バッテリ50の全容量に対するバッテリ50から放電可能な電力の容量の割合である。
【0028】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。HVECU70に入力される信号としては、例えば、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPを挙げることができる。また、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ88からの車速V、外気温センサ89からの外気温度Toutも挙げることができる。HVECU70は、上述したように、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と通信ポートを介して接続されている。
【0029】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36の要求駆動力を設定し、要求駆動力に見合う要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1,MG2とを運転制御する。エンジン22とモータMG1,MG2との運転モードとしては、以下の(1)~(3)のモードがある。
(1)トルク変換運転モード:要求動力に対応する動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共に、エンジン22から出力される動力の全てが、プラネタリギヤ30とモータMG1,MG2とによってトルク変換されて、要求動力が駆動軸36に出力されるようにモータMG1,MG2を駆動制御するモード
(2)充放電運転モード:要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共に、エンジン22から出力される動力の全てまたは一部が、バッテリ50の充放電を伴ってプラネタリギヤ30とモータMG1,MG2とによってトルク変換されて、要求動力が駆動軸36に出力されるようにモータMG1,MG2を駆動制御するモード
(3)モータ運転モード:エンジン22の運転を停止して、要求動力が駆動軸36に出力されるようにモータMG2を駆動制御するモード
【0030】
また、実施例のハイブリッド自動車20では、エンジンECU24は、エンジン22を運転する際には、吸入空気量制御や燃料噴射制御,燃料供給装置60のフィードポンプ62や高圧燃料ポンプ65の制御を行なう。
【0031】
吸入空気量制御では、最初に、エンジン22の目標トルクTe*に基づいて目標空気量Qa*を設定する。続いて、吸入空気量Qaが目標空気量Qa*となるように目標スロットル開度TH*を設定する。そして、スロットル開度THが目標スロットル開度TH*となるようにスロットルモータ136を制御する。
【0032】
燃料噴射制御では、最初に、エンジン22の回転数Neおよび体積効率KLに基づいてポート噴射モード、筒内噴射モードから実行用噴射モードを設定する。続いて、目標空気量Qa*と実行用噴射モードとに基づいて空燃比AFが目標空燃比AF*(例えば理論空燃比)となるようにポート噴射弁125または筒内噴射弁126の目標噴射量Qfp*,Qfd*を設定する。そして、目標噴射量Qfp*,Qfd*と燃圧Pfp,Pfdとに基づいてポート噴射弁125または筒内噴射弁126の目標噴射時間τfp*,τfd*を設定する。こうして目標噴射時間τfp*,τpd*を設定すると、目標噴射時間τfp*,τfd*の燃料噴射が筒内噴射弁126またはポート噴射弁125から行なわれるように筒内噴射弁126またはポート噴射弁125を制御する。
【0033】
フィードポンプ62の制御では、最初に、ポート噴射弁125に供給する燃料の目標燃圧Pfp*と、ポート噴射弁125または筒内噴射弁126の目標噴射量Qfp*,Qfd*とに基づいてフィードポンプ62の目標吐出量Qpp*を設定する。ここで、目標燃圧Pfp*は、実施例では、エンジン22の運転開始時に比較的高い所定燃圧Pfp1を設定し、所定時間T1が経過すると、所定燃圧Pfp1よりも低い所定燃圧Pfp2に切り替えるものとした。所定燃圧Pfp1としては、例えば、500kPa~550kPa程度が用いられ、所定燃圧Pfp2としては、例えば、380kPa~420kPa程度が用いられる。所定時間T1としては、例えば、5秒~7秒程度が用いられる。また、目標吐出量Qpp*は、実施例では、目標燃圧Pfp*が高いほど多くなるように設定するものとした。こうして目標吐出量Qpp*を設定すると、フィードポンプ62からの吐出量(燃料量)が目標吐出量Qpp*となるようにフィードポンプ62を制御する。
【0034】
高圧燃料ポンプ65の制御では、最初に、筒内噴射弁126に供給する燃料の目標燃圧Pfd*に基づいて高圧燃料ポンプ65の目標吐出量Qpd*を設定する。ここで、目標燃圧Pfd*としては、例えば、数MPa~十数MPa程度が用いられる。目標吐出量Qpd*は、実施例では、目標燃圧Pfd*が高いほど多くなり、且つ、目標噴射量Qfd*が多いほど多くなるように設定するものとした。こうして目標吐出量Qpd*を設定すると、高圧燃料ポンプ65からの吐出量(燃料量)が目標吐出量Qpd*となるように高圧燃料ポンプ65の電磁バルブ65aを制御する。
【0035】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御について説明する。
図3は、実施例のエンジンECU24により実行される燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御の一例を示すフローチャートである。この処理は燃料カットからの復帰時に実行される。
【0036】
燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御が実行されると、エンジンECU24は、まず、FC経過クランクカウンタCfcやエンジン22の冷却水の温度Tw、体積効率KLなどのデータを入力する(ステップS100)。FC経過クランクカウンタCfcは、実施例では、燃料カットの開始から燃料カットの復帰までの間でクランクシャフト26が所定回転角だけ回転する毎にカウントアップするカウンタであり、この燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を終了するときに値0にリセットされる。所定回転角としては、基本的には何度でもよいが、燃焼毎の角度や燃焼の整数倍の角度、あるいはサイクル毎の角度が好ましい。例えば、4サイクル4気筒エンジンの場合には180度や360度、720度などが好適であり、4サイクル6気筒エンジンの場合には120度や240度、360度、720度などが好適であり、4サイクル8気筒エンジンの場合には90度や180度、360度、720度などが好適である。これは、バルブや筒内から奪われる熱量が、燃料カット中に経験した空気の通過回数に比例するためである。ある気筒における燃料カット中の吸気の回数は、クランク角積算値と完全に比例しているため、燃料カット時間ではなく、燃料カット中の所定回転角(積算)を用いる。以下、実施例では、エンジン22を4サイクル4気筒エンジンとし、FC計画ランクカウンタCfcの値を燃料噴射していれば燃焼の回数となるように所定回転角として180度を用いるものとする。エンジン22の冷却水の温度Twは温度センサ142から検出されるものを入力した。また、体積効率KLは、エンジンECU24によりエアフローメータ148からの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいて演算されたものを入力するものとした、なお、体積効率KLは、エンジン22の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の比であるから、エンジン22の負荷と同意となる。
【0037】
続いて、入力したFC経過クランクカウンタCfcやエンジン22の冷却水の温度Tw、体積効率KLに基づいて仮直噴継続回数Ntmpを設定し(ステップS110)、仮直噴継続回数Ntmpと残余回数Ndとのうち大きい方を直噴継続回数Nfcとして設定する(ステップS120)。直噴継続回数Nfcは、燃料カットからの復帰後に筒内噴射モードで燃料噴射する回数であり、残余回数Ndが初期値の値0のときには仮直噴継続回数Ntmpが設定される。このため、直噴継続回数Nfcは、FC経過クランクカウンタCfcやエンジン22の冷却水の温度Tw、体積効率KLに基づいて設定されることになる。ステップS110では、実施例では、FC経過クランクカウンタCfcとエンジン22の冷却水の温度Twと体積効率KLと直噴継続回数Nfcとの関係を予め実験などにより決定して直噴継続回数設定用マップとして記憶しておき、FC経過クランクカウンタCfcとエンジン22の冷却水の温度Twと体積効率KLとが与えられるとマップから対応する直噴継続回数Nfcを導出し、これを仮直噴継続回数Ntmpとして設定した。残余回数Ndについては後述する。
【0038】
続いて実行用噴射モードに筒内噴射モードを設定し(ステップS130)、復帰後噴射回数Nのカウントアップを開始する(ステップS140)。復帰後噴射回数Nは、燃料カットから復帰してからの燃料噴射回数であり、初期値の値0から燃料噴射が行なわれる毎にカウントアップされる。
【0039】
次に、燃料カットが行なわれているか否かを判定する(ステップS150)。即ち、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中に再度の燃料カットが行なわれたか否かを判定するのである。本制御を実行している最中に再度の燃料カットは行なわれない場合を考える。この場合、ステップS150では燃料カットは行なわれていないと判定され、次の処理としてエンジン22が間欠停止しているか否かの判定が行なわれる(ステップS160)。エンジン22が間欠停止していない場合を考える。この場合、ステップS210の復帰後噴射回数Nは直噴継続回数Nfc以上であるか否かの判定が行なわれる。復帰後噴射回数Nは直噴継続回数Nfc未満であると判定したときには、ステップS150の燃料カットが行なわれているか否かの判定に戻る。いま、本制御を実行している最中に再度の燃料カットもエンジン22の間欠停止も行なわれない場合を考えているから、ステップS150~S210の処理は、復帰後噴射回数Nが直噴継続回数Nfcに至るまで待つ処理となる。即ち、燃料カットから復帰したときには復帰後噴射回数Nが直噴継続回数Nfcに至るまで筒内噴射モードにより継続して筒内噴射によってエンジン22が制御されるのである。なお、このときの燃料噴射量は、燃料カットからの復帰後の燃料噴射であるから、燃料カットの継続時間Tcutと燃料カットからの復帰後の経過時間Taftに基づく増量補正が計算され、筒内噴射弁126の目標噴射量Qfd*が増量補正される。
【0040】
ステップS210で復帰後噴射回数Nが直噴継続回数Nfcに至ったと判定したときには、実行用噴射モードをエンジン22の運転状態などに基づいてポート噴射モードか筒内噴射モードかを設定する通常設定とする(ステップS220)。そして、残余回数Ndを値0にリセットすると共に(ステップS230)、FC経過クランクカウンタCfcと復帰後噴射回数Nとを初期値の値0にリセットして(ステップS250)、本制御を終了する。このように、燃料カットからの復帰後に燃料噴射回数(復帰後噴射回数N)が直噴継続回数Nfcに至るまで筒内噴射を継続することにより、エンジン22の燃焼をより安定なものとすることができ、エンストが生じるのを抑制することができる。
【0041】
ステップS150で燃料カットが行なわれていると判定したときには、直噴継続回数Nfcから復帰後噴射回数Nを減じた値を残余回数Ndとして計算する(ステップS240)。そして、FC経過クランクカウンタCfcと復帰後噴射回数Nとを初期値の値0にリセットして(ステップS250)、本制御を終了する。この場合、燃料カットから復帰したときに本制御が実行され、ステップS120で仮直噴継続回数Ntmpと残余回数Ndとのうち大きい方が直噴継続回数Nfcとして設定される。いま、比較的長い時間に亘る燃料カットから復帰したことにより本制御を開始し、復帰から短時間で再度の燃料カットが行なわれ、再度の燃料カットが短時間で復帰する場合を考える。この場合、比較的長い時間に亘る燃料カットにより比較的大きな直噴継続回数Nfcが設定され、復帰から短時間で再度の燃料カットが行なわれたことにより比較的大きな直噴継続回数Nfcから小さな復帰後噴射回数Nを減じて比較的大きな値の残余回数Ndが計算される。一方、再度の燃料カットは短時間で復帰するから、FC経過クランクカウンタCfcは小さな値となり、ステップS110で設定される仮直噴継続回数Ntmpも小さな値となる。したがって、ステップS120では小さな値の仮直噴継続回数Ntmpと大きな値の残余回数Ndとが大きさ比較されるから、直噴継続回数Nfcには残余回数Ndが設定され、再度の燃料カットからの復帰時には残余回数Ndだけ燃料噴射されるまで筒内噴射モードが継続されることになる。即ち、比較的長い時間に亘る燃料カットからの復帰後の筒内噴射を継続する際の噴射回数の残余分である残余回数Ndを計算しておき、短時間の燃料カットからの復帰後に筒内噴射の継続を残余回数Ndだけ行なうのである。再度の燃料カットが比較的長く行なわれた場合には、比較的大きな仮直噴継続回数Ntmpが設定されるから、仮直噴継続回数Ntmpは、残余回数Ndより大きくなり、直噴継続回数Nfcとして設定される。これらのことから、残余回数Ndは、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中に再度の燃料カットが行なわれたときの再度の燃料カットからの復帰後の直噴継続回数Nfcを設定する際の下限ガードとして機能することが解る。
【0042】
ステップS160でエンジン22が間欠停止されていると判定したときには、直噴継続回数Nfcから復帰後噴射回数Nを減じた値を残余回数Ndとして計算する(ステップS170)。続いて、残余回数Ndに補正係数kfを乗じて直噴継続回数Nfcを計算し(ステップS180)、復帰度継続回数Nを値0にリセットすると共にリセットした復帰度継続回数Nのカウントを開始し(ステップS190)、エンジン22の間欠停止からの復帰を待つ(ステップS200)。エンジン22の間欠停止からの復帰後は、ステップS150~S210の復帰度継続回数Nが直噴継続回数Nfcに至るのを待つ処理を実行する。このとき、新たに設定された直噴継続回数Nfc(残余回数Ndに補正係数kfを乗じた分の回数)だけ筒内噴射が継続されることになる。燃料カットからの復帰後に筒内噴射し、燃焼させたことにより吸気バルブ126の温度は上昇するが、エンジンの間欠停止により吸気バルブ126の熱が逃げていくため、N回の筒内噴射による効果が目減りする。このため、エンジン22の間欠停止からの復帰後の直噴継続回数Nfcを若干残余回数Ndより大きくする必要がある。このため、実施例では、補正係数kfとして値1より若干大きな値(例えば、1.1や1.2など)を用いている。
【0043】
図4は、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中に再度の燃料カットもエンジン22の間欠停止も行なわれないときの燃料カット、FC経過クランクカウンタCfc、復帰後噴射回数N、筒内噴射の継続の状態の一例を示すタイミングチャートである。燃料カット中(ON)では、FC経過クランクカウンタCfcはクランクシャフト26の回転数積算に応じて大きくなる。燃料カットから復帰(OFF)した時間T11では、筒内噴射モードが実行用噴射モードに設定(ON)されると共に直噴継続回数Nfcが設定される。そして、燃料が筒内噴射される毎に復帰度噴射回数Nがカウントアップされる。復帰度噴射回数Nが直噴継続回数Nfcに至った時間T12では、復帰度噴射回数NやFC経過クランクカウンタCfcはリセットされ、筒内噴射モードが解除(OFF)され、実行用噴射モードはエンジン22の運転状態などに応じて筒内噴射モードかポート噴射モードが設定される通常設定とされる。このように、燃料カットからの復帰後に燃料噴射回数(復帰後噴射回数N)が直噴継続回数Nfcに至るまで筒内噴射を継続することにより、エンジン22の燃焼をより安定なものとすることができ、エンストが生じるのを抑制することができる。
【0044】
図5は、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中に再度の燃料カットが実行され、再度の燃料カットから復帰する場合の燃料カット、FC経過クランクカウンタCfc、復帰後噴射回数N、筒内噴射の継続の状態の一例を示すタイミングチャートである。燃料カットから復帰した時間T21では、筒内噴射モードが実行用噴射モードに設定(ON)されると共に直噴継続回数Nfcが設定される。そして、燃料が筒内噴射される毎に復帰度噴射回数Nがカウントアップされる。復帰度噴射回数Nが直噴継続回数Nfcに至る前に再度の燃料カットが開始された時間T22では、直噴継続回数Nfcから復帰度噴射回数Nを減じて残余回数Ndが計算される。また、復帰度噴射回数NやFC経過クランクカウンタCfcはリセットされ、筒内噴射モードが解除(OFF)される。その後、燃料カット中はFC経過クランクカウンタCfcがクランクシャフト26の回転に応じて大きくなる。再度の燃料カットから復帰した時間T32では、筒内噴射モードが実行用噴射モードに設定(ON)されると共に直噴継続回数Nfcが設定される。このとき、残余回数Ndが下限ガードとして機能するから、短時間の燃料カットの場合には残余回数Ndが直噴継続回数Nfcに設定される。そして、燃料が筒内噴射される毎に復帰度噴射回数Nがカウントアップされる。復帰度噴射回数Nが直噴継続回数Nfcに至った時間T24では、筒内噴射モードが解除(OFF)される。
【0045】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20が搭載するエンジン装置では、燃料カットからの復帰時には、燃料カット中にクランクシャフト26が所定回転角回転する毎にカウントアップするFC経過クランクカウンタCfcとエンジン22の冷却水の温度Twとエンジン22の負荷(体積効率KL)とに基づいて直噴継続回数Nfcを設定し、復帰後噴射回数Nが直噴継続回数Nfcに至るまで継続して筒内噴射モードにより筒内噴射が行なわれるようにエンジン22を制御する。これにより、燃料カットからの復帰後の燃焼をより安定なものとすることができ、エンストが生じるのを抑制することができる。
【0046】
実施例のハイブリッド自動車20が搭載するエンジン装置では、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中に再度の燃料カットが行なわれたときには、直噴継続回数Nfcから復帰後噴射回数Nを減じて残余回数Ndを計算し、残余回数Ndを再度の燃料カットからの復帰後の直噴継続回数Nfcを設定する際の下限ガードとして機能させる。これにより、再度の燃料カットからの復帰後の筒内噴射を継続する回数をより適正なものとすることができ、再度の燃料カットからの復帰後の燃焼をより安定なものとすることができる。
【0047】
実施例のハイブリッド自動車20が搭載するエンジン装置では、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中にエンジン22を間欠停止したときには、直噴継続回数Nfcから復帰後噴射回数Nを減じた値を残余回数Ndとして計算し、残余回数Ndに補正係数kfを乗じて直噴継続回数Nfcを計算する。そして、復帰度継続回数Nを値0にリセットすると共にリセットした復帰度継続回数Nのカウントを開始し、エンジン22の間欠停止からの復帰後にリセットされた復帰度継続回数Nが新たに設定された直噴継続回数Nfcだけ筒内噴射モードで筒内噴射を継続する。これにより、燃料カットからの復帰後の筒内噴射を継続している最中にエンジン22を間欠停止した際により適正に対処することができる。
【0048】
実施例のハイブリッド自動車20が搭載するエンジン装置では、燃料カットからの復帰時の体積効率KLに基づいて直噴継続回数Nfcを設定した。しかし、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中にアクセルペダル83の踏み込み量が変化することによって体積効率KLが大きく変化したときには、変化後の体積効率に基づいて直噴継続回数Nfcを再設定するものとしてもよい。この場合、
図3の燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御に代えて
図6の燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行すればよい。
図6の燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御は、
図3の燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御においてステップS140とS150の処理の間にS142~S148の
処理を追加したものであるため、ステップS100~S130までの処理、ステップS160~S200までの処理については、その図示を省略した。
【0049】
図6の燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御では、復帰後噴射回数Nが直噴継続回数Nfcに至るのを待っている最中には、体積効率KLを入力して燃料カットからの復帰時からの変化量ΔKLを計算し(ステップS142)、変化量ΔKLの絶対値が閾値KLref以上であるか否かを判定する(ステップS144)。ここで、閾値KLrefは、燃料カットからの復帰時からの変化量ΔKLが無視できないほど大きいときを判定するための閾値であり、体積効率KLの最大値に対する30%や40%などの値を用いることができる。変化量ΔKLの絶対値が閾値KLref未満であると判定したときには、ステップS150に進む。一方、変化量ΔKLの絶対値が閾値KLref以上であると判定したときには、FC経過クランクカウンタCfcやエンジン22の冷却水の温度Tw、体積効率KLに基づいて仮直噴継続回数Ntmpを再設定し(ステップS146)、仮直噴継続回数Ntmpと残余回数Ndとのうち大きい方を直噴継続回数Nfcとして再設定する(ステップS148)。
【0050】
図7は、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中にアクセルペダル83の踏み込み量が変化することによって体積効率KLが大きく変化したときの燃料カット、FC経過クランクカウンタCfc、復帰後噴射回数N、筒内噴射の継続の状態の一例を示すタイミングチャートである。図中、時間T33以降の破線は体積効率KLに大きな変化がなかったときの状態を示す。燃料カットから復帰した時間T31では、筒内噴射モードが実行用噴射モードに設定(ON)されると共に直噴継続回数Nfcが設定される。そして、燃料が筒内噴射される毎に復帰度噴射回数Nがカウントアップされる。時間T32にアクセルペダル83が踏み込まれて体積効率KLが大きく変化すると、直噴継続回数Nfcが再設定される。復帰度噴射回数Nが再設定された直噴継続回数Nfcに至った時間T33には、復帰度噴射回数NやFC経過クランクカウンタCfcがリセットされ、筒内噴射モードが解除(OFF)される。なお、体積効率KLに大きな変化がなかった場合は、燃料カットからの復帰時に設定された直噴継続回数Nfcに復帰度噴射回数Nが至った時間T34に、復帰度噴射回数NやFC経過クランクカウンタCfcがリセットされ、筒内噴射モードが解除(OFF)される。このように、燃料カットからの復帰後の燃料噴射制御を実行している最中にアクセルペダル83の踏み込み量が変化することによって体積効率KLが大きく変化したときときには、直噴継続回数Nfcを再設定することにより、体積効率KLが大きく変化したときに対処することができる。
【0051】
実施例のハイブリッド自動車20では、蓄電装置として、バッテリ50を用いるものとしたが、蓄電可能な装置であればよく、キャパシタなどを用いるものとしてもよい。
【0052】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジンECU24とモータECU40とバッテリECU52とHVECU70とを備えるものとしたが、これらのうちの少なくとも2つを単一の電子制御ユニットとして構成するものとしてもよい。
【0053】
実施例のハイブリッド自動車20では、駆動輪39a,39bに連結された駆動軸36にプラネタリギヤ30を介してエンジン22およびモータMG1を接続すると共に駆動軸36にモータMG2を接続し、モータMG1,MG2に電力ラインを介してバッテリ50を接続する構成とした。しかし、いわゆる1モータハイブリッド自動車の構成としてもよいし、いわゆるシリーズハイブリッド自動車の構成としてもよいし、いわゆる通常のガソリン自動車の構成としてもよい。
【0054】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、ポート噴射弁125が「ポート噴射弁」に相当し、筒内噴射弁126が「筒内噴射弁」に相当し、エンジン22が「エンジン」に相当し、エンジンECU24が「制御装置」に相当する。
【0055】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0056】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、エンジン装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジンECU、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータECU、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリECU、54 電力ライン、60 燃料供給装置、61 燃料タンク、62 フィードポンプ、62a 回転数センサ、63 低圧側流路、64 逆止弁、65 高圧燃料ポンプ、65a 電磁バルブ、65b チェックバルブ、66 高圧側流路、68 燃圧センサ、69 燃圧センサ、70 HVECU、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、89 外気温センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、125 ポート噴射弁、126 筒内噴射弁、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、135a 空燃比センサ、135b 酸素センサ、136 スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、MG1,MG2 モータ。