IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図1
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図2
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図3
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図4
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図5
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図6
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図7
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図8
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図9
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図10
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図11
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図12
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図13
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図14
  • 特許-磁性体検査装置および磁性体整磁装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】磁性体検査装置および磁性体整磁装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/82 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01N27/82
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020152284
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046312
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【弁理士】
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 悟史
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/220953(WO,A1)
【文献】特表2019-509624(JP,A)
【文献】特開平06-275425(JP,A)
【文献】特開2020-028185(JP,A)
【文献】国際公開第2020/095354(WO,A1)
【文献】特開2020-034509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺材からなる磁性体に対して前記磁性体の長手方向の位置を変化させながら磁界を印加し、前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部と、
前記磁界印加部により磁界が印加された前記磁性体の磁界の変化を検知する検知コイルと、を備え、
前記磁界印加部は、前記磁性体に対して前記磁性体の長手方向に直交する方向の両側にそれぞれ配置される第1磁石と第2磁石とを含み、
前記第1磁石と前記第2磁石とは、同極が前記磁性体側に配置されるとともに、前記磁性体の長手方向の一方側よりも他方側の方が前記第1磁石および前記第2磁石と前記磁性体との間の前記磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、前記磁性体を挟んでV字状に配置されている、磁性体検査装置。
【請求項2】
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体の位置の変化方向の上流側よりも下流側の方が前記第1磁石および前記第2磁石と前記磁性体との間の前記磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、前記磁性体を挟んでV字状に配置されている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項3】
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体の位置の変化方向の下流側において、前記磁性体に印加する磁界の向きが反転しない開き角度を有する、請求項2に記載の磁性体検査装置。
【請求項4】
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体に対して線対称に配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁性体検査装置。
【請求項5】
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記検知コイル側に向かって徐々に先細るV字状に配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁性体検査装置。
【請求項6】
前記磁性体の磁化の状態を励振するための励振コイルをさらに備え、
前記検知コイルは、前記励振コイルにより励振された前記磁性体の磁界の変化を検知するように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁性体検査装置。
【請求項7】
前記磁界印加部は、前記磁性体に対して前記磁性体の長手方向に沿って磁界を印加するように構成されており、
前記励振コイルは、前記磁性体の長手方向に沿って前記磁性体の磁化の状態を励振するように構成されている、請求項6に記載の磁性体検査装置。
【請求項8】
長尺材からなる磁性体に対して前記磁性体の長手方向の位置を変化させながら磁界を印加し、前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部を備え、
前記磁界印加部は、前記磁性体に対して前記磁性体の長手方向に直交する方向の両側にそれぞれ配置される第1磁石と第2磁石とを含み、
前記第1磁石と前記第2磁石とは、同極が前記磁性体側に配置されるとともに、前記磁性体の長手方向の一方側よりも他方側の方が前記第1磁石および前記第2磁石と前記磁性体との間の前記磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、前記磁性体を挟んでV字状に配置されている、磁性体整磁装置。
【請求項9】
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体の位置の変化方向の上流側よりも下流側の方が前記第1磁石および前記第2磁石と前記磁性体との間の前記磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、前記磁性体を挟んでV字状に配置されている、請求項8に記載の磁性体整磁装置。
【請求項10】
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体の位置の変化方向の下流側において、前記磁性体に印加する磁界の向きが反転しない開き角度を有している、請求項9に記載の磁性体整磁装置。
【請求項11】
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体に対して線対称に配置されている、請求項8~10のいずれか1項に記載の磁性体整磁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体検査装置および磁性体整磁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁界印加部を備える磁性体検査装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、磁性体としてのスチールワイヤロープを検査する磁性体検査装置が開示されている。この磁性体検査装置は、スチールワイヤロープに対して磁界を印加し、スチールワイヤロープの磁化の向きを整える磁界印加部と、磁界印加部により磁界が印加されたスチールワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルとを備えている。この磁界印加部は、スチールワイヤロープを挟んで異極(N極とS極と)が対向して配置される2つの磁石を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/138850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には記載されていないが、磁界印加部の2つの磁石は、磁性体を挟んで同極同士が対向して配置される場合がある。この場合、同極同士の間で互いに対向する方向に反発力が働くとともに、磁性体の長手方向において磁界印加部の一方側と他方側とに互いに反対方向に磁界が広がることにより、磁界の向きが互いに反対方向になる。このため、磁界印加部の磁石間を磁性体が通過する際に磁性体に印加される磁界が反転する。この場合、磁界の反転に起因して一方向に磁性体の磁化を整えることが困難である。したがって、磁石間を磁性体を通過する際に磁界が反転したとしても、一方向に磁性体の磁化を整えることが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、磁石間を磁性体を通過する際に磁界が反転したとしても、一方向に磁性体の磁化を整えることが可能な磁性体検査装置および磁性体整磁装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による磁性体検査装置は、長尺材からなる磁性体に対して磁性体の長手方向の位置を変化させながら磁界を印加し、磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部と、磁界印加部により磁界が印加された磁性体の磁界の変化を検知する検知コイルと、を備え、磁界印加部は、磁性体に対して磁性体の長手方向に直交する方向の両側にそれぞれ配置される第1磁石と第2磁石とを含み、第1磁石と第2磁石とは、同極が磁性体側に配置されるとともに、磁性体の長手方向の一方側よりも他方側の方が第1磁石および第2磁石と磁性体との間の磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、磁性体を挟んでV字状に配置されている。
【0008】
この発明の第2の局面による磁性体整磁装置は、長尺材からなる磁性体に対して磁性体の長手方向の位置を変化させながら磁界を印加し、磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部と、磁界印加部により磁界が印加された磁性体の磁界の変化を検知する検知コイルと、を備え、磁界印加部は、磁性体に対して磁性体の長手方向に直交する方向の両側にそれぞれ配置される第1磁石と第2磁石とを含み、第1磁石と第2磁石とは、同極が磁性体側に配置されるとともに、磁性体の長手方向の一方側よりも他方側の方が第1磁石および第2磁石と磁性体との間の磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、磁性体を挟んでV字状に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記のように、第1磁石と第2磁石とは、同極が磁性体側に配置されるとともに、磁性体の長手方向の一方側よりも他方側の方が第1磁石および第2磁石と磁性体との間の磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、磁性体を挟んでV字状に配置されている。これにより、第1磁石および第2磁石の磁性体の長手方向の一方側(開いた側)よりも、磁性体の長手方向の他方側(閉じた側)を磁性体の近くに配置することができる。その結果、第1磁石および第2磁石の開いた側の磁界の大きさよりも、閉じた側の磁界の大きさを大きくすることができる。これにより、第1磁石および第2磁石の開いた側の磁界の影響を大きく受けさせずに、閉じた側の磁界の影響を大きく受けさせた状態で、磁性体を磁化することができる。その結果、第1磁石および第2磁石の間を磁性体が通過する際に磁界が反転したとしても、一方向(第1磁石および第2磁石の閉じた側の磁界に対応する方向)に磁性体の磁化を整えることができる。また、本発明の磁性体検査装置においては、一方向に磁性体の磁化を整えることができるので、ランダムな磁性体の磁化に起因してノイズが検知コイルにより検知されることを抑制することができる。その結果、検知コイルを用いた磁性体の検査を精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態による磁性体検査装置を設けたエレベータの全体構成を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態による磁性体検査装置の全体構成を示したブロック図である。
図3】本発明の一実施形態による磁界印加部を説明するための図である。
図4】本発明の一実施形態による磁界印加部の詳細な構成を説明するための図である。
図5】本発明の一実施形態による磁界印加部の磁界を説明するためのグラフである。
図6】複数の開き角度の磁界印加部の磁界のシミュレーション結果を示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態による検知部を説明するための図である。
図8】本発明の一実施形態による励振コイルの磁化の励振を説明するための図である。
図9】スチールワイヤロープに傷等がある場合を示す図である。
図10】本発明の一実施形態による電子回路部を示したブロック図である。
図11】比較例によるスチールワイヤロープの磁化の方向を説明するための図である。
図12】本発明の一実施形態および比較例による磁性体の差動信号の計測波形である。
図13】本発明の一実施形態の第1変形例による磁界印加部を説明するための図である。
図14】本発明の一実施形態の第2変形例による磁界印加部を説明するための図である。
図15】本発明の一実施形態の第3変形例による磁界印加部を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
まず、図1図12を参照して、本発明の一実施形態による磁性体検査装置100の構成について説明する。一実施形態では、エレベータ900に用いられるスチールワイヤロープWを検査するために磁性体検査装置100が用いられる例について説明する。なお、以下の説明において、「直交」とは、90度および90度近傍の角度をなして交差することを意味する。また、スチールワイヤロープWは、特許請求の範囲の「磁性体」の一例である。
【0013】
(エレベータの構成)
図1に示すように、エレベータ900は、かご部901と、スチールワイヤロープWを巻き上げてかご部901を昇降させる巻上機902と、を備えている。エレベータ900では、スチールワイヤロープWが巻上機902により移動されるため、磁性体検査装置100を固定した状態で、スチールワイヤロープWの移動に伴って、検査が行われる。スチールワイヤロープWは、磁性体検査装置100の位置において、X方向に延びるように配置されている。
【0014】
スチールワイヤロープWは、磁性を有する素線材料が編みこまれる(たとえば、ストランド編みされる)ことにより形成され、X方向に延びる長尺材からなる磁性体である。また、スチールワイヤロープWは、かご部901を移動させる際に滑車等の機構(巻上機902)を通過し、滑車等による応力が加えられる。このため、スチールワイヤロープWに劣化による切断が起こりかご部901が落下するのを防ぐために、普段からスチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)を監視し、劣化が進行したスチールワイヤロープWを早い段階で交換することが必要である。
【0015】
(磁性体検査装置の構成)
図2に示すように、磁性体検査装置100は、磁性体整磁部1と、検知部2と、電子回路部3と、を備えている。磁界印加部10、検知部2および電子回路部3は、検査ユニットUとして、フレームFに対して固定されている。なお、スチールワイヤロープWの長手方向(X方向)に直交する面内で互いに直交する方向を、Y方向およびZ方向とする。また、磁性体整磁部1は、特許請求の範囲の「磁性体整磁装置」の一例である。
【0016】
図3に示すように、磁性体整磁部1は、磁界印加部(整磁部)10を含んでいる。磁界印加部10は、検査対象であるスチールワイヤロープWに対してスチールワイヤロープWの長手方向(X方向)の位置を変化させながら磁界を印加し、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えるように構成されている。詳細には、磁界印加部10は、長手方向(X方向)に移動するスチールワイヤロープWに対して磁界を印加し、スチールワイヤロープWの磁化の大きさと向きとを整えるように構成されている。磁界印加部10は、スチールワイヤロープWに対してスチールワイヤロープWの長手方向(X方向)に沿って磁界を印加するように構成されている。
【0017】
また、磁界印加部10は、出力される磁界が検知部2での検知に影響しないように、スチールワイヤロープWの長手方向(X方向)において検知部2から離間した位置に設けられている。具体的には、磁界印加部10と検知部2との距離が近過ぎると、磁界印加部10による磁界が検知部2で検知されてしまう場合がある。そのため、磁界印加部10は、検知部2に与える影響が問題とならない程度に離間した位置に設けられている。
【0018】
また、磁界印加部10は、検知部2に対して、スチールワイヤロープWの長手方向(X方向)の一方側(X2方向側)に配置されている。したがって、スチールワイヤロープWをX1方向に移動させることにより、検査ユニットUに設けられた磁界印加部10および検知部2をスチールワイヤロープWに対して相対的に移動させる場合、X2方向側の磁界印加部10によって検知部2により検査される部分に予め磁界が印加され、磁化の大きさと向きとが整えられる。
【0019】
磁界印加部10は、スチールワイヤロープWに対してスチールワイヤロープWの長手方向(X方向)の両側にそれぞれ配置される第1磁石11aと第2磁石11bとを有している。第1磁石11aは、一対のN極およびS極を有する永久磁石であり、スチールワイヤロープWに対してスチールワイヤロープWの長手方向に直交する方向(短手方向、Y方向)の一方側(Y1方向側)に配置されている。また、第2磁石11bは、一対のN極およびS極を有する永久磁石であり、スチールワイヤロープWに対してスチールワイヤロープWの長手方向に直交する方向(短手方向、Y方向)の他方側(Y2方向側)に配置されている。なお、図面では、理解の容易化のために、N極をハッチングを付して図示し、S極をハッチングを付さずに白抜きで図示している。
【0020】
また、第1磁石11aと第2磁石11bとは、同極がスチールワイヤロープW側に配置されるように構成されている。具体的には、第1磁石11aは、N極がスチールワイヤロープW側に配置されるとともに、S極がスチールワイヤロープWとは反対側に配置されるように構成されている。また、第2磁石11bは、N極がスチールワイヤロープW側に配置されるとともに、S極がスチールワイヤロープWとは反対側に配置されるように構成されている。すなわち、第1磁石11aと第2磁石11bとは共に、N極がスチールワイヤロープW側に配置されるように構成されている。
【0021】
ここで、本実施形態では、図4に示すように、第1磁石11aと第2磁石11bとは、同極がスチールワイヤロープW側に配置されるとともに、スチールワイヤロープWの長手方向(X方向)の一方側(X2方向側)よりも他方側(X1方向側)の方が第1磁石11aおよび第2磁石11bとスチールワイヤロープWとの間のスチールワイヤロープWの長手方向(X方向)に直交する方向(Y方向)の距離D1、D2が小さくなるように、スチールワイヤロープWを挟んでV字状に配置されている。具体的には、第1磁石11aと第2磁石11bとは、スチールワイヤロープWの位置の変化方向(X方向)の上流側(X2方向側)よりも下流側(X1方向側)の方が第1磁石11aおよび第2磁石11bとスチールワイヤロープWとの間のスチールワイヤロープWの長手方向に直交する方向(Y方向)の距離D1、D2が小さくなるように、スチールワイヤロープWを挟んでV字状に配置されている。言い換えると、第1磁石11aと第2磁石11bとは、検知部2の後述する差動コイル22側(X1方向側)に向かって徐々に先細るV字状に配置されている。
【0022】
第1磁石11aは、スチールワイヤロープWとは反対側からスチールワイヤロープW側に向かって、スチールワイヤロープWの位置の変化方向(X方向)の下流側(X1方向側)に傾斜している。これにより、第1磁石11aは、第1磁石11aとスチールワイヤロープWとの間のスチールワイヤロープWの長手方向に直交する方向(Y方向)の距離D1が、スチールワイヤロープWの位置の変化方向(X方向)の下流側(X1方向側)に向かうにつれて徐々に小さくなるように構成されている。また、第1磁石11aは、スチールワイヤロープWに対して開き角度θ1を有している。開き角度θ1は、第1磁石11aとスチールワイヤロープWとがなす角度である。開き角度θ1は、0度よりも大きく90度よりも小さい値を取る。
【0023】
同様に、第2磁石11bは、スチールワイヤロープWとは反対側からスチールワイヤロープW側に向かって、スチールワイヤロープWの位置の変化方向(X方向)の下流側(X1方向側)に傾斜している。これにより、第2磁石11bは、第2磁石11bとスチールワイヤロープWとの間のスチールワイヤロープWの長手方向に直交する方向(Y方向)の距離D2が、スチールワイヤロープWの位置の変化方向(X方向)の下流側(X1方向側)に向かうにつれて徐々に小さくなるように構成されている。また、第2磁石11bは、スチールワイヤロープWに対して開き角度θ2を有している。開き角度θ2は、第2磁石11bとスチールワイヤロープWとがなす角度である。開き角度θ2は、0度よりも大きく90度よりも小さい値を取る。
【0024】
また、本実施形態では、第1磁石11aと第2磁石11bとは、スチールワイヤロープWに対して線対称に配置されている。すなわち、第1磁石11aの開き角度θ1と、第2磁石11bの開き角度θ2とは同じ値である。また、第1磁石11aとスチールワイヤロープWとの間の距離D1と、第2磁石11bとスチールワイヤロープWとの間の距離D2とも同じ値である。第1磁石11aと第2磁石11bとは、スチールワイヤロープWを挟んで等距離の位置に配置されている。
【0025】
図5を参照して、V字状の第1磁石11aと第2磁石11bとを有する磁界印加部10の磁界について説明する。図5に示すグラフでは、縦軸が磁界印加部10のX方向に沿った磁界の磁束密度を示し、横軸が磁界印加部10に対するX方向の座標位置を示している。図5に示すグラフでは、X座標の0よりもマイナス側が、図4に示す領域A1に概ね対応し、X座標の0が、図4に示す領域A2に概ね対応し、X座標の0よりもプラス側が、図4に示す領域A3に概ね対応している。なお、図6に示すグラフも、図5に示すグラフと同様である。
【0026】
図5に示すように、磁界印加部10では、スチールワイヤロープWの長手方向(X方向)において磁界印加部10の一方側(X2方向側)と他方側(X1方向側)とで磁界の向きが互いに反対方向になる。このため、磁界印加部10の第1磁石11aおよび第2磁石11bの間をスチールワイヤロープWが通過する際にスチールワイヤロープWに印加される磁界が反転する。また、磁界印加部10では、第1磁石11aおよび第2磁石11bの開いた側(X2方向側)の磁界の大きさよりも、閉じた側(X1方向側)の磁界の大きさが大きくなっている。このため、第1磁石11aおよび第2磁石11bの開いた側(X2方向側)の磁界の影響を大きく受けさせずに、閉じた側(X1方向側)の磁界の影響を大きく受けさせて、スチールワイヤロープWを磁化することが可能である。
【0027】
図6は、複数の開き角度θ1、θ2(θ1=θ2)の磁界印加部10の磁界のシミュレーション結果を示している。図6に示すように、開き角度θ1、θ2が大きくなるほど、第1磁石11aおよび第2磁石11bの開いた側(X2方向側)の磁界の大きさが小さくなる。一方、開き角度90度の例を除けば、開き角度θ1、θ2が大きくなっても、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側(X1方向側)の磁界の大きさはそれほど変わらない。
【0028】
また、開き角度θ1、θ2が大きくなると、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側(X1方向側)において、わずかに磁界の反転が発生している。具体的には、開き角度40度、60度および90度の例において、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側(X1方向側)において、わずかに磁界の反転が発生している。開き角度40度の例では、X座標の-110mm付近よりもマイナス側において、磁界がマイナス側からプラス側に反転している。また、開き角度60度の例では、X座標の-90mm付近よりもマイナス側において、磁界がマイナス側からプラス側に反転している。また、開き角度90度の例では、X座標の-60mm付近よりもマイナス側において、磁界がマイナス側からプラス側に反転している。このため、本実施形態では、第1磁石11aと第2磁石11bとは、閉じた側(X1方向側)において、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きが反転しない開き角度θ1、θ2(図6に示す例では、たとえば、30度)を有している。言い換えると、第1磁石11aと第2磁石11bとは、スチールワイヤロープWの位置の変化方向(X方向)の下流側(X1方向側)において、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きが反転しない開き角度θ1、θ2を有している。
【0029】
また、図3および図4に示すように、磁界印加部10は、第1バックヨーク部12aと、第2バックヨーク部12bとを有している。第1バックヨーク部12aは、鉄などの軟磁性材料からなり、第1磁石11aのスチールワイヤロープWとは反対側の部分に設けられている。これにより、第1磁石11aがスチールワイヤロープWに印加する磁界の大きさを大きくすることが可能である。また、第2バックヨーク部12bは、鉄などの軟磁性材料からなり、第2磁石11bのスチールワイヤロープWとは反対側の部分に設けられている。これにより、第2磁石11bがスチールワイヤロープWに印加する磁界の大きさを大きくすることが可能である。第1バックヨーク部12aと第2バックヨーク部12bとは、第1磁石11aと第2磁石11bと同様に、V字状に配置されている。
【0030】
また、第1磁石11aと第2磁石11bとは、同極がスチールワイヤロープW側に配置されるように構成されている。具体的には、第1磁石11aは、N極がスチールワイヤロープW側に配置されるとともに、S極がスチールワイヤロープWとは反対側に配置されるように構成されている。また、第2磁石11bは、N極がスチールワイヤロープW側に配置されるとともに、S極がスチールワイヤロープWとは反対側に配置されるように構成されている。なお、スチールワイヤロープW側とは、後述するようにV字状の第1磁石11aと第2磁石11bとの内側方向を意味している。また、スチールワイヤロープWとは反対側とは、V字状の第1磁石11aと第2磁石11bとの外側方向を意味している。
【0031】
検知部2は、図7に示すように、励振コイル21と、差動コイル22と、を含んでいる。励振コイル21および差動コイル22は、長尺材からなる磁性体であるスチールワイヤロープWの延びる方向(X方向)を中心軸として、長手方向(X方向)に沿うように複数回巻き回され、スチールワイヤロープWの延びるX方向(長手方向)に沿って円筒形となるように形成される導線部分を含むコイルである。すなわち、円筒形のコイル(差動コイル22および励振コイル21)がスチールワイヤロープWを取り囲むように設けられている。なお、差動コイル22は、特許請求の範囲の「検知コイル」の一例である。
【0032】
励振コイル21は、スチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するように構成されている。具体的には、励振コイル21に励振電流が流されることにより、励振コイル21の内部において、励振電流に基づいて発生する磁界がX方向に沿って印加されるように構成されている。これにより、励振コイル21は、スチールワイヤロープWの長手方向に沿ってスチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するように構成されている。
【0033】
ここで、図8(A)に示すように、磁界印加部10により予め磁化の方向が整えられているので、励振コイル21による磁界の印加がない場合には、傷等のない部分において、スチールワイヤロープWの磁化の方向は略揃っている。また、図8(B)に示すように、励振コイル21に一定の大きさかつ一定の周波数を有する交流電流(励振電流)が外部から流されることにより、スチールワイヤロープWの延びるX方向に振動するように磁界が印加される。また、励振コイル21に流れる時間変化する励振電流の向き(実線または点線)に伴って、励振コイル21により印加される磁界(実線または点線)の方向も変化する。したがって、時間変化する磁界によりスチールワイヤロープWの磁化の方向が励振され、スチールワイヤロープWから発せられる磁界も時間変化する。その結果、スチールワイヤロープWと差動コイル22との相対位置を変化させることなく、スチールワイヤロープWの同じ部分による磁界が時間変化するため、磁界の変化を検知する差動コイル22により、スチールワイヤロープWの状態を検査することができる。
【0034】
図7に示すように、差動コイル22は、磁界印加部10により磁界が印加されたスチールワイヤロープWの磁界の変化を検知するように構成されている。また、差動コイル22は、励振コイル21により励振されたスチールワイヤロープWの磁界の変化を検知するように構成されている。詳細には、差動コイル22は、受信コイル22aおよび22bを有している。差動コイル22は、2つの受信コイル22aおよび22bにより発生する各々の検知信号の大きさの差を取得するように構成されている。また、受信コイル22aおよび22bは、スチールワイヤロープWの長手方向(X方向)に沿って互いに並ぶように配置されている。受信コイル22aおよび22bは、それぞれ、X方向の磁界の変化を検知して電圧(検知信号)を発生するように構成されている。そして、差動コイル22は、受信コイル22aにより発生した検知信号の大きさと、受信コイル22bにより発生した検知信号の大きさとの差を、差動信号H(図12参照)として取得するように構成されている。
【0035】
図9は、傷等のあるスチールワイヤロープWの例である。図9において、素線の編まれ方は、簡略化して示されている。図9(A)に示すスチールワイヤロープWは、表面部分の素線が断線している。そのため、素線断線の生じた部分から磁界が漏れ出ている。また、図9(B)に示すスチールワイヤロープWは、スレもしくは打痕により表面部に凹みが生じている。また、図9(C)に示すスチールワイヤロープWは、内部に素線断線が生じている。これら傷等のある位置の断面積SA1、SA2およびSA3は、傷等のない部分の断面積SA0と比較して、それぞれ小さくなっているため、スチールワイヤロープWの全磁束(磁界に透磁率と面積とを掛けた値)は傷等のある部分で小さくなる。以上のように、磁界の漏れや、全磁束の減少が生じるため、傷等のある部分では検知される磁界に変化が生じる。
【0036】
その結果、たとえば、傷等のある場所に位置する受信コイル22aの検知電圧(検知信号)の値が受信コイル22bと比較して減少するため、受信コイル22aの検知電圧と受信コイル22bの検知電圧の差(差動信号H(図12参照))の値が大きくなる。すなわち、傷等のない部分での検知信号は略ゼロとなり、傷等のある部分では検知信号がゼロより大きい値を持つので、差動コイル22において、傷等の存在をあらわす明確な信号(S/N比の良い信号)が差動信号H(図12参照)として検知される。これにより、電子回路部3(後述)は、検知信号の差(差動信号H(図12参照))の値に基づいてスチールワイヤロープWの傷等の存在を検出することができる。また、傷等の大きさ(断面積の減少量の大きさ)が大きいほど、検知信号の値が大きくなり差動信号H(図12参照)の値も大きくなるため、傷等の大きさを判定(評価)する際に、ある程度以上に大きな傷等があれば、差動信号H(図12参照)が所定の第1閾値Th1または第2閾値Th2(後述)を超えたことを自動で判定することが可能となる。なお、傷等には錆等による透磁率の変化も含まれ、同様に検知信号として表われる。
【0037】
図10に示すように、電子回路部3は、差動コイル22からの信号に基づいて長尺材からなるスチールワイヤロープWの状態を判定するように構成されている、また、電子回路部3は、交流電源31と、増幅器32と、AD変換器33と、CPU34と、デジタル出力インターフェース35とを含む。交流電源31は、励振コイル21に交流電流を流す(出力する)。増幅器32は、差動コイル22から出力される差動信号H(図12参照)を増幅し、AD変換器33に出力する。AD変換器33は、増幅器32により増幅されたアナログの差動信号Hを、デジタルの差動信号H(図12参照)に変換する。CPU34は、AD変換器33から出力される差動信号H(図12参照)から交流成分を取り除く処理を行い、差動信号H(図12参照)の絶対値の変化に対応した信号(DCレベル信号)に変換する同期検波整流処理を行うとともに、差動信号Hが後述する所定の閾値を超えた場合に、警報信号を出力する。また、CPU34は、交流電源31により出力される電流の強さを制御する。また、傷等の大きさを判定する機能をCPU34に持たせている。デジタル出力インターフェースは、外部の図示しないPCなどに接続され、処理がされた差動信号H(図12参照)や警報信号のデジタルデータを出力する。
【0038】
また、電子回路部3は、差動コイル22(検知部2)により出力された差動信号H(図12参照)が第1閾値Th1を超えた場合に、差動信号H(図12参照)が第1閾値Th1を超えたことを示す第1閾値信号を外部に出力するとともに、検知部2により出力された差動信号H(図12参照)が第2閾値Th2を超えた場合に、差動信号H(図12参照)が第2閾値Th2を超えたことを示す第2閾値信号を外部に出力するように構成されている。これにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)が不均一となる部分を、閾値信号に基づいて容易に判定することができる。また、比較的小さな第1閾値Th1を超えた第1閾値信号により、経過観察等注意を要する程度の小さな傷等を有するスチールワイヤロープWの状態を判定するとともに、比較的大きな第2閾値Th2を超えた第2閾値信号により、早急に交換等を行う必要がある比較的大きな傷等を有するスチールワイヤロープWの状態を判定することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、差動コイル22は、励振コイル21により流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振されたスチールワイヤロープWの磁界の変化に基づいて検知信号を取得するように構成されている。ここで、磁性体検査装置100では、差動コイル22は、励振コイル21によって発生する磁界の略全てが検知可能に(入力される様に)配置されている。
【0040】
(比較例)
ここで、磁界印加部10が設けられていないことを除いて同様に構成されている比較例による磁性体検査装置(図示省略)と比較しながら、磁性体検査装置100の磁界印加部10による磁化について説明する。
【0041】
磁界印加部10が設けられていない比較例による磁性体検査装置(図示省略)では、励振コイル21により、X方向に磁場が印加される。このとき、傷等の無い均一な部分で検知される差動信号H(図12参照)が等しくなるように、励振コイル21によりX方向に印加する磁界を大きくする必要がある。また、予め磁化の方向を整えて(揃えて)いないので、励振コイル21によりX方向に印加される磁界は、磁化の方向をX方向に揃える程度に大きくする必要がある。
【0042】
ここで、図11に示すように、磁界を印加する前において、磁性体であるスチールワイヤロープW内は、製造時点で、内部の構造ごとに磁化の方向がバラついている。また、滑車等の機構を通過し、応力等の外力が加えられることによっても、これらの磁化の方向は変化していく。したがって、傷等の無い均質な部分であっても、励振コイル21により磁化の方向をX方向に励振しても磁化の方向のバラツキが消しきれないため、スチールワイヤロープWの場所ごとの磁化の大きさおよび方向のバラツキにより差動信号H(図12参照)にノイズが生じる原因となる。
【0043】
一方で、予め磁界を印加することにより磁化の大きさおよび方向を整えて(揃えて)おく場合は、スチールワイヤロープWの傷等のない部分の磁界は概ね一定の大きさとなって検知されるため、傷からの信号と区別が容易となる。
【0044】
図12に示すグラフは、比較例および本実施形態における、スチールワイヤロープWの磁界の変化を示した計測波形である。計測波形の縦軸は、差動信号Hの大きさに対応し、計測波形の横軸は、X座標(スチールワイヤロープWの検知される場所)に対応している。CPU34により同期検波整流処理がされているため、励振コイル21により印加される磁界の時間変化の影響は取り除かれている。
【0045】
磁界印加部10を設けない比較例による磁性体検査装置において、図12に示す整磁前の計測波形に示すように、傷等の無い部分であっても、磁化の大きさおよび方向のバラツキによるノイズが検知されている。そのため、このような比較例による磁性体検査装置では、経験や知識(たとえば、特徴的な検知信号のあらわれのパターン方など)のない非専門化が傷等の有無を判断することは難しい。特に、閾値等を設けて信号の大きさのみに基づいて判定する場合、誤判定の原因となる。
【0046】
一方で、磁界印加部10が設けられた本実施形態による磁性体検査装置100において、図12に示す整磁後の計測波形に示すように、電子回路の雑音(ノイズ)はほとんど検知されない。具体的には、ノイズの大きさが相対的に小さく、S/N比の良好な計測波形となり、差動信号Hが明確にあらわれている。したがって、磁界印加部10により、非専門家や閾値による判定であっても、誤判定が生じない程度にノイズを低減することができる。なお、図12に示す整磁後の計測波形において、スチールワイヤロープWの傷等のある部分の位置が差動コイル22の一方側(受信コイル22a)から他方側(受信コイル22b)に移ったことによる差動信号Hの正負の逆転が明瞭に表われていることがわかる。
【0047】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0048】
本実施形態では、上記のように、第1磁石11aと第2磁石11bとは、同極がスチールワイヤロープW側に配置されるとともに、スチールワイヤロープWの長手方向の一方側よりも他方側の方が第1磁石11aおよび第2磁石11bとスチールワイヤロープWとの間のスチールワイヤロープWの長手方向に直交する方向の距離D1、D2が小さくなるように、スチールワイヤロープWを挟んでV字状に配置されている。これにより、第1磁石11aおよび第2磁石11bのスチールワイヤロープWの長手方向の一方側(開いた側)よりも、スチールワイヤロープWの長手方向の他方側(閉じた側)をスチールワイヤロープWの近くに配置することができる。その結果、第1磁石11aおよび第2磁石11bの開いた側の磁界の大きさよりも、閉じた側の磁界の大きさを大きくすることができる。これにより、第1磁石11aおよび第2磁石11bの開いた側の磁界の影響を大きく受けさせずに、閉じた側の磁界の影響を大きく受けさせた状態で、スチールワイヤロープWを磁化することができる。その結果、第1磁石11aおよび第2磁石11bの間をスチールワイヤロープWが通過する際に磁界が反転したとしても、一方向(第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側の磁界に対応する方向)にスチールワイヤロープWの磁化を整えることができる。また、本実施形態の磁性体検査装置100においては、一方向にスチールワイヤロープWの磁化を整えることができるので、ランダムなスチールワイヤロープWの磁化に起因してノイズが差動コイル22により検知されることを抑制することができる。その結果、差動コイル22を用いたスチールワイヤロープWの検査を精度よく行うことができる。
【0049】
また、本実施形態では、上記のように、第1磁石11aと第2磁石11bとは、スチールワイヤロープWの位置の変化方向の上流側よりも下流側の方が第1磁石11aおよび第2磁石11bとスチールワイヤロープWとの間のスチールワイヤロープWの長手方向に直交する方向の距離D1、D2が小さくなるように、スチールワイヤロープWを挟んでV字状に配置されている。これにより、スチールワイヤロープWの位置の変化方向の上流側の磁界の大きさよりも、下流側の磁界の大きさを大きくすることができる。その結果、スチールワイヤロープWの位置の変化方向の下流側の磁界の大きさよりも、上流側の磁界の大きさを大きくする場合と異なり、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側の磁界に対応する方向にスチールワイヤロープWの磁化を整えた後に、磁界が反転することを抑制することができる。これにより、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側の磁界に対応する一方向にスチールワイヤロープWの磁化を効率よく整えることができる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、第1磁石11aと第2磁石11bとは、スチールワイヤロープWの位置の変化方向の下流側において、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きが反転しない開き角度θ1、θ2を有する。ここで、上記のように、第1磁石11aと第2磁石11bとの開き角度によっては、スチールワイヤロープWの位置の変化方向の下流側において、さらに磁界が反転する場合がある。そこで、第1磁石11aと第2磁石11bとを、スチールワイヤロープWの位置の変化方向の下流側において、スチールワイヤロープWに印加する磁界の向きが反転しない開き角度を有するように構成する。これにより、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側の磁界に対応する方向にスチールワイヤロープWの磁化を整えた後に、磁界が反転することをより抑制することができる。これにより、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側の磁界に対応する一方向にスチールワイヤロープWの磁化をより確実に整えることができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、第1磁石11aと第2磁石11bとは、スチールワイヤロープWに対して線対称に配置されている。これにより、第1磁石11aがスチールワイヤロープWに対して印加する磁界と、第2磁石11bがスチールワイヤロープWに対して印加する磁界とをスチールワイヤロープWに対して対称にすることができる。その結果、第1磁石11aと第2磁石11bとがスチールワイヤロープWに対して線対称にならないように配置されている場合(たとえば、第1磁石11aと第2磁石11bとの開き角度が互いに異なる場合)に比べて、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側の磁界に対応する一方向にスチールワイヤロープWの磁化を容易に整えることができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、第1磁石11aと第2磁石11bとは、差動コイル22側に向かって徐々に先細るV字状に配置されている。これにより、差動コイル22とは反対側の磁界の大きさよりも、差動コイル22側の磁界の大きさを大きくすることができる。その結果、差動コイル22側の磁界の大きさよりも、差動コイル22とは反対側の磁界の大きさを大きくする場合と異なり、第1磁石11aおよび第2磁石11bの閉じた側の磁界に対応する方向にスチールワイヤロープWの磁化を効率よく整えた状態で、差動コイル22を用いてスチールワイヤロープWを検査することができる。その結果、差動コイル22を用いたスチールワイヤロープWの検査をより精度よく行うことができる。
【0053】
また、本実施形態では、上記のように、スチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するための励振コイル21をさらに備え、差動コイル22は、励振コイル21により励振されたスチールワイヤロープWの磁界の変化を検知するように構成されている。これにより、励振コイル21によりスチールワイヤロープWの磁化の状態が励振されるので、スチールワイヤロープWの磁界の変化を容易に検知することができる。
【0054】
また、本実施形態では、上記のように、磁界印加部10は、スチールワイヤロープWに対してスチールワイヤロープWの長手方向に沿って磁界を印加するように構成されており、励振コイル21は、スチールワイヤロープWの長手方向に沿ってスチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するように構成されている。これにより、磁界印加部10のスチールワイヤロープWの整磁方向と、励振コイル21のスチールワイヤロープWの励振方向とを揃えることができるので、スチールワイヤロープWに傷等がない領域では、励振コイル21によって励振された際の磁界の変化を容易に一様とすることができる。その結果、スチールワイヤロープWに傷等がない領域とスチールワイヤロープWに傷等がある領域とで、差動コイル22により容易に区別可能な信号を得ることができる。
【0055】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0056】
たとえば、上記実施形態では、本発明の磁性体検査装置を、エレベータに適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明の磁性体検査装置は、ロープウエイなどの移動用装置、および、つり橋・橋脚など建造物のワイヤ部分についても適用可能である。さらに、本発明の磁性体検査装置は、ワイヤのみならず、電柱、上下水道配管、ガス管、パイプライン等、長尺材からなる磁性体の損傷を測定するあらゆる用途に適用可能である。
【0057】
また、上記実施形態では、本発明の磁性体整磁装置を、磁性体検査装置に適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、長尺材からなる磁性体を整磁する用途であれば、磁性体整磁装置を、磁性体検査装置以外の装置に適用してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、長尺材からなる磁性体をスチールワイヤロープとする例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、長尺材からなる磁性体は、薄板、角材、円筒状のパイプ、針金、チェーン等でもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、スチールワイヤロープ(磁性体)を移動させることにより、磁界印加部をスチールワイヤロープ(磁性体)に対して移動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁界印加部を移動させることにより、磁界印加部を磁性体に対して移動させてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、第1磁石および第2磁石を、永久磁石とする例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1磁石および第2磁石を、電磁石(コイル)としてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、第1磁石および第2磁石を、N極がスチールワイヤロープ側に配置されるように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図13に示す第1変形例のように、第1磁石111aおよび第2磁石111bを、S極がスチールワイヤロープW側に配置されるように構成してもよい。また、図14に示す第2変形例のように、第1磁石211aおよび第2磁石211bを、N極およびS極の両方がスチールワイヤロープW側に配置されるように構成してもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、磁界印加部を、検知部に対して、スチールワイヤロープの長手方向の一方側にのみ配置する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図15に示す第3変形例のように、磁界印加部10を、スチールワイヤロープWの長手方向の一方側および他方側にそれぞれ配置してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、第1磁石と第2磁石とを、磁性体の位置の変化方向の下流側において、磁性体に印加する磁界の向きが反転しない開き角度を有するように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、整磁に大きな影響を及ぼさない場合には、第1磁石と第2磁石とを、磁性体の位置の変化方向の下流側において、磁性体に印加する磁界の向きが反転する開き角度を有するように構成してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、第1磁石と第2磁石とを、線対称に配置する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、整磁可能な限り、第1磁石と第2磁石とを、線対称でなく配置してもよい。すなわち、第1磁石の開き角度と第2磁石の開き角度とを、互いに異なる値としてもよい。
【0065】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0066】
(項目1)
長尺材からなる磁性体に対して前記磁性体の長手方向の位置を変化させながら磁界を印加し、前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部と、
前記磁界印加部により磁界が印加された前記磁性体の磁界の変化を検知する検知コイルと、を備え、
前記磁界印加部は、前記磁性体に対して前記磁性体の長手方向に直交する方向の両側にそれぞれ配置される第1磁石と第2磁石とを含み、
前記第1磁石と前記第2磁石とは、同極が前記磁性体側に配置されるとともに、前記磁性体の長手方向の一方側よりも他方側の方が前記第1磁石および前記第2磁石と前記磁性体との間の前記磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、前記磁性体を挟んでV字状に配置されている、磁性体検査装置。
【0067】
(項目2)
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体の位置の変化方向の上流側よりも下流側の方が前記第1磁石および前記第2磁石と前記磁性体との間の前記磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、前記磁性体を挟んでV字状に配置されている、項目1に記載の磁性体検査装置。
【0068】
(項目3)
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体の位置の変化方向の下流側において、前記磁性体に印加する磁界の向きが反転しない開き角度を有する、項目2に記載の磁性体検査装置。
【0069】
(項目4)
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体に対して線対称に配置されている、項目1~3のいずれか1項に記載の磁性体検査装置。
【0070】
(項目5)
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記検知コイル側に向かって徐々に先細るV字状に配置されている、項目1~4のいずれか1項に記載の磁性体検査装置。
【0071】
(項目6)
前記磁性体の磁化の状態を励振するための励振コイルをさらに備え、
前記検知コイルは、前記励振コイルにより励振された前記磁性体の磁界の変化を検知するように構成されている、項目1~5のいずれか1項に記載の磁性体検査装置。
【0072】
(項目7)
前記磁界印加部は、前記磁性体に対して前記磁性体の長手方向に沿って磁界を印加するように構成されており、
前記励振コイルは、前記磁性体の長手方向に沿って前記磁性体の磁化の状態を励振するように構成されている、項目6に記載の磁性体検査装置。
【0073】
(項目8)
長尺材からなる磁性体に対して前記磁性体の長手方向の位置を変化させながら磁界を印加し、前記磁性体の磁化の大きさと向きとを整える磁界印加部を備え、
前記磁界印加部は、前記磁性体に対して前記磁性体の長手方向に直交する方向の両側にそれぞれ配置される第1磁石と第2磁石とを含み、
前記第1磁石と前記第2磁石とは、同極が前記磁性体側に配置されるとともに、前記磁性体の長手方向の一方側よりも他方側の方が前記第1磁石および前記第2磁石と前記磁性体との間の前記磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、前記磁性体を挟んでV字状に配置されている、磁性体整磁装置。
【0074】
(項目9)
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体の位置の変化方向の上流側よりも下流側の方が前記第1磁石および前記第2磁石と前記磁性体との間の前記磁性体の長手方向に直交する方向の距離が小さくなるように、前記磁性体を挟んでV字状に配置されている、項目8に記載の磁性体整磁装置。
【0075】
(項目10)
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体の位置の変化方向の下流側において、前記磁性体に印加する磁界の向きが反転しない開き角度を有している、項目9に記載の磁性体整磁装置。
【0076】
(項目11)
前記第1磁石と前記第2磁石とは、前記磁性体に対して線対称に配置されている、項目8~10のいずれか1項に記載の磁性体整磁装置。
【符号の説明】
【0077】
1 磁性体整磁部(磁性体整磁装置)
10 磁界印加部
11a、111a、211a 第1磁石
11b、111b、211b 第2磁石
21 励振コイル
22 差動コイル(検知コイル)
100 磁性体検査装置
D1、D2 距離
W スチールワイヤロープ(磁性体)
θ1、θ2 開き角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15