(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】内燃機関の排気通路構造
(51)【国際特許分類】
F02B 37/02 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
F02B37/02 H
(21)【出願番号】P 2020204237
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 高斗
(72)【発明者】
【氏名】田畑 正和
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-041955(JP,A)
【文献】特開2005-016313(JP,A)
【文献】特開2007-170306(JP,A)
【文献】特開2007-231791(JP,A)
【文献】特開2012-127270(JP,A)
【文献】特開2020-186696(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 27/06
F02B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を含む第一気筒群と、前記第一気筒群に含まれる気筒とは異なる複数の気筒を含む第二気筒群と、を有するターボチャージャ付きの内燃機関の排気通路構造において、
前記第一気筒群の各気筒の排気側にそれぞれ接続される複数の第一枝通路と、前記複数の第一枝通路を流れる排気ガスが1つに集まる第一集合部と、を有する第一多岐通路と、
前記第一集合部から排気下流側に延びる第一合流通路と、
前記第二気筒群の各気筒の排気側にそれぞれ接続される複数の第二枝通路と、前記複数の第二枝通路を流れる排気ガスが1つに集まる第二集合部と、を有する第二多岐通路と、
前記第二集合部から排気下流側に延びる第二合流通路と、
前記第一合流通路を流れる排気ガスと前記第二合流通路を流れる排気ガスが集合する第三集合部と前記ターボチャージャのタービンとを接続する第三合流通路と、を備え、
前記第一合流通路及び前記第二合流通路は、通路断面積が最小となる絞り部をそれぞれ有し、
前記内燃機関の1つの気筒における1又は複数の排気ポートの入口部の通路断面積の合計値を基準通路断面積とし、前記第一合流通路及び前記第二合流通路のそれぞれの前記絞り部の通路断面積を絞り断面積とした場合、前記基準通路断面積に対する前記絞り断面積の割合が0.5以上且つ1.0以下の範囲に含まれるように構成され
、
前記内燃機関は、排気弁の開き側のリフト速度が閉じ側のリフト速度よりも遅くなるように構成されていることを特徴とする内燃機関の排気通路構造。
【請求項2】
複数の気筒を含む第一気筒群と、前記第一気筒群に含まれる気筒とは異なる複数の気筒を含む第二気筒群と、を有するターボチャージャ付きの内燃機関の排気通路構造において、
前記第一気筒群の各気筒の排気側にそれぞれ接続される複数の第一枝通路と、前記複数の第一枝通路を流れる排気ガスが1つに集まる第一集合部と、を有する第一多岐通路と、
前記第一集合部から排気下流側に延びる第一合流通路と、
前記第二気筒群の各気筒の排気側にそれぞれ接続される複数の第二枝通路と、前記複数の第二枝通路を流れる排気ガスが1つに集まる第二集合部と、を有する第二多岐通路と、
前記第二集合部から排気下流側に延びる第二合流通路と、
前記第一合流通路を流れる排気ガスと前記第二合流通路を流れる排気ガスが集合する第三集合部と前記ターボチャージャのタービンとを接続する第三合流通路と、を備え、
前記第一合流通路及び前記第二合流通路は、通路断面積が最小となる絞り部をそれぞれ有し、
前記内燃機関の1つの気筒における1又は複数の排気ポートの入口部の通路断面積の合計値を基準通路断面積とし、前記第一合流通路及び前記第二合流通路のそれぞれの前記絞り部の通路断面積を絞り断面積とした場合、前記基準通路断面積に対する前記絞り断面積の割合が0.5以上且つ1.0以下の範囲に含まれるように構成され
、
前記内燃機関は、排気弁の最大リフト位置が、前記排気弁の開弁開始位置と閉弁完了位置との中間位置よりも閉じ側となるように構成されていることを特徴とする内燃機関の排気通路構造。
【請求項3】
前記基準通路断面積に対する前記絞り断面積の割合が0.7以上且つ1.0以下の範囲に含まれるように構成されていることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の内燃機関の排気通路構造。
【請求項4】
前記タービンのタービンスクロールの入口部の入口断面積は、前記基準通路断面積よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1
から請求項3の何れか1項に記又は請求項2に記載の内燃機関の排気通路構造。
【請求項5】
前記第一合流通路及び前記第二合流通路の前記絞り部は、それぞれの排気下流端に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項
4の何れか1項に記載の内燃機関の排気通路構造。
【請求項6】
前記第一合流通路及び前記第二合流通路は、排気の上流側から前記絞り部に向かって徐々に通路断面積が小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項
5の何れか1項に記載の内燃機関の排気通路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の排気通路構造に係り、特に、2つの気筒群からの排気が流通するターボチャージャを備えた内燃機関の排気通路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、排気干渉を起こりにくくしたターボチャージャに関する技術が開示されている。この技術では、タービンの入口にディフューザを備えたターボチャージャを備えるエンジンにおいて、2つの気筒群からの排気通路が合流する合流部の通路断面積を、タービンスクロールの入口部の通路断面積の50~80%とすることで、排気干渉を抑制しつつ動圧を効率よく静圧に変換できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的には、タービンスクロールの入口断面積は、1気筒の排気ポートの入口部における通路断面積よりも多少大きい程度である。このため、上記特許文献1の技術では、2つの気筒群からの排気通路の合流部の通路断面積が、1気筒の排気ポートの入口部における通路断面積に対して極端に小さくなるおそれがある。その結果、排気行程での筒内圧が高くなり、押出損失の増大や残留ガスの増加によって出力低下や燃費悪化を招いてしまう。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、2つの気筒群からの排気が流通するターボチャージャを備える内燃機関において、排気干渉を抑制しつつ出力低下及び燃費悪化を抑えることのできる排気通路構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、第1の開示は、複数の気筒を含む第一気筒群と、第一気筒群に含まれる気筒とは異なる複数の気筒を含む第二気筒群と、を有するターボチャージャ付きの内燃機関の排気通路構造に適用される。排気通路構造は、第一気筒群の各気筒の排気側にそれぞれ接続される複数の第一枝通路と、複数の第一枝通路を流れる排気ガスが1つに集まる第一集合部と、を有する第一多岐通路と、第一集合部から排気下流側に延びる第一合流通路と、第二気筒群の各気筒の排気側にそれぞれ接続される複数の第二枝通路と、複数の第二枝通路を流れる排気ガスが1つに集まる第二集合部と、を有する第二多岐通路と、第二集合部から排気下流側に延びる第二合流通路と、第一合流通路を流れる排気ガスと第二合流通路を流れる排気ガスが集合する第三集合部とターボチャージャのタービンとを接続する第三合流通路と、を備える。第一合流通路及び第二合流通路は、通路断面積が最小となる絞り部をそれぞれ有している。そして、排気通路構造は、内燃機関の1つの気筒における1又は複数の排気ポートの入口部の通路断面積の合計値を基準通路断面積とし、第一合流通路及び第二合流通路のそれぞれの絞り部の通路断面積を絞り断面積とした場合、基準通路断面積に対する絞り断面積の割合が0.5以上且つ1.0以下の範囲に含まれるように構成されている。
【0007】
第2の開示は、第1の開示において、更に以下の特徴を有している。
排気通路構造は、基準通路断面積に対する絞り断面積の割合が0.7以上且つ1.0以下の範囲に含まれるように構成されている。
【0008】
第3の開示は、第1又は第2の開示において、更に以下の特徴を有している。
タービンのタービンスクロールの入口部の入口断面積は、基準通路断面積よりも大きくなるように構成されている。
【0009】
第4の開示は、第1から第3の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を有している。
第一合流通路及び第二合流通路の絞り部は、それぞれの排気下流端に設けられている。
【0010】
第5の開示は、第1から第4の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を有している。
第一合流通路及び第二合流通路は、排気の上流側から絞り部に向かって徐々に通路断面積が小さくなるように構成されている。
【0011】
第6の開示は、第1から第5の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を有している。
内燃機関は、排気弁の開き側のリフト速度が閉じ側のリフト速度よりも遅くなるように構成されている。
【0012】
第7の開示は、第1から第6の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を有している。
内燃機関は、排気弁の最大リフト位置が、排気弁の開弁開始位置と閉弁完了位置との中間位置よりも閉じ側となるように構成されている。
【発明の効果】
【0013】
排気干渉を抑制するために基準通路断面積に対する絞り断面積の割合を小さくし過ぎると、絞り部の排気上流側の排気管圧力が高まり過ぎてしまい、押出損失が増大してしまう。本開示によれば、基準通路断面積に対する絞り断面積の割合が0.5以上且つ1.0以下の範囲とすることにより、排気干渉を抑制しつつ押出損失を抑制することができる。その結果、内燃機関の出力低下や燃費悪化を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態の内燃機関の排気通路構造を説明するための模式図である。
【
図2】実施の形態の内燃機関における絞り部の作用を説明するための図である。
【
図3】内燃機関の燃焼サイクルにおける筒内圧変化を示すP-V線図である。
【
図4】絞り断面積と燃料消費率との関係を示す模式図である。
【
図5】変形例の排気通路構造に適用可能なタービンの断面図である。
【
図6】第一絞り部及び第二絞り部の配置と排気管圧力との関係を説明するための図である。
【
図7】排気弁のリフト速度及び最大リフト位置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この開示が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この開示に必ずしも必須のものではない。
【0016】
実施の形態.
1.実施の形態の内燃機関の構成
図1は、実施の形態の内燃機関の排気通路構造を説明するための模式図である。本実施の形態の内燃機関100は、6つの気筒6を備え、第一気筒#1→第五気筒#5→第三気筒#3→第六気筒#6→第二気筒#2→第四気筒#4の順に燃焼を繰り返す直列6気筒エンジンとして構成されている。内燃機関100のエンジン本体10には、吸気マニホールド(図示せず)を介して、吸気通路40が接続されており、吸気通路40の途中には、インタークーラやスロットルバルブ(何れも図示せず)等が設けられている。
【0017】
内燃機関100には、ターボチャージャ30が備えられている。ターボチャージャ30は、内燃機関100の排気ガスのエネルギによって作動するタービン32と、このタービン32によって駆動されるコンプレッサ34と、を有している。コンプレッサ34には、上述した吸気通路40が接続されている。コンプレッサ34により、吸入空気を圧縮することができる。
【0018】
エンジン本体10の6つの各気筒6は、排気順序が連続しない複数の気筒によって構成された第一気筒群61及び第二気筒群62に分類される。具体的には、第一気筒群61は、第一気筒#1、第二気筒#2及び第三気筒#3の3つの気筒により構成され、第二気筒群62は、第四気筒#4、第五気筒#5及び第六気筒#6の3つの気筒により構成される。各気筒6の上部にはそれぞれ2つの排気ポートが連通し、各排気ポートには排気弁8がそれぞれ設けられている。各気筒6の2つの排気ポートは、シリンダヘッドの内部で合流している。
【0019】
第一気筒群61の気筒6の排気側は、第一排気通路12に接続されている。第一排気通路12は、第一多岐通路121と、第一合流通路122とを含む。第一多岐通路121は、第一気筒群61の気筒6のそれぞれから延びる排気ポートを含む第一枝通路123と、これらの第一枝通路123が集合する第一集合部124とを含む。第一集合部124には、第一合流通路122の排気上流側が接続される。
【0020】
同様に、第二気筒群62の気筒6の排気側は、第二排気通路14に接続されている。第二排気通路14は、第二多岐通路141と、第二合流通路142とを含む。第二多岐通路141は、第二気筒群62の気筒6のそれぞれから延びる排気ポートを含む第二枝通路143と、これらの第二枝通路143が集合する第二集合部144とを含む。第二集合部144には、第二合流通路142の排気上流側が接続される。
【0021】
第一合流通路122の排気下流側と第二合流通路142の排気下流側とは、第三集合部161において集合される。第三集合部161には、第三合流通路162の排気上流側が接続される。第三合流通路162の排気下流側には、ターボチャージャ30のタービン32が接続される。なお、第三合流通路162の通路断面積は、第一合流通路122及び第二合流通路142の通路断面積よりも大きい。
【0022】
タービン32を通過した排気ガスは、排気通路36を流通する。排気通路36途中には、排気ガスを浄化するための触媒38が設けられている。また、排気通路36の触媒38の上流側と第三合流通路162との間には、タービン32をバイパスして排気ガスを排気通路36に流通させるためのバイパス配管18及びウエストゲートバルブ(WGV)20が接続されている。
【0023】
2.実施の形態の内燃機関の特徴
本実施の形態の内燃機関100の排気通路構造のように、第一気筒群61及び第二気筒群62からの排気ガスが第三合流通路162において集合した後に共通のタービン32に流通する構成の場合、排気干渉による出力性能の低下が問題となる場合がある。
【0024】
排気干渉を抑制する対策としては、例えば排気管の通路断面積を小さくすることが知られている。しかしながら、排気管の通路断面積を小さくし過ぎると、排気ガス流量が多い条件下において、通路断面積の小さい通路の排気上流側において排気管圧力が高くなり過ぎるおそれがある。その結果、気筒6内では押出損失の増大や筒内残留ガスの増加が起こり、出力低下や燃費悪化を招いてしまう。
【0025】
本実施の形態の内燃機関100の排気通路構造は、排気干渉を抑制しつつ出力性能を向上させるための特徴的な構成を有している。すなわち、本実施の形態の内燃機関100は、第一合流通路122に第一絞り部125を備え、第二合流通路142に第二絞り部145を備えている。第一絞り部125及び第二絞り部145は、第一合流通路122及び第二合流通路142のそれぞれにおいて、通路断面積が最小になるように構成された絞り部である。実施の形態1の内燃機関100では、第一絞り部125及び第二絞り部145は、第一合流通路122及び第二合流通路142の排気下流端(つまり、第三集合部161)に設けられている。
【0026】
また、1気筒の排気ポートの入口部(つまり、第一枝通路123の排気上流端)の通路断面積の合計値を基準通路断面積Aとし、第一合流通路122の第一絞り部125及び第二合流通路142の第二絞り部145の通路断面積をそれぞれ絞り断面積Bとした場合、内燃機関100の排気通路構造は、次式の関係が成り立つように構成される。なお、次式において、「N」は1気筒の排気弁8の弁数であり、「D」は排気ポート入口部の直径であり、「B/A」は、基準通路断面積Aに対する絞り断面積Bの割合である。
【0027】
A=N×D2×π/4 ・・・(1)
0.5≦(B/A)≦1.0 ・・・(2)
【0028】
また、内燃機関100の排気通路構造は、次式(3)の関係が成り立つように構成することが更に好ましい。
0.7≦B/A≦1.0 ・・・(3)
【0029】
3.実施の形態の内燃機関の作用及び効果
上述した条件を満たす第一絞り部125及び第二絞り部145を有する内燃機関100の排気通路構造では、これらの絞り部を有していない比較例の排気通路構造と比べて、排気行程の後半において筒内圧を低く抑えることができる。この作用について更に詳しく説明する。
【0030】
図2は、実施の形態の内燃機関における絞り部の作用を説明するための図である。なお、図中(A)は第一気筒#1((n)気筒)の直前の燃焼気筒である第四気筒#4((n-1)気筒)において、クランク角度に対する吸気弁リフト量、排気弁リフト量、及び筒内圧の変化を示している。図中(B)は第一気筒#1((n)気筒)において、クランク角度に対する吸気弁リフト量、排気弁リフト量、及び筒内圧の変化を示している。図中(C)は第一気筒#1((n)気筒)の直後の燃焼気筒である第五気筒#5((n+1)気筒)において、クランク角度に対する吸気弁リフト量、排気弁リフト量、及び筒内圧の変化を示している。図中(D)は、クランク角度に対するタービン32に流入する排気ガスの流量(タービン前流量)の変化を示している。図中(A)、(B)、(C)及び(D)では、実施の形態の第一絞り部125及び第二絞り部145を設けた排気通路構造の筒内圧変化或いはタービン前流量を実線で示し、第一絞り部125及び第二絞り部145を有していない比較例の排気ガス構造の筒内圧変化或いはタービン前流量を破線で示している。
【0031】
図中(B)に示すように、第一気筒#1の排気行程初期のT1区間では、自気筒の排気弁リフト量が小さいため、第一気筒#1から第一合流通路122へと流れる排気ガスの流量が少ない。このため、T1区間では、第一絞り部125を設けることによる影響は小さい。
【0032】
第一気筒#1の排気弁が最大リフトに向かってリフトアップしている排気行程のT2区間では、第一気筒#1の排気弁8と先に燃焼した第四気筒#4の排気弁8との両方が開いている。T2区間では、第一気筒#1の筒内圧が高い状態であるため、図中(A)の比較例では先に燃焼した第四気筒#4の排気ガス流量が抑制され、これにより第四気筒#4の押出損失が増加している。なお、第一気筒#1は筒内圧が高い状態であるため、押出損失が増加するような影響は少ない。また、図中(D)に示すように、T2区間では第一気筒#1と第四気筒#4の排気弁が開いているため、タービン前流量が多くなっている。
【0033】
第一気筒#1の排気弁が最大リフトとなる排気行程のT3区間では、第四気筒#4の排気弁8が閉じるため、第一気筒#1の排気弁8のみが開いている。このため、図中(D)に示すように、T3区間のタービン前流量は少なくなり、タービン32は大きな圧力損失を生じさせない。従って、図中(B)に示すように、T3区間では、第一合流通路122に第一絞り部125を設けることによる筒内圧上昇の影響は小さい。
【0034】
第一気筒#1の排気弁が閉弁に向かってリフトダウンしている排気行程のT4区間は、第一気筒#1の排気弁8と、後に燃焼した第五気筒#5の排気弁8との両方が開いている。T4区間は、第一気筒#1の筒内圧が第五気筒#5の筒内圧よりも低い。このため、図中(B)に鎖線で示す比較例では、第一気筒#1の排気ガスの排出が第五気筒#5の排気ガスの排出(流れ込み)に妨害されてしまい、第一気筒#1の筒内圧が上昇している。このように、比較例の内燃機関では、排気行程のT4区間において押出損失が増加してしまい、出力低下や燃費悪化を招いてしまう。
【0035】
これに対して、実施の形態の内燃機関100の排気通路構造では、第二合流通路142に第二絞り部145を設けているため、第五気筒#5からタービン32へと流れる排気ガスが比較例の排気通路構造よりも減少する。これにより、図中(B)に実線で示すように、第一気筒#1の筒内圧の上昇が抑制される。
【0036】
図3は、内燃機関の燃焼行程における筒内圧変化を示すP-V線図である。
図3において、比較例の排気通路構造の筒内圧変化は破線で示し、本実施の形態の排気通路構造の筒内圧変化は実線で示している。この図に示すように、実施の形態の排気通路構造では、排気行程での筒内圧が比較例の排気通路構造に比べて低く抑えられることによって押出損失が低減されることが分かる。
図4は、絞り断面積と燃料消費率との関係を示す模式図である。この図に示すように、基準通路断面積Aに対して絞り断面積Bを小さくすると、押出損失低減による燃料消費率の低減を図ることができる。また、排気行程の筒内圧を低下させることによりガス温度が低下するので、空燃比を更にリーン化することができる。これにより、燃料消費率の更なる低減を図ることができる。
【0037】
このように、実施の形態の内燃機関100によれば、排気行程の後半のT4区間において筒内圧の上昇を抑制することが可能となる。これにより、排気干渉を抑制しつつ出力低下や燃費悪化を防ぐことが可能となる。
【0038】
4.変形例
本実施の形態の内燃機関100に適用される排気通路構造は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0039】
4-1.タービン32の構造
図5は、変形例の排気通路構造に適用可能なタービンの断面図である。この図に示す例では、タービン32は、タービンスクロールの入口部321の入口断面積が基準通路断面積Aよりも大きくなるように構成されている。このような構成によれば、低い圧力であってもタービンへ排気ガスが流通し易くなるため、第一合流通路122から第二合流通路142への排気ガスの回り込み、或いは第二合流通路142から第一合流通路122への排気ガスの回り込みが抑制される。これにより、第一合流通路122の排気ガスと第二合流通路142の排気ガスとの排気干渉を抑制することができる。
【0040】
4-2.第一絞り部125及び第二絞り部145の配置
第一絞り部125は、第一合流通路122の途中であればその配置に限定はない。また、第二絞り部145についても、第二合流通路142の途中であればその配置に限定はない。ただし、第一絞り部125及び第二絞り部145の排気上流側の排気管圧力は、ガス流量が多いときに一時的に上昇する。このため、圧力上昇が大きすぎると、閉じている排気弁8が開いてしまうおそれがある。
【0041】
そこで、第一絞り部125及び第二絞り部145は、極力排気下流側に配置されることが好ましい。
図6は、第一絞り部及び第二絞り部の配置と排気管圧力との関係を説明するための図である。この図に示すように、第一絞り部125及び第二絞り部145が第一合流通路122及び第二合流通路142の排気下流側に配置された場合、排気上流側に配置された場合よりも排気管圧力が低く抑えられることが分かる。このように、第一絞り部125及び第二絞り部145を極力排気下流側に配置することにより、排気弁8から第一絞り部125及び第二絞り部145までの排気通容積を極力大きくすることができる。これにより、排気上流側の一時的な圧力上昇を抑制することができるので、排気弁8の意図しない開弁を防ぐことができる。
【0042】
また、第一絞り部125及び第二絞り部145の排気上流側の第一合流通路122及び第二合流通路142は、排気下流側ほど通路断面積が徐々に小さくなるように構成されていてもよい。このような構成によれば、排気抵抗を抑えつつ第一絞り部125及び第二絞り部145の排気上流側の排気通容積を大きくすることが可能となる。
【0043】
4-3.排気弁のリフト速度及び最大リフト位置
排気弁8のリフト速度或いは最大リフト位置に限定はない。ただし、排気弁8のリフト速度は、閉じ側よりも開き側のリフト速度を遅くすることが好ましい。或いは、排気弁8の最大リフト位置は、排気弁8の開弁開始位置と閉弁完了位置との間の中間位置よりも閉じ側にすることが好ましい。
【0044】
図7は、排気弁のリフト速度及び最大リフト位置の一例を示す図である。この図に示す例のように、排気弁8の開き側のリフト速度を閉じ側のリフト速度よりも遅くすると、排気行程初期の排気ガス流量が減少する。また、排気弁8の最大リフト位置を中間位置よりも閉じ側にすることとしても、排気行程初期の排気ガス流量が減少する。このような排気特性は、例えば排気弁8のカムプロフィールの設定によって実現することができる。このような構成によれば、第一気筒群61の排気行程において第一合流通路122から第二合流通路142へと流れ込む排気ガス流量、或いは第二気筒群62の排気行程において第二合流通路142から第一合流通路122へと流れ込む排気ガス流量を減らすことができる。これにより、排気上流側の一時的な圧力上昇を抑制することができるので、排気弁8の意図しない開弁を防ぐことができる。
【0045】
4-4.内燃機関
上述した実施の形態では、各気筒の排気ガスを6-2-1の順に集合させる直列6気筒の内燃機関100を例に説明したが、本開示の排気通路構造を適用可能な内燃機関はこれに限られない。すなわち、内燃機関は、複数の気筒の排気を2段階を経て1つの排気通路に集合させてタービンに導く構成であれば、例えば、4-2-1の順に排気ガスを集合させてタービンへと導く直列4気筒エンジンでもよい。また、内燃機関100の排気弁8の個数についても限定はない。
【符号の説明】
【0046】
6 気筒
8 排気弁
10 エンジン本体
12 第一排気通路
14 第二排気通路
18 バイパス配管
30 ターボチャージャ
32 タービン
34 コンプレッサ
36 排気通路
38 触媒
40 吸気通路
61 第一気筒群
62 第二気筒群
100 内燃機関
121 第一多岐通路
122 第一合流通路
123 第一枝通路
124 第一集合部
125 第一絞り部
141 第二多岐通路
142 第二合流通路
143 第二枝通路
144 第二集合部
145 第二絞り部
161 第三集合部
162 第三合流通路