(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】分子変換部材、積層体及び基材の改質方法
(51)【国際特許分類】
C07B 61/00 20060101AFI20231219BHJP
C07F 7/28 20060101ALN20231219BHJP
C07F 5/04 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C07B61/00 B
C07F7/28 B
C07F5/04 A
(21)【出願番号】P 2020520367
(86)(22)【出願日】2019-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2019020435
(87)【国際公開番号】W WO2019225696
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018100151
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 達夫
(72)【発明者】
【氏名】井 宏元
(72)【発明者】
【氏名】牧島 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】北 弘志
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-208673(JP,A)
【文献】特開2012-204090(JP,A)
【文献】特開平09-248467(JP,A)
【文献】特開平04-174679(JP,A)
【文献】特開2005-325459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子Aと反応し前記分子Aと異なる特性・機能を持った分子Bに変換することのできる分子Cを含有し、
前記分子Aが、
水、アンモニア又は硫化水素であり
、
前記分子Cが、
前記分子Aをイソプロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトライソプロピル又はホウ酸トリイソプロピル、若しくは、前記分子Aを2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピルである
ことを特徴とする分子変換部材。
【請求項2】
前記分子Cが、水、アンモニア又は硫化水素(前記分子A)をイソプロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトライソプロピル、硫化水素(前記分子A)をイソプロパノール(前記分子B)に変換できるホウ酸トリイソプロピル、又は、水(前記分子A)を2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピルである
ことを特徴とする請求項1に記載の分子変換部材。
【請求項3】
前記分子Cが、硫化水素(前記分子A)をイソプロパノール(前記分子B)に変換できるホウ酸トリイソプロピル、又は、水(前記分子A)を2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピルである
ことを特徴とする
請求項1に記載の分子変換部材。
【請求項4】
前記分子Cが、水(前記分子A)を2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピルである
ことを特徴とする
請求項1に記載の分子変換部材。
【請求項5】
変換された
2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)によって撥水性が付与される
ことを特徴とする請求項
4に記載の分子変換部材。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載の分子変換部材を具備する
ことを特徴とする積層体。
【請求項7】
基材の改質方法であって、
請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載の分子変換部材を前記基材に接触させて改質する
ことを特徴とする基材の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子変換部材、積層体及び基材の改質方法に関する。より詳しくは、特定分子を特性・機能が異なる分子に変換する機能を有する化合物を含有する分子変換部材及びそれを用いた積層体等に関する。
【背景技術】
【0002】
高機能を持つ装置や構造物の中には、例えばH2OやH2SやNH3が原因で不具合を発生するものがあり、その解決策の一つとして高機能のバリアー特性を持つフィルムなどを用いることが効果的である。バリアー特性を持つフィルムとしては、H2Oなどの透過を抑制する分子ふるいの機能を持つフィルムや薄膜などが利用されている(例えば、特許文献1参照)。分子ふるいは単純に分子サイズが小さくなるほど隙間を狭くする必要があり、薄膜で行う場合は緻密で連続性の良好な膜が必要となる。その結果、緻密と連続性とは、通常トレード・オフとなる。例えば、緻密性を求める場合は、シリカやアルミナなどのセラミックスの秩序化されたもので膜を形成することが好ましく、その製法は真空成膜が好適である。また、連続性は、例えば、ポリマーや有機低分子化合物のアモルファス膜により付与され、その製法は塗布成膜が好適である。
【0003】
一方、緻密性と連続性を両立させようとすると、前記の真空成膜法によるセラミックス膜と塗布成膜法によるポリマーやアモルファス膜を積層すること、好ましくはそれらを何段にも積み重ねることで対処できるが、当然作製コストが高くなるため、産業界では広く普及していない。このような状況が現在の高機能のバリアーフィルムの現状であり、これを根本的に打破することはいまだできていない。
【0004】
また一方、機能性を持つ微粒子などでは、H2OやH2SやNH3が表面反応を起こして機能を損なう場合がある。特にH2SやNH3は配位力が高く、反応性も強く、イオン性もあるため、様々な機能性粒子の性能を変化させてしまう。その場合には、該微粒子の表面に不透過層を形成することが必要となるが、これも前記と同様で、緻密性と連続性の両立が必要で、そのトレード・オフの解消が難しい。
したがって、上述のように、特定状況下で、例えばH2O、H2S及びやNH3等の特定分子の悪影響を防ぐ方法は、必ずしも十分ではなく、更に高度の改良手段の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、特定分子を特性・機能が異なる分子に変換する機能を有する化合物を含有する分子変換部材、積層体及び基材の改質方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因となる障害性を有する特定分子に対してバリアー性のある材料の作用機構を種々の観点から検討する過程において、当該特定分子を特性・機能の異なる分子に変換することにより、新たな付加価値を生み出すことができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.分子Aと反応し前記分子Aと異なる特性・機能を持った分子Bに変換することのできる分子Cを含有し、
前記分子Aが、水、アンモニア又は硫化水素であり、
前記分子Cが、前記分子Aをイソプロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトライソプロピル又はホウ酸トリイソプロピル、若しくは、前記分子Aを2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピルである
ことを特徴とする分子変換部材。
2.前記分子Cが、水、アンモニア又は硫化水素(前記分子A)をイソプロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトライソプロピル、硫化水素(前記分子A)をイソプロパノール(前記分子B)に変換できるホウ酸トリイソプロピル、又は、水(前記分子A)を2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピルである
ことを特徴とする第1項に記載の分子変換部材。
3.前記分子Cが、硫化水素(前記分子A)をイソプロパノール(前記分子B)に変換できるホウ酸トリイソプロピル、又は、水(前記分子A)を2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピルである
ことを特徴とする第1項に記載の分子変換部材。
4.前記分子Cが、水(前記分子A)を2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)に変換できるオルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピルである
ことを特徴とする第1項に記載の分子変換部材。
5.変換された2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(前記分子B)によって撥水性が付与される
ことを特徴とする第4項に記載の分子変換部材。
【0014】
6.第1項から第5項までのいずれか一項に記載の分子変換部材を具備する
ことを特徴とする積層体。
【0015】
7.基材の改質方法であって、
第1項から第5項までのいずれか一項に記載の分子変換部材を前記基材に接触させて改質する
ことを特徴とする基材の改質方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、特定分子を特性・機能が異なる分子に変換する機能を有する化合物を含有する分子変換部材、積層体及び基材の改質方法を提供することができる。
【0017】
本発明の発想の基本的考え方及び発明の効果の発現機構又は作用機構については、対象となる特定分子等によって異なり一概に言えないが、一例として以下のように考えられる。
そもそも、H2OやH2SやNH3が非常に小さい分子サイズ(どれも1nm未満)であることが、全てを難しくさせているとの仮説を立てて、次のように考えられる。つまり、それらの分子をより大きな分子に変換する機能があれば、緻密性と連続性の両立は必要で無くなり、連続性さえ担保できれば、あとは変換した後の分子サイズのものを透過させない分子ふるいにすればいいだけの話であり、それならば必ずしも真空成膜法で形成されるセラミックの層は必要でなくなるということになる。
【0018】
したがって、本発明の一形態としては、性能や物性に悪影響を与えるサイズの小さな分子を大きな分子に変換する機能を持つ組成物や膜によって構築されるものであり(以下において、このような機能を持つ組成物や膜のことを「分子サイズ変換メディア」ともいう。)、さらには、応用発明の一形態としては、その分子サイズ変換メディアとガスバリアー性も持つ薄膜やフィルムとの積層体も範疇に入る。
【0019】
例えば、本発明の分子変換部材の効果の発現機構の一例としては、特定分子Aと反応し前記分子Aと異なる特性・機能を持った分子Bに変換する機構としては、まず、特定分子Aが分子Cと反応して、当該分子が分子Aに取り込まれると伴に、それを契機として、特性・機能が相違する、すなわち、物理・化学的特性が相違する分子Bを放出する機構が考えられる。
また、当該分子Bが、例えば他の物質に対して改質性(例えば撥水性、疎水性等)を付与できるという機能・特性を持った分子である場合、放出された分子Bを効果的に利用できる作用機構も考えられる。
なお、具体的例については、後述する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の分子変換部材は、分子Aと反応し前記分子Aと異なる特性・機能を持った分子Bに変換することのできる分子Cを含有することを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0022】
本発明の実施形態としては、本発明の効果発現の観点から、前記分子Bが、前記分子Cから放出されることが好ましい。この場合、前記分子Cによって、前記分子A及び前記分子Bの特性・機能の発現性を制御できることが好ましい。さらに、前記分子Aが、前記分子変換部材が用いられる環境下において、気体状であることが好ましい。
本発明の実施形態としては、前記分子Bの有効活用の観点から、前記分子Aと前記分子Bの物理・化学的特性が異なることが好ましい。例えば、前記分子Bの分子量が、前記分子Aの分子量より大きいことが好ましい。
【0023】
本発明の分子変換部材は、特定の目的を持った積層体や、基材の改質方法に好適に用いることができる。
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0024】
(分子変換部材の概要)
本発明の分子変換部材は、分子Aと反応し前記分子Aと異なる特性・機能を持った分子Bに変換することのできる分子Cを含有することを特徴とする。また、本発明の効果発現の観点から、前記分子Bが、前記分子Cから放出されることが好ましい。
本発明に係る分子Aとしては、種々の分子が対象となり得て、特に限定されるものではないが、例えば、水(H2O)、硫化水素(H2S)、アンモニア(NH3)、二酸化窒素(NO2)等が挙げられる。本発明においては、特に、分子Aがガス状のものであることが好ましい。
【0025】
本発明に係る分子Bとしては、目的に応じて、分子Aとは特性・機能が異なる分子であることを要する。本発明に係る分子Bとしては、特に限定されるものではないが、例えば、直鎖アルコール類(メタノール、エタノール、n-ドデカノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1―プロパノール等)、分岐アルコール類(i-プロパノール、t-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール等)、フェノール類(フェノール、ナフトール等)、芳香族アルコール類(ベンジルアルコール等)、カルボキシルアルカン(酢酸、吉草酸、トリフルオロ酢酸等)、アミン類(ジメチルアミン、トリエチルアミン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸フェニル等)及びエーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等)等を挙げることができる。分子Bは気体、液体、固体のいずれであってもよい。また、分子Cについては、発生させる分子Bの化学種に応じて適切な分子を採用することを要する。
具体的には、例えば、変換対象である分子Aとして水蒸気を選び、分子Cとしてフッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドを選んだ場合、当該金属アルコキシドに水蒸気を反応させ加水分解を誘起させると、分子Bとしてフッ化アルコールを生成させることができる。また、生成したフッ化アルコールについては、その特性・機能の一つとして、例えば、基材等の物質表面に撥水性を付与するという活用が考えられる。
なお、上記の硫化水素(H2S)及びアンモニア(NH3)についても同様の作用効果があることが考えられる。
【0026】
上記の金属アルコキシドの例から分かるように、分子Cの構造又は分子Cからなる結晶の構造によって、前記分子A及び前記分子Bの特性・機能の発現性を制御することができる。
実施形態としては、同様に上記例から分かるように、分子Aが、前記分子変換部材が用いられる環境下において気体状であることが、本発明の分子変換部材の特長を発現しやすい点で好ましい。
一方、分子Bの有効活用の観点からは、分子Aと分子Bの物理・化学的特性が相違することが好ましく、例えば、前記分子Bの分子量が、前記分子Aの分子量より大きいことが好ましい。ここで、「物理・化学的特性」とは、分子の質量、物理的構造・状態(気体、液体、固体等)、物理的作用、化学的構造、化学反応性、化学的作用等をいう。
【0027】
本発明の分子変換部材の作製方法の一例については、詳しく後述するが、ゾル・ゲル法を用いる工程を有する作製方法であることが好ましい。したがって、分子変換部材は、少なくともゾル・ゲル転移された塗布膜からなる部材であることが好ましい。
以下において、実施形態の一例として、変換対象である分子Aとして水蒸気を選び、分子Cとしてフッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドを選んだ場合について、具体的に説明する。
【0028】
(分子変換部材の形態例)
本発明の分子変換部材は、本発明に係る分子Cとして、水蒸気(分子A)と反応して、水とは特性・機能が異なる分子B、例えば有機化合物を放出し得る有機金属化合物を含有させることができる。当該分子変換部材は、有機金属酸化物からなる膜とした形態、バインダーのような媒体中に前記有機金属酸化物を含有させた形態、及び基材上に前記有機金属酸化物を含有する層を設けた積層体とした形態等種々の形態をとり得る。
例えば、有機金属化合物としてフッ化アルコキシ基を有する金属アルコキシドを使用した場合、当該金属アルコキシドは、水と反応して、乾燥剤(デシカント剤)として作用するとともに、水分により加水分解され、本発明に係る分子Bとしてフッ化アルコールが生成し、放出され得る。
したがって、放出されたフッ化アルコールが、撥水性及び/又は撥油性を有する場合は、そのような特性を活用することができる。例えば、上記積層体の場合基材の表面を当該フッ化アルコールによって撥水性等の特性を付与して改質できる。
【0029】
本発明において好ましく用いることのできる有機金属酸化物としては、金属アルコキシドを過剰のアルコール存在下で加アルコール分解して、アルコール置換した有機金属酸化物又は有機金属酸化物の重縮合体である。なお、加アルコール分解の際に、ヒドロキシ基のβ位にフッ素原子が置換した長鎖アルコールを用いることで、フッ化アルコキシドを含有する有機金属酸化物とすることができる。
【0030】
以下において、本発明の原理を模式図で説明する。本発明の原理概念を模式図(1)と模式図(2)により示した概念図である。すなわち、当該模式図(1)において、分子Aが分子Cと反応し、機能性分子Bを放出する様子を示す。この模式図(1)において、図形○はH(水素原子)、図形◇はOH、図形▽はORf(フッ化アルコキシ基)、及び図形□はTi(ORf)3(チタンアルコキシド)であるとすると、下記反応式(1)で表される本発明に係る反応の機構の一例が、模式図(2)で具体的に説明することができる。
反応式(1)
H2O + Ti(ORf)4 → (RfO)3TiOH + RfOH
【0031】
なお、上記有機金属酸化物とは異なる本発明に係る他の化学種に関する例の反応式を下記に記載するが、これらについても、模式図(1)に示した反応機構と同様に表現することができる。
H2O + Ti(OiPr)4 → (iPrO)3TiOH
+ iPrOH
H2S + B(OiPr)3 → (iPrO)2BSH
+ iPrOH
NH3 + Ti(OEt)4 → (EtO)3TiNH2
+ EtOH
【0032】
【0033】
一方、前記有機金属酸化物は、焼結や紫外線を照射することで、ゾル・ゲル反応を促進し重縮合体を形成するものとすることができる。その際、前記ヒドロキシ基のβ位にフッ素原子が置換した長鎖アルコールを用いると、フッ素の撥水効果により金属アルコキシド中の金属周りに存在する水分の頻度因子を減少させることで、加水分解速度が減少し、当該現象を利用することで3次元の重合反応を抑え、所望の有機金属酸化物を含有する均一で稠密な分子変換部材を形成しうるという特徴がある。
本発明に係る有機金属酸化物は、以下の反応スキームIに示す反応性を有するものである。なお、焼結後の有機金属酸化物の重縮合体の構造式において、「O-M」部の「Mは、さらに置換基を有しているが、省略してある。
【0034】
【0035】
上記有機金属酸化物が、焼結又は紫外線照射により重縮合して形成された分子変換部材は、以下の反応スキームIIによって、系外からの水分(H2O)によって加水分解し、フッ化アルコール(R′-OH)を放出する。
すなわち、加水分解によって生成したフッ化アルコールが撥水性を有する場合、乾燥性(デシカント性)に加え、水分との反応により撥水機能が付加されて、乾燥性に相乗効果(シナジー効果)を発揮するという特徴を有する。
なお、下記構造式において、「O-M」部の「M」は、さらに置換基を有しているが、省略してある。
【0036】
【0037】
本発明に係る有機金属錯体は、下記一般式(1)で表される構造を有する有機金属酸化物を主成分として含有することが好ましい。「主成分」とは、前記有機金属酸化物の全体の質量のうち、70質量%以上が撥水性物質を放出する前記有機金属酸化物であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。
【0038】
一般式(1) R-[M(OR1)y(O-)x-y]n-R
(式中、Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基又は複素環基を表す。ただし、Rは置換基としてフッ素原子を含む炭素鎖でもよい。Mは、金属原子を表す。OR1は、フッ化アルコキシ基を表す。xは金属原子の価数、yは1とxの間の任意な整数を表す。nは重縮合度をそれぞれ表す。)
また、本発明の分子変換部材のフッ素比率が、下記式(a)を満たすことが好ましい。
【0039】
式(a) 0.05≦F/(C+F)≦1
式(a)の測定意義は、ゾル・ゲル法により作製した分子変換部材がある量以上のフッ素原子を必要とすることを数値化するものである。上記式(a)のF及びCは、それぞれフッ素原子及び炭素原子の濃度を表す。
式(a)の好ましい範囲としては、0.2≦F/(C+F)≦0.6の範囲である。
【0040】
上記フッ素比率は、分子変換部材形成に使用するゾル・ゲル液をシリコンウェハ上に塗布して薄膜を作製後、当該薄膜をSEM・EDS(Energy Dispersive
X-ray Spectoroscopy:エネルギー分散型X線分析装置)による元素分析により、それぞれフッ素原子及び炭素原子の濃度を求めることができる。SEM・EDS装置の一例として、JSM-IT100(日本電子社製)を挙げることができる。
SEM・EDS分析は、高速、高感度で精度よく元素を検出できる特徴を有する。
【0041】
本発明に係る有機金属酸化物は、ゾル・ゲル法を用いて作製できるものであることが好ましく、例えば、「ゾル-ゲル法の科学」P13、P20に紹介されている金属、リチウム、ナトリウム、銅、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、イットリウム、ケイ素、ゲルマニウム、鉛、リン、アンチモン、バナジウム、タンタル、タングステン、ランタン、ネオジウム、チタン、ジルコニウムから選ばれる1種以上の金属を含有してなる金属酸化物を例として挙げることができる。好ましくは、前記Mで表される金属原子は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)から選択されることが、本発明の効果を得る観点から好ましい。
【0042】
上記一般式(1)において、OR1はフッ化アルコキシ基を表す。
R1は、少なくとも一つフッ素原子に置換したアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基、アルコキシ基、複素環基を表す。各置換基の具体例は後述する。
【0043】
Rは、水素原子、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基又は複素環基を表す。又はそれぞれの基の水素の少なくとも一部をハロゲンで置換したものでもよい。また、ポリマーでもよい。
【0044】
アルキル基は、置換又は未置換のものであるが、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル等であるが、好ましくは炭素数が8以上のものがよい。またこれらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0045】
アルケニル基は、置換又は未置換のもので、具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキシセニル基等があり、好ましくは炭素数が8以上のものがよい。またこれらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0046】
アリール基は、置換又は未置換のもので、具体例としては、フェニル基、トリル基、4-シアノフェニル基、ビフェニル基、o,m,p-テルフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、9-フェニルアントラニル基、9,10-ジフェニルアントラニル基、ピレニル基等があり、好ましくは炭素数が8以上のものがよい。またこれらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0047】
置換又は未置換のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等でありが好ましくは炭素数が8以上のものがよい。またこれらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0048】
置換又は未置換のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボナン基、アダマンタン基、4-メチルシクロヘキシル基、4-シアノシクロヘキシル基等であり好ましくは炭素数が8以上のものがよい。またこれらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0049】
置換又は未置換の複素環基の具体例としては、ピロール基、ピロリン基、ピラゾール基、ピラゾリン基、イミダゾール基、トリアゾール基、ピリジン基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、トリアジン基、インドール基、ベンズイミダゾール基、プリン基、キノリン基、イソキノリン基、シノリン基、キノキサリン基、ベンゾキノリン基、フルオレノン基、ジシアノフルオレノン基、カルバゾール基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、チアゾール基、チアジアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ビスベンゾオキサゾール基、ビスベンゾチアゾール基、ビスベンゾイミダゾール基等がある。またこれらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0050】
置換又は未置換のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピメロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、オレオイル基、エライドイル基、マレオイル基、フマロイル基、シトラコノイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、グリコロイル基、ラクトイル基、グリセロイル基、タルトロノイル基、マロイル基、タルタロイル基、トロポイル基、ベンジロイル基、サリチロイル基、アニソイル基、バニロイル基、ベラトロイル基、ピペロニロイル基、プロトカテクオイル基、ガロイル基、グリオキシロイル基、ピルボイル基、アセトアセチル基、メソオキサリル基、メソオキサロ基、オキサルアセチル基、オキサルアセト基、レブリノイル基これらのアシル基にフッソ、塩素、臭素、ヨウ素などが置換してもよい。好ましくはアシル基の炭素は8以上良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでもよい。
【0051】
本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する有機金属酸化物を形成するための、金属アルコキシド、金属カルボキシレート及びフッ化アルコールの具体的な組み合わせについて、以下に例示する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
前記金属アルコキシド、金属カルボキシレートとフッ化アルコール(R′-OH)は以下の反応スキームIII~Vで示す反応機構によって、本発明に係る有機金属酸化物となる。ここで、(R′-OH)としては、以下のF-1~F-16の構造が例示される。
【0053】
【0054】
【0055】
本発明に係る金属アルコキシド又は金属カルボキシレートは、以下のM(OR)n又はM(OCOR)nに示す化合物が例示され、本発明に係る有機金属酸化物は、前記(R′-OH:F-1~F-16)との組み合わせにより、下記例示化合物番号1~140の構造を有する化合物(下記例示化合物I、II 、III及びIV参照。)となる。前記スキームIVの「M(OR)n」と「R′OH」の例を例示化合物I及びIIに、また前記スキームVの「M(OCOR)n」と「R′OH」の例を例示化合物III及びIVに示す。本発明に係る有機金属酸化物は、ただしこれに限定されるものではない。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
(分子変換部材の作製方法)
本発明の分子変換部材の一例としては、吸水することにより、撥水性又は疎水性物質を放出する前記有機金属酸化物を含有する。なお、前記分子変換部材の全体の質量のうち、1質量%以上が前記有機金属酸化物であることが好ましく、より好ましく10質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0061】
本発明の分子変換部材は、前記本発明の有機金属酸化物を含む塗布液を調製し、電子デバイス上に塗布・乾燥することで形成することができるが、更に焼結又は紫外線を照射して重縮合させながら皮膜化させてもよい。また、有機金属酸化物とともに薄膜を形成可能なバインダーとしてポリマーを利用することもできる。
利用可能なポリマーとしては例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができる。
【0062】
塗布液を調製する際に必要であれば用いることのできる有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、又は、脂肪族エーテル又は脂環式エーテル等のエーテル類等が適宜使用できる。
塗布液における本発明の有機金属酸化物の濃度は、目的とする厚さや塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2~35質量%程度であることが好ましい。塗布液には重合を促進する触媒を添加することも好ましい。
【0063】
調製した塗布液は、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、インクジェットプリント法を含む印刷法などのパターニングによる方法などの湿式形成法が挙げられ、材料に応じて使用できる。これらのうち好ましいのは、インクジェットプリント法である。インクジェットプリント法については、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。
【0064】
インクジェットプリント法によるインクジェットヘッドからの塗布液の吐出方式は、オンデマンド方式及びコンティニュアス方式のいずれでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型等の電気-機械変換方式、又は、サーマルインクジェット型及びバブルジェット(登録商標)型等の電気-熱変換方式等のいずれでもよい。
【0065】
本発明の分子変換部材は、60℃・90%RH環境下で1時間放置されたときに、分子変換部材表面に、フッ素原子がどれだけ配向するか推定するために、23℃雰囲気下での純水の接触角を測定することが好ましく、この時の放置後の接触角が放置前の接触角に比べて増加する場合は、より撥水性が向上し、水分透過の封止性が高まる。
【0066】
〔接触角の測定〕
接触角の測定は、公知文献「接着の基礎と理論」(日刊工業新聞社)p52-53に記載の液適法を参考にして以下の方法で測定することができる。
【0067】
具体的には、分子変換部材表面の純水の接触角の測定は、JIS-R3257に基づいて、60℃、90%RHで1時間放置した前後の分子変換部材試料に対して、23℃、55%RHの雰囲気下で、接触角計(協和界面科学株式会社製、商品名DropMaster DM100)を用いて、純水1μLを滴下し1分後における接触角を測定する。なお、測定は分子変換部材幅手方向に対して等間隔で10点測定して、最大値及び最小値を除いてその平均値を接触角とする。
【0068】
本発明の分子変換部材の厚さは、ドライ膜で10nm~100μm、より好ましくは、0.1~1μmの範囲であることが、分子変換効果を発現する上で好ましい。
【0069】
(基材)
本発明の分子変換部材に用いることができる基材としては、特に制限がなく、その材料、形状、構造、厚さ等については公知のものの中から適宜選択することができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380~800nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、特に好ましい。中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0070】
本発明に用いられる基材には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。
【0071】
(分子変換部材の用途)
本発明の分子変換部材は、種々の技術分野で用いることができるが、特に、電子デバイスの部材として好適に用いることができる。
前記電子デバイスとしては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)、液晶素子、太陽電池(光電変換素子)、タッチパネル、液晶表示装置などのカラーフィルター等が挙げられる。特に、本発明においては、本発明の効果発現の観点から、電子デバイスが有機EL素子、太陽電池及び発光ダイオードであることが好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]:水透過性の評価
<サンプルの作製>
窒素雰囲気下のグローブボックス内で、エポキシ樹脂(YX8000(三菱ケミカル社製))1.0gをクロロホルム100mLに溶かした塗布溶液A-1を調製した。続いて同グローブボックス内に設置したスピンコート装置を用いて、厚さ100μmのPETフィルム上に塗布溶液A-1を用いてスピンコート法により、オルトチタン酸テトライソプロピルを含有するエポキシ樹脂膜(膜厚200nm、サンプル1-1)を作製した。
【0074】
次に、塗布溶液A-1の調製時のエポキシ樹脂をアクリル樹脂に代えた塗布溶液A-2を調製した以外は同様にして、サンプル1-2を調製した。
続いて、塗布溶液A-1にオルトチタン酸テトライソプロピル(0.1g)を添加した以外は同様にしてサンプル1-3を作製した。
更に、塗布溶液A-2にオルトチタン酸テトライソプロピル(0.1g)を添加した以外は同様にしてサンプル1-4を作製した。
【0075】
<サンプル1-1~1-4の評価>
窒素雰囲気化のグローブボックス内で、樹脂膜サンプル1-1を直径5cm、高さ1cmのガラス製シャーレの開口部に接着剤で貼り付けることでシールしたシャーレをデシケータ中に保管し、グローブボックスから出し、デシケータ内の雰囲気を25℃、湿度50%のエアーと交換し、24時間その状態を保った。その後、デシケータからシャーレを取り出し、シャーレ内のガス(水蒸気)をカール・フィッシャー水分計((株)三菱ケミカルアナリテック製、CA-100)を用いて測定し、水分の有無を検出した。
同様にしてサンプル1-2~1-4についても評価を行った。測定結果を表Iに示す。
なお、カール・フィッシャー法による測定において、水分量の測定値が測定ばらつき幅(測定誤差範囲内)の数値以下である場合を水の検出なしとした。
【0076】
【0077】
表Iに示した結果から明らかなように、本発明に係るサンプルでは、水が実質上検出されなかった。
【0078】
[実施例2]:フッ化アルコールの放出の評価
<オルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピル(Co
mp-1)の調製>
窒素雰囲気下で100mLの2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(「PFPO」と略記する。東京化成工業社製)にオルトチタン酸テトライソプロピル(東京化成工業社製)を添加し、25℃で1時間撹拌を続けた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、オルトチタン酸テトラ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピル(Comp-1)を得た。
【0079】
<サンプルの作製>
窒素雰囲気下のグローブボックス内で、エポキシ樹脂(YX8000(三菱ケミカル(株)製))1.0gをクロロホルム100mLに溶かした塗布溶液B-1を調製した。続いて同グローブボックス内に設置したスピンコート装置を用いて、厚さ100μmのPETフィルム上に塗布溶液B-1を用いてスピンコート法により、エポキシ樹脂膜(膜厚200nm、サンプル2-1)を作製した。
次に、塗布溶液B-1の調製時のエポキシ樹脂をアクリル樹脂に代えた塗布溶液B-2を調製した以外は同様にして、サンプル2-2を調製した。
続いて、塗布溶液B-1にComp-1(0.1g)を添加した以外は同様にしてサンプル2-3を作製した。
【0080】
更に、塗布溶液B-2にComp-1(0.1g)を添加した以外は同様にしてサンプル2-4を作製した。
<サンプル2-1~2-4の評価>
窒素雰囲気化のグローブボックス内で、樹脂膜サンプル2-1を直径5cm、高さ1cmのガラス製シャーレの開口部に接着剤で貼り付けることでシールしたシャーレをデシケータ中に保管し、グローブボックスから出し、デシケータ内の雰囲気を25℃、湿度50%のエアーと交換し、24時間その状態を保った。その後、デシケータからシャーレを取り出し、シャーレ内のガスをガスクロマトグラフィー(測定装置:島津製作所製Nexis GC-2030、カラム:DB-624(0.25mmid×30m,膜厚1.4μm)、昇温条件:40℃-2℃/min-70℃-20℃/min-260℃、検出器温度:280℃)で測定し、PFPOの有無を検出した。
同様にしてサンプル2-2~2-4についても評価を行った。測定結果を表IIに示す。
【0081】
【0082】
表IIに示した結果から明らかなように、本発明に係るサンプルについては、フッ化アルコール(PFPO)が検出された。
【0083】
[実施例3]:撥水性の評価
実施例2で作製したサンプル2-1~2-4の作製直後及びシャーレに貼り付けてデシケータ中で25℃、湿度50%の環境下で2週間保存した場合の樹脂溶液塗布面側の水の接触角を測定し、表IIIに示す
更に、サンプル2-1に市販の撥水スプレー(3M スコッチガード はっ水・防汚スプレーSG-P345i)で撥水加工したサンプル3-1を用意し、他のサンプルと同様に2週間保存した場合の評価結果を示す。
水の接触角の測定は、JIS-R3257に準拠して行った。すなわち、サンプルに対して、23℃、55%RHの雰囲気下で、接触角計(協和界面科学株式会社製、商品名DropMaster DM100)を用いて、純水1μLを滴下し1分後における接触角を測定した。なお、測定は有機薄膜幅手方向に対して等間隔で10点測定して、最大値及び最小値を除いてその平均値を接触角とした。
なお、表中の接触角の数値(平均値)は、作製直後のサンプル2-1の接触角を100とした場合の相対値で示す。
【0084】
【0085】
表IIIに示した結果から明らかなように、比較例のサンプルについては、2週間保存後に水の接触角が小さくなっている。これに対し、本発明に係るサンプルでは、接触角が大きくなっており、放出されたフッ化アルコールによりサンプル表面に撥水性が付与されたことを示していると推察される。
【0086】
[実施例4] アンモニアガスの影響の評価
実施例1のサンプル1-1~1-4の保管をアンモニアガス比率20%のドライエア雰囲気下で実施し、保管後のシャーレ内のアンモニアガスの有無をアンモニアガス検知管(株式会社ガステック社製、アンモニアガス検知管(3DL))で検出し、シャーレ内のイソプロパノール(IPA)をガスクロマトグラフィー(測定装置:島津製作所製Nexis GC-2030、カラム:DB-624(0.25mmid×30m,膜厚1.4μm)、昇温条件:40℃-2℃/min-70℃-20℃/min-260℃、検出器温度:280℃)で検出した。評価結果を表IVに示す。
上記と同様にしてサンプル1-2~1-4についても評価を行った。測定結果を表IVに示す。
【0087】
【0088】
表IVに示した結果から明らかなように、本発明に係るサンプルでは、金属酸化物がアンモニアガスと反応してイソプロパノール(IPA)を放出したことが分かる。
【0089】
[実施例5]:硫化水素ガスの影響の評価
<サンプルの作製>
更に、塗布溶液A-1にホウ酸トリイソプロピル(0.1g、東京化成工業社製)を添加した以外は同様にして、本発明のサンプル5-1を作製した。
【0090】
<サンプル5-1評価>
窒素雰囲気化のグローブボックス内で、樹脂膜サンプル5-1を直径5cm、高さ1cmのシャーレの開口部に接着剤で貼り付けデシケータ中に保管し、グローブボックスから出し、デシケータ内の雰囲気を硫化水素ガスを100ppm含有したドライエアと交換し、24時間その状態を保った。その後、デシケータからシャーレを取り出し、シャーレ内のガスを硫化水素検知管(株式会社ガステック社製、硫化水素検知管(4LT))を用いて測定し、硫化水素の有無を検出した。
同様に評価したサンプル1-1でシールしたシャーレ内からは硫化水素ガスの存在を検出したが、サンプル5-1でシールしたシャーレ内からは硫化水素を検出することができなかった。
【0091】
[実施例6]:硫化水素ガスの影響の評価その2
<サンプルの作製>
更に、塗布溶液A-1にホウ酸トリイソプロピル(0.1g、東京化成工業社製)及びオルトチタン酸テトライソプロピル(0.1g)を添加した以外は同様にして、本発明のサンプル6-1を作製した。
【0092】
<サンプル6-1評価>
樹脂膜サンプル6―1について、実施例5の樹脂膜サンプル5-1と同様の処置を行った後、シャーレ内のガスを硫化水素検知管(株式会社ガステック社製、硫化水素検知管(4LT))を用いて測定したが、硫化水素を検出することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の分子変換部材は、特定分子を特性・機能が異なる分子に変換する機能を有する化合物を含有し、種々の電子デバイスの部材として好適に用いることができる。特に、有機EL素子、太陽電池及び発光ダイオードに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 PETフィルム
2 評価サンプル
3 接着剤
4 ガラス製シャーレ