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特許7405082自己接着性、再成型性、傷修復性を示すソフトな架橋ポリエステル樹脂・フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】自己接着性、再成型性、傷修復性を示すソフトな架橋ポリエステル樹脂・フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/91 20060101AFI20231219BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20231219BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20231219BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08G63/91
C08G59/42
B32B27/36
B29C35/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020539504
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033530
(87)【国際公開番号】W WO2020045439
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2018158180
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019036761
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019150283
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 幹大
(72)【発明者】
【氏名】高須 昭則
(72)【発明者】
【氏名】矢野 稜人
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-142869(JP,A)
【文献】特開昭52-005849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/91
C08G 59/42
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル結合を多点で含む高分子主鎖と、エステル結合とフリーOH基を含む多点の共有結合架橋部分を含むポリエステル樹脂、及びエステル交換触媒を含み、
前記フリーOH基に対する前記エステル交換触媒のモル比(フリーOH基:エステル交換触媒)は、1:0.1~1:0.4である架橋ポリエステル樹脂。
【請求項2】
エステル結合とカルボン酸基を多点で含むポリエステル樹脂原料と、ジエポキシ架橋剤と、前記エステル交換触媒を混合し、加熱して架橋することにより得られる請求項1に記載の架橋ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂原料の平均分子量は8000以上、前記ポリエステル樹脂原料が有するポリエステル結合の数は100個以上である請求項2に記載の架橋ポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂原料のカルボン酸基の割合は、前記ポリエステル樹脂原料のエステル基に対して、10mol%~50mol%であって、架橋反応における前記ポリエステル樹脂原料が有するカルボン酸基と前記ジエポキシ架橋剤が有するエポキシ基の割合(カルボン酸基:エポキシ基)は、1:0.5~1:1.5である請求項2又3に記載の架橋ポリエステル樹脂。
【請求項5】
エステル結合とカルボン酸基を多点で含むポリエステル樹脂原料と、ジエポキシ架橋剤と、エステル交換触媒を混合し、加熱して架橋することにより得られる架橋ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
架橋ポリエステル樹脂はフィルム形状である請求項1~の何れか1項に記載の架橋ポリエステル樹脂。
【請求項7】
請求項に記載のフィルム形状の架橋ポリエステル樹脂が接着して積層した部分を含む、多層架橋ポリエステル樹脂フィルム。
【請求項8】
請求項に記載の多層架橋ポリエステル樹脂フィルムを少なくても一部に用いたことを特徴とする包装体。
【請求項9】
エステル結合を多点で含む高分子主鎖と、エステル結合とフリーOH基を含む多点の共有結合架橋部分を含むポリエステル樹脂、及びエステル交換触媒を含むフィルム形状の架橋ポリエステル樹脂の少なくても一部分を、高温下で押圧する多層架橋ポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
エステル結合を多点で含む高分子主鎖と、エステル結合とフリーOH基を含む多点の共有結合架橋部分を含むポリエステル樹脂、及びエステル交換触媒を含むフィルム形状の架橋ポリエステル樹脂が、その形状について変形を受ける変形工程と、その後熱によって処理される熱処理工程含む、再成型された架橋ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項11】
エステル結合を多点で含む高分子主鎖と、エステル結合とフリーOH基を含む多点の共有結合架橋部分を含むポリエステル樹脂、及びエステル交換触媒を含むフィルム形状の架橋ポリエステル樹脂が、その表面に傷を受ける工程、その後熱によって処理される熱処理工程を含む、前記傷が修復された架橋ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項12】
エステル結合とカルボン酸基を多点で含むポリエステル樹脂原料と、ジエポキシ架橋剤を混合し、加熱して架橋することにより得られるエステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂を、前記エステル交換触媒を含む溶液に浸漬することにより得られる架橋ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己接着性、再成型性、傷修復性を示すソフトな架橋ポリエステル樹脂・フィルム、さらにソフトな多層架橋フィルム及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結合交換型動的共有結合架橋フィルムは、接着剤を用いることなくフィルム同士を接着することができるため、接着剤に起因する異物や残留溶媒などの溶出を抑制できて安全性に優れたフィルムとなりうる。
【0003】
従来の共有結合架橋フィルムは、共有結合架橋点の不可逆性から、再加工性や接着性に乏しかった。一方、物理架橋(結晶ドメインやガラス状ドメインによる架橋)を施したフィルムでは、熱による再加工・接着は可能であるが、低耐水性・低耐溶媒性・低透明性などの問題がある。
【0004】
また、従来の共有結合架橋エラストマーは、共有結合架橋点の不可逆性から、再成型加工性や修復性は無い。一方、物理架橋(結晶ドメインやガラス状ドメインによる架橋)を施したエラストマーでは、熱による再成型加工・表面の傷の修復は可能であるが、低耐水性・低耐溶媒性・低透明性などの問題がある。
【0005】
特許文献1には、ポリエステル樹脂フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムの加熱による積層体が記載されている。また、特許文献2にはポリエステル系フィルムを少なくても1層有する積層体が記載されている。
【0006】
特許文献1の積層体の加熱は主に電子線照射によるものであって、ポリオレフィン樹脂フィルムを含むため、ポリエステル樹脂フィルム同士による積層体と比較して透明性に劣る。一方、特許文献2に記載されたポリエステル系フィルムは、全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が、12モル%以上30モル%以下であることにより、室温での柔軟性や靭性に劣る。また、非特許文献1には結合交換反応を導入した架橋材料の調製法が記載されているが、フィルム状試料の接着特性に関する記述はない。
【0007】
特許文献3には、ポリエステル樹脂と、有機チタン化合物と、1 , 4 - ブチレングリコール、ビス( 2 - ヒドロキシエチル) テレフタレート、またはフタル酸ジメチルを含む自己修復性樹脂組成物について、高分子鎖を再結合させて自己修復を行い、劣化を防止することができる旨が記載されている。しかし、その自己修復は組成物の平均分子量による評価によるもので、その組成物が受けた傷に関する記載はない。
【0008】
また、特許文献4には、ダングリング鎖を有し、且つ架橋構造を有する非晶性ポリマーXと、動的粘弾性測定によるガラス転移温度が室温以上である非晶性ポリマーYと、を含むことを特徴とする自己修復性樹脂体が開示されている。しかし、自己修復性樹脂体につけられた傷の評価が明瞭ではく、その自己修復性樹脂体の再成型加工性についての記載はない。
【0009】
一方、非特許文献1には、室温で柔軟性を示す結合交換型動的共有結合架橋フィルムの製造に関する記述がない。また、自己接着性や表面傷の修復性に関する記述は皆無である。
また、非特許文献2には、再成型性についての記述はあるものの、5%程度の伸長率しか示しておらず、柔軟樹脂としての性質は示されていない。また、表面傷の修復や自己接着性に関する記述は皆無である。非特許文献3には、架橋成型時に触媒を含ませる結合交換型動的共有結合架橋フィルムの製造は記述されているものの、非触媒含有試料に対して、触媒含有溶液への浸漬による結合交換型動的共有結合架橋フィルムの製造に関する記述は皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-254593号公報
【文献】再表2014-175313号公報
【文献】特開2005-023166号公報
【文献】特開2010-260979号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Damien Montarnal, M. Capelot, F. Tournilhac, Ludwik Leibler, Science, 2011, Vol.334, Issue 6058, 965-968.
【文献】Jacob P. Brutman, Paula A. Delgado, and Marc A. Hillmyer, ACS Macro Letters, 2014, Vol. 3, Issue 7, 607?610.
【文献】Mikihiro Hayashi, et al., Polymer Chemistry. 10 (16) 2047 - 2056, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記のような問題を解決した透明性、架橋、柔軟性(伸長性)、強度(ヤング率)に優れ、さらに再成型性、傷修復性を有するソフトな架橋ポリエステル樹脂・フィルムすなわちソフト架橋ポリエステル樹脂・フィルムを提供することである。さらには、フィルム形状のものによるソフトな多層架橋ポリエステル樹脂フィルムすなわちソフト多層架橋ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)エステル結合を多点で含む高分子主鎖と、エステル結合とフリーOH基を含む多点の共有結合架橋部分を含むポリエステル樹脂(すなわち、フリーOH基を網目構造中に多点で含む架橋ポリエステル樹脂)、及びエステル交換触媒を含む架橋ポリエステル樹脂である。
(2)エステル結合とカルボン酸基を多点で含むポリエステル樹脂原料と、ジエポキシ架橋剤と、前記エステル交換触媒を混合し、加熱して架橋することにより得られる(1)に記載の架橋ポリエステル樹脂である。
(3)前記ポリエステル樹脂原料の平均分子量は8000以上、前記ポリエステル樹脂原料が有するポリエステル結合の数は100個以上である(2)に記載の架橋ポリエステル樹脂である。
なお、平均分子量は数平均分子量である。
(4)前記ポリエステル樹脂原料のカルボン酸基の割合は、前記ポリエステル樹脂原料のエステル基に対して、10mol%~50mol%であって、架橋反応における前記ポリエステル樹脂原料が有するカルボン酸基と前記ジエポキシ架橋剤が有するエポキシ基の割合(カルボン酸基:エポキシ基)は、1:0.5~1:1.5である(2)又は(3)に記載の架橋ポリエステル樹脂である。
(5)架橋後の網目構造におけるフリーOH基に対するエステル交換触媒のモル比(フリーOH基:エステル交換触媒)は、1:0.1~1:0.4である(2)~(4)に記載の架橋ポリエステル樹脂である。
(6)エステル結合とカルボン酸基を多点で含むポリエステル樹脂原料と、ジエポキシ架橋剤と、エステル交換触媒を混合し、加熱して架橋することにより得られる架橋ポリエステル樹脂の製造方法である。
(7)架橋ポリエステル樹脂はフィルム形状である(1)~(5)の何れか1つに記載の架橋ポリエステル樹脂である。
(8)(7)に記載のフィルム形状の架橋ポリエステル樹脂が接着して積層した部分を含む、多層架橋ポリエステル樹脂フィルムである。
(9)(8)に記載の多層架橋ポリエステル架橋樹脂フィルムを少なくても一部に用いたことを特徴とする包装体である。
(10)(7)に記載のフィルム形状の架橋ポリエステル樹脂の少なくても一部分を、高温下で押圧する多層架橋ポリエステル架橋樹脂フィルムの製造方法である。
(11)(7)に記載の架橋ポリエステル樹脂が、その形状について変形を受ける変形工程と、その後熱によって処理される熱処理工程を含む、再成型された架橋ポリエステル樹脂の製造方法である。
(12)(7)に記載の架橋ポリエステル樹脂が、その表面に傷を受ける工程と、その後熱によって処理される熱処理工程を含む、前記傷が修復された架橋ポリエステル樹脂の製造方法である。
(13)エステル結合とカルボン酸基を多点で含むポリエステル樹脂原料と、ジエポキシ架橋剤を混合し、加熱して架橋することにより得られるエステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂を、前記エステル交換触媒を含む溶液に浸漬することにより得られる架橋ポリエステル樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明による架橋ポリエステル樹脂は、高い透明性を有し、導入した高温で結合交換が可能な“動的”共有結合架橋により、室温では高強度柔軟性があり、結合交換活性化温度以上もしくはそれ付近では、再加工・フィルム間の接着が可能である。また、本発明に用いる結合交換用触媒も安価であり、多種の触媒が利用可能であり、架橋反応自体も短く、工業化にも都合が良い。
さらに、その架橋ポリエステル樹脂が有する再成型加工性によって、架橋反応後での自在な形調節や薄膜化が可能という効果を奏し、傷修復性によって、半永久的な使用が可能という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一つの実施態様である架橋ポリエステル樹脂を模式的に示した図である。
図2】正方形の架橋ポリエステル樹脂の成型品(4cm×4cm、厚み0.1cm)を示した図である。
図3】架橋ポリエステル樹脂の製造原料の組み合わせの一例を示す図であって、(A)カルボン酸基を多点で含むポリエステル樹脂原料、(B)ジエポキシ架橋剤、(C)エステル交換触媒を、それぞれ示した図である。
図4】(A)2枚の架橋ポリエステル樹脂フィルムを積層して、(B)2層架橋ポリエステル樹脂フィルムとする態様を、それぞれ模式的に示した図である。
図5】架橋ポリエステル樹脂同士間におけるポリエステル交換反応について(A)反応前、(B)反応後を、それぞれ模式的に示した図である。
図6】アジピン酸、チオリンゴ酸及びペンタンジオールを溶融縮重合したポリエステル樹脂原料の構造式を示した図である。
図7】実施例3を用いた最大応力、破断伸びの定義についてのチャート例を示した図である。
図8】(A)2枚の架橋ポリエステル樹脂フィルムのそれぞれ一部分を重ねた状態、(B)1枚の架橋ポリエステル樹脂フィルムを曲げた状態、をそれぞれ示した図である。
図9】(A)高温下で押圧して接着した2層架橋ポリエステル樹脂フィルム、(B)一部が破断した2層架橋ポリエステル樹脂フィルムを、それぞれ示した図である。
図10】架橋ポリエステル樹脂フィルム(実施例4~6)の軟化温度の求め方を示した図である。
図11】架橋ポリエステル樹脂フィルムを示した図である。
図12】架橋ポリエステル樹脂フィルムをスパーテルに巻き付け、その両端をスパーテルに固定したもの、(B)(A)により再成型された架橋ポリエステル樹脂フィルムを、それぞれ示した図である。
図13】(A)傷を含む架橋ポリエステル樹脂フィルムの表面(拡大図)、(B)(A)に熱処理工程を施して傷が消失した架橋ポリエステル樹脂フィルムの表面(拡大図)を、それぞれ示した図である。
図14】エステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂(成型品)を、エステル交換触媒を含む溶液に浸漬することにより得られる架橋ポリエステル樹脂の製造方法の概略図である。
図15】エステル交換触媒(酢酸亜鉛)を0(触媒なし)、2.5mg/mL、5mg/mL、10mg/mL含む溶液に浸漬したエステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂(フィルム)について、線膨張率測定結果を示した図である。
図16】エステル交換触媒(酢酸亜鉛)を2.5mg/mL、5mg/mL、10mg/mL含む溶液に浸漬したエステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂(フィルム)について、軟化温度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0017】
図1に示すように、本発明の架橋ポリエステル樹脂(7)は、エステル結合(2)を多点で含む高分子主鎖(1)と、エステル結合(2)とフリーOH基(4)を含む多点の共有結合架橋部分(3)を含むポリエステル樹脂(5)、及びエステル交換触媒(6)を含む。フリーOH基(フリーの水酸基)(4)とは、高分子主鎖(1)のエステル結合(2)に含まれておらず、且ついかなる官能基とも反応していない水酸基のことである。フリーOH基を網目構造中に多点で含む架橋ポリエステル樹脂とは、高分子主鎖(1)がエステル結合を多点で含み、共有結合架橋部分(3)がフリーOH基(4)を多点で含むということであって、すなわちフリーOH基(4)は、高分子架橋網目中に部分的に含まれることになる。
後述するように、フリーOH基(4)が、その付近に存在するエステル交換触媒(6)の作用により、付近に存在する多数のエステル結合のうちの一つのエステル結合のC-0結合をアタックすることによって、エステル交換反応が起こるのである。そして、そのエステル交換反応が、高温・押圧下において、重なる二枚のフィルムの対表面間で進行すると、生成した新たな結合による接着が起こるのである。
【0018】
ポリエステル樹脂原料の平均分子量は、樹脂の強度や熱耐性の観点から、8000(g/mol)以上が好ましく、15000(g/mol)以上がより好ましい。また、エステル結合の数は、上記分子量を達成するために、100個以上が好ましく、200個以上がより好ましい。
【0019】
フリーOH基の割合は、高分子試料合成の簡便性の観点や室温での柔軟性の観点から、ポリエステル樹脂原料(ポリマー)中のエステル基に対して10mol%~50mol%が好ましく、15mol%~40mol%がより好ましい。また、エステル交換触媒の割合は、樹脂の力学強度や試料の均一性の観点から、フリーの水酸基に関して10mol%~40mol%が好ましく、15mol%~30mol%がより好ましい。
【0020】
架橋ポリエステル樹脂による成型品は透明性を有した。図2の成型品(8)は正方形(4cm×4cm、厚み0.1cm)であって、白地の紙に黒字で「NI tech」と書かれたその紙の上に成型品(8)を置いても、「NI tech」の文字は、成型品(8)を置いていない部分と同程度にクリアに見えた。
【0021】
図3に基づいて、架橋ポリエステル樹脂(7)の製造方法の一例の説明を行う。カルボン酸基を多点で含む液状のポリエステル樹脂原料(A)に、ジエポキシ架橋剤(B)を混合し、エステル交換触媒(C)を添加して、エポキシ開環反応を介して架橋反応を行った。
【0022】
ポリエステル樹脂原料(A)は、カルボン酸基を多点で含むポリエステルが好ましく用いられる。ポリエステル樹脂原料(A)の前駆体となるポリエステルの構成モノマーとしては、ジオール分子として1,5-ペンタンジオールや1,6-ヘキサンジオールが、ジカルボン酸分子としてアジピン酸やグルタル酸が、側鎖に反応性基を含むジカルボン酸分子として、チオリンゴ酸が好ましくは用いられ、その場合、溶融重縮合によりチオール基を側鎖に多点で含むポリエステル前駆体が得られる。その前駆体と、例えばアクリル酸を反応させると、チオール基とアクリル酸の二重結合間でのMichael付加反応により、カルボン酸を多点で側鎖に含むポリエステル樹脂原料(A)が得られる。
【0023】
ジエポキシ架橋剤(B)としては、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1、2、7、8―ジエポキシオクタン、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等が好ましく用いられる。一方、エステル交換触媒(C)としては、酢酸亜鉛、トリフェニルホスフィン、1、5、7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ―5-エン等が好ましく用いられる
【0024】
ポリエステル樹脂原料(A)と、ジエポキシ架橋剤(B)の混合の割合は、ポリエステル樹脂原料(A)の側鎖カルボン酸と、ジエポキシ架橋剤(B)のエポキシ基間の官能基モル比を基に決定可能である。架橋反応効率の観点から、カルボン酸基:エポキシ基は、1:0.5~1:1.5が好ましく、1:0.8~1:1.2がより好ましい。フリーの水酸基に対するエステル交換触媒(C)の混合の割合は、触媒活性効率の観点から、フリーの水酸基:エステル交換触媒のモル比が、1:0.1~1:0.4が好ましく、1:0.15~1:0.3がより好ましい。
【0025】
カルボン酸基含有ポリエステル樹脂の調製で行われる縮重合反応の条件について、構成モノマーの均一混合性の観点や縮重合中でのチオール基間のカップリング反応を抑制するという観点から、70℃~120℃が好ましく、80℃~100℃がより好ましい。反応時間は、十分な高分子量体を得るという観点から、10hr以上が好ましく、20hr以上がより好ましい。縮重合とその後のMichael反応により得たカルボン酸基含有ポリエステル樹脂原料、ジエポキシ架橋剤、エステル交換触媒を用いた架橋物の成形方法は、テフロン(登録商標)型やガラス型で行うことができる。架橋反応では、十分な架橋を進行させるという観点と試料の熱分解を防ぐという観点から、120℃~160℃で、4hr以上が好ましい。
【0026】
架橋ポリエステル樹脂による成型品の形状としては、様々な形状が可能であるが、十分な接着面積を保つという観点から、フィルム形状であることが好ましい。フィルム形状としては、例えば厚みについては、樹脂試料の力学強度や表面の平滑性の観点から、0.1mm~3mmが好ましい。
【0027】
図4には、(A)2枚の架橋ポリエステル樹脂フィルム(20、21)を積層して、(B)2層架橋ポリエステル樹脂フィルム(30)とする態様を示した。架橋ポリエステル樹脂フィルム(20、21)に含まれるそれぞれのフリーの水酸基が、それぞれが含まれる架橋ポリエステル樹脂フィルム以外の架橋ポリエステル樹脂フィルムのエステル結合のC-0結合にアタックするエステル交換反応によって、接着層(31)が形成される。エステル交換反応は、フリーの水酸基の付近に存在するエステル交換触媒と、押圧下において、その触媒作用に適した加熱によって起こるのである。
【0028】
図5には、接着層(31A)を形成する、架橋ポリエステル樹脂同士間におけるポリエステル交換反応を模式的に示した。高分子主鎖1A、1B、共有結合架橋部分3Aは同一の架橋ポリエステル樹脂に含まれ、高分子主鎖1Cは、別の同一の架橋ポリエステル樹脂に含まれている。共有結合架橋部分3Aに含まれるフリーOH基が、押圧下において、エステル交換触媒の作用によって、高分子主鎖1Cのポリエステル結合のC-0結合をアタックする。そうすると、フリーの0(酸素原子)を介して、共有結合架橋部分3Aと高分子主鎖1Cは結合して、共有結合架橋部分3Aと高分子主鎖1Cが結合した分岐性高分子主鎖(共有結合架橋部分3Aが高分子主鎖1Cの一部分に結合したもの)を生成して、接着層31Aが形成される。一方、高分子主鎖1Cのポリエステル結合のC-0結合は切断されて末端がフリーOH基である高分子主鎖末端部1Dが生成される。なお、高分子主鎖末端部1Dも接着層31Aに含まれると解釈できる。
【0029】
多層架橋ポリエステル樹脂フィルムの製造条件について、温度は結合交換活性化温度や樹脂の熱耐性の観点から、140℃~200℃が好ましい。押圧は、対表面間での結合交換を促進するという観点から、100Pa以上が好ましく、1kPa以上がより好ましい。また、試料の破断を防ぐため、100MPa以下が好ましい。押圧する時間は、良接着強度を得るため、すなわち対表面間をまたいで結合交換した十分な分子鎖本数を得るため、2hrが好ましく、4hrがより好ましい。
【実施例
【0030】
(ポリエステル樹脂原料の調製)
まず、アジピン酸、チオリンゴ酸及び1,5-ペンタンジオールを溶融縮重合したポリエステルを合成した。その後、チオリンゴ酸のチオール基とアクリル酸の二重結合部間のMichael付加によって、カルボン酸基を側鎖に多点で含むポリエステル樹脂原料を調製した。表1に、調製したポリエステル樹脂原料を示した。
表1において、Code:PE-X/Y/Zは、カルボン酸付加チオリンゴ酸(X)/アジピン酸(Y)/1,5-ペンタンジオール(Z)であり、NCOOHは高分子鎖当たりのカルボン酸基数、COOH/Ester比は高分子鎖当たりのカルボン酸基/エステル結合の比をした。また、X、Y、Zは1H-NMRより求めた、高分子鎖中における構成モノマーのモル比を表した(単位モル比参照)。
【0031】
【表1】
【0032】
表1において、数平均分子量(Mn)と分子量分布(PDI)は、GPC測定により、Shodex KD803で804 カラム、Tosoh DP8020 ポンプシステム、RI検出器(Tosoh RI-8020)を用い。また、溶離液はLiBr(0.05wt%)を添加したDMFを用いた。
【0033】
(架橋ポリエステル樹脂フィルム、実施例1~6、比較例1)
以下のようにして、図8(A)に示した架橋ポリエステル樹脂フィルム22を作製した。
ポリエステル樹脂原料10と、ジエポキシ架橋剤(1,4-ブタンジオール ジグリシジルエーテル)とエステル交換触媒(酢酸亜鉛)をクロロホルムにそれぞれ溶解させた。
その溶液を、テフロン(登録商標)型内で混合し、その後溶媒をヒーター上40℃で揮発させた。この混合試料を、温度120℃で4hr、真空状下で加熱することで架橋樹脂を得た。得られた架橋樹脂を、カッターを用いてフィルム状に切り取り、幅:4mm、厚さ:0.3mm、長さ:約15mmとした(実施例1)。ポリエステル樹脂原料10の代わりに、ポリエステル樹脂原料11、12を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2、3を得た。実施例1~3において、カルボン酸:エポキシ基のmol比は1:1であり、エステル交換触媒の割合はフリーの水酸基に対して20mol%であった。
【0034】
また、ポリエステル樹脂原料10を用い、実施例1と同様にして得られた架橋樹脂を、カッターを用いてフィルム状に切り取り、幅:4mm、厚さ:0.15mm、長さ:約15mmとした(実施例4)を得た。ポリエステル樹脂原料10の代わりに、ポリエステル樹脂原料11、12を用いた以外は、実施例4と同様にして実施例5、6を得た。実施例4~6において、カルボン酸:エポキシ基のmol比は1:1であり、エステル交換触媒の割合はフリーの水酸基に対して20mol%であった。
【0035】
さらにポリエステル樹脂原料10の代わりに、ポリエステル樹脂原料11を用いた以外は、実施例1と同様にして得た架橋樹脂を、カッターを用いてフィルム状に切り取り、幅:4mm、厚さ:0.5mm、長さ:25mmとした架橋ポリエステル樹脂フィイル22(実施例7)を2枚得た。一方、実施例7について、エステル交換触媒を良く溶解させるクロロホルムに浸漬することで、エステル交換触媒を溶出させ、エステル交換触媒を含まないポリエステル樹脂フィルム(比較例1)を作製した。
【0036】
(引っ張り試験)
実施例1~3を用い、以下のようにして、引っ張り試験を行った。その結果を表2に示した。また、図7に実施例3を用いた最大応力、破断伸びの定義についてのチャートを示した。
SHIMADZU AG-X plusを用いて、室温、10mm/minの引っ張り速度で測定を行った。ヤング率(MPa)は、5%変形時の応力から、応力(MPa)/変位(%)として求めた。最大応力(MPa)は、破断までに計測された最大の応力として求めた。破断伸びは、破断時の試料変位(%)として求めた。なお、初期の治具間距離は、約15mmであった。
【表2】
【0037】
表2より、本分子設計において得られる架橋ポリエステル樹脂フィルムは、結合交換型架橋を導入しているものの、室温において十分な柔軟性があることが判る(破断伸び>>20%)。また、カルボン酸基を側差に多点で導入しているため、柔軟フィルムとして十分なヤング率が示された(>>1MPa)。そのヤング率は、COOH/Ester比の高い試料ほど高くなる傾向があり、網目構造中の架橋密度はCOOH/Ester比で制御可能であることが示唆される。
上記の引っ張り試験において、強度と柔軟性を保持する観点から、ヤング率は0.10.1MPaから100MPaが好ましく、1MPaから10MPaがより好ましい。また、破断伸びは、良伸縮性を保持する観点から、10%から500%が好ましく、30%から200%がより好ましい。
【0038】
図8(A)に示したように、ピンセット40で摘まれた実施例7から、それが透明性を有していることが確認できた。
【0039】
図8(B)に示したように、実施例7について両端を180°曲げてその両端を合わせるようにしても、折れることはなく、また、曲げた力を解除すると、もとの状態に戻った。そのことにより、実施例7は室温では高強度柔軟性を有することが分かった。このような室温で高強度柔軟性を有することは、実施例7のTg(ガラス転移温度)が約-30℃であって、室温より極めて低いことからも推定できることであった。
【0040】
(軟化特性)
実施例4~6を試料として用い、以下のようにして軟化特性を測定した。軟化温度は図10に示したように求め(図10中、Lは測定中の試料長、L100℃は100℃での試料初期長を表す)、その結果を表3に示した。
HITACHI TMA7100を用いて、室温~230℃までの試料の線膨張率変化の屈曲点からもとめた。測定は、窒素ガス雰囲気下で、試料のたわみを防ぐために微一定張力(30mN)印加下で行った。なお、初期の治具間距離は約15mmであった。また
【0041】
【表3】
【0042】
表3から、結合交換型動的共有結合架橋を導入した架橋ポリエステル樹脂は、高温では特異的な軟化特性を示すことが判る。通常の非晶性架橋樹脂は、ガラス転移温度や分解温度以外に、高温での軟化点を示すことはない。実施例4、5、6の試料は、ガラス転移温度を約-30℃、且つ分解温度を200℃以上に有するため、上記軟化特性は、エステル結合―フリーOH基間の結合交換が活性化されることに因むと言える。また、軟化温度は、COOH/Ester比の高い試料ほど低くなっている。この理由は、COOH/Ester比の高い試料ほど、エステル交換反応の担い手である「フリーOH基」の導入率が高くなっており、結合交換が低温度で活性化されやすいためである。この結果から、、本ポリエステル架橋樹脂はCOOH/Ester比で制御可能であることが示唆される。
上記の軟化特性において、熱安定性を保ち高分子鎖の熱分解を防ぐ観点から、軟化温度は100℃から250℃が好ましく、120℃から200℃がより好ましい。
【0043】
(2層架橋ポリエステル樹脂フィルム、実施例8、比較例2)
2枚の実施例7を用い、図8(A)のように、それらの一端同士を重ね、温度は140℃、押圧は400kPa、押圧時間は4hrとして、実施例7同士が接着して積層した部分を含む2層架橋ポリエステル樹脂フィルム30(実施例8)を作製した。
一方、2枚の比較例1を用いて実施例7と同様にして、2層ポリエステル樹脂フィルムを作製しようとしたが、比較例1同士は接着せず、2層ポリエステル樹脂フィルムは作製できなかった(比較例2)。
【0044】
図9(A)に示したように、2層架橋ポリエステル樹脂フィルム30の両端をそれぞれ摘んで引っ張ったところ、図9(B)に示したように、積層部分36では破断せずに、積層部分36以外の部分で破断して、端部分が破断した多層架橋ポリエステル樹脂フィルム35ができた。そのことにより、2層部分36すなわち接着部分での引張強度は大きいことが分かった。
【0045】
例えば2枚のフィルム形状の架橋ポリエステル樹脂の間に、所定の空間を形成し、、その所定の空間に有用な目的物を包めるように、架橋ポリエステル樹脂同士を接着する包装体とすることができる。
【0046】
(再成型性、実施例9)
実施例1(図11)を用い、図12(A)に示したように、実施例1に変形工程を施した。すなわち実施例1をスパーテル41に巻き付け、その両端をテープ42とめ、スパーテル41に固定して、変形を受けた架橋ポリエステル樹脂フィルム23とした。その後、変形を受けた架橋ポリエステル樹脂フィルム23に、熱によって処理される熱処理工程を施した。熱処理工程としては、高温(160℃)で2時間放置し、室温まで放冷した。放冷後、変形を受けた架橋ポリエステル樹脂フィルム23を、スパーテル41から取り外した。すると、図12(B)に示したように、変形を受けた架橋ポリエステル樹脂フィルム23は、巻き付けられた状態が維持された、再成型された架橋ポリエステル樹脂フィルム24となった(実施例9)。
架橋ポリエステル樹脂フィルムが再成型されたのは、高温時にエステル交換が活性化され、放冷中に新しい平衡網目構造が固定化ためと推定された。
【0047】
熱処理工程として、変形を受けた架橋ポリエステル樹脂フィルムにかける温度(高温)は、結合交換活性化温度の観点から、150℃以上が好ましく、170℃以上がさらに好ましい。一方、高分子鎖の分解の観点から、200℃以下が好ましい。
また、その温度をかける時間は、十分な結合交換を進行させる観点から、1時間以上が好ましく、2時間以上がさらに好ましい。架橋ポリエステル樹脂フィルムが受ける変形は、上記の他に様々な態様があり、例えば折り曲げる、丸める、圧縮する、伸ばす等である。
【0048】
(傷修復性、実施例10)
実施例1(図11)に対し、カッター(カッターの刃の厚み:0.1mm)を用いてその表面が、図13(A)に示したような傷50を受ける工程を施した。傷50の観察は、傷50を含む架橋ポリエステル樹脂フィルム25の表面に対し、顕微鏡を用いて行い、その画像を取得した。顕微鏡観察の条件は、倍率20倍、窒素雰囲気下であった。
図13(A)から傷50の長さは約550μmを超えており、カッターの刃により表面に切り込まれたものであることが確認され、また、傷50の深さは約0.1mmであった。
【0049】
その画像取得後、架橋ポリエステル樹脂フィルム25に、熱によって処理される熱処理工程を施した。熱処理工程としては、高温(180℃)で10分間放置し、室温まで放冷した。熱処理工程を施すと、図13(B)に示したように、傷50はきれいに消失して、表面に傷50がない架橋ポリエステル樹脂フィルム26となった(実施例10)。
傷が消失したことすなわち架橋ポリエステル樹脂フィルムが傷修復性を有するのは、高温で結合交換が活性化され、表面近傍の分子鎖の再配列が促されたためと推定された。
【0050】
熱処理工程として、傷を含む架橋ポリエステル樹脂フィルムにかける温度(高温)は、結合交換活性化温度の観点から、150℃以上が好ましく、170℃以上がさらに好ましい。一方、高分子鎖の分解の観点から、200℃以下が好ましい。また、その温度をかける時間は、十分な結合交換を進行させる観点の観点から、10分間以上が好ましく、20分間以上がさらに好ましい。
【0051】
(エステル交換触媒溶液に浸漬することによる架橋ポリエステル樹脂の製造)
図14には、エステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂を、エステル交換触媒を含む溶液に浸漬することにより得られる架橋ポリエステル樹脂の製造方法の概略を示した。エステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂による成型品9を、エステル交換触媒溶液60に一定時間浸漬することによって架橋ポリエステル樹脂による成型品8Aを得ることができる。
【0052】
図14では、エステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂として成型品9を示したが、その形状はフィルム形状を含む様々な形状であってよい。エステル交換触媒としては溶解性の観点から酢酸亜鉛やアセチルアセトン亜鉛(II)塩が好ましく、エステル交換触媒を含む溶液としては溶解性や揮発しやすさの観点からクロロホルムやテトラヒドロフランが好ましい。エステル交換触媒が酢酸亜鉛で溶液がクロロホルムである場合には、酢酸亜鉛がクロロホルムに溶解しており、試料への浸透度の観点から、そのような溶解状態であることが好ましい。一方、触媒活性度の観点からはエステル交換触媒が溶液中で分散状態であってもよい。
【0053】
エステル交換触媒の濃度は触媒活性度の観点から、1.0mg/mL以上が好ましく、2.5mg/mL以上がより好ましい。また、溶媒への溶解度の観点から、20mg/mL以下が好ましく、10mg/mL以下がより好ましい。エステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂をエステル交換触媒溶液に浸漬する時間は、平衡膨潤度の観点から、6時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましい。
【0054】
(エステル交換触媒を含まない架橋樹脂(フィルム状片)、参考比較例1~4)
ポリエステル樹脂原料10と、ジエポキシ架橋剤(1,4-ブタンジオール ジグリシジルエーテル)をクロロホルムにそれぞれ溶解させた。その溶液を、テフロン(登録商標)型内で混合し、その後溶媒をヒーター上40℃で揮発させた。この混合試料を、温度120℃で4hr、真空状下で加熱することでエステル交換触媒を含まない架橋樹脂を得た。得られたエステル交換触媒を含まない架橋樹脂を、カッターを用いてフィルム状に切り取り、幅:4mm、厚さ:0.3mm、長さ:約15mmとして4枚(参考比較例1~4)を得た。参考比較例1~4において、カルボン酸:エポキシ基のmol比は1:1であった。
【0055】
(架橋ポリエステル樹脂(フィルム状片)、比較例3、実施例11~13)
酢酸亜鉛濃度が0mg/mL、2.5mg/mL、5mg/mL、10mg/mLであるクロロホルム溶液に、参考比較例1~4のフィルム状片をそれぞれ1枚ずつ12時間浸漬して、フィルム状片の架橋ポリエステル樹脂(比較例3、実施例11~13)を得た。比較例3(酢酸亜鉛濃度が0mg/mL)、実施例11(酢酸亜鉛濃度が2.5mg/mL)、実施例12(酢酸亜鉛濃度が5mg/mL)、実施例13(酢酸亜鉛濃度が10mg/mL)に対してそれぞれの線膨張率測定を行った。
【0056】
(線膨張率測定)
線膨張率測定はフィルム状片に対して、一定微弱応力(30mN)で温度上昇させ(100℃~200℃)、フィルム状片の試料長変化を測定することによって行い、その測定結果を、横軸に温度、縦軸にL(フィルム長)/100℃におけるフィルム長L100℃(100℃におけるフィルム長)として図15に示した。
図15から実施例11~13は、高温で試料長が急激に増加すなわち軟化し、その増加の程度は、実施例11から13に向かってすなわち酢酸亜鉛濃度が高くなるに従って大きくなることが分かった。その増加傾向は、高温でのエステル交換活性化に起因すると推定された。
【0057】
(軟化温度)
図16は、図15に基づき作成したものである。すなわち実際の試料長変化(図15の実線)と一定試料長変化(図15の点線)との差(ΔLexp-const)を求め、その差=0.005で定義した軟化温度(図15の点線)を求めると、その軟化温度は実施例11から13に向かってすなわち酢酸亜鉛濃度が高くなるに従って低下することが分かった。
このように軟化することにより、架橋ポリエステル樹脂に再成型性・再加工性が付与され、例えばフィルムの薄膜化、架橋樹脂の微細加工などに有利となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
所定の空間を形成し、その所定の空間に有用な目的物を包むことができる包装体を形成する架橋ポリエステル樹脂として利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1、1A、1B、1C、1D:高分子主鎖
2:エステル結合
3、3A:共有結合架橋部分
4:フリーOH基(水酸基)
5:ポリエステル樹脂
6、6A:エステル交換触媒
7:架橋ポリエステル樹脂
8:架橋ポリエステル樹脂による成型品
8A:架橋ポリエステル樹脂による成型品
9:エステル交換触媒を含まない架橋ポリエステル樹脂による成型品
10、11、12:ポリエステル樹脂原料
20、21、22:架橋ポリエステル樹脂フィルム
23:変形を受けた架橋ポリエステル樹脂フィルム
24:再成型された架橋ポリエステル樹脂フィルム
25:表面に傷を含む架橋ポリエステル樹脂フィルム
26:熱処理後に表面の傷が消失した架橋ポリエステル樹脂フィルム
30:2層架橋ポリエステル樹脂フィルム
31、31A:接着層
35:端部分が破断した2層架橋ポリエステル樹脂フィルム
36:積層(2層)部分
40:ピンセット
41:スパーテル
42:テープ
50:傷
60:エステル交換触媒溶液

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16