IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニプロ株式会社の特許一覧

特許7405091複合容器、液体の供給方法および液体の採取方法
<>
  • 特許-複合容器、液体の供給方法および液体の採取方法 図1
  • 特許-複合容器、液体の供給方法および液体の採取方法 図2
  • 特許-複合容器、液体の供給方法および液体の採取方法 図3
  • 特許-複合容器、液体の供給方法および液体の採取方法 図4
  • 特許-複合容器、液体の供給方法および液体の採取方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】複合容器、液体の供給方法および液体の採取方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 51/00 20060101AFI20231219BHJP
   B65D 77/06 20060101ALI20231219BHJP
   C12M 1/24 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B65D51/00 100
B65D77/06 G
C12M1/24
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2020553883
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042147
(87)【国際公開番号】W WO2020090724
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018206712
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018206715
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018206719
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】吉川 義洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 丈洋
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/076115(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/113823(WO,A1)
【文献】特開2008-283871(JP,A)
【文献】特開2009-11260(JP,A)
【文献】特開2008-17839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 51/00
B65D 77/06
C12M 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)液状物を収容できる空間を有する最内容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最内栓を有して成る最内容器、ならびに
(2)最内容器を収容できる空間を有する最外容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最外栓を有して成る最外容器
を有して成る液状物収容複合容器であって、
最内容器は最外容器の空間内に配置され、
最内栓および最外栓は、これらの双方を貫通する中空針を介して、複合容器の外部から最内容器の空間内に、または最内容器の空間内から複合容器の外部に、液状物を移動させるために整列できるように構成されていることを特徴とする液状物用の複合容器。
【請求項2】
最内容器に隣接して、最内容器を包囲する中間容器を更に有して成り、
中間容器は、その内部と外部とを連絡する開口部を有して成り、最内栓は、最内容器の開口部に加えて、中間容器の開口部に気密に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の複合容器。
【請求項3】
最外容器と最内容器との間(但し、中間容器が存在しない場合)に、または最外容器と中間容器との間に、最内容器または中間容器を収容できる空間を有する外側容器を更に有して成り、
外側容器は、その内部と外部とを連絡する開口部に気密に配置された外側栓を有し、
外側栓は、最内栓および最外栓と整列するように構成され、それによって、これらの栓を貫通する中空針を介して、複合容器の外部から最内容器の空間への、または最内容器の空間内から複合容器の外部への、液状物の移動を可能にすることを特徴とする請求項1または2に記載の複合容器。
【請求項4】
外側容器は、それを規定する単一の外側容器要素により構成されていることを特徴とする請求項3に記載の複合容器。
【請求項5】
外側容器は、複数の外側容器要素を重ねた多重構造を有し、
各外側容器要素は、その内部と外部とを連絡する開口部、およびその開口部に気密に配置された栓を有して成り、
これらの栓ならびに最内栓および最外栓は、これらを貫通する中空針を介して、複合容器の外部から最内容器の空間内に、または最内容器の空間内から複合容器の外部に、液状物を移動させるために整列できるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の複合容器。
【請求項6】
多重構造の外側容器は、それを構成する各外側容器要素の開口部に共通して気密に配置された単一の栓を有して成り、この栓ならびに最内栓および最外栓は、これらを貫通する中空針を介して、複合容器の外部から最内容器の空間内に、または最内容器の空間内から複合容器の外部に、液状物を移動させるために整列できるように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の複合容器。
【請求項7】
最外容器、外側容器および外側容器要素は、それぞれそれに隣接して内側に存在する容器を露出させるように除去できるように構成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の複合容器。
【請求項8】
最外栓と最内栓と外側栓(但し、存在する場合)は、相互に隣接する少なくとも2つの栓が相互に嵌合するように構成され、その結果、これらの栓は、貫通する中空針に対して整列できることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の複合容器。
【請求項9】
最外栓と最内栓と外側栓(但し、存在する場合)は、相互に隣接する少なくとも2つの栓が実質的に一体の単一の要素であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の複合容器。
【請求項10】
栓は、いずれも自己シール性を有することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の複合容器。
【請求項11】
最内容器、中間容器(但し、存在する場合)、外側容器(但し、存在する場合)および最外容器は、袋状の形態であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の複合容器。
【請求項12】
最内容器および/または中間容器(但し、存在する場合)は自立性であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の複合容器。
【請求項13】
最内容器および/または中間容器(但し、存在する場合)はガラス、プラスチック材料でできていることを特徴とする請求項12に記載の複合容器。
【請求項14】
中間容器は、それを規定する壁を貫通する孔を有することを特徴とする請求項2~13のいずれかに記載の複合容器。
【請求項15】
液状物は液体培地であることを特徴とする請求項1~14のいずれかに記載の複合容器。
【請求項16】
液状物を収容できる空間を有する最内容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最内栓を有して成る最内容器、ならびに
最内容器を収容できる空間を有する最外容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最外栓を有して成る最外容器
を有して成り、最内容器が最外容器の空間内に配置されている、液状物収容複合容器の外部から最内容器内に液状物を供給する方法であって、
(1)最内栓および最外栓を整列させる工程、
(2)複合容器の外部から最内栓および最外栓を貫通するように中空針を挿入し、その先端部分を最内容器の内部空間内に露出させる工程、ならびに
(3)液状物を保持するリザーバから、中空針を介して、最内容器内に液状物を供給する工程
を含んで成ることを特徴とする液状物の複合容器への供給方法。
【請求項17】
複合容器は、最内容器に隣接して、最内容器を包囲する中間容器を更に有して成り、
中間容器は、その内部と外部とを連絡する開口部を有して成り、最内栓は、最内容器の開口部に加えて、中間容器の開口部に気密に配置されていることを特徴とする請求項16に記載の供給方法。
【請求項18】
複合容器は、最外容器と最内容器(中間容器が存在しない場合)または中間容器との間に、最内容器または中間容器を収容できる空間を有する外側容器を更に有して成り、
外側容器は、その内部と外部とを連絡する開口部に気密に配置された外側栓を有して成り、
工程(1)において、最内栓および最外栓に加えて外側栓を整列させることを特徴とする請求項16または17に記載の供給方法。
【請求項19】
複合容器は予め滅菌されていることを特徴とする請求項16~18のいずれかに記載の供給方法。
【請求項20】
中空針は、供給に際して栓を貫通して存在する部分および最内栓から最内容器内に向かって最内栓から突出する先端部分を有して成り、
中空針の少なくともそのような部分は、ゴムスリーブによって予め覆われており、
中空針が整列させた栓を貫通する際に、中空針の最先端部がスリーブを破ることによって中空針の少なくとも先端部分が最内容器内で露出するようになっていることを特徴とする請求項16~19のいずれかに記載の供給方法。
【請求項21】
最外容器および外側容器は、それぞれそれに隣接して内側に存在する容器を露出させるように除去できるように構成されていることを特徴とする請求項16~20のいずれかに記載の供給方法。
【請求項22】
最外栓と最内栓と外側栓(但し、存在する場合)は、相互に隣接する少なくとも2つの栓が相互に嵌合するように構成され、その結果、これらの栓は、貫通する中空針に対して整列できることを特徴とする請求項16~21のいずれかに記載の供給方法。
【請求項23】
最内容器、中間容器(但し、存在する場合)、外側容器(但し、存在する場合)および最外容器は、袋状の形態であることを特徴とする請求項16~22のいずれかに記載の供給方法。
【請求項24】
最内容器および/または中間容器(但し、存在する場合)は自立性であることを特徴とする請求項16~23のいずれかに記載の供給方法。
【請求項25】
最内容器および/または中間容器(但し、存在する場合)はガラス、プラスチック製であることを特徴とする請求項24に記載の供給方法。
【請求項26】
中間容器は、それを規定する壁を貫通する孔を有することを特徴とする請求項17~25のいずれかに記載の供給方法。
【請求項27】
液状物は液体培地であることを特徴とする請求項16~26のいずれかに記載の供給方法。
【請求項28】
液状物を収容している空間を有する最内容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最内栓を有して成る最内容器、
最内容器を収容できる空間を有する最外容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最外栓を有して成る最外容器、ならびに
最内容器と最外容器との間に位置する外側容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部および開口部に気密に配置された外側栓を有して成る外側容器を有して成り、
最内容器は外側容器内に配置され、また、外側容器は最外容器内に配置されている、液状物を収容する複合容器から液状物を採取する方法であって、
(1)液状物を含む複合容器が存在する初期環境において、最外容器を除去して、その内容物を取り出す工程、
(2)取り出した内容物を中間環境に移し、その環境において外側容器を除去して、その内容物を取り出す工程、および
(3)工程(2)において取り出した内容物を採取環境に移し、その環境において最内栓に貫通させた中空針を介して最内容器の内部から液状物をその外部に採取する工程
を含んで成ることを特徴とする液状物の採取方法。
【請求項29】
複合容器は、最内容器と外側容器との間に、最内容器を包囲する中間容器を更に有して成り、
中間容器は、その内部と外部とを連絡する開口部を有して成り、最内栓は、最内容器の開口部に加えて、中間容器の開口部に気密に配置されていることを特徴とする請求項28に記載の採取方法。
【請求項30】
初期環境は、液状物を含む複合容器が貯蔵されているクリーン度を有し、採取環境は、複合容器から液状物を取り出すのに適切なクリーン度を有し、中間環境は、初期クリーン度と採取クリーン度との間のクリーン度を有することを特徴とする請求項28または29に記載の採取方法。
【請求項31】
外側容器は、複数の外側容器要素を重ねた構造を有し、
各外側容器要素は、その内部と外部とを連絡する開口部、およびその開口部に気密に配置された栓を有して成り、
初期環境から採取環境に向かってこれらの間に、外側容器要素の数に相当する異なる中間環境が存在し、それぞれの中間環境において、先の環境において取り出された内容物から外側容器を除去して、それを次の環境に移すことを順に実施して、最終的に採取環境にて液状物を採取することを特徴とする請求項28~30のいずれかに記載の採取方法。
【請求項32】
それぞれの中間環境のクリーン度は、採取環境に向かってクリーン度が各環境において段階的に向上することを特徴とする請求項31に記載の採取方法。
【請求項33】
中空針は、採取に際して最内栓を貫通して存在する部分および最内栓から最内容器内に向かって最内栓から突出する先端部分を有して成り、
中空針の少なくともそのような部分は、ゴムスリーブによって予め覆われており、
中空針が栓を貫通する際に、中空針の最先端部がスリーブを破ることによって中空針の少なくとも先端部分が最内容器内で露出するようになっていることを特徴とする請求項28~32のいずれかに記載の採取方法。
【請求項34】
液状物は液体培地であることを特徴とする請求項28~33のいずれかに記載の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状物を収容する容器、より詳しくは、高いクリーン度で液状物を収容する容器、ならびにその使用方法、具体的には空のそのような容器に液状物を供給する方法および液状物を含むそのような容器から液状物を採取する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトの身体を構成している細胞、組織等を医療に用いる細胞療法、再生医療等の研究が盛んに行われている。例えば、細胞治療には、細胞プロセッシング(Cell Processing)と呼ばれる細胞の調製、培養、加工等の作業工程が必要となる。細胞プロセッシングを受けた組織、細胞を「細胞医薬品」として治療に適用するため、これらの作業工程には医薬品、原薬等の製造と同等の安全性と高い品質管理が求められる。
【0003】
細胞プロセッシングを行うための施設(Cell Processing Center:「CPC」)内のエリアは、クリーン度の高い状態にある。そのようなCPC内に、例えば細胞培養培地を搬入する際には、それを収容する培地容器に付着している微生物等の持ち込みを、また、培地容器に微生物等が付着するのを極力避ける必要がある。
【0004】
培地を含む培地容器の例えばCPC内への搬入およびその中での培地の利用は、例えば次のように実施されている:クリーン度の高いエリアにおいて、培地が封入された培地容器(例えば市販のもの)を、アルコール等によって滅菌処理する;クリーン度の高いエリアにおいて、滅菌袋を多重で用いて培地容器を包装する;次に、封入した培地容器を、初期クリーン度を有する初期環境のCPC内エリアに移し、そこで最外部の滅菌袋を破ってその内容物を取り出す;その後、取り出した内容物器を、より高い所定の中間クリーン度を有する中間環境(第1中間環境)のCPC内エリアに移し、そこで最外側の滅菌袋を破ってその内容物を取り出す;その後、取り出した内容物を、更に高い所定の中間クリーン度を有する他の中間環境(第2中間環境)の他のCPC内エリアに移し、最外側の滅菌袋を破り、内容物を取り出す;その後、取り出した内容物を、一層高い所定のクリーン度を有する他の中間環境(第3中間環境)の他のCPC内エリアに移し、最外側の滅菌袋を破り、内容物を取り出す;このように、内容物を移すエリアのクリーン度を順に段階的に上げて、その都度、最外側の滅菌袋を破り、内容物を取り出す操作を繰り返す;最終的に所定の採取クリーン度を有する採取環境のCPCエリアにて最外の袋(即ち、培地容器に隣接する滅菌袋)を破り、培地容器を取り出してその中に含まれている培地を採取して所定のように利用する。
【0005】
上述のように培地容器を包装して準備する場合、培地が封入された培地容器を最初に滅菌処理して、その後、滅菌袋を用いて培地容器を多重包装処理する必要がある。いずれの処理においても、クリーン度の高い環境で実施する必要がある。加えて、既に培地が封入された培地容器を滅菌処理するため、滅菌処理が培地に影響を与えることを避ける必要がある。例えば、オートクレーブを用いる高温高圧条件下での滅菌処理方法、放射線を用いる滅菌処理方法は、培地に含まれる組成物に影響を与え、細胞プロセッシングの際に所望の分化の方向およびレベル、必要とされる増殖率等に悪影響を及ぼす危険性があるため封入された培地性質によっては適用できない場合がある。
【0006】
一方、例えばピペット用チップ、ディッシュ、遠心管、サンプル管等の消耗品をクリーン度の高いエリアに搬入する場合、滅菌処理した消耗品を、滅菌袋を用いて多重包装することが提案されている(下記特許文献1参照)。この場合、所定のクリーン度のエリアにおいて最外部の滅菌袋を破って内容物を取り出し、その内容物をクリーン度の高いエリアに搬入することにより、滅菌済みの消耗品を高いクリーン度を保ったままで搬入できると説明されている。この提案においても、消耗品の滅菌処理および多重包装処理をクリーン度の高い環境で実施する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-239168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、滅菌袋により多重包装された容器または消耗品を準備するには、容器または消耗品の滅菌処理に必要な高いクリーン度を有する環境、および包装処理に必要な高いクリーン度を有する環境を準備する必要がある。このような高いクリーン度を有する環境を準備すること、およびそのような環境中での処理は容易ではなく、必要なクリーン度の基準を緩和できることが望まれる。また、容器に含まれる内容物に依存して適用できる滅菌処理方法が制限されるのを緩和できることが好ましい。更に、滅菌処理にアルコール等を用いる場合、労力を要すると共に、作業者によって滅菌の程度にバラつきがあり、人的要因により微生物が残存する可能性もあるが、そのような滅菌処理を回避できるに越したことはない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のような課題を考慮し、液状物を収容する容器について種々検討を重ねた結果、本発明は、第1の要旨において、液状物用の複合容器を提供し、その複合容器は、
(1)液状物を収容できる空間を有する最内容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最内栓を有して成る最内容器、ならびに
(2)最内容器を収容できる空間を有する最外容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最外栓を有して成る最外容器
を有して成る液状物収容複合容器であって、
最内容器は最外容器の空間内に配置され、
最内栓および最外栓は、これらの双方を貫通する中空針を介して、複合容器の外部から最内容器の空間内に、また、最内容器の空間内から複合容器の外部に、液状物を移動させるために整列できるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本明細書を通じて、用語「液状物」は、液体として取り扱うことができるものを広く意味し、通常の液体に加えて、液体中に微細な他の液体が乳化している乳化物、液体中に粒子状固体が分散している分散物、液体中に他の固体および/または液体が溶解している溶液等をも含むものとして使用している。具体的には、液体培地、細胞剥離液、緩衝液、医薬品、洗浄液等を液状物として例示できる。液体培地としては、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、神経前駆細胞標準培地(NPBM:Clontech社)、αMEM培地等を例示できるがこれらに限らない。
【0011】
本明細書を通じて、用語「中空針」とは、長尺の貫通空間を内部に有する金属またはプラスチック材料の針(例えば22G~18Gの太さを有する金属製注射針、φ2.5~φ6.0mmの太さを有するプラスチック針を例示できるがこれらに限らない。)を意味し、栓における貫通を容易にするために、通常、最先端部は鋭利に加工されているのが好ましい。なお、栓として後述するようなスリットを設けた医療用弁等を採用する場合は、先端部が鋭利に加工されている必要はなく、例えばシリンジなどの雄コネクタの内筒を延長したような形状をしていてもよい。また、中空針は、刃面を貫通方向に対して平行またはほぼ平行とする形状のフーバー針のような形状をしていてもよい。このような中空針は、複合容器に液状物を供給するに際しては、例えば適切なチューブを介して供給すべき液状物を貯蔵しているリザーバに接続することができ、リザーバから複合容器に液状物を供給できる。また、複合容器、詳しくは最内容器から液状物を採取するに際しては、中空針は、例えば適切なチューブを介して、液状物を最内容器から採取して所定のように使用する装置に供給できる。チューブなどを介さずシリンジなどを用いて採取してもよく、これらに限られるものではない。
【0012】
本明細書を通じて、用語「栓」とは、容器の内部と外部とを連絡する開口部に気密に配置され、容器の内部と外部との間の連絡関係を遮断する機能、即ち、開口部に配置することによって容器の内部と外部とを実質的に隔離できる機能を有する部材を意味する。具体的には、栓は、開口部に差し込めるプラグの形態、例えば円柱、円錐または円錐台の形態であってよい。別の態様では、栓はキャップの形態等の部材であってよく、この場合、容器はキャップを被せることができる口部、例えば容器の本体部から突出した口部を有する。より具体的には、本明細書において、栓は、バイアル、試験管等の口部を閉鎖する場合に用いるゴム栓、ゴムキャップ等であってよい。容器の開口部に配置された栓は、自己シール性を有するのが好ましい。この性質は、栓が中空針の貫通を可能にしながらも、貫通している中空針を栓から抜去すると、貫通によって栓内に生じた通路が自然に実質的に閉じられる性質を意味する。尚、「栓」の形状に関して、中空針が貫通する方向のディメンション(例えば高さまたは厚さ)はそれに垂直な方向のディメンション(例えば直径)に対して必ずしも大きい必要はなく、自己シール性が確保される限り、栓は、より薄い形態、即ち、高いアスペクト比(=径方向のディメンション/高さ方向のディメンション)を有してもよく、例えば厚膜または厚板状の形態であってもよい。
【0013】
1つ態様では、本発明の複合容器において、栓、例えば最内栓は、容器、例えば最内容器に設けた口部に取り付けられるキャップの形態であってよい。例えば、容器は、その本体部から突出するように予め設けた口部を有し、栓は、口部の外側に係合または嵌合できるキャップとして構成されている。1つの形態では、口部はその外側にネジ部を有し、このネジ部に螺合する別のネジ部をキャップとしての栓はその内側に有し、その結果、栓は口部に螺合できる。別の形態では、栓は弾性変形可能であり、それによって、容器の本体部から突出する口部の外側に、または口部の内側に栓を嵌め込むように例えばスナップフィットまたはプレスフィットにより係合または嵌合できる。これらの形態では、キャップとしての栓は、口部から独立した要素(即ち、口部とは別の要素)であるが、別の形態では、これらは一体であってもよい。例えば、キャップは、ヒンジ部分を介して口部に接続されている形態であってよい。即ち、口部およびキャップは、ヒンジ部分を介して一体に結合された、いわゆるヒンジキャップの形態であってよい。この場合、ヒンジキャップの口部を容器に直接接着してもよく、あるいは容器の本体部に予め設けた口部にヒンジキャップの口部を、例えば係合により(具体的には螺合またはスナップフィットにより)、またはスナップフィットによって、嵌め込んでもよい。いすれの形態であっても、キャップは上述のように自己シール性を有する。後述するように、このようなキャップとしての最内栓を用いると、液状物の取り出しが簡便になるので、好都合である。
【0014】
上述の栓の自己シール性は、栓に作用する力(特に栓を圧縮するように作用する力)、栓を構成する材料および/または栓の形状等に基づいて、中空針の貫通により一時的に形成された通路を閉じることによって達成できる。栓を構成する材料としては、例えば天然または合成の弾性材料、即ち弾性を有する材料であり、ポリマー、エラストマー材料が含まれる。具体的には、天然ゴム、加硫天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴムやシリコーンゴム等の合成ゴム、熱可塑性エラストマー等から選択される材料を例示できるがこれらに限られない。
【0015】
また、栓の一種として、スリットを設けた医療用弁が知られている。この医療用弁は、開口部材に対して、中央部分にスリットが形成されたディスク状の弾性栓体を装着した構造とされており、中空針としてのプラスチック針、雄コネクタ等の先端部分を弾性栓体のスリットに直接挿入することにより、プラスチック針、雄コネクタ等の先端部分を流体流路に対して連通状態で接続することが出来るようになっている。また、このようにして接続したプラスチック針等の先端部分を弾性栓体から抜き取ることにより、抜き取りと同時に、弾性栓体の復元作用で流体流路を遮断状態に保持するようになっている。
【0016】
そのような栓は、本発明の複合容器の使用条件下およびその移送条件下で、複合容器を構成する容器の開口部を構成する材料との間で十分な強度で接着状態を維持するのが好ましく、また、自己シール性故に、容器の内部と外部の間では気密状態が確保され、これらの間で気体が漏れないようになっている。
【0017】
そのような接着状態は、例えば、容器の開口部を構成する材料が栓に溶着している態様、容器の開口部を構成する材料に栓を構成する材料が溶着している態様、これらの2種類の溶着が生じている態様、栓と開口部を構成する材料との間に接着剤が介在する態様、栓と開口部を構成する材料との間で強い摩擦力が作用している態様、開口部を構成する材料とそれに隣接する栓の部分が相互に嵌合する態様(凹部と凸部の関係で嵌合する態様を含む)、容器の材料および栓を構成する材料の弾性によって相互に密着している態様(プレスフィットにより栓が開口部に嵌まり込む態様を含む)等の少なくとも1つまたはそれより多くの組み合わせによって確保できる。いずれの態様においても、開口部を構成する材料から栓に向かって力が作用するように接着状態を維持するのが好ましい。例えば、食品、ヘルスケア、医療分野において広く用いられているスパウト付きパウチに適用されている手法を用いて、栓を容器に気密に接着できる。
【0018】
本明細書を通じて、用語「整列できる」とは、対象となる栓同士をきちんと列を為して並べることができることを意味する。その結果、単一の中空針が栓の並び方向に沿って全ての栓を貫通して延伸でき、それによって、中空針内の空間を通じて最内容器の空間と複合容器の外部とが空間的に連絡する状態となり、中空針内の空間を経由して液状物の移動が可能となる。尚、本発明の複合容器において、各栓は、元々(即ち、最初から、あるいは本来的に)整列状態にあってもよいが、元々整列状態になくてもよい。好ましくは、元々非整列状態にある栓を相互に相対的に移動させて整列状態とすることができるように構成されている。例えば、容器を構成する材料、容器の形状を適宜選択することによって、栓を相対的に移動することができる。
【0019】
特に好ましい態様では、栓が整列して並んだ結果、これらの栓が相互に係合する。例えば、整列する栓同士が相互に嵌合できるのが好ましい。上述のプレスフィットおよび凹部と凸部の嵌合に加えて、雄部・雌部の嵌合関係、磁石の引力等を利用して係合関係を確保できる。具体的には、整列すべき栓の一方の少なくとも一部分が他方の少なくとも一部分に嵌まり込む形状を有するように栓を構成する態様、整列すべき栓の一方に凹部を形成し、他方に凸部を形成する態様、整列すべき栓に磁石片を埋設し、これらが磁力によって引き合うようにする態様等を例示できる。尚、整列した栓同士の係合に関しては、「気密」性は必ずしも必要ではない。このように係合した状態にある栓は、中空針の貫通に関して実質的に一体であるように扱えるので好都合である。
【0020】
本明細書を通じて、用語「容器」とは、対象物を収容する空間を提供する器の意味で用い、その内部と外部とを連絡する開口部を有する。容器の形状は特に限定されるものではなく、いずれの適当な形態であってもよく、また、その形状が一定でも、可変でもよい。例えば、容器は、袋(またはバッグ)、ボトル、瓶、箱、筒等の形態であってよく、一般的には袋、ボトルの形態であるのが好ましい。1つの好ましい形態では、容器は、2次元的な(襠(マチ)が実質的にない、薄い面状の形態)バッグ、3次元的な(襠を有する厚い立体的な形態)バッグ、例えばスタンディングパウチである。本発明の複合容器において、最内容器に関しては、対象物は液状物であり、他の容器については、対象物は、その内側に隣接して位置する他の容器である。容器は、いずれの適当な材料からできていてもよく、例えばプラスチック材料、ガラス等でできたものであってよい。また、開口部の形状は、栓を気密に配置できる限り、特に限定されるものではない。例えば、開口部は栓の外側形状に対応する形状を有するのが好ましく。栓の外径(即ち、外側輪郭)が円形である場合は、それに対応する円形断面を開口部は有する。別の態様では、容器は、短管形態の突出部を有し、短管の端部の開口部分が開口部として機能し、これに栓を嵌め込んだり、あるいはこれにキャップとしての栓を被せることができる。
【0021】
特に好ましい容器は、フィルム、例えばプラスチック材料のフィルム、特に複合フィルム材料でできたバッグまたはプラスチック材料の成形品である。フィルム製の容器は、その形状を自在に変えることができる利点がある。従って、上述のように栓の相対的な移動が好ましい場合には、容器はプラスチックフィルム材料でできているのが好ましい。容器は、いわゆる滅菌袋と同じ材料でできて同じ形態を有してよい。別の態様では、容器はプラスチック材料、またはエラストマー材料でできた成形品、特に薄肉の成形品である。この態様において、容器の壁の肉厚および/または容器の形状を適宜選択することによって、容器を実質的に変形できるようになり、栓同士の相対的な移動が可能となり、その結果、栓を整列できる。なお、事前に栓同士を弱溶着により固定し整列させてもよい。
【0022】
複合容器を構成する容器がフィルム製、特にプラスチック材料のフィルム製である場合、1つの態様では、容器はスタンディングパウチの形態である。これは、一般的には襠が実質的に無い薄い形態であるものの、他方、含むべき内容物を入れると底部折込み部が開いて襠が生じて立体的な形態となり、その結果、立つように工夫された軟質の容器である。即ち、空の状態では薄い状態(2D状態)であるが、内容物を含んで状態では底部が顕在化して3D状態となって自立できる容器である。上述および後述の本発明の複合容器において、適当である場合、どの容器にスタンディングパウチを用いてもよいが、好ましい態様では、例えば最内容器として用いる。この場合、液状物を含む複合容器から最内容器(液状物を含む)を取り出した時に、最内容器は自立できる状態となっているので、最内容器の取り扱いが簡便となる。また、内容物を供給する前の空状態の複合容器の状態では、それを構成する容器の全てをスタンディングパウチとすると、複合容器を全体として薄くできるので嵩が小さくなるので、この点でも複合容器の保存、取り扱い等が簡便になる。
【0023】
他方、プラスチック材料の成形品としての容器は、設計に応じて、具体的には用いる材料の種類、および形状、肉厚等を調整することによって、フィルム製の容器ほど容易に変形しないようにもできるので、複合容器の全体としての形態の保持、自立性等を向上させることが与できる。例えば、最内容器および後述する中間容器等の少なくとも1つの自立性を有すると、複合容器の自立性が向上し、複合容器を取り扱う際に好都合である。
【0024】
本明細書を通じて、用語「気密に」とは、所定の容器、例えば最内容器の内部と外部とを連絡する開口部に栓が配置されることによって、容器の外部から内部への、そして、容器の内部から外部への、気体の移動が、従って、液状物のような液体の移動もが実質的に不可能な状態にあることを意味する。そして、内部と外部との間における液状物の移動は、栓を貫通した中空針を介してのみ可能である。
【0025】
本発明の複合容器は、最内容器およびその外側に位置する最外容器を有して成り、従って、最外容器は、その内側に最内容器を収容できる空間を有する。最内容器は、その内側に液状物を収容できる空間を有する。このように少なくとも2つの容器が組み合わされて単一の容器を形成するので、本発明の容器を「複合」容器と呼ぶ。本明細書において、「最内」は、本発明の複合容器において、最も内側に位置することを意味し、「最外」は、本発明の複合容器において、最も外側に位置することを意味する。
【0026】
本発明の複合容器において、最内容器および最外容器は、それぞれ容器の内部と外部とを連絡する開口部を有し、それぞれの開口部には容器の内部と外部とを気密に遮断する栓、即ち、最内栓および最外栓が配置されている。これらの栓は、相互に整列させることができ、これらを貫通する中空針を介して、液状物を複合容器の外部から最内容器の空間内に、または最内容器の空間から複合容器の外部に移すことができる。
【0027】
上述のような本発明の複合容器では、最内容器が空である状態の時に、複合容器に悪影響を与えない限り、いずれの適切な滅菌処理法を選択してもよく、その処理を実施できる。例えば、最外容器の外側から放射線(例えばγ線、電子線等)を用いて滅菌処理できる。別の態様では、オートクレーブ条件で滅菌処理することもできる。滅菌処理後は、複合容器の最外容器の内側は滅菌状態にあり、栓を整列させて中空針を貫通させると、中空針の先端部分は滅菌処理後の最内容器に達することができる。従って、例えば、滅菌袋を用いて包装された、培地を含む複合容器を得るには、上述のように滅菌処理して得られた、最内容器および最外容器としての滅菌袋を有する本発明の複合容器を用いて、栓を整列させて中空針をこれらの栓に貫通させ、その後、中空針を介して所定の液状物を複合容器の外部から最内容器の内部の空間に供給するだけよく、非常に簡便である。加えて、各容器は既に滅菌処理されているので、液状物を入れて包装する環境は、背景技術において説明したほどの高いクリーン度を有する必要はない。
【0028】
よって、本発明は、第2の要旨において、本発明の複合容器の外部から最内容器に液状物を供給する方法を提供し、この方法は、
液状物を収容できる空間を有する最内容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最内栓を有して成る最内容器、ならびに
最内容器を収容できる空間を有する最外容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最外栓を有して成る最外容器
を有して成り、最内容器が最外容器の空間内に配置されている、液状物収容複合容器の外部から最内容器内に液状物を供給する方法であって、
(1)最内栓および最外栓を整列させる工程、
(2)複合容器の外部から最内栓および最外栓を貫通するように中空針を挿入し、その先端部分を最内容器の内部空間内に露出させる工程、ならびに
(3)液状物を保持するリザーバから、中空針を介して、最内容器内に液状物を供給する工程
を含んで成ることを特徴とする。
【0029】
また、最内容器に液状物を既に含む本発明の複合容器から液状物を採取するには、元々複合容器が存在する初期環境において、最外容器を除去してその内容物を取り出し、その直後に取り出した内容物を所定のクリーン度を有する採取環境において、最内容器に配置された栓に中空針を貫通させてその先端部分を液状物内に挿入し、その中空針を介して液状物を取り出すことができる。
【0030】
よって、本発明は、第3の要旨において、本発明の複合容器の最内容器からその外部に液状物の採取する方法を提供し、この方法は、
液状物を収容している空間を有する最内容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最内栓を有して成る最内容器、および
最内容器を収容できる空間を有する最外容器であって、その内部と外部とを連絡する開口部、および開口部に気密に配置された最外栓を有して成る最外容器、ならびに
を有して成り、最内容器は最外容器内に配置されている、液状物を収容する複合容器から液状物を採取する方法であって、
(1)液状物を含む複合容器が存在する初期環境において、最外容器を除去して、その内容物を取り出す工程、
(2)取り出した内容物を採取環境に移し、その環境において最内栓に貫通させた中空針を介して最内容器の内部から液状物をその外部に採取する工程
を含んで成ることを特徴とする。
【0031】
尚、本発明のこれらの方法における種々の用語の意味は、本発明の複合容器に関連して上述または後述する用語の意味と同様である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の複合容器では、最外容器内に最内容器が配置され、それぞれが、相互に整列できる栓を有するように構成されているので、液状物を含まない状態で複合容器を予め滅菌処理に付し、その後、内容物としての液状物を栓を介して供給することが可能となる。従って、滅菌処理が液状物に影響を与えることを考慮せずに、複合容器に適切な滅菌処理を選択できる。その後、必要に応じて、複合容器に液状物を供給して、液状物を含む複合容器を得ることができる。即ち、複合容器に含まれるべき液状物は、予め適切に滅菌処理した複合容器を使用して複合容器に供給できる。よって、液状物を供給する工程の前に滅菌処理を実施すればよいので、液状物を含む複合容器を簡便に得ることができる。また、本発明の複合容器からの液状物の採取方法では、上述のように液状物を含む複合容器から液状物を採取できるので、適切に滅菌された状態の複合容器に含まれる液状物を使用できるため、そのような液状物の使用に際してより十分な信頼性を担保できる。また、栓体を介して採取するため液状物のコンタミネーションを予防することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】液状物を供給する前に、本発明の複合容器の栓を整列させて中空針を栓に貫通させた状態にある複合容器をその側方から見た様子を模式的に示す図面である。
図2】液状物を供給した後の状態にある、図1に示す本発明の複合容器をその側方から見た様子を模式的に示す図面であり、図示した状態では、栓の整列状態は解除されている。
図3】外側容器を更に有する、別の態様の本発明の複合容器を、図1と同様に模式的に示す図面である。
図4図3に示す本発明の複合容器から液状物を採取する過程を、図1と同様に模式的に示す図面である。
図5】最内容器およびその外側に位置する中間容器を側方から見た場合および上方から見た場合の様子をそれぞれ図5(a)および図5(b)に模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を種々説明する。このような態様においても、本発明に関連して先に説明した事項、特に用語の意味が同様に当て嵌まる。尚、いずれの図面においても、複合容器を構成する要素の位置関係に関して外側から見えない要素であっても、容易に理解できるように、実線にて表している。即ち、構成要素があたかも透明であるかのように扱い、その輪郭を実線で示し、構成要素の位置関係および構造等を容易に理解できる。尚、1つの好ましい態様では、複合容器を構成する種々の容器は透明であり、その内側の様子が分かると好都合である場合がある。
【0035】
本発明の複合容器の1つの態様を側方から見た様子を図1に模式的に示す。図1に示す態様では、本発明の複合容器10は、最内容器12および最外容器14を有して成る。最内容器12はその内部と外部とを連絡する最内容器の開口部16を有し、そこに最内栓18が気密に配置されている。最外容器14はその内部と外部とを連絡する最外容器の開口部20を有し、そこに最外栓22が気密に配置されている。図示した状態では、最外栓22が最内栓18に対して既に整列している。この状態において、図示するように、栓22および18に中空針を貫通させることができる。
【0036】
図示した態様において、最外栓22はその下側に凹部24を有し、最内栓18に対して最外栓22を破線矢印で示す方向に動かすと、最内栓18の上部が凹部24に嵌まり込むように、即ち、嵌合するようになっているのが好ましい。このように嵌合することによって、最内栓18と最外栓22とは整列した状態を確保でき、従って、これらを一体に扱うことができるので、上述のように中空針を貫通させることが容易になる。図示した態様では、一方の栓(例えば最外栓)の中央部分に凹部を設け、他方の栓(最内栓)の上部は特別な凸部を設けていないが、これは、凹部に嵌まり込む、最内栓の上側に設けた凸部として機能する。このように整列すべき対象の一方に凹部を設け、他方にそれに対応する凸部を設け、これらを嵌め合わせることによって容易に整列状態を確保できる。凹部および凸部の配置は、図示するように、栓の中央部で設ける必要は必ずしも無く、栓の周囲部分に凹部および/または凸部を設けてもよい。例えば最外栓22の下側の周囲部分に凸部を周状にまたはその一部分に設け、最内栓18の上側の周囲部分に対応する凹部を周状にまたはその一部分に設けてもよい。
【0037】
このように凹部および凸部を設けて整列を確保することは、最外栓および最内栓に当て嵌まるだけではなく、後述する外側栓のような他の栓との整列状態を確保する場合にも同様に当て嵌まる。栓を容易に整列させるために、別の態様では、上述の嵌合に代えてまたは加えて、整列すべき栓同士が磁力によって引き合うことによって整列し、しかも整列状態を確保するように構成してよい。例えば、それぞれの栓に磁石片を埋め込み、相互に引き合うことで整列し、また、そのような整列状態を確保してもよい。
【0038】
最内栓18および最外栓22が、例えばゴムのような弾性材料でできているのが好ましく、上述の嵌合状態を例えばプレスフィットにより達成・維持することができる。そのように栓を整列させてその状態を確保した後、図1に示すように、中空針26を整列した栓に貫通させて、その先端部分29を最内容器12の内部に位置させることができる。その後、中空針26を介して所定の液状物を最内容器12内に供給して、本発明の液状物を含んでいる複合容器を得ることができる。
【0039】
尚、図1のように中空針26を貫通させる前の時点において、本発明の複合容器10において、最外容器14の内部は、複合容器10の外部から完全に隔離された状態にある。従って、この状態において、複合容器を構成する要素に悪影響を与えない限り、複合容器を滅菌するために、いずれの適当な滅菌方法を適用してもよく、最外容器の内部において滅菌処理の効果を維持できる。従って、複合容器10の最内容器12に供給する液状物の性質に関係なく、適切な滅菌方法を選択してその方法を用いて複合容器を滅菌できる。滅菌後にあっては、最外容器の内部は、その外部から実質的に遮断されているので、所定の環境において、複合容器の最外栓を最内栓に対して移動させて相互に嵌合させた後に中空針を栓に貫通させてから、例えば液状物を保持するリザーバから中空針を介して最内容器に液状物を供給できる。
【0040】
本発明の1つの態様では、図1に示すように、複合容器10は、最内容器12と最外容器14との間に中間容器13を更に有して成る。この中間容器は、最外容器と最内容器との間に(または後述するように外側容器を更に有する場合は、外側容器と最内容器との間に)位置し、その内部と外部とを連絡する開口部17を有して成る。最内容器の開口部に配置される最内栓18は、中間容器の開口部17にも気密に配置されている。即ち、開口部16および開口部17は、最内栓18を共用している。このような中間容器は、最内容器を保護するように機能できる。
【0041】
1つの態様では、そのような中間容器は、複合容器13が少なくとも液状物を最内容器に含んでいる状態において形状が実質的に変わらないようなものである。例えば、中間容器は、プラスチック材料を成形したボトルであり、この場合、その形状は、液状物の存否に関係なく、中間容器の形状が実質的に変わらない。その結果、中間容器の外側に位置する容器が例えばフィルム状プラスチック材料製であるため自立性を有さないものであっても、その内側に位置する中間容器が自立性であるので、複合容器が全体として安定した自立性を有する形状となり、必要に応じて複合容器を載置できる利点がある。例えば積み重ねることができる。また、最内容器が例えばバッグ状であり自立性を有さなくても中間容器が自立性を有するので、複合容器において中間容器の外側の容器を除去した場合、その内側に位置する最内容器は、自立する中間容器の内側で安定して保持され得る。例えば、複合容器から液状物を取り出すに際して、中間容器の外側に位置する容器を除去して中間容器を露出させた場合、中間容器は、最内栓を最内容器と共有しているので、その内側に最内容器を安定して保持した状態で、特別な支持手段を用いることなく自立する。このような中間容器は、そのまま例えばテーブル上に安定して置くことができる利点がある。
【0042】
このように、自立性を付与する中間容器は、自体自立性である限り、最内容器の実質的に全てを包囲する必要は必ずしもなく、例えば最内容器の側方のみを包囲する、錐台(即ち、円錐台または角錐台)の側面部(即ち、錐台の頂部および底部が存在せず、頂部を規定する周囲が最内栓を取り囲む、例えば包囲する形態)であってよく、別の形態では、そのような側面部を構成する面の一部分であってもよい。このような中間容器13を、その内側に位置する最内容器12と共に、側方から見た場合および上方から見た場合をそれぞれ図5(a)および図5(b)に模式的に示す。
【0043】
図示した態様では、中間容器13は、円錐台の頂部に対応する開口部17を有し、最内栓18を最内容器12と共用してそれを包囲する円錐台の形態である。図示した態様において、破線で示す円錐台の底面部15は必ずしも存在する必要は無く、存在しないで開放状態(即ち、スカート状形態)であってもよい。側面部11は、図示するように最内容器12の全周を取り囲む形態であってよいが、容易に理解できるように、母線を含む、側面部の一部分としてのシート状要素(例えば最内栓18から斜め下方に延在する、弧状に湾曲したシート状要素(例えば図5(b)にて点線に挟まれた領域の要素19))が最内容器12を隔てて対向するように存在するだけでも、中間容器の自立性を確保することができる。
【0044】
このような態様では、シート状要素19は湾曲している必要は必ずしもなく、平坦なシート状要素であってよく、この場合、中間容器13は、対象物を受容する機能は実質的に無く、もはや容器の形態ではない場合が多い。従って、このような要素は、中間容器ではなく、中間要素と呼ぶのが適切である。シート状要素19は、自立性を考慮すると、最内栓18の周囲で等角度で存在するのが好ましく、例えば図5(b)に示すように最内栓18の周囲で180°間隔で2枚設ける。別の態様では、60°間隔で6枚、90°間隔で4枚のシート状要素19を設けてよく、120°間隔で3枚設ける場合、シート状要素の長さが際があっても安定して自立できる点で有利である。
【0045】
また、他の態様では、中間容器はフィルム材料で形成され、この場合、中間容器は一般的には非自立性となる場合が多いが、全体としての複合容器がコンパクトになる。この場合、中間容器は、例えば最内容器を保護する機能を果たすことができ、また、最内容器との間の空間部の気密性を保持することができる場合には、外側容器として機能し得る。1つの形態では、複合容器に液状物を供給する前の状態では、中間容器に加えてその内側の最内容器は自立性ではなく、例えばバッグ状であり、好ましい形態では、少なくとも中間容器はスタンディングパウチの形態であってよい。この形態では、中間容器の内容物に相当する最内容器が液状物を含んで膨れると、中間容器としてのスタンディングパウチが膨れて自立できる。このように膨れて自立した中間容器は、上述の形状が実質的に変わらない中間容器と同等であるとみなすことができ、従って、先と同様に全体としての複合容器に自立性を付与すると共に、最外容器および外側容器(存在する場合)を除去した場合には、内側に最内容器を保持する状態で自立できる利点がある。尚、最内容器としてスタンディングパウチを用いると、中間容器の自立性を利用しなくても、液状物を含む最内容器が自立できるので、最内容器の外側に位置する容器を取り除いて最内容器のみの状態であっても自立できるので、中間容器の自立性を付与する機能は不要となり、その結果、本発明の複合容器において中間容器を省略することができる。
【0046】
1つの態様では、中間容器は、図示するように、それを構成する壁が少なくとも1つの貫通孔30を有するのが好ましい。この穴は、例えば中間容器と最内容器との間の空間部が実質的に閉じられた空間である場合、最内容器12に液状物を供給する時に、最内容器12の体積が増えて中間容器内の圧力が過度に増加するのを防止できる。
【0047】
本発明の1つの好ましい態様では、最内容器は、スタンディングパウチの形態である。この態様では、最内容器が液状物を含んで底が広がって膨れた状態では、自立できる。よって、この態様では、上述のように最内容器に自立性を付与する中間容器の必要が無くなる。従って、本発明の複合容器において、最内容器と最外容器または外側容器(存在する場合)との間に中間容器は必ずしも存在しなくてもよい。
【0048】
中間容器が存在しない複合容器の特に好ましい態様では、スタンディングパウチの形態の最内容器の外側に位置する外側容器(存在する場合)および最外容器は、最内容器が空の閉じた薄い状態においても、また、最内容器が液状物を含んで底部が広がって膨れた自立状態においても、そのような最内容器の外側に位置できるように構成されている。例えば、最内容器の外側に位置する容器の全てがスタンディングパウチの形態である。この態様では、外側の各容器は、その内側に隣接する容器が閉じた薄い状態にある時には、それを含みながらも閉じた薄い状態であり、隣接する容器が膨れた状態では、それを含むように膨れた状態となる。従って、複合容器が液状物を含まない空の状態では、複合容器を構成する容器は、最内容器およびその外側の容器(即ち、最外容器および存在する場合の外側容器)はいずれも閉じた薄い状態であり、液状物を含む状態では、最内容器およびその外側の容器(即ち、最外容器および存在する場合の外側容器)はいずれも膨れた厚い状態である。
【0049】
上述のようにして最内容器12への液状物の供給が完了して中空針26を抜去し、その後、最内栓18と最外栓22との整列状態を解除した時の複合容器の様子を図2に、図1と同様に模式的に示す。図2では、例えば破線両端矢印で示すように相対的に栓を引き離すことによって整列状態を解除しており、最内容器12は、液状物32を含むことによってその体積が増加して膨れている様子を模式的に示す。尚、最内栓18と最外栓22との整列状態の解除は必ずしも必要ではない。このような複合容器10から液状物32の採取は、例えば次のように実施できる。
【0050】
液状物32の使用を意図するエリアの近傍(初期環境を有する)に、図2の状態のように液状物を含む複合容器10を移動する。そのような初期環境を有する近傍で、好ましくは複合容器10、具体的には最外容器14を、例えばアルコール噴霧により滅菌処理した後に、液状物32の使用を意図するエリアに隣接する、中間環境を有するエリア内に移し、そこで、最外容器14をその弱化部分34(破線で示す)で破る。直ちにそのように破った部分をきっかけにして破壊部分を広げて、中間容器13を含んで成るその内容物を取り出す。その直後に、取り出した内容物を、液状物32を使用する予定の、採取環境を有する所定のエリアに移し、例えば中空針を最内栓18に貫通させてその先端部分29を液状物32内に押し込んだ後、中空針を介して液状物を最内容器から採取して所定のように使用できる。
【0051】
本発明の1つの態様では、本発明の複合容器10は、最外容器14と最内容器12または中間容器13(存在する場合)との間に、最内容器または中間容器を収容できる空間を有する外側容器40を更に有して成る。この態様を、図1と同様に、図3に模式的に示す。尚、図示する複合容器10は、図1または図2に示す複合容器10が有する中間容器13を含まない。外側容器40は、最内容器12または最外容器14と同様に、その内部と外部とを連絡する開口部42を有し、そこには気密的に外側栓44が配置されている。外側栓44は、最内栓18および最外栓22と整列するように、従って、最内栓18、外側栓44および最外栓22がこの順序で並んで整列するように構成されている。図示した態様では、最外容器14は弱化部分34を有し、外側容器40も同様に弱化部分35を有する。
【0052】
尚、図1に示す態様では、最内容器12は丸い風船のような形態であるが、図3に示す態様では、最内容器12は、全体として薄型の矩形の形態であり、例えばカルチャーバッグのような形態である。最内容器12は、いずれの適当な形態であってもよいが、最内容器としてカルチャーバッグのような形態の容器を用い、その外側の最外容器および外側容器(存在する場合)もそれを囲む矩形の形態、好ましくは相似の矩形の形態とすることによって、複合容器全体をコンパクトにできる。
【0053】
具体的には、外側栓44は、その下側に外側栓凹部46を有し、最内栓18に対して外側栓44を破線矢印Aで示す方向に動かすと、最内栓18の上部が外側栓凹部46に嵌まり込むようになっている。図示した状態では、これらの栓は既に整列しているが、このように嵌まり込むことによって、最内栓18と外側栓44とが整列した状態が確保される。更に、最外栓22は、先に説明したように、その下側に凹部24を有し、外側栓44に対して最外栓22を破線矢印Bで示す方向に動かすと、外側栓44の上部が凹部24に嵌まり込むようになっている。
【0054】
その結果、最内栓18、外側栓44および最外栓22がこの順で整列した状態が確保される。図示した態様では、矢印で示すようにこれらの栓を相対的に移動させて嵌め込むことによって、これらが整列した状態となると共に、実質的に一体となる。それによって、図3に示すように、中空針26をこれらの栓に貫通させるのが容易になる。このように栓を貫通する中空針26を介して、複合容器の外部から最内容器の空間への、または最内容器の空間内から複合容器の外部への連絡が可能となり、これらの間で液状物の移動が可能となる。尚、複合容器の内部から外部への液状物の移動は、後述の説明から明らかなように、最外容器14および外側容器40を除去した後に、連絡可能となればよい。
【0055】
図3に示す態様では、外側容器40が単一の外側容器要素41により構成されているが、この単一の外側容器要素41に代えて、複数の外側容器要素によって外側容器を構成してよい。そのような外側容器は、1つの好ましい態様では、複数の外側容器要素が多重構造で重ねられて形成されている。それぞれの外側容器要素は、その内部と外部とを連絡する開口部を有し、その開口部には栓が気密に配置されている。この場合、本発明の複合容器は、最外栓、これらの外側容器要素に配置された複数の栓および最内栓をこの順で整列できるように構成されている。ここで、「多重構造の外側容器」とは、少なくとも2つの外側容器要素が相互に隣接するように重なって、隣接する一方がその内部に他方を収容する構造になっている形態を意味し、最内容器(但し、中間容器が存在しない場合)または中間容器(但し、存在する場合)と最外容器との間に、複数の外側容器要素が相互に重なった多重構造の外側容器が存在する。
【0056】
詳しくは、「多重構造で重ねられて形成される外側容器」とは、例えば、4重構造の外側容器の場合、内側の外側容器要素(第1容器要素と呼ぶ)がそれに隣接する、外側の外側容器要素(第2容器要素と呼ぶ)の空間内に配置され、その外側容器要素(即ち、第2容器要素)がそれに隣接する、更に外側の外側容器要素(第3容器要素と呼ぶ)の空間内に配置され、その更に外側の外側容器要素(即ち、第3容器要素)がそれに隣接する、より外側の容器要素(第4容器要素と呼ぶ)の空間内に配置される構造を意味する。この例では、第4容器要素の内部に第3容器要素が存在し、第3容器要素の内部に第2容器要素が存在し、第2容器要素の内部に第1容器要素が存在する多重構造を有する。この多重構造の外側に最外容器が位置し、また、内側に最内容器または中間容器が位置する。それぞれの外側容器要素は、その内部と外部とを連絡する開口部を有し、その開口部には気密に配置された栓を有する。
【0057】
尚、最内容器が予め液状物を含んだ状態にある複合容器の最内容器から、複合容器の外部への液状物の移動時、即ち、液状物の採取に際しては、複合容器またはその外側に位置する容器を除去して得られる内容物は、複合容器が存在する初期環境のクリーン度から液状物の採取を意図する採取環境のクリーン度まで、クリーン度を順に段階的に高めた1または複数の中間環境を経て移動する。各中間環境において最も外側に位置する外側容器要素を除去し、露出する内容物を次の中間環境に移すという作業を、最内容器12または中間容器13が露出する内容物をとなり、これを採取環境に移すまで実施する。換言すれば、初期環境と採取環境との間に存在する中間環境の数に対応する数の外側容器要素を多重に重ねて、複合容器の外側容器を構成するのが好都合である。
【0058】
より具体的には、初期環境にて最外容器14を除去し、得られる内容物を次の中間環境に移し、その環境にて最も外側に位置する外側容器要素を除去し、得られる内容物を更に次の中間環境に移し、その環境にて最も外側に位置する外側容器要素を除去し、得られる内容物である最内容器または中間容器を採取環境に移し、その環境において最内栓18に中空針を貫通させ、それを経由して液状物を外部に採取する。
【0059】
複数の外側容器要素41により外側容器40が構成される態様において、隣接する2つまたはそれより多くの外側容器要素の開口部に配置される栓は、1つの態様では一体であってもよい。この場合、隣接する外側容器要素が単一の栓を共有する。即ち、この態様では、隣接する少なくとも2つの外側容器要素の開口部にはこれらに共通する単一の栓が配置されており、このように単一の栓が共有される態様は、上述の最内容器と中間容器とが最内栓を共有する態様と同様である。このように栓を共有によって、隣接する外側容器要素に配置された栓同士を整列させる手間を省くことができる。
【0060】
上述のように単一の栓を複数の外側容器要素が共有する場合、栓と外側容器要素の開口部を規定する部分との間の接着部分で外側容器要素を破ってそれを除去すると、その内容物を露出できるように構成するのが好ましい。この場合、ひとつの外側容器要素を除去しても残りの他の外側容器要素の開口部に共有する栓が残るように配置されている状態となる。こうすることにより、複数の栓に中空針を貫通させる必要が無いため、中空針を栓に貫通する際の貫入抵抗を緩和することができ、中空針の貫通をスムーズに行なうことができるようになる。
【0061】
本発明の複合容器の最内容器に供給された液状物を採取する場合、上述のように最内容器の周囲に位置する種々の容器を除去して最内容器を取り出して露出させた後、最内容器からその外部に液状物を採取する。この採取に際しては、通常、中空針を最内栓に貫通させて中空針を介して液状物を取り出す。このような液状物の取り出しは、中空針の準備が必要となり、場合によっては、煩雑な工程になり得る。
【0062】
これを考慮して、1つの好ましい態様では、本発明の複合容器において、最内栓は、最内容器に設けた口部に取り付けることができるキャップの形態である。例えば、最内容器は、その本体部から突出するように予め設けた口部を有し、最内栓は、口部の外側に係合または嵌合できるキャップとして構成されている。1つの態様では、このようなキャップは中空針が貫通可能である。1つの形態では、口部はその外側にネジ部を有し、このネジ部に螺合する別のネジ部をキャップとしての最内栓はその内側に有し、その結果、最内栓は口部に螺合できる。別の形態では、最内栓は弾性変形可能であり、それによって、最内容器の本体部から突出する口部の外側に、または口部の内側に最内栓を嵌め込むように例えばスナップフィットまたはプレスフィットにより係合または嵌合できる。これらの形態では、キャップとしての最内栓は、口部から独立した要素(即ち、口部とは別の要素)であるが、別の形態では、これらは一体であってもよい。例えば、キャップは、ヒンジ部分を介して口部に接続されている形態であってよい。即ち、口部およびキャップは、ヒンジ部分を介して一体に結合された、いわゆるヒンジキャップの形態であってよい。この場合、ヒンジキャップの口部を最内容器に直接接着してもよく、あるいは最内容器の本体部に予め設けた口部にヒンジキャップの口部を、例えば係合により(具体的には螺合またはスナップフィットにより)、またはスナップフィットによって、嵌め込んでもよい。いすれの形態であっても、キャップは自己シール性を有する。このように最内栓をキャップ構造すると、複合容器への液状物の供給は中空針で実施可能でありながらも、液状物の取り出しは、例えばキャップを口部からの先に取り除き(例えば螺合状態であれば、ネジを緩めてキャップを外し、ヒンジキャップであれば、ヒンジ部を開いてキャップを外し)、現れる口部の開口から液状物を注ぎ出すことが可能となるので好都合である。
【0063】
従って、上述のようなキャップの形態の最内栓を用いると、キャップを取り外すことによって、最内容器の口部が露出するので、中空針を用いなくても最内容器から液状物を取り出せる。所定の方法で、例えば、最内容器を傾けることによって、またはピペットによって液状物を採取できる。従って、第3の要旨における、複合容器の最内容器からその外部に液状物の採取する方法において、最内栓として最内容器の口部に取り付け可能なキャップ、例えば螺合可能キャップまたはヒンジキャップを用いる場合、工程(3)において最内栓に中空針を貫通させることに代えて、最内容器の口部からキャップを外し、最内容器の口部の開口から液状物を所定の方法で最内容器の外部に採取できる。
【0064】
尚、本発明の複合容器に関連して説明した、用語の意味の説明、容器、最外栓および最内栓に関する態様等の説明は、特別な不都合が存在しない限り、中間容器、外側容器およびそれに配置される栓等にも同様に当て嵌まることが当業者であれば容易に理解されよう。
【0065】
本発明の複合容器において、最外容器および外側容器または外側容器要素は、いずれもそれに隣接して内側に存在する容器(即ち、外側容器要素、中間容器または最内容器)を順に露出させるように除去できるように構成されている。この露出は、複合容器が存在する環境において最も外側に位置する容器を破壊して、その内側に存在する内容物を露出させることができるのであれば、いずれの適当な方式で実施できるようにしてもよい。
【0066】
例えば、除去すべき容器の一部分(例えば栓の近傍部分、栓の周囲部分等)の強度を他の部分より相対的に小さくして弱化部分を構成し、その結果、弱化部分に力(例えばヒトの手により加える力)が作用した時に、弱化部分が破れて、その後、弱化部分の破れを大きくして、必要に応じて栓と一緒に、容器を除去することによって、容器に囲まれていた内容物を露出できる。弱化部分は、いずれの適当な方法で容器に形成してもよい。
【0067】
具体的には、容器の一部分の肉厚を薄くする、容器の一部分にノッチ部を形成して強度の弱い部分を作る、あるいは薄肉の部分を設ける等によって弱化部分を形成できる。例えば、最外容器または外側容器(もしくは外側容器要素)が袋状である場合、容器の縁部分にフィルムが重なって接着された縁部分(例えばヒートシール部分)を設け、その部分の最外部に切り込み部またはノッチ部を形成しておく。切り込み部が大きくなるように切り込み部の両側で反対方向に力を加えると、切り込み部から袋を破ることができる。このような破壊のために切り込み部を形成することは周知であり、例えば食品用の種々のプラスチック材料の袋を簡単に破ってその内容物を取り出すことができるように広く用いられている。
【0068】
上述のように本発明の複合容器10は、その最内容器に液状物を入れる前の状態で、即ち、最内容器12、最外容器14、ならびに中間容器13(存在する場合)および/または外側容器40(存在する場合であって、単一または複数の外側容器要素)が多重構造で重ねられ、それぞれの容器の開口部に栓18、22および44(存在する場合)が気密に配置された状態(即ち、図1において中空針26が存在しない状態、あるいは図2または3において液状物32が存在しない状態)で、適切な滅菌処理に付すことができる。この複合容器10には内容物としての液状物が含まれていないので、液状物に依存せずに滅菌処理方法を選択できるという利点がある。勿論であるが、採用する滅菌処理方法によって液状物が悪影響を受けない場合には、複合容器10の最内容器12が液状物を含んだ状態で滅菌処理することを排除するものではない。
【0069】
更に、複合容器10への液状物の供給は、栓を整列させた後に、中空針を栓に貫通させてその中空の空間部が最内容器12の内部と複合容器10の外部とを直接連絡することにより可能となる。この連絡状態は、最外容器の内部、特に最内容器の内部が複合容器の周囲の環境から受ける影響を最小限にできる、好ましくは影響が実質的に無いようにできるので、複合容器10に液状物32を供給する場合、複合容器が存在する環境のクリーン度を常套的に用いられるほどの高度なものにする必要が必ずしもないという利点がある。
【0070】
従って、本発明は、本明細書で説明する本発明の複合容器10に液状物を供給する方法、換言すれば、液状物を含む複合容器を製造する方法をも提供する。図面を参照してこれらの方法をより具体的に説明する。
【0071】
先ず、所定の滅菌処理を既に施した本発明の複合容器10を準備する。例えば、図1の複合容器10(但し、中間容器13を必要に応じて有してよく、中空針26が存在しない状態)または図3の複合容器10(但し、外側容器40(即ち、単一または複数の外側容器要素)を必要に応じて含んでよく、中空針26および液状物32が存在しない状態)を準備する。この状態では、複合容器10を構成するそれぞれの容器の開口部に栓が配置され、それによって容器の内部と外部とは気密に相互に遮断された状態にある。
【0072】
次に、複合容器の最内栓18、1またはそれより多くの外側栓44(存在する場合)および最外栓22を整列させ、後でこれらを貫通させるべき中空針26の延在方向に沿って一列に並ぶようにする。好ましい態様では、整列と同時に、またはその後、上述のように例えば嵌合によって整列状態を確保する。その後、中空針を整列した栓に挿入して貫通させて、中空針の先端部分29が最内容器12の内部に露出するようにする。そして、所定の液状物を保持するリザーバ(図示せず)と中空針の他方の端部とを適当な配管(例えばチューブ)で接続した後、中空針を介して液状物をリザーバから最内容器内に供給する。
【0073】
尚、上述のように整列させる場合、栓同士が嵌合関係で実質的に一体的に接続状態となるのが好ましく、中空針の貫通が容易になる。例えば、栓同士がプレスフィットによって嵌合し、一旦嵌合すると、ある程度の力を加えないと、嵌合状態を解除できないようにするのが好ましい。例えば、栓材料の弾性による伸縮、栓の接触面における摩擦および/または栓に施す凹凸形状等を利用して、そのような好ましい嵌合を達成できる。
【0074】
更に、栓の整列に際して、栓同士の相対的な移動を容易ならしめるように、容器、特に外側容器40(または外側容器要素41)および/または最外容器14は、ガスバリア性を有する、比較的薄いプラスチックフィルム材料で形成されている袋状のもの(例えばエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ナイロンなどで構成された包装袋;これらの素材にシリカ、アルミナなどのガスバリア性物質を蒸着処理して構成された包装袋;又はこれらの素材を組み合わせた多層フィルムで構成された包装袋等)、好ましくは襠(マチ)が小さい、または実質的にないもの(即ち、2D状パウチ)のが好ましい。例えば、複合容器10が自立性を有するのが好ましい場合、例えば中間容器13は、形態が安定するように形成するのが好ましい。例えば、厚めのプラスチック材料フィルムをヒートシールして立体的な袋(3D状パウチ)を形成することにより、プラスチック材料のブロー成形により、中間容器13を形成してよい。
【0075】
上述のように中空針26を整列した栓に貫通させて複合容器10に液状物を供給するに際して、中空針の先端部分29は、複合容器に内部に位置することになる。少なくともそのような先端部分は、貫通前に予めシールされており、中空針が存在する環境から隔離されているのが好ましい。そのような隔離状態は、先端部分を弾性材料によって包囲することによって達成できる。より具体的には、ゴムのような弾性材料のスリーブまたはキャップを中空針の少なくとも先端部分29、特に好ましくは中空針の実質的に全長にわたって被せるのが好ましい。
【0076】
そのようなシール部分は、中空針を最外栓に挿入するに際して、中空針の先を覆うシール材料を最外栓に接触させて押し付け、その後、更に挿入しようとすると、鋭利な最先端部28がシール材料を破って最外栓に入り込むことができる。即ち、中空針の先端部分は、中空針が存在していた環境から隔離されたままで複合容器内に入り込むことができる。これにより、中空針の貫通に際して、中空針が存在していた環境による複合容器の汚染を最小限に抑制できる利点がある。尚、上述のように挿入するに際して、中空針の挿入角度が栓の整列方向から大きくずれて、過度に斜めに挿入されると、最内容器の壁面を損傷することが起こり得る。そのような斜め挿入を防止するために、図1に示すように、最内栓18の下側にガイド48を設けるのが好ましい。このガイド48は、最内栓18の下面の中央を包囲し、かつ下向きに突出するように設けた筒状部材(例えば円筒状部材)であってよい。そのような部材は、中空針の鋭利な最先端部でも貫通しないプラスチック材料または金属材料を用いて形成するのが好ましい。それにより、過度に斜めに挿入された中空針26の最先端部28はガイド48に当接してそれ以上の斜め挿入は不可能となり、中空針による最内容器の損傷を未然に防止できる。この場合、貫通を再度実施すればよい。より好ましい態様では、中空針26がガイド48に当接した後であっても、更に貫通を継続すると、例えば中空針の先端部分29がある程度湾曲してその最先端部が最内容器を傷つけることなくその内部に所定のように位置することができる。即ち、ガイド48は中空針の挿入を矯正できる機能を有する。
【0077】
上述のような複合容器への液状物の供給方法に加え、本発明は、上述のようにして得られる、液状物32を含む複合容器10から液状物を取り出す、即ち、採取する方法をも提供する。特に図4を参照して、初期環境50に存在する複合容器10を、次の中間環境52に移した後、所定の採取環境54において液状物32を採取して、所定のように利用する方法を、既に液状物32を含んでいる、図3に示す複合容器10から液状物を採取する場合を例として説明する。尚、これらの環境は相互に近接していると想定する。これらの環境のクリーン度は、初期環境から採取環境に向かって、初期クリーン度→(1段階または複数段階の)中間クリーン度→採取クリーン度というように、段階的に向上し、採取環境は、そこで液状物を採取して使用するのに適切なクリーン度を有する。
【0078】
図示した態様では、複合容器10は、最内容器12、外側容器40(図示した態様では単一の外側容器要素41で構成されている)、および最外容器14を有して成り、それぞれの容器には栓(18、44および22)が配置されている。最内容器12は液状物32を含む。
【0079】
先ず、中間環境52に近接する初期環境50に存在する複合容器10において、弱化部分34(図4には図示せず)をきっかけとして最外容器14を破って除去し、その内容物を取り出す。この状態を図4(1)に模式的に示す。尚、破って除去した最外容器14を破線にて示し、内容物に相当する外側容器等を実線にて示す。その直後に、その内容物を中間環境52内に移す。
【0080】
次に、その内容物の最外に位置する容器、即ち、外側容器40を、弱化部分35(図4には図示せず)をきっかけとして、破って除去し、その内容物、即ち、最内容器を取り出す。この状態を図4(2)に模式的に示す。尚、破って除去した外側容器40を破線にて示し、内容物に相当する最内容器12を実線にて示す。
【0081】
その直後に、その最内容器12を採取環境54内に移し、最内栓18に中空針56を挿入してその先端部分62が最内容器12内の液状物32に没入して液状物32を破線矢印で示すように取り出すことができるようにする。この状態を図4(3)に模式的に示す。尚、図示した態様では、中空針56は、その全長がゴムスリーブ58によって覆われているが、最内栓18を貫通する時に、最先端部60によってゴムスリーブ58は破られ、中空針56の先端部分62は滅菌状態が維持された状態で最内容器12内に入り込む。
【0082】
尚、このようにゴムスリーブ58を中空針56が有する態様は、複合容器に液状物を供給する際にも同様に適用できる。即ち、図1において、予め滅菌された中空針26の少なくとも先端部分62をゴムスリーブで覆って周囲の環境から遮断した状態の中空針を用いて、図1または図3に示すような液状物を複合容器に挿入する際に適用すると、中空針の先端部分62は、その滅菌状態が維持された状態で複合容器内に入り込むことができる。
【0083】
図4に示した態様では、中間環境は1つであるが、採取環境に向かってクリーン度が段階的に向上するように構成した複数の中間環境(例えば上述の第1中間環境~第3中間環境)が存在してもよい。中間環境を経る度に外側に位置する外側容器要素をひとつずつ破って内容物を取り出し、その内容物を次の中間環境に移す。よって、外側容器を構成する外側容器要素の必要数は、初期環境と採取環境との間に位置する中間環境の数に対応する。この必要数は、最小の数であり、それより多くの外側容器要素を用いて多重構造の外側容器を構成してよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
上述のように、本発明の複合容器は、液体培地のような液状物を収容することができる。加えて、複合容器に対する滅菌処理方法の選択の幅が広がり、また、複合容器に液状物を供給する環境が有すべきクリーン度を緩和させることが可能となる。その結果、本発明の複合容器を用いた液状物の供給が簡便になると共に、そのような複合容器から液状物を採取できる。
【関連出願の相互参照】
【0085】
本出願は、日本国特許出願第2018-206712号(出願日:2018年11月1日、発明の名称:複合容器)、第2018-206715号(出願日:2018年11月1日、発明の名称:液体の供給方法)および第2018-206719号(出願日:2018年11月1日、発明の名称:液体の採取方法)に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願に開示された事項は、本願の明細書および図面の一部分を構成する。
【符号の説明】
【0086】
10…複合容器、11…側面部、12…最内容器、13…中間容器、14…最外容器、
15…底面部、16…最内容器の開口部、17…中間容器の開口部、18…最内栓、
19…シート状要素、20…最外容器の開口部、22…最外栓、24…最外栓の凹部、
26…中空針、28…中空針の最先端部、29…中空針の先端部分、30…孔、
32…液状物、34…弱化部分、40…外側容器、41…外側容器要素、
42…外側容器の開口部、44…外側栓、46…外側栓の凹部、48…ガイド、
50…初期環境、52…中間環境、54…採取環境、56…中空針、
60…中空針の先端部分、62…中空針の最先端部。
図1
図2
図3
図4
図5