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特許7405097繊維強化ポリイミド樹脂成形前駆体及びその製造方法
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  • 特許-繊維強化ポリイミド樹脂成形前駆体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】繊維強化ポリイミド樹脂成形前駆体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20231219BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20231219BHJP
   C08L 49/00 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231219BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20231219BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20231219BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C08J5/24 CFG
B29C70/12
C08L49/00
C08K7/04
C08K3/013
C08F299/02
B29K79:00
B29K105:12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020560101
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2019048142
(87)【国際公開番号】W WO2020116658
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2018229938
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 幸太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和伸
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐介
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060915(JP,A)
【文献】特開2006-117788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
B29C 70/12
C08L 49/00
C08K 7/04
C08K 3/013
C08F 299/02
B29K 79/00
B29K 105/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性繊維に付加反応型ポリイミド樹脂が含浸して成る成形前駆体であって、前記付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間で保持する条件下における溶融粘度が300~3200kPa・sであることを特徴とする成形前駆体。
【請求項2】
前記付加反応型ポリイミド樹脂が、付加反応基としてフェニルエチニル基を有するポリイミド樹脂である請求項1記載の成形前駆体。
【請求項3】
前記機能性繊維の含有率が付加反応型ポリイミド樹脂100重量部に対して5~200重量部である請求項1又は2記載の成形前駆体。
【請求項4】
前記機能性繊維が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維の何れか1種以上である請求項1~3の何れかに記載の成形前駆体。
【請求項5】
前記機能性繊維が、平均繊維長50~6000μm、平均繊維径5~20μmの炭素繊維である請求項1~4の何れかに記載の成形前駆体。
【請求項6】
更に、グラファイト、二硫化モリブデン、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、微細炭素系材料、金属粉の少なくとも1種以上を付加反応型ポリイミド樹脂100重量部に対して5~40重量部で含有する請求項1~5の何れかに記載の成形前駆体。
【請求項7】
付加反応型ポリイミド樹脂のプレポリマーと機能性繊維を混合し、該混合物を付加反応型ポリイミド樹脂の融点以上且つ増粘開始温度以下の温度で保持し、機能性繊維に付加反応型ポリイミド樹脂を含浸させる含浸工程、該含浸物を付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度以上の温度で保持し、増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間保持する条件下における、含浸物の溶融粘度を300~3200kPa・sに上昇させる増粘工程、を少なくとも有することを特徴とする成形前駆体の製造方法。
【請求項8】
前記増粘工程において、前記含浸物を前記付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より15~45℃高い温度範囲で一定時間保持することによって、含浸物の溶融粘度を300~3200kPa・sに上昇させる請求項7記載の成形前駆体の製造方法。
【請求項9】
前記機能性繊維の含有率が付加反応型ポリイミド樹脂100重量部に対して5~200重量部である請求項7又は8記載の成形前駆体の製造方法。
【請求項10】
前記付加反応型ポリイミド樹脂が、付加反応基としてフェニルエチニル基を有するポリイミド樹脂である請求項7~9の何れかに記載の成形前駆体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~6の何れかに記載の成形前駆体を粉砕混合する工程、該粉砕物を前記付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度以上の温度条件で賦形する賦形工程を有することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項12】
前記粉砕混合工程と賦形工程の間に、成形前駆体の前記粉砕物を溶融温度以上、増粘開始温度以下で所定時間保持する予備加熱工程を有する請求項11記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項13】
前記賦形工程が、圧縮成形により行われる請求項11又は12記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化ポリイミド樹脂成形体を成形するための前駆体及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、反りの発生が有効に防止され、成形時の形状安定性に優れた繊維強化ポリイミド樹脂成形体を成形可能な成形前駆体及びその製造方法、並びに繊維強化ポリイミド樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より炭素繊維等の機能性繊維を樹脂に配合して成る繊維強化樹脂から成る成形体は、耐候性、機械的強度、耐久性等の特性に優れていることから、自動車、航空機等の輸送機材、土木・建設材料、スポーツ用品等の用途に広く使用されている。
例えば、下記特許文献1には、特定のピッチ系炭素短繊維混合物及びマトリックス樹脂から成る炭素繊維強化樹脂成形体が記載されており、各種電子部品に好適に使用されることが記載されている。
また下記特許文献2には、炭素繊維等のバインダーとして特定の芳香族ポリイミドオリゴマーを用いた摩擦材用樹脂組成物から成る摩擦材が提案されており、この摩擦材においては、従来、摩擦材のバインダーとして好適に使用されていたフェノール樹脂を用いた場合に比べて、バインダー自身の耐熱性や機械的特性が優れ、成形性が良好であることが記載されている。
【0003】
このような繊維強化樹脂成形体を軸受け等の摺動性部材として用いる場合には、強度、剛性等の機械的強度が高いこと、動摩擦係数が小さく摩耗量が少ないこと、更に限界PV値が高いこと等の特性が要求されており、機械的強度、耐熱性及び耐久性に優れ、また樹脂の含浸性に優れた付加反応型ポリイミド樹脂をマトリックス樹脂として用いることが望まれている。
付加反応型ポリイミド樹脂として、トランスファー成形(RTM)と樹脂圧入(RI)によって炭素繊維強化コンポジットを製造可能な高機能の付加反応型ポリイミド樹脂も提案されている(特許文献3)。
【0004】
しかしながら、繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂として、付加反応型ポリイミド樹脂を用いる場合、優れた耐熱性、耐久性及び機械的強度が得られるとしても、得られた成形体に反りが生じてしまい、摺動性部材としては実用に供することができないという問題があった。
このような問題を解決するものとして、本発明者等は、付加反応型ポリイミド樹脂中に機能性繊維が均一に分散されており、限界PV値が3000kPa・m/s以上である樹脂成形体及びその製造方法を提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4538502号
【文献】特開2009-242656号公報
【文献】特表2003-526704号公報
【文献】特開2016-60914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献4によれば、優れた摺動性能を有すると共に、従来品に比して反り量の少ない繊維強化ポリイミド樹脂成形体が得られていたが、生産性及び経済性の観点から、更に反り量の少ない成形体を得ることが要求されている。また上記特許文献4では、機能性繊維の沈降を防止してマトリックス中に均一に分散させた状態で賦形するために、賦形の直前にポリイミドプレポリマーを加熱することにより粘度調整を行っていたが、ポリイミドプレポリマーの加熱により気泡が発生して膨張し、かかる気泡が賦形時の加圧によって圧潰されることによってプレポリマーが流動し、その結果機能性繊維が配向することに起因して成形体に反りが生じるおそれがあることが分かった。
【0007】
従って本発明の目的は、繊維強化ポリイミド樹脂成形体の反りの発生を有効に防止可能な成形前駆体及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、優れた摺動性能を有する繊維強化ポリイミド樹脂成形体を、プレポリマーの流動配向の発生を有効に抑制して形状安定性よく成形可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、機能性繊維に付加反応型ポリイミド樹脂が含浸して成る成形前駆体であって、前記付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間で保持する条件下における溶融粘度が300~3200kPa・sであることを特徴とする成形前駆体が提供される。
本発明の成形前駆体においては、
1.前記付加反応型ポリイミド樹脂が、付加反応基としてフェニルエチニル基を有するポリイミド樹脂であること、
2.前記機能性繊維の含有率が付加反応型ポリイミド樹脂100重量部に対して5~200重量部であること、
3.前記機能性繊維が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維の何れか1種以上であること、
4.前記機能性繊維が、平均繊維長50~6000μm、平均繊維径5~20μmの炭素繊維であること、
5.更に、グラファイト、二硫化モリブデン、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、微細炭素系材料、金属粉の少なくとも1種以上を付加反応型ポリイミド樹脂100重量部に対して5~40重量部で含有すること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、付加反応型ポリイミド樹脂のプレポリマーと機能性繊維を混合し、該混合物を付加反応型ポリイミド樹脂の融点以上且つ増粘開始温度以下の温度で一定の時間保持し、機能性繊維に付加反応型ポリイミド樹脂を含浸させる含浸工程、該含浸物を付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度以上の温度で一定の時間保持し、増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間で保持する条件下における、該含浸物の溶融粘度を300~3200kPa・sに上昇させる増粘工程、を少なくとも有することを特徴とする成形前駆体の製造方法が提供される。
本発明の成形前駆体の製造方法によれば、
1.前記増粘工程において、前記含浸物を前記付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より15~45℃高い温度範囲で一定時間保持することによって、含浸物の溶融粘度を300~3200kPa・sに上昇させること、
2.前記機能性繊維の含有率が付加反応型ポリイミド樹脂100重量部に対して5~200重量部であること、
3.前記付加反応型ポリイミド樹脂が、付加反応基としてフェニルエチニル基を有するポリイミド樹脂であること、
が好適である。
【0010】
本発明によれば更に、上記成形前駆体を粉砕混合する工程、該粉砕物を前記付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度以上の温度条件で賦形する賦形工程を有することを特徴とする樹脂成形体の製造方法が提供される。
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、
1.前記粉砕混合工程と賦形工程の間に、成形前駆体の前記粉砕物を溶融温度以上、増粘開始温度以下で所定時間保持する予備加熱工程を有すること、
2.前記賦形工程が、圧縮成形により行われること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成形前駆体においては、付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より5~20℃低い温度で、1~10分間で保持する条件下における溶融粘度が300~3200kPa・sの範囲に調整されていることによって、樹脂成形体への賦形工程においてプレポリマーが適切な粘度範囲を発現可能であることから、機能性繊維が均一に分散された状態で架橋硬化されて成形することが可能であり、反り等のゆがみがなく、歩留まりよく、繊維強化ポリイミド樹脂成形体を製造することができる。
また本発明の成形前駆体においては、樹脂成形体への賦形時の成形温度において好適な溶融粘度に調整されていることから、賦形直前の粘度調整が不要であり、賦形直前に加熱して粘度調整した場合のように気泡の発生及び圧潰のおそれがないため、プレポリマー及び機能性繊維の流動配向に起因する樹脂成形体の反りの発生が有効に防止されている。
本発明の成形前駆体から得られる繊維強化ポリイミド樹脂成形体は、成形体中に機能性繊維が均一に分散された状態で架橋硬化されて成形されていることから、反り等のゆがみがなく、耐熱性、耐久性及び機械的強度に優れた付加反応型ポリイミド樹脂をマトリックス樹脂とし、摺動性能を発現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例における反り量の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(成形前駆体)
本発明の成形前駆体は、機能性繊維に付加反応型ポリイミド樹脂が含浸して成る成形前駆体であり、塊状或いはこの塊を粉砕した粉体状のバルクモールディングコンパウンド(BMC)の形態とすることができる。本発明においては、この成形前駆体が、付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間で保持する条件下における溶融粘度が300~3200kPa・sであることが重要な特徴である。
尚、本明細書において、増粘開始温度とは以下のとおり定義される。
レオメータでパラレルプレートを用い、角周波数100rad/sにおいて、4℃/minで昇温し、所定の目標温度に到達後、その目標温度で一定時間保持する条件下で、未反応状態の付加反応型ポリイミド樹脂の粘度を測定する。昇温することによって溶融し、粘度が低下する。測定中に最も低い粘度を最低溶融粘度とし、目標温度到達後120分経過するまでの溶融粘度を求める。目標温度を5の倍数の温度で低い温度から高い温度に向かって設定してそれぞれ溶融粘度の計測を行う。最低溶融粘度を示す時間を0分とし、横軸を時間(min)、縦軸を溶融粘度(Pa・s)とした片対数グラフにプロットし、表計算ソフトにより指数近似式を求める。下記式(1)に示される近似式のBの値がはじめて0.014を超える温度を増粘開始温度とする。
【0014】
Y=Aexp(Bx) ・・・(1)
Y:溶融粘度(Pa・s)、x:時間(min)、A及びB:定数
【0015】
[付加反応型ポリイミド樹脂]
本発明に用いる付加反応型ポリイミド樹脂は、末端に付加反応基を有する芳香族ポリイミドオリゴマーから成り、従来公知の製法により調製したものを使用することができる。例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、及び分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物を、各酸基の当量の合計と各アミノ基の合計とをほぼ等量となるように使用して、好適には溶媒中で反応させることによって容易に得ることができる。反応の方法としては、100℃以下、好適には80℃以下の温度で、0.1~50時間重合してアミド酸結合を有するオリゴマーを生成し、次いでイミド化剤によって化学イミド化する方法や、140~270℃程度の高温で加熱して熱イミド化する2工程からなる方法、或いは始めから140~270℃の高温で、0.1~50時間重合・イミド化反応を行わせる1工程からなる方法を例示できる。
これらの反応で用いる溶媒は、これに限定されないが、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、γ-ブチルラクトン、N-メチルカプロラクタム等の有機極性溶媒を好適に使用できる。
【0016】
本発明において、芳香族イミドオリゴマーの末端の付加反応基は、樹脂成形体を製造する際に、加熱によって硬化反応(付加重合反応)を行う基であれば特に限定されないが、好適に硬化反応を行うことができること、及び得られた硬化物の耐熱性が良好であることを考慮すると、好ましくはフェニルエチニル基、アセチレン基、ナジック酸基、及びマレイミド基からなる群から選ばれるいずれかの反応基であることが好ましく、特にフェニルエチニル基は、硬化反応によるガス成分の発生がなく、しかも得られた樹脂成形体の耐熱性に優れていると共に機械的な強度にも優れていることから好適である。
これらの付加反応基は、分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物が、芳香族イミドオリゴマーの末端のアミノ基又は酸無水物基と、好適にはイミド環を形成する反応によって、芳香族イミドオリゴマーの末端に導入される。
分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物は、例えば4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸、4-(2-フェニルエチニル)アニリン、4-エチニル-無水フタル酸、4-エチニルアニリン、ナジック酸無水物、マレイン酸無水物等を好適に使用することができる。
【0017】
末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーを形成するテトラカルボン酸成分としては、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一つのテトラカルボン酸二無水物を例示することができ、特に、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に使用することができる。
【0018】
末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーを形成するジアミン成分としては、これに限定されないが、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、2,6-ジエチル-1,3-ジアミノベンゼン、4,6-ジエチル-2-メチル-1,3-ジアミノベンゼン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミン等のベンゼン環を1個有するジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6-ジエチル-4-アミノフェノキシ)メタン、ビス(2-エチル-6-メチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレン-ビス(2-エチル,6-メチルアニリン)、2,2―ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2―ビス(4-アミノフェニル)プロパン、ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン等のベンゼン環を2個有するジアミン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン,1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン等のベンゼン環を3個有するジアミン2,2-ビス[4-[4-アミノフェノキシ]フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-[4-アミノフェノキシ]フェニル]ヘキサフルオロプロパン等のベンゼン環を4個有するジアミン等を単独、或いは複数種混合して使用することができる。
【0019】
これらの中でも、1,3-ジアミノベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、及び2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンからなる群から選ばれる少なくとも二つの芳香族ジアミンによって構成された混合ジアミンを用いることが好適であり、特に、1,3-ジアミノベンゼンと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルと4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとの組み合せからなる混合ジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミン、及び2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミンを使用することが、耐熱性と成形性の点から好適である。
【0020】
本発明で用いる末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーは、イミドオリゴマーの繰返し単位の繰返しが、0~20、特に1~5であることが好適であり、GPCによるスチレン換算の数平均分子量が、10000以下、特に3000以下であることが好適である。繰返し単位の繰返し数が上記範囲にあることにより、溶融粘度が適切な範囲に調整されて、機能性繊維を混合することが可能になる。また高温で成形する必要がなく、成形性に優れていると共に、耐熱性、機械的強度に優れた樹脂成形体を提供することが可能になる。
繰返し単位の繰返し数の調整は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、及び分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物の割合を変えることにより行うことができ、分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物の割合を高くすることにより、低分子量化して繰返し単位の繰返し数は小さくなり、この化合物の割合を小さくすると、高分子量化して繰返し単位の繰返し数は大きくなる。
【0021】
付加反応型ポリイミド樹脂には、目的とする樹脂成形体の用途に応じて、難燃剤、着色剤、滑剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤等の樹脂添加剤を公知の処方に従って配合することができる。
【0022】
[機能性繊維]
本発明において、上述した付加反応型ポリイミド樹脂中に分散させる機能性繊維としては、従来公知の物を使用することができ、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、金属繊維等、従来公知の機能性繊維を使用することができるが、炭素繊維を好適に使用することができ、中でもピッチ系炭素繊維、特にメゾフェーズ型のピッチ系炭素繊維を好適に用いることができる。
炭素繊維は、平均繊維長が50~6000μm及び平均繊維径が5~20μmの範囲にあるものを好適に使用することができる。上記範囲よりも平均繊維長が短い場合には、炭素繊維の強化材としての効果を充分に得ることができず、その一方上記範囲よりも長いとポリイミド樹脂中での分散性に劣るようになる。また上記範囲よりも平均繊維径が細い場合には、取扱い性に劣ると共に高価であり、一方上記範囲よりも平均繊維径が太い場合には機能性繊維の沈降速度が増大して、機能性繊維が偏在しやすくなるおそれがあると共に、繊維の強度が低下する傾向があり、強化材としての効果を充分に得られないおそれがある。
【0023】
機能性繊維の含有量は、樹脂成形体の摺動性能及び成形時の反り発生に重大な影響を有しており、本発明においては、機能性繊維は、付加反応型ポリイミド100重量部に対して5~200重量部、特に10~150重量部の量で含有されていることが、優れた摺動性能を有すると共に、反りがなく優れた形状安定性を有する成形体を得る上で好適である。上記範囲よりも機能性繊維の量が少ないと、樹脂成形体の反りの発生が増大するおそれがある。一方上記範囲よりも機能性繊維の量が多いと、過度の増粘が生じ、賦型できないおそれがある。
【0024】
本発明においては、上記機能性繊維と共に、グラファイト、PTFE、二硫化モリブデン、カーボンブラック等の微細炭素系材料、アルミ粉、銅粉等の金属粉等の無機材料の少なくとも一種を更に含有することもできる。上記無機材料は、付加反応型ポリイミド100重量部に対して5~40重量部、特に5~30重量部の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも無機材料の量が少ないと無機材料を配合することにより得られる効果が充分得られず、一方上記範囲よりも無機材料の量が多いと摩擦係数の増大や耐摩耗性の低下等、かえって摺動性能を損なうおそれがある。
【0025】
(成形前駆体の製造方法)
本発明の成形前駆体の製造方法は、付加反応型ポリイミド樹脂のプレポリマーと機能性繊維を混合し、該混合物を付加反応型ポリイミド樹脂の融点以上且つ増粘開始温度以下の温度で保持し、機能性繊維に付加反応型ポリイミド樹脂を含浸させる含浸工程と、該含浸物を付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度以上の温度で保持し、増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間で保持する条件下における、含浸物の溶融粘度を300~3200kPa・sに上昇させる増粘工程との少なくとも2工程から成る。
【0026】
前述したとおり、本発明の成形前駆体に使用する付加反応型ポリイミド樹脂は、架橋硬化前のプレポリマーの状態では低粘度であることから、賦形工程において増粘させないと機能性繊維が沈降してしまい、その結果、機能性繊維がプレポリマー中に均一に分散されず、反りが発生するおそれがある。その一方、樹脂成形体の賦形工程で、プレポリマーを増粘させると、プレポリマーが熱分解して発泡・膨張し、その後の圧縮成形による加圧によって気泡が潰れて樹脂が流動して機能性繊維が配向することに起因して樹脂成形体に反りが生じてしまう。
本発明においては、上記含浸工程の後に、上記増粘工程によりプレポリマーの溶融粘度を増粘開始温度から15~45℃高い温度で機能性繊維の沈降が生じない粘度範囲に予め調整しておくことにより、機能性繊維の均一な分散を維持すると共に、賦形工程での増粘工程を不要とし、機能性繊維が均一に分散した状態で均等に収縮して反りのない成形体を成形することが可能になる。
【0027】
[含浸工程]
含浸工程においては、まず付加反応型ポリイミド樹脂のプレポリマー(イミドオリゴマー)と機能性繊維を混合した後、この混合物を電気炉等を用いて、付加反応型ポリイミド樹脂の融点以上増粘開始温度以下の温度、具体的には、増粘開始温度より5~20℃低い温度範囲で30~40分間保持することにより、プレポリマーを溶融して機能性繊維に含浸させる。この際、前述したとおり、付加反応型ポリイミド100重量部に対して機能性繊維を5~200重量部、特に10~150重量部の量で用いる。また上述した無機材料を上述した量で配合することもできる。
プレポリマー及び機能性繊維の混合は、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、リボンブレンダ―等の従来公知の混合機を用いることもできるが、機能性繊維の破断を抑制すると共に分散させることが重要であることから、バッチ式の加圧ニーダー(混練機)を用いることが特に好適である。
【0028】
[増粘工程]
増粘工程においては、上記含浸工程を経たプレポリマーを機能性繊維に含浸させた含浸物を、電気炉等を用いて、付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度以上の温度で一定時間保持することによって、含浸物の溶融粘度を300~3200kPa・sに上昇させる。好適には増粘開始温度より30~40℃高い温度範囲で40~60分間保持することにより、増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間で保持する条件下における、含浸物の溶融粘度を300~3200kPa・sに上昇させる。
プレポリマーと機能性繊維の含浸物を、上記温度条件で一定時間保持することにより、プレポリマーが徐々に架橋し始めることから粘度は上昇する。また上記範囲の加熱温度及び保持時間にすることで、プレポリマーを完全に架橋硬化させることなく、粘度のみを上記範囲に上昇させることが可能になる。従って、増粘工程は、プレポリマーの増粘開始温度以上、且つ、完全に架橋硬化する温度未満にて行う。
尚、付加反応型ポリイミド樹脂においては、反応開始温度は付加反応基に依存し、本発明において付加反応基として好適なフェニルエチニル基を有するポリイミド樹脂においては、増粘開始温度近傍である320±15℃の温度で一定時間保持することによって、含浸物の溶融粘度を300~3200kPa・sに上昇させることが望ましい。
増粘工程を経た後、冷却(放冷を含む)固化することにより得られた成形前駆体は、機能性繊維がプレポリマー中に均一に分散した所定の大きさの塊状のBMCであり、経時保管も可能であり、取扱い性に優れている。
【0029】
(樹脂成形体の製造方法)
本発明の樹脂成形体の製造方法は、上述した塊状のBMCである成形前駆体を粉砕混合する工程と、該粉砕物を前記付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度以上の温度条件で賦形する賦形工程との少なくとも2工程から成る。
前述したとおり、本発明の成形前駆体においては、付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度付近の温度域で300~3200kPa・sの溶融粘度を有することから、樹脂成形体の成形に際しては、粉砕された成形前駆体をそのまま付加反応型ポリイミドの増粘開始温度以上の温度で賦形することができる。
また粉砕された成形前駆体の温度を均一化するために、必要により、粉砕混合工程と賦形工程の間、具体的には、成形前駆体の粉砕物を成形型に導入した後、成形型内で溶融温度以上増粘開始温度以下の温度で所定時間、好適には増粘開始温度より5~20℃低い温度で10~30分保持する、予備加熱工程を設けることもできる。
【0030】
[粉砕混合工程]
粉砕混合工程においては、塊状のBMCである成形前駆体を、ロールミル、グラインダー等の粉砕機を用いて、粒子径が0.1~1000μmの粉体状に粉砕する。
【0031】
[賦形工程]
成形型内に導入された粉体状の成形前駆体、或いは成形型内で予備加熱工程を経て若干溶融した状態の成形前駆体は、用いるポリイミド樹脂の増粘開始温度以上の温度条件下、具体的には付加反応基としてフェニルエチニル基を有するポリイミド樹脂において360~390℃の温度で賦形することにより、所望の樹脂成形体として成形される。この際、本発明の成形前駆体においては、用いる付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間で保持する条件下において、300~3200kPa・sの溶融粘度を有することから、圧縮成形等により加圧圧縮しても樹脂の流動が低減されており、機能性繊維の配向も低減されているので、加熱硬化により反りの発生が有効に抑制されている。
尚、賦形は、成形型に導入された混合物を加圧圧縮して成形する圧縮成形やトランスファー成形によることが好適であるが、射出成形や押出成形によっても成形することができる。
【0032】
(樹脂成形体)
上述したように、本発明の成形前駆体を賦形して得られる樹脂成形体は、付加反応型ポリイミド樹脂をマトリックスとし、機能性繊維がマトリックス中に均一に分散した樹脂成形体であり、ディスク状、リング状等、用途に応じた形状に成形されている。また耐熱性、耐久性、及び機械的強度に優れていると共に、優れた摺動性能を有している。しかも反りの発生が有効に防止されていることから、歩留まりが良く、生産性及び経済性にも優れている。
【実施例
【0033】
(反り量の測定)
樹脂成形体が円形の場合、図1に示す成形体反り量t(mm)、成形体直径寸法D(mm)を測定し、反り/直径比を以下の式(2)により算出した。
反り/直径比(%)=t/D×100 ・・・(2)
t:成形体反り量(mm)、D:成形体直径(mm)
なお、反り/直径比の良否判定は0.16%未満を○、0.16%以上を×とした。
【0034】
(増粘開始温度の測定)
用いる付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度をレオメータにより計測した。目標温度への到達速度を4℃/minとし、目標到達温度到達後120分保持する温度条件下で、パラレルプレートを用い、角周波数100rad/s、ひずみ10%として溶融粘度を測定し、最低溶融粘度を示す時間を0分とし、横軸を時間(min)、縦軸を溶融粘度(Pa・s)とした片対数グラフにプロットし、指数近似式より式1の係数Bを求める。付加反応型ポリイミド(宇部興産社製PETI-330)において、目標温度が285℃の時のB値が0.0092あり、目標温度が290℃の時のB値が0.0141であり、増粘開始温度を290℃とした。
【0035】
(溶融粘度の測定)
用いる付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より5℃~20℃低い温度における溶融粘度をレオメータ(TA instrument社製ARES-G2)により測定した。パラレルプレートを用い、(測定ギャップを1mm)ひずみを1%、角周波数範囲を0.1~100rad/sとして、溶融粘度を測定したときの、0.1rad/sにおける溶融粘度を測定値とした。尚、測定する際は、粉体状の成形前駆体をホットプレスにて、増粘開始温度より10℃ ~40℃低い温度で加熱加圧し平滑な板状にした。
【0036】
(実施例1)
付加反応型ポリイミド(宇部興産社製PETI-330)100重量部に対して、平均単繊維長さ200μmのメゾフェーズ型のピッチ系炭素繊維(三菱樹脂社製K223HM)42.9重量部を配合して、ドライブレンドし、電気炉内で280℃、40分保持、続けて320~330℃、40分保持した。その後、急冷し、室温まで冷却された混合物(バルクモールディングコンパウンド、以下BMC)を得た。得られたBMCを粉砕機で粉砕混合してから圧縮成形金型に供給し280℃、10分予備加熱をした後、3.0MPaに加圧しながら昇温速度3℃/minで371℃まで昇温、60分間保持後、徐冷してφ200mm厚さ3mmの板を得た。
【0037】
(実施例2)
電気炉内での320~330℃保持時間を45分に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0038】
(実施例3)
電気炉内での320~330℃保持時間を50分に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0039】
(実施例4)
電気炉内での320~330℃保持時間を60分に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0040】
(比較例1)
電気炉内での320~330℃保持時間を35分に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0041】
(比較例2)
電気炉内での320~330℃保持時間を62.5分に変更した以外は実施例1と同じとした。なお樹脂粘度が高く所望の厚みまで潰しきれなかった。
【0042】
(比較例3)
電気炉内での320~330℃保持時間を65分に変更した以外は実施例1と同じとした。なお樹脂粘度が高く所望の厚みまで潰しきれなかった。
【0043】
(比較例4)
電気炉内での320~330℃保持時間を70分に変更した以外は実施例1と同じとした。なお樹脂粘度が高く所望の厚みまで潰しきれなかった。
【0044】
実施例1~、比較例1~にて得られたBMCの賦形性、溶融粘度、成形体の反り/直径比の測定結果を表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の成形前駆体は、耐熱性、耐久性、機械的強度、摺動性能に優れた繊維強化ポリイミド樹脂成形体を、反りの発生を有効に防止して形状安定性良く成形できることから、自動車、電気・電子分野の摺動性部材として種々の用途に使用できる。
図1