(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】レーザレーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 17/34 20200101AFI20231219BHJP
【FI】
G01S17/34
(21)【出願番号】P 2021090347
(22)【出願日】2021-05-28
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉元 直輝
(72)【発明者】
【氏名】守口 智博
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085867(JP,A)
【文献】特開2018-200273(JP,A)
【文献】特開平07-146359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0064467(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/51
G01S 13/00-13/95
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された変調周期内に、時間が経過するにつれて周波数が漸増する上り変調区間と、時間が経過するにつれて周波数が漸減する下り変調区間とが含まれるように、周波数変調したレーザ光を送信するように構成された送信部(2,3)と、
前記送信部から送信されて物体で反射した前記レーザ光を受信し、受信した前記レーザ光と、前記送信部が送信する前記レーザ光とを混合してビート信号を生成するように構成された受信部(9,10)と、
前記ビート信号の振幅をビート信号振幅として、前記上り変調区間における前記ビート信号である上りビート信号の前記ビート信号振幅の時間変化を示す上りビート信号波形と、前記下り変調区間における前記ビート信号である下りビート信号の前記ビート信号振幅の時間変化を示す下りビート信号波形とのそれぞれについて、前記上りビート信号波形および前記下りビート信号波形の時間範囲内に複数の微小区間を設定するように構成された微小区間設定部(S30)と、
前記上りビート信号波形および前記下りビート信号波形のそれぞれについて、設定された複数の前記微小区間の中から、前記微小区間における前記ビート信号振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす少なくとも1つの前記微小区間を抽出するように構成された微小区間抽出部(S40~S70,S75,S310)と、
前記上りビート信号波形および前記下りビート信号波形のそれぞれについて、抽出された前記微小区間における前記ビート信号を周波数解析することにより、前記微小区間における周波数スペクトラムである微小区間周波数スペクトラムを算出し、前記微小区間周波数スペクトラムにおいてピークとなるピーク周波数を検出するように構成されたピーク検出部(S80,S90,S320~S340)と、
前記ピーク検出部で検出された前記ピーク周波数に基づいて、前記物体までの距離を算出するように構成された距離算出部(S100,S230~S240,S370~S380)と
を備えるレーザレーダ装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザレーダ装置であって、
前記抽出条件は、前記ビート信号振幅が最大であることであり、
前記微小区間抽出部(S70)は、前記上りビート信号波形および前記下りビート信号波形のそれぞれについて、前記抽出条件を満たす1つの前記微小区間を抽出するレーザレーダ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザレーダ装置であって、
前記抽出条件は、前記振幅が最大であることであり、
前記微小区間抽出部(S70)は、前記上りビート信号波形および前記下りビート信号波形のそれぞれについて、前記抽出条件を満たす1つの前記微小区間を抽出し、
前記上りビート信号および前記下りビート信号のそれぞれについて、前記ピーク検出部(S80,S90)により検出された前記ピーク周波数を含む周波数範囲である探索区間を設定するように構成された探索区間設定部(S210,S350)と、
前記上りビート信号波形および前記下りビート信号波形のそれぞれについて、前記時間範囲の全区間における前記ビート信号を周波数解析することにより、前記全区間における前記周波数スペクトラムである全区間周波数スペクトラムを算出するように構成されたスペクトラム算出部(S220,S360)とを備え、
前記距離算出部(S230~S240,S370~S380)は、前記上りビート信号および前記下りビート信号のそれぞれについて、前記全区間周波数スペクトラムにおける前記探索区間内で前記ピーク周波数を検出することによって、前記物体までの距離を算出するレーザレーダ装置。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザレーダ装置であって、
前記抽出条件は、前記ビート信号振幅が大きい順に、複数となるように予め設定された抽出区間数の前記微小区間を抽出することであり、
前記ピーク検出部(S320~S340)は、前記上りビート信号波形および前記下りビート信号波形のそれぞれについて、抽出された前記抽出区間数の前記微小区間における前記ビート信号を周波数解析することにより、前記抽出区間数の前記微小区間それぞれの前記微小区間周波数スペクトラムを算出し、更に、前記抽出区間数の前記微小区間周波数スペクトラムの振幅を平均した平均周波数スペクトルを算出し、算出した前記平均周波数スペクトルにおいて前記ピーク周波数を検出するレーザレーダ装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載のレーザレーダ装置であって、
前記微小区間設定部は、複数の前記微小区間のそれぞれについて、前記微小区間の一部が他の少なくとも1つの前記微小区間と重複するように前記微小区間を設定するレーザレーダ装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1項に記載のレーザレーダ装置であって、
前記微小区間抽出部(S40,S55,S60,S75)は、複数の前記微小区間のそれぞれについて、前記微小区間を複数の振幅変動確認区間に分割し、複数の前記振幅変動確認区間毎に前記ビート信号振幅を確認することによって、前記抽出条件を満たす前記微小区間を抽出するレーザレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、FMCW方式のレーザレーダ装置において、時間が経過するにつれて周波数が漸増する上り変調区間と、時間が経過するにつれて周波数が漸減する下り変調区間とを含む変調区間を、上り変調区間および下り変調区間より短い複数の区間に分割して処理した後に平均化することが記載されている。FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2020/0241139号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FMCW方式のレーザレーダ装置において、レーザ光を反射する物体の表面の粗さに起因したレーザ光の干渉によって生ずるスペックルの影響でビート信号の振幅が変動し、ビート信号を周波数解析することによって算出される周波数スペクトルの信号対雑音比が低下してしまうという問題があった。この信号対雑音比の低下によって、レーザレーダ装置の検出精度が低下する。
【0005】
本開示は、レーザレーダ装置の検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、送信部(2,3)と、受信部(9,10)と、微小区間設定部(S30)と、微小区間抽出部(S40~S70,S75,S310)と、ピーク検出部(S80,S90,S320~S340)と、距離算出部(S100,S230~S240,S370~S380)とを備えるレーザレーダ装置(1)である。
【0007】
送信部は、予め設定された変調周期内に、時間が経過するにつれて周波数が漸増する上り変調区間と、時間が経過するにつれて周波数が漸減する下り変調区間とが含まれるように、周波数変調したレーザ光を送信するように構成される。
【0008】
受信部は、送信部から送信されて物体で反射したレーザ光を受信し、受信したレーザ光と、送信部が送信するレーザ光とを混合してビート信号を生成するように構成される。
微小区間設定部は、ビート信号の振幅をビート信号振幅として、上り変調区間におけるビート信号である上りビート信号のビート信号振幅の時間変化を示す上りビート信号波形と、下り変調区間におけるビート信号である下りビート信号のビート信号振幅の時間変化を示す下りビート信号波形とのそれぞれについて、上りビート信号波形および下りビート信号波形の時間範囲内に複数の微小区間を設定するように構成される。
【0009】
微小区間抽出部は、上りビート信号波形および下りビート信号波形のそれぞれについて、設定された複数の微小区間の中から、微小区間におけるビート信号振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす少なくとも1つの微小区間を抽出するように構成される。
【0010】
ピーク検出部は、上りビート信号波形および下りビート信号波形のそれぞれについて、抽出された微小区間におけるビート信号を周波数解析することにより、微小区間における周波数スペクトラムである微小区間周波数スペクトラムを算出し、微小区間周波数スペクトラムにおいてピークとなるピーク周波数を検出するように構成される。
【0011】
距離算出部は、ピーク検出部で検出されたピーク周波数に基づいて、物体までの距離を算出するように構成される。
このように構成された本開示のレーザレーダ装置は、ビート信号波形においてビート信号振幅が大きい微小区間のみに対して周波数解析を実行してピーク周波数を検出する。これにより、本開示のレーザレーダ装置は、周波数解析によって算出される周波数スペクトルの信号対雑音比を向上させることができ、レーザレーダ装置の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】レーザレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態の測距処理を示すフローチャートである。
【
図3】第1実施形態においてピーク周波数を検出する方法を説明する図である。
【
図4】第2実施形態の測距処理を示すフローチャートである。
【
図5】第2実施形態においてピーク周波数を検出する方法を説明する図である。
【
図6】第3実施形態の測距処理を示すフローチャートである。
【
図7】第2,3,4微小区間の上り抽出周波数スペクトルおよび上り平均周波数スペクトルを示す図である。
【
図9】第5実施形態の測距処理を示すフローチャートである。
【
図10】第5実施形態の振幅変動確認区間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下に本開示の第1実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態のレーザレーダ装置1は、周知のFMCW方式を採用しており、
図1に示すように、レーザ駆動回路2と、レーザダイオード3と、分波器4と、光フェーズドアレイ(以下、OPA)5と、移相器6と、拡散レンズ7と、集光レンズ8と、光受信部9と、合波器10と、フォトダイオード11と、トランスインピーダンスアンプ(以下、TIA)12と、信号処理部13とを備える。FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略である。
【0014】
レーザ駆動回路2は、周波数が掃引されたレーザ光を生成する駆動信号をレーザダイオード3へ出力する。
レーザダイオード3は、レーザ駆動回路2から出力された駆動信号に基づいて、周波数が掃引されたレーザ光(以下、送信光)を繰り返し照射する。具体的には、レーザダイオード3は、時間に対して周波数が直線的に増加する上り変調区間と、時間に対して周波数が直線的に減少する下り変調区間とを有するように変調された送信光を、予め設定された変調周期Tmで生成して照射する。
【0015】
分波器4は、例えば光導波路が分岐するカプラによって構成されており、レーザダイオード3から照射された送信光が入力される。分波器4は、分波器4に入力された送信光の一部を、OPA5へ照射し、残りの部分を合波器10へ照射する。
【0016】
分波器4からOPA5へ向けて照射された送信光は、複数の光導波路に分岐してOPA5に入射する。移相器6は、複数の光導波路のそれぞれに設けられており、図示しない制御回路から入力される電気信号に応じて、各光導波路を通る送信光の位相を変化させる。これにより、各光導波路から出射される送信光の指向性が変化し、送信光が水平方向に走査される。
【0017】
なお、OPA5および移相器6の代わりに、ミラーおよびミラー駆動回路を備えてもよい。この場合には、分波器4からミラーへ向けて照射された送信光は、ミラーで反射される。そして、ミラーがミラー駆動回路によって回転することにより、ミラーで反射された送信光は、水平方向に走査される。
【0018】
拡散レンズ7は、照射された送信光を拡散してラインビームを形成する。
集光レンズ8は、送信光が物体により反射されて生じた反射光を集光して、光受信部9へ照射する。
【0019】
光受信部9は、集光レンズ8から照射された反射光を受信光として受信する。
合波器10は、分波器4から入力された送信光と、光受信部9から入力された受信光とを混合し、ビート信号を生成する。
【0020】
フォトダイオード11は、合波器10から入力されたビート信号を電流信号に変換して出力する。
TIA12は、フォトダイオード11から入力された電流信号を電圧信号に変換して出力する。
【0021】
信号処理部13は、CPU21、ROM22およびRAM23等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成された電子制御装置である。マイクロコンピュータの各種機能は、CPU21が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROM22が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、CPU21が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、信号処理部13を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0022】
信号処理部13は、AD変換回路および高速フーリエ変換回路等を備えている。信号処理部13は、TIA12から順次入力される電圧信号をデジタル信号に変換し、このデジタル信号が示す値をビート信号の振幅として、時系列でRAM23に記憶することにより、ビート信号の振幅の時間変化を示すビート信号波形データを生成する。そして信号処理部13は、ビート信号波形データを周波数解析して、物体の距離および速度を算出する。また信号処理部13は、送信光の走査方向に基づいて、物体の角度を算出する。
【0023】
FMCW方式では、ビート信号として、上りビート信号および下りビート信号が生成される。上りビート信号は、上り変調区間のレーダ波が送信されている期間において送信光と受信光とを混合することにより生成される。同様に下りビート信号は、下り変調区間のレーダ波が送信されている期間において送信光と受信光とを混合することにより生成される。
【0024】
そして、上りビート信号の周波数fbuおよび下りビート信号の周波数fbdと、物体までの距離L(以下、物体距離Lという)および相対速度v(以下、物体相対速度vという)との間には、下式(1),(2)の関係が成立する。なお、式(1),(2)において、cは光速、Δfは送信光の周波数変動幅、f0は送信光の中心周波数である。
【0025】
【0026】
したがって、物体距離Lと物体相対速度vは、下式(3),(4)により算出される。
【0027】
【0028】
このように構成されたレーザレーダ装置1において、信号処理部13は、測距処理を実行する。測距処理は、信号処理部13の動作中において変調周期Tmが経過する毎に実行される処理である。
【0029】
測距処理が実行されると、信号処理部13のCPU21は、
図2に示すように、まずS10にて、RAM23に設けられた区間指示値iを0に設定する。
そしてCPU21は、S20にて、直近の上り変調区間で生成されたビート信号波形データ(以下、上りビート信号波形データ)と、直近の下り変調区間で生成されたビート信号波形データ(以下、下りビート信号波形データ)とをRAM23から取得する。
【0030】
図3のグラフG1は、上り変調区間における送信光と受信光の周波数の時間変化を示す。直線L1は送信光の周波数の時間変化を示し、直線L2は受信光の周波数の時間変化を示す。
【0031】
次にCPU21は、
図2に示すように、S30にて、まず、上りビート信号波形データおよび下りビート信号波形データのそれぞれについて、上りビート信号波形データおよび下りビート信号波形データの時間範囲内に、所定分割数Nの互いに重複しない微小区間を設定する。所定分割数Nは2以上の整数である。以下、所定分割数Nの微小区間をそれぞれ、時刻が早い順に第1微小区間SS1、第2微小区間SS2、・・・、第N微小区間SSNという。
【0032】
図3のグラフG2は、上り変調区間のビート信号波形を分割する第1微小区間SS1、第2微小区間SS2、第3微小区間SS3および第4微小区間SS4を示す。
さらにCPU21は、
図2に示すように、S40にて、区間指示値iをインクリメント(すなわち、1加算)する。
【0033】
そしてCPU21は、S50にて、上りビート信号波形データおよび下りビート信号波形データのそれぞれについて、第i微小区間SSiにおけるビート信号の振幅値を算出する。本実施形態では、振幅値として実効値を採用している。なお、振幅値は、微小区間内の信号の大きさを示す指標であればよく、例えば、絶対値の平均値を採用してもよい。
【0034】
次にCPU21は、S60にて、区間指示値iが所定分割数N以上であるか否かを判断する。ここで、区間指示値iが所定分割数N未満である場合には、CPU21は、S40に移行する。一方、区間指示値iが所定分割数N以上である場合には、CPU21は、S70にて、上りビート信号波形データおよび下りビート信号波形データのそれぞれについて、振幅値が最大の微小区間を抽出する。以下、上りビート信号波形データで抽出された微小区間を上り抽出微小区間、下りビート信号波形データで抽出された微小区間を下り抽出微小区間という。
【0035】
そしてCPU21は、S80にて、まず、上り抽出微小区間の上りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して、上りビート信号の周波数スペクトル(以下、上り抽出周波数スペクトル)を算出する。周波数スペクトルは、ビート信号に含まれる周波数と、各周波数における振幅とを表す。本実施形態では、上記の周波数解析処理は高速フーリエ変換である。
【0036】
さらにCPU21は、下り抽出微小区間の下りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して、下りビート信号の周波数スペクトル(以下、下り抽出周波数スペクトル)を算出する。
【0037】
図3のグラフG3は、上り変調区間における全区間の上りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行することによって算出された周波数スペクトルを示す。
図3のグラフG4は、上り変調区間内における第3微小区間SS3の上りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行することによって算出された周波数スペクトルを示す。
【0038】
グラフG3とグラフG4とを比較すると、グラフG4の方がグラフG3よりも信号対雑音比が大きい。一方、グラフG3の方がグラフG4よりも時間分解能が高い。
次にCPU21は、
図2に示すように、S90にて、S80で算出された上り抽出周波数スペクトル上に存在する周波数ピークを周波数fbuとして検出し、S80で算出された下り抽出周波数スペクトル上に存在する周波数ピークを周波数fbdとして検出する。
【0039】
そしてCPU21は、S100にて、S90で検出された周波数fbuおよび周波数fbdを用いて物体距離Lを算出し、測距処理を終了する。
このように構成されたレーザレーダ装置1は、レーザ駆動回路2およびレーザダイオード3と、光受信部9および合波器10と、信号処理部13とを備える。
【0040】
レーザ駆動回路2およびレーザダイオード3は、予め設定された変調周期Tm内に、時間が経過するにつれて周波数が漸増する上り変調区間と、時間が経過するにつれて周波数が漸減する下り変調区間とが含まれるように、周波数変調したレーザ光を送信する。
【0041】
光受信部9および合波器10は、レーザダイオード3から送信されて物体で反射したレーザ光を受信し、受信したレーザ光と、レーザダイオード3が送信するレーザ光とを混合してビート信号を生成する。
【0042】
信号処理部13は、上りビート信号のビート信号振幅の時間変化を示す上りビート信号波形と、下りビート信号のビート信号振幅の時間変化を示す下りビート信号波形とのそれぞれについて、上りビート信号波形および下りビート信号波形の時間範囲内に所定分割数Nの微小区間を設定する。
【0043】
信号処理部13は、上りビート信号波形および下りビート信号波形のそれぞれについて、設定された所定分割数Nの微小区間の中から、微小区間におけるビート信号振幅が大きいことを示す予め設定された抽出条件を満たす少なくとも1つの微小区間を抽出する。本実施形態の抽出条件は、ビート信号振幅が最大であることである。
【0044】
信号処理部13は、上りビート信号波形および下りビート信号波形のそれぞれについて、抽出された微小区間におけるビート信号を周波数解析することにより、上り抽出周波数スペクトルおよび下り抽出周波数スペクトルを算出し、上り抽出周波数スペクトルおよび下り抽出周波数スペクトルにおいてピークとなる周波数fbuおよび周波数fbdを検出する。
【0045】
信号処理部13は、検出された周波数fbuおよび周波数fbdに基づいて、物体距離Lを算出する。
このようなレーザレーダ装置1は、ビート信号波形においてビート信号振幅が大きい微小区間のみに対して周波数解析を実行して周波数fbuおよび周波数fbdを検出する。これにより、レーザレーダ装置1は、周波数解析によって算出される周波数スペクトルの信号対雑音比を向上させることができ、レーザレーダ装置1の検出精度を向上させることができる。
【0046】
以上説明した実施形態において、レーザ駆動回路2およびレーザダイオード3は送信部に相当し、光受信部9および合波器10は受信部に相当する。
また、S30は微小区間設定部としての処理に相当し、S40~S70は微小区間抽出部としての処理に相当し、S80,S90はピーク検出部としての処理に相当し、S100は距離算出部としての処理に相当する。
【0047】
また、上り抽出周波数スペクトルおよび下り抽出周波数スペクトルは微小区間周波数スペクトラムに相当し、周波数fbuおよび周波数fbdはピーク周波数に相当する。
[第2実施形態]
以下に本開示の第2実施形態を図面とともに説明する。なお第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0048】
第2実施形態のレーザレーダ装置1は、測距処理が変更された点が第1実施形態と異なる。
第2実施形態の測距処理は、
図4に示すように、S100の処理が省略されてS210~S240の処理が追加された点が第1実施形態と異なる。
【0049】
すなわち、S90の処理が終了すると、CPU21は、S210にて、S90で検出された周波数fbuおよび周波数fbdを用いて、上り探索区間Suおよび下り探索区間Sdを設定する。
図5に示すように、上り探索区間Suは、探索周波数幅をaとして、fbu-(a/2)からfbu+(a/2)までの周波数範囲である。また下り探索区間Sdは、fbd-(a/2)からfbd+(a/2)までの周波数範囲である。なお、下り探索区間Sdは
図5に示されていない。
【0050】
そしてCPU21は、
図4に示すように、S220にて、まず、上り変調区間の上りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して、上りビート信号の周波数スペクトル(以下、上り全区間周波数スペクトル)を算出する。さらにCPU21は、下り変調区間の下りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して、下りビート信号の周波数スペクトル(以下、下り全区間周波数スペクトル)を算出する。
【0051】
次にCPU21は、S230にて、S220で算出された上り全区間周波数スペクトルにおいて上り探索区間Su内に存在する周波数ピークを周波数fbuとして検出する。またCPU21は、S220で算出された下り全区間周波数スペクトルにおいて下り探索区間Sd内に存在する周波数ピークを周波数fbdとして検出する。
【0052】
そしてCPU21は、S240にて、S230で検出された周波数fbuおよび周波数fbdを用いて物体距離Lを算出し、測距処理を終了する。
このように構成されたレーザレーダ装置1では、信号処理部13は、上りビート信号および下りビート信号のそれぞれについて、検出された周波数fbuおよび周波数fbdを含む上り探索区間Suおよび下り探索区間Sdを設定する。
【0053】
また信号処理部13は、上りビート信号波形および下りビート信号波形のそれぞれについて、時間範囲の全区間におけるビート信号を周波数解析することにより、上り全区間周波数スペクトルおよび下り全区間周波数スペクトルを算出する。
【0054】
そして信号処理部13は、上り全区間周波数スペクトルおよび下り全区間周波数スペクトルにおける上り探索区間Suおよび下り探索区間Sd内で周波数fbuおよび周波数fbdを検出することによって、物体距離Lを算出する。
【0055】
このようなレーザレーダ装置1は、上り抽出周波数スペクトルおよび下り抽出周波数スペクトルよりも周波数分解能が高い上り全区間周波数スペクトルおよび下り全区間周波数スペクトルを用いて最終的な周波数fbuおよび周波数fbdを検出する。このため、レーザレーダ装置1は、周波数fbuおよび周波数fbdの検出精度を向上させることができ、レーザレーダ装置1の検出精度を更に向上させることができる。
【0056】
以上説明した実施形態において、S210は探索区間設定部としての処理に相当し、S220はスペクトラム算出部としての処理に相当し、S230~S240は距離算出部としての処理に相当し、上り全区間周波数スペクトルおよび下り全区間周波数スペクトルは全区間周波数スペクトラムに相当する。
【0057】
[第3実施形態]
以下に本開示の第3実施形態を図面とともに説明する。なお第3実施形態では、第2実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0058】
第3実施形態のレーザレーダ装置1は、測距処理が変更された点が第2実施形態と異なる。
第3実施形態の測距処理は、
図6に示すように、S70,S80,S90,S210~S240の処理が省略されてS310~S380の処理が追加された点が第2実施形態と異なる。
【0059】
すなわち、S60にて区間指示値iが所定分割数N以上である場合に、CPU21は、S310にて、上りビート信号波形データおよび下りビート信号波形データのそれぞれについて、振幅値が大きい順に抽出区間数Kの微小区間を抽出する。抽出区間数Kは、2以上でN未満の整数である。
【0060】
そしてCPU21は、S320にて、まず、抽出区間数Kの上り抽出微小区間の上りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して、抽出区間数Kの上り抽出周波数スペクトルを算出する。
【0061】
図7のグラフG5は、
図2のグラフG2で示す第2微小区間SS2の上りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して算出された上り抽出周波数スペクトルを示す。
【0062】
図7のグラフG6は、
図2のグラフG2で示す第3微小区間SS3の上りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して算出された上り抽出周波数スペクトルを示す。
【0063】
図7のグラフG7は、
図2のグラフG2で示す第4微小区間SS4の上りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して算出された上り抽出周波数スペクトルを示す。
【0064】
さらにCPU21は、
図6に示すように、S320にて、下り抽出微小区間の下りビート信号波形データについて周波数解析処理を実行して、抽出区間数Kの下り抽出周波数スペクトルを算出する。
【0065】
次にCPU21は、S330にて、S320で算出された抽出区間数Kの上り抽出周波数スペクトルの振幅を平均した上り平均周波数スペクトルと、S320で算出された抽出区間数Kの下り抽出周波数スペクトルの振幅を平均した下り平均周波数スペクトルとを算出する。
【0066】
図7のグラフG8は、
図7のグラフG5,G6,G7で示す第2,3,4微小区間SS2,SS3,SS4の上り抽出周波数スペクトルの振幅を平均した上り平均周波数スペクトルを示す。
【0067】
そしてCPU21は、
図6に示すように、S340にて、S330で算出された上り平均周波数スペクトル上に存在する周波数ピークを周波数fbuとして検出し、S330で算出された下り平均周波数スペクトル上に存在する周波数ピークを周波数fbdとして検出する。
【0068】
さらにCPU21は、S350にて、S210と同様にして、S340で検出された周波数fbuおよび周波数fbdを用いて、上り探索区間Suおよび下り探索区間Sdを設定する。
【0069】
次にCPU21は、S360にて、S220と同様にして、上り変調区間の上りビート信号波形データと下り変調区間の下りビート信号波形データとについて周波数解析処理を実行して、それぞれ上り全区間周波数スペクトルと下り全区間周波数スペクトルとを算出する。
【0070】
そしてCPU21は、S370にて、S230と同様にして、S360で算出された上り全区間周波数スペクトルにおいて上り探索区間Su内に存在する周波数ピークを周波数fbuとして検出する。またCPU21は、S360で算出された下り全区間周波数スペクトルにおいて下り探索区間Sd内に存在する周波数ピークを周波数fbdとして検出する。
【0071】
そしてCPU21は、S380にて、S240と同様にして、S370で検出された周波数fbuおよび周波数fbdを用いて物体距離Lを算出し、測距処理を終了する。
このように構成されたレーザレーダ装置1では、抽出条件は、ビート信号振幅が大きい順に、複数となるように予め設定された抽出区間数Kの微小区間を抽出することである。そして信号処理部13は、抽出された抽出区間数Kの微小区間におけるビート信号を周波数解析することにより、抽出区間数Kの微小区間それぞれの上り抽出周波数スペクトルおよび下り抽出周波数スペクトルを算出する。さらに信号処理部13は、抽出区間数Kの上り抽出周波数スペクトルおよび下り抽出周波数スペクトルの振幅を平均した上り平均周波数スペクトルおよび下り平均周波数スペクトルを算出し、算出した上り平均周波数スペクトルおよび下り平均周波数スペクトルにおいて周波数fbuおよび周波数fbdを検出する。
【0072】
このようなレーザレーダ装置1は、抽出区間数Kの上り抽出周波数スペクトルおよび下り抽出周波数スペクトルの振幅を平均することにより、信号対雑音比が向上した上り平均周波数スペクトルおよび下り平均周波数スペクトルを得ることができる。このため、レーザレーダ装置1は、周波数fbuおよび周波数fbdの検出精度を向上させることができ、レーザレーダ装置1の検出精度を更に向上させることができる。
【0073】
以上説明した実施形態において、S310は微小区間抽出部としての処理に相当し、S320~S340はピーク検出部としての処理に相当し、上り平均周波数スペクトルおよび下り平均周波数スペクトルは平均周波数スペクトルする。
【0074】
また、S350は探索区間設定部としての処理に相当し、S360はスペクトラム算出部としての処理に相当し、S370~S380は距離算出部としての処理に相当する。
[第4実施形態]
以下に本開示の第4実施形態を図面とともに説明する。なお第4実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0075】
第4実施形態のレーザレーダ装置1は、測距処理におけるS30が変更された点が第1実施形態と異なる。
第4実施形態における測距処理のS30では、CPU21は、
図8に示すように、上りビート信号波形データおよび下りビート信号波形データのそれぞれについて、上りビート信号波形データおよび下りビート信号波形データの時間範囲内において、少なくとも隣接する微小区間と重複するようにして所定分割数Nの微小区間を設定する。
図8は、所定分割数Nが7であるときにおける微小区間の設定を示す。
【0076】
このように構成されたレーザレーダ装置1では、信号処理部13は、複数の微小区間のそれぞれについて、微小区間の一部が他の少なくとも1つの微小区間と重複するように微小区間を設定する。これにより、レーザレーダ装置1は、信号対雑音比がより高い微小区間を抽出することが可能となる。このため、レーザレーダ装置1は、周波数fbuおよび周波数fbdの検出精度を更に向上させることができ、レーザレーダ装置1の検出精度を更に向上させることができる。
【0077】
[第5実施形態]
以下に本開示の第5実施形態を図面とともに説明する。なお第5実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0078】
第5実施形態のレーザレーダ装置1は、測距処理が変更された点が第1実施形態と異なる。
第5実施形態の測距処理は、S50,S70の代わりにS55,S75の処理を実行する点が第1実施形態と異なる。
【0079】
すなわち、
図9に示すように、S40の処理が終了すると、CPU21は、S55にて、第i微小区間SSiの最大変化量およびバラつきを算出する。具体的には、CPU21は、まず、第i微小区間SSiの時間範囲内に、所定分割数Mの互いに重複しない振幅変動確認区間を設定する。所定分割数Mの振幅変動確認区間はそれぞれ、時刻が早い順に第1振幅変動確認区間CS1、第2振幅変動確認区間CS2、・・・、第M振幅変動確認区間CSMという。
図10は、第1微小区間SS1に設定された第1振幅変動確認区間CS1、第2振幅変動確認区間CS2、・・・、第8振幅変動確認区間CS8を示す。
【0080】
そしてCPU21は、第1振幅変動確認区間CS1、第2振幅変動確認区間CS2、・・・、第M振幅変動確認区間CSMのそれぞれにおいて、振幅変動値を算出する。振幅変動値は、振幅変動確認区間のそれぞれについて、ピーク時における振幅値の絶対値の平均値である。
図10において、第1~8振幅変動確認区間CS1~CS8を示す横棒の高さが振幅値を表す。
【0081】
さらにCPU21は、第1振幅変動確認区間CS1、第2振幅変動確認区間CS2、・・・、第M振幅変動確認区間CSMの振幅変動値の中から最も大きい振幅変動値を、第i微小区間SSiの最大変化量とする。またCPU21は、第1振幅変動確認区間CS1、第2振幅変動確認区間CS2、・・・、第M振幅変動確認区間CSMの振幅変動値の標準偏差を第i微小区間SSiのバラつきとする。
【0082】
図9に示すように、S60にて区間指示値iが所定分割数N以上である場合には、CPU21は、S75にて、上りビート信号波形データおよび下りビート信号波形データのそれぞれについて、バラつきの値が予め設定された抽出閾値未満である微小区間の中から最大変化量が最も大きい微小区間を抽出する。
【0083】
そしてS75の処理が終了すると、CPU21は、S80に移行する。
このように構成されたレーザレーダ装置1では、信号処理部13は、複数の微小区間のそれぞれについて、微小区間を複数の振幅変動確認区間に分割し、複数の振幅変動確認区間毎にビート信号振幅を確認することによって、抽出条件を満たす微小区間を抽出する。
【0084】
このようなレーザレーダ装置1は、微小区間内で瞬間的にビート信号振幅が大きくなるノイズが発生したことに起因して、その微小区間が抽出されてしまう事態の発生を抑制し、微小空間全体でビート信号振幅が大きい微小空間を抽出することができる。これにより、レーザレーダ装置1は、信号対雑音比が低い微小区間を抽出される事態の発生を抑制することができる。このため、レーザレーダ装置1は、周波数fbuおよび周波数fbdの検出精度を更に向上させることができ、レーザレーダ装置1の検出精度を更に向上させることができる。
【0085】
以上説明した実施形態において、S40,S55,S60,S75は微小区間抽出部としての処理に相当する。
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0086】
本開示に記載の信号処理部13およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の信号処理部13およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の信号処理部13およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。信号処理部13に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0087】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0088】
上述したレーザレーダ装置1の他、当該レーザレーダ装置1を構成要素とするシステム、当該レーザレーダ装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、測距方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0089】
1…レーザレーダ装置、2…レーザ駆動回路、3…レーザダイオード、9…光受信部、10…合波器、13…信号処理部