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特許7405146液晶ポリマーパウダーおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】液晶ポリマーパウダーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20231219BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08J3/12 A CFD
D01F6/62 308
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021548919
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(86)【国際出願番号】 JP2020035732
(87)【国際公開番号】W WO2021060255
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2019173858
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大幡 裕之
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-157499(JP,A)
【文献】国際公開第2014/188830(WO,A1)
【文献】特表2005-501760(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150336(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/109199(WO,A1)
【文献】特開平10-46430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28、99/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
D01F 1/00-6/96、9/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上である繊維状の粒子からなる繊維部と、
繊維化されていない塊状部とを含み、
前記塊状部は、平面に載置されたときの最大高さが10μmより大きい凝集部であり、
前記繊維部の平均径が1μm以下であり、
記塊状部の含有率が20%以下である、液晶ポリマーパウダー。
【請求項2】
不活性雰囲気下で400℃まで加熱した後、40℃/min以上の降温速度で常温まで冷却し、再び40℃/minの昇温速度で加熱しつつ示差走査熱量計を用いて測定した吸熱ピーク温度が、330℃を超える、請求項1に記載の液晶ポリマーパウダー。
【請求項3】
繊維部を含む液晶ポリマーパウダーの製造方法であって、
一軸または二軸に配向した液晶ポリマーを、液体窒素に分散させた状態で、メディアを用いて粉砕して、粒状の微粉砕液晶ポリマーを得る微粉砕工程と、
前記微粉砕液晶ポリマーを湿式高圧破砕装置で複数回破砕して、液晶ポリマーパウダーを得る繊維化工程とを備える、液晶ポリマーパウダーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマーパウダーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーについて開示された先行技術文献として、特開2003-193387号公報(特許文献1)、特表2005-501760号公報(特許文献2)、特開2008-50715号公報(特許文献3)、特許第5904307号(特許文献4)がある。
【0003】
特許文献1には、ペレット状の剛直鎖芳香族合成高分子を、該剛直鎖芳香族合成高分子の重量平均繊維長を1.6mm以下とするまで、水懸濁状態で機械的処理を加え予備叩解した後、ホモジナイザー処理することを特徴とする剛直鎖芳香族合成高分子のミクロフィブリル化物の製造方法が記載されている。剛直鎖芳香族合成高分子としては、ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)に代表される芳香族ポリアミドやポリ(p-ヒドロキシ安息香酸)に代表される液晶高分子の芳香族ポリエステルが挙げられることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、異方性サーモトロピック液晶ポリマーの小さい粒子をより大きい粒子から形成するための粉砕方法が記載されている。当該粉砕方法は、(a)異方性サーモトロピック液晶ポリマーを第1の粉砕装置で粉砕する第1の粉砕段階と、(b)第1の粉砕装置から異方性サーモトロピック液晶ポリマーを取り出すことと、(c)(b)からの異方性サーモトロピック液晶ポリマーを第2の粉砕装置で粉砕する第2の粉砕段階と、(d)第2の粉砕装置から異方性サーモトロピック液晶ポリマーを取り出すこととを含んでいることが記載されている。LCP(Liquid Crystal Polymer)が異方性であれば、十分に小さい粒子を生成させたとき、それらは、繊維状であろうことが記載されている。(d)の生成物の少なくとも約90重量パーセントは、60メッシュスクリーンを通過することが記載されている。なお、60メッシュスクリーンの目開きはおよそ0.27mmである。
【0005】
特許文献3には、繊維全体に対して0.1~20重量%の割合で溶媒を含有し、(1)平均繊維長(L)が0.01~1mmであり、(2)平均繊維径(D)が0.001~1μmであり、(3)平均繊維径(D)に対する平均繊維長(L)の比(L/D)が1000~10000である微小繊維の製造方法であって、微小繊維の製造方法は、繊維を溶媒に分散させ、機械的剪断力によりミクロフィブリル化した後、乾燥させることが記載されている。当該繊維は、芳香族ポリアミド系繊維およびポリアリレート系繊維からなる群から選択されることが記載されている。
【0006】
特許文献4には、フィブリル化された液晶ポリマー粒子を含む、フィブリル化液晶ポリマーパウダーの製造方法が記載されている。当該製造方法は、粉砕工程と、フィブリル化工程とをこの順で含んでいる。粉砕工程においては、二軸配向された液晶ポリマーのフィルムを粉砕して液晶ポリマーパウダーを得ている。フィブリル化工程においては、液晶ポリマーパウダーを湿式高圧破砕装置で破砕することによりフィブリル化液晶ポリマーパウダーを得ている。粉砕工程においては、凍結粉砕法を用いた粉砕が実施されている。凍結粉砕法を用いた粉砕とは、LCPのフィルム等を凍結させた状態で粉砕することをいうと記載されている。液晶ポリマーを凍結させた状態で粉砕するためには、たとえば液晶ポリマーからなるテープ状のフィルムを粗く粉砕したものに液体窒素を注ぎかけながら順に粉砕装置に送り込むことが考えられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-193387号公報
【文献】特表2005-501760号公報
【文献】特開2008-50715号公報
【文献】特許第5904307号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、微細繊維の研究開発が盛んに行なわれている。微細繊維は、たとえば繊維径が3μm~5μmの繊維である。微細繊維を構成する材料としては、主に、セルロースが挙げられる。セルロースは、たとえば、集合体として植物の細胞壁を形成している。セルロースからなる微細繊維は、セルロースの集合体を、物理的または化学的に破壊して解繊することで比較的容易に得ることができる。
【0009】
しかしながら、セルロースは多糖類であり、多数の水酸基を含んでいるため、吸湿性が極めて高い。これにより、セルロースからなる微細繊維を、回路基板の一部を構成する材料などの電子材料として用いた場合に問題となる。具体的には、微細繊維が吸湿することで電気特性が変化するという問題、および、微細繊維が吸湿または乾燥することで、微細繊維で構成された部材の寸法が変化するという問題が発生する。
【0010】
このため、本願発明者は、電子材料として好適に使用できる微細繊維を構成する材料として、液晶ポリマーを検討した。液晶ポリマーは、吸湿性が低いからである。また、本願発明者は、製造コスト等の観点から、繊維状物でない液晶ポリマーを原料として微細繊維化することを検討した。
【0011】
微細繊維を製造する方法の1つである電界紡糸法においては、微細繊維化する原料を溶媒に溶解させる必要がある。しかしながら、電界紡糸法により液晶ポリマーを微細繊維化することは実現困難であり、量産の観点からは実用性が低い。
【0012】
微細繊維を製造する方法の1つであるメルトブロー法においては、微細繊維化させる材料を溶融させて、溶融した状態の材料をノズルから吐き出せる。ノズルから吐き出させた溶融状態の材料に熱風を当てることで、当該材料を引き延ばす。しかしながら、液晶ポリマーは、溶融張力が低い。このため、液晶ポリマーをメルトブロー法で微細繊維化しようとすると、液晶ポリマーは、十分に引き延ばされる前に切断される。よって、メルトブロー法においては、繊維部の平均径を3μm以下程度まで小さくすることができない。
【0013】
また、たとえば、特許文献1においては、原料として、ペレット状の液晶ポリマーが用いられている。ペレット状の液晶ポリマーは、一軸配向して非常に強い異方性を有している。強い異方性を有するペレット状の液晶ポリマーについて、水懸濁状態で機械的処理を加え予備叩解すると、分子の配向軸に沿って分割されるモードによる粉砕が優先的に生じる。結果として、アスペクト比が大きな繊維状原料粉末が得られる。アスペクト比が大きな繊維化原料粉末を、1μmの平均径を有する繊維状の液晶ポリマーにするために、ホモジナイザー(湿式高圧破砕装置)を用いて破砕しようとしても、ノズルでのつまりが多発して破砕することができない。また、特許文献1においては、得られた液晶ポリマーのフィブリル状物の繊維径については記載されていない。
【0014】
たとえば、特許文献2においては、得られたLCPが平均径1μm以下の微細繊維であることは記載されていない。
【0015】
たとえば、特許文献3においては、微小繊維を得るために、繊維状の原料を使用する必要がある。なお、特許文献3に記載の繊維全体における、塊状の液晶ポリマーの含有率については明記されていない。
【0016】
たとえば、特許文献4においては、液晶ポリマーパウダーの表面がフィブリル化したものが得られているため、液晶ポリマーパウダーを構成する粒子のほとんどが塊状である。
【0017】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、繊維状の原料を用いることなく、かつ、塊状部の含有率が低いまたは塊状部を含まない、微細繊維状の液晶ポリマーパウダーを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に基づく液晶ポリマーパウダーは、繊維部を含んでいる。繊維部は、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上である繊維状の粒子からなる。液晶ポリマーパウダーにおいては、繊維部の平均径が1μm以下である。液晶ポリマーパウダーにおいては、実質的に繊維化されていない塊状部の含有率が20%以下である。
【0019】
本発明に基づく液晶ポリマーパウダーの製造方法は、微粉砕工程と、繊維化工程とを備えている。微粉砕工程においては、液晶ポリマーを、液体窒素に分散させた状態で粉砕して、粒状の微粉砕液晶ポリマーを得る。繊維化工程においては、粒状の微粉砕液晶ポリマーを湿式高圧破砕装置で破砕して、液晶ポリマーパウダーを得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明よれば、繊維状の原料を用いることなく、塊状部の含有率が低い微細繊維状の液晶ポリマーパウダーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。
図2】実施例1における繊維化工程によって5回繰り返し破砕された後の液晶ポリマーパウダーを撮影した写真である。
図3】実施例2における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。
図4】実施例2における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーの内部断面を撮影した写真である。
図5】実施例2における繊維化工程によって5回繰り返し破砕された後の液晶ポリマーパウダーを撮影した写真である。
図6】実施例3における微粉砕工程によって微粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。
図7】実施例3における繊維化工程によって5回繰り返し破砕された後の液晶ポリマーパウダーを撮影した写真である。
図8】比較例1における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。
図9】比較例1における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーの内部断面を撮影した写真である。
図10】比較例2における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。
図11】比較例2における繊維化工程によって7回繰り返し破砕された後の液晶ポリマーパウダーを撮影した写真である。
図12】本実施例において、繊維部の平均径を測定するために撮影された、液晶ポリマーパウダーの粒子の一例を示す画像である。
図13】実施例1に係る液晶ポリマーパウダーの凝集部の3D解析画像の一例である。
図14】比較例2に係る液晶ポリマーパウダーの凝集部の3D解析画像の一例である。
図15】実施例1~3および比較例2について、繊維化工程における破砕回数に対する液晶ポリマーパウダーのD50の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<液晶ポリマーパウダー>
以下、本発明の一実施形態について説明する。まず、本発明の一実施形態に係る液晶ポリマーパウダーについて説明する。本発明の一実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、繊維部と、塊状部とを含んでいる。繊維部は、繊維状の粒子が凝集した凝集部として、液晶ポリマーパウダーに含まれていてもよいし、塊状部は、塊状の粒子を含みつつ凝集した凝集部として液晶ポリマーに含まれていてもよい。なお、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、塊状部を含まなくてもよい。
【0023】
繊維部は、繊維状の粒子からなる。本実施形態において、繊維状の粒子は、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上の液晶ポリマー粒子である。繊維状の粒子の長手方向の長さおよび繊維径は、走査型電子顕微鏡で繊維状の粒子を観察したときに得られる繊維状の粒子の画像データから測定することができる。
【0024】
本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーにおいては、繊維部の平均径が1μm以下である。繊維部の平均径の値は、繊維部を構成する複数の繊維状の粒子における繊維径の平均値である。このように、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、微細繊維状の粒子を含んでいる。
【0025】
塊状部は、実質的に繊維化されていない液晶ポリマーパウダーである。塊状部は、扁平状の外形を有していてもよい。本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーにおいては、塊状部の含有率が20%以下である。すなわち、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーにおいては、塊状部の含有率が比較的低くなっている、または、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、塊状部を含んでいない。塊状部の含有率は、液晶ポリマーパウダーに含まれる凝集部の数に対する塊状部の数で評価される。本実施形態においては、液晶ポリマーパウダーを平面に載置したときに最大高さが10μmより大きい凝集部が、塊状部であり、最大高さが10μm以下の凝集部が、繊維部である。
【0026】
以上のように、本実施形態においては、液晶ポリマーパウダーにおける繊維部の平均径が1μm以下であり、かつ塊状部の含有率が20%以下であって、繊維状の原料を用いることなく、かつ、塊状部の含有率が低い、微細繊維状の液晶ポリマーパウダーが得られている。また、繊維部の平均径が1μm以下であり、かつ塊状部の含有率が20%以下である液晶ポリマーパウダーは、引っ張り弾性率が高く、表面積が大きい。このため、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、他の部材との密着性が得られやすく、補強のために塗膜に添加するフィラーとして好適である。
【0027】
また、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、サーモトロピック液晶ポリマーからなる。本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、不活性雰囲気下で400℃まで加熱した後、40℃/min以上の降温速度で常温まで冷却し、再び40℃/minの昇温速度で加熱しつつ示差走査熱量計を用いて測定した吸熱ピーク温度が、330℃を超える。これにより、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは耐熱性が高く、電子材料として用いることができる。なお、本明細書においては、上記のように測定される吸熱ピーク温度を、単に「融点」という場合がある。
【0028】
本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、レーザ回折散乱法による粒子径分布測定装置を用いた粒度測定により測定されるD50の値が、13μm以下であることが好ましい。
【0029】
<液晶ポリマーパウダーの製造方法>
以下、本発明の一実施形態に係る液晶ポリマーパウダーの製造方法について説明する。本発明の一実施形態に係る液晶ポリマーパウダーの製造方法は、粗粉砕工程と、微粉砕工程と、粗粒除去工程と、繊維化工程とを、この順で備えている。
【0030】
粗粉砕工程においては、まず、原料として、液晶ポリマーの成形物を準備する。液晶ポリマーの成形物としては、一軸配向したペレット状、二軸配向したフィルム状、または、粉体状の液晶ポリマーが挙げられる。液晶ポリマーの成形物としては、製造コスト等の観点から、ペレット状または粉体状の液晶ポリマーが好ましく、ペレット状の液晶ポリマーがより好ましい。本実施形態において、液晶ポリマーの成形物には、電解紡糸法またはメルトブロー法などにより直接成形された繊維状の液晶ポリマーは含まれない。ただし、液晶ポリマーの成形物には、ペレット状の液晶ポリマーまたは粉体状の液晶ポリマーを破砕することにより繊維状に加工された液晶ポリマーが含まれていてもよい。
【0031】
液晶ポリマーの成形物の融点は、330℃より大きいことが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。これにより、電子部品用材料として好適な耐熱性の高い液晶ポリマーパウダーが得られる。
【0032】
なお、液晶ポリマーの成形物のうち、フィルム状の液晶ポリマーは、通常、溶融押出法を用いて成形される。しかしながら、融点が330℃より大きい液晶ポリマーについて、溶融押出法によるフィルム状の液晶ポリマーの成形を試みた場合、液晶ポリマーのフィッシュアイが大量に発生したり分解による劣化が生じたりする。融点が330℃より大きい液晶ポリマーについて、溶融押出法によるフィルム状の液晶ポリマーを成形しようとすると、分解温度近くまで液晶ポリマーを加熱し、連続的に混錬する必要があるからである。このため、液晶ポリマーの成形体として、融点が330℃より大きいフィルム状の液晶ポリマーを用いることはできない。
【0033】
次に、液晶ポリマーの成形物を粗粉砕することで、粗粉砕液晶ポリマーを得る。たとえば、液晶ポリマーの成形物を、カッターミル装置で粗粉砕することにより、粗粉砕液晶ポリマーを得る。粗粉砕液晶ポリマーの粒子の大きさは、後述する微粉砕工程の原料として用いることができる限り、特に限定されない。粗粉砕液晶ポリマーの最大粒径は、たとえば3mm以下である。
【0034】
本実施形態における液晶ポリマーパウダーの製造方法は、粗粉砕工程を必ずしも備えていなくてもよい。たとえば、液晶ポリマーの成形物が微粉砕工程の原料として用いることができるものであれば、液晶ポリマーの成形物を直接微粉砕工程の原料として使用してもよい。
【0035】
微粉砕工程においては、液晶ポリマーとして、粗粉砕液晶ポリマーを、液体窒素に分散させた状態で粉砕して、粒状の微粉砕液晶ポリマーを得る。微粉砕工程においては、メディアを用いて、液体窒素に分散している粗粉砕液晶ポリマーを粉砕する。メディアは、たとえばビーズである。本実施形態の微粉砕工程においては、液体窒素を取り扱うという観点から、比較的技術的な問題が少ないビーズミルを用いることが好ましい。微粉砕工程に用いることができる装置としては、たとえば、アイメックス社製の液体窒素ビーズミルである「LNM-08」が挙げられる。
【0036】
本実施形態の微粉砕工程において、液体窒素に液晶ポリマーを分散させた状態で粉砕する粉砕方法は、従来の凍結粉砕法とは異なる。従来の凍結粉砕法は、被粉砕原料および粉砕装置本体に液体窒素を注ぎかけながら、被粉砕原料を粉砕する方法であるが、被粉砕原料が粉砕される時点において液体窒素は気化している。すなわち、従来の凍結粉砕法では、被粉砕原料が粉砕される時点において被粉砕原料は液体窒素に分散していない。
【0037】
従来の凍結粉砕法においては、被粉砕原料自体が有する熱、粉砕装置から発生する熱、および、被粉砕原料の粉砕により発生する熱が、液体窒素をきわめて短時間に気化させる。このため、従来の凍結粉砕法においては、粉砕装置の内部に位置する粉砕中の原料は、液体窒素の沸点である-196℃よりはるかに高い温度となっている。すなわち、従来の凍結粉砕法においては、粉砕装置の内部の温度が通常0℃~100℃程度の条件下で粉砕を実施している。従来の凍結粉砕法において、可能な限り液体窒素を供給した場合においても、粉砕装置の内部の温度は、最も低い場合でおよそ-150℃である。
【0038】
このため、従来の凍結粉砕法において、たとえば、一軸配向したペレット状の液晶ポリマーまたはペレット状の液晶ポリマーの粗粉砕物を粉砕した場合には、液晶ポリマーの分子軸の軸方向に略平行な面に沿って粉砕が進行するため、アスペクト比が大きく、かつ、繊維径が1μmよりはるかに大きい繊維状の液晶ポリマーが得られる。すなわち、従来の凍結粉砕方において、一軸配向したペレット状の液晶ポリマーまたはペレット状の液晶ポリマーの粗粉砕物を粉砕しても、粒状の微粉砕液晶ポリマーを得ることができない。
【0039】
本実施形態においては、被粉砕原料を液体窒素に分散させた状態で粉砕するため、従来の凍結粉砕法と比較して、より一層冷却された状態の原料を粉砕できる。具体的には、液体窒素の沸点である-196℃より低い温度の被粉砕原料を粉砕できる。-196℃より低い温度の被粉砕原料を粉砕すると、被粉砕原料の脆性破壊が繰り返されることで、原料の粉砕が進行する。これにより、たとえば、一軸配向した液晶ポリマーを粉砕した場合においても、液晶ポリマーの分子軸の軸方向に略平行な面での破壊が進行するだけでなく、上記軸方向に交差する面に沿って脆性破壊が進行するため、粒状の微粉砕液晶ポリマーを得ることができる。
【0040】
また、本実施形態における微粉砕工程においては、液体窒素中において、脆性破壊することで粒状となった液晶ポリマーに対して、脆化させた状態のまま、引き続きメディアなどで衝撃を与え続ける。これにより、本実施形態における微粉砕工程において得られた液晶ポリマーには、外側表面から内部にかけて複数の微細なクラックが形成されている。
【0041】
微粉砕工程により得られる粒状の微粉砕液晶ポリマーは、レーザ回折散乱法による粒子径分布測定装置で測定したD50が50μm以下であることが好ましい。これにより、下記に示す繊維化工程において粒状の微粉砕液晶ポリマーがノズルで詰まることを抑制することができる。
【0042】
本実施形態においては、粗粒除去工程において、上記微粉砕工程で得られた粒状の微粉砕液晶ポリマーから粗粒を除去する。たとえば、粒状の微粉砕液晶ポリマーをメッシュで篩いにかけることにより、篩下の粒状の微粉砕液晶ポリマーを得るとともに、篩上の粒状の液晶ポリマーを除去することで、粒状の微粉砕液晶ポリマーに含まれる粗粒を除去することができる。メッシュの種類は適宜選択すればよいが、メッシュとしては、たとえば目開きが53μmのものが挙げられる。なお、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーの製造方法は、粗粒除去工程を必ずしも備えていなくてもよい。
【0043】
繊維化工程においては、粒状液晶ポリマーを湿式高圧破砕装置で破砕して、液晶ポリマーパウダーを得る。繊維化工程においては、まず、微粉砕液晶ポリマーを分散媒に分散させる。分散させる微粉砕液晶ポリマーは、粗粒が除去されていなくてもよいが、粗粒が除去されていることが好ましい。分散媒としては、たとえば、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、ベンゼン、キシレン、フェノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ヘキサン、または、これらの混合物等が挙げられる。
【0044】
次に、分散媒に分散させた状態の微粉砕液晶ポリマー、すなわち、スラリー状の微粉砕液晶ポリマーを、高圧で加圧した状態で、ノズルを通過させる。高圧でノズルを通過させることにより、ノズルでの高速流動による剪断力または衝突エネルギーが液晶ポリマーに作用して、粒状の微粉砕液晶ポリマーを破砕することで、液晶ポリマーの繊維化が進行し、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーを得ることができる。上記ノズルのノズル径は、高い剪断力または高い衝突エネルギーを与えるという観点から、上記ノズルにおいて微粉砕液晶ポリマーの詰まりが発生しない範囲で可能な限り小さくすることが好ましい。本実施形態における粒状の微粉砕液晶ポリマーは粒径が比較的小さいため、繊維化工程において用いる湿式高圧破砕装置におけるノズル径を小さくすることができる。ノズル径は、たとえば0.2mm以下である。
【0045】
本実施形態においては、上述したように、粒状の微粉砕液晶ポリマーパウダーに複数の微細なクラックが形成されている。このため、湿式高圧分散器での加圧により、分散媒が、微細なクラックから微粉砕液晶ポリマーの内部に侵入する。そして、スラリー状の微粉砕液晶ポリマーがノズルを通過して常圧下に位置したときに、微粉砕液晶ポリマーの内部に侵入した分散媒がわずかな時間で膨張する。微粉砕液晶ポリマー内部に侵入した分散媒が膨張することにより、微粉砕液晶ポリマーの内部から、破壊が進行する。このため、微粉砕液晶ポリマーの内部まで繊維化が進み、かつ、液晶ポリマーの分子が一方向に並んでいるドメイン単位に分離する。このように、本実施形態における繊維化工程においては、本実施形態における微粉砕工程で得られた粒状の微粉砕液晶ポリマーを解繊することで、従来の凍結粉砕法で得られた粒状の液晶ポリマーを破砕することで得られる液晶ポリマーパウダーより、塊状部の含有率が低く、かつ、微細繊維状である、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーを得ることができる。
【0046】
本実施形態における繊維化工程においては、微粉砕液晶ポリマーを、複数回、湿式高圧破砕装置で破砕することにより、液晶ポリマーパウダーを得てもよい。湿式高圧破砕装置による破砕の回数は少ないことが好ましい。湿式高圧破砕装置による破砕の回数は、たとえば、5回以下であってもよい。
【0047】
上記のように、本発明の一実施形態に係る液晶ポリマーパウダーの製造方法は、微粉砕工程と、繊維化工程とを備えている。微粉砕工程においては、液晶ポリマーを、液体窒素に分散させた状態で粉砕して、粒状の微粉砕液晶ポリマーを得る。繊維化工程においては、微粉砕液晶ポリマーを湿式高圧破砕装置で破砕して、液晶ポリマーパウダーを得る。これにより、繊維状の液晶ポリマー以外の液晶ポリマーを原料とした場合において、塊状部の含有率が低い、微細繊維状の液晶ポリマーパウダーを得ることができる。
【0048】
また、本発明の一実施形態に係る液晶ポリマーパウダーに係る製造方法は、微粉砕工程において、メディアを用いて、液体窒素に分散している液晶ポリマーを粉砕する。これにより、簡易な構成により、液体窒素に分散している原料を粉砕することができる。
【実施例
【0049】
以下、図面を参照しつつ実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
実施例1においては、まず、厚みが250μmであって、分子が面方向に二軸配向したフィルム状の液晶ポリマーを、カッターミル装置に投入することにより、粗粉砕した。実施例1において使用した液晶ポリマーの融点は315℃である。粗粉砕されたフィルム状の液晶ポリマーを、カッターミル装置に設けられた3mm径の排出孔から排出することで、粗粉砕液晶ポリマーを得た。
【0051】
次に、粗粉砕液晶ポリマーを、液体窒素ビーズミル(アイメックス社製、LNM-08)で微粉砕した。液体窒素ビーズミルでの粉砕においては、ベッセル容量を0.8Lとし、メディアとして直径が5mmのジルコニア製のビーズを使用し、メディアの投入量を500mLとして、粗粉砕液晶ポリマーを30g投入して、回転数2000rpmで120分間粉砕処理を行った。液体窒素ビーズミルにおいては、粗粉砕液晶ポリマーを液体窒素中に分散させて、湿式粉砕処理を行う。
【0052】
図1は、実施例1における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。図1に示すように、粗粉砕液晶ポリマーを、液体窒素ビーズミルで粉砕することにより、粒状の微粉砕液晶ポリマーが得られた。なお、図1および以下に示す図2図12における写真は、走査型電子顕微鏡で撮影したものである。
【0053】
次に、微粉砕液晶ポリマーを、目開き53μmのメッシュで篩い、微粉砕液晶ポリマーに含まれる粗粒を除去するとともに、メッシュを通過した微粉砕液晶ポリマーを回収した。当該粗粒除去による微粉砕液晶ポリマーの収率は85質量%であった。
【0054】
次に、粗粒が除去された微粉砕液晶ポリマーを、20wt%エタノール水溶液に分散させた。微粉砕液晶ポリマーが分散したエタノールスラリーを、湿式高圧破砕装置を用いて、ノズル径0.2mm、圧力200MPaの条件にて、複数回破砕することにより、繊維化した。湿式高圧破砕装置としては、吉田機械興業製ナノヴェイタ(登録商標)C-ES008を用いた。
【0055】
図2は、実施例1における繊維化工程によって5回繰り返し破砕された後の液晶ポリマーパウダーを撮影した写真である。図2に示すように、微粉砕液晶ポリマーを破砕することにより、微細繊維状の液晶ポリマーパウダーが得られた。
【0056】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1においてカッターミル装置に投入したフィルム状の液晶ポリマーに代えて、一軸配向したペレット状の液晶ポリマーを、カッターミル装置に投入して、粗粉砕液晶ポリマーを得た。なお、実施例2においては融点が315℃の液晶ポリマーを使用した。そして、実施例1と同様にして、液体窒素ビーズミルによる微粉砕を行った。
【0057】
図3は、実施例2における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。図3に示すように、実施例2においても、粗粉砕液晶ポリマーを、液体窒素ビーズミルで粉砕することにより、微粉砕液晶ポリマーが得られた。
【0058】
図4は、実施例2における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーの内部断面を撮影した写真である。図4に示すように、実施例2における微粉砕液晶ポリマーの内部には、多数のクラックが形成されている様子が確認できた。
【0059】
そして、実施例1と同様にして微粉砕液晶ポリマーに含まれる粗粒を除去し、粗粒が除去された微粉砕液晶ポリマーを、湿式高圧破砕装置で複数回破砕することで、繊維化した。
【0060】
図5は、実施例2における繊維化工程によって5回繰り返し破砕された後の液晶ポリマーパウダーを撮影した写真である。図5に示すように、実施例2においては、微粉砕液晶ポリマーを破砕することにより、湿式高圧破砕装置のノズルに液晶ポリマーが詰まることなく、微細繊維状の液晶ポリマーパウダーが得られた。
【0061】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1においてカッターミル装置に投入したフィルム状の液晶ポリマーに代えて、一軸配向したペレット状の液晶ポリマーを、カッターミル装置に投入することにより、粗粉砕液晶ポリマーを得た。実施例3においては、実施例1および2とは異なり、融点が350℃の液晶ポリマーを使用した。そして、実施例1および2と同様にして液体窒素ビーズミルによる微粉砕を行った。
【0062】
図6は、実施例3における微粉砕工程によって微粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。図6に示すように、実施例3においても、粗粉砕液晶ポリマーを、液体窒素ビーズミルで粉砕することにより、粒状の微粉砕液晶ポリマーが得られた。
【0063】
そして、実施例1および2と同様にして微粉砕液晶ポリマーに含まれる粗粒を除去し、粗粒が除去された微粉砕液晶ポリマーを、湿式高圧破砕装置で破砕することにより、繊維化した。
【0064】
図7は、実施例3における繊維化工程によって5回繰り返し破砕された後の液晶ポリマーパウダーを撮影した写真である。図7に示すように、実施例3においても、微粉砕液晶ポリマーを破砕することにより、湿式高圧破砕装置のノズルに液晶ポリマーが詰まることなく、微細繊維状の液晶ポリマーパウダーが得られた。さらに、実施例3においては、フィルム状ではなくペレット状の液晶ポリマーパウダーを原料としているため、液晶ポリマーとして融点の比較的高いものを採用することができ、ひいては、融点の高い微細繊維状の液晶ポリマーパウダーを得ることができた。
【0065】
(比較例1)
比較例1においては、まず、実施例2と同様にして、一軸配向したペレット状の液晶ポリマーを、カッターミル装置で粗粉砕することにより、粗粉砕液晶ポリマーを得た。
【0066】
次に、粗粉砕液晶ポリマーを、乾式凍結粉砕装置(ホソカワミクロン社製、リンレックスミル(登録商標))を用いて、微粉砕した。この乾式凍結粉砕装置においては、液体窒素が、粗粉砕された液晶ポリマーとともに、装置内部に供給される。しかしながら、装置内部に供給された液体窒素は瞬間的に気化するため、装置内部において窒素は気体として存在する。
【0067】
図8は、比較例1における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。図8に示すように、粗粉砕液晶ポリマーを乾式凍結粉砕装置で粉砕することで得られた微粉砕液晶ポリマーは、繊維径が数十μm~数百μmの繊維状の液晶ポリマーとなった。
【0068】
本比較例において、微粉砕液晶ポリマーが、繊維状の液晶ポリマーとなる原因としては、以下のことが考えられる。本比較例において使用したペレット状の液晶ポリマーを製造する際には、まず、溶融状態の液晶ポリマーをダイから押し出してストランドを作製する。このストランドは、ダイからの押し出しに伴う強い剪断力により、押し出し方向に平行な方向において液晶ポリマーを構成する分子が強く一軸配向する。そして、このストランドを所定の長さに切断することにより、ペレット状の液晶ポリマーが得られる。結果として、ペレット状の液晶ポリマーおよびこれを粗粉砕して得られる粗粉砕液晶ポリマーも、分子が一軸配向しているため、強い異方性を有することとなる。よって、従来の乾式凍結粉砕装置においては、この一軸配向に沿って上記粗粉砕液晶ポリマーが粉砕されることで、繊維状の液晶ポリマーが得られたと考えられる。
【0069】
次に、数十μm~数百μmの繊維状の微粉砕液晶ポリマーを、53μmのメッシュで篩い、粗粒を除去してメッシュを通過した微粉砕液晶ポリマーを回収した。当該粗粒除去による微粉砕液晶ポリマーの収率は3質量%であった。また、粗粒除去後の微粉砕液晶ポリマーも、繊維状であった。
【0070】
図9は、比較例1における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーの内部断面を撮影した写真である。図9に示すように、比較例1における微粉砕液晶ポリマーの内部のクラックの数は、実施例2における微粉砕液晶ポリマーの内部とクラックの数と比較して、極めて少ない様子が確認できた。
【0071】
次に、粗粒が除去された繊維状の微粉砕液晶ポリマーを、実施例2と同様、すなわち、実施例1と同様の条件下で、湿式高圧破砕装置による破砕によって微粉砕液晶ポリマーのさらなる繊維化を試みた。しかしながら、湿式高圧破砕装置におけるノズルにおいて、繊維状の微粉砕液晶ポリマーが詰まったため、比較例1においては液晶ポリマーパウダーを得ることができなかった。
【0072】
(比較例2)
比較例2においては、まず実施例1と同様にして、二軸配向したフィルム状の液晶ポリマーを、カッターミル装置で粗粉砕することにより、粗粉砕液晶ポリマーを得た。そして、粗粉砕液晶ポリマーを、比較例1で使用した乾式凍結粉砕装置を用いて、微粉砕した。
【0073】
図10は、比較例2における微粉砕工程によって粉砕された後の微粉砕液晶ポリマーを撮影した写真である。図10に示すように、比較例2においては、粗粉砕液晶ポリマーを、乾式凍結粉砕装置を用いて微粉砕することにより、微粉砕液晶ポリマーが得られた。
【0074】
次に、実施例1~3と同様に、微粉砕液晶ポリマーに含まれる粗粒を除去した後、実施例1~3と同様の条件で、粗粒が除去された微粉砕液晶ポリマーを湿式高圧破砕装置で破砕することにより、繊維化を試みた。
【0075】
図11は、比較例2における繊維化工程によって7回繰り返し破砕された後の液晶ポリマーパウダーを撮影した写真である。図11に示すように、比較例2においては、微粉砕液晶ポリマーを破砕することにより、液晶ポリマーパウダーが得られた。なお、比較例2においては、1回~2回のみの破砕では、微粉砕液晶ポリマーの表面をフィブリル化することができたが、微粉砕液晶ポリマー全体を微細繊維化することはできなかった。
【0076】
[繊維部の平均径の測定]
実施例1~3および比較例2においては、湿式高圧破砕装置による繊維化で得られた液晶ポリマーパウダーに含まれる、繊維部の平均径を測定した。
【0077】
上記平均径の測定においては、まず、測定対象となる液晶ポリマーパウダーをエタノールに分散させて、0.01wt%液晶ポリマーパウダーを含有するスラリーを作製した。このとき、スラリー中の水分の含有率が1wt%以下となるようにスラリーを作製した。そして、このスラリーをスライドガラス上に5μL~10μL以下滴下した後、スライドガラス上のスラリーを自然乾燥させた。スラリーを自然乾燥させることにより、スライドガラス上に液晶ポリマーパウダーを配置した。
【0078】
次に、スライドガラス上に配置された液晶ポリマーパウダーの所定の領域を、走査型電子顕微鏡で観察することにより、液晶ポリマーパウダーを構成する粒子の画像データを100以上採集した。図12は、本実施例において、繊維部の平均径を測定するために撮影された、液晶ポリマーパウダーの粒子の一例を示す画像である。図12に示すように、液晶ポリマーパウダーの粒子が、白色で示されている。
【0079】
画像データの採集においては、画像データの数が100以上となるように、液晶ポリマーの一粒子あたりの大きさに応じて上記領域を設定した。また、液晶ポリマーの各粒子について、画像データの採取の漏れや測定誤差の発生を抑制するため、走査型電子顕微鏡の拡大倍率を500倍、3000倍、または、10000倍に適宜変更して、上記画像データを採取した。
【0080】
次に、採取した上記各画像データを用いて、液晶ポリマーパウダーの各粒子の長手方向寸法と、幅方向寸法とを測定した。上記画像データの各々に撮影された液晶ポリマーパウダーの一粒子上でとり得る経路、すなわち、当該粒子の一の端部から当該粒子の略中央を通って当該一の端部の反対側の端部に到達する経路のうち、最も長い経路に沿う方向を長手方向と定義した。そして、当該最も長い経路の長さの寸法を、長手方向寸法として測定した。さらに、液晶ポリマーパウダーの一粒子の、上記長手方向において互いに異なる3箇所の地点で、長手方向に直交する方向における粒子の寸法を測定した。この3箇所の地点で測定された寸法の平均値を、液晶ポリマーパウダーの一粒子あたりの幅方向寸法とした。
【0081】
そして、長手方向寸法が、幅方向寸法の10倍以上となる液晶ポリマーパウダーの一粒子を、繊維部を構成する繊維状の粒子と定義した。すなわち、繊維部における液晶ポリマーパウダーを構成する粒子の繊維径は、液晶ポリマーパウダーの幅方向寸法である。そして、繊維部を構成する繊維状の粒子について、100個の繊維状の粒子の繊維径を測定した。これらの繊維径の測定結果を平均して得られた値を、繊維部の平均径とした。
【0082】
少なくとも実施例1~3においては、繊維部の平均径が1μm以下であることを確認できた。
【0083】
[塊状部の含有率の評価]
実施例1~3においては、湿式高圧破砕装置による破砕を5回行うことで得られた液晶ポリマーパウダーについて、比較例2においては、湿式高圧破砕装置による破砕を15回行うことで得られた液晶ポリマーパウダーについて、液晶ポリマーパウダーに含まれる塊状部の含有率を評価した。
【0084】
塊状部の含有率の評価においては、まず、評価対象となる液晶ポリマーパウダーを、湿式高圧破砕装置による破砕直後のスラリーの状態で採取した。採取したスラリー状の液晶ポリマーパウダーに、エタノールを追加混合することで、スラリー状の液晶ポリマーパウダーをさらに希釈した。エタノールは、スラリー中の液晶ポリマーパウダーの含有率が0.01wt%以下に希釈されるまで追加混合した。希釈された上記スラリーを、スライドガラス上に滴下した後、常温で放置することにより、スラリーの分散媒であるエタノールを気化させた。このようにして、液晶ポリマーパウダーをスライドガラス上に配置した。
【0085】
次に、スライドガラス上に配置した液晶ポリマーパウダーを、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-8700)を用いて倍率100倍で観察した。当該観察により、実施例1~3および比較例2において、液晶ポリマーパウダーが複数の凝集部を含んでいることが確認できた。なお、たとえば、凝集部は、走査型電子顕微鏡でも確認することができ、たとえば、図5および図11に示すように、実施例1~3および比較例2においては、液晶ポリマーパウダーは、凝集部を含んでいる。
【0086】
そして、測定対象となる液晶ポリマーパウダーにおいて、複数の凝集部の各々の最大高さを測定した。凝集部の最大高さの測定方法について以下に説明する。まず、上記レーザ顕微鏡に付属するデータ解析アプリケーションを用いて、上記スライドガラスに配置された凝集部について、スライドガラスの表面を基準高さとする高さのコンター図を作成した。当該コンター図は、スライドガラスの傾きを補正して、スライドガラスの液晶ポリマーパウダー側の表面が水平になるように作成した。さらに、このコンター図を3Dで表示した、3D解析画像を出力した。図13は、実施例1に係る液晶ポリマーパウダーの凝集部の3D解析画像の一例である。図14は、比較例2に係る液晶ポリマーパウダーの凝集部の3D解析画像の一例である。図13および図14に示すように、実施例1における凝集部と、比較例2における凝集部の全体的な高さが大きく異なっている。
【0087】
測定対象とする液晶ポリマーパウダーについて、上記顕微鏡観察により30個の凝集部を選び出し、これらの凝集部の各々について最大高さを測定した。実施例1~3においては、繊維部の平均径が1μmであることが確認できたため、最大高さが10μmとなる凝集部は、液晶ポリマーが繊維状となっていない塊状部であると判定した。そして、液晶ポリマーパウダーにおいて、最大高さを測定した凝集部の数30個に対する塊状部の数の比率を、液晶ポリマーパウダーに含まれる塊状部の含有率として評価した。
【0088】
実施例1および比較例2における塊状部の含有率の評価結果の詳細について、以下の表1に示す。以下の表1においては、実施例1および比較例2のそれぞれについて、選出した30個の凝集部のそれぞれに番号を付し、各番号に係る凝集部について最大高さを測定した結果を示している。
【0089】
【表1】
【0090】
また、実施例2および3も、実施例1および比較例2と同様にして塊状部の含有率を評価した。実施例1~3および比較例2における塊状部の含有率の評価結果について、以下の表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表1から表2に示すように、実施例1、2および3においては、液晶ポリマーパウダーにおける塊状部の含有率が、それぞれ、3.3%、3.3%および6.7%であり、いずれも20%以下であった。一方、比較例2においては、液晶ポリマーパウダーにおける塊状部の含有率が20%より大きい66.7%であった。すなわち、比較例2においては、微細繊維化されずに粒状のままの微粉砕液晶ポリマーが多く含まれていた。
【0093】
[粒度測定]
実施例1~3および比較例2においては、微粉砕工程で微粉砕され、かつ、粗粒が除去された直後の微粉砕液晶ポリマーと、繊維化工程によって所定回数破砕されることで得られた微細繊維状液晶ポリマーパウダーとについて、粒度測定を行うことにより、D50の値を調べた。実施例1~3および比較例2においては、繊維化工程による1回目~5回目、10回目および15回目の破砕の各々の直後に得られた液晶ポリマーについて、D50の値を調べた。
【0094】
粒度測定においては、レーザ回折散乱法による粒子径分布測定装置(堀場製作所製、LA-950)を用いた。分散媒としてはエキネンを用いて、測定対象液晶ポリマーを分散させた。分散媒に分散させた測定対象液晶ポリマーについて、10秒間の超音波処理を実施した後、粒子径分布測定装置にセットして、粒度測定を行った。
【0095】
図15は、実施例1~3および比較例2について、繊維化工程における破砕回数に対する液晶ポリマーパウダーのD50の変化を示すグラフである。図15において、破砕回数が0回の液晶ポリマーとは、繊維化工程において破砕する前の液晶ポリマー、すなわち、粗粒が除去された直後の微粉砕液晶ポリマーをいう。
【0096】
図15に示すように、実施例1において、微粉砕され、粗粒が除去された直後の微粉砕液晶ポリマーのD50の値は23μmであった。また、実施例1~3においては、1回目の破砕で、比較例2と比較してD50が大幅に小さくなった。たとえば、実施例1においては、1回目の破砕で、液晶ポリマーのD50が9.3μmとなった。実施例1~3においては、液体窒素ビーズミルを用いて微粉砕液晶ポリマーを得ているため、微粉砕液晶ポリマーが十分脆化した状態となっている。このため、繊維化工程での微細繊維化が急速に進み、1回の破砕で微粉液晶ポリマー全体が微細繊維化し、D50が大幅に小さくなるものと考えられる。
【0097】
一方、比較例2における液晶ポリマーのD50の値は、15回の破砕後においても、実施例1における1回の破砕で得られたD50の値である9.3μmより大きかった。比較例2における液晶ポリマーは、微粉砕工程における液晶ポリマーの脆化が十分でないため、微粉砕工程後に実施する繊維化工程において微細繊維化が進みにくくなっていると考えられる。
【0098】
上述した実施形態の説明において、組み合わせ可能な構成を相互に組み合わせてもよい。
【0099】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15