(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】構造物劣化検出システム、構造物劣化検出方法、及び構造物劣化検出装置
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20231219BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20231219BHJP
【FI】
G01H9/00 E
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2021574377
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003519
(87)【国際公開番号】W WO2021152787
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑嗣
(72)【発明者】
【氏名】榮 純明
(72)【発明者】
【氏名】多賀戸 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】磯山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西岡 淳
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-229070(JP,A)
【文献】特開2019-015551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 9/00
G01M 13/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバと、
前記センシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信部と、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定部と、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析部と、
を備
え、
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
構造物劣化検出システム。
【請求項2】
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバと、
前記センシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信部と、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定部と、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析部と、
を備え、
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれのクラスタを決定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点が属するクラスタを特定し、特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記解析対象の地点が属するクラスタの前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
構造物劣化検出システム。
【請求項3】
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、振動特性の変化パターンが類似する地点同士が同一のクラスタに属するように、前記複数の地点のそれぞれのクラスタを決定する、
請求項
2に記載の構造物劣化検出システム。
【請求項4】
前記解析部は、
前記共通パターンに基づき、前記解析対象の地点の振動特性の変化パターンを補正し、
前記解析対象の地点の振動特性の補正後の変化パターンに基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
請求項
1から
3のいずれか1項に記載の構造物劣化検出システム。
【請求項5】
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化の予兆を検出する、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の構造物劣化検出システム。
【請求項6】
前記振動特性の変化パターンは、前記振動特性の時間変化を示す変化パターンである、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の構造物劣化検出システム。
【請求項7】
前記振動特性は、固有振動数である、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の構造物劣化検出システム。
【請求項8】
構造物劣化検出システムによる構造物劣化検出方法であって、
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信ステップと、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定ステップと、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析ステップと、
を含
み、
前記解析ステップでは、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
構造物劣化検出方法。
【請求項9】
構造物劣化検出システムによる構造物劣化検出方法であって、
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信ステップと、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定ステップと、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析ステップと、
を含み、
前記解析ステップでは、
前記複数の地点のそれぞれのクラスタを決定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点が属するクラスタを特定し、特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記解析対象の地点が属するクラスタの前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
構造物劣化検出方法。
【請求項10】
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信部と、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定部と、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析部と、
を備え
、
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
構造物劣化検出装置。
【請求項11】
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信部と、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定部と、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析部と、
を備え、
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれのクラスタを決定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点が属するクラスタを特定し、特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記解析対象の地点が属するクラスタの前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
構造物劣化検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物劣化検出システム、構造物劣化検出方法、及び構造物劣化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装が施された道路は、劣化によりポットホールと呼ばれる穴が発生することがある。道路に発生したポットホールは、交通事故を誘発するおそれがあるため、道路の劣化は早期に検出する必要がある。
そのため、最近は、道路の劣化を早期に検出するための技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の技術においては、レーダーシステムを搭載した探査車が、舗装路面を走行しながら、対象面下の舗装の内部損傷箇所を非破壊で調査する。具体的には、探査車に搭載されたレーダーシステムから、対象面上の検査点へ電磁波レーダーを照射する。そして、電磁波レーダーの反射波を時系列に検出し、検出点の反射波強度を所定の経過時間又は深さ別の離散データとし、これらを検定データとして統計解析する。そして、検定データの散らばりの度合いに基づき、対象面下の舗装の内部損傷の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術は、道路の劣化を検出するには、専用の探査車が道路を走行する必要があり、運用コストが高くなってしまうという課題がある。
また、最近は、道路に限らず、橋梁やトンネル等の他の構造物についても、劣化を検出したいというニーズが高まっている。
【0006】
そこで本開示の目的は、上述した課題を解決し、構造物の劣化状態を安価に検出することができる構造物劣化検出システム、構造物劣化検出方法、及び構造物劣化検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様による構造物劣化検出システムは、
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバと、
前記センシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信部と、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定部と、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析部と、
を備える。
【0008】
一態様による構造物劣化検出方法は、
構造物劣化検出システムによる構造物劣化検出方法であって、
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信ステップと、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定ステップと、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析ステップと、
を含む。
【0009】
一態様による構造物劣化検出装置は、
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信部と、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定部と、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析部と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
上述の態様によれば、構造物の劣化状態を安価に検出することができる構造物劣化検出システム、構造物劣化検出方法、及び構造物劣化検出装置を提供できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る構造物劣化検出システムの構成例を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る特定部が保持する対応テーブルの内容の例を示す図である。
【
図3】道路の固有振動数の変化パターンを、道路の周囲条件に依存する固有振動数の変化パターンと、道路の劣化状態に依存する固有振動数の変化パターンと、に分解した例を示す図である。
【
図4】実施の形態1に係る構造物劣化検出システムの全体動作の流れの例を示すフロー図である。
【
図5】実施の形態2に係る構造物劣化検出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図6】実施の形態2に係る固有振動数DBの内容の例を示す図である。
【
図7】実施の形態2に係るクラスタDBの内容の例を示す図である。
【
図8】実施の形態2に係る固有振動数補正部による共通時系列データを算出する動作及び解析対象の地点の固有振動数の時系列データを補正する動作の例を示す図である。
【
図9】道路にポットホールが発生するメカニズムの例を示す図である。
【
図10】道路上のポットホールが発生した地点の固有振動数の補正後の時系列データの例を示す図である。
【
図11】実施の形態2に係る構造物劣化検出システムにおいて、道路上の複数の地点のそれぞれのクラスタを決定する動作の流れの例を示すフロー図である。
【
図12】
図11の動作時に、実施の形態2に係る構造物劣化検出装置内の構成要素間でやり取りされる情報の例を示す図である。
【
図13】実施の形態2に係る構造物劣化検出システムにおいて、道路上の解析対象の地点の劣化及び劣化の予兆を検出する動作の流れの例を示すフロー図である。
【
図14】
図13の動作時に、実施の形態2に係る構造物劣化検出装置内の構成要素間でやり取りされる情報の例を示す図である。
【
図15】実施の形態に係る構造物劣化検出装置を実現するコンピュータのハードウェア構成の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。なお、以下の記載及び図面は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、以下の各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0013】
<実施の形態1>
まず、
図1を参照して、本実施の形態1に係る構造物劣化検出システムの構成例について説明する。なお、本実施の形態1においては、解析対象の構造物が道路30であるものとして説明するが、解析対象の構造物は道路30に限定されるものではない。
【0014】
図1に示されるように、本実施の形態1に係る構造物劣化検出システムは、センシング用光ファイバ10及び構造物劣化検出装置20を備えている。また、構造物劣化検出装置20は、受信部201、特定部202、及び解析部203を備えている。
【0015】
センシング用光ファイバ10は、道路30に沿って敷設されている。なお、
図1では、センシング用光ファイバ10は、道路30の脇に敷設されることを想定しているが、センシング用光ファイバ10の敷設方法は、これには限定されない。例えば、センシング用光ファイバ10は、道路30の下に埋設されても良い。また、センシング用光ファイバ10は、1以上のセンシング用光ファイバ10を被覆して構成されるケーブルの態様で道路30に敷設されても良い。また、センシング用光ファイバ10は、既存の通信用光ファイバであっても良いし、新設した光ファイバであっても良い。
【0016】
道路30は、アスファルト舗装が施された構造になっており、劣化によりポットホールが発生するおそれがあるものとする。また、道路30は、センシング用光ファイバ10が敷設されていれば、高速道路でも良いし、一般道路でも良い。
【0017】
受信部201は、センシング用光ファイバ10にパルス光を入射し、パルス光がセンシング用光ファイバ10を伝送されることに伴い発生した反射光や散乱光を、センシング用光ファイバ10を経由して、戻り光(光信号)として受信する。
【0018】
ここで、道路30が振動すると、その振動は、センシング用光ファイバ10に伝達され、センシング用光ファイバ10を伝送される戻り光の特性(例えば、波長)が変化する。そのため、センシング用光ファイバ10は、道路30の振動を示す振動情報(詳細には、時刻毎の振動値を示す振動情報)を検知可能である。また、センシング用光ファイバ10を伝送される戻り光は、センシング用光ファイバ10が検知した道路30の振動情報に応じて特性が変化することから、センシング用光ファイバ10が検知した道路30の振動情報を含んでいる。
【0019】
また、特定部202は、道路30上の複数の地点毎に、その地点を識別する識別番号と、その地点の位置情報(構造物劣化検出装置20からの距離を示す位置情報)と、を対応付けた対応テーブルを予め保持しておく。
図2に対応テーブルの内容の例を示す。
【0020】
また、特定部202は、例えば、受信部201がセンシング用光ファイバ10にパルス光を送信してから戻り光を受信するまでの時間差や、受信部201が受信した戻り光の強度等に基づき、その戻り光がセンシング用光ファイバ10上のどの位置(構造物劣化検出装置20からの距離)で発生したかを特定することが可能である。
【0021】
そのため、特定部202は、戻り光が発生したセンシング用光ファイバ10上の位置を、
図2に示される対応テーブルと照合することで、その戻り光が道路30上のどの地点で発生したものであるかを特定することが可能である。
【0022】
そのため、特定部202は、受信部201が受信した戻り光の中から、道路30上の複数の地点のそれぞれにて発生した戻り光を特定し、特定した戻り光に含まれる振動情報を取得する。このようにして、特定部202は、複数の地点のそれぞれの振動情報を取得する。
【0023】
ここで、道路30は、劣化によりポットホールが発生すると、振動特性(例えば、固有振動数や減衰比等)が変化することが知られている(例えば、固有振動数が低下する)。そのため、特定部202は、複数の地点のそれぞれの振動情報が示す時刻毎の振動値に基づき、複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する。振動特性の変化パターンは、例えば、振動特性の時間変化を示すパターンである。このとき、特定部202において、時刻毎の振動値から振動特性を算出する方法としては、任意の方法を使用できる。例えば、時刻毎の振動値から固有振動数を算出する方法の一例として、時刻毎の振動値を、所定の時間範囲毎に周波数領域のデータに変換して、固有振動数を算出する方法が考えられるが、これには限定されない。
【0024】
解析部203は、特定部202が特定した道路30上の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、複数の地点のうちの少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する。例えば、道路30の振動特性として固有振動数を使用する場合、解析部203は、他の地点と比較して、固有振動数が低下している地点があれば、その地点は劣化していると判断することができる。
【0025】
ただし、道路30の振動特性の変化パターンは、道路30の劣化状態に依存するだけでなく、道路30の周囲条件(例えば、日照、気温、雨水、交通量等)にも依存する。
例えば、
図3の一番左側のグラフは、道路30の振動特性として固有振動数を使用する場合における、道路30のある地点の固有振動数の時間変化を示す変化パターン(実測値)を示している。この固有振動数の変化パターンは、その地点の周囲条件に依存する固有振動数の変化パターンと、その地点の劣化状態に依存する固有振動数の変化パターンと、に分解することができる。
【0026】
そのため、道路30上の解析対象の地点の劣化状態の解析精度の向上を図るためには、解析対象の地点の振動特性の変化パターンから、周囲条件に依存する変化パターンを除去し、劣化状態に依存する変化パターンのみに基づき、解析を行うことが好適である。
【0027】
ここで、道路30上の複数の地点の全てが同一の周囲状況であると仮定した場合には、複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンには、それら変化パターンに共通する共通パターンとして、その周囲条件に依存する変化パターンが現れると考えられる。
【0028】
そこで、解析部203は、解析対象の地点の劣化状態を解析しようとする場合、道路30上の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、特定した共通パターンと、解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、に基づき、解析対象の地点の劣化状態を解析しても良い。より具体的には、解析部203は、共通パターンに基づき、解析対象の地点の振動特性の変化パターンを補正し、解析対象の地点の振動特性の補正後の変化パターンに基づき、解析対象の地点の劣化状態を解析しても良い。これにより、周囲条件の影響を排除した上で、解析対象の地点の劣化状態を解析できるため、解析精度の向上を図ることができる。
【0029】
しかし、道路30上の複数の地点の全てが同一の周囲状況であるとは限らない。例えば、道路30上のトンネル内の地点とトンネル外の地点とは、日照、気温、雨水等の周囲条件が大きく異なるため、振動特性の変化パターンも大きく異なると考えられる。ただし、これを逆に言えば、振動特性の変化パターンが類似する地点同士は、周囲条件が同じか又は類似すると考えられる。
【0030】
そこで、解析部203は、道路30上の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、振動特性の変化パターンが類似する地点同士が同じクラスタに属するように、複数の地点のそれぞれのクラスタを決定しても良い。この場合、同一のクラスタに属する地点同士は、周囲条件が同じか又は類似しており、その周囲条件に依存する変化パターンが共通パターンとして現れると考えられる。そのため、解析部203は、解析対象の地点の劣化状態を解析する場合、解析対象の地点が属するクラスタを特定し、特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定しても良い。そして、解析部203は、解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、解析対象の地点が属するクラスタの共通パターンと、に基づき、解析対象の地点の劣化状態を解析しても良い。より具体的には、解析部203は、解析対象の地点が属するクラスタの共通パターンに基づき、解析対象の地点の振動特性の変化パターンを補正し、解析対象の地点の振動特性の補正後の変化パターンに基づき、解析対象の地点の劣化状態を解析しても良い。これにより、周囲条件の影響を排除した上で、解析対象の地点の劣化状態を解析できるため、解析精度の向上を図ることができる。
【0031】
なお、上記では、解析部203は、振動特性の変化パターンが類似する地点同士が同じクラスタに属するように、複数の地点のそれぞれのクラスタを決定したが、これには限定されない。例えば、ユーザが、地理情報や設計情報等の事前知識に基づき、地点間の類似性を判断できる場合がある。この場合は、解析部203が、振動特性の変化パターンの類似性を見なくても、ユーザが、事前知識に基づき、複数の地点のそれぞれのクラスタを判断できる。そのため、ユーザが複数の地点のそれぞれのクラスタを指示し、解析部203が、ユーザからの指示に基づき、複数の地点のそれぞれのクラスタを決定しても良い。
【0032】
また、解析部203は、特定部202が特定した道路30上の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、複数の地点のうちの少なくとも1つの地点の劣化の予兆を検出しても良い。例えば、道路30の振動特性として固有振動数を使用する場合、解析部203は、他の地点と比較して、固有振動数が初期状態から低下傾向を示している地点があれば、その地点は劣化の予兆があると判断することができる。これにより、道路30の劣化によりポットホールが発生する前の段階(例えば、後述するひび割れや空洞が発生した段階)で、道路30の劣化の予兆を検出できる。そのため、道路30を早期に補修することができ、ポットホールに起因する交通事故の発生を未然に防ぐことができる。
【0033】
続いて、
図4を参照して、本実施の形態1に係る構造物劣化検出システムの全体動作の流れの例について説明する。
図4に示されるように、受信部201は、センシング用光ファイバ10から、センシング用光ファイバ10が検知した振動情報を含む戻り光を受信する(ステップS101)。
【0034】
続いて、特定部202は、受信部201が受信した戻り光に含まれる振動情報に基づき、道路30上の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する(ステップS102)。
その後、解析部203は、特定部202が特定した複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、複数の地点のうちの少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する(ステップS103)。
【0035】
上述したように本実施の形態1によれば、受信部201は、センシング用光ファイバ10が検知した振動情報を受信する。特定部202は、振動情報に基づき、道路30上の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する。解析部203は、複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、複数の地点のうちの少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する。そのため、道路30の劣化状態を検出するには、センシング用光ファイバ10があれば良く、特許文献1のように、専用の探査車が道路30を走行する必要がない。従って、道路30の劣化状態を安価に検出することができる。
【0036】
また、本実施の形態1によれば、センシング用光ファイバ10として、既存の通信用光ファイバを用いることができる。その場合、道路30の劣化状態を検出するための追加の設備を必要としないため、構造物劣化検出システムを安価に構築することができる。
【0037】
また、本実施の形態1によれば、センシング用光ファイバ10をセンサとして用いる光ファイバセンシング技術を利用する。そのため、電磁ノイズの影響を受けない、センサへの給電が不要になる、環境耐性に優れる、メンテナンスが容易になる等の利点が得られる。
【0038】
<実施の形態2>
本実施の形態2に係る構造物劣化検出システムは、上述した実施の形態1に係る構造物劣化検出システムをより具体化したものである。具体的には、本実施の形態2に係る構造物劣化検出システムは、上述した実施の形態1の構造物劣化検出装置20を、構造物劣化検出装置20Aに置き換えたものであり、外観的なシステム構成は、上述した実施の形態1と同様である。
【0039】
そこで、以下では、
図5を参照して、本実施の形態2に係る構造物劣化検出装置20Aの構成例について説明する。なお、
図5に示されるセンシング用光ファイバ10は、上述した実施の形態1と同様に、道路30に敷設されているものとする。また、
図5に示される構造物劣化検出装置20Aは、道路30の振動特性として固有振動数を使用して、道路30上の地点の劣化状態を解析するものとする。
【0040】
図5に示されるように、本実施の形態2に係る構造物劣化検出装置20Aは、受信部211、固有振動数算出部212、固有振動数DB(Database)213、クラスタ決定部214、クラスタDB215、固有振動数補正部216、及び劣化検出部217を備えている。
【0041】
ここで、受信部211が、
図1の受信部201に対応する。また、固有振動数算出部212及び固有振動数DB213の組み合わせが、
図1の特定部202に対応する。また、クラスタ決定部214、クラスタDB215、固有振動数補正部216、及び劣化検出部217の組み合わせが、
図1の解析部203に対応する。
【0042】
受信部211は、センシング用光ファイバ10にパルス光を入射し、パルス光がセンシング用光ファイバ10を伝送されることに伴い発生した反射光や散乱光を、センシング用光ファイバ10を経由して、戻り光として受信する。受信部211が受信した戻り光は、道路30上の複数の地点のそれぞれで発生した戻り光を含んでいる。また、それぞれの戻り光は、対応する地点で発生した振動の時刻毎の振動値を示す振動情報を含んでいる。
【0043】
固有振動数算出部212は、例えば、受信部211がセンシング用光ファイバ10にパルス光を送信してから戻り光を受信するまでの時間差や、受信部211が受信した戻り光の強度等に基づき、その戻り光がセンシング用光ファイバ10上のどの位置(構造物劣化検出装置20Aからの距離)で発生したかを特定することが可能である。
【0044】
また、固有振動数算出部212は、道路30上の複数の地点毎に、その地点を識別する識別番号と、その地点の位置情報(構造物劣化検出装置20からの距離を示す位置情報)と、を対応付けた対応テーブル(例えば、
図2を参照)を予め保持しておく。
【0045】
そのため、固有振動数算出部212は、戻り光が発生したセンシング用光ファイバ10上の位置を、対応テーブルと照合することで、その戻り光が道路30上のどの地点で発生したものであるかを特定することが可能である。
【0046】
そのため、固有振動数算出部212は、受信部201が受信した戻り光の中から、道路30上の複数の地点のそれぞれにて発生した戻り光を特定し、特定した戻り光に含まれる振動情報を取得する。このようにして、固有振動数算出部212は、複数の地点のそれぞれの時刻毎の振動値を収集する。
【0047】
さらに、固有振動数算出部212は、道路30上の複数の地点のそれぞれの時刻毎の振動値に基づき、複数の地点のそれぞれの時刻毎の固有振動数を算出する。固有振動数算出部212において、時刻毎の振動値から固有振動数を算出する方法としては、任意の方法を使用できる。この方法の一例としては、例えば、時刻毎の振動値を、所定の時間範囲毎に周波数領域のデータに変換して、固有振動数を算出する方法が考えられるが、これには限定されない
【0048】
固有振動数DB213は、固有振動数算出部212が算出した、道路30上の複数の地点のそれぞれの時刻毎の固有振動数が登録されるデータベースである。
図6に固有振動数DB213の内容の例を示す。固有振動数DB213に登録されるデータは、複数の地点のそれぞれの固有振動数の時間変化を示す時系列データを示しており、上述した実施の形態1における、複数の地点のそれぞれの固有振動数の時間変化を示す変化パターンに相当する。
【0049】
クラスタ決定部214は、固有振動数DB213から、道路30上の複数の地点のそれぞれの固有振動数の時系列データを読み出し、複数の地点間の固有振動数の時系列データの類似度を算出し、類似度が高い地点同士が同一のクラスタに属するように、複数の地点のそれぞれのクラスタを決定する。
【0050】
ただし、クラスタの決定方法は、これには限定されない。例えば、ユーザが、地理情報や設計情報等の事前知識に基づき、地点間の類似性を判断でき、複数の地点のそれぞれのクラスタを判断できる場合がある。そのため、ユーザが複数の地点のそれぞれのクラスタを指示し、クラスタ決定部214が、ユーザからの指示に基づき、複数の地点のそれぞれのクラスタを決定しても良い。
【0051】
クラスタDB215は、クラスタ決定部214が決定したクラスタ結果、すなわち、道路30上の複数の地点のそれぞれのクラスタが登録されるデータベースである。
図7にクラスタDB215の内容の例を示す。
【0052】
固有振動数補正部216は、クラスタDB215から、クラスタ結果を読み出し、道路30上の複数の地点のうちの解析対象の地点が属するクラスタを特定すると共に、特定したクラスタに属する1つ以上の地点を確認する。
【0053】
また、固有振動数補正部216は、固有振動数DB213から、上記で特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの固有振動数の時系列データを読み出し、読み出した時系列データに共通する共通時系列データを算出する。この共通時系列データは、上述した実施の形態1における、特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの固有振動数の変化パターンに共通する共通パターンに相当する。
【0054】
さらに、固有振動数補正部216は、上記で算出した共通時系列データに基づき、解析対象の地点の固有振動数の時系列データを補正する。
【0055】
ここで、
図8を参照して、固有振動数補正部216における、共通時系列データを算出する動作及び解析対象の地点の固有振動数の時系列データを補正する動作の例について、具体的に説明する。なお、
図8は、解析対象の地点が属するクラスタに、3つの地点が属している例を示している。
【0056】
図8に示されるように、まず、固有振動数補正部216は、3つの地点のそれぞれの固有振動数の時系列データを時間微分し、3つの地点のそれぞれの固有振動数の時間変化率の時系列データを求める。
【0057】
そして、固有振動数補正部216は、3つの地点の固有振動数の時間変化率の時系列データの平均値を求め、求めた平均値を共通時系列データとする。ただし、共通時系列データの算出方法は、これには限定されない。
図8に示される3つの地点は、固有振動数の時系列データの類似度が高いため、固有振動数の時間変化率の時系列データも類似している。そのため、固有振動数補正部216は、例えば、3つの地点のうちいずれかの地点の固有振動数の時間変化率の時系列データを共通時系列データとしても良い。
【0058】
そして、固有振動数補正部216は、上記で算出した共通時系列データに基づき、3つの地点のうち解析対象の地点の固有振動数の時系列データを補正する。この補正後の時系列データは、解析対象の地点の周囲条件の影響が排除され、解析対象の地点の劣化状態に依存した、固有振動数の時系列データとなる。なお、
図8では、説明の便宜のため、3つの地点の全てについて、固有振動数の時系列データを補正しているが、この補正は、解析対象の地点のみについて行えば良い。
【0059】
劣化検出部217は、固有振動数補正部216が補正した、解析対象の地点の固有振動数の補正後の時系列データに基づき、解析対象の地点の劣化及び劣化の予兆を検出する。
【0060】
ここで、
図9及び
図10を参照して、劣化検出部217における、解析対象の地点の劣化及び劣化の予兆を検出する動作の例について、具体的に説明する。
【0061】
まず、
図9を参照して、道路30にポットホールが発生するメカニズムの例について説明する。
図9に示されるように、道路30は、路盤32上にアスファルト舗装層31が形成された構造になっている(
図9(a))。アスファルト舗装層31は、交通荷重等の影響を受けて、経年劣化によりひび割れが発生し、ひび割れ部311が形成される(
図9(b))。すると、降雨時に、ひび割れ部311から路盤32に雨水Wが浸透する(
図9(c))。この状態で交通荷重を受けると、路盤32に浸透した雨水Wと共に、路盤32の細粒分が路面に噴き出すホッピング現象が発生し、アスファルト舗装層31の下に空洞が発生する(
図9(d))。この状態で交通荷重を受けると、アスファルト舗装層31は、空洞があるために損傷が進行し、細分化する。すると、降雨時に、車両のタイヤと、細分化したアスファルト舗装層31と、が密着し、細分化したアスファルト舗装層31が路面に飛び出す。その結果、ポットホール312が発生する(
図9(e))。
【0062】
続いて、
図10を参照して、ポットホール312が発生した地点の固有振動数の補正後の時系列データの例について説明する。
図10に示されるように、道路30上の地点は、劣化により固有振動数が徐々に低下する。
【0063】
時刻領域T1は、アスファルト舗装層31にひび割れが発生する前の段階であり、固有振動数に大きな変化は見られない。
時刻領域T2では、経年劣化によりアスファルト舗装層31にひび割れが発生し、固有振動数が大きく低下する(a点)。
【0064】
時刻領域T3では、降雨時に、ひび割れ部311から路盤32に雨水が浸透し、固有振動数が一時的に大きく低下する(b点)。その後、ホッピング現象によりアスファルト舗装層31の下に空洞が発生する。このとき、ホッピング現象の前後で固有振動数は変化するが、元の固有周波数には戻らない(c点)。以降、再度b点及びc点が現れ、空洞が拡大する。
時刻領域T4では、ポットホール312が発生し、固有振動数が大きく低下する(d点)。
【0065】
劣化検出部217は、道路30上の解析対象の地点の劣化及び劣化の予兆を検出する場合、解析対象の地点の固有振動数の補正後の時系列データを参照する。そして、劣化検出部217は、時系列データにおいて、例えば、
図10の時刻領域T4のd点に相当する点を検出した場合は、解析対象の地点は劣化していると判断することができる。また、劣化検出部217は、時系列データにおいて、
図10の時刻領域T2のa点、時刻領域T3のb点、又は、時刻領域T3のc点のいずれかに相当する点を検出した場合は、解析対象の地点は劣化の予兆があると判断することができる。
【0066】
また、劣化検出部217は、解析対象の地点が劣化している又は劣化の予兆があると判断した場合、アラートを報知しても良い。アラートの報知先は、例えば、道路30を監視する交通管制センターに設置された端末等で良い。また、アラートの報知方法は、例えば、報知先の端末のディスプレイやモニタ等にGUI(Graphical User Interface)画面を表示する方法でも良いし、報知先の端末のスピーカからメッセージを音声出力する方法でも良い。
【0067】
続いて、本実施の形態2に係る構造物劣化検出システムの動作について説明する。
まず、
図11を参照して、道路30上の複数の地点のそれぞれのクラスタを決定する動作の流れの例について説明する。また、
図12に、
図11の動作時に、構造物劣化検出装置20A内の構成要素間でやり取りされる情報の例を示す。なお、
図12において、構成要素間の接続線のうち情報のやり取りが行われる接続線は実線で示され、その他の接続線は破線で示されている(
図14において同じ)。
【0068】
図11に示されるように、まず、固有振動数算出部212は、受信部201が受信した戻り光から、道路30上の複数の地点のそれぞれの時刻毎の振動値を収集する(ステップS201)。
【0069】
続いて、固有振動数算出部212は、複数の地点のそれぞれの時刻毎の振動値に基づき、複数の地点のそれぞれの時刻毎の固有振動数を算出し、その算出結果を固有振動数DB213に登録する(ステップS202)。このときの固有振動数DB213の内容の例は、
図6に示した通りである。また、固有振動数DB213に登録されたデータは、複数の地点のそれぞれの固有振動数の時間変化を示す時系列データを示している。
【0070】
続いて、クラスタ決定部214は、固有振動数DB213から、道路30上の複数の地点のそれぞれの固有振動数の時系列データを読み出し、複数の地点間の固有振動数の時系列データの類似度を算出する(ステップS203)。
【0071】
続いて、クラスタ決定部214は、類似度が高い地点同士が同一のクラスタに属するように、複数の地点のそれぞれのクラスタを決定し(ステップS204)、決定したクラスタ結果をクラスタDB215に登録する(ステップS205)。このときのクラスタDB215の内容の例は、
図7に示した通りである。
【0072】
続いて、
図13を参照して、道路30上の解析対象の地点の劣化及び劣化の予兆を検出する動作の流れの例について説明する。また、
図14に、
図13の動作時に、構造物劣化検出装置20A内の構成要素間でやり取りされる情報の例を示す。また、ここでは、道路30上の解析対象の地点が地点Aであるものとする。
【0073】
図13に示されるように、まず、
図11のステップS201,S202と同様のステップS301,S302が行われる。
続いて、固有振動数補正部216は、クラスタDB215から、クラスタ結果を読み出し、道路30上の解析対象の地点Aが属するクラスタ(ここでは、クラスタX)を特定すると共に、特定したクラスタXに属する1つ以上の地点を確認する(ステップS303)。
【0074】
続いて、固有振動数補正部216は、固有振動数DB213から、上記で特定したクラスタXに属する1つ以上の地点のそれぞれの固有振動数の時系列データを読み出し、読み出した時系列データに共通する共通時系列データを算出する(ステップS304)。
【0075】
続いて、固有振動数補正部216は、上記で算出した共通時系列データに基づき、解析対象の地点Aの固有振動数の時系列データを補正する(ステップS305)。
その後、劣化検出部217は、固有振動数補正部216が補正した、解析対象の地点Aの固有振動数の補正後の時系列データに基づき、解析対象の地点Aの劣化及び劣化の予兆を検出する(ステップS306)。
【0076】
上述したように本実施の形態2によれば、固有振動数算出部212は、道路30上の複数の地点のそれぞれの時刻毎の振動値に基づき、複数の地点のそれぞれの時刻毎の固有振動数を算出し、複数の地点のそれぞれの固有振動数の時系列データを生成する。クラスタ決定部214は、類似度が高い地点同士が同一のクラスタに属するように、複数の地点のそれぞれのクラスタを決定する。固有振動数補正部216は、道路30上の解析対象の地点が属するクラスタを特定し、特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの固有振動数の時系列データに共通する共通時系列データを算出し、算出した共通時系列データに基づき、解析対象の地点の固有振動数の時系列データを補正する。劣化検出部217は、解析対象の地点の固有振動数の補正後の時系列データに基づき、解析対象の地点の劣化及び劣化の予兆を検出する。そのため、道路30の劣化状態を検出するには、センシング用光ファイバ10があれば良く、特許文献1のように、専用の探査車が道路30を走行する必要がない。従って、道路30の劣化状態を安価に検出することができる。
その他の効果は、上述した実施の形態1と同様である。
【0077】
<実施の形態1,2に係る構造物劣化検出装置のハードウェア構成>
続いて、
図15を参照して、上述した実施の形態1,2に係る構造物劣化検出装置20,20Aを実現するコンピュータ40のハードウェア構成について説明する。
【0078】
図15に示されるように、コンピュータ40は、プロセッサ401、メモリ402、ストレージ403、入出力インタフェース(入出力I/F)404、及び通信インタフェース(通信I/F)405等を備える。プロセッサ401、メモリ402、ストレージ403、入出力インタフェース404、及び通信インタフェース405は、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路で接続されている。
【0079】
プロセッサ401は、例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置である。メモリ402は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリである。ストレージ403は、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはメモリカード等の記憶装置である。また、ストレージ403は、RAMやROM等のメモリであっても良い。
【0080】
ストレージ403は、構造物劣化検出装置20,20Aが備える構成要素の機能を実現するプログラムを記憶している。プロセッサ401は、これら各プログラムを実行することで、構造物劣化検出装置20,20Aが備える構成要素の機能をそれぞれ実現する。ここで、プロセッサ401は、上記各プログラムを実行する際、これらのプログラムをメモリ402上に読み出してから実行しても良いし、メモリ402上に読み出さずに実行しても良い。また、メモリ402やストレージ403は、構造物劣化検出装置20,20Aが備える構成要素が保持する情報やデータを記憶する役割も果たす。
【0081】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータ(コンピュータ40を含む)に供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Compact Disc-ROM)、CD-R(CD-Recordable)、CD-R/W(CD-ReWritable)、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAMを含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されても良い。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0082】
入出力インタフェース404は、表示装置4041、入力装置4042、音出力装置4043等と接続される。表示装置4041は、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、モニタのような、プロセッサ401により処理された描画データに対応する画面を表示する装置である。入力装置4042は、オペレータの操作入力を受け付ける装置であり、例えば、キーボード、マウス、及びタッチセンサ等である。表示装置4041及び入力装置4042は一体化され、タッチパネルとして実現されていても良い。音出力装置4043は、スピーカのような、プロセッサ401により処理された音響データに対応する音を音響出力する装置である。
【0083】
通信インタフェース405は、外部の装置との間でデータを送受信する。例えば、通信インタフェース405は、有線通信路または無線通信路を介して外部装置と通信する。
【0084】
以上、実施の形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上述した実施の形態に限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0085】
例えば、上述した実施の形態1,2では、構造物劣化検出装置20,20Aに複数の構成要素が設けられているが、これには限定されない。構造物劣化検出装置20,20Aに設けられていた構成要素は、1つの装置に設けることには限定されず、複数の装置に分散して設けられていても良い。
【0086】
また、上述した実施の形態1,2では、解析対象の構造物が道路30である場合を例に挙げて説明したが、これには限定されない。解析対象の構造物は、橋梁、トンネル、配管、ダム等であっても良い。
【0087】
また、上記の実施の形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバと、
前記センシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信部と、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定部と、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析部と、
を備える、構造物劣化検出システム。
(付記2)
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
付記1に記載の構造物劣化検出システム。
(付記3)
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれのクラスタを決定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点が属するクラスタを特定し、特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記解析対象の地点が属するクラスタの前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
付記1に記載の構造物劣化検出システム。
(付記4)
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、振動特性の変化パターンが類似する地点同士が同一のクラスタに属するように、前記複数の地点のそれぞれのクラスタを決定する、
付記3に記載の構造物劣化検出システム。
(付記5)
前記解析部は、
前記共通パターンに基づき、前記解析対象の地点の振動特性の変化パターンを補正し、
前記解析対象の地点の振動特性の補正後の変化パターンに基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
付記2から4のいずれか1項に記載の構造物劣化検出システム。
(付記6)
前記解析部は、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化の予兆を検出する、
付記1から5のいずれか1項に記載の構造物劣化検出システム。
(付記7)
前記振動特性の変化パターンは、前記振動特性の時間変化を示す変化パターンである、
付記1から6のいずれか1項に記載の構造物劣化検出システム。
(付記8)
前記振動特性は、固有振動数である、
付記1から7のいずれか1項に記載の構造物劣化検出システム。
(付記9)
構造物劣化検出システムによる構造物劣化検出方法であって、
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信ステップと、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定ステップと、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析ステップと、
を含む、構造物劣化検出方法。
(付記10)
前記解析ステップでは、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
付記9に記載の構造物劣化検出方法。
(付記11)
前記解析ステップでは、
前記複数の地点のそれぞれのクラスタを決定し、
前記複数の地点のうち解析対象の地点が属するクラスタを特定し、特定したクラスタに属する1つ以上の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに共通する共通パターンを特定し、
前記解析対象の地点の振動特性の変化パターンと、前記解析対象の地点が属するクラスタの前記共通パターンと、に基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
付記9に記載の構造物劣化検出方法。
(付記12)
前記解析ステップでは、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、振動特性の変化パターンが類似する地点同士が同一のクラスタに属するように、前記複数の地点のそれぞれのクラスタを決定する、
付記11に記載の構造物劣化検出方法。
(付記13)
前記解析ステップでは、
前記共通パターンに基づき、前記解析対象の地点の振動特性の変化パターンを補正し、
前記解析対象の地点の振動特性の補正後の変化パターンに基づき、前記解析対象の地点の劣化状態を解析する、
付記10から12のいずれか1項に記載の構造物劣化検出方法。
(付記14)
前記解析ステップでは、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化の予兆を検出する、
付記9から13のいずれか1項に記載の構造物劣化検出方法。
(付記15)
前記振動特性の変化パターンは、前記振動特性の時間変化を示す変化パターンである、
付記9から14のいずれか1項に記載の構造物劣化検出方法。
(付記16)
前記振動特性は、固有振動数である、
付記9から15のいずれか1項に記載の構造物劣化検出方法。
(付記17)
構造物に敷設されたセンシング用光ファイバが検知した振動情報を受信する受信部と、
前記振動情報に基づき、前記構造物の複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンを特定する特定部と、
前記複数の地点のそれぞれの振動特性の変化パターンに基づき、前記複数の地点のうち少なくとも1つの地点の劣化状態を解析する解析部と、
を備える、構造物劣化検出装置。
【符号の説明】
【0088】
10 センシング用光ファイバ
20,20A 構造物劣化検出装置
201 受信部
202 特定部
203 解析部
211 受信部
212 固有振動数算出部
213 固有振動数DB
214 クラスタ決定部
215 クラスタDB
216 固有振動数補正部
217 劣化検出部
30 道路
31 アスファルト舗装層
311 ひび割れ部
312 ポットホール
32 路盤
W 雨水
40 コンピュータ
401 プロセッサ
402 メモリ
403 ストレージ
404 入出力インタフェース
4041 表示装置
4042 入力装置
4043 音出力装置
405 通信インタフェース