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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】流量計測装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/20 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01F1/20 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022003457
(22)【出願日】2022-01-13
(65)【公開番号】P2022158898
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2021060107
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂田 優太
(72)【発明者】
【氏名】富永 健一
(72)【発明者】
【氏名】前田 亘
(72)【発明者】
【氏名】藤本 陽太
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 諒
(72)【発明者】
【氏名】丸山 純平
(72)【発明者】
【氏名】大山 邦利
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04572003(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106706048(CN,A)
【文献】特開2019-109194(JP,A)
【文献】特表2020-511254(JP,A)
【文献】特開2014-163575(JP,A)
【文献】特開2003-057098(JP,A)
【文献】特開2009-072273(JP,A)
【文献】中田 毅, 鄭 以勤, 桜井 康雄,AEセンサを用いた液体流量計測法,日本フルードパワーシステム学会論文集,日本,一般社団法人日本フルードパワーシステム学会,2013年05月,第44巻,第3号,pp.49-54,https://doi.org/10.5739/jfps.44.49
【文献】鈴木 延明,配管系の振動,ターボ機械,日本,一般社団法人 ターボ機械協会,1985年03月10日,13巻,3号,pp.168-173,https://doi.org/10.11458/tsj1973.13.168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00-9/02,25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内の流体の流量を計測する装置であって、
前記配管の振動の周波数f[Hz]を配管外から計測する振動計と、該振動計の計測結果に基づき前記流量を算出する流量演算手段とを有し、
前記振動計の設置位置を、前記配管の曲がり部、バルブ部、フランジ部及び溶接部の少なくともいずれか一つである基点部から下流側に前記配管径の5倍以下の距離を隔てた位置とし、
前記流量演算手段は、予め取得しておいた、ストローハル数St=f×d/v(ただし、dは配管径[mm]、vは配管内の流速[mm/s])から配管内の流速vを求め、
該配管内の流速vに流路断面積を乗じて前記流量を算出することを特徴とする流量計測装置。
【請求項2】
前記流量演算手段において、前記周波数fの帯域を500Hz以下とすることを特徴とする請求項1に記載の流量計測装置。
【請求項3】
前記流量演算手段において、前記ストローハル数St=0.2と固定することを特徴とする請求項1に記載の流量計測装置。
【請求項4】
前記配管の振動の周波数f[Hz]を配管外から計測する別の振動計の設置位置を、前記基点部から上流側に前記配管径以下の距離を隔てた位置とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の流量計測装置。
【請求項5】
配管内の流体の流量を計測する方法であって、
前記配管の振動の周波数f[Hz]を配管外から計測する振動計測工程と、
前記振動の計測結果から前記流量を算出する流量演算工程とを有し、
前記振動の計測位置を、前記配管の曲がり部、バルブ部、フランジ部及び溶接部の少なくともいずれか一つである基点部から下流側に前記配管径の5倍以下の距離を隔てた位置とし、
前記流量演算工程は、予め取得しておいた、ストローハル数St=f×d/v(ただし、dは配管径[mm]、vは配管内の流速[mm/s])から配管内の流速vを求め、
該配管内の流速vに流路断面積を乗じて前記流量を算出することを特徴とする流量計測方法。
【請求項6】
前記流量演算工程において、前記周波数fの帯域を500Hz以下とすることを特徴とする請求項に記載の流量計測方法。
【請求項7】
前記流量演算工程において、前記ストローハル数St=0.2と固定することを特徴とする請求項に記載の流量計測方法。
【請求項8】
前記配管の振動の周波数f[Hz]を配管外から計測する別の振動の計測位置を、前記基点部から上流側に前記配管径以下の距離を隔てた位置とすることを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載の流量計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管の外部から配管内の流体流量を計測する流量計測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配管内の流体の流量を計測する方法の一つとして、差圧式流量計による方法がある(例えば、特許文献1)。差圧式流量計は、流体の流れている流路にセンサとしてオリフィス(絞り弁)を設置し、圧力損失を発生させ、オリフィス前後の圧力差を検出して流量に換算するものである。差圧式流量計に代表される、流体とオリフィス等のセンサが直接接触する流量測定方法は、確実な検量が可能で、流体検出精度が高いのが長所である。しかし、この方法は、オリフィス等のセンサを内設した配管部品を、流路となる配管の一部として組み入れるため、既設配管においては、配管の切断、交換の配管工事が別途必要となり、特に、測定箇所が少ないほど工事費が割高となるのが短所である。
【0003】
一方、流体とセンサを直接接触させず、配管の加工を必要としない流量計測方法として、超音波式流量計が提案されている(特許文献2)。超音波式流量計は、配管の厚さ方向に超音波を発振する発振部と、配管内を伝搬した超音波を含む超音波を受信する受信部を、配管の外側に取付け、受信部による受信結果に基づいて気体の流量を算出する流量算出部にて、スペクトル解析などを行うことで流量を算出する。そのため、配管工事を必要とせず、流量計の取り付け、取り外しが簡便である。しかし、この方法は、流量計機器の費用が高額になるという問題がある。また、さらに発振部と受信部の取り付け位置の制約から流量計測が困難となる場合もある。なお、この方法は、配管に振動(この場合、超音波振動)を付与することから、アクティブ型と呼ばれる。
【0004】
これに対し、配管の加工を必要としないもう一つの流量計測方法として、配管に振動を付与することなく、配管と流体の相互作用で発生する振動を直接計測するいわゆるパッシブ型が提案された(特許文献3)。特許文献3のパッシブ型の流量計測装置は、配管に設けたセンサからの流体の振動を示すセンサデータに基づいて周波数と信号レベルの関係を算出する信号レベル算出部と、信号レベルに基づいて、複数の周波数帯域についての帯域信号レベルを算出する帯域信号レベル算出部と、帯域信号レベルと、周波数帯域ごとに算出しておいた流量と帯域信号レベルとの関係を表すモデルとに基づいて、周波数帯域ごとの流量を、複数の周波数帯域について算出する流量算出部と、算出した複数の流量に基づいて、流量についての推定結果を出力する推定結果判断部とを有している。この方法は、前記差圧式流量計や、前記超音波式流量計に比べて、センサや取り付けの費用が低廉で、取り付けが最も簡便である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-53083号公報
【文献】特開2013-181812号公報
【文献】特開2019-109194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3のパッシブ型の流量計測装置は、流体が配管に与える振動の周波数からモデルにより流量を判別する。しかし、流体が配管に与える振動に、供給側のコンプレッサーや圧延ロール等の付帯設備による配管周りの機械振動がノイズとなって重畳する場合、この重畳した振動から、流体が配管に与える振動の周波数を信号として識別するのが困難であり、そのため、流体が配管に与える振動の周波数による流量判別が困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑み、パッシブ型の流量計測装置において、流体が配管に与える振動に、配管周りの機械振動が重畳しても、流体が配管に与える振動を容易に識別しうる流量計測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、パッシブ型の流量計測装置において、配管周りの機械振動に影響されることなく、流量を計測する方法を検討し、以下の知見を得た。
(ア) 配管内の渦を生じる箇所で配管外から配管振動の周波数を計測すると、流体が配管に与える振動の周波数と配管周りの機械振動の周波数の識別が容易となる。
(イ) 前記識別した、流体が配管に与える振動の周波数と、渦のストローハル数St=f×d/v(ただし、fは周波数、dは配管径、vは配管内流速)から、流量を求めることができる。ここで、「配管径」とは、配管の内径を指す。
【0009】
本発明は、上記した知見に基づいてさらに検討を加えて完成されたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
[1] 配管内の流体の流量を計測する装置であって、
前記配管の振動の周波数f[Hz]を配管外から計測する振動計と、該振動計の計測結果に基づき前記流量を算出する流量演算手段とを有し、
前記流量演算手段は、予め取得しておいた、ストローハル数St=f×d/v(ただし、dは配管径[mm]、vは配管内の流速[mm/s])から配管内の流速vを求め、
該配管内の流速vに流路断面積を乗じて前記流量を算出することを特徴とする流量計測装置。
[2] 前記流量演算手段において、前記周波数fの帯域を500Hz以下とすることを特徴とする[1]に記載の流量計測装置。
[3] 前記流量演算手段において、前記ストローハル数St=0.2と固定することを特徴とする[1]に記載の流量計測装置。
[4] 前記振動計の設置位置を、前記配管の曲がり部、バルブ部、フランジ部及び溶接部の少なくともいずれか一つである基点部から下流側に前記配管径の5倍以下の距離を隔てた位置とすることを特徴とする[1]~[3]のいずれか一つに記載の流量計測装置。
[5] 前記振動計の設置位置を、さらに、前記基点部から上流側に前記配管径以下の距離を隔てた位置とすることを特徴とする[4]に記載の流量計測装置。
[6] 配管内の流体の流量を計測する方法であって、
前記配管の振動の周波数f[Hz]を配管外から計測する振動計測工程と、
前記振動の計測結果から前記流量を算出する流量演算工程とを有し、
前記流量演算工程は、予め取得しておいた、ストローハル数St=f×d/v(ただし、dは配管径[mm]、vは配管内の流速[mm/s])から配管内の流速vを求め、
該配管内の流速vに流路断面積を乗じて前記流量を算出することを特徴とする流量計測方法。
[7] 前記流量演算工程において、前記周波数fの帯域を500Hz以下とすることを特徴とする[6]に記載の流量計測方法。
[8] 前記流量演算工程において、前記ストローハル数St=0.2と固定することを特徴とする[6]に記載の流量計測方法。
[9] 前記振動の計測位置を、前記配管の曲がり部、バルブ部、フランジ部及び溶接部の少なくともいずれか一つである基点部から下流側に前記配管径の5倍以下の距離を隔てた位置とすることを特徴とする[6]~[8]のいずれか一つに記載の流量計測方法。
[10] 前記振動の計測位置を、さらに、前記基点部から上流側に前記配管径以下の距離を隔てた位置とすることを特徴とする[9]に記載の流量計測方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パッシブ型の流量計測装置及び方法において、配管周りの機械振動に影響されることなく、流量を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の一例を示す配管等の工場レイアウト図である。
図2図1の配管3に振動計7aを取り付け、取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]を示すグラフである。
図3図1の配管4aに振動計7bを取り付け、取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]を示すグラフである。
図4図1の配管4bに振動計7cを取り付け、取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]を示すグラフである。
図5図1の配管4cの曲がり部5dの下流側に振動計7dを取り付け、取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]を示すグラフである。
図6図1の配管4cの曲がり部5dの上流側に振動計7eを取り付け、取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]を示すグラフである。
図7図5の取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]を図6の取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]で差し引いた結果を示すグラフである。
図8図1の直管部8に振動計7fを取り付け、取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]を示すグラフである。
図9】ストローハル数Stを予め取得するためのオフライン実験の概要を示す説明図である。
図10図9のオフライン実験により取得した周波数[Hz]とストローハル数St[-]の関係を表すグラフである。
図11図9のオフライン実験により取得した流速[m/s]とストローハル数St[-]の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態ともいう。)について説明する。
本発明では、配管の振動の周波数f[Hz]を配管外から計測し、予め取得しておいた、ストローハル数St=f×d/v(ただし、dは配管径[mm]、vは配管内の流速[mm/s])から配管内の流速vを求め、これに流路断面積を乗じて流量を算出する。これにより、設置が簡便なパッシブ型の流量計測装置において、配管周りの機械振動の影響を受けることなく、流体が配管に与える振動から流量を求めることができる。
【0013】
[振動計]
配管の振動の周波数f[Hz]を配管外から計測する流量計としては、流体が配管に与える振動の周波数と配管周りの機械振動の周波数を識別するために、周波数ごとの振動の大きさを出力するFFT(高速フーリエ変換)解析機能付きの振動計が好ましい。FFT解析機能付きの振動計は一般に広く用いられており、簡単に入手できる。なお、振動の大きさの尺度として、変位、速度及び加速度があり、速度を用いて測定するのが望ましい。本実施形態では、以下、振動の大きさの尺度は速度[mm/s]とした。
【0014】
[振動計の設置位置]
本発明では、計測した周波数fから流量を算出する際、渦(より詳しくは、スワール渦)が生じている状態において定義されるストローハル数Stを用いる。したがって、振動計の設置位置(振動の計測位置)は、渦の生じている位置が好適である。かくして、渦の生じている位置で計測した周波数ごとの速度のデータを用いることにより、流体が配管に与える振動に配管周りの機械振動がノイズとなって重畳しても、流体が配管に与える振動の周波数fを識別して、ストローハル数Stから流量を算出することができる。
【0015】
工場内で流体を送給する配管においては、配管の曲がり部、バルブ部、フランジ部及び溶接部の少なくともいずれか一つである基点部から下流側に前記配管径の5倍以下、好ましくは前記配管径以下、の距離を隔てた位置が、渦の発生位置となることが知られている。そこで、この位置を振動計の設置位置として採用することが好ましい。
【0016】
また、より好ましくは、さらに、前記基点部から上流側に前記配管径以下の距離を隔てた位置も、振動計の設置位置とすることである。これによれば、基点部から上流側や下流側に機械振動等によるノイズがある場合、これを除去し、渦のみに由来する振動データを取得できる。
【0017】
[周波数fの帯域≦500Hz]
本発明者らによる流体通流時の工場配管の振動計測実験(流体は空気、配管径は50A~200A、配管入側の流体流量は50~550Nm3/h、流体温度は10~25℃)で得た周波数ごとの速度のデータによると、配管に渦による振動と機械振動とが同時に加わっている場合、速度を持つ周波数は、500Hz以下の帯域と500Hz超の帯域に分かれて現れる。この状態から機械振動をなくすと、速度は、500Hz超えの帯域から消失し、500Hz以下の帯域に残存する。
【0018】
これらの結果から、渦が生じている位置で配管周りの機械振動が加わった状態下で、周波数500Hz以下の帯域が、流体が配管に与える振動の周波数は含むが、配管周りの機械振動の周波数は含まない帯域であることがわかる。なお、この点は、流体が空気以外のガス及び液体である場合においても同様であった。したがって、ストローハル数St用の周波数fの帯域は、500Hz以下とするのが好ましい。
【0019】
次に、500Hz以下の帯域内の複数の速度ピークから、ストローハル数Stの算出に用いる周波数f(以下、St用の周波数fともいう。)を一つ選定する方法としては、以下が好ましい。
(a)渦の顕著に発生する、前記基点部から下流側に配管径の5倍以下の距離を隔てた位置にて振動測定を実施し、周波数と速度のデータ(下流側データ)を取得する。
(b)下流側データから最高の速度ピークを示す周波数を周波数fとする。
(c)より好ましくはさらに、前記基点部から上流側に配管径以下の距離を隔てた位置にて振動測定を実施し、周波数と速度のデータ(上流側データ)を取得する。
(d)下流側データと上流側データを、周波数を揃えて重ね合わせ、重なりのない下流側データを採用する。これは、上流側及び/又は下流側で発生する機械振動等のノイズを除去するために行う。
(e)前記採用したデータの中で、最高の速度ピークを示す周波数が渦に由来する振動の周波数であるとし、これを周波数fとする。
[ストローハル数Stを予め取得]
ストローハル数Stを予め取得するには、流体の種類、温度、配管径及び設定流量を実際の配管の稼働条件範囲内として、オフライン実験により、複数水準の設定流量及び配管径d[mm]について、渦流の生じる位置を周波数及び流速の計測位置としてこの位置で、前記振動計により配管外から周波数を計測し、500Hz以下の帯域からSt用の周波数f[Hz]を一つ選定するとともに、差圧式流量計により流速v[mm/s]を計測し、St=f×d/vの式からストローハル数Stを算出する。
【0020】
さらに、本発明者らによる実験では、レイノルズ数Re=104 より大きい範囲で前記スワール渦が発生し、St=0.2を取ることを確認している。したがって、本発明では、前記流量演算手段において、ストローハル数St=0.2と固定することが好ましい。
【0021】
[流量演算手段]
計測した周波数fと予め取得しておいたストローハル数Stとから流量を算出する流量演算手段は、パーソナルコンピュータに搭載するソフトウエアとして容易に構成できる。
【実施例
【0022】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施形態をより具体的に説明する。
【0023】
図1に本実施例における工場レイアウト図を示す。図1に示すように、本実施例では、建屋外設置のコンプレッサー1から200A(□に数字を入れて、□Aとは配管径が□mmであることを意味する。)の配管3によって、工場2へ圧縮空気が送気されており、200Aの配管3から、50Aの配管4a、50Aの配管4b及び100Aの配管4cによって分岐され、それぞれ計装計器6a、空圧機器6b及び粉塵除去用ノズル6cでの圧縮空気の使用に供されている。圧縮空気の温度は10~25℃、圧力は5.5~6気圧である。配管3、4a~4c にはそれぞれ、曲がり部5a~5dがある。曲がり部を圧縮空気が通過する際、二次流れ形成に伴う渦を形成することが知られている。渦による振動を計測するように、曲がり部のそれぞれの付近、詳しくはそれぞれから下流側にそれぞれの配管の配管径離れた距離に隔てた位置に、FFT解析により周波数ごとの速度が取得可能な振動計7a~7dを設置した。図2~5にそれぞれ、振動計7a~7dより取得した周波数[Hz]ごとの速度[mm/s]のデータをグラフにして示す。
【0024】
図2のデータを取得した振動計7aの設置位置(曲がり部5aから下流側に200mmの距離を隔てた位置)はコンプレッサー1から十分に離れており、機械振動に伴うノイズが認められない位置である。図2では、10~200Hzの帯域で速度のピークが確認され、500Hz以下の帯域が流体の渦形成による周波数の存在領域であると認められた。
【0025】
図3のデータを取得した振動計7bの設置位置(配管4aの曲がり部5bから下流側に50mmの距離を隔てた位置)は、送気先の計装機器6aの動作による機械振動に伴うノイズが認められる位置である。図3では、10~500Hzの帯域及び500Hz以上の帯域に速度のピークが確認され、図2図3の結果より、500Hz以下の帯域が流体の渦形成による周波数の存在領域であり、500Hz以上の帯域が機械振動による周波数の存在領域であると認められた。
【0026】
図4のデータを取得した振動計7cの設置位置(配管4bの曲がり部5cから下流側に80mmの距離を隔てた位置)は、送気先の空圧機器6bの機械振動に伴うノイズが認められない位置である。図4では、10~500Hzの帯域に速度のピークが確認され、図2と同様、500Hz以下の帯域が流体の渦形成による周波数の存在領域であると認められた。
【0027】
図5のデータを取得した振動計7dの設置位置(配管4cの曲がり部5dから下流側に100mmの距離を隔てた位置)は、送気先の粉塵除去用ノズル6cによる振動や周りの付帯機器(図示せず)の動作による機械振動が認められる位置である。図5では、10~500Hzの帯域に6つの大きな速度のピークが確認された。そこで、配管4cの曲がり部5dから上流側に100mmの距離を隔てた位置に設置した振動計7eで取得した図6のデータによって図5のデータから、入側及び/又は出側で発生したノイズの影響を低減し、渦の周波数を明瞭化することが可能となった(図7参照)。
【0028】
さらに、配管を圧縮空気が通過する際、二次流れ形成に伴う渦は形成されず、機械振動は配管に及んでいる状態での周波数の有様を調査するために、図1に示すコンプレッサー1からつながる配管3の直管部8に振動計7fを設置した。この位置は直管部8周りの付帯設備(図示せず)による機械振動が認められる位置である。振動計7fより取得した周波数ごとの速度のデータをグラフにして図8に示す。図8より、500Hz以上の帯域に速度のピークが確認され、図2及び図4と同様にこの帯域が機械振動による周波数の存在領域であると認められたが、500Hz以下の帯域に速度のピークは現れず、流体が与える振動による周波数の帯域は認められなかった。
【0029】
図2図8の結果より、圧縮空気が通過する際、二次流れ形成に伴う渦を形成する箇所において、500Hz以下の帯域に速度のピークが顕著に現れ、曲がり部5a~5dにおいて、流体が与える振動による周波数の取得が可能であった。
【0030】
一方、周波数f[Hz]とストローハル数St[-]の関係を予め取得しておくために行ったオフライン実験の概要を図9に示す。実験装置は、空気がコンプレッサー9より、配管10に送られ、バルブ部11及び曲がり部14を経由し、ノズル15より吐出される仕組みとなっている。差圧式流量計12により、流量計測を行い、曲がり部14にて、振動計13を用いて、流体が与える振動の周波数fを取得した。ストローハル数Stの算出式は、St=f×d/vであり、dは配管径[mm]、vは流速[mm/s]である。なお、バルブ部11の弁開度を操作して、配管内の流量を調整し、差圧式流量計12より計測した流量を配管の断面積で除して流速vを算出した。
【0031】
25A~100Aの範囲で種々変えた配管12の配管径d[mm]、差圧式流量計15による流速v[mm/s]の計測値及び振動計13による周波数f[Hz]の計測値を前記ストローハル数Stの算出式に適用し、算出したストローハル数Stと周波数fの関係を図10に、算出したストローハル数Stと流速vの関係を図11に示す。ただし、図11では流速vの単位は[m/s]とした。図10図11より、ストローハル数Stは、周波数f、流速vによらず0.2と一定であった。
【0032】
図10図11の結果より、図1における工場の各設備の流量算出を、前述の流量演算手段(図示せず)にて行った。St用の周波数fとして、図2~5において、500Hz以下の帯域で速度のピークが最高である周波数(最高の速度ピークが複数ある場合は、それらのうち周波数が最大のもの)を流体が与える主な振動のものとみなして採用した。配管径dと、振動計7a~7eより取得した周波数fとを、これらとストローハル数St=0.2とから、v=f×d/Stの式で算出した流速vに配管内の流路断面積(=3.14×d2/4)を乗じて算出した流量と共に、表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
かくして、本発明によれば、パッシブ型の流量計測装置及び方法において、配管周りの機械振動に影響されることなく、流量を計測することができる。
【0035】
なお、本実施例では、流体として空気を用いたが、空気以外のガス又は液体に対しても、流体の種類あるいはさらに温度に応じたストローハル数Stを予め取得しておくことにより本発明の適用が可能である。また、本発明によれば振動計設置箇所は曲がり部が好適であるが、バルブやフランジなどの同様の圧損部品についても、流体の種類あるいはさらに温度に応じたストローハル数Stを予め取得しておくことにより本発明の適用が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 コンプレッサー
2 工場建屋
3 配管(200A)
4a 配管(50A)
4b 配管(50A)
4c 配管(100A)
5a 配管3に設置した曲がり部
5b 配管4aに設置した曲がり部
5c 配管4bに設置した曲がり部
5d 配管4cに設置した曲がり部
6a 計装機器
6b 空圧機器
6c 粉塵除去用ノズル
7a 曲がり部5aに設置した振動計
7b 曲がり部5bに設置した振動計
7c 曲がり部5cに設置した振動計
7d 曲がり部5dの下流側に設置した振動計
7e 曲がり部5dの上流側に設置した振動計
7f 直管部8付近に設置した振動計
8 直管部
9 コンプレッサー
10 空気配管(25A~100A)
11 バルブ部
12 差圧式流量計
13 振動計
14 曲がり部
15 ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11