(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】光測定用光源装置、分光測定装置及び分光測定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 3/10 20060101AFI20231219BHJP
G01J 3/18 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01J3/10
G01J3/18
(21)【出願番号】P 2022042987
(22)【出願日】2022-03-17
(62)【分割の表示】P 2019062000の分割
【原出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
(72)【発明者】
【氏名】横山 拓馬
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0122806(US,A1)
【文献】特開2002-310729(JP,A)
【文献】国際公開第2005/015149(WO,A1)
【文献】特開2019-045271(JP,A)
【文献】特開2004-233341(JP,A)
【文献】特開2001-091357(JP,A)
【文献】特開平04-110833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 3/52
G01N 21/00 - G01N 21/74
G02F 1/365
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトルが連続しており1パルス内の経過時間と波長とが1対1
で対応した状態にしてパルス光を出力する光測定用光源装置であって、
スペクトルが連続しているパルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源から出射されたパルス光を波長に応じて空間的に分割する分割器と、
分割器が分割する波長の数に応じた数の複数のファイバと、
複数のファイバの出射端から出射されるパルス光のビームを重ね合わせ
て当該ビームが測定対象物における同一の照射領域に照射されるようにするカプラであるアレイ導波路回折格子と
を備えており、
各ファイバは、分割器が空間的に分割した各波長の光が入射する位置に各入射端が位置しているとともに、入射する光の波長に応じて長さが異なるものであり、
各ファイバは、シングルモードファイバであることを特徴とする光測定用光源装置。
【請求項2】
前記分割器は、アレイ導波路回折格子であることを特徴とする請求項1に記載の光測定用光源装置。
【請求項3】
前記複数のファイバは、複数のファイバ組を構成する要素ファイバと、マルチコアファイバであり、
各ファイバ組は同じパターンで長さが異なる複数の要素ファイバで構成されており、
各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアとが接続されており、マルチコアファイバの数及び長さは、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアから成る各伝送路の全長が互いに異なる長さになるよう選定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光測定用光源装置。
【請求項4】
前記パルス光源は、スーパーコンティニウム光である前記パルス光を出射する光源であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光測定用光源装置。
【請求項5】
スペクトルが連続しているパルス光を出射するパルス光源と、
パルス光源から出射されたパルス光を波長に応じて空間的に分割する分割器と、
分割器が分割する波長の数に応じた数の複数のファイバと、
複数のファイバの出射端から出射されるパルス光のビームを重ね合わせ
て当該ビームが測定対象物における同一の照射領域に照射されるようにするカプラであるアレイ導波路回折格子と
を備えており、
各ファイバは、分割器が空間的に分割した各波長の光が入射する位置に各入射端が位置しているとともに、1パルス内の経過時間と波長とが1対1で対応するよう入射光の波長に応じて長さが異なるものであり、
各ファイバは、シングルモードファイバであり、
各ファイバから出射された光が照射された対象物からの光が入射する位置に配置された検出器と、
検出器からの出力に従って対象物の分光特性を算出する演算手段と
を備えていることを特徴とする分光測定装置。
【請求項6】
前記分割器は、アレイ導波路回折格子であることを特徴とする請求項5に記載の分光測定装置。
【請求項7】
前記複数のファイバは、複数のファイバ組を構成する要素ファイバと、マルチコアファイバであり、
各ファイバ組は同じパターンで長さが異なる複数の要素ファイバで構成されており、
各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアとが接続されており、マルチコアファイバの数及び長さは、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアから成る各伝送路の全長が互いに異なる長さになるよう選定されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の分光測定装置。
【請求項8】
前記パルス光源は、スーパーコンティニウム光である前記パルス光を出射する光源であることを特徴とする請求項5又は6に記載の分光測定装置。
【請求項9】
スペクトルが連続しているパルス光を波長に応じて空間的に分割器により分割する分割工程と、
分割工程において分割されたパルス光を、分割した波長の数に応じた数のシングルモードファイバである複数のファイバにそれぞれ入射させて伝送させることで、1パルス内の経過時間と波長とが1対1で対応した状態とするパルス伸長工程と、
パルス伸長工程によりパルス幅が伸長されたパルス光のビームをカプラであるアレイ導波路回折格子により重ね合わせ
て当該ビームが測定対象物における同一の照射領域に照射されるようにするパルス光重ね合わせ工程と
パルス光重ね合わせ工程により重ねあわされたパルス光のビームを対象物に照射する照射工程と、
照射工程においてパルス光のビームが照射された対象物からの光を検出器で検出する検出工程と、
検出器からの出力に従って対象物の分光特性を算出する演算工程と
を備えていることを特徴とする分光測定方法。
【請求項10】
前記分割器は、アレイ導波路回折格子であることを特徴とする請求項9に記載の分光測定方法。
【請求項11】
前記複数のファイバは、複数のファイバ組を構成する要素ファイバと、マルチコアファイバであり、
各ファイバ組は同じパターンで長さが異なる複数の要素ファイバで構成されており、
各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアとが接続されており、マルチコアファイバの数及び長さは、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアから成る各伝送路の全長が互いに異なる長さになるよう選定されていることを特徴とする請求項9又は10に記載の分光測定方法。
【請求項12】
前記パルス光は、スーパーコンティニウム光であることを特徴とする請求項9又は10に記載の分光測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、広帯域のパルス光を出射する光測定用光源装置に関するものであり、また光源装置を使用した分光測定の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルス光源の典型的なものは、パルス発振のレーザ(パルスレーザ)である。近年、パルスレーザの波長を広帯域化させる研究が盛んに行われており、その典型が、非線形光学効果を利用したスーパーコンティニウム光(以下、SC光という。)の生成である。SC光は、パルスレーザ源からの光をファイバのような非線形素子に通し、自己位相変調や誘導ラマン散乱のような非線形光学効果により波長を広帯域化させることで得られる光である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-205390号公報
【文献】米国特許第7184144号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0122806号明細書
【文献】特開平9-15661号公報
【文献】特開2003-279480号公報
【文献】特開2019-45271号公報
【文献】特開2002-162345号公報
【文献】特開平8-122833号公報
【文献】特開2004-233341号公報
【文献】特開2001-91357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した広帯域パルス光は、波長域としては伸長されているが、パルス幅(時間幅)としては狭いままである。しかし、ファイバのような伝送媒体における群遅延を利用するとパルス幅も伸長することができ、この際、適切な分散特性を持つ素子を選択すると、パルス内の経過時間(時刻)と波長とが1対1に対応した状態でパルス伸長することができる。このようにパルス内の経過時間と波長とが1対1に対応した状態のパルス光は、チャープパルス光又は線形チャープパルス光と呼ばれることもある。
【0005】
このようにパルス伸長させた広帯域パルス光(以下、広帯域伸長パルス光という。)における経過時間と波長との対応関係は、分光測定に効果的に利用することが可能である。つまり、広帯域伸長パルス光をある検出器で受光した場合、検出器が検出した光強度の時間的変化は、各波長の光強度即ちスペクトルに対応している。したがって、検出器の出力データの時間的変化をスペクトルに換算することができ、回折格子のような特別な分散素子を用いなくても分光測定が可能になる。つまり、広帯域伸長パルス光を試料に照射してその試料からの光を検出器で受光してその時間的変化を測定することで、その試料の分光特性(例えば分光透過率)を知ることができるようになる。
【0006】
このように、広帯域伸長パルス光は分光測定等の分野で特に有益と考えられる。しかしながら、発明者の研究によると、より強い光を出力させるべくパルス光源の出力を高くした場合、意図しない非線形光学効果がパルス伸長素子において生じ、経過時間と波長との一意性(1対1の対応性)が崩れてしまうことが判明した。経過時間と波長との一意性が崩れると、特に分光測定に用いた場合、測定精度の著しい低下につながる。
この出願の発明は、この知見に基づくものであり、高出力とした場合にも経過時間と波長との一意性が崩れることのない光測定用光源装置を提供することを目的とし、そのような光源装置を使用することで精度の高い高速の分光測定が行えるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この出願の光測定用光源装置は、スペクトルが連続しており1パルス内の経過時間と波長とが1対1で対応した状態にしてパルス光を出力する光測定用光源装置である。この光測定用光源装置は、 少なくとも100nmの波長幅に亘ってスペクトルが連続しているパルス光を出射するパルス光源と、パルス光源から出射されたパルス光を波長に応じて空間的に分割する分割器と、分割器が分割する波長の数に応じた数の複数のファイバと、複数のファイバの出射端から出射されるパルス光のビームを重ね合わせて当該ビームが測定対象物における同一の照射領域に照射されるようにするカプラであるアレイ導波路回折格子とを備えている。各ファイバは、分割器が空間的に分割した各波長の光が入射する位置に各入射端が位置しているとともに、入射する光の波長に応じて長さが異なるものであり、各ファイバは、シングルモードファイバである。
また、上記課題を解決するため、この出願の光測定用光源装置は、分割器が、アレイ導波路回折格子であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の光測定用光源装置は、分割器が、回折格子と、回折格子が分散させた光を波長に応じて異なる位置に集光する光学系とを備えており、各集光位置に各ファイバの入射端が配置されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の光測定用光源装置は、複数のファイバが、複数のファイバ組を構成する要素ファイバと、マルチコアファイバであり、各ファイバ組は同じパターンで長さが異なる複数の要素ファイバで構成されており、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアとが接続されており、マルチコアファイバの数及び長さは、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアから成る各伝送路の全長が互いに異なる長さになるよう選定されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の光測定用光源装置は、パルス光源が、スーパーコンティニウム光である前記パルス光を出射する光源であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定装置は、スペクトルが連続しているパルス光を出射するパルス光源と、パルス光源から出射されたパルス光を波長に応じて空間的に分割する分割器と、分割器が分割する波長の数に応じた数の複数のファイバと、複数のファイバの出射端から出射されるパルス光のビームを重ね合わせて当該ビームが測定対象物における同一の照射領域に照射されるようにするカプラであるアレイ導波路回折格子とを備えている。各ファイバは、分割器が空間的に分割した各波長の光が入射する位置に各入射端が位置しているとともに、1パルス内の経過時間と波長とが1対1で対応するよう入射光の波長に応じて長さが異なるものであり、各ファイバは、シングルモードファイバである。そして、この分光測定装置は、各ファイバから出射された光が照射された対象物からの光が入射する位置に配置された検出器と、検出器からの出力に従って対象物の分光特性を算出する演算手段とを備えている。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定装置は、分割器が、アレイ導波路回折格子であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定装置は、分割器が、回折格子と、回折格子が分散させた光を波長に応じて異なる位置に集光する光学系とを備えており、各集光位置に各ファイバの入射端が配置されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定装置は、複数のファイバが、複数のファイバ組を構成する要素ファイバと、マルチコアファイバであり、各ファイバ組は同じパターンで長さが異なる複数の要素ファイバで構成されており、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアとが接続されており、マルチコアファイバの数及び長さは、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアから成る各伝送路の全長が互いに異なる長さになるよう選定されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定装置は、パルス光源が、スーパーコンティニウム光である前記パルス光を出射する光源であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定方法は、スペクトルが連続しているパルス光を波長に応じて空間的に分割器により分割する分割工程と、
分割工程において分割されたパルス光を、分割した波長の数に応じた数のシングルモードファイバである複数のファイバにそれぞれ入射させて伝送させることで、1パルス内の経過時間と波長とが1対1で対応した状態とするパルス伸長工程と、
パルス伸長工程によりパルス幅が伸長されたパルス光のビームをカプラであるアレイ導波路回折格子により重ね合わせて当該ビームが測定対象物における同一の照射領域に照射されるようにするパルス光重ね合わせ工程と
パルス光重ね合わせ工程により重ねあわされたパルス光のビームを対象物に照射する照射工程と、
照射工程においてパルス光のビームが照射された対象物からの光を検出器で検出する検出工程と、
検出器からの出力に従って対象物の分光特性を算出する演算工程と
を備えている。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定方法は、分割器が、アレイ導波路回折格子であるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定方法は、分割器が、回折格子と、回折格子が分散させた光を波長に応じて異なる位置に集光する光学系とを備えており、各集光位置に各ファイバの入射端が配置されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定方法は、複数のファイバは、複数のファイバ組を構成する要素ファイバと、マルチコアファイバであり、各ファイバ組は同じパターンで長さが異なる複数の要素ファイバで構成されており、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアとが接続されており、マルチコアファイバの数及び長さは、各要素ファイバのコアとマルチコアファイバの各コアから成る各伝送路の全長が互いに異なる長さになるよう選定されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の分光測定方法は、パルス光がスーパーコンティニウム光であるという構成を持ち得る。
【発明の効果】
【0008】
以下に説明する通り、この出願の光測定用光源装置によれば、広帯域パルス光は分割器で各波長の光に分割され、各波長の光を伝送する各ファイバにおいて伝搬距離に応じた遅延によってパルス伸長がされるので、意図しない非線形光学効果が生じて時間波長一意性が崩れてしまう問題が生じない。このため、時間波長一意性が確保された広帯域パルス光を高い照度で対象物に照射して光測定を行うことができる。このため、高速且つ高品質の光測定が行える。
また、分割器がアレイ導波路回折格子である場合、低損失であるためさらに高照度の光照射が可能であり、また各ファイバとの接続が容易で製作し易いという効果が得られる。
また、複数のファイバが、同じパターンで長さが異なる複数のファイバ組を構成していると、コストダウンが図られる。
また、この出願の分光測定装置や分光測定方法によれば、光源からの光が時間的に分割されて対象物に照射されるので、回折格子の掃引のような時間を要する動作は不要であり、高速の分光測定が行える。そして、時間波長一意性を確保したパルス伸長を行う際、長さの異なる別々のファイバで波長毎に伝送する構成を採用しているので、高い照度で対象物に光を照射する場合にも時間波長一意性が崩れることがない。このため、吸収の多い対象物についての分光測定のようにハイパワーの光を照射する必要のある分光測定を高精度に行うことができ、高速且つ高信頼性の装置及び方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一の実施形態の光測定用光源装置の概略図である。
【
図2】広帯域パルス光のパルス伸長の原理について示した概略図である。
【
図3】高強度の広帯域パルス光を群遅延ファイバでパルス伸長させた場合の意図しない非線形光学効果について確認した実験の結果を示した図である。
【
図4】分割器として採用されたアレイ導波路回折格子の平面概略図である。
【
図7】第二の実施形態の光測定用光源装置の概略図である。
【
図8】第一の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図9】分光測定装置が備える測定プログラムの一例について主要部を概略的に示した図である。
【
図10】第二の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
まず、光測定用光源装置の発明の実施形態について説明する。
図1は、第一の実施形態の光測定用光源装置の概略図である。
図1に示す光測定用光源装置は、パルス光源1と、パルス伸長ユニット2とを備えている。パルス伸長ユニット2は、パルス光源1からの光を1パルス内の経過時間と波長との関係が1対1になるようパルス光源1からの光をパルス伸長させるユニットである。
【0011】
パルス光源1は、連続したスペクトルのパルス光を出射する光源である。この実施形態では、例えば、900nmから1300nmの範囲において少なくとも10nmの波長幅に亘って連続したスペクトルの光を出射する光源となっている。「900nmから1300nmの範囲において少なくとも10nmの波長幅に亘って連続したスペクトル」とは、900~1300nmの範囲内の連続したいずれかの10nm以上の波長幅ということである。例えば、例えば900~910nmにおいて連続していても良いし、990~1000nmにおいて連続していても良い。尚、50nm以上の波長幅に亘って連続しているとさらに好適であるし、100nm以上の波長幅に亘って連続しているとさらに好適である。また、「スペクトルが連続している」とは、ある波長幅で連続したスペクトルを含んでいることを意味する。これは、パルス光の全スペクトルにおいて連続している場合には限られず、部分的に連続していても良い。
900nmから1300nmの範囲とする点は、実施形態の光源装置は、この波長域における光測定を用途としているためである。少なくとも10nmの波長幅に亘って連続したスペクトルの光とは、典型的にはSC光である。したがって、この実施形態では、パルス光源1は、SC光源となっている。但し、SLD(Superluminescent Diode)光源のような他の広帯域パルス光源が使用される場合もある。
【0012】
SC光源であるパルス光源1は、超短パルスレーザ11と、非線形素子12とを備えている。超短パルスレーザ11としては、ゲインスイッチレーザ、マイクロチップレーザ、ファイバレーザ等を用いることができる。また、非線形素子12としては、ファイバが使用される場合が多い。例えば、フォトニッククリスタルファイバやその他の非線形ファイバが非線形素子12として使用できる。ファイバのモードとしてはシングルモードの場合が多いが、マルチモードであっても十分な非線形性を示すものであれば、非線形素子12として使用できる。
【0013】
パルス伸長ユニット2は、実施形態の光源装置の大きな特徴点を成している。パルス光源1から出射される光は、波長帯域としては広がっているが、パルス幅としてはフェムト秒からナノ秒オーダーの短パルスのままである。このままでは光測定用としては使用しづらいので、パルス伸長ユニット2によってパルス伸長させる。この際に重要なことは、1パルスにおける経過時間と波長との関係が1対1となるように伸長させる構成が採用されている点である。この際、実施形態の光源装置は、意図しない非線形光学効果が生じないように配慮した構成を採用している。
【0014】
広帯域パルス光をパルス伸長させる際、意図しない非線形光学効果が生じて時間波長一意性が崩れる点は、発明者の研究の過程で確認された課題である。以下、この点について、
図2を参照して説明する。
図2は、広帯域パルス光のパルス伸長の原理について示した概略図である。
【0015】
SC光のような広帯域パルス光のパルス幅を伸長させる手段としては、分散補償ファイバ(DCF)のような特定の群遅延特性を有するファイバを利用する構成が好適に採用される。例えば、ある波長範囲において連続スペクトルであるSC光L1を当該波長範囲で正の分散特性を有する群遅延ファイバ9に通すと、パルス幅が効果的に伸長される。即ち、
図2に示すように、SC光L1においては、超短パルスではあるものの、1パルスの初期に最も長い波長λ
1が存在し、時間が経過すると徐々に短い波長の光が存在し、パルスの終期には最も短い波長λ
nの光が存在する。この光を、正常分散の群遅延ファイバ9に通すと、正常分散の群遅延ファイバ9では、波長の短い光ほど遅れて伝搬するので、1パルス内の時間差が増長され、ファイバ9を出射する際には、短い波長の光は長い波長の光に比べてさらに遅れるようになる。この結果、出射するSC光L2は、時間対波長の一意性が確保された状態でパルス幅が伸長された光となる。即ち、
図2の下側に示すように、時刻t
1~t
nは、波長λ
1~λ
nに対してそれぞれ1対1で対応した状態でパルス伸長される。
【0016】
尚、パルス伸長のための群遅延ファイバ9としては、異常分散ファイバを使用することも可能である。この場合は、SC光においてパルスの初期に存在していた長波長側の光が遅れ、後の時刻に存在していた短波長側の光が進む状態で分散するので、1パルス内での時間的関係が逆転し、1パルスの初期に短波長側の光が存在し、時間経過とともにより長波長側の光が存在する状態でパルス伸長されることになる。但し、正常分散の場合に比べると、パルス伸長のための伝搬距離をより長くすることが必要になる場合が多く、損失が大きくなり易い。したがって、この点で正常分散の方が好ましい。
【0017】
このような群遅延ファイバを使用したパルス伸長において、光測定の分野では、ファイバに入射させる広帯域パルス光の強度を高くすることが必要になる場合がある。例えば、吸収の多い対象物に光を照射してその透過光を分光することで吸収スペクトルを測定する場合、対象物に強い光を照射する必要が生じ、そのためにパルス伸長においても強い光を伸長させる必要が生じる。また、測定のSN比を高くしたり測定を高速に行ったりする観点から、対象物に強い光を照射する必要が生じる場合がある。
【0018】
パルス伸長された光を高い照度で対象物に照射するには、群遅延ファイバに対して高い強度で広帯域パルス光を入射させ、高い強度を保ったままパルス伸長する必要がある。しかしながら、群遅延ファイバに高強度の広帯域パルス光を入射させると、意図しない非線形光学効果が生じ、時間波長一意性が崩れる場合がある。
図3は、この点を確認した実験の結果を示す図である。
【0019】
図3は、高強度の広帯域パルス光を群遅延ファイバでパルス伸長させた場合の意図しない非線形光学効果について確認した実験の結果を示した図である。
図3において縦軸は対数目盛である。
図3に結果を示す実験では、中心波長1064nm、パルス幅2ナノ秒のマイクロチップレーザ光を非線形素子としてのフォトニッククリスタルファイバに入れてSC光とし、長さ5kmのシングルモードファイバを群遅延ファイバとして使用してパルス伸長させた。シングルモードファイバは、1100~1200nmの範囲で正常分散のファイバである。この際、シングルモードファイバへの入射SC光のエネルギーを、0.009μJ、0.038μJ、0.19μJ、0.79μJと変化させた。
【0020】
図3に示すように、SC光のエネルギーが0.19μJまでの場合には、1100~1200nmの波長範囲において出射光強度の大きなばらつきはないが、0.79μJの場合、出射光強度は波長に応じて激しく変動する。このような変動は、群遅延ファイバとしてのシングルモードファイバに入射して伝搬する過程でSC光に意図しないさらなる非線形光学効果が生じたことを示すものである。このような非線形光学効果が生じると、新たな波長が別の時刻に生成されるため、時間波長一意性が崩れてしまう。尚、
図3に結果を示す実験では、入射するSC光のパルス幅は変わっていないので、ピーク値を変化させたということになる。
【0021】
発明者は、このような知見に基づき、パルス伸長の構成を最適化させた。具体的には、実施形態の光測定用光源装置は、
図1に示すように、パルス光源1からの広帯域パルス光のパルス幅を伸長させるパルス伸長ユニット2を備えており、パルス伸長ユニット2は、分割器3と、複数のファイバ(以下、伸長ファイバという。)41~4nとを含んでいる。
【0022】
分割器3は、パルス光源1から出射されたパルス光を波長に応じて空間的に分割する素子である。
図1に示すように、各伸長ファイバ41~4nは、分割器3に対して並列に接続されている。各伸長ファイバ4の入射端は、分割器3が空間的に分割した各波長の光が入射する位置に配置されている。即ち、分割器3が、広帯域パルス光を波長λ
1~λ
nまでの光に分割する場合、伸長ファイバ41の入射端は波長λ
1の光の出射位置に配置され、伸長ファイバ42の入射端は波長λ
2の光の出射位置に配置され、・・・ファイバ4nは波長λ
nの光の出射位置に配置される。
【0023】
そして、各伸長ファイバ41~4nは、入射する波長(分割器3に対する接続位置)に応じて長さの異なるものとなっている。各伸長ファイバ41~4nの長さは、各伸長ファイバ41~4nの出射端において、1パルス内の経過時間と波長との関係が1対1になるように決められる。この実施形態では、上記と同様、1パルスの初期に長波長側の光が存在し、時間経過とともに徐々に短波長側の光が存在する関係を維持したままパルス伸長をするので、短波長の光を伝送する伸長ファイバほど長さが長くなっている。即ち、λ1を最も長い波長とし、λnを最も短い波長とし、各伸長ファイバ41,42,・・・,4nの長さをm1、m2、・・・mnとすると、m1<m2<・・・<mnとなっている。
より具体的な一例を示すと、1~20mまで1m刻みで長さが異なる20本のシングルモードファイバを伸長ファイバ41~4nとして使用することができる。
【0024】
このように長さの差異が最適化されるため、各伸長ファイバ41~4nは、必ずしも特定の群遅延ファイバでなくとも良い。即ち、波長に応じて適宜の群遅延特性を有するファイバを採用することは必須ではない。同一のファイバ(同一のコア/クラッド材料のファイバ)を使用し、波長に応じて長さに差異をつければ、各出射端における時間波長一意性は達成される。この意味で、各伸長ファイバ41~4nは、マルチモードファイバであっても良い。意図しない非線形光学効果を防止するという観点では、シングルモードファイバよりマルチモードファイバの方が好ましい場合もある。
【0025】
いずれにしても、各伸長ファイバ41~4nの長さの差異が最適化されるため、広帯域パルス光が各波長の光に分割されて各伸長ファイバ41~4nを伝搬した際、各出射端において時間波長一意性が達成される。即ち、分割された光は、波長及び各伸長ファイバ41~4nの長さとコアの屈折率に応じて遅延する。このため、波長とコア屈折率に応じて各伸長ファイバ41~4nの長さを適宜選定すれば、各出射端において時間波長一意性が達成される。尚、分割器3が分割する波長の差異をΔλとし、各伸長ファイバ41~4nの長さの差異をΔmとした場合、Δλが一定(波長のインターバルが一定)であったとしても、Δmは一定でない場合もある。各伸長ファイバ41~4nは、群遅延ファイバでなくとも群遅延には波長依存性があるため、それを考慮してΔmに差をつける場合があるからである。
また、各伸長ファイバ41~4nは、同じもの(同じ特性のもの)が使用されているが、違う特性のものを使用しても良い。違う特性のものを使用する場合、その特性の差異に応じて長さの差異についても適宜選定する。
【0026】
尚、パルス伸長後において、各時刻t1~tnと各波長λ1~λnとは1対1で対応してはいるものの、時刻刻t1~tnは飛び飛びの時刻である場合もある。即ち、時刻t1で波長λ1の光が観測されてから、時間が空いて(光が存在しない時間帯があって)時刻t2になって波長λ2の光が観測され、・・・という状態の場合もある。この状態でも、時間を特定すれば波長が特定されるので、時間波長一意性が確保されているといえる。勿論、時間の連続的な変化とともに波長が連続的に変化する場合もあり得る。
【0027】
また、
図1に示すように、この実施形態では、各伸長ファイバ41~4nの出射端にはカプラ5が設けられている。カプラ5は、各伸長ファイバ41~4nの出射端から出射されるビームを重ね合わせ、同一の照射領域に照射されるようにする素子である。カプラ5としては、熔融型ファイバカプラの他、各伸長ファイバ41~4nの出射端を同一の照射領域が照射されるように保持する機構やレンズなどの光学系が採用されることもある。また、ファンイン/ファンアウトデバイスがカプラ5として使用される場合もあり得る。さらに、平面型光回路を用いた光カプラやアレイ導波路回折格子を用いることもできる。
【0028】
次に、分割器3について、より具体的に説明する。分割器3としては、この実施形態では、アレイ導波路回折格子が採用されている。
図4は、分割器3として採用されたアレイ導波路回折格子の平面概略図である。
図4に示すようにアレイ導波路回折格子は、基板31上に各機能導波路32~36を形成することで構成されている。各機能導波路は、光路長が僅かずつ異なる多数のアレイ導波路32と、アレイ導波路32の両端(入射側と出射側)に接続されたスラブ導波路33,34と、入射側スラブ導波路33に光を入射させる入射側導波路35と、出射側スラブ導波路34から各波長の光を取り出す各出射側導波路36となっている。
【0029】
スラブ導波路33,34は自由空間であり、入射側導波路35を通って入射した光は、入射側スラブ導波路33において広がり、各アレイ導波路32に入射する。各アレイ導波路32は、僅かずつ長さが異なっているので、各アレイ導波路32の終端に達した光は、この差分だけ位相がそれぞれずれる(シフトする)。各アレイ導波路32からは光が回折して出射するが、回折光は互いに干渉しながら出射側スラブ導波路34を通り、出射側導波路36の入射端に達する。この際、位相シフトのため、干渉光は波長に応じた位置で最も強度が高くなる。つまり、各出射端導波路36には波長が順次異なる光が入射するようになり、光が空間的に分光される。厳密には、そのように分光される位置に各入射端が位置するよう各出射側導波路36が形成される。
【0030】
図4に示すようなアレイ導波路回折格子は、光通信の分野で波長分割多重通信 (WDM)用に開発されたものであるが、発明者は、用途及び波長域は大きく異なるものの、実施形態の光源装置においてパルス伸長のための分割器3として使用できることを見出したものである。
このようなアレイ導波路回折格子は、例えばシリコン製の基板31を表面処理することで作製することができる。具体的には、シリコン製の基板31の表面に火炎堆積法によりクラッド層(SiO
2層)を形成し、コア用のSiO
2-GeO
2層を同様に火炎堆積法により形成した後、フォトリソグラフィによりSiO
2-GeO
2層をパターン化して各導波路32~36を形成することにより作製される。各アレイ導波路32の線幅は、例えば5~6μm程度で良い。
【0031】
例えば 900~1300nm程度の波長幅に亘って連続スペクトルである光に使用する場合、出射側導波路36の数は128本程度であり、光は3~50nmずつ違う波長に分割されて出射される。
アレイ導波路回折格子の各出射側導波路36には、伸長ファイバ41~4nがそれぞれ接続されている。したがって、伸長ファイバ41~4nには、上記のように波長に応じて空間的に分割された光が入射し、各波長の光が別々の伸長ファイバ41~4nで伝送されてそれぞれ異なった遅延時間が与えられる。
【0032】
次に、このような実施形態の光測定用光源装置の全体の動作について説明する。
カプラ5は、光測定の目的に応じて所定の位置に配置される。超短パルスレーザ11から出射された超短パルス光は、非線形素子12で広帯域化されて広帯域パルス光となり、分割器3に入射する。そして、分割器3で波長に応じて空間的に分割され、各波長の光が各伸長ファイバ41~4nに入射される。各波長の光は、各伸長ファイバ41~4n中で遅延し、時間波長一意性が達成された状態で各伸長ファイバ41~4nから出射される。そして、出射された光は、カプラ5が指向する照射領域に照射される。
【0033】
このような実施形態の光測定用光源装置によれば、広帯域パルス光は、分割器3で各波長の光に分割され、各波長の光を伝送する各伸長ファイバ41~4nにおいて伝搬距離に応じた遅延によってパルス伸長がされるので、意図しない非線形光学効果が生じて時間波長一意性が崩れてしまう問題が生じない。即ち、広帯域パルス光のパワーは、各伸長ファイバ41~4nに分散して伝搬するので、ハイパワーの広帯域パルス光をパルス光源1から出射させた場合でも、各伸長ファイバ41~4nを伝搬する光のパワーは低く抑えられる。このため、時間波長一意性が崩れてしまうことはない。そして、各伸長ファイバ41~4nからの光はカプラ5で重ね合わされるので、対象物には、伸長されたハイパワーの広帯域パルス光を照射することができる。このため、吸収の大きな対象物であってもSN比を高くした光測定が可能となる。
【0034】
また、分割器3として使用されたアレイ導波路回折格子は低損失であるので、さらに高照度の光照射を可能にしている。また、アレイ導波路回折格子は、ファイバとの親和性が高く、各伸長ファイバとの接続が容易である。このため、製作し易いという効果がある。
【0035】
次に、分割器3の他の例について説明する。
図5は、他の例の分割器3の概略図である。上記実施形態では、分割器3としてはアレイ導波路回折格子を使用したが、
図5の例は、分割器3として、回折格子371を使用した例となっている。この例では、回折格子371と非平行ミラー対38とを組み合わせることで、光を波長に応じて異なる位置に集光させる構成となっている。
【0036】
具体的に説明すると、分割器3は、光軸に対する角度が波長に応じて異なる角度になるようにする角分散モジュール37と、角分散モジュール37に対して接続された非平行ミラー対38と、非平行ミラー対38で折り返された各波長の光を取り出すビームスプリッタ372と、ビームスプリッタ372で取り出された各波長の光を各伸長ファイバ41~4nに入射させる入射光学系39とを備えている。
【0037】
図5に示すように、角分散モジュール37は、広帯域パルス光が入射する回折格子371と、回折格子371で波長分散させた光を平行光にするコリメータレンズ373と、コリメータレンズ373で平行光にされた光を非平行ミラー対38の入射点Pに結ばせる集光レンズ374とを含んでいる。取り出し用のビームスプリッタ372は、コリメータレンズ373と集光レンズ374の間に配置されている。
【0038】
回折格子371で分散した各波長の光は、集光レンズ374で集光されて非平行ミラー対38の入射点Pに結ぶ。入射点Pに達する際の角度は、波長に応じて異なる角度であり、連続的に異なる角度である。非平行ミラー対38は、僅かな角度αだけ傾けられた一対の平板ミラー381で構成されているため、
図5に示すように、入射した各波長の光は、平板ミラー381に交互に反射しながら戻ってくる。この際、入射点Pに集光する際の集光角θ、傾き角α、入射点Pで見た非平行ミラー対38の離間距離Dにより、飛び飛びではあるものの波長λ1~λnの光は入射点Pの位置にちょうど戻ってくる。したがって、これらの光は、入射点Pで反射してビームスプリッタ372に達し、ビームスプリッタ372で一部が反射して取り出される。取り出された光は、入射光学系39により各伸長ファイバ41~4nに入射する。
【0039】
このようにして、広帯域パルス光は、波長に応じて空間的に分割され、各伸長ファイバ41~4nで伝送される。そして、この実施形態においても、各伸長ファイバ41~4nの長さは、入射する光の波長に応じて異なる長さとされており、出射端において時間波長一意性が達成される。尚、
図5から解るように、入射点Pの位置にちょうど戻ってくる波長の光は、波長に応じて光路長が少し異なるので、この分で時間分散が生じている。したがって、伸長ファイバ41~4nの長さを選定する際には、この分の分散も考慮に入れることが望ましい。
【0040】
上記の他、分割器3としては、上記以外にも種々のものを採用し得る。これらの例が
図6に示されている。
図6は、さらに他の例の分割器3を示した概略図である。
分割器3としては、
図6(1)に示すように、一対の回折格子301を用いたものを採用し得る。一対の回折格子301で光を波長分散させ、マイクロレンズアレイ302を介して各伸長ファイバ41~4nに各波長の光を入射させる構成が採用できる。マイクロレンズアレイ302は各波長の光を集光して各伸長ファイバ41~4nのコアに入射させるマイクロレンズを配列した素子である。
【0041】
また、
図6(2)に示すように、プリズムペアを採用した分割器3を使用することも可能である。この例では、一対のプリズム303により光を波長分散させ、同様にマイクロレンズアレイ302で集光して各伸長ファイバ41~4nのコアに入射させる。
いずれにしても、光を波長毎に分割器3で分け、波長毎に各伸長ファイバ41~4nで伝送してファイバ長の調整により時間波長一意性を達成すると、高強度の広帯域パルス光がパルス源1から出射される際にも、意図しない非線形光学効果が防止され、時間波長一意性が崩れてしまうことはない。
【0042】
次に、第二の実施形態の光測定用光源装置について説明する。
図7は、第二の実施形態の光測定用光源装置の概略図である。
第二の実施形態の光測定用光源装置は、パルス伸長ユニット2の構成が第一の実施形態と異なっている。
図7に示すように、第二の実施形態でも、パルス伸長ユニット2は、複数の伸長ファイバを備えている。これら伸長ファイバは、複数のファイバ組4G1~4Gnを構成するファイバ(以下、要素ファイバという。)41~4nを含んでいる。
【0043】
各ファイバ組4G1~4Gnは、同じパターンで長さが異なる複数の要素ファイバ41~4nで構成されている。これは、伸長ファイバを共通化してコストダウンを図る趣旨である。但し、このままでは、同じ長さの伸長ファイバがあることになるので、その部分では異なる遅延を達成することができない。このため、マルチコアファイバ61~6nを組み合わせている。この構成では、一つの要素ファイバ41~4nのコアと、それに接続されたマルチコアファイバ61~6nの各コアとが一つの伝送路を形成するので、マルチコアファイバ61~6nの数及び長さは、各伝送路が互いに異なる長さとなるよう選定される。
【0044】
一例を示すと、第一の実施形態において例示した20本の伸長ファイバ41~4n(20本の異なる伝送路)と等価なものを達成する場合、各組のファイバ組4G1~4Gnを1~5メートルまで1メートル刻みで長さが異なる5本の要素ファイバ41~45から成るものとする。この組を4組用意する。そして、コア数が5のマルチコアファイバを3本用意する。3本のマルチコアファイバ61~63は、5メートル、10メートル、15メートルの長さとする。その上で、最初のファイバ組4G1にはマルチコアファイバは接続せず、次のファイバ組4G2には5メートルのマルチコアファイバ61を接続する。即ち、各要素ファイバ41~45のコアに5メートルのマルチコアファイバ61の各コアを接続する。次のファイバ組4G3には、10メートルのマルチコアファイバ62を接続する。最後のファイバ組4G4には15メートルのマルチコアファイバ63を接続する。このようにすると、1~20メートルの1メートル刻みで長さが異なる20本の伝送路が形成されたことになる。
【0045】
以上は一例であり、各伝送路の全長が互いに異なるものであれば、どのような組合せでも良い。マルチコアファイバ61~6nのコアの数がファイバ組4G1~4Gnの要素ファイバ41~4nの数より多い場合もあるが、その場合には空き(未接続)とすれば良い。尚、ファイバ組が2組の場合には、マルチコアファイバは1本で足りることになる。
また、マルチコアファイバ61~6nの代わりにバンドルファイバを使用することも可能である。上記の例では、5本のファイバを束ねたバンドルファイバを用意する。各バンドルファイバは、5メートル、10メートル、15メートルの長さとされ、同様にファイバ組4G2,4G3,4G4に対してそれぞれ接続される。
【0046】
また、第一の実施形態においても同様であるが、分割器3が分割する波長の数と、複数の伸長ファイバで形成される伝送路の数は一致するのが理想的であるが、一致しなくても良い。伝送路の数の方が多い場合にはその分は空きとなる。また、光測定の目的によっては測定に使用しない波長もあるから、その分の波長については分割器3に対して伸長ファイバが接続されない(伸長ファイバの数の方が少ない)場合もある。
【0047】
第二の実施形態においても、光を波長毎に分割器3で分け、波長毎に各伸長ファイバ41~4n,61~6nで伝送するので、高強度の広帯域パルス光がパルス源1から出射される際にも、意図しない非線形光学効果が防止され、時間波長一意性が崩れてしまうことはない。
そして、パルス伸長ユニット2が、同一のパターンで異なる複数の要素ファイバ41~4nで構成された複数のファイバ組4G1~4Gnを含んでいるので、低コストとなる。
尚、
図7に示す例では、分割器3に対して各ファイバ組4G1~4Gnが接続され、その後段に各マルチコアファイバ61~6nが接続されているが、この関係は逆であっても良い。即ち、分割器3に対して各マルチコアファイバ61~6nが接続され、その後段に各ファイバ組4G1~4Gnが接続されても良い。
【0048】
次に、分光測定装置及び分光測定方法の発明について説明する。
図8は、第一の実施形態の分光測定装置の概略図である。
図8に示す分光測定装置は、光測定用光源装置10と、光測定用光源装置10から出射された光を対象物Sに照射する照射光学系71と、光照射された対象物Sからの光が入射する位置に配置された検出器72と、検出器72からの出力に従って対象物Sの分光スペクトルを算出する演算手段73とを備えている。
【0049】
光測定用光源装置(以下、単に光源装置という。)10としては、上記第一の実施形態のものが採用されている。第二の実施形態のものでも良いことは、勿論である。
照射光学系71は、この実施形態では、ビームエキスパンダ711を含んでいる。光源装置10からの光は、時間伸長された広帯域パルス光ではあるものの、超短パルスレーザ11からの光であり、ビーム径が小さいことを考慮したものである。この他、ガルバノミラーのようなスキャン機構を設け、ビームスキャンにより広い照射領域をカバーする場合もある。
【0050】
この実施形態では、対象物Sの吸収スペクトルを測定することを想定しており、したがって検出器72は、対象物Sからの透過光が入射する位置に設けられている。対象物Sを配置する透明な受け板74が設けられている。照射光学系71は上側から光照射するようになっており、検出器72は受け板74の下方に配置されている。
【0051】
演算手段73としては、この実施形態では汎用PCが使用されている。検出器72と演算手段73の間にはAD変換器75が設けられており、検出器72の出力はAD変換器75を介して演算手段73に入力される。
演算手段73は、プロセッサ731や記憶部(ハードディスク、メモリ等)732を備えている。記憶部732には、検出器72からの出力データを処理して吸収スペクトルを算出する測定プログラム733やその他の必要なプログラムがインストールされている。
【0052】
この実施形態においては、時間波長一意性を確保した伸長パルス光を照射する光源装置10を使用しているので、測定プログラム733もそれに応じて最適化されている。
図9は、分光測定装置が備える測定プログラム733の一例について主要部を概略的に示した図である。
【0053】
図9の例は、測定プログラム733が吸収スペクトル(分光吸収率)を測定するプログラムの例となっている。吸収スペクトルの算出に際しては、基準スペクトルデータが使用される。基準スペクトルデータは、吸収スペクトルを算出するための基準となる波長毎の値である。基準スペクトルデータは、光源装置10からの光を対象物Sを経ない状態で検出器72に入射させることで取得する。即ち、対象物Sを経ないで光を検出器72に直接入射させ、検出器72の出力をAD変換器75経由で演算手段73に入力させ、時間分解能Δtごとの値を取得する。各値は、Δtごとの各時刻(t
1,t
2,t
3,・・・)の基準強度として記憶される(V
1,V
2,V
3,・・・)。時間分解能Δtとは、検出器72の応答速度(信号払い出し周期)によって決まる量であり、信号を出力する時間間隔を意味する。
【0054】
各時刻t1,t2,t3,・・・での基準強度V1,V2,V3,・・・は、対応する各波長λ1,λ2,λ3,・・・の強度(スペクトル)である。1パルス内の時刻t1,t2,t3,・・・と波長との関係が予め調べられており、各時刻の値V1,V2,V3,・・・が各λ1,λ2,λ3,・・・の値であると取り扱われる。
そして、対象物Sを経た光を検出器72に入射させた際、検出器72からの出力はAD変換器75を経て同様に各時刻t1,t2,t3,・・・の値(測定値)としてメモリに記憶される(v1,v2,v3,・・・)。各測定値は、基準スペクトルデータと比較され(v1/V1,v2/V2,v3/V3,・・・)、その結果が吸収スペクトルとなる(必要に応じて各逆数の対数を取る)。上記のような演算処理をするよう、測定プログラム733はプログラミングされている。
【0055】
次に、上記分光測定装置の動作について説明する。以下の説明は、分光測定方法の実施形態の説明でもある。実施形態の分光測定装置を使用して分光測定する場合、対象物Sを配置しない状態で光源装置10を動作させ、検出器72からの出力データを処理して予め基準スペクトルデータを取得する。その上で、対象物Sを受け板74に配置し、光源装置10を再び動作させる。そして、検出器72からの出力データをAD変換器75を介して演算手段73に入力し、測定プログラム733により分光スペクトルを算出する。
【0056】
上記の例では対象物Sからの透過光を利用する吸収スペクトルの測定であったが、対象物Sからの反射光を検出器72に入射させて反射スペクトル(分光反射率)を測定したり、対象物Sに照射された光により励起されて放出された蛍光を検出器72に入射させて蛍光スペクトルを測定したりする場合もある。さらには、対象物Sのレイリー散乱やラマン散乱などの散乱スペクトルについて分光特性を測定する場合もある。したがって、対象物Sからの光は、光照射された対象物Sからの透過光、反射光、蛍光、散乱光などであり得る。
尚、光源装置10の測定や検出器72の感度特性が経時的に変化する場合、基準スペクトルを取得する測定(対象物Sを配置しない状態での測定)を行い、基準スペクトルを更新する校正作業が定期的に行われる。
【0057】
このような実施形態の分光測定装置及び分光測定方法によれば、パルス光源1からの光を時間的に分割して対象物Sに照射するので、回折格子の掃引のような時間を要する動作は不要であり、高速の分光測定が行える。そして、時間波長一意性を確保したパルス伸長を行う際、長さの異なる別々の伸長ファイバ41~4nで波長毎に伝送する構成を採用しているので、高い照度で対象物Sに光を照射する場合にも時間波長一意性が崩れることがない。このため、吸収の多い対象物Sについての分光測定のようにハイパワーの光を照射する必要のある分光測定を高精度に行うことができ、高速且つ高信頼性の分光測定装置及び分光測定方法となる。
【0058】
次に、第二の実施形態の分光測定装置及び分光測定方法について説明する。
図10は、第二の実施形態の分光測定装置の概略図である。
図10に示すように、第二の実施形態の分光測定装置では、光源装置10からの出射光を分岐させる分岐素子76が設けられている。分岐素子76としては、この実施形態では、ビームスプリッタが使用されている。
分岐素子76は、光源装置10からの光路を、測定用光路と参照用光路に分割するものである。測定用光路には、第一の実施形態と同様、受け板74が配置され、受け板74上の対象物Sを透過した光を受光する位置に測定用検出器72が配置されている。
【0059】
参照用光路上には、参照用検出器702が配置されている。参照用検出器702には、分岐素子76で分岐して参照用光路を進む光がそのまま入射するようになっている。この光(参照光)は、対象物Sを経ることなく検出器702に入射させ、基準スペクトルデータをリアルタイムで得るための光である。
【0060】
測定用検出器72及び参照用検出器702は、それぞれAD変換器75,705を介して演算手段73に接続されている。演算手段73内の測定プログラム733は、リアルタイムの基準強度スペクトル参照を行うようプログラミングされている。即ち、測定用検出器72からは各時刻t1,t2,t3,・・・での測定値v1,v2,v3,・・・が入力され、参照用検出器72からは、同時刻である各時刻t1,t2,t3,・・・での基準強度V1,V2,V3,・・・(基準スペクトルデータ)が入力される。測定プログラム733は、予め調べられている1パルス内の時刻t1,t2,t3,・・・と波長λ1,λ2,λ3,・・・との関に従い、v1/V1,v2/V2,v3/V3,・・・を算出し、吸収スペクトルとする。反射スペクトルや散乱スペクトルを測定する場合も、リアルタイムで取得される基準スペクトルデータにより同様に行える。
第二の実施形態の分光測定装置を使用した第二の実施形態の分光測定方法では、リアルタイムで基準スペクトルデータが取得されるので、定期的な基準スペクトルデータの取得は行われない。この点を除き、第一の実施形態と同様である。
【0061】
第二の実施形態の分光測定装置及び分光測定方法によれば、基準スペクトルデータを別途取得することが不要なので、測定作業全体の能率が高くなる。また、第一の実施形態において、光源装置10の特性や検出器72の特性が変化し易い場合には校正作業を頻繁に行う必要があるが、第二の実施形態では不要である。光源装置10の特性や検出器72の特性が変化しなくても、測定環境が異なる場合(例えば温度条件やバックグラウンド光の条件等が異なる場合)、校正作業が必要な場合がある。第二の実施形態ではこのような場合にも校正作業は不要なので、測定の能率が高い。但し、第二の実施形態では、光源装置10からの光束を二つに分割しているので、その分だけ対象物Sに照射できる光束は低下する。したがって、より高い強度で対象物Sを照射して測定する必要がある場合には、第一の実施形態の方が有利である。
【0062】
光測定用光源装置の用途として、上述した分光測定以外にも、各種の光測定が挙げられる。例えば、顕微鏡のように対象物に光照射して観察する用途も光測定の一種であると言えるし、光照射して距離を計測するような場合も光測定の一種であるといえる。本願発明の光測定用光源装置は、このような各種の光測定に利用することができる。
尚、900~1300nmの波長範囲に含まれるある波長幅に亘って連続スペクトルであることは、材料分析等に特に有効な近赤外域での光測定用として好適なものにする意義がある。但し、分光測定はこの波長範囲以外も種々のものがあり、分光測定装置や分光測定方法としては、この波長範囲に限られるものではない。
【0063】
また、連続スペクトルの波長幅としては少なくとも10nmとしたが、これも一例であり、それよりも狭い波長幅で連続しているパルス光が使用される場合もある。例えば、大気成分の分析のように対象物がガスであり、そのうちの特定の成分(特定の吸収スペクトル)の測定だけを行えば良い場合、狭い波長幅で連続しているパルス光を使用する場合もある。
【符号の説明】
【0064】
1 パルス光源
10 光源装置
11 超短パルスレーザ
12 非線形素子
2 パルス伸長ユニット
3 分割器
41~4n 伸長ファイバ
4G1~4Gn ファイバ組
5 カプラ
61~6n マルチコアファイバ
71 照射光学系
72 検出器
73 演算手段
75 AD変換器
S 対象物