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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】エレベータ
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/06 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
B66B7/06 D
B66B7/06 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022115105
(22)【出願日】2022-07-19
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176016
【弁理士】
【氏名又は名称】森 優
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 悠児
(72)【発明者】
【氏名】金子 元樹
(72)【発明者】
【氏名】劉 紅軍
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-096890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごと釣合おもりとを含み、昇降路内において、第1端部が前記かごに第2端部が前記釣合おもりに連結されて垂下された釣合ロープの最下端部に巻き掛けられた釣合車が、前記釣合ロープで吊り下げられてなる構成を有するエレベータであって、
前記釣合車を上下方向に変位自在に案内する案内部材と、
前記案内部材に案内された前記釣合車が、前記釣合ロープで急激に引き上げられ前記昇降路底部から第1の高さまで変位すると作動を開始し、前記釣合車の上方への変位を制止するタイダウン装置と、
前記釣合車が、前記急激に引き上げられ前記昇降路底部から前記第1の高さよりも低い第2の高さまで変位すると前記釣合車に作用し始め、前記釣合車に加わる加速度を緩和する緩衝器と、
を備えることを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
前記案内部材は、前記昇降路の底部に立設された一対のガイドレールであり、
前記釣合車は、前記一対のガイドレール間に設けられ、前記タイダウン装置は、当該釣合車の上方に設けられており、
前記緩衝器が、前記一対のガイドレールの内の一方のガイドレールの、他方のガイドレールが存する側とは反対側の側方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記緩衝器は、油圧緩衝器、発泡ウレタン緩衝器、およびばね緩衝器のいずれか一つであることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータに関し、特に、ロープ式エレベータに設けられた釣合車の跳ね上がりを防止するタイダウン装置を備えたエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
巻上機の綱車に巻き掛けられた主ロープの一端にかごを、他端に釣合おもりをそれぞれ連結し、かごと釣合おもりとを主ロープでつるべ式に吊り下げてなるロープ式のエレベータにおいては、かご(釣合おもり)の昇降位置によって変動する、綱車とかごとの間の主ロープ部分の重量、および綱車と釣合おもりとの間の主ロープ部分の重量を補償するため、かごと釣合おもりとの間に釣合ロープを吊り下げている。
【0003】
また、釣合ロープに張力を与えて、その振れを抑制するため、釣合ロープ最下端の折返し部分に釣合車を巻き掛けている。釣合車は、昇降路底部に立設されたガイドレールに案内され、通常運転時における主ロープの伸縮、釣合ロープの伸縮等に追従してある程度上下方向に変位可能に設けられている。
【0004】
上記構成を有するエレベータにおいて、かごと釣合おもりのいずれか一方が何らかの原因で落下し、昇降路底部に設けられた緩衝器に衝突して急停止した場合、他方はその慣性で上昇し続けるため、釣合車は急激に引き上げられて跳ね上がる。この跳ね上がりを防止するため、タイダウン装置が設けられている(特許文献1)。
【0005】
タイダウン装置は、クサビ構造で上記ガイドレールを把持することにより、釣合車が跳ね上がらない構成となっており、構造的には、早ぎき式非常止め装置と同様である。タイダウン装置は、釣合車が上記のように引き上げられると釣合車と一体となって引上げられ、上記ガイドレールに固定された作動子によってクサビが相対的に下方へ押し下げられることにより作動する。
【0006】
また、クサビによる制動力だけでは、釣合車の跳ね上がりを止めることができない場合、上記作動子がストッパとなって、釣合車の上方への変位を阻止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000―118913号公報
【文献】特許第6444520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、タイダウン装置が作動する際、当該タイダウン装置および釣合車には、相当大きな衝撃力が作用する。このため、上記作動子はもとより作動子が固定されたガイドレール、あるいは、釣合いロープとかごまたは釣合おもりを連結するヒッチ等の関連する部材の強度を相当に高くする必要、すなわち、当該関連する部材を大きくする必要がある。
【0009】
本発明は、上記した課題に鑑み、上記関連する部材の大型化を可能な限り抑制することができるエレベータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明に係るエレベータは、かごと釣合おもりとを含み、昇降路内において、第1端部が前記かごに第2端部が前記釣合おもりに連結されて垂下された釣合ロープの最下端部に巻き掛けられた釣合車が、前記釣合ロープで吊り下げられてなる構成を有するエレベータであって、前記釣合車を上下方向に変位自在に案内する案内部材と、前記案内部材に案内された前記釣合車が、前記釣合ロープで急激に引き上げられ前記昇降路底部から第1の高さまで変位すると作動を開始し、前記釣合車の上方への変位を制止するタイダウン装置と、前記釣合車が、前記急激に引き上げられ前記昇降路底部から前記第1の高さよりも低い第2の高さまで変位すると前記釣合車に作用し始め、前記釣合車に加わる加速度を緩和する緩衝器と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、前記案内部材は、前記昇降路の底部に立設された一対のガイドレールであり、前記釣合車は、前記一対のガイドレール間に設けられ、前記タイダウン装置は、当該釣合車の上方に設けられており、前記緩衝器が、前記一対のガイドレールの内の一方のガイドレールの、他方のガイドレールが存する側とは反対側の側方に設けられていることを特徴とする。
【0012】
さらに、前記緩衝器は、油圧緩衝器、発泡ウレタン緩衝器、およびばね緩衝器のいずれか一つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成を有する本発明に係るエレベータによれば、上記釣合車が上記釣合ロープで急激に引き上げられたとき、上記緩衝器によって、上記タイダウン装置の作動開始前に上記釣合車に加わる加速度が緩和される。すなわち、上記タイダウン装置が作動する際に上記タイダウン装置および釣合車に加わる衝撃力が低減される。これにより、上記緩衝器を有しない従来と比較して、上記衝撃力を受ける、例えば、上述したような関連する部材の強度を低くすることができる。その結果、当該関連する部材の大型化を可能な限り抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に係るエレベータの概略構成を示す正面図である。
図2】上記エレベータの概略構成を示す右側面図である。
図3】釣合車ユニットおよびその近傍の拡大正面図である。
図4】(a)は、釣合車ユニットおよびその近傍の拡大側面図であり、(b)は、(a)の一部をさらに拡大した図である。
図5】タイダウン装置を釣合車ユニットで支持するための支持ユニットの構成および動作を説明するための図である。
図6】釣合おもりが釣合おもり用緩衝器に衝突した後の時間経過に対する、(a)はかご位置の変化を、(b)はかご速度の変化を、(c)はかご加速度の変化をコンピュータシミュレーションによりそれぞれ解析した結果を示すグラフである。
図7】(a)は、上記シミュレーションにおいて設定したダンパの減衰力の特性を示すグラフであり、(b)は、上記シミュレーションにおいて、時間経過に対するタイダウン装置に掛かる衝撃力変化を解析した結果を示すグラフである。
図8】実施形態2に係るエレベータの釣合車ユニットおよびその近傍の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るエレベータの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、構成要素間の尺度は必ずしも統一していない。
【0016】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係るエレベータ10が収納された昇降路12内を乗り場(不図示)側から見た正面図である。図2は、エレベータ10の右側面図である。
【0017】
図1図2に示すように、エレベータ10は、駆動方式としてトラクション方式を採用したロープ式エレベータである。昇降路12の最上部よりも上に機械室14が設けられている。機械室14には、巻上機16とそらせ車18が設置されている。巻上機18を構成する綱車20とそらせ車18には、複数本のロープで構成された主ロープ22が巻き掛けられている。なお、主ロープ22を構成するロープの本数は、複数本に限らず、1本でも構わない。
【0018】
主ロープ22の一端部にはかご24が連結されており、他端部には釣合いおもり26が連結されていて、かご24と釣合おもり26とが主ロープ22でつるべ式に吊り下げられている。
【0019】
昇降路12の底部(ピット)には、釣合車ユニット28が設置されている。釣合車ユニット28は、一対の釣合車30(以下、一対の釣合車30を単に「釣合車30」と称する場合がある。)を有する。釣合車30には、複数本のロープで構成された釣合ロープ32が巻き掛けられている。釣合ロープ32は、釣合車30に巻き掛けられて上方へ折り返され、第1端部がかご24に連結され、第2端部が釣合おもり26に連結されて垂下されている。換言すると、第1端部がかご24に第2端部が釣合おもり26に連結されて垂下された釣合ロープ32の最下端部に巻き掛けられた釣合車30が、釣合ロープ32で吊り下げられてなる構成となっている。
【0020】
釣合車ユニット28の上方には、タイダウン装置34が設けられている。釣合車ユニット28とタイダウン装置34の詳細については後述する。
【0021】
上記の構成を有するエレベータ10において、不図示の巻上機モータにより綱車20が正転または逆転されると、綱車20に巻き掛けられた主ロープ22が走行し、主ロープ22で吊り下げられたかご24と釣合おもり26が互いに反対向きに昇降する。また、これに伴って、かご24と釣合おもり26との間に垂下された釣合ロープ32は、釣合車30において折り返し走行する。
【0022】
上記のように昇降するかご24と釣合おもり26であるが、何らかの原因で、かご24が最上階を超えて上昇し過ぎた場合、または、かご26が落下した場合に備えて、釣合おもり用緩衝器36とかご用緩衝器38(いずれも公知)が、昇降路12のピットに設置されている。
【0023】
図3に釣合車ユニット28等の拡大正面図を、図4(a)に同拡大側面図を示す。図4(b)に、図4(a)の一部拡大図を示す。なお、図3図4(a)では釣合おもり用緩衝器36とかご用緩衝器38の図示を省略し、図3ではさらに釣合ロープ32の図示を省略している。また、後述するガイドレール40、42に関し、図4(a)では、その一部を、図4(b)ではその全部を二点鎖線の想像線で描いている。
【0024】
昇降路12のピットには、釣合車ユニット18を、後述するように上下方向に案内する2本のガイドレール40、42が立設されている。
【0025】
釣合車ユニット28は、天板46と2枚の側板48、50が、図3に示すように、下方に開口された「コ」字形に接合されてなるフレーム44を有する。釣合車30の各々は、2枚の側板48、50間に取り付けられた2本のシャフト52にそれぞれ回転自在に軸支され、フレーム44内に収納されている。
【0026】
側板48には、一対のガイドシュー54が、側板50には、一対のガイドシュー56がそれぞれ取り付けられている。フレーム44、ひいては釣合車30は、ガイドシュー54、56を介して、ガイドレール40、42に案内される。すなわち、ガイドレール40、42は、釣合車30を上下方向に変位自在に案内する案内部材として機能する。
【0027】
上記のように構成された釣合車ユニット28の上方には、タイダウン装置34が設けられている。タイダウン装置34は、クサビ構造でガイドレール40、42を把持することにより、釣合車30が跳ね上がらない構成を有する一般的な装置なので、詳細な説明は省略し、極簡単に説明するに止める。
【0028】
タイダウン装置34は、2本の溝形鋼58、60を有する。溝形鋼58、60は、図3に示すように、ガイドレール40、42間に、図4(b)に示すように、底部を対向させた姿勢で平行に配されている。
【0029】
溝形鋼58、60のガイドレール40側端部にはクサビユニット62が固定され、ガイドレール42側端部にはクサビユニット64が固定されている。クサビユニット62とクサビユニット64は、同様の構成なので、クサビユニット64を代表に説明することとする。
【0030】
クサビユニット64は、クサビ65を有する。クサビユニット64は、また、ガイドレール42の一部を介してクサビ65に対向するブロック68を有する。クサビユニット64上方には、作動子72がガイドレール42に固定されている。クサビユニット64が、後述するように上方へ変位すると、作動子72の下端72Aが、クサビ65の上端65Aを相対的に押し下げることにより、クサビ65がガイドレール42の一部に接触した後、くさびの効果によりクサビ65とブロック68で、ガイドレール42の一部を強く把持する構成となっている。なお、クサビユニット62はクサビ63を有し、これに対応する作動子70がガイドレール40に固定されている(図3)。
【0031】
タイダウン装置34は、釣合ロープ32で吊り下げられた釣合車ユニット28に、支持ユニット74を介して支持されている。支持ユニット74について、図5を参照しながら説明する。
【0032】
図5は、図3に示す支持ユニット74およびその近傍を拡大し、一部を切断した図である。なお、図5では、溝形鋼58の図示を省略している。
【0033】
支持ユニット74は、支持シャフト76を有する。支持シャフト76は、フランジ部76a、フランジ部76aに一体的に立設された、太径部76bと細径部76cとからなる段付シャフト部を含む。支持ユニット74は、フランジ部76aが、不図示のボルトによって、天板46に固定されている。
【0034】
支持ユニット74は、扁平な中空円柱状をしたクッション部材78を有する。クッション部材78は、合成ゴム等で形成されている。クッション部材78は、その中空部に、図5に示すように、支持シャフト76の太径部76bが挿入されてフランジ76aに載置されている。
【0035】
支持ユニット76は、溝形鋼58(図4)の下端部と溝形鋼60の下端部と間に掛け渡されたガイドプレート80を有する。ガイドプレート80は、溝形鋼58と溝形鋼60に溶接(不図示)によって接合されている。
【0036】
ガイドプレート80は、支持シャフト76の太径部76bの径との関係で、すきまばめの大きさとなる径の貫通孔80aを有する。貫通孔80aに太径部76bが挿入されている。
【0037】
支持ユニット76は、中央に貫通孔が開設されたばね座プレート82を有する。前記貫通孔は、細径部76cは通すが、太径部76bは通さない大きさの径を有する。ばね座ユニット82は、図5に示すように、前記貫通孔に細径部76cが挿入されて、支持シャフト76に取り付けられている。
【0038】
支持ユニット76は、溝形鋼58(図4)の上端部と溝形鋼60の上端部と間に掛け渡された当接プレート84を有する。当接プレート84は、溝形鋼58と溝形鋼60に、4本のボルト86よって接合されている。
【0039】
溝形鋼58の底部と溝形鋼60の底部が対向する空間において、ばね座プレート82と当接プレート84の間には、支持ばね88が設けられている。支持ばね88には、圧縮コイルばねが用いられる。支持ばね88は、その下端部がばね座プレート82に溶接(不図示)により固定されている。
【0040】
支持ばね88は、自由長から圧縮された状態で、ばね座プレート84と当接プレート84間にセットされており、釣合車ユニット28が静止している状態では、ばね座プレート82をガイドプレート80に押圧するだけの大きさの復元力を有している。以上の説明から理解できるように、釣合ロープ32で吊り下げられている釣合車ユニット28が、支持ユニット74(の支持ばね88)を介して、タイダウン装置34の荷重を受ける構成となっている。
【0041】
上記の復元力を有する支持ばね88であるが、下記(a)、(b)に記す場合に、適宜、収縮・伸長するようなバネ定数に設定されている。
【0042】
(a)上述したように、釣合車ユニット28は、通常運転時における主ロープの伸縮、釣合ロープの伸縮等に追従してある程度上下方向に変位する。また、地震発生時や保守点検においてかご24を手動運転するときにも釣合車ユニット28は、小さく上下方向に変位することがある。
【0043】
釣合車ユニット28の上記のような変位では、クッション部材78がガイドプレート80へ当接に至らない範囲で、支持ばね88が適度に収縮・伸長するような大きさに、支持ばね88のバネ定数が設定されている。
【0044】
(b)また、上述したように、かご24と釣合おもり26のいずれか一方が何らかの原因で落下し、昇降路12のピットに設けられた釣合おもり用緩衝器36またはかご用緩衝器38に衝突して急停止した場合、他方はその慣性で上昇し続けるため、釣合車30、ひいては釣合車ユニット28全体が急激に引き上げられる。
【0045】
釣合車ユニット28が上記のように急激に引き上げられ場合、クッション部材78がガイドプレート80に突き当たるまで収縮するような大きさに、支持ばね88のバネ定数が設定されている。
【0046】
上記の構成を有する支持ユニット74で釣合車ユニット28に連結支持されたタイダウン装置34は、エレベータ10の通常運転時に主ロープ22や釣合ロープが伸縮等して、釣合車ユニット28が上下方向に変位しても、当該上下方向の変位は、支持ばね88の収縮・伸長によって吸収されるため、ほとんど変位しない(図5(b)に示す矢印)。これにより、タイダウン装置34が、不用意に作動することが防止できる。
【0047】
釣合車ユニット28が上記のように急激に引き上げられると、釣合車ユニット28に押し上げられてタイダウン装置34も共に引き上げられ(図5(c)に示す矢印)、最終的には、作動子70、72各々が、クサビ63、65をそれぞれ相対的に押し下げて、タイダウン装置34が作動する。これにより、釣合車ユニット28のそれ以上の跳ね上がりが防止できる。
【0048】
実施形態1では、タイダウン装置34が作動する際のタイダウン装置34および釣合車ユニット28に加わる衝撃力を緩和するため、図3図4に示すように、油圧緩衝器である油圧ダンパ90が設けられている。油圧ダンパ90は、直動式ピストン型であり、シリンダ部92とロッド94を有する。
【0049】
ガイドレール40、42の上端部間に、2本の等辺山形鋼96、98が、4組のボルト・ナット100で固定されている。油圧ダンパ90はロッド94を下向きにした姿勢で、図3図4に示すように、等辺山形鋼96、98に、その長さ方向中央部で、シリンダ部92のフランジ部92aが4組のボルト・ナット102で固定されている。
【0050】
油圧ダンパ90は、釣合車ユニット28と共に引き上げられるタイダウン装置34に設けられた当接プレート84の上面にロッド94の下端が当接し、ロッド94がシリンダ部92に対し進退する間、減衰作用を発揮する。本例では、ロッド94がシリンダ部92内へ後退する間作動し、これにより、タイダウン装置34ひいては釣合車ユニット28(釣合車30)に作用して、これらに加わる加速度を緩和する。
【0051】
油圧ダンパ90は、タイダウン装置34が作動し始めるよりも前に、作動を開始する位置に設けられている。すなわち、油圧ダンパ90は、クサビ63、65に作動子70、72が当接するよりも前に、ロッド94の下端が当接プレート84の上面に当接するような位置に設けられている。
【0052】
換言すると、タイダウン装置34と釣合車30(釣合車ユニット28)とは、下記のような位置関係に設けられている。かご24と釣合おもり26のいずれか一方が何らかの原因で落下し、昇降路12のピットに設けられた釣合おもり用緩衝器36またはかご用緩衝器38に衝突して急停止した場合、他方はその慣性で上昇し続けるため、釣合車30(ひいては釣合車ユニット28全体)が急激に引き上げられる。このように、釣合車30が釣合ロープ32で急激に引き上げられ昇降路12底部(底面)から第1の高さまで変位すると、タイダウン装置34は、作動を開始し、釣合車30の上方への変位を規制するよう設けられている。
【0053】
一方、油圧ダンパ90は、上記のように釣合車30が釣合ロープ32で急激に引き上げられ昇降路12底部(底面)から上記第1の高さよりも低い第2の高さまで変位すると釣合車30に作用し始め、釣合車30に加わる加速度を緩和するよう設けられている。
【0054】
なお、上記第1の高さと上記第2の高さは、上記のように釣合車30が釣合ロープ32で急激に引き上げられた際の、タイダウン装置34の作動開始タイミングと油圧ダンパ90による減衰力の釣合車30への作用開始タイミングとを相対比較するためのものであり、絶対的な高さを意味するものではない。よって、当該高さの基準は、昇降路12底部(底面)に限らず、任意である。
【0055】
上記の構成によれば、タイダウン装置34の作動開始前に、釣合車30に加わる加速度が緩和されることになる。すなわち、タイダウン装置34が作動する際にタイダウン装置34および釣合車30に加わる衝撃力が低減されることとなる。これにより、作動子70、72や作動子70、72が固定されたガイドレール40、42の強度を、油圧ダンパ90を設けない場合と比較して低くすることができる。その結果、作動子70、72やガイドレール40、42の大型化を抑制することができる。
【0056】
また、実施形態に係るエレベータ10によれば、釣合おもり26が落下し、釣合おもり用緩衝器36に衝突して急停止した場合に、かご24に働く加速度(減速度)も抑制される。このことを、コンピュータを用いたシミュレーションにより検証した。上述したタイダウン装置34に加わる衝撃力の低減と併せて、解析結果を図6図7のグラフに基いて説明する。
【0057】
先ず、解析モデルおよび解析の前提条件について説明する。基本的には、図1図2に示した実施形態の構成を解析モデルとした。但し、実施形態では、釣合車30(釣合車ユニット28)が一定の距離上方へ変位すると、油圧ダンパ90の下端が当接プレート84に当接する構成であったが、解析モデルでは、油圧ダンパの下端が当接プレートの当接した状態(但し、油圧ダンパは無作動)を初期状態として設定している。また、各種の条件は以下の設定とした。
【0058】
釣合おもりの釣合おもり用緩衝器への衝突時の速度:276[m/min]
かご重量:4700[kg]
釣合おもり重量:5400[kg]
釣合車重量:330[kg]
油圧ダンパのストローク:90[mm]
タイダウン装置が作動開始するまで(作動子がクサビに当接するまで)の釣合車の上方への変位量:90[mm]
油圧ダンパについて設定した減衰力については後述する。
【0059】
上記の条件の下に、油圧ダンパを設けない従来の場合と油圧ダンパを設けた本実施形態の場合とで、解析を行った。図6図7に示す各々のグラフは、横軸に時間を採ったものである。解析モデルでは、0[sec]~1[sec]の間、かごを等速で上昇させ(図6(b))、1[sec]の時点で、釣合おもりを釣合おもり用緩衝器に衝突させた。図6図7(b)では、従来の解析結果を破線で、実施形態の解析結果を実線で示している。
【0060】
油圧ダンパは、図7(a)に示す減衰力を有するものとした。図7(a)は、縦軸に油圧ダンパが発揮する減衰力を採ったグラフである。減衰力は、上向きの作用を正、下向きの作用を負としている。油圧ダンパは、図7(a)に示すように、立ち上がり時間0.1[sec]で30[kN]の減衰力を発揮するものとした。なお、1.5[sec]で、減衰力が0[N]になっているのは、タイダウン装置が作動した結果、当該タイダウン装置(当接プレート)の上方への変位がこの時点で停止するからである。
【0061】
先ず、図6図7(b)に基いて、従来(破線)の解析結果について考察する。釣合おもりが釣合おもり用緩衝器に衝突(1[sec])直後の僅かの間、かごは等速で上昇し続けるが(図6(b))、釣合おもりが急停止することによって、かごはその慣性で上昇しようするところ釣合ロープで下方へ引っ張られて加速度が加わる結果(図6(c))、徐々に速度が低下する(図6(b))。
【0062】
一方、上昇し続けるかごによって、釣合車(釣合車ユニット)が上方へ引き上げられ、1.2[sec]の時点からタイダウン装置が作動し始める。作動後のタイダウン装置には、上昇し続けようとするかごから釣合ロープを介して衝撃力が加わる。なお、タイダウン装置作動後の図7(b)に示す衝撃力が波打っているのは、釣合ロープの弾性(伸縮)による。
【0063】
タイダウン装置の作動により、1.4[sec]あたりで、当該タイダウン装置および釣合車の変位が停止すると、タイダウン装置に加わる衝撃力が漸減する(図7(b))。
【0064】
次に、実施形態の解析結果について考察する。釣合おもりが釣合おもり用緩衝器に衝突(1[sec])直後の僅かの間、かごは等速で上昇し続けるが(図6(b))、釣合おもりが急停止することによって、かごはその慣性で上昇しようするところ釣合ロープで下方へ引っ張られて加速度が加わる結果(図6(c))、徐々に速度が低下する(図6(b))のは、従来と同様である。
【0065】
そして、上昇し続けるかごによって、上方へ引き上げられる釣合車(釣合車ユニット)がタイダウン装置を押し上げるが、当該タイダウン装置の作動開始前に、油圧ダンパは作用し始めている(1[sec]直後から)。
【0066】
油圧ダンパの減衰力によって、タイダウン装置の上昇スピードが鈍化するため、従来(1.2[sec])よりも遅れて、タイダウン装置が作動し始める(1.2[sec]を少し超えたあたり(図7(b))。タイダウン装置の作動により、1.5[sec]あたりで、当該タイダウン装置および釣合車の変位が停止すると、タイダウン装置に加わる衝撃力が漸減する(図7(b))。
【0067】
図7(b)に示す解析結果より、タイダウン装置に掛かる衝撃力は、油圧ダンパを備えることで低減されることが検証された。具体的なデータは省略するが、最大値比較で約4000[N]低減されることが分かった。
【0068】
図6(c)に示す解析結果より、かごに働く加速度(減速度)も、油圧ダンパを備えることにより低減されることが検証された。油圧ダンパを備えない従来の場合、加速度は-2[G]を超えている。これに対し、油圧ダンパを備えることで、-2[G]よりも小さくなっている。これにより、実施形態の場合、従来よりも、かご内の乗客の安全性を一層確保することができることとなる。
【0069】
なお、油圧ダンパ90の上記した効果が発揮されるのは、かご14または釣合おもり26がかご用緩衝器38または釣合おもり用緩衝器36に衝突した場合に限らない。油圧ダンパ90の上記した効果は、かご14に設けられた非常止め装置(不図示)または釣合おもり26に設けられた非常止め装置(不図示)が作動して、かご14または釣合おもり26が下降中に急停止して、慣性で跳ね上がる釣合おもり26またはかご14によって釣合車30(釣合車ユニット28)が、急激に引き上げられた場合にも発揮される。
【0070】
ここで、釣合車ユニット28に直接または間接的に油圧ダンパ90のロッド94を常時接続することも考えられる。こうすることによっても、釣合車30(釣合車ユニット28)が急激に引き上げられた場合、油圧ダンパ90の減衰力が釣合車30に作用するからである。しかしながら、油圧ダンパ90のロッド94を常時、釣合車ユニット28に接続するのは、以下の理由から好ましくない。
【0071】
釣合車ユニット28は、上述したように、通常運転時における主ロープの伸縮、釣合ロープの伸縮等に追従してある程度上下方向に変位するが、油圧ダンパ90のロッド28を常時接続すると、油圧ダンパ90の減衰力(本例では、作動オイルの粘性力)が負荷となって、通常運転中、常に、釣合ロープ32や釣合ロープ32をかご24や釣合おもり26に連結しているヒッチ(不図示)に掛かるからである。
【0072】
そこで、本実施形態では、通常運転時には、減衰力は作用せず、釣合車30(釣合車ユニット28)が、通常運転時の上下方向の変位の範囲を超え、急激に引き上げられた緊急時のみ(急激に引き上げられて初めて)、減衰力が作用するよう油圧ダンパ90を設けているのである。
【0073】
<実施形態2>
図8は、実施形態2に掛かるエレベータの釣合車30およびその近傍を示す拡大正面図であり、図3に倣って描いた図である。図8でも、釣合ロープ32の図示は省略している。実施形態2に係るエレベータは、実施形態1のエレベータ10とは、主として、油圧ダンパの取付け態様が異なる以外、基本的に同じ構成である。よって、図8において、実施形態1と同様の構成要素には同じ符号を付して、その説明は省略するか適宜言及するに止め、以下、異なる部分を中心に説明することとする。
【0074】
実施形態1では、釣合車30(釣合車ユニット28)に、タイダウン装置34を介して、油圧ダンパが発揮する減衰力を作用させたが、実施形態2では、油圧ダンパが発揮する減衰力を直接的に釣合車30(釣合車ユニット28)に作用させる構成とした。
【0075】
図8に示すように、フレーム44の天板46上面に当接プレート202が固定されている。当接プレート202は、クッション部材78、支持シャフト76等と干渉しないよう中空部を有する金属平板である。
【0076】
当接プレート202の両端部部分各々の上方には、油圧ダンパ204、210が設けられている。油圧ダンパ204、210の各々は、油圧ダンパ90(図3)と同様、シリンダ206、212とロッド208、214を有する。油圧ダンパ204、210の各々は、リブ216、218で補強された等辺山形鋼220、222を介して、ガイドレール40、42にそれぞれ固定されている。なお、油圧ダンパ204と油圧ダンパ210は、油圧ダンパ90と同種のものであるが、実施形態2では、2台用いるため、実施形態1の油圧ダンパ90よりも小型である。
【0077】
油圧ダンパ204、210は、タイダウン装置34よりも前に作動を開始するような上下方向の位置に設けられている。釣合車30(釣合車ユニット28)が引き上げられると、クッション部材78がガイドプレート80に当接した後、タイダウン装置34も引き上げられる。そして、上方へ変位するクサビ63、65が作動子70、72に当接するとタイダウン装置34が作動し始める。油圧ダンパ204、210の各々は、クサビ63、65が作動子70、72に当接する前にロッド208、214の下端が当接プレート202の上面に当接するような上下方向の位置に設けられている。
【0078】
すなわち、タイダウン装置34は、釣合車30(釣合車ユニット28)が、釣合ロープ32で急激に引き上げられ昇降路12底部(底面)から第1の高さ以上に変位すると作動を開始し、釣合車30の上方への変位を制止するのに対し、油圧ダンパ204、210は、釣合車30(釣合車ユニット28)が、釣合ロープ32で急激に引き上げられ昇降路12底部(底面)から上記第1の高さよりも低い第2の高さまで変位すると釣合車30に作用し始め、釣合車30に加わる加速度を緩和する位置に設けられているのである。
【0079】
上記の構成を有する実施形態2によれば実施形態1と同様の効果が奏される。すなわち、タイダウン装置34が作動する際にタイダウン装置34および釣合車30に加わる衝撃力が低減されることとなり、その結果、作動子70、72やガイドレール40、42の大型化を抑制することができる。また、かご24に働く加速度も、油圧ダンパ204、210を設けない場合と比較して低減され、これにより、従来よりも、かご内の乗客の安全性を一層確保することができることとなる。
【0080】
実施形態2は、実施形態1と比較して、さらに、以下の効果を有する。実施形態1では、油圧ダンパ90をタイダウン装置34の上方に設け、ガイドレール40、42に固定した。このため、油圧ダンパ90を備えない従来と比較して、ガイドレール40、42を長くせざるを得なかった。このため、従来よりも、昇降路12のピットを深くする必要があった。
【0081】
これに対し、実施形態2では、油圧ダンパ204を一対のガイドレール224、226の内の一方のガイドレール224の、他方のガイドレール226が存する側とは反対側の側方に設けた。また、油圧ダンパ210を一対のガイドレール224、226の内の一方のガイドレール226の、他方のガイドレール224が存する側とは反対側の側方に設けた。
【0082】
これにより、図8に示すように、油圧ダンパ204、210の各々を、それぞれ、ガイドレール224、226を挟んでタイダウン装置34の側方に設けることが可能となる。その結果、実施形態2のガイドレール224、226は、実施形態1の付ガイドレール40、42を短縮したものとすることができる。このため、ピットも実施形態1より浅くすることができる。
【0083】
以上、本発明に係るエレベータを実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下の形態とすることもできる。
(1)上記実施形態1、2では、釣合車ユニット28を二つの釣合車30で構成したが、釣合車ユニットは一つの釣合車で構成しても構わない。すなわち、釣合ロープに吊り下げる釣合車は二つに限らず一つとしても構わない。
【0084】
(2)上記実施形態1、2では、釣合車30に加わる加速度を緩和する緩衝器として油圧緩衝器である油圧ダンパ90、204、210を用いたが、これに限らず、ばね緩衝器、発泡ウレタン緩衝器、摩擦緩衝器、ゴム緩衝器、空気緩衝器などを用いても構わない。ここに列挙した緩衝器は、いずれも公知のものなので、その説明については省略する。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の係るエレベータは、タイダウン装置を備えたエレベータに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0086】
10 エレベータ
24 かご
26 釣合おもり
30 釣合車
32 釣合ロープ
34 タイダウン装置
40、42 ガイドレール
90 油圧ダンパ
【要約】
【課題】タイダウン装置が作動する際に衝撃を受ける関連部材の大型化を可能な限り抑制することが可能なエレベータを提供する。
【解決手段】エレベータを、釣合車30を上下方向に変位自在に案内する案内部材であるガイドレール40、42と、ガイドレール40、42に案内された釣合車30が、釣合ロープで急激に引き上げられ昇降路底部から第1の高さ以上に変位すると作動を開始し、釣合車30の上方への変位を制止するタイダウン装置34と、釣合車30が、前記急激に引き上げられ前記昇降路底部から前記第1の高さよりも低い第2の高さまで変位すると釣合車30に作用し始め、釣合車30に加わる加速度を緩和する緩衝器である油圧ダンパ90と、を備える構成とした。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8