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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 29/00 20060101AFI20231219BHJP
   H02P 3/18 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B66B29/00 H
H02P3/18 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022125585
(22)【出願日】2022-08-05
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 康司
(72)【発明者】
【氏名】綿引 司
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐二
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 哲也
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-198657(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225247(WO,A1)
【文献】特開2004-274991(JP,A)
【文献】特開平11-308894(JP,A)
【文献】特開2020-179957(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0229968(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 29/00
H02P 3/00-3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結された複数の踏み段と、
記複数の踏み段を循環駆動する電動機と、
前記電動機と一対一で対応し、交流電源から第1交流電力が入力され、前記電動機を駆動する第2交流電力を発生させるインバーターと、を具え、
前記インバーターは、
前記第1交流電力を直流電力に変換するコンバーター部と、
前記直流電力を平滑化するためのキャパシターと、
前記キャパシターにより平滑化された前記直流電力を前記第2交流電力に変換して前記電動機へ出力するインバーター部と、
前記コンバーター部及び前記インバーター部の作動制御を行なうインバーター制御部と、を具え、
前記インバーター制御部は、
前記キャパシターに充電された直流電力の電圧を計測する計測部と、
前記計測部により計測された電圧が第1基準値以下であるか否かを判定する第1判定部と、
記インバーター部に前記電動機を減速させる減速制御を実行する減速制御部と、
を有
前記電動機が利用者を第1階床から前記第1階床の上階床である第2階床へ搬送する方向に前記複数の踏み段を循環駆動している間に停電が発生したときに、前記第1判定部による判定結果が前記第1基準値以下であると、前記減速制御部は、前記インバーター部に前記電動機を減速させる減速制御を実行する、
ことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記キャパシターは、前記電動機において発生する回生電力により充電され、
前記減速制御部は、
前記減速制御を開始した後に前記計測部により計測される電圧に応じて前記減速制御を行なう期間の長さを制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記減速制御部は、
前記減速制御を開始した後に前記計測部により計測される電圧が、前記第1基準値以下であるか否かを判定する第2判定部と、
前記減速制御を開始した後に前記計測部により計測される電圧が、前記第1基準値よりも低い第2基準値以下であるか否かを判定する第3判定部と、
前記第2判定部による判定結果が否定である場合には、前記期間の長さを第1の値に設定し、
前記第2判定部による判定結果が肯定であり、且つ前記第3判定部による判定結果が否定である場合には、前記期間の長さを前記第1の値よりも小さい第2の値に設定し、
前記第2判定部による判定結果が肯定であり、且つ前記第3判定部による判定結果が肯定である場合には、前記インバーター部から前記電動機への前記第2交流電力の供給を遮断することにより前記減速制御を中止する、調整部と、を更に有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停電の発生から電動機の減速を開始するまで遅延を少なくすることのできる乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターや動く歩道などの乗客コンベアでは、動作電力の供給が停止する停電が発生した場合、ブレーキによる緊急停止が行なわれている。しかしながら、ブレーキによる緊急停止では、乗客が転んで怪我をすることが懸念される。そこで、乗客コンベアの運行中に停電が発生した場合には、ブレーキにより急停止させるのではなく、乗客コンベアを駆動する電動機の回生電力を利用したインバーター制御によって、乗客コンベアを緩やかに減速させて停止させる技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の乗客コンベアでは、電動機の他に、主回路部と、ブレーキ装置と、制御回路部と、蓄電装置と、を具える。主回路部には、電動機を駆動するインバーター部及びインバーター部を制御するインバーター制御部が含まれる。ブレーキ装置は、制御回路部による制御に応じて電動機を制動する。そして、停電の検出は制御回路部により行なわれ、停電を検出した制御回路部は、電動機を減速させるためのインバーター制御信号を主回路に出力する。電動機が減速する過程で発生する回生電力は抵抗等に供給されることによりジュール熱として廃棄されているが、制御回路部は、この回生電力をインバーター部に供給する制御も行なうようにしている。これにより、停電時には蓄電装置から制御回路部に動作電力が供給されるので、電動機を減速させるためのインバーターの制御を確実に実行できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6533548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、電動機を減速させるためのインバーター制御信号を乗客コンベアに搭乗している乗客数及び運行方向により定まる負荷に応じて生成すること、及び、回生電力を廃棄するか、電動機の減速に利用するかの切替えは、制御回路部において行なわれる。このため、停電の発生から電動機の減速が開始されるまでに遅延が発生してしまう。すなわち、停電の発生から電動機の減速が開始されるまでの間、インバーター部に充電された直流電力は電動機の通常駆動に浪費されるから、負荷の大きさによっては、回生電力を加味しても、電動機を十分に減速させる直流電力を確保できない虞があった。
【0006】
本発明の目的は、停電の発生から電動機の減速を開始するまでの遅延を少なくすることのできる乗客コンベアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る乗客コンベアは、
無端状に連結された複数の踏み段と、
前記複数の踏み段を駆動する電動機と、
交流電源から第1交流電力が入力され、前記電動機を駆動する第2交流電力を発生させるインバーターと、を具え、
前記インバーターは、
前記第1交流電力を直流電力に変換するコンバーター部と、
前記直流電力を平滑化するためのキャパシターと、
前記キャパシターにより平滑化された前記直流電力を前記第2交流電力に変換して前記電動機へ出力するインバーター部と、
前記コンバーター部及び前記インバーター部の作動制御を行なうインバーター制御部と、を具え、
前記インバーター制御部は、
前記キャパシターに充電された直流電力の電圧を計測する計測部と、
前記計測部により計測された電圧が第1基準値以下であるか否かを判定する第1判定部と、
前記第1判定部による判定結果が肯定である場合に、前記インバーター部に前記電動機を減速させる減速制御を実行する減速制御部と、を有する。
【0008】
前記キャパシターは、前記電動機において発生する回生電力により充電され、
前記減速制御部は、
前記減速制御を開始した後に前記計測部により計測される電圧に応じて前記減速制御を行なう期間の長さを制御する。
【0009】
前記減速制御部は、
前記減速制御を開始した後に前記計測部により計測される電圧が、前記第1基準値以下であるか否かを判定する第2判定部と、
前記減速制御を開始した後に前記計測部により計測される電圧が、前記第1基準値よりも低い第2基準値以下であるか否かを判定する第3判定部と、
前記第2判定部による判定結果が否定である場合には、前記期間の長さを第1の値に設定し、
前記第2判定部による判定結果が肯定であり、且つ前記第3判定部による判定結果が否定である場合には、前記期間の長さを前記第1の値よりも小さい第2の値に設定し、
前記第2判定部による判定結果が肯定であり、且つ前記第3判定部による判定結果が肯定である場合には、前記インバーター部から前記電動機への前記第2交流電力の供給を遮断することにより前記減速制御を中止する、調整部と、を更に有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乗客コンベアによれば、インバーターに配備されたキャパシターの電圧に基づいて、減速制御を行なうことができる。従って、停電発生から減速制御が開始されるまでの遅延を小さくすることができる、停電発生時にキャパシターに充電されていた直流電力が無駄な通常運行に浪費されることが回避され、当該直流電力を減速制御に有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態によるエスカレーターの概略説明図である。
図2図2は、エスカレーターの電気的構成を示す図である。
図3図3は、インバーター制御部の構成例を示す機能ブロック図である。
図4図4は、インバーター制御部が実行する制御方法の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、インバーター制御部が実行する制御方法における減速制御処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、本実施形態の効果を説明する図である。
図7図7は、本実施形態の効果を説明する図である。
図8図8は、本実施形態の効果を説明する図である。
図9図9は、本実施形態の効果を説明する図である。
図10図10は、本実施形態の効果を説明する図である。
図11図11は、本実施形態の効果を説明する図である。
図12図12は、本実施形態の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明を行なう。なお、実施形態中の数値等は例示であり、これらに限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態によるエスカレーター10の概略説明図である。エスカレーター10は、本発明における乗客コンベアの一例である。図1に示すように、エスカレーター10は、エスカレーター本体11、電動機20、インバーター30、制御装置40、及び、ブレーキ50を有する。
【0014】
エスカレーター本体11は、建物の階床F1と、その上階床F2との間に懸架された状態で設置される。階床F1、F2には、利用者が乗降する乗降口15,16が設けられる。乗降口15,16は、踏み段12及びハンドレール13の走行方向に応じて乗り口又は降り口となる。エスカレーター10の運行方向には、利用者を階床F1から階床F2へ搬送するUP運行方向と、利用者を階床F2から階床F1へ搬送するDOWN運行方向とがある。
【0015】
エスカレーター本体11は、無端状に連結された複数の踏み段12と、左右一対の無端状のハンドレール13と、を含む。踏み段12及びハンドレール13は、電動機20により循環駆動される。エスカレーター本体11は、電動機20が出力する駆動力を踏み段12及びハンドレール13に伝達する動力伝達機構と、踏み段12及びハンドレール13の運行方向(エスカレーター10の運行方向)及び運行速度(エスカレーター10の運行速度)、並びに電動機20の回転速度を検知する検知装置とを含むが、図1では、動力伝達機構及び検知装置の図示を省略している。
【0016】
電動機20は、例えば誘導電動機であって、インバーター30から供給される交流電力により駆動することができる。電動機20は、インバーター30から供給される交流電力の周波数に応じた回転速度で動作する。停電等の異常が発生してない通常の運行状態では、踏み段12及びハンドレール13の走行速度は、インバーター30から電動機20へ供給される交流電力の周波数に応じて定まる。
【0017】
インバーター30には、商用交流電源等の外部電源から交流電力(三相交流電力)が入力される。インバーター30は、外部電源から入力された交流電力の周波数を変換して電動機20に供給することにより、電動機20の回転速度を制御する。外部電源からインバーター30に入力される交流電力は、本発明における第1交流電力の一例である。また、インバーター30から電動機20へ供給される交流電力は、本発明における第2交流電力の一例である。
【0018】
制御装置40は、例えば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)を採用して構成することができる。図1では詳細な図示は省略しているが、制御装置40には、商用交流電源等の外部電源又は外部電源により充電される蓄電装置から動作電力が供給される。そして、外部電源の停電が発生していない通常状態では、外部電源から制御装置40へ動作電力が供給され、外部電源の停電時には蓄電装置から制御装置40へ動作電力が供給される。
【0019】
制御装置40は、エスカレーター10の運行を制御する。制御装置40には、駆動状態信号、停止指示信号が入力される。駆動状態信号は、エスカレーター10の運行速度及び運行方向、並びに電動機20の回転速度を示す信号であり、前述した検知装置から制御装置40へ出力される。停止指示信号は、踏み段12及びハンドレール13の走行を停止することを指示する信号であり、インバーター30、又は、異常検知を行なう安全監視装置から制御装置40へ出力される。なお、図1では、安全監視装置は図示していない。
【0020】
制御装置40は、駆動状態信号に基づいて、電動機20の回転方向及び回転速度を指定するインバーター制御信号をインバーター30に出力する。また、制御装置40は、停止指示信号を受信すると、ブレーキ50の締結を指示するブレーキ締結信号を生成してブレーキ50に出力する。
【0021】
ブレーキ50は、所謂メカブレーキであり、電動機20の駆動軸により回転駆動される回転部材と、ブレーキシューと、回転部材へのブレーキシューの圧接及び離反を行なわせる電磁ソレノイドと、電磁ソレノイドへの通電を制御するドライバーとを有する。なお、電磁ソレノイド及びドライバーには、制御装置40と同様に、通常状態では外部電源から動作電力が供給され、停電時には蓄電装置から動作電力が供給される。電磁ソレノイドは、非通電時に、ブレーキシューを回転部材に圧接させ、通電時に、ブレーキシューを回転部材から離隔させる。ドライバーは、制御装置40からブレーキ締結信号を受信していないときは電磁ソレノイドに通電し、制御装置40からブレーキ締結信号を受信したときは電磁ソレノイドへの通電を停止する。
【0022】
ドライバーがブレーキ締結信号を受信すると、電磁ソレノイドが非通電状態になってブレーキシューが回転部材に圧接され、ブレーキ50が締結状態となる。ブレーキ50が締結状態になると、電動機20の駆動力が動力伝達機構に伝達されなくなり、踏み段12及びハンドレール13の循環駆動が停止する。一方、ドライバーがブレーキ締結信号を受信していないときには、電磁ソレノイドが通電状態となってブレーキシューが回転部材から離隔し、ブレーキ50が解放状態となる。これにより、電動機20の駆動力が動力伝達機構に伝達され、踏み段12及びハンドレール13が循環駆動する。なお、ブレーキシューが回転部材に接触し始めて圧接が完了するまでには若干の遅延があるため、ブレーキ締結信号が出力されてから、踏み段12及びハンドレール13の循環駆動が完全に停止するまでには、その遅延に応じた若干量だけ踏み段12及びハンドレール13が走行する。
【0023】
図2は、エスカレーター10の電気的構成を示す図である。図2には、電動機20、インバーター30、制御装置40、ブレーキ50、及び、インバーター30へ交流電力を供給する交流電源PSが図示されており、検知装置、安全監視装置、及び、蓄電装置の図示は省略されている。図2に示すように、インバーター30は、コンバーター部31と、キャパシター32と、インバーター部33と、インバーター制御部34と、を具える。
【0024】
コンバーター部31には、交流電源PSから交流電力(三相交流電力)が入力される。コンバーター部31は、交流電源PSから入力される三相交流電力を直流電力に変換(交流から直流に変換)してインバーター部33側に出力する。コンバーター部31は、例えば、複数のトランジスタ等で構成される。コンバーター部31は、複数のトランジスタのON/OFFタイミングがインバーター制御部34により制御される。これにより、交流・直流変換が実現される。
【0025】
キャパシター32は、コンバーター部31とインバーター部33との間に設けられる。キャパシター32は、コンバーター部31から出力される直流電力を平滑化するとともに、この直流電力によって充電が行なわれる。また、キャパシター32は、回生電力の発生時にインバーター部33から出力される直流電力により充電が行なわれる。本実施形態におけるキャパシター32は、単一の電解コンデンサーで構成しているが、複数の電解コンデンサーにより構成することもできる。また、キャパシター32は、電解コンデンサー以外の容量素子によって構成しても構わない。
【0026】
インバーター部33には、キャパシター32により平滑化された直流電力が入力される。インバーター部33は、入力される直流電力を、電動機20の駆動に適した電圧及び周波数の三相交流電力に変換(直流から交流に変換)して電動機20に出力する。また、インバーター部33には、例えば電動機20を減速させる過程で電動機20から回生電力(三相交流電力)が入力される。インバーター部33は、電動機20側から入力された回生電力を直流電力に変換(交流から直流に変換)してコンバーター部31側に出力する。
【0027】
インバーター部33は、例えば、複数のトランジスタ等で構成される。インバーター部33に含まれる複数のトランジスタのON/OFFタイミングは、インバーター制御部34により制御される。これにより、上記の直流・交流変換、及び、交流・直流変換が実現される。
【0028】
インバーター制御部34は、コンバーター部31及びインバーター部33の作動制御を行なう。インバーター制御部34は、電動機20の駆動制御のための制御プログラムを記憶した記憶装置と、当該制御プログラムを実行するコンピュータとを含む。記憶装置には、制御プログラムを記憶したフラッシュROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリ、及び、制御プログラムを実行する際にワークエリアとして利用されるRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリが含まれる。コンピュータの具体例としては、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。なお、図2では、制御プログラム、記憶装置、及び、コンピュータは図示省略している。
【0029】
インバーター制御部34には、制御装置40と同様に、通常状態では外部電源から動作電力が供給され、停電時には蓄電装置から動作電力が供給される。インバーター制御部34では、例えば動作電力の供給開始を契機として上記コンピュータによる制御プログラムの実行が開始される。制御プログラムに従ってコンピュータが作動している状態では、インバーター制御部34は、制御装置40から与えられるインバーター制御信号とインバーター部33の出力トルクとに応じて、インバーター制御信号の示す回転方向及び回転速度で駆動する交流電力が電動機20に供給されるように、コンバーター部31に含まれる複数のトランジスタのON/OFFの制御、及び、インバーター部33に含まれる複数のトランジスタのON/OFFの制御を行なう。
【0030】
本実施形態では、制御プログラムに従ってインバーター制御部34のコンピュータが作動している状態では、インバーター制御部34は、キャパシター32に充電された直流電力の電圧が直流中間段電圧以下となった場合に、インバーター部33に電動機20を減速させる制御(以下、減速制御)を開始する。本実施形態では、通常状態(即ち、交流電源PSからコンバーター部31に交流電力が供給されている状態)では、キャパシター32に充電された直流電力の電圧は所定の電圧範囲内の値に維持される。直流中間段電圧とは、当該電圧範囲の下限値であり、インバーター30の仕様等に応じて定まる。本実施形態では、直流中間段電圧は235Vであるが、この値には限定されない。また、本実施形態において上記電圧範囲の上限値は280Vであるが、この値には限定されない。直流中間段電圧は本発明における第1基準値の一例である。キャパシター32に充電された直流電力の電圧が直流中間段電圧を下回るということは、交流電源PSからコンバーター部31への交流電力の供給が停止したこと、即ち交流電源PSの停電が発生したことを意味する。このように、本実施形態では、インバーター30の内部においてキャパシター32に充電された直流電力の電圧を監視することで交流電源PSの停電が検知され、減速制御が開始される。
【0031】
上記コンピュータが上記プログラムに従って作動している状態では、インバーター制御部34は、図3に示されるように、計測部341、第1判定部342、及び、減速制御部343として機能する。つまり、図3における計測部341、第1判定部342、及び、減速制御部343の各部は、コンピュータをプログラム(ソフトウェア)に従って作動させることにより実現されるソフトウェアモジュールである。計測部341、第1判定部342、及び、減速制御部343の各部が担う機能は次の通りである。
【0032】
計測部341は、キャパシター32に充電された直流電力の電圧を計測する。本実施形態では、キャパシター32は単一の容量素子で構成されているため、キャパシター32に充電された直流電力の電圧とは、キャパシター32の極板間電圧を意味する。キャパシター32に充電された直流電力の電圧の具体的な計測方法については既存技術が適宜流用されればよい。第1判定部342は、計測部341により計測された電圧が直流中間段電圧以下であるか否かを判定する。減速制御部343は、第1判定部342による判定結果が肯定である場合、即ち計測部341により計測された電圧が直流中間段電圧以下である場合に、減速制御を開始する。また、減速制御部343は、減速制御を開始した後に計測部341により計測される電圧に応じて減速制御を行なう期間の長さを制御する。
【0033】
より詳細には、減速制御部343は、図3に示されるように、第2判定部343a、第3判定部343b、調整部343c、及び、ブレーキ処理部343dを含む。第2判定部343aは、減速制御を開始した後に計測部341により計測される電圧が直流中間段電圧以上であるか否かを判定する。第3判定部343bは、減速制御を開始した後に計測部341により計測される電圧が、限界電圧未満であるか否かを判定する。限界電圧とは、キャパシター32に充電された直流電力の電圧が当該限界電圧を下回るとインバーター30による電動機20の駆動が困難となる電圧であり、前述の直流中間段電圧よりも低い電圧である。限界電圧も、直流中間段電圧と同様にインバーター30の仕様に応じて設定される。本実施形態における限界電圧は180Vである。限界電圧は本発明における第2基準値の一例である。
【0034】
調整部343cは、計測部341により計測される電圧が直流中間段電圧又は限界電圧に維持されるように、第2判定部343aによる判定結果、及び、第3判定部343bによる判定結果に基づいて、電動機20の減速制御を行なう期間の長さ及び電動機20の回転速度の減速量を調整しつつ、減速制御を実行する。なお、減速制御における減速量については、減速制御を行なう期間内に電動機20の回転速度が所定の閾値(本実施形態では、3m/分)以下となるように、インバーター部33の出力トルクに応じて設定される。また、減速制御を行なう期間の満了を待たずに電動機20の回転速度が3m/分以下となった場合、調整部343cは、減速制御を終了する。
【0035】
本実施形態では、調整部343cは、第2判定部343aによる判定結果が否定である場合には、減速制御を行なう期間の長さを第1の値(本実施形態では、1.6秒)に設定する。また、調整部343cは、第2判定部343aによる判定結果が肯定であり、且つ第3判定部343bによる判定結果が否定である場合には、減速制御を行なう期間の長さを第1の値よりも小さい第2の値(本実施形態では、1、6秒未満、且つ0.9秒以上の値)に設定する。そして、調整部343cは、第2判定部343aによる判定結果が肯定であり、且つ第3判定部343bによる判定結果も肯定である場合には、インバーター部33から電動機20への交流電力の供給を遮断し、所定時間(本実施形態では、0.7秒)に亘って電動機20が惰性で回転し続けるフリーラン状態とする。第2判定部343aによる判定結果が肯定であり、且つ第3判定部343bによる判定結果も肯定である場合に電動機20をフリーラン状態にするのは、第3判定部343bによる判定結果が肯定であることは、インバーター30による電動機20の駆動制御が困難であることを意味するからである。
【0036】
ブレーキ処理部343dは、調整部343cによる処理の完了後、停止指示信号を制御装置40へ送信する。この停止指示信号に応じて制御装置40がブレーキ締結信号をブレーキ50へ送信することにより、ブレーキ50が締結状態となり、踏み段12及びハンドレール13の循環駆動が完全に停止する。
【0037】
また、コンピュータが制御プログラムに従って作動している状態では、インバーター制御部34は、図4のフローチャートにより示される制御方法を周期的に実行する。本実施形態では、インバーター制御部34は、エスカレーター10の運行方向がUP方向である場合とDOWN方向である場合とで共通して、図4に示される制御方法を実行する。図4に示されるように、この制御方法は、第1判定処理SA110、通常制御処理SA120、及び、減速制御処理SA130を含む。
【0038】
第1判定処理SA110では、インバーター制御部34は、計測部341及び第1判定部342として機能する。第1判定処理SA110では、キャパシター32に充電された直流電力の電圧を計測し、計測された電圧が直流中間段電圧以下であるか否かを判定する。計測部341により計測された電圧が直流中間段電圧を上回る場合、第1判定処理SA110の判定結果はNo、即ち否定となる。計測部341により計測された電圧が直流中間段電圧以下である場合、第1判定処理SA110の判定結果はYes、即ち肯定となる。
【0039】
第1判定処理SA110の判定結果が否定であれば、インバーター制御部34は、通常制御処理SA120を実行する。通常制御処理SA120では、インバーター制御部34は、制御装置40から与えられるインバーター制御信号に従って、コンバーター部31に含まれる複数のトランジスタのON/OFF及びインバーター部33に含まれる複数のトランジスタのON/OFFを制御する。つまり、計測部341により計測された電圧が直流中間段電圧を上回る状態では、電動機20は制御装置40により指定された回転方向及び回転速度で駆動し、エスカレーター本体11は通常の運行状態となる。これに対して、第1判定処理SA110の判定結果が肯定であれば、インバーター制御部34は、減速制御処理SA130を実行する。
【0040】
図5は、減速制御処理SA130の流れを示すフローチャートである。図5に示されるように、減速制御処理SA130は、開始処理SA1310、第2判定処理SA1320、第3判定処理SA1330、第1減速処理SA1340、第2減速処理SA1350、フリーラン処理SA1360、及び、ブレーキ処理SA1370を含む。
【0041】
開始処理SA1310では、インバーター制御部34は、特許文献1における場合と同様に、電動機20が減速するようにインバーター部33に含まれる複数のトランジスタのON/OFFを制御する。電動機20が減速する過程において発生する回生電力によってキャパシター32が充電される。電動機20が減速する過程において発生する回生電力によってキャパシター32を充電するのは、キャパシター32に充電された直流電力の電圧が直流中間段電圧を上回る状態、又は、直流中間段電圧以下であるにしても限界電圧を上回る状態をできるだけ長く維持し、インバーター30による電動機20の制御をできるだけ長く継続できるようにするためである。
【0042】
第2判定処理SA1320では、インバーター制御部34は、計測部341及び第2判定部343aとして機能する。第2判定処理SA1320では、インバーター制御部34は、キャパシター32に充電された直流電力の電圧を計測し、計測された電圧が直流中間段電圧以下であるか否かを判定する。計測部341により計測された電圧が直流中間段電圧を上回る場合、第2判定処理SA1320の判定結果はNo、即ち否定となる。計測部341により計測された電圧が直流中間段電圧以下である場合、第2判定処理SA1320の判定結果はYes、即ち肯定となる。
【0043】
第2判定処理SA1320の判定結果が否定であれば、インバーター制御部34は、第1減速処理SA1340を実行した後にブレーキ処理SA1370を実行する。第1減速処理SA1340では、インバーター制御部34は、調整部343cとして機能する。第1減速処理SA1340では、インバーター制御部34は、第1の値の示す期間に亘って、電動機20の回転速度が所定の閾値以下となるようにインバーター部33に含まれる複数のトランジスタのON/OFFを制御する。電動機20が減速する過程において発生する回生電力によってキャパシター32が充電される。ブレーキ処理SA1370では、インバーター制御部34は、ブレーキ処理部343dとして機能する。ブレーキ処理SA1370では、インバーター制御部34は、停止指示信号を制御装置40へ送信する。
【0044】
第2判定処理SA1320の判定結果が肯定であれば、インバーター制御部34は、第3判定処理SA1330を実行する。第3判定処理SA1330では、インバーター制御部34は、計測部341及び第3判定部343bとして機能する。第3判定処理SA1330では、インバーター制御部34は、キャパシター32に充電された直流電力の電圧を計測し、計測された電圧が限界電圧以下であるか否かを判定する。計測部341により計測された電圧が限界電圧を上回る場合、第3判定処理SA1330の判定結果はNo、即ち否定となる。計測部341により計測された電圧が限界電圧以下である場合、第3判定処理SA1330の判定結果はYes、即ち肯定となる。
【0045】
第3判定処理SA1330の判定結果が否定であれば、インバーター制御部34は、第2減速処理SA1350を実行した後にブレーキ処理SA1370を実行する。第2減速処理SA1350では、インバーター制御部34は、調整部343cとして機能する。第2減速処理SA1350では、インバーター制御部34は、第2の値の示す期間に亘って、電動機20の回転速度が所定の閾値以下となるようにインバーター部33に含まれる複数のトランジスタのON/OFFを制御する。電動機20が減速する過程において発生する回生電力によってキャパシター32が充電される。
【0046】
第3判定処理SA1330の判定結果が肯定であれば、インバーター制御部34は、フリーラン処理SA1360を実行した後にブレーキ処理SA1370を実行する。フリーラン処理SA1360では、インバーター制御部34は、調整部343cとして機能する。フリーラン処理SA1360では、インバーター制御部34は、所定時間(本実施形態では、0.7秒)に亘って電動機20をフリーラン状態とする。
【0047】
図6乃至図12は、本実施形態の効果を説明するための図である。図6乃至図12における符号T0は、交流電源PSの停電発生タイミングを、符号VDCはキャパシター32に充電された直流電力の電圧を、符号IMは電動機20に流れる電流を、符号VMは電動機20の回転速度を、符号VSはエスカレーター10の運行速度を夫々示す。また、図6乃至図12におけるTmは、電動機20の減速制御が行なわれた時間の長さを、Tsは停電発生からエスカレーター10の運行が停止するまでに要した時間の長さを夫々意味する。
【0048】
図6は、積載負荷が200kg、400kg、及び、500kgである場合におけるDOWN運行時に停電が発生した場合のエスカレーター10の動作を示す図である。図6に示されるように、DOWN運行時に停電が発生した場合、キャパシター32に充電された直流電力の電圧を、減速制御開始時の電圧よりも高い状態に維持してエスカレーター10の減速制御を完了できていることが判る。
【0049】
図7乃至図12は、UP運行時に停電が発生した場合のエスカレーター10の動作を示す図である。図7は、積載負荷が400kg、500kg、600kg、及び、700kgである場合におけるUP運行時に停電が発生した場合のエスカレーター10の動作を示す図である。図8は、積載負荷が800kg、900kg、1000kg、及び、1100kgである場合におけるUP運行時に停電が発生した場合のエスカレーター10の動作を示す図である。図9は、積載負荷が1200kg、1300kg、1400kg、及び、1500kgである場合におけるUP運行時に停電が発生した場合のエスカレーター10の動作を示す図である。図10は、積載負荷が1600kg、1700kg、1800kg、及び、1900kgである場合におけるUP運行時に停電が発生した場合のエスカレーター10の動作を示す図である。図11は、積載負荷が2000kg、2100kg、2200kg、及び、2300kgである場合におけるUP運行時に停電が発生した場合のエスカレーター10の動作を示す図である。図12は、積載負荷が2400kg、2500kg、2600kg、2700kg、及び、2800kgである場合におけるUP運行時に停電が発生した場合のエスカレーター10の動作を示す図である。
【0050】
図7乃至図12に示されるように、UP運行時には、積載負荷が400kg~2400kgの範囲では、キャパシター32に充電された直流電力の電圧が少なくとも限界電圧に維持され、エスカレーター10の減速制御を完了できていることが判る。図12に示されるように、積載負荷が2500kg以上のUP運行では、高負荷の状況下での減速制御により多大な電力が消費され、キャパシター32に充電された直流電力の電圧は減速制御開始直後に限界電圧を下回り、電動機20をフリーラン状態とした後にブレーキ50による緊急停止が行なわれる。
【0051】
本実施形態では、交流電源PSの停電が発生した場合、制御装置40からインバーター制御部34に与えられるインバーター制御信号とは無関係に、インバーター30の内部、即ち電動機20の出力トルクを制御するトルク制御ループにおいて減速制御が開始されるので、特許文献1に開示された技術に比較して、停電発生から減速制御が開始されるまでの遅延を小さくすることができる。このため、本実施形態によれば、停電発生後に通常運行から減速制御に切り替わるまでの時間が従来よりも短くなり、停電発生時にキャパシター32に充電されていた直流電力が無駄な通常運行に浪費されることが回避され、当該直流電力を減速制御に有効利用することができる。
【0052】
一般に、キャパシター32は、コンバーター部31から出力される直流電力を平滑化するために設けられており、エスカレーター本体11の緩やかな停止に十分な容量を有しているとは限らない。特に、UP運行時に停電が発生した場合、従来技術では、減速制御が開始される時点においてキャパシター32に十分な直流電力は残っているとは限らなかった。これに対して、本実施形態では、UP運行時に停電が発生した場合であっても、停電の発生後、遅滞なく減速制御が開始されるので、十分な直流電力がキャパシター32に残っている。UP運行時の停電に起因する減速制御では、積載負荷により電力のロスが大きくなるが、本実施形態によれば、キャパシター32に充電された直流電力の電圧に応じて減速制御を実行する期間が調整されるので、積載負荷が2400kg以下であれば、電動機20が停止まで減速制御を継続することができる。また、本実施形態では、UP運行時とDOWN運転時とで異なる制御を行なう必要がなく、電動機20の減速制御のために乗込負荷を計測する必要もない。
【0053】
上記にて説明したように、本実施形態によれば、停電の発生から減速制御の開始までの遅延を少なくしつつ、エスカレーター本体11の運行を緩やかに停止させることが可能になる。
【0054】
上記実施形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。また、本開示の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0055】
上記実施形態における乗客コンベアはエスカレーターであったが、動く歩道であってもよい。本発明は、無端状に連結された複数の踏み段と、複数の踏み段を駆動する電動機と、電動機を駆動するインバーターと、を具え、インバーターが、外部の交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換するコンバーター部と、コンバーター部の出力する直流電力を平滑化するためのキャパシターと、キャパシターにより平滑化された直流電力を交流電力に変換して電動機へ出力するインバーター部と、を有する乗客コンベアであれば適用が可能である。
【0056】
上記実施形態における計測部341、第1判定部342、及び、減速制御部343は何れもソフトウェアモジュールであったが、計測部341、第1判定部342、及び、減速制御部343のうちの任意の1つ、複数或いは全部が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の電子回路で構成されたハードウェアモジュールであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 エスカレーター
11 エスカレーター本体
20 電動機
30 インバーター
31 コンバーター部
32 キャパシター
33 インバーター部
34 インバーター制御部
341 計測部
342 第1判定部
343 減速制御部
343a 第2判定部
343b 第3判定部
343c 調整部
343d ブレーキ処理部
40 制御装置
50 ブレーキ
【要約】
【課題】乗客コンベアにおいて、停電の発生から電動機の減速制御を開始するまでの遅延を少なくする。
【解決手段】踏み段を駆動する電動機を駆動するインバーターは、コンバーター部、キャパシター、インバーター部、及び、インバーター制御部34を具える。コンバーター部は、外部の交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換する。キャパシターは、この直流電力を平滑化する。インバーター部は、平滑化済の直流電力を交流電力に変換して電動機へ出力する。インバーター制御部34は、計測部341、第1判定部342、及び減速制御部343を有する。計測部341は、キャパシター32の極板間電圧を計測する。第1判定部342は、極板間電圧が第1基準値以下であるか否か判定する。減速制御部343は、第1判定部342による判定結果が肯定である場合に、電動機20を減速させる減速制御を実行する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12