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特許7405215プレス成形解析方法及び装置、プレス成形解析プログラム、プレス成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】プレス成形解析方法及び装置、プレス成形解析プログラム、プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20231219BHJP
   B21D 22/00 20060101ALI20231219BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20231219BHJP
【FI】
G06F30/23
B21D22/00
G06F113:22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022165324
(22)【出願日】2022-10-14
【審査請求日】2023-09-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】岸上 靖廣
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017775(WO,A1)
【文献】特開2019-175105(JP,A)
【文献】特開2002-219523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
B21D 22/00 -22/30
B21D 37/00 -37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス金型に作用するプレス成形荷重を予測できるプレス成形解析方法であって、
仮想的な厚みを持たせた金型モデルを二次元要素によって作成し、実金型におけるリブに相当する部位が剛体、リブ以外が非剛体となるように、前記二次元要素の境界条件を設定する金型モデル作成工程と、
該金型モデル作成工程によって作成された金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得工程と、を備え、
前記金型モデル作成工程は、前記金型モデルに仮想的な厚みを持たせるために、金型表面から所定の距離だけ前記二次元要素の配置をオフセットさせると共に、オフセット量に応じて、前記金型モデルの撓みが実金型の撓みと等価となるように前記二次元要素の境界条件を設定することを特徴とするプレス成形解析方法。
【請求項2】
前記金型モデル作成工程における境界条件は、変位拘束、弾性係数、板厚、密度、質量、降伏強度のいずれか一つ又はこれらの組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形解析方法。
【請求項3】
前記二次元要素は、弾性又は弾塑性の二次元要素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形解析方法。
【請求項4】
プレス金型に作用するプレス成形荷重を予測できるプレス成形解析装置であって、
仮想的な厚みを持たせた金型モデルを二次元要素によって作成し、実金型におけるリブに相当する部位が剛体、リブ以外が非剛体となるように、前記二次元要素の境界条件を設定する金型モデル作成部と、
該金型モデル作成部によって作成された金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得部と、を備え、
前記金型モデル作成部は、前記金型モデルに仮想的な厚みを持たせるために、金型表面から所定の距離だけ前記二次元要素の配置をオフセットさせると共に、オフセット量に応じて、前記金型モデルの撓みが実金型の撓みと等価となるように前記二次元要素の境界条件を設定することを特徴とするプレス成形解析装置。
【請求項5】
コンピュータを請求項4に記載のプレス成形解析装置として機能させることを特徴とするプレス成形解析プログラム。
【請求項6】
プレス成形品の製造方法であって、
請求項1又は2に記載のプレス成形解析方法によってプレス成形荷重を取得する工程と、
取得したプレス成形荷重の加圧能力を有する適切なプレス機を選定するプレス機選定工程と、
該プレス機を用いてプレス成形を行うプレス成形工程を含むことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材のプレス加工に伴うプレス金型に作用するプレス成形荷重を予測できるプレス成形解析方法及び装置、コンピュータをプレス成形解析装置として機能させるプレス成形解析プログラム、プレス成形品の製造方法に関する。
本明細書において、金属部材とは、熱延鋼板、冷延鋼板、あるいは鋼板に表面処理(電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、有機皮膜処理等)を施した表面処理鋼板をはじめ、SUS、アルミニウム、マグネシウム等、各種金属類から構成される金属板を含む。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化による燃費向上や衝突安全性向上等のニーズの高まりから、自動車車体における高張力鋼板の適用が拡大している。高張力鋼板はその延性の低さによる成形性の低下や、材料強度が高いことに起因する寸法精度の悪化が高張力鋼板を適用するための課題とされている。
【0003】
また、高張力鋼板をプレス成形する際にはプレス成形荷重が増加するが、このプレス成形荷重がプレス機との関係で所定値を超える場合には、プレスラインの変更や部品の分割が必要となる。
そのため、事前にプレス成形荷重を正確に予測できるプレス成形解析方法が求められている。
【0004】
この点、特許文献1には実機でのプレス下死点の成形荷重と、成形解析によるプレス下死点前のストロークでの成形荷重の相関近似式を求め、その相関近似式からプレス成形荷重を求める方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5610574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、あらかじめ実機でのプレス下死点での成形荷重を求めることが必要であるため、新規の部品形状や材料でのプレス成形荷重を事前に予測することは出来ない。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、新規の部品形状や材料をプレス成形する際にプレス金型に作用するプレス成形荷重を事前に予測できるプレス成形解析方法及び装置を得ることを目的としている。
また、コンピュータを前記プレス成形解析装置として機能させるプレス成形解析プログラムを提供することを目的としている。
さらに、プレス成形解析方法によって予測されたプレス成形荷重に基づいて選定されたプレス機によってプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るプレス成形解析方法は、プレス金型に作用するプレス成形荷重を予測できる方法であって、
仮想的な厚みを持たせた金型モデルを二次元要素によって作成し、実金型におけるリブに相当する部位が剛体、リブ以外が非剛体となるように、前記二次元要素の境界条件を設定する金型モデル作成工程と、
該金型モデル作成工程によって作成された金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得工程と、を備え、
前記金型モデル作成工程は、前記金型モデルに仮想的な厚みを持たせるために、金型表面から所定の距離だけ前記二次元要素の配置をオフセットさせると共に、オフセット量に応じて、前記金型モデルの撓みが実金型の撓みと等価となるように前記二次元要素の境界条件を設定することを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記金型モデル作成工程における境界条件は、変位拘束、弾性係数、板厚、密度、質量、降伏強度のいずれか一つ又はこれらの組み合わせからなることを特徴とするものである。
【0010】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記二次元要素は、弾性又は弾塑性の二次元要素であることを特徴とするものである。
【0011】
(4)本発明に係るプレス成形解析装置は、プレス金型に作用するプレス成形荷重を予測できるものであって、
仮想的な厚みを持たせた金型モデルを二次元要素によって作成し、実金型におけるリブに相当する部位が剛体、リブ以外が非剛体となるように、前記二次元要素の境界条件を設定する金型モデル作成部と、
該金型モデル作成部によって作成された金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得部と、を備え、
前記金型モデル作成部は、前記金型モデルに仮想的な厚みを持たせるために、金型表面から所定の距離だけ前記二次元要素の配置をオフセットさせると共に、オフセット量に応じて、前記金型モデルの撓みが実金型の撓みと等価となるように前記二次元要素の境界条件を設定することを特徴とするものである。
【0012】
(5)本発明に係るプレス成形解析プログラムは、コンピュータを上記(4)に記載のプレス成形解析装置として機能させることを特徴とするものである。
【0013】
(6)本発明にかかるプレス成形品の製造方法は、上記(1)又は(2)に記載のプレス成形解析方法によってプレス成形荷重を取得する工程と、
取得したプレス成形荷重の加圧能力を有する適切なプレス機を選定するプレス機選定工程と、
該プレス機を用いてプレス成形を行うプレス成形工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規の部品形状や材料をプレス成形する際にプレス金型に作用するプレス成形荷重を事前に精度よく予測することができる。
また、その結果として部品を生産するのに適正な加圧能力を有するプレス機を選択することが出来るようになる。
さらに、適切な加圧能力を有するプレス機を選択してプレス成形品をプレス成形することにより、プレス機のフレーム等の弾性変形によるプレス金型の寿命の低下を抑えることができ、プレス成形品のバリ等の発生を抑止して製造効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1に係るプレス成形解析方法のフローチャートである。
図2】実施の形態2に係るプレス成形解析装置の構成を示すブロック図である。
図3】実施例1で対象とした部品形状の説明図である。
図4】実施例1で用いる金型の説明図であり、図4(a)は成形面を示し、図4(b)は金型の下面を示している。
図5】従来の手法によって作成した従来例金型モデルを示す図である。
図6】本発明の手法によって作成した発明例金型モデルを示す図である。
図7】二次元要素による金型モデルに仮想的な厚みを持たせる方法の説明図である(その1)。
図8】二次元要素による金型モデルに仮想的な厚みを持たせる方法の説明図である(その2)。
図9】二次元要素による金型モデルに仮想的な厚みを持たせる方法の説明図である(その3)。
図10】実施例1における等価弾性係数の考え方を説明する図である。
図11】実施例1の解析結果を示すグラフである。
図12】実施例2で対象とした部品形状の説明図である。
図13】実施例2の解析結果とそれに基づく必要なプレス機能力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明に至った経緯について説明する。
発明者らは、有限要素法(FEM)によるプレス成形解析を用いてプレス成形荷重を予測できるプレス成形解析方法を検討するにあたり、まず、プレス成形荷重が正確に予測できない理由について検討した。
【0017】
一般的に、有限要素法においてプレス金型のモデル化には剛体の二次元要素が適用されている。このような二次元要素を用いたプレス成形解析では、プレス成形下死点付近においてプレス成形荷重が急激に増加する。
発明者は、この現象について検討し、本来弾塑性体であるプレス金型を、全く変形しない剛体として取り扱っているため、プレス成形下死点での金型の変形が再現されず、プレス成形品21(ブランク)だけが過剰に変形させられているためであることを突き止めた。
【0018】
そして、プレス成形荷重を正確に予測するためには、プレス金型の変形を考慮したプレス成形解析が必要であると考えた。
この点、プレス金型の構造を非剛体のソリッド要素(三次元要素)で表現してプレス金型の変形を考慮するプレス成形解析は実施されているが、計算時間が膨大となり実用には適していない。
そこで、計算時間の短いシェル要素(二次元要素)でプレス金型の変形を考慮する方法を検討した。そして、プレス金型の表面を非剛体(弾性もしくは弾塑性)のシェルモデル(二次元要素)として仮想的な厚みを持たせてプレス金型をモデル化し、境界条件によって剛性を付与すればよい、との結論に至った。
【0019】
本発明は、かかる検討結果に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成を備えたものである。
【0020】
[実施の形態1]
本発明に係るプレス成形解析方法は、プレス金型に作用するプレス成形荷重を予測できるプレス成形解析方法であって、図1に示すように、金型モデル作成工程(S1)と、プレス成形荷重取得工程(S3)と、を備えている。以下、各工程を詳細に説明する。
【0021】
<金型モデル作成工程>
金型モデル作成工程(S1)は、仮想的な厚みを持たせた金型モデルを二次元要素によって作成し、実金型におけるリブに相当する部位が剛体、リブ以外が非剛体となるように、前記二次元要素の境界条件を設定する工程である。
【0022】
そして、金型モデルに仮想的な厚みを持たせるために、金型表面から所定の距離だけ二次元要素の配置をオフセットさせると共に、オフセット量に応じて、金型モデルの撓みが実金型の撓みと等価となるように二次元要素の境界条件を設定する。
金型モデル作成工程(S1)における境界条件は、変位拘束、弾性係数、板厚、密度、質量、降伏強度のいずれか一つ又はこれらの組み合わせからなるものである。
また、二次元要素は、弾性又は弾塑性の二次元要素であればよい。
【0023】
<プレス成形荷重取得工程>
プレス成形荷重取得工程(S3)は、金型モデル作成工程(S1)によって作成された金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得する工程である。
取得するプレス成形荷重は、プレス金型全体にかかる荷重であっても、プレス金型の面圧分布であってもよい。
【0024】
本実施の形態においては、プレス金型の表面を非剛体(弾性もしくは弾塑性)のシェルモデル(二次元要素)として仮想的な厚みを持たせてプレス金型をモデル化し、境界条件によって剛性を付与している。このため、プレス成形荷重を取得するための、有限要素法によるプレス成形解析の計算に時間がかからないので、プレス金型の構造に非剛体のソリッド要素(三次元要素)を用いたプレス成形解析と比較して、計算時間を短縮できる。また、金型モデルの剛性分布設定の変更に際しては境界条件を変更すれば足りるので、金型モデルのモデリングを都度行う必要もなく、プレス成形荷重を低減できるプレス金型構造を短時間で設計できるようになる。
【0025】
[実施の形態2]
実施の形態1で説明したプレス成形解析方法は、予め設定されたプログラムをコンピュータに実行させることで実現できる。そのような装置の一例であるプレス成形解析装置を本実施の形態で説明する。
本実施の形態に係るプレス成形解析装置1は、図2に示すように、PC(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータによって構成され、表示装置3、入力装置5、記憶装置7、作業用データメモリ9及び演算処理部11を有している。
そして、表示装置3、入力装置5、記憶装置7及び作業用データメモリ9は、演算処理部11に接続され、演算処理部11からの指令によってそれぞれの機能が実行される。
以下、本実施の形態に係るプレス成形解析装置1の各構成について説明する。
【0026】
≪表示装置≫
表示装置3は、解析結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。
【0027】
≪入力装置≫
入力装置5は、ブランクやプレス成形品等の表示指示や操作者の条件入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
【0028】
≪記憶装置≫
記憶装置7は、金型CADデータ、ブランク及びプレス成形品の形状ファイル等の各種ファイルの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
【0029】
≪作業用データメモリ≫
作業用データメモリ9は、演算処理部11で使用するデータの一時保存や演算に用いられ、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0030】
≪演算処理部≫
演算処理部11は、図2に示すように、金型モデル作成部13と、プレス成形荷重取得部15と、を有し、CPU(中央演算処理装置)によって構成される。
これらの各部は、CPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
演算処理部11における上記の各部の機能を以下に説明する。
【0031】
金型モデル作成部13は、仮想的な厚みを持たせた金型モデルを二次元要素によって作成し、実金型におけるリブに相当する部位が剛体、リブ以外が非剛体となるように、前記二次元要素の境界条件を設定するものであり、実施の形態1において説明した金型モデル作成工程(S1)を実行する。
【0032】
プレス成形荷重取得部15は、剛性分布を設定した金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するものであり、実施の形態1において説明したプレス成形荷重取得工程(S3)を実行する。
【0033】
本実施の形態に係るプレス成形解析装置1によれば、実施の形態1と同様に、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の構造を短時間で設計できる。
【0034】
なお、上述したように、本実施の形態のプレス成形解析装置1における金型モデル作成部13、プレス成形荷重取得部15は、CPUが所定のプログラムを実行することで実現されるものである。
したがって、本発明に係るプレス成形解析プログラムは、コンピュータを、金型モデル作成部13、プレス成形荷重取得部15として機能させるもの、と特定することができる。
【実施例1】
【0035】
本発明の効果を確認するため具体的なプレス成形解析を行ったので、以下説明する。
図3に実施例の対象とするプレス成形品21の部品形状を示す。プレス成形品21は、平面視で略S字状に湾曲し、天板部23と、天板部23の両側の縦壁部25と、縦壁部25の下端のフランジ部27とを備えたハット断面形状である。天板部23と縦壁部25を繋ぐパンチ肩R部29及び縦壁部25とフランジ部27を繋ぐダイ肩R部31の曲率半径は6mmである。
また、プレス成形品21の材質は冷延1180MPa級高張力鋼板、板厚1.6mmである。
【0036】
図3に示したプレス成形品21を成形する金型33を図4に示す。図4に示す金型33は、図3に示す部品を成形する金型33(パンチ、ダイ等)のうちダイに相当するものであり、他の金型33であるパンチ等はダイに対応する形状を有しているが、以下においては、図4に示す金型33(ダイ)を例に挙げて説明する。
【0037】
図4(a)に示すように、金型33の成形面側には、部品に対応する溝形状部35が形成されており、溝底の両側にはプレス成形品21のパンチ肩R部29に相当する第1R部37を有し、また、溝の入口部には、プレス成形品21のダイ肩R部31に相当する第2R部39を有している。これら第1R部37及び第2R部39の曲率半径は6mmである。
また、金型33は図4(b)に示すように、周縁が変形しないリブ形状部41となっており、また溝底に相当する部分も変形しないリブ形状相当部43となっている。リブ形状部41及びリブ形状相当部43以外の部分は、変形する部位でありその厚みは30mmである。
【0038】
本実施例では、図4に示す金型33をシェル要素でモデル化した従来金型モデル45(図5参照)と、本発明を適用してモデル化した発明例金型モデル47(図6参照)とによって、プレス成形解析を行って成形荷重を求める。そして、プレス成形解析で求めた成形荷重と、実機における成形荷重とを比較する。
【0039】
図5に示す従来金型モデル45は、金型変形を考慮せず、ブランクと接触する金型表面に二次元要素(シェル要素)によるメッシュを単に配置し、メッシュ全体を剛体として設定したものである。
他方、発明例金型モデル47は、二次元要素(シェル要素)を非剛体として設定して弾性範囲の金型変形を考慮したものである。すなわち、二次元要素によるメッシュに仮想的な厚みを持たせた金型モデル47を作成し、実金型におけるリブ形状部41及びリブ形状相当部43に相当する部位が剛体、これら以外が非剛体となるように、二次元要素の境界条件を設定したものである。
図6においては、剛体とした部分の色を濃いグレーにしている。
【0040】
ここで、二次元要素によるメッシュ(金型モデル)に仮想的な金型の厚みを持たせる方法について、金型の平坦な部分(R部以外)の断面を模式的に示した図7を用いて説明する。
二次元要素によるメッシュに仮想的な金型の厚みを持たせるには、図7(a)に示すように、仮想的な金型の厚みtを設定し、実際の金型表面(ブランクとの接触側)から金型の厚み中心に向けて垂直方向に、金型の厚みtの1/2(t/2)だけオフセットさせた位置、すなわち、仮想的な金型の厚みの中央位置に、二次元要素によるメッシュ(金型メッシュ)を配置する。そして、図7(b)に示すように、金型メッシュからブランクとの接触側の金型表面に向けて垂直方向に、金型の厚みtの1/2(t/2)だけオフセットをさせた位置に、金型モデルにおけるブランクとの接触する側の仮想的な金型表面を設定する。なお、図7においては、矢印はオフセットの方向を示している(図8及び図9においても同様)。
【0041】
前述したように、本実施例の金型33は、厚みが30mm、曲率半径6mmのパンチ肩R部29及びダイ肩R部31(R部)をもつ金型である。本実施例の金型33での金型モデル作成例として、金型の水平方向の平坦部分と垂直方向の平坦な部分をR部が繋ぐ金型断面を模式的に示した図8及び図9を用いて説明する。
図8は、金型モデルの仮想的な厚みtを金型33の厚みと同じ30mmとした場合である。
図8(a)に示すように、金型33の曲率半径6mmのR部を含む金型表面(ブランクとの接触側)から垂直に金型の厚み中心方向に、金型の厚み30mmの1/2である15mm(>R部の曲率半径6mm)オフセットさせた位置、すなわち、仮想的な金型の厚みの中央位置に、金型メッシュを配置する。この場合、金型表面からのオフセット量15mmはR部の曲率半径6mmを超えるため、金型メッシュ上のR部の対応箇所は曲率半径0mmの角(R’)となる。そして、図8(b)に示すように、金型メッシュからブランクとの接触側の金型表面に向けて垂直方向に、金型の厚み30mmの1/2である15mmだけオフセットさせた位置に金型モデルの仮想的な金型表面を設定する。すると、金型モデルの仮想的な金型表面上のR部の対応箇所は曲率半径0mmの角(R”)となる。すなわち、金型33の実際の30mmの厚みに基づいてオフセットした金型メッシュを想定すると、金型モデルの仮想的な金型表面上にR部が再現されないことになる。
そこで、二次元要素によるメッシュ(金型モデル)に持たせる仮想的な金型厚みtは、金型モデルの仮想的な金型表面において金型のR部を再現できるように、金型表面からのオフセット量(t/2)が金型のR部の曲率半径を超えない範囲に設定する必要がある。
【0042】
図9は、金型モデルの仮想的な金型表面において実金型33のR部が再現できるオフセット量となるように、二次元要素によるメッシュ(金型モデル)に持たせる仮想的な金型厚みtを設定したものである。具体的には、金型モデルの仮想的な厚みtを実金型33の厚み30mmの1/10である3mmとし、金型表面からのオフセット量(t/2)を1.5mm(<R部の曲率半径6mm)とした。これによって、図9(a)に示すように金型メッシュはR部に対応する曲率をもち、図9(b)に示すように金型モデルの仮想的な金型表面において実金型33のR部が再現できる。
しかし、図9の場合、実金型33の厚み(30mm)より解析上の金型厚み(3mm)が薄くなり、実金型33の剛性を再現できなくなる。
そこで、実金型33の金型表面が再現できるように二次元要素の金型表面からのオフセット量を決定した場合、あわせて、仮想的な厚みを持たせた金型モデル(二次元要素)のたわみ量と実金型33のたわみ量とが同じとなるように、二次元要素の弾性係数(ヤング率)を補正した(以下、補正した弾性係数を「等価弾性係数」と称す)。
【0043】
以下、等価弾性係数の考え方を、図10に基づいて説明する。
図10は、金型表面の弾性変形を単純梁の変形と考えて図示したものであり、図10(a)は実際の金型の厚みtの場合であり、図10(b)が厚みをt/aとした場合を示している。
このように考えると、等価弾性係数Ec(MPa)は、式(1)に示すように、実金型の弾性係数E(MPa)に、厚みの比a(実際の金型の厚み/二次元要素での仮想厚み)の3乗をかけたものとなる。
Ec=E・a3・・・(1)
【0044】
なお、オフセット量に応じて、金型モデルの撓みが実金型の撓みと等価となるように設定する二次元要素の境界条件としては、上述の実施の形態で示したように、弾性係数、変位拘束、板厚、密度、質量、降伏強度のいずれか一つ又はこれらの組み合わせから適宜選択すればよい。
【0045】
また、実施例の解析では、リブ形状部41及びリブ形状相当部43はプレス方向の金型剛性が十分高いと仮定し、プレス方向の変位を拘束した。
実機のプレス成形荷重と、図5に示す従来金型モデル45および図6に示す発明例金型モデル47による成形荷重予測結果を図11に示す。
実機のプレス成形荷重が1002kNで、従来例の成形荷重が1375kNで実機の137%であったのに対し、発明例の成形荷重は1087kNで実機の108%となっており、成形荷重予測精度が向上していることがわかる。
【実施例2】
【0046】
次に、本発明を適用することの効果として、プレス機の選定が合理的となることについて、具体例を示して説明する。
本実施例で対象とした部品49の形状を図12に示す。この部品49は、材質が冷延1180MPa級高張力鋼板、板厚1.4mmである。
この部品49について、実施例1と同様に従来例及び発明例の金型モデルによってプレス成形解析を行い成形荷重を求めたところ、それぞれ4225kN、3300kNであった。
【0047】
プレス機は成形荷重がプレス機の能力の80%以下となるように選定されることが一般的である。従来例および発明例の成形荷重予測結果から推定されるプレス機能力を求めてグラフ化したものを図13に示す。
図13に示すように、従来例では荷重予測4225kNに対して、20%の余裕をみて5300kN以上の能力を持つプレス機が選定される。これに対して、発明例では荷重予測3300kNなので選定されるプレス機は4200kN以上となり、より適正なプレス機の選定が可能となっている。
【符号の説明】
【0048】
1 プレス成形解析装置
3 表示装置
5 入力装置
7 記憶装置
9 作業用データメモリ
11 演算処理部
13 金型モデル作成部
15 プレス成形荷重取得部
21 プレス成形品
23 天板部
25 縦壁部
27 フランジ部
29 パンチ肩R部
31 ダイ肩R部
33 金型
35 溝形状部
37 第1R部
39 第2R部
41 リブ形状部
43 リブ形状相当部
45 従来金型モデル
47 発明例金型モデル
49 部品
【要約】
【課題】新規の部品形状や材料をプレス成形する際にプレス金型に作用するプレス成形荷重を事前に予測できるプレス成形解析方法及び装置を得る。また、コンピュータを前記プレス成形解析装置として機能させるプレス成形解析プログラムを提供する。さらに、プレス成形解析方法によって予測されたプレス成形荷重に基づいて選定されたプレス機によってプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形解析方法は、仮想的な厚みを持たせた金型モデルを二次元要素によって作成し、実金型におけるリブに相当する部位が剛体、リブ以外が非剛体となるように、前記二次元要素の境界条件を設定する金型モデル作成工程(S1)と、
該金型モデル作成工程(S1)によって作成された金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得工程(S3)と、を備えている。
【選択図】 図1
図1
図2
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図13