IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-レールの製造方法 図1
  • 特許-レールの製造方法 図2
  • 特許-レールの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】レールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/04 20060101AFI20231219BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231219BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C21D9/04 A
C22C38/00 301Z
C22C38/60
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022527100
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004530
(87)【国際公開番号】W WO2022209293
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2021060122
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 顕一
(72)【発明者】
【氏名】上岡 悟史
(72)【発明者】
【氏名】佛淵 友彬
(72)【発明者】
【氏名】安藤 佳祐
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/054339(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157252(WO,A1)
【文献】特開2016-156071(JP,A)
【文献】特開2001-020040(JP,A)
【文献】特開2003-129182(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182759(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0253268(US,A1)
【文献】特開平09-316598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/00- 9/44, 9/50
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト域温度以上の温度を有するレールを加速冷却する工程を有する、レール頭部の表面硬度がHB430以上、レール内部23mm位置の内部硬度がHB385以上であり、レール頭部の冷却面から5mm深さまでの範囲のベイナイト生成率が15%以下であり、残部がパーライトである、レールの製造方法であって、
前記加速冷却が終了した時点のレール頭部の冷却面から5mm深さにおける領域の70%以下がオーステナイトであり、
加速冷却終了時に生じる復熱の完了時のレール頭部表面の温度がパーライト変態温度域下限以上パーライト変態温度域下限+50℃以下である、レールの製造方法。
【請求項2】
前記加速冷却終了後に前記レールを放冷し、前記レール頭部表面の温度が200℃以下となった後は1℃/s以上の速度で冷却する、請求項1に記載のレールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーステナイト域温度以上で熱間圧延された、あるいはオーステナイト域温度以上に加熱された高温レールに対し、冷却媒体(空気、水、ミストなど)によって加速冷却することにより、その頭部の耐摩耗性を向上させたレールとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レール頭部を微細なパーライト組織となしその耐摩耗性を向上させた従来の高硬度レールの一般的な製造方法について説明する。
【0003】
オーステナイト域温度以上で熱間圧延された、あるいは、オーステナイト域温度以上に加熱されたレールは、正立した(頭頂部が上方、足裏部が下方になった)状態で熱処理装置に搬入される。この場合、例えば100m程度の圧延長のまま熱処理装置に搬入されることもあるし、1本当たりの長さが例えば25m程度の長さになるように分割(以下、鋸断と称する)されてから搬入されることもある。鋸断されてから冷却することを基本としている場合には、熱処理装置もそれに応じた長さのゾーンに分割されていることもある。
【0004】
熱処理装置において、レールはその足先部を例えばクランプで拘束され、頭頂面、頭側面、足裏面、さらに必要に応じて腹部面を冷却媒体(空気、水、ミストなど)で強制冷却される。その温度履歴をコントロールすることにより、頭内部を含めた頭部全体を微細なパーライト組織としている。
【0005】
熱処理終了後には、正立または転倒した状態で冷却床に搬入され、室温程度になるまで放冷され、矯正や検査等の工程を経て製品となる。
【0006】
加速冷却によって高硬度化するためには、低い温度でパーライト変態させることが有効であり、冷却速度を大きくすることで、変態温度を低くすることが可能となる。また、頭内部まで高硬度を得ようとするには、頭表面からの熱伝導によって冷却するため、比較的長い時間の冷却が必要となる。
【0007】
しかしながら、冷却速度が高く、冷却量が大きくなりすぎると、冷却面近傍でパーライト以外の組織である、ベイナイト組織やマルテンサイト組織等が生成してしまう。パーライト組織と比較すると、ベイナイト組織は、その分率が大きくなるほど耐摩耗性を低下させ、マルテンサイト組織は靱性を大きく低下させてしまうため好ましくない。
【0008】
このため、加速冷却によって微細なパーライト組織を生成させるためには、精緻な温度履歴の制御が必要であった。特許文献1では、冷却装置内に設置した温度計で変態挙動を監視しながら温度履歴をコントロールする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2014/157198号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図2に特許文献1における所望の冷却を実施するための頭頂エアヘッダの圧力スケジュールとレール頭部表面温度の履歴の模式を示す。図2に示すように、オーステナイト域での冷却開始温度で冷却を開始し、図中t1のタイミングで変態発熱による昇温が開始する。昇温が大きくなりすぎると、高温で変態し硬度が低下してしまう。これを防止するために、昇温とほぼ同じか、それより少し前にヘッダ圧力を大きくし、冷却能力を上昇させる必要がある。これにより、変態発熱による昇温を低減し、高硬度化することが可能となる。このとき、内部は表面から遅れて変態するため、内部を高硬度させるためには、表面をベイナイト生成温度域まで冷却し、熱伝導によって内部の冷却速度を高くする必要がある。しかしながら、レール表面からの冷却中の温度測定では、内部の変態の完了を把握することができない。そのため、加速冷却中の冷却量を大きくし、加速冷却終了後の復熱した頭部表面温度が、パーライト変態温度以下となることが一般的である。
【0011】
しかしながら、レール全長を冷却する場合で、冷却開始前に長手方向に温度ばらつきが発生しているレールを特許文献1に記載の方法で冷却制御しようとすると、変態開始のタイミングが温度ばらつきに応じて変化してしまう。このため、ばらつきがある位置全てに温度計を設置する必要があり、設備設置コストがかさんでしまう。また、温度計を設置できたとしても、条件によっては所望の制御ができない場合がある。例えば、衝風冷却の場合、複数の冷却ヘッダに対して1つのブロワーから冷却エアを供給していることが通常である。この中で長手方向の温度ばらつきに対応するために、冷却速度を大きく変化させる必要がある場合、ヘッダ毎に設置されている流量圧力調整弁では対応できず、変態挙動に応じた冷却制御ができなくなる。この結果、高い温度でパーライト変態し、硬度が低下したり、加速冷却中にパーライト変態が完了せず、多量のベイナイト組織やマルテンサイト組織が生成したりする。
【0012】
また、冷却開始前のレールの長手方向の温度ばらつきを修正するためにはIH等による加熱も考えられるが、設備設置コストがかさんでしまう。また、全長一斉冷却とせず、冷却装置内をレールの端部から通過させて冷却する場合にも、冷却時間が長いと、冷却設備長が長くなる。その結果、IHによるサーマルランダウン補償が必要である等、設備設置コストがかさんでしまう。
【0013】
さらに温度ばらつきとして、素材によるばらつきおよび頭部の断面内でのばらつきが挙げられる。加熱や圧延および加速冷却装置までの搬送における温度および時間のばらつきのため、素材により温度ばらつきが発生してしまう。また、圧延から加速冷却装置までの搬送はレールが転倒した状態でなされるため、レール頭部の放熱状態が異なり、頭部の断面内に温度差が発生してしまう。
【0014】
したがって、本発明は上述した問題を解決するためになされたものであって、その目的は、冷却開始前のレールの温度ばらつきによらず、高硬度で高品質のレールを簡便な冷却方法で製造する方法を提供するものである。ここで、「高硬度」とは、表面硬度がHB430以上、且つ、内部硬度がHB385以上を意味する。また、「高品質」とは、耐摩耗性を低下させる、レール頭部の冷却面から5mm深さの位置のベイナイト生成率が15%以下を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
筆者らは鋭意調査した結果、ベイナイト組織が生成する場合は、加速冷却終了後の放冷時に多量に生成することを突き止めた。すなわち、加速冷却終了後の復熱およびその後の放冷過程の温度履歴に応じて、加速冷却時に変態しなかったオーステナイトがパーライトやベイナイトに変態することが判明した。
【0016】
図3に示すように、加速冷却が終了した時点で、加速冷却中に発生した断面内の温度分布がほぼなくなるように熱伝導によって復熱が生じ、表面は温度上昇する。加速冷却終了時にパーライト変態が未完了で、オーステナイトが残存し、復熱過程でベイナイト変態温度域であった場合には、残存していたオーステナイトがベイナイトに変態する。加速冷却中にパーライト変態がほとんど発生しなかった場合には、多量のベイナイトが生成してしまう。なお、図3の変態率のグラフにおいて、100-変態率(%)がオーステナイトの残存率である。
【0017】
一方、図1に示すように、加速冷却終了時にパーライト変態が未完了で、オーステナイトが残存し、ベイナイト生成温度域であっても、復熱過程で再びパーライト変態温度域まで到達する。そして、残存していたオーステナイトの大部分が、復熱過程およびその後の自然放冷中にパーライト変態する。これにより、所望とするパーライト組織が得られることがわかった。
【0018】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1] オーステナイト域温度以上の温度を有するレールを加速冷却する工程を有する、レールの製造方法であって、前記加速冷却が終了した時点のレール頭部の冷却面から5mm深さにおける領域の70%以下がオーステナイトであり、加速冷却終了後に生じる復熱の完了時のレール頭部表面の温度がパーライト変態温度域である、レールの製造方法。
[2] 前記加速冷却終了後に生じる復熱過程における前記レール頭部表面の最高温度が、パーライト変態温度域下限以上パーライト変態温度域下限+75℃以下である、[1]に記載のレールの製造方法。
[3] 前記加速冷却終了後に前記レールを放冷し、前記レール頭部表面の温度が200℃以下となった後は1℃/s以上の速度で冷却する、[1]又は[2]に記載のレールの製造方法。
[4] レール頭部の冷却面から5mm深さまでの範囲において、ベイナイト生成率が15%以下である、レール。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法を用いることで、冷却開始前のレールの温度ばらつきによらず、高硬度で高品質のレールが製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係る、加速冷却開始からのレール頭部表面の温度履歴とレール頭部の冷却面から5mm深さまでの範囲における変態率の関係を表す模式図である。
図2図2は、特許文献1に係るレール頭部表面冷却用頭頂エアヘッダの圧力スケジュールとレール頭部表面温度の履歴の模式図である。
図3図3は、比較例に係る、加速冷却終了後に生じる復熱の完了時の温度がベイナイト変態温度域である場合の、レール頭部表面の温度履歴と冷却面から5mm深さまでの範囲における変態率の関係を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の製造方法について説明する。
【0022】
図1に示すように、加速冷却終了時にレール頭部の冷却面から5mm深さにおける領域のパーライト変態が未完了で、オーステナイトが残存し、レール頭部表面の温度がベイナイト生成温度域である場合を考える。この後の復熱過程で再びパーライト変態温度域まで到達することで、残存していたオーステナイトの大部分が、復熱過程およびその後の自然放冷中にパーライト変態する。なお、残存するオーステナイトは、通常70%以下である。この時、加速冷却終了後に生じる復熱の完了時のレール頭部表面の温度がパーライト変態温度域となるように加速冷却を制御することにより、微細なパーライト組織を得ることができる。また、オーステナイト残存量は常法にて確認可能である。
【0023】
ここで、加速冷却中および復熱過程中のベイナイト生成温度域で微量のベイナイトが生成する場合がある。レール頭部の冷却面から5mm深さにおける領域のベイナイト生成率が15%以下であれば、耐摩耗性に関してフルパーライト、即ち、パーライト100%との差異は無視できる程度である。なお、加速冷却後にパーライト変態が未完了でオーステナイトが残存していることの確認は、変態率計を用いた測定、冷却中に測定した温度実績のサーメックによる再現などにより行うことができる。また、冷却時間をあえて延長させ、復熱後の温度域をベイナイト変態温度域とさせたレールとの比較などの方法をとってもよい。ここでいうベイナイト変態温度域とは、等温状態で保持した時にベイナイトが生成する温度域のことである。あらかじめ、試験片などを用いて、恒温変態曲線を作成することで、ベイナイトやパーライトの変態温度域を把握することができる。
【0024】
また、レール頭部表面の温度とは、レール頭部の角の温度を放射温度計で測定することによって得られた値である。なお、加速冷却終了後にレールを正立させて搬送させる場合には、復熱過程でレール頭部断面内の温度はほぼ同じになるため、頭部中央部表面を含む両側頭角表面の範囲のいずれの位置でも問題ない。また、レール頭部の冷却面から5mm深さにおける領域とは、レール頭部の中央部表面および両側頭角表面から5mm深さの領域のミクロ組織の平均値を意味する。
【0025】
また、加速冷却終了後の復熱過程のレール頭部の最高温度がパーライト変態温度域の下限から+75℃以下であれば、生成するパーライトはより微細となり、レールの硬度がより高くなるため好ましい。さらに好ましくは、パーライト変態温度の下限から+50℃以下である。
【0026】
冷却床での室温程度までの冷却において、レール頭部表面の温度が200℃以下になるまでは放冷とし、その後に1℃/s以上の速度で冷却することが好ましい。レールの温度が200℃以下であれば、レールは全て変態完了しているため、特性に影響を及ぼさず、放冷時間の短縮が可能となる。また、冷却床での冷却によるレールの反りへの影響もない。また、200℃以下の放冷では、室温との温度差が小さくなるため、常温程度に冷却するのに1時間以上の時間を要する。1℃/s以上の冷却速度とすることで、冷却床での処理時間が大幅に短縮することが可能となる。
【0027】
冷却床での冷却のタイミングは、200℃以下となるような時間を予め把握して、所定時間後に冷却を開始しても良い。また、温度計でレール頭部表面の温度を測定して、200℃以下になっていることを確認した後、冷却を開始しても良い。冷却床での冷却方法については、上方からの水スプレー冷却等公知の方法で問題ない。
【0028】
加速冷却終了後の復熱過程およびその後の自然放冷中のレール頭部の温度を常に温度測定する必要はなく、加速冷却終了後から30s以上、150s以下のタイミングで温度を測定すればよい。30sより小さいと復熱がまだ完了しておらず、レール頭部表面の温度が所望とするパーライト変態温度域の範囲内か否かを把握できず、レールの硬度が低下している恐れがある。また、150sより大きい場合には、復熱過程後の自然放冷での温度低下量が大きくなってしまい、復熱過程の温度を把握することが困難となり、レールの硬度が低下する恐れがある。レールは加速冷却終了後、冷却床に移送され、常温近くまで自然放冷されるのが一般的である。このため、加速冷却終了後から30s以上、150s以下となるような、冷却床への搬送中に温度を測定することが好ましい。これにより温度計一台でレール全長を測定することが可能となる。
【0029】
測定結果から所望の温度となっていない場合には、次材以降のレールに対して、冷却量の調整をすればよい。すなわち、温度が高ければ、冷却量を多くするために、噴射する冷媒の流量を多くして冷却能力を上げる、もしくは、冷却時間を延ばせばよい。また、温度が低ければ、冷却量を少なくするために、噴射する冷媒の流量を少なくして冷却能力を下げるか、もしくは、冷却時間を短くすればよい。
【0030】
加速冷却中の冷却速度については、レール頭部表面を1℃/s以上7℃/s以下で冷却し、表面近傍、即ちレール頭部表面の冷却面から5mm深さまでの範囲をパーライト変態開始させることが好ましい。より好ましくは、4℃/s以上、6℃/s以下である。衝風冷却などで冷却する場合には、温度が低下するとともに、冷却能力も低下してしまうため、レールの温度低下に伴い風量を上げることが好ましい。
【0031】
表面近傍の変態が開始すると、その変態発熱で、温度が上昇する。変態発熱による温度上昇は50℃以下とすることが好ましい。より好ましくは30℃以下である。
【0032】
表面近傍の変態発熱による温度上昇が終了したのちは、1℃/s以上、5℃/s以下で冷却することが好ましい。より好ましくは、1.5℃/s以上、2.5℃/s以下である。5℃/sより大きいと、より大きな冷却装置が必要となり、設備コストがかさんでしまう。また、冷却量の調整量のバラツキも大きくなってしまい、より高精度な冷却措置の制御が要求されるため、設備コストがかさんでしまう。
【0033】
上記の冷却方法で冷却したレール頭部の冷却面から5mm深さまでの範囲において、ベイナイト生成率が15%以下である必要がある。残部組織はパーライト生成率が85%以上であることが好ましい。ベイナイト生成率が15%より大きくなると、フルパーライトと比較して耐摩耗性に劣るためである。なお、ここでいうベイナイト生成率とは、通常の光学顕微鏡による組織観察で視認可能なベイナイトの面積率である。なお、ベイナイト以外の組織の生成率についても同様に、生成率とは面積率を意味する。
【0034】
なお、レールの成分組成については従来公知の範囲でよく、質量%で、例えばCの含有量:0.7以上1.00以下%、Siの含有量:0.20以上1.20以下%、Mnの含有量:0.20以上1.50以下%、Pの含有量:0.035以下%、Sの含有量:0.012以下%、Crの含有量:0.20以上1.50以下%、この他任意に、Cu、Ni、Mo、V、Nb、Al、Ti、Sbの中から選ばれる少なくとも1種を夫々0.01以上1.00以下%、B、Ca、Mg、REMの少なくとも1種を夫々0.001以上0.10以下%含んでも良く、残部は鉄及び不可避的不純物であることが好ましい。本発明のレール頭部の冷却面から5mm深さまでの領域以外の鋼組織については特に限定はなく、従来のものであっても良い。
【実施例
【0035】
表1に示す成分組成を有し、900℃で熱間圧延を終了させた長尺のレールを冷却装置に全長ほぼ同時に挿入し、レール頭部の表面温度が770℃の状態からヘッダを近づけて空気によって冷却した。冷却中のレール頭部の角の温度を放射温度計で測定し、レール頭部表面の冷却速度を測定した。加速冷却開始からレール表面近傍の変態発熱による温度上昇が発生するまでは、5.5℃/sで冷却し、表面近傍の変態発熱による温度上昇が終了した後は、1.5℃/sで冷却した。加速冷却終了後、レールを冷却装置から取り出し、冷却床へ搬送した。この際、冷却床へ搬送している途中のレールの頭部表面の温度を測定し、復熱の完了時のレール頭部表面の温度とした。この温度が所定の値になるように、表面近傍の変態発熱による温度上昇が終了した後の冷却時間を調整した。
【0036】
【表1】
【0037】
常温となったレールから、JIS Z 2243に従ってサンプルを切断し、頭部中央の表面の位置および内部23mm位置の硬度を測定し、頭部中央および両側頭角表面から5mm深さの位置の平均パーライト生成率を調査した。結果を表2に示す。また、測定した表面温度の履歴をサーメックで再現し、冷却中の変態挙動を調査した。なお、パーライト以外の組織は全てベイナイトであった。なお、表1で示した成分の恒温変態曲線を作成すると、パーライトの変態温度域は750~525℃であった。表面硬度がHB430以上を表面硬度が良好と判断した。また、内部硬度がHB385以上を内部硬度が良好と判断した。常温でのパーライト生成率が85%以上を本発明の範囲とし、常温でのパーライト生成率が高い程、より組織が良好であると判断した。なお、加速冷却終了時の各パーライト生成率を100%から差し引いた値がオーステナイトの残存量とみなされる。
【0038】
【表2】
【0039】
実施例1では、復熱完了時のレール頭部表面の温度を610℃としたので、硬度と組織が良好であった。実施例2では、復熱完了時のレール頭部表面の温度を550℃としたので、実施例1と比較して、さらに硬度が上昇した。どちらの実施例でも、加速冷却終了直後のレール表面でのパーライト変態率は35%であったが、その後の復熱過程でパーライト変態した。
【0040】
一方、比較例では、加速冷却終了直後のレール表面でのパーライト変態率は35%であり、復熱完了時のレール頭部表面の温度を450℃としたので、加速冷却終了後の復熱過程でパーライト変態しなかった。そのため、表面近傍に多量のベイナイトが生成してしまい、表面硬度が大幅に低下した。
図1
図2
図3