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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20231219BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 29/41 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L29/78 655C
H01L29/78 657D
H01L29/78 657A
H01L29/78 652T
H01L29/78 652Q
H01L29/78 657F
H01L29/78 655G
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 655B
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/91 C
H01L29/91 F
H01L29/78 655E
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/78 655F
H01L29/44 Y
H01L27/06 102A
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2022536411
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2021026375
(87)【国際公開番号】W WO2022014623
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2020121285
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿形 泰典
(72)【発明者】
【氏名】白川 徹
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047285(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/111500(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/120999(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/100995(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/100997(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/06
H01L 29/861
H01L 29/41
H01L 21/8234
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域の下方に設けられ、1または複数のピークを有する第1導電型のフィールドストップ領域と、
前記フィールドストップ領域の下方に設けられた第2導電型のコレクタ領域と、
を備え、
前記コレクタ領域の積分濃度をx[cm-2]とし、前記1または複数のピークのうち前記半導体基板の裏面から最も浅い第1ピークの深さをy1[μm]とし、
線A1:y1=(-7.4699E-01)ln(x)+(2.7810E+01)
線B1:y1=(-4.7772E-01)ln(x)+(1.7960E+01)
とした場合に、
前記第1ピークの深さおよび前記積分濃度が、線A1と線B1との間の範囲にあり、
前記1または複数のピークのうち前記裏面から2番目に浅い第2ピークの深さをy2[μm]とし、
線A2:y2=(-3.1095E+00)ln(x)+(1.1416E+02)
線B2:y2=(-1.9239E+00)ln(x)+(7.1030E+01)
とした場合に、
前記第2ピークの深さおよび前記積分濃度が、線A2と線B2との間の範囲にある
半導体装置。
【請求項2】
線A3:y3=(-2.8924E+00)ln(x)+(1.0629E+02)
線B3:y3=(-2.1020E+00)ln(x)+(7.7530E+01)
とした場合に、
前記第2ピークの深さおよび前記積分濃度が、線A3と線B3との間の範囲にある
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域の下方に設けられ、1または複数のピークを有する第1導電型のフィールドストップ領域と、
前記フィールドストップ領域の下方に設けられた第2導電型のコレクタ領域と、
を備え、
前記コレクタ領域の積分濃度をx[cm -2 ]とし、前記1または複数のピークのうち前記半導体基板の裏面から最も浅い第1ピークの深さをy1[μm]とし、
線A1:y1=(-7.4699E-01)ln(x)+(2.7810E+01)
線B1:y1=(-4.7772E-01)ln(x)+(1.7960E+01)
とした場合に、
前記第1ピークの深さおよび前記積分濃度が、線A1と線B1との間の範囲にあり、
前記第1ピークのドーパントはリンである
半導体装置。
【請求項4】
半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域の下方に設けられ、1または複数のピークを有する第1導電型のフィールドストップ領域と、
前記フィールドストップ領域の下方に設けられた第2導電型のコレクタ領域と、
を備え、
前記コレクタ領域の積分濃度をx[cm -2 ]とし、前記1または複数のピークのうち前記半導体基板の裏面から最も浅い第1ピークの深さをy1[μm]とし、
線A1:y1=(-7.4699E-01)ln(x)+(2.7810E+01)
線B1:y1=(-4.7772E-01)ln(x)+(1.7960E+01)
とした場合に、
前記第1ピークの深さおよび前記積分濃度が、線A1と線B1との間の範囲にあり、
前記1または複数のピークのうち、前記第1ピーク以外のピークのドーパントは水素である
半導体装置。
【請求項5】
前記コレクタ領域の積分濃度は、8.00E15cm-2以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記コレクタ領域の積分濃度は、3.00E14cm-2以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記コレクタ領域の積分濃度は、2.00E14cm-2以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記コレクタ領域の積分濃度は、1.00E14cm-2以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記コレクタ領域の積分濃度は、5.00E13cm-2以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記コレクタ領域の積分濃度は、3.00E13cm-2以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記コレクタ領域の積分濃度は、1.00E13cm-2以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記第1ピークの深さは、0.5μm以上、7.2μm以下である
請求項1から11のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第1ピークの深さは、2.0μm以上、7.2μm以下である
請求項1から11のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記1または複数のピークのうち前記裏面から2番目に浅い第2ピークの深さをy2[μm]とし、
線A2:y2=(-3.1095E+00)ln(x)+(1.1416E+02)
線B2:y2=(-1.9239E+00)ln(x)+(7.1030E+01)
とした場合に、
前記第2ピークの深さおよび前記積分濃度が、線A2と線B2との間の範囲にある
請求項3または4に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記第2ピークの深さは、3.5μm以上、28μm以下である
請求項1、2および14のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記半導体装置に接続された回路の浮遊インダクタンスLsをXc[nH]、コレクタ電流減少率dIce/dtをYc[A/μs]とし、
線C1:Yc=10000Xc-1
とした場合に、
前記浮遊インダクタンスLsおよび前記コレクタ電流減少率dIce/dtは、線C1よりも大きい範囲にある
請求項1から15のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記1または複数のピークのドーパントは水素である
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記半導体基板に設けられた活性領域と、
前記半導体基板の上面視において、前記活性領域の外周に設けられた外周領域と
を備える
請求項1から17のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の上方に設けられ、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域と、
前記ベース領域の上方に設けられ、前記ベース領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型のコンタクト領域と、
前記半導体基板に設けられた複数のゲートトレンチ部と
を備える請求項1から18のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記フィールドストップ領域と前記コレクタ領域の境界におけるドーピング濃度が1E16cm-3以下である
請求項1から19のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項21】
前記フィールドストップ領域と前記コレクタ領域の境界におけるドーピング濃度が5E15cm-3以下である
請求項1から20のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項22】
前記フィールドストップ領域と前記コレクタ領域の境界におけるドーピング濃度が2E15cm-3以下である
請求項1から21のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項23】
前記フィールドストップ領域と前記コレクタ領域の境界における水素化学濃度が1E18cm-3以下である
請求項1から22のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項24】
前記フィールドストップ領域と前記コレクタ領域の境界における水素化学濃度が1E17cm-3以下である
請求項1から23のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項25】
前記フィールドストップ領域と前記コレクタ領域の境界における水素化学濃度が1E15cm-3以上である
請求項1から24のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項26】
前記フィールドストップ領域と前記コレクタ領域の境界における水素化学濃度が1E16cm-3以上である
請求項1から25のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項27】
前記第1ピークのドーパントはリンである
請求項1、2または4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項28】
前記1または複数のピークのうち、前記第1ピーク以外のピークのドーパントは水素である
請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィールドストップ領域を備える半導体装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開2015-135954号公報
【解決しようとする課題】
【0003】
電流遮断時のサージ電圧による素子の破壊を防止することが好ましい。
【一般的開示】
【0004】
本発明の第1の態様においては、半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、ドリフト領域の下方に設けられ、1または複数のピークを有する第1導電型のフィールドストップ領域と、フィールドストップ領域の下方に設けられた第2導電型のコレクタ領域と、を備え、コレクタ領域の積分濃度をx[cm-2]とし、1または複数のピークのうち半導体基板の裏面から最も浅い第1ピークの深さをy1[μm]とし、
線A1:y1=(-7.4699E-01)ln(x)+(2.7810E+01)
線B1:y1=(-4.7772E-01)ln(x)+(1.7960E+01)
とした場合に、第1ピークの深さおよび積分濃度が、線A1と線B1との間の範囲にある半導体装置を提供する。
【0005】
コレクタ領域の積分濃度は、8.00E15cm-2以下であってよい。
【0006】
コレクタ領域の積分濃度は、3.00E14cm-2以下であってよい。
【0007】
コレクタ領域の積分濃度は、2.00E14cm-2以下であってよい。
【0008】
コレクタ領域の積分濃度は、1.00E14cm-2以下であってよい。
【0009】
コレクタ領域の積分濃度は、5.00E13cm-2以下であってよい。
【0010】
コレクタ領域の積分濃度は、3.00E13cm-2以下であってよい。
【0011】
コレクタ領域の積分濃度は、1.00E13cm-2以下であってよい。
【0012】
第1ピークの深さは、0.5μm以上、7.2μm以下であってよい。
【0013】
第1ピークの深さは、2.0μm以上、7.2μm以下であってよい。
【0014】
1または複数のピークのうち裏面から2番目に浅い第2ピークの深さをy2[μm]とし、
線A2:y2=(-3.1095E+00)ln(x)+(1.1416E+02)
線B2:y2=(-1.9239E+00)ln(x)+(7.1030E+01)
とした場合に、第2ピークの深さおよび積分濃度が、線A2と線B2との間の範囲にあってよい。
【0015】
第2ピークの深さは、3.5μm以上、28μm以下であってよい。
【0016】
半導体装置に接続された回路の浮遊インダクタンスLsをXc[nH]、コレクタ電流減少率dIce/dtをYc[A/μs]とし、
線C1:Yc=10000Xc-1
とした場合に、浮遊インダクタンスLsおよびコレクタ電流減少率dIce/dtは、線C1よりも大きい範囲にあってよい。
【0017】
1または複数のピークのドーパントは水素であってよい。
【0018】
半導体基板に設けられた活性領域と、半導体基板の上面視において、活性領域の外周に設けられた外周領域とを備えてよい。
【0019】
ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のベース領域と、ベース領域の上方に設けられ、ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域と、ベース領域の上方に設けられ、ベース領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型のコンタクト領域と、半導体基板に設けられた複数のゲートトレンチ部とを備えてよい。
【0020】
フィールドストップ領域とコレクタ領域の境界におけるドーピング濃度は1E16cm-3以下であってよい。
【0021】
フィールドストップ領域とコレクタ領域の境界におけるドーピング濃度は5E15cm-3以下であってよい。
【0022】
フィールドストップ領域とコレクタ領域の境界におけるドーピング濃度は2E15cm-3以下であってよい。
【0023】
フィールドストップ領域とコレクタ領域の境界における水素化学濃度は1E18cm-3以下であってよい。
【0024】
フィールドストップ領域とコレクタ領域の境界における水素化学濃度は1E17cm-3以下であってよい。
【0025】
フィールドストップ領域とコレクタ領域の境界における水素化学濃度は1E15cm-3以上であってよい。
【0026】
フィールドストップ領域とコレクタ領域の境界における水素化学濃度は1E16cm-3以上であってよい。
【0027】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】半導体装置100の上面図の一例である。
図1B図1Aの領域Aに対応する半導体装置100の上面図の一例である。
図1C図1Bにおけるb-b'断面の一例を示す図である。
図1D図1Cのc-c'線の位置における、深さ方向のドーピング濃度分布の一例を示す図である。
図1E図1Dにおけるフィールドストップ領域20およびコレクタ領域22の拡大図である。
図1F】第1の濃度ピークおよびコレクタ領域22における、深さ方向のネット・ドーピング濃度及び水素化学濃度の分布の一例を示す図である。
図1G図1Aの領域Bに対応する半導体装置100の上面図の一例である。
図1H図1Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。
図2A】半導体装置100のクランプ耐量試験時の回路の一例である。
図2B】半導体装置100のクランプエネルギを説明するための図である。
図3A】コレクタ領域22のドーピング濃度とクランプエネルギとの関係を示す。
図3B】コレクタ領域22のドーピング濃度と素子の耐圧との関係を示す。
図4A】実施例に係る半導体装置100の電流電圧特性の一例を示す。
図4B】比較例に係る半導体装置500の電流電圧特性の一例を示す。
図5A】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の例を示す。
図5B】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。
図5C】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。
図6A】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。
図6B】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。
図6C】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。
図6D】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。
図6E】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。
図6F】コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。
図7A】コレクタ領域22の積分濃度と第2ピークP2の深さとの関係を示す。
図7B】コレクタ領域22の積分濃度と第2ピークP2の深さとの関係の他の例を示す。
図7C】コレクタ領域22の積分濃度と第2ピークP2の深さとの関係を示す。
図8A】浮遊インダクタンスLsとコレクタ電流減少率dIce/dtとの関係を説明するための図である。
図8B】比浮遊インダクタンスLs・Aと電流密度dJce/dtとの関係を説明するための図である。
図9】比浮遊インダクタンスLs・Aと比ゲート抵抗Rg・Aとの関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0030】
本明細書においては、半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」、「おもて」、「裏」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
【0031】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0032】
本明細書では、半導体基板の上面と平行な面をXY面とし、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。半導体基板の深さ方向をZ軸と称する場合がある。なお、本明細書において、Z軸方向に半導体基板を視た場合について平面視と称する。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
【0033】
各実施例においては、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示しているが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。
【0034】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0035】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0036】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をN、アクセプタ濃度をNとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はN-Nとなる。
【0037】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。VOH欠陥を、単に水素ドナーと称する場合がある。
【0038】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。
【0039】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。尚、本発明における各濃度は、室温における値でよい。室温における値は、一例として300K(ケルビン)(約26.9℃)のときの値を用いてよい。
【0040】
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。
【0041】
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
【0042】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度のたとえば0.1%から10%程度である。
【0043】
本明細書の単位系は、特に断りがなければSI単位系である。長さの単位をcm等で表示することがあるが、諸計算はメートル(m)に換算してから行ってよい。
【0044】
本明細書においてドーピング濃度とは、ドナーまたはアクセプタ化したドーパントの濃度を指す。したがって、その単位は、/cmである。本明細書において、ドナーおよびアクセプタの濃度差(すなわちネットドーピング濃度)をドーピング濃度とする場合がある。この場合、ドーピング濃度はSR法で測定できる。また、ドナーおよびアクセプタの化学濃度をドーピング濃度としてもよい。この場合、ドーピング濃度はSIMS法で測定できる。特に限定していなければ、ドーピング濃度として、上記のいずれを用いてもよい。特に限定していなければ、ドーピング領域におけるドーピング濃度分布のピーク値を、当該ドーピング領域におけるドーピング濃度としてよい。
【0045】
また、本明細書においてドーズ量とは、イオン注入を行う際に、ウェハに注入される単位面積あたりのイオンの個数をいう。したがって、その単位は、/cmである。なお、半導体領域のドーズ量は、その半導体領域の深さ方向にわたってドーピング濃度を積分した積分濃度とすることができる。その積分濃度の単位は、/cmである。したがって、ドーズ量と積分濃度とを同じものとして扱ってよい。積分濃度は、半値幅までの積分値としてもよく、他の半導体領域のスペクトルと重なる場合には、他の半導体領域の影響を除いて導出してよい。
【0046】
よって、本明細書では、ドーピング濃度の高低をドーズ量の高低として読み替えることができる。即ち、一の領域のドーピング濃度が他の領域のドーピング濃度よりも高い場合、当該一の領域のドーズ量が他の領域のドーズ量よりも高いものと理解することができる。
【0047】
図1Aは、半導体装置100の上面図の一例である。半導体装置100は、活性領域110と、外周領域120と、パッド領域130とを備える。半導体装置100は、トランジスタ部70およびダイオード部80を備える半導体チップである。半導体装置100は、温度センス部76を備え、IPM(Intelligent Power Module)等のモジュールに搭載されてよい。
【0048】
トランジスタ部70は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のトランジスタを含む。ダイオード部80は、還流ダイオード(FWD:Free Wheel Diode)等のダイオードを含む。本例の半導体装置100は、トランジスタ部70およびダイオード部80を同一のチップに有する逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)である。本例では、トランジスタ部70のトランジスタは、IGBTである。
【0049】
半導体基板10は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。本例の半導体基板10は、シリコン基板である。半導体基板10は、活性領域110および外周領域120を有する。
【0050】
トランジスタ部70およびダイオード部80は、XY平面内において交互に周期的に配列されてよい。本例の半導体装置100は、複数のトランジスタ部70および複数のダイオード部80をそれぞれ備える。本例のトランジスタ部70およびダイオード部80は、Y軸方向に延伸するトレンチ部を有する。但し、トランジスタ部70およびダイオード部80は、X軸方向に延伸するトレンチ部を有していてもよい。
【0051】
温度センス部76は、活性領域110の上方に設けられる。温度センス部76は、単結晶または多結晶のシリコンで形成されてよい。半導体装置100の温度が変化すると、温度センス部76に流れる電流の順方向電圧が変化する。順方向電圧の変化に基づいて、半導体装置100の温度を検出することができる。
【0052】
活性領域110は、トランジスタ部70およびダイオード部80を有する。活性領域110は、半導体装置100をオン状態に制御した場合に、半導体基板10のおもて面と裏面との間で主電流が流れる領域である。即ち、半導体基板10のおもて面から裏面、または裏面からおもて面に、半導体基板10の内部を深さ方向に電流が流れる領域である。本明細書では、トランジスタ部70およびダイオード部80をそれぞれ素子部または素子領域と称する。
【0053】
なお、上面視において、2つの素子部に挟まれた領域も活性領域110とする。本例では、素子部に挟まれてゲートランナー51が設けられている領域も活性領域110に含めている。
【0054】
ゲートランナー51は、パッド領域130のゲートパッド131から供給されるゲート電位をトランジスタ部70のゲート導電部に供給してよい。ゲートランナー51は、上面視において、活性領域110の外周に沿って設けられている。ゲートランナー51は、上面視において、トランジスタ部70およびダイオード部80の間の領域にも設けられてよい。
【0055】
外周領域120は、上面視において、活性領域110とパッド領域130を囲むように半導体基板10の端部周辺に設けられる。半導体基板10の外周端との間の領域である。外周領域120は、上面視において、活性領域110を囲んで設けられる。外周領域120は、エッジ終端構造部を有してよい。エッジ終端構造部は、半導体基板10のおもて面側の電界集中を緩和する。例えば、エッジ終端構造部は、ガードリング、フィールドプレート、リサーフおよびこれらを組み合わせた構造を有する。
【0056】
パッド領域130は、ゲートパッド131、センスIGBT132、センスエミッタパッド133、アノードパッド134およびカソードパッド135を有する。本例では、カソードパッド135、アノードパッド134、ゲートパッド131、センスIGBT132およびセンスエミッタパッド133がこの順でX軸方向に並べて設けられる。各パッドは、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)またはアルミニウム(Al)等を含む電極パッドであってよい。
【0057】
ゲートパッド131は、ゲートランナー51を介してトランジスタ部70のゲート導電部と電気的に接続される。ゲートパッド131は、ゲート電位に設定されている。
【0058】
センスIGBT132は、トランジスタ部70に流れる主電流を検出するためのIGBTである。センスIGBT132には、トランジスタ部70に流れる主電流に比例した電流が流れる。センスIGBT132に流れるセンス電流を、半導体装置100の外部に設けられた制御回路に取り込むことにより、トランジスタ部70の主電流を検出することができる。本例のセンスエミッタパッド133は、センスIGBT132のエミッタと同じ電位を有する。センス電流は、センスIGBT132を経てセンスエミッタパッド133から上述の制御回路に取り込まれてよい。制御回路はセンス電流に基づいて主電流を検知して、トランジスタ部70に過電流が流れている場合にトランジスタ部70に流れる電流を遮断してよい。
【0059】
アノードパッド134は、温度センス部76と電気的に接続され、温度センス部76のアノード電位に設定される。同様に、カソードパッド135は、温度センス部76と電気的に接続され、温度センス部76のカソード電位に設定される。アノードパッド134およびカソードパッド135を用いて、温度センス部76のアノード‐カソード間の電位差を検知することができる。
【0060】
図1Bは、図1Aの領域Aに対応する半導体装置100の上面図の一例である。即ち、活性領域110の端部の拡大図を示している。
【0061】
トランジスタ部70は、半導体基板10の裏面側に設けられたコレクタ領域22を半導体基板10のおもて面に投影した領域である。コレクタ領域22は、第2導電型を有する。本例のコレクタ領域22は、一例としてP+型である。トランジスタ部70は、トランジスタ部70とダイオード部80の境界に位置する境界部90を含む。
【0062】
ダイオード部80は、半導体基板10の裏面側に設けられたカソード領域82を半導体基板10のおもて面に投影した領域である。カソード領域82は、第1導電型を有する。本例のカソード領域82は、一例としてN+型である。
【0063】
本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面において、ゲートトレンチ部40と、ダミートレンチ部30と、エミッタ領域12と、ベース領域14と、コンタクト領域15と、ウェル領域17とを備える。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面の上方に設けられたエミッタ電極52およびゲート金属層50を備える。
【0064】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、エミッタ領域12、ベース領域14、コンタクト領域15およびウェル領域17の上方に設けられている。また、ゲート金属層50は、ウェル領域17およびゲートランナー51の上方に設けられている。本例のエミッタ電極52は、トランジスタ部70のエミッタ電位に設定されている。
【0065】
ゲート金属層50は、トランジスタ部70のゲート導電部と電気的に接続され、トランジスタ部70にゲート電圧を供給する。ゲート金属層50は、ゲートパッド131と電気的に接続される。ゲート金属層50は、上面視で、活性領域110の外周に沿って設けられる。ゲート金属層50は、上面視で、トランジスタ部70およびダイオード部80の間にも設けられてよい。
【0066】
ゲートランナー51は、ゲート金属層50とゲートトレンチ部40内のゲート導電部とを接続する。ゲートランナー51は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。例えば、ゲートランナー51は、不純物がドープされたポリシリコン等で形成される。
【0067】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、金属を含む材料で形成される。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、アルミニウム‐シリコン合金、またはアルミニウム‐シリコン‐銅合金で形成されてよい。エミッタ電極52は、アルミニウム等で形成された領域の下層にチタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。エミッタ電極52およびゲート金属層50は、互いに分離して設けられる。
【0068】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、層間絶縁膜38を挟んで、半導体基板10の上方に設けられる。層間絶縁膜38は、図1Bでは省略されている。層間絶縁膜38には、コンタクトホール54、コンタクトホール55およびコンタクトホール56が貫通して設けられている。
【0069】
コンタクトホール55は、ゲート金属層50とゲートランナー51とを接続する。コンタクトホール55の内部には、タングステン等で形成されたプラグが形成されてもよい。コンタクトホール55は、ゲートランナー51に沿って設けられてよい。
【0070】
コンタクトホール56は、エミッタ電極52とダミートレンチ部30内のダミー導電部とを接続する。コンタクトホール56の内部には、タングステン等で形成されたプラグが形成されてもよい。
【0071】
接続部25は、エミッタ電極52とコンタクトホール56の内部のプラグとを電気的に接続する。接続部25は、不純物がドープされたポリシリコン等の導電性材料を有する。本例の接続部25は、N型の不純物がドープされたポリシリコンである。接続部25は、上面視において、コンタクトホール56よりも大きな範囲を覆う。接続部25は、酸化膜等の絶縁膜等を介して、半導体基板10のおもて面の上方に設けられる。
【0072】
ゲートトレンチ部40は、予め定められた配列方向(本例ではX軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面に平行であって配列方向と垂直な延伸方向(本例ではY軸方向)に沿って延伸する2つの延伸部分41と、2つの延伸部分41を接続する接続部分43を有してよい。
【0073】
接続部分43は、少なくとも一部が曲線状に形成されることが好ましい。ゲートトレンチ部40の2つの延伸部分41の端部を接続することで、延伸部分41の端部における電界集中を緩和できる。ゲートトレンチ部40の接続部分43において、ゲートランナー51がゲート導電部と接続されてよい。
【0074】
ダミートレンチ部30は、エミッタ電極52と電気的に接続されたトレンチ部である。ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、予め定められた配列方向(本例ではX軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、半導体基板10のおもて面においてU字形状を有してよい。即ち、ダミートレンチ部30は、延伸方向に沿って延伸する2つの延伸部分31と、2つの延伸部分31を接続する接続部分33を有してよい。
【0075】
ウェル領域17は、後述するドリフト領域18よりも半導体基板10のおもて面側に設けられた第2導電型の領域である。ウェル領域17は、半導体装置100のエッジ側に設けられるウェル領域の一例である。ウェル領域17は、一例としてP+型である。ウェル領域17は、ゲート金属層50が設けられる側の活性領域110の端部から、予め定められた範囲で形成される。ウェル領域17の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の、ゲート金属層50側の一部の領域は、ウェル領域17に形成される。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の延伸方向の端の底は、ウェル領域17に覆われてよい。
【0076】
コンタクトホール54は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12およびコンタクト領域15の各領域の上方に形成される。また、コンタクトホール54は、ダイオード部80において、ベース領域14の上方に設けられる。コンタクトホール54は、境界部90において、コンタクト領域15の上方に設けられる。いずれのコンタクトホール54も、延伸方向の両端に設けられたウェル領域17の上方には設けられていない。このように、層間絶縁膜38には、1または複数のコンタクトホール54が形成されている。1または複数のコンタクトホール54は、延伸方向に延伸して設けられてよい。
【0077】
境界部90は、トランジスタ部70に設けられ、ダイオード部80と隣接する領域である。境界部90は、コンタクト領域15を有する。本例の境界部90は、エミッタ領域12を有さない。本例の境界部90は、配列方向における両端がダミートレンチ部30となるように配置されている。
【0078】
メサ部71、メサ部91およびメサ部81は、半導体基板10のおもて面と平行な面内において、トレンチ部に隣接して設けられたメサ部である。メサ部とは、隣り合う2つのトレンチ部に挟まれた半導体基板10の部分であって、半導体基板10のおもて面から、各トレンチ部の最も深い底部の深さまでの部分であってよい。各トレンチ部の延伸部分を1つのトレンチ部としてよい。即ち、2つの延伸部分に挟まれる領域をメサ部としてよい。
【0079】
メサ部71は、トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30またはゲートトレンチ部40の少なくとも1つに隣接して設けられる。メサ部71は、半導体基板10のおもて面において、ウェル領域17と、エミッタ領域12と、ベース領域14と、コンタクト領域15とを有する。メサ部71では、エミッタ領域12およびコンタクト領域15が延伸方向において交互に設けられている。
【0080】
メサ部91は、境界部90に設けられている。メサ部91は、半導体基板10のおもて面において、ベース領域14と、コンタクト領域15と、ウェル領域17とを有する。本例のメサ部91は、配列方向の両端がダミートレンチ部30と接しているが、少なくとも一方がゲートトレンチ部40と接していてもよい。本例では、1つのメサ部91が設けられているが、複数のメサ部91が設けられてもよい。
【0081】
メサ部81は、ダイオード部80において、隣り合うダミートレンチ部30に挟まれた領域に設けられる。メサ部81は、半導体基板10のおもて面において、ベース領域14およびウェル領域17を有する。
【0082】
ベース領域14は、トランジスタ部70およびダイオード部80において、半導体基板10のおもて面側に設けられた第2導電型の領域である。ベース領域14は、一例としてP-型である。ベース領域14は、半導体基板10のおもて面において、メサ部71およびメサ部91の延伸方向における両端部に設けられてよい。なお、図1Bは、当該ベース領域14の延伸方向の一方の端部のみを示している。
【0083】
エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い第1導電型の領域である。本例のエミッタ領域12は、一例としてN+型である。エミッタ領域12のドーパントの一例はヒ素(As)である。エミッタ領域12は、メサ部71のおもて面において、ゲートトレンチ部40と接して設けられる。エミッタ領域12は、メサ部71を挟んだ2本のトレンチ部の一方から他方まで、配列方向に延伸して設けられてよい。エミッタ領域12は、コンタクトホール54の下方にも設けられている。
【0084】
また、エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。本例のエミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接している。エミッタ領域12は、境界部90のメサ部91には設けられなくてよい。
【0085】
コンタクト領域15は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のコンタクト領域15は、一例としてP+型である。本例のコンタクト領域15は、メサ部71およびメサ部91のおもて面に設けられている。コンタクト領域15は、メサ部71またはメサ部91を挟んだ2本のトレンチ部の一方から他方まで、配列方向に設けられてよい。コンタクト領域15は、ゲートトレンチ部40と接してもよいし、接しなくてもよい。また、コンタクト領域15は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。本例においては、コンタクト領域15が、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40と接する。コンタクト領域15は、コンタクトホール54の下方にも設けられている。なお、コンタクト領域15は、メサ部81にも設けられてよい。
【0086】
図1Cは、図1Bにおけるb-b'断面の一例を示す図である。b-b'断面は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、b-b'断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。エミッタ電極52は、半導体基板10および層間絶縁膜38の上方に形成される。
【0087】
ドリフト領域18は、半導体基板10に設けられた第1導電型の領域である。本例のドリフト領域18は、一例としてN-型である。ドリフト領域18は、半導体基板10において他のドーピング領域が形成されずに残存した領域であってよい。即ち、ドリフト領域18のドーピング濃度は半導体基板10のドーピング濃度であってよい。
【0088】
フィールドストップ領域20は、ドリフト領域18の下方に設けられた第1導電型の領域である。本例のフィールドストップ領域20は、一例としてN型である。フィールドストップ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。フィールドストップ領域20は、ベース領域14の下面側から広がる空乏層が、第2導電型のコレクタ領域22および第1導電型のカソード領域82に到達することを防ぐ。
【0089】
フィールドストップ領域20は、1または複数のピークを有してよい。本例のフィールドストップ領域20は、第1ピークP1~第4ピークP4の4つのピークを有する。1または複数のピークのドーパントは水素であってよい。
【0090】
第1ピークP1~第4ピークP4は、この順で裏面23から順に設けられる。即ち、第1ピークP1が最も裏面23に近いピークである。第1ピークP1のドーピング濃度は、他のピークのドーピング濃度よりも高くてよい。これにより、電圧印加時の空乏層をゆっくりと確実に止めることができる。
【0091】
コレクタ領域22は、トランジスタ部70において、フィールドストップ領域20の下方に設けられる。カソード領域82は、ダイオード部80において、フィールドストップ領域20の下方に設けられる。コレクタ領域22とカソード領域82との境界は、トランジスタ部70とダイオード部80との境界である。
【0092】
コレクタ電極24は、半導体基板10の裏面23に形成される。コレクタ電極24は、金属等の導電材料で形成される。
【0093】
ベース領域14は、メサ部71、メサ部91およびメサ部81において、ドリフト領域18の上方に設けられる第2導電型の領域である。ベース領域14は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。ベース領域14は、ダミートレンチ部30に接して設けられてよい。
【0094】
エミッタ領域12は、メサ部71において、ベース領域14とおもて面21との間に設けられる。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40と接して設けられる。エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。なお、エミッタ領域12は、メサ部91に設けられなくてよい。
【0095】
コンタクト領域15は、メサ部91において、ベース領域14の上方に設けられる。コンタクト領域15は、メサ部91において、ダミートレンチ部30に接して設けられる。他の断面において、コンタクト領域15は、メサ部71のおもて面21に設けられてよい。
【0096】
蓄積領域16は、ドリフト領域18よりも半導体基板10のおもて面21側に設けられる第1導電型の領域である。本例の蓄積領域16は、一例としてN+型である。蓄積領域16は、トランジスタ部70およびダイオード部80に設けられる。本例の蓄積領域16は、境界部90にも設けられている。
【0097】
また、蓄積領域16は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。蓄積領域16は、ダミートレンチ部30に接してもよいし、接しなくてもよい。蓄積領域16のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、トランジスタ部70のオン電圧を低減できる。
【0098】
1つ以上のゲートトレンチ部40および1つ以上のダミートレンチ部30は、おもて面21に設けられる。各トレンチ部は、おもて面21からドリフト領域18まで設けられる。エミッタ領域12、ベース領域14、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられる領域においては、各トレンチ部はこれらの領域も貫通して、ドリフト領域18に到達する。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0099】
ゲートトレンチ部40は、おもて面21に形成されたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ゲートトレンチ部40は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。
【0100】
ゲート導電部44は、半導体基板10の深さ方向において、ゲート絶縁膜42を挟んでメサ部71側で隣接するベース領域14と対向する領域を含む。ゲート導電部44に予め定められた電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチに接する界面の表層に、電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0101】
ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、おもて面21側に形成されたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って形成される。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に形成され、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に形成される。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミートレンチ部30は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。
【0102】
層間絶縁膜38は、おもて面21に設けられている。層間絶縁膜38の上方には、エミッタ電極52が設けられている。層間絶縁膜38には、エミッタ電極52と半導体基板10とを電気的に接続するための1又は複数のコンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール55およびコンタクトホール56も同様に、層間絶縁膜38を貫通して設けられてよい。
【0103】
図1Dは、図1Cのc-c'線の位置における、深さ方向のドーピング濃度分布の一例を示す図である。c-c'線は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12からコレクタ領域22まで通過する。図1Dの縦軸は、対数軸である。なお、本例ではトランジスタ部70におけるフィールドストップ領域20のドーピング濃度分布を説明するが、ダイオード部80におけるフィールドストップ領域20も同様のドーピング濃度分布を有してよい。
【0104】
本例のドリフト領域18のドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度Dbである。本例の半導体基板10は、第1導電型(N型)のバルク・ドナーが全体に分布している。バルク・ドナーは、半導体基板10の元となるインゴットの製造時に、インゴット内に略一様に含まれたドーパントによるドナーである。本例のバルク・ドナーは、水素以外の元素である。バルク・ドナーのドーパントは、例えばリン、アンチモン、ヒ素、セレン、硫黄であるが、これに限定されない。本例のバルク・ドナーは、リンである。バルク・ドナーは、P型の領域にも含まれている。半導体基板10は、半導体のインゴットから切り出したウェハであってよく、ウェハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されよい。本例におけるインゴットは、MCZ法で製造されている。バルク・ドナー濃度Dbは、半導体基板10の全体に分布しているドナーの化学濃度を用いてよく、当該化学濃度の90%から100%の間の値であってもよい。
【0105】
本例では、フィールドストップ領域20におけるドーピング濃度分布が、深さ方向において異なる位置に4つの濃度ピークP1、P2、P3、P4を有する場合について説明する。但し、濃度ピークの数はこれに限定されない。本例において濃度ピークは、ドナー濃度のピークである。複数の濃度ピークは、水素またはリン等の不純物を、フィールドストップ領域20の複数の深さ位置に注入することで形成できる。一例として、P1の位置をリンとし、P2~P4をドナーとしての水素を用いてよい。本例ではP1~P4の全てがドナーとしての水素である。フィールドストップ領域20は、濃度ピークと対応する位置に、水素またはリン等の不純物の濃度ピークを有していてよい。不純物の濃度ピークは、不純物の化学濃度分布におけるピークである。複数の濃度ピークを設けることで、空乏層がコレクタ領域22に達することを、より抑制できる。
【0106】
図1Eは、図1Cのフィールドストップ領域20およびコレクタ領域22におけるドーピング濃度分布の拡大図である。図1Eの縦軸は、対数軸である。図1Eにおいて、複数の濃度ピークP1、P2、P3、P4のドーピング濃度のピーク値は、それぞれd1、d2、d3、d4である。また、コレクタ領域22とフィールドストップ領域20との間のpn接合の深さをJ1とする。
【0107】
複数の濃度ピークは、半導体基板10の裏面23に最も近い最浅ピークを含む。本例では、濃度ピークP1が最浅ピークに相当する。本例の濃度ピークP1は、コレクタ領域22に最も近い濃度ピークである。ダイオード部80のフィールドストップ領域20においては、濃度ピークP1は、カソード領域82に最も近い濃度ピークである。カソード領域82は、濃度ピークとは異なる不純物を注入することで形成されてよい。例えばカソード領域82はリン等の不純物濃度ピークを有し、フィールドストップ領域20は水素等の不純物濃度ピークを有する。
【0108】
複数の濃度ピークは、最浅ピーク(濃度ピークP1)よりも、裏面23から離れた位置に配置された高濃度ピークを含む。高濃度ピークは、最浅ピークに最も近い濃度ピークP2であってよく、他の濃度ピークであってもよい。図1Eの例では、濃度ピークP1に最も近い濃度ピークP2が高濃度ピークに相当する。
【0109】
複数の濃度ピークは、高濃度ピークよりも裏面23から離れた位置に配置され、ドーピング濃度のピーク値が高濃度ピークのピーク値の1/5以下である低濃度ピークを含む。低濃度ピークは、複数の濃度ピークのうち、裏面23から最も離れて配置された最深ピーク(本例では濃度ピークP4)であってよい。低濃度ピークは、最深ピーク以外の濃度ピークであってもよい。つまり低濃度ピークは、高濃度ピークと最深ピークとの間の濃度ピークであってもよい。
【0110】
また、低濃度ピークが2つ以上設けられていてもよい。低濃度ピークは、深さ方向に隣り合って配置されることが好ましい。複数の濃度ピークのうち、裏面23から最も遠くに配置された2つ以上の濃度ピークが、低濃度ピークであってよい。図1Eの例では、最深ピークである濃度ピークP4と、裏面23に向かって最深ピークの次に裏面23から離れた位置に設けられた濃度ピークP3と、P3の次に裏面23に近い濃度ピークP2とが、低濃度ピークである。最も裏面23に近い濃度ピーク以外の濃度ピークを、低濃度ピークとしてもよい。図1Eの例においては、濃度ピークP3のドーピング濃度のピーク値d3と、濃度ピークP4のドーピング濃度のピーク値d4のいずれもが、濃度ピークP1のドーピング濃度のピーク値d1の1/5以下である。低濃度ピークP2~P4の濃度ピークd2~d4が、濃度ピークP1のピーク値d1の1/10以下であってよい。なお、本例ではP3のピーク値d3がP4のピーク値d4よりも低くなっている。P3のピーク値d3は、P4のピーク値d4より高くてもよい。すなわち、P2からP4のピーク値は、おもて面21に向かって低下してよい。
【0111】
直列に接続された2つの半導体装置100が同時にオンする短絡状態等においては、半導体装置100のエミッタ/コレクタ間に高電圧が印加される場合がある。この場合、フィールドストップ領域20における最深ピーク(本例では濃度ピークP4)の近傍に、電界が集中しやすくなる。このため、濃度ピークP3および濃度ピークP4等のように、最深ピークの近傍におけるドーピング濃度を高くすると、電界の集中が促進されてしまう。電界が集中すると、半導体装置100のターンオフ時等においてゲート電圧が振動しやすくなる。
【0112】
本例の濃度ピークは、高濃度ピーク(濃度ピークP1)よりも深い位置に、ドーピング濃度が十分小さい低濃度ピークを設けている。このため、フィールドストップ領域20の深い位置における電界集中を緩和できる。上述したように、低濃度ピークは一以上であってよく、複数設けられていてもよい。これにより、比較的に低濃度のフィールドストップ領域20を、ドリフト領域18側に長く形成できる。図1Eの例では、フィールドストップ領域20は3つの低濃度ピークを有しているが、他の例では、フィールドストップ領域20は4つ以上の低濃度ピークを有していてもよい。また、最深ピークは、半導体基板10のおもて面21側に設けられていてもよい。フィールドストップ領域20のドリフト領域18側を低濃度領域としつつ、低濃度領域を深さ方向に長く形成することで、電界集中を緩和しつつ、フィールドストップ機能を維持しやすくなる。
【0113】
低濃度ピークのドーピング濃度のピーク値は、高濃度ピークのドーピング濃度のピーク値の1/5以下であってよく、1/10以下であってよく、1/20以下であってもよい。低濃度ピークのドーピング濃度を低くすることで、電界集中をより緩和できる。
【0114】
また、低濃度ピークのドーピング濃度のピーク値は、バルク・ドナー濃度Dbよりも高い。低濃度ピークのドーピング濃度のピーク値は、半導体基板10のバルク・ドナー濃度Dbの50倍以下であってもよい。ドリフト領域18のドーピング濃度を、バルク・ドナー濃度Dbとして用いてよい。低濃度ピークのドーピング濃度のピーク値は、バルク・ドナー濃度Dbの20倍以下であってよく、10倍以下であってよく、8倍以下であってよく、5倍以下であってよく、3倍以下であってよく、2倍以下であってもよい。
【0115】
また、低濃度ピークのピーク間におけるドーピング濃度の極小値は、バルク・ドナー濃度Dbよりも高くてよく、バルク・ドナー濃度Dbの5倍以下であってよく、3倍以下であってよく、2倍以下であってよい。隣り合う低濃度ピークのどちらかのピーク濃度に対する、ピーク間の極小値の比は、0.8以下であってよく、0.5以下であってよく、0.2以下であってよく、0.1以上であってよく、0.2以上であってよく、0.5以上であってよい。
【0116】
濃度ピークP1、P2、P3、P4の深さ方向における位置を、それぞれZ1、Z2、Z3、Z4とする。濃度ピークP4と、濃度ピークP2との深さ方向における距離はZ4-Z2である。また、濃度ピークP1と、濃度ピークP2との深さ方向における距離はZ2-Z1である。距離Z4-Z2は、距離Z2-Z1より大きくてよい。また、濃度ピークP3と、濃度ピークP4との距離はZ4-Z3である。濃度ピークP3と、濃度ピークP2との距離はZ3-Z2である。距離Z4-Z3は、距離Z3-Z2より大きくてよい。また、距離Z4-Z3は、距離Z2-Z1より大きくてよい。
【0117】
また、濃度ピークP4のドーピング濃度のピーク値が、高濃度ピークのドーピング濃度のピーク値の1/5以下であってよく、1/10以下であってよく、1/20以下であってもよい。濃度ピークP4のドーピング濃度のピーク値は、バルク・ドナー濃度Dbよりも高い。濃度ピークP4と、濃度ピークP3のドーピング濃度のピーク値の平均値が、バルク・ドナー濃度Dbの50倍以下であってよく、20倍以下であってよく、10倍以下であってよく、8倍以下であってよく、5倍以下であってよく、3倍以下であってよく、2倍以下であってもよい。最も深い2つの濃度ピークのドーピング濃度の平均値を小さくすることで、ドリフト領域18の近傍のフィールドストップ領域20における電界集中を緩和できる。
【0118】
本例において、コレクタ領域22とフィールドストップ領域20の間のpn接合J1において、ドナー濃度またはアクセプタ濃度は、1E16/cm以下であってよく、5E15/cm以下であってよく、2E15/cm以下であってよい。なお、Eは10のべき乗を意味し、例えば1E16/cmは1×1016/cmを意味する。
【0119】
図1Fは、第1の濃度ピークおよびコレクタ領域22における、深さ方向のネット・ドーピング濃度及び水素化学濃度の分布の一例を示す図である。実線がネット・ドーピング濃度の分布の一例を表しており、破線が水素化学濃度の分布の一例を表している。図1Fの縦軸は対数軸である。ここで、図1Fに斜線で示した領域が、本例におけるコレクタ領域22の積分濃度である。すなわち、本明細書において、コレクタ領域22の積分濃度とは、コレクタ領域22のネット・ドーピング濃度を、裏面からフィールドストップ領域20とのpn接合位置J1まで半導体基板10の深さ方向に積分した濃度を意味する。また、コレクタ領域22とフィールドストップ領域20の間のpn接合J1における水素化学濃度Dhは、1E18/cm以下であってよく、1E17/cm以下であってよく、1E16/cm以上であってよく、1E15/cm以上であってよい。
【0120】
図1Gは、図1Aの領域Bに対応する半導体装置100の上面図の一例である。本例では、活性領域110の端部の拡大図を示している。領域Bは、活性領域110のトランジスタ部70およびゲートランナー51を含む領域である。本例の半導体装置100は、ダミートレンチ領域60およびウェルコンタクト領域65を備える。
【0121】
ダミートレンチ領域60は、トレンチ部としてダミートレンチ部30のみを有する領域である。ダミートレンチ領域60は、配列方向において、外周領域120に最も近いゲートトレンチ部40と外周領域120との間に設けられる。ダミートレンチ領域60は、配列方向において所定の間隔だけ離間して配置された複数のダミートレンチ部30を有する。
【0122】
ウェルコンタクト領域65は、ウェル領域17の一部に設けられ、コレクタ領域22から注入されたホールをエミッタ電極52へと引き抜く。ウェルコンタクト領域65は、コンタクト領域15を有する。ウェルコンタクト領域65のコンタクト領域15上には、コンタクトホール54が設けられる。コンタクト領域15は、複数のコンタクトホール54を通じてエミッタ電極52と電気的に接続される。なお、半導体装置100は、ウェルコンタクト領域65を備えなくてもよい。
【0123】
メサ部61には、ベース領域14、コンタクト領域15およびウェル領域17が設けられる。コンタクト領域15は、メサ部61において、配列方向において隣接する一方のダミートレンチ部30から、他方のダミートレンチ部30まで設けられる。本例のメサ部61は、コンタクト領域15を有するので、コンタクト領域15を有さない場合と比較して、ホールを引き抜きやすくなる。これにより、ウェル領域17の端部におけるアバランシェ電流の集中による半導体装置100の破壊を防止する。
【0124】
エミッタ電極52は、ダミートレンチ領域60およびウェルコンタクト領域65の上方にも設けられる。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を介して、ダミートレンチ領域60、ウェルコンタクト領域65およびトランジスタ部70のそれぞれにおいて、半導体基板10のおもて面21と電気的に接続されている。
【0125】
ウェル領域17は、上面視において、活性領域110の外周側に設けられる。ウェル領域17の内側端部を破線で示している。
【0126】
蓄積領域16は、トランジスタ部70からダミートレンチ領域60に延伸して設けられている。本例の蓄積領域16は、トランジスタ部70からダミートレンチ領域60の途中のメサ部61まで延伸して設けられている。蓄積領域16をトランジスタ部70からダミートレンチ領域60に延伸して設けることにより、蓄積領域16の形成用のマスクにずれが生じた場合であっても、トランジスタ部70に形成される蓄積領域16への影響が小さくなる。これにより、ゲート閾値電圧(Vth)のばらつき、および、飽和電流のばらつきを抑制できる。蓄積領域16の外側端部を破線で示している。
【0127】
図1Hは、図1Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。本例では、活性領域110および外周領域120にまたがる領域の断面図を示している。本例の外周領域120は、ガードリング構造およびチャネルストッパ構造を有する。
【0128】
ガードリング構造は、複数のガードリング部92を含んでよい。本例のガードリング構造は5つのガードリング部92を含む。各ガードリング部92は、おもて面21において活性領域110およびパッド領域130を囲むように設けられてよい。
【0129】
ガードリング構造は、活性領域110において発生した空乏層を半導体基板10の外側へ広げる機能を有してよい。これにより、半導体基板10内部における電界集中を防ぐことができる。それゆえ、ガードリング構造を設けない場合と比較して、半導体装置100の耐圧を向上させることができる。
【0130】
ガードリング部92は、おもて面21近傍にイオン注入により形成されたP+型の半導体領域である。ガードリング部92は、電極層94と電気的に接続される。電極層94は、ゲート金属層50またはエミッタ電極52と同じ材料であってよい。
【0131】
複数のガードリング部92は、層間絶縁膜38によって互いに電気的に絶縁される。ガードリング部92の底部の深さは、ウェル領域17の底部と同じ深さであってよい。ガードリング部92の底部の深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の底部の深さより深くてよい。
【0132】
チャネルストッパ構造は、チャネルストッパ領域96および電極層94を有する。チャネルストッパ領域96は、層間絶縁膜38の開口を通じて電極層94と電気的に接続する。チャネルストッパ領域96の導電型は、第1導電型であっても、第2導電型であってもよい。本例のチャネルストッパ領域96の導電型は、N+型である。チャネルストッパ領域96は、活性領域110において発生した空乏層を半導体基板10の外側端部において終端させる機能を有する。
【0133】
ウェル領域17は、配列方向においてウェルコンタクト領域65を超えて、さらに外側まで延伸してよい。本例のウェル領域17は、外周領域120における最も内側のガードリング部92とウェル領域17の外側端部との距離が近接するように設けられてよい。なお、本例の変形例として、ウェル領域17に代えて、ベース領域14を最も内側のガードリング部92の近傍まで拡張して設けてもよい。なお、ウェル領域17の上方において、コンタクト領域15とゲートランナー51との間に酸化膜39が設けられてよい。酸化膜39は、ダミー絶縁膜32またはゲート絶縁膜42と同一の工程で形成されてもよい。あるいは、酸化膜39は、より膜厚の厚いフィールド酸化膜等の工程で形成されてもよい。
【0134】
図2Aは、半導体装置100のクランプ耐量試験用の回路の一例である。半導体装置100のゲート端子には予め定められたゲート抵抗Rgを介して、ゲート電圧Vgが与えられている。クランプ耐量試験では、定格電流Icを、予め定められた電源電圧Vccでスイッチングさせる。電源電圧Vccは、定格電圧の6割程度であってよい。
【0135】
浮遊インダクタンスLsは、半導体装置100が接続される回路の浮遊インダクタンスである。浮遊インダクタンスLsが電流を維持しようとするため、電流遮断時にサージ電圧が発生する。浮遊インダクタンスLsを予め定められた初期値からスイッチング1回ごとに高くして、半導体装置100をターンオフさせる。浮遊インダクタンスLsを増加させると、跳ね上がり電圧ΔVが増加する。浮遊インダクタンスLsを増加させることにより、半導体装置100の内部の電界強度が増加して、素子が破壊されやすくなる。ここで、素子が破壊に至る1つ前の試験における結果をクランプエネルギ(即ち、破壊耐量)とする。
【0136】
図2Bは、半導体装置100のクランプエネルギを説明するための図である。同図は、ターンオフ時のコレクタ-エミッタ電流Iceおよびコレクタ-エミッタ間電圧Vceの挙動を示している。本例のグラフは、クランプ耐量試験において、浮遊インダクタンスLsを増加させながらターンオフを繰り返し、素子が破壊した浮遊インダクタンスLsの1つ前の波形を示している。半導体装置100のターンオフによって、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが跳ね上がり、一定期間、電圧が保持されている。電圧が一定の期間がクランプ期間である。
【0137】
クランプエネルギは、コレクタ-エミッタ間電圧Vceの跳ね上がりから電源電圧Vccに落ち着くまでの期間で、電流×電圧が0以上の範囲における積分値である。即ち、クランプエネルギは、∫Ice×Vce dtの積分値(即ち、エネルギ値)で示される。クランプエネルギが大きいほどターンオフ時の破壊耐量が大きいことを示す。
【0138】
図3Aは、コレクタ領域22のドーピング濃度とクランプエネルギとの関係を示す。縦軸はクランプエネルギ[mJ]を示し、横軸はコレクタ領域22のドーピング濃度を、裏面23から、コレクタ領域22とフィールドストップ領域20とのPN接合までの深さにわたって積分した積分値(以下、コレクタ領域22のドーピング濃度の積分値と称す)[cm-2]を示す。黒色の四角は、プロトンの加速エネルギが400keVの場合を示す。白色の四角は、プロトンの加速エネルギが300keVの場合を示す。プロトンは水素イオンの種類の一つである。水素ドナーは、たとえばプロトンを半導体基板にイオン注入することにより形成される。
【0139】
プロトンの加速エネルギが小さいほどプロトンの総ドーズ量が小さくなり、クランプエネルギが上昇しやすくなる。また、プロトンの総ドーズ量が小さいと、アバランシェ降伏時に裏面23から注入される正孔濃度が増加して、活性領域110側でアバランシェ降伏が発生しやすくなる。このように、活性領域110のクランプ耐圧が外周領域120のクランプ耐圧よりも低下すると、後述の通り、外周領域120における瞬時破壊を防止しやすくなる。瞬時破壊とは、例えばターンオフ時に、電流が遮断される前に素子が破壊することである。
【0140】
例えば、プロトンの加速エネルギが300keVの場合、コレクタ領域22のドーピング濃度の積分値がおよそ1.00E+14[cm-2]でクランプエネルギが最大値となる。この場合、例えば、第1ピークP1のプロトン飛程が3.13μmとなる。なお、1.00E+14[cm-2]とは、1.00×1014[cm-2]を示している。
【0141】
また、プロトンの加速エネルギが400keVの場合、コレクタ領域22のドーピング濃度の積分値がおよそ1.00E+13[cm-2]でクランプエネルギが最大値となる。この場合、例えばプロトン飛程が4.52μmとなる。
【0142】
なお、コレクタ領域22のドーピング濃度の積分値は、裏面ボロンの注入ドーズ量とおよそ等しいので、注入ドーズ量=コレクタ領域22のドーピング濃度の積分値としてよい。
【0143】
本例の半導体装置100は、コレクタ領域22の積分濃度とフィールドストップ領域20のピーク深さを制御することにより、活性領域110のクランプ耐圧を外周領域120のクランプ耐圧よりも小さくする。これにより、半導体装置100のクランプエネルギを向上することができる。
【0144】
図3Bは、コレクタ領域22のドーピング濃度と素子の耐圧との関係を示す。縦軸は素子の耐圧[V]を示し、横軸はコレクタ領域22のドーピング濃度[cm-3]を示す。コレクタ領域22はピークを有するドーピング濃度分布を備えてよい。この場合、コレクタ領域22のドーピング濃度は、コレクタ領域22のドーピング濃度のピーク値であってよい。本例では、フィールドストップ領域20が4つのピークを有する場合について説明する。
【0145】
グラフG1は、フィールドストップ領域20が4つのピークを有する場合の活性+エッジモデルを示す。活性+エッジモデルは、活性領域110と外周領域120の両方を考慮したシミュレーションモデルである。グラフG2は、フィールドストップ領域20が4つのピークを有する場合の活性モデルを示す。活性モデルは、外周領域120を考慮せず、活性領域110のみを考慮したシミュレーションモデルである。
【0146】
コレクタ領域22のドーピング濃度を小さくすることにより、活性領域110の耐圧が外周領域120の耐圧よりも低下する。即ち、素子の耐圧は活性領域110の耐圧となる。このように、素子の耐圧が活性領域110で決定されるようになると、クランプエネルギが増加する。
【0147】
一方、コレクタ領域22のドーピング濃度を大きくすることにより、活性領域110の耐圧が外周領域120の耐圧よりも増加する。即ち、素子の耐圧は外周領域120の耐圧となる。このように、素子の耐圧が外周領域120で決定されるようになると、クランプエネルギが低下する。以上により、クランプエネルギを高くするために、コレクタ領域22のドーピング濃度は6×1017(/cm)以下であってよく、5×1017(/cm)以下であってよい。
【0148】
図4Aは、実施例に係る半導体装置100の電流電圧特性の一例を示す。縦軸はコレクタ-エミッタ電流Ice[A]およびコレクタ-エミッタ間電圧Vce[V]を示し、横軸は時刻[s]を示す。また、半導体装置100の断面図では、時刻T1および時刻T2において、電子電流密度が大きな領域をそれぞれ破線で示している。本例のコレクタ領域22のドーピング濃度は、図3Bにおいて、活性領域110でクランプ耐圧が決定される範囲に設定されている。
【0149】
時刻T1は、半導体装置100がターンオフしてコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇したタイミングの時刻である。時刻T1では、活性領域110の破線で示す領域に電子電流が集中している。即ち、活性領域110の破線で示す領域の一部で、電子電流密度のピーク領域が形成されている。
【0150】
時刻T2は、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇して、800V前後でクランプされている時刻を示す。時刻T2において、アバランシェ降伏箇所の温度が上昇する。温度上昇により格子振動が激しくなり、電子が散乱する。電子の散乱により電流が流れにくくなると、電子電流密度のピーク領域が、活性領域110からウェル領域17の外周領域120側の端部に向かって移動する場合がある。
【0151】
このように、活性領域110の耐圧が外周領域120の耐圧よりも小さい場合、活性領域110側に形成された電子電流密度のピーク領域が、外周領域120側に移動する。これにより一時的に活性領域110の温度が低下する。また、アバランシェ降伏による電子電流密度のピーク領域が外周領域120側に移動したときには、パワー(即ち、Ice×Vce)が低下している。したがって、半導体装置100の温度上昇を緩和して、瞬時破壊を防止することができる。
【0152】
図4Bは、比較例に係る半導体装置500の電流電圧特性の一例を示す。縦軸はコレクタ-エミッタ電流Ice[A]およびコレクタ-エミッタ間電圧Vce[V]を示し、横軸は時刻[s]を示す。また、本例では、時刻T3および時刻T4において、電子電流密度のピーク領域をそれぞれ破線で示している。本例のコレクタ領域22のドーピング濃度は、図3Bにおいて、外周領域120で耐圧が決定される範囲に設定されている。
【0153】
半導体装置500は、外周領域120の耐圧が活性領域110の耐圧よりも小さくなるように、コレクタ領域22の積分濃度が設定されている。ターンオフにより、ウェル領域17の外周領域120側でアバランシェ降伏が発生し、電子電流密度のピーク領域が破線で示す箇所に形成される。時刻T3から時刻T4において、パワーが高い状態で、電子電流密度のピーク領域は破線で示した位置に停滞している。このため、電流集中により温度が上昇し続ける。このように、半導体装置500では、素子が破壊されやすくなり、クランプ耐量を向上することができない。
【0154】
外周領域120では、コレクタ領域22の正孔注入効率に応じたアバランシェ降伏の増幅に加えて、外周領域120側のコンタクトホール端にキャリアが集中しやすいことにより、アバランシェ降伏が発生しやすくなる。裏面23側の正孔濃度の上昇は、クランプ時のアバランシェ降伏を増幅させる。
【0155】
本例の半導体装置100は、コレクタ領域22のドーピング濃度と第1ピークP1の深さを適切に設定することにより、コレクタ領域22の正孔注入効率を低下させて、活性領域110のクランプ耐圧を外周領域120のクランプ耐圧よりも小さくする。これにより、活性領域110でアバランシェ降伏が発生した後に、外周領域120へとアバランシェ降伏が移動するので、瞬時破壊を抑制できる。コレクタ領域22のドーピング濃度と第1ピークP1の深さは、クランプエネルギが最大となるように設定されてよい。コレクタ領域22のドーピング濃度と第1ピークP1の深さの適切な範囲については後述する。
【0156】
なお、電流遮断時の素子破壊を防止するために想定されるサージ電圧(ターンオフ時に、コレクタ・エミッタ間電圧が電源電圧よりも増加した電圧のピーク値のこと)以上の耐圧を持つように設計すると、半導体基板10の深さ方向の厚みを厚くしたり、外周領域120の面積を大きくしたりする必要がある。チップコストを低減するために、素子の耐圧をサージ電圧以下に設計する場合がある。本例の半導体装置100は、ターンオフ時に活性領域110でアバランシェ降伏を発生させることにより、チップコストを低減しつつ、素子破壊を防止することができる。
【0157】
また、活性領域110の耐圧が外周領域120の耐圧よりも小さくなるように、フィールドストップ領域20の総ドーズ量と、コレクタ領域22の総ドーズ量を決定してよい。例えば、フィールドストップ領域20の総ドーズ量は、コレクタ領域22の総ドーズ量の10倍以下であってよく、コレクタ領域22の総ドーズ量の5倍以下であってもよい。
【0158】
図5Aは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の例を示す。縦軸は第1ピークP1の深さy1[μm]を示し、横軸はコレクタ領域22の積分濃度x[cm-2]を示す。
【0159】
ここで、図3Aで得られたプロトン最浅の加速エネルギと、クランプエネルギが最大となる2点のデータに基づいて、次の基準線L1を算出した。
基準線L1:y1=(-6.0367E-01)ln(x)+(2.2590E+01)
即ち、基準線L1は、クランプエネルギが最大となるコレクタ領域22の積分濃度と、クランプエネルギが最大となる第1ピークP1の深さとの関係を示している。
【0160】
領域R1は、基準線L1の±15%の範囲の領域を示す。本例の領域R1は、線A1と線B1との間の領域である。本例の線A1および線B1は、次式で示される。
線A1:y1=(-7.4699E-01)ln(x)+(2.7810E+01)
線B1:y1=(-4.7772E-01)ln(x)+(1.7960E+01)
この場合、第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、領域R1に属する。領域R1であれば、コレクタ領域22の正孔注入効率を抑制して、活性領域110のクランプ耐圧を外周領域120のクランプ耐圧よりも小さくすることができる。コレクタ領域22の積分濃度は、1.00E16cm-2以下であってよく、8.00E15cm-2以下であってもよい。第1ピークP1の深さは、0.5μm以上、7.2μm以下であってよい。
【0161】
本例の半導体装置100は、コレクタ領域22の積分濃度と、第1ピークP1の深さを領域R1に設定することにより、クランピング時のアバランシェ降伏を活性領域110側で発生させることができる。これにより、クランプ耐圧が向上する。
【0162】
図5Bは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。本例の領域R1は、基準線L1の±10%に該当する領域を示している。
【0163】
基準線L1は、図5Aの基準線L1と同一である。本例の線A1および線B1は、次式で示される。
線A1:y1=(-6.9487E-01)ln(x)+(2.5930E+01)
線B1:y1=(-5.2115E-01)ln(x)+(1.9540E+01)
この場合も同様に、第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、領域R1に属するように設定されてよい。
【0164】
図5Cは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。本例の領域R1は、基準線L1の±5%に該当する領域を示している。
【0165】
基準線L1は、図5Aの基準線L1と同一である。本例の線A1および線B1は、次式で示される。
線A1:y1=(-6.4710E-01)ln(x)+(2.4190E+01)
線B1:y1=(-5.6458E-01)ln(x)+(2.1130E+01)
この場合も同様に、第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、本例の領域R1に属するように設定されてよい。
【0166】
図6Aは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。基準線L1、線Aおよび線Bは、図5Aの各線と同一である。即ち、基準線L1の±15%に該当する領域を示している。但し、本例の領域R1は、コレクタ領域22の積分濃度が3.00E14cm-2以下である領域を示している。第1ピークP1の深さは、2.0μm以上、7.2μm以下であってよい。第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、本例の領域R1に属するように設定されてよい。
【0167】
図6Bは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。基準線L1、線Aおよび線Bは、図5Aの各線と同一である。即ち、基準線L1の±15%に該当する領域を示している。但し、本例の領域R1は、コレクタ領域22の積分濃度が2.00E14cm-2以下である領域を示している。第1ピークP1の深さは、2.2μm以上、7.2μm以下であってよい。第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、本例の領域R1に属するように設定されてよい。
【0168】
図6Cは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。基準線L1、線Aおよび線Bは、図5Aの各線と同一である。即ち、基準線L1の±15%に該当する領域を示している。但し、本例の領域R1は、コレクタ領域22の積分濃度が1.00E14cm-2以下である領域を示している。第1ピークP1の深さは、2.5μm以上、7.2μm以下であってよい。第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、本例の領域R1に属するように設定されてよい。
【0169】
図6Dは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。基準線L1、線Aおよび線Bは、図5Aの各線と同一である。即ち、基準線L1の±15%に該当する領域を示している。但し、本例の領域R1は、コレクタ領域22の積分濃度が5.00E13cm-2以下である領域を示している。第1ピークP1の深さは、3.0μm以上、7.2μm以下であってよい。第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、本例の領域R1に属するように設定されてよい。
【0170】
図6Eは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。基準線L1、線Aおよび線Bは、図5Aの各線と同一である。即ち、基準線L1の±15%に該当する領域を示している。但し、本例の領域R1は、コレクタ領域22の積分濃度が3.00E13cm-2以下である領域を示している。第1ピークP1の深さは、3.2μm以上、7.2μm以下であってよい。第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、本例の領域R1に属するように設定されてよい。
【0171】
図6Fは、コレクタ領域22の積分濃度と第1ピークP1の深さとの関係の他の例を示す。基準線L1、線Aおよび線Bは、図5Aの各線と同一である。即ち、基準線L1の±15%に該当する領域を示している。但し、本例の領域R1は、コレクタ領域22の積分濃度が1.00E13cm-2以下である領域を示している。第1ピークP1の深さは、3.6μm以上、7.2μm以下であってよい。第1ピークP1の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、本例の領域R1に属するように設定されてよい。
【0172】
なお、図5Bおよび図5Cについても、図6A図6Fのように、コレクタ領域22の積分濃度の範囲を制限してもよい。例えば、図5Bおよび図5Cにおいて、領域R1は、コレクタ領域22の積分濃度が1.00E14cm-2以下の領域であってよく、5.00E13cm-2以下の領域であってよく、3.00E13cm-2以下の領域であってよく、1.00E13cm-2以下の領域であってもよい。
【0173】
図7Aは、コレクタ領域22の積分濃度と第2ピークP2の深さとの関係を示す。縦軸は第2ピークP2の深さy2[μm]を示し、横軸はコレクタ領域22の積分濃度x[cm-2]を示す。
【0174】
ここで、図3Aで得られたプロトン最浅の加速エネルギと、クランプエネルギが最大となる2点のデータに基づいて、次の基準線L2を算出した。
基準線L2:y2=(-2.4885E+00)ln(x)+(9.1580E+01)
即ち、基準線L2は、クランプエネルギが最大となるコレクタ領域22の積分濃度と、クランプエネルギが最大となる第2ピークP2の深さとの関係を示している。
【0175】
領域R2は、基準線L2の±15%の範囲の領域を示す。本例の領域R2は、線A2と線B2との間の領域である。本例の線A2および線B2は、次式で示される。
線A2:y2=(-3.1095E+00)ln(x)+(1.1416E+02)
線B2:y2=(-1.9239E+00)ln(x)+(7.1030E+01)
この場合、第2ピークP2の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、領域R2に属する。領域R2であれば、クランプエネルギが十分高くなる。第2ピークP2の深さは、3.5μm以上、28μm以下であってよい。
【0176】
図7Bは、コレクタ領域22の積分濃度と第2ピークP2の深さとの関係の他の例を示す。本例の領域R2は、基準線L2の±10%に該当する領域を示している。
【0177】
基準線L2は、図7Aの基準線L2と同一である。本例の線A2および線B2は、次式で示される。
線A2:y2=(-2.8924E+00)ln(x)+(1.0629E+02)
線B2:y2=(-2.1020E+00)ln(x)+(7.7530E+01)
この場合も同様に、第2ピークP2の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、領域R2に属するように設定されてよい。
【0178】
図7Cは、コレクタ領域22の積分濃度と第2ピークP2の深さとの関係を示す。本例の領域R2は、基準線L2の±5%に該当する領域を示している。
【0179】
基準線L2は、図7Aの基準線L2と同一である。本例の線A2および線B2は、次式で示される。
線A2:y2=(-2.4885E+00)ln(x)+(9.1580E+01)
線B2:y2=(-2.2931E+00)ln(x)+(8.4470E+01)
この場合も同様に、第2ピークP2の深さおよびコレクタ領域22の積分濃度が、領域R2に属するように設定されてよい。
【0180】
なお、図7A図7Cについても、図6A図6Fのように、コレクタ領域22の積分濃度の範囲を制限してもよい。例えば、図7A図7Cにおいて、領域R2は、コレクタ領域22の積分濃度が1.00E14cm-2以下の領域であってよく、5.00E13cm-2以下の領域であってよく、3.00E13cm-2以下の領域であってよく、1.00E13cm-2以下の領域であってもよい。
【0181】
図8Aは、浮遊インダクタンスLsとコレクタ電流減少率dIce/dtとの関係を説明するための図である。浮遊インダクタンスLsをXc[nH]とし、コレクタ電流減少率dIce/dtをYc[A/μs]としている。線C1は次式で示される。
線C1:Yc=10000Xc-1
浮遊インダクタンスLsおよびコレクタ電流減少率dIce/dtは、線C1よりも大きい範囲に設定される。線C1よりも大きい範囲とは、浮遊インダクタンスLsとコレクタ電流減少率dIce/dtとの関係を示したグラフにおいて、線C1の上側に位置する領域を指す。線C1よりも大きい範囲は、パターンで塗りつぶされた領域である。
【0182】
浮遊インダクタンスLsおよびコレクタ電流減少率dIce/dtは、線C2よりも大きい範囲に設定されてよい。線C2は次式で示される。
線C2:Yc=20000Xc-1
【0183】
浮遊インダクタンスLsおよびコレクタ電流減少率dIce/dtは、線C3よりも大きい範囲に設定されてよい。線C3は次式で示される。
線C3:Yc=50000Xc-1
【0184】
ここで、浮遊インダクタンスLsが大きくなるほど、電流を維持しやすくなり、電流遮断時にサージ電圧が大きくなる。また、コレクタ電流減少率dIce/dtが大きいほど、電流遮断時にサージ電圧が大きくなる。そのため、線C1~線C3のいずれかよりも大きい範囲に浮遊インダクタンスLsおよびコレクタ電流減少率dIce/dtを設定した場合、サージ電圧が跳ね上がりやすくなる。本例の半導体装置100は、線C1~線C3のいずれかよりも大きい範囲に浮遊インダクタンスLsおよびコレクタ電流減少率dIce/dtを設定した場合であっても、瞬時破壊を防止できる。
【0185】
図8Bは、比浮遊インダクタンスLs・Aと電流密度dJce/dtとの関係を説明するための図である。比浮遊インダクタンスLs・AをXd[nH cm]とし、電流密度dJce/dtをYd[A/(cmμs)]としている。
【0186】
比浮遊インダクタンスLs・Aは、浮遊インダクタンスLsに活性領域110の面積A(cm)を掛けた固有の値である。電流密度dJce/dtは、コレクタ電流減少率dIce/dtを活性領域110の面積A(cm)で割った値である。
【0187】
比浮遊インダクタンスLs・Aおよび電流密度dJce/dtは、線D1よりも大きい範囲に設定される。線D1は次式で示される。
線D1:Yd=10000Xd-1
【0188】
比浮遊インダクタンスLs・Aおよび電流密度dJce/dtは、線D2よりも大きい範囲に設定されてよい。線D2は次式で示される。
線D2:Yd=20000Xd-1
【0189】
比浮遊インダクタンスLs・Aおよび電流密度dJce/dtは、線D3よりも大きい範囲に設定されてよい。線D3は次式で示される。
線D3:Yd=50000Xd-1
【0190】
ここで、比浮遊インダクタンスLs・Aまたは電流密度dJce/dtが大きいほど、電流遮断時にサージ電圧が大きくなる。そのため、線D1~線D3のいずれかよりも大きい範囲に比浮遊インダクタンスLs・Aまたは電流密度dJce/dtを設定した場合、サージ電圧が跳ね上がりやすくなる。本例の半導体装置100は、線D1~線D3のいずれかよりも大きい範囲に比浮遊インダクタンスLs・Aまたは電流密度dJce/dtを設定した場合であっても、瞬時破壊を防止できる。
【0191】
図9は、比浮遊インダクタンスLs・Aと比ゲート抵抗Rg・Aとの関係を説明するための図である。比浮遊インダクタンスLs・AをXe[nH cm]とし、比ゲート抵抗Rg・AをYe[Ωcm]としている。比ゲート抵抗Rg・Aは、半導体装置100の駆動回路のゲート抵抗Rgに、活性領域110の面積A(cm)を掛けた固有の値である。
【0192】
コレクタ電流減少率dIce/dtは、浮遊インダクタンスLsの他に、半導体装置100の駆動回路のゲート抵抗Rgによっても変化する。ゲート抵抗Rgが減少すると、コレクタ電流減少率dIce/dtは増加する傾向にある。
【0193】
比浮遊インダクタンスLs・Aおよび比ゲート抵抗Rg・Aは、線E1以下となる範囲に設定されてよい。線E1は次式で示される。
線E1:Ye=(4.000E-01)Xe
【0194】
比浮遊インダクタンスLs・Aおよび比ゲート抵抗Rg・Aは、線E2以下となる範囲に設定されてよい。線E2は次式で示される。
線E2:Ye=(2.000E-01)Xe
【0195】
比浮遊インダクタンスLs・Aおよび比ゲート抵抗Rg・Aは、線E3以下となる範囲に設定されてよい。線E3は次式で示される。
線E3:Ye=(8.000E-02)Xe
【0196】
ここで、比ゲート抵抗Rg・Aが小さいほど、電流遮断時にサージ電圧が大きくなる。そのため、線E1~線E3のいずれか以下となる範囲に、比浮遊インダクタンスLs・Aおよび比ゲート抵抗Rg・Aを設定した場合、サージ電圧が跳ね上がりやすくなる。本例の半導体装置100は、線E1~線E3のいずれか以下となる範囲に、比浮遊インダクタンスLs・Aおよび比ゲート抵抗Rg・Aを設定した場合であっても、瞬時破壊を防止できる。
【0197】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0198】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0199】
10・・・半導体基板、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、17・・・ウェル領域、18・・・ドリフト領域、20・・・フィールドストップ領域、21・・・おもて面、22・・・コレクタ領域、23・・・裏面、24・・・コレクタ電極、25・・・接続部、30・・・ダミートレンチ部、31・・・延伸部分、32・・・ダミー絶縁膜、33・・・接続部分、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、39・・・酸化膜、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・延伸部分、42・・・ゲート絶縁膜、43・・・接続部分、44・・・ゲート導電部、50・・・ゲート金属層、51・・・ゲートランナー、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、55・・・コンタクトホール、56・・・コンタクトホール、60・・・ダミートレンチ領域、61・・・メサ部、65・・・ウェルコンタクト領域、70・・・トランジスタ部、71・・・メサ部、76・・・温度センス部、80・・・ダイオード部、81・・・メサ部、82・・・カソード領域、90・・・境界部、91・・・メサ部、92・・・ガードリング部、94・・・電極層、96・・・チャネルストッパ領域、100・・・半導体装置、110・・・活性領域、120・・・外周領域、130・・・パッド領域、131・・・ゲートパッド、132・・・センスIGBT、133・・・センスエミッタパッド、134・・・アノードパッド、135・・・カソードパッド、500・・・半導体装置
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9