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特許7405266質量分析制御装置、質量分析装置、質量分析方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】質量分析制御装置、質量分析装置、質量分析方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20231219BHJP
【FI】
G01N27/62 V
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022544892
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031814
(87)【国際公開番号】W WO2022044071
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】小倉 泰郎
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-539039(JP,A)
【文献】特表2009-508118(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016551(WO,A1)
【文献】特開2020-020809(JP,A)
【文献】特開2019-088213(JP,A)
【文献】NAGAI et al.,Development of a Method for Crustacean Allergens Using Liquid Chromatography/Tandem Mass Spectrometr,JOURNAL OF AOAC INTERNATIONAL,2015年,Vol.98/No.5,PP.1355-1365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータとに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチドおよび前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出する導出部と、
前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する設定部とを備え、
前記導出部は、前記第1ペプチドから、検出対象ではないアレルゲンまたは前記組に含まれる複数のアレルゲン以外のアレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを除いて得られた第2ペプチドおよび前記第2ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出し、
前記設定部は、前記第2ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する、質量分析制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析制御装置において、
前記複数のアレルゲンは、牛乳、鶏卵、小麦、大麦、ライ麦、カラスムギ、カラシナ、ゴマ、マカデミアナッツ、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ、クルミ、ラッカセイ、ヘーゼルナッツ、ソバ、エビ、カニ、オボアルブミン、リゾチーム、カゼイン、ラクトグロブリン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニンから選択される複数のアレルゲンである、質量分析制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分析制御装置において、
前記切断処理では、トリプシンおよびLys-Cの少なくとも一つによる切断が行われる、質量分析制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析制御装置において、
前記設定部は、タンデム質量分析または液体クロマトグラフィ/タンデム質量分析の条件を設定する、質量分析制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の質量分析制御装置において、
前記パラメータは、前記質量分析におけるプリカーサイオンの質量電荷比を含む、質量分析制御装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の質量分析制御装置を備える質量分析装置。
【請求項7】
検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータとに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチドおよび前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出することと、
前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定することとを備え、
前記導出することは、前記第1ペプチドから、検出対象ではないアレルゲンまたは前記組に含まれる複数のアレルゲン以外のアレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを除いて得られた第2ペプチドおよび前記第2ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出し、
前記設定することは、前記第2ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する、質量分析方法。
【請求項8】
検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータとに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチドおよび前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出する導出処理と、
前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する設定処理とを処理装置に行わせ
前記導出処理は、前記第1ペプチドから、検出対象ではないアレルゲンまたは前記組に含まれる複数のアレルゲン以外のアレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを除いて得られた第2ペプチドおよび前記第2ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出し、
前記設定処理は、前記第2ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する、プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析制御装置、質量分析装置、質量分析方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー発症の予防または、アレルギーが発症した際の原因となる物質の同定等を目的として、飲食料品または環境等からアレルゲンを検出することが行われている。特許文献1では、アレルゲンをトリプシンにより分解し、生成されたペプチドを液体クロマトグラフィ/質量分析(Liquid Chromatography/Mass Spectrometry; LC/MS)に供することで、試料に含まれるアレルゲンを検出することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/033713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
効率よくアレルゲンの検出を行うため、検出対象の複数のアレルゲンに由来する複数のペプチドから選択された適切なペプチドが検出されることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータとに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチドおよび前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出する導出部と、前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する設定部とを備える質量分析制御装置に関する。
本発明の第2の態様は、第1の態様の質量分析制御装置を備える質量分析装置に関する。
本発明の第3の態様は、検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータとに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチドおよび前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出することと、前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定することとを備える質量分析方法に関する。
本発明の第4の態様は、検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータとに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチドおよび前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出する導出処理と、前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する設定処理とを処理装置に行わせるためのプログラムに関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、検出対象の複数のアレルゲンに由来する複数のペプチドから選択された適切なペプチドを検出し、効率よくアレルゲンの検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係る質量分析装置の構成を示す概念図である。
図2図2は、質量分析装置の情報処理部を示す概念図である。
図3図3は、参照データを示す表である。
図4図4は、参照データを示す表である。
図5図5は、一実施形態に係る質量分析方法の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、プログラムの提供を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0009】
-実施形態-
本実施形態では、検出対象の複数のアレルゲンを切断処理に供し、この切断処理により生成されたペプチドを質量分析により検出する。本実施形態の質量分析制御装置は、この質量分析において検出するペプチドを設定する。以下の実施形態では、検出対象のアレルゲンを対象アレルゲン、検出対象ではないアレルゲンを非対象アレルゲンと呼ぶ。
【0010】
以下において、アレルギーの原因となる分子をアレルギー原因分子と呼び、アレルギー原因分子を含む飲食料品等の物質をアレルギー物質と呼び、アレルギー原因分子およびアレルギー物質をアレルゲンと呼ぶ。例えば、アレルギー物質である牛乳は、アレルギー原因分子としてカゼインおよびラクトグロブリンを含む。アレルギー物質である鶏卵は、アレルギー原因分子としてオボアルブミンおよびリゾチームを含む。また、ペプチドは、ペプチド結合により結合された複数のアミノ酸からなるペプチド主鎖を含み、質量分析で検出可能であれば、修飾基等を含んでいてもよい。
【0011】
(試料について)
試料は、アレルゲンを含むか、含む可能性があれば特に限定されない。試料は、例えば、アレルゲンを含むか否かが未知の飲食料品とすることができる。この場合、本実施形態に係る質量分析方法により、当該飲食料品にどのアレルゲンが含まれるかを同定することができる。アレルギーを発症した患者が摂取した飲食料品または当該患者の吐しゃ物等を試料とすれば、当該アレルギーの原因となるアレルゲンについての情報を得ることができ、治療方針の決定または研究に役立つ。あるいは、試料は、アレルゲンを含むことが既知の飲食料品とすることができ、当該飲食料品におけるアレルゲンの確認または定量をしてもよい。質量分析によりアレルギー原因分子を検出可能であれば、試料は飲食料品以外にも、花粉、ハウスダストまたはダニ等の任意の物質を含むことができる。対象アレルゲンに含まれるアレルギー原因分子は、タンパク質であることが好ましい。
【0012】
(分析用試料の調製)
用意された試料に、タンパク質を分解する酵素が加えられ、アレルゲンが切断処理に供される。当該酵素によるアレルギー原因分子の切断により、アレルゲンに由来する複数のペプチドが生成される。酵素は、タンパク質の切断について切断位置の特異性を有するものであれば特に限定されないが、トリプシンまたはLys-Cが好ましい。トリプシンによる切断位置はLys-Cによる切断位置を含む。このため、トリプシンおよびLys-Cの両方を試料に加えることで、トリプシンによる切断の配列特異性でより確実にアレルゲンの分解を行うことができる。酵素的切断ではなく化学的切断により試料に含まれるアレルギー原因分子を切断してもよい。以下では、アレルゲンの切断処理により生成されるペプチドを、アレルゲン由来ペプチドと呼ぶ。
【0013】
試料を切断処理に供したら、アレルゲン由来ペプチドを含む試料から、分析用試料が調製される。分析用試料は、タンパク質の抽出等の、試料に対して行われる分析の種類に応じた前処理を行い調製することができる。
【0014】
(質量分析装置について)
図1は、本実施形態に係る質量分析装置1の構成を示す概念図である。質量分析装置1は、測定部100と、情報処理部40とを備える。測定部100は、液体クロマトグラフ(Liquid Chromatograph; LC)10と、質量分析計20とを備える。質量分析装置1は、LC/MSを行うことができる液体クロマトグラフ-質量分析計(Liquid Chromatograph-Mass Spectrometer; LC-MS)である。
なお、試料に含まれる分子の種類が多くない場合には、質量分析装置1は、LC-MSではなく、LCを含まない質量分析計としタンデム質量分析を行ってもよい。以下において、タンデム質量分析とは、2段階以上の質量分析とする。
【0015】
質量分析計20は、イオン源211を備えるイオン化部21と、真空容器200と、イオン化部21から真空容器200へイオンを導入する管212とを備える。真空容器200は、イオンガイド部22と、第1質量分離部23と、コリジョンセル24と、第2質量分離部25と、検出部30とを備える。第1質量分離部23は、第1四重極230を備える。コリジョンセル24は、イオンガイド240とガス導入口241とを備える。第3質量分離部25は、第2四重極250を備える。
【0016】
LC10は、導入された試料を液体クロマトグラフィにより分離し、試料に含まれる各成分を異なる保持時間で溶出させる。LC10は、質量分析において所望の精度でアレルゲン由来ペプチドを検出できるように、各アレルゲン由来ペプチドを分離することができれば特に種類は限定されない。LC10として、ナノLC、マイクロLC、高速液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatograph; HPLC)または超高速液体クロマトグラフ(Ultra High Performance Liquid Chromatograph; UHPLC)等を用いることができる。LC10から溶出されたアレルゲン由来ペプチドを含む溶出試料は、質量分析計20のイオン化部21に導入される(矢印A1)。
【0017】
質量分析計20は、LC10から導入されたアレルゲン由来ペプチドを含む溶出試料に対してタンデム質量分析を行う。本実施形態では質量分析計20はトリプル四重極質量分析計であり、多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring; MRM)により試料由来イオンSの検出を行う。質量分析計20は、溶出試料をイオン化して試料由来イオンSを生成し、試料由来イオンSを質量分離し、質量分離された試料由来イオンSを解離してプロダクトイオンを生成し、生成されたプロダクトイオンを質量分離して検出する。以下では、試料由来イオンSの解離により生成されたプロダクトイオンも試料由来イオンSに含まれるものとする。
【0018】
質量分析計20のイオン化部21は、イオン化部21に導入されたアレルゲン由来ペプチドを含む溶出試料をイオン化する。イオン化の方法は、所望の精度でプロダクトイオンが検出される程度にイオン化が起きれば特に限定されないが、エレクトロスプレー法(Electrospray Ionization; ESI)が好ましく、以下の実施形態でもESIを行うものとして説明する。イオン源211はESI用のイオン源である。イオン化部21により生成された試料由来イオンSは、イオン化部21と真空容器200の圧力差または不図示の電極に印加された電圧の作用等により移動し、管212を通過してイオンガイド部22に入射する。図1では、試料由来イオンSの経路を、一点鎖線の矢印A2により模式的に示した。
【0019】
イオンガイド部22は、段階的に圧力を低下させた不図示の真空室等に適宜配置された四重極またはリング状電極等を備える。圧力は、第1質量分離部23の配置される真空室において10-2Pa等となる。イオンガイド部22は、試料由来イオンSの流れを電磁気学的作用により収束させて第1質量分離部23へ出射する。
【0020】
第1質量分離部23は、第1四重極230に印加される電圧に基づく電磁気学的作用により、設定されたm/zを有するイオンをプリカーサイオンとして選択的に通過させてコリジョンセル24に向けて出射する。以下では、質量電荷比としてm/zを適宜用いるが、イオンの質量と電荷との比を示す値であれば特に限定されない。第1質量分離部23は、後述する設定部522が設定したm/zを有するプリカーサイオンを選択的に通過させる。
【0021】
コリジョンセル24は、四重極を含むイオンガイド240により試料由来イオンSの移動を制御しながら、衝突誘起解離(Collision-Induced Dissociation; CID)によりプリカーサイオンを解離させ、プロダクトイオンを生成する。CIDの際にプリカーサイオンが衝突させられる分子を含むガス(以下、CIDガスと呼ぶ)は、コリジョンセル内で所定の圧力になるようにガス導入口241から導入される(矢印A3)。CIDガスの種類は、所望の効率でCIDを起こすことができれば特に限定されないが、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスが好ましい。生成されたプロダクトイオンは、第2質量分離部25に向けて出射される。
【0022】
第2質量分離部25は、第2四重極250に印加される電圧に基づく電磁気学的作用により、設定されたm/zを有するプロダクトイオンを選択的に通過させて検出部30に向けて出射する。第2質量分離部25は、後述する設定部522が設定したm/zを有するプロダクトイオンを選択的に通過させる。
なお、第2質量分離部25は適宜第2四重極250を含むリニアイオントラップとして構成されていてもよい。
【0023】
検出部30は、二次電子増倍管または光電子増倍管等のイオン検出器を備え、入射したプロダクトイオンを検出する。プロダクトイオンを検出して得た検出信号は不図示のアナログ/デジタル(Analog/Digital; A/D)変換器によりA/D変換され、デジタル信号となって情報処理部40に入力され、記憶部43に記憶される(矢印A4)。以下では、検出部30が試料由来イオンSを検出して得た検出信号に基づくデータを測定データと呼ぶ。
【0024】
情報処理部40は、電子計算機等の情報処理装置を備える。情報処理部40は、適宜質量分析装置1のユーザー(以下、単にユーザーと呼ぶ)とのインターフェースとなる他、測定部100の制御および、様々なデータに関する通信、記憶、演算等の処理を行う。情報処理部40は、質量分析計20の質量分析等を制御する質量分析制御装置となる。
なお、情報処理部40は、LC10または質量分析計20と一体になった一つの装置として構成してもよい。また、本実施形態に用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよい。
【0025】
図2は、情報処理部40の構成を示す概念図である。情報処理部40は、入力部41と、通信部42と、記憶部43と、出力部44と、制御部50とを備える。制御部50は、装置制御部51と、データ処理部52と、出力制御部53とを備える。データ処理部52は、導出部521と、設定部522と、解析部523とを備える。
【0026】
情報処理部40の入力部41は、マウス、キーボード、各種ボタンまたはタッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部41は、測定部100の動作の制御に必要な情報、および制御部50の行う処理に必要な情報等を、ユーザーから受け付ける。
【0027】
情報処理部40の通信部42は、インターネット等のネットワークを介して無線または有線の接続により通信可能な通信装置を含んで構成される。通信部42は、適宜必要なデータを送受信する。
【0028】
情報処理部40の記憶部43は、不揮発性の記憶媒体で構成され、分析条件、測定データ、および制御部50が処理を実行するためのプログラム等を記憶する。記憶部43には、後述する参照データが記憶されている。
【0029】
情報処理部40の出力部44は、液晶モニタ等の表示装置またはプリンター等を含んで構成され、測定部100の測定に関する情報または、データ処理部52の処理により得られた情報等を、表示装置に表示したり、紙媒体に印刷したりする。
【0030】
情報処理部40の制御部50は、中央処理装置(Central Processing Unit; CPU)等のプロセッサ、およびメモリ等の記憶媒体を含んで構成され、質量分析装置1を制御する動作の主体として機能する。制御部50は、検出するアレルゲン由来ペプチドを設定する処理等を行う処理装置となる。制御部50は、記憶部43等に記憶されたプログラムをメモリに保持し、プロセッサがそのプログラムを実行することにより各種処理を行う。
なお、本実施形態に係る制御部50による処理が可能であれば、制御部50の物理的な構成等は特に限定されない。
【0031】
制御部50の装置制御部51は、後述する設定部522が設定した分析条件を満たすように、測定部100の各部の動作を制御する。
【0032】
制御部50のデータ処理部52は、質量分析に関するデータを処理する。データ処理部52は、質量分析における分析条件の設定のためのデータ処理、および、質量分析で得られた測定データの解析を行う。
【0033】
データ処理部52の導出部521は、複数の対象アレルゲンを切断処理に供した際に、当該複数の対象アレルゲンに共通して生成されるペプチドを導出する。
【0034】
あるアレルゲン由来ペプチドが、特定のアレルゲンを特定の切断処理に供した場合に特異的に生成するペプチドであれば、当該アレルゲン由来ペプチドを質量分離して検出することで、試料に上記特定のアレルゲンが含まれるか否かの情報が得られる。
【0035】
一方、複数のアレルゲンを特定の切断処理に供した場合に、これらのアレルゲンのそれぞれから同一のアレルゲン由来ペプチドが生成されるとする。この場合、当該アレルゲン由来ペプチドを質量分離して検出することで、当該アレルゲン由来ペプチドが由来する複数のアレルゲンを互いに区別せずに、試料にこれらの複数のアレルゲンの少なくとも一つが含まれるか否かの情報が得られる。この情報を利用することにより、効率的な解析ができる場合もある。以下の実施形態では、複数の対象アレルゲンを特定の切断処理に供した際に同一のアレルゲン由来ペプチドが生成されるとき、このアレルゲン由来ペプチドを、当該複数の対象アレルゲンについての共通ペプチドと呼ぶ。本実施形態では、共通ペプチドの少なくとも一つを検出するように分析条件が設定される。
【0036】
導出部521は、対象アレルゲンを示す情報を取得する。この情報を対象アレルゲン情報と呼ぶ。本実施形態では、対象アレルゲンは複数であるものとする。対象アレルゲン情報は、対象アレルゲンを示すことができればその表現の方法は特に限定されないが、例えば、対象アレルゲン情報は、検出する複数の対象アレルゲンの識別番号または名称を含むことができる。ここで、国または地域等に応じて、検出する複数のアレルゲンのセットが予め記憶部44に記憶されており、ユーザーの入力等に基づいて、いずれかのセットが選択される構成にしてもよい。この場合、選択されたセットに含まれる複数のアレルゲンの識別番号または名称が対象アレルゲン情報として記憶部44に記憶される。あるいは、ユーザーが、出力部44の表示装置に表示されたアレルゲンから検出するアレルゲンを、入力部41を介して選択する構成にしてもよい。
【0037】
導出部521は、複数の対象アレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能な複数のアレルゲンの組についての情報を取得する。この情報を、組情報と呼ぶ。組情報の表現の方法は特に限定されないが、例えば、互いに区別せずに検出可能な複数のアレルゲンの識別番号の数字の組により表現することができる。具体例では、小麦、大麦およびライ麦の識別番号をそれぞれ1、2および3とする。この場合、(1,2,3)の数字の組によりこれらが互いに区別せずに検出可能であることを表現することができる。
【0038】
例えば、組情報は、上述したような、国または地域等に応じた複数のアレルゲンのセットにおいて予め定義されており、ユーザーが選択したセットに応じて導出部521が設定することができる。例えば、欧州では、大麦とライ麦とは互いに区別して検出する需要が小さい傾向がある。従って、ユーザーの選択により、あるいはユーザーが登録した国若しくは地域等により、導出部521は、大麦とライ麦とは互いに区別せずに検出可能であることを示す組情報を生成することができる。このような複数の対象アレルゲンを互いに区別して検出するか否かは、国若しくは地域ごとのアレルゲンの違い、国若しくは地域ごとのアレルゲンを摂取または接触する人間等の反応性の違い、または、国若しくは地域ごとの規制の違い等により設定することができる。例えば、小麦、大麦およびライ麦等の交叉反応性が観察されるアレルギー物質については、互いに区別せずに検出することが効率性の観点から好ましい場合がある。
【0039】
その他、小麦、大麦およびライ麦等の所定のアレルゲンの組について、これらのアレルゲンを互いに区別して検出するか否かをユーザーが入力部41を介して選択できる構成にしてもよい。上記所定のアレルゲンの組は、共通ペプチドを有する複数のアレルゲンから選択され、表示画面に示される。あるいは、ユーザーが入力部41を介し論理式等を入力することにより、詳細に設定することができる構成にしてもよい。
【0040】
導出部521は、組情報および参照データに基づいて、共通ペプチドを導出する。ここで、参照データとは、各アレルゲンを特定の切断処理に供した場合に生成される複数のアレルゲン由来ペプチドを示すデータである。特定の切断処理としては、トリプシン処理、Lys-C処理、またはトリプシンおよびLys-Cの両方による処理が好ましい。しかし、各切断処理により生成されるアレルゲン由来ペプチドに応じて、任意の切断処理について参照データを構築することが可能である。
【0041】
図3は、参照データを模式的に示す表Aを示す図である。参照データでは、小麦、大麦およびライ麦等の複数のアレルゲンのそれぞれについて、切断処理で得られるアレルゲン由来ペプチドを検出するためのトランジションが示されている。参照データは、例えばトリプシンで切断を行う場合等、切断処理の種類ごとに用意される。図3では、「小麦」および「大麦」等のアレルゲンの名称が示されているが、識別番号等を用いて設定される対象アレルゲンと対応づけてもよい。参照データは、適宜配列等を用いて表現することができる。
【0042】
トランジションとは、タンデム質量分析で特定のイオンを検出する際の、プリカーサイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組を指す。2段階以上の質量分離により、高い特異性でイオンを検出することができるため、トランジションとペプチドとは略1対1に対応する。従って、表Aのように、アレルゲン由来ペプチドは、アレルゲン由来ペプチドを検出するためのトランジション等のパラメータを用いて表現してもよい。この場合、導出部521は、組情報および参照データに基づいて、共通ペプチドを検出するためのパラメータを導出する。このようなパラメータとしては、プリカーサイオンのm/zでもよい。
【0043】
表Aでは、トランジションは、「MRM」の後に通し番号を付した名称で示されている。各トランジションにより、小麦、大麦およびライ麦等のアレルゲンを検出できる場合、当該トランジションにおいて対応するアレルゲンの位置に〇を付した。例えば、表Aはトリプシンによる切断処理についての参照データとする。「MRM12」は、小麦とライ麦に〇が付されている。これは、MRM12のトランジションによる質量分析により、小麦およびライ麦のそれぞれからトリプシン処理により生成された共通ペプチドが検出されることを示す。
【0044】
参照データに含まれるアレルゲンは、アレルギー物質でもアレルギー原因分子でもよい。アレルギー物質としては、牛乳、鶏卵、小麦、大麦、ライ麦、カラスムギ、カラシナ、ゴマ、マカデミアナッツ、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ、クルミ、ラッカセイおよびヘーゼルナッツを参照データに含むことができる。これらに含まれるアレルギー原因分子として、オボアルブミン、リゾチーム、カゼイン、ラクトグロブリン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニン、コムギタンパク質、ライムギタンパク質、カラスムギタンパク質、オオムギタンパク質、カラシナタンパク質、ゴマタンパク質、マカダミアナッツタンパク質、ピスタチオナッツタンパク質、ブラジルナッツタンパク質、クルミタンパク質、ラッカセイタンパク質およびヘーゼルナッツタンパク質を参照データに含むことができる。これらのアレルギー原因分子は、特許文献1に記載のトランジションにより測定することができる。この他にも、特定の切断処理により生成されるペプチドを検出するためのトランジション等に応じて、ソバ、エビまたはカニ等、参照データには様々なアレルゲンを含めることができる。
【0045】
導出部521は、組情報に含まれる複数の対象アレルゲンの共通ペプチドまたは共通ペプチドのトランジションを導出する。例えば、小麦、大麦およびライ麦を互いに区別せずに検出可能な場合、図3において太線で囲まれたMRM2およびMRM10が共通ペプチドに対応するトランジションになる。
【0046】
図4は、他の例として、複数の対象アレルゲンを小麦、大麦およびライ麦とし、大麦とライ麦は区別しないが、小麦と大麦またはライ麦とは区別する場合を模式的に示す表Aである。組情報に、大麦とライ麦とは互いに区別しないで検出可能な組として設定されている。この場合、大麦およびライ麦のそれぞれから生成される共通ペプチドを検出するMRM2、MRM4、MRM9およびMRM10が共通ペプチドに対応するトランジションになる(太い実線または太い破線で囲まれた行)。太い実線で囲まれたMRM2およびMRM10のように、共通ペプチドは、組情報に含まれるアレルゲンである大麦およびライ麦以外のアレルゲンからも生成され得るものであってもよい。偽陽性の可能性が増加しても、偽陰性の可能性を増加させない方が重要だからである。
【0047】
導出部521は、共通ペプチドが組情報に含まれる対象アレルゲン以外のアレルゲンからも生成される場合、共通ペプチドまたはそのトランジションから、候補ペプチドまたは候補ペプチドのトランジションを導出する。組情報に含まれていないアレルゲンであって、参照データに含まれているアレルゲンを参照アレルゲンと呼ぶ。
【0048】
導出部521は、共通ペプチドから、参照データに対応する切断処理により参照アレルゲンから生成される共通ペプチドを除いて得られたペプチドを候補ペプチドとして設定する。表Aでは小麦が参照アレルゲンであり、MRM2、MRM4、MRM9およびMRM10のうち、小麦からも生成される共通ペプチドはMRM2およびMRM10に対応する。従って、導出部521は、共通ペプチドに対応するトランジションMRM2、MRM4、MRM9およびMRM10からMRM2およびMRM10を除いたMRM4およびMRM9(太い破線で囲まれた行)に対応するペプチドを候補ペプチドとして設定する。
【0049】
なお、検出対象でないアレルゲンであって、参照データに含まれているアレルゲンを非検出アレルゲンと呼ぶ。導出部521は、共通ペプチドから、非検出アレルゲンから生成される共通ペプチドを除いて得られたペプチドを候補ペプチドとして導出してもよい。この場合でも、共通ペプチドの範囲を狭め、より正確に組情報に含まれるアレルゲンを検出することができる。また、導出部521は、候補ペプチドのトランジションを導出してもよい。
【0050】
データ処理部52の設定部522は、共通ペプチドの少なくとも一つまたは候補ペプチドの少なくとも一つを検出するように、質量分析の条件を設定する。設定部522は、候補ペプチドが導出されている場合は候補ペプチド、候補ペプチドが導出されていない場合は共通ペプチドを検出するように質量分析の条件を設定することができる。
【0051】
設定部522は、共通ペプチドまたは候補ペプチドに対応するトランジションを、試料の質量分析の際のトランジションとして設定する。図3の例では、設定部522は、共通ペプチドのトランジションであるMRM2およびMRM10の少なくとも一つを試料の質量分析の際のトランジションとして設定する。図4の例では、設定部522は、候補ペプチドのトランジションであるMRM4およびMRM9の少なくとも一つを試料の質量分析の際のトランジションとして設定する。さらに、設定部522は、小麦から特異的に生成されるペプチドに対応するトランジションであるMRM1、MRM3、MRM6、MRM13、MRM15およびMRM16の少なくとも一つを、試料の質量分析の際のトランジションとして設定する。
【0052】
複数の共通ペプチドまたは複数の候補ペプチドから1以上の検出するペプチドを選択する方法は特に限定されない。例えば、出力制御部53が出力部44を制御し複数の候補ペプチドを表示装置に表示して、ユーザーが入力部41を介して検出する候補ペプチドを選択する構成にしてもよい。あるいは、設定部522は、検出されやすいまたは検出信号の大きい傾向を有する候補ペプチドを選択してもよいし、ランダムに選択してもよい。
【0053】
データ処理部52の解析部523は、測定データの解析を行う。測定データでは、各トランジションの際に検出部30で検出された検出信号の強度が示されている。解析部523は、各トランジションに対応する時間ごとに、検出信号の強度を積算し、各トランジションに対応するペプチドの検出強度とする。
【0054】
解析部523は、検出強度が予め設定された閾値以上であったアレルゲン由来ペプチドは、切断処理後の試料に含まれていたものとする。解析部523は、各トランジションに対応するアレルゲン由来ペプチドが検出されたか否かに基づいて、アレルゲン由来ペプチドが由来するアレルゲンが試料に含まれるか否かについての情報を生成する。図3の例では、解析部523は、MRM2およびMRM10の両方またはいずれか一方において検出強度が閾値以上であれば、小麦、大麦およびライ麦のいずれかが試料に含まれると判定し、当該判定についての情報を生成することができる。解析部523は、検出強度が高いペプチドを用いて試料に含まれる小麦、大麦およびライ麦を合計した量または濃度を算出してもよい。解析部523による測定データの解析の方法は特に限定されない。
【0055】
出力制御部53は、出力部44を制御し、分析条件または解析部523の解析で得られた情報を表示装置に表示したりして出力する。
【0056】
図5は、本実施形態に係る質量分析方法の流れを示すフローチャートである。図5の各ステップは、質量分析装置1の制御部50により好適に実行される。ステップS1001において、導出部521は、対象アレルゲンを示す対象アレルゲン情報を取得する。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。
【0057】
ステップS1003において、導出部521は、共通ペプチドを導出する。ステップS1003が終了したら、ステップS1005が開始される。ステップS1005において、導出部521は、共通ペプチドから候補ペプチドを導出する。ステップS1005が終了したら、ステップS1007が開始される。
【0058】
ステップS1007において、設定部522は、質量分析で検出するアレルゲン由来ペプチドを設定する。出力制御部53は、検出するペプチドを適宜出力部44の表示装置に表示する。検出するペプチドの定量を行う場合、ユーザーは、表示された検出するアレルゲン由来ペプチドの情報を見て、検出するアレルゲン由来ペプチドの内部標準を分析用試料に加えることができる。ステップS1007が終了したら、ステップS1009が開始される。ステップS1009において、装置制御部51は、測定部100を制御して質量分析を行う。ステップS1009が終了したら、ステップS1011が開始される。
【0059】
ステップS1011において、解析部53は、質量分析で得られたデータを解析し、アレルゲンの検出についての情報を生成する。ステップS1011が終了したら、ステップS1013が開始される。ステップS1013において、出力制御部53は、出力部44を制御して、解析で得られた情報を出力する。ステップS1013が終了したら、処理が終了される。
【0060】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
【0061】
(変形例1)
上述の実施形態では、質量分析装置1は、トリプル四重極質量分析計を含むとしたが、アレルゲン由来ペプチドを質量分離して検出することができれば、質量分析計の種類は特に限定されない。質量分析計20は、イオントラップまたは飛行時間型質量分析器等の任意の種類の質量分析器を複数含むことができる。MRMを行うことができない質量分析計でも、プロダクトイオンスキャン等によりプロダクトイオンを検出することができる。また、解離の方法はCIDに特に限定されず、電子捕獲解離または電子移動解離等の任意の方法により解離を行うことができる。
【0062】
(変形例2)
質量分析装置1の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述した導出部521および設定部522の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスクまたはソリッドステートドライブ(Solid State Drive; SSD)等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0063】
また、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。図6はその様子を示す図である。PC950は、CD-ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0064】
(態様)
上述した複数の例示的な実施形態またはその変形は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0065】
(第1項)一態様に係る質量分析制御装置は、検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータ(参照データ)とに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチド(共通ペプチド)および前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出する導出部と、前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する設定部とを備える。これにより、検出対象の複数のアレルゲンに由来する複数のペプチドから選択された適切なペプチドを検出し、効率よくアレルゲンの検出を行うことができる。
【0066】
(第2項)他の一態様に係る質量分析制御装置では、第1項の態様の質量分析制御装置において、前記導出部は、前記第1ペプチドから、検出対象ではないアレルゲンまたは前記組に含まれる複数のアレルゲン以外のアレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを除いて得られた第2ペプチド(候補ペプチド)および前記第2ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出し、前記設定部は、前記第2ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する。これにより、より正確に検出対象のアレルゲンを検出することができる。
【0067】
(第3項)他の一態様に係る質量分析制御装置では、第1項または第2項の態様の質量分析制御装置において、前記複数のアレルゲンは、牛乳、鶏卵、小麦、大麦、ライ麦、カラスムギ、カラシナ、ゴマ、マカデミアナッツ、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ、クルミ、ラッカセイ、ヘーゼルナッツ、ソバ、エビ、カニ、オボアルブミン、リゾチーム、カゼイン、ラクトグロブリン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニンから選択される複数のアレルゲンである。これにより、これらのアレルゲンを効率よく検出することができる。
【0068】
(第4項)他の一態様に係る質量分析制御装置では、第1項から第3項までのいずれかの態様の質量分析制御装置において、前記切断処理では、トリプシンおよびLys-Cの少なくとも一つによる切断が行われる。これらの酵素は汎用されており多くのデータが蓄積されているため、蓄積されたデータを用いてさらに効率よく解析を行うことができる。
【0069】
(第5項)他の一態様に係る質量分析制御装置では、第1項から第4項までのいずれかの態様の質量分析制御装置において、前記設定部は、タンデム質量分析または液体クロマトグラフィ/タンデム質量分析の条件を設定する。これにより、2段階以上の質量分析により、夾雑物を多く含む試料からもアレルゲンを検出することができる。
【0070】
(第6項)他の一態様に係る質量分析制御装置では、第1項から第5項までのいずれかの態様の質量分析制御装置において、前記パラメータは、前記質量分析におけるプリカーサイオンの質量電荷比を含む。これにより、より確実に、検出対象のアレルゲンに由来するペプチドを検出することができる。
【0071】
(第7項)一態様に係る質量分析装置は、第1項から第6項までのいずれかの態様の質量分析制御装置を備える。これにより、検出対象の複数のアレルゲンに由来する複数のペプチドから選択された適切なペプチドを検出し、効率よくアレルゲンの検出を行うことができる。
【0072】
(第8項)一態様に係る質量分析方法は、検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータ(参照データ)とに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチド(共通ペプチド)および前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出することと、前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定することとを備える。これにより、検出対象の複数のアレルゲンに由来する複数のペプチドから選択された適切なペプチドを検出し、効率よくアレルゲンの検出を行うことができる。
【0073】
(第9項)一態様に係るプログラムは、検出対象の複数のアレルゲンにおいて互いに区別せずに検出可能なアレルゲンの組と、各アレルゲンを切断処理に供することにより生成される複数のペプチドを示すデータ(参照データ)とに基づいて、前記組に含まれる複数のアレルゲンを前記切断処理に供した際に共通して生成される第1ペプチド(共通ペプチド)および前記第1ペプチドを検出するためのパラメータの少なくとも一つを導出する導出処理(図5のフローチャートのステップS1005に対応)と、前記第1ペプチドの少なくとも一つを検出するように質量分析の条件を設定する設定処理(ステップS1007に対応)とを処理装置に行わせるためのプログラムである。これにより、検出対象の複数のアレルゲンに由来する複数のペプチドから選択された適切なペプチドを検出し、効率よくアレルゲンの検出を行うことができる。
【0074】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1…質量分析装置、10…LC、20…質量分析計、21…イオン化部、22…イオンガイド部、23…第1質量分離部、24…コリジョンセル、25…第2質量分離部、30…検出部、40…情報処理部、50…制御部、51…装置制御部、52…データ処理部、53…出力部、100…測定部、521…導出部、522…設定部、523…解析部、S…試料由来イオン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6