(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】制御装置、電力変換装置、及び交流コンデンサの故障検出方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231219BHJP
【FI】
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2022553195
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035942
(87)【国際公開番号】W WO2023053289
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】多和田 義大
(72)【発明者】
【氏名】勝倉 朋也
(72)【発明者】
【氏名】深澤 一誠
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158456(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0241503(US,A1)
【文献】特開2019-161824(JP,A)
【文献】特開2020-10567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障時に回路から切り離される少なくとも一つの交流コンデンサをインバータの出力側に有する電力変換装置の制御装置であって、
系統側の交流スイッチが開放された状態で前記電力変換装置の起動時に行われる前記インバータの出力電圧と前記系統側の系統電圧とを同期させる同期制御時に、前記交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、前記電流値の中で前記インバータの出力電圧に周波数が同期する電流成分の値を抽出する電流成分抽出部と、
前記電流成分抽出部によって抽出された前記電流成分の値と、所定の判定値とを大小比較して、前記電流成分の値が、前記所定の判定値よりも小さいときは、前記交流コンデンサの故障と判定する故障判定部と、
前記同期制御時に、前記故障判定部により前記交流コンデンサの故障と判定されたときは、前記交流コンデンサの故障情報を発報する故障情報発報部と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記インバータの出力電圧の電圧値を取得し、前記電圧値から故障判定に用いられる前記判定値を求める判定値算出部をさらに備え、
前記故障判定部は、前記電流成分抽出部によって抽出された前記電流成分の値と、前記判定値算出部によって求められた前記判定値とを大小比較して、前記電流成分の値が、前記所定の判定値よりも小さいときは、前記交流コンデンサの故障と判定する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の制御装置において、
前記電流成分の値は、前記系統電圧に基づいて制御された位相角を用いて前記電流値をdq変換して求めた、前記インバータの出力電圧に対して位相が90度進んだ成分の値であるq軸電流の値である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記電流成分の値は、所定のローパスフィルタを用いて所定のノイズが除去された値である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記判定値は、前記インバータの出力電圧の電圧値と前記交流コンデンサの定格コンダクタンスの値とに基づいて求められた、前記インバータの出力電圧に対して位相が90度進んだ成分の値であるq軸電流理論値である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記判定値は、所定の故障検出レベルを乗算した値に基づく所定の誤差を許容する値である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の制御装置において、
前記同期制御時に前記故障判定部により前記交流コンデンサの故障と判定されたときは、前記電力変換装置を停止させる動作指示を出力する動作制御部をさらに備える
ことを特徴とする制御装置。
【請求項8】
電力を変換して交流電力を出力するインバータと、
前記インバータの出力側の三相交流回路から分岐したコンデンサ回路に設けられた、故障時に回路から切り離される少なくとも一つの交流コンデンサと、
同期制御時に、前記交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得する電流センサと、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の制御装置と、
を備え、
前記電流成分抽出部は、前記電流センサによって取得された前記電流値に基づいて前記電流成分の値を抽出する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力変換装置において、
前記電流センサは、前記インバータの出力側の前記三相交流回路における前記インバータと前記コンデンサ回路への分岐点との間において、交流リアクトルと直列に接続されて配置される
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の電力変換装置において、
前記電流センサは、前記インバータの出力側の前記三相交流回路から分岐した前記コンデンサ回路に配置される
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
故障時に回路から切り離される少なくとも一つの交流コンデンサをインバータの出力側に有する電力変換装置における交流コンデンサの故障検出方法であって、
前記電力変換装置の起動時に系統側の交流スイッチが開いた状態で行われる、前記インバータの出力電圧と前記系統側の系統電圧とを同期させる同期制御時に、前記交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、前記電流値の中で前記インバータの出力電圧に周波数が同期する電流成分の値を抽出する電流成分抽出ステップと、
前記電流成分抽出ステップによって抽出された前記電流成分の値と、所定の判定値とを大小比較して、前記電流成分の値が、前記所定の判定値よりも小さいときは、前記交流コンデンサの故障と判定する故障判定ステップと、
前記同期制御時に、前記故障判定ステップにより前記交流コンデンサの故障と判定されたときは、前記交流コンデンサの故障情報を発報する故障情報発報ステップと、
を備えることを特徴とする交流コンデンサの故障検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、電力変換装置、及び交流コンデンサの故障検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、系統連系運転が開始される前(交流スイッチが投入される前)に電圧合わせ運転が行われ、その後に系統連系運転が開始される(交流スイッチが投入される)電力変換装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
電圧合わせ運転は、系統連系運転が開始される前に、電力変換装置の出力電圧と系統電圧とを同期させる制御であり、例えば、電力変換装置の交流出力電圧の振幅と位相とを、系統電圧の振幅と位相とに合わせることにより行われる。なお、電圧合わせ運転は、例えば、交流自動電圧調整器(AC-AVR:Alternating-Current-Automatic Voltage Regulator)によって行われる。以下、本明細書において、電圧合わせ運転は、「同期制御」とも称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電力変換装置の交流出力のフィルタとして用いられるコンデンサには、異常過熱があった場合にコンデンサ素子を回路から切り離すヒューズ機構を有するものがある。当該ヒューズ機構が働いた場合、当該交流コンデンサは、オープン故障状態となる。このような場合、通常、電力変換装置では、電圧合わせ運転のときに同期合わせ異常として故障が検出される。
【0006】
しかし、従来の電力変換装置では、交流コンデンサがオープン故障しているにもかかわらず、電圧合わせ運転時に故障が検出されないことがあった。この場合、電力変換装置では、電圧合わせ運転後に交流スイッチが投入されて系統連系運転が開始され、その後も故障が検出されることなく運転が継続されることがある。交流コンデンサがオープン故障した状態で運転された場合、電力変換装置は、系統側に大きな高調波を流出させてしまう恐れがあり、また、正常な交流コンデンサに電圧印加が集中するため、正常な交流コンデンサにまで故障が拡大してしまう恐れもあった。
【0007】
そこで、本件開示は、系統連系運転前の電力変換装置の電圧合わせ運転時に故障を検出することで、系統連系運転前に故障情報の発報や電力変換装置の停止を行い、系統側への高調波の流出や正常な交流コンデンサへの故障拡大を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係る制御装置は、故障時に回路から切り離される少なくとも一つの交流コンデンサをインバータの出力側に有する電力変換装置の制御装置であって、系統側の交流スイッチが開放された状態で電力変換装置の起動時に行われるインバータの出力電圧と系統側の系統電圧とを同期させる同期制御時に、交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、電流値の中でインバータの出力電圧に周波数が同期する電流成分の値を抽出する電流成分抽出部と、電流成分抽出部によって抽出された電流成分の値と、所定の判定値とを大小比較して、電流成分の値が、所定の判定値よりも小さいときは、交流コンデンサの故障と判定する故障判定部と、同期制御時に、故障判定部により交流コンデンサの故障と判定されたときは、交流コンデンサの故障情報を発報する故障情報発報部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
一態様に係る制御装置において、インバータの出力電圧の電圧値を取得し、電圧値から故障判定に用いられる判定値を求める判定値算出部をさらに備え、故障判定部は、電流成分抽出部によって抽出された電流成分の値と、判定値算出部によって求められた判定値とを大小比較して、電流成分の値が、所定の判定値よりも小さいときは、交流コンデンサの故障と判定してもよい。
【0010】
一態様に係る制御装置において、電流成分の値は、系統電圧に基づいて制御された位相角を用いて電流値をdq変換して求めた、インバータの出力電圧に対して位相が90度進んだ成分の値であるq軸電流の値であってもよい。
【0011】
一態様に係る制御装置において、電流成分の値は、所定のローパスフィルタを用いて所定のノイズが除去された値であってもよい。
【0012】
一態様に係る制御装置において、判定値は、インバータの出力電圧の電圧値と交流コンデンサの定格コンダクタンスの値とに基づいて求められた、インバータの出力電圧に対して位相が90度進んだ成分の値であるq軸電流理論値であってもよい。
【0013】
一態様に係る制御装置において、判定値は、所定の故障検出レベルを乗算した値に基づく所定の誤差を許容する値であってもよい。
【0014】
一態様に係る制御装置において、同期制御時に故障判定部により交流コンデンサの故障と判定されたときは、電力変換装置を停止させる動作指示を出力する動作制御部をさらに備えてもよい。
【0015】
一態様に係る電力変換装置は、電力を変換して交流電力を出力するインバータと、インバータの出力側の三相交流回路から分岐したコンデンサ回路に設けられた、故障時に回路から切り離される少なくとも一つの交流コンデンサと、同期制御時に、交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得する電流センサと、上記のいずれかに記載の制御装置と、を備え、電流成分抽出部は、電流センサによって取得された電流値に基づいて電流成分の値を抽出することを特徴とする。
【0016】
一態様に係る電力変換装置において、電流センサは、インバータの出力側の三相交流回路におけるインバータとコンデンサ回路への分岐点との間において、交流リアクトルと直列に接続されて配置されてもよい。
【0017】
一態様に係る電力変換装置において、電流センサは、インバータの出力側の三相交流回路から分岐したコンデンサ回路に配置されてもよい。
【0018】
一態様に係る交流コンデンサの故障検出方法は、故障時に回路から切り離される少なくとも一つの交流コンデンサをインバータの出力側に有する電力変換装置における交流コンデンサの故障検出方法であって、電力変換装置の起動時に系統側の交流スイッチが開いた状態で行われる、インバータの出力電圧と系統側の系統電圧とを同期させる同期制御時に、交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、電流値の中でインバータの出力電圧に周波数が同期する電流成分の値を抽出する電流成分抽出ステップと、電流成分抽出ステップによって抽出された電流成分の値と、所定の判定値とを大小比較して、電流成分の値が、所定の判定値よりも小さいときは、交流コンデンサの故障と判定する故障判定ステップと、同期制御時に、故障判定ステップにより交流コンデンサの故障と判定されたときは、交流コンデンサの故障情報を発報する故障情報発報ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本件開示によれば、系統連系運転前の電力変換装置の電圧合わせ運転時に故障を検出することで、系統連系運転前に故障情報の発報や電力変換装置の停止を行い、系統側への高調波の流出や正常な交流コンデンサへの故障拡大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る制御装置、電力変換装置、及び交流コンデンサの故障検出方法の一例について示す図である。
【
図2】
図1に示す電力変換装置において、交流コンデンサの実際の接続状況の一例を示す図である。
【
図3】
図1及び
図2に示す電力変換装置における制御装置の構成例を示す図である。
【
図4】
図1から
図3に示す制御装置の故障検出動作の一例を示す図である。
【
図5】電力変換装置の電圧合わせ運転(同期制御)の動作の一例を示す図である。
【
図6】ACコンデンサが故障した場合にq軸電流が減少するロジックを説明する図である。
【
図7】
図4のステップS51における故障検出ロジックを説明する図である。
【
図8】
図1から
図7に示す電力変換装置の動作例を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る制御装置、電力変換装置、及び交流コンデンサの故障検出方法の一例について示す図である。
【
図10】
図1~
図9に示した実施形態における制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本件開示に係る制御装置、電力変換装置、及び交流コンデンサの故障検出方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る制御装置30、電力変換装置1、及び交流コンデンサ16の故障検出方法の一例について示す図である。
図1に示すとおり、電力変換装置1は、
図1中左側の一端側で直流電源2と接続され、
図1中右側の他端側で交流電力系統3(以下、「系統3」とも称する。)と接続される。
【0023】
電力変換装置(PCS:Power Conditioning Subsystem)1は、例えば、直流電源2から供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を系統3側に出力する。なお、電力変換装置1は、直流電力を交流電力に変換するものには限られず、交流電力を交流電力に変換するものであってもよい。また、電力変換装置1は、太陽光発電(PV:Photovoltaics)用の電力変換装置(PV-PCS:Photovoltaics-Power Conditioning Subsystem)であってもよい。また、電力変換装置1は、蓄電池(ESS:Energy Storage System)用の電力変換装置(ESS-PCS:Energy Storage System-Power Conditioning Subsystem)であってもよい。
【0024】
直流電源2は、電力変換装置1の一端側に接続され、電力変換装置1の一端側を介して電力変換装置1に直流電力を供給する。直流電源2は、例えば、太陽光パネルを備える太陽光発電装置(PV)や蓄電池(ESS)等であっても、風力発電機と交流直流コンバータ等からなる直流電源システム等であってもよい。また、電力変換装置1の一端側に接続されるのは直流電源2には限られず、電力変換装置1が交流電力を交流電力に変換するものである場合、交流電源であってもよい。
【0025】
交流電力系統(系統)3は、電力変換装置1の他端側である出力端に接続され、電力変換装置1から出力された交流電力を需要家の受電設備に供給するための、発電・変電・送電・配電を統合したシステムであり、例えば、不特定の負荷が接続されている。
【0026】
また、
図1において、電力変換装置1は、インバータ11と、交流回路12と、交流リアクトル13と、交流スイッチ14と、コンデンサ回路15と、交流コンデンサ16とを有する。また、電力変換装置1は、電流センサ21と、第一電圧センサ22と、第二電圧センサ23と、制御装置30とを有する。
【0027】
電力変換装置1は、インバータ11の出力側に出力回路として交流回路12を有し、交流回路12には、交流リアクトル13と、交流スイッチ14とが設けられている。交流回路12は、交流リアクトル13と交流スイッチ14との間の分岐点12aを介してコンデンサ回路15に分岐しており、コンデンサ回路15は、交流コンデンサ16と接続されている。また、交流回路12において、交流リアクトル13と分岐点12aとの間には、電流センサ21と、第一電圧センサ22とが配置され、交流スイッチ14の系統3側には、第二電圧センサ23が配置されている。なお、制御装置30は、図中配線は省略するが、電力変換装置1の各要素と電気的に接続されている。
【0028】
インバータ(インバータ回路)11は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の複数のスイッチング素子で構築される。インバータ11は、一端側が直流電源2と接続され、出力側である他端側が交流リアクトル13と接続される。インバータ11は、後述のインバータ制御部32(
図3参照)で生成されるスイッチング素子のゲート駆動信号(ゲート信号)であるパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)信号によって制御される。インバータ11は、直流電源2から供給される直流電力を一端側から取得し、PWM信号(ゲート信号)による制御に従い、取得した直流電力を交流電力に変換して、出力端である他端側から出力して交流回路12に供給する。
【0029】
交流回路12は、一端がインバータ11の出力端に接続され、他端が系統3と接続される。交流回路12は、例えば、電流又は電圧の位相を互いにずらした3系統の単相交流を組み合わせた三相交流電力を3本の電線・ケーブルを用いて供給する三相三線式の三相交流回路である。以下、本明細書において、交流回路12は、「三相交流回路12」とも称される。
【0030】
交流リアクトル13は、AC(alternating-current)リアクトルとも称され、インバータ11の出力側の交流回路12に直列に接続される。以下、本明細書において、交流リアクトル13は、「ACリアクトル13」とも称される。ACリアクトル13は、例えば、騒音を低減させる効果やサージ電圧を抑制させる効果を有する平滑要素である。ACリアクトル13は、例えば、分岐点12aを介してL型に接続された交流コンデンサ16とともにインバータ11の不図示のスイッチング素子がスイッチングするときに発生するリプル(振動)を低減させるLCフィルタ回路(フィルタ回路)を構成する。
【0031】
交流スイッチ(交流開閉器)14は、交流回路12において、上述のLCフィルタ回路の分岐点12aよりも系統3側に直列に設けられる。交流スイッチ14は、制御装置30や不図示の上位装置やオペレータからの投入指示又は開放指示に従って、交流回路12と系統3との間を接続又は開放する。交流スイッチ14が開放されるとインバータ11から供給される交流電力が系統3に流出することが遮断される。交流スイッチ14は、電力変換装置1に起動時に、電力変換装置1が系統3側との電圧合わせ運転(同期制御)を行っているときは開放され、系統連系運転が開始されるときに投入される。
【0032】
コンデンサ回路15は、交流回路12におけるACリアクトル13と交流スイッチ14との間の分岐点12aを介して分岐された回路であり、一端が分岐点12aと接続され、他端側が交流コンデンサ16と接続される。
【0033】
交流コンデンサ16は、AC(alternating-current)コンデンサ、ACキャパシタ(alternating-current capacitor)、フィルタコンデンサとも称され、電気(電荷)を蓄え又は放出する電子部品である。以下、本明細書において、交流コンデンサ16は、「ACコンデンサ16」とも称される。ACコンデンサ16は、例えば、L型に接続されたACリアクトル13とともにインバータ11の不図示のスイッチング素子がスイッチングするときに発生させるリプル(振動)を低減させるLCフィルタ回路(フィルタ回路)を構成する。ACコンデンサ16は、ACリアクトル13とともにフィルタ回路を構成することで、系統3側に高調波(高調波電流)が流出することを抑制する。ACコンデンサ16は、故障した際に回路から切り離される少なくとも一つの交流コンデンサであればよい。
【0034】
ACコンデンサ16は、例えば、静電容量を稼ぐため又は定格電流を満たすために、コンデンサ回路15が複数に分岐して、複数のACコンデンサ16aが並列接続されて構成される。複数のACコンデンサ16aは、それぞれ保安機構16bを有する。なお、本実施形態において、ACコンデンサ16は、必ずしも複数並列接続されている必要は無く、ACコンデンサ16aと保安機構16bとを有するACコンデンサ16が少なくとも一つあれば良い。
【0035】
保安機構16bは、例えば、ヒューズ又はスイッチ等であり、ACコンデンサ16aの故障時や、ACコンデンサ16aに異常が発生してACコンデンサ16aの内圧が上昇したときなどに、当該ACコンデンサ16aを回路から切り離す役割を有する。なお、保安機構16bは、ACコンデンサ16aとは別体として設けられたヒューズ又はスイッチ等には限られず、ACコンデンサ16a自身に備えられた、故障した際に回路から切り離される機能等であってもよい。
【0036】
また、保安機構16bは、ACコンデンサ16aを個別に回路から切り離すものであってもよく、複数のACコンデンサ16aを有するACコンデンサ16の所定のパッケージ毎に回路から切り離すものであってもよい。すなわち、例えば、複数のACコンデンサ16aを有するACコンデンサ16の所定のパッケージが複数並列接続されている場合などでは、保安機構16bは、当該ACコンデンサ16の所定のパッケージ毎に配置されてもよい。
【0037】
図2は、
図1に示す電力変換装置1において、交流コンデンサ16の実際の接続状況の一例を示す図である。
図2において、
図1と同一又は同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は、省略又は簡略化する。
【0038】
図2に示すとおり、交流回路12は、実際は三相三線式の三相交流回路であり、ACコンデンサ16を始めとする各構成要素は、実際は三相交流回路12にそれぞれ設けられている。なお、
図1及び他の図面では、図面の簡単のため、これらの交流回路12及びACコンデンサ16を始めとする各構成要素は、簡略化して示されている。
【0039】
図2において、ACコンデンサ16は、静電容量を稼ぐため又は定格電流を満たすために、三相交流回路12の各相(U相、V相、W相)のコンデンサ回路15が複数に分岐されて、複数並列接続されている。なお、
図2において、コンデンサ回路15は、各相とも3つに分岐され、ACコンデンサ16は、各相とも3個並列接続されているが、分岐数や並列数は、これには限られない。例えば、コンデンサ回路15は、各相とも5つに分岐され、ACコンデンサ16は、各相とも5個並列接続されていてもよい。また、ACコンデンサ16は、三相で一塊のパッケージとなっており、一塊のACコンデンサパッケージが並列接続されていてもよい。
【0040】
また、
図2における各ACコンデンサパッケージにおいて、ACコンデンサ16は、デルタ結線(Δ結線)されているが、スター結線(Y結線)されていてもよく、その他の結線方式であってよい。また、異なる結線方式のACコンデンサ16又はACコンデンサパッケージが混在して並列接続されていてもよい。すなわち、ACコンデンサ16の並列接続の方式は特に限定されない。また、
図2において、保安機構16bは、ACコンデンサ16a毎に配置されているが、上述のとおり、ACコンデンサパッケージ毎に配置されていてもよい。なお、保安機構16bが配置される位置は、
図2に示す位置には限られず、ACコンデンサ16又は16aが故障した際にこれらを回路から切り離すことが出来る場所であればどこでもよい。
【0041】
図1に戻り、電流センサ21は、インバータ11の出力側の交流回路12におけるインバータ11とコンデンサ回路15への分岐点12aとの間において、交流リアクトル13と直列に接続されるように配置される。電流センサ21は、例えば、公知の交流電流計又は交流電流センサ等であり、電力変換装置1における三相の出力電流の電流値I
U、I
V、I
Wを検出する。電流センサ21によって検出された電流値I
U、I
V、I
Wは、制御装置30によって取得される。
【0042】
なお、電流センサ21は、交流回路12において、ACリアクトル13と直列に接続されていればよく、接続順序は問われない。但し、電流センサ21は、交流回路12において、インバータ11と分岐点12aとの間に設けられる。電流センサ21が、当該位置に設けられることにより、交流スイッチ14が開放されている電圧合わせ運転時(同期制御時)にACコンデンサ16に流れる電流を計測することができる。なお、実際は、電流センサ21は、多くの電力変換装置1において、仕様として上述の位置に既に配されているため、本実施形態では、既に配されている既存の電流センサ21を用いることができる。
【0043】
第一電圧センサ22は、例えば、インバータ11の出力側の交流回路12におけるインバータ11とコンデンサ回路15への分岐点12aとの間に配置される。第一電圧センサ22は、例えば、公知の交流電圧計又は交流電圧センサ等であり、インバータ11の出力電圧の電圧値V
iを検出する。第一電圧センサ22によって検出された出力電圧の電圧値V
iは、制御装置30によって取得される。なお、第一電圧センサ22が配置される位置は、インバータ11の出力電圧の電圧値V
iが計測できる位置であればどこでもよく、
図1に示される位置には限られない。
【0044】
第二電圧センサ23は、例えば、インバータ11の出力側の交流回路12における交流スイッチ14と系統3との間に配置される。第二電圧センサ23は、例えば、公知の交流電圧計又は交流電圧センサ等であり、三相の系統電圧の電圧値V
U、V
V、V
Wを検出する。第二電圧センサ23によって検出された電圧値V
U、V
V、V
Wは、制御装置30によって取得される。なお、第二電圧センサ23が配置される位置は、三相の系統電圧の電圧値V
U、V
V、V
Wが計測できる位置であればどこでもよく、
図1に示される位置には限られない。
【0045】
制御装置30は、例えば、電力変換装置1の内部又は外部に設けられ、図中配線等は省略されているが、インバータ11を始めとする電力変換装置1の各要素と、有線又は無線によって電気的に接続されている。なお、制御装置30は、不図示のインバータ制御回路の機能として実現されていてもよい。
【0046】
制御装置30は、例えば、プログラムを実行することにより動作するCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の不図示のプロセッサを有する。制御装置30は、後述の記憶部40(
図3参照)やメモリ92(
図10参照)等を有し、例えば、記憶部40又はメモリ92に記憶された所定のプログラムを実行することにより不図示のプロセッサを動作させて電力変換装置1の動作を統括的に制御する。なお、制御装置30は、例えば、不図示の上位装置や不図示の操作部を介したオペレータ等からの指示に従って動作してもよい。制御装置30は、交流スイッチ14が開放状態のときに、電流センサ21で検出された電流値に基づいて、後述の検出ロジックを用いてACコンデンサ16の故障を検出する。
【0047】
図3は、
図1及び
図2に示す電力変換装置1における制御装置30の構成例を示す図である。
【0048】
制御装置30は、記憶部40を有し、例えば、記憶部40又は後述のメモリ92(
図10参照)に記憶された所定のプログラムを実行することにより、以下の各部として機能する。制御装置30は、位相角調整部31と、インバータ制御部32と、電流成分抽出部33と、判定値算出部34と、故障判定部35と、故障情報発報部36と、動作制御部37として機能する。なお、上記の各機能は、制御装置30が有する不図示の演算処理装置が実行するプログラムにより実現されても、ハードウェアにより実現されてもよい。位相角調整部31と、インバータ制御部32と、電流成分抽出部33と、判定値算出部34と、故障判定部35と、故障情報発報部36と、動作制御部37とは、所定のプログラムを実行して、以下の処理を行う。
【0049】
位相角調整部31は、第二電圧センサ23から、三相(U相、V相、W相)の系統電圧の測定値である電圧値VU、VV、VWを取得する。位相角調整部31は、例えば、任意の位相角θに基づいて、取得した系統電圧の電圧値VU、VV、VWを三相二相変換(dq変換)し、d軸電圧Vdとq軸電圧Vqとを求める。位相角調整部31は、求めたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとに対してPLL(Phase Locked Loop)制御を行い、q軸電圧Vqが、d軸電圧Vdに対して十分小さくなるように(0になるように)位相角θを調整する。
【0050】
位相角調整部31は、調整された位相角θに基づいて、系統電圧の三相の電圧値VU、VV、VWに対して三相二相変換(dq変換)を行い、d軸成分とq軸成分とを出力する。これにより、dq座標軸上において、q軸は、d軸に対して90度位相が進んだ方向にとられることになる。位相角調整部31は、調整された位相角θに基づいて系統電圧の電圧値VU、VV、VWを三相二相変換(dq変換)し、d軸電圧Vdとq軸電圧Vqとを求める。位相角調整部31は、求めたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとをインバータ制御部32に出力する。また、位相角調整部31は、調整された位相角θを電流成分抽出部33に出力する。
【0051】
インバータ制御部32は、位相角調整部31によって調整された位相角θに基づいて求められたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとを取得する。インバータ制御部32は、取得したd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとに対し、所定のフィルタを経由させて、二相三相変換(逆変換)を行い、インバータ出力電圧指令値VU
*、VV
*、VW
*を求める。インバータ制御部32は、求めたインバータ出力電圧指令値VU
*、VV
*、VW
*に対してPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御を行い、ゲート信号を発生させる。
【0052】
インバータ制御部32は、発生させたゲート信号により、インバータ11の不図示のスイッチング素子を制御して、電力変換装置1の電圧合わせ運転(同期制御)を行わせる。なお、上記の制御の結果、電圧合わせ運転(同期制御)時において、インバータ11の出力電圧の位相と振幅とは、系統電圧の位相と振幅とほぼ一致する。これにより、d軸電流Idはインバータ11の出力電圧と同位相の成分、q軸電流Iqは、インバータ11の出力電圧に対して90度位相が進んだ成分となる。なお、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中であるか否かの情報は、故障情報発報部36によって、インバータ制御部32から適宜取得される。
【0053】
電流成分抽出部33は、電流センサ21から、三相(U相、V相、W相)のインバータ11の出力電流の測定値である電流値IU、IV、IWを取得する。また、電流成分抽出部33は、位相角調整部31によって調整された位相角θに基づいて、取得した出力電流の測定値である電流値IU、IV、IWを三相二相変換(dq変換)し、d軸電流Idとq軸電流Iqとを求める。上記の位相角調整部31によるPLL制御の結果、dq座標上で系統電圧のベクトルの方向は、d軸方向に一致している。このため、求めた電流成分におけるd軸電流は、系統電圧と同位相の成分となり、q軸電流は系統電圧に対して90度位相が進んだ成分となっている。電流成分抽出部33は、求めた電流成分からq軸電流Iqを抽出し、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)を経由させてq軸電流Iqfを求め、求めたq軸電流Iqfを故障判定部35に出力する。なお、ローパスフィルタは、省略されてもよい。
【0054】
判定値算出部34は、第一電圧センサ22から、インバータ11の出力電圧の測定値である電圧値Viを取得し、取得した電圧値Viから、インバータ11の出力電圧d軸の測定値であるd軸電圧Vidを求める。判定値算出部34は、d軸電圧Vidと一定値であるACコンデンサ16の定格コンダクタンスとからコンデンサq軸電流理論値Iqtを算出する。判定値算出部34は、算出されたコンデンサq軸電流理論値Iqtと所定の故障検出レベルとを乗算して判定値I’qtを算出し、算出された判定値I’qtを故障判定部35に出力する。なお、判定値I’qtは、例えば記憶部40に記憶された所定の判定値が用いられ、判定値算出部34の機能は、省略されてもよい。
【0055】
故障判定部(比較器)35は、電流成分抽出部33により求められたq軸電流Iqfと、判定値算出部34により求められた判定値I’qtとを大小比較する。故障判定部35は、q軸電流Iqfが判定値I’qtよりも小さいときは、ACコンデンサ16が故障していると判定する。すなわち、故障判定部35は、例えば、複数のACコンデンサ16のうち、少なくとも一つがオープン故障した場合、q軸電流Iq(Iqf)が正常時よりも小さくなるため、これを検出して故障と判定する。故障判定部35は、ACコンデンサ16が故障していると判定したときは、故障している旨の判定結果である「1」を故障情報発報部36に出力する。
【0056】
故障情報発報部36は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中であるか否かの情報を、例えばインバータ制御部32から適宜取得する。故障情報発報部36は、故障判定部35によってACコンデンサが故障していると判定されたときは、故障している旨の判定結果である「1」を故障判定部35から取得する。故障情報発報部36は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中であるとの情報を取得しているときに、故障判定部35から、ACコンデンサ16が故障している旨の判定結果である「1」を取得したときは、故障情報を発報する。故障情報発報部36は、例えば、不図示の上位装置等に故障情報を出力することや、電力変換装置1の不図示の表示部や操作部等に警報やアラーム等を発報することにより、故障情報を発報する。また、故障情報発報部36は、動作制御部37にも故障情報を発報する。
【0057】
動作制御部37は、故障情報発報部36からACコンデンサ16の故障情報の発報を取得したときは、電力変換装置1を停止するよう電力変換装置1の各部に動作指示を与え、交流スイッチ14の投入前に電力変換装置1を停止させる。なお、動作制御部37は、例えばインバータ制御部32から同期判定OKの情報を取得したときに、故障情報発報部36からACコンデンサ16の故障情報の発報を取得していないときは、交流スイッチ14投入の動作指示を与え、系統連系運転を開始させてもよい。
【0058】
記憶部40は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、その他の半導体メモリ等の揮発性又は不揮発性の記憶媒体である。記憶部40は、例えば、制御装置30の各部の動作に必要なプログラムを記憶するとともに、制御装置30の各部により、各種の情報の書き込みや読み出しが行われる。記憶部40は、例えば、電流センサ21等の各センサによって取得された値や、判定値算出部34で用いられるACコンデンサ16の定格コンダクタンスの値や所定の故障検出レベルの値又は所定の判定値等を記憶する。
【0059】
記憶部40は、例えば、不図示のバス等により、制御装置30の各部と接続されている。なお、記憶部40は、制御装置30の外部に設けられ、有線又は無線で制御装置30と接続されていてもよく、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disc)等の外部記憶媒体等であっても、オンラインストレージ等であってもよい。
【0060】
<第1実施形態の動作>
図4は、
図1から
図3に示す制御装置30の故障検出動作の一例を示す図である。
図4に示す動作は、電力変換装置1の始動(起動指令受付)とともに開始される。すなわち、
図4は、電力変換装置1の始動時の電圧合わせ運転(同期制御)時における制御装置30の故障検出動作の一例を示す。
【0061】
ステップS11において、制御装置30の位相角調整部31は、第二電圧センサ23から、三相(U相、V相、W相)の系統電圧の測定値である電圧値VU、VV、VWを取得し、ステップS12に処理を移行させる。
【0062】
ステップS12において、位相角調整部31は、取得した系統電圧の電圧値VU、VV、VWを、例えば、任意の位相角θに基づいて三相二相変換(dq変換)してd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとを求め、ステップS13に処理を移行させる。さらに、位相角調整部31は、求めたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとをインバータ制御部32にも出力する。
【0063】
ステップS13において、位相角調整部31は、求められたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとを取得し、ステップS14に処理を移行させる。
【0064】
ステップS14において、位相角調整部31は、出力されたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとに対してPLL(Phase Locked Loop)制御を行い、q軸電圧Vqが、d軸電圧Vdに対して十分小さくなるように(0になるように)位相角θを調整する。位相角調整部31は、調整された位相角θを出力し、ステップS15に処理を移行させる。さらに、位相角調整部31は、調整された位相角θを電流成分抽出部33にも出力する。
【0065】
ステップS15において、位相角調整部31は、調整された位相角θに基づいて、系統電圧の三相の電圧値VU、VV、VWに対して三相二相変換(dq変換)を行い、d軸成分(d軸電圧Vd)とq軸成分(q軸電圧Vq)とを求める。これにより、dq座標軸上において、q軸は、d軸に対して90度位相が進んだ方向にとられることになる。そして、位相角調整部31は、ステップS13に処理を移行させ、電力変換装置1の電圧合わせ運転(同期制御)中、ステップS13からS15の処理を繰り返す。さらに、位相角調整部31は、求めたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとをインバータ制御部32にも出力する。
【0066】
ステップS21において、制御装置30のインバータ制御部32は、最初はステップS12で出力されたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとを取得し、その後は、ステップS15で出力されたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとを取得する。インバータ制御部32は、取得したd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとに、例えば所定のフィルタ処理を行い、ステップS22に処理を移行させる。なお、所定のフィルタ処理は、必須ではなく、行われなくてもよい。
【0067】
ステップS22において、インバータ制御部32は、取得したd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとに対し、二相三相変換(逆変換)を行い、インバータ出力電圧指令値VU
*、VV
*、VW
*を求め、ステップS23に処理を移行させる。なお、系統電圧の電圧値VU、VV、VWに対し、一旦三相二相変換(dq変換)が行われ、その後に二相三相変換(逆変換)が行われるのは、三相の電圧値VU、VV、VWよりも、二軸のd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとの方が、フィルタ処理が容易だからである。
【0068】
ステップS23において、インバータ制御部32は、求めたインバータ出力電圧指令値VU
*、VV
*、VW
*に対してPWM制御を行い、ゲート信号を発生させる。インバータ制御部32は、発生させたゲート信号により、インバータ11のスイッチング素子を制御して、電力変換装置1の電圧合わせ運転(同期制御)を行わせ、ステップS24に処理を移行させる。なお、上記の制御の結果、電圧合わせ運転(同期制御)時において、インバータ11の出力電圧の位相と振幅とは、系統電圧の位相と振幅とほぼ一致する。これにより、d軸電流Idはインバータ11の出力電圧と同位相の成分、q軸電流Iqは、インバータ11の出力電圧に対して90度位相が進んだ成分となる。
【0069】
ステップS24において、インバータ制御部32は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中であるか否かの情報を出力する。電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中であるか否かの情報は、故障情報発報部36によって適宜取得される。
【0070】
図5は、電力変換装置1の電圧合わせ運転(同期制御)の動作の一例を示す図である。
図5(a)は、電力変換装置1が始動してから系統3側と同期されるまでの電圧合わせ運転(同期制御)時の状態を示す図である。
図5(b)は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)を行った結果、系統3側と同期されたときの状態を示す図である。
図5(c)は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)により系統3側と同期されたため、交流スイッチ14が投入されたときの状態を示す図である。
【0071】
図5において、左側は、回路状態が示される。
図5の左側では、
図1に示す電力変換装置1の一部の構成を省略した図が示されている。
図5の左側において、交流スイッチ14の左側は、インバータ11の出力電圧が印加されており、交流スイッチ14の右側は、系統3側の系統電圧が印加されている。また、
図5の左側において、矢印は、インバータ11から出力された電流経路を示す。
図5の右側は、電圧波形が示される。
図5の右側において、実線は、系統電圧の波形を示し、破線は、インバータ11の出力電圧の波形を示す。
【0072】
図5(a)において、電力変換装置1が始動すると(起動指令を受け付けると)、インバータ11は、インバータ制御部32から出力されるゲート信号により制御され、電圧合わせ運転(同期制御)が開始される。始動時は、任意の位相角θに基づいたゲート信号によってインバータ11が制御されるため、インバータ11の出力電圧の電圧波形と系統電圧の電圧波形とは、最初はバラバラである(S12、S21~S23)。
【0073】
図5(b)において、電圧合わせ運転(同期制御)を行った結果、同期判定がOKとなる。すなわち、位相角調整部31は、系統電圧から取得された三相の電圧値V
U、V
V、V
Wを基にPLL制御を行い、位相角θを調整している(S14)。そして、調整された位相角θに基づいたゲート信号によってインバータ11が制御されていくと、インバータ11の出力電圧の位相と振幅とは、系統電圧の位相と振幅とほぼ一致するようになる(S15、S21~S23)。
【0074】
図5(c)において、同期判定がOKとなったときは、インバータ11の出力電圧の電圧波形と系統電圧の電圧波形とはほぼ一致するため、例えば動作制御部37の動作指示により、交流スイッチ14が投入され、系統連系運転が開始される。
【0075】
図4に戻り、ステップS31において、制御装置30の電流成分抽出部33は、電流センサ21から、三相(U相、V相、W相)のインバータ11の出力電流の測定値である電流値I
U、I
V、I
Wを取得し、ステップS32に処理を移行させる。なお、電流センサ21は、常時電流値I
U、I
V、I
Wを測定しており、電流成分抽出部33は、常時電流値I
U、I
V、I
Wを取得している。
【0076】
ステップS32において、電流成分抽出部33は、取得した出力電流の測定値である電流値IU、IV、IWを、ステップS14のPLL制御によって調整された位相角θに基づいて三相二相変換(dq変換)し、d軸電流Idとq軸電流Iqとを求める。なお、ステップS14において、位相角調整部31は、q軸電圧Vqが、d軸電圧Vdに対して十分小さくなるように(0になるように)位相角θを調整している。このため、ステップS14におけるPLL制御の結果、dq座標上で系統電圧のベクトルの方向は、d軸方向に一致している。このため、求めた電流成分におけるd軸電流Idは、系統電圧と同位相の成分となり、q軸電流Iqは系統電圧に対して90度位相が進んだ成分となっている。
【0077】
ステップS33において、電流成分抽出部33は、求めた電流成分からq軸電流Iqを抽出し、ステップS34に処理を移行させる。なお、q軸電圧Vqがゼロになるように、すなわちd軸電圧のみが見えるようにdq変換されている場合、ACコンデンサ16の容量が減った場合でも、d軸電流Idは変わらないため、d軸電流IdはACコンデンサの16の故障検出には影響しない。すなわち、ACコンデンサ16に流れる電流(コンデンサ電流)は、q軸電流Iqにのみ表れるため、電流成分抽出部33は、求めた電流成分からq軸電流Iqのみを抽出する。
【0078】
ステップS34において、電流成分抽出部33は、抽出されたq軸電流Iqに対して、ローパスフィルタ(LPF)によるフィルタ処理を行い、q軸電流Iqfを求める。なお、ここで用いられるローパスフィルタは、系統電圧と周波数が異なる成分を除去するためのフィルタである。q軸電流Iqに対してローパスフィルタによるフィルタ処理が行われることにより、電流センサ21の直流オフセット分も除去される。また、ローパスフィルタによるフィルタ処理が行われることにより、ACコンデンサ16のコンデンサ容量が小さくコンデンサ電流が小さい場合でも、ACコンデンサ16に流れる電流のみを抽出することができる。電流成分抽出部33は、求めたq軸電流Iqfを故障判定部35に出力する。なお、ローパスフィルタは、必須ではなく、無くてもよい。このため、ステップS34の処理は、省略されてもよい。
【0079】
ステップS41において、判定値算出部34は、第一電圧センサ22から、インバータ11の出力電圧の測定値である電圧値Viを取得し、取得した電圧値Viから、インバータ11の出力電圧d軸の測定値であるd軸電圧Vidを求める。判定値算出部34は、d軸電圧Vidを求めた後、ステップS43に処理を移行させる。
【0080】
ステップS42において、判定値算出部34は、例えば記憶部40に記憶されているACコンデンサ16の定格コンダクタンスの値(一定値)を取得し、ステップS43に処理を移行させる。
【0081】
ステップS43において、判定値算出部34は、求められたd軸電圧Vidと、取得されたACコンデンサ16の定格コンダクタンス(一定値)とを乗算してコンデンサq軸電流理論値Iqtを算出し、ステップS45に処理を移行させる。
【0082】
ステップS44において、判定値算出部34は、例えば記憶部40に記憶されている所定の故障検出レベルの値を取得し、ステップS45に処理を移行させる。なお、故障検出レベルの値は、例えば、0.8である。
【0083】
ステップS45において、判定値算出部34は、算出されたコンデンサq軸電流理論値Iqtに、取得された故障検出レベル(例えば、0.8)を乗算して、判定値I’qtを算出する。判定値算出部34は、算出された判定値I’qtを故障判定部35に出力する。なお、コンデンサq軸電流理論値Iqtと、故障検出レベルとの乗算は必須ではなく、無くてもよい。この場合、ステップS43で算出されたコンデンサq軸電流理論値Iqtが判定値I’qtとして故障判定部35に出力され、ステップS44とS45との処理は、省略されてもよい。
【0084】
また、判定値I’qtは、例えば記憶部40に記憶された所定の判定値が用いられてもよい。この場合、判定値算出部34の機能は、全て省略されてもよい。なぜなら、判定値算出部34により算出された判定値I’qtを用いても、最初から一定値である所定の判定値が用いられても、同等の効果が得られると考えられるためである。すなわち、コンデンサq軸電流理論値Iqt(判定値I’qt)は、インバータ11の出力電圧の測定値である電圧値Viにおけるd軸電圧Vidに基づいて算出されているが、インバータ11は、系統3に連携している。系統3の系統電圧は、通常は決められた電圧値とほぼ一致するため、インバータ11のd軸電圧Vidも、厳密には変動するが、実際は、ほぼ一定であることが多い。このため、通常は、インバータ11のd軸電圧Vidに、一定値であるコンデンサの定格コンダクタンスを乗算しても、一定値となると考えられるためである。
【0085】
ステップS51において、故障判定部(比較器)35は、電流成分抽出部33により求められたq軸電流Iqfと、判定値算出部34により求められた判定値I’qtとを取得し、これらを大小比較し、ACコンデンサ16が故障しているか否かを判定する。故障判定部35は、q軸電流Iqfが判定値I’qtよりも小さいときは、ACコンデンサ16が故障していると判定する。すなわち、故障判定部35は、例えば、複数のACコンデンサ16のうち、少なくとも一つがオープン故障した場合、q軸電流Iqf(Iq)は正常時よりも小さくなるため、これを検出して故障と判定する。なお、判定値算出部34が省略されているときは、q軸電流Iqfと、例えば記憶部40に記憶された所定の判定値とを取得し、これらを大小比較してACコンデンサ16が故障しているか否かを判定してもよい。故障判定部35は、ACコンデンサ16が故障しているか否かを判定したときは、ステップS52に処理を移行させる。
【0086】
ステップS52において、故障判定部35は、ACコンデンサ16が故障していると判定したときは、故障している旨の判定結果である「1」を故障情報発報部36に出力する。なお、故障判定部35は、ACコンデンサ16が故障していないと判定したときは、故障していない旨の判定結果である「0」を故障情報発報部36に出力してもよく、故障していると判定されるまで何も出力しなくてもよい。
【0087】
図6は、ACコンデンサ16が故障した場合にq軸電流が減少するロジックを説明する図である。
【0088】
まず、ACコンデンサ16に異常が無い場合のACコンデンサ16のq軸電流をACコンデンサ16のコンデンサq軸電流理論値Iqtとする。但し、fは、印加電圧の周波数であり、Cは、コンデンサ容量であり、Vidは、インバータ出力電圧d軸成分である。この場合、ACコンデンサ16のコンデンサq軸電流理論値Iqtは、以下の(1)式で求められる。
【0089】
【0090】
ここで、例えば、ACコンデンサ16は、ACコンデンサ16aを3つ並列したものである場合について検討する。但し、Caは、ACコンデンサ16aの容量である。この場合、3つのACコンデンサ16aに異常が無い場合のコンデンサq軸電流理論値Iqtは、以下の(2)式で求められる。
【0091】
【0092】
この場合、ACコンデンサ16aの1つがオープン故障(開放故障)した場合のコンデンサ電流I”qtは、以下の(3)式で求められる。
【0093】
【0094】
(2)式及び(3)式によれば、ACコンデンサ16aに異常が無ければ、コンデンサ電流は、コンデンサq軸電流理論値Iqtとなるはずである。しかし、ACコンデンサ16aの1つがオープン故障した場合のコンデンサ電流は、(2/3)Iqtに減少する。
【0095】
図7は、
図4のステップS51における故障検出ロジックを説明する図である。
図7(a)において、中央のコンパレータ(比較器)は、故障判定部35を表す。左上のI
qfは、ステップS34で求められたq軸電流I
qfであり、左中央のI
qtは、ステップS43で求められたコンデンサq軸電流理論値I
qtであり、左下の0.8は、ステップS44で取得された故障検出レベルの値である。そして、q軸電流I
qfと、(コンデンサq軸電流理論値I
qtと故障検出レベルの値である0.8とが乗算された値である)判定値I’
qtとが、故障判定部35に向けて出力されている様子が示されている。
【0096】
ここで、故障検出レベルの値は、1よりも小さい値であり、本実施形態では、一例として、0.8である。通常、ACコンデンサ16が正常な場合、ACコンデンサ16に流れる電流の電流値(測定値)から求めたq軸電流Iqfと、インバータ11の出力電圧の電圧値(測定値)から求めたコンデンサq軸電流理論値Iqtとは、同一の値のはずである。しかし、誤差もあることから、多少の誤差を許容するため、判定値算出部34は、コンデンサq軸電流理論値Iqtに、1よりも小さい値である故障検出レベルの値である0.8を乗算して、判定値I’qtを求めている。これにより、多少の誤差があったとしても、ACコンデンサ16が正常な場合、q軸電流Iqfの方が、0.8が乗算された判定値I’qtよりも大きくなるはずである。
【0097】
それにもかかわらず、q軸電流Iqfの方が、0.8が乗算された判定値I’qtよりも小さいときは、ACコンデンサ16に何らかの故障(異常)が発生している場合と考えられる。
【0098】
例えば、ACコンデンサ16aの1つがオープン故障した場合、q軸電流Iqfは、(3)式により、Iqf=(2/3)Iqt≒0.67×Iqtとなる。一方、コンデンサq軸電流理論値Iqtに、故障検出レベルの値である0.8を乗算した判定値I’qtは、I’qt=0.8×Iqtとなる。このため、ACコンデンサ16aの1つがオープン故障した場合、判定値I’qt=0.8×Iqtよりも、q軸電流Iqf≒0.67×Iqtの方が小さくなる。これにより、故障判定部35は、q軸電流Iqfと、判定値I’qtとを大小比較して、q軸電流Iqfが判定値I’qtよりも小さいときは、ACコンデンサ16が故障していると判定する。
【0099】
ここで、ACコンデンサ16に異常が発生した場合、なぜq軸電流I
qfが判定値I’
qtより小さくなるか、別の観点から説明する。一般に、ACコンデンサ16に流れる電流値は、複素数で表され、以下の(4)式で求められる。なお、
図7(b)は、(4)式を図で表したものである。
【0100】
【0101】
(4)式によれば、ACコンデンサ16がオープン故障するとコンデンサ容量Cが減少することになるため、電流値Iも比例して減少する。そうすると、q軸電流Iqfも減少する。これにより、ACコンデンサ16がオープン故障すると、q軸電流Iqfが判定値I’qtより小さくなる。なお、(4)式によれば、ACコンデンサ16には、電圧の位相に対して、大きさとしてはωC、位相としては90度進んだ電流が流れることを示している。
【0102】
このため、故障判定部35は、q軸電流Iqfと、判定値I’qtとを大小比較して、q軸電流Iqfが判定値I’qtよりも小さいときは、ACコンデンサ16が故障していると判定する。これは、ACコンデンサ16のコンデンサ容量Cが減った場合、電流の大きさも減るため、故障判定部35は、この性質を用いてACコンデンサ16の故障を検出していることにもなる。また、これは、故障判定部35が、電圧の位相に対して90度位相が進んだ電流成分の大きさに基づいてACコンデンサ16の故障を検出していることにもなる。
【0103】
図4に戻り、ステップS61において、制御装置30の故障情報発報部36は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中であるか否かの情報を、インバータ制御部32から適宜取得する(S24参照)。また、故障情報発報部36は、故障判定部35によってACコンデンサが故障していると判定されたときは、故障している旨の判定結果である「1」を故障判定部35から取得する(S52参照)。そして、故障情報発報部36は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中であるとの情報を取得しているときに、故障判定部35から、ACコンデンサ16が故障している旨の判定結果である「1」を取得したときは、ステップS62に処理を移行させる。
【0104】
ステップS62において、故障情報発報部36は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中であるとの情報を取得しているときに、故障判定部35から、ACコンデンサ16が故障している旨の判定結果である「1」を取得したときは、故障情報を発報する。故障情報発報部36は、例えば、不図示の上位装置等に故障情報を発報(出力)することや、電力変換装置1の不図示の表示画面や操作盤等に警報やアラーム等を発報することにより、故障情報を発報する。故障情報発報部36は、動作制御部37にも故障情報を発報(出力)してもよい。なお、不図示の上位装置は、例えば、複数台の電力変換装置1を統括的に監視及び制御するものであり、各電力変換装置1と有線又は無線で接続されている。
【0105】
ステップS71において、制御装置30の動作制御部37は、故障情報発報部36からACコンデンサ16の故障情報の発報を取得したときは、電力変換装置1を停止するよう電力変換装置1の各部に動作指示を与える。これにより、動作制御部37は、系統連系運転開始前(交流スイッチ14の投入前)に電力変換装置1を停止させる。これにより、正常なACコンデンサ16aへの故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。
【0106】
なお、動作制御部37は、故障情報発報部36による故障情報の発報を取得した不図示の上位装置や不図示のオペレータからの操作部を介した動作指示を受け付けたときに電力変換装置1を停止させてもよい。また、動作制御部37は、例えばインバータ制御部32から同期判定OKの情報を取得したときに、故障情報発報部36から故障情報の発報を取得していないときは、交流スイッチ14にスイッチ投入の動作指示を与え、系統連系運転を開始させてもよい。
【0107】
図8は、
図1から
図7に示す電力変換装置1の動作例を示す図である。
図8(a)は、ACコンデンサ16が正常な場合における電力変換装置1の電圧合わせ運転(同期制御)中の状態を示す図である。
図8(b)は、ACコンデンサ16の一部がオープン故障している場合における電力変換装置1の電圧合わせ運転(同期制御)中の状態を示す図である。
【0108】
なお、
図8において、実際は、
図2に示すように、インバータ11の出力側には三相分の交流回路12が接続されており、三相分のACリアクトル13、交流スイッチ14、ACコンデンサ16等が配置されている。また、ACコンデンサ16は、実際には、
図2に示すように、各相に複数並列接続されている。しかし、図面の簡単のため、これらを含む各要素を省略又は簡略化して示している。
【0109】
図8(a)において、ACコンデンサ16が正常な場合、電力変換装置1は、起動指令を受け付けた直後は、インバータ11(インバータ回路11)を駆動させて電圧合わせ運転(同期制御)を行い、交流スイッチ14の前後の電圧を同期させようとする。このとき、交流スイッチ14が開放されているため、インバータ回路11から出力されている交流電力は、系統3側には流出していないが、ACコンデンサ16には、電流が流れている。
【0110】
この場合、三相交流回路12に配置された各相の電流センサ21によって測定されるインバータ11の出力電流の測定値である電流値I
U、I
V、I
Wは、ACコンデンサ16に流れる電流の電流値I
U、I
V、I
Wである。すなわち、電圧合わせ運転(同期制御)時には、電流センサ21により、ACコンデンサ16に流れる電流の電流値I
U、I
V、I
Wが常時検出されている。そして、このとき、制御装置30は、
図4に示すステップS11からステップS51までの動作を常時行っている。
【0111】
図8(b)において、ACコンデンサ16の一部がオープン故障している場合においても、電力変換装置1は、
図8(a)と同様の動作を行う。しかし、この場合、制御装置30は、ACコンデンサ16が故障していると判定し(S51)、ACコンデンサ16が故障している旨の判定結果である「1」を故障情報発報部36に出力する(S52)。その場合、制御装置30は、電力変換装置1が電圧合わせ運転(同期制御)中に、ACコンデンサ16が故障している旨の判定結果である「1」を取得したと判定し(S61)、故障情報を発報し(S62)、及び電力変換装置1を停止させる(S71)。これにより、正常なACコンデンサ16aへの故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。
【0112】
<第1実施形態の作用効果>
以上、
図1~
図8に示す第1実施形態では、電流センサ21は、インバータ11の出力側の交流回路12におけるインバータ11とコンデンサ回路15への分岐点12aとの間において、交流リアクトル13と直列に接続されるように配置される。このため、電流センサ21は、交流スイッチ14が開放されている電圧合わせ運転時(同期制御時)にも、ACコンデンサ16に流れる電流を計測することができる。これにより、
図1~
図8に示す第1実施形態によれば、制御装置30は、電圧合わせ運転(同期制御)中において、ACコンデンサ16のオープン故障を検出することができる。
【0113】
また、
図1~
図8に示す第1実施形態では、電流センサ21は、上述の位置に配置される。ここで、既存の電力変換装置1においては、電流センサ21は、仕様として、既に上述の位置に配されていることが多い。このため、
図1~
図8に示す第1実施形態によれば、多くの既存の電力変換装置1において、既に配置されている既存の電流センサ21を用いることができる。
【0114】
また、
図1~
図8に示す第1実施形態では、制御装置30は、q軸電圧V
qが、d軸電圧V
dに対して十分小さくなるように(0になるように)位相角θを調整する(S14)。そして、制御装置30は、調整された位相角θに基づいて、d軸電流I
dとq軸電流I
qとを求める(S32)。これにより、d軸電流I
dは、系統電圧と同位相の成分となり、q軸電流I
qは系統電圧に対して90度位相が進んだ成分となるため、ACコンデンサ16に流れる電流(コンデンサ電流)は、q軸電流I
qにのみ表れる。これにより、
図1~
図8に示す第1実施形態によれば、制御装置30は、q軸電流I
qfと、判定値I’
qtとを(q軸電流同士を)大小比較することで、ACコンデンサ16が故障していると判定することができる(S51)。
【0115】
また、
図1~
図8に示す第1実施形態では、制御装置30は、抽出されたq軸電流I
qに対して、ローパスフィルタ(LPF)によるフィルタ処理を行い、q軸電流I
qfを求める(S34)。これにより、電流センサ21に起因する直流オフセット分が除去されるため、直流オフセット分に起因するノイズを除去することができる。このため、
図1~
図8に示す第1実施形態によれば、ACコンデンサ16のコンデンサ容量が小さくコンデンサ電流が小さい場合でも、ACコンデンサ16に流れる電流のみを抽出することができるため、精度よく故障判定をすることができる。
【0116】
また、
図1~
図8に示す第1実施形態では、制御装置30は、コンデンサq軸電流理論値I
qtに、1よりも小さい値である所定の故障検出レベルの値(例えば、0.8)を乗算して、判定値I’
qtを求めている(S45)。これにより、
図1~
図8に示す第1実施形態によれば、q軸電流I
qfに多少の誤差があったとしても、当該多少の誤差を許容して、ACコンデンサ16の故障を検出することができる。
【0117】
また、
図1~
図8に示す第1実施形態では、制御装置30は、電圧合わせ運転時(同期制御時)に、ACコンデンサ16の故障を検出したときは、系統連系運転開始前(交流スイッチ14の投入前)に、故障情報を発報する(S62)。これにより、
図1~
図8に示す第1実施形態によれば、正常なACコンデンサ16aへの故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。
【0118】
また、
図1~
図8に示す第1実施形態では、制御装置30は、電圧合わせ運転時(同期制御時)に、ACコンデンサ16の故障を検出したときは、系統連系運転開始前(交流スイッチ14の投入前)に、電力変換装置1を停止させる(S71)。これにより、
図1~
図8に示す第1実施形態によれば、正常なACコンデンサ16aへの故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。
【0119】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態に係る制御装置30、電力変換装置1A、及び交流コンデンサ16の故障検出方法の一例について示す図である。なお、
図9において、
図1~
図8に示す実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。なお、
図9に示す構成は、
図2と同様に、交流回路12は、実際は三相三線式の三相交流回路であり、ACコンデンサ16を始めとする各構成要素は、実際は三相交流回路12にそれぞれ設けられている。但し、
図9においても、
図1と同様に、図面の簡単のため、各要素は、簡略化して示されている。
【0120】
図9に示す実施形態では、
図1~
図8に示す実施形態とは異なり、電流センサ21は、交流回路12には配置されておらず、電流センサ21Aが、コンデンサ回路15に配置されている。
図9に示す実施形態では、交流スイッチ14が開放されている電圧合わせ運転時(同期制御時)に、電流センサ21Aによって、ACコンデンサ16に流れる電流(コンデンサ電流)の電流値I
U、I
V、I
Wが測定される。そして、電流センサ21Aによって測定された電流値I
U、I
V、I
Wが電流成分抽出部33によって取得され、
図4に示す処理と同様の処理が行われてACコンデンサ16の故障が判定される。
【0121】
<第2実施形態の作用効果>
以上、
図9に示す第2実施形態によれば、
図1~
図8に示す第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0122】
また、
図9に示す第2実施形態では、電流センサ21Aが、コンデンサ回路15に配置されている。このため、電力変換装置1
Aの運転中(交流スイッチ14の投入時)であっても、ACコンデンサ16(コンデンサ回路15)に流れる電流(コンデンサ電流)の電流値I
U、I
V、I
Wを区別して測定することができる。これにより、
図9に示す第2実施形態によれば、電力変換装置1Aの運転中(交流スイッチ14の投入時)であっても、ACコンデンサ16の故障判定、故障情報の発報、電力変換装置1Aの停止をすることができる。
【0123】
また、
図9に示す第2実施形態では、電流センサ21Aは、電圧合わせ運転時(同期制御時)であっても、電力変換装置1Aの運転中(交流スイッチ14の投入時)であっても、ACコンデンサ16(コンデンサ回路15)に流れる電流のみを測定する。ここで、
図1~
図8に示す実施形態では、交流回路12に配置される電流センサ21は、インバータ11の出力電流に合わせた大きな定格電流のものを用いなければならない。一方、
図9に示す第2実施形態では、ACコンデンサ16(コンデンサ回路15)に流れる小さな電流のみを測定するため、電流センサ21Aは、小さな定格電流のものを用いることができる。そして、大きな定格電流の電流センサ21で小さな電流であるコンデンサ電流を測定するよりも、小さな定格電流の電流センサ21Aで小さな電流であるコンデンサ電流を測定する方が精度良く電流を測定することができる。このため、
図9に示す実施形態によれば、
図1~
図8に示す実施形態よりも、精度よくコンデンサ電流を測定することができる。
【0124】
また、
図9に示す第2実施形態では、電流センサ21Aは、小さな定格電流のものを用いている。このため、
図1~
図8に示す実施形態で用いられる電流センサ21よりも、小さくて安価な電流センサ21Aを用いることができる。
【0125】
また、
図9に示す第2実施形態では、電流センサ21Aは、コンデンサ回路15に配置されている。これにより、
図9に示す実施形態によれば、例えば、仕様として、電流センサ21が、交流回路12の交流スイッチ14よりも系統3側にのみ配置されていたとしてもACコンデンサ16の故障判定、故障情報の発報、電力変換装置1Aの停止をすることができる。
【0126】
<ハードウェア構成例>
図10は、
図1~
図9に示した実施形態における制御装置30が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。上述した各機能は処理回路により実現される。一態様として、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ91と少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0127】
処理回路がプロセッサ91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0128】
処理回路が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。各機能は処理回路で実現される。
【0129】
制御装置30が有する各機能は、それぞれ一部又は全部がハードウェアによって構成されてもよく、プロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。すなわち、制御装置30は、コンピュータとプログラムとによっても実現可能であり、プログラムは、記憶媒体に記憶されることも、ネットワークを通して提供されることも可能である。
【0130】
<実施形態の補足事項>
以上、
図1~
図10に示す実施形態によれば、
図1~
図8に示す第1実施形態と、
図9に示す第2実施形態とに分かれているが、これらの実施形態が組み合わされてもよい。すなわち、電力変換装置1又は1Aは、電流センサ21と電流センサ21Aの両方を備えていてもよい。そして、何れか一方又は両方の電流センサによって、ACコンデンサ16(コンデンサ回路15)に流れる電流(コンデンサ電流)が測定されてもよい。組み合わされた実施形態であっても、組み合わされる前の各実施形態が奏する各作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0131】
また、
図1~
図10に示す実施形態では、
図4に示すステップS51において、ACコンデンサ16aの一部がオープン故障したら、故障判定部35は、ACコンデンサ16の故障と判定する。しかし、例えば、故障判定部35は、ACコンデンサ16aが1つのみ故障した場合はACコンデンサ16の故障と判定せず、2つ以上故障した場合にACコンデンサ16の故障と判定するようにしてもよい。このような方法は、例えば、ACコンデンサ16aが1つのみ故障した程度では電力変換装置1又は1Aに与える影響が少ない場合などに有効である。なお、故障判定部35は、実体に即して、ACコンデンサ16aが3つ以上やそれ以上故障した場合にACコンデンサ16の故障を検出するようにしてもよい。
【0132】
また、
図1~
図10に示す実施形態によれば、本件開示の一態様として、電力変換装置1、1A及びこれらが有する制御装置30を例に説明したが、これには限られない。本件開示は、制御装置30の各部における処理ステップが行われる交流コンデンサの故障検出方法としても実現可能である。
【0133】
また、本件開示は、制御装置30の各部における処理ステップをコンピュータに実行させる交流コンデンサの故障検出プログラムとしても実現可能である。
【0134】
また、本件開示は、交流コンデンサの故障検出プログラムが記憶された記憶媒体(非一時的なコンピュータ可読媒体)としても実現可能である。交流コンデンサの故障検出プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)あるいはDVD(Digital Versatile Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等のリムーバブルディスク等に記憶して頒布することができる。なお、交流コンデンサの故障検出プログラムは、制御装置30が有する不図示のネットワークインタフェース等を介してネットワーク上にアップロードされてもよく、ネットワークからダウンロードされ、記憶部40等に格納されてもよい。
【0135】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。
【符号の説明】
【0136】
1,1A…電力変換装置;2…直流電源;3…交流電力系統(系統);11…インバータ(インバータ回路);12…交流回路(三相交流回路);12a…分岐点;13…交流リアクトル(ACリアクトル);14…交流スイッチ(交流開閉器、ACスイッチ);15…コンデンサ回路;16…交流コンデンサ(ACコンデンサ);16a…交流コンデンサ(ACコンデンサ);16b…保安機構;21,21A…電流センサ;22…第一電圧センサ;23…第二電圧センサ;30…制御装置;31…位相角調整部;32…インバータ制御部;33…電流成分抽出部;34…判定値算出部;35…故障判定部(比較器);36…故障情報発報部;37…動作制御部;40…記憶部;C,Ca…コンデンサ容量;f…周波数;I,IU,IV,IW…電流値;I’qt…判定値;I”qt…コンデンサ電流;Id…d軸電流;Iq,Iqf…q軸電流;Iqt…コンデンサq軸電流理論値;Vi,VU,VV,VW…電圧値;Vd,Vid…d軸電圧;Vq…q軸電圧;VU
*、VV
*、VW
*…インバータ出力電圧指令値;θ…位相角