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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】絶縁電線およびワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/285 20060101AFI20231219BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01B7/285
H01B7/00 301
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023018571
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2020569238の分割
【原出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2023053120
(43)【公開日】2023-04-12
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102011083952(DE,A1)
【文献】特開2013-251166(JP,A)
【文献】特開2016-58317(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013589(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/285
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線において、
前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、
さらに、前記露出部における前記素線の間の空間に、止水剤が充填された止水部を有し、
前記止水部を構成する前記止水剤は、
前記露出部において、前記素線の間の空間と連続して、前記導体の外周を被覆しているとともに、
前記露出部において前記導体の外周を被覆する領域と連続して、前記被覆部の前記露出部に隣接する端部において、前記絶縁被覆の外周を被覆しており、
前記止水剤は、
少なくとも前記素線に接する部位が、前記素線を構成する前記金属材料との接触によって硬化する樹脂材料よりなっており、
10Pa・s以上の粘度を有し、かつ前記絶縁被覆を構成する材料に対して、0.3MPa以上の接着力を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記止水剤は、少なくとも前記素線に接する部位が、嫌気硬化性を有していることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記止水剤は、絶縁性を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記止水剤は、少なくとも外周部が、外部からのエネルギーまたは物質の供給によって硬化する樹脂材料よりなっていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記止水剤は、少なくとも外周部が、光硬化性を備える樹脂材料よりなっていることを特徴とする請求項4に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記止水剤は、前記素線を構成する金属材料との接触によって硬化可能であり、かつ、外部からのエネルギーまたは物質の供給によって硬化可能である樹脂材料よりなっていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記止水剤は、嫌気硬化性と光硬化性の両方を備える樹脂材料よりなっていることを特徴とする請求項6に記載の絶縁電線。
【請求項8】
単位長さあたりの前記金属材料の密度が、前記露出部において、前記被覆部のうち、少なくとも、前記露出部に隣接した領域を除く遠隔域よりも高くなっていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記素線の撚りピッチが、前記露出部において、前記被覆部の前記遠隔域よりも小さくなっていることを特徴とする請求項8に記載の絶縁電線。
【請求項10】
前記止水部を、前記絶縁電線の長手軸方向の中途部に有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の絶縁電線を有し、前記絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部を備えていることを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項12】
前記絶縁電線の両端に設けられた前記電気接続部のうち、一方は、外部からの水の侵入を抑制する防水構造を備え、他方は、該防水構造を備えず、
前記止水部は、それら2つの電気接続部の間の位置に設けられていることを特徴とする請求項11に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、絶縁被覆が除去されて止水剤によって止水処理を施された止水部を有する絶縁電線およびワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線において、長手軸方向の一部の部位に止水処理が施される場合がある。例えば、特許文献1に、撚線導体と絶縁被覆とを有し、撚線導体は長さ方向に連続しているが絶縁被覆は適当な長さ毎に切断されて長さ方向に不連続になっており、絶縁被覆が切断されて撚線導体が露出した箇所では、撚線導体の素線間の隙間、撚線導体の外周面および絶縁被覆の切断面間の隙間が止水用樹脂で埋められて止水部が形成され、かつ止水用樹脂が絶縁被覆の切断面に接着している止水部付き電線が開示されている。
【0003】
特許文献1においては、止水部を形成するに際に、止水用樹脂で撚線導体の外周面を覆うと共に、撚線導体の素線間の隙間に止水用樹脂を入り込ませた後、撚線導体の外周面に付着している止水用樹脂を、絶縁被覆の切断面ではさみつけるまでの作業を、液状の止水用樹脂が固化しないうちに行っている。そして、絶縁被覆の切断面ではさみつけられた止水用樹脂は時間の経過によって固化し、絶縁被覆の切断面に接着するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-11771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、固化していない状態の止水剤を、素線間の空隙や導体の外周に配置してから、固化させることで、素線間の微小な空隙にも止水剤を浸透させて、止水部を形成することができる。そのように、止水剤を、流動性の高い状態で所定の位置に配置した後で、固化させられるように、外部からの操作や環境制御によって液状から固体状に硬化させることができる硬化性樹脂を、止水剤として用いることが好ましい。硬化性樹脂としては、種々の操作や環境制御による硬化機構を備えたものが存在するが、特許文献1には、どのような硬化機構を備える樹脂材料を、止水剤として用いるべきか、記載されていない。
【0006】
しかし、止水部において、高い止水性能を確保する観点から、導体を構成する素線に止水剤を密着させた状態のままで、その止水剤を液状から固体状に硬化させることが重要となる。また、多数の絶縁電線に対して、止水部を形成する際の生産性の観点から、高い止水性能を有する止水部を、短時間で形成できることが好ましい。後に詳しく述べるように、本発明者らの検討によると、止水剤を構成する硬化性樹脂が備える硬化機構の種類によっては、十分な止水性能を有する止水部を形成できない場合や、十分な止水性能を有する止水部を形成するのに、長い時間を要する場合があることが分かった。
【0007】
本発明の課題は、高い止水性能を有し、短時間で形成することができる止水部を備えた絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる絶縁電線は、金属材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線において、前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、さらに、前記露出部における前記素線の間の空間に、止水剤が充填された止水部を有し、前記止水剤は、少なくとも前記素線に接する部位が、前記素線を構成する金属材料との接触によって硬化する樹脂材料よりなっている。
【0009】
ここで、前記止水剤は、少なくとも前記素線に接する部位が、嫌気硬化性を有しているとよい。また、前記止水剤は、絶縁性を有しているとよい。前記止水剤は、少なくとも外周部が、外部からのエネルギーまたは物質の供給によって硬化する樹脂材料よりなっている。この場合に、前記止水剤は、少なくとも外周部が、光硬化性を備える樹脂材料よりなっているとよい。さらに、前記止水剤は、前記素線を構成する金属材料との接触によって硬化可能であり、かつ、外部からのエネルギーまたは物質の供給によって硬化可能である樹脂材料よりなっているとよい。この場合に、前記止水剤は、嫌気硬化性と光硬化性の両方を備える樹脂材料よりなっているとよい。
【0010】
単位長さあたりの前記金属材料の密度が、前記露出部において、前記被覆部のうち、少なくとも、前記露出部に隣接した領域を除く遠隔域よりも高くなっているとよい。さらに、前記素線の撚りピッチが、前記露出部において、前記被覆部の前記遠隔域よりも小さくなっているとよい。
【0011】
前記止水部を構成する前記止水剤は、前記露出部において、前記素線の間の空間と連続して、前記導体の外周を被覆しているとよい。さらに、前記止水部を構成する前記止水剤は、前記露出部において前記導体の外周を被覆する領域と連続して、前記被覆部の前記露出部に隣接する端部において、前記絶縁被覆の外周を被覆しているとよい。
【0012】
前記絶縁電線は、前記止水部を、前記絶縁電線の長手軸方向の中途部に有するとよい。
【0013】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような絶縁電線を有し、前記絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部を備えている。
【0014】
ここで、前記絶縁電線の両端に設けられた前記電気接続部のうち、一方は、外部からの水の侵入を抑制する防水構造を備え、他方は、該防水構造を備えず、前記止水部は、それら2つの電気接続部の間の位置に設けられているとよい。
【発明の効果】
【0015】
上記発明にかかる絶縁電線においては、導体を構成する素線の間の空間に充填される止水剤のうち、少なくとも素線に接する部位が、導体の素線を構成する金属材料との接触によって硬化する樹脂材料よりなっている。よって、止水剤が素線に密着した状態で硬化し、素線間の空間への水の侵入を効果的に抑制できる、高い止水性能を有する止水部を形成することができる。しかも、素線の間の空間に止水剤を充填し、素線を構成する金属材料に止水剤を接触させると、止水剤の硬化が開始し、進行するため、止水剤の硬化による止水部の形成を、短時間で完了することができる。
【0016】
ここで、止水剤の、少なくとも素線に接する部位が、嫌気硬化性を有している場合には、止水剤が、酸素との接触を遮断された状態で、硬化を起こすことになる。止水剤を素線の間の空間に充填すると、止水剤が素線を構成する金属材料に接触するとともに、止水剤の層自体によって、素線との界面の止水剤が、外部の空気との接触を遮断されるので、嫌気硬化性を有する止水剤が、素線に密着した状態で硬化し、高い止水性能を示す止水部を、短時間で形成することができる。
【0017】
また、止水剤が、絶縁性を有している場合には、止水剤が、露出部の導体を外部に対して絶縁する絶縁部材としての役割を兼ねるものとなる。
【0018】
止水剤の、少なくとも外周部が、外部からのエネルギーまたは物質の供給によって硬化する樹脂材料よりなっている場合には、止水剤の層のうち、素線に接触する内側の部位においては、素線を構成する金属材料との接触による硬化反応を利用して、止水剤を素線に密着させて、短時間で硬化させることができる一方、外周部においては、外部からのエネルギーまたは物質の供給を利用して、止水剤を短時間で硬化させることができる。よって、高い止水性能を有する止水部を、短時間で形成する効果に優れる。止水剤の層の外周部からの止水剤の垂下も、抑制しやすい。
【0019】
この場合に、止水剤の、少なくとも外周部が、光硬化性を備える樹脂材料よりなっていれば、止水剤の外周部において、特に高い硬化性を利用して、短時間で硬化を効率的に完了することができる。
【0020】
さらに、止水剤が、素線を構成する金属材料との接触によって硬化可能であり、かつ、外部からのエネルギーまたは物質の供給によって硬化可能である樹脂材料よりなっている場合には、止水剤が2種の硬化機構を有するため、素線と止水剤との界面で、主に金属材料との接触による硬化機構を利用し、止水剤の外周部で、主に外部からのエネルギーまたは物質の供給による硬化機構を利用することで、止水剤の全域を、短時間で硬化させることができる。よって、高い止水性能を有する止水剤の層を、短時間で形成する効果に優れる。
【0021】
この場合に、止水剤が、嫌気硬化性と光硬化性の両方を備える樹脂材料よりなっていれば、止水剤の層の全域にわたって、高い止水性能を有する止水剤の層を、短時間で形成する効果に、特に優れる。
【0022】
単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部において、被覆部のうち、少なくとも、露出部に隣接した領域を除く遠隔域よりも高くなっている場合には、止水部の形成に際し、露出部において、素線間に大きな空隙を設けやすい。よって、露出部の素線の間の空間に、止水剤が高い均一性をもって浸透しやすく、素線間において高い止水性能を有する止水部を、簡便に形成することができる。
【0023】
さらに、素線の撚りピッチが、露出部において、被覆部の遠隔域よりも小さくなっている場合には、止水部の形成に際し、露出部の素線の間の空間に充填された未硬化の止水剤が、素線の間の空間に保持されやすく、樹脂材料が素線を構成する金属材料との接触によって硬化する特性を有することによって、素線に接触した止水剤を短時間で硬化させられることの効果と合わせて、硬化前の止水剤の垂下や流出の影響を避けて、高い止水性能を有する止水部を形成しやすい。
【0024】
止水部を構成する止水剤が、露出部において、素線の間の空間と連続して、導体の外周を被覆している場合には、導体の外周に配置された止水剤が、止水部を物理的に保護する保護部材の役割を果たしうる。
【0025】
さらに、止水部を構成する止水剤が、露出部において導体の外周を被覆する領域と連続して、被覆部の露出部に隣接する端部において、絶縁被覆の外周を被覆している場合には、止水剤によって、導体を構成する素線間の止水に加え、被覆部の絶縁被覆と導体の間の止水も行うことができる。
【0026】
絶縁電線が、止水部を、絶縁電線の長手軸方向の中途部に有する場合には、絶縁電線に止水部を形成しやすいとともに、絶縁電線の一端から素線間の空間に侵入した水が、電線導体を伝って、他端に移動するのを、絶縁電線の中途部に設けた止水部によって、効果的に抑制することができる。
【0027】
上記発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような絶縁電線を有し、絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部を備えている。絶縁電線において、止水部を構成する止水剤が、導体の素線を構成する金属材料との接触によって硬化する樹脂材料よりなっているため、止水部が、高い止水性能を有する。そのため、高い止水性能を有するワイヤーハーネスとなる。特に、両端の電気接続部の一方に水が接触することがあっても、その水が絶縁電線を構成する導体を伝って他方の電気接続部、およびその電気接続部に接続された機器に侵入するのを、効果的に抑制することができる。また、そのような高い止水性能を有する止水部を、短時間で形成し、ワイヤーハーネスに組み込むことができる。
【0028】
ここで、絶縁電線の両端に設けられた電気接続部のうち、一方が、外部からの水の侵入を抑制する防水構造を備え、他方が、該防水構造を備えず、止水部が、それら2つの電気接続部の間の位置に設けられている場合には、防水構造を備えていない方の電気接続部に水が侵入することがあっても、その水が絶縁電線を構成する導体を伝って、防水構造を備えた方の電気接続部、およびその電気接続部に接続された機器に侵入するのを、効果的に抑制することができる。そのため、一方の電気接続部に形成された防水構造による防水性能の有効性を高め、その電気接続部が形成された機器を、水の侵入から高度に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態にかかる絶縁電線を示す透視側面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを、両端に接続される機器とともに示す概略側面図である。
図3】上記実施形態にかかる絶縁電線を製造するための各工程を示すフロー図である。
図4】上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、(a)は止水部を形成する前の状態、(b)は部分露出工程、(c)は緊密化工程を示している。
図5】上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、(a)は弛緩工程、(b)は充填工程、(c)は再緊密化工程を示している。
図6】上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、(a)は被覆移動工程、(b)は硬化工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を用いて本発明の実施形態にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネスについて、詳細に説明する。
【0031】
[絶縁電線の構成]
(絶縁電線の概略)
図1に、本発明の一実施形態にかかる絶縁電線1の概略を示す。絶縁電線1は、金属材料よりなる素線2aが複数撚り合わせられた導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆3と、を有している。そして、絶縁電線1の長手軸方向の中途部に、止水部4が形成されている。
【0032】
導体2を構成する素線2aは、いかなる金属材料よりなってもよく、銅、アルミニウム、マグネシウム、鉄などの金属材料を用いることもできる。これらの金属材料は、合金であってもよい。合金とするための添加金属元素としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン、これらの組み合わせなどが挙げられる。全ての素線2aが同じ金属材料よりなっても、複数の金属材料よりなる素線2aが混合されてもよい。上記で挙げた金属材料のうち、銅およびアルミニウム、またそれらを主成分とする合金が、自動車用絶縁電線の導体の構成材料として、一般的に用いられているが、後に説明するように、止水剤5として嫌気硬化性を有するものを用いる場合には、止水剤5に高い硬化性を発揮させる観点から、銅または銅合金を、素線2aの構成材料として特に好適に用いることができる。
【0033】
導体2における素線2aの撚り合わせ構造は、特に指定されないが、止水部4を形成する際に、素線2aの間隔を広げやすい等の観点からは、単純な撚り合わせ構造を有していることが好ましい。例えば、複数の素線2aを撚り合わせてなる撚線を複数集合させて、さらに撚り合わせる親子撚構造よりも、全ての素線2aを一括して撚り合わせた構造とする方が良い。また、導体2全体や各素線2aの径も特に指定されるものではないが、導体2全体および各素線2aの径が小さい場合ほど、止水部4において、素線2aの間の微細な隙間に止水剤5を充填して止水の信頼性を高めることの効果および意義が大きくなるので、おおむね、導体断面積を8mm以下、素線径を0.45mm以下とするとよい。
【0034】
絶縁被覆3を構成する材料も、絶縁性の高分子材料であれば、特に指定されるものではなく、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、オレフィン系樹脂等を挙げることができる。また、高分子材料に加えて、適宜フィラーや添加剤を含有してもよい。さらに、高分子材料は架橋されていてもよい。
【0035】
止水部4には、絶縁被覆3が導体2の外周から除去された露出部10が含まれている。そして、露出部10において、導体2を構成する素線2aの間の空間に、止水剤5が充填されている。
【0036】
止水剤5は、露出部10の素線2aの間の空間と連続して、露出部10の導体2の外周も被覆していることが好ましい。さらに、止水剤5は、図1に示すとおり、露出部10の素線2aの間の空間および導体2の外周部と連続して、露出部10の両側に隣接する被覆部20の端部の外周、つまり絶縁被覆3が導体2の外周を被覆したままの状態にある領域の端部の絶縁被覆3の外周にも配置されていることが好ましい。この場合には、止水剤5は、露出部10の一方側に位置する被覆部20の端部から他方側に位置する被覆部20の端部までにわたる領域の外周、好ましくは全周を連続して被覆するとともに、それら外周部と連続して、露出部10の素線2aの間の領域に充填された状態にある。
【0037】
止水剤5は、少なくとも、内側の部位、つまり導体2の素線2aに接する部位が、素線2aを構成する金属材料との接触によって硬化する樹脂材料の硬化物よりなっている。止水剤5の構成材料については、後に詳しく説明する。止水剤5は、硬化後の状態において、水等の流体を容易に透過させず、止水性を発揮することができる。
【0038】
上記のように、止水剤5が露出部10の素線2aの間の空間に充填されることで、素線2aの間の領域が止水され、素線2aの間の領域に、水等の流体が外部から侵入するのが抑制される。また、絶縁電線1のある部位において、素線2aの間に水が侵入することがあっても、素線2aを伝って、その水が絶縁電線1の他の部位に移動するのが、抑制される。例えば、絶縁電線1の一端に付着した水が、素線2aの間の空間を、絶縁電線1の他端に向かって移動するのを、抑制することができる。
【0039】
止水剤5が露出部10の導体2の外周部を被覆している場合には、露出部10を物理的に保護する役割を果たす。加えて、止水剤5が絶縁性材料よりなる場合には、露出部10の導体2を外部に対して絶縁する役割を果たす。さらに、露出部10に隣接する被覆部20の端部の外周も止水剤5で一体に被覆することで、絶縁被覆3と導体2の間の止水も行うことができる。つまり絶縁被覆3と導体2の間の空間に水等の流体が外部から侵入するのが抑制される。また、絶縁電線1のある部位において、絶縁被覆3と導体2の間に水が侵入することがあっても、絶縁被覆3と導体2の間の空間を伝って、その水が絶縁電線1の他の部位に移動するのが、抑制される。例えば、絶縁電線1の一端に付着した水が、絶縁被覆3と導体2の間の空間を、絶縁電線1の他端に向かって移動するのを、抑制することができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、需要の大きさや、素線2aの間隔の広げやすさ等の観点から、止水部4を、絶縁電線1の長手軸方向中途部に設けているが、同様の止水部4を、絶縁電線1の長手軸方向端部に設けてもよい。その場合、絶縁電線1の端部は、端子金具等、別の部材を接続した状態にあっても、何も接続していない状態にあってもよい。また、止水剤5に被覆された止水部4の中に、導体2および絶縁被覆3に加えて、接続部材等、別の部材を含んでもよい。別の部材を含む場合の例として、複数の絶縁電線1を接合したスプライス部を含んで、止水部4を設ける形態を挙げることができる。
【0041】
(止水剤の構成材料)
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1において、止水部4を構成する止水剤5は、少なくとも導体2の素線2aに接触する内側の部位が、素線2aを構成する金属材料との接触によって硬化する特性(以下、接触硬化性と称する場合がある)を有する樹脂材料の硬化物よりなっている。
【0042】
止水剤5が接触硬化性を有することで、未硬化の流動性を有する状態で、素線2aの間の空間を含む所定の位置に止水剤5を充填してから、その状態で止水剤5を硬化させ、止水部4を形成することができる。止水剤5を、塗布、浸漬等によって、導体2を構成する素線2aの間の部位に浸透させると、止水剤5が素線2aを構成する金属材料の表面に接触することになるので、止水剤5を素線2aの間の空間に充填した後、止水剤5の層に対して特段の操作を加えなくても、素線2aを構成する金属材料に接触している部位から、止水剤5の硬化が開始され、進行する。
【0043】
止水部4において、外部由来の水が素線2aの間の領域に侵入すること、また水が素線2aを伝って移動することを効果的に抑制するためには、止水剤5が隙間なく素線2aに密着した状態で、硬化していることが重要となる。止水剤5が、接触硬化性を有さず、光硬化性、熱硬化性、湿気硬化性、あるいはそれらの組み合わせ等、外部からのエネルギーや物質の供給による硬化機構しか備えていないとすれば、素線2aと止水剤5の界面において、十分に高い止水性能を有する止水部4を形成できない可能性がある。硬化反応を開始させる因子が、光、熱、湿気等、止水剤5の層の外部から供給されるエネルギーや物質である場合には、止水剤5の層のうち、外側の部位においては、硬化反応が進行しやすいとしても、止水剤5の層の最も内側に位置する素線2aとの接触界面においては、それらのエネルギーや物質が十分に届かず、硬化反応が進行しにくいからである。すると、止水性能の確保のために、止水剤5の密着性と硬化性の高さが最も要求される素線2aとの界面において、止水剤5の硬化が進行しにくいことになり、十分に高い止水性能が得られにくくなる。また、長い時間をかければ、素線2aとの界面においても、止水剤5の硬化が十分に進行し、高い止水性能を有する止水部4を形成することができるとしても、多数の絶縁電線1に対して止水部4を形成する際等に、止水部4の形成に長い時間をかけることは、生産性を低下させるものとなる。
【0044】
これに対し、本実施形態においては、止水剤5が接触硬化性を有しており、金属材料よりなる素線2aとの接触自体が、硬化反応を開始させる因子となるため、素線2aとの接触部において、他の部位よりも、特に高い密着性と硬化性を示す。よって、各素線2aに止水剤5が密着して硬化し、素線2aの間の空間への水の侵入や、素線2aの間の空間における水の移動を強力に抑制できる高い止水性能を有する止水部4を、形成することができる。また、止水剤5が、塗布、浸漬等によって素線2aの間の空間に充填されると、すぐに、硬化反応が開始され、進行するので、長い時間をかけなくても、素線2aの表面に接触する止水剤5を、硬化させることができる。よって、多数の絶縁電線1に対して止水部4を形成するような場合でも、止水部4を短時間で形成することができる。止水部4を短時間で形成できることは、生産性の向上のみならず、未硬化の止水剤5が垂下や流出を起こして所定の位置に留まらないことにより、止水部4の止水性能が低くなる事態を回避するのにも、効果を有する。
【0045】
上記のように、止水剤5は、接触硬化性、つまり金属材料との接触によって硬化する特性を有しているが、金属材料との接触のみを条件として硬化反応を起こすものであっても、金属材料との接触と、他の条件とがともに満たされた際に、硬化反応を起こすものであってもよい。金属材料との接触とともに満たすべき条件としては、酸素分子の遮断や、水等、他の物質(以下、硬化開始物質と称する場合がある)との接触を例示することができる。また、止水剤5が硬化開始物質と接触すれば、素線2aを構成する金属材料とは直接しなくても、硬化を起こす場合があり、そのような場合には、素線2aの表面に予め硬化開始物質を配置しておけば、硬化開始物質に覆われた素線2aの表面に止水剤5を接触させることで、止水剤5を硬化させることができる。このような硬化機構も、硬化開始物質に被覆された金属材料の表面との接触によって止水剤5が硬化するという点で、接触硬化性に含めることができる。
【0046】
金属との接触と、酸素分子の遮断を条件として硬化する樹脂材料として、嫌気硬化性材料が知られている。嫌気硬化性材料は、空気等に含有される酸素分子が遮断された状態で、金属(固体金属または金属イオン)に接触すると、液状から固体状へと硬化する。この場合には、止水剤5を、塗布、浸漬等によって、導体2を構成する素線2aの間の部位に浸透させると、素線2aと止水剤5の界面において、それよりも外側に形成された止水剤5の層自体によって、空気との接触が遮断される。よって、塗布、浸漬等によって止水剤5を素線2aの間の空間に充填するのみで、止水剤5の層に対して特段の操作を加えなくても、金属との接触と酸素分子の遮断の両方の条件が満たされ、素線2aを構成する金属材料に接触している部位から、止水剤5の硬化が開始され、進行する。
【0047】
止水剤5として、硬化開始物質との接触を条件として硬化する樹脂材料を用いる場合には、止水剤5を、導体2を構成する素線2aの間の部位に浸透させる前に、硬化開始物質を、塗布、浸漬等により、素線2aの表面に配置しておけばよい。そのうえで、止水剤5を素線2aの間の空間に充填すると、止水剤5の層に対して特段の操作を加えなくても、硬化開始物質が配置された素線2aの表面に接触している部位から、止水剤5の硬化が開始され、進行する。そのように、止水剤5と硬化開始物質との接触を条件として硬化する硬化機構としては、二液硬化性を挙げることができる。
【0048】
上記のように、導体2の素線2aを構成する金属材料は、特に限定されるものではない。しかし、止水剤5として、嫌気硬化性を有するものを用いる場合には、素線2aが、銅または銅合金よりなることが好適である。銅または銅合金よりなる場合に、アルミニウムやアルミニウム合金等よりなる場合と比較して、止水剤5が、素線2aとの接触界面において、高い嫌気硬化性を示しやすい。銅の酸化数が+2から+1へと変化する際に放出される電子により、止水剤5の嫌気硬化を進行させやすいからである。
【0049】
止水剤5は、少なくとも導体2の素線2aに接触する部位が接触硬化性を備えていれば、外部からのエネルギーまたは物質の供給による硬化等、他の種類の硬化機構を併せて備えるものであってもよい。むしろ、接触硬化性による止水剤5の硬化を補助し、さらなる硬化性の向上と硬化時間の短縮を図る観点から、それら他種の硬化性を、1種または2種以上、接触硬化性と併せ持つことが好ましい。例えば、止水剤5のうち、少なくとも導体2の素線2aに接触する内側の部位が、接触硬化性を有するとともに、少なくとも外部の環境に面する外周部が、止水剤5の外部からのエネルギーまたは物質の供給によって硬化反応を起こす他種の硬化性(以下、外因硬化性と称する場合がある)を有するものであるとよい。すると、外周部における止水剤5の硬化性を向上させ、また硬化時間を短縮することで、止水性能の向上、および硬化中の止水剤5の垂下や流出の抑制を図ることができる。例えば、止水剤5を複数の層より構成し、素線2aに接触する内側の層を、接触硬化性を有する樹脂材料より構成し、外周に面する外側の層を、外因硬化性を有する樹脂材料より構成することができる。
【0050】
止水剤5の層全体が、接触硬化性と外因硬化性を併せ持つ樹脂材料よりなることが、特に好ましい。そうすると、止水剤5の層の全域において、硬化性の向上と、硬化時間の短縮を達成することができる。止水剤5の層のうち、比較的内側の領域では、接触硬化性による硬化機構が支配的となり、比較的外側の領域では、外因硬化性による硬化機構が支配的となる。
【0051】
接触硬化性と併用される外因硬化性としては、光硬化性、熱硬化性、湿気硬化性等を挙げることができる。これらのうち、光硬化性および熱硬化性は、外部からのエネルギーの供給による硬化機構に当たり、湿気硬化性は、外部からの物質の供給による硬化機構に当たる。止水剤5は、複数の外因硬化性を、併せ持っていてもよい。
【0052】
外因硬化性としては、光硬化性を、最も好適に利用することができる。光硬化反応は、外部からの光照射によって、簡便に、しかも高速で進行させることができ、止水剤5の硬化性の向上と硬化時間の短縮に、高い効果を有する。特に、止水剤5が、硬化に用いる光に対して透過性を有する場合には、止水剤5の層において、表層部からある程度の深さまで、硬化を効率的に、また短時間で進行させることができる。光硬化性としては、紫外線硬化性を、特に好適に利用することができる。接触硬化性として嫌気硬化性を有し、かつ、外因硬化性として光硬化性を有する材料を、止水剤5として最も好適に利用することができる。なお、止水剤5として、硬化性ではなく、熱可塑性を有する樹脂組成物を用いることも考えられるが、接触硬化性をはじめ、硬化性を有する樹脂組成物を用いる方が、加熱による材料の溶融が不要で、簡便に扱うことができるうえ、熱による絶縁被覆3の損傷を回避することができ、好ましい。
【0053】
止水剤5の成分組成や、硬化特性以外に有する特性は特に限定されるものではないが、導体2を外部に対して絶縁する観点から、止水剤5として、絶縁性材料を用いることが好ましい。また、止水剤5を構成する具体的な樹脂種も、特に限定されるものではない。シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を例示することができる。中でも、硬化速度の速さや、反応性の高さ、粘度調整の容易性等の観点から、アクリル系樹脂を、特に好適に用いることができる。これらの樹脂材料には、適宜、止水剤5としての樹脂材料の特性を損なわない限りにおいて、各種添加剤を添加してもよい。
【0054】
嫌気硬化性等の接触硬化性、および光硬化性等の外因硬化性の樹脂材料への付与は、反応開始剤や触媒の添加、ポリマー鎖への官能基の導入等によって、行うことができる。例えば、嫌気硬化性の付与は、有機過酸化物などの添加により、行うことができる。有機過酸化物としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、p-メタンハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、その他、ケトンパーオキサイド類、ジアリルパーオキサイド類、パーオキシエステル類等が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で用いても、二種以上の混合物として用いてもよい。
【0055】
止水剤5としては、充填時の状態において、4Pa・s以上、さらには5Pa・s以上、10Pa・s以上の粘度を有する樹脂組成物を用いることが好ましい。素線2aの間の領域や外周域、特に外周域に、止水剤5を配置した際に、流出や垂下等を起こさずに、それらの領域に均一性の高い状態で保持されやすいからである。一方、止水剤5の充填時の粘度は、200Pa・s以下に抑えられていることが好ましい。粘度を過剰に高くしないことで、素線2aの間の領域に止水剤5を十分に浸透させやすくなるからである。
【0056】
上記のように、止水剤5は、金属との接触を硬化の要件とする接触硬化性を有することにより、導体2を構成する素線2aの表面に密着し、素線2aの間の空間や、導体2の外周において、高い止水性能を有する止水部4を形成することができる。さらに、止水剤5が、素線2aの間の空間および露出部10の導体2の外周部に加えて、露出部10に隣接する被覆部20の端部の外周も一体に被覆する場合には、絶縁被覆3に対しても、高い密着性を示すことが好ましい。例えば、PVC等、絶縁被覆3を構成する材料に対して、0.3MPa以上の接着力を有することが好ましい。なお、止水剤5が外因硬化性を有さない場合等、素線2aの間の空間においては十分に高い止水性能が得られるものの、導体2の外周部や絶縁被覆3と導体2の間の部位における止水性能が十分ではない場合には、上記のように、止水剤5を複数の層より構成すること、あるいは、止水剤5の層の外周に、止水性の材料よりなる収縮チューブ等を配置することで、導体2の外周部や絶縁被覆3と導体2の間の部位における止水性能を補うことができる。
【0057】
(止水部における導体の状態)
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、露出部10として露出している導体2の素線2aの間に、止水剤5を浸透させて硬化させている。露出部10を構成する導体2の状態は、絶縁被覆3に被覆された被覆部20における導体2の状態と同じであっても構わないが、異なる状態を有している方が、素線2aの間の空間への止水剤5の浸透および保持において、有利である。
【0058】
まず、絶縁電線1において、金属材料の単位長さあたり(絶縁電線1の長手軸方向における単位長さあたり)の金属材料の密度が、均一になっておらず、不均一な分布を有しているとよい。なお、絶縁電線1の長手軸方向全域にわたって、各素線2aは連続した略均一な径の線材として設けられており、本明細書において、金属材料の単位長さあたりの密度が領域間で異なる状態とは、素線2aの径や本数は一定であるが、撚り合わせの状態等、素線2aの集合状態が変化している状態を指す。
【0059】
具体的には、導体2における単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、被覆部20よりも高くなっているとよい。ただし、被覆部20において、露出部10にすぐ隣接する隣接域21においては、部分的に、露出部10よりも単位長さあたりの金属材料の密度が低くなっている可能性がある。つまり、単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、被覆部20全体のうち、少なくとも、そのような隣接域21を除いた遠隔域22よりも高くなっている。遠隔域22においては、単位長さあたりの金属材料の密度をはじめとする導体2の状態は、止水部4を設けないままの絶縁電線1における状態と実質的に等しい。なお、隣接域21において、単位長さあたりの金属材料の密度が低くなりうる理由としては、露出部10への金属材料の充当、露出部10と被覆部20の間の連続性確保のための導体2の変形等を挙げることができる。
【0060】
例えば図6(b)に、上記のような金属材料の密度の分布を含む導体2の状態を模式的に示している。図4図6においては、導体2が占める領域の内部に斜線を付しているが、その斜線の密度が高いほど、素線2aの撚りピッチが小さい、つまり素線2aの間隔が狭いことを示している。また、導体2として示している領域の幅(上下の寸法)が広いほど、導体2の径が大きく広がっていることを示している。ただし、それら図示したパラメータは、素線2aの撚りピッチおよび導体径に比例するものではなく、領域ごとの相対的な大小関係を模式的に示すものである。また、図示したパラメータは、各領域の間で不連続になっているが、実際の絶縁電線1においては、導体2の状態が領域間で連続的に変化している。
【0061】
図6(b)に示すように、露出部10においては、被覆部20の遠隔域22よりも、導体2の径が大きく広がっており、導体2において、単位長さあたりに素線2aとして含まれる金属材料の量が多くなっている。このように、露出部10において、単位長さあたりの金属材料の密度を高め、単位長さあたりに含まれる素線2aの実長を長くすることで、絶縁電線1の製造方法として後に詳しく説明するように、素線2aを撓ませて、素線2aの間隔を広く取り、素線2aの間に大きな空間を確保した状態で、素線2aの間の空間への止水剤5の浸透を行うことができる。その結果、素線2aの間の空間に止水剤5を浸透させやすくなり、露出部10の各部に、止水剤5を、高い均一性をもって充填しやすくなる。
【0062】
さらに、露出部10においては、単位長さあたりの金属材料の密度が、被覆部20の遠隔域22における密度よりも高くなっていることに加え、素線2aの撚りピッチが、被覆部20の遠隔域22における撚りピッチよりも小さくなっていることが好ましい。露出部10において、素線2aの撚りピッチが小さくなり、素線2aの間隔が狭くなっていることも、止水性能の向上に効果を有するからである。つまり、止水剤5が液状のまま素線2aの間の空間に充填された、止水部4の形成途中の状態において、素線2aの間隔を狭めておくことで、止水剤5を、垂下したり流出したりすることなく、素線2aの間の空間に均一に留まらせやすい。その状態から、止水剤5を硬化させると、露出部10において、高い止水性能が得られる。また、露出部10において、撚りピッチが遠隔域22よりも小さくなっていることで、単位長さあたりの金属材料の密度が遠隔域22よりも高くなっていても、露出部10における導体径を、遠隔域22における導体径との比較において、過度に大きくならないように、抑えることができる。すると、止水部4全体としての外径が、遠隔域22における絶縁電線1の外径に比べて、同程度、あるいは著しくは大きくならないように抑えることが可能となる。
【0063】
[ワイヤーハーネスの構成]
本発明の一実施形態にかかるワイヤーハーネス6は、上記本発明の一実施形態にかかる止水部4を備えた絶縁電線1を有している。図2に、本実施形態にかかるワイヤーハーネス6の一例を示す。ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1の両端には、それぞれ、コネクタ等、他の機器U1,U2に接続可能な電気接続部61,63が設けられている。ワイヤーハーネス6は、上記実施形態にかかる絶縁電線1に加えて、他種の絶縁電線をともに含むものであってもよい(不図示)。
【0064】
ワイヤーハーネス6において、絶縁電線1の両端に設けられる電気接続部61,63、およびそれら電気接続部61,63が接続される機器U1,U2の種類は、どのようなものであってもよいが、止水部4による止水性能を有効に利用する観点から、絶縁電線1の一端が防水されており、他端が防水されていない形態を、好適な例として挙げることができる。
【0065】
そのような形態として、図2に示すように、絶縁電線1の一端に設けられた第一の電気接続部61には、防水構造62が形成されている。防水構造62としては、例えば、第一の電気接続部61を構成するコネクタにおいて、コネクタハウジングとコネクタ端子の間の空間を封止するゴム栓が設けられている。防水構造62が設けられていることにより、第一の電気接続部61の表面等に水が付着することがあっても、その水は、第一の電気接続部61の内部に侵入しにくい。
【0066】
一方、絶縁電線1の他端に設けられた第二の電気接続部63には、第一の電気接続部61に設けられているような防水構造が、形成されていない。よって、第二の電気接続部63の表面等に水が付着すると、その水が第二の電気接続部63の内部に侵入できる可能性がある。
【0067】
ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1の中途部、つまり第一の電気接続部61と第二の電気接続部63の間の位置には、導体2が露出された露出部10が形成され、さらにその露出部10を含む領域に、止水剤5が充填された止水部4が形成されている。止水部4の具体的な位置および数は、特に限定されるものではないが、防水構造62が形成された第一の電気接続部61への水の影響を効果的に抑制する観点から、第二の電気接続部63よりも第一の電気接続部61に近い位置に、少なくとも1つの止水部4が設けられることが好ましい。
【0068】
絶縁電線1の両端に電気接続部61,63を有するワイヤーハーネス6は、2つの機器U1,U2の間を電気的に接続するのに用いることができる。例えば、防水構造62を有する第一の電気接続部61が接続される第一の機器U1として、電気制御装置(ECU)等、防水が要求される機器を適用すればよい。一方、防水構造を有さない第二の電気接続部63が接続される第二の機器U2として、防水の必要のない機器を適用すればよい。
【0069】
ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1が止水部4を有することにより、ワイヤーハーネス6の外部から侵入した水が、導体2を構成する素線2aを伝って移動することがあっても、絶縁電線1に沿った水の移動が、止水部4を超えて進行するのを、抑制することができる。つまり、外部から侵入した水が、止水部4を超えて移動して、両端の電気接続部61,63に達し、さらには電気接続部61,63に接続された機器U1,U2に侵入するのを、抑制することができる。例えば、防水構造を有していない第二の電気接続部63の表面に付着した水が、第二の電気接続部63の内部に侵入し、導体2を構成する素線2aを伝って、絶縁電線1に沿って移動することがあっても、その水の移動は、止水部4に充填された止水剤5によって、阻止される。その結果、水は、止水部4を超えて、第一の電気接続部61が設けられた方に移動することができず、第一の電気接続部61の位置まで達し、第一の電気接続部61および第一の機器U1に侵入することができない。このように、止水部4によって水の移動を抑制することで、防水構造62による第一の電気接続部61および機器U1に対する防水性を、有効に利用することが可能となる。
【0070】
絶縁電線1に設けられた止水部4によって、水の移動を抑制する効果は、水が付着した箇所や水が付着した原因、また水の付着が起こった時やその後の環境を問わず、発揮される。例えば、ワイヤーハーネス6を自動車に設けた場合等に、非防水の第二の電気接続部63から、素線2aの間の空間等、絶縁電線1の内部に侵入した水が、毛管現象や冷熱呼吸現象によって、防水構造62を有する第一の電気接続部61および第一の機器U1に侵入するのを、効果的に抑制することができる。冷熱呼吸現象とは、自動車の走行等に伴って、防水構造62を有する第一の電気接続部61および第一の機器U1が加熱された後、放冷された際に、絶縁電線1に沿って、第一の電気接続部61側が低圧で、第二の電気接続部63側が相対的に高圧となった圧力差が生じることで、第二の電気接続部63に付着した水が、第一の電気接続部61および第一の機器U1の方へと引き上げられる現象である。
【0071】
[絶縁電線の製造方法]
次に、上記実施形態にかかる絶縁電線1の製造方法の一例を説明する。
【0072】
図3に、本製造方法の概略を示す。ここでは、(1)部分露出工程、(2)密度変調工程、(3)充填工程、(4)再緊密化工程、(5)被覆移動工程、(6)硬化工程をこの順に実行することで、絶縁電線1の長手軸方向の一部の領域に、止水部4を形成する。(2)密度変調工程は、(2-1)緊密化工程と、それに続く(2-2)弛緩工程より構成することができる。以下、各工程について説明する。なお、ここでは、絶縁電線1の中途部に止水部4を形成する場合を扱うが、各工程における具体的な操作や、各工程の順序は、止水部4を形成する位置等、形成すべき止水部4の構成の詳細に応じて、適宜調整すればよい。
【0073】
(1)部分露出工程
まず、部分露出工程において、図4(a)に示したような連続した線状の絶縁電線1を用いて、図4(b)のように、露出部10を形成する。露出部10の長手方向両側には、被覆部20が隣接して存在する。
【0074】
このような露出部10を形成する方法の一例として、まず、露出部10を形成すべき領域の略中央に当たる位置において、絶縁被覆3の外周に、略円環状の切込みを形成する。そして、切込みの両側において絶縁被覆3を外周から把持し、相互に離間させるように、絶縁電線1の軸方向に沿って移動させる(運動M1)。移動に伴って、両側の絶縁被覆3の間に、導体2が露出されるようになる。このようにして、被覆部20に隣接した状態で、露出部10を形成することができる。
【0075】
(2)密度変調工程
上記部分露出工程において、導体2が露出した露出部10を形成した後、そのまま充填工程を実施し、露出部10の導体2を構成する素線2aの間の空間に、止水剤5を充填してもよいが、素線2aの間の空隙を広げ、止水剤5を均一性高く充填できるように、充填工程の前に、密度変調工程を実施することが好ましい。
【0076】
密度変調工程においては、露出部10、および被覆部20の隣接域21および遠隔域22の間で、金属材料の密度に不均一な分布を形成するとともに、露出部10における導体2の素線2aの間隔を広げる。金属材料の密度の不均一な分布としては、具体的には、単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、遠隔域22よりも高くなった状態を形成する。そのような密度の分布の形成は、例えば、緊密化工程と、それに続く弛緩工程によって、露出部10における素線2aの間隔の拡大と同時に達成することができる。
【0077】
(2-1)緊密化工程
緊密化工程においては、図4(c)に示すように、一旦、露出部10における撚りを、元の状態よりも緊密にする。具体的には、絶縁電線1を、素線2aが撚り合わせられている方向に捩るように回転させ、さらに撚りを強くかけるようにする(運動M2)。これにより、露出部10における素線2aの撚りピッチが小さくなり、素線2aの間隔が小さくなる。
【0078】
この際、露出部10の両側の被覆部20において、露出部10に隣接する部位を外側から把持して、把持した部位(把持部30)を相互に対して逆向きに回転させるようにして、導体2に捻りを加えれば、把持部30から露出部10へと導体2を繰り出すことができる。導体2の繰り出しにより、図4(c)に示すように、把持部30において、当初よりも、素線2aの撚りピッチが大きくなり、単位長さあたりの金属材料の密度が低くなる。その分、当初把持部30に存在していた金属材料の一部が露出部10に充当され、露出部10における素線2aの撚りピッチが小さくなる。そして、露出部10における単位長さあたりの金属材料の密度が高くなる。なお、把持部30から露出部10に円滑に導体2を繰り出させるために、把持部30において絶縁電線1を外周から挟み込む力は、絶縁被覆3に対して導体2が相対移動できる程度に抑えておくことが好ましい。
【0079】
(2-2)弛緩工程
その後、弛緩工程において、図5(a)に示すように、露出部10における素線2aの撚りを、緊密化工程において緊密化した状態から、再度緩める。撚りの弛緩は、単に把持部30における把持を解放することにより、あるいは、把持部30を把持して、緊密化工程と反対方向に、つまり導体2が撚り合わせられている方向と逆方向に、捻るように回転させることにより(運動M3)、行うことができる。
【0080】
この際、導体2の剛性により、緊密化工程において露出部10の両側の把持部30から繰り出された導体2が、再度、絶縁被覆3に被覆された領域の中に完全に戻ることはなく、少なくとも一部は露出部10に留まる。その結果、導体2が露出部10に繰り出された状態のままで、その導体2における素線2aの撚りが緩むので、露出部10において、緊密化工程実施前に比べて実長として長い素線2aが、撓んで配置された状態となる。つまり、図5(a)に示すように、露出部10において、緊密化工程実施前の状態(図4(b))に比べて、導体2が全体として占める領域の径が大きくなり、単位長さ当たりの金属材料の密度が高くなる。露出部10における撚りピッチは、少なくとも、緊密化工程によって撚りを緊密化した状態よりも大きくなり、弛緩の程度によっては、緊密化工程実施前よりも大きくなる。素線2aの間隔を大きく広げる観点からは、緊密化工程実施前よりも撚りピッチを大きくする方がよい。
【0081】
被覆部20において、緊密化工程で絶縁被覆3を外側から把持していた把持部30は、弛緩工程を経て、単位長さあたりの金属材料の密度が露出部10よりも低く、さらには緊密化工程実施前の状態よりも低くなった隣接域21となる。被覆部20において、緊密化工程で把持部30としていなかった領域、つまり、露出部10から離間した領域は、遠隔域22となる。遠隔域22においては、単位長さあたりの金属材料の密度、素線2aの撚りピッチ等、導体2の状態が、緊密化工程実施前から実質的に変化していない。隣接域21において単位長さあたりの密度が低くなった分の金属材料は、露出部10に充当され、露出部10における単位長さあたりの金属材料の密度を高めるのに寄与する。その結果、単位長さあたりの金属材料の密度は、露出部10において最も高く、遠隔域22において次に高く、隣接域21において最も低い状態となる。
【0082】
(3)充填工程
次に、充填工程において、図5(b)のように、露出部10における素線2aの間の空間に、未硬化の止水剤5を充填する。止水剤5の充填操作は、塗布、浸漬、滴下、注入等、止水剤5の粘度等の特性に応じた任意の方法で、素線2aの間の空間に、液状の樹脂組成物を導入することによって行えばよい。
【0083】
充填工程においては、止水剤5を素線2aの間の空間に充填するとともに、露出部10の導体2の外周にも、止水剤5を配置することが好ましい。そのためには、例えば、露出部10に導入する止水剤5の量を、素線2aの間の空間を埋めても余剰が生じる量に設定しておけばよい。この際、止水剤5を、露出部10の外周に加えて、さらに被覆部20の端部の絶縁被覆3の外周部にも配置してもよいが、充填工程よりも後に被覆移動工程を実施する場合には、被覆移動工程において、露出部10に導入された止水剤5の一部を、被覆部20の絶縁被覆3の外周部に移動させることができる。よって、充填工程では、素線2aの間の空間に加えて、露出部10の外周に止水剤5を配置しておけば十分である。
【0084】
上記密度変調工程で、露出部10の素線2aの間隔を広げたうえで、充填工程において、露出部10に止水剤5を導入することで、広げられた素線2aの間の部位に、止水剤5が浸透しやすい。そのため、止水剤5を、露出部10の各部において、高い均一性をもって、ムラなく浸透させやすい。その結果、止水剤5の硬化を経て、優れた止水性能を有する信頼性の高い止水部4を形成することができる。また、止水剤5が、4Pa・s以上のような比較的高い粘度を有している場合でも、素線2aの間隔を十分に広げておくことで、素線2aの間の空間に、止水剤5を高い均一性をもって浸透させることができる。
【0085】
上記のように、素線2aの間の領域をはじめとする絶縁電線1の所定の箇所への止水剤5の充填は、塗布、浸漬等、どのような方法で行ってもよい。しかし、止水剤5の充填における均一性を高める観点、また多数の絶縁電線1に対して止水部4の形成を行う際の作業性を高める観点等から、浸漬によって、止水剤5の充填を行うことが好ましい。
【0086】
例えば、止水剤5を噴出させる噴流装置を用いて、絶縁電線1の所定箇所を、止水剤5に浸漬することが好ましい。その際、止水剤5を均一性高く充填するために、絶縁電線1を軸回転させながら、止水剤5の噴流に絶縁電線を接触させてもよい。
【0087】
(4)再緊密化工程
充填工程が完了すると、次に、再緊密化工程において、図5(c)に示すように、素線2aの間の空間に止水剤5が充填された状態の露出部10において、素線2aの間隔を狭める。この工程は、例えば、先の密度変調工程における緊密化工程と同様に、露出部10の両側の被覆部20を、隣接域21において絶縁被覆3の外側から把持して、導体2を素線2aの撚り合わせ方向に、捻るように回転させ、素線2aの撚りを緊密化することによって、実行することができる(運動M4)。なお、再緊密化工程においては、緊密化工程とは異なり、露出部10へと導体2を繰り出す操作は行わない。
【0088】
再緊密化工程により、露出部10の素線2aの間の空間が狭められると、その狭い空間に止水剤5が閉じ込められることになるので、硬化等によって止水剤5の流動性が十分に低下するまでの間に、止水剤5が、流出や垂下等を起こさずに素線2aの間の空間に留まりやすい。それにより、止水剤5の硬化等を経て、優れた止水性能を有する信頼性の高い止水部4を形成しやすくなる。そのような効果を高く得るため、再緊密化工程において、露出部10における素線2aの撚りピッチを小さくすることが好ましく、例えば、再緊密化工程を経た後の状態で、隣接域21、さらには遠隔域22よりも露出部10の撚りピッチが小さくなるようにすればよい。
【0089】
再緊密化工程は、素線2aの間に充填した止水剤5が流動性を有する間、つまり、止水剤5が硬化する前、あるいは硬化の途中で行うことが好ましい。すると、再緊密化の操作が、止水剤5の存在によって妨げられにくい。
【0090】
特に、先の充填工程を、噴流装置等を用いて、止水剤5への絶縁電線1の浸漬によって行う場合には、絶縁電線1を止水剤5に浸漬した状態のまま、再緊密化工程を実施することが好ましい。すると、再緊密化の操作自体に起因して、止水剤5が、絞り出されるようにして、素線2aの間の空間から排除される事態を、回避しやすい。例えば、露出部10を含む絶縁電線1の所定の箇所を、止水剤5の噴流に接触させて、充填工程として、素線2aの間の空間等に、止水剤5を行き渡らせた後、絶縁電線1を噴流に接触させた状態のまま、導体2を捻るように回転させ(運動M4)、再緊密化工程を実施するとよい。
【0091】
(5)被覆移動工程
次に、被覆移動工程において、図6(a)に示すように、露出部10の両側の被覆部20に配置された絶縁被覆3を、相互に接近させるようにして、露出部10に向かって移動させる(運動M5)。被覆移動工程も、再緊密化工程と同様、露出部10に充填した止水剤5が流動性を有する間、つまり、止水剤5が硬化する前、あるいは硬化の途中で行うことが好ましい。被覆移動工程は、再緊密化工程と合わせて、実質的に一度の操作で行うようにすることもできる。上記のように、噴流装置等を用いて、絶縁電線1を止水剤5に浸漬して充填工程を実施した状態のまま、再緊密化工程を実施する場合には、被覆移動工程も、そのように絶縁電線1を止水剤5に浸漬した状態のまま、実施するとよい。
【0092】
露出部10の端部等において、充填工程によって、十分な量の止水剤5を素線2aの間の空間に配置できていない領域が存在していたとしても、被覆移動工程によって、そのような領域にも止水剤5が行き渡るようになり、露出部10において導体2が露出した部位の全域で、素線2aの間に止水剤5が充填された状態となる。さらに、露出部10の導体2の外周に配置されていた止水剤5の一部を、被覆部20の絶縁被覆3の外周に移動させることができる。これにより、露出部10の素線2aの間の空間、露出部10の導体2の外周、被覆部20の端部の絶縁被覆3の外周の3つの領域に、止水剤5が連続して配置された状態となる。
【0093】
上記3つの領域に止水剤5が配置されることで、次の硬化工程を経て、素線2aの間の領域における止水性能に優れるとともに、外周が物理的に保護および電気的に絶縁され、さらに導体2と絶縁被覆3の間の止水性能にも優れた止水部4を、共通の材料から、同時に形成することができる。なお、充填工程において、露出部10の端から端まで、さらには両側の被覆部20の端部まで含む領域に、十分に止水剤5を導入できる場合等には、被覆移動工程を省略してもよい。
【0094】
(6)硬化工程
最後に、硬化工程において、止水剤5を硬化させる。止水剤5が、硬化機構として、接触硬化性のみを備える場合には、少なくとも導体2を構成する素線2aに接触した止水剤5が十分に硬化するまで、時間の経過を待てばよい。硬化工程を経て、素線2aの間の空間において高い止水性能を有する止水部4を備えた、絶縁電線1を得ることができる。
【0095】
止水剤5が、硬化機構として、接触硬化性に加え、外因硬化性を備えている場合には、外因硬化機構による硬化を起こすためのエネルギーや物質を外部から供給するための操作を、合わせて行えばよい。止水剤5が、外因硬化性として光硬化性を有する場合には、図6(b)のように、光源80を用いて、光Lの照射を行えばよい。止水剤5が、外因硬化性として熱硬化性を有する場合には、ヒータ等による加熱を行えばよい。止水剤5が、外因硬化性として湿気硬化性を有する場合には、水蒸気を含む雰囲気の導入等、水分との接触を行えばよい。
【0096】
硬化工程において、止水剤5が十分に硬化するまでの間、図6(b)に示すように、絶縁電線1を、軸回転させるとよい(運動M6)。絶縁電線1を回転させることなく、静止させたままで、止水剤5の硬化を行うとすれば、未硬化の止水剤5が重力に従って垂下することで、重力方向下方となっていた位置に、上方となっていた位置よりも厚い止水剤5の層が形成された状態で、止水剤5が硬化することになる。すると、止水剤5の硬化後に得られる止水部4において、導体2が偏芯した状態となり、絶縁電線1の周方向に沿って、止水性能や物理的特性に不均一性が生じる可能性がある。例えば、止水剤5の層が薄くなった箇所においては、止水剤5の材料強度や止水性能の不足が起こる可能性がある一方、止水剤5の層が厚くなった箇所では、外部の物体への接触による止水剤5の損傷が起こりやすくなる。
【0097】
そこで、絶縁電線1を軸回転させながら、硬化工程を実施することで、未硬化の止水剤5が、絶縁電線1の周方向に沿って1か所に留まりにくくなり、全周にわたって、厚さの均一性の高い止水剤5の層が形成されやすくなる。すると、止水部4における導体2の偏芯が軽減され、全周において、止水性能や物理的特性の均一性が高い止水部4を形成することができる。さらに、止水剤5が、外因硬化性として光硬化性を有する場合には、絶縁電線1を軸回転させながら硬化工程を実施することで、絶縁電線1の周方向に沿って、全域に、光源80からの光Lを照射することができ、全周の止水剤5の光硬化を、均一性高く進行させることができる。なお、充填工程や再緊密化工程、被覆移動工程を行った後、硬化工程を開始するまでの間に、加工装置間での絶縁電線1の移動等により、時間を要する場合には、その時間の間も、絶縁電線1を軸回転させ、周方向に沿った特定位置での止水剤5の垂下を抑制しておくことが好ましい。
【実施例
【0098】
以下に本発明の実施例を示す。ここでは、止水剤が有する硬化性の種類による、止水性能および硬化時間の差異について、検証した。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0099】
(試験方法)
(1)試料の作製
導体断面積0.5mm(素線径0.18mm、素線数20)の銅撚線導体の外周に、PVCよりなる厚さ0.35mmの絶縁被覆を形成した絶縁電線の中途部に、長さ13~15mmの露出部を形成した。そして、止水剤を用いて、露出部に対して、止水部を形成した。この際、図3にフロー図を示したとおり、各工程を順に実施した。充填工程および再緊密化工程、被覆移動工程は、噴流装置を用いて、絶縁電線の露出部を含む部位を、止水剤の噴流に接触させた状態で行った。また、硬化工程は、絶縁電線を軸回転させながら行った。
【0100】
硬化工程においては、以下に示すように、各硬化剤が有する硬化性の種類に応じた操作によって、止水剤を硬化させた。硬化時間、つまり硬化のための各操作を継続する時間は、1分および8時間の2通りとした。
【0101】
各実施例および比較例において、止水剤として用いた具体的な材料、および各材料が有する硬化性の種類、各材料の硬化のために行った操作は、以下のとおりである。いずれの止水剤も、アクリル系樹脂よりなっている。
・実施例1:スリーボンド社製「1377B」;嫌気硬化性;金属との接触および嫌気条件により硬化
・実施例2:スリーボンド社製「3062F」;嫌気硬化性および紫外線(UV)硬化性;UV照射により硬化
・比較例1:スリーボンド社製「3030」;UV硬化性のみ;UV照射により硬化
・比較例2:セメダイン社製「UV-220」;UV硬化性および湿気硬化性;UV照射および水蒸気の接触により硬化
・比較例3:スリーボンド社製「3057」;UV硬化性および熱硬化性;紫外線照射および加熱により硬化
【0102】
(2)止水性能の評価
各実施例および比較例にかかる絶縁電線の止水部について、リーク試験により、素線間、また導体と絶縁被覆の間の止水性能を評価した。具体的には、各絶縁電線の止水部から一端部にわたる領域を水中に浸漬し、絶縁電線の他端部から、200kPaで空気圧を印加した。そして、水中に浸漬した止水部および絶縁電線の端部を目視にて観察した。
【0103】
空気圧印加によって、止水部の素線間の部位から気泡が発生するのが確認されなかった場合には、止水性能が高い「○」と評価した。また、止水部の素線間の部位に加えて、止水部の中途部および絶縁電線の端部のいずれの部位からも気泡が発生するのが確認されなかった場合には、止水性能に優れる「◎」と評価した。一方、止水部の素線間の部位から気泡が発生した場合には、止水性能が不十分である「×」と評価した。
【0104】
(結果)
表1に、止水剤の特性とともに、2とおりの硬化時間を採用した場合のリーク試験の結果について、まとめる。表中、PVC接着力は、PVCの表面に、内径6mm、厚み3mmの止水剤層を接着させ、上下に引張って計測した値である。粘度は、BL型回転粘度計によって測定した値である。
【0105】
【表1】
【0106】
表1によると、止水剤の層の外部から供給されるエネルギーや物質によって止水剤が硬化される各比較例においては、少なくとも1分の短時間のみで硬化操作を行う場合には、いずれの止水剤を用いた場合にも、リーク試験において高い止水性能を確認できるような止水部を形成できていない。比較例2のUV硬化性と湿気硬化性を有する止水剤を用いる場合には、8時間もの長い時間をかければ、高い止水性能を有する止水部を形成できるものの、1分という短時間では、そのような高い止水性能を有する止水部の形成は完了できない。
【0107】
これらの結果は、UV硬化性や湿気硬化性、熱硬化性のように、外部から供給される因子による硬化機構では、止水剤の層の内部に位置し、光や湿気、熱等の因子が外部から届きにくい、止水剤と導体の素線との界面において、止水剤の硬化を短時間で十分に進行させることができないものと解釈される。特に、比較例1,3では、導体に対する止水性能を確保する観点から止水剤の十分な硬化が要求される素線との界面において、長い時間をかけても硬化を十分に進行させられない。なお、いずれの比較例についても、止水剤は、PVCに対しては0.3MPa以上の接着力を示しており、リーク試験において得られた止水性能が不十分であるとの評価は、絶縁被覆と止水剤の界面ではなく、導体を構成する素線と止水剤の界面における接着の不十分性に対応付けることができる。
【0108】
一方、止水剤が嫌気硬化性を有している実施例1,2においては、8時間の長い時間をかけて止水剤を硬化させた場合だけでなく、1分の短時間で硬化を終了した場合でも、リーク試験において、素線間で高い止水性能が確認されている。つまり、短時間の硬化でも、止水剤が、導体の素線との界面に密着した状態で、十分に硬化し、電線導体に対して高い止水性能を示す止水部を形成できている。これは、止水剤が嫌気硬化性を有していることにより、止水剤の層の内部に位置する素線との界面においても、素線を構成する金属との接触と、止水剤の層自体による空気の遮断によって、止水剤の硬化を十分に進行させられているものと解釈できる。比較例1~3のように、止水剤が、光硬化性を有するが、嫌気硬化性を有さない場合には、ある素線が他の素線の陰になって、素線と止水剤の接触界面に光が照射されず、光硬化を十分に進められない場合があるが、実施例1,2のように、止水剤が嫌気硬化性を有する場合には、そのように陰になる界面において、嫌気硬化機構により、止水剤の硬化を十分に進行させることができる。
【0109】
さらに、止水剤がPVCに対して接着力を示すうえ、嫌気硬化性に加えてUV硬化性を有している実施例2においては、1分の短時間で硬化を終了した場合でも、リーク試験において、素線間の部位だけでなく、止水部の中途部や絶縁電線の端部からも気泡が発生しておらず、素線間の部位に加え、止水剤の外周部や止水剤と絶縁被覆の間の部位においても、高い止水性能を有することが確認されている。これは、止水剤が、嫌気硬化性に加えて、UV硬化性を有していることにより、外周部も短時間で硬化していることによる。つまり、光照射によって、素線の間の部位を止水することに加え、同時に、導体の外周に密着して導体を被覆する絶縁被覆層を形成することができている。止水剤がUV硬化性を有していることにより、止水剤の層の外周部を容易に硬化させることができることから、硬化中の止水剤の垂下を防止しやすいという点においても、好ましい。
【0110】
以上より、止水剤が、光硬化性や湿気硬化性、熱硬化性等、外因硬化性のみを備える場合には、止水剤の層の内側に位置する導体の素線との界面において、止水剤を短時間で十分に硬化させ、高い止水性能を有する止水部を形成できないのに対し、止水剤が、接触硬化性の一種である嫌気硬化性を有する場合には、素線との界面において、止水剤を短時間で十分に硬化させ、高い止水性能を有する止水部を形成することができることが、確認される。さらに、止水剤が、接触硬化性に加え、外因硬化性を併せ持つ場合には、止水剤の外周部も、短時間で硬化させることができる。
【0111】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0112】
1 絶縁電線
2 導体
2a 素線
3 絶縁被覆
4 止水部
5 止水剤
6 ワイヤーハーネス
10 露出部
20 被覆部
21 隣接域
22 遠隔域
61 第一の電気接続部
62 防水構造
63 第二の電気接続部
図1
図2
図3
図4
図5
図6