(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】脱脂炉
(51)【国際特許分類】
F27D 21/00 20060101AFI20231219BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20231219BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20231219BHJP
F27B 17/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F27D21/00 A
F27D17/00 104G
F27D19/00 A
F27B17/00 C
(21)【出願番号】P 2023505091
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2021037382
(87)【国際公開番号】W WO2022190443
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2021038005
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】田中 優
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-123524(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037356(WO,A1)
【文献】特開2004-231463(JP,A)
【文献】実開昭64-048597(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 17/00-99/00
F27B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
前記燃焼器にあるガスの種類に応じて前記ヒーターの温度を制御するヒーター制御部をさらに備える、請求項1~3のいずれかに記載の脱脂炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱脂炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスからなる被脱脂物が脱脂炉で脱脂されている。たとえば、下記の特許文献1の脱脂炉は、被脱脂物を収納する炉本体、被脱脂物を加熱する加熱手段を備える。脱脂によって生じたガスは加熱され、分解されて二酸化炭素などのガスに変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脱脂状況を監視するために、脱脂によって生じたガスを計測することが考えられる。しかし、脱脂によって生じたガスが計測機器に固化して付着すると、ガスの計測ができなくなる。
【0005】
そこで本発明の目的は、脱脂時に被脱脂物から生じたガスを測定する際に、脱脂によって生じたガスが固化して付着することを抑制できる脱脂炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決すべく、本発明に係る脱脂炉は、以下に述べるような構成を有する。
【0007】
本発明の脱脂炉は、被脱脂物を収容する炉本体と、前記炉本体のガスを排気しながら燃焼させる燃焼器と、前記燃焼器にあるガスを検出するガスモニターと、前記燃焼器とガスモニターとをつなぐ配管と、前記ガスモニターおよび配管の少なくとも1つを加熱するヒ
ーターとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、ガスモニターおよび配管がヒーターの少なくとも一方が加熱されることで、ガスが固化して付着することを抑制し、ガスモニターでガスが検出できなくなることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】ガスの中にメタクリル酸エチルが含まれる場合のFTIRによる検出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の脱脂炉および脱脂方法について図面を参照して説明する。複数の実施形態を説明するが、異なる実施形態であっても同じ手段には同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0011】
[実施形態1]
図1に示す本願の脱脂炉10は、被脱脂物12が収容される炉本体14、飽和蒸気を発生させる飽和蒸気生成装置18、過熱蒸気を生成する過熱器20を備える。
【0012】
[被脱脂物]
被脱脂物12はセラミックス成形体を含む。セラミックスは窒化物系セラミックス(窒化アルミニウム、窒化ケイ素など)、炭化物系セラミックス(炭化ケイ素、炭化ホウ素など)、酸化物系セラミックス(アルミナ、ジルコニウムなど)を含む。被脱脂物12にバインダーが含まれる。バインダーは被脱脂物12を成形するときにセラミックスに混合されるものである。被脱脂物12が昇温されることで、被脱脂物12からバインダーがガスとして放出される。バインダーには樹脂としてポリブチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、酢酸ビニル、ポリエチレングリコールなどが用いられ、その他滑剤、可塑剤、分散剤が用いられる。
【0013】
[炉本体]
炉本体14はSUS310SまたはSUS316Lなどの耐熱性材料で構成されている。炉本体14は容器状になっており、その内部空間22に被脱脂物12が収容される。炉本体14の任意の位置に扉が設けられており、被脱脂物12の出し入れの時にその扉が開閉される。炉本体14の内部空間22に被脱脂物12を配置するための棚24を備えてもよい。炉本体14は供給口26および排気口28が形成されている。過熱蒸気が供給口26から炉本体14の内部空間22に供給される。炉本体14のガスは排気口28から排気され、そのガスには被脱脂物12が脱脂された際に発生した成分が含まれる。
【0014】
[飽和蒸気生成装置]
過熱器20に飽和蒸気を供給する飽和蒸気生成装置18を備える。飽和蒸気生成装置18は純水などの液体を沸騰させて飽和蒸気を生成するボイラーを含む。なお、沸騰させる液体はタンクなどの任意の容器に溜めておき、その液体を利用してもよいし、水道などを流れる液体を利用してもよいし、井戸などにある液体をフィルターでろ過して利用してもよい。
【0015】
[過熱器]
過熱器(superheater)20は飽和蒸気から過熱蒸気を生成するための装置である。過
熱器20として接触過熱器、放射過熱器、つり下げ過熱器、板形過熱器、横置き過熱器などが挙げられる。過熱器20は長管を備え、その中を飽和蒸気が流れる。長管の中を流れる飽和蒸気が加熱され、過熱蒸気となる。生成された過熱蒸気が炉本体14に供給される。この時の過熱蒸気は常圧で100℃の飽和蒸気をさらに高温にした無色透明の水(H2O)からなる気体である。過熱蒸気の温度は200度以上、好ましくは500℃以上、さらに好ましくは600~1200℃である。
【0016】
炉本体14と過熱器20、飽和蒸気発生装置18と過熱器20は配管30、32で接続されている。配管30に高温の過熱蒸気が流れるため、配管30は耐熱材で構成されることが好ましい。各配管30、32にバルブを取り付け、バルブの開閉によって飽和蒸気および過熱蒸気の流量を制御してもよい。
【0017】
[温度計]
本願は炉本体14の内部空間22の雰囲気温度を計測するための温度計36を備える。温度計36は熱電対温度計を利用する。炉本体14のいずれの位置の温度を計測するかは設計によって決定され、それに応じて温度計36の数が決定される。計測された温度によって、過熱蒸気の炉本体14への供給が制御される。そのため、本願は過熱器20および飽和蒸気生成装置18を制御するための制御装置38を備える。
【0018】
[制御装置]
温度計36の温度が入力され、炉本体14に供給する過熱蒸気の供給量および過熱蒸気の温度を制御する制御装置38を備える。制御装置38はCPU(Central Processing Unit)またはPLC(Programmable Logic Controller)などの演算回路が含まれる。制御装置38は飽和蒸気生成装置18および過熱器20を制御したり、配管30、32のバルブを制御したりする。
【0019】
[燃焼器]
本願の脱脂炉10は炉本体14のガスの通路になっており、ガスを燃焼する燃焼器40を備える。燃焼器40が炉本体14の排気口28に接続されている。燃焼器40は断熱体42で形成された通路44および加熱装置(図示省略)を備える。その加熱装置は、電気ヒーター、ガスバーナーまたは重油バーナーなどである。被脱脂物12から放出されたガスが炉本体14から通路44に入り、通路44を通過する。加熱装置がそのガスを加熱し、分解または二酸化炭素などのガスに変換する。通路44を通過したガスは排気口48から排気される。
【0020】
[ガスモニター]
燃焼器40の通路44にあるガスを検出するガスモニター50を備える。ガスモニター50はFTIR(フーリエ変換赤外分光度計)、GC(ガスクロマトグラフ)、FID(水素
炎イオン化検出器)、TOC計(全有機炭素計)などである。ガスモニター50が所定のガ
スの有無を検出することで、脱脂の進行状況を求めることができる。所定のガスが検出されると脱脂されており、その後にガスが検出されなくなれば脱脂が終了している。
【0021】
[配管]
燃焼器40とガスモニター50は配管52、54でつなげられる。配管は第1配管52と第2配管54を備える。第1配管52は燃焼器40の通路44からガスモニター50にガスを流すための通路であり、第2配管54はガスモニター50から燃焼器40の通路44にガスを流すための通路である。燃焼器40の通路44にあるガスは、第1配管52、ガスモニター50および第2配管54の順番に流れ、再び燃焼器40の通路44に戻る。
【0022】
炉本体14の内部空間22のガスをガスモニター50で検出しようとした場合、炉本体14の内部空間22の温度変化が大きく、ガスモニター50を損傷させるおそれがある。燃焼器40の通路44では一定の温度でガスを燃焼させるための予備加熱をしており、ガスモニター50に入るガスの温度を制御しやすい。ガスモニター50は正確にガスを検知しやすくなる。
【0023】
[ヒーター]
第1配管52および第2配管54を加熱するヒーター56、58が備えられる。ヒーター56、58は第1配管52および第2配管58の外部に配置された電熱線などである。ヒーター56、58は第1配管52と第2配管54を加熱し、第1配管52および第2配管54を通過するガスを一定温度以下にならないようにする。ガスが第1配管52および第2配管54の内面に付着し、固化することが防止され得る。
【0024】
ガスモニター50にもヒーター60が備えられる。ガスモニター50の中でガスが流れる配管およびガスを測定する部分62にヒーター60が取り付けられる。それらをヒーター60で加熱することでガスモニター50の中でガスが付着し、固化することが防止すされ得る。
【0025】
ヒーター56、58、60によって、ガスの温度が所定値以上に制御される。特に限定されないが、ヒーター56、58、60を制御するための図示しない制御部を備え、ガスの種類に対応づけてガスが固化しないためのヒーター56、58、60の温度が記憶されており、制御部は、被脱脂物12から放出されるガスの種類に応じてヒーター56、58、60の温度を変更するようにしてもよい。たとえば、配管52、54およびガスを測定する部分62の温度を約300℃になるようにする。
【0026】
[脱脂方法]
次に脱脂炉10を用いた脱脂方法について説明する。(1)被脱脂物12が炉本体14の内部空間22に収容される。たとえば被脱脂物12は窒化物系セラミックスからなる成形品である。
【0027】
(2)飽和蒸気生成装置18は、液体を加熱して飽和蒸気を生成し、その飽和蒸気を過熱器20に供給する。過熱器20は、飽和蒸気から過熱蒸気を生成する。過熱蒸気は炉本体14に供給される。過熱蒸気によって被脱脂物12が脱脂される。
【0028】
(3)被脱脂物12を脱脂した際に生じたガスは、排気口28から燃焼器40に供給され、燃焼されて二酸化炭素などに変化する。燃焼されたガスは排気される。
【0029】
(4)上記(3)の途中で、一部のガスは第1配管52からガスモニター50に流れる。ガスモニター50でガスに含まれる成分が検出された後、ガスが第2配管54を通って燃焼器40に戻される。第1配管52、ガスモニター50のガスの通路、検知する部分62および第2配管58はヒーター56、58、60で加熱される。従って、ガスの温度が下がり、第1配管52、ガスモニター50のガスの通路、検知する部分62および第2配管54にガスに含まれる成分が付着し固化することを防止することができる。ガスモニター50から第2配管54を通って燃焼器40に戻ったガスは、燃焼されて二酸化炭素などに変化する。
【0030】
(5)ガスモニター50で検出されたガスのデータは制御装置38に送られる。制御装置38は、そのデータから過熱器20を制御して、炉本体14の内部空間22の温度を調節してもよい。被脱脂物12に対する脱脂をコントロールしてもよい。たとえば
図2は、ガスモニター50がフーリエ変換赤外分光度計(FTIR)であり、ガスの中にメタクリル酸エチルが含まれる場合の検出結果である。ガスに含まれる官能基によって波数が決まっているため、設定した波数の強度によってガスが発生しているかどうかを検出していることがわかる。脱脂が終了するとガスが検出されなくなる。ガスモニター50でのガスの検出によって脱脂の終了を判断できる。
【0031】
以上のように、本実施形態によると、配管52、54およびガスモニター50にガスに含まれる成分が付着することを防止でき、ガスモニター50によるガスの検出をより正確に行うことができる。ガスモニター50でガスを正確に検出することできるので、脱脂をより正確に制御できる。
【0032】
[実施形態2]
配管52、54およびガスモニター50のうち、いずれか1つのみ、又は、任意の2つの組み合わせをヒーターで加熱するようにしてもよい。たとえば、ガスモニター50におけるガスの流路が短く、ガスの温度が下がりにくい場合、ガスモニター50でガスを加熱しなくてもよい。
【0033】
[実施形態3]
上記実施形態では過熱蒸気を利用した脱脂炉であったが、本願の脱脂炉10は過熱蒸気を利用する構成に限定されない。たとえば、炉本体14に過熱蒸気を入れる前に不活性ガスを炉本体に入れ、予備加熱できる構成であってもよい。そのため、不活性ガスのガス源を備え、不活性ガスが過熱器20で温度上昇されるようにしてもよい。不活性ガスで被脱脂物12の温度上昇させた後、過熱蒸気を炉本体14に入れる。脱脂当初、被脱脂物12の温度が低いため、最初に過熱蒸気を入れると被脱脂物12の表面が結露し、被脱脂物12を劣化させるおそれがある。過熱蒸気の前に温度上昇した不活性ガスを炉本体14に入れて被脱脂物12を予備加熱しておくことで、過熱蒸気を入れたときに被脱脂物12の表面が結露せず、所望の脱脂がおこなえる。
【0034】
[実施形態4]
制御装置38に入力された温度計36の温度、制御装置38がおこなう過熱器20などの制御状況のデータなどをネットワークを介して所定のコンピュータに送信してもよい。脱脂の状況を遠隔で確認することができる。また、制御装置38から送信されたデータをサーバーに記録してもよい。
【0035】
(第1項)一態様に係る脱脂炉は、被脱脂物を収容する炉本体と、前記炉本体のガスを排気しながら燃焼させる燃焼器と、前記燃焼器にあるガスを検出するガスモニターと、前記燃焼器とガスモニターとをつなぐ配管と、前記ガスモニターおよび配管の少なくとも1
つを加熱するヒーターとを含む。
【0036】
第1項に記載の脱脂炉によれば、ガスモニターおよび配管の少なくとも1つがヒーターで加熱されることで、ガスが固化して付着しガスモニターでガスを検出できなくなることを防止できる。
【0037】
(第2項) 前記配管が、前記燃焼器からのガスを前記ガスモニターに供給する第1の配管と、前記ガスモニターからのガスを前記燃焼器に戻す第2の配管とを含み、前記ヒーターが、前記第1の配管を加熱するヒーターを有する。
【0038】
第2項に記載の脱脂炉によれば、燃焼器からのガスをガスモニターに供給する第1の配管の内部にガスが固化して付着することが抑制される。従って、より確実に、燃焼器からのガスが、第1の配管を通ってガスの状態のままでガスモニターに供給され得るので、より確実にガスモニターによってガスの成分を測定することができる。
【0039】
(第3項)前記ヒーターが、前記第2の配管を加熱するヒーターをさらに有する。
【0040】
第3項に記載の脱脂炉によれば、ガスモニターからのガスを燃焼器に戻す第2の配管の内部にガスが固化して付着することが抑制される。従って、より確実に燃焼器にガスを戻すことができ、第2の配管のつまりを防止することができる。
【0041】
(第4項)前記ヒーターが、前記ガスモニターの内部に設けられたガスが通過する配管、および、ガスを測定する測定部の少なくとも一方を加熱するヒーターをさらに有する。
【0042】
第4項に記載の脱脂炉によれば、ガスモニター内部の配管にガスが固化して付着することを抑制でき、より確実にガスモニターによってガスの成分を測定することができる。あるいは、ガスモニターの測定部にガスが固化して付着することを抑制でき、より確実にガスモニターによってガスの成分を測定することができ、かつ、測定部の故障を防止できる。
【0043】
(第5項)前記燃焼器にあるガスの種類に応じて前記ヒーターの温度を制御するヒーター制御部をさらに備える。
【0044】
第5項に記載の脱脂炉によれば、ガスの種類に応じて固化しない温度にヒーターの温度を設定する事ができるので、より確実にガスが固化して付着することを抑制できる。
【0045】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。説明した各実施形態は独立したものではなく、当業者の知識に基づき適宜組み合わせて実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、脱脂時に被脱脂物から生じたガスを測定する際に、脱脂によって生じたガスが固化して付着することを抑制できる脱脂炉を提供することができる。
【符号の説明】
【0047】
10:脱脂炉
12:被脱脂物
14:炉本体
18:飽和蒸気発生装置
20:過熱器
22:炉本体の内部空間
24:棚
26:供給口
28:排気口
30、32:配管
36:温度計
38:制御装置
40:燃焼器
42:断熱体
44:通路
48:燃焼器の排気口
50:ガスモニター
52、54:配管
56,58、60:ヒーター
62:ガスモニターのガスを検知する部分