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特許7405303石炭分析装置、石炭分析方法、混合石炭の調製方法およびコークスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】石炭分析装置、石炭分析方法、混合石炭の調製方法およびコークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20231219BHJP
   C10B 57/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01N21/17 A
C10B57/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023507326
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2022034999
(87)【国際公開番号】W WO2023054065
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2021161012
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】坪井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】亀崎 俊一
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-022940(JP,A)
【文献】特開2005-338011(JP,A)
【文献】特開昭50-112096(JP,A)
【文献】特開2006-016417(JP,A)
【文献】特開昭58-153144(JP,A)
【文献】実開昭62-180752(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第102297850(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111879732(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112132078(CN,A)
【文献】特開2016-065821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 33/22
C10B 47/00 - C10B 57/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭試料の表面画像を取得する画像取得部と、
前記表面画像に含まれる微細組織成分群を同定する同定部と、
前記微細組織成分群の少なくとも1種の割合を算出する算出部と、
補正部と、を備える石炭分析装置であって、
前記算出部は、前記微細組織成分群のうちイナーチニットの割合であるトータルイナート量および前記微細組織成分群の1種であるビトリニットの平均反射率Roを算出し、
前記補正部は、前記トータルイナート量および前記ビトリニットの平均反射率Roを用いて、前記トータルイナート量を補正する、石炭分析装置
【請求項2】
前記同定部は、前記微細組織成分群の反射率に基づいて、前記微細組織成分群を同定する、請求項1に記載の石炭分析装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記トータルイナート量および前記ビトリニットの平均反射率Roを変数とし、予め決定した重回帰係数を用いて、前記トータルイナート量を補正する、請求項1または2に記載の石炭分析装置。
【請求項4】
石炭試料の表面画像を取得し、
前記表面画像に含まれる微細組織成分群を同定し、
前記微細組織成分群の少なくとも1種の割合を算出する、石炭分析方法であって、
前記微細組織成分群のうちイナーチニットの割合であるトータルイナート量および前記微細組織成分群の1種であるビトリニットの平均反射率Roを算出し、
前記トータルイナート量および前記ビトリニットの平均反射率Roを用いて、前記トータルイナート量を補正する、石炭分析方法
【請求項5】
前記微細組織成分群の反射率に基づいて、前記微細組織成分群を同定する、請求項に記載の石炭分析方法。
【請求項6】
前記トータルイナート量および前記ビトリニットの平均反射率Roを変数とし、予め決定した重回帰係数を用いて、前記トータルイナート量を補正する、請求項4または5に記載の石炭分析方法。
【請求項7】
複数種類の石炭を配合して、混合石炭を調製し、
請求項4または5に記載の方法を用いて、前記石炭の少なくとも一部について、トータルイナート量を特定する、混合石炭の調製方法。
【請求項8】
複数種類の石炭を配合して、混合石炭を調製し、
請求項に記載の方法を用いて、前記石炭の少なくとも一部について、トータルイナート量を特定する、混合石炭の調製方法。
【請求項9】
請求項に記載の方法により調製された混合石炭を用いて、コークスを得る、コークスの製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の方法により調製された混合石炭を用いて、コークスを得る、コークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭分析装置、石炭分析方法、混合石炭の調製方法およびコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークスは、その製品指標に応じて、多様な銘柄の石炭が配合されて製造される。
コークス製造に用いる石炭は、事前に、組織成分が分析される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-35442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コークスの重要な製品指標の1つに、冷間コークス強度がある。
石炭の微細組織成分群(マセラル・グループ)は、ビトリニット、エクジニットおよびイナーチニットの3種類である。このうち、例えば、イナーチニットは、化学的に不活性であり、冷間コークス強度に影響を与える。
このため、コークス製造に用いる石炭については、イナーチニットの割合(トータルイナート量)が測定される。
【0005】
従来、石炭のトータルイナート量の測定は、顕微鏡を用いて、JIS M 8816-1992(石炭の微細組織成分及び反射率測定方法)に準拠して、実施される。
この場合、イナーチニットに属するセミフジニット等の微細組織成分(マセラル)を個々に同定する必要があるため、非常に煩雑である。また、模様などの基準に基づいて同定するため、同定結果が人に依る部分が大きく、時間もかかる。
他の微細組織成分群であるビトリニットおよびエクジニットの割合を測定する場合も、同様である。
【0006】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、石炭の微細組織成分群の少なくとも1種の割合を簡便に得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[16]を提供する。
[1]石炭試料の表面画像を取得する画像取得部と、上記表面画像に含まれる微細組織成分群を同定する同定部と、上記微細組織成分群の少なくとも1種の割合を算出する算出部と、を備える石炭分析装置。
[2]上記同定部は、上記微細組織成分群の反射率に基づいて、上記微細組織成分群を同定する、上記[1]に記載の石炭分析装置。
[3]上記算出部は、上記微細組織成分群の1種であるビトリニットの平均反射率Roを算出する、上記[1]または[2]に記載の石炭分析装置。
[4]上記算出部は、上記微細組織成分群のうちイナーチニットの割合であるトータルイナート量を算出する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の石炭分析装置。
[5]上記トータルイナート量を補正する補正部を備える、上記[4]に記載の石炭分析装置。
[6]上記算出部は、上記微細組織成分群の1種であるビトリニットの平均反射率Roを算出し、上記補正部は、上記トータルイナート量および上記ビトリニットの平均反射率Roを用いて、上記トータルイナート量を補正する、上記[5]に記載の石炭分析装置。
[7]上記補正部は、上記トータルイナート量および上記ビトリニットの平均反射率Roを変数とし、予め決定した重回帰係数を用いて、上記トータルイナート量を補正する、上記[6]に記載の石炭分析装置。
【0009】
[8]石炭試料の表面画像を取得し、上記表面画像に含まれる微細組織成分群を同定し、上記微細組織成分群の少なくとも1種の割合を算出する、石炭分析方法。
[9]上記微細組織成分群の反射率に基づいて、上記微細組織成分群を同定する、上記[8]に記載の石炭分析方法。
[10]上記微細組織成分群の1種であるビトリニットの平均反射率Roを算出する、上記[8]または[9]に記載の石炭分析方法。
[11]上記微細組織成分群のうちイナーチニットの割合であるトータルイナート量を算出する、上記[8]~[10]のいずれかに記載の石炭分析方法。
[12]上記トータルイナート量を補正する、上記[11]に記載の石炭分析方法。
[13]上記微細組織成分群の1種であるビトリニットの平均反射率Roを算出し、上記トータルイナート量および上記ビトリニットの平均反射率Roを用いて、上記トータルイナート量を補正する、上記[12]に記載の石炭分析方法。
[14]上記トータルイナート量および上記ビトリニットの平均反射率Roを変数とし、予め決定した重回帰係数を用いて、上記トータルイナート量を補正する、上記[13]に記載の石炭分析方法。
【0010】
[15]複数種類の石炭を配合して、混合石炭を調製し、上記[8]~[14]のいずれかに記載の方法を用いて、上記石炭の少なくとも一部について、トータルイナート量を特定する、混合石炭の調製方法。
[16]上記[15]に記載の方法により調製された混合石炭を用いて、コークスを得る、コークスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、石炭の微細組織成分群の少なくとも1種の割合を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】石炭分析装置の構成を示すブロック図である。
図2】石炭分析装置が備える各部によって実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図3】石炭試料の表面画像を示す図である。
図4】全石炭粒子の合算反射率ヒストグラムである。
図5】1個の石炭粒子の反射率ヒストグラムである。
図6】Ro(手動)とRo(自動)との関係図である。
図7】トータルイナート量(手動)とトータルイナート量(自動)との関係図である。
図8】セミフジニット反射率が図示された、1個の石炭粒子の反射率ヒストグラムである。
図9】Ro(自動)とセミフジニット割合(手動)との関係図である。
図10】トータルイナート量(手動)と補正後のトータルイナート量(自動)との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[石炭(微細組織成分および微細組織成分群)]
石炭は、顕微鏡下においては、光沢、形状の異なる微細な組織成分からなる。
石炭の微細組織成分(マセラル)および微細組織成分群(マセラル・グループ)について説明する。
【0014】
石炭の微細組織成分(マセラル)は、顕微鏡によって区分される石炭の微細な有機質成分であり、12種類に区分される。
具体的には、微細組織成分は、テリニット、コリニット、デグラディニット、スポリニット、クチニット、アルギニット、レジニット、セミフジニット、フジニット、ミクリニット、スクレロチニットおよびマクリニットの12種類である。
【0015】
石炭の微細組織成分群(マセラル・グループ)は、顕微鏡下の性質が類似している石炭の微細組織成分をまとめた成分群であり、3種類に区分される。
具体的には、微細組織成分群は、ビトリニット、エクジニットおよびイナーチニット(「イナート」ともいう)の3種類である。
【0016】
ビトリニットに属する微細組織成分は、テリニット、コリニットおよびデグラディニットの3種類である。
エクジニットに属する微細組織成分は、スポリニット、クチニット、アルギニットおよびレジニットの4種類である。
イナーチニットに属する微細組織成分は、セミフジニット、フジニット、ミクリニット、スクレロチニットおよびマクリニットの5種類である。
【0017】
一般的に、冷間コークス強度の設計に用いられるのは、3種類の微細組織成分(ビトリニット、エクジニットおよびイナーチニット)のうち、イナーチニットの割合を表すトータルイナート量である。
このため、本実施形態では、石炭のトータルイナート量を求める。
【0018】
[石炭分析装置(石炭分析方法)]
以下、図1図10に基づいて、本実施形態の石炭分析装置を説明する。以下の説明は、本実施形態の石炭分析方法の説明も兼ねる。
【0019】
〈構成〉
図1は、石炭分析装置1の構成を示すブロック図である。
石炭分析装置1は、画像取得部2、同定部3、算出部4および補正部5を備える。
画像取得部2、同定部3、算出部4および補正部5は、例えば、CPU(中央処理装置)と、CPUに接続されたDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)等の主記憶装置と、CPUに接続されたSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)またはHDD(ハード・ディスク・ドライブ)等の大容量記憶装置と、CPUを作動させるプログラムとにより構成される。
これら各部によって実行される処理は、後述する。
【0020】
石炭分析装置1は、顕微鏡6と接続している。顕微鏡6のステージ(図示せず)上には、石炭試料7が配置されている。
【0021】
石炭試料7は、JIS M 8816-1992に準拠して、調製される。
より詳細には、採取した石炭を粉砕し、得られた石炭粒子を樹脂に埋設し、樹脂を硬化させ、その後、硬化物の表面を研磨することで、石炭試料7を得る。
【0022】
顕微鏡6は、石炭試料7の表面画像を撮像する。
顕微鏡6は、マクロな撮像範囲を予め指定することで、自動的にステージを動かして複数枚のミクロ画像を撮像し、最終的に、撮像した各ミクロ画像をマクロ画像に合成する機能を有することが好ましい。
本実施形態においては、例えば、ミクロ画像のサイズは、縦:約800μm、横:530μmであり、対物レンズとしては、油浸対物レンズ(倍率:20倍)が用いられる。
もっとも、顕微鏡6としては、石炭試料7の表面画像を撮像できれば、上記機能を有していなくてもよく、また、別の対物レンズを使用してもよい。
【0023】
〈各部の処理〉
図2は、石炭分析装置1が備える各部によって実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0024】
《画像取得部》
まず、石炭分析装置1の画像取得部2は、顕微鏡6に石炭試料7の表面画像を撮像させ、撮像された表面画像を取得する(ステップS101)。
石炭試料7の表面画像を1枚だけ撮像し、トータルイナート量を算出してもよいが、1枚だけでは石炭試料7の表面の一部にとどまり、代表性が低い。代表性を担保するためには、石炭試料7の表面の複数部分を撮像することが好ましく、石炭試料7の表面の全ての部分(全表面)を撮像することがより好ましい。
本実施形態では、石炭試料7の全表面を撮像し、2000枚程度の個別の画像を得て、得られた個別の画像を繋ぎ合わせて、1枚の巨大な表面画像を取得する。
【0025】
図3は、石炭試料7の表面画像8を示す図である。図3では、簡素化のため、9枚の個別の画像を組み合わせて、1枚の表面画像8としている。
図3の表面画像8では、樹脂10に埋め込まれた3個の石炭粒子9(石炭粒子9a、石炭粒子9b、石炭粒子9c)の一部が表出している。
図3では、ビトリニット11を縦方向の破線、イナート12を横方向の破線で表す。
表面画像8の上段の石炭粒子9aは、ビトリニット11からなる。
表面画像8の中段の石炭粒子9bは、イナート12からなる。
表面画像8の下段の石炭粒子9cは、ビトリニット11とイナート12とが混在する。
【0026】
《同定部》
次に、石炭分析装置1の同定部3は、表面画像8から、石炭粒子9に対応する画素のみを抽出する(ステップS102)。
表面画像8において、樹脂10は黒色に近い。そこで、例えば、表面画像8に対して、微分処理を施し、微分値が大きい石炭粒子9と樹脂10との境界を検出し、境界内部(つまり、石炭粒子9)の各画素だけを取得する。
【0027】
表面画像8を構成する各画素は、輝度の情報を含む。
本実施形態では、予め、既知の反射率標準試験片を用いて、輝度と反射率との検量線を作成する。石炭分析装置1の同定部3は、作成された検量線に基づいて、各画素の輝度を反射率に変換する。こうして、石炭粒子9の各画素の反射率を得る。
【0028】
次に、石炭分析装置1の同定部3は、各画素の反射率を収集し、合算して、全石炭粒子の合算反射率ヒストグラムを作成する(ステップS103)。
【0029】
図4は、全石炭粒子の合算反射率ヒストグラムである。横軸は反射率(単位:%)を示し、縦軸は頻度(度数)を示す(以下、同様)。
ビトリニット、エクジニットおよびイナートの反射率には、イナート>ビトリニット>エクジニットという大小関係が存在する。
一般的に、ビトリニットの反射率分布は、正規分布を取る。
図4のヒストグラムは、正規分布の形を持つビトリニットの山と、より明るい(反射率が高い)範囲に長い裾野を持つイナートの山とが合成されて、構成される。
【0030】
エクジニットは、その存在割合がビトリニットおよびイナートに比べて非常に少ないため、無視できると仮定する。
そのうえで、本実施形態では、ビトリニットおよびイナートの反射率の大小関係に基づいて、表面画像8に含まれる石炭粒子9の微細組織成分群(ビトリニットまたはイナート)を同定する。具体的には、以下のとおりである。
【0031】
石炭分析装置1の同定部3は、全石炭粒子の合算反射率ヒストグラムにおいて、ビトリニット反射率範囲の閾値を大まかに決定する。具体的には、図4に示すように、ビトリニット反射率範囲の最小閾値13および最大閾値14を決定する(ステップS104)。
閾値を決定する方法としては、反射率ヒストグラムが急激に変化する部分を閾値と判断する方法が好ましい。この方法の場合、例えば、反射率ヒストグラムの微分値や曲率に基づいて、閾値を決定できる。
【0032】
次に、石炭分析装置1の同定部3は、ビトリニットの反射率分布が正規分布になると仮定して、個々の石炭粒子の反射率ヒストグラム(後述する図5参照)に対して、正規分布をフィッティングする(ステップS105)。こうして、個々の石炭粒子のビトリニット反射率範囲を決定する。
全石炭粒子の合算反射率ヒストグラム(図4参照)を用いてビトリニット反射率範囲を決定してもよいが、実際には、ビトリニット反射率範囲は、個々の石炭粒子ごとに異なる。このため、個々の石炭粒子ごとにビトリニット反射率範囲を決定した方が、最終的に得られるトータルイナート量を、より高精度化できる。
【0033】
図5は、1個の石炭粒子の反射率ヒストグラムである。
図5では、1個の石炭粒子の反射率ヒストグラム15に、正規分布16がフィッティングされている。石炭分析装置1の同定部3は、正規分布16のパラメータである平均uおよび標準偏差σを算出する(ステップS106)。
図5には、ビトリニット反射率の最小値17および最大値18を図示している。ビトリニット反射率の最小値17は「u-3σ」の式から求める。ビトリニット反射率の最大値18は「u+3σ」の式から求める。
図5には、更に、先に決定したビトリニット反射率範囲の閾値(最小閾値13および最大閾値14)も図示している。
【0034】
石炭分析装置1の同定部3は、最小閾値13<u<最大閾値14である場合(ステップS107のY)、その石炭粒子のビトリニット反射率およびイナート反射率を、下記式に基づいて決定する(ステップS108)。
u-3σ<ビトリニット反射率≦u+3σ
u+3σ<イナート反射率
そのうえで、画素ごとに、反射率に基づいて、微細組織成分群(ビトリニットまたはイナート)を同定する(ステップS110)。
【0035】
一方、最小閾値13<u<最大閾値14でない場合(ステップS107のN)、石炭分析装置1の同定部3は、その石炭粒子のビトリニット反射率およびイナート反射率を、下記式に基づいて決定する(ステップS109)。
最小閾値13<ビトリニット反射率≦最大閾値14
最大閾値14<イナート反射率
そのうえで、画素ごとに、反射率に基づいて、微細組織成分群(ビトリニットまたはイナート)を同定する(ステップS110)。
【0036】
石炭分析装置1の同定部3は、石炭試料7の表面画像8に含まれる全ての石炭粒子9について、画素ごとに、微細組織成分群を同定する。
上記式の範囲外の反射率については、考慮しない。
【0037】
《算出部》
次に、石炭分析装置1の算出部4は、下記式に基づいて、ビトリニットの平均反射率Ro(単位:%)を算出する(ステップS111)。以下、「ビトリニットの平均反射率Ro」を、単に、「Ro」とも表記する。Roは、石炭の成熟度合いを表す。
Ro=Σ(ビトリニット画素の反射率)/ビトリニット画素数
【0038】
なお、「ビトリニット画素」は、ビトリニットであると同定された画素を意味する。また、「イナート画素」は、イナートであると同定された画素を意味する。
【0039】
更に、石炭分析装置1の算出部4は、下記式に基づいて、トータルイナート量(単位:%)を算出する(ステップS112)。
トータルイナート量=100×(イナート画素数)/(ビトリニット画素数+イナート画素数)
【0040】
なお、イナーチニット以外の微細組織成分群(例えば、ビトリニット)の割合を算出する場合も、上記と同様に求める。
【0041】
ここで、トータルイナート量を求める従来方法を説明する。
従来方法では、JIS M 8816-1992に準拠して、顕微鏡の石炭試料が配置されているステージを一定間隔ずつ手動で動かし、視野内の石炭の微細組織成分を、模様などの基準に基づいて同定し、カウントする。
【0042】
そのうえで、トータルイナート量(単位:%)を、下記式に基づいて求める。
トータルイナート量=100×{係数a×セミフジニット(カウント数)+フジニット(カウント数)+ミクリニット(カウント数)+スクレロチニット(カウント数)+マクリニット(カウント数)}/(全カウント数)
係数aは、セミフジニットの活性成分を考慮して、1または2/3である。本明細書においては、係数aは1で計算するが、これに限定されない。
【0043】
なお、従来方法では、Roも、トータルイナート量と同様に、手動で求める。
すなわち、JIS M 8816-1992に準拠して、顕微鏡のステージを手動で動かし、視野内のビトリニットを同定し、その平均反射率を求める。
【0044】
このような従来方法では、石炭の微細組織成分を個々に同定する必要があるため、非常に煩雑である。また、模様などの基準に基づいて同定するため、同定結果が人に依る部分が大きく、時間もかかる。
【0045】
なお、特許文献1に記載された方法は、「コンピューター」を用いているが、「反射率の変動幅」等の基準に基づいて、イナーチニットに属するセミフジニットやフジニット等の微細組織成分を個々に同定しており、やはり、煩雑である。
【0046】
これに対して、本実施形態の石炭分析装置1(石炭分析方法)によれば、石炭の微細組織成分を個々に同定することなく、その1種の割合であるトータルイナート量を簡便に得ることができる。このとき、模様などの基準を用いないため、人に依る部分が小さく、時間も短縮できる。
【0047】
《補正部》
次に、石炭分析装置1の補正部5は、算出部4により算出されたトータルイナート量を補正する(ステップS113)。
【0048】
ここで、補正を実施する理由を説明する。
以下、便宜的に、本実施形態の石炭分析装置1(石炭分析方法)を用いて求めたRoおよびトータルイナート量を、それぞれ「Ro(自動)」および「トータルイナート量(自動)」と表記する場合がある。
また、従来方法によって求めたRoおよびトータルイナート量を、それぞれ、「Ro(手動)」および「トータルイナート量(手動)」と表記する場合がある。
【0049】
本発明者は、Ro(自動)およびトータルイナート量(自動)を、Ro(手動)およびトータルイナート量(手動)と対比した。
【0050】
なお、Ro(手動)は任意の100視野、トータルイナート量(手動)は任意の250視野の観察結果から求めた。
【0051】
図6は、Ro(手動)とRo(自動)との関係図である。決定係数R=0.95、誤差標準偏差RMSE=0.03%であり、Ro(自動)はRo(手動)と同等であった。
【0052】
図7は、トータルイナート量(手動)とトータルイナート量(自動)との関係図である。決定係数R=0.2、誤差標準偏差RMSE=10%であり、トータルイナート量(自動)は、トータルイナート量(手動)と比較して、過小評価の傾向が見られた。
【0053】
一般的に、イナーチニットに属するセミフジニットは、ビトリニットとイナーチニットとの中間的な性質を持つことが知られている。
セミフジニットは、反射率もビトリニットとイナーチニットとの中間的な値を示すので、反射率の値の大小だけではセミフジニットを厳密に分類することは難しい。
【0054】
図8は、セミフジニット反射率が図示された、1個の石炭粒子の反射率ヒストグラムである。図8では、1個の石炭粒子の反射率ヒストグラム15に、正規分布16がフィッティングされており、ビトリニット反射率の最大値18も示されている。
更に、図8には、セミフジニット反射率19(セミフジニット反射率のヒストグラム)も図示されている。
【0055】
図8に示すように、ビトリニット反射率の範囲内に、セミフジニット反射率も多く含まれる。この場合、イナーチニットに属するセミフジニットがビトリニットであると誤認定されるので、図7に示すように、トータルイナート量(自動)はトータルイナート量(手動)よりも過小評価される。本発明者は、そのように考えた。
【0056】
そこで、本発明者は、トータルイナート量と同様にして、従来方法により、セミフジニットの割合(単位:%)を求めた。以下、これを「セミフジニット割合(手動)」と表記する場合がある。
【0057】
図9は、Ro(自動)とセミフジニット割合(手動)との関係図である。
Ro(自動)とセミフジニット割合(手動)との間には、決定係数R=0.3の相関があり、図9に示すように、Ro(自動)が上昇するに従い、セミフジニット割合(手動)が増加している。
【0058】
このような図9を踏まえて、本発明者は、トータルイナート量(自動)を求めるに際して、セミフジニットがビトリニットと誤認定される影響を、Ro(自動)を用いて補正できると考えた。
本発明者は、トータルイナート量(手動)に対して、Ro(自動)およびトータルイナート量(自動)の2つを説明変数として、下記式に基づいて、重回帰分析した。
トータルイナート量(手動)={a×トータルイナート量(自動)}+{b×Ro(自動)}+c
重回帰係数は、a=0.92、b=24.1、c=-15.9であった。
【0059】
本発明者は、重回帰分析により得られた重回帰係数を用いて、トータルイナート量(自動)を補正した。
具体的には、下記式に基づいて、補正後のトータルイナート量(自動)を求めた。
補正後のトータルイナート量(自動)={a×トータルイナート量(自動)}+{b×Ro(自動)}+c
【0060】
図10は、トータルイナート量(手動)と補正後のトータルイナート量(自動)との関係図である。決定係数R=0.9、誤差標準偏差RMSE=4%であり、補正後のトータルイナート量(自動)は、トータルイナート量(手動)と同等であった。
トータルイナート量(手動)がトータルイナート量(自動)よりも高精度であるとすれば、重回帰係数を用いた補正により得られる補正後のトータルイナート量(自動)も高精度であると言える。
【0061】
そこで、石炭分析装置1の補正部5は、予め重回帰係数を決定し、保持しておく。
そして、重回帰係数、ならびに、算出部4により算出されたRo(自動)およびトータルイナート量(自動)を用いて、このトータルイナート量を補正する(ステップS113)。
このような補正により、最終的に得られるトータルイナート量を、高精度化できる。
【0062】
なお、重回帰分析における説明変数は、Ro(自動)およびトータルイナート量(自動)の2つに限定されない。表面画像8から取得できる他の情報を、更に、説明変数として加えてもよい。
【0063】
[混合石炭の調製およびコークスの製造]
コークスは、その製品指標に応じて、多様な銘柄の石炭が配合されて製造される。
すなわち、複数種類の石炭を配合して、混合石炭を調製し、調製した混合石炭をコークス炉などで焼成することにより、コークスを得る。
このとき、上述した本実施形態の石炭分析方法を用いて、配合する石炭の少なくとも一部について、トータルイナート量を特定することが好ましい。
上述したように、本実施形態の石炭分析方法によれば簡便にトータルイナート量が得られ時間も短縮できるため、混合石炭の調製およびコークスの製造についても、全体として、簡便化や時間の短縮化などができる。また、得られたトータルイナート量を即座に石炭配合計算などに反映できる。
【符号の説明】
【0064】
1:石炭分析装置
2:画像取得部
3:同定部
4:算出部
5:補正部
6:顕微鏡
7:石炭試料
8:表面画像
9(9a、9b、9c):石炭粒子
10:樹脂
11:ビトリニット
12:イナート
13:ビトリニット反射率範囲の最小閾値
14:ビトリニット反射率範囲の最大閾値
15:1個の石炭粒子の反射率ヒストグラム
16:正規分布
17:ビトリニット反射率の最小値
18:ビトリニット反射率の最大値
19:セミフジニット反射率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10