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特許7405310人工皮革およびその製造方法、ならびに、乗物用内装材、座席
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  • 特許-人工皮革およびその製造方法、ならびに、乗物用内装材、座席 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法、ならびに、乗物用内装材、座席
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20231219BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20231219BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20231219BHJP
   D04H 3/011 20120101ALI20231219BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
D04H3/16
D04H3/011
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023539135
(86)(22)【出願日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2023022741
【審査請求日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2022123785
(32)【優先日】2022-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】梶原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山中 博文
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-297673(JP,A)
【文献】特開平11-100780(JP,A)
【文献】特開2003-328276(JP,A)
【文献】国際公開第2007/040144(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/110280(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
D04H1/00-18/04
D06N1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂からなり、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維を主な構成要素として含む人工皮革であって、前記繊維が長繊維であって、単繊維として分散しており、融解熱量ΔHmが10J/g以上100J/g以下であり、かつ、融解ピークの半値幅が9℃以上である、人工皮革。
【請求項2】
少なくとも一方の表面に立毛を有する、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
さらに、平均単繊維径が5.0μm以上25.0μm以下の補強繊維からなる層を構成要素として含む、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
さらに、ポリウレタンを構成要素として含む人工皮革であって、該ポリウレタンの含有割合が5質量%以上50質量%以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項5】
前記繊維の断面の異形度が1.00以上1.15以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項6】
溶融したポリエステル系樹脂を単孔吐出量0.05g/分以上0.30g/分以下で口金の吐出孔から吐出させた後、該ポリエステル系樹脂に対し、前記吐出孔から200mm以内の領域の少なくとも一部に-15℃以上50℃以下の気体を吹き付けて糸条を形成し、少なくとも導入口において、紡糸速度Vs(m/分)3,000m/分以上7,000m/分以下で、前記糸条を-15℃以上50℃以下の気体で牽引して、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維からなるウエブを得る工程を含む、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項7】
前記気体を吹き付ける際の気体の流速Vq(m/分)と前記紡糸速度Vs(m/分)との比Vq/Vsが3×10-3以上30×10-3以下とする、請求項6に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項8】
前記吐出孔と前記導入口との間の距離が100mm以上3,000mm以下とする、請求項6または7に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項9】
前記吐出孔の孔径が0.05mm以上0.30mm以下である、請求項6または7に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の人工皮革を用いてなる、乗物用内装材。
【請求項11】
請求項1に記載の人工皮革を用いてなる、座席。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優美な外観と物性を有する人工皮革およびその製造方法、ならびに、この人工皮革を用いてなる乗物用内装材、座席に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極細繊維からなる立毛が表面を覆った人工皮革は、優美な外観を有することから、衣料や家具、自動車内装材など幅広い分野で使用されている。このような人工皮革は、極細繊維発生型のステープルからなるウエブをクロスレイヤーで積層する方法によって均一なシートとし、高いレベルの外観と物性を達成してきた。
【0003】
しかし近年では、さらに高いレベルの外観と物性の要求が高まっているとともに、環境配慮志向の高まりから、工程の簡素化が求められている。
【0004】
例えば特許文献1では、繊度が0.5デシテックス以下で特定の繊維長のポリエステル延伸繊維であって、該繊維表面には繊維重量を基準としてポリエーテル・ポリエステル共重合体が一定量付着していると共に、水分保持率が一定値以上であることを特徴とする抄紙用極細ポリエステル延伸繊維が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、平均単繊度0.5デシテックス以下の極細繊維を発生し得る極細繊維発生型繊維を繊維ウエブとする工程;該繊維ウエブの少なくとも一面にブラシ先端部が接するようにブラシベルトを配置し、該繊維ウエブ内から突出する極細繊維発生型繊維を該ブラシ中に把持しながら該繊維ウエブをニードルパンチングして絡合不織布を得る工程;該絡合不織布に高分子弾性体を含有させる工程;および該極細繊維発生型繊維を平均単繊度0.5デシテックス以下の極細繊維の繊維束に変換する工程を含む人工皮革用機材の製造方法が提案されている。
【0006】
ほかにも、特許文献3では、0.5デニール以下の極細繊維を必須成分とする不織ウエブまたは該不織ウエブの裏面または内層に編織物を積層した複合シートに高速流体流を噴射し、構成繊維を交絡させることにより製造した不織布または少なくとも一つの不織布層表面を有する不織布状物の空隙に弾性重合体を充填し人工皮革を製造するにあたり、該不織布または不織布状物の不織布層表面を起毛処理し、次いで起毛面に弾性重合体の充填を阻止する糊剤を塗布した後弾性重合体を充填し、次に該糊剤を除去することを特徴とするスエード調人工皮革の製造法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-339257号公報
【文献】国際公開第2006/134966号
【文献】特開昭55-084479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されるような技術を仮に人工皮革の基材として用いた場合や、特許文献3に開示されるような極細繊維を抄造するプロセスによって人工皮革を得た場合などでは、極細繊維を発生させる工程が不要になる点では、従来の人工皮革よりもプロセスの簡素化が容易になり得るとも考えられる。一方で、繊維を水に均一に分散するためには繊維長を短くする必要があり、優美で高級感のある外観や高い物性を有する人工皮革を得ることが難しい。また、水中で繊維が絡み合わないようにするため、繊維には剛性が必要となる。そのため、立毛のタッチを柔軟化することも難しい。
【0009】
一方、特許文献2に開示されるようなスパンボンド法による製造プロセスや、特許文献3に開示されるようなメルトブロー法による製造プロセスによれば、人工皮革を製造する際に一般的に用いられる捲縮ステープルをウエブ化するという工程を省くことができるという点では、従来の人工皮革よりもプロセスの簡素化が容易になり得るとも考えられる。また、特許文献1に開示されるような技術や、特許文献3に開示されるような極細繊維を抄造するプロセスとは異なり、水中での分散を必要としないため、繊維の剛性を低く抑えやすく、柔軟なタッチの立毛を有する人工皮革を比較的容易に得ることができるものとも考えられる。しかし、特許文献2に開示されるような技術では、極細繊維発生型繊維を用いているため、同一の極細繊維発生型繊維から生じた極細繊維同士が集まって繊維束となりやすく、繊維1本1本がばらばらに分散した均一な外観のシートを得ることが難しい。また、特許文献3に開示されるようなメルトブロー法では、繊維の剛性を過剰に柔軟なものとすることとなり、コシのないタッチになるとともに、十分な物性を得ることが難しい。
【0010】
そこで、本発明の課題は、優美で高級感のある外観と機械的物性とを高いレベルで両立する人工皮革を提供すること、そして、より環境負荷を低減させつつ、生産性も向上できる、人工皮革の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有する。すなわち、
[1] ポリエステル系樹脂からなり、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維を主な構成要素として含む人工皮革であって、前記繊維が長繊維であって、単繊維として分散しており、融解熱量ΔHmが10J/g以上100J/g以下であり、かつ、融解ピークの半値幅が9℃以上である、人工皮革。
【0012】
[2] 少なくとも一方の表面に立毛を有する、前記[1]に記載の人工皮革。
【0013】
[3] さらに、平均単繊維径が5.0μm以上25.0μm以下の補強繊維からなる層を構成要素として含む、前記[1]または[2]に記載の人工皮革。
【0014】
[4] さらに、ポリウレタンを構成要素として含む人工皮革であって、該ポリウレタンの含有割合が5質量%以上50質量%以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
【0015】
[5] 前記繊維の断面の異形度が1.00以上1.15以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
【0016】
[6] 溶融したポリエステル系樹脂を単孔吐出量0.05g/分以上0.30g/分以下で口金の吐出孔から吐出させた後、該ポリエステル系樹脂に対し、前記吐出孔から200mm以内の領域の少なくとも一部に-15℃以上50℃以下の気体を吹き付けて糸条を形成し、少なくとも導入口において、紡糸速度Vs(m/分)3,000m/分以上7,000m/分以下で、前記糸条を-15℃以上50℃以下の気体で牽引して、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維からなるウエブを得る工程を含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
【0017】
[7] 前記気体を吹き付ける際の気体の流速Vq(m/分)と前記紡糸速度Vs(m/分)との比Vq/Vsが3×10-3以上30×10-3以下とする、前記[6]に記載の人工皮革の製造方法。
【0018】
[8] 前記吐出孔と前記導入口との間の距離が100mm以上3,000mm以下とする、前記[6]または[7]に記載の人工皮革の製造方法。
【0019】
[9] 前記吐出孔の孔径が0.05mm以上0.30mm以下である、前記[6]~[8]のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
【0020】
[10] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の人工皮革を用いてなる、乗物用内装材。
【0021】
[11] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の人工皮革を用いてなる、座席。
【発明の効果】
【0022】
本発明の人工皮革によれば、優美で高級感のある外観と機械的物性とを高いレベルで両立させることができる。そして、本発明の人工皮革の製造方法によれば、より環境負荷を低減させつつ、生産性も向上できる。さらに、この人工皮革の優れた特性から、特に乗物用内装材、あるいは、座席に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の人工皮革に係る製造装置の一実施態様を例示・説明する、断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の人工皮革は、ポリエステル系樹脂からなり、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維を主な構成要素として含む人工皮革であって、前記繊維が長繊維であって単繊維として分散しており、かつ、前記人工皮革の融解熱量(ΔHm)が10J/g以上100J/g以下である。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0025】
ここで、本発明において繊維を「主な構成要素として含む」とは、人工皮革から後述される補強繊維からなる層、ポリウレタンを除いた部分において、その繊維の質量割合が50質量%以上となるように含むことを指すものとする。
【0026】
また、本発明において「長繊維」とは、紡糸後に意図的にカットされた短繊維ではない、繊維長が100mm以上の、実質的に連続的な繊維のことを意味する。さらに具体的には、例えば、繊維長が3~80mm程度になるように意図的に切断された短繊維ではない繊維を意味する。ただし、人工皮革を製造する工程において、ポリエステル系樹脂が紡出されてシート状になった後に、繊維が切断されてしまうような部分、例えば、シートがスリットされて形成される端部の繊維であったり、シートの表面に立毛が形成されて生じる表面の繊維であったりなどは、たとえ一定長にカットされていたとしても、当該繊維は長繊維であるものとする。
【0027】
そして、本発明において繊維が「単繊維として分散している」とは、表面に、多数の繊維が寄り集まって太い繊維になっている繊維束が存在しない状態のこと言う。この状態は、実体顕微鏡や電子顕微鏡で観察して確認できるものであり、具体的には、無作為に選んだ1cm×1cmの領域を観察し、10本以上の繊維が寄り集まって1mm以上の長さにわたって続いている繊維束を数える。10か所の領域で、同様に繊維束の数を数えてその平均値が3以下の場合、その繊維が「単繊維として分散している」と判断する。
【0028】
[繊維]
本発明の人工皮革は、ポリエステル系樹脂からなる繊維を主な構成要素として含む。このようにすることによって、優美で高級感のある外観と機械的物性とを高いレベルで両立し、かつ、耐久性に優れた人工皮革とすることができる。
【0029】
前記のポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、および、ポリエステルエラストマ等が挙げられる。これらの中でも、加工した製品の風合および実用性能の点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートがより好ましく、とりわけ、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。
【0030】
なお、本発明において、ポリエステル系樹脂とは、上記したポリエチレンテレフタレートなどの各ポリエステル樹脂、これらの混合物、共重合体、ならびに、これらの樹脂に対して添加剤が加えられたもののことを指す。この添加剤としては、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で添加、含有されるものであり、具体的には、酸化チタン粒子などの無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0031】
そして、本発明の人工皮革において、前記繊維は、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下である。この範囲を外れると、柔軟で平滑なタッチが得られず、不織布の形態が安定せず、取り扱い性が不良となる。平均単繊維径の範囲の下限について、好ましくは2.5μm以上、より好ましくは3.0μm以上であることで、人工皮革の形態安定性がより高いものとなる。一方、平均単繊維径の範囲の上限について、好ましくは6.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下であることで、人工皮革がより柔軟なものとなる。
【0032】
なお、本発明の人工皮革において、平均単繊維径(μm)は、以下のとおり求めたものを指す。
(1)2cm×2cmの試験片を5枚切り出す。
(2)試験片の断面を走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製「VHX-D510型」またはこれと同等の性能を有する示差走査型熱量計)を用いて撮影する。
(3)円形または円形に近い楕円形の繊維をランダムに20本選ぶ。
(4)20本の単繊維径を測定する。
(5)(2)~(4)を全ての試験片で行い、得られた単繊維径の算術平均値(μm)を計算して、小数点以下第二位で四捨五入する。
【0033】
さらに、本発明の人工皮革において、前記の繊維は長繊維である。長繊維であることによって、高い強度が得やすいだけでなく、繊維が人工皮革から素抜けしにくくなるため、耐摩耗性が良好となるためである。
【0034】
また、本発明の人工皮革において、前記の繊維は単繊維として分散している。人工皮革を構成する極細繊維が単繊維として分散していることによって、人工皮革全体が均一な構造となり、高級感のある外観を得られる。
【0035】
一般に、極細繊維発生型繊維を用いた人工皮革では、極細繊維発生型繊維として交絡等の構造形成が行われることによって、極細繊維発生処理で、極細繊維発生型繊維の中にあった複数の極細繊維が繊維束を形成するため、単繊維として分散していない。このような繊維束で構造形成されていると、繊維束のサイズで交絡部や表面を形成する傾向にあるため、本発明で期待するような均一な構造が容易には得られにくい。さらに、場合によっては、明瞭なライティング効果を得ることができず、品位に劣るものとなることがある。
【0036】
なお、製造上の制約などによって繊維束の状態で絡合した構造が人工皮革の一部に含まれていたとしても、実質的に人工皮革を構成する極細繊維が短繊維として分散していれば、繊維束の状態で絡合した構造の含有割合が本発明の効果が損なわれない範囲であれば、許容される。しかし、本発明の効果が十分に得られなくなることがあるので注意する必要がある。
【0037】
そして、本発明の人工皮革において、前記繊維は、その断面の異形度が1.00以上1.15以下であることが好ましい。この異形度が下限の1.00であると、その繊維の断面は真円であり、異形度が大きくなるにつれて、その繊維の断面が真円から異なる方向へ変形していることが示される。この異形度の範囲の上限について、より好ましくは1.10以下、さらに好ましくは1.05以下であることによって、繊維が屈曲する際に異方性がより抑制されるため、人工皮革の表面に立毛を形成した場合において、人工皮革の表面に形成した立毛が揃いやすくなり、高級感を有する人工皮革とすることができる。
【0038】
なお、本発明の人工皮革において、異形度は、以下のとおり求めたものを指す。
(1)2cm×2cmの試験片を5枚切り出す。人工皮革が用いられてなる製品から試験片を切り出す場合には、当該製品の縫い目やエンボス加工された部分を除いた部分からランダムに採取する。
(2)試験片の断面を走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製「VHX-D510型」またはこれと同等の性能を有する示差走査型熱量計)を用いて撮影する。
(3)繊維をランダムに10本選び、それぞれの繊維断面の正確な形状を観察するために、該当する繊維の繊維側面の映り込みが全くないか最小になる方向に調整して画像を撮影する。
(4)選択した繊維の断面について、当該断面の最小外接円の直径(μm)を前記断面の最大内接円の直径(μm)で除して当該繊維の異形度(単位なし)を求める。
(5)(2)~(4)を全ての試験片で行い、得られた異形度の算術平均値(単位なし)を小数点以下第3位で四捨五入する。
【0039】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は前記繊維を主な構成要素として含む。そして、本発明の人工皮革は、融解熱量ΔHmが10J/g以上100J/g以下である。本発明において、融解熱量ΔHmとは、ポリエステル由来の融解熱量ΔHmを指し、この融解熱量ΔHmが大きいほど、繊維を構成している樹脂の結晶性が高いことを示す。なお、本発明の融解熱量は後述するように、人工皮革中のポリエステル系樹脂からなる繊維の質量を基準に測定、算出するものである。そして、ポリウレタンなどが含まれていたとしても、人工皮革の状態で測定し、ポリウレタンの含有割合を除き、人工皮革中のポリエステル系樹脂からなる繊維の質量を基準に測定、算出するものである。人工皮革の融解熱量ΔHmが10J/g以上100J/g以下の範囲を外れると、繊維の機械的特性向上が望めず、糸切れや毛羽が発生するか、柔軟で、ソフトなタッチの人工皮革とすることができない。
【0040】
融解熱量ΔHmの範囲の下限について、好ましくは20J/g以上、より好ましくは30J/g以上であることで、繊維を構成する樹脂の結晶性がより進むこととなるため、繊維の機械的特性がより向上し、糸切れや毛羽の発生が抑制される。その結果、機械物性のより優れた人工皮革とすることができる。一方、融解熱量ΔHmの範囲の上限について、好ましくは60J/g以下、より好ましくは45J/g以下であることで、過度な結晶化が抑制されるため、より柔軟で、ソフトなタッチの人工皮革とすることができる。
【0041】
なお、本発明の人工皮革において、融解熱量ΔHmは、以下のとおり測定、算出される値を指す。
(1)2cm×2cmの試験片を5枚切り出す。人工皮革が用いられてなる製品から試験片を切り出す場合は、製品の縫い目やエンボス加工された部分を除いた部分からランダムに採取し、温度20±2℃、相対湿度65±4%の標準状態に調整して用いる。
(2)示査走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製示査走査熱量計「Q20」またはこれと同等の性能を有する示差走査型熱量計)により、20℃の温度から10℃/分の速度で300℃の温度まで昇温する操作を行い、200℃から300℃の間にある融解ピークの熱収支から融解熱量(J)を測定する。このとき、100℃から200℃に発熱ピークがある場合は、その発熱熱量(J)を前記融解熱量(J)から差し引いた値を融解熱量(J)として採用する。
(3)前記の融解熱量(J)をポリエステル系樹脂からなる繊維の質量(g)で除して融解熱量ΔHmを求める。この際、人工皮革にポリウレタンなどポリエステル系樹脂以外の成分が含まれる場合には、極細繊維(人工皮革中の平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維)、後述する補強繊維を溶出する溶媒、もしくは、ポリウレタンを溶出する溶媒に人工皮革を浸漬し、溶出前後の質量変化から算出する。例えば、有機溶剤系ポリウレタンが含まれる人工皮革の場合、多くは、人工皮革をN,N’-ジメチルホルムアミドに浸漬させ、ポリウレタンを溶解除去した後に、残存する極細繊維、補強繊維の質量を測定することで、ポリエステル系樹脂からなる繊維の質量を算出する。
(4)(2)~(3)を全ての試験片で行い、得られた融解熱量ΔHmの算術平均値(J/g)を計算して、小数点以下第一位で四捨五入する。
【0042】
そして、前記の融解熱量ΔHmは、例えば、紡糸速度、紡糸温度、冷却条件、ポリエステル系樹脂の分子量、ポリエステル系樹脂の共重合成分の種類や共重合率、結晶核剤などの添加剤の種類や添加量などで調整することによって、上記の範囲とすることができる。
【0043】
本発明の人工皮革は、融解ピークの半値幅が9℃以上である。本発明において、融解ピークとは、ポリエステル由来の融解ピークを指し、この半値幅が大きいほど、物性とソフトなタッチを両立しやすい。人工皮革の融解ピークの半値幅が9℃未満であると、柔軟で、ソフトなタッチの人工皮革とすることができない。
【0044】
融解ピークの半値幅の下限について、好ましくは11℃以上、より好ましくは13℃以上であることで、より柔軟で、ソフトなタッチの人工皮革とすることができる。上限は特に制限するものではないが、繊維の機械特性を向上し易いことから、好ましくは20℃以下、より好ましくは18℃以下、さらに好ましくは16℃以下である。
【0045】
なお、本発明において、融解ピークの半値幅は、前述の融解熱量の測定と同時に得られる値である。具体的には、前述の融解熱量の測定の(2)の200℃から300℃の間にある融解ピークにおいて半値幅(℃)を読み取って得られる値である。
【0046】
そして、前記の融解ピークの半値幅は、例えば、紡糸速度、紡糸温度、冷却条件、ポリエステル系樹脂の分子量、ポリエステル系樹脂の共重合成分、結晶核剤などの添加剤を添加することなどで調整することによって、上記の範囲とすることができる。
【0047】
本発明の人工皮革は、優美で高級感のある外観と機械的物性とを高いレベルで両立し、そして、より環境負荷を低減させつつ、生産性も向上できるという特徴を有しており、表面に立毛の無い銀付調の表面、立毛を有するスエード調やヌバック調など様々な外観を採用することができる。なかでも、少なくとも一方の表面に立毛を有することが好ましい態様である。本発明において、「立毛を有する」表面とは、表面を指でなぞることによって、いわゆるフィンガーマークが発現する程度に、長さと方向柔軟性を備えた極細繊維の起毛層を有する表面のことを指す。
【0048】
本発明の人工皮革は、長繊維で構成されているため、比較的物性が高い特徴を有するが、より高い物性を得るために、さらに、平均単繊維径が5.0μm以上25.0μm以下の補強繊維からなる層を構成要素として含む人工皮革とすることが好ましい。
【0049】
この補強繊維について、その平均単繊維径の範囲の上限について、好ましくは25.0μm以下、より好ましくは15.0μm以下、さらに好ましくは13.0μm以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。一方、平均単繊維径の範囲の下限について、好ましくは5.0μm以上、より好ましくは7.0μm以上、さらに好ましくは10.0μm以上であることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上する。
【0050】
なお、本発明において、補強繊維の平均単繊維径は、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、補強繊維からなる層を構成する補強繊維をランダムに10本選び、その繊維の単繊維径を測定して10本の算術平均値(μm)を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。ただし、異型断面の繊維を採用した場合には、人工皮革を構成する繊維の平均単繊維径の測定・算出の場合と同様に、まず繊維の断面積(μm)を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径、すなわち、円相当径を算出することによって繊維の直径(μm)を求めるものとする。また、補強繊維が後述するようなマルチフィラメントである場合には、マルチフィラメントを構成している単繊維の直径を補強繊維の平均単繊維径とする。
【0051】
この補強繊維からなる層としては、織物層を挙げることができる。この織物層の基本組織は、ツイルやサテンを用いても良いが、目ずれなどが発生しにくい平組織を好ましく用いることができる。
【0052】
織物層を構成する繊維の種類としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントヤーンと紡績糸の混合複合糸などを用いることが好ましく、耐久性、特には機械的強度等の観点から、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂からなるマルチフィラメントを用いることがより好ましい。
【0053】
さらに、前記の織物を構成するマルチフィラメントである場合には、そのマルチフィラメントの撚数を1,000T/m~4,000T/mとすることが好ましい。撚数の範囲の上限を4,000T/m以下、より好ましくは3,500T/m以下、さらに好ましくは3,000T/m以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。一方、撚数の範囲の下限を1,000T/m以上、より好ましくは1,500T/m以上、さらに好ましくは2,000T/m以上とすることにより、不織布と織物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維の損傷を防ぐことができ、人工皮革の機械的強度が優れたものとなるため好ましい。
【0054】
本発明の人工皮革には風合いや物性を調整する目的で、さらに、ポリウレタンを構成要素として含む人工皮革とすることも好ましい。このポリウレタンとしては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタンが好ましく用いられる。
【0055】
本発明に係るポリウレタンに用いられるポリマージオールとしては、平均分子量500以上3,000以下のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、あるいはポリエステルポリエーテルジオールなどのポリマージオールなどから選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールを用いることができるが、ポリウレタンが繰り返しの洗濯に対してバインダーとして機能を損ないにくい、耐加水分解性に優れるポリエーテルジオールまたはポリカーボネートジオールを含むことが好ましい。
【0056】
また、本発明に係るポリウレタンには、目的に応じて各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系および無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤および染料などを含有させることができる。
【0057】
一般に、人工皮革におけるポリウレタンの含有割合は、使用するポリウレタンの種類、ポリウレタンの製造方法、そして、所望の人工皮革の風合いや物性などを考慮して、適宜調整することができるが、本発明の人工皮革においては、ポリウレタンの含有割合は、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。ポリウレタンの含有割合の範囲の下限が5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であることで、人工皮革の耐摩耗性を向上させることができる。一方、前記のポリウレタンの含有割合の範囲の上限が50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下であることで、人工皮革をより柔軟性の高いものとすることができる。
【0058】
なお、本発明において、人工皮革におけるポリウレタンの含有割合は、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1)2cm×2cmの試験片を5枚切り出し、試験片の質量を測定する。人工皮革が用いられてなる製品から試験片を切り出す場合は、製品の縫い目やエンボス加工された部分を除いた部分からランダムに採取し、温度20±2℃、相対湿度65±4%の標準状態に調整して用いる。
(2)極細繊維、補強繊維を溶出する溶媒、もしくは、ポリウレタンを溶出する溶媒に人工皮革を浸漬し、溶出前後の質量変化からポリウレタンの含有量(g)を算出する。例えば、有機溶剤系ポリウレタンが含まれる人工皮革の場合、多くは、人工皮革をN,N’-ジメチルホルムアミドに浸漬させ、ポリウレタンを溶解除去した後に、残存する極細繊維、補強繊維の質量を測定することで、ポリウレタンの含有量(g)を算出する。
(3)(2)で得られたポリウレタンの含有量を(1)で得られた試験片の質量(g)で除し、ポリウレタンの含有割合(質量%)を算出する。
(4)(2)~(3)を全ての試験片で行い、得られたポリウレタンの含有割合(質量%)の算術平均値(質量%)を計算して、小数点以下第一位で四捨五入する。
【0059】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革の製造方法は、溶融したポリエステル系樹脂を単孔吐出量0.05g/分以上0.30g/分以下で口金の吐出孔から吐出させた後、該ポリエステル系樹脂に対し、前記吐出孔から200mm以内の領域の少なくとも一部を含むように-15℃以上50℃以下の気体を吹き付けて糸条を形成し、少なくとも導入口において、紡糸速度が3,000m/分以上7,000m/分以下となるように、前記糸条を-15℃以上50℃以下の気体で牽引して、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維からなるウエブを得る工程を含む。ここで、本発明において「導入口」とは、前記の吐出孔からウエブを得るまでの間で、牽引する気体の風速が最も高くなる場所であり、一般には、吐出孔から吐出された樹脂が糸条となって通る通路の断面積が、前記の吐出孔からウエブを得るまでの間で、最も小さくなっている箇所である。以降、この製造方法について、その詳細について述べる。もちろん、この部分においても、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0060】
まず、本発明の人工皮革の製造方法は、溶融したポリエステル系樹脂を単孔吐出量0.05g/分以上0.30g/分以下で口金の吐出孔から吐出させる。単孔吐出量0.05g/分以上0.30g/分以下の範囲を外れると、後述する紡糸速度の範囲において、安定した紡糸性を得ることができないか、優美な外観の人工皮革を得るための、平均単繊維径が7.0μm以下の繊維を容易に得ることができない。なお、本発明において、単孔吐出量(g/分)とは単位時間(分)あたりに口金の吐出孔1つ(単孔)から吐出される、ポリエステル系樹脂の吐出量(g)のことである。この単孔吐出量の範囲の下限について、好ましくは0.07g/分以上、より好ましくは0.09g/分以上とすることで、後述する紡糸速度の範囲において、一層安定した紡糸性を得ることができる。一方、単孔吐出量の範囲の上限について、好ましくは0.25g/分以下、より好ましくは0.20g/分以下とすることで、後述する紡糸速度の範囲において、優美な外観の人工皮革を得るための、平均単繊維径が7.0μm以下の繊維をより容易に得ることができる。
【0061】
このとき、前記の吐出孔の孔径は、0.05mm以上0.30mm以下とすることが好ましい。孔径の範囲の下限について、より好ましくは0.07mm以上、さらに好ましくは0.09mm以上とすることで、汚れなどが付着するなどして経時的に紡糸性が低下していくことを有効に抑制することができる。一方、孔径の範囲の上限について、より好ましくは0.25mm以下、さらに好ましくは0.20mm以下とすることで、安定した紡糸状態をより容易に得ることができる。本発明において、吐出孔が真円でない場合は、孔面積が同一になる真円の直径(円相当径)を孔径と呼称する。
【0062】
そして、本発明の人工皮革の製造方法は、溶融したポリエステル系樹脂を口金の吐出孔から吐出させた後、前記の吐出孔から200mm以内の領域の少なくとも一部に-15℃以上50℃以下の気体を吹き付けて糸条を形成する。通常繊度の繊維を得る場合には、吐出孔の温度に影響を与えて紡糸を不安定化し易いため、吐出孔に近い位置で気体を吹き付けることを一般に避けるが、本発明者らの検討の結果、極細繊維を得る紡糸では、吐出孔に近い位置で気体を吹き付けることによって紡糸が安定化することを見出した。
【0063】
なお、前記の気体を吹き付ける領域は、前記の吐出孔から200mm以内の領域の少なくとも一部を含む。前記の吐出孔から200mm以内の領域の少なくとも一部を含まない場合、平均単繊維径が7.0μm以下の繊維を得ることは困難となり、優美な外観の人工皮革を得ることができない。前記の吐出孔から150mm以内の領域の少なくとも一部を含むことが好ましく、前記の吐出孔から100mm以内の領域の少なくとも一部を含むことがより好ましい。このようにすることで、通常は困難な平均単繊維径が7.0μm以下の繊維を得やすくなり、優美な外観の人工皮革をより容易に得ることができる。
【0064】
吹き付ける気体の温度が-15℃以上50℃以下の範囲を外れると、吐出孔近傍の温度を過度に低下させるか、吐出されたポリエステル系樹脂を十分に冷却させることができない。前記の気体の温度の範囲の下限について、好ましくは-10℃以上、より好ましくは-5℃以上とすることで、吐出孔近傍の温度を過度に低下させることを有効に防ぐことができる。一方、前記の気体の温度の範囲の上限について、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下とすることで、吐出されたポリエステル系樹脂をより十分に冷却させることができる。
【0065】
また、気体を吹き付けるために使用される気体供給手段としては、該ポリエステル系樹脂の一方または多方向から、スリットノズルや整流ユニットを通してブロワー供給する方法が挙げられる。
【0066】
そして、本発明の人工皮革の製造方法では、前記の吐出孔と前記の導入口との間の距離が100mm以上3,000mm以下とすることが好ましい。吐出孔と導入口との間の距離の範囲の下限について、好ましくは100mm以上、より好ましくは200mm以上、さらに好ましくは300mm以上とすることで、溶融したポリエステル系樹脂の繊維化を十分に促進させ、安定した紡糸をより容易に行うことができる。一方、吐出孔と導入口との間の距離の範囲の上限について、好ましくは3,000mm以下、より好ましくは2,000mm以下、さらに好ましくは1,000mm以下とすることで、複数の吐出孔から吐出されたポリエステル系樹脂からなる糸条をより安定して導入口へ導くことができる。
【0067】
さらに、本発明の人工皮革の製造方法では、前記の糸条を、少なくとも前記の導入口において、紡糸速度Vs(m/分)を3,000m/分以上7,000m/分以下とする。紡糸速度Vs(m/分)3,000m/分以上7,000m/分以下の範囲を外れると、分子配向が不十分となって適度にコシのあるタッチにならず、機械的物性、形態安定性に優れた人工皮革を得ることができないか、前記の気体が吹き付けられた糸条を安定して牽引することができない。紡糸速度Vs(m/分)の範囲の下限について、好ましくは3,500m/分以上、より好ましくは4,000m/分以上とすることで、分子配向がより十分となって適度にコシのあるタッチになるとともに、機械的物性、形態安定性に優れた人工皮革をより容易に得ることができる。一方、紡糸速度Vs(m/分)の範囲の上限について、好ましくは6,500m/分以下、より好ましくは6,000m/分以下とすることで、前記の気体が吹き付けられた糸条をより安定して牽引することができる。
【0068】
なお、本発明において、前記の導入口における、紡糸速度Vs(m/分)は以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1)前記の糸条を牽引し、延伸した後、ネット上に捕集したウエブから、ランダムに小片サンプル10個を採取し、マイクロスコープで500~1,000倍の表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の幅を測定し、それらの算術平均値から単繊維繊維径(μm)を算出する。
(2)単繊維繊維径と、使用する樹脂の20℃における密度とから、長さ10,000m当たりの質量を単繊維繊度(dtex)として、小数点以下第二位を四捨五入して算出する。
(3)(2)の単繊維繊度(dtex)と各条件で設定した単孔吐出量(g/分)とから、次の式に基づき、紡糸速度を算出し、小数点以下第1位で四捨五入する
紡糸速度(m/分)=(10,000×単孔吐出量(g/分))/単繊維繊度(dtex)。
【0069】
また、前記の糸条を牽引する際に用いる気体の温度の範囲の下限について、好ましくは-10℃以上、より好ましくは-5℃以上とすることで、前記の糸条をより均一に冷却することができる。一方、気体の温度の範囲の上限について、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下とすることで、前記の糸条をより十分に冷却することができる。
【0070】
さらに、本発明の人工皮革の製造方法では、前記の気体を吹き付ける際の気体の流速Vq(m/分)と紡糸速度Vs(m/分)との比Vq/Vsが3×10-3以上30×10-3以下とすることが好ましい。Vq/Vsの範囲の下限について、好ましくは3×10-3以上、より好ましくは4×10-3以上、さらに好ましくは5×10-3以上とすることで、前記の糸条を十分に冷却することができる。一方、Vq/Vsの範囲の上限は、好ましくは30×10-3以下、より好ましくは20×10-3以下、さらに好ましくは10×10-3以下とすることで、糸条をより安定して牽引することができる。
【0071】
前記の方法によって、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維からなるウエブを得ることができる。そして、さらに、本発明の人工皮革の製造方法においては、例えば、次の工程を少なくとも1つ行うことにより、製造することが好ましい。
(1)前記のウエブにさらに補強繊維からなる層を有させ、シート基体を得る工程
(2)前記のウエブ、もしくは、前記のシート基体を乾熱処理、湿熱処理、または、その両者によって収縮させた熱処理シート基体を得る工程。
(3)ポリウレタンを前記のウエブ、前記のシート基体、もしくは、前記の熱処理シート基体に付与してポリウレタン付きシート基体を得る工程
(4)前記のウエブ、前記のシート基体、前記の熱処理シート基体、あるいは、前記のポリウレタン付きシート基体のいずれかに、その少なくとも一方の表面に対して起毛処理を行って表面に立毛を形成し、立毛シートを形成する工程
(5)前記のウエブ、前記のシート基体、前記の熱処理シート基体、前記のポリウレタン付きシート基体、あるいは、前記の立毛シートのいずれかに、後加工を行う工程。
【0072】
なお、上記の(1)~(5)のいずれの工程も行わない場合には、前記のウエブが人工皮革となるものである。そして、(1)のみ行った場合には、前記のシート基体が人工皮革となるものである。また、(2)のみ、あるいは、(1)および(2)を行った場合には、前記の熱処理シート基体が人工皮革となるものである。そして、(3)のみ、あるいは、(1)と(3)、(2)と(3)、(1)~(3)を行った場合には、前記のポリウレタン付きシート基体が人工皮革となるものである。(4)の工程に係る立毛シートも同様である。(5)の工程を経て得られるものが人工皮革となることは言うまでもない。以下に、各工程の詳細について、さらに述べる。
【0073】
まず、前記のシート基体を得る工程において、前記のウエブにさらに補強繊維からなる層を有させ、シート基体を得る工程を行うことも好ましい。ここで言う補強繊維からなる層は、前記の平均単繊維径が5.0μm以上25.0μm以下の補強繊維からなる層のことを指し、この補強繊維からなる層を有させることで、より高い物性を有する人工皮革とすることができる。前記の補強繊維からなる層を有させるための手段としては、例えば、この層と前記のウエブとを熱で融着させたり、接着剤で接着させたり、あるいは、ニードルパンチやウォータージェットパンチなどを用いて補強繊維とウエブを構成する繊維とを交絡させるなどの方法をとることができる。特に、前記のウエブを構成する2.0μm~7.0μmの繊維と補強繊維とを交絡させやすいことから、ウォータージェットパンチを用いて交絡させることがより好ましい態様である。
【0074】
本発明において、得られる人工皮革をより緻密なものとするため、前記のウエブ、もしくは、前記のシート基体を乾熱処理、湿熱処理、または、その両者によって収縮させた熱処理シート基体を得る工程を行うことも好ましい。乾熱処理の具体例としては、熱風を吹き付けることが挙げられる。また、湿熱処理の具体例としては、加熱した水に浸漬させることが挙げられる。また、これらの処理を行ったシートに対し、さらに熱プレス処理を行うことも好ましい。このようにすることで、乾熱処理や湿熱処理を行ったシートをさらに緻密なものとするとともに、シートの形態を固定化したり表面を平滑化したりすることもできる。
【0075】
次に、前記のポリウレタン付きシート基体を得る工程において、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドなどの溶媒にポリウレタン、もしくは、その前駆体を溶解させる方法(溶剤法)が好ましく用いられるが、ポリウレタン、もしくはその前駆体、すなわち、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤とを少なくとも含む混合物を水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液を用いる方法(水分散法)も好ましく用いられる。前者の溶剤法の場合には、例えば、前記のポリウレタン溶液に、前記のウエブなどを浸漬させるなどした後乾燥することによってポリウレタンの前駆体を実質的に凝固し固化させる方法、もしくは、前記のポリウレタン溶液に、前記のウエブなどを浸漬させるなどした後、ポリウレタンが非溶解性である別の溶剤に浸漬することにより凝固させる方法をとることができる。一方、後者の水分散法の場合には、例えば、前記の水分散型ポリウレタン液に、前記のウエブなどを浸漬させるなどした後、乾燥する乾式凝固法等で凝固させることができる。乾燥にあたっては、ウエブ、シート基体、あるいはポリウレタン付きシート基体の性能が損なわない程度の温度で加熱することができる。
【0076】
そして、前記の立毛シートを形成する工程において、前記のウエブなどの少なくとも一方の表面に対して行われる起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて行うことができる。中でも、サンドペーパーを用いることにより、均一かつ緻密な立毛を形成することができる。特に、前記のウエブなどの表面に均一な立毛を形成させるためには、起毛処理における研削負荷を小さくすることが好ましい。研削負荷を小さくするための具体的手段としては、例えば、バフ段数を3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手を、JIS R 6010:2000「研磨布紙用研磨材の粒度」に規定された120番(P120)~600番(P600)の範囲とすることがより好ましい態様である。
【0077】
最後に、後加工を行う工程において、前記のウエブなどに対し、例えば、染料、顔料、柔軟剤、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤および耐候剤等の機能性薬剤を含有させることができる。
【0078】
例えば、前記のウエブなどに対し、染色を施すこともできる。染色を施す具体的手段としては、前記のウエブなどを染色すると同時に揉み効果を加えて柔軟化できることから、液流染色機が好ましく用いられる。染色を施す際の染色液の温度は、100℃以上150℃以下の温度が好ましい。染料は、酸性染料、含金染料および反応染料などが好ましく用いられる。また、染色した後に還元洗浄を行うこともできる。
【0079】
また、染色の均一性を向上させる目的で、染色を施す際に染色助剤を用いることも好ましい。さらに、シリコーンなどの柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤および耐光剤などの仕上げ処理を行うこともできる。この仕上げ処理は、染色後でも染色と同浴でも行うことができる。
【0080】
あるいは、各種の穴あけ加工(パーフォレーション加工)、エンボス加工、ステッチ加工、箔加工、樹脂プリント加工、インクジェットプリント加工、レーザーエッチング加工、ラミネート加工なども後加工の一つとして併せて行うこともできる。
【0081】
[乗物用内装材、座席]
本発明の人工皮革は、高強力で形態安定性に優れるため、衣料用途、雑貨用途、靴鞄用途、乗物用内装材、座席、CDカーテン、DVDカーテン、研磨パッド用基材、各種研磨布およびワイピングクロスなどの工業資材用途をはじめ、あらゆる用途に好適に用いられる。
【0082】
中でも、前記の人工皮革を用いてなる、乗物用内装材は、特に環境負荷を低減させつつ、優美で高級感のある外観と機械的物性とを高いレベルで両立させられるという特性を生かすことができるため、好ましい。このような乗物用内装材としては、例えば、自動車のステアリングホイール、ホーンスイッチ、シフトノブ、ダッシュボード、インストルメントパネル、グローブボックス、フロアカーペット、フロアマット、天井内張、サンバイザー、アシストグリップなどの少なくとも一部が前記の人工皮革であることがより好ましい。なお、本発明における「乗物」とは、自動車、航空機、鉄道用車両、船舶をはじめ、馬車やかご、人力車などの乗物、さらには、ショベルカー、クレーン車、トラクター、コンバインなど、人間や動物を乗せて移動することのできる、一部の産業機械、建設機械、農業機械も含むものである。
【0083】
あるいは、前記の人工皮革を用いてなる座席も、特に環境負荷を低減させつつ、優美で高級感のある外観と機械的物性とを高いレベルで両立させられるという特性を生かすことができるため、同様に好ましい。このような座席としては、ヘッドレスト、座面、アームレスト、フットレストなどの表皮材の少なくとも一部、例えば、着席者と直接接触する部分が、前記の人工皮革であることがより好ましい。もちろん、本発明の座席は、自動車、航空機、鉄道車両、船舶などの乗物用だけでなく、家庭用、事務所用、店舗用の座席とすることもできる。なお、本発明で言う「座席」は、椅子、長椅子、ソファー、カウチ、スツール、座椅子なども含むものである。
【実施例
【0084】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0085】
[測定方法]
(1)繊維、補強繊維の平均単繊維径(μm)
人工皮革に主な構成要素として含まれている繊維の平均単繊維径と補強繊維の平均単繊維径(μm)は、株式会社キーエンス製走査型電子顕微鏡「VHX-D510型」を用い、前記の方法により測定、算出した。
【0086】
(2)人工皮革における繊維の分散状態
人工皮革において、繊維が単繊維として分散しているか否かの評価は、人工皮革の表面上の1cm×1cmの領域を無作為に選び、株式会社キーエンス製走査型電子顕微鏡「VHX-D510型」を用い、前記の方法により評価した。
【0087】
(3)人工皮革の融解熱量ΔHm(J/g)、融解ピークの半値幅(℃)
人工皮革の融解熱量ΔHm(J/g)は、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製示査走査熱量計「Q20」を用い、前記の方法により測定、算出した。
【0088】
(4)人工皮革におけるポリウレタンの含有割合(質量%)
人工皮革におけるポリウレタンの含有割合は、前記の方法により測定、算出した。
【0089】
(5)繊維の断面の異形度(単位なし)
人工皮革に主な構成要素として含まれている繊維の異形度は、株式会社キーエンス製走査型電子顕微鏡「VHX-D510型」を用い、前記の方法により測定、算出した。
【0090】
(6)紡糸速度Vs(m/分)
人工皮革を製造する際の導入口以下の領域における紡糸速度(m/分)は、前記の方法により測定、算出した。
【0091】
(7)外観評価
10cm×10cmの人工皮革サンプルを、パネラー4人が外観のムラの発現の程度について、以下の5段階の基準で評価した。続いて、各パネラーの判断した点数を合計して人工皮革の外観評価とし、3点以上を合格とした。人工皮革の外観評価は好ましくは3.5点以上であり、より好ましくは4点以上である。
【0092】
5点:ムラなし(繊維の粗密がなく、かつ、表面の色味の濃淡もない。)
4点:ムラ良好(5点と3点との中間)
3点:ムラ普通(部分的に繊維の粗密や色味の濃淡が、少ないものの見られる。)
2点:ムラ不良(3点と1点との中間)
1点:ムラ劣(全面的に繊維の粗密や色味の濃淡が、多く見られる。)
(8)触感評価
10cm×10cmの人工皮革サンプルを、パネラー4人が触感について、以下の5段階の基準で評価した。続いて、各パネラーの判断した点数を合計して人工皮革の触感評価とし、3点以上を合格とした。人工皮革の触感は好ましくは3.5点以上であり、より好ましくは4点以上である。
【0093】
5点:触感:優(凹凸がなく、かつ、スムーズな触り心地)
4点:触感:良好(5点と3点との中間)
3点:触感:普通(部分的に凹凸やスムーズでない箇所が、少ないものの感じられる)
2点:触感:不良(3点と1点との中間)
1点:触感:劣(全面的に凹凸やスムーズでない箇所が、多く感じられる)
(9)耐摩耗性評価
マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製の「Model406」を、標準摩擦布として、同社の「ABRASTIVE CLOTH SM25」を用い、直径38mmの円形の人工皮革に12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数20,000回の条件で摩擦させた後の試料の外観を目視で観察し、評価した。評価基準は、直径38mmの円形の人工皮革の外観が摩擦前と全く変化が無かったものから、毛玉の形成数が4つ以下のものを「合格」、5つ以上のものを「不合格」とした。
【0094】
[実施例1]
(ウエブの形成)
溶融したポリエチレンテレフタレート(ホモポリマー、固有粘度:0.65、酸化チタンを0.5wt%含む、表1および表2中ならびに以降、「PET」と表記した)を、口金の吐出孔の孔径が0.10mmで真円の吐出孔から単孔吐出量0.10g/分で吐出させた。その後、該ポリエチレンテレフタレートに対し、前記の吐出孔から50mm~500mmの領域において、15℃の空気を30.0m/分の流速で吹き付けながら糸条を形成し、導入口以下の領域において、紡糸速度が4,600m/分となるように、前記の糸条を15℃の空気で牽引した。このとき、Vq=30.0(m/分)、Vs=4,600(m/分)であるから、Vq/Vs=6.5×10-3である。また、吐出孔と導入口との間の距離は700mmであった。そして、牽引した前記のポリエチレンテレフタレートを吸引下にあるネットコンベア上に捕集することで、平均単繊維径が4.5μm、断面の異形度が1.00の繊維からなるウエブを得た。なお、繊維は単繊維として分散している状態であった。
【0095】
(シート基体の形成)
次いで、得られたウエブを2層用意し、その間に、さらに補強繊維からなる層として、平均単繊維径が15.0μmの織物(補強繊維を構成する繊維の種類:ポリエチレンテレフタレートからなるフィラメントヤーン(表1中、「FY」と表記した)、撚数:2,500T/m)を1層挿入し、積層シートを得た。得られた積層シートに対し、ウォータージェットパンチ(表1中、「WJP」と表記した)にて、10MPaの圧力で、表裏交互に4回処理を行うことでシート基体を得た。
【0096】
(ポリウレタン付きシート基体の形成)
そして、ポリエーテルジオールとジイソシアネートからなる水分散型ポリウレタン液(表1中および以降、「A液」と表記した)を調製し、この水分散型ポリウレタン液に、前記のウエブなどを浸漬させた後、120℃で乾燥する乾式凝固法によってポリウレタンを付与して、ポリウレタンの含有割合が23質量%のポリウレタン付きシート基体を得た。
【0097】
(立毛シートの形成、後加工を行う工程)
さらに、このポリウレタン付きシート基体の一方の表面に対して、サンドペーパーで研削することによって起毛処理を行って表面に立毛を形成し、立毛シートを形成した後、後加工として、液流染色機で分散染料を用いて130℃で染色を施すことで、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0098】
[実施例2]
(シート基体の形成)において、織物を積層しなかったこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例3]
(ポリウレタン付きシート基体の形成)において、ポリウレタンの含有割合を23質量%から3質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0100】
[実施例4]
(ウエブの形成)において、繊維の断面の異形度が1.00であったところ、3.00となるように吐出孔の形状を変更した以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例5]
(ウエブの形成)において、酸化チタンを含まないポリエチレンテレフタレート(表2中、「PET2」と表記した)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0102】
[実施例6]
(ウエブの形成)において、単孔吐出量0.09g/分で吐出させ、紡糸速度が4,000m/分となるように、紡糸をおこなったこと以外は実施例5と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0103】
[実施例7]
(ウエブの形成)において、単孔吐出量0.07g/分で吐出させ、紡糸速度が3,100m/分となるように、紡糸をおこなったこと以外は実施例5と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0104】
[実施例8]
(ウエブの形成)において、単孔吐出量0.13g/分で吐出させ、紡糸速度が6,000m/分となるように、紡糸をおこなったこと以外は実施例5と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0105】
[実施例9]
(ウエブの形成)において、口金の吐出孔の孔径が0.20mmで真円の吐出孔から吐出させ、紡糸をおこなったこと以外は実施例5と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0106】
[実施例10]
(ウエブの形成)において、口金の吐出孔の孔径が0.30mmで真円の吐出孔から吐出させ、紡糸をおこなったこと以外は実施例5と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0107】
[実施例11]
(ウエブの形成)において、吐出孔から5mm~40mmの領域において空気を吹き付けながら糸条を形成し、紡糸をおこなったこと以外は実施例5と同様にして、人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0108】
[実施例12]
(ウエブの形成)において、吐出孔から150mm~600mmの領域において空気を吹き付けながら糸条を形成し、紡糸をおこなったこと以外は実施例5と同様にして、人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0109】
[実施例13]
(ウエブの形成)において、吐出孔と導入口との間の距離を1,200mmとして、紡糸をおこなったこと以外は実施例5と同様にして、人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0110】
[実施例14]
(シート基体の形成)において、25MPaの圧力でウォータージェットパンチを行い、ポリウレタンを付与しなかったこと以外は実施例5と同様にして、ポリウレタンを構成要素として含まない人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0111】
[実施例15]
(立毛シートの形成、後加工を行う工程)において、起毛処理を行わなかったこと以外は実施例5と同様にして、いずれの表面にも立毛を有しない人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0112】
[実施例16]
(立毛シートの形成、後加工を行う工程)
実施例5と同様にして得たポリウレタン付きシート基体を、90℃に加熱したプレスロールに通して平滑化処理を行った。続いて、エステル系の2液型ポリウレタン溶液をグラビアコーターで10g/m塗布し、乾燥した後、160℃で皮革様のシボを有するエンボスロールで型押しを行った後、後加工として、液流染色機で分散染料を用いて130℃で染色を施すことで、いずれの表面にも立毛を有しない人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0113】
[比較例1]
(ウエブの形成)において、実施例1と同一のポリエチレンテレフタレートを用い、該ポリエチレンテレフタレートに対し、吐出孔から50mm~500mmの領域において、15℃の空気を30.0m/分の流速で吹き付けながら糸条を形成し、紡糸速度1,600m/分でローラー牽引した後、延伸倍率2.9倍の条件にて、平均単繊維径が4.5μm、断面の異形度が1.00の繊維を製造し、この繊維を、繊維長が5mmとなるように切断した後、水中に分散させ、抄造法で表層用と裏層用のウエブとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。なお、繊維は単繊維として分散している状態であった。結果を表1に示す。
【0114】
[比較例2]
(ウエブの形成)
島成分としてポリエチレンテレフタレートを、海成分としてポリスチレン(表1中、「PS」と表記した)を、それぞれ押出機で溶融し、島成分と海成分との質量比が80:20となるように計量して、海成分中に均一な断面積の島成分が16個分布した断面を形成しうるような紡糸口金の吐出孔から、単孔吐出量2.00g/分で海島型複合繊維を吐出させた。その後、溶融させた島成分、海成分に対して、吐出孔から100~500mmの領域において15℃以下の空気を0.5m/秒の速度で吹き付け、紡糸速度が4,600m/分となるように15℃の空気で牽引した。このとき、このとき、Vq=30.0(m/分)、Vs=4,600(m/分)であるから、Vq/Vs=6.5×10-3である。また、吐出孔と導入口との間の距離が700mmであった。そして、牽引した前記の複合繊維を吸引下にあるネットコンベア上に捕集して複合繊維ウエブを得た。なお、繊維は単繊維として分散している状態にはなく、束状の繊維が多く見られた。
【0115】
(シート基体の形成、脱海シートの形成)
ここで、単繊維径が15μmのスクリムの表裏面に複合繊維ウエブをそれぞれ積層し、ニードルパンチ処理を行ってシート基体を得た。得られたシート基体をトリクロロエチレン中に浸漬して海成分を溶解除去し、平均単繊維径が4.5μm、断面の異形度が1.00の繊維からなる不織布が絡合してなる脱海シートを得た。
【0116】
(ポリウレタン付きシート基体の形成)
このようにして得られた脱海シートに、実施例1で用いた水分散型ポリウレタン液(A液)をディップ/ニップ法で3質量%のポリウレタン樹脂を付着せしめた。
【0117】
(立毛シートの形成、後加工を行う工程)
実施例1と同様の方法で起毛処理、後加工(染色)を行って、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0118】
[比較例3]
(ウエブの形成)において、実施例1と同様のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、320℃、0.10MPaの熱風によるメルトブローで、平均単繊維径が4.5μm、断面の異形度が1.00の繊維のウエブを得た。これを、表層用と裏層用のウエブとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。なお、繊維は単繊維として分散している状態であった。結果を表2に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
表1に示すとおり、実施例1~4については、外観、品位および物性の指標として用いた耐摩耗性を高いレベルで兼ね備えている。一方、比較例1および2については、外観やタッチの劣る結果であった。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示すとおり、実施例5~10については、外観、品位および物性の指標として用いた耐摩耗性を高いレベルで兼ね備えている。一方、比較例3については、外観やタッチ、耐摩耗性の劣る結果であった。
【0123】
【表3】
【0124】
表3に示すとおり、実施例11~16については、外観、品位および物性の指標として用いた耐摩耗性を高いレベルで兼ね備えている。
【符号の説明】
【0125】
1:吐出孔
2:気体の吹き付けを示す矢印
3:気体による牽引を示す矢印
4:吐出孔から気体を吹き付ける位置までの距離
5:吐出孔から導入口までの距離
6:ホッパー
7:押出機
8:ギアポンプ
9:口金
10:気体供給手段
11:糸条
12:牽引手段
13:ウエブ
14:搬送手段
【要約】
ポリエステル系樹脂からなり、平均単繊維径が2.0μm以上7.0μm以下の繊維を主な構成要素として含む人工皮革であって、前記繊維が長繊維であって、単繊維として分散しており、融解熱量ΔHmが10J/g以上100J/g以下であり、かつ、融解ピークの半値幅が9℃以上である、人工皮革。
優美で高級感のある外観と機械的物性とを高いレベルで両立する人工皮革を提供し、また、より環境負荷を低減させつつ、生産性も向上できる、人工皮革の製造方法を提供する。
図1