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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】樹脂組成物および電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20231219BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20231219BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20231219BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20231219BHJP
   H01B 9/00 20060101ALI20231219BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L53/02
C08L23/08
C08L23/16
H01B9/00 A
H01B7/02 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023541089
(86)(22)【出願日】2023-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2023000910
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2022091141
(32)【優先日】2022-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-075621(JP,A)
【文献】国際公開第2021/090578(WO,A1)
【文献】特開平02-170845(JP,A)
【文献】特開平03-168234(JP,A)
【文献】特開2004-107490(JP,A)
【文献】特開2014-025060(JP,A)
【文献】特開2012-119087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01B 7/02、9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルの絶縁層を構成する樹脂組成物であって、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、スチレン単位およびブテン単位を含むスチレン系樹脂を含み、
前記樹脂組成物は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
ブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記プロピレン系樹脂を含む海相と、前記低結晶性樹脂を含み透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する
樹脂組成物。
【請求項2】
電力ケーブルの絶縁層を構成する樹脂組成物であって、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、エチレン・1-ブテン共重合体を含み、
前記樹脂組成物は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
ブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記プロピレン系樹脂を含む海相と、前記低結晶性樹脂を含み透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する
樹脂組成物。
【請求項3】
電力ケーブルの絶縁層を構成する樹脂組成物であって、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、エチレン単位と、プロピレン単位、ブテン単位、ヘキセン単位およびオクテン単位のうち少なくともいずれか1つと、を含む共重合体を含み、
前記樹脂組成物は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
エチレン単位20質量%以上と、
を含み、
前記樹脂組成物の前記樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対するブテン単位の含有率は、7質量%未満であり、
前記プロピレン系樹脂を含む第1連続相と、前記低結晶性樹脂を含む第2連続相と、を含む共連続構造を有する
樹脂組成物。
【請求項4】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた絶縁層と、
を有し、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、スチレン単位およびブテン単位を含むスチレン系樹脂を含み、
前記絶縁層は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
ブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記絶縁層は、
前記プロピレン系樹脂を含む海相と、前記低結晶性樹脂を含み透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する
電力ケーブル。
【請求項5】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた絶縁層と、
を有し、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、エチレン・1-ブテン共重合体を含み、
前記絶縁層は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
ブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記絶縁層は、
前記プロピレン系樹脂を含む海相と、前記低結晶性樹脂を含み透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する
電力ケーブル。
【請求項6】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた絶縁層と、
を有し、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、エチレン単位と、プロピレン単位、ブテン単位、ヘキセン単位およびオクテン単位のうち少なくともいずれか1つと、を含む共重合体を含み、
前記絶縁層は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
エチレン単位20質量%以上と、
を含み、
前記絶縁層の前記樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対するブテン単位の含有率は、7質量%未満であり、
前記絶縁層は、
前記プロピレン系樹脂を含む第1連続相と、前記低結晶性樹脂を含む第2連続相と、を含む共連続構造を有する
電力ケーブル。
【請求項7】
透過電子顕微鏡により観察した前記共連続構造の任意の断面像において、前記第2連続相の両端間の長さは、5μm以上である
請求項6に記載の電力ケーブル。
【請求項8】
前記絶縁層は、金属またはアンバーの異物を体積含有率0.02%以下で含む
請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項9】
前記絶縁層は、金属またはアンバーの異物を体積含有率0.02%以下で含んだ状態で、27℃における交流破壊電界強度45kV/mm以上を示す
請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物および電力ケーブルに関する。
本出願は、2022年6月3日出願の日本国出願「特願2022-91141」に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレンは絶縁性に優れることから、電力ケーブルなどにおいて、絶縁層を構成する樹脂成分として広く用いられてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-69611号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様によれば、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、前記プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を有するか、或いは、
前記プロピレン単位が相対的に多い海相と、前記プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する
樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
図2図2は、透過電子顕微鏡によりサンプルA1-1を観察した断面図である。
図3図3は、透過電子顕微鏡によりサンプルA2-3を観察した模式的断面図である。
図4図4は、透過電子顕微鏡によりサンプルB1-2を観察した模式的断面図である。
図5図5は、透過電子顕微鏡によりサンプルB2-2を観察した模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
経年劣化した架橋ポリエチレンは、リサイクルできず、焼却するしかなかった。このため、環境への影響が懸念されていた。
【0007】
そこで、近年では、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレンを含む樹脂(以下、「プロピレン系樹脂」ともいう)が注目されている。プロピレン系樹脂は非架橋であっても、電力ケーブルとして求められる絶縁性を満たすことができる。すなわち、絶縁性とリサイクル性とを両立することができる。
【0008】
本開示の目的は、プロピレン系樹脂を含む絶縁層の絶縁性を向上させることができる技術を提供することである。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、プロピレン系樹脂を含む絶縁層の絶縁性を向上させることができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者の得た知見>
まず、発明者の得た知見について概略を説明する。
【0011】
プロピレン系樹脂の単体は、結晶量が多く、硬くなる傾向がある。
【0012】
そこで、発明者は、プロピレン系樹脂の結晶性を制御し、電力ケーブルの絶縁層の柔軟性を向上させるため、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合することを検討した。
【0013】
しかしながら、発明者は、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合した絶縁層中に、意図せずに金属またはアンバーの異物が混入した場合に、低結晶性樹脂の分散状態に依存して、絶縁性が低下する可能性があることを見出した。
【0014】
ここで、単一の樹脂成分を含む樹脂組成物中に、金属またはアンバーの異物が混入した場合では、これらの異物は、樹脂成分との密着が悪いため、異物と樹脂成分との間で急激な抵抗変化をもたらし、絶縁性を低下させる。また、異物が突起形状を有したりする場合、電界が集中しやすくなるため、絶縁性が低下しやすくなる。
【0015】
一方で、上述のように、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合した絶縁層中に、異物が混入した場合には、以下のように異物が取り込まれる。
【0016】
例えば、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合した絶縁層では、これらの樹脂相の間に界面が形成される。また、例えば、プロピレン系樹脂に対する低結晶性樹脂の相溶性、樹脂組成物の混合条件に応じて、相対的に少ない低結晶性樹脂の分散状態などが変化する。
【0017】
このような状態の絶縁層中に異物が混入すると、プロピレン系樹脂相と低結晶性樹脂相との間の界面に異物が取り込まれるか、或いは、低結晶性樹脂相に優先的に取り込まれる。後者の場合は、低結晶性樹脂がプロピレン系樹脂単体よりも多くの二重結合およびOH基などを含み、異物に対する分子間力が働きやすいためである。
【0018】
上述の界面における異物の取り込みが生じると、界面の異物が弱点となり、界面の異物において局所的な電界集中が生じうる。このため、絶縁層の絶縁性が低下する可能性がある。
【0019】
或いは、上述の低結晶性樹脂相における異物の取り込みが生じると、低結晶性樹脂自体が、結晶性のプロピレン系樹脂に比較して破壊値が低いため、低結晶性樹脂相の耐圧が、異物の存在に起因して更に低くなる。このため、低結晶性樹脂相の分散状態に依存して、絶縁層の絶縁性が低下する可能性がある。
【0020】
そこで、発明者は、上述の新規課題に対して鋭意検討した結果、絶縁層中の各モノマ単位の組成、および樹脂成分の混合条件を最適化することで、異物耐性が高い電力ケーブルを得ることに成功した。
【0021】
本開示は、発明者が見出した上述の知見に基づくものである。
【0022】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0023】
[1]本開示の一態様に係る樹脂組成物は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、前記プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を有するか、或いは、
前記プロピレン単位が相対的に多い海相と、前記プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む絶縁層の絶縁性を向上させることができる。
【0024】
[2]本開示の一態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた絶縁層と、
を有し、
前記絶縁層は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記絶縁層は、
前記プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、前記プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を有するか、或いは、
前記プロピレン単位が相対的に多い海相と、前記プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む絶縁層の絶縁性を向上させることができる。
【0025】
[3]上記[2]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記絶縁層中の前記ブテン単位の含有率は、7質量%未満であり、
前記絶縁層中の前記エチレン単位の含有率は、20質量%以上であり、
前記絶縁層は、前記プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、前記プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を有する。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む絶縁層の絶縁性を向上させることができる。
【0026】
[4]上記[3]に記載の電力ケーブルにおいて、
透過電子顕微鏡により観察した前記共連続構造の任意の断面像において、前記第2連続相の両端間の長さは、5μm以上である。
この構成によれば、異物が取り込まれたときの導電経路を長くすることができる。
【0027】
[5]上記[3]または[4]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、
エチレン単位と、プロピレン単位、ブテン単位、ヘキセン単位およびオクテン単位のうち少なくともいずれか1つと、を共重合した共重合体を含み、
前記共連続構造において、前記第1連続相が前記プロピレン系樹脂を含み、前記第2連続相が前記低結晶性樹脂を含む。
この構成によれば、上述の低結晶性樹脂を用いることで、良好な機械特性および良好な電気特性を得ることができる。
【0028】
[6]上記[2]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記絶縁層中の前記ブテン単位の含有率は、7質量%以上であり、
前記絶縁層は、前記プロピレン単位が相対的に多い海相と、前記プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む絶縁層の絶縁性を向上させることができる。
【0029】
[7]上記[6]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、
スチレン単位およびブテン単位を含むスチレン系樹脂か、或いは、
エチレン単位およびブテン単位を共重合した共重合体
を含み、
前記海島構造において、前記海相が前記プロピレン系樹脂を含み、前記島相が前記低結晶性樹脂を含む。
この構成によれば、上述の低結晶性樹脂を用いることで、良好な機械特性および良好な電気特性を得ることができる。
【0030】
[8]上記[2]から[7]のいずれか1項に記載の電力ケーブルにおいて、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、
エチレン単位およびブテン単位のうち少なくともいずれかと、プロピレン単位、ヘキセン単位、オクテン単位、イソプレン単位およびスチレン単位のうち少なくともいずれか1つと、を共重合した共重合体か、或いは、
エチレン単位およびブテン単位を共重合した共重合体
を含み、
前記共連続構造において、前記第1連続相が前記プロピレン系樹脂を含み、前記第2連続相が前記低結晶性樹脂を含むか、或いは、
前記海島構造において、前記海相が前記プロピレン系樹脂を含み、前記島相が前記低結晶性樹脂を含む。
この構成によれば、上述の低結晶性樹脂を用いることで、良好な機械特性および良好な電気特性を得ることができる。
【0031】
[9]上記[2]から[8]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記絶縁層は、金属またはアンバーの異物を体積含有率0.02%以下で含んだ状態で、27℃における交流破壊電界強度45kV/mm以上を示す。
この構成によれば、異物耐性が高い電力ケーブルを得ることができる。
【0032】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0033】
<本開示の一実施形態>
(1)樹脂組成物
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、後述する電力ケーブル10の絶縁層130を構成するものである。
【0034】
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、樹脂成分として、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂と、を含んでいる。ここでいう「樹脂成分」とは、樹脂組成物の主成分を構成する樹脂材料(ポリマ)のことを意味する。「主成分」とは、最も含有率が多い成分のことを意味する。
【0035】
プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合することで、プロピレン系樹脂の過剰な結晶成長を阻害することができ、絶縁層の柔軟性を向上させることができる。
【0036】
[プロピレン系樹脂]
本実施形態のプロピレン系樹脂は、絶縁層の主成分を構成し、少なくともプロピレン単位を含んでいる。プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、およびプロピレンランダム重合体(ランダムポリプロピレン)が挙げられる。
【0037】
なお、本実施形態の樹脂組成物を核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置により分析することで、プロピレン系樹脂に由来するモノマ単位として、少なくともプロピレン単位が検出される。例えば、プロピレン系樹脂がプロピレンランダム重合体である場合には、プロピレン単位とエチレン単位が検出され、低結晶性樹脂がプロピレン単独重合体である場合には、プロピレン単位が検出される。
【0038】
本実施形態では、プロピレン系樹脂としてのプロピレン系樹脂における立体規則性は、例えば、アイソタクチックである。プロピレン系樹脂は、チーグラーナッタ触媒で重合されたものであり、汎用的である。立体規則性がアイソタクチックであることで、プロピレン系樹脂と低結晶性の低結晶性樹脂とを混合した組成物において、融点の低下を抑制することができる。その結果、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0039】
なお、参考までに、他の立体規則性として、シンジオタクチック、アタクチックがあるが、いずれも、本実施形態のプロピレン系樹脂の立体規則性としては好ましくない。これらの立体規則性を有するプロピレン系樹脂では、所定の結晶構造が得られず、単体での融点が低くなる。また、当該プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合した組成物においては、プロピレン系樹脂の結晶が低結晶性樹脂に侵食され易い。このため、組成物の融点がプロピレン系樹脂単体での融点よりも低くなる。その結果、非架橋または微架橋での使用が困難となる。これらの理由から、シンジオタクチック、アタクチックは好ましくない。
【0040】
プロピレン系樹脂がプロピレンランダム重合体である場合には、プロピレン系樹脂は、上述のように、プロピレン単位とエチレン単位とを有する。プロピレンランダム重合体中のエチレン単位の含有率は、特に限定されないが、例えば、0.5質量%以上15質量%以下である。プロピレンランダム重合体中のエチレン単位の含有率を0.5質量%以下とすることで、球晶成長を抑制することができる。一方で、プロピレンランダム重合体中のエチレン単位の含有率を15質量%以下とすることで、融点の低下を抑制し、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0041】
[低結晶性樹脂]
本実施形態の低結晶性樹脂は、プロピレン系樹脂の結晶性を制御し、絶縁層に柔軟性を付与するよう構成されている。例えば、低結晶性樹脂は融点を有しないか、或いは、低結晶性樹脂の融点は100℃未満である。また、低結晶性樹脂の融解熱量は、例えば、50J/g以下であり、或いは30J/g以下であってもよい。なお、低結晶性樹脂は、柔軟性樹脂として考えてもよい。
【0042】
本実施形態の低結晶性樹脂は、例えば、エチレン単位およびブテン単位のうち少なくともいずれかを含む2つ以上のモノマ単位を含有している。具体的には、低結晶性樹脂は、例えば、エチレン単位およびブテン単位(ブチレン単位)のうち少なくともいずれかと、プロピレン単位、ヘキセン単位、オクテン単位、イソプレン単位およびスチレン単位のうち少なくともいずれか1つと、を共重合した共重合体を含んでいる。或いは、低結晶性樹脂は、例えば、エチレン単位およびブテン単位を共重合した共重合体(後述のエチレン・1-ブテン共重合体)を含んでいてもよい。本実施形態の樹脂組成物をNMR装置により分析することで、低結晶性樹脂に由来する各モノマ単位が検出される。
【0043】
なお、オレフィン系モノマ単位における炭素-炭素二重結合は、特に限定されるものではないが、例えば、α位にあってもよい。
【0044】
低結晶性樹脂は、例えば、25℃で固体である。この場合、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを均一に混ぜ合わせることが困難となる。これに対し、低結晶性樹脂が25℃で固体であることで、分子量の過剰な低下を抑制することができる。これにより、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを均一に混ぜ合わせることができる。
【0045】
上述の要件を満たす低結晶性樹脂としては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR:Ethylene Propylene Rubber)、または超低密度ポリエチレン(VLDPE: Very Low Density Poly Ethylene)などのエチレン系樹脂、スチレン系樹脂(スチレン含有樹脂)が挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
低結晶性樹脂は、例えば、プロピレン系樹脂であるプロピレン系樹脂との相溶性の観点から、プロピレン単位を含む共重合体であってもよい。プロピレン単位を含む共重合体としては、上記の中で、EPRが挙げられる。
【0047】
EPR中のエチレン単位の含有率は、特に限定されないが、例えば、20質量%以上であり、或いは40質量%以上であってもよく、或いは55質量%以上であってもよい。EPR中のエチレン単位の含有率が20質量%未満であると、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなる。このため、成形体中のEPRの含有率を少なくしても、成形体を柔軟化することができる。しかしながら、プロピレン系樹脂の結晶化を阻害する効果(「結晶化阻害効果」ともいう)が発現せず、球晶のマイクロクラックに起因して絶縁性が低下する可能性がある。これに対し、本実施形態では、EPR中のエチレン単位の含有率を20質量%以上とすることで、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなることを抑制することができる。これにより、EPRによる柔軟化効果を得つつ、EPRによる結晶化阻害効果を発現させることができる。その結果、絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、EPR中のエチレン単位の含有率を40質量%以上、或いは55質量%以上とすることで、結晶化阻害効果を安定的に発現させることができ、絶縁性の低下を安定的に抑制することができる。
【0048】
一方で、低結晶性樹脂は、例えば、プロピレン単位を含まない共重合体であってもよい。プロピレン単位を含まない共重合体としては、例えば、容易入手性の観点から、VLDPEであってもよい。なお、VLDPEの密度は、例えば、0.855g/cm以上0.890g/cm以下である。
【0049】
VLDPEとしては、例えば、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体が挙げられる。このように低結晶性樹脂としてプロピレン単位を含まない共重合体を添加することで、プロピレン系樹脂に対して低結晶性樹脂を所定量混合させつつ、完全相溶を抑制することができる。このようなプロピレン単位を含まない共重合体の含有率を所定量以上とすることで、結晶化阻害効果を発現させることができる。
【0050】
上述のEPRまたはVLDPEなどのエチレン系樹脂を用いることで、樹脂組成物中のエチレン単位の含有率を容易に増やすことができる。
【0051】
低結晶性樹脂は、例えば、上述のように、スチレン系樹脂であってもよい。スチレン系樹脂は、ハードセグメントとしてのスチレン単位と、ソフトセグメントとして、エチレン単位、プロピレン単位、ブテン単位およびイソプレン単位のうち少なくとも1つのモノマ単位と、を含む共重合体である。スチレン系樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマと言い換えることもできる。
【0052】
スチレン系樹脂が比較的柔軟なモノマ単位と比較的剛直なモノマ単位とを含むことで、成形性を向上させることができる。また、スチレン系樹脂に含まれる芳香環により電子をトラップし、安定的な共鳴構造を形成できる。これにより、絶縁層の絶縁性をより向上させることができる。
【0053】
プロピレン系樹脂との相溶性が良いモノマ単位(例えばブテン単位)を含むことで、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを均一に混合することができる。
【0054】
スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体(SIS)、水素化スチレンイソプレンスチレン共重合体、水素化スチレンブタジエンラバー、水素化スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブテンオレフィン結晶ブロック共重合体が挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
なお、ここでいう「水素化(Hydrogenated)」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブテンスチレンブロック共重合体(SEBS)と言い換えることができる。
【0056】
スチレン系樹脂のなかでも、芳香環を除く化学構造中に二重結合を含まない水素化材料が用いられてもよい。非水素化材料を用いた場合では、樹脂組成物の成形時などに、樹脂成分が熱劣化する可能性があり、得られる成形体の諸特性が低下する可能性がある。これに対し、水素化材料を用いることで、熱劣化の耐性を向上させることができる。これにより、成形体の諸特性をより高く維持させることができる。
【0057】
スチレン系樹脂のなかでも、スチレン単位およびブテン単位を含む樹脂が用いられてもよい。スチレン単位およびブテン単位を含む樹脂としては、SEBSまたはSBSが挙げられる。これらを用いることで、樹脂組成物中のブテン単位の含有率を容易に増やすことができる。
【0058】
スチレン系樹脂中のスチレン単位の含有率は、特に限定されないが、例えば、5質量%以上35質量%以下である。スチレン系樹脂中のスチレン単位の含有率を上記範囲内とすることで、材料が過剰に硬くなることを抑制することができる。これにより、プロピレン系樹脂とスチレン含有樹脂との分離および割れを抑制することができる。
【0059】
[非架橋性]
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、非架橋である。上述のように成形体を非架橋とすることで、樹脂組成物のリサイクル性を向上させることができる。
【0060】
[その他の添加剤]
樹脂組成物は、上述の樹脂成分のほかに、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、核剤、銅害防止剤、滑剤および着色剤を含んでいてもよい。なお、本実施形態では、組成を調整することで、核剤を加えても、核剤が欠陥となることを抑制することができる。
【0061】
(2)各モノマ単位の含有率、および低結晶性樹脂相の分散状態
発明者は、絶縁層の異物耐性を向上させるため、樹脂成分を構成するモノマ単位の最適な組成を見出した。
【0062】
図2図5を参照し、各モノマ単位の含有率に応じた絶縁層中の低結晶性樹脂相の分散状態について説明する。図2図5のそれぞれは、透過電子顕微鏡(TEM)により観察した絶縁層の任意の断面像を示している。図2図4における灰色領域、図5における点ハッチングの領域が、それぞれ、低結晶性樹脂相を示している。
【0063】
本実施形態では、樹脂組成物は、プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、を含んでいる。なお、樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率(質量パーセント濃度)を100質量%とする。上述のように、樹脂組成物をNMR装置により分析することで、各モノマ単位が検出される。
【0064】
本実施形態では、プロピレン単位の含有率を50質量%超とすることで、プロピレン系樹脂相を絶縁層の全体に亘って、連続相として形成することができる。これにより、絶縁層を非架橋としつつ、主成分としてのプロピレン系樹脂が有する絶縁性を確保することができる。一方で、プロピレン単位の含有率を80質量%以下とすることで、絶縁層中で低結晶性樹脂相を確保することができる。これにより、プロピレン系樹脂の過剰な結晶成長を抑制することができる。
【0065】
[参考例1:エチレン単位の含有率20質量%未満]
樹脂組成物がブテン単位を含まず、且つ、樹脂組成物がエチレン単位を20質量%未満で含む場合には、絶縁層中の低結晶性樹脂相の分散状態が、例えば、図4に示した状態となる。
【0066】
低結晶性樹脂がエチレン単位を含んでいると、プロピレン系樹脂との相溶性が悪いエチレン単位を含む低結晶性樹脂が、プロピレン系樹脂と分離する。しかしながら、この場合では、低結晶性樹脂相が少ないため、エチレン単位を含む低結晶性樹脂相が連続相とならず、低結晶性樹脂相が独立した大きな島相を形成する。このため、大きな島相としての低結晶性樹脂相中に異物が取り込まれる。異物が取り込まれた状態で独立した低結晶性樹脂相に電界が集中しうる。その結果、絶縁層の絶縁性が低下する可能性がある。
【0067】
[参考例2:ブテン単位の含有率7質量%未満]
或いは、樹脂組成物中のエチレン単位の含有率が20質量%未満であり、且つ、樹脂組成物がブテン単位を7質量%未満で含む場合には、絶縁層中の低結晶性樹脂相の分散状態が、例えば、図5に示した状態となる。なお、図5において、低結晶性樹脂層を点のハッチングで示したが、実際には個々の点が互いに接している。
【0068】
低結晶性樹脂がブテン単位を含んでいると、ブテン単位とプロピレン単位が混ざりやすい。このため、ブテン単位を含む低結晶性樹脂と、プロピレン系樹脂とが完全な非相溶とはならず、低結晶性樹脂とプロピレン系樹脂とがそれぞれで集まることもない。その結果、プロピレン系樹脂との相溶性が良いブテン単位を含む低結晶性樹脂相が、微小な島相を形成しうる。しかしながら、ブテン単位の含有率が7%未満である場合では、当該ブテン単位が少ないため、微小な島相としての低結晶性樹脂相の分散性が低下する。低結晶性樹脂相の分散性が低下すると、低結晶性樹脂相が凝集し、見かけ上、独立した大きな島相を形成する。このため、見かけ上の大きな島相となった低結晶性樹脂相中に異物が取り込まれる。その結果、上述と同じ要因によって、絶縁層の絶縁性が低下する可能性がある。
【0069】
[本実施形態1:エチレン単位の含有率20質量%以上]
これらに対し、本実施形態では、樹脂組成物中のブテン単位の含有率が7質量%未満である場合に、樹脂組成物中のエチレン単位の含有率を20質量%以上とし、後述の製造方法を適用することで、絶縁層中の低結晶性樹脂相の分散状態を、例えば、図2に示した状態とすることができる。なお、樹脂組成物中のブテン単位の含有率が7質量%未満である場合は、樹脂組成物がブテン単位を含まない場合を含んでいる。
【0070】
この場合の樹脂組成物は、例えば、エチレン単位と、プロピレン単位、ブテン単位、ヘキセン単位およびオクテン単位のうち少なくともいずれか1つと、を共重合した共重合体を、低結晶性樹脂として含んでいてもよい。具体的には、この場合の樹脂組成物は、例えば、EPRを低結晶性樹脂として含んでいてもよい。なお、樹脂組成物中のブテン単位の含有率が7質量%未満となるのであれば、樹脂組成物は、ブテン単位を含むVLDPE(エチレン・1-ブテン共重合体)、またはブテン単位を含むスチレン系樹脂を、少量含んでいてもよい。
【0071】
この場合では、プロピレン系樹脂との相溶性が悪いエチレン単位を含む低結晶性樹脂相が、プロピレン系樹脂と分離したとしても、当該低結晶性樹脂により、連続相を形成することができる。すなわち、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とにより共連続構造を形成し、低結晶性樹脂相が独立した大きな島相の形成を抑制することができる。
【0072】
具体的には、図2に示すように、第1連続相CP1と第2連続相CP2とを含む共連続構造を形成することができる。第1連続相CP1は、プロピレン系樹脂を含み、プロピレン単位が第2連続相CP2よりも相対的に多い。第2連続相CP2は、低結晶性樹脂を含み、プロピレン単位が第1連続相CP1よりも相対的に少ない。
【0073】
共連続構造では、第1連続相CP1および第2連続相CP2のそれぞれが、長く連続している。具体的には、TEMにより観察した共連続構造の任意の断面像において、第2連続相CP2の両端間の長さは、例えば、5μm以上である。ここでいう「第2連続相CP2の両端間の長さ」とは、第2連続相CP2の第1端から最も遠い第2端までを直線で結んだ長さのことをいう。なお、第1連続相CP1の両端間の長さも、第2連続相CP2のそれと同様である。第2連続相CP2の両端間の長さを5μm以上とすることで、第2連続相CP2中に異物が取り込まれるか、或いは、第1連続相CP1と第2連続相CP2との界面に異物が取り込まれたときの、導電経路を長くすることができる。
【0074】
なお、第2連続相CP2の両端間の長さの最大値、および第1連続相CP1の両端間の長さの最大値は特に限定されたものではないが、これらの相は絶縁層の全体にわたって延在していてもよい。
【0075】
共連続構造では、5μm以下の幅Wを有する帯状の第2連続相CP2が蛇行している。ここでいう「第2連続相CP2の幅W」とは、第2連続相CP2の外縁における任意の第1点から、第2連続相CPのみを挟んで第1点と反対の外縁において最も近い第2点までの距離のことをいう。なお、第1連続相CP1も、第2連続相CP2と同様に蛇行している。このように5μm以下の幅Wを有する帯状の第2連続相CP2を蛇行させることで、複雑な共連続構造を形成することができる。
【0076】
共連続構造では、蛇行した第2連続相CP2の外縁の全長が長くなっている。具体的には、TEMにより観察した共連続構造の任意の断面像において、第2連続相CP2の外縁の全長は、例えば、5μm以上であり、10μm以上であってもよい。なお、第1連続相CP1の外縁の全長も、第2連続相CP2のそれと同様である。第2連続相CP2の外縁の全長を5μm以上とすることで、第2連続相CP2中に異物が取り込まれるか、或いは、第1連続相CP1と第2連続相CP2との界面に異物が取り込まれたときの、絶縁距離(沿面距離)を長くすることができる。
【0077】
このような共連続構造を形成することで、樹脂組成物中に異物が取り込まれた場合であっても、絶縁層の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0078】
[本実施形態2:ブテン単位の含有率7質量%以上]
或いは、本実施形態では、樹脂組成物中のエチレン単位の含有率に関わらず、樹脂組成物中のブテン単位の含有率を7質量%以上とし、後述の製造方法を適用することで、絶縁層中の低結晶性樹脂相の分散状態を、例えば、図3に示した状態とすることができる。
【0079】
この場合の樹脂組成物は、例えば、スチレン単位およびブテン単位を含むスチレン系樹脂を、低結晶性樹脂として含んでいてもよい。具体的には、この場合の樹脂組成物は、例えば、SEBSおよびSBSなどのうち少なくともいずれかを低結晶性樹脂として含んでいてもよい。なお、樹脂組成物中のブテン単位の含有率が7質量%以上となるのであれば、樹脂組成物は、エチレン単位を含むエチレン系樹脂を含んでいてもよい。
【0080】
或いは、この場合の樹脂組成物は、スチレン系樹脂以外のブチレン単位を含む樹脂を含んでいてもよい。具体的には、この場合の樹脂組成物は、例えば、エチレン単位およびブテン単位を共重合した共重合体(エチレン・1-ブテン共重合体)を含んでいてもよい。なお、樹脂組成物中のブテン単位の含有率が7質量%以上となるのであれば、樹脂組成物は、その他のエチレン系樹脂を含んでいてもよい。
【0081】
この場合では、プロピレン系樹脂との相溶性が良いブテン単位を含む低結晶性樹脂相によって形成された微小な島相を、絶縁層全体に亘って均一に分散させることができる。島相を均一に分散させることで、島相を互いに離間させつつ、隣り合う島相間の距離を短くすることができる。すなわち、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とにより、見かけ上で共連続構造に似た構造を形成し、低結晶性樹脂相が凝集した大きな島相の形成を抑制することができる。
【0082】
具体的には、図3に示すように、海相SPと微小な島相IPとを含む海島構造を形成することができる。海相SPは、プロピレン系樹脂を含み、プロピレン単位が島相IPよりも相対的に多い。微小な島相IPは、低結晶性樹脂を含み、プロピレン単位が海相SPよりも相対的に少ない。
【0083】
TEMにより観察した海島構造の断面像において、島相IPの最大長(島相IPの両端の長さの最大値)は、例えば、600nm以下である。ここでいう「島相IPの最大長」とは、最も大きな島相IPの両端間の長さの最大値か、或いは、複数の島相IPが連続した凝集部における両端間を直線で結んだ長さの最大値を意味している。島相IPの最大長を600nm以下とし、すなわち、個々の島相を小さくすることで、微小な島相を、絶縁層全体に亘って均一に分散させることができる。
【0084】
なお、島相IPの最大長の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、1nmである。
【0085】
TEMにより観察した海島構造の任意の断面像において、隣り合う島相IPの間の平均距離は、例えば、200nm以下であり、或いは100nm以下であってもよい。ここでいう「隣り合う島相IPの間の平均距離」は、例えば、最も近くで隣り合う島相IPを任意に100ペア抽出し、100ペアの島相IP間の距離を平均化することにより求められる。隣り合う島相IPの間の平均距離を200nm以下とすることで、見かけ上で共連続構造に似た構造を形成することができる。
【0086】
なお、隣り合う島相IPの間の平均距離は、島相IPが近づきすぎて見かけ上で大きな島相となることを抑制するため、例えば、10nm以上である。
【0087】
このように、見かけ上で共連続構造に似た構造を形成することで、樹脂組成物中に異物が取り込まれた場合であっても、絶縁層の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0088】
[エチレン単位またはブテン単位の上限値]
樹脂組成物中のエチレン単位の含有率は、例えば、50質量%未満であり、或いは40質量%以下であってもよい。エチレン単位の含有率が50質量%以上であると、エチレン単位が主成分となり、絶縁層130を非架橋として使用する場合に、充分なケーブル諸特性を得ることができない。これに対し、エチレン単位の含有率を50質量%未満とすることで、絶縁層130を非架橋として使用する場合に、充分なケーブル諸特性を得ることができる。
【0089】
樹脂組成物中のブテン単位の含有率は、例えば、30質量%未満であり、或いは25質量%以下であってもよい。ブテン単位の含有率が30質量%以上であると、樹脂組成物の融点が過剰に低下してしまい、充分なケーブル諸特性を得ることができない。これに対し、ブテン単位の含有率を30質量%未満とすることで、樹脂組成物の融点の過剰な低下を抑制し、充分なケーブル諸特性を得ることができる。
【0090】
[スチレン単位の含有率]
樹脂組成物がスチレン系樹脂を含む場合には、樹脂組成物中のスチレン単位の含有率は、例えば、1質量%以上20質量%以下であってもよい。スチレン単位の含有率を1質量%以上とすることで、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂との間の界面に異物が集中することを抑制することができる。一方で、スチレン単位の含有率を20質量%以下とすることで、樹脂組成物が過剰に硬くなることを抑制することができる。また、低結晶性樹脂中に異物が集中することを抑制することができる。
【0091】
(3)電力ケーブル
次に、図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。
【0092】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、陸上(管路内)、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、交流に用いられてもよいし、或いは直流に用いられてもよい。
【0093】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0094】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0095】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体のエチレン系共重合体、オレフィン系エラストマ、上述の低結晶性樹脂のうち少なくともいずれかと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
【0096】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられている。絶縁層130は、例えば、上述のように、樹脂組成物により押出成形されている。
【0097】
本実施形態では、絶縁層130は、後述のように、異物耐性が高いことで、金属またはアンバーの異物を体積含有率0.02%以下で含んでいてもよい。ここでいう「異物の体積含有率」は、絶縁層130の全体積に対する異物の体積の比率である。
【0098】
この場合において、絶縁層130に含まれていてもよい異物の大きさは、JEC3408(2015年)に準拠して、250μm以下である。
【0099】
なお、絶縁層130は、高い絶縁性を得る観点では、金属またはアンバーの異物を含んでいなくてもよい。
【0100】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
【0101】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0102】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0103】
なお、本実施形態の電力ケーブル10は、水中ケーブルまたは水底ケーブルであれば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層や、鉄線鎧装を有していてもよい。
【0104】
一方で、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、遮蔽層150よりも外側に遮水層を有していなくてもよい。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されていてもよい。
【0105】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される交流電圧は、例えば20kV以上である。
【0106】
(4)ケーブル特性
本実施形態では、電力ケーブル10は、絶縁層130が上述の共連続構造または海島構造を有していることで、絶縁層130に異物が取り込まれた状態であっても、高い絶縁性を有している。
【0107】
具体的には、絶縁層130は、例えば、金属またはアンバーの異物を体積含有率0.02%以下で含んだ状態で、27℃における交流破壊電界強度45kV/mm以上を示す。
【0108】
なお、ここでいう「交流破壊電界強度」とは、常温(27℃)において、0.2mm厚の試料に対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電するサイクルを繰り返す条件下で印加したときの、破壊電界強度である。このとき、交流破壊電界強度を測定する試料に異物が含まれているものとする。
【0109】
(5)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0110】
本実施形態の電力ケーブルの製造方法は、例えば、導体準備工程S120と、樹脂組成物準備工程S140と、ケーブルコア形成工程300と、遮蔽層形成工程S400と、シース形成工程S500と、を有している。
【0111】
(S120:導体準備工程)
複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0112】
(S140:樹脂組成物準備工程)
一方で、プロピレン系樹脂および低結晶性樹脂を含む樹脂組成物を混合する。
【0113】
このとき、樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、を含むように、樹脂組成物を混合する。
【0114】
このとき、本実施形態では、例えば、二軸混合機を用い、樹脂組成物を混合する。二軸混合機を用いることで、ニーダよりも高いせん断力で樹脂組成物を混合することができる。
【0115】
このとき、本実施形態では、例えば、220℃未満の温度にて、樹脂組成物を混合する。220℃以上の温度で樹脂組成物を混合すると、高い温度に起因して樹脂組成物の粘度が低下する。このため、樹脂組成物に所定のせん断力を印加することが困難となる。これに対し、本実施形態では、混合温度を220℃未満とすることで、樹脂組成物の粘度を高く維持することができる。これにより、樹脂組成物に高いせん断力を印加することができる。その結果、上述した共連続構造または海島構造を安定的に形成することができる。
【0116】
このとき、本実施形態では、例えば、二軸混合機におけるニーディングディスクの設置条件を調整し、二軸混合機における回転数を調整する。ここで、二軸混合機におけるせん断力は、例えば、ニーディングディスクを変更したり、回転数を変更したりすることで変化し得る。例えば、ニーディングディスクの設置個所が5か所超であり、各回転数が200rpm以上であると、混合時において温度が上昇し易い。これに対し、本実施形態では、例えば、ニーディングディスクの設置個所数を2か所以上5か所以下とし、各回転数を20rpm以上200rpm未満とする。これにより、混合時における220℃以上への温度上昇を抑制することができる。温度上昇を抑制することで、樹脂組成物の粘度の低下を抑制することができる。その結果、二軸混合機における高いせん断力を維持することができる。
【0117】
このとき、本実施形態では、例えば、二軸混合機のシリンダ内への樹脂組成物の充填率(シリンダ容積に対する樹脂組成物の体積の比率)を高くし、シリンダ中の樹脂組成物の滞留時間を確保する。ここで、通常、二軸混合機のシリンダ内への樹脂組成物の充填率を20%以下とすることで、設備の負荷(スクリューに印加されるトルク)を下げ、吐出量を確保している。これに対し、本実施形態では、二軸混合機のシリンダ内への樹脂組成物の充填率を20%超とすることで、シリンダ中の樹脂組成物の滞留時間を充分に確保することができる。これにより、上述した共連続構造または海島構造を安定的に形成することができる。
【0118】
以上のように、本実施形態では、樹脂組成物中のブテン単位の含有率が7質量%未満である場合に、樹脂組成物中のエチレン単位の含有率を20質量%以上とし、且つ、上述の新規混合方法を適用することで、樹脂組成物において、プロピレン単位が相対的に多い第1連続相CP1と、プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相CP2と、を含む共連続構造を形成することができる。
【0119】
或いは、本実施形態では、樹脂組成物中のエチレン単位の含有率に関わらず、樹脂組成物中のブテン単位の含有率を7質量%以上とし、且つ、上述の新規混合方法を適用することで、プロピレン単位が相対的に多い海相SPと、プロピレン単位が相対的に少なくTEMにより観察した断面像での最大長が600nm以下である島相IPと、を含む海島構造を形成することができる。
【0120】
樹脂組成物を混合したら、当該樹脂組成物を押出機により造粒する。これにより、絶縁層130を構成することとなるペレット状の樹脂組成物が形成される。なお、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
【0121】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程))
導体準備工程S120および樹脂組成物準備工程S140およびが完了したら、上述の樹脂組成物を用い、導体110の外周を被覆するように絶縁層130を形成する。
【0122】
このとき、本実施形態では、上述の樹脂組成物を用いて絶縁層130を押出成形することで、絶縁層130においても、上述の共連続構造または海島構造が形成される。
【0123】
このとき、本実施形態では、例えば、3層同時押出機を用いて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に形成する。
【0124】
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、内部半導電層用組成物を投入する。
【0125】
絶縁層130を形成する押出機Bに、上記したペレット状の樹脂組成物を投入する。なお、押出機Bの設定温度は、例えば、所望の融点よりも10℃以上50℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節する。
【0126】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用組成物を投入する。
【0127】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
【0128】
その後、押出材を、例えば、水により冷却する。
【0129】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0130】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0131】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0132】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0133】
(6)本実施形態のまとめ
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0134】
(a)本実施形態では、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合し、樹脂組成物中のブテン単位の含有率が7質量%未満としつつ、樹脂組成物中のエチレン単位の含有率を20質量%以上とする。さらに、樹脂組成物を上述の新規混合方法により混合する。これにより、プロピレン系樹脂との相溶性が悪いエチレン単位を含む低結晶性樹脂相が、プロピレン系樹脂と分離したとしても、当該低結晶性樹脂により、連続相を形成することができる。その結果、樹脂組成物において、プロピレン単位が相対的に多い第1連続相CP1と、プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相CP2と、を含む共連続構造を形成することができる。
【0135】
このような共連続構造を形成することで、樹脂組成物中に異物が取り込まれた場合に、低結晶性樹脂を含む長く延在した第2連続相CP2に取り込むか、或いは、複雑に入り組んだ第1連続相CP1と第2連続相CP2との界面に取り込むことができる。これにより、異物を含む低結晶性樹脂相または界面の導電経路を長くし、絶縁距離を長くすることができる。その結果、異物混入に起因した絶縁層の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0136】
(b)或いは、本実施形態では、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合し、樹脂組成物中のエチレン単位の含有率に関わらず、樹脂組成物中のブテン単位の含有率を7質量%以上とする。さらに、樹脂組成物を上述の新規混合方法により混合する。これにより、プロピレン系樹脂との相溶性が良いブテン単位を含む低結晶性樹脂相によって形成された微小な島相を、絶縁層全体に亘って均一に分散させることができる。島相を均一に分散させることで、島相を互いに離間させつつ、隣り合う島相間の距離を短くすることができる。その結果、プロピレン単位が相対的に多い海相SPと、プロピレン単位が相対的に少なくTEMにより観察した断面像での最大長が600nm以下である島相IPと、を含む海島構造を形成することができる。すなわち、見かけ上で共連続構造に似た構造を形成することができる。
【0137】
このように、見かけ上で共連続構造に似た構造を形成することで、樹脂組成物中に異物が取り込まれた場合に、微小な島相の分散群中に異物を取り込むことができる。これにより、異物を含む微小な島相の分散群で形成される導電経路を長くし、絶縁距離を長くすることができる。その結果、異物混入に起因した絶縁層の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0138】
(a)および(b)で述べたように、本実施形態によれば、プロピレン系樹脂を含む絶縁層130の絶縁性を向上させることが可能となる。
【0139】
(c)本実施形態では、電力ケーブル10は、絶縁層130が上述の共連続構造または海島構造を有していることで、絶縁層130に異物が取り込まれた状態であっても、絶縁層130の絶縁性の低下を抑制することができる。具体的には、絶縁層130は、金属またはアンバーの異物を体積含有率0.02%以下で含んだ状態で、27℃における交流破壊電界強度45kV/mm以上を示す。このように、本実施形態では、異物耐性が高い電力ケーブル10を得ることが可能となる。
【0140】
異物耐性が高い電力ケーブル10を得ることで、ケーブル製造後の耐圧試験での絶縁破壊だけでなく、実使用時での絶縁破壊を安定的に抑制することが可能となる。
【0141】
(d)本実施形態では、低結晶性樹脂は、エチレン単位およびブテン単位のうち少なくともいずれかと、プロピレン単位、ヘキセン単位、オクテン単位、イソプレン単位およびスチレン単位のうち少なくともいずれか1つと、を共重合した共重合体か、或いは、エチレン単位およびブテン単位を共重合した共重合体を含んでいる。これにより、良好な機械特性および良好な電気特性を得ることができる。
【0142】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0143】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していなくてもよい場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミまたは銅からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、当該遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0144】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が陸上、水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、いわゆる架空電線(架空絶縁電線)として構成されていてもよい。
【0145】
上述の実施形態では、ケーブルコア形成工程S300において3層同時押出を行ったが、1層ずつ押出してもよい。
【実施例
【0146】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0147】
(1)評価サンプルの作製
本実施例では、以下の手順により、電力ケーブルの絶縁層を模したサンプルを作製した。本実施例では、金属の異物が混入した状態の樹脂組成物の絶縁性を評価するため、金属の異物として金属粉末を樹脂組成物に意図的に添加し、サンプルを作製した。
【0148】
(1-1)材料
各サンプルの樹脂成分として、以下の材料を準備した。
【0149】
[プロピレン系樹脂]
・プロピレンランダム重合体(r-PP):
立体規則性:アイソタクチック
エチレン単位含有率:10質量%、
メルトフローレート:1.3g/10min、
密度:0.9g/ml、
融点:145℃、
融解熱量:100J/g
【0150】
[低結晶性樹脂]
・エチレンプロピレンゴム(EPR):
エチレン単位含有率:52質量%、
ムーニー粘度ML(1+4)100℃:40、
融点:なし、
融解熱量:なし
【0151】
・超低密度ポリエチレン(VLDPE):
エチレン-1-ブテン共重合体
1-ブテン単位含有率:40質量%、
融点:95℃、
融解熱量:10J/g、
密度:0.88g/ml、
ショアA硬度:66
【0152】
・水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SEBS):
スチレン単位含有率:12質量%、
硬度:A42、
メルトフローレート:4.5g/10min(230℃、2.16kg)、
融点:なし、
融解熱量:なし
【0153】
・スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS):
スチレン単位含有率:25質量%、
硬度:A75、
メルトフローレート:3.5g/10min(230℃、2.16kg)、
融点:なし、
融解熱量:なし
【0154】
なお、金属粉末としては、銅粉末を用いた。銅材を金属やすりで削ることで銅粉末を得て、当該銅粉末を目開き200μmのふるいで分別した。これにより、銅粉末の直径を200μm以下とした。
【0155】
(1-2)樹脂組成物の調製
上述した材料を用い、各サンプルの樹脂組成物を調製した。
【0156】
[サンプルA1-1、A1-2、A2-1、A2-2、A2-3、A3-1、A3-2]
サンプルA1-1、A1-2、A2-1、A2-2、A2-3、A3-1、A3-2において、各モノマ単位の含有率が以下の表1~3に示した値となるように、r-PPと、EPR、VLDPE、SEBSおよびSBSのうちのいずれかと、を混合した。このとき、二軸混合機を用い、200℃の温度で、樹脂を混合した。ニーディングディスクの設置個所を3か所とし、各回転数を100rpmとし、シリンダ内における樹脂組成物の充填率を50%とした。なお、当該方法を、以下で「新規混合方法」ともいう。さらに、このとき、混合材中に、上述の銅粉末を体積比率0.02%で添加した。
【0157】
[サンプルB1-1]
サンプルB1-1において、各モノマ単位の含有率および混合方法が異なる点を除いて、サンプルA1-1と同様に樹脂を混合した。サンプルB1-1では、ニーダを用い、220℃の温度で、樹脂を混合した。
【0158】
[サンプルB1-2]
サンプルB1-2において、各モノマ単位の含有率が異なる点を除いて、サンプルA1-1と同様に樹脂を混合した。
【0159】
[サンプルB2-1]
サンプルB2-1において、各モノマ単位の含有率および混合方法が異なる点を除いて、サンプルA2-1と同様に樹脂を混合した。サンプルB2-1では、サンプルB1-1と同様に、ニーダを用い、220℃の温度で、樹脂を混合した。
【0160】
[サンプルB2-2]
サンプルB2-2において、各モノマ単位の含有率が異なる点を除いて、サンプルA2-1と同様に樹脂を混合した。
【0161】
(1-3)評価用シートの作製
次に、調製した各サンプルの樹脂組成物を、200℃でプレス成形し、加圧下で水冷により徐冷することによって、厚さ0.4mmのシート状の評価用シートを作製した。なお、シートの作製では、直径200μm以下の銅粉末がシート中央に配置されるように、樹脂組成物を押出成形した。
【0162】
(2)評価
[NMR]
オルトクロロベンゼンに上述の各サンプルを溶解させ、130℃の温度環境下にて、日本電子社製NMR装置を用い、分析を行った。H-NMRおよび13C-NMRから得られるピーク面積比から、モノマ単位の組成比を算出した。
【0163】
[TEM断面観察]
上述の各サンプルにおいて重金属染色を行い、超薄切片法により断面加工を実施した。その後、TEMにより、加速電圧100kVにて上述の各サンプルの断面を観察した。
【0164】
TEMにより観察したサンプルの断面像において、相構造が、プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を満たす場合には、A1(良好)として評価した。或いは、当該断面の相構造が、プロピレン単位が相対的に多い海相と、プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を満たす場合には、A2(良好)として評価した。一方で、当該断面の相構造がA1およびA2の構造のいずれも満たさない場合には、B(不良)として評価した。
【0165】
[交流破壊試験]
常温(25℃)において、各サンプルのシートに対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電するサイクルを繰り返す条件下で、交流電圧を印加した。シートが絶縁破壊したときの電界強度を測定した。その結果、交流破壊電界強度が45kV/mm以上である場合を良好とし、交流破壊電界強度が45kV/mm未満である場合を不良として評価した。
【0166】
(3)結果
以下の表1、図2図5を参照し、各サンプルの評価を行った結果を説明する。
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
【表3】
【0170】
上述したNMR分析の結果、各サンプルが、表1~3に示した各モノマ単位の含有率を満たすことを確認した。以下、各サンプルのその他の評価結果について説明する。
【0171】
[サンプルB1-1]
サンプルB1-1では、プロピレン単位の含有率が50質量%超であり、且つ、エチレン単位の含有率が20質量%以上であったが、220℃の温度でニーダにより樹脂を混合した。
【0172】
サンプルB1-1のTEM断面像では、図4に類似した相構造が観察された。低結晶性樹脂相が連続相とならず、低結晶性樹脂相が独立した大きな島相を形成していた。大きな島相の両端間の長さの最大値(島相の最大長)は、2.8μmであった。そのため、サンプルB1-1は、A1の共連続構造およびA2の海島構造の要件を満たしていなかった。その結果、サンプルB1-1の交流破壊電界強度は、45kV/mm未満であった。
【0173】
サンプルB1-1では、混合時のせん断力が不足し、樹脂組成物が充分に混合されなかった。このため、共連続構造が形成されなかった。その結果、異物が取り込まれた状態で独立した低結晶性樹脂相に電界が集中し、絶縁層の絶縁性が低下したと考えられる。
【0174】
[サンプルB1-2]
サンプルB1-2では、樹脂組成物がブテン単位を含まず、エチレン単位の含有率が20質量%未満であった。
【0175】
サンプルB1-2のTEM断面像では、図4に示した相構造が観察された。サンプルB1-1と同様に、低結晶性樹脂相が連続相とならず、低結晶性樹脂相が独立した大きな島相を形成していた。大きな島相の両端間の長さの最大値は、1.2μmであった。そのため、サンプルB1-2は、A1の共連続構造およびA2の海島構造の要件を満たしていなかった。その結果、サンプルB1-2の交流破壊電界強度は、45kV/mm未満であった。
【0176】
サンプルB1-2では、低結晶性樹脂相が少なかったため、共連続構造が形成されなかった。このため、サンプルB1-1と同様に、絶縁層の絶縁性が低下したと考えられる。
【0177】
[サンプルB2-1]
サンプルB2-1では、プロピレン単位の含有率が50質量%超であり、且つ、ブテン
単位の含有率が7質量%以上であったが、220℃の温度でニーダにより樹脂を混合した。
【0178】
サンプルB2-1のTEM断面像では、図5に類似した相構造が観察された。低結晶性樹脂相が微小な島相を形成していたが、微小な島相が凝集し、大きな島相を形成していた。大きな島相の両端間の長さの最大値は、800nm程度であった。そのため、サンプルB2-1は、A1の共連続構造およびA2の海島構造の要件を満たしていなかった。その結果、サンプルB2-1の交流破壊電界強度は、45kV/mm未満であった。
【0179】
サンプルB2-1では、混合時のせん断力が不足し、樹脂組成物が充分に混合されなかった。このため、微小な島相が充分に分散されなかった。その結果、異物が取り込まれた状態の見かけ上の大きな島相に電界が集中し、絶縁層の絶縁性が低下したと考えられる。
【0180】
[サンプルB2-2]
サンプルB2-2では、エチレン単位の含有量が20質量%未満であり、ブテン単位の含有率が7質量%未満であった。
【0181】
サンプルB2-2のTEM断面像では、図5に示した相構造が観察された。サンプルB2-1と同様に、微小な島相が凝集し、大きな島相を形成していた。大きな島相の両端間の長さの最大値は、1.4μm程度であった。そのため、サンプルB2-2は、A1の共連続構造およびA2の海島構造の要件を満たしていなかった。その結果、サンプルB1-2の交流破壊電界強度は、45kV/mm未満であった。
【0182】
サンプルB2-2では、プロピレン系樹脂との相溶性がよいブテン単位が少なかったため、微小な島相としての低結晶性樹脂相の分散性が低下した。このため、サンプルB2-1と同様に、絶縁層の絶縁性が低下したと考えられる。
【0183】
[サンプルA1-1およびA1-2]
これに対し、サンプルA1-1およびA1-2では、プロピレン単位の含有率が50質量%超であり、ブテン単位の含有率が7質量%未満であり、且つ、エチレン単位の含有率が20質量%以上であった。また、上述の新規混合方法を適用した。
【0184】
サンプルA1-1およびA1-2のTEM断面像では、それぞれ、図2に示した相構造、および、図2に類似した相構造が観察された。すなわち、第1連続相および第2連続相のそれぞれが長く連続していた。5μm以下の幅を有する帯状の第2連続相は、ほぼ視野内全面に亘って蛇行して延在していた。第2連続相の両端間の長さは、短く見積もっても10μm以上であった。第2連続相の外縁の全長は、短く見積もっても20μm以上であった。以上により、サンプルA1-1およびA1-2は、A1の共連続構造の要件を満たしていた。その結果、サンプルA1-1およびA1-2の交流破壊電界強度は、45kV/mm以上であった。
【0185】
サンプルA1-1およびA1-2では、ブテン単位の含有率が7質量%未満としつつ、エチレン単位の含有率を20質量%以上とし、且つ、上述の新規混合方法を適用することにより、共連続構造を形成することができた。これにより、異物を含む低結晶性樹脂相または界面の導電経路を長くすることができた。その結果、サンプルA1-1およびA1-2では、異物混入に起因した絶縁層の絶縁性の低下を抑制することができることを確認した。
【0186】
[サンプルA2-1、A2-2、A2-3、A3-1およびA3-2]
一方で、サンプルA2-1、A2-2、A2-3、A3-1およびA3-2では、プロピレン単位の含有率が50質量%超であり、且つ、ブテン単位の含有率が7質量%以上であった。また、上述の新規混合方法を適用した。
【0187】
サンプルA2-1、A2-2、A2-3、A3-1およびA3-2のTEM断面像では、図3に示した相構造、または、図3に類似した相構造が観察された。すなわち、海相において、微小な島相が均一に分散していた。微小な島相の凝集部を1つの大きな島相とみなした場合であっても、当該島相の最大長は、500nm程度であった。隣り合う島相の間の平均距離は、50nm程度であった。以上により、サンプルA2-1、A2-2、A2-3、A3-1およびA3-2は、A2の海島構造の要件を満たしていた。その結果、サンプルA2-1、A2-2、A2-3、A3-1およびA3-2の交流破壊電界強度は、45kV/mm以上であった。
【0188】
サンプルA2-1、A2-2、A2-3、A3-1およびA3-2では、ブテン単位の含有率を7質量%以上とし、且つ、上述の新規混合方法を適用することにより、微小な島相が均一に分散した海島構造を形成することができ、見かけ上で共連続構造に似た構造を形成することができた。これにより、異物を含む微小な島相の分散群で形成される導電経路を長くすることができた。その結果、サンプルA2-1、A2-2、A2-3、A3-1およびA3-2では、異物混入に起因した絶縁層の絶縁性の低下を抑制することができることを確認した。
【0189】
<付記>
以下、本開示の態様を付記する。
【0190】
(付記1)
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、前記プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を有するか、或いは、
前記プロピレン単位が相対的に多い海相と、前記プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する
樹脂組成物。
【0191】
(付記2)
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた絶縁層と、
を有し、
前記絶縁層は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、
プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、
エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、
を含み、
前記絶縁層は、
前記プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、前記プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を有するか、或いは、
前記プロピレン単位が相対的に多い海相と、前記プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する
電力ケーブル。
【0192】
(付記3)
前記絶縁層中の前記ブテン単位の含有率は、7質量%未満であり、
前記絶縁層中の前記エチレン単位の含有率は、20質量%以上であり、
前記絶縁層は、前記プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、前記プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を有する
付記2に記載の電力ケーブル。
【0193】
(付記4)
透過電子顕微鏡により観察した前記共連続構造の任意の断面像において、前記第2連続相の両端間の長さは、5μm以上である
付記3に記載の電力ケーブル。
【0194】
(付記5)
透過電子顕微鏡により観察した前記共連続構造の任意の断面像において、5μm以下の幅を有する帯状の第2連続相が蛇行している
付記3または付記4に記載の電力ケーブル。
【0195】
(付記6)
透過電子顕微鏡により観察した前記共連続構造の任意の断面像において、前記第2連続相の外縁の全長は、5μm以上である
付記3から付記5のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0196】
(付記7)
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、
エチレン単位と、プロピレン単位、ブテン単位、ヘキセン単位およびオクテン単位のうち少なくともいずれか1つと、を共重合した共重合体を含み、
前記共連続構造において、前記第1連続相が前記プロピレン系樹脂を含み、前記第2連続相が前記低結晶性樹脂を含む
付記3から付記6のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0197】
(付記8)
前記絶縁層中の前記ブテン単位の含有率は、7質量%以上であり、
前記絶縁層は、前記プロピレン単位が相対的に多い海相と、前記プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する
付記2に記載の電力ケーブル。
【0198】
(付記9)
透過電子顕微鏡により観察した前記海島構造の任意の断面像において、隣り合う前記島相の間の平均距離は、200nm以下である
付記8に記載の電力ケーブル。
【0199】
(付記10)
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、
スチレン単位およびブテン単位を含むスチレン系樹脂か、或いは、
エチレン単位およびブテン単位を共重合した共重合体
を含み、
前記海島構造において、前記海相が前記プロピレン系樹脂を含み、前記島相が前記低結晶性樹脂を含む
付記8または付記9に記載の電力ケーブル。
【0200】
(付記11)
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含むプロピレン系樹脂と、
融点を有しないか、或いは、融点が100℃以下である低結晶性樹脂と、
を有し、
前記低結晶性樹脂は、
エチレン単位およびブテン単位のうち少なくともいずれかと、プロピレン単位、ヘキセン単位、オクテン単位、イソプレン単位およびスチレン単位のうち少なくともいずれか1つと、を共重合した共重合体か、或いは、
エチレン単位およびブテン単位を共重合した共重合体
を含み、
前記共連続構造において、前記第1連続相が前記プロピレン系樹脂を含み、前記第2連続相が前記低結晶性樹脂を含むか、或いは、
前記海島構造において、前記海相が前記プロピレン系樹脂を含み、前記島相が前記低結晶性樹脂を含む
付記2から付記10のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0201】
(付記12)
前記プロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチックである
付記7、付記10または付記11に記載の電力ケーブル。
【0202】
(付記13)
前記絶縁層は、金属またはアンバーの異物を体積含有率0.02%以下で含んだ状態で、27℃における交流破壊電界強度45kV/mm以上を示す
付記2から付記12のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0203】
(付記14)
樹脂組成物を準備する工程と、
導体の外周を覆うように、前記樹脂組成物を含む絶縁層を形成する工程と、
を有し、
前記樹脂組成物を準備する工程は、
樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、を含むよう、前記樹脂組成物を混合し、
前記樹脂組成物において、
前記プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、前記プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を形成するか、或いは、
前記プロピレン単位が相対的に多い海相と、前記プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を形成する
電力ケーブルの製造方法。
【符号の説明】
【0204】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース
【要約】
樹脂組成物は、樹脂成分中のモノマ単位の合計含有率100質量%に対して、プロピレン単位50質量%超80質量%以下と、エチレン単位20質量%以上か、或いはブテン単位7質量%以上と、を含み、プロピレン単位が相対的に多い第1連続相と、プロピレン単位が相対的に少ない第2連続相と、を含む共連続構造を有するか、或いは、プロピレン単位が相対的に多い海相と、プロピレン単位が相対的に少なく透過電子顕微鏡により観察した断面像での最大長が600nm以下である島相と、を含む海島構造を有する。
図1
図2
図3
図4
図5