(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 8/00 20060101AFI20231219BHJP
C08G 8/20 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08G8/00 B
C08G8/20 A
(21)【出願番号】P 2023556763
(86)(22)【出願日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2023019654
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2022090308
(32)【優先日】2022-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】村井 威俊
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/249899(WO,A1)
【文献】特許第6588433(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類、水およびリグニン類を含む、第一の混合物を得る工程であって、
前記フェノール類と、前記水との比が、フェノール類:水の質量比で、1:0.03~1:1.5である、工程と、
前記第一の混合物を蒸留することにより、前記第一の混合物から前記水を減じる工程と、
前記
減水後の第一の混合物を、pH7以下で、70℃~120℃の温度で加熱して、前記リグニン類を前記フェノール類および前記水に溶解させて、第二の混合物を得る工程と、
前記第二の混合物に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る工程と、
前記第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、前記リグニン類、前記フェノール類、および前記アルデヒド類を前記塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第一の混合物を得る前記工程は、
水およびリグニン類からなる含水リグニン類を準備する工程と、
前記含水リグニン類と前記フェノール類とを混合して、第一の混合物を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項
1に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
前記リグニン類の重量平均分子量は、2,000以上100,000以下である、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項
1に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第三の混合物を得る前記工程は、前記第二の混合物に、フェノール化合物および/または植物油をさらに添加する工程を含み、
リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る前記工程は、前記第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、前記フェノール化合物および/または植物油、前記リグニン類、前記フェノール類、および前記アルデヒド類を、前記塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第二の混合物に、フェノール化合物、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る前記工程は、
前記第二の混合物に、前記フェノール化合物を混合し、その後加熱することにより、前記フェノール化合物および/または植物油を前記フェノール類および前記水に溶解して混合溶液を得る工程と、
前記混合溶液に、前記塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整する工程と、
前記pHが調整された混合溶液に、前記アルデヒド類を混合して、前記第三の混合物を得る工程と、を含む、
リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記フェノール化合物は、アルキルフェノール類を含む、請求項
4に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記植物油は、カシューオイル、ひまし油、大豆油、桐油、亜麻仁油、タンニン、ピロガロール、およびトール油から選択される少なくとも1つを含む、請求項
4に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項8】
フェノール類、水およびリグニン類を含む、第一の混合物を得る工程であって、
前記フェノール類と、前記水との比が、フェノール類:水の質量比で、1:0.03~1:1.5である、工程と、
前記第一の混合物を、pH7以下で、70℃~120℃の温度で加熱して、前記リグニン類を前記フェノール類および前記水に溶解させて、第二の混合物を得る工程と、
前記第二の混合物を得る際に、または得た後に、強酸を加えて加熱して、前記リグニン類と前記フェノール類とを反応させて、フェノール化リグニン類を含む反応混合物を得、前記反応混合物に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る工程と、
前記第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、前記フェノール化リグニン類および前記アルデヒド類を前記塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項
8に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第二の混合物を得る前記工程の後、かつ第三の混合物を得る前記工程の前に、
前記第二の混合物を蒸留することにより、前記第二の混合物から前記水を減じる工程をさらに含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項
8に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第三の混合物を得る前記工程は、前記第二の混合物を得る際に、または得た後に、強酸を加えて加熱して、前記リグニン類と前記フェノール類とを反応させて、フェノール化リグニン類を含む第三の混合物を得る工程と、前記第三の混合物を蒸留して脱水し、アルコール類またはケトン類で溶媒和する工程と、前記アルコール類またはケトン類を含む溶液に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、熱硬化性樹脂のなかでも耐熱性、機械的特性、成形性、コスト等種々の点において優れており、成形材料、積層板等様々な用途に使用されている。ところで、フェノール樹脂は、石油を原料として製造される。このため、フェノール樹脂の製造は、二酸化炭素の排出による地球温暖化を招くおそれがある。また、石油は、枯渇しつつある資源であり、フェノール樹脂の今後の安定的供給という点で大きな問題となっている。
【0003】
かかる環境問題、安定供給の問題を解決するため、近年、石油由来製品の代替品としてバイオマスをフェノール樹脂製品等に転換することが求められている。この要求に対応するため、フェノール樹脂の一部を植物由来の樹脂、すなわちリグニンで置換したリグニン変性フェノール樹脂が研究されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、リグニン変性フェノール樹脂の合成方法として、a)フェノール、クレゾール、レゾルシノール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物を含有する水性組成物にリグニンを溶解する工程と、b)リグニンの溶解した組成物をアルカリと反応させて、リグニンをアルカリ化する工程と、c)工程b)において形成された組成物を、アルデヒド類と反応させる工程とを、所定の温度、および所定のpHの条件下で実施することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が検討したところ、上記特許文献1に記載のリグニン変性フェノール樹脂の製造方法は、収率の点で改善の余地があることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、製造条件を調整することにより、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を高収率で得られるという発明者の知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
本発明によれば、以下に示されるリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法が提供される。
[1] フェノール類、水およびリグニン類を含む、第一の混合物を得る工程であって、
前記フェノール類と、前記水との比が、フェノール類:水の質量比で、1:0.03~1:1.5である、工程と、
前記第一の混合物を、pH7以下で、70℃~120℃の温度で加熱して、前記リグニン類を前記フェノール類および前記水に溶解させて、第二の混合物を得る工程と、
前記第二の混合物に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る工程と、
前記第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、前記リグニン類、前記フェノール類、および前記アルデヒド類を前記塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[2] 項目[1]に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第一の混合物を得る前記工程は、
水およびリグニン類からなる含水リグニン類を準備する工程と、
前記含水リグニン類と前記フェノール類とを混合して、第一の混合物を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[3] 項目[1]または[2]に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第一の混合物を得る前記工程の後、かつ第二の混合物を得る前記工程の前に、
前記第一の混合物を蒸留することにより、前記第一の混合物から前記水を減じる工程をさらに含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[4] 項目[1]~[3]のいずれかに記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
前記リグニン類の重量平均分子量は、2,000以上100,000以下である、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[5] 項目[1]~[4]のいずれかに記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第三の混合物を得る前記工程は、前記第二の混合物に、フェノール化合物および/または植物油をさらに添加する工程を含み、
リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る前記工程は、前記第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、前記フェノール化合物および/または植物油、前記リグニン類、前記フェノール類、および前記アルデヒド類を、前記塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[6] 項目[5]に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第二の混合物に、フェノール化合物、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る前記工程は、
前記第二の混合物に、前記フェノール化合物を混合し、その後加熱することにより、前記フェノール化合物および/または植物油を前記フェノール類および前記水に溶解して混合溶液を得る工程と、
前記混合溶液に、前記塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整する工程と、
前記pHが調整された混合溶液に、前記アルデヒド類を混合して、前記第三の混合物を得る工程と、を含む、
リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[7] 前記フェノール化合物は、アルキルフェノール類を含む、項目[5]または[6]に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[8] 前記植物油は、カシューオイル、ひまし油、大豆油、桐油、亜麻仁油、タンニン、ピロガロール、およびトール油から選択される少なくとも1つを含む、項目[5]~[7]のいずれかに記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[9] フェノール類、水およびリグニン類を含む、第一の混合物を得る工程であって、
前記フェノール類と、前記水との比が、フェノール類:水の質量比で、1:0.03~1:1.5である、工程と、
前記第一の混合物を、pH7以下で、70℃~120℃の温度で加熱して、前記リグニン類を前記フェノール類および前記水に溶解させて、第二の混合物を得る工程と、
前記第二の混合物を得る際に、または得た後に、強酸を加えて加熱して、前記リグニン類と前記フェノール類とを反応させて、フェノール化リグニン類を含む第三の混合物を得る工程と、
前記第三の混合物に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第四の混合物を得る工程と、
前記第四の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、前記フェノール化リグニン類および前記アルデヒド類を前記塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[10] 項目[9]に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第二の混合物を得る前記工程の後、かつ第三の混合物を得る前記工程の前に、
前記第二の混合物を蒸留することにより、前記第二の混合物から前記水を減じる工程をさらに含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
[11] 項目[9]または[10]に記載のリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
第三の混合物を得る前記工程は、前記第二の混合物を得る際に、または得た後に、強酸を加えて加熱して、前記リグニン類と前記フェノール類とを反応させて、フェノール化リグニン類を含む第三の混合物を得る工程と、前記第三の混合物を蒸留して脱水し、アルコール類またはケトン類で溶媒和する工程と、前記アルコール類またはケトン類を含む溶液に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、収率が向上されたリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態にしたがうリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法は、以下の(工程a)~(工程d)を含む。
(工程a)フェノール類と、水と、リグニン類とを混合して、第一の混合物を得る工程。
(工程b)上記(工程a)で得られた第一の混合物を、pH7以下で、70℃~120℃の温度で加熱して、リグニン類をフェノール類および水に溶解させて、第二の混合物を得る工程。
(工程c)上記(工程b)で得られた第二の混合物に、アルデヒド類および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る工程。
(工程d)上記(工程c)で得られた第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、この第三の混合物中に含まれるリグニン類およびフェノール類と、アルデヒド類とを、塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程。
以下に各工程について詳述する。
【0011】
(工程a)
本実施形態の方法における(工程a)では、フェノール類と、水と、リグニン類とを含む第一の混合物を準備する。
上記(工程a)で得られる第一の混合物において、フェノール類と水との比は、フェノール類:水の質量比で、1:0.03~1:1.5である。
上記(工程a)におけるフェノール類と、水と、リグニン類とを含む第一の混合物は、(a1)それぞれ別個に準備した、フェノール類、水、およびリグニン類を容器中に投入して混合することにより、(a2)まずフェノール類と水とを混合してフェノール類/水混合溶媒を得、次いで、この混合溶媒にリグニン類を混合することにより、(a3)まずフェノール類とリグニン類とを混合した混合物を得、次いで、この混合物を水と混合することにより、または(a4)水とリグニン類とからなる含水リグニン類を準備し、次いで、この含水リグニン類をフェノール類に混合することにより、得ることができる。ここで、上記(a1)~(a3)の手段におけるリグニン類は、固体、分散液、溶液のいずれの形態であってもよい。また上記(a4)の手段における含水リグニンは、固体の形態であっても、水溶液の形態であってもよい。
【0012】
上記(工程a)において用いられるフェノール類および水は、得られる第一の混合物に含まれるフェノール類と水との比が、フェノール類:水(質量比)が1:0.03~1:1.5となる量で用いられる。第一の混合物におけるフェノール類と水との比は、フェノール類:水(質量比)で、好ましくは、1:0.1~1:1.0であり、より好ましくは、1:0.2~1:0.6である。第一の混合物に含まれるフェノール類と水との割合を上記範囲とすることにより、リグニン類はフェノール類および水に容易に分散して、溶解し得、結果として、後の(工程d)におけるリグニン類、アルデヒド類との反応効率を向上させることができる。
ここで、第一の混合物に含まれる水の量は、リグニン類に含まれる水と溶媒として使用する水とを合わせた量である。
【0013】
(工程a)において、リグニン類とフェノール類とは、リグニン類:フェノール類の質量比が、例えば、1:10~2:1となる量で使用され、好ましくは、1:4~4:3となる量で使用される。
【0014】
上記(工程a)で用いられるフェノール類は、溶媒としてだけでなく、レゾール型フェノール樹脂の原料モノマーとして働く。また、リグニン類は、フェノール類に対して易溶解性であり、pH7以下の条件下では水に対して難溶性であるため、(工程a)に続く(工程b)において、リグニン類はこの混合溶媒に適度に分散して、容易に溶解し得る。その結果として、リグニン類とフェノール類の馴染みが良く均質化した反応溶液が得られ、(工程d)におけるリグニン類の反応効率が向上し得る。
【0015】
上記(工程a)で用いられるフェノール類としては、フェノール、フェノール誘導体及びこれらの組み合わせが挙げられる。フェノール誘導体としては、ベンゼン環に任意の置換基が導入された、分子量が150以下のフェノールを使用できる。置換基としては、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル等の低級アルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;アミノ基;ニトロ基;カルボキシ基等が挙げられる。本実施形態の方法で用いることができるフェノール類の具体例としては、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、エチルフェノール、プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、セカンダリーブチルフェノール、ターシャリーブチルフェノール、o-フルオロフェノール、m-フルオロフェノール、p-フルオロフェノール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、o-ブロモフェノール、m-ブロモフェノール、p-ブロモフェノール、o-ヨードフェノール、m-ヨードフェノール、p-ヨードフェノール、o-アミノフェノール、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、2,4,6-トリニトロフェノール、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。フェノール類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、取扱い性が良好である観点から、フェノール類として、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、およびキシレノールを用いることが好ましい。
【0016】
上記(工程a)で用いられるリグニン類は、リグニンまたはリグニン誘導体、あるいはこれらの組み合わせを含む。
リグニンは、セルロース及びヘミセルロースとともに、植物体の構造を形成する主要成分であり、また、自然界に最も豊富に存在する芳香属化合物の1つである。リグニンは植物中では一部が結合してリグノセルロースとして存在しているため、リグニンとは植物から分解等を経て得られるものを指すことが多く、例としては、クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン等のパルプリグニン;オルガノソルブリグニン;高温高圧水処理リグニンまたは爆砕リグニンに、濃硫酸にて抽出等時にフェノールが付加するリグノフェノール;フェノール化リグニン等が挙げられる。リグニンの由来は特に限定されず、リグニンを含み木質部が形成される木材や草本類等が挙げられ、スギ、マツ、ヒノキ、及び、トウヒ等の針葉樹、ブナ、白樺、ナラ、ケヤキ、及び、ユーカリ等の広葉樹、イネ、ムギ、トウモロコシ及びタケ等のイネ科植物(草本類)が挙げられる。
【0017】
本実施形態において、「リグニン誘導体」とは、リグニンを構成する単位構造、又はリグニンを構成する単位構造に類似する構造を有する化合物をいう。リグニン誘導体は、フェノール誘導体を単位構造とする。この単位構造は化学的及び生物学的に安定な炭素-炭素結合や炭素-酸素-炭素結合を有するため、化学的な劣化や生物的分解を受け難い。
【0018】
リグニン誘導体としては、下記式(1)の式(A)で表わされるグアイアシルプロパン(フェルラ酸)、下記式(B)で表わされるシリンギルプロパン(シナピン酸)、及び下記式(C)で表わされる4-ヒドロキシフェニルプロパン(クマル酸)等が挙げられる。リグニン誘導体の組成は、原料となるバイオマスによって異なる。針葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。広葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造及びシリンギルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。草本類からは主にグアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造及び4-ヒドロキシフェニルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。
【0019】
【0020】
リグニン誘導体は、バイオマスを分解して得られたものが好ましい。バイオマスは光合成の過程で大気中の二酸化炭素を取り込み固定化したものであることから、バイオマスは大気中の二酸化炭素の増加抑制に寄与しており、バイオマスを工業的に利用することによって、地球温暖化の抑制に寄与することができる。バイオマスとしては、リグノセルロース系バイオマスが挙げられる。リグノセルロース系バイオマスとしては、リグニンを含有する植物の葉、樹皮、枝及び木材、並びにこれらの加工品等が挙げられる。リグニンを含有する植物としては、上述の広葉樹、針葉樹、草本類等が挙げられる。
【0021】
バイオマスの分解方法としては、薬品処理する方法、加水分解処理する方法、水蒸気爆砕法、超臨界水処理法、亜臨界水処理法、機械的に処理する方法、硫酸クレゾール法、パルプ製造法等が挙げられる。環境負荷の観点からは、水蒸気爆砕法、亜臨界水処理法、機械的に処理する方法が好ましい。コストの観点からは、パルプ製造法が好ましい。またコストの観点からは、バイオマス利用の副生成物を用いることが好ましい。リグニン誘導体は、例えばバイオマスを、各種蒸解液や溶媒存在下で150~400℃、1~40MPa、8時間以下で分解処理することにより調製できる。また、リグニン誘導体は、特開2009-084320号公報及び特開2012-201828号公報等に開示された方法で調製できる。
【0022】
リグニン誘導体としては、リグニンとセルロースとヘミセルロースとが結合したリグノセルロースを分解したもの等が挙げられる。リグニン誘導体は、リグニン骨格を有する化合物を主成分とするリグニン分解物、セルロース分解物及びヘミセルロース分解物等を含み得る。また、リグニン誘導体は、バイオマス由来またはプロセス由来の無機物も含み得るが、本実施形態の用途に使用する場合、無機物の含有量は、使用するリグニン誘導体全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0023】
リグニン誘導体は、芳香環への親電子置換反応によって硬化剤が作用する反応サイトを多く有することが好ましく、反応サイト近傍の立体障害が少ない方が反応性に優れる点から、フェノール性水酸基を含む芳香環のオルト位及びパラ位の少なくとも一方が無置換であることが好ましく、リグニンの芳香族単位としてグアイアシル核や4-ヒドロキシフェニル核の構造を多く含む、針葉樹や草本類由来のリグニンが好ましい。リグニン誘導体としては、特開2009-084320号公報及び特開2012-201828号公報等に開示されたものが使用できる。
【0024】
また、リグニン誘導体は、上記基本構造の他、リグニン誘導体に官能基を有するもの(リグニン二次誘導体)であってもよい。
【0025】
リグニン二次誘導体が有する官能基としては、特に限定されないが、例えば2個以上の同じ官能基が互いに反応し得るもの、又は他の官能基と反応し得るものが好適である。具体的には、エポキシ基、メチロール基の他、炭素-炭素不飽和結合を有するビニル基、エチニル基、マレイミド基、シアネート基、イソシアネート基等が挙げられる。このうち、メチロール基が導入された(メチロール化された)リグニン誘導体が好ましく用いられる。このようなリグニン二次誘導体は、メチロール基同士の自己縮合反応により自己架橋が生じるとともに、下記架橋剤中のアルコキシメチル基や水酸基に対して架橋する。その結果、特に均質で剛直な骨格を有し、耐溶剤性に優れたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が得られる。
【0026】
さらに、本実施形態で用いるリグニン誘導体は、カルボキシル基を有してもよい。パルププロセスや高温高圧水処理により得られるリグニンは、カルボキシル基を有することがある。カルボキシル基を有するリグニン誘導体から得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、下記に記載する硬化剤に対する架橋点を多く有するため、得られる架橋体の架橋密度を向上させることができ、結果として耐溶剤性に優れた架橋体を得ることができる。
【0027】
なお、上述したリグニン誘導体中がカルボキシル基を有する場合は、そのカルボキシル基は、カルボキシル基に帰属する13C-NMR分析に供されたとき、172~174ppmのピークの吸収の有無によって確認することができる。
【0028】
本実施形態で使用されるリグニン類は、その重量平均分子量が、例えば、2,000以上100,000以下である。重量平均分子量の下限値は、好ましくは、3,000以上であり、より好ましくは、4,000以上であり、さらにより好ましくは、5,000以上である。重量平均分子量の上限値は、好ましくは、90,000以下であり、より好ましくは、80,000以下であり、さらにより好ましくは、60,000以下である。上記範囲の重量平均分子量を有するリグニン類は、上述の混合溶媒に溶解し易く、取扱い性に優れる。なお重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の数平均分子量であって、実施例の方法により求めることができる。
【0029】
ここで、上述のゲル浸透クロマトグラフィーによって分子量を測定する方法の一例について説明する。
ゲル浸透クロマトグラフィーによって分子量を測定する方法において、まず、リグニン誘導体を溶媒に溶解させ、測定サンプルを調製する。このときに用いられる溶媒は、リグニン誘導体を溶解できるものであれば特に限定されるものではないが、ゲル浸透クロマトグラフィーの測定精度の観点から、例えば、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。本実施形態で用いるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いるリグニン類は、バイオマス、プロセス由来の無機物、植物由来の高分子量有機物による不溶分を含みうるため、リグニン類の分子量は、適正な溶媒を選択するとともに、不溶分はろ過して求められる。また得られるリグニン変性レゾール型フェノール樹脂のリグニン変性率を高めるためには、使用するリグニン類の不溶分は適正な溶媒下で30質量%以下が好ましい。
【0030】
次に、GPCシステム「HLC-8420GPC EcoSEC Elite(東ソー製)」に、スチレン系ポリマー充填剤を充填した有機系汎用カラムである「TSKgel SuperAW4000(東ソー製)」、「TSKgel SuperAW3000(東ソー製)」、「TSKgel SuperAW2500(東ソー製)」、および「TSKgel SuperAW2500(東ソー製)」を直列に接続する。このGPCシステムに、前述の測定サンプルを30μL注入し、40℃において、溶離液のN-メチル-2-ピロリドンを0.3mL/minで展開し、示差屈折率(RI)、及び紫外吸光度(UV)を利用して保持時間を測定する。別途作製しておいた標準ポリスチレンの保持時間と分子量の関係を示した検量線から、対象のリグニン類の数平均分子量、重量平均分子量を算出することができる。検出モードとしては屈折率が好ましい。
【0031】
検量線を作成するために使用する標準ポリスチレンの分子量としては、特に限定されるものではないが、例えば、重量平均分子量が2,110,000、1,090,000、427,000、190,000、37,900、18,100、5,970、2,420及び500の標準ポリスチレン(東ソー製)のものを用いることができる。
【0032】
リグニン類の揮発分は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらにより好ましい。リグニン類の揮発分が上記範囲内であることにより、リグニン類の反応性を向上させることができ、よって得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の反応率を上げることができる。主な揮発分は水であることが多く、例えばアルミカップに4gを広げて80℃20時間で乾燥させることで算出される。
【0033】
バイオマスを分解して得られたリグニン類を用いる場合は、低分子量の成分が多量に混入することがあり、加熱時の揮発分や臭気、軟化点の低下を引き起こすことがある。これらの成分は、そのまま利用することも出来るし、リグニン類の加熱、乾燥等によって除去し、軟化点や臭気を調整することもできる。
【0034】
上記(工程a)で用いるリグニン類は、上述したとおり、固体、分散液、または溶液の形態で用いてもよいし、あるいは固体または水溶液の形態の含水リグニン類として用いてもよい。水溶液の形態のリグニン類を用いる場合、このリグニン水溶液を蒸留して、リグニン水溶液に含まれる水の量を低減してもよい。
【0035】
上記(工程a)で得られたフェノール類と、水と、リグニン類とを含む第一の混合物は、(工程b)の前に、この第一の混合物に含まれる水の量を低減させる工程に供してもよい。第一の混合物に含まれる水の量を低減させる工程は、例えば、蒸留法を用いて実施することができる。第一の混合物中の水の量を低減させる工程は、最終的に得られる第一の混合物中のフェノール類と水の比が、フェノール類:水の質量比で、1:0.01~1:0.5となるまで実施することが好ましい。水の量を上記範囲とすることにより、(工程d)におけるリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の収率を向上させることができる。
【0036】
(工程b)
本実施形態の方法における(工程b)では、上記(工程a)で得られた第一の混合物を、pH7以下で、70℃~120℃の温度で加熱して、リグニン類を、フェノール類および水に溶解させて、第二の混合物を得る。
【0037】
(工程b)では、上記(工程a)で得られた、リグニン類とフェノール類と水とを含む第一の混合物を、pH7以下に調整し、さらに70℃~120℃の温度で加熱する。第一の混合物のpHは、任意の酸やアルカリを添加することにより調整することができる。第一の混合物のpHは、1~7であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。このようなpHに調整することにより、リグニン類を、フェノール類と水に馴染ませ溶解することができる。また、リグニン類をフェノール類と水とに溶解するために、70℃~120℃の温度、好ましくは、80℃~100℃の温度で加熱する。上記範囲の温度で加熱することにより、リグニン類は、混合溶媒に容易に溶解する。
【0038】
(工程c)
本実施形態の方法における(工程c)では、上記(工程b)で得られた第二の混合物に、アルデヒド類および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る。
【0039】
(工程c)で用いられるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル等が挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、ポリオキシメチレン、アセトアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。アルデヒド類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、生産性および安価な観点から、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを用いることが好ましい。
【0040】
(工程c)で用いられる塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;石灰等の酸化物;亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;リン酸ナトリウム等のリン酸塩;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン等のアミン類等が挙げられる。
【0041】
一実施形態において、(工程c)では、上記アルデヒド類および上記塩基性触媒に加え、上記(工程a)で使用したフェノール類およびリグニン類とは異なるフェノール化合物および/または植物油を添加してもよい。フェノール化合物または植物油を添加する場合、後の(工程d)では、(工程a)で用いられたリグニン類およびフェノール類、ならびに当該フェノール化合物または植物油と、アルデヒド類との反応により、レゾール型フェノール樹脂が生成する。
【0042】
(工程c)で用いることができるフェノール化合物としては、アルキルフェノール類が挙げられる。アルキルフェノール類としては、分子量が150を超える、アルキル基を有するフェノール類を用いることが好ましく、具体例としては、アミルフェノール、ターシャリーアミノフェノール、ヘキシルフェノール、へプチルフェノール、オクチルフェノール、ターシャリーオクチルフェノール、ノニルフェノール、ターシャリーノニルフェノール、デシルフェノール、ウンデシルフェノール、ドデシルフェノール、トリデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ペンタデシルフェノール、カルダノール、カードル、ウルシオール、ヘキサデシルフェノール、メチルカードル、ヘプタデシルフェノール、ラッコール、チオール、オクタデシルフェノール等が挙げられる。フェノール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(工程c)で用いることができる植物油としては、カシューオイル、ひまし油、大豆油、桐油、亜麻仁油、タンニン、ピロガロール、トール油等が挙げられる。植物油は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。またフェノール化合物および植物油は、いずれか一方を用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0044】
(工程c)で第二の混合物にフェノール化合物および/または植物油が添加される場合、まず、第二の混合物に、フェノール化合物および/または植物油を混合し、その後加熱することにより、フェノール化合物および/または植物油を(工程a)における溶媒(フェノール類と水との混合溶媒)に溶解して混合溶液を得(工程c-1)、次いで、この混合溶液に、上述の塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し(工程c-2)、次いで、pHが調整された混合溶液に、上述のアルデヒド類を混合して、第三の混合物を得る(工程c-3)ことが好ましい。フェノール化合物および/または植物油を用いる場合、塩基性触媒を添加する前に、フェノール化合物および/または植物油を第二の混合物に加えることにより、フェノール化合物および/または植物油は第二の混合物に容易に溶解し得る。
なお、フェノール化合物および植物油の両方を用いる場合、(工程c)で第二の混合物にこれらを添加する順序はいずれが先でもよい。あるいはフェノール化合物と植物油とをあらかじめ混合した混合物を、第二の混合物に添加することができる。
【0045】
(工程c)で用いられるアルデヒド類は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)との配合モル比(F/P)が0.8以上、好ましくは、0.8以上5.0以下、より好ましくは、1.0以上3.5以下、さらにより好ましくは、1.2以上2.5以下となるような量で用いられる。
【0046】
(工程c)で用いられる塩基性触媒は、フェノール類、リグニン類、アルデヒド類、ならびに使用する場合はフェノール化合物および/または植物油の総量に対して、1~30質量%の量で用いられる。
【0047】
(工程c)で上述のフェノール化合物および/または植物油が用いられる場合、その量は、(工程a)で用いられたフェノール類に対して、1~200質量%であることが好ましい。フェノール化合物および植物油の両方が用いられる場合は、これらの合計量が上記範囲内となるように用いることが好ましい。
【0048】
(工程d)
本実施形態の方法における(工程d)では、上記(工程c)で得られた第三の混合物を60℃~105℃の温度下で加熱し、この第三の混合物中に含まれるリグニン類、フェノール類、およびアルデヒド類を、塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る。上記(工程c)でフェノール化合物および/または植物油を使用した場合、(工程d)では、リグニン類、フェノール類、フェノール化合物および/または植物油、ならびにアルデヒド類を、塩基性触媒下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る。
【0049】
(工程d)において第三の混合物は、60℃~105℃の温度で加熱される。(工程d)における加熱温度は、第三の混合物に含まれるリグニン類、フェノール類、ならびに使用する場合はフェノール化合物および/または植物油の種類や目的のレゾール型フェノール樹脂の物性によって、適宜選択することができる。(工程d)における加熱時間は、例えば、10分間~100分間であり、好ましくは、30分間~60分間である。上記範囲の温度および時間で第三の混合物を加熱することにより、これに含まれるリグニン類、フェノール類、フェノール化合物(使用する場合)、植物油(使用する場合)、およびアルデヒド類の反応が進行して、レゾール型フェノール樹脂が生成し得る。
【0050】
本実施形態の方法で得られるリグニン変性レゾール型フェノール樹脂は、これに含まれる遊離フェノール量が、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂に対して、好ましい態様において、5.0質量%以下であり、より好ましい態様においては、4.0質量%以下である。リグニン変性レゾール型フェノール樹脂に含まれる遊離フェノール量の下限値は、特に限定されないが、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂に対して、例えば、0.1質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上である。遊離フェノール量が上記上限値以下であることにより、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂は、取扱い性に優れ、広範な適用範囲を有する。また、遊離フェノール量が上記下限値以上であることにより、遊離アルデヒドを完全に除去するための特別な装置や工程が不要であるため、製造コストを抑えることができる。
【0051】
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態にしたがうリグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法は、以下の(工程i)~(工程iv)を含む。
(工程i)フェノール類、水およびリグニン類を含む、第一の混合物を得る工程。
(工程ii)上記(工程i)で得られた第一の混合物を、pH7以下で、70℃~120℃の温度で加熱して、リグニン類をフェノール類および水に溶解させて、第二の混合物を得る工程。
(工程iii-1)上記(工程ii)で得られた第二の混合物を得る際に、または得た後に、強酸を加えて加熱して、リグニン類とフェノール類とを反応させて、フェノール化リグニン類を含む反応混合物を得る工程。
(工程iii-2)上記(工程iii-1)で得られたフェノール化リグニン類を含む反応混合物に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る工程。
(工程iv)上記(工程iii-2)で得られた第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、フェノール化リグニン類およびアルデヒド類を塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程。
以下に各工程について詳述する。
【0052】
(工程i)
本実施形態における(工程i)は、上記第一の実施形態における(工程a)と同様である。
【0053】
(工程ii)
本実施形態における(工程ii)は、上記第一の実施形態における(工程b)と同様である。
【0054】
本実施形態の方法における(工程iii-1)では、(工程ii)で得られた、リグニン類とフェノール類とを含む水溶液である第二の混合物得る際に、または得た後に、強酸を加え、その後加熱して、リグニン類とフェノール類とを反応させて、フェノール化リグニンを得る。
【0055】
一実施形態において、(工程iii-1)を実施する前に、(工程ii)で得られたリグニン類とフェノール類とが溶解した水溶液(第二の混合物)を蒸留して、これに含まれる水を除去してもよい。脱水工程を行うことにより、リグニン類とフェノール類との反応効率を向上させることができる。
【0056】
リグニン類とフェノール類との反応に用いられる強酸としては、濃度65質量%以上の硫酸、濃度85質量%以上のリン酸、濃度38質量%以上の塩酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができるが、これらに限定されない。
リグニン類とフェノール類との反応は、例えば、90℃~120℃の温度、好ましくは、100℃~115℃の温度で、上記第二の混合物を加熱することにより実施できる。
【0057】
上記の方法により得られるフェノール化リグニン類は、リグニン骨格を有するとともに、反応性基であるフェノール性水酸基を多数有する。よって、フェノール化リグニンは、フェノール性水酸基を反応性基として、アルデヒド類と反応して、リグニン骨格を含有するフェノール樹脂(リグニン変性フェノール樹脂)を生成し得る。
【0058】
一実施形態において、フェノール化リグニン類を得た後、これを含む反応混合物を脱水処理して、アルコール類、ケトン類などで溶媒和することにより溶媒置換してもよい。脱水処理としては、例えば、蒸留法を用いることができる。また用いるアルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール等が挙げられ、ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0059】
本実施形態の方法における(工程iii-2)では、上記(工程iii-1)で得られたフェノール化リグニン類を含む反応混合物に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る。
本実施形態の(工程iii-2)は、上記第一の実施形態における(工程c)と同様である。
【0060】
(工程iv)
本実施形態における(工程iv)では、(工程iii-2)で得られた第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、フェノール化リグニン類およびアルデヒド類を塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン骨格を含有するフェノール樹脂(リグニン変性レゾール型フェノール樹脂)を得る。
本実施形態の(工程iv)は、上記第一の実施形態における(工程d)と同様の条件で実施することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
(リグニン誘導体の調製)
まず、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の合成に用いるリグニン誘導体を以下の手順により調製した。
含水率50質量%のスギ木粉1500重量部に、蒸解液として純水5000重量部、水酸化ナトリウム180重量部、炭酸ナトリウム120質量部および蒸解助剤として9,10-アントラキノン7.5重量部を、容量10Lのステンレススチール製オートクレーブ設備に仕込み、撹拌下、170℃で3時間蒸解反応を行った。反応後の蒸解液を室温まで冷却し、パルプ成分をスクリーンで除去した後、リグニンを含む黒液を分離した。分離した黒液に希硫酸を加えてpH8に調整して、生じた沈澱を遠心分離した。500質量部の水で2回洗浄した後、沈澱を5倍量の水に懸濁し、希硫酸でpH2に再調整した。沈澱したリグニンを再度遠心分離し、水で洗浄した後、吸引濾過し、バットに広げて風乾して、70℃以下で減圧オーブン乾燥を行い、固形分59質量%の褐色粉末状のアルカリリグニン(含水リグニン)を140質量部から150重量部(固形分換算)を得た。
得られた含水リグニンの一部を、さらに80℃以下で減圧オーブン乾燥することで固形分が99質量%のアルカリリグニンを得た。固形分率はアルミカップに4gサンプルを入れ、135℃で1時間加熱乾燥させた後の残存率から算出した。得られたリグニン誘導体の数平均分子量(Mn)は、2,000であり、重量平均分子量(Mw)は、14,000であった。
(リグニン変性フェノール樹脂の合成)
次に、調製した固形分99質量%のアルカリリグニンを用いて以下の手順によりリグニン変性フェノール樹脂を合成した。
(第一工程)撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコに、フェノール100重量部、水69.5重量部を加えて混合溶媒を調製した。次いで、この混合溶媒の温度を60℃に調整した。次に攪拌しながら固形分99質量%のアルカリリグニン100重量部を分割して添加して、第一の混合物を得た。第一の混合物中のフェノールと水との量比は、フェノール:水(質量比)が1:0.7であった。
(第二工程)第一工程で得られた第一の混合物を、90℃まで昇温し、20分攪拌することにより、固形分99質量%のアルカリリグニンをフェノール/水混合溶媒に溶解させて、目視で浮遊物がないことを確認した。得られた混合物を第二の混合物とした。
(第三工程)第二工程で得られた第二の混合物を、60℃まで冷却し、その後、50%水酸化ナトリウム水溶液20質量部を加え、次いで37%ホルムアルデヒド146.4重量部を昇温に注意して添加して、第三の混合物を得た。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して80分間反応させた。その後急冷して、純水を加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通して微量の繊維状の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。得られたリグニン変性フェノール樹脂の不揮発分は55質量%、水溶性は25倍以上、溶液樹脂粘度は756mPa・s、遊離フェノールは4.9質量%、遊離ホルムアルデヒド量は0.6質量%であった。
【0064】
(実施例2)
(第一工程)撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコに、フェノール100重量部を投入した。次いで、このフェノールの温度を60℃に調整した。次に攪拌しながら実施例1で調製した固形分59質量%の褐色粉末状の含水リグニン169.5重量部を分割して添加して、第一の混合物を得た。第一の混合物中のフェノールと水との量比は、フェノール:水(質量比)が1:0.7であった。
(第二工程)第一工程で得られた第一の混合物を、実施例1の第二工程と同様の条件で処理して含水リグニンを溶解させて、第二の混合物を得た。
(第三工程)第二の混合物を、実施例1の第三工程と同様の条件で処理して、第三の混合物を得た。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して80分間反応させた。その後急冷して、純水を加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通して微量の繊維状の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。
得られたリグニン変性フェノール樹脂の不揮発分、水溶性、溶液樹脂粘度、遊離フェノール含有量、および遊離ホルムアルデヒド含有量は、表1に示す。
【0065】
(実施例3)
(第一工程)水を42.9重量部に変更した用いたこと以外は、実施例1の第一工程と同様にして、第一の混合物を得た。第一の混合物中のフェノールと水との量比は、フェノール:水(質量比)が1:0.44であった。
次いで、得られた第一の混合物を蒸留し、第一の混合物中のフェノールと水との質量比が、フェノール:水=1:0.05になるまで水を除去した。
(第二工程)第一の工程で得られた減水後の第一の混合物を、実施例1の第二工程と同様の条件で処理して、第二の混合物を得た。
(第三工程)第二の混合物を、実施例1の第三工程と同様の条件で処理して、第三の混合物を得た。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して40分間反応させた。その後急冷して、純水を加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通して微量の繊維状の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。
得られたリグニン変性フェノール樹脂の不揮発分、水溶性、溶液樹脂粘度、遊離フェノール含有量、および遊離ホルムアルデヒド含有量は、表1に示す。
【0066】
(実施例4)
(第一工程)実施例2の第一工程と同様にして、第一の混合物を得た。第一の混合物中のフェノールと水との量比は、フェノール:水(質量比)が1:0.7であった。
次いで、得られた第一の混合物を蒸留し、第一の混合物中のフェノールと水との質量比が、フェノール:水=1:0.05になるまで水を除去した。
(第二工程)第一の工程で得られた減水後の第一の混合物を、実施例1の第二工程と同様の条件で処理して、第二の混合物を得た。
(第三工程)第二の混合物を、実施例1の第三工程と同様の条件で処理して、第三の混合物を得た。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して40分間反応させた。その後急冷して、純水を加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通して微量の繊維状の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。
得られたリグニン変性フェノール樹脂の不揮発分、水溶性、溶液樹脂粘度、遊離フェノール含有量、および遊離ホルムアルデヒド含有量は、表1に示す。
【0067】
(実施例5)
(第一工程)撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコに、フェノール100重量部を投入した。次いで、このフェノールの温度を60℃に調整した。次に攪拌しながら実施例1で調製した固形分59質量%の褐色粉末状の含水リグニン153.9重量部を分割して添加して、第一の混合物を得た。第一の混合物中のフェノールと水との量比は、フェノール:水(質量比)が1:0.79であった。
次いで、得られた第一の混合物を蒸留し、第一の混合物中のフェノールと水との質量比が、フェノール:水=1:0.05になるまで水を除去した。
(第二工程)第一の工程で得られた減水後の第一の混合物を、実施例1の第二工程と同様の条件で処理して、第二の混合物を得た。
(第三工程)第二工程で得られた第二の混合物を、60℃まで冷却し、その後、50%水酸化ナトリウム水溶液20質量部を加え、次いで37%ホルムアルデヒド124.2重量部を昇温に注意して添加して、第三の混合物を得た。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して80分間反応させた。その後急冷して、純水を加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通して微量の繊維状の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。
【0068】
(実施例6)
(第一工程)撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコに、フェノール100重量部を投入した。次いで、このフェノールの温度を60℃に調整した。次に攪拌しながら実施例1で調製した固形分59質量%の褐色粉末状の含水リグニン169.5重量部を分割して添加して、第一の混合物を得た。第一の混合物中のフェノールと水との量比は、フェノール:水(質量比)が1:0.7であった。
(第二工程)第一工程で得られた第一の混合物を、実施例1の第二工程と同様の条件で処理して含水リグニンを溶解させて、第二の混合物を得た。
(第三工程)第二の混合物を、蒸留して、脱水した。脱水後の第二の混合物に、98%硫酸を加え、110℃で30分間加熱した。次いで、得られた反応混合物を、60℃まで冷却し、その後、50%水酸化ナトリウム水溶液20.5質量部を加え、次いで37%ホルムアルデヒド137.7重量部を昇温に注意して添加して、第三の混合物を得た。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して80分間反応させた。その後急冷して、純水を加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通して微量の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。
得られたリグニン変性フェノール樹脂の不揮発分、水溶性、溶液樹脂粘度、遊離フェノール含有量、および遊離ホルムアルデヒド含有量は、表1に示す。
【0069】
(実施例7)
(第一工程)撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコに、フェノール100重量部を投入した。次いで、このフェノールの温度を60℃に調整した。次に攪拌しながら実施例1で調製した固形分59質量%の褐色粉末状の含水リグニン169.5重量部を分割して添加して、第一の混合物を得た。第一の混合物中のフェノールと水との量比は、フェノール:水(質量比)が1:0.7であった。
(第二工程)第一工程で得られた第一の混合物を、実施例1の第二工程と同様の条件で処理して含水リグニンを溶解させて、第二の混合物を得た。
(第三工程)第二の混合物を、蒸留して、脱水した。脱水後の第二の混合物に、98%硫酸を加え、110℃で30分間加熱した。その後、得られた反応混合物を蒸留により脱水し、メタノール201.4重量部を添加した。次いで、得られたメタノール溶液を、60℃まで冷却し、その後、トリエチルアミン30.0重量部を加え、次いで37%ホルムアルデヒド86.2重量部を昇温に注意して添加した。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して80分間反応させた。その後急冷して、メタノールを加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通して微量の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。
得られたリグニン変性フェノール樹脂の不揮発分、水溶性、溶液樹脂粘度、遊離フェノール含有量、および遊離ホルムアルデヒド含有量は、表1に示す。
【0070】
(比較例1)
(第一工程)撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコに、フェノール100重量部を投入した。次いで、このフェノールの温度を60℃に調整した。次に攪拌しながら実施例1で調製した固形分99質量%のアルカリリグニン100重量部を分割して添加して、第一の混合物を得た。第一の混合物中のフェノールと水との量比は、フェノール:水(質量比)が1:0.01であった。
(第二工程)第一の混合物を、実施例1の第二工程と同様の条件で処理して、第二の混合物を得た。
(第三工程)第二工程で得られた第二の混合物を、実施例1の第三工程と同様の条件で処理して、第三の混合物を得た。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して80分間反応させた。その後急冷して、純水を加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通し、繊維状の不溶分と塊状の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。
得られたリグニン変性フェノール樹脂の不揮発分、水溶性、溶液樹脂粘度、遊離フェノール含有量、および遊離ホルムアルデヒド含有量は、表1に示す。
【0071】
(比較例2)
(第一工程)実施例2の第一工程と同様の方法で、第一の混合物を得た。
(第二工程)第一工程で得られた第一の混合物を、55℃まで昇温し、20分攪拌することにより、固形分59質量%の含水リグニンをフェノールに溶解させて、目視で浮遊物がないことを確認した。得られた混合物を第二の混合物とした。
(第三工程)第二の混合物を、実施例1の第三工程と同様の条件で処理して、第三の混合物を得た。
(第四工程)第三工程で得られた第三の混合物を、60℃で60分反応させ、さらに85℃に昇温して80分間反応させた。その後急冷して、純水を加えることで任意の粘度に調整した。その後に200メッシュのフィルターを通し、繊維状の不溶分と塊状の不溶分を除去することで、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得た。
得られたリグニン変性フェノール樹脂の不揮発分、水溶性、溶液樹脂粘度、遊離フェノール含有量、および遊離ホルムアルデヒド含有量は、表1に示す。
【0072】
【0073】
実施例の方法で製造したリグニン変性レゾール型フェノール樹脂は、未反応の遊離フェノール含有量が低減されているとともに、未反応の遊離ホルムアルデヒド含有量が低減されていた。また実施例の方法における第四工程で得られる反応混合物には、不溶分が繊維状物として少量含まれていた。一方、比較例の方法における第四工程で得られる反応混合物には、繊維状の不溶分と塊状の不溶分とが含まれていた。第一の混合物に対して蒸留脱水処理を施した実施例3および実施例4では、第四工程の反応時間を短縮することができた。第一の混合物に対して蒸留脱水処理を施した実施例5では、第三工程でカシュー殻オイルを混合しても均一に溶液化された第三の混合物を得ることができた。
【0074】
この出願は、2022年6月2日に出願された日本出願特願2022-090308号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【要約】
フェノール類、水およびリグニン類を含む、第一の混合物を得る工程であって、
前記フェノール類と、前記水との比が、フェノール類:水の質量比で、1:0.03~1:1.5である、工程と、
前記第一の混合物を、pH7以下で、70℃~120℃の温度で加熱して、前記リグニン類を前記フェノール類および前記水に溶解させて、第二の混合物を得る工程と、
前記第二の混合物に、アルデヒド類、および塩基性触媒を添加して、pHを7.5~12に調整し、第三の混合物を得る工程と、
前記第三の混合物を、60℃~105℃の温度下で加熱し、前記リグニン類、前記フェノール類、および前記アルデヒド類を前記塩基性触媒の存在下で反応させて、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂を得る工程と、を含む、リグニン変性レゾール型フェノール樹脂の製造方法。