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特許7405318光学特性測定システム及び光学特性測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】光学特性測定システム及び光学特性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/02 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01M11/02 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023557368
(86)(22)【出願日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2023024437
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2022141933
(32)【優先日】2022-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100224546
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 龍
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健美
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111555803(CN,A)
【文献】国際公開第2022/101958(WO,A1)
【文献】米国特許第6366347(US,B1)
【文献】HAYASHI, T.,Accuracy of analytical expressions for Rayleigh backscattered crosstalk in bidirectional multi-core,Optics Express,2022年06月20日,Vol. 30, Issue 13,pp. 23943-23952,https://doi.org/10.1364/OE.460565
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/02
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
SPIE Digital Library
OPTICA
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一コア及び第二コアを有するマルチコア光ファイバの光学特性を測定する光学特性測定システムであって、
前記第一コアと光学的に結合され、前記マルチコア光ファイバの一端から前記第一コアにパルス光を入射可能な少なくとも一つの光源と、
少なくとも前記第二コアと光学的に結合され、前記第一コアへの前記パルス光の入射に伴い前記一端の前記第一コア及び前記第二コアからそれぞれ出射される第一後方散乱光及び第二後方散乱光のうち少なくとも前記第二後方散乱光を受光可能な少なくとも一つの受光器と、
前記受光器と通信可能に接続され、少なくとも前記第二後方散乱光の光強度に基づいて、前記パルス光の一部として前記第一コアから前記第二コアへ移動し前記一端に戻る前記第二後方散乱光の光強度に関する後方散乱クロストークを表す後方散乱クロストーク指標を算出する演算装置と、を備え、
前記演算装置は、
前記受光器が受光した各時刻での前記第二後方散乱光の光強度を、前記一端から前記マルチコア光ファイバの長手方向に沿った任意の測定位置までの各位置に対応付けて取得するデータ処理部と、
前記一端から前記測定位置まで前記第一コアを光が移動したときの前記マルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値に対する、前記一端から前記測定位置までの前記第二コアの各位置に対応する前記第二後方散乱光の光強度を積分した積分値の比、を含む項を前記後方散乱クロストーク指標として算出する演算処理部と、を含む、光学特性測定システム。
【請求項2】
前記受光器は、前記第一コアと光学的に結合され、前記一端の前記第一コアから出射される前記第一後方散乱光を受光可能であり、
前記データ処理部は、前記受光器が受光した各時刻での前記第一後方散乱光の光強度を、前記一端から前記測定位置までの各位置に対応付けて取得し、
前記演算処理部は、前記一端から前記測定位置までの前記第一コアの各位置に対応する前記第一後方散乱光の光強度を用いて、前記一端から前記測定位置まで前記第一コアを前記パルス光が移動したときの前記マルチコア光ファイバの伝送損失を表す前記損失値を算出する、請求項1に記載の光学特性測定システム。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記損失値をD11とし、前記積分値をD[W・m]とした場合に、以下の式(1)によって表される前記損失値と、以下の式(2)によって表される前記積分値とを用いて、以下の式(3)によって表される前記比を算出する、請求項1又は請求項2に記載の光学特性測定システム。
【数1】

【数2】

【数3】

但し、前記一端を原点としたときの前記マルチコア光ファイバの前記長手方向に沿った位置をz[m]とし、前記位置z[m]に対応する前記第二後方散乱光の光強度をPbs2(z)[W]とし、前記測定位置をz[m]とし、前記マルチコア光ファイバの伝送損失係数をα[/m]とする。
【請求項4】
前記演算処理部は、前記式(3)によって表される前記比に、以下の式(4)によって表される係数A[/(W・m)]、又は以下の式(5)によって表される係数B[/(W・m)]を乗じることによって、前記後方散乱クロストーク指標を算出する、請求項3に記載の光学特性測定システム。
【数4】

【数5】

但し、前記一端に対応する前記第一後方散乱光の光強度をPbs1(0)[W]とし、前記パルス光の光強度をP[W]とし、前記マルチコア光ファイバを移動する際の前記パルス光の群速度をV[m/s]とし、前記パルス光のパルス幅をW[s]とし、前記マルチコア光ファイバの散乱断面積をSとし、前記マルチコア光ファイバのレイリー散乱に起因する伝送損失係数をα[/m]とする。
【請求項5】
前記演算処理部は、前記伝送損失をD12[W1/2]とし、前記積分値をD[W・m]とした場合に、以下の式(6)によって表される前記損失値と、以下の式(7)によって表される前記積分値とを用いて、以下の式(8)によって表される前記比を算出する、請求項2に記載の光学特性測定システム。
【数6】

【数7】

【数8】

但し、前記一端を原点としたときの前記マルチコア光ファイバの前記長手方向に沿った位置をz[m]とし、前記位置z[m]に対応する前記第一後方散乱光の光強度をPbs1(z)[W]とし、前記位置z[m]に対応する前記第二後方散乱光の光強度をPbs2(z)[W]とし、前記測定位置をz[m]とする。
【請求項6】
前記演算処理部は、前記式(8)によって表される前記比に、以下の式(9)によって表される係数A[/(W1/2・m)]、又は以下の式(10)によって表される係数B[/(W1/2・m)]を乗じることによって、前記後方散乱クロストーク指標を算出する、請求項5に記載の光学特性測定システム。
【数9】

【数10】

但し、前記一端に対応する前記第一後方散乱光の光強度をPbs1(0)[W]とし、前記パルス光の光強度をP[W]とし、前記マルチコア光ファイバを移動する際の前記パルス光の群速度をV[m/s]とし、前記パルス光のパルス幅をW[s]とし、前記マルチコア光ファイバの散乱断面積をSとし、前記マルチコア光ファイバのレイリー散乱に起因する伝送損失係数をα[/m]とする。
【請求項7】
前記光源からの前記パルス光を前記第一コアに導く一方で、前記第一コアからの前記第一後方散乱光及び前記第二コアからの前記第二後方散乱光を前記受光器に導く光学系を更に備える、請求項2に記載の光学特性測定システム。
【請求項8】
前記マルチコア光ファイバの前記長手方向に沿った位置と前記後方散乱クロストーク指標との関係を示す両対数グラフを表示する表示部を更に備える、請求項1に記載の光学特性測定システム。
【請求項9】
少なくとも第一コア及び第二コアを有するマルチコア光ファイバの光学特性を測定する光学特性測定システムを用いた光学特性測定方法であって、
前記マルチコア光ファイバの一端から前記第一コアにパルス光を入射するステップと、
前記第一コアへの前記パルス光の入射に伴い前記一端の前記第一コア及び前記第二コアからそれぞれ出射される第一後方散乱光及び第二後方散乱光のうち少なくとも前記第二後方散乱光を受光器で受光するステップと、
少なくとも前記第二後方散乱光の光強度に基づいて、前記パルス光の一部として前記第一コアから前記第二コアへ移動し前記一端に戻る前記第二後方散乱光の光強度に関する後方散乱クロストークを表す後方散乱クロストーク指標を算出するステップと、を備え、
前記後方散乱クロストーク指標を算出する前記ステップは、
前記受光器が受光した各時刻での前記第二後方散乱光の光強度を、前記一端から前記マルチコア光ファイバの長手方向に沿った任意の測定位置までの各位置に対応付けて取得するステップと、
前記一端から前記測定位置まで前記第一コアを光が移動したときの前記マルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値に対する、前記一端から前記測定位置までの前記第二コアの各位置に対応する前記第二後方散乱光の光強度を積分した積分値の比、を含む項を前記後方散乱クロストーク指標として算出するステップと、を含む、光学特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学特性測定システム及び光学特性測定方法に関する。
本出願は、2022年9月7日出願の日本出願第2022-141933号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
複数のコアを有するマルチコア光ファイバでは、複数のコアの間においてクロストークが発生することが知られている。例えば特許文献1、非特許文献1、及び非特許文献2は、このようなクロストークを測定する方法を開示する。これらの方法では、一台又は複数台のOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)装置がマルチコア光ファイバの片端に接続され、当該片端からマルチコア光ファイバの一つのコアにパルス試験光が入射される。そして、複数のコアにおいて後方散乱により当該片端に戻る後方散乱光がOTDR装置に入力され、これら後方散乱光の強度に基づいてクロストークが測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-202827号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】M. Nakazawa, at al., “Nondestructive measurement of mode couplings along a multi - corefiber using a synchronous multi-channel OTDR”, Opt.Express, Vol.20, No.11, pp.12530-12540 (2012).
【文献】A. Nakamura, at al., “Optical Time Domain Reflectometry for Simultaneously CharacterizingForward and Backward Crosstalk along Multi-core Fibers”,IEEE, Journal of Lightwave Technology, pp.1-7 (2022).
【文献】Recommendation ITU-TG.650.1,"Definitions and test methods for linear, deterministic attributes ofsingle-mode fibre and cable", (2020).
【発明の概要】
【0005】
本開示の一実施形態に係る光学特性測定システムは、少なくとも第一コア及び第二コアを有するマルチコア光ファイバの光学特性を測定する光学特性測定システムである。この光学特性測定システムは、第一コアと光学的に結合され、マルチコア光ファイバの一端から第一コアにパルス光を入射可能な少なくとも一つの光源と、少なくとも第二コアと光学的に結合され、第一コアへのパルス光の入射に伴い一端の第一コア及び第二コアからそれぞれ出射される第一後方散乱光及び第二後方散乱光のうち少なくとも第二後方散乱光を受光可能な少なくとも一つの受光器と、受光器と通信可能に接続され、少なくとも第二後方散乱光の光強度に基づいて、パルス光の一部として第一コアから第二コアへ移動し一端に戻る第二後方散乱光の光強度に関する後方散乱クロストークを表す後方散乱クロストーク指標を算出する演算装置と、を備える。演算装置は、受光器が受光した各時刻での第二後方散乱光の光強度を、一端からマルチコア光ファイバの長手方向に沿った任意の測定位置までの各位置に対応付けて取得するデータ処理部と、一端から測定位置まで第一コアを光が移動したときのマルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値に対する、一端から測定位置までの第二コアの各位置に対応する第二後方散乱光の光強度を積分した積分値の比、を含む項を後方散乱クロストーク指標として算出する演算処理部と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、一実施形態に係る光学特性測定システムの一例を示す構成図である。
図2図2は、図1に示すマルチコア光ファイバにおけるクロストークの原理を説明するための図である。
図3図3は、図1に示す演算装置の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、マルチコア光ファイバの長手方向の位置とパワー結合係数との関係を示すグラフである。
図5図5は、マルチコア光ファイバの長手方向の位置と後方散乱クロストークとの関係を示すグラフである。
図6図6は、マルチコア光ファイバの長手方向の位置とパワー結合係数との関係を示す別のグラフである。
図7図7は、マルチコア光ファイバの長手方向の位置と後方散乱クロストークとの関係を示す別のグラフである。
図8図8は、図1に示す光学特性測定システムを用いて実施される光学特性測定方法の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、光学特性測定方法の他の例を示すフローチャートである。
図10図10は、光学特性測定方法の他の例を示すフローチャートである。
図11図11は、光学特性測定方法の他の例を示すフローチャートである。
図12図12は、変形例に係る光学特性測定システムを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[発明が解決しようとする課題]
マルチコア光ファイバのコア間に発生し得るクロストークとして、結合元のコアから結合先のコアに移動した光信号であって、結合元のコアでの光信号の伝播方向と同一方向に伝播する光信号(以下、「並行クロストーク」と称する)と、結合元のコアから結合先のコアに移動した光信号であって、結合元のコアでの光信号の伝播方向とは逆方向に伝播する光信号(以下、「対向クロストーク」と称する)と、が考えられる。対向クロストークの中でも後方散乱に起因するもの(以下、「後方散乱クロストーク」と称する)は、対向クロストークの主要因であることが多い。マルチコア光ファイバの実用化の際、隣接するコア間において、一方のコアを伝搬する信号に対して、他方のコアではその信号と後方散乱する方向に信号を伝搬する。そのため、後方散乱クロストークを測定して評価することは、マルチコア光ファイバの実用上極めて重要である。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1は、後方散乱クロストークを導出する方法を開示していない。一方、非特許文献2は、後方散乱クロストークを導出する方法を開示する。しかし、この方法では、後方散乱クロストークの導出を簡略化するための仮定が置かれており、この仮定の下では、後方散乱クロストークを正確に評価することができない場合がある。
【0009】
本開示は、マルチコア光ファイバのコア間の後方散乱クロストークをより正確に評価できる光学特性測定システム及び光学特性測定方法を提供する。
【0010】
[本開示の効果]
本開示による光学特性測定システム及び光学特性測定方法によれば、マルチコア光ファイバのコア間の後方散乱クロストークをより正確に評価できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一実施形態に係る光学特性測定システムは、少なくとも第一コア及び第二コアを有するマルチコア光ファイバの光学特性を測定する光学特性測定システムである。この光学特性測定システムは、第一コアと光学的に結合され、マルチコア光ファイバの一端から第一コアにパルス光を入射可能な少なくとも一つの光源と、少なくとも第二コアと光学的に結合され、第一コアへのパルス光の入射に伴い一端の第一コア及び第二コアからそれぞれ出射される第一後方散乱光及び第二後方散乱光のうち少なくとも第二後方散乱光を受光可能な少なくとも一つの受光器と、受光器と通信可能に接続され、少なくとも第二後方散乱光の光強度に基づいて、パルス光の一部として第一コアから第二コアへ移動し一端に戻る第二後方散乱光の光強度に関する後方散乱クロストークを表す後方散乱クロストーク指標を算出する演算装置と、を備える。演算装置は、受光器が受光した各時刻での第二後方散乱光の光強度を、一端からマルチコア光ファイバの長手方向に沿った任意の測定位置までの各位置に対応付けて取得するデータ処理部と、一端から測定位置まで第一コアを光が移動したときのマルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値に対する、一端から測定位置までの第二コアの各位置に対応する第二後方散乱光の光強度を積分した積分値の比、を含む項を後方散乱クロストーク指標として算出する演算処理部と、を含む。
【0013】
非特許文献2に記載された方法では、後方散乱クロストークの導出に用いられるコア間のパワー結合係数が、マルチコア光ファイバの位置に依らず一定である(すなわち、パワー結合係数に位置依存性がない)との仮定の下で、後方散乱クロストークを導出している。そのため、パワー結合係数の位置依存性がある場合には、後方散乱クロストークを正確に評価できないという問題がある。そこで、本発明者らは、パワー結合係数の位置依存性を考慮して後方散乱クロストークを正確に評価するための方法について検討を重ねた。後方散乱クロストークは、マルチコア光ファイバの一端から第一コアに入射されて測定位置に至る光の強度に対する、第一コアから第二コアに移動して当該一端に戻る光のうちの後方散乱に起因する光の強度の比で定義できる。本発明者らは、検討を重ねる過程で、第一コアの測定位置における光の強度については、第一コアを一端から測定位置まで光が移動したときのマルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値によって推定できることを見出した。更に、本発明者らは、第二コアにおいて当該一端に戻る光の強度については、第一コアにパルス光を入射した際の、当該一端から任意の測定位置までの各位置に対応する第二後方散乱光の光強度の積分値で表すことを着想した。そして、本発明者らは、損失値に対する積分値の比を含む項を、後方散乱クロストークを表す後方散乱クロストーク指標として扱うことができることを見出した。このように第二後方散乱光の光強度の積分値を用いれば、当該一端から測定位置までの全ての第二後方散乱光の光強度を用いて後方散乱クロストーク指標を算出できる。従って、上記の光学特性測定システムによれば、パワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱クロストークを正確に評価することが可能になる。
【0014】
(2)上記(1)に記載の光学特性測定システムにおいて、受光器は、第一コアと光学的に結合されてもよく、一端の第一コアから出射される第一後方散乱光を受光可能であってもよい。データ処理部は、受光器が受光した各時刻での第一後方散乱光の光強度を、一端から測定位置までの各位置に対応付けて取得してもよい。演算処理部は、一端から測定位置までの第一コアの各位置に対応する第一後方散乱光の光強度を用いて、一端から測定位置まで第一コアをパルス光が移動したときのマルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値を算出してもよい。この場合、第一コアから出射される第一後方散乱光の光強度を用いて、マルチコア光ファイバの任意の位置での伝送損失を表す損失値をより正確に算出することができる。その結果、損失値に対する積分値の比を含む項として算出される後方散乱クロストーク指標を用いて、マルチコア光ファイバの任意の位置での後方散乱クロストークをより正確に評価することが可能となる。
【0015】
(3)上記(1)又は(2)に記載の光学特性測定システムにおいて、演算処理部は、損失値をD11とし、積分値をD[W・m]とした場合に、以下の式(1)によって表される損失値と、以下の式(2)によって表される積分値とを用いて、以下の式(3)によって表される比を算出してもよい。本発明者らは、後方散乱クロストーク指標を算出するための数式について検討を重ねる過程で、式(3)によって表される比D/D11を含む項を、後方散乱クロストークに比例する後方散乱クロストーク指標として利用できることを見出した。この比D/D11を含む項を用いれば、第一コアと第二コアとのパワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱クロストークを正確に評価することが可能となる。
【数1】
【数2】
【数3】
但し、一端を原点としたときのマルチコア光ファイバの長手方向に沿った位置をz[m]とし、位置z[m]に対応する第二後方散乱光の光強度をPbs2(z)[W]とし、測定位置をz[m]とし、マルチコア光ファイバの伝送損失係数をα[/m]とする。
【0016】
(4)上記(3)に記載の光学特性測定システムにおいて、演算処理部は、式(3)によって表される比に、以下の式(4)によって表される係数A[/(W・m)]、又は以下の式(5)によって表される係数B[/(W・m)]を乗じることによって、後方散乱クロストーク指標を算出してもよい。本発明者らは、後方散乱クロストーク指標を算出するための数式について検討を重ねる過程で、式(3)によって表される比D/D11に、式(4)によって表される係数A[/(W・m)]、又は式(5)によって表される係数B[/(W・m)]を乗じることで、後方散乱クロストークを直接算出できることを見出した。従って、比D/D11に係数A[/(W・m)]又は係数B[/(W・m)]を乗じた値を用いれば、後方散乱クロストークを直接的に且つ正確に評価することが可能となる。
【数4】
【数5】
但し、一端に対応する第一後方散乱光の光強度をPbs1(0)[W]とし、パルス光の光強度をP[W]とし、マルチコア光ファイバを移動する際のパルス光の群速度をV[m/s]とし、パルス光のパルス幅をW[s]とし、マルチコア光ファイバの散乱断面積をSとし、マルチコア光ファイバのレイリー散乱に起因する伝送損失係数をα[/m]とする。
【0017】
(5)上記(2)に記載の光学特性測定システムにおいて、演算処理部は、伝送損失をD12[W1/2]とし、積分値をD[W・m]とした場合に、以下の式(6)によって表される損失値と、以下の式(7)によって表される積分値とを用いて、以下の式(8)によって表される比を算出してもよい。本発明者らは、後方散乱クロストーク指標を算出するための数式について検討を重ねる過程で、式(8)によって表される比D/D12を含む項を、後方散乱クロストークに比例する後方散乱クロストーク指標として利用できることを見出した。この比D/D12を含む項を用いれば、第一コアと第二コアとのパワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱クロストークを正確に評価することが可能となる。
【数6】
【数7】
【数8】
但し、一端を原点としたときのマルチコア光ファイバの長手方向に沿った位置をz[m]とし、位置z[m]に対応する第一後方散乱光の光強度をPbs1(z)[W]とし、位置z[m]に対応する第二後方散乱光の光強度をPbs2(z)[W]とし、測定位置をz[m]とする。
【0018】
(6)上記(5)に記載の光学特性測定システムにおいて、演算処理部は、式(8)によって表される比に、以下の式(9)によって表される係数A[/(W1/2・m)]、又は以下の式(10)によって表される係数B[/(W1/2・m)]を乗じることによって、後方散乱クロストーク指標を算出してもよい。本発明者らは、後方散乱クロストーク指標を算出するための数式について検討を重ねる過程で、式(8)によって表される比D/D12に、式(9)によって表される係数A[/(W1/2・m)]、又は式(10)によって表される係数B[/(W1/2・m)]を乗じることで、後方散乱クロストークを直接算出できることを見出した。従って、比D/D12に係数A[/(W1/2・m)]又は係数B[/(W1/2・m)]を乗じた値を用いれば、後方散乱クロストークを直接的に且つ正確に評価することが可能となる。
【数9】
【数10】
但し、一端に対応する第一後方散乱光の光強度をPbs1(0)[W]とし、パルス光の光強度をP[W]とし、マルチコア光ファイバを移動する際のパルス光の群速度をV[m/s]とし、パルス光のパルス幅をW[s]とし、マルチコア光ファイバの散乱断面積をSとし、マルチコア光ファイバのレイリー散乱に起因する伝送損失係数をα[/m]とする。
【0019】
(7)上記(2)から(6)のいずれかに記載の光学特性測定システムは、光源からのパルス光を第一コアに導く一方で、第一コアからの第一後方散乱光及び第二コアからの第二後方散乱光を受光器に導く光学系を更に備えてもよい。この場合、パルス光を第一コアに入射し、第一コア及び第二コアからそれぞれ出射される第一後方散乱光及び第二後方散乱光を受光器で受光する構成を、容易に実現できる。
【0020】
(8)上記(1)から(7)のいずれかに記載の光学特性測定システムは、マルチコア光ファイバの長手方向に沿った位置と後方散乱クロストーク指標との関係を示す両対数グラフを表示する表示部を更に備えてもよい。このように両対数グラフを用いれば、マルチコア光ファイバの位置に対する後方散乱クロストーク指標の変化を容易に捉えることが可能になる。これにより、後方散乱クロストークの評価を容易に行うことができる。
【0021】
(9)本開示の一実施形態に係る光学特性測定方法は、少なくとも第一コア及び第二コアを有するマルチコア光ファイバの光学特性を測定する光学特性測定システムを用いた光学特性測定方法である。この光学特性測定方法は、マルチコア光ファイバの一端から第一コアにパルス光を入射するステップと、第一コアへのパルス光の入射に伴い一端の第一コア及び第二コアからそれぞれ出射される第一後方散乱光及び第二後方散乱光のうち少なくとも第二後方散乱光を受光器で受光するステップと、少なくとも第二後方散乱光の強度に基づいて、パルス光の一部として第一コアから第二コアへ移動し一端に戻る第二後方散乱光の光強度に関する後方散乱クロストークを表す後方散乱クロストーク指標を算出するステップと、を備える。後方散乱クロストーク指標を算出するステップは、受光器が受光した各時刻での第二後方散乱光の光強度を、一端からマルチコア光ファイバの長手方向に沿った任意の測定位置までの各位置に対応付けて取得するステップと、一端から測定位置まで第一コアを光が移動したときのマルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値に対する、一端から測定位置までの第二コアの各位置に対応する第二後方散乱光の光強度を積分した積分値の比、を含む項を後方散乱クロストーク指標として算出するステップと、を含む。
【0022】
非特許文献2に記載された方法では、後方散乱クロストークの導出に用いられるコア間のパワー結合係数が、マルチコア光ファイバの位置に依らず一定である(すなわち、パワー結合係数に位置依存性がない)との仮定の下で、後方散乱クロストークを導出している。そのため、パワー結合係数の位置依存性がある場合には、後方散乱クロストークを正確に評価できないという問題がある。そこで、本発明者らは、パワー結合係数の位置依存性を考慮して後方散乱クロストークを正確に評価するための方法について検討を重ねた。後方散乱クロストークは、マルチコア光ファイバの一端から第一コアに入射されて測定位置に至る光の強度に対する、第一コアから第二コアに移動して当該一端に戻る光のうちの後方散乱に起因する光の強度の比で定義できる。本発明者らは、検討を重ねる過程で、第一コアの測定位置における光の強度については、第一コアを一端から測定位置まで光が移動したときのマルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値によって推定できることを見出した。更に、本発明者らは、第二コアにおいて当該一端に戻る光の強度については、第一コアにパルス光を入射した際の、当該一端から任意の測定位置までの各位置に対応する第二後方散乱光の光強度の積分値で表すことを着想した。そして、本発明者らは、損失値に対する積分値の比を含む項を、後方散乱クロストークを表す後方散乱クロストーク指標として扱うことができることを見出した。このように第二後方散乱光の光強度の積分値を用いれば、当該一端から測定位置までの全ての第二後方散乱光の光強度を用いて後方散乱クロストーク指標を算出できる。従って、上記の光学特性測定方法によれば、パワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱クロストークを正確に評価することが可能になる。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る測定システム及び測定方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0024】
[光学特性測定システム]
図1は、本実施形態に係る光学特性測定システム1を示す構成図である。光学特性測定システム1は、測定対象となるマルチコア光ファイバ(MCF:Multi-core optical fiber、以下「MCF」と称する)10の光学特性を測定するためのシステムである。MCF10は、例えば、第一コア11及び第二コア12を有する。第一コア11及び第二コア12は、MCF10の長手方向において一端から他端まで延在している。MCF10が有するコアの数は、2つに限らず、3つ以上であってよい。MCF10は、例えば、各コアを別々のチャネルとして光伝送を可能にする非結合型MCFとしてよい。
【0025】
光学特性測定システム1は、例えば、測定装置30と、演算装置50と、を備える。測定装置30は、例えば、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)法を用いてMCF10の光学特性を測定可能なOTDR装置である。OTDR法は、MCF10の片端からMCF10の光学特性を容易に測定できるため、MCF10の光学特性を評価する技術として広く用いられている。具体的には、測定装置30は、測定対象のMCF10の一端にパルス光Lを入射し、MCF10の一端に戻る後方散乱光の光強度の距離分布(光強度分布)を測定する。以下、パルス光Lが入射されるMCF10の一端を「入射端10a」と称し、その反対側のMCF10の他端を「出射端10b」と称する。
【0026】
演算装置50は、測定装置30が測定した結果を用いて、第一コア11と第二コア12との間の後方散乱クロストーク(Crosstalk、以下「XT」と称する)を表す後方散乱XT指標を算出する。後方散乱XT指標は、MCF10の光学特性の例である。「後方散乱XT指標」は、「後方散乱XT」の変化を表す指標値である。「後方散乱XT」を表す指標値とは、「後方散乱XT」の変化に応じて変化する値、すなわち、後方散乱XTに追従して変化する値を意味する。「後方散乱XT」を表す指標値は、例えば、「後方散乱XT」に比例する値であってもよいし、「後方散乱XT」自体を示す値であってもよい。本実施形態では、「後方散乱XT指標」を、「後方散乱XT」自体を示す値として説明する。
【0027】
ここで、図2を参照して、XTの原理について説明する。図2は、XTの原理を説明するための図である。ここでは、便宜上、連続光LcwがMCF10の入射端10aに入射された場合を想定する。図2に示されるように、入射端10aから第一コア11に入射された連続光Lcwは、第一コア11において後方散乱及びXTを起こしながら、入射端10aから出射端10bまで移動する。図2において、後方散乱が点線の矢印で示され、XTが二点鎖線の矢印で示されている。連続光Lcwが後方散乱を起こす場合、第一コア11において連続光Lcwの一部の光Lがレイリー散乱によって後方へ移動し、第一コア11を逆方向に移動して入射端10aに戻る。
【0028】
連続光LcwがXTを起こす場合、連続光Lcwの一部がモード結合により第一コア11から第二コア12に漏れ出し、第二コア12を伝播する。ここで、XTとしては、第一コア11から第二コア12に漏れ出した連続光Lcwの一部の光Lが、第一コア11を伝播する連続光Lcwと同一方向に第二コア12を伝播する現象(以下、「並行XT」と称する)と、第一コア11から第二コア12に漏れ出した連続光Lcwの一部の光Lが、後方散乱によって第一コア11を伝播する連続光Lcwとは逆方向に第二コア12を伝播する現象(以下、「後方散乱XT」と称する)と、がある。後方散乱XTが起こる場合としては、次の2通りが考えられる。1つは、第一コア11において連続光Lcwの一部の光Lが後方散乱を起こし、更に、その光Lの一部が並行XTにより第一コア11から第二コア12に漏れ出し、その漏れ出した一部が第二コア12において入射端10aに向かって移動する場合である。他の1つは、連続光Lcwの一部が並行XTにより第一コア11から第二コア12に漏れ出し、その漏れ出した一部が、第二コア12において後方散乱を起こした場合である。これらの場合に、第二コア12を逆方向に伝播する光Lが生じる。
【0029】
第一コア11の出射端10bでの連続光Lcwの光強度をPとし、第二コア12の出射端10bでの光Lの光強度をPとすると、並行XTは、出射端10bでの光強度Pに対する、後方散乱による光の出射端10bでの光強度Pの比P/Pで定義される。一方、第二コア12の入射端10aでの光Lの光強度をPb2とすると、後方散乱XTは、出射端10bでの光強度Pに対する出射端10bでの光強度Pb2の比Pb2/Pで定義される。MCF10を実用化する際には、第一コア11と第二コア12とが互いに隣接する場合には、第一コア11を伝搬する光信号に対して、第二コア12では逆方向に光信号を伝搬する。そのため、XTのうち逆方向に進むXTの主要因であることが多い後方散乱XTを測定することは、MCF10の実用上極めて重要である。
【0030】
非特許文献2は、OTDR装置を用いて並行XT及び後方散乱XTを測定する方法を開示する。この方法では、OTDR装置から出力されるパルス試験光をMCFの片端に入射し、当該片端の各コアからの後方散乱光に基づいて上記の光強度P、P、及びPb2に対応する光強度を推定し、並行XT及び後方散乱XTといった光学特性を導出している。このようにOTDR装置を用いた方法では、MCFの両端に測定用の装置をそれぞれ接続することが難しい状況であっても、MCFの片端にOTDR装置を接続するだけで、当該片端から得られる情報に基づいてMCFの光学特性を容易に導出することが可能となる。更に、OTDR装置を用いた方法によれば、MCFの任意の位置での光学特性を非破壊で測定することも可能となる。
【0031】
しかしながら、非特許文献2が開示する方法では、後方散乱XTの導出の際、後方散乱XTの導出に用いるパワー結合係数がMCFの長手方向の位置に依らず一定である(すなわち、パワー結合係数に位置依存性がない)との仮定が置かれている。そのため、パワー結合係数がMCFの位置に応じて変化する場合には、後方散乱XTを正確に評価できないという問題がある。そこで、本実施形態では、OTDR装置を用いた後方散乱XTの導出方法に着目し、パワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱XTを正確に評価するための方法を提案する。その具体的な方法については後述する。
【0032】
再び図1を参照する。測定装置30は、例えば、光源31と、受光器33と、サーキュレーター35と、スイッチ37と、を有する。光源31と、受光器33と、サーキュレーター35と、スイッチ37とは、例えば、シングルモードファイバ(SMF:Single Mode Optical Fiber)等の光導波路により接続される。サーキュレーター35及びスイッチ37は、MCF10の入射端10aに対して、例えば、ファンイン・ファンアウト(FIFO:Fan-In/Fan-Out)等の光デバイスにより接続される。
【0033】
光源31は、サーキュレーター35を介して入射端10aの第一コア11と光学的に結合されている。具体的には、光源31は、光導波路を介してサーキュレーター35の入力ポートに接続されている。サーキュレーター35の入出力ポートは、別の光導波路を介して入射端10aの第一コア11に接続されている。光源31は、例えば、パルス光Lを出力するパルス光源である。パルス光Lは、その出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れる光をいう。光源31から出力されたパルス光Lは、サーキュレーター35を経由して入射端10aの第一コア11に入射する。第一コア11へのパルス光Lの入射に伴い、第一コア11においてパルス光Lの一部が後方散乱により入射端10aに戻る。更に、第一コア11へのパルス光Lの入射に伴い、パルス光Lの他の一部が後方散乱XTにより第一コア11から第二コア12に移動して入射端10aに戻る。以下、第一コア11において入射端10aに戻る光を「第一後方散乱光L」と称し、第二コア12において入射端10aに戻る光を「第二後方散乱光L」と称する。
【0034】
受光器33は、スイッチ37を介して入射端10aの第二コア12と光学的に結合されている。更に、受光器33は、スイッチ37及びサーキュレーター35を介して入射端10aの第一コア11と光学的に結合されている。具体的には、受光器33は、光導波路を介してスイッチ37の出力ポートに接続されている。スイッチ37の入力ポートは、別の光導波路を介して入射端10aの第二コア12に接続されている。スイッチ37の別の入力ポートは、別の光導波路を介してサーキュレーター35の出力ポートに接続されている。スイッチ37は、2つの入力ポートと出力ポートとの間を接続する光路の切り替えを行う。
【0035】
第一コア11の入射端10aから出射された第一後方散乱光Lは、サーキュレーター35及びスイッチ37を経由して、受光器33に受光される。第二コア12の入射端10aから出射された第二後方散乱光Lは、スイッチ37を経由して受光器33に受光される。このように、サーキュレーター35及びスイッチ37は、光源31からのパルス光Lを第一コア11に導く一方で、第一コア11からの第一後方散乱光L及び第二コア12からの第二後方散乱光Lを受光器33に導く光学系39を構成する。
【0036】
受光器33は、光源31がパルス光Lを出射した時刻から所定のサンプリング周期で、第一後方散乱光Lの光強度を測定する。そして、受光器33は、サンプリング周期ごとに、測定した第一後方散乱光Lの光強度を、第一光強度データDL1として演算装置50に送信する。更に、受光器33は、光源31がパルス光Lを出射した時刻から所定のサンプリング周期で、第二後方散乱光Lの光強度を測定する。そして、受光器33は、サンプリング周期ごとに、測定した第二後方散乱光Lの光強度を、第二光強度データDL2として演算装置50に送信する。所定のサンプリング周期は、光源31と同期したサンプリング周期生成装置により設定されてよい。
【0037】
演算装置50は、測定装置30と通信可能に接続されている。演算装置50は、測定装置30からの第一光強度データDL1及び第二光強度データDL2を用いて、後方散乱XTを算出する。本実施形態では、上述したように、「後方散乱XT指標」は、「後方散乱XT」自体を示す値として説明する。そのため、以下では、「後方散乱XT」を「後方散乱XT指標」に適宜置き換えて説明できる。演算装置50は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)と、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)と、ハードディスク装置等の補助記憶装置と、入力デバイスである入力キー等の入力装置と、ディスプレイ等の出力装置と、通信モジュールと、を含むコンピュータとして構成されている。
【0038】
演算装置50の各機能は、CPU、RAM、及びROM等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで、入力装置、出力装置、及び通信モジュールを動作させると共に、主記憶装置及び補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。演算装置50の配置については特に限定されない。演算装置50は、測定装置30の外部に配置されてなくてもよい。演算装置50は、測定装置30の内部に配置されてもよい。すなわち、演算装置50は、測定装置30の一部に組み込まれてもよい。
【0039】
図3は、演算装置50の機能的構成を示すブロック図である。図3に示されるように、演算装置50は、機能的構成として、例えば、データ処理部51と、演算処理部53と、結果表示部55(「表示部」の一例)と、を有する。データ処理部51は、受光器33から所定のサンプリング周期で送信される第一光強度データDL1を受け取り、第一光強度データDL1が示す第一後方散乱光Lの光強度を時系列順に記憶する。そして、データ処理部51は、光源31がパルス光Lを出射した時刻から、受光器33が第一後方散乱光Lを受光する時刻までの時間を、入射端10aからのMCF10の長さに換算する。これにより、データ処理部51は、受光器33が受光した各時刻での第一後方散乱光Lの光強度を、入射端10aから出射端10bまでのMCF10の長手方向に沿った各位置に対応付けて記憶する。
【0040】
データ処理部51は、MCF10の長手方向に沿った各位置に対応付けられた第一光強度データDL1の時系列データである第一時系列データDT1を演算処理部53に出力する。データ処理部51は、MCF10の入射端10aから出射端10bまでの全ての第一光強度データDL1を取得したタイミングで、第一時系列データDT1を演算処理部53に出力してもよい。データ処理部51は、第一光強度データDL1を取得する度に、その第一光強度データDL1を取得するまでの第一時系列データDT1をリアルタイムで演算処理部53に出力してもよい。
【0041】
データ処理部51は、受光器33から所定のサンプリング周期で送信される第二光強度データDL2を受け取り、第二光強度データDL2が示す第二後方散乱光Lの光強度を時系列順に記憶する。そして、データ処理部51は、光源31がパルス光Lを出射した時刻から、受光器33が第二後方散乱光Lを受光する時刻までの時間を、入射端10aからのMCF10の長さに換算する。これにより、データ処理部51は、受光器33が受光した各時刻での第二後方散乱光Lの光強度を、入射端10aから出射端10bまでのMCF10の長手方向に沿った各位置に対応付けて記憶する。データ処理部51は、例えば、一つのパルスに対する第一コア11の測定が終了した後、スイッチ37を切り替えて次のパルスに対する第二コア12の測定を行うことにより、第一光強度データDL1と第二光強度データDL2とを区別して取得することが可能である。より具体的には、データ処理部51は、受光器33と第一コア11とが光学的に結合された状態において、例えば、N回(Nは1以上の整数)のパルスが第一コア11に入射されたときに第一コア11から得られる第一後方散乱光Lの光強度をN回取得してもよく、その光強度の平均を第一光強度データDL1として取得してもよい。第一光強度データDL1の測定が終了し、スイッチ37により受光器33と第二コア12とが光学的に結合された状態に切り替えられた後、データ処理部51は、N回のパルスが第一コア11に入射されたときに第二コア12から得られる第二後方散乱光Lの光強度をN回取得してもよく、その光強度の平均を第二光強度データDL2として取得してもよい。
【0042】
データ処理部51は、MCF10の長手方向に沿った各位置に対応付けられた第二光強度データDL2の時系列データである第二時系列データDT2を演算処理部53に出力する。データ処理部51は、MCF10の入射端10aから出射端10bまでの全ての第二光強度データDL2を取得したタイミングで、第二時系列データDT2を演算処理部53に出力してもよい。データ処理部51は、第二光強度データDL2を取得する度に、その第二光強度データDL2を取得するまでの第二時系列データDT2をリアルタイムで演算処理部53に出力してもよい。
【0043】
演算処理部53は、データ処理部51から出力された第一時系列データDT1及び第二時系列データDT2を用いて、後方散乱XTを算出する。まず、再び図2を参照しながら、後方散乱XTの理論式について説明する。ここでは、図2に示すように、光強度Pを有する連続光Lcwが入射端10aから第一コア11に入射される場合を想定する。
【0044】
第一コア11の出射端10bでの光強度をPとし、第二コア12の出射端10bでの光強度をPとすると、光強度P及び光強度Pは、それぞれ次の式(11)及び式(12)により表すことができる。式(11)及び式(12)は、例えば非特許文献2の記載に基づいて導出することができる。
【数11】
【数12】
式(11)及び式(12)において、Pは第一コア11に入射する光の光強度を示し、αはMCF10の伝送損失係数を示し、hは第一コア11と第二コア12との間のパワー結合係数を示し、LはMCF10の長手方向の全長を示している。但し、式(11)及び式(12)では、hLが1よりも十分に小さい(hL≪1)との近似が用いられている。hL≪1との近似はXTが十分に小さいことを表している。従って、hL≪1との近似は、非結合型MCFにおいて有効である。
【0045】
MCF10の入射端10aを基準(すなわち原点)として定義されるMCF10の長手方向の位置をzとし、位置zから位置z+dzまでの間に後方散乱される光の光強度をdPb2とすると、光強度dPb2は、次の式(13)によって表すことができる。
【数13】
式(13)において、SはMCF10の散乱断面積を示し、αはMCF10のレイリー散乱起因の伝送損失係数を示している。そして、光強度dPb2を入射端10aから出射端10bまで(すなわち、z=0からz=Lまで)積分した光強度dPb2の積分値をPb2とすると、積分値Pb2は、次の式(14)により表すことができる。
【数14】
【0046】
積分値Pb2は、第二コア12の入射端10aでの光強度に相当する。そのため、後方散乱XTは、第一コア11の出射端10bでの光強度Pに対する、第二コア12の積分値Pb2の比Pb2/Pで定義することができる。従って、後方散乱XTをXTと表すと、XTは、次の式(15)のように表すことができる。
【数15】
【0047】
次に、OTDR装置を用いた後方散乱XTの導出方法について説明する。ここでは、パルス幅W及び光強度Pを有するパルス光Lが入射端10aの第一コア11に入射される場合を想定する。第一コア11及び第二コア12を導波する際のパルス光Lの群速度をVとする。この場合、入射端10aの第一コア11及び第二コア12からそれぞれ出射される第一後方散乱光L及び第二後方散乱光Lを用いて、XTが算出される。
【0048】
第一コア11の位置zにおいて後方散乱した第一後方散乱光Lの光強度をPbs1(z)とし、第二コア12の位置zにおいて後方散乱した第二後方散乱光Lの光強度をPbs2(z)とすると、光強度Pbs1(z)及び光強度Pbs2(z)は、それぞれ次の式(16)及び式(17)により表すことができる。
【数16】
【数17】
但し、式(16)及び式(17)において、hzが1よりも十分に小さい(hz≪1)との近似が用いられている。更に、式(16)及び式(17)において、入射端10a(z=0)での第一コア11への光の入射強度をPとし第二コア12への光の入射強度をゼロとする境界条件が設定されている。
【0049】
後方散乱XTの理論式を求めた際と同様に光強度Pbs2(z)を積分すると、入射端10aから出射端10bまでの各位置に対応する光強度Pbs2(z)の積分値(以下、「光強度積分値D」と称する)は、式(14)及び式(15)を用いて、次の式(16)によって表すことができる。式(16)の光強度積分値Dは、前述した理論式の式(14)の積分値Pb2に対応する。
【数18】
【0050】
一方、OTDR装置を用いた方法では、前述した理論式の式(11)の光強度P(すなわち、入射端10aから第一コア11に入射して出射端10bから出射される光の強度)については、直接測定することはできない。そこで、exp(―αL)が、入射端10aから出射端10bまで光(本実施形態では「パルス光L」)が伝送されたときのMCF10の伝送損失を表す値(以下、「損失値D11」と称する)であり、光強度Pに依存して変化するものであることを考慮し、損失値D11を用いて光強度Pを推定することを考える。そうすると、次の式(19)によって表される損失値D11に対する、式(18)によって表される光強度積分値Dの比D/D11をとれば、後方散乱XTを算出可能であると考えられる。伝送損失係数αは、例えば、非特許文献3に記載された方法によって求めることができる。但し、非特許文献3では、伝送損失係数αの単位が(dB/unit length)で示されているが、本開示では、伝送損失係数αの単位は(/unit length)で示される。この単位の変換は、非特許文献3における伝送損失係数αにln(10)/10を乗ずることで行うことができる。
【数19】
【0051】
損失値D11に対する光強度積分値Dの比D/D11は、次の式(20)のように表される。そして、前述した理論式によって表される式(12)のXTを式(20)に代入すると、式(20)は次の式(21)のように書き換えられ、式(21)は、次の式(22)のように書き換えられる。
【数20】
【数21】
【数22】
そして、次の式(23)によって表される係数Aを用いると、式(22)は次の式(24)のように表すことができる。
【数23】
【数24】
【0052】
式(23)の係数Aについて、群速度Vは、光速度c及びMCF10の実効屈折率neffを用いて、次の式(25)のように表される。実効屈折率neffは、MCF10に応じて定まる定数である。パルス幅Wは、光源31への設定値によって定まる定数である。
【数25】
係数Aの光強度Pは、光源31への設定値によって定まる定数として扱ってもよいが、光強度Pは、MCF10の入射端10aへの入射時のパルス光Lの光強度であるから、実際には、光源31からMCF10に入射されるまでの接続点での損失、及び光源31とMCF10とを接続する媒体の挿入損失等が生じ得る。しかし、特に接続点の損失は、誤差等の影響が大きいため、容易に測定できない。そこで、光強度Pを別の定数で代替してもよい。例えば、式(16)にz=0を代入すると、入射端10aでの第一後方散乱光Lの光強度Pbs1(0)は、次の式(26)のように表され、式(26)は次の式(27)のように書き換えられる。
【数26】
【数27】
【0053】
従って、式(23)によって表される係数Aは、次の式(28)によって表される係数Bに書き換えることができる。この場合、XTを表す(24)は、次の式(29)のように書き換えられる。
【数28】
【数29】
このように、式(20)の比D/D11に対して、式(23)の係数A、又は式(28)の係数Bを乗じることによって、式(24)又は式(29)のXTを求めることができる。つまり、比D/D11に係数Aを乗じた項、及び比D/D11に係数Bを乗じた項のいずれも、XTを表す項として用いることができる。係数Aを用いて表される式(24)は、MCF10と光源31との間の伝送路での損失、及びMCF10と受光器33との間の伝送路での損失がそれぞれゼロであるとの仮定の下が置かれている。そのため、これらの損失を考慮する場合、光源31からMCF10へ光が入射するまでの伝送路の伝送損失をαinとし、MCF10から受光器33に光が入射するまでの伝送路の伝送損失をαоutとすると、係数Aを以下の式(30)のように書き換えることもできる。
【数30】
【0054】
XTを表す式は、上述した式(24)又は式(29)に限られない。例えば、式(24)又は式(29)の損失値D11が表す伝送損失(exp(-αL))は、次のように書き換えることもできる。exp(-αL)は、伝送損失係数αに位置依存性がある場合には、入射端10aから出射端10bまでパルス光Lが進む際に減少した光強度の割合として定義できる。そのため、exp(-αL)は、第一コア11の入射端10aでの光強度Pbs1(0)と、第一コア11の出射端10bでの光強度Pbs1(L)との比によって表すことができる。但し、第一後方散乱光Lを用いてexp(-αL)を求める場合、入射端10aから出射端10bまで光が移動した後に、出射端10bから入射端10aまで戻ってきた光を測定するため、光の移動した距離は2倍となる。これは、MCF10中を光が2回伝送されたことと等価であるから、光強度Pbs1(0)と光強度Pbs2(L)との比の平方根を算出することによって、exp(-αL)を求めることができる。従って、exp(-αL)は、式(31)のように表すことができる。
【数31】
【0055】
式(31)に式(22)を代入すると、式(22)は、次の式(32)のように書き換えられる。ここで、式(32)の光強度Pbs1(L)の平方根は、パルス光Lが入射端10aから出射端10bまで移動した際のMCF10の伝送損失を表す値(以下、「損失値D12」と称する)として扱うことができる。そこで、次の式(33)によって表される損失値D12と、次の式(33)によって表される係数Aを用いると、式(32)は、次の式(35)のように書き表すことができる。
【数32】
【数33】
【数34】
【数35】
係数Aを用いて表される式(34)は、係数Aを用いて表される式(23)と同様、MCF10と光源31との間の伝送路での損失、及びMCF10と受光器33との間の伝送路での損失がそれぞれゼロであるとの仮定が置かれている。そのため、これらの損失を考慮する場合、光源31からMCF10へ光が入射するまでの伝送路の伝送損失をαinとし、MCF10から受光器33に光が入射するまでの伝送路の伝送損失をαоutとすると、係数Aを以下の式(36)のように書き換えることもできる。
【数36】
【0056】
更に、上述した式(27)の関係を用いれば、式(32)は、次の式(37)のように書き換えることもできる。この場合、次の式(38)によって表される係数Bを用いると、式(37)は、次の式(39)のように書き表すことができる。
【数37】
【数38】
【数39】
このように、比D/D12に対して、式(36)の係数A、又は式(38)の係数Bを乗じることによって、式(35)又は式(39)のXTを求めることもできる。つまり、比D/D12に係数Aを乗じた項、及び比D/D12に係数Bを乗じた項のいずれも、XTを表す項として用いることができる。
【0057】
以上に説明したように、上述した式(24)、式(29)、式(35)、及び式(39)のいずれかによって、後方散乱XTを求めることが可能である。上述したように、損失値D11及びD12は、第一後方散乱光Lの光強度Pbs1(z)を用いて求めることができ、光強度積分値Dは、第二後方散乱光Lの光強度Pbs2(z)を用いて求めることができる。そして、係数A、係数B、係数A、及び係数Bは、光源31の設定、及びMCF10の特性等に応じて定まる定数として設定できる。従って、第一後方散乱光Lの光強度Pbs2(z)、及び第二後方散乱光Lの光強度Pbs2(z)を測定すれば、後方散乱XTを求めることが可能である。式(24)、式(29)、式(35)、及び式(39)のいずれにも含まれる光強度積分値Dは、MCF10の入射端10aから出射端10bまでの各位置に対応する光強度Pbs2(z)の積分値であるため、いずれの式を用いても、MCF10の長手方向の各位置での光強度Pbs2(z)が全て含まれた値として、後方散乱XTが算出される。その結果、第一コア11と第二コア12との間のパワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱XTを正確に算出して評価することが可能となる。但し、式(24)又は式(29)のXTを求める際に用いられる式(19)は、伝送損失係数αがMCF10の長手方向の位置に関わらず一定であるとの仮定の下で得られる式であり、式(19)の損失値D11は、この条件の下で得られるMCF10の伝送損失を表している。一方、式(35)又は式(39)のXTを求める際に用いられる式(33)には上述したような仮定が置かれていないため、式(33)の損失値D12は、伝送損失係数αがMCF10の長手方向の位置に応じて変化する場合であっても、MCF10の伝送損失を正確に表すことができる。従って、伝送損失係数αの位置依存性を考慮すると、式(33)の損失値D12は、式(19)の損失値D11よりも正確にMCF10の伝送損失を表すことができる。
【0058】
上述した説明では、入射端10aから出射端10bまでのMCF10の全長Lに対応する後方散乱XTを算出する場合を説明した。しかし、入射端10aから任意の測定位置でのMCF10の長さに対応する後方散乱XTを算出することも可能である。例えば、測定位置をzとすると、入射端10aから測定位置までのMCF10の長さをzと表すことができるため、上述した式(24)、式(29)、式(35)、及び式(39)はそれぞれ、次の式(40)、式(41)、式(42)、及び式(43)に書き換えることができる。これら式(40)、式(41)、式(42)、及び式(43)によって、MCF10の任意の測定位置zでの後方散乱XTを算出することが可能となる。
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
【0059】
以上では、OTDR装置を用いた後方散乱XTの導出方法について具体的に説明した。しかし、OTDR装置を用いて並行XTを導出することも可能である。並行XTをXTと表すと、XTは、第一コア11の出射端10b(位置z=L)での光強度Pbs1(L)と、第二コア12の出射端10b(位置z=L)での光強度Pbs2(L)とを用いて、次の式(44)のように表すことができる。XTの具体的な導出方法については、例えば非特許文献2に記載されている。
【数44】
【0060】
以上の後方散乱XTの導出方法を踏まえ、図3を参照しながら、演算処理部53による処理の流れを説明する。図3に示されるように、演算処理部53は、機能的構成として、例えば、損失値算出部53aと、積分値算出部53bと、XT算出部53cと、を含む。損失値算出部53aは、データ処理部51から第一時系列データDT1を受け取り、第一時系列データDT1から、上述した式(19)又は式(33)を用いて損失値D11又はD12を算出する。損失値算出部53aは、損失値D11又はD12を示す損失値データD10をXT算出部53cに出力する。一方、積分値算出部53bは、データ処理部51から第二時系列データDT2を受け取り、第二時系列データDT2から、上述した式(18)を用いて光強度積分値Dを算出する。積分値算出部53bは、光強度積分値Dを示す積分値データD20をXT算出部53cに出力する。
【0061】
XT算出部53cは、損失値算出部53a及び積分値算出部53bからそれぞれ出力される損失値データD10及び積分値データD20を用いて、後方散乱XTを算出する。例えば、損失値データD10が損失値D11を示す場合、XT算出部53cは、損失値D11に対する光強度積分値Dの比D/D11(式(20)参照)を算出する。そして、XT算出部53cは、比D/D11に係数A又は係数Bを乗じることにより、式(24)又は式(29)によって表されるXTを算出する。
【0062】
損失値データD10が損失値D12を示す場合、XT算出部53cは、損失値D12に対する光強度積分値Dの比D/D12を算出する。そして、XT算出部53cは、比D/D12に係数A又は係数Bを乗じることにより、式(35)又は式(39)によって表されるXTを算出する。XT算出部53cは、算出したXTを含む算出結果D30を結果表示部55に出力する。算出結果D30には、XTに加えて、パワー結合係数、MCF10の長手方向の位置といった各種パラメータが含まれてよい。
【0063】
続いて、図4及び図5を用いて、XT算出部53cによって算出された後方散乱XTを検証する。図4は、MCF10の長手方向の位置と、第一コア11と第二コア12との間のパワー結合係数と、の関係を示すグラフである。図5において、横軸は、MCF10の長手方向の位置(km)を示し、縦軸は、パワー結合係数(dB/km)を示している。グラフG1は、MCF10の位置に対する依存性がある場合のパワー結合係数の変化を示している。
【0064】
図5は、MCF10の長手方向の位置と後方散乱XTとの関係を示すグラフである。図5において、横軸は、MCF10の長手方向の位置(km)を示し、縦軸は、後方散乱XT(dB)を示している。グラフG2は、MCF10の位置に対する依存性がある場合の後方散乱XTの理論式(具体的には式(15)の「hL」を「∫ hdz」に置き換えた式)によって求められる理論線を示している。グラフG3は、本実施形態に係る方法を用いて算出された後方散乱XTの位置依存性を示している。グラフG4は、比較例として非特許文献2に記載された方法を用いて算出された後方散乱XTの位置依存性を示している。
【0065】
非特許文献2に記載された方法では、上述したように、パワー結合係数に位置依存性がないとの仮定の下で後方散乱XTを算出している。そのため、図4のグラフG1のようにパワー結合係数に位置依存性がある場合には、図5に示されるように、非特許文献2に記載された方法を用いて算出された後方散乱XT(グラフG4)は、理論線(グラフG2)からずれる。これに対し、本実施形態に係る方法では、上述したように、MCF10の長手方向の各位置での光強度Pbs2(z)を全て用いて後方散乱XTを算出しているため、本実施形態に係る方法を用いて算出された後方散乱XT(グラフG3)は、パワー結合係数の位置依存性が考慮された値となり、理論線(グラフG2)に一致している。このように、本実施形態によれば、パワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱XTを正確に求められることが分かる。
【0066】
図6及び図7を用いて、算出された後方散乱XTを更に検証する。図6は、図4と同様、MCF10の長手方向の位置と、第一コア11と第二コア12との間のパワー結合係数と、の関係を示すグラフである。但し、図6では、MCF10の位置に対する依存性がある場合のパワー結合係数を示すグラフG11と、MCF10の位置に対する依存性がある場合のパワー結合係数を示すグラフG12と、が示されている。グラフG11では、MCF10の位置がゼロの付近(すなわち入射端10aの付近)でパワー結合係数が大きく上昇した後に一定値となっている。例えば、MCF10と光源31との接続、及びMCF10と受光器33との接続に用いられる光学デバイスであるFIFO(Fan-in/Fan-out)デバイスでのXTが大きい場合、グラフG11に示されるようなパワー結合係数が得られる。
【0067】
図7は、図5と同様、MCF10の長手方向の位置と、後方散乱XTとの関係を示すグラフである。但し、図7は、図5とは異なり、両対数グラフとして示されている。従って、図7の縦軸及び横軸はともに対数軸で示されている。グラフG21は、パワー結合係数に位置依存性がある場合(図6のグラフG11の場合)に、本実施形態に係る方法によって算出される後方散乱XTを示している。グラフG22は、パワー結合係数に位置依存性がない場合(図6のグラフG12の場合)に、本実施形態に係る方法によって算出される後方散乱XTを示している。グラフG22においてMCF10の位置がゼロに近い部分(具体的には、MCF10の位置をzとし、MCF10の伝送損失係数をαとした場合に、αz≪1となる部分)では、後方散乱XTの変化の傾きが20(dB/decade)となる。グラフG23は、後方散乱XTの変化の傾きが20(dB/decade)となる線を示している。
【0068】
図7のグラフG21に示されるように、パワー結合係数に位置依存性がある場合の後方散乱XTの変化の傾きは、パワー結合係数に位置依存性がない場合の後方散乱XTの変化の傾きである20(dB/decade)とは一致しないことが分かる。このことから、パワー結合係数に位置依存性がある場合と、パワー結合係数に位置依存性がない場合とで、後方散乱XTに違いが生じることが分かる。図7のように両対数グラフで後方散乱XTを表示すると、図5において曲線で表されていた部分(すなわち、MCF10の位置がゼロに近い部分)を直線で表示することができるため、当該部分における後方散乱XTの評価を容易に行うことが可能となる。非特許文献2に記載された方法では、パワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、グラフG22と同様、20(dB/decade)の傾きを有する後方散乱XTが得られることになる。
【0069】
結果表示部55は、XT算出部53cから出力される算出結果D30を用いて、MCF10の長手方向の位置と後方散乱XTとの関係を示すデータを表示する。例えば、結果表示部55は、図5のグラフ及び図7のグラフの一方を表示してもよいし、図5のグラフ及び図7のグラフの両方を表示してもよい。結果表示部55は、図5のグラフに図4のグラフを併せて表示してもよいし、図7のグラフに図6のグラフを併せて表示してもよい。このように結果表示部55に表示されるグラフを用いて、後方散乱XTの位置依存性等を評価することが可能となる。
【0070】
[光学特性測定方法]
続いて、図8を参照しながら、光学特性測定システム1を用いた光学特性測定方法について説明する。図8は、光学特性測定方法の一例を示すフローチャートである。
【0071】
まず、光源31が、MCF10の入射端10aから第一コア11にパルス光Lを入射する(ステップS11)。次に、受光器33が、第一コア11へのパルス光Lの入射に伴い入射端10aの第二コア12から出射される第二後方散乱光Lを受光する(ステップS12)。受光器33が第二後方散乱光Lを受光すると、演算装置50のデータ処理部51は、受光器33が受光した各時刻の第二後方散乱光Lの強度を、入射端10aから出射端10bまでのMCF10の長手方向に沿った各位置に対応付けて取得する(ステップS13)。そして、演算装置50の積分値算出部53bは、入射端10aから出射端10bまでのMCF10の各位置に対応する第二後方散乱光Lの光強度を積分した光強度積分値Dを算出する(ステップS14)。
【0072】
ステップS11の後、受光器33は、第一コア11へのパルス光Lの入射に伴い入射端10aの第一コア11から出射される第一後方散乱光Lを受光する(ステップS22)。受光器33が第一後方散乱光Lを受光すると、演算装置50のデータ処理部51は、受光器33が受光した各時刻の第一後方散乱光Lの強度を、入射端10aから出射端10bまでのMCF10の長手方向に沿った各位置に対応付けて取得する(ステップS23)。そして、演算装置50の損失値算出部53aは、入射端10aから出射端10bまでパルス光Lが移動したときのMCF10の伝送損失を表す損失値D11又はD12を算出する(ステップS24)。
【0073】
次に、演算装置50のXT算出部53cは、損失値D11又はD12に対する光強度積分値Dの比を算出する(ステップS15)。次に、XT算出部53cは、算出した比に係数を乗じることにより(ステップS16)、後方散乱XTを算出する(ステップS17)。具体的には、XT算出部53cは、比D/D11を算出した場合は、比D/D11に係数A又はBを乗じることにより、式(24)又は式(29)によって表されるXTを算出する。一方、XT算出部53cは、比D/D12を算出した場合は、比D/D12に係数A又はBを乗じることにより、式(35)又は式(39)によって表されるXTを算出する。その後、結果表示部55は、算出されたXTを示すグラフを表示する。光強度積分値Dを算出するステップ群(具体的には、ステップS22、S23、及びS24)と、損失値D11又はD12を算出するステップ群(具体的には、ステップS12、S13、及びS14)とは、同時に行われてもよいし、時間的に前後していてもよい。
【0074】
本開示の光学特性測定方法は、図8に示される例に限られない。図9は、光学特性測定方法の他の例を示すフローチャートである。図8に示される例では、第一コア11からの第一後方散乱光Lの測定と、第二コア12からの第二後方散乱光Lの測定とが、共通の一回の測定で行われる場合を示したが、これらの測定は別々に行われてもよい。図9に示される例では、ステップS11とは別に、ステップS21が設けられる。ステップS21は、ステップS11と同様、MCF10の入射端10aから第一コア11にパルス光Lを入射するステップであるが、ステップS11とは別の測定で行われる。
【0075】
例えば、ステップS11よりも前に、ステップS21が行われ、ステップS22、S23、及びS24によって損失値D11又はD12が事前に算出された後に、ステップS11からステップS17までの一連の処理が行われてもよい。すなわち、損失値D11又はD12を算出するステップ群(具体的には、ステップS11、S12、S13、及びS14)は、光強度積分値Dを算出するステップ群(具体的には、ステップS21、S22、S23、及びS24)よりも前に行われてもよい。損失値D11又はD12を算出するステップ群は、光強度積分値Dを算出するステップ群よりも後に行われてもよい。
【0076】
図10は、光学特性測定方法の他の例を示すフローチャートである。図8に示される例では、入射端10aの第一コア11から出射される第一後方散乱光Lの光強度を測定して損失値D11又はD12を算出する場合を示した。しかし、例えば、出射端10bの第一コア11から出射される光を直接測定して損失値D11を測定してもよい。この場合、例えば、MCF10の出射端10bに、第一コア11から出射される光を測定するための装置が接続され、当該装置によって損失値D11が算出されてもよい。MCF10の入射端10aに入射される光は、「パルス光」及び「連続光」のいずれであってもよい。入射端10aへの光の入射に伴って出射端10bから出射される光が、出射端10bに接続された装置によって測定されることによって、入射端10aから出射端10bまで光(パルス光又は連続光)が移動したときのMCF10の伝送損失を表す損失値D11を算出することができる。そして、図10に示されるように、その装置から損失値D11を取得した後(ステップS31)、次のステップS15からステップS17が行われてもよい。ステップS31において、出射端10bに接続された装置を用いてMCF10の全長Lでの損失値を測定すると、その損失値Dはexp(―αL)で表せることから(式(19)参照)、D=exp(―αL)の式を解くことによって伝送損失係数αを推定できる。そこで、推定した伝送損失係数αをexp(―αz)に代入することで、MCF10の任意の測定位置zでの損失値D11を得ることもできる。
【0077】
図11は、光学特性測定方法の他の例を示すフローチャートである。図8に示される例では、後方散乱XTを直接算出する場合を示した。しかし、必ずしも後方散乱XTを直接算出しなくてもよい。例えば、図11に示されるように、損失値D11又はD12に対する光強度積分値Dの比が算出された後(ステップS15)、当該比に係数A、B、A、又はBを乗じる計算が行われなくてもよい。これらの係数を乗じる計算が行われなくても、算出された比は、後方散乱XTに比例する値として利用することができる。
【0078】
後方散乱XTは通常dB表記で表される。これに対し、後方散乱XTに比例する値を得れば、dB表記の後方散乱XTの位置依存性が任意単位ではどのように表されるかを把握することができる。後方散乱XTに比例する値に乗じる係数A、B、A、又はBの部分は、dB表記で表される図5又は図7のグラフにおいて足し算で加算される。そのため、これらのグラフで、後方散乱XTに比例する値を表示すると、後方散乱XTに比例する値は、後方散乱XTから上下にずれた状態で、後方散乱XTと同一の変化を示すことになる。後方散乱XTに比例する値(すなわち、損失値D11又はD12に対する光強度積分値Dの比)は、後方散乱XTの変化に応じて変化する値であるため、後方散乱XTを表す後方散乱XT指標として用いることができる。そこで、図11に示されるように、ステップS15の後、算出された比に係数A、B、A、又はBを生じることなく、当該比を後方散乱XT指標として用いてもよい(ステップS18)。このように、本開示の「後方散乱XT指標」は、後方散乱XT自体でなくてもよく、後方散乱XTに比例する値(すなわち、損失値D11又はD12に対する光強度積分値Dの比)であってもよい。
【0079】
以上に説明した、本実施形態に係る光学特性測定システム1及び光学特性測定方法によって得られる効果を説明する。上述したように、非特許文献2に記載された方法では、後方散乱XTの導出に用いられるコア間のパワー結合係数が、MCFの位置に依らず一定である(すなわち、パワー結合係数に位置依存性がない)との仮定の下で、後方散乱XTを導出している。そのため、パワー結合係数の位置依存性がある場合には、後方散乱XTを正確に評価できないという問題がある。そこで、本発明者らは、パワー結合係数の位置依存性を考慮して後方散乱XTを正確に評価するための方法について検討を重ねた。
【0080】
後方散乱XTは、入射端10aから第一コア11に入射されて出射端10bから出射される光の強度に対する、第一コア11から第二コア12に移動して当該入射端10aに戻る光のうちの後方散乱に起因する光の強度の比で定義できる。本発明者らは、検討を重ねる過程で、出射端10bでの光強度については、第一コア11を入射端10aから出射端10bまでパルス光Lが移動したときのMCF10の伝送損失を表す損失値D11又はD12によって推定できることを見出した。更に、本発明者らは、第二コア12において入射端10aに戻る光の強度については、第一コア11にパルス光Lを入射した際の、入射端10aから出射端10bまでの各位置に対応する第二後方散乱光Lの光強度積分値Dで表すことを着想した。そして、本発明者らは、損失値D11又はD12に対する光強度積分値Dの比を含む項を後方散乱XTとして扱うことができることを見出した。このように光強度積分値Dを用いれば、入射端10aから出射端10bまでの全ての第二後方散乱光Lの光強度を用いて後方散乱XTを算出できる。従って、本実施形態によれば、パワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱XTを正確に評価することが可能になる。
【0081】
本実施形態のように、演算処理部53は、入射端10aから出射端10bまでの第一コア11の各位置に対応する第一後方散乱光Lの光強度を用いて、損失値D11又はD12を算出してもよい。この場合、第一コア11から出射される第一後方散乱光Lの光強度を用いて、MCF10の伝送損失を表す損失値D11又はD12をより正確に算出することができる。このように第一コア11の各位置に対応する第一後方散乱光Lの光強度を用いた場合、例えば式(40)、式(41)、式(42)、及び式(43)を用いてMCF10の任意の測定位置zでの伝送損失を表す損失値D11又はD12をより正確に算出することも可能となる。その結果、損失値D11又はD12に対する光強度積分値Dの比を含む項を用いて、MCF10の任意の測定位置zでの後方散乱XTをより正確に評価することが可能となる。OTDR装置を用いる本実施形態では、式(19)の損失値D11、及び式(33)の損失値D12のいずれもMCF10の伝送損失を表す値として用いることができる。しかし、上述したように、伝送損失係数αの位置依存性を考慮すれば、式(33)の損失値D12を用いた方が、より正確にMCF10の伝送損失を表すことができる。つまり、式(33)を用いれば、伝送損失係数αの位置依存性を考慮した、より正確な損失値D12を得ることができる。このように求めた損失値D12を用いて後方散乱XTを算出すれば、伝送損失係数αに位置依存性がある場合であっても、後方散乱XTをより正確に評価することが可能となる。
【0082】
本実施形態のように、演算処理部53は、式(19)によって表される損失値D11と、式(18)によって表される光強度積分値Dとを用いて、式(20)によって表される比D/D11を算出してもよい。本発明者らは、後方散乱XT指標を算出するための数式について検討を重ねる過程で、式(20)によって表される比D/D11を含む項が、後方散乱XTに比例する値を示すことを見出した。この比D/D11を含む項を用いれば、第一コア11と第二コア12とのパワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱XTを正確に評価することが可能となる。
【0083】
本実施形態のように、演算処理部53は、式(20)によって表される比D/D11に、式(23)によって表される係数A、又は式(28)によって表される係数Bを乗じることによって、後方散乱XTを算出してもよい。本発明者らは、後方散乱XTを算出するための数式について検討を重ねる過程で、式(20)によって表される比D/D11に、式(23)によって表される係数A、又は式(28)によって表される係数Bを乗じることで、後方散乱XTを直接算出できることを見出した。従って、比D/D11に係数A又は係数Bを乗じた値を用いれば、後方散乱XTを直接的に且つ正確に評価することが可能となる。
【0084】
本実施形態のように、式(34)によって表される損失値D12と、式(38)によって表される光強度積分値Dとを用いて、式(35)又は式(39)によって表される比D/D12を算出してもよい。本発明者らは、後方散乱XT指標を算出するための数式について検討を重ねる過程で、式(35)又は式(39)によって表される比D/D12を含む項が、後方散乱XTに比例する値を示すことを見出した。この比D/D12を含む項を用いれば、第一コア11と第二コア12とのパワー結合係数に位置依存性がある場合であっても、後方散乱XTを正確に評価することが可能となる。
【0085】
本実施形態のように、演算処理部53は、式(35)又は式(39)によって表される比D/D12に、式(36)によって表される係数A、又は式(38)によって表される係数Bを乗じることによって、後方散乱XTを算出してもよい。本発明者らは、後方散乱XTを算出するための数式について検討を重ねる過程で、式(35)又は式(39)によって表される比D/D12に、式(36)によって表される係数A、又は式(38)によって表される係数Bを乗じることで、後方散乱XTを直接算出できることを見出した。従って、比D/D12に係数A又は係数Bを乗じた値を用いれば、後方散乱XTを直接的に且つ正確に評価することが可能となる。
【0086】
本実施形態のように、光学特性測定システム1は、光源31からのパルス光Lを第一コア11に導く一方で、第一コア11からの第一後方散乱光L及び第二コア12からの第二後方散乱光Lを受光器33に導く光学系39を備えてもよい。この場合、パルス光Lを第一コア11に入射し、第一コア11及び第二コア12からそれぞれ出射される第一後方散乱光L及び第二後方散乱光Lを受光器33で受光する構成を、容易に実現できる。
【0087】
本実施形態のように、光学特性測定システム1は、MCF10の長手方向に沿った位置と後方散乱XTとの関係を示す両対数グラフを表示する結果表示部55を備えてもよい。このように両対数グラフを用いれば、MCF10の位置に対する後方散乱XTの変化を容易に捉えることが可能になる。これにより、後方散乱XTの位置依存性等の評価を容易に行うことができる。
【0088】
本開示は、上述した実施形態に限定されず、請求の範囲に記載された趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。図12は、変形例に係る光学特性測定システム1を示している。図12に示される光学特性測定システム1Aは、例えば、複数の光源31A,31B,及び31Cと、複数の受光器33A,33B,及び33Cと、複数のサーキュレーター35A,35B,及び35Cと、を備える。MCF10Aは、第一コア11及び第二コア12に加えて第三コア13を有する。図12に示される例では、MCF10Aのコアの数に対応して、3つの光源31A,31B,及び31Cと、3つの受光器33A,33B,及び33Cと、3つのサーキュレーター35A,35B,及び35Cが設けられている。
【0089】
光源31A及び受光器33Aは、サーキュレーター35Aを介して第一コア11に光学的に結合されている。具体的には、光源31Aは、サーキュレーター35Aの入力ポートに接続され、受光器33Aは、サーキュレーター35Aの出力ポートに接続されている。サーキュレーター35Aの入出力ポートは、入射端10aの第一コア11に接続されている。光源31Aから出力されるパルス光Lは、入射端10aの第一コア11に入射され、入射端10aの第一コア11から出射される第一後方散乱光Lは、受光器33Aに受光される。
【0090】
光源31B及び受光器33Bは、サーキュレーター35Bを介して第二コア12に光学的に結合されている。具体的には、光源31Bは、サーキュレーター35Bの入力ポートに接続され、受光器33Bは、サーキュレーター35Bの出力ポートに接続されている。サーキュレーター35Bの入出力ポートは、入射端10aの第二コア12に接続されている。光源31Bから出力されるパルス光は、入射端10aの第二コア12に入射可能である。入射端10aの第二コア12から出射される第二後方散乱光Lは、受光器33Bに受光される。
【0091】
光源31C及び受光器33Cは、サーキュレーター35Cを介して第三コア13に光学的に結合されている。具体的には、光源31Cは、サーキュレーター35Cの入力ポートに接続され、受光器33Cは、サーキュレーター35Cの出力ポートに接続されている。サーキュレーター35Cの入出力ポートは、入射端10aの第三コア13に接続されている。光源31Cから出力されるパルス光は、入射端10aの第三コア13に入射可能である。入射端10aの第三コア13から出射される第三後方散乱光Lは、受光器33Cに受光される。
【0092】
図12では、光源31Aから入射端10aの第一コア11にパルス光Lが入射され、第一コア11へのパルス光Lの入射に伴って入射端10aの第一コア11、第二コア12、及び第三コア13からそれぞれ第一後方散乱光L、第二後方散乱光L、及び第三後方散乱光がそれぞれ出射される場合を示している。この場合、受光器33Aは、所定のサンプリング周期で第一後方散乱光Lの光強度を測定し、測定した第一後方散乱光Lの光強度を第一光強度データDL1として演算装置50に送信する。受光器33Bは、所定のサンプリング周期で第二後方散乱光Lの光強度を測定し、測定した第二後方散乱光Lの光強度を第二光強度データDL2として演算装置50に送信する。受光器33Cは、所定のサンプリング周期で第三後方散乱光Lの光強度を測定し、測定した第三後方散乱光Lの光強度を第三光強度データDL3として演算装置50に送信する。
【0093】
演算装置50は、第一光強度データDL1、第二光強度データDL2、及び第三光強度データDL3を用いて、上述した実施形態と同様の方法により、第一コア11と第二コア12との間の後方散乱XT、及び第一コア11と第三コア13との間の後方散乱XTを算出する。光源31Bから第二コア12にパルス光Lを入射するか、或いは、光源31Cから第三コア13にパルス光Lを入射すれば、第二コア12と第三コア13との間の後方散乱XTについても算出できる。
【0094】
このように、第一コア11、第二コア12、及び第三コア13のうちの任意のコア間の後方散乱XTを、上述した実施形態と同様の方法により算出できる。従って、図12に示される光学特性測定システム1Aであっても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。更に、複数の光源31A,31B,及び31Cと、複数の受光器33A,33B,及び33Cとを備える光学特性測定システム1Aによれば、第一コア11と第二コア12以外の組み合わせについての後方散乱XTを測定する場合であっても、光源31とMCF10Aとの繋ぎ変え、及び受光器33とMCF10Aとの繋ぎ変えを行うことなく、MCF10Aの任意のコア間の後方散乱XTを容易に算出することが可能となる。
【0095】
測定装置が備える光源の数及び受光器の数は、上述した実施形態及び変形例に限られず、適宜変更可能である。例えば、測定装置は、一つの光源と複数の受光器とを備えてもよいし、複数の光源と一つの受光器とを備えてもよい。上述した実施形態では、第一コアにパルス光が入射される場合を例示した。しかし、第二コアにパルス光が入射された場合であっても、上述した実施形態と同様の導出方法によって後方散乱XTを算出できる。上述した実施形態及び変形例では、MCFが第一コア及び第二コアを有する場合、MCFが第一コア、第二コア、及び第三コアを有する場合についてそれぞれ説明した。しかし、MCFが4つ以上のコアを有する場合であっても、それらのコアのうちの一つを「第一コア」と捉え、他の一つを「第二コア」と捉えることで、上述した実施形態と同様の導出方法を適用できる。
【符号の説明】
【0096】
1,1A…光学特性測定システム
10,10A…マルチコア光ファイバ(MCF)
10a…入射端
10b…出射端
11…第一コア
12…第二コア
13…第三コア
30…測定装置
31,31A,31B,31C…光源
33,33A,33B,33C…受光器
35,35A,35B,35C…サーキュレーター
37…スイッチ
39…光学系
50…演算装置
51…データ処理部
53…演算処理部
53a…損失値算出部
53b…積分値算出部
53c…XT算出部
55…結果表示部(「表示部」の一例)
,A,B,B…係数
11,D12…損失値
…光強度積分値(「積分値」の一例)
10…損失値データ
20…積分値データ
30…算出結果
L1…第一光強度データ
L2…第二光強度データ
L3…第三光強度データ
T1…第一時系列データ
T2…第二時系列データ
L…全長
…第一後方散乱光
…第二後方散乱光
…第三後方散乱光
cw…連続光
…パルス光

上記の式(1)から式(44)は任意の単位系で成立する。上記の式で用いられている物理量等の文字(変数)は、МKS単位系では下記の次元を持つ。マルチコア光ファイバの散乱断面積Sと損失値D11とは、無次元量である。

測定位置z [m]
マルチコア光ファイバの伝送損失係数α [/m]
伝送損失係数α [/m]
パルス光の群速度V [m/s]
パルス光のパルス幅W [s]
パルス光の光強度をP [W]
一端に対応する第一後方散乱光の光強度をPbs1(0) [W]
第一後方散乱光の光強度Pbs1 [W]
第二後方散乱光の光強度Pbs2 [W]
積分値D [W・m]
伝送損失D12 [W1/2
係数A [/(W・m)]
係数B [/(W・m)]
係数A [/(W1/2・m)]
係数B [/(W1/2・m)]

【要約】
本開示の光学特性測定システムは、マルチコア光ファイバの第一コアにパルス光を入射可能な光源と、マルチコア光ファイバの第二コアからの第二後方散乱光を受光可能な受光器と、少なくとも第二後方散乱光の光強度に基づいて後方散乱クロストーク指標を算出する演算装置と、を備える。演算装置は、受光器が受光した各時刻での第二後方散乱光の光強度を、一端から測定位置までの各位置に対応付けて取得するデータ処理部と、一端から測定位置まで第一コアを光が移動したときのマルチコア光ファイバの伝送損失を表す損失値に対する、一端から測定位置までの第二コアの各位置に対応する第二後方散乱光の光強度を積分した積分値の比、を含む項を後方散乱クロストーク指標として算出する演算処理部と、を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
図12