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  • 特許-発酵堆肥の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】発酵堆肥の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05F 11/00 20060101AFI20231219BHJP
   B09B 3/60 20220101ALI20231219BHJP
   B09B 101/70 20220101ALN20231219BHJP
【FI】
C05F11/00 ZAB
B09B3/60
B09B101:70
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021032814
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133881
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】517321964
【氏名又は名称】Flavor株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101708
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 信宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 尚哉
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-013007(JP,A)
【文献】特開昭53-048878(JP,A)
【文献】特開2018-100207(JP,A)
【文献】特開2007-161501(JP,A)
【文献】特開2007-161604(JP,A)
【文献】特開2004-202413(JP,A)
【文献】特開2010-284608(JP,A)
【文献】特開2004-337049(JP,A)
【文献】特開2007-181815(JP,A)
【文献】国際公開第2004/024651(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0044911(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104365492(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05F 11/00
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容容器に天然檜から生成された無垢の檜パウダーと米糠と生の檜葉を85%対14%対1%の割合で投入し混合して堆肥材料とする混合工程と、
50℃乃至65℃の温度範囲に調整された温水を混合された堆肥材料に対し含水率45%になるように投入し、材料全体に空気を含むように細かく攪拌する攪拌工程と、
攪拌工程後に前記収容容器全体を完全密封する密封工程と、
前記収容容器が密封状態にされた密封空間内を、25℃以上の室温及び80%以上の湿度に調整して静置する調整静置工程と、
24時間毎に、密封空間内の収容容器に米糠を追加投入するとともに、前記50℃乃至65℃の温度範囲に調整された温水を含水率45%になるように追加投入して細かく再攪拌して静置する再攪拌静置工程と、からなり、
当該再攪拌静置工程を14日から17日間継続して繰り返し、15日から18日目に収容容器から堆肥化した材料を取り出して完了することを特徴とする発酵堆肥製造方法。
【請求項2】
無垢の檜パウダーが、発酵温熱木浴で使用された後の再利用材である請求項1に記載の発酵堆肥製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として無垢ひのきを原材料として発酵堆肥を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の原材料を用いて色々な堆肥が作られている。主なものには、植物質堆肥や家畜糞堆肥、生ごみ堆肥がある。植物質堆肥は、広葉樹の落ち葉を堆積して発酵させたものなど、植物繊維の有機物が豊富に含まれているため、土の中の通気性が上がり、土壌改良に効果的であるものの、窒素が殆どないため、元肥として肥料で補う必要がある。家畜糞や生ごみをもとにして製造される堆肥は、栄養価が高いという特徴があるものの、土壌改善効果が低いという欠点があるが、牛糞におがくずなどを混ぜたものは、肥料効果のほかに、牛の排泄物に主食である草の繊維質が含まれているため、土壌改善効果も期待できるものが製造されている。
【0003】
植物質堆肥では、一般的な廃棄物として処理される刈草、枝葉材、伐採木等と、植物残渣等の有機物とを混合して堆肥を製造する方法(特許文献1)や、年間に相当量廃棄されているコーヒー粕やそば殻といった多孔質有機廃棄物に魚類廃棄物とトレハロースやクエン酸との配合原料の発酵物からなる発酵堆肥を製造する方法も提案されている(特許文献2)。
【0004】
家畜糞堆肥でも、家畜排泄物の有効利用を図ろうとしているが、従来の発酵過程において生じる悪臭や水質汚濁に加え、排泄物の野積みに起因する硝酸性窒素による地下水汚濁、病原性微生物の水道水汚染といった環境保全の問題が基本的に内在している。また、係る糞尿処理による環境への悪影響を低減する必要性と、さらに社会全体において資源循環型社会への移行も求められていることから、堆肥として環境への影響が少なく農業の持続的発展に資する土づくりに貢献するといった観点からの堆肥の製造方法が見直され、種々の堆肥化方法が提案されている。
【0005】
家畜の糞尿を堆肥化処理するには、含有する水分と有機質分解エネルギーに左右されるため、混合堆積物の全体が常に発酵に適した含水量の状態に保ち円滑に、長期に亘る高含水有機廃棄物の発酵堆肥化の連続生産性を可能にした発酵堆肥化処理方法が提案されている(特許文献3)。また、発酵堆肥化において熟成を図るためには、好気的条件をつくるために不可欠な切り返し作業を省いて、最低でも3カ月必要であった製造期間を短縮するとともに、未熟堆肥による悪影響をなくすことができるようにした、含水率50~65%の家畜糞に製鋼スラグを混合して発酵させる堆肥製造方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-1376583号公報
【文献】特許第4195720号公報
【文献】特許第5005452号
【文献】特許第6492896号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、従来の植物質堆肥や家畜糞堆肥について、発酵堆肥化の効率を高めるように様々な工夫が講じられ、また、家畜の糞尿や未利用の農産物などの有機質廃棄物を原料として利用しているため、堆肥化処理に際して悪臭や水質汚濁といった環境への悪影響を及ぼさないようにし、資源循環型サイクルの実現を図るという要請に応えるために、良質な堆肥を製造する基本となる栄養、水分、温度、好気性微生物といった条件設定を考慮して種々の発酵堆肥技術が提案されている。
【0008】
しかしながら、上記した従来の発酵堆肥では、特に、動物性堆肥については、肥料取締法に抵触しないように一定基準に適合するものであっても、何らかの化学薬品が使用されているほか、植物質堆肥においても栄養分を付加する処理が行われており、全く100%植物由来のものは提供されていないという現状である。また、植物由来としてのおが屑を従来の積み上げ方式で堆肥化する場合には、一般的に約6カ月の長期間を要していたものである。さらに、従来の発酵堆肥を土壌に使用する場合に、自然のサイクルに戻すという理念の実現もある程度行われていたが、充分に図られているとはいえないものであった。
【0009】
そこで、本発明は、一般的な動物性堆肥と異なり、100%植物由来の天然素材を原料とし、化学薬品を一切使用しないで自然界に生息する微生物の発酵で堆肥化を行う発酵堆肥製造方法を提供することを課題としている。また、循環社会を目指すという観点から、特に、里山の荒廃という林業の衰退において間伐材を有効利用して、これを原料とした発酵堆肥の製造を行うことで、所謂、林業と農業との緊密な循環関係が構築できるようにすることも課題とし、さらに、従来の積み上げ方式で長期間を要していた発酵堆肥化の時間を大幅に短縮することができる発酵堆肥製造方法の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成した。すなわち、本発明に係る発酵堆肥製造方法は、収容容器に天然檜から生成された無垢の檜パウダーと米糠と生の檜葉を85%対14%対1%の割合で投入し混合して堆肥材料とする混合工程と、50℃乃至65℃の温度範囲に調整された温水を混合された堆肥材料に対し含水率45%になるように投入し、材料全体に空気を含むように細かく攪拌する攪拌工程と、攪拌工程後に前記収容容器全体を完全密封する密封工程と、前記収容容器が密封状態にされた密封空間内を、25℃以上の室温及び80%以上の湿度に調整して静置する調整静置工程と、24時間毎に、密封空間内の収容容器に米糠を追加投入するとともに、前記50℃乃至65℃の温度範囲に調整された温水を含水率45%に維持するように追加投入して細かく再攪拌して静置する再攪拌静置工程とからなり、当該再攪拌静置工程を14日から17日間継続して繰り返し、15日から18日目に収容容器から堆肥化した材料を取り出して製造を完了することを特徴としている。
【0011】
請求項1に記載の発酵堆肥製造方法は、間伐材の檜を利用し、径が約2ミリ以下の無垢の檜パウダーにしたものと一般の米糠と生の檜葉とを原材料としており、上記設定条件で発酵させることにより、化学物質を含まない植物由来100%の堆肥を2週間程度で製造することができる。
【0012】
また、請求項2に記載した発酵堆肥製造方法では、主に間伐材の檜から提供された無垢の檜パウダーを、一旦、発酵温熱木浴で使用された後の再利用材として用いるようにしており、間伐材の有効な資源活用を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る発酵堆肥製造方法によれば、化学物質を含まない植物由来100%の堆肥が2週間から3週間以内の期間で製造でき、従来の堆肥化に要する期間を大幅に短縮でき、無農薬、無化学肥料を実践している栽培農家向けにも好ましい堆肥を提供することができる。また、間伐材の利用として使用されていた発酵温熱木浴材を原料にして、発酵堆肥を製造することもできるので、係る堆肥を農業における土壌改良のみならず、山間部の土壌改良にも使用することにより、林業と農業との間における循環型の利用サイクルを実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかる発酵堆肥の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づき説明する。
【0016】
図1は、本発明にかかる発酵堆肥の製造工程を示すフロー図であり、同図に基づいて製造工程を説明する。先ず、実施例となる製造方法は、縦、横、高さが1m×2m×0.7mの大きさの収容容器となる一般的な木箱が用意されており、この木箱に天然無垢檜から径が2ミリ以下に生成した檜パウダー280リットルを投入し、次いで、この容器内に檜パウダー85%割合に対して米糠14%、生の檜葉1%割合に相当する量を投入する(S1)。
【0017】
檜パウダーと米糠と生の檜葉とを係る割合で投入し混合した後に、50℃乃至65℃の温度範囲に調整された温水をこの堆肥材料に対して含水率45%になる量(実施例では約100リットル)を投入し、次いで、攪拌部材により木箱内の底のパウダーをしっかり上部まで持ち上げて材料全体に空気を含むように細かく攪拌する(S2)。
【0018】
攪拌して後に、木箱全体を気密室や気密容器などに入れ、完全に密封するとともに(S3)、この密封空間内を25℃以上の室温及び80%以上の湿度に調整し、この条件に設定できれば、木箱を完全密封状態下で静置する(S4)。
【0019】
この状態を維持しながら、24時間毎に、つまり毎日米糠を約1キロ追加投入するとともに、50℃乃至65℃の温度範囲に調整された温水を含水率45%が維持されるように追加投入して、攪拌部材により細かく再攪拌し、密封状態に戻して静置する(S5)。
【0020】
このS5の工程を17日間継続して繰り返し(S6)、18日目に木箱から堆肥化した材料を取り出すことで(S7)、製造が完了する。S6の工程の繰り返し期間としては、約14日から17日あればよく、概ね2週間から3週間以内で完了する。
【0021】
上記した実施例における原料の混合割合、温度湿度等の条件設定は、使用する木箱の容量に応じて、出願人が数多くの試行錯誤により見出した最適な設定値であり、使用する資材の総量が大きくなれば、この条件数値に比例した設定を行えばよく、治験データとして見出されたものであり、微生物が活動しやすい環境を極限まで実現し得たものである。従来の知見によれば、微生物が活動しやすい環境というのは、容積比にすると、およそ固形物40%、水分30%、空気30%程度が適しているとされており、このときの見掛け比重は、およそ0.5程度になり、これ以上になると腐敗しやすく、これより軽いと発酵が進まないとの考察に基づいて見出されたものである。
【0022】
このように製造された発酵堆肥は、植物性100%の堆肥であり、化学物質を全く含まないので、無農薬、無化学肥料の栽培農家や家庭菜園用にも適したものである。また、堆肥化に要する期間が、約2週間から3週間ですみ、従来の一般的な堆肥化平均期間である6カ月よりも大幅に短縮することができる。
【0023】
上記実施例の工程により製造された発酵堆肥を実際に使用した場合の成分実測値と評価を表1に示す。また、一般的な堆肥である動物性堆肥、鶏ふん堆肥、バーク堆肥等の植物性堆肥、その他の堆肥のパターン判定基準値を表2に示す。これら表1、表2に示すパターン判定および評価は、MQI(堆肥品質指標)分析に基づくものであり、判定および評価を社団法人SOFIX農業推進機構に依頼して行ったものである。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
表1、表2に示す測定項目は、全炭素量(TC)(mg/kg)、総細菌数(億個/g-土壌)、全窒素量(TN(N))(mg/kg)、全リン量(TP(P))(mg/kg)、全カリウム(TK(K))(mg/kg)、C/N比、含水量(%)である。表2において、一般的な堆肥傾向における植物由来堆肥では、他の堆肥に比べ、炭素成分を多く含み、C/N比が高いので、肥料成分の速効性はないが、持続性は高く、土壌改良剤として適するものと判定されている。
【0027】
本発明により製造された発酵堆肥の成分実測値については、上記した表1に示すように、表2のパターン判定基準値における植物性堆肥の推奨値に対して、表3(物質環境に関する成分の実測値としての評価表)に示すように、全炭素量(TC)(mg/kg)、総細菌数(億個/g-土壌)、全窒素量(TN(N))(mg/kg)、全リン量(TP(P))(mg/kg)、全カリウム(TK(K))(mg/kg)については適合と判定されたものであり、C/N比については少し高いと判定された。また、表4(植物成長に関する成分の実測値としての評価表)に示すように、アンモニア態窒素量、可給態リン酸量、交換性カリウム量、含水率として実測した場合の推奨値との比較においてもアンモニア態窒素量、可給態リン酸量、交換性カリウム量については適合と判定されたものであり、含水率については少し高いと判定された。
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
上記した判定により、植物由来の堆肥としては、全炭素量と総細菌数は充分であるが、肥料成分のバランスがやや悪いとのコメントを社団法人SOFIX農業推進機構から受けたものの、総合的な評価としては、最高ランクのA評価を受けたものである。評価において、特筆すべきは、圧倒的に総細菌数が基準値を大幅に上回っていることであり、土壌改良剤として極めて有望であり、良好な有機土壌環境を提供しうると判定されたことである。
【0031】
上記したように、本発明に係る発酵堆肥製造方法によれば、化学物質を含まない植物由来100%の堆肥が2週間から3週間以内の期間で製造でき、従来の堆肥化に要する期間を大幅に短縮でき、細菌数も大幅に増加した堆肥を提供でき、無農薬、無化学肥料を実践している栽培農家向けにも好ましい土壌改良資材を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の発酵堆肥製造を実施することにより、間伐材の利用として使用されていた発酵温熱木浴材を原料にして、発酵堆肥を製造することもできるので、係る堆肥を農業における土壌改良のみならず、山間部の土壌改良にも使用することにより、林業と農業との間における循環型の利用サイクルを実現することも可能となる。
【符号の説明】
【0033】
S1~S7 製造工程の各ステップ
図1